(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】ウイルスまたはウイルス様粒子の精製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 7/02 20060101AFI20241024BHJP
C07K 1/14 20060101ALI20241024BHJP
C07K 1/22 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C12N7/02 ZNA
C07K1/14
C07K1/22
(21)【出願番号】P 2021529980
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2020024804
(87)【国際公開番号】W WO2021002257
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2019125243
(32)【優先日】2019-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業遺伝子治療製造技術開発 「遺伝子・細胞治療用ベクターのプラットフォーム製造技術開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西八條 正克
(72)【発明者】
【氏名】末岡 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】八浦 妃佐子
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-511326(JP,A)
【文献】国際公開第03/104413(WO,A2)
【文献】特表2010-530734(JP,A)
【文献】特開2000-262280(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第02212909(DE,A1)
【文献】特開2009-039656(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0281075(US,A1)
【文献】Virology,1967年,Vol. 31,pp. 585-591
【文献】Doklady Akademii Nauk SSSR,1944年,Vol. 42,pp. 194-195
【文献】J. Exp. Med.,1932年,Vol. 56,pp. 307-317
【文献】Wat. Sci. Tech.,1991年,Vol. 24, No. 2,pp. 235-240
【文献】Arch. Ges. Virusforsch.,1965年,Vol. 15, No. 5,pp. 735-738
【文献】Virology,1961年,Vol. 15,pp. 8-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00-7/08
C07K 1/00-1/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスまたはウイルス様粒子を精製するための方法であって、
前記ウイルスまたはウイルス様粒子を含む液体
を水不溶性無機化合物に接触させる工程を含
み、
前記水不溶性無機化合物が、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび酸化マグネシウムから選択される1以上の水不溶性無機化合物であることを特徴とする方法。
【請求項2】
ウイルスまたはウイルス様粒子を製造するための方法であって、
前記ウイルスまたはウイルス様粒子を含む液体
を水不溶性無機化合物に接触させて、前記ウイルスまたはウイルス様粒子を精製する工程を含
み、
前記水不溶性無機化合物が、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムおよび酸化マグネシウムから選択される1以上の水不溶性無機化合物であることを特徴とする方法。
【請求項3】
前記水不溶性無機化合物が
塩基性炭酸マグネシウムである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
更に、前記ウイルスまたはウイルス様粒子を含む液体を活性炭に接触させる工程を含む請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
更に、前記ウイルスまたはウイルス様粒子をクロマトグラフィーにより精製する工程を含む請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記クロマトグラフィーがアフィニティークロマトグラフィーである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ウイルスまたはウイルス様粒子が、アデノ随伴ウイルス、またはアデノ随伴ウイルスに由来するウイルス様粒子である請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記水不溶性無機化合物に、前記ウイルスまたはウイルス様粒子を除くタンパク質および/または核酸を吸着させる請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記液体が、動物細胞培養液またはその処理物である請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスまたはウイルス様粒子を簡便に精製できる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウイルスを同定するには、サンプルから市販キットを用いてゲノムを精製し、ゲノムの塩基配列を決定することが一般的である。いかなるウイルスがいかなるゲノム配列を有しているかデータが確立されており、ゲノム配列が決定されればウイルスの属種を同定することが可能であるが、そのためにはウイルスを高純度に精製する必要がある。また、ウイルスは遺伝子治療において特定遺伝子を細胞内に導入するためのベクターとして利用されているが、遺伝子治療で使われるウイルスは勿論高度に精製されていなければならない。また、毒性を喪失させたウイルスや不活性なウイルス様粒子はワクチンとして用いられており、これらも高純度に精製されなければならない。
【0003】
ウイルスやウイルス様粒子は、形質転換細胞や鶏卵などに生産させ、その細胞破砕液や漿尿液から精製されるが、細胞破砕液や漿尿液は多くの不純物を含む。ウイルスやウイルス様粒子の精製方法としては、超遠心法、膜分離、クロマトグラフィーが挙げられる。しかし、超遠心法は専用装置が必要でありスケールアップが困難である。また、膜分離やクロマトグラフィーには高価な資材が必要であり、且つ高度な精製のための条件設定のために多大な手間や時間がかかるという問題がある。そこで、上記精製方法に代わって、或いは上記精製方法を実施する前に予備的に実施するためのより簡便な精製方法が検討されている。
【0004】
例えば特許文献1には、ウイルスを含有するサンプル液の無機塩濃度とpHを調整することにより、植物残渣、微生物、プランクトンの遺骸の分解生成物から化学的・生物的に合成される高分子有機酸の混合物であるフミン酸が疎水性ビーズの表面に吸着され易くして、ウイルスを精製する発明が記載されている。しかし、ウイルスを含む細胞破砕液や漿尿液にはタンパク質や核酸などの不純物も含まれており、かかる方法によりタンパク質や核酸などからウイルスを分離できるかは不明である。
【0005】
特許文献2には、吸着体の拡張ベッドにウイルス様粒子を捕捉して精製する方法が記載されている。かかる吸着体の材料としては酸化マグネシウム等の不溶性無機化合物も例示されているが、それらは吸着体の不活性コア材料として例示されているのみであり、実際に試験に付されている吸着剤はジエチルアミノエチル(DEAE)等のイオン交換体をリガンドとして表面に有するものである。よって、目的のウイルス様粒子を吸着体へ選択的に吸着させ、その他のタンパク質や核酸を吸着しないようにするには、ウイルス様粒子を含むサンプル毎に塩濃度やpH等の条件を検討する必要があると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2015/111606号パンフレット
【文献】特開2017-55766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、ウイルスまたはウイルス様粒子をその他のタンパク質や核酸などの不純物から簡便に精製できる方法は未だ確立されていない。
そこで本発明は、ウイルスまたはウイルス様粒子を簡便に精製できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、ウイルスまたはウイルス様粒子を含む細胞破砕液に含まれる成分のうち、ウイルスおよびウイルス様粒子は特定の水不溶性無機化合物に吸着され難いのに対して、それ以外のタンパク質や核酸が選択的に吸着され易いことから、ウイルスおよびウイルス様粒子を安価で且つ簡便に精製できることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0009】
[1] ウイルスまたはウイルス様粒子を精製するための方法であって、
前記ウイルスまたはウイルス様粒子を含む液体を、マグネシウム、カルシウム、およびアルミニウムから選択される1以上の元素を含む水不溶性無機化合物に接触させる工程を含むことを特徴とする方法。
[2] ウイルスまたはウイルス様粒子を製造するための方法であって、
前記ウイルスまたはウイルス様粒子を含む液体を、マグネシウム、カルシウム、およびアルミニウムから選択される1以上の元素を含む水不溶性無機化合物に接触させて、前記ウイルスまたはウイルス様粒子を精製する工程を含むことを特徴とする方法。
[3] 前記水不溶性無機化合物が、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、および酸化アルミニウムから選択される1以上である上記[1]または[2]に記載の方法。
[4] 更に、前記ウイルスまたはウイルス様粒子を含む液体を活性炭に接触させる工程を含む上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 更に、前記ウイルスまたはウイルス様粒子をクロマトグラフィーにより精製する工程を含む上記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 前記クロマトグラフィーがアフィニティークロマトグラフィーである上記[5]に記載の方法。
[7] 前記ウイルスまたはウイルス様粒子が、アデノ随伴ウイルス、またはアデノ随伴ウイルスに由来するウイルス様粒子である上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 前記水不溶性無機化合物に、前記ウイルスまたはウイルス様粒子を除くタンパク質および/または核酸を吸着させる上記[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9] 前記液体が、動物細胞培養液またはその処理物である上記[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明方法で用いる吸着剤は、イオン交換基やリガンド等を結合させる必要のない特定の水不溶性無機化合物であるので、非常に安価であり、表面にリガンドを有する吸着剤が必要とするような作製の手間がかからない。また、本発明方法で用いる吸着剤は、ウイルスまたはウイルス様粒子を含む細胞破砕液などに含まれるタンパク質や核酸の総量を低減できる一方で、ウイルスおよびウイルス様粒子に対する親和性は低いため、ウイルスおよびウイルス様粒子を精製することができる。よって本発明は、ウイルスの同定や、遺伝子治療やワクチン治療などに必要なウイルスまたはウイルス様粒子を簡便かつ効率的に精製できる技術として、産業上非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、水不溶性または水溶性の無機化合物を使って細胞破砕液からアデノ随伴ウイルスを精製した場合における総タンパク質とアデノ随伴ウイルスの定量結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、水不溶性無機化合物として塩基性炭酸マグネシウムを用い、その濃度を種々変更して細胞破砕液からアデノ随伴ウイルスを精製した場合における総タンパク質とアデノ随伴ウイルスの定量結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、水不溶性無機化合物として塩基性炭酸マグネシウムを用い、塩濃度を種々調整した細胞破砕液からアデノ随伴ウイルスを精製した場合における総タンパク質とアデノ随伴ウイルスの定量結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、水不溶性無機化合物を用い、活性炭の存在下または非存在下、細胞破砕液からアデノ随伴ウイルスを精製した場合における総タンパク質とアデノ随伴ウイルスの定量結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、水不溶性無機化合物として塩基性炭酸マグネシウムを用い、エンドヌクレアーゼで処理した細胞破砕液からアデノ随伴ウイルスを精製した場合における総タンパク質、アデノ随伴ウイルス、およびDNAの定量結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、後記の実施例で用いた軽質塩基性炭酸マグネシウムの粒子径分布である。
【
図7】
図7は、エンドヌクレアーゼで処理した核酸分解処理液を更に本発明に係る塩基性炭酸マグネシウムで処理した場合と処理しなかった場合のアデノ随伴ウイルス量、タンパク質量、およびDNA量を示すグラフである。
【
図8】
図8は、エンドヌクレアーゼで処理した核酸分解処理液を更に本発明に係る塩基性炭酸マグネシウムで処理した場合における、塩基性炭酸マグネシウムの量とタンパク質除去率との関係をグラフである。
【
図9】
図9は、精製AAV液、軽質塩基性炭酸マグネシウムで処理した実施例6の前処理液1、およびデプスフィルターと限外ろ過膜で処理した比較例1の前処理液2の粒子径分布を示すグラフである。
【
図10】
図10は、精製AAV液、軽質塩基性炭酸マグネシウムで処理した実施例11の前処理液3と前処理液4、およびデプスフィルターと限外ろ過膜で処理した比較例2の前処理液5をアフィニティークロマトグラフィーに付して精製したアデノ随伴ウイルスの感染価を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明方法を工程に分けて説明するが、本発明は以下の具体例に限定されるものではない。
【0013】
1.ウイルス/ウイルス様粒子含有液の調製工程
本工程では、精製対象であるウイルスまたはウイルス様粒子を含む液体を調製する。本工程の実施は任意であり、既にかかる液体が得られている場合などには本工程を実施する必要は無い。
【0014】
ウイルス様粒子は、主にカプシドを構成するウイルス外殻タンパク質の全部または一部であり、核酸を含まないため感染の懸念が無い一方で、免疫反応を惹起するためワクチンの有効成分として用いることができる。なお、本開示において「ウイルスまたはウイルス様粒子」には、製造工程においてウイルスとウイルス様粒子の両方が製造され且つウイルスとウイルス様粒子の両方が混合されていても問題無い場合、「ウイルスまたはウイルス様粒子の一方」のみでなく、「ウイルスおよびウイルス様粒子」も含まれるものとする。
【0015】
ウイルスは、ウイルス自体またはその一部が精製されるべきものであれば特に制限されないが、例えば、ノンエンベロープウイルスとしては、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、パルボウイルス、パポバウイルス、ヒトパピローマウイルス、ロタウイルス、コクサッキーウイルス、サポウイルス、ノロウイルス、ポリオウイルス、エコーウイルス、A型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、ライノウイルス、アストロウイルス等が挙げられる。アデノ随伴ウイルスは、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、AAV-14、AAV-15およびAAV-16からなる群より選択されるAAVカプシド血清型を有する。エンベロープウイルスとしては、レトロウイルス、レンチウイルス、センダイウイルス、単純ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、麻疹ウイルス、バキュロウイルス、インフルエンザウイルス等が挙げられる。
【0016】
ウイルスを含む液体は、常法により製造すればよい。例えば、鶏卵を消毒した後、10~12日間ふ卵させ、尿膜腔内に一定量のウイルス株を接種し、2~3日間培養する。次いで約半日間冷却することによりウイルスの増殖を中止させる。その後、ウイルスが増殖した漿尿液をウイルス含有液として用いることができる。
【0017】
ウイルス含有液は、ウイルス様粒子含有液と同様に形質転換法により製造することもできる。即ち、ウイルスまたはウイルス様粒子をコードする核酸を有するベクターを用い、宿主細胞に核酸を導入して形質転換し、形質転換細胞を培養する。次いで、形質転換細胞を遠心分離や濾過により培養液から分離し、界面活性剤などを含む緩衝液などの中で得られた細胞を破砕する。得られた細胞破砕液は、宿主由来の核酸を分解するためにヌクレアーゼ等で処理してもよいが、本発明方法によれば不純物を有効に除去できるため、高価なヌクレアーゼの使用量を低減することができる。細胞破砕液を遠心分離や濾過に付し、得られた上清をウイルス含有液またはウイルス様粒子含有液として用いることができる。ウイルス含有液またはウイルス様粒子含有液は、ウイルスまたはウイルス様粒子の濃度が104vg/mL以上、1015vg/mL以下になるよう緩衝液などで調整することが好ましい。
【0018】
形質転換すべき宿主細胞としては、従来公知のものを用いることができる。例えば、HEK293細胞、CHO細胞、COS細胞、HeLa細胞、C127細胞、3T3細胞、BHK細胞などの動物細胞;S2細胞、Sf細胞などの昆虫細胞;大腸菌、枯草菌、バチルス属菌などの細菌細胞;酵母、アスペルギルスなどの真菌細胞;植物細胞などが挙げられる。
【0019】
2.水不溶性無機化合物との接触工程
本工程では、ウイルスまたはウイルス様粒子を含む液体を、マグネシウム、カルシウム、およびアルミニウムから選択される1以上の元素を含む水不溶性無機化合物に接触させることにより、ウイルスおよびウイルス様粒子以外の不純物を選択的に水不溶性無機化合物に吸着させ、ウイルスまたはウイルス様粒子を精製する。なお、「精製」とは、水不溶性無機化合物に接触させる前の上記液体におけるウイルスまたはウイルス様粒子に対する不純物の割合が、低減されることをいう。
【0020】
本開示において水不溶性とは、無機化合物の粉末を水に入れ、20±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜるとき、30分以内に溶ける度合をいい、具体的には無機化合物1gを溶かすのに要する水の量が、400mL以上であることをいう。
【0021】
水不溶性無機化合物は、マグネシウム、カルシウム、およびアルミニウムから選択される1以上の元素を含むものであり、これらの不溶性炭酸塩、不溶性硫酸塩、酸化物などが挙げられ、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、および酸化アルミニウムから選択される1以上が好ましい。例えば、水酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムの混合物である塩基性炭酸マグネシウムも好適に用いられる。但し、リン酸塩は、水溶性が比較的高かったり、目的のウイルスまたはウイルス様粒子を吸着してしまうおそれがあり得るため、好ましくない。
【0022】
水不溶性無機化合物の大きさは適宜調整すればよいが、例えば、平均粒子径を0.1μm以上、1000μm以下とすることができる。当該平均粒子径が1000μm以下であれば、水不溶性無機化合物の比表面積は十分に大きく、不純物をより効率的に吸着することができ、また、0.1μm以上であれば、粉砕のために過剰なエネルギーが必要無い。また、カラムへの充填の際などにおける取扱性の観点から、上記平均粒子径としては10μm以上が好ましい。なお、本開示において平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定するものとし、平均粒子径の基準としては、体積基準、重量基準、数基準などがあるが、体積基準が好ましい。
【0023】
水溶性無機化合物の形状や構造には制限はないが、例えば、粒子状、板状、針状、チューブ状のものを使用することができる。また、多孔質構造の水不溶性無機化合物は比表面積が大きく、不純物除去に有利である。例えば、γアルミナ、チューブ状塩基性炭酸マグネシウム、花弁状結晶が集合した球状塩基性炭酸マグネシウム(特開2008-137827号公報を参照)などを使用することができる。なお、γアルミナは、高比表面積を有する立方晶系アルミナである。チューブ状塩基性炭酸マグネシウムは、塩基性炭酸マグネシウムのリーフ状微細結晶が集合して形成されたマイクロチューブ粒子であり、例えば、日鉄工業社製の「マグチューブ(R)」が挙げられる。
【0024】
水不溶性無機化合物の使用量は、ウイルス含有液またはウイルス様粒子含有液の濃度などにより調整すればよいが、例えば、ウイルス含有液またはウイルス様粒子含有液100mLに対して1g以上、20g以下の水不溶性無機化合物を用いればよい。当該割合としては、15g/100mL以下が好ましい。また、ウイルス含有液またはウイルス様粒子含有液に対して1質量%以上、20質量%以下の水不溶性無機化合物を用いることができ、当該割合としては15質量%以下が好ましい。
【0025】
ウイルス含有液またはウイルス様粒子含有液と水不溶性無機化合物との接触方法は、適宜選択すればよい。例えば、ウイルス含有液またはウイルス様粒子含有液に水不溶性無機化合物を加え、振とうや攪拌すればよい。その際の温度は常温でよく、具体的には1℃以上、30℃以下とすることができ、15℃以上、25℃以下としてもよい。また、接触時間としては、5秒間以上、10時間以下とすることができる。
【0026】
接触後は、遠心分離や濾過などによりウイルス含有液またはウイルス様粒子含有液から水不溶性無機化合物を分離すればよい。この際、ウイルスまたはウイルス様粒子は主に液分に分散しており、それ以外の不純物の全部または一部は主に水不溶性無機化合物に吸着されている。また、ウイルスまたはウイルス様粒子の一部が水不溶性無機化合物に吸着され、それ以外の不純物の一部が液分に溶解していることもあるが、少なくとも液分における不純物の総量は低減することができ、液分におけるウイルスまたはウイルス様粒子は濃縮される。
【0027】
本工程により水不溶性無機化合物に吸着される不純物は、ウイルスおよびウイルス様粒子以外の化合物であれば特に制限されないが、例えば、損傷したウイルスまたは損傷したウイルス様粒子、宿主細胞夾雑物、および細胞培養夾雑物が挙げられる。宿主細胞夾雑物としては、宿主細胞由来の核酸、プラスミド、宿主細胞由来のタンパク質が挙げられる。細胞培養夾雑物としては、培地成分、血清アルブミン、および他の血清タンパク質、トランスフェクション用のプラスミドDNAが挙げられる。
【0028】
また、水不溶性無機化合物をカラムに充填し、ウイルス含有液またはウイルス様粒子含有液を流通させることによりウイルスまたはウイルス様粒子以外の不純物を水不溶性無機化合物に吸着させてもよい。この場合、不純物の吸着と、水不溶性無機化合物からの液分の分離を同時に行うことができる。カラムにおける水不溶性無機化合物の充填量や、ウイルス含有液またはウイルス様粒子含有液の流速は、不純物が水不溶性無機化合物に十分に吸着される範囲で調整することが好ましい。
【0029】
更に、水不溶性無機化合物を含む層を有するフィルターを作製し、ウイルス含有液またはウイルス様粒子含有液をフィルターで濾過することによりウイルスまたはウイルス様粒子以外の不純物をフィルターに吸着させてもよい。水不溶性無機化合物含有層は、水不溶性無機化合物が支持基材上に堆積しているのみであってもよし、或いは、水不溶性無機化合物含有層を支持基材で上下から挟んでもよい。支持基材層の材質としては、例えば、活性炭;セルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、アガロース、キトサン等の多糖類;ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等の合成ポリマー;および、珪藻土、パーライト、ガラス、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタン酸バリウム等の無機物質から選択される1以上の水不溶性媒体が挙げられる。
【0030】
3.活性炭との接触工程
本工程では、ウイルスまたはウイルス様粒子を含む液体を活性炭に接触させる。本工程は、前述の水不溶性無機化合物との接触工程の前に実施してもよいし、後に実施してもよいし、或いは水不溶性無機化合物と活性炭とを併用して同時に実施してもよい。
【0031】
活性炭とは、木炭やヤシ殻などを焼成して細孔を発達させて多孔質としたものであり、吸着性能に優れたものである。活性炭の一般的な比表面積は、800m2/g以上、2500m2/g以下程度である。
【0032】
活性炭としては、鉱物系活性炭および植物系活性炭が挙げられる。鉱物系活性炭としては、例えば、石炭系活性炭や石油系活性炭が挙げられる。植物系活性炭としては、例えば、木質系活性炭およびやし殻活性炭が挙げられ、好ましくは木質系活性炭が挙げられる。
【0033】
活性炭の原料は、炭素質の物質であれば特に制限されないが、例えば、おが屑、木炭、素灰、草炭、ピート若しくは木材チップ等の木質;ヤシ殻;亜炭、褐炭、無煙炭などの石炭;石油ピッチ;オイルカーボン;レーヨン、アクリロニトリル、フェノール樹脂などの有機化合物が挙げられる。
【0034】
活性炭の製造方法は、特に制限されないが、例えば、原料に塩化亜鉛または燐酸などを高温で添加し、高温で炭化反応させる薬液賦活法や、炭化した原料および水蒸気、二酸化炭素、空気または燃焼ガス等のガスを高温で反応させるガス賦活法が挙げられる。好ましくは、塩化亜鉛賦活化法、燐酸を用いた酸賦活化法、および水蒸気賦活化法などが挙げられる。
【0035】
活性炭の形状は特に制限されないが、例えば、粉砕炭、顆粒炭、球状炭、およびペレット炭などの粒状活性炭;ファイバー、クロス等の繊維状活性炭;シート状、成形体、およびハニカム状などの特殊成形活性炭;および粉末活性炭が挙げられる。
【0036】
プラスまたはマイナスの電荷が付加された活性炭、およびポリヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)、ヘパリン、セルロース、またはポリウレタン等の表面修飾剤で修飾された活性炭も本発明の精製方法に用いられる活性炭に含まれる。更に、ゾル-ゲル法により作製したカーボンゲルも本発明の精製方法に用いられる活性炭に含まれる。ゾル-ゲル法に用いられる原料としては、例えば、フェノール、メラミン、レゾルシノール、またはホルムアルデヒド等が挙げられる。
【0037】
活性炭の平均細孔径は特に限定されないが、通常は0.1nm以上、20nm以下、好ましくは0.5nm以上、5.0nm以下、より好ましくは2.0nm以上、5.0nm以下、より更に好ましくは3.0nm以上、5.0nm以下である。活性炭の平均細孔径は窒素吸着等温吸着曲線よりBJH法を用いて算出することができる。
【0038】
本発明の活性炭を用いる精製方法の手段としては、特に限定されないが、例えば、バッチ法、膜処理法またはカラムクロマトグラフィー法等が挙げられ、それぞれの手段に応じて適切な活性炭の形状が選択される。必要に応じて、多孔性ポリマーまたはゲルに活性炭を封入した粒子等の形態、ポリプロピレンまたはセルロース等のサポート剤または繊維などを用いて活性炭を吸着、固定または成形した膜、またはカードリッジ等の形態にて使用することもできる。
【0039】
活性炭を含む膜またはカードリッジとしては、具体的には、例えば、CUNO(R)活性炭フィルターカードリッジ、ゼータプラス(R)活性炭フィルターカードリッジ(住友スリーエム社製);ミリスタック(R)プラス活性炭フィルター(メルクミリポア社製);スープラAKS1フィルター、AKS1フィルター、Stax(TM) AKS1(以上、Pall社製);アドール(ユニチカ社製);Kフィルター(R)、活性炭シート(以上、東洋紡社製);へマックス(クラレ社製);ヘモソーバ(R)(旭化成メディカル社製);へモカラム(テルモ社製);またはへセルス(帝人社製)等が挙げられるが、これらに限定されない。このうち、木質系の活性炭を含む膜またはカートリッジとしては、例えば、ゼータプラス(R)活性炭フィルターカートリッジ(住友スリーエム社製);スープラAKS1フィルター、AKS1フィルター、またはStax(TM) AKS1(以上、Pall社製)等が挙げられる。
【0040】
用いる活性炭の充填密度、粒度、堅度、乾燥減量、強熱残分、比表面積または細孔容積などは、適宜選択することもできる。
【0041】
活性炭の使用量は、ウイルス含有液またはウイルス様粒子含有液の濃度などにより調整すればよいが、例えば、ウイルス含有液またはウイルス様粒子含有液100mLに対して0.5g以上、5g以下の活性炭を用いればよい。
【0042】
ウイルス含有液またはウイルス様粒子含有液と活性炭との接触方法は、水不溶性無機化合物の場合と同様に、ウイルス含有液またはウイルス様粒子含有液に活性炭を加えて振とうまたは攪拌してもよいし、カラムに活性炭を充填してもよい。本工程と水不溶性無機化合物との接触工程を同時に行う場合には、水不溶性無機化合物と活性炭を混合して用いればよい。
【0043】
4.更なる精製工程
前述の水不溶性無機化合物との接触工程、または水不溶性無機化合物との接触工程および活性炭との接触工程は、1回の実施でウイルスまたはウイルス様粒子が十分に精製されない場合には、2回以上繰り返して実施してもよい。当該繰り返し回数の上限は特に制限されないが、例えば10回以下とすることができ、5回以下が好ましい。また、ウイルスまたはウイルス様粒子が十分に精製されない場合には、水不溶性無機化合物との接触工程、または水不溶性無機化合物との接触工程および活性炭との接触工程に続いて、従来の精製方法を実施してもよい。その場合、本発明に係るこれら工程により不純物濃度が低減され、目的のウイルスまたはウイルス様粒子が濃縮されているため、従来の精製方法への負荷が顕著に低減される。従来の精製方法としては、超遠心法、膜分離、クロマトグラフィーが挙げられ、大量生産の観点からは膜分離およびクロマトグラフィーが好ましい。また、水不溶性無機化合物との接触工程の後に、ウイルスまたはウイルス様粒子を含む液体に含まれる宿主由来の核酸を分解するためにヌクレアーゼ等で処理してもよいが、本発明方法によれば不純物を有効に除去できるため、高価なヌクレアーゼの使用量を低減することができる。
【0044】
クロマトグラフィーとしては、アフィニティークロマトグラフィーやイオン交換クロマトグラフィー等が挙げられ、特にアフィニティークロマトグラフィーが好ましい。アフィニティークロマトグラフィーでは事前に溶出液のpH調整や塩濃度の調整を行う必要がなく、効率的に精製できる。
【0045】
一般的には、細胞培養液に含まれるウイルスの量は少なく、不純物量は多いため、ウイルスまたはウイルス様粒子をクロマトグラフィーで精製する場合には、事前に限外ろ過により不純物を除去したりウイルスまたはウイルス様粒子を濃縮しておくことが行われる。一方、本発明によりウイルスまたはウイルス様粒子を含む液体を水不溶性無機化合物で処理した後は、事前に限外ろ過せずにクロマトグラフィーで精製することも可能である。
【0046】
ウイルスまたはウイルス様粒子が精製された後は、溶媒量を低減してウイルスまたはウイルス様粒子を濃縮したり、溶媒を交換するなどすればよい。
以上の本発明に係る精製方法により、純度がより高いウイルスまたはウイルス様粒子を効率的に製造することが可能になる。
【0047】
本願は、2019年7月4日に出願された日本国特許出願第2019-125243号に基づく優先権の利益を主張するものである。2019年7月4日に出願された日本国特許出願第2019-125243号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0049】
実施例1
(1)アデノ随伴ウイルス(AAV)産生細胞の調製
蛍光タンパク質GFPの改変体であるVENUS(GenBank:ACQ43955.1)を発現するAAV2作製用プラスミドを、AAVベクター作製キット(「AAVpro(R) Helper Free System」タカラバイオ社製)を用いて作製した。
培養したHEK293細胞に、トランスフェクション試薬(「Polyethylenimine MAX」Polysciences社製,MW:40,000)を用いて作製したプラスミドをトランスフェクションし、AAVを産生させた。培養終了後、細胞を剥離し、細胞培養液を回収した。これを遠心分離し、上清を除去し、AAV産生細胞を得た。
【0050】
(2)マグネシウム塩の不純物タンパク質除去能の評価
上記(1)で得たAAV産生細胞を、0.1% Triton
(R) X-100を含むダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(Sigma-Aldrich社製,以下、「PBS」と略記する)に懸濁し、氷中で20分間撹拌し、細胞破砕した。得られた細胞破砕液に、7.5v/v%の1M 塩化マグネシウム水溶液と、0.1v/v%の25KU/mLエンドヌクレアーゼ水溶液(カネカ社製)を添加し、37℃で30分間静置し、細胞由来核酸を分解した。反応後、反応液に対して15v/v%の0.5M EDTA溶液を添加した後、遠心分離し、上清を回収した。得られた上清を前処理液とした。この前処理液に、前処理液に対して100v/v%のPBSと20w/v%の硫酸マグネシウム・七水和物、塩化マグネシウム、または軽質塩基性炭酸マグネシウム(和光純薬工業社製)をそれぞれ添加し、25℃で1時間振とうした。また、対照として、前処理液に添加物を加えることなくPBSで希釈した液も同様に振とうした。振とう後、遠心分離し、上清を回収し、AAV量と総タンパク質量を定量した。なお、AAV濃度は、AAV力価定量用キット(「AAVpro
(R) Titration Kit(for Real Time PCR)Ver.2」タカラバイオ社製)を用いて定量し、総タンパク質濃度は、BSAを標準品として、タンパク質比色アッセイ試薬(「Pierce 660nm Protein Assay Reagent」Thermo Fisher Scientific社製)を用いて定量した。定量結果を表1と
図1に示す。
【0051】
【0052】
表1および
図1に示される結果の通り、水不溶性マグネシウム塩である塩基性炭酸マグネシウムを添加した溶液では、総タンパク質濃度が低い一方でAAV濃度が高かった。かかる結果の通り、不溶性マグネシウム塩により不純物タンパク質が顕著に除去され、かつAAVを損失なく回収できることが明らかとなった。
それに対して、添加剤を添加しなかった対照例と、水溶性マグネシウム塩である硫酸マグネシウム・七水和物と塩化マグネシウムを添加した例では、不純物タンパク質の低減効果は認められず、また、水溶性マグネシウム塩を添加した場合はAAV濃度が低かった。
【0053】
実施例2: 塩基性炭酸マグネシウム添加量の不純物タンパク質除去率への影響評価
実施例1と同様にして前処理液を調製し、100v/v%のPBSを添加した後、各溶液の体積に対して1、5、10、または20w/v%の塩基性炭酸マグネシウムを添加し、AAV量と総タンパク質量を定量した。また、対照として、前処理液に添加物を加えることなくPBSで希釈した液も同様に評価した。結果を表2と
図2に示す。
【0054】
【0055】
表2および
図2に示される結果の通り、溶液に対して1~20w/v%の範囲では、塩基性炭酸マグネシウムの添加量が多いほど総タンパク質濃度が低く、不純物除去効果が高いという結果が得られた。また、塩基性炭酸マグネシウムの添加量が多いほどAAV濃度も低下する傾向も認められたが、10w/v%までであれば添加剤を用いない場合よりも高濃度のAAVが得られた。
【0056】
実施例3: 塩濃度の不純物タンパク質除去率への影響評価
pH7.4のリン酸緩衝液(0.2g/Lリン酸水素二カリウム,2.9g/Lリン酸水素二ナトリウム・十二水和物)と、pH7.4の1M塩化ナトリウム・リン酸緩衝液(0.2g/Lリン酸水素二カリウム,2.9g/Lリン酸水素二ナトリウム・十二水和物,58.4g/L塩化ナトリウム)を調製した。実施例1と同様にして前処理液を調製し、100v/v%のPBSの代わりに上記の2種類のリン酸緩衝液を用いて、塩化ナトリウム濃度が終濃度で68.5mM、137mM、274mM、または548mMになるようにAAV溶液を調製した。この溶液に10質量%の塩基性炭酸マグネシウムを添加し、実施例1と同様にAAV量と総タンパク質量を定量した。また、対照として、塩基性炭酸マグネシウムを添加せず、PBSで希釈した前処理液も同様に試験した。結果を表3と
図3に示す。
【0057】
【0058】
表3および
図3に示される結果の通り、塩化ナトリウム濃度が68.5~548mMの範囲では、塩基性炭酸マグネシウム添加前の塩化ナトリウム濃度が低いほど、総タンパク質濃度が低い傾向があり、不純物除去効果が高かった。一方、AAV濃度には、塩化ナトリウム濃度との相関は無さそうであった。
【0059】
実施例4: 水不溶性無機化合物と活性炭との組み合わせによる不純物除去効果
実施例1と同様にして前処理液を調製し、100v/v%のPBSまたは2質量%の活性炭を含むPBSを添加した後、各溶液の体積に対して10質量%の水不溶性無機化合物を添加し、AAV量と総タンパク質量を定量した。水不溶性無機化合物としては、塩基性炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、または酸化アルミニウムを用いた。また、対照として、水不溶性無機化合物を添加せず、PBSで希釈した前処理液も同様に試験した。結果を表4と
図4に示す。
【0060】
【0061】
表4および
図4に示される結果の通り、塩基性炭酸マグネシウムだけでなく、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、酸化アルミニウムの水不溶性無機化合物にも不純物タンパク質除去効果があった。これらは、いずれも医薬品や医療用に使用されている無機化合物であり、バイオ医薬品の製造での使用に好適である。また、活性炭を組み合わせると更に不純物除去効果が高くなることが分かった。
【0062】
実施例5: 水不溶性無機化合物・活性炭処理によるエンドヌクレアーゼ使用量の削減効果
実施例1(1)で回収したAAV産生細胞を、0.1%Triton
(R) X-100を含むPBSに懸濁し、氷中で20分間撹拌し、細胞を破砕した。得られた細胞破砕液に、75v/v%の1M塩化マグネシウム溶液と、0.1v/v%または0.01v/v%量の250U/mL核酸分解酵素水溶液(「KANEKA Endonuclease」カネカ社製)を添加し、37℃で30分間静置し、細胞由来核酸を分解した。反応後、反応液に対して15v/v%の0.5M EDTA溶液を添加し、前処理液とした。各前処理液について、水不溶性無機化合物の添加無し、または10質量%塩基性炭酸マグネシウムのみ添加、の2条件の処理液を調製し、25℃で1時間振とうした。振とう後、遠心分離して上清を回収した。上清のAAV濃度と総タンパク質濃度を実施例1と同様にして評価した。また、J.Phrama.Biomed.Anal.(2014),100,145-149に記載の方法を参考にして、上清中のHEK293細胞由来の残存DNAを定量した。具体的には、プライマー1:GAGGCGGGCGGATCA(配列番号1)、プライマー2:CCCGGCTAATTTTTGTATTTTTAGTAG(配列番号2)、およびリアルタイムPCR用試薬セット(「Power SYBRTM Green PCR Master Mix」Life Technologies社製)を使用し、QuantStudio3 リアルタイムPCRシステム(Life Technologies社製)で解析した。ヒト由来DNAの標準品として、Human Genomic DNA(GenScript社製)を使用して検量線を作成し、DNA量を定量した。結果を表5と
図5に示す。
【0063】
【0064】
表5および
図5に示される結果の通り、25U/mLの核酸分解酵素を使用した場合と、2.5U/mLの核酸分解酵素を使用し且つ塩基性炭酸マグネシウムを添加した場合は、同程度の宿主由来DNAの残存量であった。かかる結果の通り、水不溶性無機化合物を用いれば、高価な核酸分解酵素の使用量を1/10量に削減しても、宿主由来DNAを効率的に除去できることが分かった。
【0065】
実施例6: ウイルスの粗精製
(1)アデノ随伴ウイルス(AAV)産生細胞の調製
蛍光タンパク質GFPの改変体であるVENUS(GenBank:ACQ43955.1)を発現するAAV作製用プラスミドを、AAVベクター作製キット(「AAVpro(R) Helper Free System」タカラバイオ社製)を用いて作製した。AAVのセロタイプは、同キットのAAV1、AAV2、AAV5またはAAV6のいずれかを用いた。
培養したHEK293細胞に、トランスフェクション試薬(「Polyethylenimine MAX」Polysciences社製,MW:40,000)を用いて、作製したプラスミドをトランスフェクションし、AAVを産生させた。培養終了後、細胞を剥離し、細胞培養液を回収した。
【0066】
(2)核酸分解処理液の調製
上記(1)で得たAAV培養液に、0.1v/v%になるように界面活性剤(「Triton(R) X-100」)を添加し、氷中で20分間撹拌し、細胞溶解した。得られた細胞溶解液に、7.5v/v%の1M 塩化マグネシウム水溶液と、0.1v/v%のエンドヌクレアーゼ(250KU/mL,カネカ社製)を添加し、37℃で30分間静置し、細胞由来核酸を分解した。これを核酸分解処理液とし、AAV量と総タンパク質量を定量した。結果を表6に示す。なお、AAV濃度は、AAV力価定量用キット(「AAVpro(R) Titration Kit(for Real Time PCR)Ver.2」タカラバイオ社製)を用いて定量し、総タンパク質濃度は、牛血清アルブミン(BSA)を標準品として、タンパク質比色アッセイ試薬(「Pierce 660nm Protein Assay Reagent」Thermo Fisher Scientific社製)を用いて定量した。
【0067】
(3)水不溶性マグネシウム化合物による不純物除去
外径12.7cm×全高23.5cmの円筒状ポリエチレン製容器に、軽質塩基性炭酸マグネシウム(和光純薬工業社製,59g)と攪拌子を加えた。更に、上記(2)で得た核酸分解処理液(590g)を加え、室温で1時間攪拌した。なお、核酸分解処理液に対する軽質塩基性炭酸マグネシウムの割合は10w/w%となる。
次いで、上記混合液を、ポリエーテルスルホン製フィルター(「Nalgene Rapid-Flow Sterile Disposable Filter Units」Thermo Scientific社製,孔径:0.2μm)で濾過し、得られた濾液を1次濾液とした。残った濾過残渣にPBS(59mL)を添加して濾過し、得られた濾液を2次濾液とした。1次濾液と2次濾液を混合し、これを前処理液1とし、上記と同様の条件でAAV量と総タンパク質量を定量した。また、核酸分解処理液についても同様にAAV量と総タンパク質量を定量した。結果を表6に示す。
【0068】
【0069】
表6に示される結果の通り、処理前後でAAV量の低下は認められなかった。一方、総タンパク質量は顕著に低下しており、本手法により、細胞由来の不純物タンパク質が簡便に除去できることが確認できた。
また、0.2μmのフィルターにより、目的物であるAAVから、細胞溶解物のみならず、おそらく不純物タンパク質を吸着した塩基性炭酸マグネシウム粒子も分離できることが確認できた。
【0070】
(4)水不溶性無機化合物の粒子径分布測定
実施例6(3)で用いた軽質塩基性炭酸マグネシウムを水に懸濁し、粒子径分布測定装置(「Partica LA-960」堀場製作所社製)を用いて、粒子径分布を湿式法にて評価した。結果を
図6に示す。
その結果、メジアン径は7.9μmであり、体積基準10%径は5.2μmであった。即ち、孔径5μm以下のフィルターを用いれば、上記塩基性炭酸マグネシウムは90%以上分離できると考えられた。実施例6(3)では孔径0.2μmのフィルターでAAVが透過していることから、0.2~5μmのフィルターを用いることで、塩基性炭酸マグネシウム粒子とAAVを分離することが可能である。
【0071】
比較例1: デプスフィルターと限外ろ過膜を用いるウイルスの粗精製
20mM Tris+120mM NaCl水溶液(pH8.0)でデプスフィルター(「Supracap 50 capsule with V100P」PALL社製,有効濾過面積:22cm2,孔径:1~3μm)をリンスした。次いで、実施例1(2)で得た核酸分解処理液(592g)を当該デプスフィルターで濾過し、得られた濾液を一次濾液として回収した。更に、20mM Tris+120mM NaCl水溶液(pH8.0,50mL)をデプスフィルターに送液し、得られた濾液を2次濾液として回収した。得られた1次濾液と2次濾液を混合し、これを清澄化液とした。
ポンプシステム(「AKTA flux S」GEヘルスケア社製)と限外ろ過膜(「Suspended-Screen Ultrafiltration Cassettes with Omegatm Membrane: Centramate」PALL社製,膜面積:0.02m2,公称分画分子量:300K)を用いて、上記清澄化液(647mL)を約50mLまで濃縮した。濃縮液の液量を維持したまま、透析液として、20mM Tris+120mM NaCl+0.005% Tween20+1mM MgCl2水溶液(pH8.1)を濃縮液に対して約8倍量用いて、連続加水により、バッファー交換した。透析終了後、システム内を透析液で洗浄しつつ透析後液を回収した。
透析後液をポリエーテルスルホン製フィルター(「Nalgene Rapid-Flow Sterile Disposable Filter Units」Thermo Scientific社製,孔径:0.2μm)で濾過し、これを前処理液2とした。実施例6(1)と同様にして、前処理液2のAAV量と総タンパク質量を定量した。結果を表7に示す。
【0072】
【0073】
表7に示される結果の通り、デプスフィルターによる濾過前後では、AAV量は変化がないものの、総タンパク質濃度の低下も顕著ではなく、不純物タンパク質の大部分が残存していた。
限外濾過膜による処理前後では、総タンパク質濃度は顕著に低下しており、不純物タンパク質が除去できている一方で、AAV量の低下も認められた。透過液にもAAVが認められたことから、限外濾過膜の孔径が大きく、AAVが透過したと推測された。
以上の結果より、デプスフィルターと限外濾過膜による粗精製では、処理は多段階で操作が煩雑であるのみでなく、総タンパク質量は低減できるものの、AAV回収率まで低くなるリスクがあることが分かった。
【0074】
実施例7: アフィニティークロマトグラフィーによるウイルス精製
実施例6(2)で得た核酸分解処理液を遠心分離し、上清をポリエーテルスルホン製フィルター(「Nalgene Rapid-Flow Sterile Disposable Filter Units」Thermo Scientific社製,孔径:0.2μm)で濾過した。これを前処理なし清澄化液とした。この前処理なし清澄化液から、AAV量が1×1012vgになる液量を分取し、その9倍量の平衡化バッファーを混合し、フィルターを使って濾過した。
得られた濾液を下記条件のアフィニティークロマトグラフィーに付し、AAVを精製した。溶出液中のAAVを定量PCRで定量し、負荷したAAV量に対する回収率を算出した。
<クロマトグラフィー条件>
カラム: Tricron5/50(GEヘルスケア社製)
担体: POROS CaptureSelectAAVX(Thermo Scientific社製),1mL
流速: 0.5mL/min
平衡化buffer: 20mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン-塩酸buffer,0.5M 塩化ナトリウム(pH8.0)
溶出buffer: 0.1M クエン酸buffer(pH2.1)
また、比較のために、実施例1の前処理液1と、比較例1の前処理液2からもAAV量が1×1012vgになる液量を分取し、その9倍量の平衡化バッファーを混合し、フィルターで濾過して得た濾液も同アフィニティークロマトグラフィーに付し、AAV量を定量してAAV回収率を算出した。結果を表8に示す。
【0075】
【0076】
表8の結果より、デプスフィルターと限外ろ過で得られた前処理液(比較例1)や前処理なしの清澄化液(比較例2)に比べて、本実施例による前処理で得られた清澄化液からは、後段のアフィニティークロマトグラフィーによる精製での回収率が高くなることが分かった。
【0077】
実施例8: 水不溶性マグネシウム化合物を用いた処理条件の評価
水不溶性マグネシウム化合物を用いたAAV培養液の処理条件、具体的には、添加量、処理時間、および核酸分解酵素濃度について、表4に示す条件で処理し、AAV回収率、タンパク質除去率、およびDNA除去率を評価した。
実施例6(1)で得たAAV培養液に、0.1v/v%になるように界面活性剤(「Triton
(R) X-100」)を添加し、氷中で20分間撹拌し、細胞を溶解した。得られた細胞溶解液に、7.5v/v%の1M塩化マグネシウム水溶液と、終濃度が50U/mL、5U/mL、または0.5U/mLとなるようにエンドヌクレアーゼ(カネカ社製)を添加し、37℃で30分間静置し、細胞由来核酸を分解した。これを核酸分解処理液とした。各核酸分解処理液20mLに対して、10w/v%、5w/v%、または1w/v%となるように軽質塩基性炭酸マグネシウム(和光純薬工業社製)を添加し、室温で1分間、10分間、または60分間振とう攪拌した。この処理液を、ポリエーテルスルホン製フィルター(「Nalgene Rapid-Flow Sterile Disposable Filter Units」Thermo Scientific社製,孔径:0.2μm)で濾過した。以下、得られた濾液を1次濾液という。残った濾過残渣にPBS(2mL)を添加して濾過した。以下、得られた濾液を2次濾液という。1次濾液と2次濾液を混合した。以下、得られた混合液を前処理液3という。前処理液3のAAV量と総タンパク質量を、実施例6(2)と同様の条件で定量した。また、実施例5と同様の方法で宿主由来の残存DNA量を定量した。
また、対照として、エンドヌクレアーゼ50U/mLで処理した核酸分解処理液を塩基性炭酸マグネシウムで処理せず同様にAAV量、タンパク質量、およびDNA量を定量した。また、対照のAAV量を100%とした場合の各処理液のAAV回収率を算出した。更に、対照のタンパク質量とDNA量について、各除去率を0%とした場合の各処理液のタンパク質除去率とDNA除去率を算出した。結果を表9、
図7、および
図8に示す。
【0078】
【0079】
DNA除去率については、いずれの条件でも84%以上の除去率が示され、添加量、処理時間および核酸分解酵素濃度は、各条件の最低水準でも、効率的にDNAが除去できることが分かった。また、タンパク質濃度は、
図8に示す通り、塩基性炭酸マグネシウム添加量が多いほど、タンパク質除去率が高くなる傾向が見られた。よってタンパク質を効率よく除去するためには、添加量が多い方が好ましいといえる。
【0080】
実施例9: AAVの粒子径の測定
軽質塩基性炭酸マグネシウムで処理した実施例6の前処理液1、デプスフィルターと限外ろ過膜で処理した比較例1の前処理液2、および陽イオン交換クロマトグラフィーと陰イオン交換クロマトグラフィーにより精製した精製AAV液について、粒子径・分子サイズ測定装置(「ゼータサイザーNanoZS」Malvern社製)を用いて、粒子径分布を測定した。結果を表10と
図9に示す。
【0081】
【0082】
粒子径分布の測定の結果、精製AAVでは30nm付近にAAVと推定されるピークが確認された。また、前処理液1にも同程度のサイズのピークが確認された。本結果より、塩基性炭酸マグネシウムによる不純物除去でAAVが同程度のサイズの粒子に精製されると推測された。一方、前処理液2では40nm付近にAAVと推測されるピークが認められた。精製AAVに比べて粒子径が大きいのは、宿主由来タンパク質やDNAがAAV粒子に付着しており、大きい粒子として観察されているためだと推測される。
また、実施例7で、前処理液2に比べて前処理液1からのアフィニティークロマトグラフィーによる精製収率が高かったのは、不純物が付着していないAAVは粒子サイズが小さいため、ビーズ担体のポアにAAVや不純物が詰まりにくいことに起因すると考えられた。
【0083】
実施例10: 精製されたウイルスの感染価の評価
実施例6(3)で軽質塩基性炭酸マグネシウムにより処理した前処理液1と、デプスフィルターと限外ろ過膜で処理した比較例1の前処理液2に含まれるAAVの感染価を評価した。
具体的には、前処理液1または前処理液2をアフィニティークロマトグラフィーに付して、AAVを精製した。HEK293細胞を培養し、高純度コラーゲン酸性溶液(「AteloCell」(高研社製)でコーティングした96wellプレートに4×104cells/wellで播種した。37℃で一晩培養し、細胞をコーティングプレートに接着させた。前処理液1または前処理液2から精製したAAVをダルベッコ改変イーグル培地(DMEM,Thermo Fisher Scientific社製)で希釈し、培地を除去して各AAV希釈液で置き換え、37℃で培養した。この際のMOI(Multiplicity Of Infection)は10000であり、それぞれ3例ずつ実施した。培養後、AAVが感染したHEK293細胞が生産する蛍光タンパク質Venusの蛍光強度を、Cytation1細胞イメージング・マルチモードリーダー(BioTek社製)を使って定量した(励起波長485nm,蛍光波長528nm)。
その結果、前処理後液1から精製したAAVを感染させた場合は蛍光強度が98392±6247であり、前処理後液2から精製した場合は72580±23300であった。この様に、蛍光強度に有意な差はなく、本発明方法により精製したAAVは、従来方法で精製したAAVと同様の感染価を示すことが確認できた。
【0084】
実施例11: 各種セロタイプのAAV培養液を用いた不純物除去
実施例6に記載の方法で、AAV1、AAV2、AAV5、AAV6の細胞溶解液を得た。各細胞溶解液5mLに、塩基性炭酸マグネシウムを50mg添加し、室温で1時間、振とうした。対照として、添加物なしの各細胞溶解液も同条件で振とうした。遠心分離で上清を回収し、回収液のAAV濃度、タンパク質濃度、宿主由来DNA濃度を定量した。結果を表11に示す。
【0085】
【0086】
表11に示される結果の通り、いずれのセロタイプを使用した場合でも、水不溶性無機化合物を用いることによって、タンパク質と宿主由来DNAを効率的に除去できることが分かった。本結果より、本発明方法は、AAVのセロタイプに関係なく、広く適用可能であると言える。
【0087】
実施例12
実施例6と同様の方法で細胞破砕液を調製し、エンドヌクレアーゼ(250kU/mL,カネカ社製)を終濃度5U/mLになるように添加して、37℃で30分間静置し、細胞由来核酸を分解した。得られた核酸分解処理液(260g)と軽質塩基性炭酸マグネシウム(和光純薬工業社製,2.6g)を混合し、室温で10分間攪拌した。なお、核酸分解処理液に対する軽質塩基性炭酸マグネシウムの割合は1w/w%となる。
次いで、上記混合液を、ポリエーテルスルホン製フィルター(「Nalgene Rapid-Flow Sterile Disposable Filter Units」Thermo Scientific社製,孔径:0.2μm)で濾過し、得られた濾液を1次濾液とした。残った濾過残渣にPBS(26mL)を添加して濾過し、得られた濾液を2次濾液とした。1次濾液と2次濾液を混合し、これを前処理液3とし、AAV量、総タンパク質量、および残存DNA濃度を定量した。
また、軽質塩基性炭酸マグネシウム(和光純薬工業社製,26g)と核酸分解処理液(264g)を混合し、室温で10分間攪拌した。同様に前処理液4を得、AAV量、総タンパク質量、および残存DNA濃度を定量した。なお、核酸分解処理液に対する軽質塩基性炭酸マグネシウムの割合は10w/w%となる。結果を表12と表13に示す。
【0088】
【0089】
【0090】
比較例2
実施例6と同様の方法で細胞破砕液を調製し、エンドヌクレアーゼ(250kU/mL,カネカ社製)を終濃度50U/mLになるように添加して、37℃で30分間静置し、細胞由来核酸を分解した。この核酸分解後液532gを比較例1と同様の方法でろ過し、清澄化液を得た。さらに、ポンプシステム(「AKTA flux S」GEヘルスケア社製)と限外ろ過膜(「Suspended-Screen Ultrafiltration Cassettes with Omegatm Membrane: Centramate」PALL社製,膜面積:0.02m2,公称分画分子量:100K)を用いて、比較例2と同様に、濃縮とバッファー交換を行った。これを前処理液5とし、AAV量、総タンパク質量、および残存DNA濃度を定量した。結果を表14に示す。
【0091】
【0092】
表12~14の結果より、軽質塩基性炭酸マグネシウムを用いた不純物除去法(前処理液3と前処理液4)では、エンドヌクレアーゼ量を1/10量にしても、前処理液5と同程度まで残存DNA量を低減できることが明らかとなった。
【0093】
実施例13
実施例12と比較例2で得られた前処理液から、実施例7と同様の方法でAAVをアフィニティークロマトグラフィーで精製した(溶出bufferは0.1Mクエン酸+0.5M NaCl(pH2.1))。
精製されたAAVの感染価を測定した。HEK293細胞を培養し、細胞培養用コラーゲン(「AteloCell」高研社製)でコーティングした96wellプレートに4×10
4cells/wellで播種した。37℃で一晩培養し、細胞をコーティングプレートに接着させた。精製AAVをDMEM(Thermo Fisher Scientific社製)で希釈し、培地を除去して希釈AAVで置き換え、37℃で培養した。この際のMOI(Multiplicity Of Infection)は10000であり、それぞれ3例ずつ実施した。培養後、AAVが感染したHEK293細胞が生産する蛍光タンパク質Venusの蛍光強度を、Cytation1細胞イメージング・マルチモードリーダー(BioTek社製)にて定量した(励起波長485nm,蛍光波長528nm)。
また、超遠心法で精製したAAVについても感染価を対照として評価した。結果を表15と
図10に示す。
【0094】
【0095】
実施例12で得られた前処理液をアフィニティークロマトグラフィーに付して精製したAAVを細胞に感染させた場合、超遠心法で精製したAAVを感染させた場合と蛍光強度に大きな差はなく、感染価は同程度であった。
一方、比較例2で得られた前処理液をアフィニティークロマトグラフィーに付して精製したAAVは、超遠心法で精製したAAVよりも蛍光強度が低く、感染価が低いと推測された。
以上の結果より、軽質塩基性炭酸マグネシウムを用いた不純物除去法はAAVの感染価に与える影響が小さいことが明らかとなった。
【0096】
実施例14: レンチウイルスの培養液からの不純物除去
(1)レンチウイルス細胞培養上清の調製
培養したLenti―X293T細胞(タカラバイオ社製)を、細胞培養用コラーゲン(「AteloCell」高研社製)でコーティングした6wellプレートに、1.5―1.8×106cells/wellになるように播種した。37℃で24時間インキュベートした。トランスファープラスミドCS VI-CMV-Venus(参考文献:WO2018/088519)及びパッケージングプラスミド(「3rd Generation pLenti Combo Mix」Applied Biological社製)を、リポフェクタミンを用いてトランスフェクションし、37℃で6時間インキュベートした。その後、培地交換し、37℃で72時間培養し、レンチウイルスを産生させた。培養上清を回収し、孔径0.8μmのシリンジフィルターでろ過して細胞を除去し、レンチウイルスを含む培養上清を回収した。
【0097】
(2)レンチウイルスの培養液からの不純物除去
培養上清5mLに塩基性炭酸マグネシウムを50mgまたは500mg添加し、室温で1分または、1時間、振とうした。対照として、添加物なしの各細胞溶解液も同条件で振とうした。遠心分離で、上清を回収し、回収液中のレンチウイルス量を簡易レンチウイルス量測定試薬(「Lenti―X GoStix Plus」タカラバイオ社製)で評価した。また、実施例1と同様の方法でタンパク質濃度を定量した。さらに、回収液を18,000rpm、4℃で2時間遠心分離し、レンチウイルスを沈殿させた。上清を除去後、遠心した回収液の1/10量のPBSでレンチウイルスを懸濁し、これをウイルス濃縮液とし、タンパク質濃度を測定した。結果を表16に示す。
【0098】
【0099】
各回収液のレンチウイルス量を簡易レンチウイルス量測定試薬で評価したところ、いずれの回収液も、レンチウイルスのバンドがあり、回収できていることが確認できた。目視ではバンド強度に差異は認められなかったことから、同程度量のレンチウイルスを回収できていると判断された。また、回収液とウイルス濃縮液のタンパク質濃度を評価したところ、表16に示される結果の通り、塩基性炭酸マグネシウムを添加したサンプルではタンパク質濃度が低かった。
以上の結果より、塩基性炭酸マグネシウムを用いた本発明に係る不純物除去法は、レンチウイルスのようなエンベロープウイルスにも利用できることが明らかとなった。
【配列表】