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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】溶射システム
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/131 20160101AFI20241024BHJP
   B05B 7/22 20060101ALI20241024BHJP
   H05H 1/34 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C23C4/131
B05B7/22
H05H1/34
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020202662
(22)【出願日】2020-12-07
(65)【公開番号】P2022090327
(43)【公開日】2022-06-17
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】玉城 怜士
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0049384(US,A1)
【文献】特開2003-247054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/131
B05B 7/22
H05H 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶射ガン、第1ガス供給手段および第2ガス供給手段を備えた溶射システムであって、
前記溶射ガンは、一対のワイヤが内部に挿通するガン本体と、前記ガン本体の先端に設けられ、内部空間を有するノズルと、前記内部空間に配置され、前記一対のワイヤを挿通させるための貫通孔を有する一対の給電チップと、を備え、
前記ノズルは、基端側から先端側に向かう方向である第1方向を向くガス噴出孔を先端部に有し、
前記溶射ガンは、前記内部空間に向けて第1圧縮ガスを吹き出すための第1吐出口、および、前記第1吐出口よりも前記第1方向において前記ガス噴出孔に近接し、前記内部空間に向けて第2圧縮ガスを吹き出すための第2吐出口を有し、
前記第1ガス供給手段は、前記第1圧縮ガスを前記溶射ガンへ定常的に供給し、
前記第2ガス供給手段は、前記第2圧縮ガスを前記溶射ガンへ間欠的に供給する、溶射システム
【請求項2】
前記第2吐出口の横断面積は、前記第1吐出口の横断面積よりも小である、請求項1に記載の溶射システム
【請求項3】
前記第2吐出口は、前記一対の給電チップそれぞれに設けられている、請求項2に記載の溶射システム
【請求項4】
前記第1圧縮ガスは空気であり、前記第2圧縮ガスはアルゴンガスである、請求項1ないし3のいずれかに記載の溶射システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被溶射体に溶射皮膜を形成するための溶射ガン、およびこれを備えた溶射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
溶射装置を用いて行うアーク溶射においては、金属線材からなる一対のワイヤを溶射ガンに送給させつつアーク放電によってワイヤを溶解させる。溶解したワイヤはノズルから噴出するガス流(圧縮ガス)によって被溶射体へ吹き付けられ、当該被溶射体の表面に溶射皮膜が形成される。特許文献1には、このようなアーク溶射を行うための溶射ガンが記載されている。
【0003】
特許文献1にも記載されているように、従来の溶射ガンにおいて、溶射ガンに送給される一対のワイヤは、溶射ガンの先端に設けられた一対の給電チップを介して送り出される。ノズルは、溶射ガンの先端に設けられており、所定の内部空間を有する。一対の給電チップは、ノズルの内部空間に配置されている。ワイヤは、給電チップに形成された貫通孔に挿通されて、内接触して通電される。一対のワイヤは、一対の給電チップを介して互いが徐々に近接するように送り出され、先端どうしが短絡して発生するアークの熱によって溶融する。その溶滴(溶融金属)にノズル先端のガス噴出孔から噴出するガス流が衝突し、溶融金属が微細化されつつ被溶射体に吹き付けられる。ここで、溶融金属をより微細化することで、緻密な溶射皮膜が形成される。
【0004】
従来において、たとえば緻密な溶射皮膜を形成するためには、ワイヤの送給量(即ち、送給速度)やアーク電圧等の溶射条件を調整することが一般的に行われていた。しかしながら、ワイヤの送給量を変更すると単位時間当たりのワイヤの溶融量が変化するため、施工時間やワイヤ消費量にバラつきが生じてしまう。そうすると、溶射皮膜が不均一となって、当該溶射皮膜の品質低下を招いてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-241543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、溶融させるワイヤの微細化の程度をコントロールするのに適した構造の溶射ガンを提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0008】
本発明の第1の側面によって提供される溶射ガンは、一対のワイヤが内部に挿通するガン本体と、前記ガン本体の先端に設けられ、内部空間を有するノズルと、前記内部空間に配置され、前記一対のワイヤを挿通させるための貫通孔を有する一対の給電チップと、を備え、前記ノズルは、基端側から先端側に向かう方向である第1方向を向くガス噴出孔を先端部に有し、前記内部空間に向けて第1圧縮ガスを吹き出すための第1吐出口、および、前記第1吐出口よりも前記第1方向において前記ガス噴出孔に近接し、前記内部空間に向けて第2圧縮ガスを吹き出すための第2吐出口を有する。
【0009】
好ましい実施の形態においては、前記第2吐出口の横断面積は、前記第1吐出口の横断面積よりも小である。
【0010】
好ましい実施の形態においては、前記第2吐出口は、前記一対の給電チップそれぞれに設けられている。
【0011】
好ましい実施の形態においては、前記ノズルの内面形状は、前記第1方向に向かうにつれて、前記ノズルの軸線に対して直角である面内方向における断面積が小さくされている。
【0012】
好ましい実施の形態においては、前記第2吐出口は、前記ガス噴出孔に向いている。
【0013】
本発明の第2の側面によって提供される溶射システムは、本発明の第1の側面に係る溶射ガンと、前記第1圧縮ガスを前記溶射ガンへ定常的に供給する第1ガス供給手段と、前記第2圧縮ガスを前記溶射ガンへ間欠的に供給する第2ガス供給手段と、を備える。
【0014】
好ましい実施の形態においては、前記第1圧縮ガスは空気であり、前記第2圧縮ガスはアルゴンガスである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ノズルの内部空間に第1圧縮ガスを吹き出すための第1吐出口と、ノズルの内部空間に第2圧縮ガスを吹き出すための第2吐出口とが設けられている。第2吐出口は、第1吐出口よりも第1方向においてガス噴出孔に近接する位置にある。溶射ガンには、第1ガス供給手段により第1圧縮ガスが定常的に供給され、第1吐出口からノズルの内部空間に定常的に第1圧縮ガスが吹き出される。また、溶射ガンには第2ガス供給手段により第2圧縮ガスが間欠的に供給され、第2吐出口からノズルの内部空間に間欠的に第2圧縮ガスが吹き出される。このような構成によれば、定常的に供給される第1圧縮ガスに加えて間欠的に供給される第2圧縮ガスが混在したガスがガス噴出孔から噴出され、ワイヤの溶融金属が微細化されて緻密な溶射皮膜を形成することができる。
【0016】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る溶射ガンを備えた溶射システムの一例を示す概略構成図である。
図2】本発明に係る溶射ガンの一例を示し、溶射ガンの先端側から見た図である。
図3図2のIII-IIIに沿う部分断面図である。
図4図2のIV-IVに沿う部分断面図である。
図5図3の部分拡大図である。
図6図5の部分拡大図である。
図7】本発明に係る溶射ガンの他の例を示し、図5と同様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る溶射ガンを備えた溶射システムの概略構成を示す図である。図2は、本発明に係る溶射ガンの一例を示し、溶射ガンの先端側から見た図である。図3は、図2のIII-III線に沿う断面図である。図4は、図2のIV-IV線に沿う断面図である。
【0020】
図1に示した溶射システムA1は、被溶射体(図示略)に溶射を行うためのものであり、電源部1と、溶射ガン2と、第1ガス供給手段3Aおよび第2ガス供給手段3Bと、一対のプッシュ側ワイヤ送給機4と、を備える。本実施形態に係る溶射ガン2は、作業者が把持して溶射作業を行うための手動ガンの形態を有している。
【0021】
電源部1は、溶射ガン2に電力を供給するものである。電源部1からの電力は、定電圧制御されて給電ケーブル11を介して溶射ガン2に供給され、後述の給電部材213を介して給電チップ22に供給される。
【0022】
プッシュ側ワイヤ送給機4は、たとえばガイドローラ、送給ローラおよびモータ(いずれも図示略)を備えており、ワイヤリール5に巻き取られたワイヤWを溶射ガン2に向けて送り出すものである。ワイヤリール5は、ワイヤWが収納された機器を示し、たとえば水平方向に延びる軸心回りに回転可能なリールにワイヤWが巻き取られた形態を有しており、回転しながらワイヤWを繰り出すことができる。ワイヤリール5から繰り出されるワイヤWは、たとえばプッシュ側ガイドライナ8によってガイドされて溶射ガン2に至っている。電源部1より供給される溶射電圧とプッシュ側ワイヤ送給機4によるワイヤWの送給速度は、たとえばリモコン6によって設定される。
【0023】
第1ガス供給手段3Aは、溶射ガン2に第1圧縮ガスを供給するものである。第1ガス供給手段3Aは、たとえば第1ガス供給源31、第1ガス配管33、および第1ガス調整部35を備えて構成される。本実施形態において、第1圧縮ガスは空気であり、第1ガス供給源31はコンプレッサである。第1ガス配管33は、第1ガス供給源31から溶射ガン2へ第1圧縮ガスを送るためのガス流路であり、たとえばガスホースからなる。第1ガス調整部35は、たとえば電磁弁および流量計を含んで構成される。本実施形態では、上記コンプレッサ(第1ガス供給源31)から噴出される圧縮エア(第1圧縮ガス)は、第1ガス調整部35により流量が制御されて、定常的に溶射ガン2へ送られる。
【0024】
第2ガス供給手段3Bは、溶射ガン2に第2圧縮ガスを供給するものである。本実施形態において、第2圧縮ガスは、上述の第1圧縮ガスとは異なる種類のガスである。第2ガス供給手段3Bは、たとえば第2ガス供給源32、第2ガス配管34、および第2ガス調整部36を備えて構成される。本実施形態において、第2圧縮ガスはアルゴンガスであり、第2ガス供給源32はアルゴンガスを高圧状態で貯留するガスボンベである。第2ガス配管34は、第2ガス供給源32から溶射ガン2へ第2圧縮ガスを送るためのガス流路であり、たとえばガスホースからなる。第2ガス調整部36は、たとえば電磁弁および流量計を含んで構成される。本実施形態において、当該電磁弁は、溶射作業の際、適宜開閉および開度調整がなされる。本実施形態では、上記ガスボンベ(第2ガス供給源32)から噴出されるアルゴンガス(第2圧縮ガス)は、第2ガス調整部36により流量が制御されて、間欠的に溶射ガン2へ送られる。なお、第2圧縮ガスとしては、アルゴンガスに代えてヘリウムガスなどの他の不活性ガスを用いてもよい。また、溶射作業を行う際には、第1ガス調整部35および第2ガス調整部36(電磁弁)は、ガス制御装置(図示略)により開閉および開度調整がなされる。
【0025】
図2図4に示すように、溶射ガン2は、ガン本体21と、一対の給電チップ22と、一対のガイドライナ23と、ノズル24と、第1ガス供給路25と、第2ガス供給路26と、を備えている。ガン本体21は筒状とされており、プッシュ側ワイヤ送給機4により送給されたワイヤWがガン本体21の内部を通過可能である。このガン本体21には、一対のプル側ワイヤ送給機9が取り付けられている。プル側ワイヤ送給機9は、プッシュ側ガイドライナ8によりガイドされたワイヤWをガン本体21先端側に送給するものである。ガン本体21の先端には、ライナ保持部材211が取り付けられている。ガン本体21の先端にはまた、絶縁部材212が取り付けられている。
【0026】
給電チップ22は、給電部材213に取り付けられている。給電部材213は、一対の給電チップ22に対応するように対をなして設けられている。より詳細には、給電部材213の先端部には雌ねじが形成され、また、給電チップ22の基端部には雄ねじが形成されており、上記雌ねじに上記雄ねじを螺合することによって給電チップ22が給電部材213に取り付けられる。このようにして、給電チップ22はガン本体21の先端側に着脱可能に設けられている。なお、一対の給電部材213は、絶縁部材212によって支持されており、これら給電部材213間は絶縁状態にある。
【0027】
一対の給電部材213に形成された一対の雌ねじは、ガン本体21(溶射ガン2)の軸方向に対して傾斜して延びる。そして、図3図5に表れているように、一対の給電チップ22については、互いの中心軸線O1が溶射ガン2の先端側である方向x(第1方向)に向かうほど近接している。これら中心軸線O1は、ノズル24の先端部よりも方向xに離間する位置で交わっており、当該交点がアーク点Oxとして設定される。本実施形態において、各給電チップ22の先端側の部位は、先端に向かうにつれて小径となるテーパー状とされている。
【0028】
ライナ保持部材211は、先端側においてガイドライナ23の一端を受け入れている。ライナ保持部材211の基端側には、プル側ワイヤ送給機9を通過したワイヤWを挿通させるための貫通孔211aが形成されている。また、給電チップ22は、基端側においてガイドライナ23の他端を受け入れている。給電チップ22先端側には、ガイドライナ23を通過したワイヤWを挿通させるための貫通孔22aが形成されている。ライナ保持部材211の貫通孔211aおよび給電チップ22の貫通孔22aの内径寸法(直径)は、ワイヤWの太さ(横断面外径寸法)に対応する寸法とされており、ワイヤWの横断面外径寸法より少し大きい。即ち、ライナ保持部材211および給電チップ22については、使用するワイヤWの太さが異なると、それに応じて貫通孔211a,22aの直径が異なるものが用いられる。使用するワイヤWの太さ(外形寸法)は、たとえば0.8mm以上である。
【0029】
ガイドライナ23は、可撓性を有する筒状とされており、ワイヤWを挿通させることによってこのワイヤWを給電チップ22まで案内する機能を果たす。ガイドライナ23を構成する材料としては、ワイヤWの摺動抵抗の小さいものが好ましい。そのような材料としては、たとえばフッ素樹脂などの合成樹脂を挙げることができる。
【0030】
図3図4に示すように、ノズル24は、溶射ガン2の先端部分に設けられている。ノズル24は、一対の給電チップ22の先端部を囲う環状とされており、内部空間が第1ガス供給路25および第2ガス供給路26につながっている。また、図5図6等に示すように、本実施形態において、ノズル24は、その軸線CLに対して直角である面内方向において、一対の給電チップ22の先端部すべてを囲っている。ノズル24は絶縁材料または非絶縁材料を基材に構成され、ノズル24の内面241は、たとえばセラミックス材料などの絶縁材料によってコーティングされている。
【0031】
本実施形態において、ノズル24の内面形状は、方向xに向かうにつれて上記面内方向における断面積が小さくされており、先端側が窄まっている。また、ノズル24における方向xの先端部には、方向xを向くガス噴出孔242が形成されている。ズル24の寸法の一例を挙げると、ノズル24の基端部の内径が50~80mm程度、ノズル24の先端部の内径が5~8mm程度、ガス噴出孔242の内径が5~8mm程度である。なお、ノズル24の内面形状については、本実施形態のような先端側が窄まる形状の他にも、種々な形状を採用することができる。
【0032】
第1ガス供給路25は、ガン本体21側からノズル24の内部空間に向けて第1圧縮ガスを供給するための流路である。本実施形態において、第1ガス供給路25は、主に絶縁部材212の内部に設けられており、この第1ガス供給路25に第1ガス配管33を介して第1圧縮ガスが供給される。図4に示すように、本実施形態において、第1ガス供給路25は、分岐して延びる2本の分流路251と、第1吐出口252とを含む。各分流路251の下流側端が、ノズル24の内部空間に開放した第1吐出口252とされている。この第1吐出口252は、ノズル24の内部空間に第1圧縮ガスを吹き出すための開口である。各第1吐出口252は、方向xに向いている。
【0033】
第2ガス供給路26は、ノズル24の内部空間に向けて第2圧縮ガスを供給するための流路である。本実施形態において、第2ガス供給路26は、絶縁部材212の内部、給電チップ22の内部等に設けられている。本実施形態では、一対の給電チップ22それぞれに対応して一対の第2ガス供給路26が設けられている。図3図5に示すように、本実施形態において、第2ガス供給路26は、主流路261と、分岐路262と、第2吐出口263とを含む。主流路261は絶縁部材212の内部に形成されており、この主流路261に第2ガス配管34を介して第2圧縮ガスが供給される。主流路261は、絶縁部材212の内部においてガイドライナ23が通された空間に連通している。分岐路262は、給電チップ22に形成されている。本実施形態では、各給電チップ22には、一対の分岐路262が形成されている。一対の分岐路262は、それぞれが貫通孔22aに通じており、貫通孔22aを挟んで反対側に設けられている。各分岐路262は、中心軸線O1と平行な直線に沿って延びており、各分岐路262の下流側端が、ノズル24の内部空間に開放した第2吐出口263とされている。
【0034】
この第2吐出口263は、ノズル24の内部空間に第2圧縮ガスを吹き出すための開口である。第2吐出口263は、方向xにおいて第1吐出口252よりもガス噴出孔242に近接する位置にある。各第2吐出口263は、ガス噴出孔242に向いている。
【0035】
第2ガス供給路26に第2圧縮ガスが供給されると、当該第2圧縮ガスは、主流路261、給電部材213とガイドライナ23との隙間、貫通孔22aの順に流れる。次いで、第2圧縮ガスは、分岐路262に流れ込み、第2吐出口263からノズル24の内部空間に吹き出される。
【0036】
図5図6から理解されるように、本実施形態において、第2吐出口263の横断面積は、第1吐出口252の横断面積よりも小である。第1吐出口252の横断面積に対する第2吐出口263の横断面積の割合は、たとえば0.1~0.5倍程度である。また、ワイヤWの直径に対する第2吐出口263の直径(内径)の割合は、たとえば0.5~1.5倍程度である。
【0037】
次に、上記した溶射ガン2および溶射システムA1を用いて被溶射体に溶射を行う手順について説明する。
【0038】
溶射システムA1を用いて溶射作業を行う際には、作業者が図1に示す溶射ガン2に設けられたスタートスイッチ7を押してON状態にすると、プッシュ側ワイヤ送給機4およびプル側ワイヤ送給機9によって溶射ガン2に一対のワイヤWが送給される。送給されたワイヤWは、ガン本体21内を通り、次いでライナ保持部材211、ガイドライナ23内を進む。そして、ワイヤWは、ガイドライナ23によってガイドされながら給電チップ22へ送られ、給電チップ22に接触しながら中心軸線O1に沿ってアーク点Oxに向かう。
【0039】
溶射ガン2には電源部1によって電力が供給される。ワイヤWが給電チップ22に接触することにより、給電部材213から給電チップ22を介してワイヤWに電力供給される。そして、一対の給電チップ22から送り出された一対のワイヤWがアーク点Oxで短絡することによって、一対のワイヤWの先端間にアークが発生し、溶滴が生じる。
【0040】
溶射ガン2には、第1ガス供給手段3Aからの第1圧縮ガス(空気)が定常的に送り込まれる。当該第1圧縮ガスは、第1ガス供給路25(分流路251)を通過し、第1吐出口252からノズル24の内部空間に定常的に吹き出される。第1ガス供給路25を流れる第1圧縮ガスの流量は、たとえば800~1800L/min程度である。また、ノズル24の内部空間へ流入する第1圧縮ガスの流速は、当該内部空間への流入時において10~40m/sec程度である。
【0041】
溶射ガン2にはまた、第2ガス供給手段3Bの第2圧縮ガス(アルゴンガス)が間欠的に送り込まれる。当該第2圧縮ガスは、第2ガス供給路26(主流路261および分岐路262)を通過し、第2吐出口263からノズル24の内部空間に間欠的に吹き出される。第2圧縮ガスを溶射ガン2に間欠的に供給する動作は、第2ガス供給手段3Bの第2ガス調整部36(たとえば電磁弁)の開閉により行う。第2ガス調整部36の開閉の周期は特に限定されないが、たとえば1秒間に10~30回程度の開閉動作を行う。この場合、第2圧縮ガス供給の周波数は10~30Hzである。第2圧縮ガス供給時に第2ガス供給路26を流れる第2圧縮ガスの流量は、たとえば20~120L/min程度である。また、ノズル24の内部空間へ流入する第2圧縮ガスの流速は、当該内部空間への流入時において40~300m/sec程度である。
【0042】
ノズル24内を定常的に流れる第1圧縮ガスは、ノズル24の内部空間を通過してノズル24の先端に到達し、ガス噴出孔242から外部に定常的に噴出される。当該噴出されたガスは、ワイヤWの先端のアークに吹き付けられ、溶融金属が液滴や微粒子状となって被溶射体の表面に溶射皮膜が形成される。それとともに、ノズル24内を間欠的に流れる第2圧縮ガスが、ノズル24の内部空間を通過してノズル24の先端に到達し、第1圧縮ガスを断続的に加勢しつつガス噴出孔242から噴出される。
【0043】
そして、溶射作業を終了するときに、作業者が、溶射ガン2のスタートスイッチ7を開放してOFF状態にする。そうすると、ガス噴出孔242からのガスの噴出が停止されるとともに、一対のワイヤWの送給および電力供給が停止されて、溶射作業が終了する。
【0044】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0045】
本実施形態においては、ノズル24の内部空間に第1圧縮ガスを吹き出すための第1吐出口252と、ノズル24の内部空間に第2圧縮ガスを吹き出すための第2吐出口263と、が設けられている。第2吐出口263は、第1吐出口252よりも方向xにおいてガス噴出孔242に近接する位置にある。溶射ガン2には、第1ガス供給手段3Aにより第1圧縮ガス(空気)が定常的に供給され、第1吐出口252からノズル24の内部空間に定常的に第1圧縮ガスが吹き出される。また、溶射ガン2には第2ガス供給手段3Bにより第2圧縮ガス(アルゴンガス)が間欠的に供給され、第2吐出口263からノズル24の内部空間に間欠的に第2圧縮ガスが吹き出される。このような構成によれば、定常的に供給される第1圧縮ガスに加えて間欠的に供給される第2圧縮ガスが混在したガスがガス噴出孔242から噴出され、ワイヤWの溶融金属が微細化されて緻密な溶射皮膜を形成することができる。
【0046】
第2圧縮ガスについては、第2吐出口263から間欠的に吹き出される。これにより、溶融金属は断続的に微細化が図られる。本実施形態と異なり、溶融金属の微細化が連続する場合、溶射皮膜に空隙がなく緻密になるが、酸化率が上昇する。これに対し、本実施形態においては、溶融金属の微細化が適度にコントロールされる。その結果、酸化率が低く緻密で密着度の高い溶射皮膜が形成され、溶射皮膜の品質向上を図ることができる。
【0047】
第2吐出口263の横断面積は、第1吐出口252の横断面積よりも小である。このような構成によれば、第2吐出口263から、高速で流量が比較的少ない第2圧縮ガスが吹き出され、ガス噴出孔242に向かう。これにより、溶融金属の微細化が適切に行われる。
【0048】
本実施形態において、第2吐出口263は、一対の給電チップ22それぞれに設けられている。このような構成は、第2圧縮ガスをガス噴出孔242に向かわせるのに適する。
【0049】
本実施形態では、第2ガス供給手段3B(第2ガス調整部36)により、ノズル24の内部空間に供給する第2圧縮ガスの流量や流速、供給時間を調整することができる。このような構成によれば、溶融金属の微細化の程度を適切にコントロールすることができる。
【0050】
また、第2圧縮ガスを供給する第2ガス供給手段3Bは、第1圧縮ガスを供給する第1ガス供給手段3Aとは別個に独立して設けられている。このような構成によれば、定常的に供給される第1圧縮ガスとは異なるガスからなる第2圧縮ガスを、微細化に適した条件で間欠的に供給することができる。
【0051】
本実施形態では、定常的に供給される第1圧縮ガスは空気であり、間欠的に供給される第2圧縮ガスはアルゴンガスである。アルゴンガスの供給によりガス流の温度が上昇し、溶融金属の微細化は促進される。このアルゴンガスを間欠的に供給することで、コスト上昇を抑制しつつ、効率よく溶融粒子のサイズをコントロールすることができる。
【0052】
図7は、本発明に係る溶射ガンの他の例を示している。なお、図7においては、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付しており、適宜説明を省略する。
【0053】
本実施形態の溶射ガン2においては、ノズル24の構成および第2ガス供給路26の構成が上記実施形態と異なっている。ノズル24は、第1部材24Aおよび第2部材24Bを含んで構成される。第1部材24Aは、内面241およびガス噴出孔242を有し、一対の給電チップ22の先端部を囲う環状とされている。第2部材24Bは、第1部材24Aに外嵌されており、円筒状とされている。
【0054】
本実施形態において、第2ガス供給路26は、ノズル24の内部に設けられている。第2ガス供給路26は、主流路261と、環状溝264と、分岐路262と、第2吐出口263とを含む。
【0055】
主流路261および環状溝264は、第2部材24Bに形成されている。主流路261に第2ガス配管34を介して第2圧縮ガスが供給される。環状溝264は、第2部材24Bの内周部に形成された円環状とされており、この環状溝264に主流路261が連通している。分岐路262は、第1部材24Aに形成されている。本実施形態では、第1部材24Aには、一対の分岐路262が形成されている。一対の分岐路262は、それぞれが環状溝264に通じており、ノズル24の軸線CLを挟んで反対側に設けられている。各分岐路262は、ガス噴出孔242に向かって延びており、各分岐路262の下流側端が、ノズル24の内部空間に開放した第2吐出口263とされている。
【0056】
この第2吐出口263は、ノズル24の内部空間に第2圧縮ガスを吹き出すための開口である。第2吐出口263は、方向xにおいて第1吐出口252よりもガス噴出孔242に近接する位置にある。各第2吐出口263は、ガス噴出孔242に向いている。
【0057】
図6図7から理解されるように、本実施形態において、第2吐出口263の横断面積は、第1吐出口252の横断面積よりも小である。第1吐出口252の横断面積に対する第2吐出口263の横断面積の割合は、たとえば0.1~0.5倍程度である。また、ワイヤWの直径に対する第2吐出口263の直径(内径)の割合は、たとえば0.5~1.5倍程度である。
【0058】
本実施形態において、図4図6等に示した上記実施形態の場合と同じ溶射条件(ワイヤの送給速度、第1圧縮ガスおよび第2圧縮ガスの供給態様や電力供給態様が同一)で溶射作業を行う。本実施形態において、ノズル24の内部空間に第1圧縮ガスを吹き出すための第1吐出口252と、ノズル24の内部空間に第2圧縮ガスを吹き出すための第2吐出口263と、が設けられている。第2吐出口263は、第1吐出口252よりも方向xにおいてガス噴出孔242に近接する位置にある。溶射ガン2には、第1ガス供給手段3Aにより第1圧縮ガス(空気)が定常的に供給され、第1吐出口252からノズル24の内部空間に定常的に第1圧縮ガスが吹き出される。また、溶射ガン2には第2ガス供給手段3Bにより第2圧縮ガス(アルゴンガス)が間欠的に供給され、第2吐出口263からノズル24の内部空間に間欠的に第2圧縮ガスが吹き出される。このような構成によれば、定常的に供給される第1圧縮ガスに加えて間欠的に供給される第2圧縮ガスが混在したガスがガス噴出孔242から噴出され、ワイヤWの溶融金属が微細化されて緻密な溶射皮膜を形成することができる。
【0059】
第2圧縮ガスについては、第2吐出口263から間欠的に吹き出される。これにより、溶融金属は断続的に微細化が図られる。本実施形態と異なり、溶融金属の微細化が連続する場合、溶射皮膜に空隙がなく緻密になるが、酸化率が上昇する。これに対し、本実施形態においては、溶融金属の微細化が適度にコントロールされる。その結果、酸化率が低く緻密で密着度の高い溶射皮膜が形成され、溶射皮膜の品質向上を図ることができる。図7に示した本実施形態の構成において、その他にも、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0060】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に包摂される。
【符号の説明】
【0061】
A1:溶射システム、2:溶射ガン、21:ガン本体、22:給電チップ、24:ノズル、242:ガス噴出孔、252:第1吐出口、263:第2吐出口、3A:第1ガス供給手段、3B:第2ガス供給手段、W:ワイヤ、x:方向(第1方向)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7