IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-バッテリユニット 図1
  • 特許-バッテリユニット 図2A
  • 特許-バッテリユニット 図2B
  • 特許-バッテリユニット 図3A
  • 特許-バッテリユニット 図3B
  • 特許-バッテリユニット 図3C
  • 特許-バッテリユニット 図3D
  • 特許-バッテリユニット 図4
  • 特許-バッテリユニット 図5
  • 特許-バッテリユニット 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】バッテリユニット
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/382 20190101AFI20241024BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20241024BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20241024BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
G01R31/382
G01R31/392
H01M10/48 P
H02J7/00 X
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021154506
(22)【出願日】2021-09-22
(65)【公開番号】P2023045893
(43)【公開日】2023-04-03
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】千葉 一毅
(72)【発明者】
【氏名】大田 正弘
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-522899(JP,A)
【文献】特開2016-133413(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235846(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第112924872(CN,A)
【文献】特開2019-216074(JP,A)
【文献】特開2022-155231(JP,A)
【文献】特開2023-45804(JP,A)
【文献】ASSAT, Gaurav; GLAZIER, Stephen L.; DELACOURT, Charles; TARASCON, Jean-Marie,“Probing the thermal effects of voltage hysteresis in anionic redox-based lithium-rich cathodes usi,Nature Energy,2019年07月01日,Vol. 4,pp. 647-656,DOI: https://doi.org/10.1038/s41560-019-0410-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
H01M 10/42-10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリセルを有するバッテリモジュールを備えるバッテリユニットであって、
前記バッテリセルの開回路電圧および閉回路電圧を検出する電圧検出部と、
前記バッテリセルの電流を検出する電流検出部と、
前記バッテリセルの熱流量を検出するバッテリ熱流量検出部と、
下記(A1)および(A2)を記憶する記憶部と、
(A1)前記バッテリセルの開回路電圧OCV充電状態SOC特性のテーブルマップ
(A2)前記バッテリセルの熱流量HFSOCの初期特性、および前記HFSOCの初期特性の微分特性におけるピークのSOC
前記(A1)に基づいて、検出された前記バッテリセルのOCVに対応する前記バッテリセルのSOCを推定するバッテリ状態推定部と、
を備え、
前記バッテリ状態推定部は、
前記バッテリセルの充電開始時に、前記(A1)に基づいて、前記電圧検出部によって検出された前記バッテリセルのOCVに対応する前記バッテリセルのSOCをスタートSOCとして推定し、
前記バッテリセルの充電時に、前記バッテリ熱流量検出部によって検出された前記バッテリセルのHFから、前記バッテリセルのHFSOCの現在特性を測定し、測定した前記HFSOCの現在特性の微分特性におけるピークを検知し、前記(A2)に基づいて、検知したピークのSOCをSOC(HF)として求め、
前記電流検出部によって検出された充電電流および充電時間から、充電開始時からピーク検知時までの充電容量を算出し、算出した充電容量と、充電開始時に推定した前記スタートSOCとから、SOC(OCV)を算出し、
前記SOC(OCV)が、前記SOC(HF)に対して、所定値以上ずれている場合に、ずれ量に基づいて前記(A1)を補正する、
バッテリユニット。
【請求項2】
前記バッテリ状態推定部は、
測定した前記HFSOCの現在特性の微分特性におけるSOC軸上のピーク間の線分の長さに相当する容量mAhと、前記記憶部に記憶された前記HFSOCの初期特性の微分特性におけるSOC軸上の前記ピーク間の線分の長さに相当する容量mAhとの比から、前記バッテリセルのSOHを推定し、
下記式から、算出した前記充電容量Q(t)に対応するΔSOCを算出し、
ΔSOC=Q(t)/C0(t)・・・(式)
C0(t)=C0×SOH・・・(式)
C0(t):現在の全体容量
C0:初期の全体容量
t:経過時間
算出した前記ΔSOCと、充電開始時に推定した前記スタートSOCとから、前記SOC(OCV)を算出する、
請求項1に記載のバッテリユニット。
【請求項3】
前記記憶部は、下記(A11)を更に記憶し、
(A11)前記バッテリセルの閉回路電圧CCVSOC特性のテーブルマップ
前記バッテリ状態推定部は、
前記(A11)に基づいて、ピーク検知時に、前記電圧検出部によって検出したCCVに対応するSOC(CCV)を求め、
前記SOC(CCV)が、前記SOC(HF)に対して、所定値以上ずれている場合に、ずれ量に基づいて前記(A11)を補正する、
請求項1または2に記載のバッテリユニット。
【請求項4】
バッテリセルを有するバッテリモジュールを備えるバッテリユニットであって、
前記バッテリセルの開回路電圧および閉回路電圧を検出する電圧検出部と、
前記バッテリセルの電流を検出する電流検出部と、
前記バッテリセルの熱流量を検出するバッテリ熱流量検出部と、
下記(A1)および(A3)を記憶する記憶部と、
(A1)前記バッテリセルの開回路電圧OCV充電状態SOC特性のテーブルマップ
(A3)前記バッテリセルのエンタルピーポテンシャルUHSOCの初期特性、および前記UHSOCの初期特性の微分特性におけるピークのSOC
ここで、UHは、閉回路電圧CCV、熱流量HFおよび電流Iに基づく下記式より算出され、
UH=CCV-HF/I・・・(式)
前記(A1)に基づいて、検出された前記バッテリセルのOCVに対応する前記バッテリセルのSOCを推定するバッテリ状態推定部と、
を備え、
前記バッテリ状態推定部は、
前記バッテリセルの充電開始時に、前記(A1)に基づいて、前記電圧検出部によって検出された前記バッテリセルのOCVに対応する前記バッテリセルのSOCをスタートSOCとして推定し、
前記バッテリセルの充電時に、前記バッテリ熱流量検出部、前記電圧検出部および前記電流検出部によって検出された前記バッテリセルのHF、CCVおよびIから、前記バッテリセルのUHSOCの現在特性を測定し、測定した前記UHSOCの現在特性の微分特性におけるピークを検知し、前記(A3)に基づいて、検知したピークのSOCをSOC(UH)として求め、
前記電流検出部によって検出された充電電流および充電時間から、充電開始時からピーク検知時までの充電容量を算出し、算出した充電容量と、充電開始時に推定した前記スタートSOCとから、SOC(OCV)を算出し、
前記SOC(OCV)が、前記SOC(UH)に対して、所定値以上ずれている場合に、ずれ量に基づいて前記(A1)を補正する、
バッテリユニット。
【請求項5】
前記バッテリ状態推定部は、
測定した前記UHSOCの現在特性の微分特性におけるSOC軸上のピーク間の線分の長さに相当する容量mAhと、前記記憶部に記憶された前記UHSOCの初期特性の微分特性におけるSOC軸上の前記ピーク間の線分の長さに相当する容量mAhとの比から、前記バッテリセルのSOHを推定し、
下記式から、算出した前記充電容量Q(t)に対応するΔSOCを算出し、
ΔSOC=Q(t)/C0(t)・・・(式)
C0(t)=C0×SOH・・・(式)
C0(t):現在の全体容量
C0:初期の全体容量
t:経過時間
算出した前記ΔSOCと、充電開始時に推定した前記スタートSOCとから、前記SOC(OCV)を算出する、
請求項4に記載のバッテリユニット。
【請求項6】
前記記憶部は、下記(A11)を更に記憶し、
(A11)前記バッテリセルの閉回路電圧CCVSOC特性のテーブルマップ
前記バッテリ状態推定部は、
前記(A11)に基づいて、ピーク検知時に、前記電圧検出部によって検出したCCVに対応するSOC(CCV)を求め、
前記SOC(CCV)が、前記SOC(UH)に対して、所定値以上ずれている場合に、ずれ量に基づいて前記(A11)を補正する、
請求項4または5に記載のバッテリユニット。
【請求項7】
前記バッテリユニットの熱流量を基準熱流量として検出する基準熱流量検出部を更に備え、
前記バッテリ状態推定部は、前記バッテリ熱流量検出部によって検出された熱流量から前記基準熱流量検出部によって検出された基準熱流量を減算することによって、前記バッテリユニット内の熱流量の影響を除去した熱流量を、前記バッテリセルの熱流量として用いる、
請求項1~6のいずれか1項に記載のバッテリユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、パソコン、情報端末等の大小さまざまな電気・電子機器の普及により、これら機器の駆動用エネルギー源として、バッテリユニットが広く用いられるようになった。特に、自動車においては、地球環境上の悪影響を軽減するため、また、気候関連災害や自然災害の観点からCO削減や地球環境改善のため、電気自動車への関心が高まっており、車載用途としてもバッテリユニットの使用が検討されている。
【0003】
電子・電気機器を効率よくかつ、安全に使用するため、バッテリユニットにおいて、充電状態(State Of Charge:SOC)または劣化状態(State Of Health:SOH)等のバッテリセルの状態を推定する技術が、非常に重要である。例えば、SOCまたはSOH等のバッテリセルの状態とバッテリセルの電圧とには相関があることが知られている。そこで、バッテリセルの電圧に基づいて、SOCまたはSOH等のバッテリセルの状態を推定する技術が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5287844号公報
【文献】特許第5044511号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】G.Assat et al.、“Probing the thermal effects of voltage hysteresis in anionic redox-based lithium-rich cathodes using isothermal calorimetry”、Nature Energy、volume 4、August 2019、pp647‐656
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、バッテリセルの状態のうちSOCを推定する技術に関する。SOC推定では、バッテリセルの開回路電圧(Open Circuit Voltage:OCV) versus SOC特性を、温度ごとに複数のテーブルマップとして予め記憶しておき、例えば充放電を行っていないときに、検出温度に対応するテーブルマップを参照して、検出したOCVに対応するSOCを、バッテリセルのSOCとして推定する。
【0007】
これにより、負極の材料としてハードカーボンを用いたリチウムイオンバッテリのように、容量の変化に対して電圧が傾斜しているバッテリセルであれば、バッテリセルの電圧に基づいて、SOCを精度よく推定することができる。
【0008】
近年、負極の材料としてグラファイトを用いたリチウムイオンバッテリのように、容量の変化に対して電圧の変化が小さいバッテリセルがある。このようなバッテリセルを備えるバッテリユニットにおいて、バッテリセルの電圧に基づいて、SOC推定を行うと、推定精度が低下する。
【0009】
また、OCV versus SOC特性は、バッテリセルの劣化に起因して次第に変化するため、初期特性から次第にずれてしまう。この点に関し、本願発明者らは、グラファイトを用いたリチウムイオンバッテリにおいて、実使用における充電時、定期的に、閉回路電圧(Closed Circuit Voltage:CCV) versus SOCの現在特性を測定し、SOC推定の誤差補正を行うことを考案している。なお、充電を定電流かつ低レートで行うことにより、この充電電流mAと充電時間hとから容量mAhを求めることができる。
【0010】
具体的には、グラファイトを用いたリチウムイオンバッテリでは、CCV versus SOCの微分特性、すなわちSOCについてのCCV特性CCV=f(SOC)の微分特性d(CCV)/d(SOC)には、グラファイトに対応する複数の相転移等に伴うピークが存在する。しかし、明瞭なのは2つのピークである。。そこで、CCV versus SOCの微分特性におけるピークのSOCに対する、OCV versus SOC特性のテーブルマップから推定したSOCのずれ量に応じて、OCV versus SOC特性のテーブルマップを補正する。なお、このようなCCV versus SOC特性の微分特性に相転移等に伴うピークが存在する特徴は、ハードカーボンを用いたリチウムイオンバッテリにはない。
【0011】
しかし、CCV versus SOCの微分特性では、ピークの大きさが比較的に小さく、スペクトルが比較的に鈍く、S/N比が比較的に小さい。特に、劣化すると、このような問題が顕著に現れる。そのため、CCV versus SOCの微分特性に基づいてSOC推定の補正を行っても、補正精度が低く、推定精度が低いことが予想される。
【0012】
本発明は、バッテリセルのSOCの推定精度を高めるバッテリユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者らは、バッテリセルのSOCと電極材料の活物質の相転移等に伴うバッテリセルの熱流量(Heat Flow:HF)とにも相関があるとの知見を得ている。また、本願発明者らは、HF versus SOCの微分特性では、CCV versus SOCの微分特性と比較して、
・ピークの大きさが大きく、スペクトルが鋭く、S/N比が大きく、劣化してもこれらの特徴を維持する、
・更に、ピークの数が多く、ピークの間隔が小さい、
・更に、正数のピークと負数のピークとの特定のパターンを有し、劣化しても特定のパターンは一定のパターンを維持する、換言すれば、劣化してもSOCに対するピークの位置がずれ難い、
との知見を得ている。そこで、本願発明者らは、バッテリセルの熱流量、詳細にはHF versus SOC特性、より詳細にはHF versus SOCの微分特性に基づいて、バッテリセルのSOC推定を補正する手法を考案する。
【0014】
(1)そこで、本発明に係るバッテリユニットは、バッテリセルを有するバッテリモジュールを備えるバッテリユニットであって、前記バッテリセルの開回路電圧または閉回路電圧を検出する電圧検出部と、前記バッテリセルの電流を検出する電流検出部と、前記バッテリセルの熱流量を検出するバッテリ熱流量検出部と、下記(A1)および(A2)を記憶する記憶部と、
(A1)前記バッテリセルの開回路電圧OCV versus SOC特性のテーブルマップ
(A2)前記バッテリセルの熱流量HF versus SOCの初期特性、および前記HF versus SOCの初期特性の微分特性におけるピークのSOC
前記(A1)に基づいて、検出された前記バッテリセルのOCVに対応する前記バッテリセルのSOCを推定するバッテリ状態推定部と、を備える。前記バッテリ状態推定部は、(i)前記バッテリセルの充電開始時に、前記(A1)に基づいて、前記電圧検出部によって検出された前記バッテリセルのOCVに対応する前記バッテリセルのSOCをスタートSOCとして推定し、(ii)前記バッテリセルの充電時に、前記バッテリ熱流量検出部によって検出された前記バッテリセルのHFから、前記バッテリセルのHF versus SOCの現在特性を測定し、測定した前記HF versus SOCの現在特性の微分特性におけるピークを検知し、前記(A2)に基づいて、検知したピークのSOCをSOC(HF)として求め、(iii)前記電流検出部によって検出された充電電流および充電時間から、充電開始時からピーク検知時までの充電容量を算出し、算出した充電容量と、充電開始時に推定した前記スタートSOCとから、SOC(OCV)を算出し、前記SOC(OCV)が、前記SOC(HF)に対して、所定値以上ずれている場合に、ずれ量に基づいて前記(A1)を補正する。
【0015】
(2)本発明に係るバッテリユニットにおいて、前記バッテリ状態推定部は、(iv)測定した前記HF versus SOCの現在特性の微分特性におけるピーク間の線分の長さに相当する容量mAhと、前記記憶部に記憶された前記HF versus SOCの初期特性の微分特性における前記ピーク間の線分の長さに相当する容量mAhとの比から、前記バッテリセルのSOHを推定し、(v)下記式から、算出した前記充電容量Q(t)に対応するΔSOCを算出し、
ΔSOC=Q(t)/C0(t)・・・(式)
C0(t)=C0×SOH・・・(式)
C0(t):現在の全体容量
C0:初期の全体容量
t:経過時間
(vi)算出した前記ΔSOCと、充電開始時に推定した前記スタートSOCとから、前記SOC(OCV)を算出してもよい。
【0016】
(3)また、本発明に係るバッテリユニットにおいて、前記記憶部は、下記(A11)を更に記憶し、
(A11)前記バッテリセルの閉回路電圧CCV versus SOC特性のテーブルマップ
前記バッテリ状態推定部は、(vii)前記(A11)に基づいて、ピーク検知時に、前記電圧検出部によって検出したCCVに対応するSOC(CCV)を求め、(viii)前記SOC(CCV)が、前記SOC(HF)に対して、所定値以上ずれている場合に、ずれ量に基づいて前記(A11)を補正してもよい。
【0017】
また、本願発明者らは、閉回路電圧CCV、熱流量HF、および電流Iに基づく下記式によって求められるエンタルピーポテンシャル(Enthalpy Potential:UH)に着目する。
UH=CCV-HF/I・・・(式)
本願発明者らは、UH versus SOCの微分特性でも、CCV versus SOCの微分特性と比較して、
・ピークの大きさが大きく、スペクトルが鋭く、S/N比が大きく、劣化してもこれらの特徴を維持する、
・更に、ピークの数が多く、ピークの間隔が小さい、
・更に、正数のピークと負数のピークとの特定のパターンを有し、劣化しても特定のパターンは一定のパターンを維持する、換言すれば、劣化してもSOCに対するピークの位置がずれ難い、
との知見を得ている。そこで、本願発明者らは、バッテリセルのエンタルピーポテンシャル、詳細にはUH versus SOC特性、より詳細にはUH versus SOCの微分特性に基づいて、バッテリセルのSOC推定を補正する手法を考案する。
【0018】
(4)そこで、本発明に係る別のバッテリユニットは、バッテリセルを有するバッテリモジュールを備えるバッテリユニットであって、前記バッテリセルの開回路電圧または閉回路電圧を検出する電圧検出部と、前記バッテリセルの電流を検出する電流検出部と、前記バッテリセルの熱流量を検出するバッテリ熱流量検出部と、下記(A1)および(A3)を記憶する記憶部と、
(A1)前記バッテリセルの開回路電圧OCV versus SOCのテーブルマップ
(A3)前記バッテリセルのエンタルピーポテンシャルUH versus SOCの初期特性、および前記UH versus SOCの初期特性の微分特性におけるピークのSOC
ここで、UHは、閉回路電圧CCV、熱流量HFおよび電流Iに基づく下記式より算出され、
UH=CCV-HF/I・・・(式)
前記(A1)に基づいて、検出された前記バッテリセルのOCVに対応する前記バッテリセルのSOCを推定するバッテリ状態推定部と、を備える。前記バッテリ状態推定部は、(i)前記バッテリセルの充電開始時に、前記(A1)に基づいて、前記電圧検出部によって検出された前記バッテリセルのOCVに対応する前記バッテリセルのSOCをスタートSOCとして推定し、(ii)前記バッテリセルの充電時に、前記バッテリ熱流量検出部、前記電圧検出部および前記電流検出部によって検出された前記バッテリセルのHF、CCVおよびIから、前記バッテリセルのUH versus SOCの現在特性を測定し、測定した前記UH versus SOCの現在特性の微分特性におけるピークを検知し、前記(A3)に基づいて、検知したピークのSOCをSOC(UH)として求め、(iii)前記電流検出部によって検出された充電電流および充電時間から、充電開始時からピーク検知時までの充電容量を算出し、算出した充電容量と、充電開始時に推定した前記スタートSOCとから、SOC(OCV)を算出し、前記SOC(OCV)が、前記SOC(UH)に対して、所定値以上ずれている場合に、ずれ量に基づいて前記(A1)を補正する。
【0019】
(5)本発明に係る別のバッテリユニットにおいて、前記バッテリ状態推定部は、(iv)測定した前記UH versus SOCの現在特性の微分特性におけるピーク間の線分の長さに相当する容量mAhと、前記記憶部に記憶された前記UH versus SOCの初期特性の微分特性における前記ピーク間の線分の長さに相当する容量mAhとの比から、前記バッテリセルのSOHを推定し、(v)下記式から、算出した前記充電容量Q(t)に対応するΔSOCを算出し、
ΔSOC=Q(t)/C0(t)・・・(式)
C0(t)=C0×SOH・・・(式)
C0(t):現在の全体容量
C0:初期の全体容量
t:経過時間
(vi)算出した前記ΔSOCと、充電開始時に推定した前記スタートSOCとから、前記SOC(OCV)を算出してもよい。
【0020】
(6)また、本発明に係る別のバッテリユニットにおいて、前記記憶部は、下記(A11)を更に記憶し、
(A11)前記バッテリセルの閉回路電圧CCV versus SOC特性のテーブルマップ
前記バッテリ状態推定部は、(vii)前記(A11)に基づいて、ピーク検知時に、前記電圧検出部によって検出したCCVに対応するSOC(CCV)を求め、(viii)前記SOC(CCV)が、前記SOC(UH)に対して、所定値以上ずれている場合に、ずれ量に基づいて前記(A11)を補正してもよい。
【0021】
(7)また、本発明に係るバッテリユニットは、前記バッテリユニットの熱流量を基準熱流量として検出する基準熱流量検出部を更に備え、本発明に係るバッテリユニットにおいて、前記バッテリ状態推定部は、前記バッテリ熱流量検出部によって検出された熱流量から前記基準熱流量検出部によって検出された基準熱流量を減算することによって、前記バッテリユニット内の熱流量の影響を除去した熱流量を、前記バッテリセルの熱流量として用いてもよい。
【発明の効果】
【0022】
(1)~(2)および(4)~(5)に記載の発明によれば、CCV versus SOCの微分特性に基づくバッテリセルのSOC推定の補正と比較して、バッテリセルのSOC推定の補正精度を高めることができ、バッテリセルのSOCの推定精度を高めることができる。
更に、(3)、(6)に記載の発明によれば、OCV versus SOC特性のテーブルマップのみならず、CCV versus SOC特性のテーブルマップも、劣化に応じて補正することができる。
更に、(7)に記載の発明によれば、バッテリユニット内のノイズを除去した熱流量に基づくので、バッテリセルのSOC推定の補正精度をより高めることができ、バッテリセルのSOCの推定精度をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係るバッテリユニットを分解して示す分解斜視図である。
図2A図1に示すバッテリユニットにおけるバッテリモジュールの一例の側面図である。
図2B図1に示すバッテリユニットにおけるバッテリモジュールの他の一例の側面図である。
図3A】本実施形態の初期状態におけるHF versus SOC特性およびUH versus SOC特性の一例を示す図である。
図3B】本実施形態の劣化小状態におけるHF versus SOC特性およびUH versus SOC特性の一例を示す図である。
図3C】本実施形態の劣化中状態におけるHF versus SOC特性およびUH versus SOC特性の一例を示す図である。
図3D図3Aに示す初期状態のHF versus SOC特性、図3Bに示す劣化小状態のHF versus SOC特性、および図3Cに示す劣化中状態のHF versus SOC特性を重ねて示す図である。
図4】本実施形態のHF versus SOCの微分特性(劣化小状態)の一例を示す図である。
図5】本実施形態のUH versus SOCの微分特性(劣化小状態)の一例を示す図である。
図6】比較例のCCV versus SOCの微分特性(劣化小状態)の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態の一例について説明する。なお、各図面において同一または相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0025】
(バッテリユニット)
図1は、本実施形態に係るバッテリユニットを分解して示す分解斜視図であり、図2Aは、図1に示すバッテリユニットにおけるバッテリモジュールの一例の側面図である。図1に示すバッテリユニット100は、ハイブリット式電動自動車(Hybrid Electric Vehicle:HEV)、外部給電機能付きハイブリット式電動自動車(Plug-in Hybrid Vehicle:PHEV)、または、バッテリ式電動自動車(Battery Electric Vehicle:BEV)等の電動車両に搭載されるバッテリパック(Intelligent Power Unit:IPUともいう。)である。
【0026】
図1および図2Aに示すように、バッテリユニット100は、主に、バッテリモジュール110と、バッテリ熱流量検出部120と、基準熱流量検出部130と、電圧検出部141と、電流検出部142と、温度検出部143と、バッテリマネジメントシステム(Battery Management System:BMS)200とを備える。図1の例では、バッテリユニット100の構成要素は、ケース101に収容されて、カバー102で覆われている。
【0027】
また、図1の例では、バッテリユニット100は、下部フレーム103と上部フレーム104とを備えている。また、バッテリユニット100は、バッテリモジュール110を冷却するための下部冷却プレート105を備えている。また、バッテリユニット100は、バッテリモジュール110を冷却するために空気を導入する機構(例えば、ファン、導風ダクトおよび吸気ダクト等)106を備えている。
【0028】
図2Aに示すように、バッテリモジュール110は、主に、複数のバッテリセル111が積層された積層体112と、積層体112を積層方向において挟み込む一対のエンドプレート113と、複数のバッテリセル111を接続するセルバスバー114とを有する。なお、図1に示すように、複数のバッテリモジュール110がモジュールバスバー119によって接続された構成であってもよい。
【0029】
バッテリセル111としては、特に限定されないが、例えばリチウムイオンバッテリが挙げられる。リチウムイオンバッテリの中でも、負極の材料としてグラファイトのような相転移等に伴う熱流量が生じる材料を用いたリチウムイオンバッテリ、または正極の材料として層状化合物のコバルト酸リチウム(Lithium Cobalt Oxide:LCO)またはニッケル酸リチウム(Lithium Nickel Oxide:LNO)のような相転移等に伴う熱流量が生じる材料を用いたリチウムイオンバッテリが好ましい。
以下では、負極の材料としてグラファイト、相転移等に伴う熱流量が生じる材料、正極の材料として層状化合物のニッケルコバルトマンガン酸リチウム(Lithium Nickel Cobalt Manganese Oxide:NCM)を用いたリチウムイオンバッテリ(SOC0%が主に負極の電位によって決定される:負極カット)について説明するが、本発明は、正極の材料としてLCOまたはLNOのような相転移等に伴う熱流量が生じる材料を用いたリチウムイオンバッテリ(SOC0%が主に正極の電位によって決定される:正極カット)にも同様に適用可能である。
【0030】
バッテリ熱流量検出部120は、バッテリセル111およびバッテリユニット100の熱流量、すなわちバッテリセル111の熱流量のみならず、バッテリユニット100内の様々な熱流量の影響、すなわちノイズの影響を受けている熱流量、を検出する熱流量センサである。
【0031】
熱流量センサとしては、特に限定されないが、例えば、ペルチェ素子、サーモパイル、熱電対等の温度センサが挙げられる。これらの中でも、熱流感度が高く、温度調節デバイスにも兼用が可能なペルチェ素子が好ましい。図2Aに示すように、バッテリセル111の冷却のために、バッテリセル111と冷却プレート105との間にペルチェ素子を設けることがある。このような場合に、このペルチェ素子を、熱流量検出と冷却とで兼用することができる。例えば、熱流量検出時にはペルチェ素子を熱流量センサとして用い、それ以外では冷却として用いることができる。
【0032】
バッテリ熱流量検出部120は、バッテリモジュール110におけるバッテリセル111のうちの少なくとも1つに配置されていればよい。なお、図2Aに示すように、バッテリ熱流量検出部120は、バッテリセル111のうちのエンドプレート113に隣接する2つのバッテリセル111にそれぞれ配置されてもよい。また、バッテリ熱流量検出部120は、エンドプレート113に隣接する2つのバッテリセル111に加え、更にバッテリセル111の積層方向における中央に位置するバッテリセル111に配置されてもよい。
【0033】
基準熱流量検出部130は、バッテリユニット100の熱流量、すなわちバッテリユニット100内の様々な熱流量、すなわちノイズの熱流量、を基準熱流量として検出する熱流量センサである。
【0034】
上述同様に、熱流量センサとしては、特に限定されないが、例えば、ペルチェ素子、サーモパイル、熱電対等の温度センサが挙げられる。これらの中でも、ペルチェ素子が好ましい。これにより、バッテリセル111の冷却のためのペルチェ素子を、熱流量検出と冷却とで兼用することができる。
【0035】
基準熱流量検出部130は、バッテリユニット100において、温度変動が小さくかつ熱容量が大きい箇所に配置されている。例えば、基準熱流量検出部130の配置箇所としては、以下の(A)~(F)のいずれかが挙げられる。
【0036】
(A)バッテリモジュール110を冷却するための冷却プレート105
例えば、図1に示すように、冷却プレート105はバッテリモジュール110の底面に接して配置されており、基準熱流量検出部130は、冷却プレート105において、バッテリセル111の底面と対向しない面側に配置されている。複数のバッテリセル111に対する配置は、特に限定されないが、例えばバッテリセル111の積層方向における中央に位置するバッテリセル111に対応して配置されてもよい。
【0037】
(B)バッテリモジュール110におけるエンドプレート113
図2Bは、図1に示すバッテリユニットにおけるバッテリモジュールの他の一例の側面図である。図2Bに示すように、例えば、基準熱流量検出部130は、エンドプレート113において、バッテリセル111と対向しない面側に配置されてもよい。
【0038】
(C)バッテリモジュール110におけるバスバー114,119
例えば、基準熱流量検出部130は、バッテリセル111同士を接続するセルバスバー114において(図2A参照)、バッテリセル111と対向しない面側に配置されてもよい。また、例えば、基準熱流量検出部130は、バッテリモジュール110同士を接続するモジュールバスバー119において(図1参照)、バッテリセル111と対向しない面側に配置されてもよい。複数のバッテリセル111に対する配置は、特に限定されないが、例えばバッテリセル111の積層方向における中央に位置するバッテリセル111に対応して配置されてもよい。
【0039】
(D)バッテリユニット100内のフランジ
図1に示すように、例えば、基準熱流量検出部130は、バッテリユニット100内のバッテリモジュールを固定するフランジ(継ぎ手)に配置されてもよい。
【0040】
(E)バッテリユニット100内の空間
図1に示すように、例えば、基準熱流量検出部130は、バッテリユニット100内の空間に、浮かした状態で配置されてもよい。
【0041】
(F)高圧導線を保護するパイプ
図1に示すように、例えば、基準熱流量検出部130は、高圧導線を保護するパイプの中もしくは外(例えば、外気に暴露されていれば中、外気に暴露されていなければ外)に配置されてもよい。
【0042】
なお、バッテリ熱流量検出部120が、バッテリセル111のうちのエンドプレート113に隣接する2つのバッテリセル111に配置され、基準熱流量検出部130が、バッテリセル111のうちのバッテリ熱流量検出部120が配置されたバッテリセル111以外のバッテリセル111、例えばバッテリセル111の積層方向における中央に位置するバッテリセル111に配置されてもよい。
【0043】
電圧検出部141は、バッテリセル111の開回路電圧または閉回路電圧を検出する電圧センサである。電圧検出部141の配置は、特に限定されないが、例えば図2Aに示すように、バッテリモジュール110に配置されてもよい。
【0044】
電流検出部142は、バッテリセル111の電流を検出する電流センサである。電流検出部142の配置は、特に限定されないが、例えば図2Aに示すように、バッテリモジュール110に配置されてもよい。
【0045】
温度検出部143は、各部温度を検出する温度センサである。温度センサとしては、特に限定されないが、例えば熱電対が挙げられる。図2Aに示すように、温度検出部143は、各バッテリセル111に配置され、各バッテリセル111の温度を検出する。また、温度検出部143は、バッテリ熱流量検出部120が配置された位置に配置され、熱流量検出位置の温度を検出する。また、図1および図2Bに示すように、温度検出部143は、基準熱流量検出部130が配置された位置に配置され、熱流量検出位置の温度を検出する。
【0046】
(バッテリマネジメントシステム:バッテリ状態推定部)
バッテリマネジメントシステム(BMS)200は、バッテリセル111の充放電制御、過充電保護、過放電保護、SOC(State Of Charge)またはSOH(State of Health)等のバッテリの状態の監視等のバッテリセル111の全体制御を行う(Electronic Control Unit:ECUともいう)。バッテリマネジメントシステム200は、主に、バッテリ状態推定部210と、記憶部220とを備える。
【0047】
バッテリ状態推定部210は、例えば、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の演算プロセッサで構成される。バッテリ状態推定部210の各種機能は、例えば記憶部220に格納された所定のソフトウェア(プログラム)を実行することで実現される。バッテリ状態推定部210の各種機能は、ハードウェアとソフトウェアとの協働で実現されてもよいし、ハードウェア(電子回路)のみで実現されてもよい。
【0048】
記憶部220は、例えばEEPROM等の書き換え可能なメモリである。記憶部220は、上述したバッテリ状態推定部210の各種機能を実行するための所定のソフトウェア(プログラム)を格納する。
【0049】
また、記憶部220は、バッテリセル111の例えば初期状態における開回路電圧とSOCとの相関に関する特性(OCV versus SOC特性)であって、バッテリセル111の温度ごとの複数の特性を、テーブルマップ形式で記憶する。また、記憶部220は、図3Aに示すように、バッテリセル111の例えば初期状態における閉回路電圧とSOCとの相関に関する特性(CCV versus SOC特性)であって、バッテリセル111の温度ごとおよび電流(充電)ごとの複数の特性を、テーブルマップ形式で記憶する。また、記憶部220は、図3Aに示すように、バッテリセル111の初期状態における熱流量とSOCとの相関に関する特性(HF versus SOCの初期特性)であって、バッテリセル111の温度ごとおよび電流(充電)ごとの複数の特性を、テーブルマップ形式で記憶する。また、記憶部220は、図3Aに示すように、バッテリセル111の初期状態におけるエンタルピーポテンシャルとSOCとの相関に関する特性(UH versus SOCの初期特性)であって、バッテリセル111の温度ごとおよび電流(充電)ごとの複数の特性を、テーブルマップ形式で記憶する。
【0050】
ここで、エンタルピーポテンシャルUHとは、バッテリセル111の熱流量HF、閉回路電圧CCV、および電流Iに基づく下記式より算出されるパラメータである(非特許文献1参照)。
UH=CCV-HF/I・・・(式)
【0051】
バッテリ状態推定部210は、例えば実使用における車両の停車時等の充放電が行われていないときに、記憶部220に記憶されたOCV versus SOC特性のテーブルマップを参照して、電圧検出部141によって検出されたバッテリセル111のOCVに対応するバッテリセル111のSOCを推定する。
また、バッテリ状態推定部210は、例えば実使用における車両の停車時に行われる充電開始時、記憶部220に記憶されたOCV versus SOC特性のテーブルマップを参照して、電圧検出部141によって検出されたバッテリセル111のOCVに対応するバッテリセル111のSOCをスタートSOCとして推定する。
【0052】
また、バッテリ状態推定部210は、例えば実使用における車両の停車時に行われる充電時、図3Bおよび図3Cに示すように、バッテリセル111のHF versus SOCの現在特性を測定し、測定したHF versus SOCの現在特性の微分特性におけるピークから、バッテリセルのSOC(HF)を求める。
また、このとき、バッテリ状態推定部210は、上述したOCV versus SOC特性のテーブルマップから推定したスタートSOCに基づいて、上述のSOC(HF)に対応するバッテリセルのSOC(OCV)を算出する。
そして、バッテリ状態推定部210は、OCV versus SOC特性のテーブルマップから算出したSOC(OCV)が、HF versus SOCの現在特性の微分特性のピークから求めたSOC(HF)に対して、所定値以上ずれている場合に、ずれ量に基づいてOCV versus SOC特性のテーブルマップを補正する。詳細は後述する(SOC推定の補正1)。
【0053】
或いは、バッテリ状態推定部210は、例えば実使用における車両の停車時に行われる充電時、図3Bおよび図3Cに示すように、バッテリセル111のUH versus SOCの現在特性を測定し、測定したUH versus SOCの現在特性の微分特性におけるピークから、バッテリセルのSOC(UH)を求める。
また、このとき、バッテリ状態推定部210は、上述したOCV versus SOC特性のテーブルマップから推定したスタートSOCに基づいて、上述のSOC(UH)に対応するバッテリセルのSOC(OCV)を算出する。
そして、バッテリ状態推定部210は、OCV versus SOC特性のテーブルマップから算出したSOC(OCV)が、UH versus SOCの現在特性の微分特性のピークから求めたSOC(UH)に対して、所定値以上ずれている場合に、ずれ量に基づいてOCV versus SOC特性のテーブルマップを補正する。詳細は後述する(SOC推定の補正2)。
【0054】
なお、バッテリセル111の熱流量HFとしては、バッテリ熱流量検出部120によって検出された熱流量がそのまま用いられてもよい。或いは、バッテリセル111の熱流量HFとしては、バッテリ熱流量検出部120によって検出された熱流量から基準熱流量検出部130によって検出された基準熱流量を減算した熱流量が用いられてもよい。これにより、バッテリユニット100内の様々な熱流量の影響、すなわちノイズの影響を除去したバッテリセル111の熱流量を得ることができる。なお、正極側のバッテリセル111の熱流量と負極側のバッテリ111の熱流量とを平均化してバッテリセル111の熱流量HFとしてもよい。
【0055】
ここで、SOC推定では、バッテリセルのOCV versus SOC特性を、温度ごとに複数のテーブルマップとして予め記憶しておき、例えば実使用における車両の停車時等の充放電が行われていないときに、検出温度に対応するテーブルマップを参照して、検出したOCVに対応するSOCを、バッテリセルのSOCとして推定する。
【0056】
これにより、負極の材料としてハードカーボンを用いたリチウムイオンバッテリのように、容量の変化に対して電圧が傾斜しているバッテリセルであれば、バッテリセルの電圧に基づいて、SOCを精度よく推定することができる。
【0057】
近年、負極の材料としてグラファイトを用いたリチウムイオンバッテリのように、容量の変化に対して電圧の変化が小さいバッテリセルがある。このようなバッテリセルを備えるバッテリユニットにおいて、バッテリセルの電圧に基づいて、SOC推定を行うと、推定精度が低下する。
【0058】
また、OCV versus SOC特性は、バッテリセルの劣化に起因して次第に変化するため、初期特性から次第にずれてしまう。この点に関し、本願発明者らは、グラファイトを用いたリチウムイオンバッテリにおいて、例えば実使用における車両の停車時に行われる充電時、CCV versus SOCの現在特性を測定し、SOC推定の誤差補正を行うことを考案している。なお、充電を定電流かつ低レートで行うことにより、この充電電流mAと充電時間hとから容量mAhを求めることができる。
【0059】
図6は、比較例のCCV versus SOCの基準特性、およびその微分特性、すなわちSOCについてのCCV特性CCV=f(SOC)の微分特性d(CCV)/d(SOC)の一例を示す図である。図6に示すように、例えば、負極の材料としてグラファイト、正極の材料としてNCMを用いたリチウムイオンバッテリでは、CCV versus SOCの微分特性には、グラファイトに対応する複数の相転移等に伴うピークが存在する。しかし、明瞭なのは2つのピークである。なお、このようなCCV-SOC特性の微分特性に相転移等に伴うピークが存在する特徴は、ハードカーボンを用いたリチウムイオンバッテリにはない。
【0060】
そこで、比較例のSOC推定の補正では、CCV versus SOCの微分特性におけるピークのSOCに対する、OCV versus SOC特性のテーブルマップから推定したSOCのずれ量に応じて、OCV versus SOC特性のテーブルマップを補正する。
【0061】
具体的には、例えば実使用における車両の停車時に行われる充電開始時、OCV versus SOC特性のテーブルマップを参照して、測定したOCVに対応するSOCをスタートSOCとして推定する。
また、例えば実使用における車両の停車時に行われる充電時、CCV versus SOCの現在特性を測定し、測定したCCV versus SOCの微分特性におけるピークを検知する。例えば予め記憶されたCCV versus SOCの初期特性の微分特性におけるピークのSOCを参照して、検知したピークのSOCを、SOC(CCV)として求める。
【0062】
また、このとき、充電電流、充電時間から、充電開始時からピーク検知時までの充電容量を算出し、算出した充電容量と、上述したように充電開始時にOCV versus SOCのテーブルマップから推定したスタートSOCとから、SOC(OCV)を算出する。
【0063】
そして、OCV versus SOC特性のテーブルマップから算出したSOC(OCV)が、CCV versus SOCの微分特性のピークから求めたSOC(CCV)に対して、所定値以上ずれている場合に、ずれ量に基づいてOCV versus SOC特性のテーブルマップを補正する。
【0064】
しかし、CCV versus SOCの微分特性では、ピークの大きさが比較的に小さく、スペクトルが比較的に鈍く、S/N比が比較的に小さい。特に、劣化すると、このような問題が顕著に現れる。そのため、CCV versus SOCの微分特性に基づいてスタートSOC推定の補正を行っても、補正精度が低く、推定精度が低いことが予想される。
【0065】
ここで、本願発明者らは、バッテリセルのSOCと電極材料の活物質の相転移等に伴うバッテリセルの熱流量HFとにも相関があるとの知見を得ている。また、本願発明者らは、HF versus SOCの微分特性では、CCV versus SOCの微分特性と比較して、
・ピークの大きさが大きく、スペクトルが鋭く、S/N比が大きく、劣化してもこれらの特徴を維持する、
・更に、ピークの数が多く、ピークの間隔が小さい、
・更に、正数のピークと負数のピークとの特定のパターンを有し、劣化しても特定のパターンは一定のパターンを維持する、換言すれば、劣化してもSOCに対するピークの位置がずれ難い、
との知見を得ている。そこで、本願発明者らは、バッテリセルの熱流量、詳細にはHF versus SOC特性、より詳細にはHF versus SOCの微分特性に基づいて、バッテリセルのSOC推定を補正する手法を考案する(後述するSOC推定の補正1)。
【0066】
また、本願発明者らは、UH versus SOCの微分特性でも、CCV versus SOCの微分特性と比較して、
・ピークの大きさが大きく、スペクトルが鋭く、S/N比が大きく、劣化してもこれらの特徴を維持する、
・更に、ピークの数が多く、ピークの間隔が小さい、
・更に、正数のピークと負数のピークとの特定のパターンを有し、劣化しても特定のパターンは一定のパターンを維持する、換言すれば、劣化してもSOCに対するピークの位置がずれ難い、
との知見を得ている。そこで、本願発明者らは、バッテリセルのエンタルピーポテンシャル、詳細にはUH versus SOC特性、より詳細にはUH versus SOCの微分特性に基づいて、バッテリセルのSOC推定を補正する手法を考案する(後述するSOC推定の補正2)。
【0067】
(SOC推定の補正1)
まず、バッテリ状態推定部210による、バッテリセルの熱流量、詳細にはHF versus SOC特性、より詳細にはHF versus SOCの微分特性に基づくバッテリセル111のSOC推定の補正の一例について説明する。
【0068】
バッテリ状態推定部210は、例えば実使用における車両の停車時等の充放電が行われていないときに、定期的に、OCV versus SOC特性のテーブルマップを参照して、検出したバッテリセル111のOCVに対応するバッテリセル111のSOCを推定する。
また、バッテリ状態推定部210は、例えば実使用における車両の停車時に行われる充電開始時、OCV versus SOC特性のテーブルマップを参照して、検出したバッテリセル111のOCVに対応するバッテリセル111のSOCをスタートSOCとして推定する。
【0069】
その後、例えば実使用における車両の停車時に行われる充電時、バッテリ状態推定部210は、図3Bおよび図3Cに示すように、バッテリセル111のHF versus SOCの現在特性を測定し、測定したHF versus SOCの微分特性におけるピークを検知する。
【0070】
図4は、本実施形態のHF versus SOC特性、およびその微分特性、すなわちSOCについてのHF特性HF=f(SOC)の微分特性d(HF)/d(SOC)の一例を示す図である。図4に示すように、例えば、負極の材料としてグラファイト、正極の材料としてNCMを用いたリチウムイオンバッテリでは、HF versus SOCの微分特性には、グラファイトの相転移等に伴う複数のピーク1~7が存在する。これらのピークの位置(SOC)は、バッテリが劣化してもずれ難い。なお、ピーク7、6、5、4、3、2、1の順でよりずれ難くなる。
これより、バッテリ状態推定部210は、記憶部220に記憶されたHF versus SOCの初期特性の微分特性におけるピークのSOCを参照して、検知したピークのSOCを、SOC(HF)として求める。
【0071】
また、このとき、バッテリ状態推定部210は、充電電流、充電時間から、充電開始時からピーク検知時までの充電容量を算出し、算出した充電容量と、上述したように充電開始時にOCV versus SOCのテーブルマップから推定したスタートSOCとから、SOC(OCV)を算出する。
【0072】
例えば、バッテリ状態推定部210は、下記式から、算出した充電容量Q(t)に対応するΔSOCを算出し、算出したΔSOCと、充電開始時にOCV versus SOCのテーブルマップから推定したスタートSOCとから、SOC(OCV)を算出する。
SOC(OCV)=スタートSOC+ΔSOC・・・(式)
ΔSOC=Q(t)/C0(t)・・・(式)
C0(t)=C0×SOH・・・(式)
C0(t):現在の全体容量
C0:初期の全体容量
SOH:劣化状態
t:経過時間
ここで、SOHが正確に推定できていれば、ΔSOCも正確に推定できていると考えられ、SOC(OCV)は、OCV versus SOCのテーブルマップから推定したスタートSOCのずれを反映することとなる。
なお、SOHは、例えば以下の方法により求めることができる。
【0073】
例えば、バッテリ状態推定部210は、図3Bまたは図3Cに示す測定したHF versus SOCの現在特性と、図3Aに示す予め記憶したHF versus SOCの初期特性とに基づいて、バッテリセルのSOHを推定する。
なお、図3Dに、図3Aに示すHF versus SOCの初期特性、図3Bに示す劣化小状態のHF versus SOC特性、および図3Cに示す劣化中状態のHF versus SOC特性を重ねて示す。
【0074】
ここで、図4に示すHF versus SOCの微分特性におけるピーク間の線分の長さは、負極カットのリチウムイオンバッテリではバッテリセルの全体容量と相関する。よって、これらのピーク間の線分の長さに相当する容量mAhがわかれば、バッテリセルの全体容量mAhがわかる。例えば、SOC0%-100%の初期容量が100mAhであり、複数のピークにおけるいずれか2つのピーク間の線分の長さに相当する容量が20mAhだったとする。なお、ピーク間の線分の長さに相当する容量mAhは、充電電流と充電時間とから算出されればよい。バッテリセルの劣化が進み、この2つのピーク間の線分の長さに相当する容量が10mAhとなると、バッテリセルの全体容量は50mAhになる。
【0075】
そこで、バッテリ状態推定部210は、HF versus SOCの初期特性の微分特性における各ピーク間の線分の長さに相当する容量mAhを予め記憶しておく。そして、バッテリ状態推定部210は、充電時に、HF versus SOCの現在(劣化時)特性の微分特性におけるいずれか2つのピーク間の線分の長さに相当する容量mAhを測定し、下記式よりSOH推定を行う。
SOH={HF versus SOCの現在(劣化時)特性の微分特性における2つのピーク間の線分の長さに相当する容量mAh}/{HF versus SOCの初期特性の微分特性における対応の2つのピーク間の線分の長さに相当する容量mAh}・・・(式)
なお、実使用における充電は定電流かつ低レートであるため、この充電電流mAと充電時間hとからピーク間の線分の長さに相当する容量mAhを求めることができる。
これによれば、SOC0%からの充電を必要としないため、またSOC100%までの充電を必要としないため、実使用における充電時にSOH推定を行うことができる。
【0076】
そして、バッテリ状態推定部210は、上述したようにOCV versus SOC特性のテーブルマップから算出したSOC(OCV)が、上述したようにHF versus SOCの微分特性のピークから求めたSOC(HF)に対して、所定値以上ずれている場合に、ずれ量に基づいてOCV versus SOC特性のテーブルマップを補正する。補正の仕方としては、テーブルマップにおいて、例えば全体的に一律(例えば、ずれ量分(SOC%))、左右にずらせばよい。
【0077】
以上説明したように、本実施形態のSOC推定の補正では、CCV versus SOCの微分特性に代えて、HF versus SOCの微分特性に基づいて、バッテリセルのSOC推定の補正を行う。上述したように、HF versus SOCの微分特性では、CCV versus SOCの微分特性と比較して、
・ピークの大きさが大きく、スペクトルが鋭く、S/N比が大きく、劣化してもこれらの特徴を維持する、
・更に、ピークの数が多く、ピークの間隔が小さい、
・更に、正数のピークと負数のピークとの特定のパターンを有し、劣化しても特定のパターンは一定のパターンを維持する、換言すれば、劣化してもSOCに対するピークの位置がずれ難い。
そのため、バッテリセルのSOC推定の補正精度を高めることができ、SOC推定の推定精度を高めることができる。
【0078】
特に、HF versus SOCの微分特性では、ピークの数が多く、ピークの間隔が小さいため、実使用における様々なSOCからの充電時でもSOC推定の補正が可能であり、実使用における短時間の充電時でもSOC推定の補正が可能である。
【0079】
また、HF versus SOCの微分特性では、正数のピークと負数のピークとの特定のパターンを有するため、実使用における様々なSOCからの充電時でも、ピークの正負および大きさのパターンからHF versus SOCの微分特性におけるピークの位置(SOC)を容易に認識することができ、容易にSOC推定の補正が可能である。
【0080】
ここで、実使用において、OCV versus SOC特性のテーブルマップとして、寿命末期状態(End Of Life:EOL)のテーブルマップを準備することがある。或いは、実使用において、OCV versus SOC特性のテーブルマップとして、初期状態(Begin Of Life:BOL)、寿命末期状態(End Of Life:EOL)、およびこれらの中間劣化状態のように、劣化状態に応じて複数のテーブルマップを準備することがある。この点に関し、本実施形態のSOC推定の補正によれば、劣化に応じてOCV versus SOC特性のテーブルマップを補正することができるので、例えば初期状態のテーブルマップのみを準備するだけでよい。
【0081】
ところで、SOC、SOHの推定に関して一般には、バッテリセルの数学的モデルを構築し、モデルから作成した状態推定器を用いてSOC、SOHを推定する技術が知られている。この推定では、バッテリモデルに誤差が存在した場合には、精度が悪くなると言う根本的な問題が生じる。また、バッテリ使用中に、推定値が正しいかどうかの判断ができない。この点に関し、本発明によれば、HFの特性を計測することにより、バッテリの数学モデルの誤差が生じても、それをバッテリ使用中に補正することが可能である。
【0082】
(SOC推定の補正2)
次に、バッテリ状態推定部210による、バッテリセルのエンタルピーポテンシャル、詳細にはUH versus SOC特性、より詳細にはUH versus SOCの微分特性に基づくバッテリセル111のSOC推定の補正の一例について説明する。
【0083】
バッテリ状態推定部210は、例えば実使用における車両の停車時等の充放電が行われていないときに、定期的に、OCV versus SOC特性のテーブルマップを参照して、検出したバッテリセル111のOCVに対応するバッテリセル111のSOCを推定する。
また、バッテリ状態推定部210は、例えば実使用における車両の停車時に行われる充電開始時、OCV versus SOC特性のテーブルマップを参照して、検出したバッテリセル111のOCVに対応するバッテリセル111のSOCをスタートSOCとして推定する。
【0084】
その後、例えば実使用における車両の停車時に行われる充電時、バッテリ状態推定部210は、図3Bおよび図3Cに示すように、バッテリセル111のUH versus SOCの現在特性を測定し、測定したUH versus SOCの微分特性におけるピークを検知する。
【0085】
図5は、本実施形態のUH versus SOC特性、およびその微分特性、すなわちSOCについてのUH特性UH=f(SOC)の微分特性d(UH)/d(SOC)の一例を示す図である。図5に示すように、例えば、負極の材料としてグラファイト、正極の材料としてNCMを用いたリチウムイオンバッテリでは、UH versus SOCの微分特性には、グラファイトの相転移等に伴う複数のピーク1~7が存在する。これらのピークの位置(SOC)は、バッテリが劣化してもずれ難い。なお、ピーク7、6、5、4、3、2、1の順でよりずれ難くなる。
これより、バッテリ状態推定部210は、記憶部220に記憶されたUH versus SOCの初期特性の微分特性におけるピークのSOCを参照して、検知したピークのSOCを、SOC(UH)として求める。
【0086】
また、このとき、バッテリ状態推定部210は、充電電流、充電時間から、充電開始時からピーク検知時までの充電容量を算出し、算出した充電容量と、上述したように充電開始時にOCV versus SOCのテーブルマップから推定したスタートSOCとから、SOC(OCV)を算出する。
【0087】
例えば、バッテリ状態推定部210は、下記式から、算出した充電容量Q(t)に対応するΔSOCを算出し、算出したΔSOCと、充電開始時にOCV versus SOCのテーブルマップから推定したスタートSOCとから、SOC(OCV)を算出する。
SOC(OCV)=スタートSOC+ΔSOC・・・(式)
ΔSOC=Q(t)/C0(t)・・・(式)
C0(t)=C0×SOH・・・(式)
C0(t):現在の全体容量
C0:初期の全体容量
SOH:劣化状態
t:経過時間
ここで、SOHが正確に推定できていれば、ΔSOCも正確に推定できていると考えられ、SOC(OCV)は、OCV versus SOCのテーブルマップから推定したスタートSOCのずれを反映することとなる。
なお、SOHは、例えば以下の方法により求めることができる。
【0088】
例えば、バッテリ状態推定部210は、図3Bまたは図3Cに示す測定したUH versus SOCの現在特性と、図3Aに示す予め記憶したUH versus SOCの初期特性とに基づいて、バッテリセルのSOHを推定する。
【0089】
ここで、図5に示すUH versus SOCの微分特性におけるピーク間の線分の長さは、負極カットのリチウムイオンバッテリではバッテリセルの全体容量と相関する。よって、これらのピーク間の線分の長さに相当する容量mAhがわかれば、バッテリセルの全体容量mAhがわかる。例えば、SOC0%-100%の初期容量が100mAhであり、複数のピークにおけるいずれか2つのピーク間の線分の長さに相当する容量が20mAhだったとする。なお、ピーク間の線分の長さに相当する容量mAhは、充電電流と充電時間とから算出されればよい。バッテリセルの劣化が進み、この2つのピーク間の線分の長さに相当する容量が10mAhとなると、バッテリセルの全体容量は50mAhになる。
【0090】
そこで、バッテリ状態推定部210は、UH versus SOCの初期特性の微分特性における各ピーク間の線分の長さに相当する容量mAhを予め記憶しておく。そして、バッテリ状態推定部210は、充電時に、UH versus SOCの現在(劣化時)特性の微分特性におけるいずれか2つのピーク間の線分の長さに相当する容量mAhを測定し、下記式よりSOH推定を行う。
SOH={UH versus SOCの現在(劣化時)特性の微分特性における2つのピーク間の線分の長さに相当する容量mAh}/{UH versus SOCの初期特性の微分特性における対応の2つのピーク間の線分の長さに相当する容量mAh}・・・(式)
なお、実使用における充電は定電流かつ低レートであるため、この充電電流mAと充電時間hとからピーク間の線分の長さに相当する容量mAhを求めることができる。
これによれば、SOC0%からの充電を必要としないため、またSOC100%までの充電を必要としないため、実使用における充電時にSOH推定を行うことができる。
【0091】
そして、バッテリ状態推定部210は、上述したようにOCV versus SOC特性のテーブルマップから算出したSOC(OCV)が、上述したようにUH versus SOCの微分特性のピークから求めたSOC(UH)に対して、所定値以上ずれている場合に、ずれ量に基づいてOCV versus SOC特性のテーブルマップを補正する。補正の仕方としては、テーブルマップにおいて、例えば全体的に一律(例えば、すれ量分(SOC%))、左右にずらせばよい。
【0092】
以上説明したように、本実施形態のSOC推定の補正では、CCV versus SOCの微分特性に代えて、UH versus SOCの微分特性に基づいて、バッテリセルのSOC推定の補正を行う。上述したように、UH versus SOCの微分特性でも、CCV versus SOCの微分特性と比較して、
・ピークの大きさが大きく、スペクトルが鋭く、S/N比が大きく、劣化してもこれらの特徴を維持する、
・更に、ピークの数が多く、ピークの間隔が小さい、
・更に、正数のピークと負数のピークとの特定のパターンを有し、劣化しても特定のパターンは一定のパターンを維持する、換言すれば、劣化してもSOCに対するピークの位置がずれ難い。
そのため、バッテリセルのSOC推定の補正精度を高めることができ、SOC推定の推定精度を高めることができる。
【0093】
特に、UH versus SOCの微分特性では、ピークの数が多く、ピークの間隔が小さいため、実使用における様々なSOCからの充電時でもSOC推定の補正が可能であり、実使用における短時間の充電時でもSOC推定の補正が可能である。
【0094】
また、UH versus SOCの微分特性では、正数のピークと負数のピークとの特定のパターンを有するため、実使用における様々なSOCからの充電時でも、ピークの正負および大きさのパターンからUH versus SOCの微分特性におけるピークの位置(SOC)を容易に認識することができ、容易にSOC推定の補正が可能である。
【0095】
また上述したように、実使用において、OCV versus SOC特性のテーブルマップとして、寿命末期状態(End Of Life:EOL)のテーブルマップを準備することがある。或いは、実使用において、OCV versus SOC特性のテーブルマップとして、初期状態(Begin Of Life:BOL)、寿命末期状態(End Of Life:EOL)、およびこれらの中間劣化状態のように、劣化状態に応じて複数のテーブルマップを準備することがある。この点に関し、本実施形態のSOC推定の補正によれば、劣化に応じてOCV versus SOC特性のテーブルマップを補正することができるので、例えば初期状態のテーブルマップのみを準備するだけでよい。
【0096】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変更および変形が可能である。例えば、上述したSOC推定の補正1において、バッテリセルの熱流量、詳細にはHF versus SOC特性、より詳細にはHF versus SOCの微分特性に基づいて、CCV versus SOC特性のテーブルマップを補正してもよい。
【0097】
具体的には、上述同様に、バッテリ状態推定部210は、例えば実使用における車両の停車時に行われる充電時、図3Bおよび図3Cに示すように、バッテリセル111のHF versus SOCの現在特性を測定し、測定したHF versus SOCの微分特性におけるピークを検知する。バッテリ状態推定部210は、記憶部220に記憶されたHF versus SOCの初期特性の微分特性におけるピークのSOCを参照して、検知したピークに対応するSOCを、SOC(HF)として求める。
【0098】
また、バッテリ状態推定部210は、記憶されたCCV versus SOC特性のテーブルマップであって、上述のピーク検知時に検出された温度および電流に対応するCCV versus SOC特性のテーブルマップを参照して、上述のピーク検知時に検出されたCCVに対応するSOCを、SOC(CCV)として求める。
【0099】
そして、バッテリ状態推定部210は、上述したようにCCV versus SOC特性のテーブルマップから算出したSOC(CCV)が、上述したようにHF versus SOCの微分特性のピークから求めたSOC(HF)に対して、所定値以上ずれている場合に、ずれ量に基づいてCCV versus SOC特性のテーブルマップを補正する。補正の仕方としては、テーブルマップにおいて、例えば全体的に一律(例えば、すれ量分(SOC%))、左右にずらせばよい。
【0100】
実使用において、CCV versus SOC特性のテーブルマップとして、寿命末期状態(End Of Life:EOL)のテーブルマップを準備することがある。或いは、実使用において、CCV versus SOC特性のテーブルマップとして、初期状態(Begin Of Life:BOL)、寿命末期状態(End Of Life:EOL)、およびこれらの中間劣化状態のように、劣化状態に応じて複数のテーブルマップを準備することがある。この点に関し、本変形例のSOC推定の補正によれば、劣化に応じてCCV versus SOC特性のテーブルマップを補正することができるので、例えば初期状態のテーブルマップのみを準備するだけでよい。
【0101】
また、上述したSOC推定の補正2において、バッテリセルのエンタルピーポテンシャル、詳細にはUH versus SOC特性、より詳細にはUH versus SOCの微分特性に基づいて、CCV versus SOC特性のテーブルマップを補正してもよい。
【0102】
具体的には、上述同様に、バッテリ状態推定部210は、例えば実使用における車両の停車時に行われる充電時、図3Bおよび図3Cに示すように、バッテリセル111のUH versus SOCの現在特性を測定し、測定したUH versus SOCの微分特性におけるピークを検知する。バッテリ状態推定部210は、記憶部220に記憶されたUH versus SOCの初期特性の微分特性におけるピークのSOCを参照して、検知したピークに対応するSOCを、SOC(UH)として求める。
【0103】
また、バッテリ状態推定部210は、記憶されたCCV versus SOC特性のテーブルマップであって、上述のピーク検知時に検出された温度および電流に対応するCCV versus SOC特性のテーブルマップを参照して、上述のピーク検知時に検出されたCCVに対応するSOCを、SOC(CCV)として求める。
【0104】
そして、バッテリ状態推定部210は、上述したようにCCV versus SOC特性のテーブルマップから算出したSOC(CCV)が、上述したようにUH versus SOCの微分特性のピークから求めたSOC(UH)に対して、所定値以上ずれている場合に、ずれ量に基づいてCCV versus SOC特性のテーブルマップを補正する。補正の仕方としては、テーブルマップにおいて、例えば全体的に一律(例えば、すれ量分(SOC%))、左右にずらせばよい。
【0105】
上述したように、実使用において、CCV versus SOC特性のテーブルマップとして、寿命末期状態(End Of Life:EOL)のテーブルマップを準備することがある。或いは、実使用において、CCV versus SOC特性のテーブルマップとして、初期状態(Begin Of Life:BOL)、寿命末期状態(End Of Life:EOL)、およびこれらの中間劣化状態のように、劣化状態に応じて複数のテーブルマップを準備することがある。この点に関し、本実施形態のSOC推定の補正によれば、劣化に応じてCCV versus SOC特性のテーブルマップを補正することができるので、例えば初期状態のテーブルマップのみを準備するだけでよい。
【符号の説明】
【0106】
100 バッテリユニット
101 ケース
102 カバー
103 下部フレーム
104 上部フレーム
105 冷却プレート
106 空気導入機構
110 バッテリモジュール
111 バッテリセル
112 積層体
113 エンドプレート
114 セルバスバー
119 モジュールバスバー
120 バッテリ熱流量検出部
130 基準熱流量検出部
141 電圧検出部
142 電流検出部
143 温度検出部
200 バッテリマネジメントシステム(BMS)
210 バッテリ状態推定部
220 記憶部
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6