(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】車両の制御装置および車両の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B60T 8/1755 20060101AFI20241024BHJP
B60T 8/26 20060101ALI20241024BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B60T8/1755 Z
B60T8/26 H
B60T7/12 A
(21)【出願番号】P 2020196936
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(73)【特許権者】
【識別番号】519373914
【氏名又は名称】株式会社J-QuAD DYNAMICS
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】村松 宗太郎
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-104571(JP,A)
【文献】特開2006-199154(JP,A)
【文献】特開2019-177736(JP,A)
【文献】特開2019-077221(JP,A)
【文献】特開2009-214583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/1755
B60T 8/26
B60T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪のうち前輪に付与する制動力と前記車輪のうち後輪に付与する制動力とを各別に調整できる制動装置を有する車両であり、前記前輪に制動力が付与されるときには車両前部を上方に変位させる力であるアンチダイブ力が発生して、前記後輪に制動力が付与されるときには車両後部を下方に変位させる力である後輪アンチリフト力が発生するものであり、前記前輪に付与される制動力と前記後輪に付与される制動力とが互いに同じ大きさであるときには、前記アンチダイブ力および前記後輪アンチリフト力のうちの一方の力である第1力が他方の力である第2力よりも大きくなるように構成される車両に適用され、
前記制動装置を制御する制動制御
部を備え、
前記制動制御部は、
前記車両を発進させる際に、前記車両が停止している
状態で、前記前輪及び前記後輪のうち、制動力の付与によって前記第2力を前記車両に発生させる
ほうの車輪を主制動車輪として、前記車両に付与する
総制動力のうち前記主制動車輪に付与する制動力が占める割合を大き
くした上で前記車両に付与される駆動力が増大するように、前記制動装置を作動させる
車両の制御装置。
【請求項2】
前記制動制御部は、前記車両が停止している場合に、前記主制動車輪に付与する制動力によって前記車両に付与する制動力が満たされるように前記制動装置を作動させる
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記車両は、前記前輪に伝達する駆動力と前記後輪に伝達する駆動力とを各別に調整できる駆動装置を備え、前記前輪に駆動力が伝達されるときには前記車両前部を下方に変位させる力である前輪アンチリフト力が発生して、前記車両の後輪に駆動力が伝達されるときには前記車両後部を上方に変位させる力であるアンチスクォート力が発生するものであり、前記前輪に伝達される駆動力と前記後輪に伝達される駆動力とが互いに同じ大きさであるときには、前記前輪アンチリフト力および前記アンチスクォート力のうちの一方の力である第3力が他方の力である第4力よりも大きくなるように構成されている車両であり、
前記車両を停止状態から発進させる際には、駆動力の伝達によって前記第3力を前記車両に発生させる車輪を主駆動車輪として、前記車両の駆動力のうち前記主駆動車輪に伝達される駆動力が占める割合を大きくするように前記駆動装置を作動させる駆動制御部を備える
請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記駆動制御部は、前記車両を停止状態から発進させる際には、前記主駆動車輪に伝達される駆動力によって前記車両の駆動力が満たされるように前記駆動装置を作動させる
請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
車輪のうち前輪に付与する制動力と前記車輪のうち後輪に付与する制動力とを各別に調整できる制動装置を有する車両であり、前記前輪に制動力が付与されるときには車両前部を上方に変位させる力であるアンチダイブ力が発生して、前記後輪に制動力が付与されるときには車両後部を下方に変位させる力である後輪アンチリフト力が発生するものであり、前記前輪に付与される制動力と前記後輪に付与される制動力とが互いに同じ大きさであるときには、前記アンチダイブ力および前記後輪アンチリフト力のうちの一方の力である第1力が他方の力である第2力よりも大きくなるように構成される車両に適用され、
前記制動装置を制御する機能をコンピュータに実行させるものであり、
前記制動装置を制御する機能では、
前記車両を発進させる際に、前記車両が停止している
状態で、前記前輪及び前記後輪のうち、制動力の付与によって前記第2力を前記車両に発生させる
ほうの車輪を主制動車輪として、前記車両に付与する
総制動力のうち前記主制動車輪に付与する制動力が占める割合を大き
くした上で前記車両に付与される駆動力が増大するように、前記制動装置を作動させる
車両の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発進時の車両の姿勢を制御する車両の制御装置および車両の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両のピッチ角を目標ピッチ角に近づけるように制動力の前後配分比を調整する制御装置が開示されている。前後配分比は、車両の制動力を前輪に付与する制動力と後輪に付与する制動力とに配分する比率を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両を停止状態から発進させる際には、車両前部を上方に変位させるとともに車両後部を下方に変位させる挙動、すなわちノーズリフトが発生しやすい。発進時にノーズリフトが発生する場合には、車両のピッチ角の変化速度が大きいことがある。このため、特許文献1に開示されている制御装置のように、前後配分比の調整によって車両のピッチ角と目標ピッチ角との乖離を解消するような制御では、発進時に発生するノーズリフトを十分に抑制することが難しい場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための車両の制御装置は、車輪のうち前輪に付与する制動力と前記車輪のうち後輪に付与する制動力とを各別に調整できる制動装置を有する車両であり、前記前輪に制動力が付与されるときには車両前部を上方に変位させる力であるアンチダイブ力が発生して、前記後輪に制動力が付与されるときには車両後部を下方に変位させる力である後輪アンチリフト力が発生するものであり、前記前輪に付与される制動力と前記後輪に付与される制動力とが互いに同じ大きさであるときには、前記アンチダイブ力および前記後輪アンチリフト力のうちの一方の力である第1力が他方の力である第2力よりも大きくなるように構成される車両に適用され、前記制動装置を制御する制動制御部と、を備え、前記制動制御部は、前記車両が停止している場合に、制動力の付与によって前記第2力を前記車両に発生させる車輪を主制動車輪として、前記車両に付与する制動力のうち前記主制動車輪に付与する制動力が占める割合を大きくするように前記制動装置を作動させることをその要旨とする。
【0006】
上記構成によれば、たとえば後輪アンチリフト力の方がアンチダイブ力よりも大きくなる車両では、車両の停止中に前輪に付与される制動力の割合が大きくされる。また、たとえばアンチダイブ力の方が後輪アンチリフト力よりも大きくなる車両では、車両の停止中に後輪に付与される制動力の割合が大きくされる。これによって、車両を発進させる際に発生するモーメントであり、車両の姿勢をノーズリフトにするモーメントを低減することができる。すなわち、前後輪における制動力の割合を調整することによって、車両を発進させる際にノーズリフトを発生させにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】車両の制御装置の一実施形態と、同制御装置の制御対象である車両と、を示す模式図。
【
図2】制動力によって車両に作用する力、および駆動力によって車両に作用する力を説明する模式図。
【
図3】後輪アンチリフト力の方がアンチダイブ力よりも大きくなる車両を例にして、同制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャート。
【
図4】車両を発進させる際の制動力および駆動力を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、車両の制御装置の一実施形態について、
図1~
図4を参照して説明する。
図1は、動力源として第1モータジェネレータ71Fおよび第2モータジェネレータ71Rを搭載している車両90を示す。第1モータジェネレータ71Fおよび第2モータジェネレータ71Rは、車両90の駆動装置を構成している。
【0009】
車両90は、四つの車輪を備えている。車両90は、前輪として左前輪FLおよび右前輪FRを備えている。車両90は、左前輪FLおよび右前輪FRが取り付けられている前輪車軸73Fを備えている。車両90は、後輪として左後輪RLおよび右後輪RRを備えている。車両90は、左後輪RLおよび右後輪RRが取り付けられている後輪車軸73Rを備えている。
【0010】
車両90は、四輪駆動の車両である。第1モータジェネレータ71Fから出力される駆動力は、前輪車軸73Fを介して前輪FL,FRに伝達される。第2モータジェネレータ71Rから出力される駆動力は、後輪車軸73Rを介して後輪RL,RRに伝達される。車両90では、前輪FL,FRと後輪RL,RRとに駆動力を配分することができる。
【0011】
車両90は、車輪を懸架するサスペンション装置を備えている。車両90は、左前輪FLおよび右前輪FRに取り付けられている前輪FL,FR用のサスペンション装置を備えている。車両90は、左後輪RLおよび右後輪RRに取り付けられている後輪RL,RR用のサスペンション装置を備えている。
【0012】
車両90は、制動操作部材61を備えている。制動操作部材61は、車両の運転者が操作可能な位置に取り付けられている。制動操作部材61は、たとえばブレーキペダルである。
【0013】
車両90は、車輪に制動力を付与する制動装置80を備えている。制動装置80は、各車輪に対応した制動機構84を備えている。制動機構84は、車輪と一体回転する回転体87、摩擦材86およびホイールシリンダ85によって構成されている。制動機構84では、ホイールシリンダ85内の液圧に応じて摩擦材86が回転体87に押し付けられる。制動機構84は、摩擦材86を回転体87に押し付ける力が大きいほど車輪に付与する制動力を大きくすることができる。
【0014】
制動装置80は、液圧発生装置81および制動アクチュエータ83を備えている。制動装置80は、液圧発生装置81において発生させた液圧を、制動アクチュエータ83を介してホイールシリンダ85に供給することができる。
【0015】
液圧発生装置81は、制動操作部材61が運転者によって操作されているときに、その操作量に応じた液圧を発生させることができる。運転者によって制動操作部材61の操作が行われている場合には、液圧発生装置81で発生した液圧に応じた量のブレーキ液が制動アクチュエータ83を介してホイールシリンダ85に供給される。
【0016】
制動アクチュエータ83は、各ホイールシリンダ85に供給する液圧を各別に調整することができる。すなわち、制動装置80は、各車輪に付与する制動力を各別に調整することができる。
【0017】
図2は、側方から見た車両90を示している。
図2には、車輪のうち左前輪FLおよび左後輪RLを図示している。
図2には、車両90の車両重心GCを表示している。
図2には、車両重心GCから路面までの距離である重心高さHを表示している。
図2には、車両90の前後方向における車両重心GCと前輪車軸73Fとの間の水平距離を第1距離Lfと表示している。
図2には、車両90の前後方向における車両重心GCと後輪車軸73Rとの間の水平距離を第2距離Lrと表示している。第1距離Lfと第2距離Lrとの和は、車両90のホイールベースに相当する。
【0018】
図2には、停止状態の車両90を発進させる際に車両重心GCに作用する慣性力Fiを白抜き矢印で表示している。車両90を発進させる際には、車両重心GCに後向きの慣性力Fiが作用する。
【0019】
図2には、車両90を発進させる際に車両重心GCの周りに発生するピッチングモーメントMを例示する矢印を表示している。ピッチングモーメントMは、車両重心GCに作用する慣性力Fi、車両90の重心高さH、第1距離Lfおよび第2距離Lrに基づいて算出することができる。ピッチングモーメントMは、車体91における前輪FL,FR側の部分である車体前部91Fを上方に変位させる力となる。ピッチングモーメントMは、車体91における後輪RL,RR側の部分である車体後部91Rを下方に変位させる力である。すなわち、ピッチングモーメントMは、車両90をノーズリフトにする力である。
【0020】
以下、
図2を参照する説明では、左前輪FLに関して説明して、左前輪FLに対して対称な右前輪FRに関する説明を省略することがある。同様に、左後輪RLに関して説明して、左後輪RL対して対称な右後輪RRに関する説明を省略することがある。
【0021】
車両90の各車輪に作用する制動力および駆動力について説明する。
図2には、前輪FL,FRに作用する制動力を前輪制動力BFfと表示している。前輪FL,FRに作用する駆動力を前輪駆動力DFfと表示している。
図2には、後輪RL,RRに作用する制動力を後輪制動力BFrと表示している。後輪RL,RRに作用する駆動力を後輪駆動力DFrと表示している。前輪制動力BFfと後輪制動力BFrとの和を車両90の総制動力という。前輪駆動力DFfと後輪駆動力DFrとの和を車両90の総駆動力という。
【0022】
図2には、車輪の瞬間回転中心を表示している。制動時における前輪FL,FRの瞬間回転中心を第1回転中心Cfbと表示している。前輪FLと路面とが接する点と第1回転中心Cfbとを繋ぐ直線と、路面とがなす角度を第1角度θfと表示している。駆動時における前輪FLの瞬間回転中心を第2回転中心Cfdと表示している。前輪FLと路面とが接する点と第2回転中心Cfdとを繋ぐ直線と、路面とがなす角度を第2角度φfと表示している。また、制動時における後輪RLの瞬間回転中心を第3回転中心Crbと表示している。後輪RLと路面とが接する点と第3回転中心Crbとを繋ぐ直線と、路面とがなす角度を第3角度θrと表示している。駆動時における後輪RLの瞬間回転中心を第4回転中心Crdと表示している。後輪RLと路面とが接する点と第4回転中心Crdとを繋ぐ直線と、路面とがなす角度を第4角度φrと表示している。
【0023】
なお、各瞬間回転中心の位置は、サスペンション装置の特性によって定まる。
図2に示した各瞬間回転中心の位置は、一例であり、実際の瞬間回転中心の位置を表すものではない。このため、第1角度θf、第2角度φf、第3角度θrおよび第4角度φrの大きさについても、実際の角度の大きさを示すものではない。
【0024】
図2を用いて、車両90の姿勢を変化させる力について説明する。
図2には、前輪FL,FR用のサスペンション装置によって車両90に作用する力として、アンチダイブ力FbADおよび前輪アンチリフト力FdALを白抜き矢印で表示している。
図2には、後輪RL,RR用のサスペンション装置によって車両90に作用する力として、アンチスクォート力FdASおよび後輪アンチリフト力FbALを白抜き矢印で表示している。なお、白抜き矢印は、力の方向を示すものであり、実際の力の大きさを表すものではない。
【0025】
アンチダイブ力FbADについて説明する。アンチダイブ力FbADは、前輪FL,FRに制動力が付与されることによって作用する力である。アンチダイブ力FbADは、車体前部91Fが沈み込むことを抑制する力である。アンチダイブ力FbADが作用する方向は、車両前部を路面から離すように変位させる方向である。
【0026】
前輪アンチリフト力FdALについて説明する。前輪アンチリフト力FdALは、前輪FL,FRに駆動力が伝達されることによって作用する力である。前輪アンチリフト力FdALは、車体前部91Fが浮き上がることを抑制する力である。前輪アンチリフト力FdALが作用する方向は、車両前部を路面に近づけるように変位させる方向である。
【0027】
後輪アンチリフト力FbALについて説明する。後輪アンチリフト力FbALは、後輪RL,RRに制動力が付与されることによって作用する力である。後輪アンチリフト力FbALは、車体後部91Rが浮き上がることを抑制する力である。後輪アンチリフト力FbALが作用する方向は、車両後部を路面に近づけるように変位させる方向である。
【0028】
アンチスクォート力FdASについて説明する。アンチスクォート力FdASは、後輪RL,RRに駆動力が伝達されることによって作用する力である。アンチスクォート力FdASは、車体後部91Rが沈み込むことを抑制する力である。アンチスクォート力FdASが作用する方向は、車両後部を路面から離すように変位させる方向である。
【0029】
アンチダイブ力FbADは、前輪制動力BFfおよび第1角度θfを用いて、下記の関係式(式1)として表すことができる。前輪アンチリフト力FdALは、前輪駆動力DFfおよび第2角度φfを用いて、下記の関係式(式2)として表すことができる。
【0030】
FbAD=BFf・tanθf…(式1)
FdAL=DFf・tanφf…(式2)
関係式(式1)に示すように、アンチダイブ力FbADは、前輪制動力BFfが大きいほど大きな力となる。アンチダイブ力FbADは、第1角度θfに基づくtanθfが大きいほど大きな力となる。関係式(式2)に示すように、前輪アンチリフト力FdALは、前輪駆動力DFfが大きいほど大きな力となる。前輪アンチリフト力FdALは、第2角度φfに基づくtanφfが大きいほど大きな力となる。
【0031】
後輪アンチリフト力FbALは、後輪制動力BFrおよび第3角度θrを用いて、下記の関係式(式3)として表すことができる。アンチスクォート力FdASは、後輪駆動力DFrおよび第4角度φrを用いて、下記の関係式(式4)として表すことができる。
【0032】
FbAL=BFr・tanθr…(式3)
FdAS=DFr・tanφr…(式4)
関係式(式3)に示すように、後輪アンチリフト力FbALは、後輪制動力BFrが大きいほど大きな力となる。後輪アンチリフト力FbALは、第3角度θrに基づくtanθrが大きいほど大きな力となる。関係式(式4)に示すように、アンチスクォート力FdASは、後輪駆動力DFrが大きいほど大きな力となる。アンチスクォート力FdASは、第4角度φrに基づくtanφrが大きいほど大きな力となる。
【0033】
車両のサスペンション装置では、前輪制動力BFfと後輪制動力BFrとが互いに同じ大きさであるときに、アンチダイブ力FbADおよび後輪アンチリフト力FbALのうち一方の力が他方の力よりも大きくなるようにサスペンションジオメトリが設定されている。車両90が備える前輪FL,FR用のサスペンション装置および後輪RL,RR用のサスペンション装置では、前輪制動力BFfと後輪制動力BFrとが互いに同じ大きさであるときに、アンチダイブ力FbADよりも後輪アンチリフト力FbALの方が大きくなるようにサスペンションジオメトリが設定されている。すなわち、第3角度θrが第1角度θfよりも大きい関係が成立するようにサスペンションジオメトリが設定されている。
【0034】
車両のサスペンション装置では、前輪駆動力DFfと後輪駆動力DFrとが互いに同じ大きさであるときに、前輪アンチリフト力FdALよりもアンチスクォート力FdASのうち一方の力が他方の力よりも大きくなるようにサスペンションジオメトリが設定されている。車両90が備える前輪FL,FR用のサスペンション装置および後輪RL,RR用のサスペンション装置では、前輪駆動力DFfと後輪駆動力DFrとが互いに同じ大きさであるときに、前輪アンチリフト力FdALよりもアンチスクォート力FdASの方が大きくなるようにサスペンションジオメトリが設定されている。すなわち、第4角度φrが第2角度φfよりも大きい関係が成立するようにサスペンションジオメトリが設定されている。
【0035】
車両90のピッチングに関する運動方程式は、下記の関係式(式5)として表すことができる。
Iy・θy′′={(BFf+BFr)-(DFf+DFr)}・H-FbAD・Lf-FbAL・Lr+FdAL・Lf+FdAS・Lr…(式5)
関係式(式5)における「Iy」は、ピッチ慣性モーメントを表す。関係式(式5)における「θy′′」は、ピッチ角θyの二階微分値を表す。すなわち「θy′′」は、ピッチ角加速度を表す。
【0036】
以上のように車両90では、前輪制動力BFfおよび後輪制動力BFrを調整することによって、車両90に作用するアンチダイブ力FbADおよび後輪アンチリフト力FbALを調整することができる。アンチダイブ力FbADおよび後輪アンチリフト力FbALは、ピッチングモーメントMを大きくする方向に働く力である。前輪制動力BFfおよび後輪制動力BFrを調整することによって、ピッチングモーメントMを調整することができる。
【0037】
さらに車両90では、前輪駆動力DFfおよび後輪駆動力DFrを調整することによって、車両90に作用する前輪アンチリフト力FdALおよびアンチスクォート力FdASを調整することができる。前輪アンチリフト力FdALおよびアンチスクォート力FdASは、ピッチングモーメントMを抑制する方向に働く力である。前輪駆動力DFfおよび後輪駆動力DFrを調整することによって、ピッチングモーメントMを調整することができる。
【0038】
図1に示す車両90は、各種センサを備えている。
図1には、各種センサの一例として、ブレーキセンサ21、アクセルセンサ22および車輪速センサ23を示している。各種センサからの検出信号は、車両90が備える制御装置10に入力される。
【0039】
ブレーキセンサ21は、制動操作部材61の操作量を検出することができる。ブレーキセンサ21は、制動操作部材61を操作するために制動操作部材61に加えられる圧力を検出するセンサでもよい。
【0040】
アクセルセンサ22は、駆動操作部材の操作量を検出することができる。駆動操作部材は、たとえば、アクセルペダルである。
車輪速センサ23は、車両90が備える各車輪に対応して取り付けられている。車輪速センサ23は、各車輪の車輪速度を検出することができる。
【0041】
車両90は、情報取得装置30を備えていてもよい。情報取得装置30は、車両90の周辺についての情報を取得する機能を有している。情報取得装置30は、得られた情報を制御装置10へ出力することができる。情報取得装置30の一例は、車両90の周辺を撮像するカメラを備えている。情報取得装置30は、カメラによって撮像された画像を処理する情報処理部を備えている。たとえば、情報取得装置30は、撮像された画像を情報処理部で解析することによって、車両90の前方に位置する車両と、車両90との間の距離を算出することができる。
【0042】
情報取得装置30は、カメラ以外の装置として、ミリ波レーダー、LIDAR、またはソナー等を備えていてもよい。これらの装置によって検出された情報に基づいて、情報取得装置30は、車両90の前方に位置する車両と、車両90との間の距離を算出することもできる。
【0043】
情報取得装置30は、車両90の進行方向に存在する交通信号機の表示を識別する機能を備えていてもよい。
情報取得装置30は、交通信号機から送信される情報を受信する受信装置を備えていてもよい。当該情報には、交通信号機の表示を示す情報を含む。受信装置は、交通信号機に限らず、道路に設置されている送信装置から送信される情報を受信する機能を備えていてもよい。
【0044】
車両90は、制御装置10を備えている。制御装置10は、第1モータジェネレータ71Fおよび第2モータジェネレータ71Rを制御対象とする。すなわち、制御装置10は、駆動装置を制御対象とする。制御装置10は、制動装置80を制御対象とする。なお、制御装置10は、CPUとROMとを備えている。制御装置10のROMには、CPUが各種の制御を実行するための各種のプログラムが記憶されている。
【0045】
制御装置10は、各種の制御を実行する複数の機能部によって構成されている。
図1には、機能部の一例として、取得部11、制動制御部12、駆動制御部13および発進予測部14を示している。
【0046】
取得部11は、各種センサが出力する信号を参照する。取得部11は、ブレーキセンサ21の出力信号に基づいて制動操作部材61の操作量を算出することができる。取得部11は、制動操作部材61の操作量に基づいて、車両90の総制動力の目標値を算出することができる。取得部11は、アクセルセンサ22の出力信号に基づいて駆動操作部材の操作量を算出することができる。取得部11は、駆動操作部材の操作量に基づいて、車両90の総駆動力の目標値を算出することができる。取得部11は、車輪速センサ23の出力信号に基づいて各車輪の車輪速を算出することができる。取得部11は、車輪速に基づいて車速を算出することができる。
【0047】
取得部11は、情報取得装置30が出力する情報を参照することもできる。取得部11は、車両90の前方に位置する車両と車両90との間の距離を取得してもよい。取得部11は、車両90の前方に位置する交通信号機の状態を取得してもよい。
【0048】
制動制御部12は、制動装置80を作動させることによって車両90の車輪に制動力を付与することができる。制動制御部12は、前輪制動力BFfと後輪制動力BFrとを各別に調整することができる。
【0049】
制動制御部12は、制動力配分比を設定する機能を備えている。制動力配分比は、車両90を制動する際に車両90に付与する制動力を前輪FL,FRに付与する制動力と後輪RL,RRに付与する制動力とに配分する比率である。すなわち、制動力配分比は、車両90の総制動力を前輪制動力BFfと後輪制動力BFrとに配分する比率である。制動制御部12は、制動力配分比に基づいて、前輪制動力BFfと後輪制動力BFrとの比率を調整することができる。制動制御部12には、制動力配分比を調整する基準となる値として、基本制動力比率が記憶されている。基本制動力比率は、制動力配分比を調整する制御が介入しない場合における制動力配分比の値である。一例として、基本制動力比率は、制動力配分比を調整する制御が介入しない場合に、制動操作部材61の操作に応じて制動装置80によって付与される制動力における前輪制動力BFfと後輪制動力BFrとの比率を示す。なお、制動力配分比を調整する制御とは、本実施形態に例示している制御に限らない。
【0050】
制動力配分比についてさらに説明する。たとえば、総制動力の目標値を一定に維持した状態で制動力配分比における前輪制動力BFfの比率が大きくされる場合には、前輪制動力BFfが増大され後輪制動力BFrが減少される。たとえば、総制動力の目標値を一定に維持した状態で制動力配分比における後輪制動力BFrの比率が大きくされる場合には、後輪制動力BFrが増大され前輪制動力BFfが減少される。たとえば、制動力配分比を一定に維持した状態で総制動力の目標値が増大または減少される場合には、変動後の総制動力が制動力配分比に従って前輪制動力BFfと後輪制動力BFrとに配分されるように、前輪制動力BFfおよび後輪制動力BFrが調整される。
【0051】
駆動制御部13は、駆動力配分比を設定する機能を備えていてもよい。駆動力配分比は、車両90の駆動力を前輪FL,FRに付与する駆動力と後輪RL,RRに付与する駆動力とに配分する比率である。すなわち、駆動力配分比は、車両90の総駆動力を前輪駆動力DFfと後輪駆動力DFrとに配分する比率である。駆動制御部13には、駆動力配分比を調整する基準となる値として、基本駆動力比率が記憶されている。基本駆動力比率は、駆動力配分比を調整する制御が介入しない場合における駆動力配分比の値である。なお、駆動力配分比を調整する制御とは、本実施形態に例示している制御に限らない。
【0052】
駆動制御部13は、駆動装置を作動させることによって、車両90の車輪に駆動力を伝達することができる。駆動制御部13は、第1モータジェネレータ71Fのインバータを操作することによって、第1モータジェネレータ71Fを制御する。駆動制御部13は、第1モータジェネレータ71Fを制御することによって前輪FL,FRに前輪駆動力DFfを伝達することができる。駆動制御部13は、第2モータジェネレータ71Rのインバータを操作することによって、第2モータジェネレータ71Rを制御する。駆動制御部13は、第2モータジェネレータ71Rを制御することによって後輪RL,RRに後輪駆動力DFrを伝達することができる。駆動制御部13は、駆動力配分比に基づいて、前輪駆動力DFfと後輪駆動力DFrとの比率を調整することもできる。
【0053】
駆動力配分比についてさらに説明する。たとえば、総駆動力の目標値を一定に維持した状態で駆動力配分比における前輪駆動力DFfの比率が大きくされる場合には、前輪駆動力DFfが増大され後輪駆動力DFrが減少される。たとえば、総駆動力の目標値を一定に維持した状態で駆動力配分比における後輪駆動力DFrの比率が大きくされる場合には、後輪駆動力DFrが増大され前輪駆動力DFfが減少される。たとえば、駆動力配分比を一定に維持した状態で総駆動力の目標値が増大または減少される場合には、変動後の総駆動力が駆動力配分比に従って前輪駆動力DFfと後輪駆動力DFrとに配分されるように、前輪駆動力DFfおよび後輪駆動力DFrが調整される。
【0054】
発進予測部14は、停止中の車両90が発進する時期を予測することができる。たとえば、発進予測部14は、車両90の前方に位置する車両と車両90との間の距離が大きくなった場合に、車両90が発進すると予測することができる。たとえば、発進予測部14は、車両90の前方に位置する交通信号機の状態に基づいて、車両90が発進すると予測することができる。
【0055】
制御装置10は、車両90の発進制御を行うための処理を実行する。当該発進制御では、車両90の停止中に前輪制動力BFfおよび後輪制動力BFrを調整することによって、車両90を発進させる際のピッチングモーメントMを制御することができる。発進制御では、車両90を発進させる際に駆動力配分比を調整することによって、ピッチングモーメントMを制御することができる。以下、
図3を用いてこの処理について説明する。制御装置10が備えるROMには、
図3に示す処理を実行するためのプログラムである制御プログラムが記憶されている。
図3に示す処理は、ROMに記憶された制御プログラムをCPUが実行することによって実現される。
【0056】
図3は、制御装置10が実行する処理の流れを示す。本処理ルーチンは、所定の周期毎に繰り返し実行される。
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS101では、制御装置10は、車両90が停止状態であるか否かを判定する。たとえば、車両90の車速が「0」である場合に車両90が停止状態であると判定することができる。また、たとえば、車輪の回転が停止している場合に車両90が停止状態であると判定することができる。
【0057】
制御装置10は、車両90が停止状態ではない場合には(S101:NO)、制御装置10は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、車両90が停止状態である場合には(S101:YES)、制御装置10は、処理をステップS102に移行する。
【0058】
ステップS102では、制御装置10は、発進制御の開始条件が成立しているか否かを判定する。発進制御の開始条件の一例について説明する。たとえば、制御装置10は、車両90が停止してから所定時間が経過した場合に開始条件が成立したと判定する。たとえば、制御装置10は、発進予測部14によって車両90の発進が予測されている場合に開始条件が成立したと判定することもできる。また、制御装置10は、車両90が発進すると予測される時点までに規定の期間を確保できない場合には、開始条件が成立していないと判定してもよい。規定の期間とは、車両90の停止中に前輪制動力BFfおよび後輪制動力BFrの調整を行うための期間である。規定の期間は、予め実験等によって算出した値を用いることができる。
【0059】
ステップS102の処理において、制御装置10は、発進制御の開始条件が成立していない場合には(S102:NO)、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、発進制御の開始条件が成立している場合には(S102:YES)、制御装置10は、処理をステップS103に移行する。
【0060】
ステップS103では、制御装置10は、車両90を発進させる際の駆動力配分比を駆動制御部13に設定させる。駆動制御部13は、前輪駆動力DFfと後輪駆動力DFrとが互いに同じ大きさであるときに前輪アンチリフト力FdALよりもアンチスクォート力FdASの方が大きくなるようにサスペンションジオメトリが設定されている車両90では、後輪駆動力DFrの比率が大きくなるように駆動力配分比を設定する。すなわち、駆動制御部13は、アンチスクォート力FdASを発生させる後輪駆動力DFrの比率が大きくなるように駆動力配分比を設定する。たとえば、駆動制御部13は、基本駆動力比率と比較して後輪駆動力DFrの比率が大きい値に駆動力配分比を設定する。駆動制御部13は、後輪駆動力DFrによって車両90の総駆動力が満たされるように駆動力配分比を設定することもできる。すなわち、駆動制御部13は、後輪RL,RRのみに駆動力を伝達するようにしてもよい。車両90を発進させる際には、駆動制御部13は、ステップS103の処理において設定する駆動力配分比に従って駆動装置を作動させる。その結果として、駆動力配分比が基本駆動力比率である場合に比して後輪駆動力DFrが大きくなるように駆動力が伝達される。
【0061】
ステップS103の処理によって駆動力配分比が設定されると、制御装置10は、処理をステップS104に移行する。
ステップS104では、制御装置10は、制動制御部12に前輪制動力BFfの増大処理を実行させる。制動制御部12は、後輪制動力BFrを一定に維持した状態で前輪制動力BFfを増大させるよう制動装置80を作動させる。すなわち、前輪制動力BFfの増大によって総制動力が増大される。ここでの処理を換言すると、制動制御部12は、総制動力を増大させる。総制動力を増大させる際の制動力配分比は、後輪制動力BFrの大きさを維持しつつ、前輪制動力BFfの比率が大きくされるように設定されている。このようにして制動制御部12は、車両90に付与する総制動力のうち前輪制動力BFfが占める割合を大きくする。
【0062】
前輪制動力BFfの増大処理では、制動制御部12は、前輪制動力BFfが保持制動力に達するまで前輪制動力BFfを増大させる。保持制動力は、後輪制動力BFrが「0」であっても車両90が停止した状態を保持できる前輪制動力BFfの大きさとして予め算出されている。制動制御部12に前輪制動力BFfの増大処理を実行させると、制御装置10は、処理をステップS105に移行する。
【0063】
ステップS105では、制御装置10は、待機処理を実行する。制御装置10は、待機処理を終了すると、処理をステップS106に移行する。たとえば、制御装置10は、前輪制動力BFfが保持制動力に達してから規定の待機時間が経過した場合に待機処理を終了する。
【0064】
ステップS106では、制御装置10は、制動制御部12に後輪制動力BFrの減少処理を実行させる。制動制御部12は、前輪制動力BFfを一定に維持した状態で後輪制動力BFrを減少させるよう制動装置80を作動させる。制動制御部12は、後輪制動力BFrが「0」になるまで後輪制動力BFrを減少させる。制動制御部12は、車両90が発進するまでに後輪制動力BFrが「0」となるように後輪制動力BFrの減少速度を制御してもよい。制動制御部12に後輪制動力BFrの減少処理を実行させると、制御装置10は、本処理ルーチンを終了する。
【0065】
本実施形態の作用および効果について説明する。
図4は、車両90を発進させる際の制動力の推移、および、駆動力の推移を示す。
図4に示す例では、
図4の(a)に示すようにタイミングt16において制動力が「0」まで減少されている。制動力の減少は、タイミングt16よりも前のタイミングt15から開始されている。
図4の(b)に示すようにタイミングt15以降において駆動力が増大されている。タイミングt15を、車両90を発進させる時点とする。また、タイミングt11において、発進制御の開始条件が成立したとする。
【0066】
図4に示す例では、タイミングt15よりも前の期間は、車両90が停止している停止期間P1である。タイミングt15からタイミングt16までの期間は、始動期間P2である。始動期間P2は、車両90の駆動力が増大され、制動力が減少されている期間である。タイミングt16以降の期間は、制動力が「0」まで減少してからの加速期間P3である。
【0067】
図4の(a)には、前輪制動力BFfを実線で表示している。
図4の(a)には、後輪制動力BFrを破線で表示している。
図4の(a)に示すように、停止期間P1におけるタイミングt11よりも前の期間では、前輪制動力BFfよりも後輪制動力BFrが大きくなっている。
【0068】
タイミングt11において発進制御の開始条件が成立すると、駆動制御部13によって駆動力配分比が設定される(S103)。これによって、後輪駆動力DFrの比率が大きくなるように駆動力配分比が設定される。
【0069】
タイミングt11において発進制御の開始条件が成立すると、制動制御部12によって前輪制動力BFfの増大処理が開始される(S104)。このため、タイミングt11以降では、前輪制動力BFfが増大されている。一方で後輪制動力BFrは、タイミングt11よりも前の時点の値に維持されている。すなわち、停止期間P1において、車両90に付与する総制動力のうち前輪制動力BFfが占める割合が大きくされている。
【0070】
図4の(a)に示すようにタイミングt12において前輪制動力BFfが保持制動力まで増大すると、前輪制動力BFfの増大処理が終了される。その後、前輪制動力BFfは、車両90が発進するタイミングt15までの期間において保持制動力に維持されている。
【0071】
制御装置10では、前輪制動力BFfが保持制動力に達してから規定の待機時間が経過すると、後輪制動力BFrの減少処理が開始される(S106)。
図4に示す例では、タイミングt12からタイミングt13までの期間が、待機時間に相当する。
【0072】
図4の(a)に示すように、後輪制動力BFrは、待機時間経過後のタイミングt13から減少が開始されている。後輪制動力BFrは、停止期間P1中であるタイミングt14において「0」まで減少されている。このため、タイミングt14以降から車両90が発進するタイミングt15までの期間では、後輪制動力BFrが「0」である。タイミングt14以降からタイミングt15までの期間では、前輪制動力BFfによって車両90に付与する総制動力が満たされている。
【0073】
車両90が停止状態から発進する際には、始動期間P2として示したように、駆動力の伝達が開始されてからも制動力が付与されている期間がある。こうした始動期間P2では、車両90の姿勢は、車両90に付与される制動力に基づくアンチダイブ力FbADおよび後輪アンチリフト力FbALの影響を受ける。
【0074】
そこで制御装置10によれば、車両90の停止中に前輪制動力BFfの割合が大きくされる。さらに、後輪制動力BFrが「0」まで減少される。ここで、車両90は、前輪制動力BFfと後輪制動力BFrとが互いに同じ大きさであるときに、アンチダイブ力FbADよりも後輪アンチリフト力FbALの方が大きくなるようにサスペンションジオメトリが設定された車両である。このため、前輪制動力BFfの割合を大きくすることで、車体後部91Rが浮き上がることを抑制する力である後輪アンチリフト力FbALを小さくすることができる。一方で、前輪制動力BFfの割合を大きくしても、アンチダイブ力FbADが大きくなる量は、小さく抑えられる。これによって、車両90を発進させる際に発生するモーメントであり、車両90の姿勢をノーズリフトにするピッチングモーメントMを低減することができる。すなわち、前後輪における制動力の割合を可能である範囲で調整することによって、車両90を発進させる際にノーズリフトを発生させにくくすることができる。
【0075】
タイミングt15以降において車輪に伝達される駆動力は、ステップS103の処理によって設定されている駆動力配分比に従って調整されている。すなわち、駆動力配分比が基本駆動力比率である場合に比して後輪駆動力DFrが大きくされている。なお、加速期間P3においては、駆動力配分比を基本駆動力比率にしてもよい。ここで、車両90は、前輪駆動力DFfと後輪駆動力DFrとが互いに同じ大きさであるときに、前輪アンチリフト力FdALよりもアンチスクォート力FdASの方が大きくなるようにサスペンションジオメトリが設定された車両である。このため、後輪駆動力DFrの割合を大きくすることで、車体後部91Rが沈み込むことを抑制する力であるアンチスクォート力FdASを大きくすることができる。これによって、車両90の姿勢をノーズリフトにするモーメントに反する力が大きくなるように、発進時に駆動力を伝達させることができる。特に、後輪駆動力DFrによって車両90の総駆動力が満たされるように駆動力配分比を設定する場合には、駆動力の割合の調整によって可能である範囲で、車両90の姿勢をノーズリフトにするピッチングモーメントMに反する力を最大にできる。
【0076】
制御装置10によれば、前後輪における制動力の割合の調整および前後輪における駆動力の割合の調整によって、車両90の姿勢をノーズリフトにするピッチングモーメントMをより小さくすることができる。
【0077】
〈対応関係〉
本実施形態では、後輪アンチリフト力FbALが「第1力」に対応する。アンチダイブ力FbADが「第2力」に対応する。前輪FL,FRが「主制動車輪」に対応する。
【0078】
また、アンチスクォート力FdASが「第3力」に対応する。前輪アンチリフト力FdALが「第4力」に対応する。後輪RL,RRが「主駆動車輪」に対応する。
〈その他の実施形態〉
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0079】
・停止期間P1の間に後輪制動力BFrを「0」まで減少させることは、必須の構成ではない。車両90が発進する時点において後輪制動力BFrが「0」であることは、ノーズリフトを抑制するうえで好ましい。しかし、後輪制動力BFrが「0」まで減少されていなくても、前輪制動力BFfの割合が大きくされ後輪制動力BFrの割合が小さくされていれば、車両90の姿勢をノーズリフトにするピッチングモーメントMを低減することができる。
【0080】
・
図3のステップS103において実行する処理を省略してもよい。すなわち、駆動力配分比を調整する処理は、省略できる。駆動力配分比の調整を行わない場合であっても、車両90の停止中に前輪制動力BFfの割合を大きくすれば、ノーズリフトを抑制する効果が得られる。
【0081】
・制御装置10は、車両90のサスペンションジオメトリとは異なるサスペンションジオメトリが設定されている車両を制御対象とすることもできる。制御装置10は、前輪制動力BFfと後輪制動力BFrとが互いに同じ大きさであるときに、後輪アンチリフト力FbALよりもアンチダイブ力FbADの方が大きくなるようにサスペンションジオメトリが設定されている車両を制御対象としてもよい。この場合には、アンチダイブ力FbADが「第1力」に対応する。後輪アンチリフト力FbALが「第2力」に対応する。以下、当該車両を制御対象とする場合の例を説明する。
【0082】
この場合には、制御装置10は、制動力の付与によって後輪アンチリフト力FbALを発生させる車輪である後輪RL,RRを「主制動車輪」とする。すなわち、車両90の停止中に後輪制動力BFrの割合を大きくする。この制御を実現する構成の一例では、
図3のステップS104において、前輪制動力BFfの増大処理を実行することに替えて後輪制動力BFrの増大処理を実行する。さらに、
図3のステップS106においては、後輪制動力BFrの減少処理を実行することに替えて前輪制動力BFfの減少処理を実行する。これによって、車両90の発進時に作用するアンチダイブ力FbADを小さくすることができる。一方で、後輪制動力BFrの割合を大きくしても、後輪アンチリフト力FbALが大きくなる量は、小さく抑えられる。すなわち、上記実施形態と同様に、車両90の姿勢をノーズリフトにするピッチングモーメントMを低減することができる。
【0083】
・制御装置10は、前輪駆動力DFfと後輪駆動力DFrとが互いに同じ大きさであるときに、アンチスクォート力FdASよりも前輪アンチリフト力FdALの方が大きくなるようにサスペンションジオメトリが設定されている車両を制御対象とすることもできる。この場合には、前輪アンチリフト力FdALが「第3力」に対応する。アンチスクォート力FdASが「第4力」に対応する。以下、当該車両を制御対象とする場合の例を説明する。
【0084】
この場合には、制御装置10は、駆動力の伝達によって前輪アンチリフト力FdALを発生させる車輪である前輪FL,FRを「主駆動車輪」とする。すなわち、車両90を発進させる際に前輪駆動力DFfの割合を大きくする。この制御を実現する構成の一例では、
図3のステップS103の処理において、基本駆動力比率と比較して後輪駆動力DFrの比率が大きい値となるように駆動力配分比を設定する。これによって、前輪アンチリフト力FdALを大きくすることができる。すなわち、上記実施形態と同様に、車両90の姿勢をノーズリフトにするピッチングモーメントMに反する力が大きくなるように、駆動力を伝達させることができる。
【0085】
・上記実施形態では、制御装置10の制御対象としてモータジェネレータを動力源として備える車両を例示した。制御装置10は、内燃機関を動力源として備える車両を制御対象にしてもよい。動力源として内燃機関を搭載した四輪駆動の車両の一例は、フロントデファレンシャルギアおよびリアデファレンシャルギアを備える。さらに当該車両は、フロントデファレンシャルギアとリアデファレンシャルギアとを連結するプロペラシャフトと、電子制御カップリング装置と、を備える。制御装置10は、電子制御カップリング装置を制御することによって、駆動力配分比に従った前輪駆動力DFfおよび後輪駆動力DFrの調整を行うことができる。
【0086】
・制御装置10が制御対象とする車両は、四輪駆動の車両に限らない。
・制動機構84としてディスクブレーキを例示した。制動機構としては、ディスクブレーキに限られるものではない。たとえば、回転体としてのドラムと摩擦材としてのシューとを備えるドラムブレーキを採用することもできる。
【0087】
・上記実施形態では、情報取得装置30は、取得した情報を処理する情報処理部を備えている。情報処理部に相当する機能の一部または全部を有する機能部を制御装置10が備えていてもよい。また、当該機能部は、制御装置10とは異なる制御装置であり制御装置10と情報の送受信が可能な制御装置に設けられていてもよい。
【0088】
・制御装置10、および情報取得装置30の情報処理部は、以下(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備える。プロセッサは、CPU並びに、RAMおよびROM等のメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。(b)各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備える。専用のハードウェア回路は、たとえば、特定用途向け集積回路すなわちASIC(Application Specific Integrated Circuit)、または、FPGA(Field Programmable Gate Array)等である。(c)各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行する専用のハードウェア回路と、を備える。
【0089】
上記実施形態および変更例から把握できる技術的思想について記載する。
1.車輪のうち前輪に付与する制動力と前記車輪のうち後輪に付与する制動力とを各別に調整できる制動装置を有する車両であり、前記前輪に制動力が付与されるときには車両前部を上方に変位させる力であるアンチダイブ力が発生して、前記後輪に制動力が付与されるときには車両後部を下方に変位させる力である後輪アンチリフト力が発生するものであり、前記前輪に付与される制動力と前記後輪に付与される制動力とが互いに同じ大きさであるときには、前記アンチダイブ力および前記後輪アンチリフト力のうちの一方の力である第1力が他方の力である第2力よりも大きくなるように構成される車両を制御する車両の制御方法であって、
前記制動装置を制御する処理を車両の制御装置に実行させるものであり、
前記制動装置を制御する処理は、前記車両が停止している場合に、制動力の付与によって前記第2力を前記車両に発生させる車輪を主制動車輪として、前記車両に付与する制動力のうち前記主制動車輪に付与する制動力が占める割合を大きくするように前記制動装置を作動させる処理を含む車両の制御方法。
【符号の説明】
【0090】
10…制御装置
11…取得部
12…制動制御部
13…駆動制御部
21…ブレーキセンサ
22…アクセルセンサ
23…車輪速センサ
71F…第1モータジェネレータ
71R…第2モータジェネレータ
73F…前輪車軸
73R…後輪車軸
80…制動装置
84…制動機構
90…車両
91…車体
91F…車体前部
91R…車体後部