IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井金属鉱業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】炭化タンタル粉末
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/914 20170101AFI20241024BHJP
   B22F 7/00 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
C01B32/914
B22F7/00 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022074184
(22)【出願日】2022-04-28
(65)【公開番号】P2023163340
(43)【公開日】2023-11-10
【審査請求日】2024-04-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094536
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 隆二
(74)【代理人】
【識別番号】100129805
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100189315
【弁理士】
【氏名又は名称】杉原 誉胤
(72)【発明者】
【氏名】元野 隆二
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 貴仁
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-170451(JP,A)
【文献】国際公開第2018/180911(WO,A1)
【文献】特表2000-514874(JP,A)
【文献】特開平06-220571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/991
B22F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化タンタル粒子を含有する炭化タンタル粉末であって、
前記炭化タンタル粒子の体積基準の粒度分布は、レーザ回折・散乱法粒度分布測定による粒径0.02~10μmの範囲内に、2つのピークを有し、
前記2つのピークの内、粒度が大きい方のピークを第1ピークとし、粒度が小さい方のピークを第2ピークとし、
前記第1ピークの最大強度Yに対する前記第2ピークの最大強度Yの強度比Y/Yが0.5以上2以下であり、且つ前記第1ピークの最大強度Yに対応する粒径Xに対する前記第2ピークの最大強度Yに対応する粒径Xの粒径比X/Xが0.18以上0.5以下であることを特徴とする炭化タンタル粉末。
【請求項2】
前記炭化タンタル粒子のメディアン径D50(N)と前記炭化タンタル粒子に超音波照射して得られたメディアン径D50(U)との関係が下記式(1)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の炭化タンタル粉末。
【数1】
【請求項3】
炭化タンタル粒子を含有する炭化タンタル粉末であって、
前記炭化タンタル粒子のメディアン径D50(N)と前記炭化タンタル粒子に超音波照射して得られたメディアン径D50(U)との関係が下記式(1)を満たすことを特徴とする炭化タンタル粉末。
【数2】
【請求項4】
前記炭化タンタル粒子のメディアン径D50(N)と前記炭化タンタル粒子に超音波照射して得られたメディアン径D50(U)との関係が下記式(2)を満たすことを特徴とする請求項2、又は3に記載の炭化タンタル粉末。
【数3】
【請求項5】
FSSS法で測定したFSSS径に対するBET法で測定したBET径の比が0.1以上0.5以下であることを特徴とする請求項1、又は3に記載の炭化タンタル粉末。
【請求項6】
請求項1、又は3に記載の炭化タンタル粉末を含有することを特徴とする超硬工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化タンタル粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化タンタルは、バイト、チップ、カッター、ドリル、ダイスなどの超硬切削工具の原料である炭化タングステン等への添加剤として広く利用されており、高品質な超硬切削工具を製造する上で、炭化タングステンとの混合性能が良いことが求められている。添加剤として用いられる炭化タンタルとして、特許文献1には、粉末の凝集が少なく、微粒で均粒であり、且つ化学量論的に充分に炭素と結合した酸素含有量の少ない炭化タンタル粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-31016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された物性を有する炭化タンタル粉末であっても、炭化タングステン等の超硬切削工具の原料との混合性が悪いと均質な超硬化材料とならず、そのような原料から製造された超硬工具の性能が劣ったものとなっていた。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて、超硬工具の原料の炭化タングステンに対する混合性が高く、且つその後の反応性も優れた炭化タンタル粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本発明の炭化タンタル粉末は、炭化タンタル粒子を含有する炭化タンタル粉末であって、前記炭化タンタル粒子の体積基準の粒度分布は、レーザ回折・散乱法粒度分布測定による粒径0.02~10μmの範囲内に、2つのピークを有し、前記2つのピークの内、粒度が大きい方のピークを第1ピークとし、粒度が小さい方のピークを第2ピークとし、前記第1ピークの最大強度Yに対する前記第2ピークの最大強度Yの強度比Y / Yが0.5以上2以下であり、且つ前記第1ピークの最大強度Yに対応する粒径Xに対する前記第2ピークの最大強度Yに対応する粒径Xの粒径比X / Xが0.18以上0.5以下であることを特徴とする。
本発明の炭化タンタル粉末は、炭化タンタル粒子を含有する。また、その炭化タンタル粒子の体積基準の粒度分布は、レーザ回折・散乱法粒度分布測定による粒径0.02~10μmの範囲内に、2つのピークを有する。ここで、ピークの位置(粒径)は、炭化タンタル粒子の体積基準の粒度分布曲線の微分係数がゼロとなる点とした。そして、これら2つのピークの内、粒度が大きい方のピークを第1ピークと定義し、粒度が小さい方のピークを第2ピークと定義する。
【0007】
さらに、第1ピークの最大強度をYと定義し、第1ピークの最大強度Yに対応する粒径をXと定義する。また、第2ピークの最大強度をYと定義し、第2ピークの最大強度Yに対応する粒径をXと定義する。さらに、第1ピークの最大強度Yに対する第2ピークの最大強度Yの強度比を強度比Y / Yと定義し、第1ピークの最大強度Yに対応する粒径Xに対する第2ピークの最大強度Yに対応する粒径Xの粒径比を粒径比X / Xと定義する。
【0008】
そして、本発明の炭化タンタル粉末は、強度比Y / Yが0.5以上2以下であり、且つ粒径比X / Xが0.18以上0.5以下であると、粒子径が大小の粒子が混在し、且つ粒子径が小さい方の割合が大きいと、炭化タングステンとの混合性が向上する点で好ましい。
【0009】
さらに、強度比Y / Yは、1以上であるとより好ましく、1.1以上であるとさらに好ましい。粒径比X / Xは、0.22以上であるとより好ましく、0.25以上であるとさらに好ましい。
【0010】
ここで、本発明の炭化タンタル粒子の体積基準の粒度分布は、レーザ回折・散乱法粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製:MT3300EXII)を用いて、JIS Z 8828:2019「粒子径解析-動的光散乱法」に準じた動的光散乱法により測定可能である。また、フィルタリングは行なわず、次のような超音波を用いた分散処理を実施する。
【0011】
超音波により分散処理の手順は、次の通りである。先ず、超音波による分散処理の前処理として、試料粉1mg、純20mLを容量50mLのPP製広口瓶に投入し、当該PP製広口瓶を超音波洗浄機(アズワン社製:VS-100III)にセットする。次に、当該洗浄機の槽内床面から上5cmまでを純水で満たした状態で、周波数28kHz、出力100Wで、60分間に亘って超音波による分散処理を実施する。

【0012】
そして、上述した超音波による分散処理を実施し、測定された本発明の炭化タンタル粒子の体積基準の粒度分布曲線は、レーザ回折・散乱法粒度分布測定による粒径0.02~10μmの範囲内に、2つのピークを有する。なお、横軸は粒径(μm)であり、縦軸は頻度(%)である。
【0013】
また、本発明の炭化タンタル粉末は、前記炭化タンタル粒子のメディアン径D50(N)と前記炭化タンタル粒子に超音波照射して得られたメディアン径D50(U)との関係が下記式(1)を満たすことを特徴とする。
【0014】
【数1】
【0015】
本発明の炭化タンタル粉末は、前記炭化タンタル粒子のメディアン径D50(N)と前記炭化タンタル粒子に超音波照射して得られたメディアン径D50(U)との関係が式(1)を満たすと、超音波照射前の粒子径と比して、超音波照射後の粒子径が小さく、また超音波照射による粉砕が容易であることを示し、炭化タングステンとの混合性が向上する点で好ましい。また、炭化タンタル粒子のメディアン径D50(N)と炭化タンタル粒子に超音波照射して得られたメディアン径D50(U)との関係が、0.65以下であるとより好ましく、0.63以下であるとさらに好ましく、0.61以下であると特に好ましく、0.60以下であるとより特に好ましく、0.59以下であるとまた特に好ましい。
【0016】
ここで、D50は体積分率にして50%に至る粒子径を示している。本発明では、上述した動的光散乱法により測定する。また、炭化タンタル粒子のメディアン径D50(N)は、炭化タンタル粒子に対し、上述した超音波による分散処理を実施せず、粒度評価を行ったメディアン径である。なお、炭化タンタル粒子のメディアン径D50(N)は、上述した周波数、超音波照射時間未満の超音波による分散処理が実施された炭化タンタル粒子のメディアン径も含まれる。一方、炭化タンタル粒子のメディアン径D50(U)は、炭化タンタル粒子に対し、上述した超音波による分散処理を実施した直後に粒度評価を行ったメディアン径である。
【0017】
さらに、上述した動的光散乱法により、本発明の炭化タンタル粒子の10%粒子径であるD10、本発明の炭化タンタル粒子の90%粒子径であるD90を測定すると好ましい。すなわち、D10は体積分率にして10%に至る粒子径を示し、D10(N)は炭化タンタル粒子に対し、上述した超音波による分散処理を実施せず、粒度評価を行った10%粒子径であり、D10(U)は炭化タンタル粒子に対し、上述した超音波による分散処理を実施した直後に粒度評価を行った10%粒子径である。また、D90は体積分率にして90%に至る粒子径を示し、D90(N)は炭化タンタル粒子に対し、上述した超音波による分散処理を実施せず、粒度評価を行った90%粒子径であり、D90(U)は炭化タンタル粒子に対し、上述した超音波による分散処理を実施した直後に粒度評価を行った90%粒子径である。
【0018】
また、本発明の炭化タンタル粉末は、炭化タンタル粒子を含有する炭化タンタル粉末であって、前記炭化タンタル粒子のメディアン径D50(N)と前記炭化タンタル粒子に超音波照射して得られたメディアン径D50(U)との関係が下記式(1)を満たすことを特徴とする。
【0019】
【数2】
【0020】
また、本発明の炭化タンタル粉末は、前記炭化タンタル粒子のメディアン径D50(N)と前記炭化タンタル粒子に超音波照射して得られたメディアン径D50(U)との関係が下記式(2)を満たすことを特徴とする。
【0021】
【数3】
【0022】
本発明の炭化タンタル粉末は、前記炭化タンタル粒子のメディアン径D50(N)と前記炭化タンタル粒子に超音波照射して得られたメディアン径D50(U)との関係が式(2)を満たすと、炭化タンタル粒子の粒径が細かくなりすぎず、炭化タングステンとの混合性が向上する点で好ましい。本発明の炭化タンタル粒子の粒径が細かくなりすぎると、炭化タンタル同士で凝集してしまうからである。
【0023】
また、本発明の炭化タンタル粉末は、FSSS法で測定したFSSS径に対するBET法で測定したBET径の比が0.1以上0.5以下であることを特徴とする。
本発明の炭化タンタル粉末は、FSSS法で測定したFSSS径に対するBET法で測定したBET径の比(以下、BET径 / FSSS径という。)が0.1以上0.5以下であると、炭化タングステンとの混合性が向上する点で好ましい。また、BET径 / FSSS径が、0.2以上0.45以下であるとより好ましく、0.25以上0.4以下であるとさらに好ましく、0.3以上0.35以下であると特に好ましい。
【0024】
ここで、FSSS径(フィッシャー径)とは、全自動乾式粒子測定装置(Fisher Sub-Sieve Sizer 2229)を用い、JIS H 2116:2002に準拠し、空気透過法により測定した平均粒子径である。また、BET径とは、全自動比表面積測定装置(Macsorb HM-1230型)を用い、JIS Z8830に準拠し、BET法により測定された比表面積から粒子が球状であると仮定して算出される粒子径である。
【0025】
また、本発明の超硬工具は、本発明の炭化タンタル粉末を含有することを特徴とする。
本発明の超硬工具は、本発明の炭化タンタル粉末を含有することから、炭化タングステンに対する混合性が高く、且つその後の反応性も優れており、耐欠損性、耐塑性変形性、及び耐摩耗性といった超硬工具に求められる性能を有している。
【0026】
また、本発明の炭化タンタル粉末は、その作用効果を阻害しない範囲で、タンタル乃至炭化タンタルに由来する成分、またはカーボンブラックに由来する成分以外の成分(「他成分」という。)を含有してもよい。他成分としては、例えばLi、Mg、Si、Ca、Ti、Mn、Ni、Cu、Zn、Sr、Nb、Zr、Mo、Ba、W、Biなどが挙げられる。但し、これらに限定するものではない。本発明の炭化タンタル粉末における他成分の含有量は、5質量%未満であるのが好ましく、4質量%未満であるのがより好ましく、3質量%未満であるとさらに好ましい。なお、本発明の炭化タンタル粉末は、意図したものではなく、不可避不純物を含むことが想定される。不可避不純物の含有量は0.01質量%未満であるのが好ましい。
【0027】
上述した本発明の炭化タンタル粉末の製造方法について、以下説明する。
【0028】
本発明の炭化タンタル粉末の製造方法は、酸化タンタルとカーボンブラックとを各所定量ずつ秤量する秤量工程と、秤量された前記酸化タンタルと前記カーボンブラックとを混合し、混合粉末を得る混合工程と、前記混合粉末を、抵抗加熱式水素炉を用いて焼成し、一次炭化物を得る一次炭化工程と、得られた前記一次炭化物を、高周波誘導加熱式真空炉を用いて焼成し、二次炭化物を得る二次炭化工程と、得られた前記二次炭化物を粗粉砕する粗粉砕工程と、粗粉砕された前記二次炭化物を、ジェットミルを用いて、微粉砕する微粉砕工程と、微粉砕された前記二次炭化物を篩などによって分級する分級工程と、を有する。
【0029】
先ず、秤量工程では、原料となる酸化タンタル、例えば五酸化タンタル(Ta)とカーボンブラック(C)とを各所定量ずつ台秤等を用いて秤量する。
【0030】
次に、混合工程では、秤量された酸化タンタルとカーボンブラックとをバーチカルミキサー等を用いて、均一となるように混合することにより、混合粉末が得られる。
【0031】
一次炭化工程では、得られた混合粉末をカーボン製容器に充填し、抵抗加熱式水素炉内に、混合粉末が充填されたカーボン製容器が装入され、水素還元雰囲気下で、当該水素炉の炉内温度を1,400℃~1,800℃に保持し、1~10時間焼成することにより、五酸化タンタル(Ta)とカーボンブラック(C)とが反応し、一次炭化物が得られる。得られた一次炭化物は、当該水素炉内で、室温まで冷却される。当該水素炉の炉内温度が1,400℃未満であると、一次炭化が不十分となり、一次炭化物中の遊離カーボン、酸素量が多くなる。また、当該水素炉の炉内温度が1,800℃を超えると、炉の構造、材質上から困難である。
【0032】
一次炭化工程後、一次炭化物をヘンセルミキサー等で撹拌混合することにより、一次炭化物の品質を平均化させると好ましい。また、一次炭化物中の遊離カーボン、酸素量を分析測定し、反応に必要なカーボン量が不足する場合、カーボンブラックを補給添加し、撹拌混合してもよい。
【0033】
二次炭化工程では、一次炭化工程により、得られた一次炭化物をカーボン製坩堝に充填し、高周波誘導加熱式真空炉内に、一次炭化物が充填されたカーボン製坩堝が装入され、真空状態下、当該真空炉の炉内温度を1,800℃~2,000℃に保持し、1~10時間焼成することにより、二次炭化物が得られる。得られた二次炭化物は、当該真空炉内で、室温まで冷却される。当該真空炉の炉内温度が1,800℃未満であると、炭化不十分となり、一次炭化工程で残留した遊離カーボン、及び酸素を低減させる効果が小さい。また、当該真空炉の炉内温度が2,000℃を超えると、炭化タンタル粉末の凝結が始まり、エネルギー的にも無駄となる。
【0034】
粗粉砕工程では、得られた二次炭化物をカーボン製坩堝から取り出し、ジョークラッシャー等により粗粉砕する。
【0035】
微粉砕工程では、粗粉砕された二次炭化物を、ジェットミルを用いて、微粉砕する。微粉砕に用いられるジェットミルは、二次炭化物同士が衝突することにより粉砕される、気流式粉砕機が好ましい。具体的には、供給速度:2.2~10kg/hr、風速:2.5m/minと設定したジェットミルにより、粗粉砕された二次炭化物を微粉砕する。
【0036】
分級工程では、微粉砕された二次炭化物を、篩などによって分級して得られた篩下(微粒側)を本発明の炭化タンタル粉末とする。篩上(粗粒側)は再度粗粉砕工程、またはおよび、微粉砕工程を実施し、分級して用いてもよい。分級に用いられる篩は、目開きが30~1,000μmのものを用いると好ましい。
【0037】
なお、本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特に断らない限り、「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」旨の意も包含する。また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現する場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【発明の効果】
【0038】
本発明の炭化タンタル粉末は、超硬工具の原料である炭化タングステンとの混合性に優れており、且つその後の反応性に優れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明に係る実施形態の炭化タンタル粉末について、以下の実施例によりさらに説明する。但し、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0040】
(実施例1)
三井金属鉱業社製酸化タンタル120kgとカーボンブラック22kgとを台秤で秤量し、バーチカルミキサーで5分間撹拌混合し、混合粉末を得た。
【0041】
この混合粉末を、カーボン製容器に充填(2kg/本)し、3時間に2本の割合で抵抗加熱式水素炉内に供給し、1,700℃の温度で14時間焼成させることにより、一次炭化を行い、一次炭化物を得た。
【0042】
この一次炭化物をカーボン製坩堝に充填(100kg/本)し、高周波誘導加熱式真空炉内に装入し、1,800℃の温度で5時間焼成させることにより、二次炭化物を得た。
【0043】
高周波誘導加熱式真空炉内で室温まで冷却した二次炭化物をカーボン製坩堝から取り出し、ジョークラッシャーを用いて、直径2cm以下の塊となるように粗粉砕した。
【0044】
粗粉砕後、気流式粉砕機であるジェットミルを用いて、粗粉砕された二次炭化物を微粉砕する。微粉砕に用いられるジェットミルは、供給速度:10kg/hr、風速:2.5m/minと設定した。
【0045】
そして、微粉砕された二次炭化物を、振動篩によって分級して得られた篩下(微粒側)を採取することにより、実施例1に係る炭化タンタル粉末を得た。
【0046】
(実施例2)
実施例2では、微粉砕に用いられるジェットミルの供給速度が、5kg/hrであること以外、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例2に係る炭化タンタル粉末を得た。
【0047】
(実施例3)
実施例3では、微粉砕に用いられるジェットミルの供給速度が、2.5kg/hrであること以外、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例3に係る炭化タンタル粉末を得た。
【0048】
(実施例4)
実施例4では、微粉砕に用いられるジェットミルの供給速度が、2.2kg/hrであること以外、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例4に係る炭化タンタル粉末を得た。
【0049】
(比較例1)
比較例1では、粗粉砕された二次炭化物を、20~50mmφの鉄製ボールを充填したボールミルを用いて、20時間微粉砕を行うこと以外、実施例1と同様な製造方法を実施し、比較例1に係る炭化タンタル粉末を得た。
【0050】
(比較例2)
比較例2では、粗粉砕された二次炭化物を、乾式微粉粉砕機(供給速度:10kg/hr、風速:2.5m/min)を用いて、微粉砕すること以外、実施例1と同様な製造方法を実施し、比較例2に係る炭化タンタル粉末を得た。
【0051】
そして、実施例1~4、及び比較例1、2に係る炭化タンタル粉末について、次のような物性値を測定した。以下、測定した物性値、及びその物性値の測定方法を示すとともに、測定結果を表1に示す。
【0052】
〈元素分析〉
必要に応じて試料をフッ化水素酸、及び硝酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)により、Ta換算のTa重量分率を測定した。
【0053】
〈粒度分布〉
粒度分布の評価は、レーザ回折・散乱法粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製:MT3300EXII)を用いて、JIS Z 8828:2019に準じた動的光散乱法により行った。また、フィルタリングは行なわず、上述した超音波を用いた分散処理を実施し、炭化タンタル粒子の体積基準の粒度分布曲線を測定した。測定した当該粒度分布曲線の微分係数がゼロとなる点をピークの位置(粒径)とした。さらに、D10、D50、D90は、体積分率にして10%、50%、90%に至る粒子径を示す。また、D10(N)、D50(N)、D90(N)は、上述した超音波を用いた分散処理を実施せず、測定した体積積算の粒度D10、D50、D90である。さらに、D10(U)、D50(U)、D90(U)は、上述した超音波を用いた分散処理を実施した後、測定した体積積算の粒度D10、D50、D90である。
【0054】
〈フィッシャー径(FSSS径)〉
全自動乾式粒子測定装置(Fisher Sub-Sieve Sizer 2229)を用い、JIS H 2116:2002に準拠し、空気透過法により平均粒子径を測定した。
【0055】
〈BET径〉
全自動比表面積測定装置(Macsorb HM-1230型)を用い、JIS Z8830に準拠し、BET法により測定された比表面積から粒子が球状であると仮定して粒子径を算出した。
【0056】
〈混合性評価〉
実施例1~4、及び比較例1、2に係る炭化タンタル粉末と炭化タングステン(日本新金属社製、粒径0.8μm)とを両者のモル比が1:1となるように秤量した混合試料(合計10g)を容量100mlのPP製広口瓶に投入し、ペイントシェイカー(周波数:50Hz)を用いて、1分間撹拌混合した。そして、薬さじを用いて、撹拌混合した混合試料を5点サンプリングし、各サンプルのTa重量分率を分析した。1分間撹拌混合後の5点のTa分析値の最大値と最小値との差が0.5質量%以下であるものは混合性に優れているものとして「○」と評価し、1分間撹拌混合後の5点のTa分析値の最大値と最小値との差が0.5質量%超であるものは混合性に劣っているものとして「×」と評価した。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示す通り、実施例1~4に係る炭化タンタル粉末は、強度比Y / Yが0.5以上2以下であり、且つ粒径比X / Xが0.18以上0.5以下であると、粒子径が大小の粒子が混在し、且つ粒子径が小さい方の割合が大きいと、炭化タングステンとの混合性が優れるものであった。なお、比較例2に係る炭化タンタル粉末は、粒径0.02~10μmの範囲内に1つのピークしかないことから、強度比Y / Y、及び粒径比X / Xを算出することができなかった。
【0059】
実施例1~4に係る炭化タンタル粉末は、炭化タンタル粒子のメディアン径D50(N)と炭化タンタル粒子に超音波照射して得られたメディアン径D50(U)との関係が上述した式(1)を満たすものであると、超音波照射前の粒子径と比して、超音波照射後の粒子径が小さく、また超音波照射による粉砕が容易であることを示し、炭化タングステンとの混合性が優れるものであった。
【0060】
実施例1~4に係る炭化タンタル粉末は、炭化タンタル粒子のメディアン径D50(N)と炭化タンタル粒子に超音波照射して得られたメディアン径D50(U)との関係が上述した式(2)を満たすものであると、炭化タンタル粒子の粒径が細かくなりすぎず、炭化タングステンとの混合性が向上した。
【0061】
実施例1~4に係る炭化タンタル粉末は、FSSS法で測定したFSSS径に対するBET法により測定された比表面積から算出されたBET径の比が0.1以上0.5以下であると、炭化タングステンとの混合性が優れるものであった。
【0062】
本明細書開示の発明は、各発明や実施形態の構成の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含む。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る炭化タンタルは、炭化タングステンとの混合性が優れていることから、超硬化工具の原料に対する添加剤として好適である。