(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】スラブ構築方法
(51)【国際特許分類】
E04B 5/32 20060101AFI20241024BHJP
E04B 5/43 20060101ALI20241024BHJP
E04B 1/16 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
E04B5/32 D
E04B5/43 C
E04B1/16 E
(21)【出願番号】P 2021032468
(22)【出願日】2021-03-02
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】東 佑哉
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 信行
(72)【発明者】
【氏名】荒木 爲博
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 好徳
(72)【発明者】
【氏名】山田 達也
(72)【発明者】
【氏名】張 子龍
【審査官】齋藤 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-303602(JP,A)
【文献】実開昭52-052807(JP,U)
【文献】特開2008-208576(JP,A)
【文献】特開2013-136919(JP,A)
【文献】特開2008-115539(JP,A)
【文献】特公平2-6901(JP,B2)
【文献】特公平6-13778(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 5/02
E04B 5/32
E04B 5/43
E04C 5/18
E04B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物のコアと外周部とに亘ってプレキャストコンクリート版を配置するプレキャストコンクリート版配置工程と、
前記プレキャストコンクリート版上に配力筋を配筋する配筋工程と、
前記配力筋を埋設させる形態で前記プレキャストコンクリート版上にコンクリートを打設するコンクリート打設工程と、を順に実行して、
前記コアの周囲に各階のスラブをハーフプレキャストコンクリート工法で構築するにあたり、
前記コアに定着される軸鉄筋が配筋されて前記コアと前記建物の外周部とに亘る梁構造部を前記スラブに内蔵させるスラブ構築方法であって、
前記プレキャストコンクリート版配置工程において、コンクリートが打設されて前記梁構造部となる梁構造部空間を挟んで両側に前記プレキャストコンクリート版を配置し、
前記配筋工程において、互いに隣接する前記プレキャストコンクリート版上に亘って前記配力筋を配筋すると共に、前記軸鉄筋を前記配力筋により支持させた状態で前記梁構造部空間における前記プレキャストコンクリート版の上面よりも下方に配筋し、
前記コンクリート打設工程において、前記プレキャストコンクリート版上と前記梁構造部空間とにコンクリートを打設するスラブ構築方法。
【請求項2】
前記配力筋が、前記梁構造部空間において下向き凸状に折り曲げられてなる折り曲げ部を有し、
前記配筋工程において、前記配力筋の折り曲げ部に前記軸鉄筋を支持させる請求項1に記載のスラブ構築方法。
【請求項3】
前記配筋工程において、前記配力筋の折り曲げ部の両端部を接続筋により接続する請求項2に記載のスラブ構築方法。
【請求項4】
前記配筋工程において、前記梁構造部空間に前記軸鉄筋を囲むあばら筋を配筋する共に当該あばら筋を前記配力筋に支持させる請求項1に記載のスラブ構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物のコアの周囲に各階のスラブをハーフプレキャストコンクリート工法で構築するにあたり、コアに定着される軸鉄筋が配筋されてコアと建物の外周部とに亘る梁構造部をスラブに内蔵させるスラブ構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物のコアの周囲に各階のスラブを構築するにあたり、そのコアに定着される軸鉄筋が配筋されてコアと建物の外周部とに亘る梁構造部をスラブに内蔵させるスラブ構築方法が知られている(例えば特許文献1を参照)。特許文献1記載のスラブ構築方法では、コア(コア壁3)と建物の外周部(柱2)とに亘って、コア(コア壁3)に定着される軸鉄筋(スラブ筋5)が配筋された梁構造部(せん断補強領域A,B)が、スラブ(フラットプレート4)に内蔵されている。
そして、このように梁構造部をスラブに内蔵させることで、スラブ全体の補強や部材の追加を必要とせずに、スラブに内蔵された梁構造部により、地震時におけるコアへの応力伝達を良好に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建物のコアの周囲に各階のスラブをハーフプレキャストコンクリート工法で構築するには、建物のコアと外周部とに亘ってプレキャストコンクリート版を配置するプレキャストコンクリート版配置工程と、プレキャストコンクリート版上に配力筋を配筋する配筋工程と、配力筋を埋設させる形態でプレキャストコンクリート版上にコンクリートを打設するコンクリート打設工程と、が順に実行される。そして、ハーフプレキャストコンクリート工法で構築されるスラブに、コアへの応力伝達を良好に行うことができる梁構造部を内蔵させるためには、上記配筋工程において、コンクリートが打設されて梁構造部となる梁構造部空間において、配力筋よりも太くて高剛性な軸鉄筋を、プレキャストコンクリート版の上面よりも下方に配筋する必要があり、このような軸鉄筋を合理的且つ簡単に所望の位置に配筋することが望まれている。
尚、特許文献1では、スラブをハーフプレキャストコンクリート工法で構築してもよいとの記載はあるが、このような場合における軸鉄筋の詳細な配筋方法等については記載されていない。
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、建物のコアの周囲に各階のスラブをハーフプレキャストコンクリート工法で構築するにあたり、コアに定着される軸鉄筋が配筋されてコアと建物の外周部とに亘る梁構造部をスラブに内蔵させるスラブ構築方法において、コンクリートが打設されて梁構造部となる梁構造部空間に、合理的且つ簡単に軸鉄筋を配筋する技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1特徴構成は、建物のコアと外周部とに亘ってプレキャストコンクリート版を配置するプレキャストコンクリート版配置工程と、
前記プレキャストコンクリート版上に配力筋を配筋する配筋工程と、
前記配力筋を埋設させる形態で前記プレキャストコンクリート版上にコンクリートを打設するコンクリート打設工程と、を順に実行して、
前記コアの周囲に各階のスラブをハーフプレキャストコンクリート工法で構築するにあたり、
前記コアに定着される軸鉄筋が配筋されて前記コアと前記建物の外周部とに亘る梁構造部を前記スラブに内蔵させるスラブ構築方法であって、
前記プレキャストコンクリート版配置工程において、コンクリートが打設されて前記梁構造部となる梁構造部空間を挟んで両側に前記プレキャストコンクリート版を配置し、
前記配筋工程において、互いに隣接する前記プレキャストコンクリート版上に亘って前記配力筋を配筋すると共に、前記軸鉄筋を前記配力筋により支持させた状態で前記梁構造部空間における前記プレキャストコンクリート版の上面よりも下方に配筋し、
前記コンクリート打設工程において、前記プレキャストコンクリート版上と前記梁構造部空間とにコンクリートを打設する点にある。
【0006】
本構成によれば、コアの周囲に各階のスラブをハーフプレキャストコンクリート工法で構築するにあたり、上記プレキャストコンクリート版配置工程において梁構造部空間を挟んで両側にプレキャストコンクリート版を配置し、上記配筋工程において軸鉄筋を梁構造部空間に配筋し、上記コンクリート打設工程においてプレキャストコンクリート版上と梁構造部空間とにコンクリートを打設することで、コアに定着される軸鉄筋が配筋されてコアと建物の外周部とに亘る梁構造部をスラブに内蔵させることができる。そして、このように梁構造部をハーフプレキャストコンクリート工法で構築されるスラブに内蔵させるにあたり、上記配筋工程において、配力筋よりも太くて高剛性な軸鉄筋を、互いに隣接するプレキャストコンクリート版上に亘って配筋された配力筋により支持させるという合理的且つ簡単な形態で、プレキャストコンクリート版の上面よりも下方に配筋することができる。
従って、本発明により、建物のコアの周囲に各階のスラブをハーフプレキャストコンクリート工法で構築するにあたり、コアに定着される軸鉄筋が配筋されてコアと建物の外周部とに亘る梁構造部をスラブに内蔵させるスラブ構築方法において、コンクリートが打設されて梁構造部となる梁構造部空間に、合理的且つ簡単に軸鉄筋を配筋する技術を提供することができる。
【0007】
本発明の第2特徴構成は、前記配力筋が、前記梁構造部空間において下向き凸状に折り曲げられてなる折り曲げ部を有し、
前記配筋工程において、前記配力筋の折り曲げ部に前記軸鉄筋を支持させる点にある。
【0008】
本構成によれば、互いに隣接するプレキャストコンクリート版上に亘って配筋される配力筋に、梁構造部空間において下向き凸状に折り曲げられてなる折り曲げ部を形成することにより、上記配筋工程において、その折り曲げ部に対して直接的に軸鉄筋を支持させることができる。
【0009】
本発明の第3特徴構成は、前記配筋工程において、前記配力筋の折り曲げ部の両端部を接続筋により接続する点にある。
【0010】
本構成によれば、上記配筋工程において、配力筋の折り曲げ部に対して直接的に軸鉄筋を支持させる場合には、その折り曲げ部の両端部を直線状の接続筋により接続することにより、配力筋における折り曲げ部の形状を良好に保つことができ、その折り曲げ部により安定して軸鉄筋を支持することができる。更に、梁構造部空間の両側にあるプレキャストコンクリート版上の夫々の配力筋を、接続筋を介して直線状に連続させることができるので、コンクリート打設後のスラブの剛性を好適に確保することができる。
【0011】
本発明の第4特徴構成は、前記配筋工程において、前記梁構造部空間に前記軸鉄筋を囲むあばら筋を配筋する共に当該あばら筋を前記配力筋に支持させる点にある。
【0012】
本構成によれば、上記配筋工程において、梁構造部空間に軸鉄筋を囲むあばら筋を配筋することにより、互いに隣接するプレキャストコンクリート版上に亘って配筋される配力筋において梁構造部空間を通過する部分に対してあばら筋を介して間接的に軸鉄筋を支持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図6】コンクリート打設工程後のスラブの状態を示す縦断面図
【
図8】別の実施形態での配筋工程後の状態を示す縦断面図
【
図9】別の実施形態でのコンクリート打設後の状態を示す縦断面図
【
図10】別の実施形態での配筋工程後の状態を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るスラブ構築方法の実施形態について図面に基づいて説明する。
本実施形態のスラブ構築方法(以下「本スラブ構築方法」と呼ぶ。)は、
図1を参照して、建物1の中央側に設けられたコア2の周囲に各階のスラブ10をハーフプレキャストコンクリート工法で構築するにあたり、コア2に定着される軸鉄筋21(
図4等参照)が配筋されて建物1におけるコア2と建物1の外周部3とに亘る梁構造部20をスラブ10に内蔵させる方法として構成されている。尚、本実施形態では、プレキャストコンクリートをPCaと表記する場合がある。
そして、本スラブ構築方法は、後述するPCa版配置工程、配筋工程、及びコンクリート打設工程を順に実行することにより、コンクリートが打設されて梁構造部20となる梁構造部空間20A(
図4等参照)に、合理的且つ簡単に軸鉄筋21を配筋する技術を提供することができる。
以下、これら各工程の詳細について説明する。
【0015】
(PCa版配置工程)
PCa版配置工程では、
図2及び
図7に示すように、コンクリートが打設されて梁構造部20となる梁構造部空間20Aを挟んで両側にPCa版11を配置する形態で、建物1のコア2と外周部3とに亘ってPCa版11が配置される。尚、この梁構造部空間20Aは、上下が開放されており、建物1の外周部3側の柱3Aとコア2側の柱2Aとを結ぶ方向(
図2の奥行方向、
図7の上下方向)に沿って延びる空間として形成される。以下、この方向を「梁構造部延在方向」と呼び、平面視でこの梁構造部延在方向と直行する方向を「梁構造部横断方向」と呼ぶ。
【0016】
(配筋工程)
上記PCa版配置工程の実行後に実行される配筋工程では、以下に説明する第1配筋工程、第2配筋工程、及び第3配筋工程が順に実行される。
第1配筋工程では、
図3及び
図7に示すように、上記梁構造部空間20Aを挟んで互いに隣接するPCa版11上に亘って配力筋12が配筋される。即ち、上記梁構造部横断方向に沿った姿勢とされて上記梁構造部空間20Aの両側のPCa版11上に延びる配力筋12が、上記梁構造部延在方向に沿って所定の間隔で複数配設される。
更に、これら配力筋12は、梁構造部空間20Aにおいて下向き凸状に折り曲げられてなる折り曲げ部12aを有するものとして構成されている。
【0017】
上記第1配筋工程の実行後に実行される第2配筋工程では、
図4及び
図7に示すように、上記梁構造部延在方向に沿った姿勢とされて両端部の夫々が外周部3側の柱3Aとコア2側の柱2Aとに定着される軸鉄筋21が梁構造部空間20Aに配筋される。この軸鉄筋21は、スラブ10の配力筋12や主筋13よりも太くて高剛性な鉄筋で構成されている。そして、この第2配筋工程では、配力筋12の折り曲げ部12aに軸鉄筋21を載置して直接的に支持させる形態で、当該軸鉄筋21が梁構造部空間20AにおけるPCa版11の上面よりも下方に配筋される。
【0018】
上記第2配筋工程の実行後に実行される第3配筋工程では、
図5及び
図7に示すように、配力筋12の折り曲げ部12aの両端部が、PCa版11上の配力筋12の延在方向に沿った直線状の接続筋17により接続される。また、配力筋12と接続筋17との接合は溶接等の公知の接合方法で行われる。このように配力筋12の折り曲げ部12aの両端部が接続筋17により接合されることで、配力筋12における折り曲げ部12aの形状が良好に保たれることになって、その折り曲げ部12aにより軸鉄筋21が安定して支持されることになる。更に、梁構造部空間20Aの両側にあるPCa版11上の夫々の配力筋12が接続筋17を介して直線状に連続することになるので、コンクリート打設後のスラブ10の剛性が好適なものに確保される。尚、本実施形態では、接続筋17を直線状のものとしたが、多少屈曲又は湾曲していても構わない。
また、この第3配筋工程では、上記配力筋12及び接続筋17上に、上記梁構造部延在方向に沿った姿勢とされた主筋13が、上記梁構造部横断方向に沿って所定の間隔で複数配設される。
【0019】
(コンクリート打設工程)
上記配筋工程の実行後に実行されるコンクリート打設工程では、
図6に示すように、配力筋12及び主筋13等を埋設させる形態でPCa版11上にコンクリート15が打設される、同時に、梁構造部空間20Aの下方開放部を型枠(図示省略)で塞いだ上で、上記軸鉄筋21、配力筋12の折り曲げ部12a、及び接続筋17等を埋設させる形態で梁構造部空間20Aにコンクリート15が打設される。そして、このようにコンクリート15が打設されることによって、梁構造部20が内蔵されたハーフPCa構造のスラブ10が完成する。
本実施形態のスラブ構築方法により構築されたスラブ10に内蔵される梁構造部20では、軸鉄筋21がPCa版11の上面よりも下方に位置することによって、適切な剛性を発揮すると共に、太くて高剛性な軸鉄筋21とした場合であって、コンクリート15が打設されたスラブ10の上面に対する軸鉄筋21のかぶり深さを適切に確保することができる。
【0020】
〔別実施形態〕
上記実施形態では、上記配筋工程において配力筋12の折り曲げ部12aに軸鉄筋21を支持させたが、例えば配力筋12に垂下されたフック等を介して間接的に軸鉄筋21を支持させるなどのように、別の形態で配力筋12に軸鉄筋21を支持させることもできる。
以下、上記実施形態とは異なる配力筋12に対する軸鉄筋21の支持方法を採用した別実施形態について、
図8~
図10に基づいて説明する。尚、下記の別実施形態のPCa版配置工程は、上記実施形態と同様であるため、説明を割愛する。
【0021】
別実施形態の配筋工程では、
図8及び
図10に示すように、折り曲げ部12a(
図3参照)を有さない直線状の配力筋12が、上記梁構造部空間20Aを挟んで互いに隣接するPCa版11上に亘って配筋される。更に、梁構造部空間20Aに軸鉄筋21を囲む形態のあばら筋25が、上記梁構造部延在方向に沿って所定の間隔で複数配設される。そして、これらあばら筋25は配力筋12に接合されて支持されることで、軸鉄筋21が間接的に配力筋12により支持されることになる。尚、あばら筋25と配力筋12との接合は溶接等の公知の接合方法で行われる。尚、この別実施形態では、あばら筋25の内側に上下2段に軸鉄筋21を配置することができる。更に、上段の軸鉄筋21については、PCa版11の上面よりも上方に位置するものであっても構わない。
【0022】
そして、別実施形態のコンクリート打設工程では、
図9に示すように、配力筋12及び主筋13等を埋設させる形態でPCa版11上にコンクリート15が打設され、同時に、上記軸鉄筋21及びあばら筋25等を埋設させる形態で梁構造部空間20Aにコンクリート15が打設される。そして、このようにコンクリート15が打設されることによって、梁構造部20が内蔵されたハーフPCa構造のスラブ10が完成する。
別実施形態のスラブ構築方法により構築されたスラブ10に内蔵される梁構造部20についても、下段の軸鉄筋21がPCa版11の上面よりも下方に位置することによって、適切な剛性を発揮すると共に、太くて高剛性な軸鉄筋21とした場合であって、コンクリート15が打設されたスラブ10の上面に対する軸鉄筋21のかぶり深さを適切に確保することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 建物
2 コア
3 外周部
10 スラブ
11 PCa版(プレキャストコンクリート版)
12 配力筋
12a 折り曲げ部
15 コンクリート
17 接続筋
20 梁構造部
20A 梁構造部空間
21 軸鉄筋
25 あばら筋