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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】流動接触分解触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/08 20060101AFI20241024BHJP
   B01J 37/00 20060101ALI20241024BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20241024BHJP
   B01J 29/16 20060101ALI20241024BHJP
   C01B 39/24 20060101ALI20241024BHJP
   C10G 11/18 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B01J29/08 M
B01J37/00 F
B01J37/04 102
B01J29/16 M
C01B39/24
C10G11/18
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020185176
(22)【出願日】2020-11-05
(65)【公開番号】P2022074811
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 弘史
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 博紀
(72)【発明者】
【氏名】三津井 知宏
(72)【発明者】
【氏名】水野 隆喜
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-501522(JP,A)
【文献】特開2014-231034(JP,A)
【文献】米国特許第04224188(US,A)
【文献】特開2017-087204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 33/20-39/54
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ケイ素原子とアルミニウム原子との割合が、Al23に対するSiO2のモル比として表すと5.0~6.0であり、格子定数が2.447~2.467nmの超安定化Y型ゼオライトおよび/または格子定数が2.455~2.475nmの希土類金属含有超安定化Y型ゼオライトであるゼオライトシリカ、シリカゲル、シリカゾル、水ガラス、及びケイ酸液から選ばれる少なくとも一種のシリカ系マトリックス形成成分および水、ならびに任意に粘土鉱物類および任意に添加剤を混合して原料スラリーを調製する工程、
(b)前記原料スラリーを噴霧乾燥して粒子を得る工程、および
(d)前記工程(b)で得られた粒子と、アルミニウム塩を含むpHが3.5~5.0の水とを、(酸化アルミニウム質量換算のアルミニウム塩の質量)/(粒子に含まれるゼオライトの質量)0.04~0.10となる割合で接触させる工程
を含む流動接触分解触媒の製造方法。
【請求項2】
(c)前記工程(b)で得られた粒子を水と接触させる工程
を含み、前記工程(d)において前記工程(b)で得られた粒子として前記工程(c)を経た粒子が用いられる、請求項1に記載の流動接触分解触媒の製造方法。
【請求項3】
前記工程(a)において前記添加剤として金属捕捉剤を混合する請求項1または2に記載の流動接触分解触媒の製造方法。
【請求項4】
前記工程(a)において前記添加剤として活性マトリックス成分を混合する請求項1~3のいずれか一項に記載の流動接触分解触媒の製造方法。
【請求項5】
前記シリカ系マトリックス形成成分がシリカゾルである請求項1~4のいずれか一項に記載の流動接触分解触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動接触分解触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素油の流動接触分解に用いられる触媒(以下「FCC触媒」とも記載する。)およびその製造方法として、流動接触分解におけるガソリン留分の収率を高めるなどの目的から、種々の開発がなされている。たとえば特許文献1には、ガソリン収率が高く、コーク収率が低く、摩耗強度の高いFCC触媒の製造方法の提供を目的として、ゼオライト(超安定化Y型ゼオライト、レアアース交換超安定化Y型ゼオライトなど)と、結合材(塩基性塩化アルミニウム)、無機酸化物マトリックス(カオリンなど)とを混合して得られ、かつpHが調製されたスラリーを噴霧乾燥する、FCC触媒の製造方法が開示されている。また、噴霧乾燥により得られた球状粒子を、純水で洗浄し、次いで硫酸アンモニウムを含む水で洗浄し、乾燥させて、FCC触媒を製造したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来のFCC触媒には、流動接触分解においてガソリンのオクタン価(以下「RON」とも記載する。)を向上させ、かつ液化石油ガス(以下「LPG」とも記載する)の生成を促進するという観点からさらなる改善の余地があった。
そこで本発明は、流動接触分解においてガソリンのRONを向上させ、かつLPGの生成を促進することができるFCC触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、たとえば以下の[1]~[6]に関する。
[1]
(a)ケイ素原子とアルミニウム原子との割合が、Al23に対するSiO2のモル比として表すと5.0~6.0であり、超安定化Y型ゼオライトおよび/または希土類金属含有超安定化Y型ゼオライトであるゼオライト、シリカ系マトリックス形成成分および水、ならびに任意に粘土鉱物類および任意に添加剤を混合して原料スラリーを調製する工程、
(b)前記原料スラリーを噴霧乾燥して粒子を得る工程、および
(d)前記工程(b)で得られた粒子と、アルミニウム塩を含むpHが3.5~5.0の水とを、(酸化アルミニウム質量換算のアルミニウム塩の質量)/(粒子に含まれるゼオライトの質量)≧0.04の割合で接触させる工程
を含む流動接触分解触媒の製造方法。
【0006】
[2]
(c)前記工程(b)で得られた粒子を水と接触させる工程
を含み、前記工程(d)において前記工程(b)で得られた粒子として前記工程(c)を経た粒子が用いられる、前記[1]の流動接触分解触媒の製造方法。
【0007】
[3]
前記工程(a)において前記添加剤として金属捕捉剤を混合する前記[1]または[2]のいずれかの流動接触分解触媒の製造方法。
【0008】
[4]
前記工程(a)において前記添加剤として活性マトリックス成分を混合する前記[1]~[3]のいずれかの流動接触分解触媒の製造方法。
【0009】
[5]
前記シリカ系マトリックス形成成分がシリカゾルである前記[1]~[4]のいずれかの流動接触分解触媒の製造方法。
【0010】
[6]
前記[1]~[5]のいずれかの方法で製造される流動接触分解触媒。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、流動接触分解においてガソリンのRONを向上させ、かつLPGの生成を促進することができるFCC触媒を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明に係る流動接触分解触媒(FCC触媒)の製造方法は、
(a)ケイ素原子とアルミニウム原子との割合が、Al23に対するSiO2のモル比として表すと5.0~6.0であり、超安定化Y型ゼオライト(以下「USY」とも記載する。)および/または希土類含有USY(以下「REUSY」とも記載する。)であるゼオライト、シリカ系マトリックス形成成分および水を混合して原料スラリーを調製する工程、
(b)前記原料スラリーを噴霧乾燥して粒子を得る工程、および
(d)前記工程(b)で得られた粒子と、アルミニウム塩を含む水とを接触させる工程
を含むことを特徴としている。
【0013】
《工程(a)》
前記工程(a)では、ゼオライト、シリカ系マトリックス形成成分、および水、ならびに任意に粘土鉱物類、および任意に添加剤を混合して原料スラリーを調製する。
【0014】
(ゼオライト)
前記ゼオライトは、所定の超安定化Y型ゼオライト(USY)および/または希土類含有USY(REUSY)、すなわち、USY、REUSYまたはUSYおよびREUSYの混合物である。原料の準備の容易性などの観点からは、好ましくはUSYが単独で、またはREUSYが単独で用いられる。
【0015】
《超安定化Y型ゼオライト(USY)》
前記USYに含まれるケイ素原子とアルミニウム原子との割合は、Al23に対するSiO2のモル比(以下[SiO2/Al23モル比]とも記載する。)として表すと5.0~6.0、好ましくは5.0~5.5である。(アルミニウム原子に対するケイ素原子のモル比(Si/Al)として表すと、2.5~3.0、好ましくは2.5~2.75である。)前記モル比がこの範囲にあるとゼオライトの骨格アルミニウムに基づく酸点が多く発現する。
【0016】
前記USYの、後述する実施例で採用された方法で測定される格子定数は、好ましくは2.457±0.010nmであり、より好ましくは2.450~2.465nmである。
前記格子定数は、アナターゼ型TiO2を標準物質とし、X線回折法により、前記ゼオライトの回折面(553)面および(642)面の面間隔により決定される。
【0017】
前記格子定数がこの範囲にあるとゼオライト骨格内アルミニウムの量が多く、分解活性点が多い。格子定数が前記上限値以下であると該ゼオライトの耐水熱性が高いため、流動接触分解触媒の分解活性が高く、前記下限値以上であると該ゼオライトの酸点が多いため、流動接触分解触媒の分解活性が高い。
【0018】
前記USYは、従来公知の方法、たとえば特開2020-19694号公報に記載の方法で製造することができる。一例を挙げると、NH4-Y型ゼオライト(アンモニウムイオンを有するY型ゼオライト)を準備し、このNH4-Y型ゼオライトをスチーム焼成することにより、製造することができる。
【0019】
《希土類金属含有超安定化Y型ゼオライト(REUSY)》
前記REUSYに含まれるケイ素原子とアルミニウム原子との割合は、Al23に対するSiO2のモル比(以下[SiO2/Al23モル比]とも記載する。)として表すと5.0~6.0、好ましくは5.0~5.5である。(アルミニウム原子に対するケイ素原子のモル比(Si/Al)として表すと、2.5~3.0、好ましくは2.5~2.75である。)前記モル比がこの範囲にあるとゼオライトの骨格アルミニウムに基づく酸点が多く発現する。
【0020】
前記REUSYの希土類金属の含量は、希土類金属酸化物(希土類金属(RE)の酸化物をRE23とする。)に換算して、10~40質量%、好ましくは10~20質量%である。前記含量がこの範囲にあると希土類金属カチオンによってゼオライト骨格が安定化される。
【0021】
前記希土類金属の例としては、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、イットリウム、サマリウムおよびユウロピウムが挙げられ、これらの中でもランタンおよびセリウムが好ましい。これらは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0022】
前記REUSYの、後述する実施例で採用された方法で測定される格子定数は、好ましくは2.465±0.010nmであり、より好ましくは2.460~2.470nmである。
前記格子定数は、アナターゼ型TiO2を標準物質とし、X線回折法により、前記ゼオライトの回折面(553)面および(642)面の面間隔により決定される。
【0023】
前記格子定数がこの範囲にあるとゼオライト骨格内アルミニウムの量が多く、分解活性点が多い。
【0024】
前記REUSYは、従来公知の方法、たとえば特開2004-337758号公報、または特開2009-22842号公報に記載の方法で製造することができる。一例を挙げると、NaUSY型ゼオライトを準備し、このNaUSY型ゼオライト中のナトリウムイオンを希土類金属イオンと交換することにより、製造することができる。
【0025】
前記原料スラリーは、前記ゼオライト(すなわち、前記USYまたは前記REUSY)を、乾燥基準(800℃で1時間熱処理した後の質量。以下も同様である。)でたとえば10~50質量%、好ましくは20~40質量%(ただし、原料スラリーの固形分(原料スラリー中の分散媒以外の成分)量を100質量%とする。)含有する。含有量が前記下限値以上であると、得られる前記FCC触媒は十分な活性を示す。一方、含有量が前記上限値以下であると、得られるFCC触媒において活性が高すぎることによる過分解、選択性の低下を防ぐことができる。
【0026】
(シリカ系マトリックス形成成分)
前記シリカ系マトリックス形成成分は、前記FCC触媒中の結合材として機能するシリカ系マトリックスを形成するための成分であり、その例としてはシリカ、シリカゲル(シリカヒドロゲルも包含する。)、シリカゾル(シリカヒドロゾルも包含する。)、水ガラス(ケイ酸ナトリウム)、ケイ酸液が挙げられる。前記FCC触媒により流動接触分解を行うと、マトリックスがシリカ系マトリックスであることから、コークの生成が抑えられる。
【0027】
前記原料スラリーは、前記シリカ系マトリックス形成成分を、乾燥基準でたとえば10~90質量%、好ましくは10~40質量%、より好ましくは15~25質量%(ただし、原料スラリーの固形分量を100質量%とする。)含有する。
【0028】
従来技術において、FCC触媒のマトリックス形成成分として、塩基性塩化アルミニウム(たとえば、[Al2(OH)nCl6-nm(ただし、0<n<6、1≦m≦10、好ましくは4.8≦n≦5.3、3≦m≦7である。なお、mは、自然数を示す。)で表される。)が使用されることがある。しかし、塩基性塩化アルミニウムから形成されるマトリックスを水で洗浄(本発明における工程(c)および(d)に相当。)する際には、マトリックスの溶解を防ぐために、水のpHを狭い範囲に制御する必要がある。一方、FCC触媒のマトリックス形成成分がシリカ系マトリックス形成成分である場合には、洗浄時に溶解防止のために許容されるpHの範囲が塩基性塩化アルミニウムの場合よりも広いという観点からは、FCC触媒製造の作業効率に優れる。したがって、前記原料スラリーは塩基性塩化アルミニウムを好ましくは含まないか、含むとしても少量(たとえば、シリカ系マトリックス形成成分の1質量%以下)であり、より好ましくは含まない。
【0029】
(粘土鉱物類)
前記粘土鉱物類は、粘土および/または粘土鉱物であり、その例としては、カオリン、ベントナイト、カオリナイト、ハロイサイト、モンモリロナイト等が挙げられ、これらの中でもカオリンが好ましい。
【0030】
前記原料スラリーは、前記粘土鉱物類を、乾燥基準でたとえば60質量%以下、好ましくは10~60質量%、より好ましくは15~30質量%(ただし、原料スラリーの固形分量を100質量%とする。)含有する。含有量が前記下限値以上であると、FCC触媒の細孔構造の維持、触媒形状の維持、耐摩耗性、流動性などが良好である。一方、含有量が前記上限値以下であると、前記FCC触媒中の前記ゼオライトの比率が高いことから、前記FCC触媒の活性が良好である。
【0031】
(添加剤)
任意に添加されてもよい前記添加剤の例としては、FCC触媒に通常含まれることのある添加剤、たとえば活性マトリックス成分、および金属捕捉剤が挙げられる。
前記活性マトリックス成分の例としては、活性アルミナ、シリカ-アルミナ、シリカ-マグネシア、アルミナ-マグネシア、シリカ-マグネシア-アルミナなどの固体酸を有する物質が挙げられる。
【0032】
前記原料スラリーは、前記活性マトリックス成分を、乾燥基準でたとえば40質量%以下、好ましくは5~40質量%、より好ましくは10~30質量%(ただし、原料スラリーの固形分量を100質量%とする。)含有する。
【0033】
前記金属捕捉剤の例としては、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ランタンが挙げられる。
前記原料スラリーは、前記金属捕捉剤を、乾燥基準でたとえば10質量%以下、好ましくは1~10質量%、好ましくは2~5質量%(ただし、原料スラリーの固形分量を100質量%とする。)含有する。
【0034】
<原料スラリーの調製>
前記原料スラリーは、上述したゼオライト(USYまたはREUSY)、およびシリカ系マトリックス形成成分、ならびに必要に応じて粘土鉱物および必要に応じて添加剤、たとえば前記活性アルミナおよび前記金属捕捉剤を水と混合することにより調製することができる。
【0035】
前記原料スラリーには、分散媒として水以外の成分、たとえばメタノール、エタノール、アセトン等が少量含まれていてもよい。
混合方法としては、従来公知の混合方法を採用することができる。
【0036】
また前記原料スラリーを調製する際に、原料を粉砕・分散処理に供してもよい。粉砕・分散処理を行うと原料が均一に分散する。前記粉砕・分散処理としては、従来公知の方法を採用することができる。
前記原料スラリーの固形分濃度は、原料スラリーの噴霧乾燥を困難なく実施するなどの観点から、たとえば10~50質量%、好ましくは20~40質量%である。
【0037】
《工程(b)》
前記工程(b)では、前記原料スラリーを噴霧乾燥して粒子を得る。
たとえば、前記原料スラリーを噴霧乾燥機のスラリー貯槽に充填し、たとえば120~450℃の範囲に調整された気流(たとえば、空気流)が流れる乾燥チャンバー内に前記原料スラリーを噴霧することにより、粒子(以下「噴霧乾燥粒子」とも記載する。)が得られる。原料スラリーの噴霧乾燥によって前記気流の温度は低下するが、乾燥チャンバーの出口の温度は、ヒーターなどを用いて例えば50~300℃の範囲に維持される。
前記噴霧乾燥粒子の粒子径は、前記原料スラリーの濃度、粘度、噴霧量、噴霧圧力、噴霧乾燥機のノズル径、熱風温度などを調整することによって、調整することができる。
【0038】
《工程(c)》
本発明に係る流動接触分解触媒(FCC触媒)の製造方法は、前記工程(b)で得られた粒子(すなわち、前記噴霧乾燥粒子)を水と接触させる工程(c)を含んでいてもよい。前記工程(c)により、前記噴霧乾燥粒子に含まれることのあるアルカリ金属、硫酸イオン等の不純分が除去されると考えられる。
【0039】
前記工程(c)の態様としては、たとえば、
前記噴霧乾燥粒子を水中に分散させ、得られたスラリーから粒子を分離する工程(c1);および
前記噴霧乾燥粒子に水を掛け流す工程(c2)
が挙げられる。
【0040】
前記工程(c1)において前記噴霧乾燥粒子を水中に分散させ、得られたスラリーから粒子を分離する操作(以下「接触操作(C)」とも記載する。)は、1回のみ行ってもよく、複数回繰り返しても(すなわち、前記噴霧乾燥粒子を水中に分散させ、得られたスラリーから粒子を分離し、次いでスラリーから分離された粒子を再び水中に分散させ、得られたスラリーから粒子を分離する操作を、1回または複数回実施しても)よい。
【0041】
前記工程(c)は、前記工程(c1)と前記工程(c2)との組み合わせであってもよく、たとえば前記噴霧乾燥粒子を水中に分散させ、得られたスラリーから粒子を分離し、分離された粒子に水を掛け流す工程(c3)であってもよい。
不純分の除去という観点からは、前記工程(c)としては、前記工程(c3)が好ましい。
【0042】
前記工程(c1)または前記工程(c3)の過程でスラリーを調製する場合には、前記スラリーは、好ましくは撹拌される。撹拌時間は、たとえば5~30分である。
前記工程(c1)において前記スラリーから前記粒子を分離する方法としては、従来公知の方法を採用することができ、たとえばろ過、遠心分離が挙げられる。
【0043】
また、前記工程(c2)では、たとえばろ紙上に置かれた前記粒子に水を掛け流すことによって、粒子と掛け流した水とを分離することができる。
前記工程(c)で使用される水の温度は、不純分の溶解性という観点からは、好ましくは50~90℃である。
前記工程(c1)の過程で得られる前記スラリーのpHは、シリカおよびアルミナの溶出の抑制という観点からは、好ましくは3~10である。このpHは、たとえば塩酸またはアンモニア水の添加によって調整される。また、アルカリ金属の除去という観点からはアンモニウム塩を含む水を用いることが好ましい。
【0044】
《工程(d)》
前記工程(d)では、前記工程(b)で得られた粒子(前記工程(c)が実施される場合には前記工程(c)で得られた粒子。以下、これらをまとめて「FCC触媒用原料粒子」とも記載する。)と、アルミニウム塩を含む水(通常は、アルミニウム塩水溶液である。)とを接触させる。
前記アルミニウム塩を含む水のpHは3.5~5.0、好ましくは3.5~4.0である。pHがこの範囲にあると、アルミニウムイオンが水酸化物として析出せず、かつFCC触媒用原料粒子に含まれるアルミニウムが溶出しないからである。
また、前記アルミニウム塩を含む水の使用量は、アルミニウム塩の質量が、同量のアルミニウムを含む酸化アルミニウム(Al23)の質量に換算した場合にFCC触媒用原料粒子に含まれるゼオライトの質量に対して0.04(Al23[g-アルミニウム塩]/ゼオライト[g-FCC触媒用原料粒子])以上となる量である。これは、FCC触媒用原料粒子に含まれるゼオライト(USYまたはREUSY)に含まれるカチオンとアルミニウムイオンとを十分にイオン交換できるからである。したがって、この値が0.04未満ではアルミニウムイオンを十分にイオン交換できなく、0.10を超えると不要となるアルミニウム塩が多くなり経済的には好ましくないため、前記アルミニウム塩を含む水の使用量は、Al23[g-アルミニウム塩]/ゼオライト[g-FCC触媒用原料粒子]としてより好ましくは0.04~0.10となる量、さらに好ましくは0.05~0.10となる量である。
【0045】
前記工程(d)を実施することにより、FCC触媒が得られる。
必ずしも定かではないが、各工程間での前記USYおよび前記REUSYの27Al MAS NMRスペクトルにおける60ppm付近および0ppm付近のピークの変化から、工程(d)において、Alイオンが、前記USYおよび前記REUSYに含まれるカチオンと交換されるのではないかと推測される。このカチオンの例としては、前記USYおよび前記REUSYの製造方法にもよるが、アンモニウムイオン、希土類金属イオン、ナトリウムイオン、プロトンが挙げられる。
【0046】
前記アルミニウム塩としては、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも塩化アルミニウムが好ましい。
【0047】
前記工程(d)の態様としては、たとえば、
前記FCC触媒用原料粒子を、アルミニウム塩を含む水の中に分散させ、得られたスラリーから粒子を分離する工程(d1);および
前記FCC触媒用原料粒子に、アルミニウム塩を含む水を掛け流す工程(d2)が挙げられる。
【0048】
前記工程(d1)において前記FCC触媒用原料粒子を、アルミニウム塩を含む水の中に分散させ、得られたスラリーから粒子を分離する操作(以下「接触操作(D1)」とも記載する。)は、1回のみ行ってもよく、複数回繰り返しても(すなわち、前記FCC触媒用原料粒子を、アルミニウム塩を含む水の中に分散させ、得られたスラリーから粒子を分離し、次いでスラリーから分離された粒子を再びアルミニウム塩を含む水の中に分散させ、得られたスラリーから粒子を分離する、という操作を1回または複数回実施しても)よい。
【0049】
前記工程(d1)においてスラリーを調製する場合には、得られたスラリーは、好ましくは撹拌される。前記接触操作(D1)1回当たりの撹拌時間は、たとえば5~30分、好ましくは15~30分である。
【0050】
前記工程(d1)において前記スラリーから前記粒子を分離する方法としては、従来公知の方法を採用することができ、たとえばろ過、遠心分離が挙げられる。
前記工程(d2)では、たとえばろ紙上に置かれた前記粒子にアルミニウム塩を含む水を掛け流すことによって、粒子と掛け流した水(アルミニウム塩を含む水)とを分離することができる。前記工程(d2)においてアルミニウム塩を含む水を掛け流す時間は、たとえば3~30分である。
【0051】
また、前記工程(d1)および前記工程(d2)の両方を実施してもよい。
前記工程(d1)または前記工程(d2)を経た前記粒子には、前記工程(c)と同様の方法で水を接触させてもよい。水の温度は好ましくは50~90℃である。水との接触の後に工程(d1)または工程(d2)を繰り返してもよい。
【0052】
《工程(e)》
本発明に係るFCC触媒の製造方法は、前記工程(d)を経て得られた粒子を乾燥させる工程を含んでもよい。前記工程(e)を実施すると、前記粒子の水分量が減少し、前記粒子を乾燥粒子として取り扱えるからである。
【0053】
前記工程(e)は、従来公知の方法で実施することができ、たとえば、前記工程(d)を経て得られた粒子を、100~180℃で6~24時間熱処理すればよい。
【0054】
<FCC触媒>
本発明に係る製造方法により製造されるFCC触媒の、後述の実施例で採用された方法で測定される比表面積は、好ましくは200~400m2/g、より好ましくは250~350m2/gである。
【0055】
本発明に係るFCC触媒の製造方法により、流動接触分解に用いると、同じ前記噴霧乾燥粒子を使用しつつも前記工程(d)を経ずに製造されたFCC触媒と比べてガソリンのRONを向上させ、かつLPGの生成を促進することができるFCC触媒を製造することができる。その理由としては、USYまたはREUSYのカチオンサイトがアルミニウムカチオンで修飾されることにより、USYまたはREUSYの酸強度が大きくなり、ガソリン中の芳香族以外の留分(特にイソパラフィンおよびオレフィン)が過分解してLPGの生成が促進され、かつガソリン留分中の芳香族の割合が高くなるため、LPG選択性とRONが高くなる、と推察される。
【実施例
【0056】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
[触媒等の測定方法ないし評価方法]
(強熱減量(LOI))
製造例で得られたゼオライトおよび実施例等で得られた触媒の強熱減量は、試料を空気中で1000℃で1時間熱処理し、下式により強熱減量を求めた。
強熱減量(質量%)=熱処理による質量減少量/熱処理前の試料の質量×100
【0057】
(組成)
製造例で得られたゼオライトおよび実施例等で得られた触媒に含まれる各元素の含有量は、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、RIX 3000)を用いて測定した。
【0058】
(ゼオライトの格子定数)
ゼオライトの格子定数は、アナターゼ型TiO2を標準物質とし、下記条件でのX線回折法により、前記ゼオライトの回折面(553)面および(642)面の面間隔により決定した。
【0059】
《測定条件》
試料(製造例1と2では得られたUSYもしくはREUSY、実施例等では得られた触媒)を粉砕・成形した後、X線回折装置(株式会社リガク製 X-RAY DIFFRACT METER(RINT 1400))にセットし、管電圧30.0kV、管電流130.0mA、対陰極Cu、測定範囲:開始角度~終了角度(2θ)10.000°~70.000°、スキャンスピード2.000°/分、発散スリット 1deg、散乱スリット 1deg、受光スリット 0.15mmの条件で測定した。
【0060】
(比表面積)
実施例等の触媒の比表面積を、マイクロトラック・ベル株式会社製のBELSORP-mini Ver2.5.6により測定した。具体的には、真空排気しながら500℃で1時間熱処理した触媒に対して、窒素ガスを吸着させ、BET法により比表面積(m2/g)を算出した。
【0061】
(触媒活性)
実施例等の触媒について、ACE-MAT(Advanced Cracking Evaluation-Micro Activity Test)を用い、性能評価試験を行った。前処理として、触媒を600℃で2時間焼成した後、100%水蒸気雰囲気下で、780℃で13時間熱処理した。
触媒の性能評価試験における反応条件は以下のとおりである。
原料油:脱硫減圧軽油(DSVGO)100質量%
反応温度:520℃
触媒質量基準の空間速度(WHSV):8h-1
触媒/油比:3.75、5.0(質量%/質量%)
転化率:100-(LCOおよびHCOの収率)
生成油のカット温度
Dry gas:H2+C1-C2
LPG:C3-C4
ガソリン:C5~沸点216℃
ライトサイクルオイル(LCO):沸点範囲216~343℃
ヘビーサイクルオイル(HCO):沸点範囲343℃以上
触媒/油比を3.75、5.0にて測定し、同一転化率での各収率を内挿して求めた。
さらに、生成液について、Agilent社製ガスクロマトグラフィー〔GC System HP6890A〕によりガソリン留分を分析し、オクタン価(RNO)を算出した。
【0062】
[製造例1]
(超安定化Y型ゼオライト(USY1)の調製)
SiO2/Al23モル比が5.2、格子定数が2.466nm、比表面積が720m2/g、Naの含有量がNa2O換算で13.0質量%であるNa-Y型ゼオライトをアンモニウム塩イオン交換して、SiO2/Al23モル比が5.2、格子定数が2.471nm、比表面積が740m2/g、Naの含有量がNa2O換算で1.0質量%であるNH4-Y型ゼオライトを準備した。このNH4-Y型ゼオライト3.0kgを、飽和水蒸気雰囲気中にて670℃で2時間焼成し、超安定化Y型ゼオライト(以下「USY1」と記載する。)を約2.7kg得た。このUSY1は、SiO2/Al23モル比が5.2、格子定数が2.457nm、比表面積が670m2/gであった。
【0063】
[製造例2]
(希土類金属含有超安定化Y型ゼオライト(REUSY1)の調製)
SiO2/Al23モル比が5.2、格子定数が2.466nm、比表面積が720m2/g、Naの含有量がNa2O換算で13.0質量%であるNa-Y型ゼオライトをアンモニウム塩イオン交換して得られた、SiO2/Al23モル比が5.2、格子定数が2.471nm、比表面積が740m2/g、Naの含有量がNa2O換算で1.0質量%であるNH4-Y型ゼオライトを準備した。このNH4-Y型ゼオライト50.0kgを60℃の純水500Lに懸濁し、62.7kgの希土類金属の塩化物水溶液(LaおよびCeを、La:Ce=10:2の質量比率で含み、各希土類金属の酸化物換算の合計として20質量%含む。)を加え、これらを20分間撹拌した。この分散液をろ過し、ろ別された固形分には、60℃の純水1000Lを掛け流した。得られた固形分を120℃のオーブン中に一晩放置することにより乾燥させて、REY型ゼオライトを得た。
【0064】
得られたREY型ゼオライト3.0kgを、飽和水蒸気雰囲気中にて750℃で2時間焼成し、希土類金属含有超安定化Y型ゼオライト(以下「REUSY1」と記載する。)を約2.7kg得た。このREUSY1は、SiO2/Al23モル比が5.32、格子定数が2.463nm、比表面積が598m2/g、Naの含有量がNa2O換算で0.5質量%、RE23の含有量が12.2質量%であった。
【0065】
[比較例1]
カオリン、製造例1で製造したUSY1、活性アルミナ(住友化学(株)製 BK-112)、および酸化マンガン(Mn23)(東ソー(株)製)を準備した。
【0066】
市販の3号水ガラスと硫酸とを急速に撹拌混合し、ケイ素をSiO2の濃度に換算して12.5質量%を含むシリカヒドロゾルを調製し、このシリカヒドロゾル3800gに545g(乾燥基準)のカオリン、550g(乾燥基準)の活性アルミナ、875g(乾燥基準)のUSY1、55g(乾燥基準)の酸化マンガン(Mn23)および水を加えて固形分濃度30質量%のスラリー(a)を調製した。
【0067】
次いで、前記スラリー(a)に対して、コロイドミル(特殊加工(株)製、TK150)を用いて吐出速度4L/分の条件で粉砕・分散処理を行い、スラリー(b)を得た。
前記スラリー(b)を、噴霧乾燥機を用い入口温度250℃、出口温度150℃の条件で熱風気流中に噴霧して、球状粒子(1)を得た。
【0068】
400gの球状粒子(1)(乾燥基準)を、47gの硫酸アンモニウムを含む水溶液2Lの中に分散させ、20分間撹拌した。分散液をろ過し、ろ別された固形分(粒子)には、60℃の純水2Lを掛け流した。
【0069】
このようにして得られた粒子(以下「粒子(c1)」とも記載する。)を140℃のオーブン中に一晩放置することにより乾燥させて、FCC触媒(c1)を得た。FCC触媒(c1)の評価結果を表1および2に示す。
【0070】
[実施例1]
比較例1と同様にして前記粒子(c1)を得た。
次いで、純水5Lに80gの塩化アルミニウム水溶液(AlをAl23として9質量%含む)を加えた水溶液を、400gの粒子(c1)(ゼオライトを35質量%含む。)に対して掛け流した。この水溶液のpHは3.6であった。次いで60℃の純水2Lを掛け流した。
【0071】
このようにして得られた粒子を140℃のオーブン中に一晩放置することにより乾燥させて、FCC触媒(1)を得た。FCC触媒(1)の評価結果を表1および2に示す。
【0072】
[比較例2]
比較例1と同様にして前記粒子(c1)を得た。
次いで、純水2.5Lに57.5gの希土類金属の塩化物水溶液(LaおよびCeを、La:Ce=10:2の質量比率で含み、各希土類金属の酸化物換算の合計として20質量%含む。)を加えた水溶液を、400gの粒子(c1)(ゼオライトを35質量%含む。)に対して掛け流した。この水溶液のpHは5.3であった。次いで60℃の純水2Lを掛け流した。
【0073】
このようにして得られた粒子を140℃のオーブン中に一晩放置することにより乾燥させて、FCC触媒(c2)を得た。FCC触媒(c2)の評価結果を表1および2に示す。
【0074】
[比較例3]
比較例1と同様にして前記粒子(c1)を得た。
次いで、純水2.5Lに40gの塩化アルミニウム水溶液(AlをAl23として9質量%含む)を加えた水溶液を、400gの粒子(c1)(ゼオライトを35質量%含む。)に対して掛け流した。この水溶液のpHは3.6であった。次いで60℃の純水2Lを掛け流した。
【0075】
このようにして得られた粒子を140℃のオーブン中に一晩放置することにより乾燥させて、FCC触媒(c3)を得た。FCC触媒(c3)の評価結果を表1および2に示す。
【0076】
[比較例4]
カオリン、製造例2で製造したREUSY1、活性アルミナ(住友化学(株)製 BK-112)、および酸化マンガン(Mn23)(東ソー(株)製)を準備した。
【0077】
市販の3号水ガラスと硫酸とを急速に撹拌混合し、ケイ素をSiO2の濃度に換算して12.5質量%を含むシリカヒドロゾルを調製し、このシリカヒドロゾル3800gに545g(乾燥基準)のカオリン、550g(乾燥基準)の活性アルミナ、875g(乾燥基準)のREUSY1、55g(乾燥基準)の酸化マンガン(Mn23)および水を加えて固形分濃度30質量%のスラリー(a')を調製した。
【0078】
次いで、前記スラリー(a')に対して、コロイドミル(特殊加工(株)製、TK150)を用いて吐出速度4L/分の条件で粉砕・分散処理を行い、スラリー(b')を得た。
前記スラリー(b')を、噴霧乾燥機を用い入口温度250℃、出口温度150℃の条件で熱風気流中に噴霧して、球状粒子(1')を得た。
【0079】
400gの球状粒子(1')(乾燥基準)を、47gの硫酸アンモニウムを含む水溶液2Lの中に分散させ、20分間撹拌した。分散液をろ過し、ろ別された固形分(粒子)には、60℃の純水2Lを掛け流した。
【0080】
このようにして得られた粒子(以下「粒子(c1')」とも記載する。)を140℃のオーブン中に一晩放置することにより乾燥させて、FCC触媒(c4)を得た。FCC触媒(c4)の評価結果を表3および4に示す。
【0081】
[実施例2]
比較例4と同様にして前記粒子(c1')を得た。
次いで、純水5Lに80gの塩化アルミニウム水溶液(AlをAl23として9質量%含む)を加えた水溶液を、400gの粒子(c1’)(ゼオライトを35質量%含む。)に対して掛け流した。この水溶液のpHは3.6であった。次いで60℃の純水2Lを掛け流した。
【0082】
このようにして得られた粒子を140℃のオーブン中に一晩放置することにより乾燥させて、FCC触媒(2)を得た。FCC触媒(2)の評価結果を表3および4に示す。
【0083】
[比較例5]
比較例4と同様にして前記粒子(c1')を得た。
次いで、純水2.5Lに57.5gの希土類金属の塩化物水溶液(LaおよびCeを、La:Ce=10:2の質量比率で含み、各希土類金属の酸化物換算の合計として20質量%含む。)を加えた水溶液を、400gの粒子(c1’)(ゼオライトを35質量%含む。)に対して掛け流した。この水溶液のpHは5.3であった。次いで60℃の純水2Lを掛け流した。
【0084】
このようにして得られた粒子を140℃のオーブン中に一晩放置することにより乾燥させて、FCC触媒(c5)を得た。FCC触媒(c5)の評価結果を表3および4に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】