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  • 特許-アーク溶接装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】アーク溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/073 20060101AFI20241024BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B23K9/073 545
B23K9/12 305
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021033305
(22)【出願日】2021-03-03
(65)【公開番号】P2022134272
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】高田 賢人
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/139222(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/203162(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00-9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正送と逆送とを交互に切り換えて溶接ワイヤを送給する送給モータと、前記溶接ワイヤと母材との間に溶接電圧及び溶接電流を供給する電力制御部と、を備えて短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接装置において、
前記溶接ワイヤは鉄鋼ワイヤであり、
前記電力制御部は、前記短絡期間中の溶接電流の瞬時値を前記溶接電流の平均値以下に制御し、
前記送給モータは、前記正送と前記逆送との相互の切換時間を0.5~1.5msの範囲で切り換え、前記溶接ワイヤを前記正送と前記逆送との繰り返し周波数が120~200Hzの範囲になるように送給する、
ことを特徴とするアーク溶接装置。
【請求項2】
前記電力制御部は、前記短絡期間中の前記溶接電流を、定電流制御して100A以下の一定値に制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤの送給を正送と逆送とに交互に切り換え、短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な消耗電極式アーク溶接では、消耗電極である溶接ワイヤを一定速度で送給し、溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶接が行なわれる。消耗電極式アーク溶接では、溶接ワイヤと母材とが短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返す溶接状態になることが多い。
【0003】
溶接品質をさらに向上させるために、溶接ワイヤの送給を正送と逆送とに交互に切り換える正逆送給制御を行い、短絡期間とアーク期間とを繰り返し、短絡期間中に溶滴のくびれを検出すると溶接電流を低レベル電流値まで減少させてアークを再発生させて溶接するアーク溶接方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-1270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
短絡期間中に溶滴のくびれを検出して溶接電流を低レベル電流値まで減少させてアークを再発生させるくびれ検出制御は、スパッタの発生を大幅に削減することができるので、高品質の溶接結果を得ることができる。このくびれ検出制御を行うためには、溶滴のくびれの状態をアーク発生部の電圧から正確に検出する必要がある。このために、従来技術では、アーク発生部の電圧を検出するために、母材と溶接トーチとに専用の検出線を配線している。しかし、この検出線を配線するには手間がかかる。さらに、溶接トーチは溶接中に移動するので、検出線が断線してトラブルになることがある。さらに、大型構造物を溶接する場合には、アーク発生部の電圧を検出することが困難である。
【0006】
そこで、本発明では、正逆送給アーク溶接において、くびれ検出制御を行うことなくスパッタの発生を削減することができるアーク溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
正送と逆送とを交互に切り換えて溶接ワイヤを送給する送給モータと、前記溶接ワイヤと母材との間に溶接電圧及び溶接電流を供給する電力制御部と、を備えて短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接装置において、
前記溶接ワイヤは鉄鋼ワイヤであり、
前記電力制御部は、前記短絡期間中の溶接電流の瞬時値を前記溶接電流の平均値以下に制御し、
前記送給モータは、前記正送と前記逆送との相互の切換時間を0.5~1.5msの範囲で切り換え、前記溶接ワイヤを前記正送と前記逆送との繰り返し周波数が120~200Hzの範囲になるように送給する、
ことを特徴とするアーク溶接装置である。
【0008】
請求項2の発明は、
前記電力制御部は、前記短絡期間中の前記溶接電流を、定電流制御して100A以下の一定値に制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、正逆送給アーク溶接において、くびれ検出制御を行うことなくスパッタの発生を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態に係るアーク溶接装置のブロック図である。
図2図1のアーク溶接装置における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係るアーク溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0015】
電力制御回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、出力電圧Eを出力し、溶接ワイヤ1と母材2との間に溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを供給する。この電力制御回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換する上記の誤差増幅信号Eaによって駆動されるインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器を備えている。
【0016】
リアクトルWLは、上記の出力電圧Eを平滑する。このリアクトルWLのインダクタンス値は、例えば100μHである。
【0017】
送給モータWMは、後述する送給制御信号Fcを入力として、正送と逆送とを交互に繰り返して溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。送給モータWMには、過渡応答性の速いモータが使用される。溶接ワイヤ1の送給速度Fwの変化率及び送給方向の反転を速くするために、送給モータWMは溶接トーチ4の先端の近くに設置される場合がある。また、送給モータWMを2個使用して、プッシュプル方式の送給系とする場合もある。
【0018】
溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接電源の出力端子間には溶接電圧Vwが印加される。アーク3中を溶接電流Iwが通電する。溶接ワイヤ1には、鉄鋼ワイヤ、アルミニウムワイヤ等が使用される。溶接トーチ4の先端からはシールドガス(図示は省略)が噴出される。
【0019】
出力電圧設定回路ERは、予め定めた出力電圧設定信号Erを出力する。出力電圧検出回路EDは、上記の出力電圧Eを検出し平滑して、出力電圧検出信号Edを出力する。
【0020】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の出力電圧設定信号Er及び上記の出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧設定信号Er(+)と出力電圧検出信号Ed(-)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0021】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。
【0022】
電圧検出回路VDは、アーク発生部の電圧を検出する検出線が配線されていないので、溶接電源の出力端子間の電圧である溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡判別値(10V程度)未満のときは短絡期間にあると判別してHighレベルになり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0023】
正送加速期間設定回路TSURは、予め定めた正送加速期間設定信号Tsurを出力する。
【0024】
正送減速期間設定回路TSDRは、予め定めた正送減速期間設定信号Tsdrを出力する。
【0025】
逆送加速期間設定回路TRURは、予め定めた逆送加速期間設定信号Trurを出力する。
【0026】
逆送減速期間設定回路TRDRは、予め定めた逆送減速期間設定信号Trdrを出力する。
【0027】
正送ピーク値設定回路WSRは、予め定めた正送ピーク値設定信号Wsrを出力する。
【0028】
逆送ピーク値設定回路WRRは、予め定めた逆送ピーク値設定信号Wrrを出力する。
【0029】
送給速度設定回路FRは、上記の正送加速期間設定信号Tsur、上記の正送減速期間設定信号Tsdr、上記の逆送加速期間設定信号Trur、上記の逆送減速期間設定信号Trdr、上記の正送ピーク値設定信号Wsr、上記の逆送ピーク値設定信号Wrr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、以下の処理によって生成された送給速度パターンを送給速度設定信号Frとして出力する。この送給速度設定信号Frが0以上のときは正送期間となり、0未満のときは逆送期間となる。
1)正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu中は0から正送ピーク値設定信号Wsrによって定まる正の値の正送ピーク値Wspまで加速する送給速度設定信号Frを出力する。
2)続いて、正送ピーク期間Tsp中は、上記の正送ピーク値Wspを維持する送給速度設定信号Frを出力する。
3)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)からHighレベル(短絡期間)に変化すると、正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsdに移行し、上記の正送ピーク値Wspから0まで減速する送給速度設定信号Frを出力する。
4)続いて、逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru中は0から逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる負の値の逆送ピーク値Wrpまで加速する送給速度設定信号Frを出力する。
5)続いて、逆送ピーク期間Trp中は、上記の逆送ピーク値Wrpを維持する送給速度設定信号Frを出力する。
6)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)からLowレベル(アーク期間)に変化すると、逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdに移行し、上記の逆送ピーク値Wrpから0まで減速する送給速度設定信号Frを出力する。
7)上記の1)~6)を繰り返すことによって正負の台形波状に変化する送給パターンの送給速度設定信号Frが生成される。
【0030】
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Frを入力として、送給速度設定信号Frの値に相当する送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0031】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。
【0032】
短絡電流設定回路ISRは、予め定めた短絡電流設定信号Isrを出力する。
【0033】
第1アーク期間設定回路TA1Rは、予め定めた第1アーク期間設定信号Ta1rを出力する。
【0034】
第1アーク期間回路STA1は、上記の短絡判別信号Sd及び上記の第1アーク期間設定信号Ta1rを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化し予め定めた遅延期間Tcが経過した時点から第1アーク期間設定信号Ta1rによって予め定めた第1アーク期間Ta1中はHighレベルとなる第1アーク期間信号Sta1を出力する。
【0035】
第1アーク電流設定回路IA1Rは、予め定めた第1アーク電流設定信号Ia1rを出力する。
【0036】
第3アーク期間回路STA3は、上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点から予め定めた電流降下時間Tdが経過した時点でHighレベルになり、その後に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)になるとLowレベルになる第3アーク期間信号Sta3を出力する。
【0037】
第3アーク電流設定回路IA3Rは、予め定めた第3アーク電流設定信号Ia3rを出力する。
【0038】
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr、上記の短絡電流設定信号Isr、上記の第1アーク期間信号Sta1、上記の第3アーク期間信号Sta3、上記の第1アーク電流設定信号Ia1r及び上記の第3アーク電流設定信号Ia3rを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点から第1アーク期間信号Sta1がHighレベルに変化するまでの遅延期間中は、低レベル電流設定信号Ilrの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
2)その後に、第1アーク期間信号Sta1がHighレベル(第1アーク期間)のときは、第1アーク電流設定信号Ia1rの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
3)第1アーク期間信号Sta1がLowレベルに変化した時点から第3アーク期間信号Sta3がLowレベルに変化するまでの期間(第2アーク期間及び第3アーク期間)中は、第3アーク電流設定信号Ia3rの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
4)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)のときは、短絡電流設定信号Isrの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
【0039】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr及び上記の電流検出信号Idを入力として、電流制御設定信号Icr(+)と電流検出信号Id(-)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0040】
電源特性切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev、上記の第1アーク期間信号Sta1及び上記の第3アーク期間信号Sta3を入力として、以下の処理を行い、誤差増幅信号Eaを出力する。
1)第1アーク期間信号Sta1がLowレベルに変化し、第3アーク期間信号Sta3がHighレベルに変化するまでの第2アーク期間Ta2中は、電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。
2)それ以外の期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
この回路によって、溶接電源の特性は、短絡期間、遅延期間、第1アーク期間Ta1及び第3アーク期間Ta3中は定電流特性となり、第2アーク期間Ta2中は定電圧特性となる。
【0041】
図2は、図1のアーク溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(E)は第1アーク期間信号Sta1の時間変化を示し、同図(F)は第3アーク期間信号Sta3の時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0042】
同図(A)に示す送給速度Fwは、図1の送給速度設定回路FRから出力される送給速度設定信号Frの値に制御される。送給速度Fwは、図1の正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu、短絡が発生するまで継続する正送ピーク期間Tsp、図1の正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsd、図1の逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru、アークが発生するまで継続する逆送ピーク期間Trp及び図1の逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdから形成される。さらに、正送ピーク値Wspは図1の正送ピーク値設定信号Wsrによって定まり、逆送ピーク値Wrpは図1の逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる。この結果、送給速度設定信号Frは、正負の略台形波波状に変化する送給パターンとなる。
【0043】
[時刻t1~t4の短絡期間の動作]
正送ピーク期間Tsp中の時刻t1において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化する。これに応動して、時刻t1~t2の予め定めた正送減速期間Tsdに移行し、同図(A)に示すように、送給速度Fwは上記の正送ピーク値Wspから0まで減速する。
【0044】
同図(A)に示すように、送給速度Fwは時刻t2~t3の予め定めた逆送加速期間Truに入り、0から上記の逆送ピーク値Wrpまで加速する。この期間中は短絡期間が継続している。
【0045】
時刻t3において逆送加速期間Truが終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは逆送ピーク期間Trpに入り、上記の逆送ピーク値Wrpになる。逆送ピーク期間Trpは、時刻t4にアークが発生するまで継続する。したがって、時刻t1~t4の期間が短絡期間となる。
【0046】
同図(B)に示すように、時刻t1~t4の短絡期間中の溶接電流Iwの瞬時値は、図1の短絡電流設定信号Isrの値に定電流制御される。この短絡電流設定信号Isrの値は、溶接電流Iwの平均値以下に設定される。溶接電流Iwの平均値は、送給速度Fwの平均値によって略定まる。好ましくは、短絡電流設定信号Isrの値は、100A以下に設定され、より好ましくは70A以下に設定される。このように、短絡期間中の溶接電流Iwを小電流値に制御することによって、短絡発生時にスパッタが発生することを抑制し、溶滴が溶融池に円滑に吸収されることを促進する。さらには、従来技術のようにくびれ検出制御を行うことなくアーク再発生時の溶接電流Iwの値を小さくすることができるので、アーク再発生に伴うスパッタ発生を大幅に削減することができる。本実施の形態では、くびれ検出制御を行わないので、アーク発生部の電圧を検出するための検出線は不要である。従来技術では、短絡期間中の溶接電流Iwの瞬時値は、最大値が400A以上となっている。これは、短絡状態を解除するためには、大電流を通電し、そのピンチ力によって、溶滴にくびれを形成する必要があったためである。これに対して、本実施の形態では、溶接ワイヤを高速に逆送することによって、ピンチ力に頼ることなく、くびれを形成して短絡状態を解除することができる。このために、本実施の形態では、短絡期間中の溶接電流Iwを、従来技術よりも小さな値にすることができる。
【0047】
[時刻t4~t7のアーク期間の動作]
時刻t4において、溶接ワイヤの逆送によってくびれが進行してアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化する。これに応動して、時刻t4~t5の予め定めた逆送減速期間Trdに移行し、同図(A)に示すように、送給速度Fwは上記の逆送ピーク値Wrpから0まで減速する。
【0048】
時刻t5において逆送減速期間Trdが終了すると、時刻t5~t6の予め定めた正送加速期間Tsuに移行する。この正送加速期間Tsu中は、同図(A)に示すように、送給速度Fwは0から上記の正送ピーク値Wspまで加速する。この期間中はアーク期間が継続している。
【0049】
時刻t6において正送加速期間Tsuが終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは正送ピーク期間Tspに入り、上記の正送ピーク値Wspになる。この期間中もアーク期間が継続している。正送ピーク期間Tspは、時刻t7に短絡が発生するまで継続する。したがって、時刻t4~t7の期間がアーク期間となる。そして、短絡が発生すると、時刻t1の動作に戻る。
【0050】
時刻t4においてアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。他方、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t4から予め定めた遅延期間Tcの間は図1の低レベル電流設定信号Ilrの値となる。これは、アークが発生した直後に電流値を上昇させると、溶接ワイヤの逆送と溶接電流による溶接ワイヤの溶融とが加算されて、アーク長が急速に長くなり、溶接状態が不安定になる場合があるためである。
【0051】
正送加速期間Tsu中の時刻t51において、遅延期間Tcが終了すると、同図(E)に示すように、第1アーク期間信号Sta1がHighレベルに変化し、時刻t51~t61の予め定めた第1アーク期間Ta1に移行する。この第1アーク期間Ta1中は引き続き定電流制御され、同図(B)に示すように、図1の第1アーク電流設定信号Ia1rによって定まる所定の第1アーク電流Ia1が通電する。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは電流値及びアーク負荷によってさだまる値となり、大きな値となる。
【0052】
時刻t62において、アーク発生時点t4から予め定めた電流降下時間Tdが経過すると、同図(F)に示すように、第3アーク期間信号Sta3がHighレベルに変化する。時刻t61~t62の期間が第2アーク期間Ta2となる。この第2アーク期間Ta2中は、定電圧制御される。同図(B)に示すように、第2アーク電流Ia2はアーク負荷によって変化するが、第1アーク電流Ia1よりも小さい値であり、かつ、第3アーク電流Ia3よりも大きな値となる。すなわち、Ia1>Ia2>Ia3となるように出力制御される。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは定電圧制御によって所定値に制御され、第1アーク期間Ta1の電圧値と第3アーク期間Ta3の電圧値との中間値となる。この第2アーク期間Ta2を定電圧制御することによって、アーク長が適正値になるように制御している。
【0053】
第3アーク期間信号Sta3がHighレベルに変化する時刻t62から短絡が発生する時刻t7までの期間が、第3アーク期間Ta3となる。この第3アーク期間Ta3中は、定電流制御される。同図(B)に示すように、図1の第3アーク電流設定信号Ia3rによって定まる所定の第3アーク電流Ia3が通電する。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは電流値及びアーク負荷によって定まる値となる。短絡直前の第3アーク電流値Ia3を小さな値にすることによって、短絡の発生を導き、短絡発生時のスパッタ発生を抑制することができる。
【0054】
上記の各パラメータの数値例を以下に示す。短絡期間(所定値ではない):2.5ms、アーク期間(所定値ではない):4ms、遅延期間Tc(所定値):0.5ms、第1アーク期間Ta1(所定値):0.5ms、第2アーク期間Ta2(所定値ではない):2.5ms、第3アーク期間Ta3(所定値ではない):0.5ms、電流降下時間(所定値):3.5ms、低レベル電流値(所定値):70A、第1アーク電流値Ia1(所定値):350A、第3アーク電流値Ia3(所定値):60A、正送ピーク値Wsp(所定値):60m/min、逆送ピーク値Wrp(所定値):-40m/min、
【0055】
本実施の形態においては、送給モータWMは、正送と逆送との相互の切換時間を0.5~1.5msの範囲で切り換えることが好ましい。正送から逆送への切換時間は、正送減速期間Tsdと逆送加速期間Truとの合算値であるので、両値を設定することで設定することができる。逆送から正送への切換時間は、逆送減速期間Trdと正送加速期間Tsuとの合算値であるので、両値を設定することで設定することができる。上述したように、本実施の形態では、短絡期間中の溶接電流Iwの瞬時値を小さな値に制御しているために、溶滴のサイズを従来技術のときよりも小さくすることによって、安定した短絡移行溶接を行うことができる。相互の切換時間が0.5~1.5msの範囲にあるときは、溶滴が適正サイズとなり、溶接状態が安定になる。切換時間が1.5msを超えると、溶滴サイズが大きくなり、溶接状態が不安定になる。切換時間が0.5ms未満になると、送給速度の変化が急速過ぎて溶接状態が不安定になる。
【0056】
本実施の形態においては、送給モータWMは、溶接ワイヤを正送と逆送との繰り返し周波数が120~200Hzの範囲になるように送給することが好ましい。正送と逆送との繰り返し周波数は、短絡期間とアーク期間との繰り返し周波数となる。この繰り返し周波数は、正送ピーク値Wsp、逆送ピーク値Wrp、及び上記の正送と逆送との相互の切換時間を設定することによって、設定することができる。上述したように、本実施の形態では、短絡期間中の溶接電流Iwの瞬時値を小さな値に制御しているために、溶滴のサイズを従来技術のときよりも小さくすることによって、安定した短絡移行溶接を行うことができる。繰り返し周波数が120~200Hzの範囲にあるときは、溶滴が適正サイズとなり、溶接状態が安定になる。繰り返し周波数が120Hz未満になると、溶滴サイズが大きくなり、溶接状態が不安定になる。繰り返し周波数が200Hzを超えると、溶滴が適正サイズまで成長することができず、溶接状態が不安定になる。
【符号の説明】
【0057】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
E 出力電圧
Ea 誤差増幅信号
ED 出力電圧検出回路
Ed 出力電圧検出信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
ER 出力電圧設定回路
Er 出力電圧設定信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fw 送給速度
Ia1 第1アーク電流
IA1R 第1アーク電流設定回路
Ia1r 第1アーク電流設定信号
Ia2 第2アーク電流
Ia3 第3アーク電流
IA3R 第3アーク電流設定回路
Ia3r 第3アーク電流設定信号
ICR 電流制御設定回路
Icr 電流制御設定信号
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
ILR 低レベル電流設定回路
Ilr 低レベル電流設定信号
ISR 短絡電流設定回路
Isr 短絡電流設定信号
Iw 溶接電流
PM 電力制御回路
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
STA1 第1アーク期間回路
Sta1 第1アーク期間信号
STA3 第3アーク期間回路
Sta3 第3アーク期間信号
SW 電源特性切換回路
Tc 遅延期間
TA1R 第1アーク期間設定回路
Ta1r 第1アーク期間設定信号
Td 電流降下時間
Trd 逆送減速期間
TRDR 逆送減速期間設定回路
Trdr 逆送減速期間設定信号
Trp 逆送ピーク期間
Tru 逆送加速期間
TRUR 逆送加速期間設定回路
Trur 逆送加速期間設定信号
Tsd 正送減速期間
TSDR 正送減速期間設定回路
Tsdr 正送減速期間設定信号
Tsp 正送ピーク期間
Tsu 正送加速期間
TSUR 正送加速期間設定回路
Tsur 正送加速期間設定信号
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
Vw 溶接電圧
WL リアクトル
WM 送給モータ
Wrp 逆送ピーク値
WRR 逆送ピーク値設定回路
Wrr 逆送ピーク値設定信号
Wsp 正送ピーク値
WSR 正送ピーク値設定回路
Wsr 正送ピーク値設定信号
図1
図2