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特許75765603D印刷のための難燃性ポリアミド及びコポリアミド
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  • 特許-3D印刷のための難燃性ポリアミド及びコポリアミド 図1
  • 特許-3D印刷のための難燃性ポリアミド及びコポリアミド 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】3D印刷のための難燃性ポリアミド及びコポリアミド
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/153 20170101AFI20241024BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20241024BHJP
   C08K 5/5357 20060101ALI20241024BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B29C64/153
B29C64/314
C08K5/5357
C08L77/00
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021556486
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-23
(86)【国際出願番号】 FR2020050581
(87)【国際公開番号】W WO2020188220
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】1902769
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フラ,ジャン-ジャック
(72)【発明者】
【氏名】ブリュレ,ブノワ
(72)【発明者】
【氏名】ゾビ,オルネラ
(72)【発明者】
【氏名】デュラン,ジャン-シャルル
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0115996(US,A1)
【文献】特開2005-048187(JP,A)
【文献】国際公開第2017/158688(WO,A1)
【文献】特表2008-505243(JP,A)
【文献】特表2010-514855(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1888013(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C64/00-64/40
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末床溶融による難燃性部品の製造方法であって、粉末は少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を含み、環状ホスホン酸エステル型の難燃剤は一般式(I)
【化1】
[式中、
j、k、l及びmは同一であるか又は異なり、1~3の整数を表し、
及びAは同一であるか又は異なり、1~4個の炭素原子のアルキル基又は5~7個の炭素原子のアリール基を表す。]のものであり、
当該粉末は、少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミドと、環状ホスホン酸エステル型の少なくとも一種の難燃剤とを乾式混合することによって調製される、方法。
【請求項2】
前記方法が3D印刷方法であり、粉末が3D印刷用粉末である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法が粉末のレーザー焼結による3D印刷の方法である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリアミドが、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド610(PA610)、ポリアミド612(PA612)、ポリアミド11(PA11)及びポリアミド12(PA12)からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリアミドがPA11である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記環状ホスホン酸エステル型の難燃剤が一般式(II)
【化2】
[式中、
及びAは同一であるか又は異なり、1~4個の炭素原子のアルキル基又は5~7個の炭素原子のアリール基を表す。]のものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記環状ホスホン酸エステル型の難燃剤が次式(III)
【化3】
のものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記粉末が、該粉末の全重量に対して、5~40重量%の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記粉末が、該粉末の総重量に対して、少なくとも50重量%のポリアミド及び/又はコポリアミドを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記粉末が、環状ホスホン酸エステル型の難燃剤の協力剤、顔料、染料、可塑剤、酸化防止剤、注入剤、及びUV吸収剤からなる群から選択される少なくとも1種の他の添加剤を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
粉末床溶融による難燃性部品の製造を目的とする粉末であって、少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を含み、該環状ホスホン酸エステル型の難燃剤が一般式(I)
【化4】
[式中、
j、k、l及びmは同一であるか又は異なり、1~3の整数を表し、
及びAは同一であるか又は異なり、1~4個の炭素原子のアルキル基又は5~7個の炭素原子のアリール基を表す。]のものであり、
当該粉末は、少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミドと、環状ホスホン酸エステル型の少なくとも一種の難燃剤とを乾式混合することによって調製される、
粉末。
【請求項12】
3D印刷方法を意図した、請求項11に記載の粉末。
【請求項13】
前記環状ホスホン酸エステル型の難燃剤が一般式(II)
【化5】
[式中、
及びAは同一であるか又は異なり、1~4個の炭素原子のアルキル基又は5~7個の炭素原子のアリール基を表す。]のものである、
請求項11又は12に記載の粉末。
【請求項14】
前記粉末が、該粉末の全重量に対して、5~40重量%の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤を含む、請求項11~13のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項15】
前記粉末が、該粉末の総重量に対して、少なくとも50重量%のポリアミド及び/又はコポリアミドを含む、請求項11~14のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項16】
前記粉末が、環状ホスホン酸エステル型の難燃剤の協力剤、顔料、染料、可塑剤、酸化防止剤、注入剤、及びUV吸収剤からなる群から選択される少なくとも1種の他の添加剤を含む、請求項11~15のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項17】
難燃性部品を製造するための、粉末床溶融方法における請求項11~16のいずれか一項に記載の粉末の使用。
【請求項18】
少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を混合することを含み、該環状ホスホン酸エステル型の難燃剤が一般式(I)
【化6】
[式中、
j、k、l及びmは同一であるか又は異なり、1~3の整数を表し、
及びAは同一であるか又は異なり、1~4個の炭素原子のアルキル基又は5~7個の炭素原子のアリール基を表す。]のものであり、
前記混合が乾式混合により行われる、
請求項11~16のいずれか一項に記載の粉末の調製方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末床溶融による難燃性部品の製造方法であって、粉末は、少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミドと、少なくとも1種の難燃剤とを含む方法、及びまたその対応する粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
あらゆる粉末床溶融技術、特に付加製造のための層ごとに使用することができる難燃性ポリアミド又はコポリアミド粉末の製造のための主要な産業上の課題は、以下の4点として要約することができる。すなわち、
(i) 必要な耐火性レベルを低コストで達成すること、
(ii) 特に環境にやさしい難燃性添加剤を用いる持続可能な開発と関連すること、
(iii) ポリアミドの機械的特性をできるだけ保持すること、及び
(iv) 3D機器でこれらの材料の良好な加工可能性を得ることである。
【0003】
ポリマーの難燃性は、従来、鉱物充填剤又は難燃性添加剤、特にハロゲン化化合物をベースとする難燃性添加剤の分散により従来提供される。
【0004】
しかし、使用されるこれらの化合物の大部分は、非常に効果的ではあるが、様々な規制の対象となっており、実際、環境に対する有害な影響又はその毒性の結果として、それらの使用は長期的には禁止さえされている。
【0005】
これに関連して、リン、窒素又は無機化合物をベースとする化合物等、新規な非ハロゲン化系が開発された。
【0006】
このように、その部品のための特許出願US2010/0324190号は、ポリアミド12及びポリリン酸アンモニウム型の難燃性添加剤を含む粉末、及び3D印刷におけるその使用について記載している。しかし、ポリリン酸アンモニウムは、それを含む部品による水のかなりの取込みの原因となっており、これは湿度レベルの変動の際にそれらの寸法安定性に悪影響を及ぼす。
【0007】
したがって、難燃性ポリアミド粉末の必要性を満たすためには、難燃性添加剤の他の代替品を見出すことが依然として必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許出願公開第2010/0324190号明細書
【発明の概要】
【0009】
本発明は、本発明者による、3D印刷用粉末への次式(III)の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤の添加が先行技術に応じて得られるものと同等以上の難燃性を部品に付与しながら、3D印刷で良質な部品を得ることを可能にするという予期せぬ証拠から生じる。
【0010】
【化1】
【0011】
3D印刷用の粉末及び本発明の難燃剤の混合物は、合体問題を示さない、したがって良好な機械的特性を保証する十分に焼成された難燃性部品を得ることを可能にすることが観察された。
【0012】
本発明は、粉末床溶融による難燃性部品の製造方法であって、粉末は、少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミドと、環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤とを含む方法に関する。
【0013】
本発明はまた、少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミドと、環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤とを含む、粉末床溶融による難燃性部品の製造を目的とする粉末に関する。
【0014】
本発明はまた、難燃性部品を製造するために、粉末床溶融方法、特に3D印刷方法、より具体的にはレーザー又は赤外線焼結による3D印刷方法における、少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミドと、環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤とを含む粉末の使用に関する。
【0015】
本発明はまた、少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミドと、環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤との混合を含む、上で定義された粉末の調製方法に関する。
【0016】
<粉末床溶融>
本明細書で理解されるように、粉末床溶融による方法は、本発明による粉末床の特定の領域の選択的溶融によって物体又は部品が得られる付加製造方法である。
【0017】
好ましくは、本発明による方法は3D印刷方法であり、前記粉末は3D印刷用の粉末である。より好ましくは、本発明による方法は、粉末のレーザー又は赤外線焼結による3D印刷のための方法である。
【0018】
本発明の意味において、「3D印刷」又は「付加製造」とは、粉末を層ごとに付加又は凝集させることによる部品の大量生産のための任意の方法を意味するものと理解される。溶融による粉末の凝集(以下「焼結」という。)は、例えば、レーザー光線(レーザー焼結)、赤外線放射、UV放射、又は三次元の物体を製造するために層ごとに粉末層を溶融することを可能にする任意の電磁放射線源のような放射線によってもたらされる。層ごとの物体の製造技術については、特許出願WO2009/138692号(1頁~3頁)に特に記載されている。
【0019】
本発明の意味において、「3D印刷」又は「付加製造」という用語は、吸収剤を用いる選択的焼結技術、特に「高速焼結」(HSS)及び「マルチジェットフュージョン」(MJF)という名称で知られている技術を意味すると理解される。これらの技術において、物体の3D製造もデジタルファイルから出発して層ごとに実施され、その方法は3D物体を構成する各層に対して制御された方法で溶融される粉末(例えば、ポリマー)を用い、吸収剤を含む領域の溶融をもたらす電磁放射線(例えば、赤外線放射)への層の曝露前に層上に(例えば、「インクジェット法」における液体インクによって)堆積させる。例えば、特許文献US9643359号及びEP1648686号にはそのような方法が記載されている。
【0020】
3D印刷は、一般に、試作品、部品のモデルの製造(「迅速試作」)を製造するため、又は小さなシリーズで機能部品を製造するため(「迅速製造」)に、例えば、自動車、船舶、航空、航空宇宙、医療(義肢、聴覚システム、細胞組織等)、繊維製品、衣服、ファッション、装飾、電子住宅、電話技術、家庭自動化、コンピュータ、照明、スポーツ、工業用ツール等の分野で使用される。
【0021】
本明細書において、「焼結」という用語は、放射線の種類にかかわらず、これらの全ての過程を含む。以下に続く本文において、レーザー焼結方法について通常言及されている場合であっても、レーザー焼結のために書かれたものは、もちろん他の焼結方法にも有効である。
【0022】
焼結方法では、変形現象を避けるために、第一加熱融点Tf1と結晶化温度Tcの相違ができるだけ大きく、製造部品の良好な幾何学的定義を得るために、融解エンタルピーΔHfができるだけ高いポリアミドを使用することが推奨される。これにより、ポリアミド粉末と共に働くための窓を増やし、焼方法での使用をはるかに容易にすることが可能になる。そのような粉末を入手するための方法は、特に文献FR2867190号、FR2873380号及びFR2930555号に記載されている。好ましくは、焼結に用いるPA粉末の相違Tf1-Tcは30℃~50℃の範囲内である。
【0023】
レーザー焼結のような焼結方法には、以下の特性を有するポリアミド粉末を用いることも好ましい。
【0024】
粒子の溶融がエネルギーを過剰に必要としないためにも、また、粒間の合体が放射線の通過中に十分であるためにも、可能な限りの気孔率の低い、良好な機械的特性を有する物体を得るためにも、固体状態の粉末の分子量は十分に低いこと、すなわち、溶液中での3未満の固有粘度を有するものであることが好ましい。固有粘度は、ウベローデ管を用いて規格ISO 307:2007(25℃ではなく20℃での測定温度)を適用することにより測定され、測定はm-クレゾール中の0.5%(w/w)の濃度で75mgの試料について20℃で実施される。固有粘度は(g/100g)-1で表され、次式により算出される。
固有粘度=ln(t/t)×1/C、ここでC=m/p×100
式中、tは溶液の流動時間、tは溶媒の流動時間、mは粘度が決定される試料の重量、pは溶媒の重量である。
【0025】
<ポリアミド及びコポリアミド>
本発明の意味において、「ポリアミド」という用語は、以下の縮合生成物を意味すると理解される。
【0026】
- アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、11-アミノウンデカン酸及び12-アミノドデカン酸等の1種以上のアミノ酸、又はカプロラクタム、エナントラクタム及びラウリルラクタム等の1種以上のラクタム、
【0027】
- ヘキサメチレンジアミン、デカンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタ-キシリレンジアミン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン及びトリメチルヘキサメチレンジアミン等のジアミンと、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸及びドデカンジカルボン酸等の二酸との1以上の塩又は混合物。ポリアミドの例として、PA6、PA66、PA610、PA612、PA1010、PA1012、PA11及びPA12を挙げることができる。
【0028】
本発明によるコポリアミドとして、少なくとも2種の異なるモノマー、例えば、少なくとも2種の異なるα,ω-アミノカルボン酸、又は2種の異なるラクタム、又は異なる炭素数を有する1種のラクタム及びα,ω-アミノカルボン酸の縮合から得られるコポリアミドを挙げることができる。また、少なくとも1種のα,ω-アミノカルボン酸(又は1種のラクタム)、少なくとも1種のジアミン及び少なくとも1種のジカルボン酸の縮合から得られるコポリアミドも挙げることができる。また、脂肪族ジアミン及び脂肪族ジカルボン酸及び先行するもの以外の脂肪族ジアミン及び先行するもの以外の脂肪族二酸から選択される少なくとも1種の他のモノマーの縮合から得られるコポリアミドも挙げることができる。コポリアミドの例として、カプロラクタムとラウリルラクタムとのコポリマ-(PA6/12)、カプロラクタムとアジピン酸とヘキサメチレンジアミンとのコポリマー(PA6/66)、カプロラクタムとラウリルラクタムとアジピン酸とヘキサメチレンジアミンとのコポリマー(PA6/12/66)、カプロラクタムとラウリルラクタムと11-アミノウンデカン酸とアゼライン酸とヘキサメチレンジアミンとのコポリマー(PA6/69/11/12)、カプロラクタムとラウリルラクタムと11-アミノウンデカン酸とアジピン酸とヘキサメチレンジアミンとのコポリマー(PA6/66/11/12)、ラウリラクタムとアゼライン酸とヘキサメチレンジアミンとのコポリマー(PA69/12)、11-アミノウンデカン酸とテレフタル酸とデカメチレンジアミンとのコポリマー(PA11/10T)を挙げることができる。
【0029】
規格NF EN ISO 1874-1:2011では、ポリアミドの命名法を定義している。ポリアミドをベースとする粉末の本説明における「モノマー」という用語は、「繰り返し単位」という意味で解釈されなければならない。ポリアミドの繰り返し単位が、二酸とジアミンとの組合せからなる場合は特別である。それは、モノマーに相当する等モル量の「ジアミン二酸」、すなわち「XY」対と呼ばれるジアミンと二酸の組合せであると考えられる。これは、個々には、二酸又はジアミンは単なる構造単位であり、それだけではポリマーを形成するには不十分であるという事実によって説明される。
【0030】
ジアミンXの例として、6~18個の原子を有する脂肪族ジアミンを挙げることができ、ジアミンXはアリール及び/又は飽和環式であることも可能である。例として、ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、テトラメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、1,5-ジアミノヘキサン、2,2,4-トリメチル-1,6-ジアミノヘキサン、ポリオールジアミン、イソホロンジアミン(IPD)、メチルペンタメチレンジアミン(MPDM)、ビス(アミノシクロヘキシル)メタン(BACM)、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン(BMACM)、メタ-キシリレンジアミン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン及びトリメチルヘキサメチレンジアミンを挙げることができる。
【0031】
二酸(又はジカルボン酸)Yの例として、4~36個の間の炭素原子を有する酸を挙げることができる。例えば、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、スベリン酸、イソフタル酸、ブタン二酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、スルホイソフタル酸のナトリウム又はリチウム塩、二量体化脂肪酸(これらの二量体化脂肪酸は少なくとも98%の二量体含有率を有し、好ましくは水素化されている)及びドデカン二酸HOOC-(CH10-COOHが挙げられる。
【0032】
ラクタム又はアミノ酸モノマーは「Z」型であると言われている。
【0033】
ラクタムの例として、主環上に3~12個の炭素原子を有し、かつ置換され得るものを挙げることができる。例えば、β,β-ジメチルプロピオラクタム、α,α-ジメチルプロピオラクタム、アミロラクタム、カプロラクタム、カプリルラクタム、エナントラクタム、2-ピロリドン及びラウリルラクタムを挙げることができる。
【0034】
アミノ酸の例として、アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、11-アミノウンデカン酸、n-ヘプチル-11-アミノウンデカン酸及び12-アミノドデカン酸等のα,ω-アミノ酸を挙げることができる。
【0035】
好ましくは、本発明のポリアミド及び/又はコポリアミドを含む粉末は、以下のXY又はZモノマー、すなわち、46、4T、56、59、510、512、513、514、516、518、536、6、69、610、612、613、614、616、618、636、6T、9、109、1010、1012、1013、1014、1016、1018、1036、10T、11、12、129、1210、1212、1213、1214、1216、1218、1236、12T、MXD6、MXD10、MXD12、MXD14、及びそれらの混合物の少なくとも1種を含むポリアミド及びコポリアミドから選択され、特にPA11、PA12、PA1010、PA6、PA6/10、PA6/12、PA10/12、PA11/1010、及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミドを含む。
【0036】
本発明によるポリアミド及び/又はコポリアミドは、ポリアミド及び/又はコポリアミドの混合物であることができる。混合物の例として、脂肪族ポリアミド/コポリアミド及び半芳香族ポリアミド/コポリアミドの混合物、脂肪族ポリアミド及び環状脂肪族ポリアミドの混合物を挙げることができる。
【0037】
本発明によるポリアミド及び/又はコポリアミドは、ポリアミドブロックを有するコポリマー、特にポリアミドブロック及びポリエーテルブロックを有するコポリマーであることができる。
【0038】
ポリアミドブロック及びポリエーテルブロックを有するコポリマーは、反応性末端を有するポリアミドブロックと反応性末端を有するポリエーテルブロック、例えば、特に以下との共重合から得られる。
1) ジアミン鎖末端を有するポリアミドブロックとジカルボキシル鎖末端を有するポリオキシアルキレンブロック、
2) ジカルボキシル鎖末端を有するポリアミドブロックと、ポリエーテルジオールとして知られるα,ω-ジヒドロキシル化脂肪族ポリオキシアルキレンブロックのシアノエチル化及び水素化により得られるジアミン鎖末端を有するポリオキシアルキレンブロック、
3) ジカルボキシル鎖末端を有するポリアミドブロックとポリエーテルジオール、得られた生成物は、この特定の場合、ポリエーテルエステルアミドである。これらのコポリマーは有利に使用される。
【0039】
ジカルボキシル鎖末端を有するポリアミドブロックは、例えば、連鎖制限ジカルボン酸の存在下でのα,ω-アミノカルボン酸、ラクタム又はジカルボン酸及びジアミンの縮合から得られる。
【0040】
ポリエーテルは、例えば、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)であることができる。後者はポリテトラヒドロフラン(PTHF)としても知られている。
【0041】
ポリアミドブロックの数-平均モル質量は300~15000の間であり、好ましくは600~5000g/molの間である。ポリエーテルブロックのモル質量は100~6000の間であり、好ましくは200~3000g/molの間である。
【0042】
ポリアミドブロック及びポリエーテルブロックを有するポリマーはまた、無作為に分布した単位を含むことができる。これらのポリマーは、ポリエーテルとポリアミドブロックの前駆体との同時反応によって調製することができる。
【0043】
例えば、ポリエーテルジオール、ラクタム(又はα,ω-アミノ酸)及び連鎖制限二酸は、水の存在下で反応させることができる。本質的にポリエーテルブロック及び非常に多様な長さのポリアミドブロックだけでなく、無作為に反応し、ポリマー鎖に沿って無作為に分布している種々の反応物質も有するポリマーが得られる。
【0044】
ポリエーテルジオールブロックはそのまま使用され、カルボキシル末端基を有するポリアミドブロックと共重合されるか、又はそれらはポリエーテルジアミンに変換されるためにアミノ化され、カルボキシル末端基を有するポリアミドブロックと縮合される。また、ランダムに分配した単位を有するポリアミドブロック及びポリエーテルブロックを有するポリマーを製造するために、それらをポリアミド前駆体及び連鎖制限剤と混合することができる。
【0045】
ポリアミドの量に対するポリアミドブロック及びポリエーテルブロックを有するコポリマーの量の比は、有利には、重量で1/99~15/85の間である。好ましくは、本発明によるポリアミド及び/又はコポリアミドは、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド610(PA610)、ポリアミド612(PA612)、ポリアミド11(PA11)及びポリアミド12(PA12)からなる群から選択される。より好ましくは、本発明によるポリアミド及び/又はコポリアミドはPA11である。
【0046】
<難燃剤>
好ましくは、環状ホスホン酸エステル型の難燃剤は一般式(I)のものである。
【0047】
【化2】
式中、
j、k、l及びmは同一であるか又は異なり、1~3までの整数を表し、
及びAは同一であるか又は異なり、1~4個の炭素原子のアルキル基又は5~7個の炭素原子のアリール基を表す。
【0048】
より好ましくは、環状ホスホン酸エステル型の難燃剤は一般式(II)のものである。
【0049】
【化3】
式中、
及びAは同一であるか又は異なり、1~4個の炭素原子のアルキル基又は5~7個の炭素原子のアリール基を表す。
【0050】
より好ましくは、環状ホスホン酸エステル型の難燃剤は、次式(III)のものである。
【0051】
【化4】
【0052】
一般に、難燃剤は粉末であり、典型的には1~40μm、好ましくは5~30μmの範囲内の体積-中央直径D50を有する。
【0053】
<粉末>
本発明による粉末は、典型的には、5~200μmの範囲内の体積-中央直径D50を有する。
【0054】
1つの実施形態によると、粉末は、10~150μm、好ましくは20~100μm、25~80μmの範囲内の体積-中央直径D50を有する。
【0055】
粉末粒子の体積-中央直径(D50)は、規格ISO 9276の1~6部:「Representation of results of particle size analysis」に従って測定する。
【0056】
粉末は、特に、環状ホスホン酸エステル型の難燃剤と、少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミドとを混合することによって得ることができる。当業者に知られている任意の方法を用いることができる。
【0057】
例として、ポリアミド及び/又はコポリアミドの合成中、特に合成開始時又は終了時に環状ホスホン酸エステル型の難燃剤を添加すること、配合により混合すること、特に、例えば、溶媒中に分散又は溶解した環状ホスホン酸エステル型の難燃剤を含む溶媒中にポリアミドを溶解/沈殿させることにより、又は粉末との乾式混合により、ポリアミドから粉末を製造する方法のいずれか1段階の間に環状ホスホン酸エステル型の難燃剤を添加することが挙げられる。
【0058】
好ましくは、本発明による粉末の調製方法は、難燃剤及び少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミドの乾式混合によって行われる。
【0059】
乾式混合を実施するために、例えば、ヘンシェルブレンダー、マジミックスブレンダー又はレディゲブレンダーのように当業者に知られたブレンダーを使用することができる。混合は、有利には、周囲温度で行われる。回転速度を容易に調整することができる。
【0060】
粉末は、任意に、混合後にふるい分けることができる。
【0061】
これは、本発明の有利な態様を構成し、すなわち、粉末形態の難燃剤は、上記型の単純なブレンダーを使用してポリアミド粉末中に分散させることが非常に容易である。
【0062】
好ましくは、粉末は、粉末の総重量に対して、5重量%~40重量%、好ましくは5重量%~35重量%、より好ましくは5重量%~30重量%、好ましくは5重量%~25重量%の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤を含む。
【0063】
好ましくは、粉末は、粉末の総重量に対して、少なくとも40重量%、50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%又は95重量%のポリアミド及び/又はコポリアミドを含む。好ましくはまた、粉末は、粉末の総重量に対して、最大で95重量%、90重量%、80重量%、70重量%、60重量%又は50重量%のポリアミド及び/又はコポリアミドを含む。
【0064】
粉末はまた、少なくとも1種の他のポリマーを含むことができる。この他のポリマーの例として、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、PPO(ポリフェニレンオキシドの略)、PPS(ポリフェニレンスルフィドの略)又はエラストマーが挙げられる。本発明の具体的な実施形態において、本発明による粉末は、本発明によるポリアミド及び/又はコポリアミド以外のポリマーを含まない。
【0065】
好ましくは、本発明による粉末は、少なくとも1種の他の添加剤、特に、環状ホスホン酸エステル型の難燃剤の協力剤、顔料、染料、可塑剤、酸化防止剤、注入剤(pourability agent)及びUV吸収剤からなる群から選択される少なくとも1種の他の添加剤を含む。
【0066】
好ましくは、環状ホスホン酸エステル型の難燃剤の協力剤は、ジエチルホスフィン酸アルミニウム(ALDEP)、メラミンシアヌレート、ピロリン酸塩、赤リン、リン酸塩、ポリリン酸メラミン及びポリリン酸アンモニウムからなる群から選択される。
【0067】
本発明の一実施形態では、本発明による粉末は、環状ホスホン酸エステル型の難燃剤の協力剤を含まない。
【0068】
本発明の粉末は、特に乾式混合方法によって調製された場合、良好なリサイクル性を示すことが観察された。このように、本発明は、再現可能な機械的特性及び難燃特性を有する難燃性の物体を得るために、3D印刷に続いて部品に変換されなかった粉末をリサイクルすること、すなわち、その後の3D印刷方法において、変換されなかった粉末を再利用することを可能にする。
【0069】
一態様によれば、本発明は、上で定義されたリサイクル粉末を使用する粉末床溶融、特に3D印刷、より具体的にはレーザー焼結による3D印刷による難燃性部品の製造方法に関する。
【0070】
<難燃性部品>
本発明による難燃性部品は、粉末床溶融、特に3D印刷、より具体的にはレーザー焼結による3D印刷によって製造され得る任意の種類のものであることができる。
【0071】
有利には、本発明による粉末は、特に実施例に記載されている規格UL 94V及びIEC 60695-11-10に従う、V-2、より有利にはV-1、さらにより有利にはV-0に分類される部品を得ることを可能にするようなものである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図1】本発明による粉末から出発して3D印刷により得られた部品の写真である。
図2】比較粉末から出発して3D印刷により得られた部品の写真である。
【実施例
【0073】
本発明は、以下の実施例及び図を用いて、非限定的な方法でさらに明らかにされる。
【0074】
[実施例1]
粉末の総重量に対して83重量%のポリアミド11(Rilsan Invent Natural (RIN)、Arkema)、及び粉末の総重量に対して17重量%の次式(III)の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤の粉末を乾式混合(ヘンシェルブレンダーを使用)することにより本発明による粉末を製造する。
【0075】
【化5】
【0076】
粉末の総重量に対して80重量%のポリアミド11(Rilsan Invent Natural (RIN)、Arkema)、及び粉末の総重量に対して20重量%のポリリン酸メラミン型の難燃剤(Melapur(商標) 200、BASF)を含む比較粉末を製造する。
【0077】
Formiga(R) P 100(Eos)3Dプリンタに供給するため、及び以下の寸法、すなわち、長さ127mm、幅12.7mm及び厚さ2.5mmを有する棒の型の部品を印刷するために、この粉末を使用する。
【0078】
得られた部品の写真を図1(本発明による粉末)及び図2(比較粉末)に示す。
【0079】
本発明による粉末は完全に滑らかな部品を得ることを可能にするが、比較粉末で得られた部分は合体問題を示すことが観察される。このように比較粉末は3D印刷には不適切である。
【0080】
[実施例2]
難燃剤Antiblaze 1045(R)と同じ分子を有する市販の難燃剤Technirez(R) FR-001を用いて試験を行ったところ、粘稠な液状の外観を示した。
【0081】
試験1:難燃剤Technirez(R) FR-001をヘンシェルブレンダーによりポリアミド粉末に導入した。
【0082】
非常にふわふわの粉末が得られる。それは3D印刷機では使用できない、つまり部品の焼結ができなかった。
【0083】
試験2:難燃剤Technirez(R) FR-001を、撹拌しながらポリアミド粉末と共にヘンシェルブレンダーに導入する前に、70℃で予熱する。
【0084】
非常にふわふわの粉末が得られる。それは3D印刷機では使用できない、つまり部品の焼結ができなかった。
【0085】
[実施例3]
実施例1に定義する本発明による粉末から得た部品を、規格UL 94Vに従って試験した。
【0086】
簡潔に言えば、この規格によれば、試料の長さは127mmであり、その幅は12.7mmである。その厚さは12.7mmを超えてはならない。試料は垂直位置において上端から1/4で固定する。脱脂綿で覆われた金属網を試料から305mm下に配置する。44±2秒で温度が100℃から700℃に上昇する19mmの青炎を形成するために、バーナーを調整する。この炎を9.5mmの距離で下からプラスチック試料の下端の表面に向ける。炎を10秒間当てた後、取り除く。試料の燃焼時間を測定する。燃焼が止まったらすぐに10秒間炎を再び当てる。すぐに取り除き、燃焼時間及び発光時間を再度測定する。5つの試料について完全な試験を実施する。
【0087】
以下の場合に、試験した材料をUL 94のV-0に分類する。
A) 5つの試料のいずれもが、バーナーの炎を取り除いてから10秒を超えて燃焼しない。
B) 10回の試験における総燃焼時間が50秒を超えない。
C) 試験した試料はいずれも、保持ジョー(jaw)まで炎を伴う燃焼も、白熱光による燃焼もなかった。
D) 下に置いた綿布を引火させる可能性のある光る滴下物は、いずれの試料からも落下しない。
E) いずれの試料も30秒を超える発光時間を示さない。
【0088】
以下の場合に、試験した材料をUL 94のV-1に分類する。
A) 5つの試料のいずれもが、バーナーの炎を取り除いてから30秒を超えて燃焼しない。
B) 10回の試験における総燃焼時間が250秒を超えない。
C) 試験した試料はいずれも、保持ジョーまで炎を伴う燃焼も、白熱光による燃焼もなかった。
D) 下に置いた綿布を引火させる可能性のある光る滴下物は、いずれの試料からも落下しない。
E) いずれの試料も60秒を超える発光時間を示さない。
【0089】
以下の場合に、試験した材料をUL 94のV-2に分類する。
A) 5つの試料のいずれもが、バーナーの炎を取り除いてから30秒を超えて燃焼しない。
B) 10回の試験における総燃焼時間が250秒を超えない。
C) 試験した試料はいずれも、保持ジョーまで炎を伴う燃焼も、白熱光による燃焼もなかった。
D) 少数の破片が試験した試料から剥がれ、一時的に燃えることがあり、その一部は下に置いた綿布を引火することがある。
E) いずれの試料も60秒を超える発光時間を示さない。
【0090】
規格UL 94 Vに従った試験結果:試料上で、厚さ1.3mmで測定して、規格UL 94に従って本発明による部品をV-0に分類する。
【0091】
比較により、PA11(PA D80-ST、ALM)をベースとする3D印刷用難燃ポリアミドの粉末FR-106(Advanced Laser Materials、ALM)を用いて得られ、臭素化ポリアクリレート型の難燃剤(FR-1025、ALM)を含む、同じ寸法の部品を試験し、試料上の厚さ2.5mmで測定して、規格UL 94に従ってV-2に分類する。
【0092】
本発明による混合物は、3D印刷において良好な品質の部品を得るのに適している一方で、それらに先行技術に従って得られたものと同等以上の難燃性を付与する。
【0093】
[実施例4]
加えて、本発明による粉末を用いて得られた部品の最大応力及び破断点伸びという機械的特性は、ハロゲン化難燃剤を含む比較粉末FR-106で得られた部品の特性と同等である。規格ISO 527-2:2012-1Aに従って測定されたヤング率の改善はさらに注目され、本発明の部品では約2000MPaであるのに対し、比較粉末FR-106で得られた部品では1750である。
【0094】
本発明は、このように、ハロゲン化添加剤を含まない粉末を提供し、これは、調製が容易であり、3D機器で使用するのが容易であり、機械的特性を保持しながら、より良好な難燃特性を有する部品を製造することを可能にする。
図1
図2