(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】接着方法、歪計測方法および接着剤
(51)【国際特許分類】
C03C 8/16 20060101AFI20241024BHJP
C09J 1/00 20060101ALI20241024BHJP
G01D 5/353 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C03C8/16
C09J1/00
G01D5/353 A
(21)【出願番号】P 2021142661
(22)【出願日】2021-09-01
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】水野 淳
(72)【発明者】
【氏名】三王 利一
(72)【発明者】
【氏名】永田 登章
(72)【発明者】
【氏名】高橋 祥治
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-056795(JP,A)
【文献】特開2013-241323(JP,A)
【文献】特開2019-060639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 8/00-8/24,
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歪センサを母材に接着させる方法であって、
前記母材に前記歪センサを載置した状態で接着剤を前記歪センサに塗布した後、850℃以上1000℃以下の温度で焼成し、
前記接着剤は、ガラス粉末と、溶剤と、バインダーと、を含有し、前記ガラス粉末の含有量が60質量%以上86質量%以下であり、
前記ガラス粉末は、
B
2
O
3
を主成分とし、800℃における粘度が7.6dPa・s未満であり、
前記ガラス粉末を850℃で焼成したガラスは、800℃における粘度が7.6dPa・s以上であり、
前記母材と前記ガラス粉末を850℃で焼成したガラスとの間の100℃以上800℃以下の温度における熱膨張係数の差が2.5×10
-6/K以下である、接着方法。
【請求項2】
前記ガラス粉末は
、BaO、CaOおよびMgOのいずれかと、SiO
2と、Al
2O
3とを含有する、請求項1に記載の接着方法。
【請求項3】
前記ガラス粉末は、850℃における粘度が4.0dPa・s以上である、請求項1または2に記載の接着方法。
【請求項4】
前記歪センサは、光ファイバセンサである、請求項1から3のいずれか一項に記載の接着方法。
【請求項5】
前記母材は、100℃以上800℃以下の温度における熱膨張係数が1.07×10
-5/K以上1.28×10
-5/K以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の接着方法。
【請求項6】
前記溶剤は、ターピネオールを含有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の接着方法。
【請求項7】
前記バインダーは、エチルセルロースを含有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の接着方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の接着方法により、前記歪センサを母材に接着させる工程と、
前記歪センサが接着している母材の歪を計測する工程と、を含む、歪計測方法。
【請求項9】
ガラス粉末と、溶剤と、バインダーと、を含有し、
前記ガラス粉末の含有量が60質量%以上86質量%以下であり、
前記ガラス粉末は、
B
2
O
3
を主成分とし、800℃における粘度が7.6dPa・s未満であり、
前記ガラス粉末を850℃で焼成したガラスは、800℃における粘度が7.6dPa・s以上である、接着剤。
【請求項10】
前記ガラス粉末は、850℃における粘度が4.0dPa・s以上である、請求項9に記載の接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着方法、歪計測方法および接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境上の悪影響を軽減するために、排ガス中の有害物質を、母材に担持されている触媒により浄化する排ガス浄化装置が用いられている。排ガス浄化装置は、高温の排ガスが母材に流れるため、母材に対して、800℃付近まで上昇した後、室温まで下降する冷熱サイクルが繰り返される。
【0003】
一方、800℃付近の温度で母材の歪を計測することが可能な歪センサとして、光ファイバセンサが知られている。光ファイバセンサは、通常、接着剤で接着させて使用する。
【0004】
特許文献1には、酸化ホウ素と酸化バリウムの何れも実質的に含有せず、SiO243~53mol%、CaO12~33mol%、MgO12~33mol%、La2O31~7mol%、及びZnO0~4.5mol%を含んでなる封着用ガラス組成物が記載されている。ここで、封着用ガラス組成物を粉末の形態で900~1150℃の温度にて焼成することにより50~850℃における熱膨張係数80~110×10-7/℃を示す結晶化ガラスを生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、母材と結晶化ガラスとの間の熱膨張係数の差が大きい場合に、歪センサが接着している母材に対して、冷熱サイクルを繰り返すと、結晶化ガラスのひび割れが発生する。
【0007】
本発明は、歪センサが接着している母材に対して、冷熱サイクルを繰り返しても、ガラスのひび割れの発生を抑制することが可能な接着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、歪センサを母材に接着させる方法であって、前記母材に前記歪センサを載置した状態で接着剤を前記歪センサに塗布した後、850℃以上1000℃以下の温度で焼成し、前記接着剤は、ガラス粉末と、溶剤と、バインダーと、を含有し、前記ガラス粉末の含有量が60質量%以上86質量%以下であり、前記ガラス粉末は、800℃における粘度が7.6dPa・s未満であり、前記ガラス粉末を850℃で焼成したガラスは、800℃における粘度が7.6dPa・s以上であり、前記母材と前記ガラス粉末を850℃で焼成したガラスとの間の20℃以上800℃以下の温度における熱膨張係数の差が2.5×10-6/K以下である。
【0009】
前記ガラス粉末は、B2O3を主成分とし、BaO、CaOおよびMgOのいずれかと、SiO2と、Al2O3とを含有してもよい。
【0010】
前記ガラス粉末は、850℃における粘度が4.0dPa・s以上であってもよい。
【0011】
前記歪センサは、光ファイバセンサであってもよい。
【0012】
前記母材は、100℃以上800℃以下の温度における熱膨張係数が1.23×10-5/K以上1.33×10-5/K以下であってもよい。
【0013】
前記溶剤は、ターピネオールを含有してもよい。
【0014】
前記バインダーは、エチルセルロースを含有してもよい。
【0015】
本発明の他の一態様は、歪計測方法において、上記の接着方法により、前記歪センサを母材に接着させる工程と、前記歪センサが接着している母材の歪を計測する工程と、を含む。
【0016】
本発明の他の一態様は、接着剤において、ガラス粉末と、溶剤と、バインダーと、を含有し、前記ガラス粉末の含有量が60質量%以上86質量%以下であり、前記ガラス粉末は、800℃における粘度が7.6dPa・s未満であり、前記ガラス粉末を850℃で焼成したガラスは、800℃における粘度が7.6dPa・s以上である。
【0017】
前記ガラス粉末は、850℃における粘度が4.0dPa・s以上であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、歪センサが接着している母材に対して、冷熱サイクルを繰り返しても、ガラスのひび割れの発生を抑制することが可能な接着方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】歪センサが接着している母材を有する装置の一例を示す図である。
【
図2】排ガス浄化装置の母材に対して冷熱サイクルを繰り返した場合の母材の歪の計測結果の一例を示す図である。
【
図3】実施例におけるホウ素系ガラス粉末およびホウ素系ガラス粉末を850℃で焼成したホウ素系ガラスの温度に対する粘度ηの関係を示すグラフである。
【
図4】実施例におけるフェライト系ステンレス鋳鋼とホウ素系ガラス粉末を850℃で焼成したガラスとの間の100℃以上800℃以下の温度における熱膨張係数αの差Δαを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0021】
[接着方法]
本実施形態の接着方法は、歪センサを母材に接着させる方法である。
【0022】
本実施形態の接着方法は、母材に歪センサを載置した状態で接着剤を歪センサに塗布した後、850℃以上1000℃以下の温度で焼成する。
【0023】
接着剤は、ガラス粉末と、溶剤と、バインダーと、を含有する。
【0024】
接着剤中のガラス粉末の含有量は、60質量%以上86質量%以下であることが好ましい。接着剤中のガラス粉末の含有量が60質量%未満であると、接着剤の塗布性が低下し、86質量%を超えると、接着剤が不均一になる。
【0025】
ガラス粉末の800℃における粘度は、7.6dPa・s未満である。ガラス粉末の800℃における粘度が7.6dPa・s以上であると、850℃以上1000℃以下の温度で焼成する際に、ガラス粉末が流動しにくくなり、歪センサを母材に適切に接着させることができない。
【0026】
ガラス粉末の850℃における粘度は、4.0dPa・s以上であることが好ましい。ガラス粉末の850℃における粘度が4.0dPa・s以上であると、850℃以上1000℃以下の温度で焼成する際に、ガラス粉末が適度に流動する。
【0027】
ガラス粉末を850℃で焼成したガラスの800℃における粘度は、7.6dPa・s以上である。ガラス粉末を850℃で焼成したガラスの800℃における粘度が7.6dPa・s未満であると、800℃付近の温度で母材の歪を計測する際に、ガラスが軟化し、歪センサを母材に適切に接着させることができない。
【0028】
母材とガラス粉末を850℃で焼成したガラスとの間の20℃以上800℃以下の温度における熱膨張係数(線膨張係数)の差は、2.5×10-6/K以下であり、2.0×10-6/K以下であることが好ましい。母材とガラス粉末を850℃で焼成したガラスとの間の20℃以上800℃以下の温度における熱膨張係数の差が2.5×10-6/Kを超えると、歪センサが接着している母材に対して、冷熱サイクルを繰り返すと、ガラスのひび割れが発生する。
【0029】
ガラス粉末は、B2O3を主成分とし、BaO、CaOおよびMgOのいずれかと、SiO2と、Al2O3とを含有することが好ましい。
【0030】
本明細書および特許請求の範囲において、主成分とは、質量基準の含有量が最も多い成分を意味する。
【0031】
ガラス粉末中のB2O3の含有量は、特に限定されないが、例えば、5質量%以上40質量%以下である。
【0032】
ガラス粉末中のBaO、CaOおよびMgOのいずれかの含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01質量%以上70質量%以下である。
【0033】
ガラス粉末中のSiO2の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.5質量%以上40質量%以下である。
【0034】
ガラス粉末中のAl2O3の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.1質量%以上30質量%以下である。
【0035】
溶剤としては、特に限定されないが、例えば、ターピネオール等が挙げられる。
【0036】
バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、エチルセルロース等が挙げられる。
【0037】
接着剤は、分散剤をさらに含有してもよい。
【0038】
分散剤としては、特に限定されないが、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソフビトール脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0039】
歪センサとしては、800℃付近の温度で母材の歪を計測することが可能であれば、特に限定されないが、例えば、光ファイバセンサ等が挙げられる。
【0040】
母材の100℃以上800℃以下の温度における熱膨張係数は、1.07×10-5/K以上1.28×10-5/K以下であることが好ましい。
【0041】
母材を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、フェライト系ステンレス鋼等が挙げられる。
【0042】
母材は、排ガス浄化装置等の装置を構成する部品であってもよい。
【0043】
[歪計測方法]
本実施形態の歪計測方法は、本実施形態の接着方法により、歪センサを母材に接着させる工程と、歪センサが接着している母材の歪を計測する工程と、を含む。
【0044】
図1に、歪センサが接着している母材を有する装置の一例として、排ガス浄化装置を示す。
【0045】
排ガス浄化装置10は、排ガス中の有害物質を浄化する触媒が担持されている母材11と、母材11に接着している光ファイバセンサ12と、を有する。
【0046】
光ファイバセンサ12が接着している母材11の歪は、例えば、公知の歪計測装置を用いて、計測することができる。
【0047】
図2に、母材11に対して、冷熱サイクルを繰り返した場合の母材11の歪の計測結果の一例を示す。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨の範囲内で、上記の実施形態を適宜変更してもよい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0050】
[実施例1、2、比較例1]
所定量(表1参照)のB2O3を主成分とし、BaO、CaOおよびMgOのいずれかと、SiO2と、Al2O3とを含有するホウ素系ガラス粉末と、適量のターピネオール(日本香料薬品製)と、エチルセルロースとしての、エトセルSTD100IND(日新化成製)と、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートとしての、レオドールTW-0106Vと、を混合し、接着剤を得た。ここで、比較例1の接着剤は、不均一であった。
【0051】
【表1】
図3に、ホウ素系ガラス粉末およびホウ素系ガラス粉末を850℃で焼成したホウ素系ガラスの温度に対する粘度ηの関係を示す。ここで、粘度を測定する際に用いるホウ素系ガラス粉末および焼成する際に用いるホウ素系ガラス粉末は、圧粉体である。
【0052】
図3から、ホウ素系ガラス粉末は、800℃における粘度が7.6dPa・s未満であり、ホウ素系ガラス粉末を850℃で焼成したホウ素系ガラスは、800℃における粘度が7.6dPa・s以上であることがわかる。
【0053】
フェライト系ステンレス鋳鋼製の母材に光ファイバセンサを載置した状態で、ディスペンサを用いて、光ファイバセンサに接着剤を塗布した後、850℃で1時間焼成し、光ファイバセンサを母材に接着させた。このとき、実施例1および実施例2の接着剤を塗布する母材として、それぞれ鋼板および鋼管を用いた。
【0054】
図4に、フェライト系ステンレス鋳鋼とホウ素系ガラス粉末を850℃で焼成したガラスとの間の100℃以上800℃以下の温度における熱膨張係数αの差Δαを示す。ここで、フェライト系ステンレス鋳鋼は、100℃以上800℃以下の温度における熱膨張係数αが1.07×10
-5/K以上1.28×10
-5/K以下であった。
【0055】
図4から、Δαが2.5×10
-6/K以下であることがわかる。
【0056】
[歪計測]
歪計測装置(市販品)を用いて、光ファイバセンサが接着している母材に対して、冷熱サイクルを繰り返した場合の歪を計測した。その結果、実施例1および実施例2の接着剤のいずれを用いた場合も、ガラスのひび割れが発生しなかった。
【符号の説明】
【0057】
10 排ガス浄化装置
11 母材
12 光ファイバセンサ