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特許7576572バッファ粒子を備えるベルト上の切削工具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】バッファ粒子を備えるベルト上の切削工具
(51)【国際特許分類】
   B28D 1/08 20060101AFI20241024BHJP
   B23D 61/12 20060101ALI20241024BHJP
   B24D 99/00 20100101ALI20241024BHJP
   B24D 3/06 20060101ALI20241024BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20241024BHJP
   C04B 35/5831 20060101ALI20241024BHJP
   C04B 35/52 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B28D1/08
B23D61/12 B
B24D99/00 C
B24D3/06 B
B24D3/00 310F
B24D3/00 320B
B24D3/00 340
B24D3/00 320A
C04B35/5831
C04B35/52
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021571411
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-31
(86)【国際出願番号】 EP2020066893
(87)【国際公開番号】W WO2021001157
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】102019117796.0
(32)【優先日】2019-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500265671
【氏名又は名称】ヴイクス・ゼーゲンファブリーク・ヴィルヘルム・ハー・クルマン・ゲゼルシヤフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンデイトゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】クルマン,イェルク エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】グライム,パトリック
【審査官】程塚 悠
(56)【参考文献】
【文献】特公昭49-000318(JP,B1)
【文献】国際公開第2017/163565(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 1/00-7/04
B23D 61/12
B24D 3/00-3/06
B24D 99/00
C04B 35/52
C04B 35/5831
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト状に構成された歯支持体(2)と、それぞれ1つの歯先(4)を備える複数の歯(3)とを有する切削工具(1)であって、前記歯先には、幾何形状が特定されない複数の刃を形成するために、加工物の切削に作用する複数の切断粒子(5)が被覆されている、切削工具であって、
前記歯先(4)は、前記切断粒子(5)とは別の材料からなる、少なくとも最終的に加工物の切削に作用しないバッファ粒子(6)によりさらに被覆されており、
前記切断粒子(5)および前記バッファ粒子(6)は、金属層(7)に、部分的に埋め込まれていて、
前記バッファ粒子(6)の被覆によって、前記切断粒子(5)の間に間隔が存在する、または、バッファ粒子(6)が除去されると、前記切断粒子(5)の間にバッファ粒子(6)が除去された空間によって間隔が作り出される、
ことを特徴とする切削工具。
【請求項2】
前記金属層(7)は、電気メッキ析出層、または化学的金属析出層である、ことを特徴とする請求項1に記載の切削工具(1)。
【請求項3】
前記金属層(7)は、金属、ニッケル、クロムまたは銅からなり、前記金属は、電気メッキまたは化学的金属析出の際に金属イオンとして前記歯先(4)に堆積しており、前記金属イオンと前記金属層(7)の金属とは前記バッファ粒子(6)ではない、ことを特徴とする請求項2に記載の切削工具(1)。
【請求項4】
前記歯先(4)の被覆部分は、バッファ粒子の10~60%、10~50%、20~50%又は30~50%からなる、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項5】
前記切断粒子(5)と前記バッファ粒子(6)は、同じ平均サイズを有する、ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項6】
前記切断粒子(5)の平均サイズおよび前記バッファ粒子(6)の平均サイズは、60~800μm、100~800μm、200~800μm、300~800μm、400~800μm、500~800μm、500~700μmの間又は600μmである、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項7】
前記バッファ粒子(6)は、前記切断粒子(5)のよりも小さい硬度および/または小さい熱耐性を有する、ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項8】
非常に硬い前記切断粒子(5)は、単結晶ダイヤモンド(MKD)、多結晶ダイヤモンド(CVD-D)、多結晶ダイヤモンド(PKD)、立方晶窒化ホウ素(CBN)、切断セラミック、超硬合金、またはそれらの組み合わせを含み、および/または
前記バッファ粒子(6)は、単結晶ダイヤモンド(MKD)、多結晶ダイヤモンド(CVD-D)、多結晶ダイヤモンド(PKD)、立方晶炭化ホウ素(CBN)、炭化ケイ素、切断セラミック、超硬合金、プラスチック、ガラス、セラミック、炭化ホウ素、ニッケル、銅またはそれらの組み合わせを含む、ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項9】
前記切断粒子(5)は、立方晶炭化ホウ素(CBN)を、前記バッファ粒子(6)はダイヤモンドを含み、または、
前記切断粒子(5)は、ダイヤモンド、炭化ケイ素、切断セラミック、超硬合金、またはそれらの組み合わせを含み、前記バッファ粒子(6)は、プラスチック、ガラス、セラミック、炭化ホウ素、ニッケル、銅、またはそれらの組み合わせを含む、ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項10】
前記歯(3)は、変化するピッチで前記歯支持体(2)に配置されている、ことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の切削工具(1)。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の、ベルト状に構成された歯支持体(2)と、複数の歯(3)とを有する切削工具(1)の製造方法であって、
歯(3)の歯先(4)に、幾何形状が特定されない複数の刃を形成するために切断粒子(5)を被覆するステップを有する製造方法において、
前記歯(3)の前記歯先(4)を、前記切断粒子(5)とは別の材料からなるバッファ粒子(6)により、当該バッファ粒子(6)が前記切断粒子(5)の間に存在するように被覆するステップを特徴とする製造方法。
【請求項12】
前記切断粒子(5)および前記バッファ粒子(6)による前記被覆ステップは、同時に実行される、ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
気メッキまたは化学的金属析出によって、金属層(7)を前記歯(3)の前記歯先(4)の上に、前記切断粒子(5)と前記バッファ粒子(6)とが前記金属層(7)に部分的に埋め込まれるように取り付ける、ことを特徴とする請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記金属層(7)を取り付ける前記ステップは、切断粒子(5)とバッファ粒子(6)による前記被覆ステップの少なくとも前に実行される、ことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記バッファ粒子(6)は
-製造方法の後半の経過で、
-別個の初期化プロセスの際に、
-または、切削の開始時に、
除去されることを特徴とする請求項11から14のいずれか一項に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト状に構成された歯支持体と、幾何形状が特定されない複数の刃を形成するために切断粒子が被覆されたそれぞれ1つの歯先を備える複数の歯とを有する切削工具に関する。
【0002】
幾何形状が特定されない刃を備えるこの種の切削工具は、幾何形状が特定される刃を備える鋸ブレードとは異なり、金属の切削あるいは鋸引きに使用されるのではなく、特にガラス、グラファイト、無煙炭、セラミック、シリコン、コンクリート材料、CFK、焼成材料および天然石のような他の材料の鋸引きにしばしば使用される。
【背景技術】
【0003】
ベルト状に構成された歯支持体と、幾何形状が特定されない複数の刃を形成するために切断粒子が被覆されたそれぞれ1つの歯先を備える複数の歯とを有する切削工具は、出願人のブランド“DIAGRIT”の鋸ベルトとして、出願人のカタログ“PRAEZISIONS-SAEGEBAENDER”、2017年版、41ページから知られている。
【0004】
幾何形状が特定されない刃を形成するために切断粒子が被覆された切削工具は、特許文献1から公知である。切断粒子の他に、摩擦を低減するための潤滑剤構造も存在する。
【0005】
幾何形状が特定されない刃を形成するために切断粒子が被覆されたさらなる切削工具が、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、および特許文献7から公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】独国特許出願公開第102010062073号明細書
【文献】国際公開第2005/084879号
【文献】独国特許出願公開第102016100897号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0569770号明細書
【文献】独国特許翻訳第60102951号
【文献】独国実用新案第29814668号明細書
【文献】国際公開第2013/078487号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の基礎とする課題は、実装密度の高い切断粒子により、刃が切削すべき材料とかみ合ってしまい切断能力が低下すること、および又は送り力が過度に大きくなって切削工具が側方に撓んでしまい直線状の切断が達成されないことに鑑みて、切断粒子の実装密度を低くして、切断能力が低下しないと同時に切削工具の良好な直線進行を保証する、幾何形状が特定されない刃を備える切削工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は、独立請求項の特徴により本発明にしたがって解決される。
【0009】
さらなる好ましい本発明の構成は、従属請求項に記載されている。
【0010】
本発明は、ベルト状に構成された歯支持体と、幾何形状が特定されない複数の切断を形成するために切断粒子が被覆されたそれぞれ1つの歯先を備える複数の歯とを有する切削工具に関する。歯先はさらに、切断粒子とは別の材料からなるバッファ粒子により被覆されている。バッファ粒子は、切断粒子の間に存在する。
【0011】
本発明はさらに、ベルト状に構成された歯支持体と、複数の歯とを備える切削工具の製造方法に関する。歯の歯先には、幾何形状が特定されない刃を形成するために切断粒子が被覆されている。歯の歯先にはさらに、切断粒子とは別の材料からなるバッファ粒子が、このバッファ粒子が切断粒子の間に存在するように被覆されている。
【0012】
定義
切削工具:切削工具により実行される製造方法は、DIN8589-0によれば切削と称される。この規格によれば切削において、幾何形状が特定される刃による切削と、幾何形状が特定されない刃による切削とが区別される。幾何形状が特定される刃による切削には、DIN8589-6による鋸引きも含まれる。本切削工具は、幾何形状が特定されない刃により作業するので、前に述べた規格によれば鋸工具ではない。この理由から本出願では、該当する一般用語の切削工具が使用される。実際には、切断粒子を備えるこの技術分野の切削工具は、鋸ベルトあるいは鋸ブレードとも称される。
【0013】
切断粒子:切断粒子とは、本出願では、加工物の切削に作用する粒子と理解される。この粒子は、切断材料からなるか、または切断材料を含む。切断材料は、加工物の切断または切削に適する材料である。したがって切断粒子は、同時に切断材料粒子である。
【0014】
バッファ粒子:バッファ粒子とは、本出願では、その存在およびその配置により切断粒子間に間隔を生じさせ、それにより切断粒子間にバッファを形成する粒子であると理解される。バッファ粒子は、少なくとも最終的に加工物の切削には作用せず、したがって切断粒子ではない。バッファ粒子は、種々異なる材料からなる。しかしここで、バッファ粒子が切断材料からなる、またはそれを含むことも可能である。この場合、バッファ粒子は切断材料粒子であるが、切断粒子ではない。
【0015】
新規の切削工具の歯の歯先は、少なくとも2種の異なる粒子により被覆されており、これらの粒子は異なる特性を有し、それらには異なる機能が割り当てられている。
【0016】
第一種の粒子は、切断材料からなる切断粒子であり、これは基本的に従来技術から公知である。切断粒子は、加工物の切削に作用する。新規の第二種の粒子はバッファ粒子であり、これは、切断粒子の間の平均間隔を拡大するために用いられる。
【0017】
従来技術において、切断粒子による切削工具の歯の歯先の被覆には、いわゆるネストが、面積当たりで多数の、すなわち実装密度の高い切断粒子により形成されるという問題がある。そのため、切削の際にこの領域では、幾何形状が特定されない多数の刃が切削すべき材料とかみ合ってしまい、そのため、切断能力が低下する。それにより、送り力が過度に大きくなり、それによりさらに切削工具が側方に撓んでしまう。これにより所望のように直線状の切断が達成されない。これに対抗するために、確かにより高い送り速度を使用することができる。しかしそれにより、切断粒子の実装密度がより低い別の領域では、この切断粒子が過度に大きな切断力にさらされ、そのため急速に摩耗してしまう。これにより切削工具の耐用年数が短くなる。
【0018】
さらに従来技術には、切断粒子のこの種の高い実装密度では、切削により削り取られた切削加工物の材料に対して十分な中間空間が存在せず、そのため必要な程度に切断チャネルから排出されない。
【0019】
従来技術のこの欠点は、新規の切削工具の新規のバッファ粒子によって除去あるいは格段に低減される。バッファ粒子によってネストの形成および切断粒子の過度に大きな実装密度が阻止され、あるいは格段に低減される。バッファ粒子が、一種の間隔保持器を切断粒子間に形成するので、切断粒子の幾何形状が特定されない刃の間に所望の間隔が生じる。
【0020】
バッファ粒子は切断粒子間に存在するが、このことは、各バッファ粒子を2つの隣接する切断粒子間に正確に配置しなければならないと理解すべきではない。粒子の正確な位置は、製造方法において、多くの場合、確率分布の意味で生じ、したがって複数のバッファ粒子および/または複数の切断粒子が互いに隣接して配置されてもよい。しかし、ちょうど2つの切断粒子の間にバッファ粒子が存在する別の配置も可能である。
【0021】
バッファ粒子が、製造方法の後半の経過で、別個の初期化プロセスの際に除去される場合、または切削の開始時に初めて除去される場合、切削された材料を切断チャネルから排出するために所要の自由空間が切断粒子の間に作り出される。
【0022】
切断粒子およびバッファ粒子は、異なる物理的特性を有する。これらは異なる材料からなり、および/または異なる処理がされており、したがって少なくとも物理的特性に関して、粒子に異なる機能の割り当てを可能にする相違点を有する。
【0023】
切断粒子とバッファ粒子との間の異なる物理的特性は、それぞれの粒子がその所望の機能をもたらすように選択され、利用される。このことはバッファ粒子では、バッファ粒子により取り敢えず形成された幾何形状が特定されない刃が後では作用しなくなるか、または除去されることを意味する。
【0024】
第1のアプローチは、バッファ粒子が切断粒子よりも小さい硬度を有することである。このより小さい硬度は、切断粒子も影響を受けるプロセスでバッファ粒子が使い尽くされ、または除去され、一方で切断粒子はそのまま維持されるために利用される。このプロセスは、切削自体のための切削工具の使用、またはそのために設けられた互いに別個のプロセスとすることができる。例えばこれは、バッファ粒子が完全にまたは部分的に除去される、切削工具の製造方法の工程とすることができる。
【0025】
バッファ粒子は、択一的または付加的にも切断粒子よりも小さい熱耐性を有することができる。このより小さい熱耐性は、バッファ粒子が完全にまたは部分的に除去されることになるような高温で切削工具が熱処理され、一方で切断粒子はそのまま維持されるという意味で利用される。
【0026】
バッファ粒子は、択一的または付加的にも切断粒子よりも小さい化学耐性を有することができる。このより小さい化学耐性は、物質が両種の粒子に当たり、バッファ粒子が完全にまたは部分的に除去されることになるような化学処理を切削工具が受け、一方で切断粒子はそのまま維持されるという意味で利用される。
【0027】
切断粒子およびバッファ粒子は、金属層、特に電気メッキ析出層、または化学的金属析出層に、部分的に埋め込むことができる。したがって切断粒子およびバッファ粒子による歯先の被覆は、電気メッキプロセスまたは化学的金属析出プロセスの枠内で行われ、このプロセスでは、金属層が歯先に形成され、切断粒子とバッファ粒子の表面の一部が金属層内に堅固に配置され、それらの表面の別の部分が金属層から突き出るように部分的に金属層に付着する。その結果、切断粒子の幾何形状が特定されない刃は、切削工具の使用時に切削すべき加工物の材料と接触することができる。
【0028】
金属層は、金属、特にニッケル、クロムまたは銅からなり、金属は電気メッキまたは化学的金属析出の際に金属イオンとして歯先に堆積する。ここで金属イオンと金属層の金属とはバッファ粒子ではない。バッファ粒子は、金属イオンおよび金属層の金属とは異なる付加的な粒子である。
【0029】
しかし切断粒子とバッファ粒子は、別に形成された結合層に部分的に埋め込むこともできる。その場合、特に以下の結合形式が使用される:人口樹脂結合、セラミック結合、焼成金属結合および電気メッキ結合。
【0030】
歯先の被覆部分は、バッファ粒子の約10~60%、特に約10~50%、特に約20~50%、特に約30~50%からなることができる。この割合は、歯先の被覆面積を基準にするものであり、歯先の総面積を基準にはしない。通常、切断粒子にもバッファ粒子にも被覆されないそのような領域も、歯先に存在する。歯先が金属層により、上に説明したように覆われている場合、この切断粒子もバッファ粒子も存在しない領域は金属層により覆われる。歯先の被覆部分の掩ぺい率(%)は、切断粒子とバッファ粒子の大きさがほぼ一致する場合、これらの粒子が被覆プロセスに対して提供される、これら粒子の混合比にほぼ相当する。ここで前に述べた数値範囲は、確率分布を考慮して、上記の不利な作用を切削時に回避するために、切断粒子間に十分に大きな間隔が実現されることを保証する。
【0031】
切断粒子とバッファ粒子は、ほぼ同じ平均サイズを有する。この場合、上に述べたように被覆プロセス前の混合比は、被覆される歯先上での粒子の比に相当する。しかし、切断粒子とバッファ粒子が、異なる平均サイズを有することも可能である。
【0032】
切断粒子の平均サイズおよびバッファ粒子の平均サイズは、約60~800μm、特に約100~800μm、特に約200~800μm、特に約300~800μm、特に約400~800μmの間、特に約500~800μmの間、特に約500~700μmの間、特に約600μmとすることができる。このようなサイズオーダーは、切断粒子が所望の幾何形状が特定されない刃を提供し、かつバッファ粒子により所望のように互いに離間されていることを保証する。
【0033】
切断粒子は、硬くても良く、または非常に硬くても良い。
【0034】
ここで硬い切断粒子とは、特にコランダム(Al2O3)または炭化ケイ素(SiC)からなる粒子であると理解される。
【0035】
非常に硬い切断粒子は、単結晶ダイヤモンド(MKD)、多結晶ダイヤモンド(CVD-D)、多結晶ダイヤモンド(PKD)、立方晶窒化ホウ素(CBN)、切断セラミック、超硬合金、またはそれらの組み合わせを含むことができる。
【0036】
バッファ粒子は、単結晶ダイヤモンド(MKD)、多結晶ダイヤモンド(CVD-D)、多結晶ダイヤモンド(PKD)、立方晶炭化ホウ素(CBN)、炭化ケイ素、切断セラミック、超硬合金、プラスチック、ガラス、セラミック、炭化ホウ素、ニッケル、銅またはそれらの組み合わせを含むことができる。
【0037】
切断粒子は、立方晶炭化ホウ素(CBN)を、バッファ粒子はダイヤモンドを含むことができる。ダイヤモンドは約720℃から溶融し、CBNはこの温度に耐えるので、この場合、比較的小さな熱耐性が、バッファ粒子を完全にまたは部分的に除去するために利用される。
【0038】
切断粒子は、ダイヤモンド、炭化ケイ素、切断セラミック、超硬合金、またはそれらの組み合わせを含むことができ、バッファ粒子は、プラスチック、ガラス、セラミック、炭化ホウ素、ニッケル、銅、またはそれらの組み合わせを含むことができる。
【0039】
切削工具は、このように形成された1つの歯を有するだけでなく、複数の、特に多数のこの種の歯を有することが理解される。これは、切削工具の全ての歯とすることができる。しかし、付加的に別に形成された歯を切削工具に配置することも可能である。
【0040】
切削工具は、歯に配置された歯支持体を有する。歯は、歯支持体と一体的であって良く、またはこれとは別個に形成することもできる。後者の場合、歯または歯先は、適切なやり方で、特に溶接またはろう付けにより、歯支持体または歯突起と堅固に接合される。歯支持体は、長手に伸びるベルト状の構成を有する。別の言い方では、切削工具は、鋸ベルトに類似する切削ベルトである。
【0041】
歯は、ベルト状に構成された歯支持体の1つに、その長さ方向に沿って配置されている。これは鋸ベルトの場合の配置に相当し、研磨ベルトの場合の配置とは異なる。研磨ベルトでは歯が存在せず、切断粒子が研磨ベルトの幅広側の1つに配置されている。
【0042】
歯は、一定のピッチで歯支持体に配置されている。これは、歯の間の間隔が同じであることを意味する。しかし、歯が変化するピッチで歯支持体に配置されることも可能である。これは、歯の間の間隔が変化することを意味する。この場合、特に2から10の間の異なる間隔が、切削工具の歯の間に存在することができる。
【0043】
歯支持体は、適切な材料から構成される。これは特に金属材料である。例えば、ばね鋼や合金熱処理鋼である。
【0044】
切削すべき材料は、特に非金属無機材料や複合材料である。これらの材料は、特にガラス、グラファイト、無煙炭、セラミック、シリコン、コンクリート材料、CFK、焼結材料、天然石である。しかし金属であってもよい。
【0045】
本発明の有利な発展形態は、特許請求の範囲、明細書および図面から得られる。
【0046】
明細書に述べた特徴および複数の特徴の組み合わせの利点は単なる例であり、択一的にまたは累積的に作用することができ、これらの利点は本発明の実施形態により必然的に達成する必要はない。
【0047】
当初の出願書類および特許の開示内容(保護範囲ではない)に関して、以下が当てはまる。さらなる特徴は、図面、とりわけ図示の幾何形状および複数の構成部材の互いの相対的寸法並びにそれらの相対的配置と作用接続から理解される。本発明の種々の実施形態の特徴の組み合わせ、または種々の特許請求項の特徴の組み合わせは、特許請求項の選択された引用関係から異なっても同様に可能であり、ここにおいて提案される。このことは、別個の図面に示される特徴、または図面の説明において述べられる特徴にも該当する。これらの特徴は、異なる特許請求項の特徴と組み合わせることもできる。同様に、特許請求の範囲に挙げられた特徴を、本発明のさらなる実施形態に対しては省略することができる。しかしこれは、付与された特許の独立請求項に対しては当てはまらない。
【0048】
特許請求の範囲および明細書に挙げた特徴は、それらの数に関して、副詞「少なくとも」を明示的に使用する必要なく、ちょうどその数であり、または前記数よりも大きい数が存在していると理解すべきである。したがって例えば歯について述べる場合、これはちょうど1つの歯、2つの歯またはそれ以上の歯が存在することであると理解すべきである。これらの特徴は、別の特徴により補完することができ、またはそれぞれの製品を構成するただ1つの特徴であってもよい。
【0049】
特許請求の範囲に含まれる参照符号は、特許請求の範囲により保護される対象の範囲を制限するものではない。参照符号は、特許請求の範囲を容易に理解する目的のためにだけ用いられる。
【0050】
以下、本発明を、図面に示された好ましい実施例に基づき更に説明し記述する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】新規の切削工具の例示的実施形態の一部の斜視図である。
図2図1の切削工具の側面図である。
図3図1の切削工具の上面図である。
図4図1の切削工具の正面図である。
図5図1の切削工具の歯の歯先を正面から見た図である。
図6図5の歯先の詳細Bを示す図である。
図7】ほとんどの粒子を取り除いた切削工具の歯の歯先の別の詳細図である。
図8図7の歯先の詳細Dを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
図1~8は、新規の切削工具1の例示的実施形態を種々の方向から見て示す。切削工具1は、歯支持体2を有する。本例では長手に伸びるベルト状の切削工具1が取り扱われ、その一部だけが図示されている。切削工具1が、図1に示された破断線を越えて相応にさらに伸びていることが理解される。
【0053】
切削工具1は、歯支持体2に配置された複数の歯3を有する。歯3は、全体的にまたは部分的に歯支持体2と一体的に形成することができる。本例では、歯3は一定のピッチで歯支持体2に配置されている。しかし歯は、変化するピッチで歯支持体3に配置することもできる。
【0054】
歯3はそれぞれ1つの歯先4を有し、これは歯支持体2から離れる方向を指す。歯先4には、切断粒子5とバッファ粒子6が被覆されている。粒子5,6には、図4~8の拡大図にだけ参照符号が付されている。なぜなら粒子は、図1~3では、それらのサイズが小さいので上手く個別に指定することができないからである。
【0055】
切断粒子5とバッファ粒子6は、金属層7に堅固に配置され、部分的にこれに埋め込まれている。したがって粒子は、金属層7から部分的に突き出ている。金属層7は、特に電気メッキ析出層または化学的金属析出層である。
【0056】
切断粒子5とバッファ粒子6は、それらの材料および果たすべき機能に関して異なっている。これに関しては上記の詳細な説明を参照されたい。
【0057】
切断粒子5、バッファ粒子6および金属層7は、切削工具1の所望の切削機能をもたらす被覆領域8を共に形成し、これは、被覆領域がそのために必要な刃を含むことによる。この被覆層8は、歯先4の全体にわたり、または歯先4の一部にわたり伸びている。これは、歯先4の被覆された部分である。
【0058】
切断粒子5とバッファ粒子6の配置は、特に図6で良く理解できる。これは縮尺どおりの図示ではなく、粒子5,6の幾何形状も実際には異なって見えるか、異なって見える場合がある。粒子5,6は、ほぼ同じ幾何形状を有することもできる。この図は、粒子5,6を区別可能にし、バッファ粒子6の配置により切断粒子5の間に自由空間が作り出されていることを明確にするものであり、この自由空間は、従来技術から公知のように、切断粒子5の純粋な配置では存在しないか、またはこの程度まで存在しない。
【0059】
図8は、バッファ粒子6により達成可能な、切断粒子5間の間隔をさらに明確にする象徴的な図である。プロットされた間隔b1,b2,b3,b4,c1,c2,c3およびc4に基づき、バッファ粒子6間の間隔は異なる大きさであり、切断粒子5によるネストの形成が阻止されるような注目すべき大きさを有することが分かる。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の観点として以下を含む。
1.
ベルト状に構成された歯支持体(2)と、それぞれ1つの歯先(4)を備える複数の歯(3)とを有する切削工具(1)であって、前記歯先には、幾何形状が特定されない複数の刃を形成するために切断粒子(5)が被覆されている、切削工具であって、前記歯先(4)は、前記切断粒子(5)とは別の材料からなるバッファ粒子(6)によりさらに被覆されており、前記バッファ粒子(6)は、前記切断粒子(5)の間に存在する、ことを特徴とする切削工具。
2.
前記切断粒子(5)および前記バッファ粒子(6)は、金属層(7)、特に電気メッキ析出層、または化学的金属析出層に、部分的に埋め込まれている、ことを特徴とする上記1の切削工具(1)。
3.
前記金属層(7)は、金属、特にニッケル、クロムまたは銅からなり、前記金属は、電気メッキまたは化学的金属析出の際に金属イオンとして前記歯先(4)に堆積しており、前記金属イオンと前記金属層(7)の金属とは前記バッファ粒子(6)ではない、ことを特徴とする上記2の切削工具(1)。
4.
前記歯先(4)の被覆部分は、バッファ粒子(6)の約10~60%、特に約10~50%、特に約20~50%、特に約30~50%からなる、ことを特徴とする上記1から3のいずれか一つの切削工具(1)。
5.
前記切断粒子(5)と前記バッファ粒子(6)は、ほぼ同じ平均サイズを有する、ことを特徴とする上記1から4のいずれか一つの切削工具(1)。
6.
前記切断粒子(5)の平均サイズおよび前記バッファ粒子(6)の平均サイズは、約60~800μm、特に約100~800μm、特に約200~800μm、特に約300~800μm、特に約400~800μmの間、特に約500~800μmの間、特に約500~700μmの間、特に約600μmである、ことを特徴とする上記1から5のいずれか一つの切削工具(1)。
7.
前記バッファ粒子(6)は、前記切断粒子(5)のよりも小さい硬度および/または小さい熱耐性を有する、ことを特徴とする上記1から6のいずれか一つの切削工具(1)。
8.
非常に硬い前記切断粒子(5)は、単結晶ダイヤモンド(MKD)、多結晶ダイヤモンド(CVD-D)、多結晶ダイヤモンド(PKD)、立方晶窒化ホウ素(CBN)、切断セラミック、超硬合金、またはそれらの組み合わせを含み、および/または
前記バッファ粒子(6)は、単結晶ダイヤモンド(MKD)、多結晶ダイヤモンド(CVD-D)、多結晶ダイヤモンド(PKD)、立方晶炭化ホウ素(CBN)、炭化ケイ素、切断セラミック、超硬合金、プラスチック、ガラス、セラミック、炭化ホウ素、ニッケル、銅またはそれらの組み合わせを含む、ことを特徴とする上記1から7のいずれか一つの切削工具(1)。
9.
前記切断粒子(5)は、立方晶炭化ホウ素(CBN)を、前記バッファ粒子(6)はダイヤモンドを含み、または、
前記切断粒子(5)は、ダイヤモンド、炭化ケイ素、切断セラミック、超硬合金、またはそれらの組み合わせを含み、前記バッファ粒子(6)は、プラスチック、ガラス、セラミック、炭化ホウ素、ニッケル、銅、またはそれらの組み合わせを含む、ことを特徴とする上記1から7のいずれか一つの切削工具装置(1)。
10.
前記歯(3)は、変化するピッチで前記歯支持体(2)に配置されている、ことを特徴とする上記1から9のいずれか一つの切削工具(1)。
11.
ベルト状に構成された歯支持体(2)と、複数の歯(3)とを有する切削工具(1)の製造方法であって、
歯(3)の歯先(4)に、幾何形状が特定されない複数の刃を形成するために切断粒子(5)を被覆するステップを有する製造方法において、
前記歯(3)の前記歯先(4)を、前記切断粒子(5)とは別の材料からなるバッファ粒子(6)により、当該バッファ粒子(6)が前記切断粒子(5)の間に存在するように被覆するステップを特徴とする製造方法。
12.
前記切断粒子(5)および前記バッファ粒子(6)による前記被覆ステップは、同時に実行される、ことを特徴とする上記11の方法。
13.
特に電気メッキまたは化学的金属析出によって、金属層(7)を前記歯(3)の前記歯先(4)の上に、前記切断粒子(5)と前記バッファ粒子(6)とが前記金属層(7)に部分的に埋め込まれるように取り付ける、ことを特徴とする上記11または12の方法。
14.
前記金属層(7)を取り付ける前記ステップは、切断粒子(5)とバッファ粒子(6)による前記被覆ステップの少なくとも前に実行される、ことを特徴とする上記13の方法。
15.
前記切削工具(1)は、上記1から10の少なくとも一つの特徴を有する、ことを特徴とする上記11から14のいずれか一つの方法。
【符号の説明】
【0060】
1 切削工具
2 歯支持体
3 歯
4 歯先
5 切断粒子
6 バッファ粒子
7 金属層
8 被覆領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8