(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20241024BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
H01L29/78 652E
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 652F
H01L29/78 652J
H01L29/78 652K
(21)【出願番号】P 2020200043
(22)【出願日】2020-12-02
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須藤 建瑠
(72)【発明者】
【氏名】末松 知夏
(72)【発明者】
【氏名】三木 浩史
(72)【発明者】
【氏名】小林 慶亮
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/042963(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/084141(WO,A1)
【文献】特開2006-066438(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143099(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素からなり、且つ、第1導電型である半導体基板上に形成されたMOSFETを備えた半導体装置であって、
前記MOSFETは、
前記半導体基板上に形成され、炭化珪素からなり、且つ、前記第1導電型であるエピタキシャル層と、
前記エピタキシャル層に形成され、且つ、前記第1導電型と反対の第2導電型であるボディ領域と、
少なくとも前記ボディ領域の一部を覆うように、前記エピタキシャル層上にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、
前記ボディ領域の一部であり、且つ、前記ゲート絶縁膜を介して前記ゲート電極に隣接するチャネル領域と、
を有し、
前記チャネル領域は、前記MOSFETがオン状態の際に、2次元の電界分布によって反転層が形成される特殊部を有
し、
前記MOSFETは、前記ボディ領域に形成され、前記エピタキシャル層よりも高い不純物濃度を有し、且つ、前記第1導電型であるソース領域を更に有し、
前記MOSFETのドレイン領域は、前記チャネル領域を挟むように前記ソース領域と反対側に位置する前記エピタキシャル層を含んで構成されている、半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記特殊部を流れる電流は、前記チャネル領域の全体を流れる電流のうち50%以上を占める、半導体装置。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記2次元の電界分布は、前記チャネル領域を流れる電流の方向に対して垂直な面に発生する、半導体装置。
【請求項4】
請求項
3に記載の半導体装置において、
前記特殊部は、低濃度領域と、前記低濃度領域よりも高い不純物濃度を有する高濃度領域とが交互に配置されることで、構成されている、半導体装置。
【請求項5】
請求項
3に記載の半導体装置において、
前記特殊部の一部は、正または負に帯電しているトラップ層を含む、半導体装置。
【請求項6】
請求項
3に記載の半導体装置において、
前記MOSFETは、前記ボディ領域に形成され、且つ、その底面が前記ボディ領域内に位置するトレンチを更に有し、
前記ゲート電極のうち一部は、前記ゲート絶縁膜を介して前記トレンチの内部に埋め込まれ、
前記特殊部は、前記ボディ領域の上面と、前記トレンチの側面とによって構成される第1角部の付近に設けられる、半導体装置。
【請求項7】
請求項
6に記載の半導体装置において、
前記MOSFETがオン状態の際に、前記第1角部の付近に形成される空乏層の幅は、前記第1角部から離れた前記トレンチの側面の付近に形成される空乏層の幅よりも10%以上大きい、半導体装置。
【請求項8】
請求項
6に記載の半導体装置において、
前記MOSFETがオン状態の際に、前記第1角部の付近におけるサブスレッショルドスロープは、前記第1角部から離れた前記トレンチの側面の付近におけるサブスレッショルドスロープよりも急峻となる、半導体装置。
【請求項9】
請求項
6に記載の半導体装置において、
前記トレンチの側面は、複数の第1側面と、それぞれ2つの前記第1側面を結ぶ複数の第1上面とを含み、
前記複数の第1側面および前記複数の第1上面によって、複数の第2角部が構成され、
前記特殊部は、前記複数の第2角部の付近にも設けられる、半導体装置。
【請求項10】
請求項
9に記載の半導体装置において、
前記複数の第1上面の長さおよび前記複数の第1側面の長さは、それぞれ、前記MOSFETがオン状態の際に、前記第2角部から離れた前記第1側面の付近に形成される空乏層の幅よりも長い、半導体装置。
【請求項11】
炭化珪素からなり、且つ、第1導電型である半導体基板上に形成されたMOSFETを備えた半導体装置であって、
前記MOSFETは、
前記半導体基板上に形成され、炭化珪素からなり、且つ、前記第1導電型であるエピタキシャル層と、
前記エピタキシャル層に形成され、且つ、前記第1導電型と反対の第2導電型であるボディ領域と、
前記ボディ領域に形成され、且つ、その底面が前記ボディ領域内に位置するトレンチと、
少なくとも前記ボディ領域の一部を覆うように、前記エピタキシャル層上に形成され、且つ、ゲート絶縁膜を介して前記トレンチの内部に埋め込まれたゲート電極と、
前記ボディ領域の一部であり、且つ、前記ゲート絶縁膜を介して前記ゲート電極に隣接するチャネル領域と、
を有し、
前記ボディ領域の上面と、前記トレンチの側面とによって構成される第1角部の付近を流れる電流は、前記チャネル領域全体を流れる電流のうち50%以上を占める、半導体装置。
【請求項12】
請求項
11に記載の半導体装置において、
前記MOSFETは、前記ボディ領域に形成され、前記エピタキシャル層よりも高い不純物濃度を有し、且つ、前記第1導電型であるソース領域を更に有し、
前記MOSFETのドレイン領域は、前記チャネル領域を挟むように前記ソース領域と反対側に位置する前記エピタキシャル層を含んで構成されている、半導体装置。
【請求項13】
請求項
11に記載の半導体装置において、
前記トレンチの側面は、複数の第1側面と、それぞれ2つの前記第1側面を結ぶ複数の第1上面とを含み、
前記複数の第1側面および前記複数の第1上面によって、複数の第2角部が構成され、
前記第1角部の付近を流れる電流と、前記複数の第2角部の付近を流れる電流との合計は、前記チャネル領域全体を流れる電流のうち50%以上を占める、半導体装置。
【請求項14】
請求項
13に記載の半導体装置において、
前記複数の第1上面の長さおよび前記複数の第1側面の長さは、それぞれ、前記MOSFETがオン状態の際に、前記第2角部から離れた前記第1側面の付近に形成される空乏層の幅よりも長い、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、特に、炭化珪素からなる半導体基板を用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体デバイスの一つである電界効果トランジスタ(MOSFET:Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)において、従来では、珪素(Si)基板を用いたパワーMOSFET(SiパワーMOSFET)が主流であった。しかし、炭化珪素(SiC)における絶縁破壊に対する電界強度は、Siにおける電界強度と比較して、約1桁大きい。
【0003】
このため、SiC基板を用いたパワーMOSFET(SiCパワーMOSFET)では、SiパワーMOSFETと比較して、耐圧を保持するためのドリフト層の厚さを約1/10に薄くし、上記ドリフト層の不純物濃度を100倍程度高くすることができる。その結果、SiCパワーMOSFETにおいて、理論上、素子抵抗を3桁以上低くすることができる。また、SiCはSiに対してバンドギャップが約3倍大きいので、SiCパワーMOSFETは、同耐圧におけるオン抵抗を低くでき、高温環境下における動作も可能である。それ故、SiC半導体素子には、Si半導体素子を超える性能が期待されている。
【0004】
例えば特許文献1には、実効的なチャネル幅を広くできるデバイスとして、トレンチ型のSiCパワーMOSFETが開示されている。このトレンチ型のSiCパワーMOSFETでは、SiC基板にトレンチが形成され、上記トレンチ内にゲート電極の一部が埋め込まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
トレンチ型のSiCパワーMOSFETでは、上記トレンチの角部において電界が集中することで、エネルギーバンドの曲がりが強くなり、低い閾値電圧の寄生チャネルが発生し易くなる。それ故、従来では、上記寄生チャネルを排除するような工夫が成されてきた。
【0007】
一方で、SiCパワーMOSFETでは、酸化シリコン膜のようなゲート絶縁膜と、SiC層との界面において電子の散乱が強いので、チャネル移動度が低くなるという問題がある。チャネル移動度を高くするために、チャネル領域の不純物濃度を低くすることが考えられるが、そうすると、閾値電圧が低くなり、SiCパワーMOSFETがノーマリオンになり易くなる等の問題が生じる。
【0008】
従って、閾値電圧の低下を抑制すると共に、チャネル移動度を向上させることで、半導体装置の性能を向上できる技術の開発が望まれる。その他の課題および新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0010】
一実施の形態である半導体装置は、炭化珪素からなり、且つ、第1導電型である半導体基板上に形成されたMOSFETを備える。前記MOSFETは、前記半導体基板上に形成され、炭化珪素からなり、且つ、前記第1導電型であるエピタキシャル層と、前記エピタキシャル層に形成され、且つ、前記第1導電型と反対の第2導電型であるボディ領域と、少なくとも前記ボディ領域の一部を覆うように、前記エピタキシャル層上にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、前記ボディ領域の一部であり、且つ、前記ゲート絶縁膜を介して前記ゲート電極に隣接するチャネル領域と、を有する。ここで、前記チャネル領域は、前記MOSFETがオン状態の際に、2次元の電界分布によって反転層が形成される特殊部を有する。
【0011】
また、一実施の形態である半導体装置は、炭化珪素からなり、且つ、第1導電型である半導体基板上に形成されたMOSFETを備える。前記MOSFETは、前記半導体基板上に形成され、炭化珪素からなり、且つ、前記第1導電型であるエピタキシャル層と、前記エピタキシャル層に形成され、且つ、前記第1導電型と反対の第2導電型であるボディ領域と、前記ボディ領域に形成され、且つ、その底面が前記ボディ領域内に位置するトレンチと、少なくとも前記ボディ領域の一部を覆うように、前記エピタキシャル層上に形成され、且つ、ゲート絶縁膜を介して前記トレンチの内部に埋め込まれたゲート電極と、前記ボディ領域の一部であり、且つ、前記ゲート絶縁膜を介して前記ゲート電極に隣接するチャネル領域と、を有する。ここで、前記ボディ領域の上面と、前記トレンチの側面とによって構成される第1角部の付近を流れる電流は、前記チャネル領域全体を流れる電流のうち50%以上を占める。
【発明の効果】
【0012】
一実施の形態によれば、半導体装置の性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】従来技術における半導体装置を示す模式図である。
【
図2】実施の形態1における半導体装置の特徴を説明するための模式図である。
【
図3】実施の形態1における半導体装置を示す断面図である。
【
図4】実施の形態1における半導体装置を示す断面図である。
【
図5】実施の形態1における半導体装置を示す断面図である。
【
図6】本願発明者らによる計測結果を示すグラフである。
【
図7】本願発明者らによる計測結果を示すグラフである。
【
図8】実施の形態2における半導体装置を示す断面図である。
【
図9】実施の形態2における半導体装置を示す断面図である。
【
図10】本願発明者らによる計測結果を示す表である。
【
図11】実施の形態3における半導体装置を示す斜視図である。
【
図12】実施の形態3における半導体装置を示す断面図である。
【
図13】実施の形態3における半導体装置を示す断面図である。
【
図14】本願発明者らによるシミュレーション結果を示す模式図である。
【
図15】本願発明者らによるシミュレーション結果を示す模式図である。
【
図16】本願発明者らによるシミュレーション結果を示す模式図である。
【
図17】本願発明者らによる計測結果を示すグラフである。
【
図18】実施の形態3における半導体装置を示す拡大断面図である。
【
図19】本願発明者らによる計測結果を示すグラフである。
【
図20】変形例における半導体装置を示す拡大断面図である。
【
図21】変形例における半導体装置を示す拡大断面図である。
【
図22】本願発明者らによる計測結果を示すグラフである。
【
図23】本願発明者らによる計測結果を示すグラフである。
【
図24】変形例における半導体装置を示す拡大断面図である。
【
図25】比較例における半導体装置を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0015】
また、本願で説明されるX方向、Y方向およびZ方向は、互いに交差し、互いに直交している。本願では、Z方向をある構造体の縦方向、上下方向、高さ方向または厚さ方向として説明する。また、本願で用いられる「平面視」という表現は、X方向およびY方向によって構成される面を、Z方向から見ることを意味する。
【0016】
(実施の形態1)
<半導体装置の主な特徴の概念>
以下に
図1および
図2を用いて、実施の形態1における半導体装置の主な特徴の概念を説明する。
図1および
図2は、半導体装置に備えられているSiCパワーMOSFETの一部を拡大した模式図であり、ゲート幅方向の断面を示している。また、
図1は、従来技術におけるSiCパワーMOSFETであり、
図2は、実施の形態1におけるSiCパワーMOSFETである。
【0017】
図1および
図2に示されるように、SiCパワーMOSFETは、炭化珪素(SiC)からなる半導体基板上に形成されている。上記半導体基板上には、SiCからなるエピタキシャル層が形成され、上記エピタキシャル層にはボディ領域3が形成されている。ボディ領域3上には、ゲート絶縁膜GIを介してゲート電極GEが形成されている。ボディ領域3の一部は、ゲート絶縁膜GIを介してゲート電極GEに隣接するチャネル領域CHを構成する。
【0018】
SiCパワーMOSFETがオン状態の際に、チャネル領域CHには、反転層IVLが形成される。なお、電流が流れる方向はY方向であり、図中の矢印は電界の向きを示している。
【0019】
ここで、
図1では、電界の向きはZ方向のみで構成されており、1次元の電界分布によって反転層IVLが形成されている。一方で、
図2では、電界の向きはZ方向およびX方向で構成されており、2次元の電界分布によって反転層IVLが形成されている。このような2次元の電界分布が発生している箇所は、少なくともチャネル領域CHの一部に存在し、チャネル領域CHの全体に存在していてもよい。実施の形態1では、チャネル領域CHのうち、2次元の電界分布が発生している箇所を特殊部SPとして説明する。
【0020】
SiCパワーMOSFETのチャネル領域CHが特殊部SPを有していることで、ゲート絶縁膜GIとボディ領域3との界面から離れた位置に、電流を流すことができる。そして、SiCパワーMOSFETがオン状態の際に、特殊部SPを流れる電流は、支配的となり、チャネル領域CHの全体を流れる電流のうち50%以上を占める。従って、閾値電圧の低下を抑制すると共に、チャネル移動度を向上させることができる。
【0021】
このような特殊部SPの具体的な構成と、その効果とについて、以下に詳細に説明する。
【0022】
<実施の形態1におけるSiCパワーMOSFETの構成>
図3には、実施の形態1における半導体装置に備えられているSiCパワーMOSFETの一例として、プレーナ型のMOSFETが示されている。なお、
図3は、ゲート長方向における断面図である。
【0023】
半導体基板1は、表面および裏面を有し、SiCからなり、且つ、n型である。半導体基板1の表面の上方には、SiCからなり、且つ、n-型であるエピタキシャル層2が形成されている。また、半導体基板1の裏面には、ドレイン電極として裏面電極8が形成されている。
【0024】
エピタキシャル層2には、p-型のボディ領域3が形成されている。p-型のボディ領域3には、p型の拡散領域4およびn型のソース領域5が形成されている。p型の拡散領域4は、p-型のボディ領域3とソース電極7との間の接触抵抗を低減させる目的で設けられている。
【0025】
ゲート電極GEは、少なくともp-型のボディ領域3の一部を覆うように、エピタキシャル層2上にゲート絶縁膜GIを介して形成されている。なお、ゲート絶縁膜GIは、例えば酸化シリコン膜であり、ゲート電極GEは、例えばn型の不純物が導入された多結晶シリコン膜である。
【0026】
チャネル領域CHは、p-型のボディ領域3の一部であり、且つ、ゲート絶縁膜GIを介してゲート電極GEに隣接する領域である。また、チャネル領域CHを挟むようにn型のソース領域5と反対側に位置するエピタキシャル層2は、SiCパワーMOSFETドレイン領域の一部として機能する。裏面電極8、n型の半導体基板1、n-型のエピタキシャル層2、チャネル領域CH、n型のソース領域5およびソース電極7を通る経路が、電流経路となる。
【0027】
なお、各構成に含まれる不純物濃度などのパラメータは、以下の通りである。
【0028】
n型の半導体基板1は、例えば1×1018~1×1021cm-3の不純物濃度を有する。
【0029】
n-型のエピタキシャル層2は、例えば1~100μmの厚さを有し、n型の半導体基板1よりも低い不純物濃度を有し、例えば1×1015~1×1016cm-3の不純物濃度を有する。
【0030】
p-型のボディ領域3は、p型の拡散領域4およびn型のソース領域5よりも深い位置まで形成され、例えば1×1016~1×1018cm-3の不純物濃度を有する。
【0031】
p型の拡散領域4は、p-型のボディ領域3よりも高い不純物濃度を有し、例えば1×1018~1×1020cm-3の不純物濃度を有する。
【0032】
n型のソース領域5は、n-型のエピタキシャル層2よりも高い不純物濃度を有し、例えば1×1018~1×1020cm-3の不純物濃度を有する。
【0033】
ゲート絶縁膜GIおよびゲート電極GEを覆うように、エピタキシャル層2上には、層間絶縁膜6が形成されている。層間絶縁膜6は、例えば酸化シリコン膜である。また、層間絶縁膜6上には、ソース電極7が形成されている。ソース電極7は、例えばアルミニウムを主体とする金属膜を含んで構成される。
【0034】
また、ソース電極7は、層間絶縁膜6に形成された複数の孔の内部に埋め込まれ、且つ、p型の拡散領域4およびn型のソース領域5に電気的に接続されている。このような構成によって、p-型のボディ領域3、p型の拡散領域4およびn型のソース領域5に、ソース電極7からソース電位を供給できる。なお、ソース電位は、例えば接地電位である。また、ゲート電極GEとソース電極7との間には層間絶縁膜6が存在しているので、これらは互いに絶縁されている。
【0035】
なお、ここでは図示を省略するが、p型の拡散領域4およびn型のソース領域5と、ソース電極7との間の接触抵抗を低減させる目的で、上記孔の底部に、シリサイド膜が設けられていてもよい。
【0036】
図4および
図5は、チャネル領域CHの特殊部SPを拡大して示し、ゲート幅方向における断面図である。
図4は、特殊部SPの不純物濃度を示している。
図5は、
図4の不純物濃度で、SiCパワーMOSFETがオン状態となった際に、特殊部SPに発生する反転電荷密度を示している。なお、図中の矢印は電界の向きを示している。
【0037】
特殊部SPは、低濃度領域と、低濃度領域よりも高い不純物濃度を有する高濃度領域とが交互に配置されることで、構成されている。言い換えれば、特殊部SPは、複数の低濃度領域および複数の高濃度領域を含み、ゲート幅方向(X方向)において低濃度領域と高濃度領域とが繰り返して配置されることで、構成されている。
【0038】
なお、このような交互配置は、p-型のボディ領域3の形成工程において、例えばレジストパターンを用いて選択的にイオン注入を行うことで形成できる。
【0039】
実施の形態1の交互配置により、SiCパワーMOSFETがオン状態となった際に、電界の向きはZ方向およびX方向で構成され、2次元の電界分布が発生する。すなわち、2次元の電界分布は、チャネル領域CHを流れる電流の方向(Y方向)に対して垂直な面に発生する。
【0040】
2次元の電界分布によって、低濃度領域は、チャネル領域CHの全体が低濃度であった場合(低濃度均一)と比較して、電界が分散して高い閾値電圧となる。一方で、高濃度領域は、チャネル領域CHの全体が高濃度であった場合(高濃度均一)と比較して、電界が集中して低い閾値電圧となる。
【0041】
図6は、ゲート電圧および反転電荷量の関係を示しており、「低濃度均一」、「高濃度均一」、チャネル領域CHの全体が中濃度であった場合(中濃度均一)、および、実施の形態1の交互配置のグラフを示している。なお、「低濃度均一」の不純物濃度は1×10
17cm
-3程度であり、「中濃度均一」の不純物濃度は4×10
17cm
-3程度であり、「高濃度均一の不純物濃度」は1×10
18cm
-3程度である。
【0042】
図6から、実施の形態1の交互配置は、チャネル領域CHの構成が「中濃度均一」と異なっていても、「中濃度均一」と同等の反転電荷量を得られることが判る。従って、実施の形態1の交互配置では、閾値電圧を適切な値として一定に維持することができる。
【0043】
図7は、p
-型のボディ領域3(チャネル領域CH)の深さ位置と、電荷密度との関係を示しており、「中濃度均一」および実施の形態1の交互配置のグラフを示している。
【0044】
図7から、同じ深さ位置であっても、実施の形態1の交互配置の方が、「中濃度均一」よりも高い電荷密度を得られていることが判る。すなわち、実施の形態1の交互配置では、ゲート絶縁膜GIとp
-型のボディ領域3との界面から離れた位置に、より多くの電荷が発生している。
【0045】
上述のように、SiCパワーMOSFETでは、上記界面での散乱が強いので、チャネル移動度が低くなるという問題があった。また、チャネル移動度を高くするために、チャネル領域CHの不純物濃度を低くすると、閾値電圧が低くなるという問題があった。
【0046】
これに対して、実施の形態1のような2次元の電界分布を適用することで、閾値電圧の低下を抑制できる。そして、上記界面から離れた位置に多くの電荷を発生させることができるので、上記界面での散乱の影響を受け難くなる。従って、深い位置における抵抗を低減でき、チャネル移動度を向上させることができる。
【0047】
また、実施の形態1では、SiCパワーMOSFETがオン状態の際に、特殊部SPを流れる電流が支配的となる。具体的には、特殊部SPを流れる電流は、チャネル領域CHの全体を流れる電流のうち50%以上を占める。
【0048】
このように、実施の形態1によれば、閾値電圧の低下を抑制すると共に、チャネル移動度を向上させることができるので、SiCパワーMOSFETを備えた半導体装置の性能を向上させることができる。
【0049】
(実施の形態2)
以下に
図8および
図9を用いて、実施の形態2における半導体装置について説明する。なお、以下の説明では、実施の形態1との相違点について主に説明し、実施の形態1と重複する点についての説明を省略する。
【0050】
実施の形態2では、2次元の電界分布を発生させるために、実施の形態1の交互配置とは異なる方法を適用する。
【0051】
図8および
図9は、
図4および
図5と同様に、ゲート幅方向における断面図である。実施の形態2では、特殊部SPの一部は、
図8に示されるような負に帯電しているトラップ層9aを含むか、
図9に示されるような正に帯電しているトラップ層9bを含んでいる。
【0052】
通常、ゲート絶縁膜GIとp-型のボディ領域3との界面には、正または負に帯電している欠陥が発生しているが、例えば窒素と酸素とを含む雰囲気で熱処理(NO処理)を行うことで、この欠陥を改善することができる。実施の形態2では、チャネル領域CHの一部において、上記欠陥をあえて選択的に残しておくことで、負のトラップ層9aまたは正のトラップ層9bを含む特殊部SPが形成できる。
【0053】
図8または
図9に示されるように、負のトラップ層9aまたは正のトラップ層9bが存在していることで、電界の分散および電界の集中を発生させることができる。すなわち、実施の形態2でも実施の形態1と同様に、2次元の電界分布を発生させることができる。
【0054】
例えば、チャネル領域CHの不純物濃度を実施の形態1の「低濃度均一」のように1×1017cm-3程度とした場合、負のトラップ層9aが存在する領域は、チャネル移動度が低く、且つ、高抵抗な領域となる。すなわち、負のトラップ層9aが存在する領域が、実施の形態1の高濃度領域のように作用する。従って、チャネル領域CHの一部に、2次元の電界分布によって反転層IVLが形成される特殊部SPを設けることができる。
【0055】
図10は、実施の形態1の
図6および
図7の計測結果と、実施の形態2の計測結果とを纏めた表である。
図10に示されるように、実施の形態2でも、閾値電圧の低下を抑制すると共に、チャネル移動度を向上させることができる。
【0056】
(実施の形態3)
以下に
図11~
図19を用いて、実施の形態3における半導体装置について説明する。なお、以下の説明では、実施の形態1との相違点について主に説明し、実施の形態1と重複する点についての説明を省略する。
【0057】
実施の形態1では、SiCパワーMOSFETとしてプレーナ型のMOSFETを例示したが、実施の形態3では、SiCパワーMOSFETとして
図11~
図13に示されるようなトレンチゲート型のMOSFETを例示する。
【0058】
図11~
図13に示されるように、p
-型のボディ領域3には、それらの底面が複数のp
-型のボディ領域内に位置するように、複数のトレンチTRが形成されている。ゲート電極GEのうち一部は、ゲート絶縁膜GIを介して複数のトレンチTRの内部に埋め込まれている。なお、トレンチTRのn
-型のエピタキシャル層2の上面からの深さは、p
-型のボディ領域3の深さよりも浅く、例えば0.1~1.5μmである。
【0059】
また、実施の形態3では、トレンチTRを形成する過程で、トレンチTRの外部のp-型のボディ領域3とゲート電極GEとの間には、絶縁膜12が形成されている。絶縁膜12は、例えば酸化シリコン膜からなる。また、絶縁膜12の厚さは、ゲート絶縁膜GIの厚さよりも厚い。それ故、チャネル領域CHに掛かる電界は、絶縁膜12上のゲート電極GEからの影響をほぼ受けず、トレンチTRの側面に位置するゲート電極GEからの影響を主体とする。
【0060】
Y方向において、トレンチTRを挟んでn型のソース領域5と反対側のp-型のボディ領域3には、n型の電流拡散領域10が形成されている。n型の電流拡散領域10は、n-型のエピタキシャル層2に跨って形成され、n-型のエピタキシャル層2と共にドレイン領域の一部として機能する。なお、n型の電流拡散領域10の不純物濃度は、n型のソース領域5の不純物濃度と同等である。
【0061】
また、n型の電流拡散領域10の表面には、p型の電界緩和領域11が形成されている。p型の電界緩和領域11の不純物濃度は、p型の拡散領域4の不純物濃度と同等である。
【0062】
図12に示されるように、Y方向において、トレンチTRの側面S1は、n型のソース領域5に接し、側面S1と対向する側面S2は、n型の電流拡散領域10に接している。また、
図13に示されるように、X方向において、トレンチTRの側面S3、および、側面S3と対向する側面S4は、p
-型のボディ領域3に接している。X方向において、各トレンチTRの間に位置するp
-型のボディ領域3が、チャネル領域CHとなる。
【0063】
実施の形態3では、トレンチTRの側面S3および側面S4と、p-型のボディ領域3の上面とによって構成される角部CP1の付近に、2次元の電界分布が発生する特殊部SPを設けることができる。
【0064】
図14~
図16は、本願発明者らによるシミュレーション結果を示す模式図である。
図17は、ゲート電圧とドレイン電流との関係を示すグラフである。以下に
図14~
図17を用いて、トレンチTRの角部CP1の付近を特殊部SPとして利用できることについて説明する。なお、
図14~
図17に示される「角部」は、
図13の角部CP1に相当し、「平坦部」は、
図13の側面S3および側面S4に相当する。
【0065】
図14~
図16に示されるように、絶縁膜とp
-型のボディ領域3との界面部分の電位がある値を超えると、反転電荷が湧き出すようになる。ここで、半導体(p
-型のボディ領域3)の内部の等電位線が深い位置に出現すると、反転電荷が界面から遠ざけられる。等電位線上では電荷密度が等しくなるが、電界が集中する角部では、より深い位置に等電位線が出現する。上述のようにSiCパワーMOSFETでは界面散乱が強いが、角部では、深い位置に湧いた電荷が埋め込みチャネルのように作用し、抵抗を大幅に低減することができる。このため、チャネル移動度を向上させることができる。
【0066】
なお、
図16に示されるように、SiCパワーMOSFETがオン状態の際に、角部(角部CP1)の付近に形成される空乏層DPLの幅は、角部から離れた平坦部(側面S3、側面S4)の付近に形成される空乏層DPLの幅よりも10%以上大きくなっている。
【0067】
また、
図17に示されるように、SiCパワーMOSFETがオン状態の際に、角部(角部CP1)の付近におけるサブスレッショルドスロープ(d(log(Id))/d(Vgs))は、角部から離れた平坦部(側面S3、側面S4)の付近におけるサブスレッショルドスロープと異なっている。角部の付近では、角部から離れた平坦部の付近と比較して、約3倍の速度で電位が変化している。従って、同じVgsの変化(d(Vgs))でも、角部の付近の方が電流の変化量が大きくなり、サブスレッショルドスロープが急峻となる。
【0068】
図18は、トレンチTRの付近を拡大した断面図であり、
図19は、ゲート電圧と反転電荷量のとの関係を示すグラフである。また、
図19では、平坦部(側面S3、側面S4)を第1~第3平坦部に分けた状態で計測が成されている。
【0069】
図19に示されるように、SiCパワーMOSFETは、角部において、第1~第3平坦部および底部よりも先に立ち上がることが判る。すなわち、角部では、閾値電圧が低い。ここで、従来技術のように、第1~第3平坦部での電流が主体であると、角部での電流は、早い段階から微小の漏れを生じる寄生チャネルと見做される。
【0070】
しかし、SiCパワーMOSFETがオン状態の際に、角部での電流が主体となるように設計すれば、角部では、サブスレッショルドスロープが急峻であり、且つ、電流量が多いので、SiCパワーMOSFETを優れたスイッチ素子として利用できる。例えば、角部CP1の付近(特殊部SP)を流れる電流がチャネル領域CHの全体を流れる電流のうち50%以上を占めるように、設計を行う。具体的な設計としては、トレンチTRの深さを浅くする、または、平坦部の不純物濃度を高くするなどの方法が挙げられる。
【0071】
このように、実施の形態3では、サブスレッショルドスロープが急峻な角部CP1の付近の特殊部SPをメインチャネルとして利用することで、実施の形態1および実施の形態2と同様に、閾値電圧の低下を抑制すると共に、チャネル移動度を向上させることができる。
【0072】
(変形例)
図20および
図21は、実施の形態3の変形例を示し、トレンチTRの付近を拡大した断面図である。
図20は、トレンチTRの構造のみを示し、
図21は、トレンチTRの内部にゲート絶縁膜GIおよびゲート電極GEが埋め込まれた状態を示している。
【0073】
変形例では、トレンチTRの内部に、複数の角部CP2が形成されている。トレンチTRの側面S3は、複数の上面T31および複数の側面S31を含む。複数の上面T31は、2つの側面S31を結んでいる。トレンチTRの側面S4は、複数の上面S41および複数の側面S41を含む。複数の上面S41は、2つの側面S41を結んでいる。
【0074】
このような複数の上面T31および複数の側面S31と、複数の上面T41および複数の側面S41とによって、複数の角部CP2が構成されている。そして、複数の角部CP2の付近にも、2次元の電界分布を発生させることができる。
【0075】
すなわち、変形例では、特殊部SPは、角部CP1の付近だけでなく、複数の角部CP2の付近にも設けられている。特殊部SPの数を増やすことができるので、複数の特殊部SPをメインチャネルとすることが容易となり、チャネル移動度が更に向上する。
【0076】
なお、X方向において複数のトレンチTRが隣接しているが、これらの複数のトレンチTRに、それぞれ複数の角部CP2が設けられている。また、トレンチTRに形成される角部CP2の数は、側面S3および側面S4にそれぞれ2つ設けられているが、角部CP2の数は、3つ以上であってもよい。
【0077】
図22および
図23は、ゲート電圧とドレイン電極との関係を示すグラフである。
図22は、実施の形態3のグラフであり、
図23は、変形例のグラフである。
【0078】
図22および
図23に示されるように、実施の形態3および変形例の両方において、平坦部の電流量よりも角部の電流量の方が多く、角部の電流量が主体となっていることが判る。すなわち、角部がメインチャネルとして機能していることが判る。
【0079】
そして、実施の形態3では、角部CP1のみを利用していることに対して、変形例では、角部CP1だけでなく複数の角部CP2を利用しているので、変形例の方が電流量をより多く得られることが判る。変形例では、角部CP1の付近を流れる電流と、複数の角部CP2の付近を流れる電流との合計は、チャネル領域CH全体を流れる電流のうち50%以上を占めている。
【0080】
図24および
図25は、角部CP2の付近を拡大した断面図である。
図24は、変形例の断面図であり、
図25は、比較例の断面図である。
【0081】
上述のように、角部CP2の数が多ければ、より良い特性が得られるが、等電位線は滑らかなので、角部CP2の段差が小さいと、電界集中が十分に発生しない。言い換えれば、角部CP2を構成する上面T31および側面S31の各々の長さが十分に長ければ、十分な電界集中を得られ、チャネル移動度を向上させることができる。
【0082】
例えば、複数の上面T31の長さおよび複数の側面S31の長さが、それぞれ、SiCパワーMOSFETがオン状態の際に、角部CP2から離れた側面S31の付近に形成される空乏層DPLの幅よりも長くなるように設計する。なお、ここで説明している上面T31の長さは、X方向に沿う長さであり、側面S31の長さは、Y方向に沿う長さである。
【0083】
図25の比較例のように、上面T31の長さL1が側面S31の付近に形成される空乏層DPLの幅よりも短いと、電界集中が十分に発生しない。
図24の変形例のように、上面T31の長さL1が側面S31の付近に形成される空乏層DPLの幅よりも長ければ、電界集中を十分に発生させることができる。
【0084】
なお、
図24および
図25では、上面T31の長さL1について図示し、側面S31の長さについて図示していないが、側面S31の長さも、上面T31の長さL1と同様に、角部CP2から離れた側面S31の付近に形成される空乏層DPLの幅よりも長い。
【0085】
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0086】
例えば、上記実施の形態では、半導体基板1はn型であり、トランジスタはn型のMOSFETであったが、p型の半導体基板を用いることもできる。その場合、半導体基板上に形成される各不純物領域の導電型を反対にすることで、p型のMOSFETを構成できる。
【符号の説明】
【0087】
1 n型の半導体基板
2 n-型のエピタキシャル層
3 p-型のボディ領域
4 p型の拡散領域
5 n型のソース領域
6 層間絶縁膜
7 ソース電極
8 裏面電極
9a 負のトラップ層
9b 正のトラップ層
10 n型の電流拡散領域
11 p型の電界緩和領域
12 絶縁膜
CH チャネル領域
CP1、CP2 角部
DPL 空乏層
GE ゲート電極
GI ゲート絶縁膜
IVL 反転層
S1~S4、S31、S41 側面
SP 特殊部
T31、T41 上面
TR トレンチ