(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】画像形成装置用ベルト、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G03G 15/16 20060101AFI20241024BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20241024BHJP
B32B 1/00 20240101ALI20241024BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
G03G15/16
G03G15/00 552
B32B1/00 Z
B32B27/00 Z
(21)【出願番号】P 2020218393
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】武智 重利
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-106036(JP,A)
【文献】特開2019-117292(JP,A)
【文献】特開2015-187625(JP,A)
【文献】特開2007-179013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/16
G03G 15/00
B32B 1/00
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドレスベルト上に樹脂硬化物からなる表面層を有する画像形成装置用ベルトであって、前記表面層の厚さが90~210nmであ
り、
前記樹脂硬化物が、(メタ)アクリル系化合物の電離放射線による硬化物であって、
前記樹脂硬化物は、油溶性染料を含まず、
前記画像形成装置用ベルトにおける表面層の光沢度(入射角60°)が90以上であることを特徴とする画像形成装置用ベルト。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系化合物が、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーであることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置用ベルト。
【請求項3】
前記エンドレスベルトが、フッ素系樹脂を主成分とする樹脂組成物から成ることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の画像形成装置用ベルト。
【請求項4】
前記エンドレスベルトは、JIS B0601-1982に準拠して測定される十点平均粗さ(Rz)が0.3~1.4μmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の画像形成装置用ベルト。
【請求項5】
前記エンドレスベルトは、JIS B0601-1982に準拠して測定される算術平均粗さ(Ra)が0.05~0.2μmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の画像形成装置用ベルト。
【請求項6】
光センサーを利用した画像形成装置用であることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の画像形成装置用ベルト。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載の画像形成装置用ベルトを用いたことを特徴とする転写搬送ベルト。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれかに記載の画像形成装置用ベルトを有する画像形成装置。
【請求項9】
JIS B0601-1982に準拠して測定される十点平均粗さ(Rz)が0.3~1.4μmである円筒状のエンドレスベルトを成形するベルト成形工程と、
電離放射線硬化型化合物を溶剤で希釈した塗工剤を、前記エンドレスベルト表面に塗布する塗布工程と、
前記塗工剤を乾燥後、電離放射線より硬化させる硬化工程と、
を順に備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の画像形成装置用ベルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置に用いられるベルトに関する。詳しくは、電子写真方式おいて、感光体に一次転写されたトナー像を表面に担持し、これを紙等の記録媒体へ二次転写する領域まで搬送する中間転写ベルトや、トナー像が転写される記録媒体を表面に担持して搬送する転写搬送ベルト、インクジェット方式において紙等の記録媒体を搬送する紙搬送ベルト等に関する。本発明の画像形成装置用ベルトは、光センサーを利用した画像形成装置において特に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
一般的な電子写真方式のカラー画像形成装置(カラープリンターやカラー複写機等)は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4つのプロセスカートリッジを備える。各プロセスカートリッジ内では、4色に分解された画像データに基づき、感光体上に静電潜像が形成され、該静電潜像上へトナーが供給されトナー像が形成される。中間転写方式では、4つのトナー像が、順次、中間転写ベルト上に移され、該ベルト上でカラー画像となったのちに、紙等の記録媒体へ転写され定着される。一方、タンデム方式では、記録媒体が転写搬送ベルトにより各プロセスカートリッジへと搬送され、4つのトナー像が、順次、記録媒体の上へ転写され定着される。
一方、インクジェット方式は感光体を使用せず、記録媒体上に直接インクを滴下して画像を形成する。このとき記録媒体は、紙搬送ベルトにより4つ(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)のインクカートリッジへと、順次、搬送される。
【0003】
ここで用いられる中間転写ベルトや転写搬送ベルト、紙搬送ベルトは、表面がトナーやインク、紙粉等で汚れるとクリーニングユニットにより清浄化されるが、この清浄化のタイミングは光学センサーにより計られている。また4つの画像の位置関係がずれない(色ズレしない)ように、中間転写ベルトにおけるトナー像や、転写搬送ベルトや紙搬送ベルトにおける記録媒体の位置等も、光センサーにより計測されている。
光センサーは、発光素子から発した光をベルト表面で反射させ、その反射光を受光素子で受光し、ベルト表面を計測するものである。当該光センサーの精度を高める為に、画像形成装置用ベルトには(1)光反射が大きいことと、(2)光反射のばらつきが小さいことが求められている。ベルト表面の光反射が小さいと、トナー等が付着した場合の光反射の変化量も小さくなる為、光センサーがトナーの付着等を検出しにくい。また、光反射のばらつきが大きいと、トナー等が付着していなくても光反射量が変化し、クリーニングユニット等が誤作動する恐れがある。
【0004】
また画像形成装置用ベルトには、トナー等の離型性がよいことなども求められている。更に、耐汚染性、耐摩耗性、耐擦傷性等も求められている。画像形成装置用ベルトには、これらの機能を付加する目的で、各種機能を有する塗工剤がしばしば塗布される。
しかしながら耐擦傷性を上げるために塗工層の硬度を硬くすると、割れが発生しやすくなる。割れを発生させないために、塗工層の厚さを薄く(1.5μm以下)すると、塗工層の僅かな厚みムラにより干渉縞が発生し、該干渉縞により光反射量が変化することがあった。光反射量が変化すると、光学センサーによる制御が困難になる。
【0005】
特許文献1は、色ずれ検出性能の高い画像形成装置用ベルト(特許文献1においては「エンドレスベルト」)に関する発明である。該画像形成装置用ベルトは、表面層(特許文献1においては「最外層」)の平均正反射率が5.0%以上であり、そのバラツキが平均正反射率の±10%以内であることを特徴とする。特許文献1は、当該性能を発揮する為に、表面層に赤外線吸収剤を含有させることを特徴とする。
特許文献2は、光学センサーからの光の反射に対する強度のばらつきが小さい画像形成装置用転写ベルトに関する発明である。該画像形成装置用転写ベルトは、表面層にアゾ系染料もしくはアントラキノン系染料等の油溶性染料を含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-179013号公報
【文献】特開2018-106036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や特許文献2に記載された発明は、赤外線吸収剤や油溶性染料(以下、これらを併せて「光吸収剤」と略称する)を利用して、光センサーの発光素子から放たれた光のうち、表面層の最表面で反射した光と、表面層を通過して表面層とエンドレスベルトの界面で反射した光とが干渉することを抑制するものである。しかしながら干渉を確実に抑制するためには、表面層に添加する光吸収剤を多くする必要があり、これがベルトの耐擦傷性低下につながっていた。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、光センサーにより表面状態を正確に計測することができる画像形成装置用ベルトを提供することである。詳しくは(1)光反射が大きく、(2)光反射のばらつきが小さい画像形成装置用ベルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、表面層を特定範囲の厚さにすることにより、光の反射量が大きくなること、更に光反射量のばらつきを抑制できること等を見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明によると以下の[1]乃至[4]記載の画像形成装置用ベルトが提供される。
[1] エンドレスベルト上に樹脂硬化物からなる表面層を有する画像形成装置用ベルトであって、前記表面層の厚さが90~210nmであることを特徴とする画像形成装置用ベルト。
[2] 前記樹脂硬化物が、電離放射線硬化型化合物の硬化物、又は、熱硬化型化合物の硬化物であることを特徴とする[1]記載の画像形成装置用ベルト。
[3] 前記樹脂硬化物が、(メタ)アクリル系化合物の電離放射線による硬化物であることを特徴とする[2]記載の画像形成装置用ベルト。
[4] 前記(メタ)アクリル系化合物が、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーであることを特徴とする[3]記載の画像形成装置用ベルト。
【0011】
また[5]乃至[7]記載の画像形成装置用ベルトが提供される。
[5] 前記樹脂硬化物が、ウレタン系エマルションの熱による硬化物であることを特徴とする[2]記載の画像形成装置用ベルト。
[6] 前記エンドレスベルトが、フッ素系樹脂を主成分とする樹脂組成物から成ることを特徴とする[1]乃至[5]のいずれかに記載の画像形成装置用ベルト。
[7] 前記画像形成装置用ベルトにおける表面層の光沢度(入射角60°)が90以上であることを特徴とする[1]乃至[6]のいずれかに記載の画像形成装置用ベルト。
【0012】
更に[8]記載の転写搬送ベルト、[9]記載の画像形成装置、[10]記載の画像形成装置用ベルトの製造方法が提供される。
[8] [1]乃至[7]のいずれかに記載の画像形成装置用ベルトを用いたことを特徴とする転写搬送ベルト。
[9] [1]乃至[7]のいずれかに記載の画像形成装置用ベルトを有する画像形成装置。
[10] JIS B0601-1982に準拠して測定される十点平均粗さ(Rz)が0.3~1.4μmである円筒状のエンドレスベルトを成形するベルト成形工程と、電離放射線硬化型化合物を溶剤で希釈した塗工剤、又は、熱硬化型化合物を必要に応じ水で希釈した塗工剤を、前記エンドレスベルト表面に塗布する塗布工程と、前記塗工剤を乾燥後、電離放射線、又は、熱により硬化させる硬化工程と、を順に備えることを特徴とする[1]乃至[7]のいずれかに記載の画像形成装置用ベルトの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の画像形成装置用ベルトは、光反射量が大きく、更に光反射量のばらつきが少ないため、光沢度ムラが小さく、たとえ干渉縞の影響で光反射量が多少変化したとしても、光センサーによりその表面状態を正確に計測することができる。また表面層の厚さが特定範囲内である為、該表面層は割れにくく、製造コストは低減する。また光吸収剤を使用していない為、画像形成装置用ベルトの耐擦傷性は良好で、製造コストも低い。
【0014】
また、表面層がアクリル系化合物の電離放射線による硬化物、更にはウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの電離放射線による硬化物である場合、画像形成装置用ベルトに滑り性、撥水性、トナー離型性等の機能も容易に付与することができる。したがって、画像のカラー化や高画質化、高速化、紙対応性などが求められるカラープリンター用途として好適に用いることができる。
また、表面層がウレタン系エマルションの熱による硬化物である場合、画像形成装置用ベルトに耐折性を付与することができる。
【0015】
また、エンドレスベルトがフッ素系樹脂を主成分とする場合、画像形成装置用ベルトに難燃性、耐薬品性、耐屈曲性といった性能を付与することができる。
更に、本発明による画像形成装置用ベルトの光沢度は90を超える為、光センサーによる表面測定が容易である。
更にまた、本発明の画像形成装置用ベルトは、JIS B0601-1982に準拠して測定される十点平均粗さ(Rz)0.3~1.4μmのエンドレスベルトを用いる場合において、特にその効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の画像形成装置用ベルトの一実施形態を表す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について説明する。尚、以下の記載は発明の趣旨をよりよく理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、本出願における図面に記載した構成の形状および寸法(長さ、幅等)は、実際の形状および寸法を必ずしも反映させたものではなく、図面の明瞭化および簡略化のために適宜変更している。
【0018】
図1は、本発明の画像形成装置用ベルトの一実施形態を表す模式的斜視図である。本発明の画像形成装置用ベルト1(以下、必要に応じ「ベルト」と略称する)は、円筒状のエンドレスベルト2とその表面を覆う表面層3とからなる。
【0019】
<エンドレスベルト>
エンドレスベルトを構成する材料は特に限定されるものではないが、成形性を考慮すると熱可塑性樹脂から成ることが好ましく、例えば、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂などを、単独で、または2種以上をブレンドして、或いは多層化して用いることができる。これらの中でも、フッ素系樹脂は、他の樹脂とは異なりそれ自身が難燃性を有し、また押出成形が容易で、防汚性、離型性をも有しているので、画像形成装置用ベルトのエンドレスベルトには最適である。このようなフッ素系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリヘキサフルオロプロピレン、エチレン-フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体等を採用することができる。
【0020】
また近年、プリンター等の高速化に伴い、エンドレスベルトには高い弾性率が求められるようになった。弾性率が低いと、駆動時にベルトが伸びて、転写位置がずれる恐れがある。エンドレスベルトの引張弾性率は700MPa以上であることが好ましく、更には1,000MPa以上が好ましい。エンドレスベルトの引張弾性率を上げるためには、上述した熱可塑性樹脂に、平板状フィラー、ウィスカー等の補強材を添加するとよい。また、エンドレスベルトの厚さは、50~300μmが好ましく、特に75~200μmが好ましい。厚さが50μm以下では十分な引張強度を得ることが難しく、厚さが300μmを超えると屈曲性が悪化する。
【0021】
本発明の画像形成装置用ベルトが、中間転写ベルトや転写搬送ベルト等の転写ベルトに用いられる場合、体積抵抗率が105~1013Ω・cmであることが好ましく、特には107~1012Ω・cmであることが好ましい。転写ベルトの体積抵抗率を上記の範囲に制御するために、本発明の目的を妨げない範囲でエンドレスベルトに導電性材料を配合することができる。導電性材料には電子伝導性材料とイオン伝導性材料がある。
【0022】
電子伝導性材料としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ等のカーボン系材料、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の導電性高分子、アルミニウム・亜鉛酸化物、アンチモン・スズ酸化物、インジウム・スズ酸化物、カーボンブラック等で表面処理を行った無機粒子等の導電性無機粒子を挙げることができる。
イオン伝導性材料としては、例えば、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルエステル、ポリエーテルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド共重合体、部分架橋ポリエチレンオキサイド共重合体、イオン電解質等があげられ、これらを単独で、あるいは二種類以上併用することができる。尚、イオン電解質としては、アルカリ金属のチオシアン酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ハロゲン含有酸素酸塩、テトラアルキルアンモニウム塩を単独、あるいは、複数種組合せて用いることができる。これらの中でも、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、チオシアン酸リチウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウムが好ましい。
【0023】
<表面層>
本発明のベルト1の表面層3は、樹脂硬化物から成り、その厚さは90~210nm、好ましくは110~190mmである。表面層の厚さが90nm未満でも、210nmを超えても、表面層の光反射量が低下し、または光反射のばらつきが大きくなり、光センサーによるベルト表面の計測が困難となる。
【0024】
本発明の表面層を構成する樹脂硬化物は、表面層の成形性を考慮すると、電離放射線硬化型化合物の硬化物、又は、熱硬化型化合物の硬化物であることが好ましい。
電離放射線硬化型化合物は、電離放射線により硬化する化合物であれば特に限定されるものではなく、エポキシ系化合物や、エポキシ化合物とオキセタン化合物の混合物、アクリル系化合物等を用いることができる。本発明では、特に好適な化合物として、電離放射線硬化型アクリル系化合物を挙げる。中でも好適な化合物として、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを挙げる。尚、(メタ)アクリルとは、アクリルあるいはメタクリルのことを意味する。
ウレタン(メタ)アクリレートとは、ポリイソシアネートと、短鎖及び長鎖のポリオール、及びヒドロキシ(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリレートとを反応させて得られる分子中にアクリル基とウレタン結合を有する化合物である。
【0025】
ポリイソシアネートとしては、トルイレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート等を例示することができる。また、短鎖のポリオールとしては、グリセリン、ペンタエリスリトール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジール、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどが挙げられる。また、長鎖のポリオールとしてはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリカプロラクトンジオール、ポリカーボネートジオール、あるいは短鎖ジオールと、コハク酸、アジピン酸などのジカルボン酸との反応で得られるポリエステルポリオール等を例示することができる。水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等を例示することができる。
また本発明においては、上述したウレタン(メタ)アクリレート以外の他の重合性アクリル系化合物を併用することができる。
【0026】
熱硬化型化合物は、熱により硬化する化合物であれば特に限定されるものではないが、ウレタン系樹脂を水に分散させたウレタン系のエマルションを好適に用いることができる。ウレタン系樹脂は柔軟性を示すため、表面層がウレタン系樹脂であると、画像形成装置用ベルトは耐折性に優れたものとなる。尚、ウレタン樹脂とは、上述したポリイソシアネートと、ポリオールの反応生成物である。
本発明の熱硬化型化合物として、特に好ましいのはポリイソシアネートとカーボネート系のポリオールとの反応物(カーボネート系ウレタン樹脂)のエマルションである。カーボネート系ウレタン樹脂は、他のポリオールから成るウレタン樹脂と比べて、強靭性が高く、耐擦傷性が良好である。
【0027】
更に、表面層は、撥水剤、フィラー、レベリング剤、導電性付与剤、光増感剤、安定剤、重合禁止剤、消泡剤、タレ止め剤、付着向上剤、改質剤、可塑剤などの各種添加剤を含有してもよい。
【0028】
撥水剤は必要に応じて適宜選択できるが、シリコーン系撥水剤やフッ素系撥水剤を好ましく使用できる。シリコーン系撥水剤としては、分子量500以上のシロキサン結合を有する化合物が好適に用いられる。具体的には、両末端に水酸基を有するジメチルポリシロキサン、末端にアルキル基を有するアルキルポリシロキサン、アルコキシ変性ジメチルポリシロキサン、およびフルオロアルキル変性ジメチルシリコーン等が挙げられる。さらには、末端に(メタ)アクリル基を有するジメチルポリシロキサンは、重合性アクリル化合物が硬化する際、化学結合を介して架橋構造中へ組み込まれるため、長期に渡ってその効果を持続することができるので好ましい。これらの撥水剤を含有した電離放射線硬化型アクリル系塗工剤を塗布、硬化させて表面層を形成させると、ベルト表面の表面自由エネルギーが低下し、トナーが付着し難くなると共に摩擦が小さくなるという効果を有する。したがって、画像形成装置用ベルトとトナーとの離型性が良好となり、転写効率が向上する。
【0029】
本発明の表面層は、画像形成装置用ベルトに耐擦傷性を付与するために、フィラーを含有してもよい。フィラーの粒径については制限ないものの、分散性や得られたベルトの表面粗さを考慮すると0.02μm以上、表面層の厚さ未満であることが好ましく、特に0.05~0.1μmが好ましい。これらのフィラーは、すべり性を阻害しない範囲で分散性を向上させるなどの目的のために表面処理が行われていてもよい。また、ベルトとしての特性に支障をきたさない範囲で分散剤を使用することもできる。フィラーの配合量としては、電離放射線硬化型化合物、又は、熱硬化型化合物100重量部に対し0.5~40重量部が好ましく、特には1.0~30重量部が好ましい。
【0030】
フィラーとしては、例えば、フッ素ゴム、黒鉛やグラファイトにフッ素が結合したフッ化炭素及びポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等のフッ素含有樹脂の粉末、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、シリコーンエラストマー等のシリコーン系の粉末、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂粉末、シリカ、アルミナ、酸化チタン及び酸化マグネシウム等の無機粉末などが挙げられる。これらのフィラーは、塗工剤中への分散性を向上させるために表面処理を施しても良く、単独または併用して使用することもできる。
【0031】
<画像形成装置用ベルト>
尚、本発明の画像形成装置用ベルトは、表面層の光沢度(入射角60°)が90以上であることが好ましく、更に95以上であることが好ましい。光沢度が90未満では表面層の光の反射量が少なくなり、トナー等が付着した場合の光反射の変化量も小さくなる為、光センサーがトナーの付着等を検出しにくい。尚、本発明のベルトにおける表面層の光沢度は、ベルトを円周方向に等間隔で4分割した領域で長さ方向に異なる3点(計12点)で測定した値の平均値を使用する。
また本発明のベルトは、上記12点で測定した値の最大値と最小値の差が12以下であることが好ましく、特に10以下、更には8以下であることが好ましい。光沢度の差が12を超えると、光反射のばらつきが大きくなり、トナー等が付着していなくても光反射量が変化し、クリーニングユニット等が誤作動する恐れがある。
【0032】
<画像形成装置用ベルトの製造方法>
本発明のベルトの製造方法は、(1)円筒状のエンドレスベルトを成形するベルト成形工程と、(2)電離放射線硬化型化合物を溶剤で希釈した塗工剤、又は、熱硬化型化合物を必要に応じ水で希釈した塗工剤を、前記エンドレスベルト表面に塗布する塗布工程と、(3)前記塗工剤を乾燥後、電離放射線、又は、熱により硬化させる硬化工程と、を順に備える。
【0033】
(1)ベルト成形工程
上述したエンドレスベルトを成形する為の樹脂を、押出成形法、遠心成形法、ディッピング法等により、
図1に示すような、エンドレスベルトの形状に成形する。比較的簡単に連続生産ができる成形方法として、本発明では環状ダイを装着した押出機を用いる押出成形法を提案する。該方法により環状ダイから樹脂をチューブ状に押出し、得られたチューブを所定長さにカットすることによりエンドレスベルトを得ることができる。
【0034】
尚、環状ダイを用いたエンドレスベルトは、JIS B0601-1982に準拠して測定される十点平均粗さ(Rz)が比較的小さいと、エンドレスベルト表面に表面層を設けた場合に、光沢度にムラが発生しやすいという問題を内在している。本発明は十点平均粗さ(Rz)が0.3~1.4μm、特に0.4~0.8μmのエンドレスベルトに用いた場合に、その効果を発揮することができる。また、JIS B0601-1982に準拠して測定される算術平均粗さ(Ra)が0.05~0.2μm、特に0.05~0.15μm、更には0.06~0.12μmのエンドレスベルトにおいてその効果を発揮することができる。
尚、本発明の十点平均粗さ(Rz)、算術平均粗さ(Ra)、最大高さ(Rmax)は、いずれもサーフコム570A((株)東京精密製)を用いて、ベルト表面の任意の5点において測定される値の平均値である。また、触針は先端曲率半径が2μmのものを使用し、カットオフ値0.8mm、測定長さ2.5mm、速度0.3mm/secにて測定される値である。
【0035】
(2)塗布工程
塗布工程に先立ち、塗工液を調製する。
具体的には、上述した樹脂硬化物が(i)電離放射線硬化型化合物の硬化物である場合、電離放射線硬化型化合物と、必要に応じ配合される各種添加剤やフィラー等と、電離放射線硬化型化合物を電離放射線により硬化させるための光重合開始剤とを、溶剤により希釈し、塗工液とする。
【0036】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルエトキシフォスフィンオキサイド、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、ヒドロキシベンゾフェノン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-S-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリクロロ)-S-トリアジン、2-(4-メトキシフェニル)-4、6-ビス(トリクロロメチル)-S-トリアジン、鉄-アレン錯体、チタノセン化合物などが挙げられ、これらのうち1種、または2種以上を併用して使用するのが好ましい。
【0037】
溶剤の配合量は、所望する塗工剤の粘度、塗工厚さ等に応じて適宜調整することができる。例えば電離放射線硬化型化合物中の重合性化合物100重量部に対し、溶剤は70~2000重量部、好ましくは300~1500重量部である。溶剤の量が70重量部よりも少ないと、塗布性、取扱い性等が悪化し、また表面層を薄膜化することが難しくなる。また2000重量部を超えると乾燥に時間を要することとなる。尚、塗工剤の粘度は、薄く、膜厚変化の少ない表面層を得るためには50mPa・s以下であることが望ましい。
【0038】
また、上述した樹脂硬化物が、(ii)ウレタン系エマルションの熱による硬化物である場合、ウレタン樹脂と水と乳化剤とを混合させてウレタン系エマルションを作成した後、必要に応じ更に水を加えて希釈し、塗工液を得ることができる。塗工剤の粘度は、薄く、膜厚変化の少ない表面層を得るためには200mPa・s以下であることが望ましい。
エマルションには、界面活性剤を乳化剤として使用する強制乳化型と、樹脂中に親水基を導入する自己乳化型がある。本発明のウレタン系エマルションは、乾燥後に界面活性剤がブリードアウトする懸念のない自己乳化型のエマルションであることが好ましい。自己乳化型の親水基は、アニオン系、カチオン系、又は、ノニオン系を用いてもよい。
【0039】
塗工剤を、前記エンドレスベルト表面に塗布する方法は、ロールコート、バーコート、ディップコート、スプレーコート等を例示することができる。中でもスプレーコート法は膜厚均一性に優れる為、またロールコート法は塗工剤のロスが少ない為、本発明の塗工方法として特に適している。
【0040】
(3)硬化工程
エンドレスベルト上に塗工剤を塗布した後、塗工剤を乾燥させ、電離放射線、又は、熱により、表面層を硬化させて、本発明のベルトは完成する。なお、本発明における電離放射線には特に制限がなく、例えば、紫外線、電子線、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、エックス線、中性子線を例示できる。その照射量は、紫外線の場合、通常100~15,000mJ/cm2、好ましくは300~8,000mJ/cm2である。
また、電離放射線を照射して硬化させる場合、熱による硬化のように高温で加熱する必要がなく、熱による画像形成装置用転写ベルトへのダメージがないという利点を有している。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の効果について、実施例によりさらに詳しく説明する。尚、実施例および比較例で作成した画像形成装置用ベルトは、以下の項目について評価し、その結果を表1に示す。
<光沢度>
光沢度は、(株)堀場製作所製光沢度計グロスチェッカIG-320を使用し、入射角60°、受光角60°に設定したときの測定値である。ベルトを円周方向に等間隔で4分割した領域で長さ方向に異なる3点(計12点)で測定した。
【0042】
(実施例1)
ポリフッ化ビニリデン100重量部(引張弾性率が1,400MPaのもの)に対して、ポリエチレンオキサイド共重合体5重量部、過塩素酸リチウム0.5重量部を混合し、二軸混練機で混練、ペレット化し、エンドレスベルト用樹脂組成物を得た。
シリンダー径50mmの押出機の先端に環状ダイを装着した装置を用い、エンドレスベルト用樹脂組成物を押出してチューブ状に成形後、長さ400mmにカットし、厚さ100μm、周長850mm、幅400mmのエンドレスベルトを作成した。
該エンドレスベルトの表面粗さをサーフコム570A((株)東京精密)を用いてJIS B0601-1982に準拠して、触針先端半径2μm、カットオフ値0.8mm、測定長さ2.5mm、速度0.3mm/secにて測定した。エンドレスベルト表面5か所について測定し、その平均値を求めたところ、Ra=0.08μm、Rmax=0.90μm、Rz=0.57μmであった。
【0043】
次いで、電離放射線硬化型アクリル系化合物として、分子量70,000、(メタ)アクリル基1個当たりの分子量(以下、(メタ)アクリル当量という)1,380のウレタンアクリレートオリゴマー(根上工業製)を97重量部、光重合開始剤として2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン2.85重量部、シリコーン系撥水剤0.15重量部に、溶剤であるメチルイソブチルケトンを1000重量部加え、均一に溶解して、表面層用の電離放射線硬化型アクリル系化合物を含む塗工剤を調製した。
得られた塗工剤をロールコート法にてエンドレスベルトの表面に塗布し、乾燥後、紫外線を3,000mJ/cm2照射して厚さ110nmの表面層を形成した。次いで、幅350mmにカットして実施例1の画像形成装置用ベルトを得た。該ベルトの評価結果を表1に示す。
【0044】
(実施例2~4、比較例1~6)
表面層の厚さを表1に記すように変化させた以外は、実施例1と同様にしてベルトを得た。各ベルトの評価結果を表1に記す。
【0045】
【0046】
実施例1~3のベルトは光沢度の平均値が90を超えており、光反射量が大きかった。また光沢度の最大値と最小値の差が10未満であり、光反射量のばらつきが小さかった。よって光センサーによりその表面状態を正確に測定することができる。比較例1~3、比較例5のベルトは光沢度の平均値が90未満である為、光反射量が小さい。比較例4、6のベルトは光沢度の平均値が90を超えているものの、光沢度の差が大きく、光反射量のばらつきが大きかった。
【符号の説明】
【0047】
1 画像形成装置用ベルト
2 エンドレスベルト
3 表面層