(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】繰り返し屈曲デバイス用粘着剤、粘着シート、繰り返し屈曲積層部材および繰り返し屈曲デバイス
(51)【国際特許分類】
C09J 133/04 20060101AFI20241024BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20241024BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20241024BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C09J133/04
C09J7/38
B32B27/00 M
B32B27/30 A
(21)【出願番号】P 2021013921
(22)【出願日】2021-01-29
【審査請求日】2023-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】峰松 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 旭平
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/162245(WO,A1)
【文献】特開2020-131565(JP,A)
【文献】特開2019-108502(JP,A)
【文献】特開2021-088698(JP,A)
【文献】特開2020-139037(JP,A)
【文献】特開2021-195552(JP,A)
【文献】特開2020-139036(JP,A)
【文献】国際公開第2020/250066(WO,A1)
【文献】特開2017-095655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するための繰り返し屈曲デバイス用粘着剤であって、
前記粘着剤の-30℃における貯蔵弾性率G’(-30)が、0.20MPa以下であり、
前記粘着剤に4500Paの応力を印加した時に測定されるクリープコンプライアンス値を最小クリープコンプライアンスJ(t)
min(MPa
-1)とし、当該最小クリープコンプライアンスJ(t)
minが測定されてから1200秒後まで4500Paの応力を印加し続け、その間に測定される最大のクリープコンプライアンス値を最大クリープコンプライアンスJ(t)
max(MPa
-1)とし、以下の式(I)から算出されるクリープコンプライアンス変動値ΔlogJ(t)が、2.60以下である
ことを特徴とする繰り返し屈曲デバイス用粘着剤。
ΔlogJ(t)=logJ(t)
max-logJ(t)
min …(I)
【請求項2】
前記粘着剤に4500Paの応力を印加し続けて1200秒後に測定されるクリープコンプライアンス値をクリープコンプライアンスJ(t)(s=1200)(MPa
-1)とし、その後、前記粘着剤に印加する応力を0Paとしてから100秒後に測定されるクリープコンプライアンス値をクリープコンプライアンスJ(t)(s=1300)(MPa
-1)とし、以下の式(II)から算出されるクリープ回復率が、90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の繰り返し屈曲デバイス用粘着剤。
クリープ回復率(%)=(1-J(t)(s=1300)/J(t)(s=1200))×100 …(II)
【請求項3】
85℃における貯蔵弾性率G’(85)が、0.005MPa以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の繰り返し屈曲デバイス用粘着剤。
【請求項4】
-30℃における貯蔵弾性率G’(-30)を25℃における貯蔵弾性率G’(25)で除した値である貯蔵弾性率変化度(-30/25)が、5.0以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の繰り返し屈曲デバイス用粘着剤。
【請求項5】
-30℃における貯蔵弾性率G’(-30)を85℃における貯蔵弾性率G’(85)で除した値である貯蔵弾性率変化度(-30/85)が、10.0以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の繰り返し屈曲デバイス用粘着剤。
【請求項6】
ゲル分率が、40%以上、95%以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の繰り返し屈曲デバイス用粘着剤。
【請求項7】
前記粘着剤が、粘着主剤および低分子量成分を含有し、
前記低分子量成分の重量平均分子量が、400以上、100000以下であり、
前記低分子量成分のガラス転移温度(Tg)が、-40℃以下である
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の繰り返し屈曲デバイス用粘着剤。
【請求項8】
前記粘着剤が、アクリル系粘着剤であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の繰り返し屈曲デバイス用粘着剤。
【請求項9】
繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するための粘着剤層を有する粘着シートであって、
前記粘着剤層が、請求項1~8のいずれか一項に記載の繰り返し屈曲デバイス用粘着剤からなる
ことを特徴とする粘着シート。
【請求項10】
前記粘着シートが、2枚の剥離シートを備えており、
前記粘着剤層が、前記2枚の剥離シートの剥離面と接するように前記剥離シートに挟持されている
ことを特徴とする請求項9に記載の粘着シート。
【請求項11】
繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材および他の屈曲性部材と、
前記一の屈曲性部材と前記他の屈曲性部材とを互いに貼合する粘着剤層と
を備えた繰り返し屈曲積層部材であって、
前記粘着剤層が、請求項1~8のいずれか一項に記載の繰り返し屈曲デバイス用粘着剤からなる
ことを特徴とする繰り返し屈曲積層部材。
【請求項12】
請求項11に記載の繰り返し屈曲積層部材を備えたことを特徴とする繰り返し屈曲デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰り返し屈曲されるデバイス用の粘着剤および粘着シート、ならびに繰り返し屈曲積層部材および繰り返し屈曲デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、デバイスの一種である、電子機器の表示体(ディスプレイ)として、屈曲可能な屈曲性ディスプレイが提案されている。屈曲性ディスプレイとしては、1回だけ曲面成形するものの他に、繰り返し屈曲させる(折り曲げる)用途の繰り返し屈曲ディスプレイが提案されている。
【0003】
上記のような繰り返し屈曲ディスプレイにおいては、当該屈曲性ディスプレイを構成する一の屈曲可能な部材(屈曲性部材)と、他の屈曲性部材とを粘着剤層によって貼合することが考えられる。しかしながら、繰り返し屈曲ディスプレイに従来の粘着剤を使用すると、粘着剤層と被着体との界面に浮きや剥がれが発生するという問題が生じる。
【0004】
特許文献1は、繰り返し屈曲させても粘着剤層の浮きや剥がれの発生を抑制することを課題とした粘着剤を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような粘着剤を使用した場合でも、繰り返しの屈曲による浮きや剥がれの発生を十分に抑制することはできなかった。
【0007】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、繰り返し屈曲デバイスに適用した場合に、浮きや剥がれの発生が抑制される繰り返し屈曲デバイス用粘着剤および粘着シート、ならびに浮きや剥がれの発生が抑制される繰り返し屈曲積層部材および繰り返し屈曲デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するための繰り返し屈曲デバイス用粘着剤であって、前記粘着剤の-30℃における貯蔵弾性率G’(-30)が、0.20MPa以下であり、前記粘着剤に4500Paの応力を印加した時に測定されるクリープコンプライアンス値を最小クリープコンプライアンスJ(t)min(MPa-1)とし、当該最小クリープコンプライアンスJ(t)minが測定されてから1200秒後まで4500Paの応力を印加し続け、その間に測定される最大のクリープコンプライアンス値を最大クリープコンプライアンスJ(t)max(MPa-1)とし、以下の式(I)から算出されるクリープコンプライアンス変動値ΔlogJ(t)が、2.60以下であることを特徴とする繰り返し屈曲デバイス用粘着剤を提供する(発明1)。
ΔlogJ(t)=logJ(t)max-logJ(t)min …(I)
【0009】
上記発明(発明1)においては、-30℃における貯蔵弾性率G’(-30)が上記のように小さいことにより、低温環境下(例えば-30℃)での繰り返し屈曲に伴って発生する応力を少なくすることができる。一方、クリープコンプライアンス変動値が上記のように小さいことにより、繰り返し屈曲したとき又は長時間屈曲したときに、温度環境によらず粘着剤がひずみ過ぎることを抑制することができる。その結果、繰り返し屈曲デバイスに適用した場合に、低温~高温の環境下で粘着剤層と被着体との界面に浮きや剥がれが発生し難く、優れた耐屈曲性が得られる。
【0010】
上記発明(発明1)においては、前記粘着剤に4500Paの応力を印加し続けて1200秒後に測定されるクリープコンプライアンス値をクリープコンプライアンスJ(t)(s=1200)(MPa-1)とし、その後、前記粘着剤に印加する応力を0Paとしてから100秒後に測定されるクリープコンプライアンス値をクリープコンプライアンスJ(t)(s=1300)(MPa-1)とし、以下の式(II)から算出されるクリープ回復率が、90%以上であることが好ましい(発明2)。
クリープ回復率(%)=(1-J(t)(s=1300)/J(t)(s=1200))×100 …(II)
【0011】
上記発明(発明1,2)においては、85℃における貯蔵弾性率G’(85)が、0.005MPa以上であることが好ましい(発明3)。
【0012】
上記発明(発明1~3)においては、-30℃における貯蔵弾性率G’(-30)を25℃における貯蔵弾性率G’(25)で除した値である貯蔵弾性率変化度(-30/25)が、5.0以下であることが好ましい(発明4)。
【0013】
上記発明(発明1~4)においては、-30℃における貯蔵弾性率G’(-30)を85℃における貯蔵弾性率G’(85)で除した値である貯蔵弾性率変化度(-30/85)が、10.0以下であることが好ましい(発明5)。
【0014】
上記発明(発明1~5)においては、ゲル分率が、40%以上、95%以下であることが好ましい(発明6)。
【0015】
上記発明(発明1~6)においては、前記粘着剤が、粘着主剤および低分子量成分を含有し、前記低分子量成分の重量平均分子量が、400以上、100000以下であり、前記低分子量成分のガラス転移温度(Tg)が、-40℃以下であることが好ましい(発明7)。
【0016】
上記発明(発明1~7)においては、前記粘着剤が、アクリル系粘着剤であることが好ましい(発明8)。
【0017】
第2に本発明は、繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するための粘着剤層を有する粘着シートであって、前記粘着剤層が、前記繰り返し屈曲デバイス用粘着剤(発明1~8)からなることを特徴とする粘着シートを提供する(発明9)。
【0018】
上記発明(発明9)においては、前記粘着シートが、2枚の剥離シートを備えており、前記粘着剤層が、前記2枚の剥離シートの剥離面と接するように前記剥離シートに挟持されていることが好ましい(発明10)。
【0019】
第3に本発明は、繰り返し屈曲されるデバイスを構成する一の屈曲性部材および他の屈曲性部材と、前記一の屈曲性部材と前記他の屈曲性部材とを互いに貼合する粘着剤層とを備えた繰り返し屈曲積層部材であって、前記粘着剤層が、前記繰り返し屈曲デバイス用粘着剤(発明1~8)からなることを特徴とする繰り返し屈曲積層部材を提供する(発明11)。
【0020】
第4に本発明は、前記繰り返し屈曲積層部材(発明11)を備えたことを特徴とする繰り返し屈曲デバイスを提供する(発明12)。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る繰り返し屈曲デバイス用粘着剤および粘着シートは、繰り返し屈曲デバイスに適用した場合に、粘着剤層と被着体との界面に浮きや剥がれが発生し難い。また、本発明に係る繰り返し屈曲積層部材および繰り返し屈曲デバイスは、粘着剤層と被着体との界面に浮きや剥がれが発生し難い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る粘着シートの断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る繰り返し屈曲積層部材の断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る繰り返し屈曲デバイスの断面図である。
【
図4】動的屈曲試験を説明する説明図(側面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔繰り返し屈曲デバイス用粘着剤〕
本実施形態に係る繰り返し屈曲デバイス用粘着剤(以下、単に「粘着剤」という場合がある。)は、繰り返し屈曲デバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するための粘着剤である。繰り返し屈曲デバイスおよび屈曲性部材については、後述する。
【0024】
本実施形態に係る粘着剤は、-30℃における貯蔵弾性率G’(-30)が0.20MPa以下であることが好ましく、当該粘着剤に4500Paの応力を印加した時に測定されるクリープコンプライアンス値を最小クリープコンプライアンスJ(t)min(MPa-1)とし、当該最小クリープコンプライアンスJ(t)minが測定されてから1200秒後まで4500Paの応力を印加し続け、その間に測定される最大のクリープコンプライアンス値を最大クリープコンプライアンスJ(t)max(MPa-1)とし、以下の式(I)から算出されるクリープコンプライアンス変動値ΔlogJ(t)が、2.60以下であることが好ましい。
ΔlogJ(t)=logJ(t)max-logJ(t)min …(I)
なお、貯蔵弾性率G’の測定方法およびクリープコンプライアンスJ(t)の測定方法の詳細は、後述する試験例に示す通りである。また、「粘着剤に4500Paの応力を印加した時」とは、粘着剤に応力を印加し、その応力が4500Paに達した時点のことをいう。
【0025】
本実施形態に係る粘着剤は、-30℃における貯蔵弾性率G’(-30)が上記のように小さいことにより、低温環境下(例えば-30℃)での繰り返し屈曲に伴って発生する応力を少なくすることができる。一方、クリープコンプライアンス変動値が上記のように小さいことにより、繰り返し屈曲したとき又は長時間屈曲したときに、温度環境によらず粘着剤がひずみ過ぎないようにすることができる。ひずみ過ぎる粘着剤は、屈曲による変形に伴って粘着剤の内部構造も変化してしまい、屈曲を解いた場合でも粘着剤が元の状態に戻らなくなってしまうが、本実施形態に係る粘着剤では、かかるひずみ過ぎを抑制することができる。上記2つの物性値は一般的には相反するものであるが、本実施形態に係る粘着剤では、上記2つの物性値を両立させており、-30℃という非常に低い温度においても変形に対する応力が小さく、かつ、変形によるひずみの少ないものとなっている。その結果、繰り返し屈曲デバイスに適用した場合に、低温~高温の環境下で粘着剤層と被着体との界面に浮きや剥がれが発生し難く、優れた耐屈曲性が得られる。
【0026】
上記耐屈曲性の観点から、本実施形態に係る粘着剤の-30℃における貯蔵弾性率G’(-30)は、0.20MPa以下であることが好ましく、0.15MPa以下であることがより好ましく、特に0.11MPa以下であることが好ましく、さらには0.10MPa以下であることが好ましい。また、凝集力の観点から、上記粘着剤層を構成する粘着剤の-30℃における貯蔵弾性率G’(-30)は、0.01MPa以上であることが好ましく、0.02MPa以上であることがより好ましく、特に0.04MPa以上であることが好ましく、さらには0.08MPa以上であることが好ましい。
【0027】
また、上記耐屈曲性の観点から、上記クリープコンプライアンス変動値ΔlogJ(t)は、2.60以下であることが好ましく、2.58以下であることがより好ましく、特に2.56以下であることが好ましく、さらには2.54以下であることが好ましい。なお、クリープコンプライアンス変動値の下限値は特に限定されないが、通常は1.50以上であることが好ましく、特に2.00以上であることが好ましく、さらには2.20以上であることが好ましい。
【0028】
本実施形態に係る粘着剤の最小クリープコンプライアンスJ(t)minは、下限値として、1MPa-1以上であることが好ましく、5MPa-1以上であることがより好ましく、特に10MPa-1以上であることが好ましく、さらには15MPa-1以上であることが好ましい。最小クリープコンプライアンスJ(t)minの下限値が上記であることで、上記クリープコンプライアンス変動値ΔlogJ(t)が上記の値を満たし易いものとなる。最小クリープコンプライアンスJ(t)minの上限値は特に限定されないが、通常は1000MPa-1以下であることが好ましく、特に100MPa-1以下であることが好ましく、さらには20MPa-1以下であることが好ましい。
【0029】
また、本実施形態に係る粘着剤の最大クリープコンプライアンスJ(t)maxは、上限値として、10000MPa-1以下であることが好ましく、8000MPa-1以下であることがより好ましく、特に6000MPa-1以下であることが好ましく、さらには5500MPa-1以下であることが好ましい。最大クリープコンプライアンスJ(t)maxの上限値が上記であることで、上記クリープコンプライアンス変動値ΔlogJ(t)が上記の値を満たし易いものとなる。最大クリープコンプライアンスJ(t)maxの下限値は特に限定されないが、通常は1100MPa-1以上であることが好ましく、特に2000MPa-1以上であることが好ましく、さらには4000MPa-1以上であることが好ましい。
【0030】
本実施形態に係る粘着剤は、当該粘着剤に4500Paの応力を印加し続けて1200秒後に測定されるクリープコンプライアンス値をクリープコンプライアンスJ(t)(s=1200)(MPa-1)とし、その後、上記粘着剤に印加する応力を0Paとしてから100秒後に測定されるクリープコンプライアンス値をクリープコンプライアンスJ(t)(s=1300)(MPa-1)とし、以下の式(II)から算出されるクリープ回復率が、90%以上であることが好ましく、92%以上であることがより好ましく、特に94%以上であることが好ましく、さらには96%以上であることが好ましい。
クリープ回復率(%)=(1-J(t)(s=1300)/J(t)(s=1200))×100 …(II)
【0031】
本実施形態に係る粘着剤が上記のクリープ回復率を示すことにより、当該粘着剤を適用した繰り返し屈曲デバイスが長期間屈曲状態に置かれた場合においても、屈曲状態からの復元性に優れ、粘着剤層に屈曲跡が付き難くなる。
【0032】
クリープ回復率の上限値は特に限定されないが、通常は、100%以下であることが好ましく、特に99%以下であることが好ましく、さらには98%以下であることが好ましい。
【0033】
本実施形態に係る粘着剤のクリープコンプライアンスJ(t)(s=1200)は、下限値として、1100MPa-1以上であることが好ましく、2000MPa-1以上であることがより好ましく、特に4000MPa-1以上であることが好ましく、さらには4600MPa-1以上であることが好ましい。これによって、より適切な応力緩和性を有する粘着剤となる。クリープコンプライアンスJ(t)(s=1200)の上限値は、粘着剤の凝集力の観点から、通常は10000MPa-1以下であることが好ましく、特に8000MPa-1以下であることが好ましく、さらには6000MPa-1以下であることが好ましい。
【0034】
また、本実施形態に係る粘着剤のクリープコンプライアンスJ(t)(s=1300)は、上限値として、800MPa-1以下であることが好ましく、400MPa-1以下であることがより好ましく、特に200MPa-1以下であることが好ましく、さらには180MPa-1以下であることが好ましい。これにより、復元性により優れた粘着剤となる。クリープコンプライアンスJ(t)(s=1300)の下限値は、特に限定されないが、通常は1MPa-1以上であることが好ましく、特に10MPa-1以上であることが好ましく、さらには100MPa-1以上であることが好ましい。
【0035】
本実施形態に係る粘着剤の85℃における貯蔵弾性率G’(85)は、0.005MPa以上であることが好ましく、0.010MPa以上であることがより好ましく、特に0.020MPa以上であることが好ましく、さらには0.022MPa以上であることが好ましい。これにより、高温でも粘着剤層が柔らかくなり過ぎずに凝集力が維持される。また、本実施形態に係る粘着剤の85℃における貯蔵弾性率G’(85)は、0.10MPa以下であることが好ましく、0.08MPa以下であることがより好ましく、特に0.06MPa以下であることが好ましく、さらには0.04MPa以下であることが好ましい。これにより、低温における貯蔵弾性率G’が低いものを得やすくなる。
【0036】
本実施形態に係る粘着剤の25℃における貯蔵弾性率G’(25)は、0.15MPa以下であることが好ましく、0.10MPa以下であることがより好ましく、特に0.07MPa以下であることが好ましく、さらには0.04MPa以下であることが好ましい。これにより、好適な粘着性を発揮し易くなる。一方、25℃における貯蔵弾性率G’(25)は、0.010MPa以上であることが好ましく、0.015MPa以上であることがより好ましく、特に0.020MPa以上であることが好ましく、さらには0.026MPa以上であることが好ましい。これにより、標準環境温度領域での繰り返し屈曲性が優れるほか、抜き加工などの加工性が良好となる。
【0037】
本実施形態に係る粘着剤は、-30℃における貯蔵弾性率G’(-30)を25℃における貯蔵弾性率G’(25)で除した値である貯蔵弾性率変化度(-30/25)が、5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、特に3.5以下であることが好ましく、さらには3.3以下であることが好ましい。これにより、常温で適切な粘着力を有しながら、低温での高弾性率化を防止し易くなる。
【0038】
また、上記貯蔵弾性率変化度(-30/25)は、1.50以上であることが好ましく、2.00以上であることがより好ましく、特に2.50以上であることが好ましく、さらには3.00以上であることが好ましい。これにより、凝集力に優れた粘着剤を得やすくなる。
【0039】
本実施形態に係る粘着剤は、-30℃における貯蔵弾性率G’(-30)を85℃における貯蔵弾性率G’(85)で除した値である貯蔵弾性率変化度(-30/85)が、10.0以下であることが好ましく、7.0以下であることがより好ましく、特に5.0以下であることが好ましく、さらには4.5以下であることが好ましい。これにより、低温での低弾性率化と、高温での高弾性率化とを両立し易くなる。
【0040】
また、上記貯蔵弾性率変化度(-30/85)は、1.20以上であることが好ましく、2.00以上であることがより好ましく、特に2.50以上であることが好ましく、さらには3.00以上であることが好ましい。これにより、凝集力に優れた粘着剤を得やすくなる。
【0041】
本実施形態に係る粘着剤のゲル分率は、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、特に60%以上であることが好ましく、さらには70%以上であることが好ましい。これにより、粘着剤は、繰り返し屈曲に耐え得ることのできる好適な凝集力を発揮する。その結果、前述した耐屈曲性がより優れたものとなる。一方、本実施形態に係る粘着剤のゲル分率は、95%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましく、特に85%以下であることが好ましく、さらには80%以下であることが好ましい。これにより、繰り返し屈曲による粘着剤中における架橋構造の破壊が抑制されるものと推定され、粘着剤層自体が白濁することが抑制される。なお、本明細書におけるゲル分率の測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0042】
本実施形態に係る粘着剤は、上記の物性が満たされるものであれば特に限定されないが、粘着主剤とともに、低分子量成分を含有するものであることが好ましい。低分子量成分としては、重量平均分子量が、400以上、100000以下であり、ガラス転移温度(Tg)が、-40℃以下であるものが好ましい。このような物性を有する低分子量成分を粘着主剤とともに含有する粘着剤は、前述した物性、特に-30℃における貯蔵弾性率G’(-30)を満たし易いものとなる。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。また、本明細書におけるガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定装置による昇温・降温速度20℃/分での測定値である。
【0043】
上記低分子量成分の重量平均分子量(Mw)は、得られる粘着剤の貯蔵弾性率G’(85)を高くする観点、あるいはクリープコンプライアンス変動値を低くする観点より、400以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましく、特に2500以上であることが好ましく、さらには3500以上であることが好ましい。また、上記低分子量成分の重量平均分子量は、得られる粘着剤のヘイズ値を低いものとする観点から、100000以下であることが好ましく、50000以下であることがより好ましく、特に20000以下であることがより好ましく、さらには14000以下であることが好ましい。
【0044】
上記低分子量成分のガラス転移温度(Tg)は、-40℃以下であることが好ましく、-45℃以下であることがより好ましく、特に-50℃以下であることが好ましく、さらには-52℃以下であることが好ましい。また、上記低分子量成分のガラス転移温度(Tg)は、-80℃以上であることが好ましく、-70℃以上であることがより好ましく、特に-65℃以上であることが好ましく、さらには-60℃以上であることが好ましい。
上記低分子量成分の具体例については、後述する。
【0045】
本実施形態に係る粘着剤の種類は、上述した物性が満たされれば特に限定されず、例えば、アクリル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等のいずれであってもよい。また、当該粘着剤は、エマルション型、溶剤型または無溶剤型のいずれでもよく、架橋タイプまたは非架橋タイプのいずれであってもよい。それらの中でも、前述した物性を満たし易く、粘着物性、光学特性等にも優れるアクリル系粘着剤が好ましく、特に、溶剤型のアクリル系粘着剤が好ましい。
【0046】
本実施形態に係る粘着剤は、具体的には、粘着主剤としての(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、低分子量成分(B)と、所望によりさらに架橋剤(C)とを含有する粘着性組成物(以下「粘着性組成物P」という場合がある。)から得られる粘着剤であることが好ましい。かかる粘着剤であれば、前述した物性を満たし易く、また、良好な粘着力が得られ易い。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語も同様である。また、「重合体」には「共重合体」の概念も含まれるものとする。
【0047】
(1)粘着性組成物Pの成分
(1-1)(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、分子内に反応性官能基を有するモノマー(反応性官能基含有モノマー)とを含有することが好ましい。
【0048】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有することで、好ましい粘着性を発現することができる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。アルキル基は、直鎖状または分岐鎖状であってもよいし、環状構造を有するものであってもよい。
【0049】
アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸n-ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。中でも、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)を低下させ、得られる粘着剤を低弾性化する観点から、アルキル基の炭素数が4~12の(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、アルキル基の炭素数が5~10の(メタ)アクリル酸エステルが特に好ましい。具体的には、(メタ)アクリル酸n-ブチルおよび(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルが好ましく、特にアクリル酸2-エチルヘキシルが好ましい。なお、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを60質量%以上含有することが好ましく、80質量%以上含有することがより好ましく、特に90質量%以上含有することが好ましく、さらには95質量%以上含有することが好ましく、98質量%以上含有することが最も好ましい。これにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)に好適な粘着性を付与させることができるとともに、得られる粘着剤の低弾性率化を図ることが容易となる。また、アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを99.9質量%以下含有することが好ましく、特に99.5質量%以下含有することが好ましく、さらには99.0質量%以下含有することが好ましい。これにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中に他のモノマー成分を所望量導入することができる。
【0051】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として反応性官能基含有モノマーを含有することで、当該反応性官能基含有モノマー由来の反応性官能基を介して、後述する架橋剤(C)、または架橋剤(C)および低分子量成分(B)と反応し、これにより架橋構造(三次元網目構造)が形成され、所望の凝集力を有する粘着剤が得られる。当該粘着剤は、前述したクリープコンプライアンス変動値およびクリープ回復率を満たし易いものとなる。
【0052】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として含有する反応性官能基含有モノマーとしては、分子内に水酸基を有するモノマー(水酸基含有モノマー)、分子内にカルボキシ基を有するモノマー(カルボキシ基含有モノマー)、分子内にアミノ基を有するモノマー(アミノ基含有モノマー)などが好ましく挙げられる。これらの反応性官能基含有モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
上記反応性官能基含有モノマーの中でも、水酸基含有モノマーおよび/またはカルボキシ基含有モノマーが好ましく、特に、水酸基含有モノマーおよびカルボキシ基含有モノマーを併用することが好ましい。水酸基含有モノマーは、架橋密度を調整し易く、前述したクリープコンプライアンス変動値およびクリープ回復率を満たし易い。また、カルボキシ基含有モノマーは、得られる粘着剤の粘着力を向上させ、被着体との密着性を高めることができる。
【0054】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。上記の中でも、前述した物性の満たし易さの観点から、炭素数が1~4のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが好ましい。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等が好ましく挙げられ、特に、アクリル酸2-ヒドロキシエチルまたはアクリル酸4-ヒドロキシブチルが好ましく挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。中でも、得られる(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の粘着力の点からアクリル酸が好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、反応性官能基含有モノマーを、合計で0.1質量%以上含有することが好ましく、特に0.5質量%以上含有することが好ましく、さらには1.0質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、反応性官能基含有モノマーを、合計で10質量%以下含有することが好ましく、7質量%以下含有することがより好ましく、特に5質量%以下含有することが好ましく、さらには2質量%以下含有することが好ましい。反応性官能基含有モノマーに由来する成分は、低温下で水の凝固を招いて弾性率を高くする傾向にあるが、反応性官能基含有モノマーの含有量の上限値が上記であると、かかる傾向を抑制し、低温下での貯蔵弾性率G’を低くすることができる。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)がモノマー単位として上記の量で反応性官能基含有モノマーを含有すると、前述した貯蔵弾性率G’を好適な範囲にすることができる。さらに、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)がモノマー単位として上記の量で反応性官能基含有モノマーを含有すると、架橋の度合いを比較的強くすることができ、クリープコンプライアンス変動値を低下させるとともに、クリープ回復率を大きくすることができる。
【0057】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを、下限値として0.01質量%以上含有することが好ましく、0.1質量%以上含有することがより好ましく、特に0.4質量%以上含有することが好ましく、さらには0.8質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを、上限値として10質量%以下含有することが好ましく、7質量%以下含有することがより好ましく、特に4.8質量%以下含有することが好ましく、さらには1.8質量%以下含有することが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)がモノマー単位として上記の量で水酸基含有モノマーを含有すると、前述した貯蔵弾性率G’、クリープコンプライアンス変動値およびクリープ回復率を満たし易いものとなる。
【0058】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、カルボキシ基含有モノマーを含有しなくてもよいが、カルボキシ基含有モノマーを含有する場合には、0.005質量%以上含有することが好ましく、0.01質量%以上含有することがより好ましく、特に0.1質量%以上含有することが好ましく、さらには0.2質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位としてカルボキシ基含有モノマーを含有する場合、上限値として7質量%以下含有することが好ましく、4質量%以下含有することがより好ましく、特に1.5質量%以下含有することが好ましく、さらには0.8質量%以下含有することが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)がモノマー単位として上記の量でカルボキシ基含有モノマーを含有すると、得られる粘着剤を繰り返し屈曲デバイスに適用した場合に、耐屈曲性により優れたものとなる。
【0059】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、所望により、当該重合体を構成するモノマー単位として、他のモノマーを含有してもよい。他のモノマーとしては、反応性官能基含有モノマーの前述した作用を阻害しないためにも、反応性官能基を含有しないモノマーが好ましい。かかるモノマーとしては、例えば、N-アクリロイルモルホリン、N-ビニル-2-ピロリドン等の非反応性の窒素原子含有モノマー、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、酢酸ビニル、スチレンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合態様は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。
【0061】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量は、40万以上であることが好ましく、70万以上であることがより好ましく、特に90万以上であることが好ましく、さらには110万以上であることが好ましい。これにより、高温における貯蔵弾性率G’の低下を防止することができるとともに、クリープコンプライアンス変動値の低下に寄与することができる。一方、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量は、300万以下であることが好ましく、200万以下であることがより好ましく、特に170万以下であることが好ましく、さらには140万以下であることが好ましい。これにより、低温における貯蔵弾性率G’が高くなり過ぎることを防止することができる。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0062】
粘着性組成物Pにおいて、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
(1-2)低分子量成分(B)
低分子量成分(B)としては、前述した重量平均分子量およびガラス転移温度(Tg)を有するものであればよく、例えば、アクリル系オリゴマー、シリコーン系オリゴマー、オレフィン系オリゴマー等を使用することが好ましい。本実施形態に係る粘着剤がアクリル系粘着剤であり、粘着主剤として(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を使用する場合には、当該(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)との相溶性の観点から、アクリル系オリゴマーを使用することが好ましい。アクリル系オリゴマーを使用することにより、前述した物性がより満たされ易くなる。
【0064】
また、低分子量成分(B)は、反応性官能基を有するものであることが好ましい。低分子量成分(B)が反応性官能基を有することにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が有する官能基や、後述する架橋剤(C)と反応して架橋構造の一部を形成し、所定の凝集力が得られる。その結果、前述したクリープコンプライアンス変動値およびクリープ回復率がより満たされ易くなる。また、低分子量成分(B)が架橋構造の一部を形成し、粘着剤中に取り込まれることにより、粘着剤からのブリードアウトを抑制し、粘着力が低下することを防止することができる。
【0065】
低分子量成分(B)が有する反応性官能基の種類としては、例えば、水酸基、カルボキシ基、エポキシ基、チオール基等が挙げられる。これらの中でも、後述する架橋剤(C)、特にイソシアネート系架橋剤との反応性に優れる水酸基、または(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が有するカルボキシ基との反応性に優れるエポキシ基が好ましい。
【0066】
反応性官能基が水酸基の場合、低分子量成分(B)中における水酸基の量は、1~1000mgKOH/gが好ましく、5~100mgKOH/gがより好ましく、10~70mgKOH/gが特に好ましく、15~30mgKOH/gがさらに好ましい。また、反応性官能基がエポキシ基の場合、低分子量成分(B)中におけるエポキシ基の量は、0.01~100meq/gが好ましく、0.1~10meq/gがより好ましく、0.7~7meq/gが特に好ましく、1.2~3meq/gがさらに好ましい。
【0067】
アクリル系オリゴマーは、アクリル系モノマーの1種または2種以上、そして所望により他のモノマーを重合したものである。アクリル系オリゴマーは、当該オリゴマーを構成するモノマー単位として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、反応性官能基含有モノマーとを含有することが好ましい。
【0068】
粘着性組成物P中における低分子量成分(B)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、特に5質量部以上であることが好ましく、さらには10質量部以上であることが好ましい。これにより、得られる粘着剤の貯蔵弾性率G’、特に-30℃における貯蔵弾性率G’(-30)を低くするのに寄与することができる。また、当該含有量は、80質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、特に30質量部以下であることが好ましく、さらには20質量部以下であることが好ましい。これにより、クリープコンプライアンス変動値の上昇や、ブリードアウトによる粘着力の低下等を抑制することができる。
【0069】
(1-3)架橋剤(C)
架橋剤(C)は、当該架橋剤(C)を含有する粘着性組成物Pの加熱等をトリガーとして、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)、または(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)および低分子量成分(B)を架橋し、三次元網目構造を形成する。これにより、得られる粘着剤の凝集力が向上し、前述したクリープコンプライアンス変動値およびクリープ回復率が満たされ易くなる。
【0070】
上記架橋剤(C)としては、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)、または(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)および低分子量成分(B)が有する反応性官能基と反応するものであればよく、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アミン系架橋剤、メラミン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、アルデヒド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、アンモニウム塩系架橋剤等が挙げられる。なお、架橋剤(C)は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0071】
上記の中でも、イソシアネート系架橋剤は、特に水酸基との反応性に優れ、エポキシ系架橋剤は、特にカルボキシ基との反応性に優れる。したがって、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)および/または低分子量成分(B)が水酸基を有する場合には、イソシアネート系架橋剤を使用することが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)および/または低分子量成分(B)がカルボキシ基を有する場合には、エポキシ系架橋剤を使用することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が水酸基およびカルボキシ基を有する場合には、イソシアネート系架橋剤およびエポキシ系架橋剤を併用することが好ましい。
【0072】
イソシアネート系架橋剤は、少なくともポリイソシアネート化合物を含むものである。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートなど、及びそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などが挙げられる。中でも水酸基との反応性の観点から、トリメチロールプロパン変性の芳香族ポリイソシアネート、特にトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネートまたはトリメチロールプロパン変性キシリレンジイソシアネートが好ましい。
【0073】
エポキシ系架橋剤としては、例えば、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルアミン等が挙げられる。中でもカルボキシ基との反応性の観点から、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミンが好ましい。
【0074】
粘着性組成物P中における架橋剤(C)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることがより好ましく、特に0.05質量部以上であることが好ましく、さらには0.1質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、30質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、特に5質量部以下であることが好ましく、さらには1質量部以下であることが好ましい。架橋剤(C)の含有量が上記の範囲内にあると、前述したクリープコンプライアンス変動値およびクリープ回復率が満たされ易くなる。
【0075】
イソシアネート系架橋剤およびエポキシ系架橋剤を併用する場合、粘着性組成物P中におけるイソシアネート系架橋剤の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.0009質量部以上であることが好ましく、0.009質量部以上であることがより好ましく、特に0.09質量部以上であることが好ましく、さらには0.1質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、20質量部以下であることが好ましく、9質量部以下であることがより好ましく、特に4質量部以下であることが好ましく、さらには0.8質量部以下であることが好ましい。
【0076】
イソシアネート系架橋剤およびエポキシ系架橋剤を併用する場合、粘着性組成物P中におけるエポキシ系架橋剤の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.0001質量部以上であることが好ましく、0.001質量部以上であることがより好ましく、特に0.01質量部以上であることが好ましく、さらには0.1質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、10質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、特に0.8質量部以下であることが好ましく、さらには0.4質量部以下であることが好ましい。
【0077】
(1-4)各種添加剤
粘着性組成物Pには、所望により、アクリル系粘着剤に通常使用されている各種添加剤、例えば、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、粘着付与剤、酸化防止剤、光安定剤、軟化剤、充填剤、屈折率調整剤などを添加することができる。なお、後述の重合溶媒や希釈溶媒は、粘着性組成物Pを構成する添加剤に含まれないものとする。
【0078】
粘着性組成物Pは、上記のシランカップリング剤を含有することが好ましい。これにより、得られる粘着剤層において、被着体である屈曲性部材との密着性が向上し、粘着力がより好ましいものとなる。
【0079】
シランカップリング剤としては、分子内にアルコキシシリル基を少なくとも1個有する有機ケイ素化合物であって、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)との相溶性がよく、光透過性を有するものが好ましい。
【0080】
かかるシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の重合性不飽和基含有ケイ素化合物、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ構造を有するケイ素化合物、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン等のメルカプト基含有ケイ素化合物、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基含有ケイ素化合物、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、あるいはこれらの少なくとも1つと、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等のアルキル基含有ケイ素化合物との縮合物などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
粘着性組成物P中におけるシランカップリング剤の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、特に0.05質量部以上であることが好ましく、さらには0.1質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、1質量部以下であることが好ましく、特に0.5質量部以下であることが好ましく、さらには0.3質量部以下であることが好ましい。シランカップリング剤の含有量が上記の範囲にあることで、得られる粘着剤層は、被着体である屈曲性部材との密着性が向上し、粘着力がより大きいものとなる。
【0082】
(2)粘着性組成物Pの製造
粘着性組成物Pは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を製造し、得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、低分子量成分(B)と、所望により架橋剤(C)とを混合するとともに、さらに所望により添加剤を加えることで製造することができる。
【0083】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、重合体を構成するモノマーの混合物を通常のラジカル重合法で重合することにより製造することができる。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合は、所望により重合開始剤を使用して、溶液重合法により行うことが好ましい。溶液重合法によって(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を重合することにより、得られる重合体の高分子量化と、分子量分布の調整とが容易となる。このため、長期間の屈曲に伴う粘着剤の偏りが生じ難く、屈曲状態からの復元性により優れたものとなる。
【0084】
溶液重合法で使用する重合溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。
【0085】
重合開始剤としては、アゾ系化合物、有機過酸化物等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。アゾ系化合物としては、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン1-カルボニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4'-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2,2'-アゾビス(2-ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]等が挙げられる。
【0086】
有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等が挙げられる。
【0087】
なお、上記重合工程において、2-メルカプトエタノール等の連鎖移動剤を配合することにより、得られる重合体の重量平均分子量を調節することができる。
【0088】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が得られたら、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の溶液に、低分子量成分(B)、ならびに所望により架橋剤(C)、添加剤および希釈溶剤を添加し、十分に混合することにより、溶剤で希釈された粘着性組成物P(塗布溶液)を得る。
【0089】
なお、上記各成分のいずれかにおいて、固体状のものを用いる場合、あるいは、希釈されていない状態で他の成分と混合した際に析出を生じる場合には、その成分を単独で予め希釈溶媒に溶解もしくは希釈してから、その他の成分と混合してもよい。
【0090】
上記希釈溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤などが用いられる。
【0091】
このようにして調製された塗布溶液の濃度・粘度としては、コーティング可能な範囲であればよく、特に制限されず、状況に応じて適宜選定することができる。例えば、粘着性組成物Pの濃度が10~60質量%となるように希釈する。なお、塗布溶液を得るに際して、希釈溶剤等の添加は必要条件ではなく、粘着性組成物Pがコーティング可能な粘度等であれば、希釈溶剤を添加しなくてもよい。この場合、粘着性組成物Pは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合溶媒をそのまま希釈溶剤とする塗布溶液となる。
【0092】
(3)粘着剤の製造
本実施形態に係る粘着剤は、好ましくは粘着性組成物Pから得られるものであり、より好ましくは粘着性組成物Pを架橋してなるものである。粘着性組成物Pの架橋は、通常は加熱処理により行うことができる。なお、この加熱処理は、所望の対象物に塗布した粘着性組成物Pの塗膜から希釈溶剤等を揮発させる際の乾燥処理で兼ねることもできる。
【0093】
加熱処理の加熱温度は、50~150℃であることが好ましく、特に70~120℃であることが好ましい。また、加熱時間は、10秒~10分であることが好ましく、特に50秒~2分であることが好ましい。
【0094】
加熱処理後、必要に応じて、常温(例えば、23℃、50%RH)で1~2週間程度の養生期間を設けてもよい。この養生期間が必要な場合は、養生期間経過後、養生期間が不要な場合には、加熱処理終了後、粘着剤が形成される。
【0095】
上記の加熱処理(及び養生)により、架橋剤(C)を介して、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)、または(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)および低分子量成分(B)が十分に架橋されて架橋構造が形成され、粘着剤が得られる。
【0096】
なお、本実施形態に係る粘着剤では、特に(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)を低くするとともに、低分子量成分(B)を添加することで、貯蔵弾性率G’、特に低温における貯蔵弾性率G’を低下させ、その一方で、架橋をしっかりと行うことで、クリープコンプライアンス変動値を低下させることが好ましい。これにより、前述した-30℃における貯蔵弾性率G’(-30)およびクリープコンプライアンス変動値の2つの物性値の両立を実現し易くなる。
【0097】
〔粘着シート〕
本実施形態に係る粘着シートは、繰り返し屈曲デバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するための粘着剤層を有し、当該粘着剤層が、前述した粘着剤からなるものである。
【0098】
本実施形態に係る粘着シートの一例としての具体的構成を
図1に示す。
図1に示すように、一実施形態に係る粘着シート1は、2枚の剥離シート12a,12bと、それら2枚の剥離シート12a,12bの剥離面と接するように当該2枚の剥離シート12a,12bに挟持された粘着剤層11とから構成される。なお、本明細書における剥離シートの剥離面とは、剥離シートにおいて剥離性を有する面をいい、剥離処理を施した面および剥離処理を施さなくても剥離性を示す面のいずれをも含むものである。
【0099】
(1)構成要素
(1-1)粘着剤層
粘着剤層11は、前述した実施形態に係る粘着剤から構成され、好ましくは、粘着性組成物Pを架橋してなる粘着剤から構成される。
【0100】
本実施形態に係る粘着シート1における粘着剤層11の厚さ(JIS K7130に準じて測定した値)は、下限値として1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、特に10μm以上であることが好ましく、さらには15μm以上であることが好ましい。粘着剤層11の厚さの下限値が上記であると、所望の粘着力を発揮し易く、粘着剤層と被着体との界面に浮きや剥がれがより発生し難いものとなる。また、粘着剤層11の厚さは、上限値として300μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、特に90μm以下であることが好ましく、より薄い繰り返し屈曲デバイスを得ることができる観点から、さらには40μm以下であることが好ましい。粘着剤層11の厚さの上限値が上記であると、粘着剤層と被着体との密着性が維持され易くなるため、耐屈曲性がより優れたものとなり、また、粘着剤層にかかる応力が比較的小さくなって、屈曲状態から復元し易くなる。なお、粘着剤層11は単層で形成してもよいし、複数層を積層して形成することもできる。
【0101】
(1-2)剥離シート
剥離シート12a,12bは、粘着シート1の使用時まで粘着剤層11を保護するものであり、粘着シート1(粘着剤層11)を使用するときに剥離される。本実施形態に係る粘着シート1において、剥離シート12a,12bの一方または両方は必ずしも必要なものではない。
【0102】
剥離シート12a,12bとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等が用いられる。また、これらの架橋フィルムも用いられる。さらに、これらの積層フィルムであってもよい。
【0103】
上記剥離シート12a,12bの剥離面(特に粘着剤層11と接する面)には、剥離処理が施されていることが好ましい。剥離処理に使用される剥離剤としては、例えば、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系の剥離剤が挙げられる。なお、剥離シート12a,12bのうち、一方の剥離シートを剥離力の大きい重剥離型剥離シートとし、他方の剥離シートを剥離力の小さい軽剥離型剥離シートとすることが好ましい。
【0104】
剥離シート12a,12bの厚さについては特に制限はないが、通常20~150μm程度である。
【0105】
(2)物性
(2-1)ヘイズ値
本実施形態に係る粘着シート1における粘着剤層11のヘイズ値は、30%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、特に1%以下であることが好ましく、さらには0.8%以下であることが好ましい。これにより、屈曲による粘着剤層11の外観変化を抑制することができる。また、上記ヘイズ値の下限値は特に制約されないが、0%以上であることが好ましく、0.01%以上であることがより好ましく、特に0.03%以上であることが好ましい。なお、本明細書におけるヘイズ値は、JIS K7136:2000に準じて測定した値である。
【0106】
(2-2)粘着力
本実施形態に係る粘着シート1のソーダライムガラスに対する粘着力は、下限値として0.1N/25mm以上であることが好ましく、1.0N/25mm以上であることがより好ましく、特に1.3N/25mm以上であることが好ましく、さらには1.4N/25mm以上であることが好ましい。粘着シート1の粘着力の下限値が上記であると、粘着剤層と被着体との界面に屈曲による浮きや剥がれがより発生し難いものとなる。一方、上記粘着力の上限値は特に限定されないが、通常は、60N/25mm以下であることが好ましく、40N/25mm以下であることがより好ましく、粘着シートの貼合ミスをした際、粘着シートの貼り直しを可能とするリワーク性の観点においては、20N/25mm以下であることが特に好ましく、10N/25mm以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書における粘着力は、基本的にはJIS Z0237:2009に準じた180度引き剥がし法により測定した粘着力をいい、具体的な試験方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0107】
(3)粘着シートの製造
粘着シート1の一製造例として、上記粘着性組成物Pを使用した場合について説明する。一方の剥離シート12a(または12b)の剥離面に、粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを熱架橋し、塗布層を形成した後、その塗布層に他方の剥離シート12b(または12a)の剥離面を重ね合わせる。養生期間が必要な場合は養生期間をおくことにより、養生期間が不要な場合はそのまま、上記塗布層が粘着剤層11となる。これにより、上記粘着シート1が得られる。加熱処理および養生の条件については、前述した通りである。
【0108】
粘着シート1の他の製造例としては、一方の剥離シート12aの剥離面に、粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを熱架橋し、塗布層を形成して、塗布層付きの剥離シート12aを得る。また、他方の剥離シート12bの剥離面に、上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを熱架橋し、塗布層を形成して、塗布層付きの剥離シート12bを得る。そして、塗布層付きの剥離シート12aと塗布層付きの剥離シート12bとを、両塗布層が互いに接触するように貼り合わせる。養生期間が必要な場合は養生期間をおくことにより、養生期間が不要な場合はそのまま、上記の積層された塗布層が粘着剤層11となる。これにより、上記粘着シート1が得られる。この製造例によれば、粘着剤層11が比較的厚い場合であっても、安定して製造することが可能となる。
【0109】
上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布する方法としては、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等を利用することができる。
【0110】
〔繰り返し屈曲積層部材〕
図2に示すように、本実施形態に係る繰り返し屈曲積層部材2は、第1の屈曲性部材21(一の屈曲性部材)と、第2の屈曲性部材22(他の屈曲性部材)と、それらの間に位置し、第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22を互いに貼合する粘着剤層11とを備えて構成される。
【0111】
上記繰り返し屈曲積層部材2における粘着剤層11は、前述した粘着剤から構成され、または前述した粘着シート1の粘着剤層11である。
【0112】
繰り返し屈曲積層部材2は、繰り返し屈曲デバイス自体であるか、または繰り返し屈曲デバイスの一部を構成する部材である。繰り返し屈曲デバイスは、繰り返しの屈曲(折り曲げを含む)が可能なディスプレイであることが好ましいが、これに限定されるものではない。かかる繰り返し屈曲デバイスとしては、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)ディスプレイ、電気泳動方式のディスプレイ(電子ペーパー)、基板としてプラスチック基板(フィルム)を用いた液晶ディスプレイ、フォルダブルディスプレイ等が挙げられ、タッチパネルであってもよい。
【0113】
第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22は、繰り返しの屈曲(折り曲げを含む)が可能な部材であり、例えば、カバーフィルム、バリアフィルム、ハードコートフィルム、偏光フィルム(偏光板)、偏光子、位相差フィルム(位相差板)、視野角補償フィルム、輝度向上フィルム、コントラスト向上フィルム、拡散フィルム、半透過反射フィルム、電極フィルム、透明導電性フィルム、金属メッシュフィルム、フィルムセンサー(タッチセンサーフィルム)、液晶ポリマーフィルム、発光ポリマーフィルム、フィルム状液晶モジュール、有機ELモジュール(有機ELフィルム,有機EL素子)、電子ペーパーモジュール(フィルム状電子ペーパー)、TFT(Thin Film Transistor)基板等が挙げられる。
【0114】
第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22のヤング率は、それぞれ0.1~10GPaであることが好ましく、特に0.5~7GPaであることが好ましく、さらには1~5GPaであることが好ましい。第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22のヤング率がかかる範囲にあることで、各屈曲性部材について繰り返し屈曲させることが容易になる。
【0115】
第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22の厚さは、それぞれ10~3000μmであることが好ましく、特に25~1000μmであることが好ましく、さらには50~500μmであることが好ましい。第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22の厚さがかかる範囲にあることで、各屈曲性部材について繰り返し屈曲させることが容易になる。
【0116】
上記繰り返し屈曲積層部材2を製造するには、一例として、粘着シート1の一方の剥離シート12aを剥離して、粘着シート1の露出した粘着剤層11を、第1の屈曲性部材21の一方の面に貼合する。
【0117】
その後、粘着シート1の粘着剤層11から他方の剥離シート12bを剥離して、粘着シート1の露出した粘着剤層11と第2の屈曲性部材22とを貼合し、繰り返し屈曲積層部材2を得る。また、他の例として、第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22の貼合順序を入れ替えてもよい。
【0118】
〔繰り返し屈曲デバイス〕
本実施形態に係る繰り返し屈曲デバイスは、上記の繰り返し屈曲積層部材2を備えたものであり、繰り返し屈曲積層部材2のみからなってもよいし、一または複数の繰り返し屈曲積層部材2と、他の屈曲性部材とを備えて構成されてもよい。一の繰り返し屈曲積層部材2と他の繰り返し屈曲積層部材2とを積層するとき、または繰り返し屈曲積層部材2と他の屈曲性部材とを積層するときには、前述した粘着シート1の粘着剤層11を介して積層することが好ましい。
【0119】
本実施形態に係る繰り返し屈曲デバイスは、粘着剤層が前述した粘着剤からなるため、繰り返し屈曲された場合や、長期間屈曲状態に置かれた場合に、粘着剤層11と被着体(第1の屈曲性部材21および第2の屈曲性部材22)との界面に浮きや剥がれが発生し難い。また、粘着剤層11を構成する粘着剤が前述したクリープ回復率を満たす場合には、屈曲状態からの復元性にも優れる。
【0120】
本実施形態における一例としての繰り返し屈曲デバイスを
図3に示す。なお、本発明に係る繰り返し屈曲デバイスは、当該繰り返し屈曲デバイスに限定されるものではない。
【0121】
図3に示すように、本実施形態に係る繰り返し屈曲デバイス3は、上から順に、カバーフィルム31と、第1の粘着剤層32と、偏光フィルム33と、第2の粘着剤層34と、タッチセンサーフィルム35と、第3の粘着剤層36と、有機EL素子37と、第4の粘着剤層38と、TFT基板39とを積層して構成される。上記のカバーフィルム31、偏光フィルム33、タッチセンサーフィルム35、有機EL素子37およびTFT基板39は、屈曲性部材に該当する。
【0122】
第1の粘着剤層32、第2の粘着剤層34、第3の粘着剤層36および第4の粘着剤層38の少なくともいずれか1層は、前述した粘着シート1の粘着剤層11である。第1の粘着剤層32、第2の粘着剤層34、第3の粘着剤層36および第4の粘着剤層38のいずれか2層以上が前述した粘着シート1の粘着剤層11であることが好ましく、全ての粘着剤層32,34,36,38が粘着シート1の粘着剤層11であることが最も好ましい。
【0123】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0124】
例えば、粘着シート1における剥離シート12a,12bのいずれか一方または両方は省略されてもよく、また、剥離シート12aおよび/または12bの替わりに所望の屈曲性部材が積層されてもよい。
【実施例】
【0125】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0126】
〔実施例1〕
1.(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の調製
アクリル酸2-エチルヘキシル98.5質量部、アクリル酸4-ヒドロキシブチル1.0質量部、およびアクリル酸0.5を溶液重合法により共重合させて、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を調製した。この(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の分子量を後述する方法で測定したところ、重量平均分子量(Mw)120万であった。
【0127】
2.粘着性組成物の調製
上記工程1で得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部(固形分換算値;以下同じ)と、低分子量成分(B)としての水酸基含有アクリル系オリゴマー(B1;東亜合成社製,製品名「ARUFON(登録商標) UH-2000」,水酸基含有量:20mgKOH/g,Mw:11000,Tg:-55℃)15質量部と、イソシアネート系架橋剤(C1)としてのトリメチロールプロパン変性キシリレンジイソシアネート(XDI;綜研化学社製,製品名「TD-75」)0.3質量部と、エポキシ系架橋剤(C2)としてのN,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン0.2質量部と、シランカップリング剤としての3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(SC1)0.2質量部とを混合し、十分に撹拌して、メチルエチルケトンで希釈することにより、粘着性組成物の塗布溶液を得た。
【0128】
3.粘着シートの製造
得られた粘着性組成物の塗布溶液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した重剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP-PET752150」)の剥離処理面に、ナイフコーターで塗布した。そして、塗布層に対し、90℃で1分間加熱処理して塗布層を形成した。
【0129】
次いで、上記で得られた重剥離型剥離シート上の塗布層と、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した軽剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP-PET381130」)とを、当該軽剥離型剥離シートの剥離処理面が塗布層に接触するように貼合し、23℃、50%RHの条件下で7日間養生することにより、厚さ25μmの粘着剤層を有する粘着シート、すなわち、重剥離型剥離シート/粘着剤層(厚さ:25μm)/軽剥離型剥離シートの構成からなる粘着シートを作製した。なお、粘着剤層の厚さは、JIS K7130に準拠し、定圧厚さ測定器(テクロック社製,製品名「PG-02」)を使用して測定した値である。
【0130】
ここで、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を100質量部(固形分換算値)とした場合の粘着性組成物の各配合(固形分換算値)を表1に示す。なお、表1に記載の略号等の詳細は以下の通りである。
[(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)]
2EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル
4HBA:アクリル酸4-ヒドロキシブチル
AAc:アクリル酸
[低分子量成分(B)]
B1:水酸基含有アクリル系オリゴマー(東亜合成社製,製品名「ARUFON(登録商標) UH-2000」,水酸基含有量:20mgKOH/g,Mw:11000,Tg:-55℃)
B2:エポキシ基含有アクリル系オリゴマー(東亜合成社製,製品名「ARUFON UG-4010」,エポキシ基含有量:1.4meq/g,Mw:2900,Tg:-57℃)
B3:無官能アクリル系オリゴマー東亜合成社製,製品名「ARUFON UP-1000」,Mw:3000,Tg:-77℃)
[イソシアネート系架橋剤(C1)]
XDI:トリメチロールプロパン変性キシリレンジイソシアネート(綜研化学社製,製品名「TD-75」)
TDI:トリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネート(トーヨーケム社製,製品名「BHS8515」)
[エポキシ系架橋剤(C2)]
N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン
[シランカップリング剤]
SC1:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
SC2:1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン
【0131】
〔実施例2~4,比較例1~4〕
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を構成する各モノマーの種類および割合、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)、低分子量成分(B)の種類および配合量、イソシアネート系架橋剤(C1)の種類、エポキシ系架橋剤(C2)の配合量、ならびにシランカップリング剤の種類を表1に示すように変更する以外、実施例1と同様にして粘着シートを製造した。
【0132】
前述した重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定(GPC測定)したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
<測定条件>
・GPC測定装置:東ソー社製,HLC-8020
・GPCカラム(以下の順に通過):東ソー社製
TSK guard column HXL-H
TSK gel GMHXL(×2)
TSK gel G2000HXL
・測定溶媒:テトラヒドロフラン
・測定温度:40℃
【0133】
〔試験例1〕(ゲル分率の測定)
実施例および比較例で作製した粘着シートを80mm×80mmのサイズに裁断して、その粘着剤層をポリエステル製メッシュ(品名:テトロンメッシュ #200)に包み、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM1とする。
【0134】
次に、上記ポリエステル製メッシュに包まれた粘着剤を、室温下(23℃)で酢酸エチルに24時間浸漬させた。その後粘着剤を取り出し、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、24時間風乾させ、さらに80℃のオーブン中にて12時間乾燥させた。乾燥後、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM2とする。ゲル分率(%)は、(M2/M1)×100で表される。結果を表2に示す。
【0135】
〔試験例2〕(貯蔵弾性率G’の測定)
実施例および比較例で作製した粘着シートの粘着剤層を複数層積層し、厚さ800μmの積層体とした。得られた粘着剤層の積層体から、直径8mmの円柱体(高さ800μm)を打ち抜き、これをサンプルとした。
【0136】
上記サンプルについて、JIS K7244-6に準拠し、粘弾性測定器(Anton paar社製,製品名「MCR302」)を用いてねじりせん断法により、以下の条件で貯蔵弾性率G’を測定し、-30℃における貯蔵弾性率G’(-30)、25℃における貯蔵弾性率G’(25)および85℃における貯蔵弾性率G’(85)(MPa)を取得した。結果を表2に示す。
測定周波数:1Hz
昇温速度:5℃/min
歪み:1%
ノーマルフォース:1.0N
測定温度:-30℃~140℃
【0137】
また、取得した結果に基づいて、貯蔵弾性率G’(-30)を貯蔵弾性率G’(25)で除した値である貯蔵弾性率変化度(-30/25)、および貯蔵弾性率G’(-30)を貯蔵弾性率G’(85)で除した値である貯蔵弾性率変化度(-30/85)を算出した。結果を表2に示す。
【0138】
〔試験例3〕(クリープコンプライアンスの測定)
実施例および比較例で作製した粘着シートの粘着剤層を複数層積層し、厚さ800μmの積層体とした。得られた粘着剤層の積層体から、直径8mmの円柱体(高さ800μm)を打ち抜き、これをサンプルとした。
【0139】
上記サンプルについて、粘弾性測定装置(Anton paar社製,製品名「MCR302」)を用いて、以下の条件で4500Paの応力を印加し続け、クリープコンプライアンスJ(t)(MPa-1)を測定した。その測定結果から、4500Paの応力が印加された時の値を最小クリープコンプライアンスJ(t)min(MPa-1)とし、当該最小クリープコンプライアンスJ(t)minが測定されてから1200秒後までに測定された最大クリープコンプライアンスJ(t)max(MPa-1)を導出した。
測定温度:25℃
測定点:1000点(対数プロット)
【0140】
得られた最小クリープコンプライアンスJ(t)min(MPa-1)および最大クリープコンプライアンスJ(t)max(MPa-1)から、以下の式(I)に基づいて、クリープコンプライアンス変動値ΔlogJ(t)を算出した。結果を表2に示す。
ΔlogJ(t)=logJ(t)max-logJ(t)min …(I)
【0141】
また、上記サンプルについて、粘弾性測定装置(Anton paar社製,製品名「MCR302」)を用いて、以下の条件で4500Paの応力を印加し続けた後、印加応力を0Paにして、しばらくその状態を維持した。その間、クリープコンプライアンスJ(t)(MPa-1)を測定した。4500Paの応力印加開始時から1200秒後に測定されたクリープコンプライアンス値をクリープコンプライアンスJ(t)(s=1200)(MPa-1)とし、印加応力を0Paにした時から100秒後に測定されたクリープコンプライアンス値をクリープコンプライアンスJ(t)(s=1300)(MPa-1)とした。
測定温度:25℃
応力印加時の測定点:1000点(対数プロット)
応力除荷時の測定点:1000点(対数プロット)
【0142】
得られたクリープコンプライアンスJ(t)(s=1200)(MPa-1)およびクリープコンプライアンスJ(t)(s=1300)(MPa-1)から、以下の式(II)に基づいて、クリープ回復率(%)を算出した。結果を表2に示す。
クリープ回復率(%)=(1-J(t)(s=1300)/J(t)(s=1200))×100 …(II)
【0143】
〔試験例4〕(ヘイズ値の測定)
実施例および比較例で製造した粘着シートの粘着剤層をガラスに貼合して、これを測定用サンプルとした。ガラスでバックグラウンド測定を行った上で、上記測定用サンプルについて、JIS K7136:2000に準じて、ヘイズメーター(日本電色工業社製,製品名「NDH5000」)を用いてヘイズ値(%)を測定した。結果を表2に示す。
【0144】
〔試験例5〕(粘着力の測定)
実施例および比較例で得られた粘着シートから軽剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、易接着層を有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製,製品名「PET A4300」,厚さ:100μm)の易接着層に貼合し、重剥離型剥離シート/粘着剤層/PETフィルムの積層体を得た。得られた積層体を25mm幅、110mm長に裁断した。
【0145】
23℃、50%RHの環境下にて、上記積層体から重剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層をソーダライムガラス板(日本板硝子社製,製品名「ソーダライムガラス」,厚さ:1.1mm)に貼付し、栗原製作所社製オートクレーブにて0.5MPa、50℃で、20分加圧した。その後、23℃、50%RHの条件下で24時間放置してから、引張試験機(オリエンテック社製,テンシロン)を用い、剥離速度300mm/min、剥離角度180度の条件で、PETフィルムと粘着剤層との積層体を被着体から剥離したときの粘着力(N/25mm)を測定した。ここに記載した以外の条件はJIS Z0237:2009に準拠して、測定を行った。結果を表2に示す。
【0146】
〔試験例6〕(耐屈曲性の評価)
23℃、50%RHの環境下にて、実施例および比較例で作製した粘着シートから軽剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製,製品名「PET50TA063」,厚さ:100μm)の一方の面に貼合した。次いで、重剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、ポリイミドフィルム(厚さ:50μm)に貼合した。そして、栗原製作所社製オートクレーブにて0.5MPa、50℃で、20分加圧した後、23℃、50%RHの条件下で24時間放置した。このようにして得たPETフィルム/粘着剤層/ポリイミドフィルムからなる積層体を、50mm幅、200mm長に裁断し、これをサンプルとした。
【0147】
得られたサンプルの両端部を、
図4に示すように、恒温恒湿槽付き屈曲試験(ユアサシステム機器社製,製品名「CL09-typeD01-FSC90」)の2つの保持プレートに固定した。このとき、サンプルのポリイミドフィルム側が屈曲の内側になるように固定した。そして、-30℃、25℃および80℃の各温度環境下、屈曲径(直径)3mmφ、ストローク80mm、屈曲速度60rpmにて、サンプルを20万回屈曲させた。
【0148】
上記の動的屈曲試験を行った後、サンプルの屈曲部における粘着剤層と被着体との界面に剥離がないか否か、目視により確認した。そして、以下の基準により耐屈曲性を評価した。結果を表2に示す。
◎:屈曲部に線跡が存在しなかった。
〇:屈曲部に線跡が存在するが、真正面から見た場合、当該線跡は殆ど確認できなかった。
△:屈曲部に線跡が存在し、真正面から見ても当該線跡が確認できた。または、屈曲部に微小気泡が発生した。
×:屈曲部に浮き、剥がれが発生した。
【0149】
【0150】
【0151】
表2から分かるように、実施例の粘着シートの粘着剤層は、低温、常温および高温のいずれの環境下でも、長時間の屈曲により粘着剤層と被着体との界面に浮きや剥がれが発生し難く、耐屈曲性に優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明は、繰り返し屈曲デバイスを構成する一の屈曲性部材と他の屈曲性部材とを貼合するのに好適である。
【符号の説明】
【0153】
1…粘着シート
11…粘着剤層
12a,12b…剥離シート
2…繰り返し屈曲積層部材
21…第1の屈曲性部材
22…第2の屈曲性部材
3…繰り返し屈曲デバイス
31…カバーフィルム
32…第1の粘着剤層
33…偏光フィルム
34…第2の粘着剤層
35…タッチセンサーフィルム
36…第3の粘着剤層
37…有機EL素子
38…第4の粘着剤層
39…TFT基板
S…試験片
P…保持プレート