(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】測定方法及び測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20241024BHJP
G01N 27/327 20060101ALI20241024BHJP
G01N 27/28 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
G01N27/416 336B
G01N27/416 338
G01N27/327 353Z
G01N27/28 R
(21)【出願番号】P 2021151381
(22)【出願日】2021-09-16
【審査請求日】2024-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 彩乃
(72)【発明者】
【氏名】清水 威志
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-531792(JP,A)
【文献】特開2014-232101(JP,A)
【文献】特開2010-164583(JP,A)
【文献】特表2017-533440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
G01N 37/00
G01N 33/48-33/98
G01N 1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物を含む血液が導入される流路と、
血液中の測定対象物を測定するために、前記流路内に形成された第1作用極及び第1対極からなる第1電極対と、
前記流路において前記第1電極対の上流側に形成されるとともに第2作用極及び第2対極からなる第2電極対と、
前記流路において前記第1電極対の下流側に形成される血液検知極と、
少なくとも前記第1作用極に載置されるとともに前記測定対象物と反応する試薬と、
を有するバイオセンサを用いて、前記測定対象物を測定する測定方法であって、
前記第2電極対のうち下流側に位置する電極である第2下流電極と、前記第1電極対のうち上流側に位置しかつ前記試薬が載置されている電極である第1上流電極との間で、前記第1上流電極までの血液の導入である第1導入を検知する第1検知工程と、
前記第1電極対のうちのいずれかの電極である参照電極と、前記血液検知極との間で、前記血液検知極までの血液の導入である第2導入を検知する第2検知工程と、
前記第1導入の検知から、前記第2導入の検知までの時間が所定の時間閾値以下かどうかを判定する時間判定工程と、
前記第1電極対を用いて前記測定対象物に関連する第1情報を取得する第1測定工程と、
前記第2電極対を用いて前記測定対象物に関連する第2情報を取得する第2測定工程と、
前記時間判定工程における判定が所定の時間閾値以下である場合に、前記第1情報と前記第2情報とから前記測定対象物の濃度を演算する演算工程と、
前記時間判定工程における判定が所定の時間閾値を超えた場合にエラー処理を行うエラー処理工程と、
を有する、測定方法。
【請求項2】
前記第1検知工程は、
前記第2下流電極と前記第1上流電極との間にパルス電圧を印加する工程と、
前記印加したパルス電圧に対応する応答電流のピーク値を測定する工程と、
前記測定したピーク値が所定の電流閾値を超えたか否かを判断し、超えた回数が所定回数以上の場合に前記第1導入を検知する導入検知工程と、
を含んでなる、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記第1測定工程は、
前記第1電極対に直流電圧を印加する工程と、
前記印加した直流電圧に対応する、前記第1情報としての応答電流値を測定する工程と、
を含んでなり、
前記第2測定工程は、
前記第2電極対に直流電圧を印加する工程と、
前記印加した直流電圧に対応する、前記第2情報としての応答電流値を測定する工程と、
を含んでなる、請求項1又は請求項2に記載の測定方法。
【請求項4】
測定対象物を含む血液が導入される流路と、
血液中の測定対象物を測定するために、前記流路内に形成された第1作用極及び第1対極からなる第1電極対と、
前記流路において前記第1電極対の上流側に形成されるとともに第2作用極及び第2対極からなる第2電極対と、
前記流路において前記第1電極対の下流側に形成される血液検知極と、
少なくとも前記第1作用極に載置されるとともに前記測定対象物と反応する試薬と、
を有するバイオセンサと、
前記第2電極対のうち下流側に位置する電極である第2下流電極と、前記第1電極対のうち上流側に位置しかつ前記試薬が載置されている電極である第1上流電極との間で、前記第1上流電極までの血液の導入である第1導入を検知する第1検知器と、
前記第1電極対のうちのいずれかの電極である参照電極と、前記血液検知極との間で、前記血液検知極までの血液の導入である第2導入を検知する第2検知器と、
前記第1導入の検知から、前記第2導入の検知までの時間が所定の時間閾値以下かどうかを判定する時間判定器と、
前記第1電極対を用いて前記測定対象物に関連する第1情報を取得する第1測定器と、
前記第2電極対を用いて前記測定対象物に関連する第2情報を取得する第2測定器と、
前記時間判定器における判定が所定の時間閾値以下である場合に、前記第1情報と前記第2情報とから前記測定対象物の濃度を演算する演算器と、
前記時間判定器における判定が所定の時間閾値を超えた場合にエラー表示を行うエラー表示器と、
を有する、測定装置。
【請求項5】
前記バイオセンサの電極間に電圧を印加する電圧印加器と、
前記電圧印加器とそれぞれの電極との間を接続するスイッチを有する接続回路と、
前記スイッチの開閉を制御する制御部と、
前記電圧印加器が印加した電圧に対応する応答電流を測定する測定器と、を有する請求項4に記載の測定装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第2下流電極と前記第1上流電極との間が接続するように、前記接続回路のスイッチを制御し、
前記電圧印加器は、前記第2下流電極と前記第1上流電極との間にパルス電圧を印加し、
前記測定器は、前記印加したパルス電圧に対応する応答電流のピーク値を測定し、
前記第1検知器は、前記測定したピーク値が所定の電流閾値を超えていると前記第1導入を検知する、請求項5に記載の測定装置。
【請求項7】
前記第1検知器は、1回目に測定されたピーク値が所定の第1電流閾値を超え、さらに2回目以降に測定されたピーク値が前記第1電流閾値を上回る第2電流閾値を超えたときに、前記第1導入を検知する、請求項6に記載の測定装置。
【請求項8】
前記制御部が前記電圧印加器と前記第2下流電極又は前記第1上流電極との間のいずれかのスイッチを周期的に開閉しつつ、前記電圧印加器が定常電圧を印加することによって、前記第2下流電極と前記第1上流電極との間に前記パルス電圧が印加される、請求項6又は請求項7に記載の測定装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記参照電極と前記血液検知極との間が接続するように、前記接続回路のスイッチを制御し、
前記電圧印加器は、前記参照電極と前記血液検知極との間に電圧を印加し、
前記測定器は、前記印加した電圧に対応する応答電流値を測定し、
前記第2検知器は、前記測定した応答電流値が所定の電流閾値を超えていると前記第2導入を検知する、請求項6又は請求項7に記載の測定装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記第1電極対が接続するように、前記接続回路のスイッチを制御し、
前記電圧印加器は、前記第1電極対に直流電圧を印加し、
前記測定器は、前記印加した直流電圧に対応する、前記第1情報としての応答電流値を測定するとともに、
前記制御部は、前記第1情報を測定する前又は後のいずれかで、前記第2電極対が接続するように、前記接続回路のスイッチを制御し、
前記電圧印加器は、前記第2電極対に直流電圧を印加し、
前記測定器は、前記印加した直流電圧に対応する、前記第2情報としての応答電流値を測定する、請求項5から請求項9までのいずれか1項に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中の測定対象物を測定する測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2に開示の技術では、分析用具(バイオセンサ)の流路内に、グルコースを測定するための試薬が設けられた1対のグルコース電極を用いてグルコース濃度を測定し、そのような試薬が設けられない1対のヘマトクリット電極を用いて測定したヘマトクリット値を用いてグルコース濃度の補正を行う技術が開示されている。
【0003】
特許文献3に開示の技術では、バイオセンサの流路内に作用極を複数準備し、その中のある作用極を用いて血液成分量を測定し、他の作用極で血球量(ヘマトクリット)及び妨害物質量を測定することで、血球量及び妨害物質量を測定し、これを用いた血液成分量の補正を行う技術が開示されている。
【0004】
特許文献4に開示の技術では、バイオセンサの試料供給路に沿って、試料供給口から試料の流れる方向に向かって、対電極、測定電極及び検知電極のうち検知電極が最も下流側に形成され、電極部の第1の組、第2の組から出力される電流それぞれが所定の閾値を超えたか否かにより、測定に必要な充分な量の試料液が供給されたか否かを判別し、また、第1の組からの電流が所定の閾値を超えてから、所定の経過時間内に前記第2の組からの電流が所定の閾値を超えない場合、試料液が不足していると判定する技術が開示されている。
【0005】
特許文献5に開示の技術では、交流電流を利用して血液検知を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-232102号公報
【文献】特開2019-35748号公報
【文献】特許第4689601号公報
【文献】WO 02/44705 A1
【文献】特表2001-527215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の実施態様は、バイオセンサを用いて血液中の測定対象物を測定する測定方法において、バイオセンサに正しくかつ適量に血液が点着されたことを検知することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、測定対象物を含む血液が導入される流路と、血液中の測定対象物を測定するために、流路内に形成された第1作用極及び第1対極からなる第1電極対と、流路において第1電極対の上流側に形成されるとともに第2作用極及び第2対極からなる第2電極対と、流路において第1電極対の下流側に形成される血液検知極と、少なくとも第1作用極に載置されるとともに測定対象物と反応する試薬と、を有するバイオセンサを用いて、測定対象物を測定する測定方法であって、第2電極対のうち下流側に位置する電極である第2下流電極と、第1電極対のうち上流側に位置しかつ試薬が載置されている電極である第1上流電極との間で、第1上流電極までの血液の導入である第1導入を検知する第1検知工程と、第1電極対のうちのいずれかの電極である参照電極と、血液検知極との間で、血液検知極までの血液の導入である第2導入を検知する第2検知工程と、第1導入の検知から、第2導入の検知までの時間が所定の時間閾値以下かどうかを判定する時間判定工程と、第1電極対を用いて測定対象物に関連する第1情報を取得する第1測定工程と、第2電極対を用いて測定対象物に関連する第2情報を取得する第2測定工程と、時間判定工程における判定が所定の時間閾値以下である場合に、第1情報と第2情報とから測定対象物の濃度を演算する演算工程と、時間判定工程における判定が所定の時間閾値を超えた場合にエラー処理を行うエラー処理工程と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の実施態様によれば、バイオセンサを用いて血液中の測定対象物を測定する測定方法において、バイオセンサに正しくかつ適量に血液が点着されたことを検知することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態の測定装置の外観を示す斜視図である。
【
図2】バイオセンサの概略構成を示す模式図である。
【
図4】実施形態の測定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】パルス電圧印加とそれに対応する応答電流の関係を示すグラフである。
【
図6】パターン2及びパターン3における応答電流値の、パターン1に対する減少率を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態に係る測定方法及び測定装置について説明する。なお、以下の説明では、バイオセンサに点着された血液が流路内で流動する方向に沿って、「上流側」及び「下流側」を定義している。
【0012】
(1)測定方法
本実施形態に係る測定方法は、測定対象物を含む血液が導入される流路と、血液中の測定対象物を測定するために、流路内に形成された第1作用極及び第1対極からなる第1電極対と、流路において第1電極対の上流側に形成されるとともに第2作用極及び第2対極からなる第2電極対と、流路において第1電極対の下流側に形成される血液検知極と、少なくとも第1作用極に載置されるとともに測定対象物と反応する試薬と、を有するバイオセンサを用いて、測定対象物を測定する測定方法であって、第2電極対のうち下流側に位置する電極である第2下流電極と、第1電極対のうち上流側に位置しかつ試薬が載置されている電極である第1上流電極との間で、第1上流電極までの血液の導入である第1導入を検知する第1検知工程と、第1電極対のうちのいずれかの電極である参照電極と、血液検知極との間で、血液検知極までの血液の導入である第2導入を検知する第2検知工程と、第1導入の検知から、第2導入の検知までの時間が所定の時間閾値以下かどうかを判定する時間判定工程と、第1電極対を用いて測定対象物に関連する第1情報を取得する第1測定工程と、第2電極対を用いて測定対象物に関連する第2情報を取得する第2測定工程と、時間判定工程における判定が所定の時間閾値以下である場合に、第1情報と第2情報とから測定対象物の濃度を演算する演算工程と、時間判定工程における判定が所定の時間閾値を超えた場合にエラー処理を行うエラー処理工程と、を有する。
【0013】
測定対象物とは、血液中に含まれる化学的成分をいい、たとえば、グルコース(血糖)又はラクテート(乳酸)等である。第1電極対は、第1作用極及び第1対極からなり、少なくとも第1作用極に試薬が載置されており、好ましくは、流路に露出している第1作用極の全面が試薬に覆われる。試薬は、測定対象物と反応する化学物質であって、たとえば、酵素及びメディエータを含むものであってもよい。試薬は第1対極に載置されていても差し支えないが、第1作用極の上流側に位置する第2電極対を構成する電極には接してはいけない。第2電極対は、第1電極対の上流側に位置し、第2作用極及び第2対極からなる。
【0014】
第2電極対のうち、下流側に位置する電極、換言すると第1電極対に近い方の電極が、第2下流電極である。第2電極対のうち、第2作用極と第2対極のいずれが上流側に位置しても差し支えないが、第2作用極が下流側に位置している場合は第2作用極が第2下流電極となり、第2対極が下流側に位置している場合は第2対極が第2下流電極となる。一方、第1電極対のうち、上流側に位置しかつ試薬が載置されている電極が、第1上流電極である。ここで、第1電極対のうち、第1作用極のみに試薬が載置されている場合には、第1作用極が上流側に設けられ、この第1作用極が第1上流電極となる。一方、第1電極対において、第1作用極と第1対極との両方に試薬が載置されている場合には、第1対極を上流側に設けてもよく、その場合、第1対極が第1上流電極となる。これら第2下流電極と第1上流電極との間が血液を介して電気的に導通することで、第1上流電極までに血液が導入されたことを意味する第1導入が検知される。この第1導入を検知する工程が、第1検知工程である。
【0015】
この第1検知工程は、第2下流電極と第1上流電極との間にパルス電圧を印加する工程と、印加したパルス電圧に対応する応答電流のピーク値を測定する工程と、測定したピーク値が所定の電流閾値を超えたか否かを判断し、超えた回数が所定回数以上の場合に第1導入を検知する導入検知工程と、を含んでなることが望ましい。すなわち、パルス電圧によるパルス波で応答電流のピーク値を測定する場合、同じ値の直流電圧を印加した場合に比べ高い値を得ることができる。たとえば、パルス波の周波数は、1~2000Hz(周期は、0.5m秒~1秒)、パルス波のベースからピークまでの電位差は50~1000mV、パルス波がベースからピークまで立ち上がる時間は30μ秒以下であることが望ましい。この時間が30μ秒以下であることで、応答信号のピーク値を高精度に発生させることができる。なお、上記所定回数は、1回であってもよいが、静電気のようなノイズ成分によって偶発的に得られた高いピーク値による誤判定を避けるために、複数回、さらには3回であることが望ましい。
【0016】
第1電極対のうち、いずれかの電極が参照電極である。参照電極は、第1導入の検知に用いられる第1上流電極と同じ電極であっても差し支えないが、第1上流電極ではない、下流側に位置する方の電極を参照電極とすることが望ましい。この参照電極と、最下流に位置する電極である血液検知極との間が血液を介して電気的に導通することで、血液検知極までに血液が導入されたことを意味する第2導入が検知される。この第2導入を検知する工程が、第2検知工程である。血液検知極は流路の最下流の近傍に設けられている。そのため、血液検知極まで血液が導入されたことが検知されれば、流路全体に血液が満たされたと考えることができる。
【0017】
この第2検知工程は、参照電極と血液検知極との間にパルス電圧を印加する工程と、印加した電圧に対応する応答電流値を測定する工程と、測定した応答電流値が所定の電流閾値を超えたか否かを判断し、超えていた場合に第2導入を検知する導入検知工程と、を含んでなることが望ましい。ただし、第2検知工程で印加する電圧は直流電圧であって、測定した応答電流値が所定の電流閾値を超えたか否かを判断してもよい。
【0018】
時間判定工程では、第1導入の検知から、第2導入の検知までの時間が所定の時間閾値以下かどうかを判定する。ここで、バイオセンサに点着した血液量が血液と試薬が触れ合う程度であるが、流路全体を満たす程には足りなかった場合に再度血液を点着すると、一度目の点着で血液と試薬が触れ合っている数秒の間に試薬の溶解が進んでしまうため、二度目の点着で追加された血液によって、第1電極対上に存在していた試薬が下流側へと押し流される。この状態で測定対象物の測定を行うと、本来反応に必要な量として定められていた試薬が第1電極対上で不足することとなり、応答電流値が低値化してしまう。そこで、本実施形態では、時間判定工程を設け、第1導入の検知から、第2導入の検知までの時間が所定の時間閾値以下かどうかを判定し、この判定が否定的な場合、すなわち、第1導入の検知から第2導入の検知までの時間が所定の時間閾値を超えた場合には、エラー処理工程においてエラー処理が行われる。このエラー処理とは、たとえば、表示画面に視覚的にエラーメッセージを表示したり、音声表示装置による警告音を発したり、処理を中断したりすること等が挙げられる。なお、点着した血液量が足りずに、第2導入の検知がなされなかった場合は、時間判定工程において、所定の時間位置を超えたものと判定して、エラー処理工程を実施することができる。
【0019】
第1測定工程は、第1電極対を用いて測定対象物に関連する第1情報を取得する。この第1測定工程は、第1電極対に直流電圧を印加する工程と、印加した直流電圧に対応する、第1情報としての応答電流値を測定する工程と、を含んでなることが望ましい。また、第2測定工程は、第2電極対を用いて測定対象物に関連する第2情報を取得する。この第2測定工程は、第2電極対に直流電圧を印加する工程と、印加した直流電圧に対応する、第2情報としての応答電流値を測定する工程と、を含んでなることが望ましい。
【0020】
第1情報は、試薬と反応した血液に印加された応答電流値である。また、第2情報は、試薬とは反応していない血液に印加された応答電流値である。ここで、第2電極対は第1電極対の上流側に位置しているため、第2電極対で測定される応答電流値は、試薬の影響を受けない。第1情報としては、試薬との反応に基づいて測定される情報、たとえば、グルコース値又はラクテート値等が挙げられる。第2情報としては、第1情報に対する参照情報であり、具体的には試薬を用いずに測定される血液の物性に関する情報、たとえば、ヘマトクリット値が上げられる。また、第1情報として測定する項目と同じ項目であるが、異なる測定原理に基づいて測定される応答電流値を第2情報としてもよい。
【0021】
演算工程では、時間判定工程における判定が肯定的な場合、すなわち、第1導入の検知から第2導入の検知までの時間が時間閾値以下である場合に、第1情報と第2情報とから測定対象物の最終的な濃度が演算される。たとえば、測定対象物の濃度として得られた第1情報を、参照情報として得られた第2情報で補正することで、測定対象物の最終的な濃度を得ることができる。また、測定対象物の濃度として得られた第1情報と、第1情報とは異なる測定原理で測定された測定対象物の濃度として得られた第2情報とから、第2情報で第1情報を補正するか、あるいは第1情報と第2情報との平均値を取るかによって、測定対象物の最終的な濃度を得ることとしてもよい。
【0022】
(2)測定装置
上述の測定方法を実施する測定装置の一実施形態について、以下に述べる。
図1は、本実施形態に係る測定装置1の外観を示す斜視図である。本実施形態は、一例として、測定装置1を、携帯型の血糖値計とした場合の例である。
図1において、測定装置1としての携帯型の血糖値計と、この測定装置1に着脱可能に構成されたバイオセンサ2とが設けられている。このバイオセンサ2には、後述の流路2a内に試料としての患者の血液が導入されるように流路2aの導入口としての血液供給口2dと、血液が導入されたことによる流路2a内の空気を排出するための空気孔2eが形成されており、血液中の血糖値(グルコース値)を検出するための機能を有するように構成されている。
図1に示す測定装置1は、たとえば、携帯型の血糖測定器や血糖自己測定メータなどの血糖値計として使用することができる。
【0023】
また、測定装置1は、本体1aを備えており、この本体1aには、短冊状のバイオセンサ2を挿入するための挿入口1bが設けられている。また、本体1aには、たとえばマイクロプロセッサにて構成されるとともに、測定装置1の各部の制御を行う制御部100が設けられている。また、本体1aは、
図3に示すように、バイオセンサ2に対して、所定の電圧信号を供給するとともに、バイオセンサ2から測定結果を示す電圧信号を受け取ってA/D変換する電圧印加器50、及び、測定値を示す測定データを生成する測定器60と、測定部で得られた測定データを記録する図示しない記録部とを有する制御部100を備えている。この測定器60で得られた測定データは、測定時間や患者IDなどと関連付けて、記録部に記録されるようになっている。
【0024】
また、本体1aには、測定データを表示する表示画面1cと、外部機器とデータ通信するためのコネクタ1dとが設けられている。このコネクタ1dは、外部機器としてのスマートフォンなどの携帯機器やパーソナルコンピュータなどとの間で、測定データ、測定時間、患者IDなどのデータを送受信するようになっている。すなわち、測定装置1では、コネクタ1dを介在させて、外部機器に測定データや測定時間を転送したり、外部機器から患者ID等を受信して測定データなどと関連付けたりすることができるように構成されている。
【0025】
なお、上記の説明以外に、たとえば上記測定器60をバイオセンサ2の端部に設けて、バイオセンサ2の側で測定データを生成する構成でもよい。また、測定装置1の本体1aにおいて、患者などのユーザがデータを入力するためのボタン、タッチパネル等の入力部を含むユーザインタフェースを備えてもよい。また、表示画面1cや記録部などを本体1aに設けずに、本体1aと接続可能な外部装置に設ける構成であってもよい。
【0026】
図2は、本実施形態の測定装置1で使用されるバイオセンサ2の模式図である。図中、上側が上流側であり、下側が下流側である。バイオセンサ2においては、たとえば、合成樹脂(プラスチック)を用いて形成された基板上に、たとえば、金(Au)のような金属材料、又はカーボンのような炭素材料を用いて形成された電極層が形成される。電極層の上に、被覆領域2bとして矩形状の切抜部を有する図示しないスペーサ、さらにその上に空気孔2eが形成された図示しない合成樹脂製のカバーが積層される。基板、スペーサ、及びカバーの積層により、スペーサの切抜部によって形成された血液供給口2dを有する空間が形成され、この空間が流路2aとなる。空気孔2eは流路2aの下流端付近に形成されている。
【0027】
本実施形態において、電極層は、第1電極対10としての第1作用極11及び第1対極12、第2電極対20としての第2作用極21及び第2対極22、並びに血液検知極30の5つの電極が流路2a内にバイオセンサ2の長手方向及び幅方向にそれぞれが平行して矩形状に露出するように形成されており、流路2aに露出した第1電極対10、第2電極対20、血液検知極30が導入された血液と接触し、測定領域として機能する。なお、隣接する各電極間は絶縁されている。たとえば、物理蒸着によって形成された金属材料によって電極層が形成されている場合には、レーザ光で所定の電極パターンを描くこと(トリミング)により各電極間が絶縁されている。また、炭素材料を用いて形成された電極層の場合では所定の間隔を空けてそれぞれの電極が形成される。本実施形態の電極層は、ニッケルバナジウム合金を用いて形成されている。
【0028】
各電極は、バイオセンサ2の長手方向に沿って延設され、上流端側で幅方向に屈曲している。この屈曲部分は、上流側から、第2作用極21、第2対極22、第1作用極11、第1対極12及び血液検知極30の順に、幅方向に並行に位置している。各電極は、バイオセンサ2の上流端から下流端近傍までの被覆領域2bで図示しない前記のカバーで被覆されているが、下流端部分は被覆されずに露出し、この部分が本体1aの挿入口1bに挿入されるコネクタ領域2cとなっている。このコネクタ領域2cでは、第1作用極11のリード部11a、第1対極12のリード部12a、第2作用極21のリード部21a、第2対極22のリード部22a及び血液検知極30のリード部30aがそれぞれ露出した接点となっている。
【0029】
バイオセンサ2の上流部分の幅方向中央部分において、各電極と図示しないカバーとの間に間隙が形成されている。この間隙は、上述のとおり血液が点着され流動するキャピラリ状の流路2aである。また、上流側から数えて2番目の電極である第2対極22と、3番目の電極である第1作用極11との間の間隙である非導電領域45は、他の電極間の間隙よりも広くなっている。この非導電領域45は、レーザ光で矩形状のパターンを電極層に描かれることによって他の電極と絶縁されて形成された領域である。さらに、第1作用極11の上には試薬40が載置されている。この試薬40が載置されている領域は、下流側は第1対極12の半ばまでに至り、上流側は非導電領域45の半ばまでに至るが、第2対極22までには及んでいない。換言すると、第1作用極11と第2対極22との間が非導電領域45で隔てられているため、第1作用極11に載置されている試薬40と第2対極22との接触が妨げられている。バイオセンサ2の血液供給口2dに血液が点着されると、流路2aの中を、毛細管力によって第2対極22、第1作用極11、第1対極12及び血液検知極30の順に下流側に流動していく。このとき、血液が第1作用極11に至ると、第1作用極11に載置されている試薬40が血液により溶解される。
【0030】
図3は、本実施形態の測定装置1の機能を示すブロック図である。本実施形態の測定装置1は、上述のとおり、血液中の測定対象物を測定する第1作用極11及び第1対極12からなる第1電極対10と、第1電極対10の上流側に形成されるとともに第2作用極21及び第2対極22からなる第2電極対20と、第1電極対10の下流側に形成される血液検知極30と、少なくとも第1作用極11に接して載置されるとともに測定対象物と反応する試薬40と、を有するバイオセンサ2を備える。
【0031】
バイオセンサ2の各電極のリード部11a、12a、21a、22a及び30aはそれぞれ並列に後述の電圧印加器50及びグランドと接続回路200によって接続している。接続回路200には、電圧印加器50とリード部11aとの間に第1作用極用スイッチ211、電圧印加器50とリード部12aとの間に第1対極用スイッチ212、電圧印加器50とリード部21aとの間に第2作用極用スイッチ221、電圧印加器50とリード部22aとの間に第2対極用スイッチ222、及び電圧印加器50とリード部30aとの間に血液検知極用スイッチ230がそれぞれ設けられている。
【0032】
さらに、各電極のリード部11a、12a、21a、22a及び30aと、各々に対応するスイッチ211、212、221、222、230との間はそれぞれ分岐しており、グランドに並列に接続している。そして、それぞれの分岐点とグランドとの間の接続回路200には第1作用極用グランドスイッチ311、第1対極用グランドスイッチ312、第2作用極用グランドスイッチ321、第2対極用グランドスイッチ322、血液検知極用グランドスイッチ330がそれぞれ設けられている。それぞれのスイッチは電子スイッチであり、後述のとおり、制御部100によってオン・オフ制御されるようになっている。
【0033】
測定装置1は、電源を備えた電圧印加器50を備えている。電圧印加器50は接続回路200を通じて各電極と接続できるようになっている。また、電圧印加器50には、電極間に流れる電流を電圧に変換して出力する電流/電圧変換回路51、電流/電圧変換回路51からの電圧値をパルスに変換するA/D変換回路52を有している。制御部100によって使用する電極に対応する所望のスイッチをオンし、グランドにおいて各電極間に印加する電圧を可変制御することで、電圧印加器50は電極間に電圧を印加するとともに、電極間に流れる応答電流値を取得できる。
【0034】
測定装置1はさらに、所定のプログラムを実行する中央制御装置である制御部100を備える。制御部100は、電圧印加器50のA/D変換回路52からのパルスに基づいて第1情報及び第2情報に対応する測定値を示す測定データを取得する測定器60(第1情報を取得する場合は第1測定器61と称され、また、第2情報を取得する場合は第2測定器62と称される。)、第1導入及び第2導入を検知する導入検知器65(第1導入を検知する場合は第1検知器66と称され、また、第2導入を検知する場合は第2検知器67と称される。)、第1導入の検知から第2導入の検知までの時間が所定の時間閾値以下かどうかを判定する時間判定器70と、時間判定器70における判定が肯定的な場合に、第1情報と第2情報とから測定対象物の濃度を演算する演算器80とを有する。
【0035】
測定装置1はさらに、時間判定器70における判定が否定的な場合にエラー表示を行うエラー表示器90と、を有する。
【0036】
以下、各検知工程及び各測定工程について、各スイッチの開閉状態を示した下記表1を参照しつつ説明する。
【0037】
【0038】
前記(1)で説明した第1検知工程では、第2下流電極23(本実施形態では第2対極22)と第1上流電極13(本実施形態では第1作用極11)とが使用される。第1検知工程では、まず、制御部100が第2対極用スイッチ222と第1作用極用グランドスイッチ311とを接続状態(CLOSE)とし、それ以外のスイッチは非接続状態(OPEN)となるように制御する(表1参照)。次に、電圧印加器50が、第2下流電極23(第2対極22)と第1上流電極13(第1作用極11)との間に定常電圧(たとえば、500mV)を印加する。この際、制御部100が第2対極用スイッチ222を所定周期で開閉するよう制御することで、これらの電極間に周期的にパルス電圧を印加することができる。第1上流電極13(第1作用極11)まで血液が導入されると、測定器60は印加したパルス電圧に対応する応答電流のピーク値を測定することができる。導入検知器65(「第1検知器66」)は、測定器60が測定した応答電流のピーク値が所定の電流閾値を超えたか否かを判断し、超えている場合に第1導入を検知する。
【0039】
なお、上記の本実施形態では、第2下流電極23(第2対極22)を作用極としている。バイオセンサ2に点着した血液が不足している場合、上流側に位置する電極上には比較的多い血液量が存在するものの、下流側の電極上では血液量が少ない状況となる。そこで、上流側に位置する第2下流電極23(第2対極22)を作用極とすることで、電流の流れが発生しやすくなるため、血液の不足を検知する精度を高くすることができる。
【0040】
一方、下流側に位置する第1上流電極13(第1作用極11)を作用極とした場合には、後述の第1測定工程における第1作用極11と、作用極を共通にすることができる。これにより、電気回路の構成を簡便にすることができる。この場合、第1作用極用スイッチ211と第2対極用グランドスイッチ322とが接続状態となるように制御することが必要となる。
【0041】
なお、
図3においては、第2電極対20のうち下流側に位置する第2対極22を第2下流電極23としているが、第2作用極21を下流側に配置する場合には、第2作用極21が第2下流電極23となる。
図3においてはまた、第1電極対10のうち上流側に位置する第1作用極11を第1上流電極13としているが、第1対極12を上流側に配置し、かつ、第1対極12の上にも試薬40が載置される場合には、第1対極12が第1上流電極13となる。印加されるパルス電圧の電圧値は、たとえば、50~1000mVの範囲、より好ましくは100~600mVの範囲で設定することが望ましい。また、応答電流のピーク値は、たとえば、0.3μA以上、より好ましくは0.7μA以上で設定することが望ましい。
【0042】
前記(1)で説明した第2検知工程では、参照電極14(本実施形態では第1対極12)と血液検知極30とが使用される。第2検知工程では、まず、制御部100が第1対極用スイッチ212と血液検知極用グランドスイッチ330とを接続状態とし、それ以外のスイッチは非接続状態となるように制御する(表1参照)。次に、電圧印加器50が、参照電極14(第1対極12)と血液検知極30との間に定常電圧(たとえば、200mV)を印加する。この際、制御部100が第1対極用スイッチ212を所定周期で開閉するよう制御することで、これらの電極間に周期的にパルス電圧を印加することができる。血液検知極30まで血液が導入されると、測定器60は印加したパルス電圧に対応する応答電流のピーク値を測定することができる。導入検知器65(「第2検知器67」)は、測定器60が測定した応答電流のピーク値が所定の電流閾値を超えたか否かを判断し、超えている場合に第2導入を検知する。
【0043】
なお、本実施形態では、第1電極対10のうち下流側に位置する第1対極12を参照電極14としているが、上流側に位置する第1作用極11を参照電極14としてもよい。印加されるパルス電圧の電圧値は、たとえば、50~1000mVの範囲、より好ましくは100~600mVの範囲で設定することが望ましい。また、応答電流のピーク値は、たとえば、0.3μA以上、より好ましくは0.7μA以上で設定することが望ましい。また、本実施形態ではパルス電圧を印加したが、制御部100が第1対極用スイッチ212を常時接続状態とすることで、直流電圧を印加することもできる。この場合、直流電圧に応答する応答電流値のピーク値、又は初期応答から所定の時間経過後の電流値を測定器60が測定し、この電流値が所定の電流閾値を超えたか否かを導入検知器65(「第2検知器67」)が判断することによって、第2導入を検知してもよい。
【0044】
時間判定器70は、前記(1)で説明した時間判定工程を実施する。時間判定器70は、導入検知器65で検知した第1導入から、第2導入までの時間が所定の時間閾値以下かどうかを判定する。時間判定器70は、測定装置の制御部100において、所定のプログラムを実行する中央制御装置(CPU)をもって充てることができる。この時間閾値は、たとえば、20秒、より好ましくは10秒に設定することが望ましい。時間判定器70は、第1導入から第2導入までの時間がこの時間閾値以下である場合、血液の点着は正常に行われたと判定する。一方、第1導入の検知から第2導入の検知までの時間がこの時間閾値を超えていた場合、時間判定器70は、血液の不足か、あるいは二度目の点着が行われることで正常な点着が行われなかったと判定する。
【0045】
前記(1)で説明した第1測定工程では、第1電極対10、すなわち第1作用極11及び第1対極12が使用される。第1測定工程では、まず、制御部100が第1作用極用スイッチ211と第1対極用グランドスイッチ312とを接続状態とし、それ以外のスイッチは非接続状態となるように制御する(表1参照)。次に、電圧印加器50が、第1電極対10に直流電圧(たとえば、200mV)を印加すると、測定器60(第1測定器61)は、印加した直流電圧に対応する第1情報としての応答電流値を測定する。印加される直流電圧の電圧値は、たとえば、100~1000mVの範囲、より好ましくは200~500mVの範囲で設定することが望ましい。
【0046】
第1測定器61で測定された応答電流値は、そのままの値で第1情報としてもよい。また、あらかじめ既知の濃度の測定対象物で測定した電流応答値で作成した検量線又は対比表との参照により、測定対象物の濃度に換算された値を第1情報としてもよい。
【0047】
前記(1)で説明した第2測定工程では、第2電極対20、すなわち第2作用極21及び第2対極22が使用される。第2測定工程では、まず、前記第1情報を測定する前又は後のいずれかで、制御部100が第2作用極用スイッチ221と第2対極用グランドスイッチ322とを接続状態とし、それ以外のスイッチは非接続状態となるように制御する(表1参照)。次に、電圧印加器50が、第2電極対20に直流電圧(たとえば、3.5V)を印加すると、測定器60(第2測定器62)は、印加した直流電圧に対応する第2情報としての応答電流値を測定する。印加される直流電圧の電圧値は、たとえば、2~20Vの範囲、より好ましくは3~10Vの範囲で設定することが望ましい。
【0048】
第2測定器75で測定された応答電流値は、そのままの値で第2情報としてもよい。また、あらかじめ第2測定器62の測定項目(たとえば、ヘマトクリット値)について既知である別の血液で測定した電流応答値で作成した検量線又は対比表との参照により、測定項目の数値に換算された値を第2情報としてもよい。
【0049】
演算器80は、前記(1)で説明した演算工程を実施する。すなわち、演算器80は、時間判定器70における判定が肯定的な場合に、第1情報と第2情報とから測定対象物の濃度を演算する。この演算器80は、測定装置の制御部において、所定のプログラムを実行する中央制御装置(CPU)をもって充てることができる。演算器80における測定対象物の演算については、前記(1)の演算工程での説明と同様である。
【0050】
エラー表示器90は、前記(1)で説明したエラー処理工程において、時間判定器70における判定が否定的な場合、すなわち、第1導入の検知から第2導入の検知までの時間が所定の時間閾値を超えていた場合に、たとえば、エラーメッセージを表示したり、音声による警告音を発する装置として実現される。たとえば、
図1の測定装置1における表示画面1cをエラー表示器90として、これにエラーメッセージを表示させることができる。
【0051】
(3)測定例
以下、本実施形態の測定方法の一例を、
図4のフローチャートを参照しつつ説明する。この例では、第1情報としてグルコース値が、第2情報としてヘマトクリット値がそれぞれ測定される。なお、第1情報として取得されるグルコース値は、血液中のヘマトクリット値の影響を受けた値であり、第2情報として取得されるヘマトクリット値に基づいて補正する必要がある。
【0052】
図2に示すバイオセンサ2は、たとえば、幅6mm、長さ30mmの基板上に各電極を設けることで形成される。流路2aの幅は、たとえば、2mm、長さは4mmである。
【0053】
まず、第1作用極11の上に載置される試薬40の組成の一例は、以下のとおりである。
塩化ヘキサアンミンルテニウム(III):38.9質量%
1-メトキシPES(同仁化学研究所):0.2質量%
SNデフォーマー1315(サンノプコ):0.1質量%
0.6Mリン酸緩衝液(pH7.0):8.8質量%
CHAPS(同仁化学研究所):4.0質量%
グリシン:4.0質量%
蒸留水:44.0質量%
【0054】
この組成の試薬40の0.1mgを、第1作用極11を中心とした、幅3mm、長さ1mmの領域に塗布する。なお、この領域は、下流側は第1対極12の半ばくらいまで、上流側は非導電領域45の半ばくらいまでを覆うように調整される。また、この試薬40が塗布された領域に、グルコース脱水素酵素(AMANO8、天野エンザイム)4.1ユニットが塗布される。
【0055】
このバイオセンサ2を、測定装置1の本体1aのコネクタ1dに装着する。そして、
図4のS100に示す第1検知工程において、まず、制御部100が第2対極用スイッチ222と第1作用極用グランドスイッチ311とを接続状態とし、それ以外のスイッチは非接続状態となるように制御する(表1参照)。次に電圧印加器50によって、第2下流電極23と第1上流電極13との間に、500mVの定常電圧が印加される。続いて、流路2aに血液が点着され、第2下流電極23と第1上流電極13との上に血液が満たされると、測定器60によって0.7μA以上の電流が測定される。これによって、電極間が電気的に接続されたことを検知する。1回目の0.7μA以上の電流の検知の後、制御部100が第2対極用スイッチ222を2.5m秒間の所定周期で開閉制御することで、電極間に2.5m秒間の500mVの電圧印加と、2.5m秒間の印加停止とが繰り返されるパルス電圧が印加されるように、電圧印加方法が変更される。
【0056】
図5は、電圧印加と電流との関係を示すグラフである。上のグラフのように初期の定常電圧や2回目以降のパルス電圧が印加されると、下のグラフのように過渡応答を示すピークを有する電流が発生する。このピークの電流値であるピーク値が、0.7μAの閾値以上になったのを3回検知したかどうかが、S110に示す段階において、導入検知器65(第1検知器66)によって判断される。閾値以上のピーク値が3回検知されるまでは、電圧の印加が繰り返される。本実施形態では0.7μAの閾値が電流閾値を示す。なお、初期の電圧印加方法は、500mVの定常電圧ではなく、2回目以降と同様に2.5m秒間の500mVの電圧印加と、2.5m秒間の印加停止とが繰り返されるパルス電圧(交流電圧)であってもよい。
【0057】
なお、
図5に示すように、1回目のピーク値はその後のピーク値と比較して低い値となる傾向がある。1回目のピークを有する電流が発生する時点では、第1上流電極13の全面には血液が到達しておらず、また試薬も血液によって完全には溶解されていないためと考えられる。そのため、1回目のピーク値における電流閾値(第1電流閾値)を、その後のピーク値の電流閾値(第2電流閾値)が上回ることが好ましい。その1回目のピーク値における電流閾値は、たとえば、0.2~0.5μA、より好ましくは0.35μAとすることができる。
【0058】
S110に示す段階で閾値以上のピーク値が3回検知されて第1導入が検知されると、S120に示す第2検知工程において、まず、制御部100が第1対極用スイッチ212と血液検知極用グランドスイッチ330とを接続状態とし、それ以外のスイッチは非接続状態となるように制御する(表1参照)。この際、制御部100は電極間にはパルス電圧を印加することができるように第1対極用スイッチ212を2.5m秒間の所定周期で開閉制御する。すると、電圧印加器50によって、参照電極14と血液検知極30との間に、2.5m秒間の200mVの電圧印加と、2.5m秒間の印加停止とが繰り返される。そして、測定器60によって、
図5と同様の電流のピーク値が検知される。このピーク値が、0.7μAの閾値以上になったのを3回検知したかどうかが、S130に示す段階において、導入検知器65(第2検知器67)によって判断される。この3回の検知がされなければ、S140に示す時間判定工程において、時間判定器70が、第1導入が検知されてから10秒の時間閾値が経過したかどうかを判定する。経過しなければ再びS120に示す段階で電圧の印加が繰り返される。一方、時間閾値が経過したと判定されると、S160に示すエラー処理工程において、エラー表示器90によってエラー処理が行われ、以後の処理は停止される。
【0059】
一方、S130に示す段階で閾値以上のピーク値が3回検知されて第2導入が検知されると、S150に示す時間判定工程において、時間判定器70が、第1導入が検知されてから第2導入の検知までに10秒の時間閾値が経過したかどうかを判定する。時間閾値が経過したと判定されると、S160に示すエラー処理工程において、エラー表示器90によってエラー処理が行われ、以後の処理は停止される。
【0060】
S150に示す段階で時間閾値が経過していないと判定されると、S170に示す第1測定工程において、測定器60(第1測定器61)によって第1情報が測定される。それと同時に、第2測定工程において、測定器60(第2測定器62)によって第2情報が測定される。
【0061】
第1情報の測定においては、まず、制御部100が第1作用極用スイッチ211と第1対極用グランドスイッチ312とを接続状態とし、それ以外のスイッチは非接続状態となるように制御する(表1参照)。次に、電圧印加器50によって第1電極対10で4.5秒間200mVの電圧が印加され、それに伴う応答電流値としての第1情報が、測定器60(第1測定器61)によって測定される。また、第2情報の測定においては、まず、制御部100が第2作用極用スイッチ221と第2対極用グランドスイッチ322とを接続状態とし、それ以外のスイッチは非接続状態となるように制御する(表1参照)。次に、電圧印加器50によって第2電極対20で1秒間3.5Vの電圧が印加され、それに伴う応答電流値としての第2情報が、測定器60(第2測定器62)によって測定される。
【0062】
そして、S180に示す演算工程において、演算器80によって、第1情報及び第2情報から、補正されたグルコース値が演算される。言い換えると、演算器80は第2情報として取得されるヘマトクリット値を用いて、血液中のヘマトクリット値の影響を受けた値である第1情報として取得されるグルコース値を補正する。なお、S170とS180との間で環境温度測定を行い、演算器80による演算のパラメータの1つとして用いることとしてもよい。
【0063】
本実施形態では、第1情報であるグルコース値を取得する第1電極対10又は第2情報であるヘマトクリット値を取得する第2電極対20の組み合わせをそのまま血液の導入検知に使用していない。すなわち、第1電極対10のうち試薬40が載置された第1上流電極13と、第2情報であるヘマトクリット値を取得する第2電極対のうち第2下流電極23とを用いて第1導入を検知している。それとともに、第1電極対10のうち参照電極14と、第1情報及び第2情報を取得することに寄与しない、流路2aの最下流に設けられた血液検知極30を用いて第2導入を検知している。このような、電圧を印加する電極の組み合わせを敢えて変更する変則的な電気回路構成及び制御部100によるスイッチの制御が行われている。
【0064】
このような処理によって、第1情報及び第2情報を従来通り測定しながら、第1導入の検知により、バイオセンサ2に点着されて流路2a中を流れた血液が初めて試薬40と接触した時点を検知することがでる。また、第2導入の検知により、第1電極対10及び第2電極対20の全てを血液が満たした時点を検知できるに至った。そして、時間判定工程で、第1導入の検知から、第2導入の検知までの時間、すなわち、血液が試薬40と初めて接触してから、第1電極対10及び第2電極対20の全てを血液が満たして測定準備が整うまでの時間が、所定の時間閾値以下かどうかを判定できるようになった。
【0065】
本実施形態による検知方法によれば、1度目の点着で、バイオセンサ2に点着した血液量が試薬40と接触しない程度、すなわち第1上流電極13に到達しない程度に流路2aに導入されている場合には、試薬40は溶解していない。したがって、2度目の血液の点着によって第1電極対10及び第2電極対20の全てを血液が満たしさえすれば、正しい測定を行うことができ、バイオセンサを無用に廃棄することがなくなる。一方、1度目の点着で、バイオセンサに点着した血液量が試薬40と接触する程度、すなわち第1上流電極13には到達しているが、第1電極対10及び第2電極対20の全てを満たしていない程度に流路2aに血液が導入されている場合には、1度目に点着された血液によって試薬40が溶解している。このため、再度血液を点着すると、第1上流電極13上の溶解した試薬40が下流側へと押し流され、正確な応答電流値を測定できない。よって、このような場合はエラー表示器90によりエラー処理を実施し、ユーザへの不正確なグルコース値の報知を防ぐことができるようになった。
【0066】
(4)第1検知工程の検証
上述の測定装置1を使用して、第1検知工程で使用される電極における電流の流れ方向を検討した。具体的には、第1検知工程(
図4のS100参照)において、2.5m秒間500mVのパルス電圧印加と2.5m秒間の印加停止とを繰り返し、閾値以上の電流のピーク値を3回検知したときに第1導入を検知したと判定した。なお、バイオセンサ2に点着する血液量は、第1作用極11(第1上流電極13)には到達するが、第1対極12には到達しない量に調節した。
【0067】
そして、第1作用極11(第1上流電極13)を作用極とし、第2対極22(第2下流電極23)を対極としたものを第1例とし、第2対極22(第2下流電極23)を作用極とし、第1作用極11(第1上流電極13)を対極としたものを第2例とした。さらに、第2対極22は使用せずに、第1作用極11と第1対極12との間で電圧印加したものを第3例とし、第1作用極11と血液検知極30との間で電圧印加したものを第4例とした。
【0068】
その結果、第1例及び第2例のいずれも、血液の到達を検知することができ、第1作用極11(第1上流電極13)及び第2対極22(第2下流電極23)のどちらを作用極としても問題なく第1導入が検知できることが分かった。一方、血液が第1対極12にまで到達しなかった第3例及び第4例では、当然のことながら、電極間に電流が流れないため血液は検知されなかった。
【0069】
(5)第1検知工程におけるパルス電圧及び直流電圧の検証
上述の測定装置1を使用して、第1測定工程で印加される電圧が、パルス電圧と直流電圧とのどちらが適しているかを検証した。具体的には、バイオセンサ2において第1測定を行うために十分な量の血液を点着した状態で、2.5m秒間500mVのパルス電圧印加と2.5m秒間の印加停止とを繰り返す場合と、50m秒間500mVの直流電圧印加を行う場合とを検証した。
【0070】
まず、調整後間もないバイオセンサ2(以下、「通常センサ」と称する。)を用いて、グルコース値330mg/dlの血液を点着したパターン1において、パルス電圧を印加した場合の応答電流値は14.9μAであったのに対し、直流電圧を印加した場合の応答電流値は0.04μAであった。
【0071】
次に、調整後、50℃の温度環境下で3箇月保管して試薬の活性を低下させたバイオセンサ2(以下、「保管センサ」と称する。)を用いて、グルコース値330mg/dlの血液を点着したパターン2において、パルス電圧を印加した場合の応答電流値は14.7μAであったのに対し、直流電圧を印加した場合の応答電流値は0.02μAであった。パターン1の電流応答値に対するパターン2の応答電流値の減少率(すなわち、パターン1の電流応答値をX、パターン2の電流応答値をYとしたとき、「(X-Y)/X×100」で算出される数値)は、パルス電圧を印加した場合で1.3%であったのに対し、直流電圧を印加した場合では50%であった。
【0072】
そして、通常センサを用いて、グルコース値0mg/dlの血液を点着したパターン3において、パルス電圧を印加した場合の応答電流値は14.2μAであったのに対し、直流電圧を印加した場合の応答電流値は0.03μAであった。パターン1の電流応答値に対するパターン3の応答電流値の減少率(すなわち、パターン1の電流応答値をX、パターン3の電流応答値をZとしたとき、「(X-Z)/X×100」で算出される数値)は、パルス電圧を印加した場合で4.7%であったのに対し、直流電圧を印加した場合では25%であった。
【0073】
パターン2及びパターン3における応答電流値の、パターン1に対する減少率を表したグラフが
図6である。これによると、パルス電圧印加の場合、グルコース値の変化や、保管センサのような試薬の活性の変化に対する影響がほぼないのに対し、直流電圧印加の場合、これらの変化に対する感受性が高いことが分かった。これにより、直流電圧印加は、測定対象物の定量的な変化の検出に適している、といえる。一方で、パルス電圧印加は、測定条件や測定環境に余り影響されることがないため、電極間の電流の導通の有無を検出するのに適している、といえる。
【0074】
(6)その他
上述の実施形態の測定装置1では、1つの電圧印加器50が第1検知工程及び第2検知工程並びに第1測定工程及び第2測定工程における電極間への電圧印加を行っていた。しかし、別の実施形態の測定装置1では、この態様に限らず、各工程ごと又はいくつかの工程ごとに電圧印加を担当する電圧印加器50を測定装置1に複数設けることとしてもよい。
【0075】
また、上記の実施形態の測定装置では、各電極にパルス電圧を印加する際、制御部100は各スイッチの開閉制御を行っていた。しかし、別の実施形態の測定装置1では、各スイッチは設けずに、電圧印加器50から直接パルス電圧を各電極に印加することとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、バイオセンサを利用した携帯型の血糖測定値又は血糖自己測定メータとして利用可能である。また、血糖以外の測定項目が測定可能な測定装置としても利用可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 測定装置 1a本体 1b 挿入口
1c 表示画面 1d コネクタ
2 バイオセンサ 2a 流路 2b 被覆領域
2c コネクタ領域 2d 血液供給口 2e 空気孔
10 第1電極対 11 第1作用極 11a リード部
12 第1対極 12a リード部
13 第1上流電極 14 参照電極
20 第2電極対 21 第2作用極 21a リード部
22 第2対極 22a リード部
23 第2下流電極
30 血液検知極 30a リード部
40 試薬 45 非導電領域
50 電圧印加器 51 電流/電圧変換回路 52 A/D変換回路
60 測定器 61 第1測定器 62 第2測定器
65 導入検知器 66 第1検知器 67 第2検知器
70 時間判定機 80 演算器 90 エラー表示器
100 制御部
200 接続回路
211 第1作用極用スイッチ 212 第1対極用スイッチ
221 第2作用極用スイッチ 222 第2対極用スイッチ
230 血液検知極用スイッチ
311 第1作用極用グランドスイッチ 312 第1対極用グランドスイッチ
321 第2作用極用グランドスイッチ 322 第2対極用グランドスイッチ
330 血液検知極用グランドスイッチ