(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】タイヤ設計に利用可能なパラメータを取得するためのタイヤ評価方法
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
(21)【出願番号】P 2020202950
(22)【出願日】2020-12-07
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石神 直大
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/145137(WO,A1)
【文献】特開2008-276469(JP,A)
【文献】特開2015-016756(JP,A)
【文献】特開2019-217894(JP,A)
【文献】特開2019-100765(JP,A)
【文献】特開2004-155413(JP,A)
【文献】特開2015-219150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00 - 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラメータの異なる複数のタイヤモデルを取得するステップを含み、
複数の前記タイヤモデルのそれぞれについて、
前記タイヤモデルのトレッド部を複数の部位に分割するステップと、
前記タイヤモデルを路面モデルに接地させて有限要素法により挙動解析するステップと、
前記挙動解析の結果に基づき前記部位毎にスリップ率と摩擦係数との関係を求め、各部位において摩擦係数が最大となるときのスリップ率であるピークμスリップ率を求めるステップと、
各部位の前記ピークμスリップ率のばらつきを求めるステップと、
複数の前記タイヤモデルの中から、前記ピークμスリップ率のばらつきが最小となるタイヤモデルを特定するステップと、
を含むタイヤ評価方法。
【請求項2】
前記ピークμスリップ率のばらつきが最小となるタイヤモデルのパラメータを特定するステップを含む、請求項
1に記載のタイヤ評価方法。
【請求項3】
前記ピークμスリップ率のばらつきが最小となるタイヤモデルのパラメータとして前記トレッド部の各部位の剛性を特定するステップを含む、請求項
2に記載のタイヤ評価方法。
【請求項4】
前記トレッド部が、複数の溝がタイヤ周方向に周期的に並んだトレッドパターンを有し、
前記トレッドパターンに、1ピッチのタイヤ周方向への長さであるピッチ長が設定され、
前記ピークμスリップ率のばらつきが最小となるタイヤモデルのパラメータとして前記ピッチ長を特定するステップを含む、請求項
2に記載のタイヤ評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ設計に利用可能なパラメータを取得するためのタイヤ評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、制動性能を向上させるタイヤの設計が行われてきた。例えば特許文献1では、タイヤの制動性能に関するタイヤ特性を目的関数とし、目的関数を最適値とする設計パラメータを求め、求まった設計パラメータを用いてタイヤを設計することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、制動性能はタイヤの重要な性能であるため、制動性能を更に向上させるタイヤの設計が望まれていた。
【0005】
そこで本発明は、制動性能の良いタイヤの設計に利用できるタイヤ評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態のタイヤ評価方法は、パラメータの異なる複数のタイヤモデルを取得するステップを含み、複数の前記タイヤモデルのそれぞれについて、前記タイヤモデルのトレッド部を複数の部位に分割するステップと、前記タイヤモデルを路面モデルに接地させて有限要素法により挙動解析するステップと、前記挙動解析の結果に基づき前記部位毎にスリップ率と摩擦係数との関係を求め、各部位において摩擦係数が最大となるときのスリップ率であるピークμスリップ率を求めるステップと、各部位の前記ピークμスリップ率のばらつきを求めるステップと、複数の前記タイヤモデルの中から、前記ピークμスリップ率のばらつきが最小となるタイヤモデルを特定するステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
実施形態のタイヤ評価方法は、複数のタイヤモデルにおける部位毎のピークμスリップ率のばらつきを知ることができるので、制動性能の良いタイヤの設計に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図5】制動力とスリップ率の関係を部位毎及び領域毎に積算した結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態について図面に基づき説明する。なお、実施形態は本発明の一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されたものについては、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0010】
本実施形態のタイヤ評価方法を実行するタイヤ評価装置10を
図1に示す。タイヤ評価装置10は、空気入りタイヤのモデルであるタイヤモデルを取得するタイヤモデル取得部11と、路面モデルを取得する路面モデル取得部12と、取得されたタイヤモデルの接地面を複数の部位に分割する部位設定部13と、タイヤの挙動解析を行うための境界条件を設定する境界条件設定部14と、タイヤの挙動解析を行う挙動解析部15と、タイヤモデルの節点を粘着領域又は滑り領域に分類する分類部16と、挙動解析部15による挙動解析で得られた節点の物理量を前記部位毎かつ前記領域毎に積算する積算部17と、部位毎のμ-S線図を作成し後述するピークμスリップ率を部位毎に求めるμ-S線図作成部18と、ピークμスリップ率を特定するμ-S線図分析部19と、ピークμスリップ率の部位毎のばらつきを求めるばらつき計算部20と、ばらつき計算部20の求めるばらつきが最小となるパラメータを特定する最適パラメータ特定部21とを備えている。
【0011】
これらの各部は、プロセッサ、ハードディスク、メモリ、入力装置(例えばキーボードやマウス)、表示装置(例えばディスプレイ)等を備えるコンピュータの前記プロセッサに、前記ハードディスク等に記憶されているプログラムを実行させることにより実現される。
【0012】
本実施形態のタイヤ評価方法を、
図2のフローチャートに基づき説明する。
【0013】
まずST1では、タイヤモデル取得部11が
図3に示すような3次元のタイヤモデル30を取得する。タイヤモデル30は、有限要素法による解析の対象となる有限要素モデルで、複数の要素にメッシュ分割されそれらの要素の頂点に節点を有するものである。タイヤモデル取得部11が取得する有限要素モデルは、CAD図等に基づき有限要素モデルの公知の作成方法で作成されたものである。
【0014】
各要素や各節点には、要素番号、節点番号、節点座標、物性値(例えば密度、ヤング率、ポアソン比、剛性等)等が設定されている。ここで、剛性は、後述するピークμスリップ率に影響を与えるパラメータである。トレッド部は後述するように複数の部位に分割されることとなるが、その部位毎に異なる剛性が設定されている。ただし、複数の部位で同じ剛性が設定されていても良い。また、剛性の設定は、トレッド部の分割の後に行われても良い。
【0015】
剛性を表す物理量としては、硬度(例えばJIS K 6253に規定されたデュロメータ硬さ)、弾性率(例えばJIS K 6254に規定された弾性率)、モジュラス(100%モジュラス又は300%モジュラス)(例えばJIS K 6251に規定されたモジュラス)等が挙げられる。本実施形態における剛性は、これらのうちいずれか任意のものを指すこととする。
【0016】
図3に示すように、タイヤモデル30にはトレッド部31が設けられている。トレッド部31には、タイヤ周方向に伸びる複数の主溝が形成され、それらの主溝に隔てられて複数のリブが形成されている。各リブはタイヤ周方向に延びている。さらに、トレッド部31には、タイヤ幅方向に伸びる複数の横溝が、タイヤ周方向に周期的に並べて設けられている。これらの溝によってトレッド部31にトレッドパターンが形成されている。
【0017】
トレッドパターンでは、溝によって形成される特定の形状部分が、タイヤ周方向に複数個並んでいる。この特定の形状部分を1ピッチと言い、1ピッチのタイヤ周方向の長さをピッチ長と言う。
図3にピッチ長をLで示す。
【0018】
タイヤモデル取得部11は、複数のタイヤモデルを取得する。本実施形態においては、タイヤモデル取得部11が取得する複数のタイヤモデルは、トレッド部の各部位の剛性がそれぞれ異なるものとする。
【0019】
次に、ST2では、路面モデル取得部12が、挙動解析においてタイヤモデルを押し付ける相手である路面モデルを取得する。路面モデルも有限要素モデルである。路面モデルには、必要に応じて、特殊な路面状況(例えば凹凸状態やウェット状態)が設定される。
【0020】
次に、ST3では、部位設定部13により、タイヤモデルのトレッド部が複数の部位に分割される。ここで、「部位」の定義は任意である。例えば1つのリブを1つの部位と定義しても良いし、1つのブロックを1つの部位と定義しても良い。また、1つのリブやブロックをさらに細かい部分に分割し、その各部分を部位と定義しても良い。また、タイヤ接地端からの距離により部位を定義しても良い。
【0021】
次に、ST4では、境界条件設定部14により、タイヤの挙動解析を行うための各種の境界条件が設定される。境界条件としては、タイヤの内圧、タイヤに負荷する荷重、タイヤと路面との摩擦係数、リム組み条件、スリップ角、走行速度等が挙げられる。境界条件として、入力装置から入力された条件や、ハードディスクに記憶されている条件等が使用される。
【0022】
なお実際の摩擦係数は、タイヤと路面との間の圧力により、また、タイヤの滑り速度により、変化する。そこで、摩擦係数は、圧力及び滑り速度に依存するものとして設定されることが望ましい。例えば、摩擦係数、圧力、滑り速度の関係を予め実験等により求め、圧力を行、滑り速度を列とする摩擦係数の表を作成し設定しておく。表に存在しない圧力や滑り速度の摩擦係数については、最も近い圧力及び滑り速度の摩擦係数を代用したり、表にある摩擦係数、圧力、滑り速度の値からそれらの近似式を求めて該近似式から算出したりするように設定しても良い。ただし、摩擦係数を圧力や滑り速度に依存しない一定値としても良い。
【0023】
次に、ST5では、挙動解析部15において、有限要素法による挙動解析が行われる。例えば、路面に押し付けられたタイヤに対し前後方向や横方向の力が加わることが再現され、その際のタイヤの挙動が解析される。解析では、時間の経過とともに、各節点における接地圧や滑り速度等の物理量が決定されていく。挙動解析の具体的な方法としては、陽解法を用いた動的転動解析や、陰解法を用いた準静的解析や定常輸送解析(Lagrange/Euler混合法)がある。本実施形態のような接地面挙動に着目する詳細な分析においては、解の安定性に優れる陰解法を用いるのが望ましい。
【0024】
この挙動解析の結果として、節点番号と、各節点の物理量が出力される。物理量には様々なものがあるが、例えば、せん断応力、接地圧、滑り速度、節点に割り当てられる面積等が挙げられる。
【0025】
次に、ST6では、分類部16により、接地面の各節点が粘着領域と滑り領域のいずれか一方に分類される。ここで粘着領域とは、タイヤの接地面のうち、タイヤが路面に対して滑っていないと判断される領域のことである。また滑り領域とは、タイヤが路面に対して滑っていると判断される領域のことである。
【0026】
接地面の各節点の粘着領域又は滑り領域への分類は、挙動解析で求められたその節点の滑り速度(その節点の路面に対する速度)に基づき行われる。具体的には、分類の基準として、下記の数1の式で定義される許容滑り速度γが用いられる。そして、節点の滑り速度がこの許容滑り速度γより遅い場合には、その節点は粘着領域に分類される。一方、節点の滑り速度が許容滑り速度γより速い場合には、その節点は滑り領域に分類される。節点の滑り速度が許容滑り速度γと一致する場合に、その節点を滑り領域と粘着領域のいずれに分類するかについては、任意である。
【0027】
【0028】
ここで、fは任意に定められるスリップトレランス値、ωはタイヤの回転の角速度、Rはタイヤの有効半径(タイヤの回転中心から路面までの距離)である。なお、ω×Rは、タイヤの転動速度(タイヤが路面に対して滑らないと仮定した場合に、タイヤが自身の回転により単位時間あたりに進む距離)と一致する。タイヤにブレーキをかけると時間の経過に伴いタイヤの転動速度が変化するため、許容滑り速度γも時間の経過に伴い変化することになる。
【0029】
具体例として、スリップトレランス値fが0.02、タイヤの転動速度が40km/時間の場合を考える。この場合、許容滑り速度γは444mm/秒となる。よって、節点の滑り速度が444mm/秒より遅い場合には、その節点は粘着領域に分類される。また、節点の滑り速度が444mm/秒より速い場合には、その節点は滑り領域に分類される。
【0030】
このようにして各節点が粘着領域又は滑り領域に分類されると、タイヤの接地面は、
図4に示すように、粘着領域32と滑り領域33に分かれる。
【0031】
次に、ST7では、積算部17において、節点が部位毎かつ領域毎に分類され、その分類された範囲内の各節点の持つ物理量がそれぞれ積算される。つまり、同じ部位かつ同じ領域に分類された複数の節点の物理量を積算することを、各部位の各領域について行う。なお物理量とは挙動解析の結果として取得された物理量のことである。
【0032】
積算部17による積算結果の表示例として、トレッド部の1つのリブを1つの部位とした場合であって、4つのリブを有するタイヤモデルのスリップ率と制動力との関係を見た場合の表示を
図5に示す。
【0033】
この場合、部位設定部13により、タイヤモデルの接地面の各節点が、4つのリブ(部位)のいずれかのものとして分類されている。また、分類部16により、各節点が、各スリップ率の時にいずれかの領域(粘着領域又は滑り領域)に含まれるものとして分類されている。そして、積算部17により、各スリップ率の時に各グループかつ各領域に分類されている複数の節点の持つ制動力の大きさが積算されている。その結果を表示すると、横軸にスリップ率、縦軸に制動力を取った
図5のようになる。
【0034】
図5の曲線pはタイヤ全体での制動力の変化を示している。また、曲線qはタイヤの粘着領域で発生する制動力の変化を示している。従って、曲線qの高さはそのスリップ率においてタイヤの粘着領域で発生する制動力の大きさを示し、曲線qと曲線pとに挟まれた部分の高さはそのスリップ率においてタイヤのすべり領域で発生する制動力の大きさを示している。また、
図5のリブ1~リブ4で示されている各領域の高さは、そのスリップ率においてそれぞれのリブで発生する制動力の大きさを示している。このように、各リブ(部位)の各領域で発生する制動力の大きさや、スリップ率の変化に伴うそれらの変化を知ることができる。
【0035】
なお、スリップ率とは、タイヤの前進の速度と転動速度との差の、タイヤの前進の速度に対する割合で、これが小さいほどタイヤの前進の速度とタイヤの転動速度が近いことを示す。タイヤが回転せず滑っている場合はスリップ率が100%、タイヤの前進の速度とタイヤの転動速度が同じ場合はスリップ率が0%となる。また制動力とは、転動するタイヤにブレーキをかけたときの前後方向のせん断応力である。
【0036】
次に、ST8では、μ-S線図作成部18により、
図6に示すような部位毎(
図6の場合リブ毎)のμ-S線図が作成される。μ-S線図は、スリップ率Sと摩擦係数μとの関係を示す図である。なお、摩擦係数μは制動力(粘着領域の制動力とすべり領域の制動力を足した制動力)を荷重で割ることにより算出される。
【0037】
図6からわかるように、μ-S線図には、摩擦係数μが最大となるピークが現れる。このピークにおける摩擦係数μを「ピークμ」と言うこととし、摩擦係数がピークμとなるときのスリップ率Sを「ピークμスリップ率」と言うこととする。
図6において、ピークから横軸に下した破線のスリップ率が、ピークμスリップ率である。
図6からわかるように、一般的に、ピークμスリップ率は部位毎に異なる。
【0038】
なお、μ-S線図はゴムの剛性により変化する。ゴムの剛性(例えば硬度、弾性率又はモジュラス)が小さくなる程、μ-S線図はスリップ率が大きい方(つまり
図6の右側)へ変形し、ピークμスリップ率が大きくなる。
【0039】
次に、ST9では、μ-S線図分析部19により、各部位のピークμスリップ率が特定される。1つのタイヤに複数の部位があるが、全ての部位についてピークμスリップ率が特定される。
【0040】
次に、ST10では、ばらつき計算部20により、各部位のピークμスリップ率のばらつきが計算される。本実施形態では、ばらつきとして、ピークμスリップ率の平均値と、ピークμスリップ率の最大値又は最小値との差(絶対値)の、平均値に対する割合が計算される。つまり、ばらつきdが次の式により計算される。
【0041】
【0042】
ここで、aはピークμスリップ率の平均値、mはピークμスリップ率の最大値及び最小値のうち平均値からの差が大きい方である。ただし、ばらつきとして、分散や標準偏差等が計算されても良い。
【0043】
次に、ST11では、全てのタイヤモデルについてのピークμスリップ率のばらつきの計算が終了したかが判断され、終了していない場合(ST11のNoの場合)は、次のタイヤモデルについてST3~ST10のステップが実行される。そして、全てのタイヤモデルについてのピークμスリップ率のばらつきの計算が終了した場合(ST11のYesの場合)は、ステップが次のST12に進む。
【0044】
ST12では、最適パラメータ特定部21により、ばらつき計算部20が求めたばらつきが最小となるタイヤモデルが特定される。ばらつきが最小となるタイヤモデルが特定されることにより、ST13においてばらつきを最小とするパラメータが特定される。このパラメータを「最適パラメータ」と言うこととする。本実施形態では、最適パラメータとして、トレッド部の各部位の剛性が特定される。
【0045】
以上の方法で得られたパラメータ(剛性)は、タイヤの設計に利用される。具体的には、トレッド部の各部位の剛性が最適パラメータと一致するように、各部位のゴムの配合が決定される。それにより、各部位のピークμスリップ率が、タイヤ全体で揃う。なお、タイヤの設計は、前記プログラムによりST13の後に継続して実行されても良いが、設計者の手によって実行されても良い。
【0046】
各部位のピークμスリップ率がタイヤ全体で揃うことにより、同じスリップ率のときに、各部位の摩擦係数がピークμとなる。そのため、タイヤに制動力がかかったときにスリップ率がピークμスリップ率となれば、そのとき接地している全ての部位で摩擦係数がピークμとなり、接地面全体で最大の制動力が生じる。各部位のピークμスリップ率がタイヤ全体で揃うことにより、タイヤに制動力がかかったときにいずれの部位が接地していたとしても、この作用効果が生じる。
【0047】
このようにして設計されるタイヤにおいて、上記の数2の式で計算されるピークμスリップ率のばらつきdが、2%以内となることが好ましく、1%以内となることがより好ましい。
【0048】
以上のように、本実施形態のタイヤ評価方法は、パラメータの異なる複数のタイヤモデルを取得するステップを含む。そして、タイヤ評価方法は、複数のタイヤモデルについて、タイヤモデルのトレッド部を複数の部位に分割するステップと、タイヤモデルの挙動解析の結果に基づき部位毎にμ-S線図を求め、各部位のピークμスリップ率を求めるステップと、各部位のピークμスリップ率のばらつきを求めるステップと、を含んでいる。そのため、設計者は、パラメータの異なる複数のタイヤモデルについて、ピークμスリップ率のばらつきを知ることができる。ピークμスリップ率のばらつきの小さいタイヤほど、接地している全ての部位で大きな制動力が発生するので、設計者は、制動性能の良いタイヤモデルがいずれかを知ることができ、タイヤの設計に活かすことができる。
【0049】
また、本実施形態では、タイヤ評価方法が、ピークμスリップ率のばらつきが最小となるタイヤモデルを特定するステップを含んでいる。そのため、設計者は、複数のタイヤモデルの中のいずれが制動性能の良いタイヤモデルなのか、容易に知ることができる。
【0050】
また、本実施形態では、ピークμスリップ率のばらつきが最小となるタイヤモデルのパラメータが特定されるので、設計者がそのパラメータを使用することにより、制動性能の良いタイヤを設計することができる。
【0051】
ここで、トレッド部の剛性がピークμスリップ率に影響するので、ST1においてトレッド部の各部位の剛性の異なる複数のタイヤモデルを取得し、ST13においてトレッド部の各部位の剛性を最適パラメータとして特定することにより、効果的に制動性能の良いタイヤを設計することができる。
【0052】
以上の実施形態に対して、様々な変更を行うことができる。
【0053】
例えば、トレッドパターンのピッチ長は、トレッド部の各部位の剛性に影響し、ひいてはピークμスリップ率に影響する。ピッチ長が短いほど各部位の剛性が低く、ピークμスリップ率が大きくなる。
【0054】
そこで、変更例として、タイヤモデル取得部11が、ピッチ長の異なる複数のタイヤモデルを取得することとしても良い。なお、ピッチ長の異なる複数のタイヤモデルは、1つ1つ作成されたものでも良いし、基準となるタイヤモデルからモーフィングにより生成されたものでも良い。
【0055】
この変更例の場合、
図2のST1において、ピッチ長の異なる複数のタイヤモデルが取得される。次に、上記実施形態と同じ上記のST1~ST11のステップが実行される。そして、ST12において、最適パラメータ特定部21により、ピークμスリップ率のばらつきが最小となるタイヤモデルが特定され、ST13において、そのタイヤモデルのパラメータが最適パラメータとして特定される。この変更例では、最適パラメータとしてピッチ長が特定される。
【0056】
このようにして特定された最適パラメータとしてのピッチ長に基づき、タイヤの設計が行われる。それにより、各部位のピークμスリップ率が揃ったタイヤが設計できる。
【符号の説明】
【0057】
10…タイヤ評価装置、11…タイヤモデル取得部、12…路面モデル取得部、13…部位設定部、14…境界条件設定部、15…挙動解析部、16…分類部、17…積算部、18…μ-S線図作成部、19…μ-S線図分析部、20…ばらつき計算部、21…最適パラメータ特定部、30…タイヤモデル、31…トレッド部、32…粘着領域、33…滑り領域