(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】表皮、形成品および車両用シート
(51)【国際特許分類】
B68G 7/05 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
B68G7/05 B
(21)【出願番号】P 2021017975
(22)【出願日】2021-02-08
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(73)【特許権者】
【識別番号】503200523
【氏名又は名称】アズマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠一
(72)【発明者】
【氏名】武田 俊之
【審査官】二階堂 恭弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-246186(JP,A)
【文献】特開平8-243271(JP,A)
【文献】特開2003-103076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B68G 7/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡体が一体発泡されて前記発泡体を覆う表皮であって、
表皮材と、
前記表皮材を貫通した針孔の少なくとも一部を通って前記表皮材同士を縫い合わせる第1糸と、
前記第1糸と他糸レーシングして前記第1糸と共に前記表皮材同士を縫い合わせる第2糸と、
を備え、
前記第1糸は針が有する孔に通される糸であり、
前記第2糸は
、ポリエステルまたはナイロン
からなり、糸を二本撚り合わせて太さが2倍の糸が形成され、前記太さが2倍となった糸を二本撚り合わせて太さが4倍の糸が形成され、前記太さが4倍となった糸を三本用いて、一本に編んで、太さがが12倍に形成された一本の糸で構成され前記針孔を埋める伸縮性のある糸である表皮。
【請求項2】
請求項
1の表皮において、
前記第2糸は、堅組された糸である表皮。
【請求項3】
請求項
1の表皮において、
前記第2糸は、あま組された糸である表皮。
【請求項4】
発泡体が一体発泡されて前記発泡体を覆う表皮であって、
表皮材と、
前記表皮材を貫通した針孔の少なくとも一部を通って前記表皮材同士を縫い合わせる第1糸と、
前記第1糸と他糸レーシングして前記第1糸と共に前記表皮材同士を縫い合わせる第2糸と、
を備え、
前記第1糸は針が有する孔に通される糸であり、
前記第2糸は、
ポリエステルまたはナイロンからなり、糸を二本撚り合わせて太さが2倍の糸が形成され、前記太さが2倍となった糸を四本用いて経編により形成された糸で
構成され前記針孔を埋める伸縮性のある糸である表皮。
【請求項5】
請求項1から
4の何れか1項の表皮と、
前記表皮に一体発泡してなり前記表皮に覆われる発泡体と、
を備える成形品。
【請求項6】
請求項
5の成形品と、
シートクッションと、
シートバックと、
を備え、
前記成形品はヘッドレストである車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は表皮に関し、例えば表皮一体発泡形成品を備える車両用シートに適用可能である。
【背景技術】
【0002】
車両用シートに備えられるヘッドレスト、アームレスト等には、所定形状に裁断した複数の表皮材をミシンで袋状に縫合して表皮を形成し、この表皮の内部にパッド成形用の原料の発泡液を注入して、表皮と一体にパッドを発泡成形(表皮一体発泡形成)したものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この表皮一体発泡成形では、表皮の裏面側に注入した発泡液が、表皮材を縫い合わせたときに針が通った針孔と糸との隙間から漏れ出し、表皮の外側で硬化することがある。
【0005】
本開示の課題は、針孔からの発泡液の漏れ出しを抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば下記の通りである。
すなわち、発泡体が一体発泡されて発泡体を覆う表皮は、表皮材と、表皮材を貫通した針孔の少なくとも一部を通って表皮材同士を縫い合わせる第1糸と、第1糸と他糸ルーピング又は他糸レーシングして第1糸と共に表皮材同士を縫い合わせる第2糸と、を備える。第1糸は針が有する孔に通される糸である。第2糸はポリエステルまたはナイロンを経編または製紐されて構成され前記針孔を埋める伸縮性のある糸である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、針孔からの発泡液の漏れ出しを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は実施形態における車両用シートを示す外観図である。
【
図2】
図2は
図1に示すヘッドレストのA-A線における断面図である。
【
図3】
図3は
図2に示す表皮のB-B線における断面図である。
【
図4】
図4は第一実施例における第2糸の模式図である。
【
図5】
図5は第二実施例における第2糸の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を用いて説明する。ただし、以下の説明において、同一構成要素には同一符号を付し繰り返しの説明を省略することがある。なお、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定するものではない。
【0010】
実施形態における車両用シートについて
図1を用いて説明する。
図1は実施形態における車両用シートを示す外観図である。
【0011】
なお、以下の説明では、車両用シートを搭載する車両が水平面上に置かれた場合を基準として、鉛直方向を上下方向(UP,DW)と定義する。また、前後方向(FR,RR)は車両の前後方向に一致するように、左右方向(幅方向)は車両の幅方向に一致するように、定義される。FRは車両の前側方向であり、RRは車両の後側方向である。また、車両用シート1について、車両の後から見て右側(RH)、左側(LH)と呼んで説明する。
【0012】
車両用シート1は、シートクッション2、シートバック3、ヘッドレスト4、サイドサポート5を備えている。
【0013】
ヘッドレスト4について
図2および
図3を用いて説明する。
図2は
図1に示すヘッドレストのA-A線における断面図である。
図3は
図2に示す表皮のB-B線における断面図である。
【0014】
図2に示すように、ヘッドレスト4は、軟質ポリウレタンフォーム等の発泡合成樹脂で構成される発泡体20と、発泡体20を覆う表皮10と、を備える。ヘッドレスト4は、発泡成形用の金型(図示せず)のキャビティ内に配置した表皮10の裏面10b側(内部)に発泡液を注入して一体発泡することで、発泡液が発泡硬化した発泡体20が表皮10と一体化される表皮一体発泡成形品である。
【0015】
図2および
図3に示すように、表皮10は、発泡体20を覆う部材であり、表皮10の表面10aがヘッドレスト4の外面となる。表皮10は、複数の表皮材11,12と、その表皮材11,12の縁部13,14同士を縫い合わせる第1糸15および第2糸16と、を備える。なお、本実施形態の表皮10は略袋状に形成されて発泡体20の全体を覆っているが、発泡体20の一部を覆うよう袋状以外の形状に表皮10を形成しても良い。
【0016】
表皮材11,12は、座り心地や触り心地、伸縮性などの観点から、ファブリックや合成皮革、皮革などの裏側に布状の発泡合成樹脂を一体化した2層以上に構成されている。但し、布状の発泡合成樹脂を省略しても良い。また、発泡液がファブリックや布状の発泡合成樹脂が含侵しないように、ファブリックや布状の発泡合成樹脂の内側にフィルムを貼り付けたり、布状の発泡合成樹脂の内側を加熱溶融して被膜を形成したりして、表皮材11,12を構成しても良い。
【0017】
表皮10は、表面10a同士が接触するように2枚の表皮材11,12の縁部13,14を重ね、その縁部13,14を全長に亘ってミシンを用いて本縫いにより縫い合わせて形成されている。そのため、第1糸15と第2糸16とは、縫い付け時の針によって表皮材11,12に貫通形成された針孔17,18を通り、互いに他糸レーシングして2枚の表皮材11,12を縫い合わせている。ここで、第1糸15は図示していないミシン針に形成された孔を通る上糸である。第2糸16はボビンにセットされる下糸である。また、他糸レーシングとは、糸が、他の糸、または、他の糸のループと交差又は通り抜けることである。
【0018】
なお、本実施形態では、2枚の表皮材11,12の境界よりも表皮材12側(
図3紙面下側)に、第1糸15と第2糸16との他糸レーシング部分が位置する。そのため、第1糸15は、表皮材11の針孔17を通り抜けつつ、表皮材12の針孔18の一部を通る。一方、第2糸16は、表皮材12の針孔18の一部を通り、表皮材11の針孔17を通らない。
【0019】
第1糸15は、通常の強靭な合成樹脂製のミシン糸であり、例えば、ポリエステルスパンまたはナイロンフィラメントまたはポリエステルフィラメントまたはボンド加工糸により構成されている。ここで、ポリエステルスパンは綿等の天然素材に風合を合わせた合成繊維である。ナイロンフィラメント、ポリエステルフィラメントは絹等の天然素材に風合を合わせた合成繊維である。ボンド加工糸はナイロンフィラメントやポリエステルフィラメントにボンド樹脂をコーティングした糸である。第1糸15は、例えば、8番手である。また、ミシン針は、例えば、針DP×17LEの18番SPDである。
【0020】
第2糸16は、細かに編まれた構造の糸であり、例えば、伸縮性を有するポリエステルかさ高糸またはナイロンかさ高糸で構成されている。第2糸16は、縫製時に生じる針による孔を埋める伸縮性のある糸であり、経編または製紐(堅組またはあま組)された糸である。1本の第2糸16は細かな編まれた構造になっていて、物理的に柔軟性がある。これにより、もし発泡液が均一に行き渡らなかった場合でも、編まれた構造により柔軟性があるために、かさ高い繊維が針孔に適合し、物理的に液漏れを防止することができる。すなわち、糸により液漏れを防止できる。
【0021】
特許文献1に示される、かさ高紡績糸またはフィラメント加工糸のみで第2糸16を構成する場合は、撚りを弱くしたり、撚りをなくしたりすることにより、発泡液による膨らみが太くなる。しかし、撚りが弱くなると柔軟性に欠け、発泡液が均一に行き渡らなかった場合は、液漏れが発生する。
【0022】
本実施形態では伸縮性を有する糸を使用することにより針による孔を埋めることができ、液漏れ防止を可能にしている。特許文献1は撚れていない糸自体を液で膨らませるのに対し、本実施形態は編んで糸を太くする。第2糸16の材質は1種類であり、かつ糸1本の詳細構造の利点あり。
【0023】
本実施形態では、第2糸16は縫われる直前にはテンションがかかり細くなっているが、縫われた後は太さが戻る。すなわち、第2糸16は縫製時瞬間においては通常の8番スパン糸と同じ太さであるが、縫製後において糸が戻り針孔を塞ぐことで発泡時における液漏れを抑制することができる。
【0024】
なお、下糸である第2糸16は伸縮性を有する糸であるが、上糸である第1糸15も同様に伸縮性を有する糸にしてもよいと考えられる。しかし、第1糸15がミシン針の孔を通らない太さになるため、本実施形態では下糸のみにしている。上糸第1糸15に使用する場合は100d以下に細くして組み上げる。本実施形態では下糸のみに伸縮性を有する糸を使用する場合について説明する。
【0025】
第1糸15および第2糸16により表皮材11,12同士を縫い合わせるとき、表皮材11,12に重ねたウーリースピンテープ等のシール材を一緒に縫い合わせることにより、発泡体20の発泡成形時に針孔17,18から発泡液をより漏れ出し難くできる。本実施形態では、シール材を一緒に縫い合わせていないので、シール材を正しい位置に縫い合わせる手間を省くことができ、縫製作業性を確保できる。
【実施例1】
【0026】
第一実施例における第2糸16の糸の編み方について
図4を用いて説明する。
図4は第一実施例における第2糸の模式図である。
【0027】
まず、繊度が100dの太さの糸を二本で撚り合わせて太さが200dの糸にする。そして、この繊度が200dとなった糸を二本で撚り合わせて太さが400dの糸にする。これにより、
図4に示す糸16a,16b,16cになる。すなわち、糸16a,16b,16cの各々は繊度が100dの四本の糸で形成される繊度が400d(100d×2×2=400d(四本))の糸である。ここで、糸の太さを表す繊度の単位[d]であるデニールは9,000メートルの糸の質量をグラム単位で表したものである。
【0028】
そして、繊度が400dとなった糸16a,16b,16cを三本用いて、
図4に示すように、一本に編んでいく。これにより、繊度が400dの三本の糸で形成される繊度が1200d(3×400d(四本)=1200d(十二本))の一本の糸が形成される。これが第2糸16となる。第2糸16は三本の糸を撚り合わせたものではなく編んでいるので、三本の糸は自然に解けることはない。
【0029】
編み方は、例えば、1インチ間に10回組み上げた製紐(ギア26堅組タイプ)であってもよいし、1インチ間に7回組み上げた製紐(ギア36あま組タイプ)であってもよい。なお、堅組は1インチ間に10回組み上げた製紐に限定されるものではなく、1インチ間に9回組み上げた製紐であってもよいし、1インチ間に11回組み上げた製紐であってもよい。あま組は1インチ間に7回組み上げた製紐に限定されるものではなく、1インチ間に8回組み上げた製紐であってもよいし、1インチ間に6回組み上げた製紐であってもよい。
【実施例2】
【0030】
第二実施例における第2糸16の糸の編み方について説明する。
図5は第二実施例における第2糸の模式図である。
【0031】
編物は横編(ヨコアミ)と経編(タテアミ)に分類される。第二実施例では経編により第2糸16を構成する。まず、繊度が100dの太さの糸を二本で撚り合わせて太さが200dの糸にする。これにより、
図5に示す糸A、B,C,Dになる。すなわち、糸A、B、C,Dの各々は繊度が100dの二本の糸で形成される繊度が200d(100d×2=200d(二本))の糸である。第2糸16は、
図5に示すように、四本の糸A、B,C,Dが輪を作りながら複雑に編んで経方向に延伸して形成される経編4本コードである。例えば、行R1においては、左から順に糸A、糸B、糸C、糸Dが輪を作っている。行R2においては、左から順に糸B、糸C、糸D、糸Aが輪を作っている。行R3においては、左から順に糸A、糸B、糸C、糸Dが輪を作っている。第2糸16の繊度は800d(100d×2×4)である。
【0032】
以上、本開示者らによってなされた開示を実施形態および実施例に基づき具体的に説明したが、本開示は、上記実施形態および実施例に限定されるものではなく、種々変更可能であることはいうまでもない。
【0033】
例えば、実施形態では、車両用シートのヘッドレストを例に説明したが、アームレスト、コンソールボックス等の表皮一体発泡成形品に適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
10 表皮
11,12 表皮材
15 第1糸
16 第2糸
17,18 針孔
20 発泡体