(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】車両の制御方法及び車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/06 20060101AFI20241024BHJP
B60K 6/24 20071001ALI20241024BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20241024BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20241024BHJP
B60W 20/13 20160101ALI20241024BHJP
B60W 20/16 20160101ALI20241024BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20241024BHJP
F02D 13/02 20060101ALI20241024BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20241024BHJP
B60L 50/61 20190101ALI20241024BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20241024BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60K6/24 ZHV
B60K6/46
B60W10/08 900
B60W20/13
B60W20/16
F02D29/06 D
F02D13/02 K
F01N3/20 K
B60L50/61
B60L58/12
(21)【出願番号】P 2020201170
(22)【出願日】2020-12-03
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 星二
(72)【発明者】
【氏名】横山 仁
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/095536(WO,A1)
【文献】特開2017-165179(JP,A)
【文献】特開2020-147222(JP,A)
【文献】特開2016-117451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/06
B60K 6/24
B60K 6/46
B60W 10/08
B60W 20/13
B60W 20/16
F02D 29/06
F02D 13/02
F01N 3/20
B60L 50/61
B60L 58/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気弁と排気弁を有するエンジンと、
前記エンジンからの動力によって発電する第1モータと、
前記第1モータによって発電された電力が充電されるバッテリと、
前記バッテリから供給される電力によって駆動輪を駆動するとともに、前記駆動輪からの動力によって発電する第2モータと、
排気通路に設けられ、大気に放出される排気ガスを浄化するととともに、前記バッテリの電力で加熱される加熱装置を有する電熱触媒と、を備えた車両を制御する車両の制御方法であって、
前記エンジンが停止している状態で、前記バッテリの充電率が第1所定値まで上昇した場合に、前記第1モータによって前記エンジンを駆動するとともに、前記吸気弁と前記排気弁のバルブタイミングを調整して、
前記排気通路内の排気ガスを前記エンジンのシリンダ内に取り入れる電力消費制御を実行
し、
前記電力消費制御実行中は、前記加熱装置を通電状態にし、
前記加熱装置が第1所定温度まで上昇した場合、あるいは、前記シリンダ内の温度が第2所定温度まで上昇した場合に、前記電力消費制御を終了することを特徴とする車両の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載された車両の制御方法であって、
前記バッテリの充電率が、第2所定値まで低下した場合に、前記電力消費制御を終了することを特徴とする車両の制御方法。
【請求項3】
請求項
1または2に記載された車両の制御方法であって、
前記シリンダに吸入される排気ガス量は、前記排気通路における前記エンジンの出口ポートから前記電熱触媒の入口までの容量よりも大きいことを特徴とする車両の制御方法。
【請求項4】
請求項
1または2に記載された車両の制御方法であって、
前記シリンダに吸入される排気ガス量は、前記排気通路における前記エンジンの出口ポートから前記電熱触媒の入口までの容量以下であることを特徴とする車両の制御方法。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか1つに記載された車両の制御方法であって、
前記電力消費制御実行中は、前記吸気弁を閉弁した状態に維持することを特徴とする車両の制御方法。
【請求項6】
吸気弁と排気弁を有するエンジンと、
前記エンジンからの動力によって発電する第1モータと、
前記第1モータによって発電された電力が充電されるバッテリと、
前記バッテリから供給される電力によって駆動輪を駆動するとともに、前記駆動輪からの動力によって発電する第2モータと、
排気通路に設けられ、大気に放出される排気ガスを浄化するととともに、前記バッテリの電力で加熱される加熱装置を有する電熱触媒と、を備えた車両を制御する車両の制御装置であって、
前記エンジンが停止している状態で、前記バッテリの充電率が第1所定値まで上昇した場合に、前記第1モータによって前記エンジンを駆動するとともに、前記吸気弁と前記排気弁のバルブタイミングを調整して、
前記排気通路内の排気ガスを前記エンジンのシリンダ内に取り入れる電力消費制御を実行
し、
前記電力消費制御実行中は、前記加熱装置を通電状態にし、
前記加熱装置が第1所定温度まで上昇した場合、あるいは、前記シリンダ内の温度が第2所定温度まで上昇した場合に、前記電力消費制御を終了することを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を制御する車両の制御方法及び車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関によって駆動される発電機と、発電機の出力を充電するバッテリと、バッテリの電力によって駆動する走行駆動用の電動機と、を有するシリーズ式ハイブリッド自動車が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたハイブリッド自動車では、電動機の回生動作時に生じる電力をバッテリに充電できない場合に、発電機用インバータによって発電機を通電して電動機として作動させて、内燃機関を強制的に駆動する(から回しする)ことで、電力を消費させている。
【0005】
しかしながら、エンジンをから回しすると、シリンダ内で燃焼が行われず、外気がそのままシリンダ内を通過することになるため、シリンダ内の温度が低下するおそれがある。このようにして、シリンダ内の温度が低下すると、エンジンの再始動時にエミッションが増加するおそれがある。
【0006】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、エンジンが停止している状態で、発電モータによってエンジンを駆動した場合でも、シリンダ内の温度低下を抑制できる車両の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、車両は、吸気弁と排気弁を有するエンジンと、前記エンジンからの動力によって発電する第1モータと、前記第1モータによって発電された電力が充電されるバッテリと、前記バッテリから供給される電力によって駆動輪を駆動するとともに、前記駆動輪からの動力によって発電する第2モータと、排気通路に設けられ、大気に放出される排気ガスを浄化するととともに、バッテリの電力で加熱される加熱装置を有する電熱触媒と、を備える。また、この車両を制御する車両の制御方法では、前記エンジンが停止している状態で、前記バッテリの充電率が第1所定値まで上昇した場合に、前記第1モータによって前記エンジンを駆動するとともに、前記吸気弁と前記排気弁のバルブタイミングを調整して、排気通路内の排気ガスを前記エンジンのシリンダ内に取り入れる電力消費制御を実行し、電力消費制御実行中は、加熱装置を通電状態にし、加熱装置が第1所定温度まで上昇した場合、あるいは、シリンダ内の温度が第2所定温度まで上昇した場合に、電力消費制御を終了する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エンジンのシリンダ内に排気通路内の排気ガスを取り入れることができるので、シリンダ内を排気ガスより低温の外気が通過することを防止できる。これにより、第1モータによってエンジンを駆動した場合でも、バッテリの過充電を防止しつつ、シリンダ内の温度低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る車両の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る電力消費制御を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る電力消費制御によるタイムチャートの一例である。
【
図4】
図4は、変形例に係る電力消費制御によるタイムチャートの一例である。
【
図5】
図5は、本発明の本実施形態に係る電力消費制御時のバルブタイミング図の一例である。
【
図6】
図6は、本発明の本実施形態に係る通常制御時のバルブタイミング図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面等を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1を参照して、本発明の実施形態に係る車両100の制御方法について説明する。
【0012】
車両100は、エンジン1と、第1モータとしての発電モータ2と、バッテリ3と、第2モータとしての走行モータ4と、エンジン1に吸入される外気が通る吸気通路11と、エンジン1からの排気ガスが通る排気通路12と、車両100を制御する制御装置としてのコントローラ20と、を備える。本実施形態の車両100は、エンジン1を発電のみに使用し、走行モータ4を車輪5の駆動と電力の回生に使用するシリーズ方式のハイブリッド車両である。
【0013】
エンジン1は、ガソリンを燃料とする内燃エンジンであり、複数のシリンダ10(
図1では3つ)を有する。
【0014】
吸気通路11には、スロットルバルブ14が配置される。スロットルバルブ14は、コントローラ20により駆動制御される。スロットルバルブ14は、エンジン1に供給される吸入空気の流量を調整する。
【0015】
エンジン1の各シリンダ10には、それぞれ、燃料噴射装置(図示せず)、吸気弁15、排気弁16、吸気弁15及び排気弁16のバルブタイミングを調整する動弁機構(図示せず)、点火プラグ(図示せず)等が設けられる。燃料噴射装置を所定のタイミングで制御することにより、燃料がエンジン1のシリンダ10内に噴射され、また、ピストン(図示せず)の動作に伴ってシリンダ10内にて燃料と空気との混合気が形成される。この混合気は点火プラグにおいて発生した火花に基づいて燃焼される。
【0016】
エンジン1は、減速機13を介して、発電モータ2に機械的に連結される。エンジン1の動力は、減速機13を介して発電モータ2に伝達され、発電モータ2はエンジン1の動力によって回転して発電する。発電モータ2は、バッテリ3に対して電気的に接続され、発電モータ2の発電電力はバッテリ3に充電される。
【0017】
排気通路12には、エンジン1からの排気ガスを浄化する電熱触媒としての触媒30が設けられる。本実施形態では、触媒30は、例えば、三元触媒が用いられる。触媒30は、排気中のNOx、CO、HC等を酸化、還元することにより無害な窒素、水、二酸化炭素等へと浄化する。また、触媒30は、排気の熱により暖機され、特に所定の活性温度以上の温度になると高効率で排ガスを浄化可能となる。
【0018】
触媒30は、入口付近に加熱装置31を有する。加熱装置31は、バッテリ3の電力が供給されることにより発熱し、触媒30の入口付近を流れる排気ガスを加熱する。このように、触媒30の入口付近を流れる排気ガスを加熱することにより、三元触媒をより早く昇温することができるので、触媒性能をより早く発揮させることができる。
【0019】
バッテリ3は、例えば、リチウムイオン電池により構成される。バッテリ3は、走行モータ4によって回生された電力及び発電モータ2によって発電された電力が充電されるとともに、充電された電力を走行モータ4に供給する。
【0020】
バッテリ3のSOC(充電率)は、SOCセンサ3aによって検出され、コントローラ20に送信される。コントローラ20は、SOC(充電率)に基づいてバッテリ3の充電制御を行う。
【0021】
走行モータ4は、バッテリ3からインバータ6を介して供給される電力により駆動する。走行モータ4による回転動力がギア機構7を介して車輪5に伝達されることで、車両100は走行する。
【0022】
車両100では、例えば、高負荷時のように大きな駆動力が要求され、バッテリ3からの電力のみでは駆動力要求を満たせない場合には、バッテリ3からの電力に加え、エンジン1に接続される発電モータ2からの電力(エンジン1の発電電力)も走行モータ4に供給される。これに対し、中、低負荷時のように大きな駆動力が要求されない場合には、走行モータ4にはバッテリ3からのみ電力が供給され、エンジン1の発電電力はすべてバッテリ3に充電される。
【0023】
コントローラ20は、マイクロコンピュータ、マイクロプロセッサ、CPUを含む汎用の電子回路と周辺機器から構成される。コントローラ20は、車両100の走行状態(車速、SOCなど)に基づいて、あらかじめ記憶されたプログラムを実行することにより、車両100の各種制御を実行する。
【0024】
次に、バッテリ3の充電制御について説明する。
【0025】
バッテリ3の充電は、コントローラ20により制御される。バッテリ3のSOCが充電制御の下限値である閾値RLまで低下すると、コントローラ20は、エンジン1を駆動する。これにより、発電モータ2が駆動し、発電モータ2によって発電された電力がバッテリ3に供給され、バッテリ3は充電される。
【0026】
バッテリ3のSOCが充電制御の上限値である閾値RHまで上昇すると、コントローラ20は、エンジン1を停止する。これにより、発電モータ2が停止し、発電モータ2による発電が停止する。
【0027】
また、車両100が減速しているとき、あるいは、コースト走行しているときには、車輪5の駆動力により走行モータ4が回転することで電力が回生される。走行モータ4によって回生された電力はバッテリ3に充電される。
【0028】
バッテリ3のSOCが閾値RHを超えた状態で、例えば、車両100が長い下り坂をコースト走行している場合には、上述の走行モータ4による回生が継続される。この結果、SOCがバッテリ3の充電可能な上限値である閾値R1まで上昇し、走行モータ4によって回生された電力を充電することができなくなる。そこで、SOCが閾値R1まで上昇すると、バッテリ3の電力によって発電モータ2を駆動させる。つまり、発電モータ2によってバッテリ3の電力を消費させる。また、発電モータ2の駆動に伴ってエンジン1が駆動するため、エンジン1が発電モータ2の負荷として作用する。これにより、バッテリ3の電力の消費量を大きくすることができる。さらに、発電モータ2の回転速度を制御することで、バッテリ3の電力の消費量を制御することができる。コントローラ20は、走行モータ4による回生によって発電された発電量と、発電モータ2の駆動によって消費される電力量とに基づいて、バッテリ3のSOCが閾値R1を超えないように、発電モータ2の回転速度などを制御する。
【0029】
また、このとき、エンジン1がから回し(空転)した状態になるように、つまり、燃焼制御を行わないように、燃料噴射弁及び点火プラグをOFF状態に維持する。
【0030】
ところで、このようにエンジン1をから回しさせると、シリンダ10内で燃焼が行われず、外気がそのままシリンダ10内を通過することになる。エンジン1の停止直後は、シリンダ10内の温度(筒内温度Tc)は、外気に比べ高温のため、シリンダ10内を通過する外気との間で熱交換が行われてしまい、筒内温度Tcが低下するおそれがある。このようにして、筒内温度Tcが低下すると、エンジン1の再始動時にエミッションが増加するおそれがある。
【0031】
そこで、本実施形態の車両100では、エンジン1が停止した状態で、バッテリ3のSOCが上限まで上昇した場合に、シリンダ10内の温度低下を抑制しつつ、バッテリ3の電力を消費させるための制御(以下では、単に「電力消費制御」という。)を実行する。以下に、
図2及び
図3を参照しながら、本実施形態の電力消費制御について説明する。
【0032】
図2は、本実施形態の電力消費制御に係る制御の流れを示すフローチャートである。
図2に示すフローチャートに示す制御は、コントローラ20にあらかじめ記憶されたプログラムに基づいて実行される。
【0033】
ステップS1では、エンジン1が停止しているか否かを判定する。エンジン1が停止してればステップS2に進み、エンジン1が駆動していれば、発電モータ2による充電が行われているので、ENDに進む。
【0034】
ステップS2では、バッテリ3のSOCが、第1所定値(閾値R1)以上であるか否かを判定する。具体的には、コントローラ20は、SOCセンサ3aによって検出されたSOCが、第1所定値(閾値R1)以上であるか否かを判定する。SOCが第1所定値(閾値R1)以上であれば、ステップS3に進む。これに対し、SOCが第1所定値(閾値R1)未満であれば、バッテリ3に充電することが可能であるので、そのままENDに進む。
【0035】
ステップS3では、電力消費制御を開始する。具体的には、コントローラ20は、バッテリ3の電力によって発電モータ2を駆動し、エンジン1を駆動(から回し)する。また、このとき、コントローラ20は、エンジン1の駆動に伴ってシリンダ10内に排気通路12内の排気ガスが吸入されるように、例えば、
図5に示すようなバルブタイミングで、吸気弁15及び排気弁16を制御する。具体的には、エンジン1の通常運転時のバルブタイミング(
図6参照)に比べ、吸気弁15の開弁時期を大きく遅角させ、吸気弁15を吸気下死点の手前で開弁させ(IVO)、圧縮上死点近傍で閉弁させる(IVC)。なお、排気弁16は、通常制御時と同様に、膨張下死点の手前で開弁し(EVO)、排気上死点近傍で閉弁する(EVC)。動弁機構によって、このように吸気弁15及び排気弁16のバルブタイミングを制御することで、外気がシリンダ10内を通過することを抑制するとともに、シリンダ10内に排気ガスを吸入することができる。このとき、吸気弁15のリフト量を極力小さくなるように制御することが好ましい。吸気弁15を開弁したときにシリンダ10内が負圧になっているため、外気がシリンダ10内に流入する。そのため、吸気弁15のリフト量を小さくすることで、吸気弁15が開弁したときにシリンダ10内に吸入される外気量を小さくできる。さらに好ましくは、電力消費制御実行中は、吸気弁15を閉弁した状態に維持することが好ましい。これにより、シリンダ10内に外気が吸入されることを確実に防止できる。なお、これらは、動弁機構として、可変バルブタイミング機構や、気筒休止などに用いられる動弁機構を用いることにより実現可能である。また、動弁機構は、機械式に限らず、油圧式、電動、電磁弁式などどのようなものであってもよい。
【0036】
また、電力消費制御実行中には、コントローラ20は、発電モータ2の駆動によって消費される電力量が走行モータ4による回生によって発電された発電量を上回るように、発電モータ2の回転速度などを制御する。
【0037】
このようにして、エンジン1が駆動されると、排気通路12内の排気ガスがシリンダ10内へ吸入され、吸入された排気ガスがシリンダ10から排気通路12に排出され、この排気ガスの吸入及び排出が繰り返し行われる。エンジン1の停止直後の排気ガスは、外気に比べ高温なので、外気の通過を伴うエンジン1のから回しに比べて、シリンダ10内の温度(筒内温度Tc)の低下を抑制できる。
【0038】
また、本実施形態の電力消費制御では、コントローラ20は、電力消費制御が開始されると同時に、触媒30の加熱装置31を通電状態にする。これにより、排気通路12における触媒30近傍の排気ガスを加熱する。上述のようなシリンダ10内への排気ガスの吸入及び排出が繰り返し行われることにより、排気通路12内の排気ガスが流動する。これにより、触媒30近傍の加熱装置31によって加熱された排気ガスも流動するので、触媒30を温めることができる。
【0039】
ステップS4では、バッテリ3のSOCが第2所定値(閾値R2)以下であるか否かを判定する。具体的には、コントローラ20は、SOCセンサ3aによって検出されたSOCが、第2所定値(閾値R2)以下であるか否かを判定する。SOCが第2所定値(閾値R2)以下であれば、バッテリ3の電力を十分消費できているので、ステップS7に進み、電力消費制御を終了する。これに対し、SOCが第2所定値(閾値R2)より大きければ、ステップS5に進む。
【0040】
ステップS5では、加熱装置31の温度Thが、第1所定温度T1以上であるか否かを判定する。具体的には、コントローラ20は、温度センサ31aによって検出された加熱装置31の温度Thが、第1所定温度T1以上であるか否かを判定する。加熱装置31の温度Thが第1所定温度T1以上であれば、加熱装置31が過熱状態にあると判定して、ステップS7に進み、電力消費制御を終了する。これに対し、加熱装置31の温度Thが、第1所定温度T1未満であれば、ステップS6に進む。
【0041】
ステップS6では、シリンダ10内の温度(筒内温度Tc)が、第2所定温度T2以上であるか否かを判定する。具体的には、コントローラ20は、筒内温度センサ10aによって検出された筒内温度Tcが、第2所定温度T2以上であるか否かを判定する。筒内温度Tcが第2所定温度T2以上であれば、ステップS7に進み、電力消費制御を終了する。これに対し、筒内温度Tcが第2所定温度T2未満であれば、ステップS4に戻る。
【0042】
ステップS7では、電力消費制御を終了する。具体的には、コントローラ20は、発電モータ2の駆動を停止するとともに、加熱装置31を非通電状態とする。なお、コントローラ20は、吸気弁15及び排気弁16のバルブタイミングも通常運転(燃焼制御)に用いられるバルブタイミングのプログラムに切り替えられる。
【0043】
このように、本実施形態の電力消費制御は、バッテリ3のSOCが閾値R2に低下するまで行われる。
【0044】
本実施形態の電力消費制御では、発電モータ2によってエンジン1を駆動した場合に、エンジン1のシリンダ10内に排気通路12内の排気ガスを取り入れているので、シリンダ10内を排気ガスより低温の外気が通過することを防止できる。これにより、発電モータ2によってエンジン1を駆動した場合でも、シリンダ10内の温度低下を抑制できるので、再始動時の燃料噴射量を低減できるとともに、エミッションの増加を抑制できる。
【0045】
次に、
図3のタイムチャートを参照して、本実施形態の電力消費制御の具体例を説明する。
【0046】
図3では、エンジン1が駆動され、発電モータ2による発電が行われた状態で、下り坂を走行している場合を示している。なお、
図3の触媒温度Ts及び筒内温度Tcにおける点線は、吸気弁15及び排気弁16のバルブタイミングを調整しない、つまり、エンジン1をから回ししたときに外気がシリンダ10内を通過する場合の例を示している。
【0047】
時刻t1において、バッテリ3のSOCが閾値RHまで上昇すると、コントローラ20は、エンジン1を停止する。これにより、シリンダ10内での燃焼が停止するので、筒内温度Tcが徐々に低下する。また、エンジン1が停止されることにより、シリンダ10内から排気ガスが排出されなくなるので、触媒温度Tsも徐々に低下する。
【0048】
また、このとき、車両100は下り坂を走行しているので、走行モータ4による回生が行われる。走行モータ4によって発電された電力は、バッテリ3に充電される。このため、バッテリ3のSOCは、上昇を続ける。
【0049】
時刻t2において、バッテリ3のSOCが閾値R1まで上昇すると、コントローラ20は、電力消費制御を開始する。具体的には、上述のように、コントローラ20は、バッテリ3の電力によって発電モータ2を駆動し、エンジン1を駆動(から回し)する。また、このとき、コントローラ20は、排気通路内の排気ガスを前記エンジンのシリンダ内に取り入れるように、吸気弁15及び排気弁16のバルブタイミングを調整する。
【0050】
さらに、時刻t2において、コントローラ20は、触媒30の加熱装置31を通電状態にする。
【0051】
このように、バッテリ3の電力によって発電モータ2を駆動するとともに、加熱装置31を通電状態することで、バッテリ3の電力が消費される。なお、このとき、走行モータ4による回生は継続されている。
【0052】
上述のように、エンジン1が駆動(から回し)されたことにより、排気通路12内の排気ガスのシリンダ10内への吸入及びシリンダ10からの排出が繰り返し行われる。これにより、加熱装置31によって加熱された排気ガスが、シリンダ10内に導かれるので、筒内温度Tcが上昇する。また、エンジン1の駆動により、排気通路12内の排気ガスが流動するので、触媒温度Tsも上昇する。
【0053】
時刻t3において、バッテリ3のSOCが閾値R2まで低下すると、コントローラ20は、電力消費制御を終了する。具体的には、コントローラ20は、発電モータ2の駆動を停止するとともに、加熱装置31を非通電状態とする。発電モータ2の駆動が停止されるとともに、加熱装置31が非通電状態となることで、バッテリ3の電力消費が終了する。このため、時刻t3以降も、走行モータ4によって発電された電力によって、バッテリ3のSOCが上昇する。
【0054】
時刻t4において、車両100が平地を走行するようになると、走行モータ4による回生が終了し、コントローラ20は、バッテリ3の電力によって走行モータ4を駆動する。このとき、バッテリ3のSOCは閾値RL以上であるので、エンジン1は駆動されず、車両100は、バッテリ3のみの電力によって走行モータ4を駆動するモータ走行モードとなる。また、このとき、エンジン1が駆動されていないため、筒内温度Tc及び触媒温度Tsは、さらに低下する。また、バッテリ3の電力が消費されるので、バッテリ3のSOCも低下する。
【0055】
時刻t5において、バッテリ3のSOCが閾値RLまで低下すると、コントローラ20は、エンジン1を駆動し、発電モータ2による発電を開始する。これにより、バッテリ3のSOCが再び上昇する。また、エンジン1が駆動されることにより、筒内温度Tc及び触媒温度Tsは上昇する。
【0056】
このように、本実施形態では、バッテリ3のSOCが閾値R1まで上昇すると、発電モータ2を駆動することによってバッテリ3の電力を消費させる電力消費制御を開始する。このとき、エンジン1のシリンダ10内に排気通路12内の排気ガスを取り入れることで、シリンダ10内に排気ガスより低温の外気が吸入されることを防止する。これにより、バッテリ3の過充電を防止しつつ、シリンダ10内の温度低下を抑制できる。さらに、シリンダ10内の温度低下が抑制されることにより、再始動時の燃料噴射量を低減できるとともに、エミッションの増加を抑制できる。
【0057】
なお、
図2及び
図3に示す例では、電力消費制御実行時に加熱装置31を通電状態としていたが、電力消費制御実行時に加熱装置31を通電状態としなくてもよい。この場合には、電力消費制御実行中に筒内温度Tc及び触媒温度Tsを上昇させることはできないが、外気がシリンダ10内を通過しないので、外気がシリンダ10内を通過する場合に比べて、筒内温度Tc及び触媒温度Tsの低下を抑制できる(
図4に一点鎖線参照)。
【0058】
シリンダ10の容量、あるいは排気通路12の配管長や配管径などを調整して、シリンダ10に吸入される排気ガス量を、排気通路12におけるエンジン1の出口ポートから触媒30の入口までの容量よりも大きくすることが好ましい。この場合には、加熱装置31で暖められた排気ガスをシリンダ10内まで吸入することができるので、シリンダ10をより効果的に暖めることができる。
【0059】
なお、シリンダ10に吸入される排気ガス量が、排気通路12におけるエンジン1の出口ポートから触媒30の入口までの容量以下であっても、触媒30近傍の排気ガスを流動させることができるので、加熱装置31の過熱を抑制できるとともに、触媒30を温めることができる。
【0060】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0061】
車両100は、吸気弁15と排気弁16を有するエンジン1と、エンジン1からの動力によって発電する第1モータ(発電モータ2)と、第1モータ(発電モータ2)によって発電された電力が充電されるバッテリ3と、バッテリ3から供給される電力によって車輪5を駆動するとともに、車輪5からの動力によって発電する第2モータ(走行モータ4)と、を備える。
【0062】
車両100を制御するコントローラ20(制御装置)は、エンジン1が停止している状態で、バッテリ3の充電率(SOC)が第1所定値(閾値R1)まで上昇した場合に、第1モータ(発電モータ2)によってエンジン1を駆動するとともに、吸気弁15と排気弁16のバルブタイミングを調整して、排気通路12内の排気ガスをエンジン1のシリンダ10内に取り入れる電力消費制御を実行する。
【0063】
この構成では、エンジン1のシリンダ10内に排気通路12内の排気ガスを取り入れているので、シリンダ10内を排気ガスより低温の外気が通過することを防止できる。これにより、第1モータ(発電モータ2)によってエンジン1を駆動した場合でも、バッテリ3の過充電を防止しつつ、シリンダ10内の温度低下を抑制できるので、再始動時の燃料噴射量を低減できるとともに、エミッションの増加を抑制できる。
【0064】
また、コントローラ20は、バッテリ3の充電率(SOC)が、第2所定値(閾値R2)まで低下した場合に、電力消費制御を終了する。
【0065】
この構成では、バッテリ3のSOCが過剰に放電されることを防止できる。これにより、エンジン1による発電を抑制できるので、燃費の悪化を防止できる。
【0066】
車両100は、排気通路12に設けられ、大気に放出される排気ガスを浄化するととともに、バッテリ3の電力で加熱される加熱装置31を有する電熱触媒(触媒30)をさらに備える。また、コントローラ20は、電力消費制御実行中は、加熱装置31を通電状態にする。
【0067】
電力消費制御実行中は、加熱装置31を通電状態にすることで、加熱装置31近傍の排気ガスを加熱することができる。このとき、エンジン1が、から回しされているので、排気通路12の排気ガスが流動する。これにより、電熱触媒(触媒30)近傍の排気ガスを流動させることができるので、加熱装置31の過熱を抑制できるとともに、触媒30を温めることができる。さらに、排気通路12内において加熱された排気ガスを流動させることができるので、凝縮水の生成を抑制することができる。
【0068】
コントローラ20は、加熱装置31が、第1所定温度T1まで上昇した場合に、電力消費制御を終了する。
【0069】
この構成では、加熱装置31が過熱されることを防止し、加熱装置31の損傷を防止できる。
【0070】
車両100では、シリンダ10に吸入される排気ガス量は、排気通路12におけるエンジン1の出口ポートから電熱触媒(触媒30)の入口までの容量よりも大きい。
【0071】
この構成では、加熱装置31で暖められた排気ガスをシリンダ10内まで吸入することができるので、シリンダ10をより効果的に暖めることができる。
【0072】
車両100では、シリンダ10に吸入される排気ガス量は、排気通路12におけるエンジン1の出口ポートから電熱触媒(触媒30)の入口までの容量以下である。
【0073】
この構成では、電熱触媒(触媒30)近傍の排気ガスを流動させることができるので、加熱装置31の過熱を抑制できるとともに、触媒30を温めることができる。
【0074】
コントローラ20は、シリンダ10内の温度(筒内温度Tc)が第2所定温度T2まで上昇した場合に、電力消費制御を終了する。
【0075】
この構成では、加熱装置31の温度Thを検出する温度センサ31aが故障している場合であっても、シリンダ10内の温度(筒内温度Tc)を検出することで加熱装置31の過熱を検知することができる。これにより、装置の信頼性を向上させることができる。
【0076】
コントローラ20は、電力消費制御実行中は、吸気弁15を閉弁した状態に維持する。
【0077】
この構成では、電力消費制御実行中は吸気弁15を閉弁しているので、吸気通路11に排気ガスが流出することがない。また、吸気弁15が閉弁された状態に維持されることで、シリンダ10及び排気通路12を通じて触媒30に酸素(外気)が導かれることを防止できる。これにより、エンジン1の再始動時の触媒性能の低下を抑制できる。
【0078】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0079】
上記実施形態では、電力消費制御の実行条件を、SOCが第1所定値(閾値R1)以上であることとしたが、これに限らない。例えば、SOCの上昇率に基づいて、あるいは、車速及び車両100の傾斜角などから推定される発電量に基づいて、SOCが第1所定値(閾値R1)まで上昇することが予想される場合に電力消費制御を実行するようにしてもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、電力消費制御の終了条件を、SOCが第2所定値(閾値R2)以上であることとしたが、これに限らない。例えば、電力消費制御の開始から所定時間経過した場合に、電力消費制御を終了するようにしてもよい。
【0081】
触媒30と加熱装置31は、別体で構成されていても、一体で構成されていてもよい。
【0082】
また、筒内温度Tc、加熱装置31の温度Thは、センサによる検出値でなく、演算などの推定値であってもよい。
【符号の説明】
【0083】
100 車両
1 エンジン
2 発電モータ(第1モータ)
3 バッテリ
3a SOCセンサ
4 走行モータ(第2モータ)
10 シリンダ
10a 筒内温度センサ
11 吸気通路
12 排気通路
15 吸気弁
16 排気弁
20 コントローラ(制御装置)
30 触媒
31 加熱装置
31a 温度センサ