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特許7576547CAR発現免疫細胞を含む細胞集団の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】CAR発現免疫細胞を含む細胞集団の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20241024BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20241024BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/85 Z
A61K35/17
A61P35/00
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021535434
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2020029308
(87)【国際公開番号】W WO2021020526
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/029942
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】304058240
【氏名又は名称】ブライトパス・バイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】中沢 洋三
(72)【発明者】
【氏名】柳生 茂希
(72)【発明者】
【氏名】田中 美幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 加世子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 聖裕
(72)【発明者】
【氏名】近藤 真
(72)【発明者】
【氏名】重浦 智邦
(72)【発明者】
【氏名】廣田 彰吾
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-535284(JP,A)
【文献】国際公開第2017/061615(WO,A1)
【文献】特表2018-531014(JP,A)
【文献】特表2018-532432(JP,A)
【文献】特表2013-529061(JP,A)
【文献】中沢 洋三,キメラ抗原受容体(CAR)遺伝子改変T細胞療法,がん分子標的治療,2015年,Vol. 13, No. 4,pp.473-479
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ抗原受容体(CAR)を発現する免疫細胞を含む細胞集団の製造方法であって、CAR遺伝子が導入されたCAR発現免疫細胞と、前記CARの標的抗原を発現するよう操作された標的抗原発現細胞とを共培養することを含み、標的抗原発現細胞がPBMCに対する遺伝子導入により調製された細胞である、方法。
【請求項2】
免疫細胞が、リンパ球である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
免疫細胞が、T細胞である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
標的抗原が、HER2またはEPHB4である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
CAR発現免疫細胞が、末梢血単核細胞(PBMC)に対する遺伝子導入により調製された細胞である、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
CAR発現免疫細胞を調製することをさらに含む、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
PBMCに対する遺伝子導入によりCAR発現免疫細胞を調製する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
CAR発現免疫細胞の調製が、piggyBacトランスポゾン法により行われる、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
標的抗原発現細胞が、標的抗原遺伝子が導入された細胞である、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
標的抗原発現細胞が、1種以上の共刺激因子の遺伝子が導入された細胞である、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
遺伝子導入が、標的抗原遺伝子の導入を含む、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
PBMCに対する遺伝子導入により標的抗原発現細胞を調製することをさらに含む、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
遺伝子導入が、標的抗原遺伝子の導入を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
1種以上の共刺激因子が、CD40、CD80、4-1BBL、およびOX40Lから選択される、請求項10~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
標的抗原発現細胞がHLA遺伝子を導入された細胞でない、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれかに記載の方法により製造される、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する免疫細胞を含む細胞集団。
【請求項17】
請求項16に記載の細胞集団を含む、がんを治療するための組成物。
【請求項18】
がんが、固形腫瘍である、請求項17に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する免疫細胞を含む細胞集団およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がん患者への免疫療法の一つとして、細胞傷害性T細胞(CTL)がもつT細胞受容体(TCR)に対して遺伝子改変を加え、直接的かつ選択的に腫瘍細胞をCTLに認識させ、抗腫瘍効果を発揮するというキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor; CAR)T細胞による治療が近年開発され(非特許文献1)、難治性腫瘍に対する極めて有望な治療法として注目されている。CARは、腫瘍抗原を特異的に認識するたんぱく質、例えば抗体可変領域を一本鎖のアミノ酸配列に改変した、一本鎖抗体(scFv)をN末端側に、T細胞受容体ζ鎖をC末端側に持つたんぱく質の総称である。CARを発現するT細胞は、細胞外ドメインで腫瘍抗原を認識したあと、そのシグナルを引き続きのζ鎖を通じてT細胞内に伝達し、T細胞を活性化させ、パーフォリン、グランザイムなどの殺細胞性因子を放出させることで抗腫瘍効果を発揮する(非特許文献1)。
【0003】
CAR-T細胞を用いたがん治療は、一部の腫瘍に対しては既に日欧米で承認を取得して実用化されている。血液腫瘍領域では、CD19陽性Bリンパ球系腫瘍を対象とした第3相臨床試験が行われ、再発急性リンパ性白血病患者に対して、患者よりあらかじめT細胞を採取した上でCD19特異的CARを遺伝子導入し、培養、増殖させた上で患者体内に輸注され、投与を受けた5例全例で骨髄での分子生物学的寛解が得られたと報告された(非特許文献2)。この報告を受け、欧米ではCD19陽性急性リンパ性白血病、リンパ腫に対して、Tisagen lecleucel(製品名:Kymriah(登録商標))、Axicabtagene ciloleucel(製品名:Yescarta(登録商標))の2剤が承認取得、上市され、現在まで治癒が困難であった難治性CD19陽性リンパ性白血病やリンパ腫のブレークスルー治療として大きく注目されている。
【0004】
臨床応用されているCAR-T細胞製剤のほとんどは、γレトロウイルスによる遺伝子改変法で作製されている。ウイルス遺伝子改変による細胞製剤は、GMPグレードでのウイルス産生、最終産物のウイルス残留試験、国によってはカルタヘナ第1種規制に準拠した製造の実施など、極めて煩雑な工程を経て製造されている。
【0005】
CAR-T細胞を製造する方法としては、ウイルスベクターを利用した従来の方法に加え、非ウイルスベクターを用いた遺伝子改変技術も利用されている(特許文献1および2)。例えば、piggyBacというトランスポゾンを活用した、γレトロウイルスを用いない遺伝子導入技術(以下「piggyBacトランスポゾン法」という)に着目し、非ウイルス遺伝子改変型のCAR-T細胞療法の研究開発も行われている。非ウイルス遺伝子改変技術によるCAR-T細胞製造は、遺伝子導入にウイルスを使わないため、安全かつ簡便なCAR-T細胞製造法である。発明者の一員である中沢らが以前に開発した、非ウイルス遺伝子改変CAR-T細胞培養法(特許文献2)のACE法は、非ウイルス遺伝子改変法の先駆けであり、ウイルスベクターを用いた製造方法の問題点を克服した方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-221211号
【文献】国際公開第2017/061615号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Eshhar Z, Waks T, Gross G, Schindler DG. Specific activation and targeting of cytotoxic lymphocytes through chimeric single chains consisting of antibody-binding domains and the gamma or zeta subunits of the immunoglobulin and T-cell receptors. Proc Natl Acad Sci U S A. 1993;90:720-724.
【文献】Brentjens RJ, Davila ML, Riviere I, Park J, Wang X, Cowell LG, Bartido S, Stefanski J, Taylor C, Olszewska M, Borquez-Ojeda O, Qu J, Wasielewska T, He Q, Bernal Y, Rijo IV, Hedvat C, Kobos R, Curran K, Steinherz P, Jurcic J, Rosenblat T, Maslak P, Frattini M, Sadelain M. CD19-targeted T cells rapidly induce molecular remissions in adults with chemotherapy-refractory acute lymphoblastic leukemia. Sci Transl Med. 2013;5:177ra38.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のCAR-T細胞の製造方法は、CD19等の血液腫瘍の標的分子については、臨床で利用可能な質および量のCAR-T細胞を得ることができるが、固形腫瘍の標的分子については、臨床で必要な量の細胞を得ることが困難であった。また、長期培養や共刺激因子による強制的な活性化等により患者へ投与するために必要な細胞数を確保しようとすると、細胞傷害活性が低くかつ疲弊しやすいT細胞に形質が変化してしまい、臨床応用可能な十分な量と質のCAR-T細胞を安定的に製造することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、CAR-T細胞等のCARを導入した免疫細胞を、別途用意したCARの標的抗原を発現する標的抗原発現細胞と共培養することによって、遺伝子導入効率や細胞増殖率が向上するだけでなく、細胞傷害活性が高く、疲弊しにくい免疫細胞を安定的に培養し得ることを見出した。
【0010】
すなわち、本開示は、ある態様において、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する免疫細胞を含む細胞集団の製造方法であって、CAR遺伝子が導入されたCAR発現免疫細胞と、前記CARの標的抗原を発現するよう操作された正常な血液細胞である標的抗原発現細胞とを共培養することを含む方法を提供する。
【0011】
本開示は、さらなる態様において、前記方法により製造される、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する免疫細胞を含む細胞集団を提供する。
【0012】
本開示は、さらなる態様において、前記細胞集団を含むがんを治療するための組成物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、CARを発現する免疫細胞の製造効率を高めることができ、細胞傷害活性の高いCAR-T細胞を安定的に製造することができる。特に、固形腫瘍を対象としたCAR発現免疫細胞の製造効率を飛躍的に向上させることができるため、様々ながん種に対してCAR-T細胞療法を応用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例のセクションで使用したCAR遺伝子発現ベクターおよびトランスポザーゼ発現ベクターを示す。
図2図2は、実施例のセクションで使用した標的抗原発現ベクターを示す。
図3図3は、実施例のセクションで使用した標的抗原発現ベクターを示す。
図4図4は、HER2および共刺激因子(CD80 + 4-1BBL、CD80、または4-1BBL)を発現する標的抗原発現細胞と共培養したHER2-CAR発現T細胞における、HER2-CAR、CD3、PD-1、CCR7およびCD45RAの発現をフローサイトメトリーにより解析した結果を示す。
図5図5は、HER2および共刺激因子(CD40 + OX40L、CD40、またはOX40L)を発現する標的抗原発現細胞と共培養したHER2-CAR発現T細胞における、HER2-CAR、CD3、PD-1、CCR7およびCD45RAの発現をフローサイトメトリーにより解析した結果を示す。
図6図6は、HER2-CAR発現T細胞による、HER発現U2OS細胞を標的としたキリングアッセイ(1回目)の結果を示す。
図7図7は、HER2-CAR発現T細胞による、HER発現U2OS細胞を標的としたキリングアッセイ(2回目)の結果を示す。
図8図8は、実施例5のHER2-CAR発現T細胞、実施例6のCD19-CAR発現T細胞、および比較例8のHER2-CAR発現T細胞による、HER発現U2OS細胞を標的としたキリングアッセイの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
特に具体的な定めのない限り、本開示で使用される用語は、有機化学、医学、薬学、分子生物学、微生物学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本開示で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本開示において、一般的な理解に優先する。
【0016】
本開示では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。例えば、「約20」は、「18~22」を含むものとする。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば、「約20~30」は、「18~33」を含むものとする。
【0017】
本開示において、配列同一性とは、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド間の配列の一致の程度を意味し、比較対象の配列の領域にわたって最適な状態(アミノ酸またはヌクレオチドの一致が最大となる状態)にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。配列同一性の数値(%)は両方の配列に存在する同一のアミノ酸またはヌクレオチドを決定して、適合部位の数を決定し、次いでこの適合部位の数を比較対象の配列領域内のアミノ酸またはヌクレオチドの総数で割り、得られた数値に100をかけることにより算出される。最適なアラインメントおよび配列同一性を得るためのアルゴリズムとしては、当業者が通常利用可能な種々のアルゴリズム(例えば、BLASTアルゴリズム、FASTAアルゴリズムなど)が挙げられる。配列同一性は、例えばBLAST、FASTAなどの配列解析ソフトウェアを用いて決定され得る。
【0018】
キメラ抗原受容体
キメラ抗原受容体(本明細書中、CARとも記載する)は、たんぱく質のN末端側からC末端側に向けて、標的に特異的な細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および免疫細胞のエフェクター機能のための細胞内シグナルドメインを含む構造体であり、CAR遺伝子は、この受容体をコードする遺伝子である。以下、各ドメインについて説明する。
【0019】
(a)細胞外ドメイン
細胞外ドメインは、標的に特異的な結合性を示す抗原認識部位を含む。例えば、細胞外ドメインは、抗標的モノクローナル抗体のscFv断片(例えば、配列番号1または2のアミノ酸配列からなる、または国際公開第2017/061615号、中国特許出願公開第107164338号、国際公開第2016/123143号、国際公開第2016/023253号、または特開2018-198601号に記載される)、または標的が受容体の場合における受容体に結合するリガンド(例えば、配列番号3のアミノ酸配列からなる、または国際公開第2018/110374号または国際公開第2018/052142号に記載される)を含む。ここでのモノクローナル抗体として、例えば、齧歯類(マウス、ラット、ウサギなど)の抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体等が用いられる。ヒト化モノクローナル抗体は、他の動物種(例えばマウスやラット)のモノクローナル抗体の構造をヒトの抗体の構造に類似させた抗体であり、抗体の定常領域のみをヒト抗体のものに置換したヒト型キメラ抗体、および定常領域および可変領域に存在するCDR(相補性決定領域)以外の部分をヒト抗体のものに置換したヒト型CDR移植(CDR-grafted)抗体(P.T.Johons et al., Nature 321, 522, 1986)を含む。ヒト型CDR移植抗体の抗原結合活性を高めるため、マウス抗体と相同性の高いヒト抗体フレームワーク(FR)を選択する方法、マウス抗体と相同性の高いヒト化抗体を作製する方法、ヒト抗体にマウスCDRを移植した後さらにFR領域のアミノ酸を置換する方法の改良技術もすでに開発され(米国特許第5585089号、米国特許第5693761号、米国特許第5693762号、米国特許第6180370号、欧州特許第451216号、欧州特許第682040号、特許第2828340号などを参照)、ヒト化抗体の作製に利用することもできる。
【0020】
scFv断片とは、免疫グロブリンの軽鎖可変領域(VL)と重鎖可変領域(VH)がリンカーを介して連結された構造体であり、抗原との結合能を保持している。リンカーとしては、例えばペプチドリンカーを用いることができる。ペプチドリンカーとは、直鎖状にアミノ酸が連結したペプチドからなるリンカーである。ペプチドリンカーとしては、グリシンおよび/またはセリンから構成されるリンカー(例えば、GGSリンカーまたはGSリンカー)が挙げられる。グリシンおよびセリンは、それ自体のサイズが小さく、リンカー内で高次構造が形成されにくい。リンカーの長さは特に限定されない。例えば、アミノ酸残基数が5~25個のリンカーを用いることができる。リンカーの長さは好ましくは8~25、更に好ましくは15~20である。
【0021】
標的抗原は、腫瘍以外の細胞に比較して腫瘍細胞において有意ないし顕著に発現が認められる抗原でありうる。標的抗原としては、例えば、腫瘍関連抗原または腫瘍特異的抗原、例えば、EPHB4、HER2、EPHA2、EPHB2、EGFR、GD2、Glypican-3、5T4、8H9、αvβ6インテグリン、B細胞成熟抗原(BCMA)、B7-H3、B7-H6、CAIX、CA9、CD19、CD20、CD22、κ軽鎖、CD30、CD33、CD38、CD44、CD44v6、CD44v7/8、CD70、CD116、CD123、CD138、CD171、CEA、CSPG4、EGFR、EGFRvIII、EGP2、EGP40、EPCAM、ERBB3、ERBB4、FAP、FAR、FBP、胎児AchR、葉酸受容体α、GD3、HLA-AI MAGE A1、HLA-A2、IL11Ra、IL13Ra2、KDR、ラムダ、ルイスY、MCSP、メソセリン、MUC1、MUC4、MUC6、NCAM、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、PRAME、PSCA、PSC1、PSMA、ROR1、Sp17、SURVIVIN、TAG72、TEM1、TEM8、VEGF receptor 2、がん胎児性抗原、HMW-MAA、VEGF受容体、フィブロネクチン、テネイシン、または腫瘍の壊死領域のがん胎児性抗原(CEA)のような細胞外マトリックスに存在する抗原、またはゲノム解析および/または腫瘍の示差的発現研究などによって同定された突然変異を含むタンパク質などを挙げることができる。
【0022】
標的抗原が受容体である場合、scFvの変わりに、受容体に対するリガンドを抗原認識部位とすることもできる。例えば、EPHB4受容体の自然リガンドであるEFNB2タンパク質の細胞外ドメインやGM-CSF受容体に対するリガンドであるGM-CSFの他、EGFRに対するAdnectin、IL11Raに対するIL-11、IL13Ra2に対するIL-13、FSHRに対するFSH、ERBB2ファミリーに対するT1E、CD70に対するCD27、Nectin-2に対するDNAM-1、MICAやMICB対するNKG2D、Gal3に対するNKp30等が挙げられる。
【0023】
本開示の製造方法は、血液細胞に発現する抗原のみならず、発現していない抗原に対しても、十分な量と質のCAR発現免疫細胞を得ることができ、固形腫瘍に対する標的抗原に特に好適に用いることができる。かかる標的抗原としては、例えば、EPHB4、HER2、EPHA2、EPHB2、EGFR、GD2、Glypican-3、5T4、MUC1、MUC4、MUC6、NCAM、EGFR、EGFRvIII、ERBB3、ERBB4、NY-ESO-1、PSCA、PSC1、PSMA、VEGFR receptor 2、がん胎児性抗原、HMW-MAA、VEGF受容体等が挙げられる。
【0024】
細胞外ドメインは、CARの細胞表面への移行を促すためのリーダー配列(シグナルペプチド)を含んでもよい。リーダー配列としては、例えば、GM-CSFレセプターのリーダー配列を用いることができる。
【0025】
ある実施形態において、細胞外ドメインは、配列番号1~3のいずれかのアミノ酸配列、好ましくは配列番号1のアミノ酸配列と、90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。さらなる実施形態において、細胞外ドメインは、配列番号1~3のいずれかのアミノ酸配列、好ましくは配列番号1のアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。
【0026】
(b)膜貫通ドメイン
膜貫通ドメインは、細胞外ドメインと細胞内シグナルドメインとの間に存在する。膜貫通ドメインとしては、CD8、T細胞受容体のα鎖またはβ鎖、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、GITR、4-1BBなどの膜貫通ドメインを用いることができる。人工的に構築したポリペプチドからなる膜貫通ドメインを用いることにしてもよい。好適には、膜貫通ドメインは、CD28の膜貫通ドメイン(例えば、配列番号7または8のアミノ酸配列からなる)である。
【0027】
ある実施形態において、膜貫通ドメインは、配列番号7または8のいずれかのアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。さらなる実施形態において、膜貫通ドメインは、配列番号7または8のいずれかのアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。
【0028】
(c)細胞内シグナルドメイン
細胞内シグナルドメインは、免疫細胞のエフェクター機能の発揮に必要なシグナルを伝達する。即ち、細胞外ドメインが標的抗原と結合した際、免疫細胞の活性化に必要なシグナルを伝達することが可能な細胞内シグナルドメインが用いられる。細胞内シグナルドメインは、TCR複合体を介したシグナルを伝達するためのドメイン(便宜上、「第1ドメイン」と呼ぶ)を含み、さらに共刺激シグナルを伝達するためのドメイン(便宜上、「第2ドメイン」と呼ぶ)を含んでもよい。これらのドメインとしては、CD2、CD4、CD5、CD28、CD134、4-1BB(CD137)、GITR、CD27、OX40、HVEM、CD3ζ、FcεRIγ、OX-40またはICOS等のドメインが上げられる。第1ドメインは、好ましくは、CD3ζまたはFcεRIγのドメインであり、より好ましくは、CD3ζのドメイン(例えば、配列番号9のアミノ酸配列からなる)である。第2ドメインは、好ましくは、CD28、4-1BB(CD137)、CD2、CD4、CD5、CD134、OX-40またはICOSのドメインであり、より好ましくは、CD28または4-1BBのドメインである。第1ドメインおよび第2ドメインはそれぞれ、同一または異種の複数のドメインをタンデム状に連結して構成したものであってもよい。
【0029】
細胞内シグナルドメインが第1ドメインと第2ドメインとを含む場合、第1ドメインと第2ドメインとの連結態様は特に限定されないが、CD3ζを遠位につないだ場合に共刺激が強く伝わった事例が知られていることから、好ましくは、膜貫通ドメイン側に第2ドメインを配置する。第1ドメインと第2ドメインとは、直接連結しても、リンカーにより連結してもよい。リンカーとしては、例えばペプチドリンカーを用いることができる。ペプチドリンカーとは、直鎖状にアミノ酸が連結したペプチドからなるリンカーであり、その構造および特徴は前述の通りである。第1ドメインと第2ドメインとを連結するリンカーとしては、グリシンのみから構成されるリンカーを用いてもよい。リンカーの長さは特に限定されない。例えば、アミノ酸残基数が2~15個のリンカーを用いることができる。
【0030】
ある実施形態において、細胞内シグナルドメインは、配列番号9のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。さらなる実施形態において、細胞外ドメインは、配列番号9のアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。
【0031】
(d)その他の要素
細胞外ドメインと膜貫通ドメインとは、スペーサードメインを介して連結されていてもよい。スペーサードメインは、CARと標的抗原との結合を促進させるために用いられる。スペーサードメインとしては、抗体のFcフラグメントまたはそのフラグメントもしくは誘導体、抗体のヒンジ領域またはそのフラグメントもしくは誘導体、抗体のCH2領域、抗体のCH3領域、人工スペーサー配列、またはこれらの組み合わせ(例えば、配列番号4~6のいずれかのアミノ酸配列からなる)を用いることができる。例えば、ヒトIgG(例えばヒトIgG1、ヒトIgG4)のFc断片をスペーサードメインとして用いることができる。その他、CD28の細胞外ドメインの一部やCD8αの細胞外ドメインの一部等をスペーサードメインとして用いることもできる。膜貫通ドメインと細胞内シグナルドメインとの間にもスペーサードメインを設けることもできる。
【0032】
ある実施形態において、スペーサードメインは、配列番号4~6のいずれかのアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。さらなる実施形態において、スペーサードメインは、配列番号4~6のいずれかのアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。
【0033】
CAR発現ベクター
本開示において、CAR発現免疫細胞は、CAR発現ベクターによりCAR遺伝子を免疫細胞に導入することにより調製される。CAR発現ベクターとは、CAR遺伝子をコードする核酸分子を免疫細胞内へ輸送することができる核酸性分子を意味し、DNAであるかRNAであるかを問わず、また、形態、由来なども特に限定されず、様々な種類のベクターが利用可能である。ベクターは、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターでありうる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、センダイウイルスベクター等が挙げられる。この中でもレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、およびアデノ随伴ウイルスベクターでは、ベクターに組み込んだ目的遺伝子が宿主染色体へと組み込まれ、安定かつ長期的な発現が期待できる。各ウイルスベクターは、常法に従い、または市販される専用のキットを用いて、作製することができる。非ウイルスベクターとしては、プラスミドベクター、リポソームベクター、正電荷型リポソームベクター(Felgner, P.L., Gadek, T.R., Holm, M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 84:7413-7417, 1987)、YACベクター、BACベクター等が挙げられる。
【0034】
CAR発現ベクターは、CAR遺伝子を発現するための発現ユニットを含み、当該発現ユニットは、通常、プロモーターと、CAR遺伝子と、ポリA付加シグナルとを含む。CAR発現カセットに利用可能なプロモーターとしては、CMV-IE(サイトメガロウイルス初期遺伝子由来プロモーター)、SV40ori、レトロウイルスLTRSRα、EF1α、βアクチンプロモーター等が挙げられる。ポリA付加シグナル配列としては、SV40のポリA付加配列、ウシ由来成長ホルモン遺伝子のポリA付加配列、グロブリンポリA付加配列等が挙げられる。プロモーターによってCAR遺伝子の発現が制御されるように、通常、プロモーターの3'末端側に直接、または他の配列を介して、CAR遺伝子が連結され、CAR遺伝子の下流にポリA付加シグナル配列が配置される。このような発現ユニットによりCAR遺伝子がメッセンジャーRNA(mRNA)に転写され、当該mRNAからCARが翻訳され、細胞表面に提示される。
【0035】
発現ユニット内には、遺伝子発現を検出できるようにするための検出用遺伝子(レポーター遺伝子、細胞または組織特異的な遺伝子、選択マーカー遺伝子など)、発現効率の向上のためのエンハンサー配列、WRPE配列等を含めてもよい。
【0036】
検出用遺伝子は、CAR発現ベクターの導入の成否や効率の判定、CAR遺伝子の発現の検出または発現効率の判定、CAR遺伝子が発現した細胞の選択や分取等に利用される。検出用遺伝子としては、ネオマイシンに対する耐性を付与するneo遺伝子、カナマイシン等に対する耐性を付与するnpt遺伝子(Herrera Estrella, EMBO J. 2(1983), 987-995)およびnptII遺伝子(Messing & Vierra, Gene 1 9:259-268(1982))、ハイグロマイシンに対する耐性を付与するhph遺伝子(Blochinger & Diggl mann,Mol Cell Bio 4:2929-2931)、メタトレキセートに対する耐性を付与するdhfr遺伝子(Bourouis et al., EMBO J.2(7))等(以上、マーカー遺伝子);ルシフェラーゼ遺伝子(Giacomin, P1. Sci. 116(1996), 59-72;Scikantha, J. Bact. 178(1996), 121)、β-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、GFP(Gerdes, FEBS Lett. 389(1996), 44-47)またはその改変体(EGFPやd2EGFPなど)等の蛍光タンパク質の遺伝子(以上、レポーター遺伝子);細胞内ドメインを欠く上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子等の遺伝子を用いることができる。検出用遺伝子は、例えば、バイシストロニック性制御配列(例えば、リボソーム内部認識配列(IRES))や自己開裂ペプチドをコードする配列を介してCAR遺伝子に連結していてもよい。自己開裂ペプチドとしては、Thosea asigna virus由来の2Aペプチド(T2A)が挙げられる。他の自己開裂ペプチドとしては、ピコルナウイルス由来の2Aペプチド(F2A)、蹄疫ウイルス(FMDV)由来の2Aペプチド(F2A)、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)由来の2Aペプチド(E2A)、porcine teschovirus(PTV-1)由来の2Aペプチド(P2A)等や、ロタウイルス、昆虫ウイルス、アフトウイルスまたはトリパノソーマウイルス由来の2Aペプチドなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
免疫細胞
本開示において、CAR遺伝子は、免疫細胞に導入される。本開示における免疫細胞は、T細胞(CD4陽性CD8陰性T細胞、CD4陰性CD8陽性T細胞、αβ-T細胞、γδ-T細胞、およびNKT細胞が含まれる)、B細胞、NK細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞またはこれらの組み合わせでありうる。免疫細胞は、ヒトから単離された細胞であっても、iPS細胞、ES細胞、造血幹細胞などの細胞から分化させて得られた細胞であってもよい。また、免疫細胞は、自家の細胞または他家の細胞のいずれであってもよい。本開示において、「自家の細胞」とは、本開示の方法により製造される細胞集団の投与をうける対象から得られた細胞、または得られた細胞から誘導された細胞を意味し、「他家の細胞」とは、前記「自家の細胞」でないことを意味する。好ましくは、免疫細胞は自家の細胞である。ある実施形態において、免疫細胞は、リンパ球(すなわち、T細胞、B細胞、NK細胞、またはこれらの組み合わせ)である。さらなる実施形態において、免疫細胞は、T細胞である。CAR発現免疫細胞は、当該免疫細胞または造血幹細胞等のその前駆細胞を含む細胞集団に対する遺伝子導入により得ることができる。例えば、CAR発現免疫細胞は、CAR遺伝子を導入したiPS細胞、ES細胞、造血幹細胞などの細胞を分化させて得られた細胞や、CAR遺伝子を導入した後にiPS細胞化した細胞から分化させて得られた細胞であってもよい。ある実施形態において、CAR発現免疫細胞は、血液細胞に対するCAR遺伝子の導入により調製される。本開示において、血液細胞とは、血液を構成する細胞を意味し、単一の細胞の意味でも、複数の細胞を含む細胞集団の意味でも用いられ、一種類の細胞からなる細胞集団の意味でも、複数種類の細胞を含む細胞集団の意味でも用いられる。血液細胞は、好ましくは赤血球および血小板を除く血液細胞であり、かかる血液細胞にはリンパ球、単球などの免疫細胞が含まれる。血液細胞は、ヒトから単離された細胞であっても、iPS細胞、ES細胞、造血幹細胞などの細胞から分化させて得られた細胞であってもよく、また、自家の細胞または他家の細胞のいずれであってもよいが、好ましくは自家の細胞である。さらなる実施形態において、CAR発現免疫細胞は、PBMCに対するCAR遺伝子の導入により調製される。PBMCは、自家のPBMC(すなわち、本開示の方法により製造される細胞集団の投与をうける対象から採取されたPBMC)であることが好ましい。PBMCは、常法で調製することができ、例えば、Saha S, Nakazawa Y, Huye LE, Doherty JE, Galvan DL, Rooney CM, Wilson MH. J Vis Exp. 2012 Nov 5;(69): e4235を参照することができる。特に言及しない限り、本明細書における各種細胞(例えばT細胞)は、ヒト細胞である。
【0038】
CAR発現免疫細胞の調製
遺伝子導入用に調製されたCAR遺伝子発現ベクターは、常法により免疫細胞に導入される。ウイルスベクターの場合、ウイルスの感染により細胞に導入される。プラスミドなどの非ウイルスベクターの場合、細胞への導入のため、エレクトロポレーション法、リポソーム法、リン酸カルシウム法等の常法を用いることができ、好ましくはエレクトロポレーション法により導入される。
【0039】
宿主染色体への組み込み効率を向上させるために、トランスポゾン法による遺伝子導入を行うことが好ましい。トランスポゾン法は、非ウイルス遺伝子導入法の一つで、遺伝子酵素(トランスポザーゼ)とその特異認識配列とのペアで遺伝子転位を引き起こすことを利用し、宿主染色体へ任意の遺伝子を組み込むことができる。トランスポゾン法として、例えば、piggyBacトランスポゾン法を用いることができる。piggyBacトランスポゾン法は、昆虫から単離されたトランスポゾンを利用するものであり(Fraser MJ et al., Insect Mol Biol. 1996 May;5(2):141-51.; Wilson MH et al., Mol THER2007 Jan;15(1):139-45.)、哺乳類染色体への高効率な組込みを可能にする。piggyBacトランスポゾン法は、実際に遺伝子の導入に利用されている(例えば、Nakazawa Y, et al., J Immunother 32:826-836, 2009;Nakazawa Y et al., J Immunother 6:3-10, 2013等を参照)。
【0040】
トランスポゾン法は、piggyBacを利用したものに限定されず、例えば、Sleeping Beauty(Ivics Z, Hackett PB, Plasterk RH, Izsvak Z (1997) Cell 91: 501-510.)、Frog Prince(Miskey C, Izsvak Z, Plasterk RH, Ivics Z (2003) Nucleic Acids Res 31: 6873-6881.)、Tol1(Koga A, Inagaki H, Bessho Y, Hori H. Mol Gen Genet. 1995 Dec 10;249(4):400-5.;Koga A, Shimada A, Kuroki T, Hori H, Kusumi J, Kyono-Hamaguchi Y, Hamaguchi S. J Hum Genet. 2007;52(7):628-35. Epub 2007 Jun 7.)、Tol2(Koga A, Hori H, Sakaizumi M (2002) Mar Biotechnol 4: 6-11.;Johnson Hamlet MR, Yergeau DA, Kuliyev E, Takeda M, Taira M, Kawakami K, Mead PE (2006) Genesis 44: 438-445.;Choo BG, Kondrichin I, Parinov S, Emelyanov A, Go W, Toh WC, Korzh V (2006) BMC Dev Biol 6: 5.)等のトランスポゾンを利用した方法であってもよい。
【0041】
トランスポゾン法による遺伝子導入の操作は、常法で行うことができる。例えば、piggyBacトランスポゾン法のため、piggyBacトランスポザーゼをコードする遺伝子を搭載したベクター(トランスポザーゼプラスミド)と、CAR遺伝子発現ユニットがpiggyBac逆向き反復配列に挟まれた構造を備えるベクター(トランスポゾンプラスミド)とを用意し、これらのベクターを標的細胞にエレクトロポレーション、ヌクレオフェクション、リポフェクション、リン酸カルシウム法などの各種手法で導入することができる。
【0042】
標的抗原発現細胞の調製
本開示では、CAR発現免疫細胞に加えて、標的抗原を発現するよう操作された正常な血液細胞を標的抗原発現細胞として用いる。この標的抗原発現細胞は、CAR発現免疫細胞に導入したCARが標的抗原と結合できるように、標的抗原の一部または全部が細胞表面に発現するよう操作された細胞である。本開示における標的抗原は、CARが認識する標的抗原を意味し、免疫細胞に導入したCARが結合できるよう細胞表面に発現するたんぱく質や糖鎖、糖脂質等であればよい。標的抗原は、例えば、前述のCARの標的となる腫瘍関連抗原または腫瘍特異的抗原、例えば、EPHA2、HER2、EPHB2、EPHB4、EGFR、GD2、Glypican-3、HER2、5T4、8H9、αvβ6インテグリン、B細胞成熟抗原(BCMA)、B7-H3、B7-H6、CAIX、CA9、CD19、CD20、CD22、κ軽鎖、CD30、CD33、CD38、CD44、CD44v6、CD44v7/8、CD70、CD116、CD123、CD138、CD171、CEA、CSPG4、EGFR、EGFRvIII、EGP2、EGP40、EPCAM、ERBB3、ERBB4、ErbB3/4、FAP、FAR、FBP、胎児AchR、葉酸受容体α、GD2、GD3、HLA-AI MAGE A1、HLA-A2、IL11Ra、IL13Ra2、KDR、ラムダ、ルイスY、MCSP、メソセリン、MUC1、MUC4、MUC6、NCAM、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、PRAME、PSCA、PSC1、PSMA、ROR1、Sp17、SURVIVIN、TAG72、TEM1、TEM8、VEGR receptor 2、がん胎児性抗原、HMW-MAA、VEGF受容体、フィブロネクチン、テネイシン、または腫瘍の壊死領域のがん胎児性抗原(CEA)のような細胞外マトリックスに存在する抗原、またはゲノム解析および/または腫瘍の示差的発現研究などによって同定された突然変異を含むタンパク質などを挙げることができる。
【0043】
ある実施形態において、標的抗原は、配列番号10、11、または16のアミノ酸配列、好ましくは配列番号10のアミノ酸配列と、90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。さらなる実施形態において、標的抗原は、配列番号10、11、または16のアミノ酸配列、好ましくは配列番号10のアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。
【0044】
標的抗原発現細胞は、標的抗原を発現する操作として、CAR発現免疫細胞について記載したように、標的抗原をコードする遺伝子を、標的抗原遺伝子を発現するための発現ユニットを持つベクターを用いて細胞に導入する操作により、調製することができる。あるいは、標的抗原発現細胞は、標的抗原遺伝子のmRNAを作製し、当該mRNAを直接細胞に導入する操作によっても、調製することができる。また、標的抗原発現細胞は、標的抗原を発現する操作として、標的抗原をコードする遺伝子ではなく、標的抗原の発現を誘導する他の遺伝子を細胞に導入することや、細胞に標的抗原の発現を誘導する低分子化合物、増殖因子、ホルモンまたはサイトカイン等の薬剤処理を行うことによっても、調製することができる。例えば、シアル酸またはヒストン脱アセチル化阻害剤による処理によって、GD2を発現する標的抗原細胞を調製することができる。ある実施形態において、標的抗原発現細胞は、標的抗原遺伝子の細胞への導入により調製され、すなわち、外因性の標的抗原遺伝子を含む。
【0045】
また、細胞に標的抗原遺伝子とともに共刺激因子の遺伝子を導入する操作により、標的抗原と共刺激因子とを標的抗原発現細胞の表面に発現させてもよい。すなわち、ある実施形態において、標的抗原発現細胞は、外因性の1種以上の共刺激因子の遺伝子を含む。共刺激因子としては、CD40、CD80、4-1BBリガンド(4-1BBL)、OX40、OX40L、CD52、CD54、CD70、CD58、CD86、CD95、CD252、CD275等や、インテグリンファミリー(CD49a~CD49h、CD51、CD103、CD41、CD11a~11c、ITGA9~11、CD18、CD19、CD61、ITGB4~8等)のリガンドが挙げられる。ある実施形態において、共刺激因子は、CD40、CD80、4-1BBL、OX40Lから選択される1種以上の共刺激因子、好ましくはCD80および/または4-1BBL、より好ましくはCD80および4-1BBLである。
【0046】
ある実施形態において、共刺激因子は、配列番号12~15のいずれかのアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。さらなる実施形態において、標的抗原は、配列番号12~15のいずれかのアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列からなる。
【0047】
共刺激因子の遺伝子の導入方法としては、共刺激因子の遺伝子と標的抗原の遺伝子とを含む発現ベクターを用いて遺伝子導入を行う;標的抗原の発現ベクターまたはmRNAとは別の共刺激因子の発現ベクターまたはmRNAを、標的抗原の発現ベクターまたはmRNAと同時または別個に遺伝子導入する等の方法が挙げられる。
【0048】
標的抗原遺伝子を発現するための操作を施す、標的抗原発現細胞の調製に用いる細胞は、正常な血液細胞(すなわち、がん化した細胞またはこれらに由来する細胞株を除く血液細胞)であれば特に限定されず、ヒトから単離された細胞であっても、iPS細胞、ES細胞、造血幹細胞などの細胞から分化させて得られた細胞であってもよく、また、これらの細胞は自家の細胞または他家の細胞のいずれであってもよいが、好ましくは自家の細胞である。血液細胞は、好ましくは赤血球および血小板を除く血液細胞であり、かかる血液細胞にはリンパ球、単球などの免疫細胞が含まれる。標的抗原発現細胞は、免疫細胞、例えばリンパ球に標的抗原遺伝子が導入された細胞や、標的抗原の発現を他の遺伝子の導入や薬剤処理によって誘導された細胞でありうる。また、標的抗原発現細胞は、iPS細胞、ES細胞、造血幹細胞などの前駆細胞に標的抗原遺伝子または標的抗原の発現を誘導する他の遺伝子を導入した後に分化させて得られた細胞であってもよい。好適な実施形態において、標的抗原発現細胞はPBMCから調製され、好ましくはPBMCに対する遺伝子導入により調製される。ある実施形態において、標的抗原発現細胞は、PBMCに対する標的抗原遺伝子の導入により調製される。PBMCを用いた場合、CAR発現免疫細胞の増殖効率が高く、かつ品質が高いCAR発現免疫細胞を得ることができる。また、PBMCを用いた場合、共刺激因子の遺伝子を導入しなくとも、効率よくCAR発現免疫細胞を製造することが可能である。PBMCは、自家のPBMC(すなわち、本開示の方法により製造される細胞集団の投与をうける対象から採取されたPBMC)であることが好ましい。自家のPBMCを用いると、標的抗原発現細胞の除去操作を行わずに患者へ投与するための細胞を調製することができる。さらに、標的抗原発現細胞とCAR発現免疫細胞とは、同一の対象のPBMCから調製された細胞であることが好ましく、いずれも自家のPBMCから調製された細胞であることがより好ましい。
【0049】
標的抗原発現細胞への遺伝子導入に当たっては、一過性または恒常的な遺伝子発現のいずれの発現様態を用いてもよい。CAR発現免疫細胞表面のCARおよび共刺激因子に対する適切な刺激が一時的に行われればよく、また、CAR発現免疫細胞の割合が高い細胞集団を比較的短期間で得る目的からすると、一過性の遺伝子発現を意図した標的抗原遺伝子発現ベクターによる遺伝子導入が好適である。
【0050】
CAR発現免疫細胞の割合の高い細胞集団を得るために、標的抗原発現細胞は、CAR発現免疫細胞と共培養する前に増殖能を喪失させる処理が施されていることが好ましい。増殖能を喪失させる処理は、典型的には、放射線照射または紫外線照射であるが、薬剤を用いてもよい。放射線照射は、例えば、ガンマ線を、25Gy~50Gyの強度で、15~30分間照射することにより行われる。また、紫外線照射は、例えば、線量として2~400 mJ/cm2、好ましくは6~200 mJ/cm2とすることにより行われる。このような処理によって、CAR発現免疫細胞の増殖が優位となり、臨床応用可能な十分な細胞数および品質を得ることができる。
【0051】
共培養
CAR発現免疫細胞と標的抗原発現細胞を共培養することにより、CAR発現免疫細胞が標的抗原発現細胞による抗原刺激によって、効率よく増殖する。
【0052】
CAR発現免疫細胞は、CAR遺伝子導入後、細胞の回復と導入遺伝子の安定的発現のため、例えば8時間から2週間程度の培養を行った細胞であることが好ましい。CAR発現免疫細胞は、長期の培養により疲弊する恐れがあることから、より好ましくは、CAR遺伝子導入後、8時間~1週間以内、8時間~72時間以内、または24時間~72時間以内に共培養に用いる。標的抗原発現細胞は、細胞への遺伝子導入または薬剤処理などの標的抗原を発現するための操作後、共培養開始までに十分な標的抗原が発現していればよく、例えば、共培養開始の8時間以上前に前記操作を行なわれた細胞であることが好ましい。
【0053】
本開示の方法は、共培養の前に、CAR発現免疫細胞および/または標的抗原発現細胞を調製することを含んでもよい。例えば、本開示の方法は、CAR遺伝子を免疫細胞に導入すること、および/またはCARの標的抗原を発現するための操作を正常な血液細胞に行うことを含んでもよい。本開示の方法はさらに、CAR発現免疫細胞および/または標的抗原発現細胞を単独で培養することを含んでもよい。
【0054】
共培養の期間は、限定はされないが、1日~21日、好ましくは1日~14日である。
【0055】
共培養開始時のCAR発現免疫細胞と標的抗原発現細胞との比率(CAR発現免疫細胞/標的抗原発現細胞)は、特に限定されないが、例えば、それぞれCARおよび標的抗原を発現するための操作を行った細胞の全細胞数の比率で0.05~20、好ましくは0.1~10、より好ましくは0.5~5である。共培養時の細胞密度は、例えば、培養液中の細胞数の濃度で、1x106個/mL~100x106個/mLである。
【0056】
共培養時、およびCAR発現免疫細胞および/または標的抗原発現細胞の調製時の培地は、特に限定されず、通常の細胞培養に用いる培地、例えば、RPMI1640、MEM、X-VIVIO、IMDM、DMEM、DC medium、OptiMEM等を用いることができる。培地は、常法に従い血清(ヒト血清、ウシ胎仔血清など)を添加した培地であっても、無血清培地であってもよい。臨床応用する際の安全性が高く、かつ血清ロット間の差による培養効率の違いが出にくいことから、無血清培地を用いることが好ましい。無血清培地としては、TexMACSTM(Miltenyi Biotec)、AIM V(登録商標)(Thermo Fisher Scientific)、ALyS培養液(株式会社細胞科学研究所)等が挙げられる。血清を用いる場合、自己血清、即ち、CAR発現免疫細胞の由来である個体(より具体的には、本開示の製造方法で得られる細胞集団の投与を受ける患者)から採取した血清を用いるとよい。基本培地は、細胞培養に適したものを用いればよく、前述のTexMACSTM、AIM V(登録商標)、ALyS培養液(株式会社細胞科学研究所)を用いることができる。その他の培養条件は、細胞の生存および増殖に適したものであればよく、一般的な条件を採用することができえる。例えば、37℃に設定したCO2インキュベーター(CO2濃度5%)内で培養すればよい。
【0057】
細胞の生存および増殖を補助するため、培地にT細胞増殖因子または活性化因子を添加してもよい。T細胞増殖因子としては、IL-1、IL-2、IL-7、IL-15、IL-21が挙げられ、活性化因子としては、抗CD3抗体および抗CD28抗体が挙げられる。例えば、共培養の際、培地にIL-2、抗CD3抗体、および抗CD28抗体を添加してもよい。これらの因子は必須ではなく、特に、PBMCから調製した標的抗原発現細胞を用いる場合、共培養前または共培養時に、例えば、抗CD3抗体および/または抗CD28抗体を添加せずに、短期間で効率よく臨床利用が可能なCAR発現免疫細胞を得ることができる。また、CAR発現免疫細胞の調製の際、培地にIL-7および/またはIL-15を添加してもよい。例えば、IL-7およびIL-15は、それぞれ5 ng/ml~10 ng/mlで、培地に添加される。T細胞増殖因子または活性化因子は、常法に従って調製することができ、また、市販品を利用することもできる。T細胞増殖因子または活性化因子は、ヒト以外の動物種のものであってもよいが、ヒト由来のもの(組換え体であってもよい)であることが好ましい。
【0058】
CAR発現免疫細胞と標的抗原発現細胞とを共培養することで、臨床利用が可能な十分な量と質のCAR発現免疫細胞を含む細胞集団を得ることができる。特に、標的抗原が血液細胞に発現していない場合(例えば、HER2やEPHB4等の固形腫瘍の腫瘍関連抗原の場合)であっても、CAR発現免疫細胞と調製した標的抗原発現細胞と共培養することで、標的抗原発現細胞からCAR発現免疫細胞への刺激が適切に行われ、高い細胞傷害活性を有し、疲弊しにくい十分な量のCAR発現免疫細胞を含む細胞集団を得ることができる。本開示の方法は、従来の方法に比べ、高い効果の期待できる細胞集団を効率よく製造することができる。例えば、本開示の製造方法によって得られる細胞集団は、CAR発現免疫細胞の割合が20%、30%、または40%以上、好ましくは40%以上でありうる。また、本開示の製造方法によって得られる細胞集団は、疲弊マーカーであるPD-1の発現が低く、例えば、CAR発現免疫細胞中のPD-1発現細胞の割合が、10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは1%未満でありうる。さらに、本開示の製造方法によって得られる細胞集団は、CAR発現免疫細胞中のナイーブ細胞の割合が、45%、50%、55%、または60%以上、好ましくは60%以上でありうる。
【0059】
細胞集団の用途
本開示の方法により製造されるCAR発現免疫細胞を含む細胞集団は、がんの治療、特に、当該CAR発現免疫細胞の標的抗原を発現するがんの治療に用いることができる。がんは、固形腫瘍であっても血液腫瘍であってもよい。具体的ながんとしては、各種B細胞リンパ腫(濾胞性悪性リンパ腫、びまん性大細胞B細胞性悪性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、MALTリンパ腫、血管内B細胞性リンパ腫、CD20陽性ホジキンリンパ腫など)、骨髄増殖性腫瘍、骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(CMML,JMML,CML,MDS/MPN-UC)、骨髄異形成症候群、急性骨髄生白血病、神経芽腫、脳腫瘍、ユーイング肉腫、骨肉腫、網膜芽細胞腫、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、メラノーマ、骨軟部肉腫、腎臓がん、膵臓がん、悪性中皮腫、前立腺がん、乳がん、子宮体がん、子宮頚がん、卵巣がん、大腸がん等が挙げられるが、これらに限定されない。好適な実施形態において、がんは、固形腫瘍である。固形腫瘍としては、例えば、神経芽腫、脳腫瘍、ユーイング肉腫、骨肉腫、網膜芽細胞腫、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、メラノーマ、卵巣がん、横紋筋肉腫、骨軟部肉腫、腎臓がん、膵臓がん、悪性中皮腫、前立腺がん、乳がん、子宮体がん、子宮頚がん、卵巣がん、大腸がん等が挙げられる。
【0060】
本開示の細胞集団は、対象の年齢、体重、症状などに応じて適宜決定される治療上有効量で投与される。本開示における対象は、通常ヒトであり、好ましくはがん患者である。本開示の細胞集団は、例えば、1回あたり1x104個~1x1010個で投与されうる。投与経路は、特に限定されず、例えば、静脈内注射、動脈内注射、門脈内注射、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、または腹腔内注射によって投与することができる。本開示の細胞集団は、全身投与しても、局所投与してもよく、局所投与としては、目的の組織・臓器・器官への直接注入が挙げられる。投与スケジュールは、対象の年齢、体重、症状などに応じて適宜決定され、単回投与であっても、連続的または定期的な複数回投与であってもよい。
【0061】
本開示の細胞集団を含む組成物は、対象に投与すべき細胞集団に加えて、細胞の保護を目的としてジメチルスルフォキシド(DMSO)や血清アルブミン等、細菌の混入阻止を目的として抗生物質等、細胞の活性化、増殖または分化誘導などを目的とした各種の成分(ビタミン類、サイトカイン、成長因子、ステロイド等)等の成分を含んでもよい。組成物は、常法により調製することができる。
【0062】
本発明の例示的な実施形態を以下に記載する。

[1]
キメラ抗原受容体(CAR)を発現する免疫細胞を含む細胞集団の製造方法であって、CAR遺伝子が導入されたCAR発現免疫細胞と、前記CARの標的抗原を発現するよう操作された正常な血液細胞である標的抗原発現細胞とを共培養することを含む方法。
[2]
免疫細胞が、リンパ球である、前記1に記載の方法。
[3]
免疫細胞が、T細胞である、前記1または2に記載の方法。
[4]
標的抗原が、HER2またはEPHB4である、前記1~3のいずれかに記載の方法。
[5]
CAR発現免疫細胞が、末梢血単核細胞(PBMC)に対する遺伝子導入により調製された細胞である、前記1~4のいずれかに記載の方法。
[6]
CAR発現免疫細胞を調製することをさらに含む、前記1~5のいずれかに記載の方法。
[7]
PBMCに対する遺伝子導入によりCAR発現免疫細胞を調製する、前記6に記載の方法。
[8]
CAR発現免疫細胞の調製が、piggyBacトランスポゾン法により行われる、前記6または7に記載の方法。
[9]
標的抗原発現細胞が、標的抗原遺伝子が導入された細胞である、前記1~8のいずれかに記載の方法。
[10]
標的抗原発現細胞が、1種以上の共刺激因子の遺伝子が導入された細胞である、前記1~9のいずれかに記載の方法。
[11]
標的抗原発現細胞が、PBMCから調製された細胞である、前記1~10のいずれかに記載の方法。
[12]
標的抗原発現細胞が、PBMCに対する遺伝子導入により調製された細胞である、前記11に記載の方法。
[13]
遺伝子導入が、標的抗原遺伝子の導入を含む、前記12に記載の方法。
[14]
標的抗原発現細胞を調製することをさらに含む、前記1~13のいずれかに記載の方法。
[15]
PBMCから標的抗原発現細胞を調製する、前記14に記載の方法。
[16]
PBMCに対する遺伝子導入により標的抗原発現細胞を調製する、前記15に記載の方法。
[17]
遺伝子導入が、標的抗原遺伝子の導入を含む、前記16に記載の方法。
[18]
1種以上の共刺激因子が、CD40、CD80、4-1BBL、およびOX40Lから選択される、前記10~17のいずれかに記載の方法。
[19]
前記1~18のいずれかに記載の方法により製造される、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する免疫細胞を含む細胞集団。
[20]
前記19に記載の細胞集団を含む、がんを治療するための組成物。
[21]
がんが、固形腫瘍である、前記20に記載の組成物。
【0063】
[22]
がんを治療する方法であって、前記19に記載の細胞集団を対象に投与することを含む方法。
[23]
がんを治療する方法であって、
前記1~18のいずれかに記載の方法により細胞集団を製造すること、および
得られた細胞集団を対象に投与すること
を含む方法。
[24]
がんの治療に用いるための、前記19に記載の細胞集団。
[25]
がんの治療に用いるため医薬の製造のための、前記19に記載の細胞集団の使用。
【0064】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明は如何なる意味においてもこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0065】
(実施例1)
末梢血より比重分離遠心法を用いて末梢血単核球(PBMC)を分離、回収した。次いで、そのうち15x106個のPBMCに、細胞外ドメインとしてEPHB4リガンド(配列番号3)を有し、かつスペーサードメイン(配列番号6)、膜貫通ドメイン(配列番号8)、および細胞内シグナルドメイン(配列番号9)を有するEPHB4-CARを発現するベクター(図1、(a))およびトランスポザーゼ発現ベクター(図1、(c))をエレクトロポレーション法にて遺伝子導入し、EPHB4-CAR発現T細胞を調製した。また、5x106個のPBMCに、EPHB4-CARの標的分子であるEPHB4(配列番号11)と、CD80(配列番号12)および4-1BBL(配列番号13)とを発現するベクター(図2、(a))をエレクトロポレーション法にて導入し、EPHB4を一過性に発現するEPHB4発現細胞を調製した。調製したEPHB4-CAR発現T細胞およびEPHB4発現細胞をそれぞれ遺伝子導入後1日間培養した後、EPHB4発現細胞へUV照射し、5x106個のEPHB4発現細胞をEPHB4-CAR発現T細胞に培養開始1日目および3日目の2回に分けて混合し、IL-2、抗CD3抗体および抗CD28抗体非存在下で、IL-7(10 ng/mL)およびIL-15(5 ng/mL)を含有するALyS培養液にて共培養を行い、培養開始から12日目に細胞を回収した。
【0066】
(比較例1)
実施例1と同様に、PBMCを回収し、EPHB4-CAR発現T細胞を調製した。また、回収した一部のPBMCにUV線照射を行った後、ウイルスペプチド(PepTivator CMV pp65、PepTivator AdV5 Hexon、PepTivator EBV EBNA-1およびPepTivator EBV BZLF1、Miltenyi Biotec)を添加し、フィーダー細胞を調製した。さらに、UV照射したEPHB4を発現するがん細胞株であるRh30細胞を調製した。10x106個のEPHB4-CAR発現T細胞に対し、2x106個のフィーダー細胞および1x106個のRh30細胞を混合し、抗CD3抗体および抗CD28抗体の存在下の条件で、IL-7(10 ng/mL)およびIL-15(5 ng/mL)を含有するALyS培養液にて共培養を行い、培養開始から9日目に細胞を回収した。
【0067】
(比較例2)
比較例1と同様に、EPHB4-CAR発現T細胞およびUV照射したEPHB4を発現するRh30細胞を調製した。10x106個のEPHB4-CAR発現T細胞と1x106個のRh30細胞とを混合し、抗CD3抗体およびCD28抗体の存在下で、IL-7(10 ng/mL)およびIL-15(5 ng/mL)を含有するALyS培養液にて25日間の共培養を行い、細胞を回収した。
【0068】
(比較例3)
比較例1と同様に、EPHB4-CAR発現T細胞を調製した。10x106個のEPHB4-CAR発現T細胞を抗CD3抗体およびCD28抗体の存在下で、IL-7(10 ng/mL)およびIL-15(5 ng/mL)を含有するALyS培養液にて25日間培養し、細胞を回収した。
【0069】
(試験例1)
実施例1および比較例1から3で得られた細胞について、全細胞数をカウントするとともに、EPHB4-CAR発現T細胞の割合をフローサイトメトリーにより解析した。結果を表1に示す。
【表1】
【0070】
表1に示すように、実施例1の条件によってのみEPHB4-CART細胞を培養することができた。この結果から、標的抗原であるEPHB4の遺伝子を導入することによりEPHB4を発現するよう操作された細胞であるEPHB4発現細胞と、EPHB4-CAR発現T細胞とを共培養する製造方法は、極めて有用であることが分かった。
【0071】
(実施例2)
実施例1と同様に、PBMCを分離、回収した。そのうち10x106個のPBMCに、細胞外ドメインとして抗HER2scFV(配列番号1)を有し、かつスペーサードメイン(配列番号4)、膜貫通ドメイン(配列番号7)、および細胞内シグナルドメイン(配列番号9)を有するHER2-CARを発現するベクター(図1、(b))およびトランスポザーゼ発現ベクター(図1、(c))をエレクトロポレーション法にて導入し、HER2-CAR発現T細胞を調製した。また、20x106個のPBMCに、HER2-CARの標的分子であるHER2(配列番号10)と、CD80(配列番号12)および4-1BBL(配列番号13)とを発現する発現ベクター(図2、(b))をエレクトロポレーション法にて導入し、HER2を一過性に発現するHER2発現細胞を調製した。調製したHER2-CAR発現T細胞およびHER2発現細胞をそれぞれ遺伝子導入後3日間培養した後、HER2発現細胞へUV照射し、HER2-CAR発現T細胞と混合して、IL-7(10 ng/mL)およびIL-15(5 ng/mL)ならびに2%人工血清を含むALyS培地にて、IL-2、抗CD3抗体および抗CD28抗体の非存在下の条件で11日間共培養を行い、培養開始後14日目に細胞を回収した。
【0072】
(比較例4)
実施例1と同様に、PBMCを分離、回収した。そのうち15x106個のPBMCに、HER2-CAR発現ベクター(図1、(b))およびトランスポザーゼ発現ベクター(図1、(c))をエレクトロポレーション法にて導入し、HER2-CAR発現T細胞を調製した。また、2x106個のPBMCにUV線照射を行った後、ウイルスペプチド(PepTivator CMV pp65、PepTivator AdV5 Hexon、PepTivator EBV EBNA-1およびPepTivator EBV BZLF1、Miltenyi Biotec)を添加して、フィーダー細胞を調製した。調製した15x106個のHER2-CAR発現T細胞を、HER2-CARの標的分子であるHER2タンパク質を100μg/mLで固相化したプレートで、IL-7(10 ng/mL)およびIL-15(5 ng/mL)ならびに2%人工血清を含むALyS培地にて7日間培養した後、フィーダー細胞と混合し、さらに7日間の共培養を行い、培養開始後14日目に細胞を回収した。
【0073】
(試験例2)
実施例2および比較例4で得られた細胞について、全細胞数をカウントするとともに、HER2-CAR発現T細胞の割合をフローサイトメトリーにより解析した。結果を表2に示す。
【表2】
【0074】
表2に示すように、実施例2は、比較例4に比べ培養開始前に調製したHER2-CAR発現T細胞の量が少なかったにもかかわらず、臨床での使用が十分可能な量のHER2-CAR発現T細胞を得ることができた。この結果から、標的抗原であるHER2の遺伝子を導入することによりHER2を発現するよう操作された細胞であるHER2発現細胞と、HER2-CAR発現T細胞とを共培養する製造方法は、極めて有用であることが分かった。
【0075】
(実施例3)
実施例1と同様に、PBMCを分離、回収した。次いで、そのうち20x106個のPBMCに、実施例2と同じHER2-CAR発現ベクター(図1、(b))およびトランスポザーゼ発現ベクター(図1、(c))をエレクトロポレーション法にて導入し、HER2-CAR発現T細胞を調製した。また、20x106個のPBMCに、HER2-CARの標的分子であるHER2(配列番号10)を発現する発現ベクター(図2、(c))をエレクトロポレーション法にて導入し、HER2(配列番号10)を一過性に発現するHER2発現細胞を調製した。調製したHER2-CAR発現T細胞およびHER2発現細胞をそれぞれ遺伝子導入後1日間培養した後、HER2発現細胞へUV照射し、HER2-CAR発現T細胞と混合して、IL-2、抗CD3抗体および抗CD28抗体の非存在下で共培養を行い、培養開始から14日目に細胞を回収した。
【0076】
(比較例5)
実施例3と同様に、HER2-CAR発現T細胞を調製した。20x106個のPBMCに、HER2発現ベクターにかえて、EPHB4(配列番号11)と、CD80(配列番号12)および4-1BBL(配列番号13)とを発現するベクター(図2、(a))をエレクトロポレーション法にて導入し、抗原提示細胞としてEPHB4発現細胞を調製した。調製したHER2-CAR発現T細胞とEPHB4発現細胞とを実施例3と同様に共培養し、培養開始から14日目に細胞を回収した。
【0077】
(比較例6)
実施例3と同様に、HER2-CAR発現T細胞を調製した。調製したHER2-CAR発現T細胞と、HER2発現細胞に代わる抗原提示細胞として、1x106個のHER2を発現するがん細胞株であるU2OS細胞とを、実施例3と同様に共培養し、培養開始から14日目に細胞を回収した。
【0078】
(実施例4)
実施例1と同様に、PBMCを分離、回収した。次いで、そのうち20x106個のPBMCに、実施例1と同じEPHB4-CAR発現ベクター(図1、(a))およびトランスポザーゼ発現ベクター(図1、(c))をエレクトロポレーション法にて導入し、EPHB4-CAR発現T細胞を調製した。また、20x106個のPBMCに、EPHB4-CARの標的分子であるEPHB4(配列番号11)と、CD80(配列番号12)および4-1BBL(配列番号13)とを発現する発現ベクター(図2、(a))をエレクトロポレーション法にて導入し、EPHB4を一過性に発現するEPHB4発現細胞を調製した。調製したEPHB4-CAR発現T細胞およびEPHB4発現細胞をそれぞれ遺伝子導入後1日間培養した後、EPHB4発現細胞へUV照射し、EPHB4-CAR発現T細胞と混合して、IL-2、抗CD3抗体および抗CD28抗体の非存在下で共培養を行い、培養開始から14日目に細胞を回収した。
【0079】
(比較例7)
実施例4と同様に、EPHB4-CAR発現T細胞を調製した。20x106個のPBMCに、EPHB4の代わりにCD19(配列番号16)と、CD80(配列番号12)および4-1BBL(配列番号13)とを発現するベクター(図2、(d))をエレクトロポレーション法にて導入し、抗原提示細胞としてCD19発現細胞を調製した。EPHB4-CAR発現T細胞とCD19発現細胞とを実施例4と同様に共培養し、培養開始から14日目に細胞を回収した。
【0080】
(試験例3)
実施例3、4および比較例5~7で得られた細胞について、全細胞数をカウントするとともに、それぞれのCAR発現T細胞の割合をフローサイトメトリーにより解析した。結果を表3に示す。
【表3】
【0081】
表3に示すように、HER2の標的分子を発現しているがん細胞を抗原提示細胞として使用した場合(比較例6)、およびCAR-T細胞のCARとミスマッチの標的抗原を発現する抗原提示細胞を使用した場合(比較例5、7)は、十分な量のCAR-T細胞を培養して製造することができなかった。一方、抗原提示細胞としてCAR-T細胞のCARとマッチした標的抗原を発現するよう操作された細胞(実施例3および4)を使用した場合、臨床での使用が十分可能な量のCAR-T細胞を製造することができた。
【0082】
(試験例4)
本開示の製造方法によって製造されるCAR発現免疫細胞の特性を確認するために、以下のようにしてCAR発現免疫細胞を製造した。まず、末梢血より比重分離遠心法を用いて末梢血単核球(PBMC)を分離、回収した。そのうち20x106個のPBMCに、実施例2と同じHER2-CARを発現するベクター(図1、(b))およびトランスポザーゼ発現ベクター(図1、(c))をエレクトロポレーション法にて導入し、HER2-CAR発現T細胞を調製した。また、標的抗原発現細胞を調製するために、10x106個のPBMCに、HER2-CARの標的分子であるHER2(配列番号10)と、CD80(配列番号12)、4-1BBL(配列番号13)、CD40(配列番号14)、およびOX40リガンド(配列番号15)のいずれか1種(図3、(a))または2種(図2、(b);図3、(b))とを発現する発現ベクターをエレクトロポレーション法にて導入し、HER2を一過性に発現するHER2発現細胞を調製した。調製したHER2-CAR発現T細胞およびHER2発現細胞を遺伝子導入後1日間培養した後、HER2発現細胞へUV照射し、20x106個のHER2-CAR発現T細胞に対し、10x106個のHER2発現細胞を混合し、IL-2、抗CD3抗体および抗CD28抗体の非存在下で共培養を行い、培養開始から14日目に細胞を回収した。得られた細胞数を表4に示す。
【表4】
【0083】
得られたHER2-CAR発現T細胞について、T細胞マーカーであるCD3、遺伝子導入したHER2-CAR、疲弊マーカーであるPD-1、ナイーブT細胞またはセントラルメモリーT細胞の解析マーカーであるCCR7およびCD45RAのそれぞれを発現する細胞の割合を、フローサイトメトリーにより解析した。結果を図4および5に示す。
【0084】
また、得られたHER2-CAR発現T細胞を用いて、キリングアッセイを行った。はじめに、リアルタイム細胞アナライザー(xCELLigence、ACEA Bioscience, Inc.)用プレートに、HER2を発現するがん細胞株であるU2OS細胞を、1x104個/ウェルで播種し、プレートに細胞を定着させた。次いで、各HER2-CAR発現T細胞を、HER2-CAR発現T細胞:U2OS細胞の比率が1:2となるようプレートに播種し、72時間の共培養を行い、傷害されるU2OS細胞の割合をリアルタイム細胞アナライザーで測定した。その後、U2OS細胞と共培養したHER2-CAR発現T細胞をさらに別のウェルに用意したU2OS細胞に加え、さらに72時間の共培養を行い、細胞傷害活性を測定する工程を、全部で3回行った。結果を図6および7に示す。
【0085】
図4および5の結果から、本開示の製造方法で得られたHER2-CAR発現T細胞は、全細胞数の中で20%以上と、高い割合でHER2-CARを発現するT細胞が得られており、これらのT細胞の疲弊マーカーであるPD-1の発現割合はごくわずかであった。また、このHER2-CAR発現T細胞中のナイーブT細胞(CD45RA陽性およびCCR7陽性)とセントラルメモリーT細胞(CD45RA陰性およびCCR7陽性)の細胞の割合は、合計で少なくとも45%以上と、高い結果が得られた。
【0086】
さらに、図6および7の結果から、本開示のHER2-CAR発現T細胞は、HER2を発現するがん細胞株に対して優れた細胞傷害活性を示し、連続して2回のキリング活性測定を実施したが、2回目のキリング活性測定においても、細胞が疲弊することなく、十分な細胞傷害活性を持っていることが分かった。
【0087】
これらの結果から、本開示の製造方法は、疲弊マーカーの発現が低く、ナイーブT細胞またはセントラルメモリーT細胞の表現型を持つ細胞を多く含む、高い品質の細胞集団を効率よく製造することが可能であり、特に固形腫瘍を対象とするCARを導入した免疫細胞の製造に有効であるが分かった。
【0088】
(実施例5)
末梢血より比重分離遠心法を用いてPBMCを分離、回収した。次いで、そのうち20x106個のPBMCに、実施例2と同じHER2-CARを発現するベクター(図1、(b))およびトランスポザーゼ発現ベクター(図1、(c))をエレクトロポレーション法にて導入し、HER2-CAR発現T細胞を調製した。また、10x106個のPBMCに、HER2-CARの標的分子であるHER2(配列番号10)と、CD80(配列番号12)および4-1BBL(配列番号13)とを発現する発現ベクター(図2、(b))をエレクトロポレーション法にて導入し、HER2を一過性に発現するHER2発現細胞を調製した。調製したHER2-CAR発現T細胞およびHER2発現細胞をそれぞれ遺伝子導入後1日間培養した後、HER2発現細胞へUV照射し、HER2-CAR発現T細胞と混合して、IL-2、抗CD3抗体および抗CD28抗体非存在下で共培養を行い、培養開始後14日目に細胞を回収した。
【0089】
(実施例6)
末梢血より比重分離遠心法を用いてPBMCを分離、回収した。次いで、40x106個のPBMCに、細胞外ドメインとして抗CD19scFV(配列番号2)を有し、かつスペーサードメイン(配列番号5)、膜貫通ドメイン(配列番号7)、および細胞内シグナルドメイン(配列番号9)を有するCD19-CARを発現するベクター(図1、(d))およびトランスポザーゼ発現ベクター(図1、(c))をエレクトロポレーション法にて導入し、CD19-CAR発現T細胞を調製した。また、10x106個のPBMCに、CD19-CARの標的分子であるCD19(配列番号16)と、CD80(配列番号12)および4-1BBL(配列番号13)とを発現する発現ベクター(図2、(d))をエレクトロポレーション法にて導入し、CD19を一過性に発現するCD19発現細胞を調製した。調製したCD19-CAR発現T細胞およびCD19発現細胞をそれぞれ遺伝子導入後1日間培養した後、CD19発現細胞へUV照射し、CD19-CAR発現T細胞と混合して、IL-2、抗CD3抗体および抗CD28抗体非存在下で共培養を行い、培養開始から14日目に細胞を回収した。
【0090】
(比較例8)
末梢血より比重分離遠心法を用いてPBMCを分離、回収した。次いで、0.125x106個のPBMCを抗CD3抗体および抗CD28抗体で刺激するとともに、実施例2と同じHER2-CARの発現ユニットを有するレトロウイルスベクター(図3(c))を用いて遺伝子導入を行い、IL-2非存在下で培養を行い、培養開始から14日目に細胞を回収した。
【0091】
(試験例5)
実施例5、実施例6、および比較例8で得られたCAR発現T細胞を用いて、キリングアッセイを行った。はじめに、リアルタイム細胞アナライザー(xCELLigence, ACEA Bioscience, Inc.)用プレートに、HER2を発現するがん細胞株のU2OS細胞を、5000個/ウェルで播種し、プレートに細胞を定着させた。次いで、実施例5、実施例6、および比較例8で得られた各CAR発現T細胞を、CAR発現T細胞:U2OS細胞の細胞数の比率が4:1となるようプレートに播種し、100時間の共培養を行い、傷害されるU2OS細胞の割合をリアルタイム細胞アナライザーで測定した。結果を図8に示す。
【0092】
図8の結果から、実施例5のHER2-CAR発現T細胞は、HER2を発現するU2OS細胞を、共培養開始後72時間時点で95%以上傷害したのに対し、比較例8のHER2-CAR発現T細胞による細胞傷害は、およそ65%程度であった。また、実施例6のCD19-CAR発現T細胞において、HERを発現するU2OS細胞に対して非特異的な細胞傷害反応が30%程度見られたことから、比較例8で作製したCAR-T細胞ではCARに依存した特異的な細胞傷害活性は弱いことか考えられた。この結果から、本開示の製造方法で得られたHER2-CAR発現T細胞は、CAR特異的な強い細胞傷害活性を有するものと考えられた。
【0093】
(実施例7)
健常人からPBMCを分離、回収した。次いで、そのうち20x106個のPBMCに、実施例2と同じHER2-CAR発現ベクター(図1、(b))およびトランスポザーゼ発現ベクター(図1、(c))をエレクトロポレーション法にて導入し、HER2-CAR発現T細胞を調製した。また、20x106個のPBMCに、HER2-CARの標的分子であるHER2(配列番号10)を発現する発現ベクター(図2、(c))をエレクトロポレーション法にて導入し、HER2(配列番号10)を一過性に発現するHER2発現細胞を調製した。調製したHER2-CAR発現T細胞およびHER2発現細胞をそれぞれ遺伝子導入後1日間培養した後、HER2発現細胞へUV照射し、HER2-CAR発現T細胞と混合して、IL-2、抗CD3抗体および抗CD28抗体の非存在下で共培養を行い、培養開始から14日目に細胞を回収した。
【0094】
(比較例9)
実施例7と同様にして、10x106個のPBMCにHER2-CAR発現ベクターおよびトランスポザーゼ発現ベクターをエレクトロポレーション法にて導入し、HER2-CAR発現T細胞を調製した。同一の健常人から採取した3x106個のPBMCをUV照射した後に調製したHER2-CAR発現T細胞に混合して、実施例7と同様に共培養し、培養開始から14日目に細胞を回収した。
【0095】
(試験例6)
実施例7および比較例9で得られた細胞について、全細胞数をカウントするとともに、それぞれのCAR発現T細胞の割合をフローサイトメトリーにより解析した。結果を表5に示す。
【表5】
【0096】
表5の結果から、単にPBMCと共培養した場合(比較例9)は、十分な量のCAR-T細胞を培養して製造することができなかったが、本発明の製造方法で製造した場合は(実施例7)、臨床での使用が十分可能な量のCAR-T細胞を製造することができた。
【0097】
(実施例8)
健常人からPBMCを分離、回収した。次いで、そのうち17x106個のPBMCに、実施例2と同じHER2-CAR発現ベクター(図1、(b))およびトランスポザーゼ発現ベクター(図1、(c))をエレクトロポレーション法にて導入し、HER2-CAR発現T細胞を調製した。また、17x106個のPBMCに、HER2-CARの標的分子であるHER2(配列番号10)を発現する発現ベクター(図2、(c))をエレクトロポレーション法にて導入し、HER2(配列番号10)を一過性に発現するHER2発現細胞を調製した。調製したHER2-CAR発現T細胞およびHER2発現細胞をそれぞれ遺伝子導入後1日間培養した後、HER2発現細胞へUV照射し、HER2-CAR発現T細胞と混合して、IL-2、抗CD3抗体および抗CD28抗体の非存在下で共培養を行い、培養開始から14日目に細胞を回収した。
【0098】
(比較例10)
実施例8と同様にして、17x106個のPBMCにHER2-CAR発現ベクターおよびトランスポザーゼ発現ベクターをエレクトロポレーション法にて導入し、HER2-CAR発現T細胞を調製した。また、HER2発現細胞の調製において、PBMCの代わりに17x106個のK562細胞(HER2を発現していない)を用いたこと以外は同様にして、HER2発現ベクターを細胞に導入してHER2発現細胞を調製し、調製したHER2発現細胞をUV照射した後にHER2-CAR発現T細胞に混合して、実施例8と同様に共培養し、培養開始から14日目に細胞を回収した。
【0099】
(比較例11)
実施例8と同様にして、17x106個のPBMCにHER2-CAR発現ベクターおよびトランスポザーゼ発現ベクターをエレクトロポレーション法にて導入し、HER2-CAR発現T細胞を調製した。また、HER2発現細胞の調製において、PBMCの代わりに10x106個のRh30細胞(HER2を発現する)を用いたこと以外は同様にして、HER2発現ベクターを細胞に導入してHER2発現細胞を調製し、調製したHER2発現細胞をUV照射した後にHER2-CAR発現T細胞に混合して、実施例8と同様に共培養し、培養開始から14日目に細胞を回収した。
【0100】
(試験例6)
実施例8および比較例10および11で得られた細胞について、全細胞数をカウントするとともに、それぞれのCAR発現T細胞の割合をフローサイトメトリーにより解析した。結果を表6に示す。
【表6】
【0101】
表6に示すように、PBMCに標的抗原であるHER2を発現するための操作を施し調製したHER2発現細胞を用いることによって、比較例のK562やRh30を用いるよりも5倍以上の細胞が得られていることから、本開示の方法は優れた細胞の生産性を有しており、臨床に用いるために必要な十分量の細胞が得られることが分かった。特に、CD8陽性細胞の割合も、HER2発現細胞にK562やRh30を用いた場合に比べてPBMCから調製した細胞を用いた場合は58.7%と2倍以上多く、CAR陽性のCD8陽性細胞の細胞数としては10倍以上の細胞が得られており、CD8陽性細胞のCAR-T細胞を優位に生産しえることが分かった。
【0102】
さらに、品質面においては、HER2発現細胞にPBMCから調製した細胞を用いた場合は、K562やRh30を用いた場合と比べてCAR陽性細胞中のPD-1の発現が0.7%と極めて低く、CD45RAおよびCCR7陽性のナイーブ細胞の割合も62.8%と1.5倍以上高いことから、細胞が若く、疲弊していないことが分かり、高い品質のCAR-T細胞を生産しうることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本開示によれば、CAR発現免疫細胞を製造する場合の細胞増殖率を高めることができ、細胞傷害活性の高いCAR-T細胞を安定的に製造することができる。特に、固形腫瘍を対象としたCAR発現免疫細胞の製造効率を飛躍的に向上させることができるため、様々ながん種に対してCAR-T細胞療法を応用することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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