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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置および画像取得方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20241024BHJP
   H01J 37/147 20060101ALI20241024BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20241024BHJP
   H01J 37/28 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
H01J37/22 502H
H01J37/147 B
H01J37/22 502G
H01J37/244
H01J37/28 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022095078
(22)【出願日】2022-06-13
(65)【公開番号】P2023181757
(43)【公開日】2023-12-25
【審査請求日】2023-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】池尾 信行
(72)【発明者】
【氏名】堤 建一
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-148215(JP,A)
【文献】特開2017-076559(JP,A)
【文献】特開平05-290787(JP,A)
【文献】特開2017-143034(JP,A)
【文献】特開2001-165877(JP,A)
【文献】国際公開第03/044821(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0141451(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
G01N 23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を荷電粒子線で形成されたプローブで走査し、前記試料から放出される信号を検出して画像を取得する荷電粒子線装置であって、
前記荷電粒子線で前記プローブを形成し、前記プローブで前記試料を走査する光学系と、
前記試料上における前記プローブの照射位置のずれを補正する補正処理および前記光学系に前記プローブで前記試料の観察領域を走査させてフレーム画像を取得する画像取得処理を繰り返し行う制御部と、
複数の前記フレーム画像に基づいて、前記試料の画像を生成する画像処理部と、
を含み、
前記制御部は、前記補正処理において、前記光学系に前記プローブで前記観察領域を走査させて参照画像を取得し、基準画像と前記参照画像との間の位置ずれ量に基づいて前記プローブの照射位置のずれを補正し、
前記画像処理部は、前記基準画像と前記参照画像との間の位置ずれ情報を取得し、前記位置ずれ情報に基づいて各前記フレーム画像間の位置ずれを補正し、補正された複数の前記フレーム画像に基づいて前記試料の画像を生成し、
前記参照画像と前記フレーム画像は、同じ画像である、荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御部は、
前記補正処理を、1/N(Nは2以上の整数)フレームごとに行い、
前記画像取得処理において、前記光学系に、前記観察領域を1/Nフレーム分だけ走査させて、部分画像を取得し、
前記補正処理および前記画像取得処理をN回繰り返すことによって、各前記フレーム画像を取得する、荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記画像処理部は、前記位置ずれ情報に基づいて各前記部分画像間の位置ずれを補正し、補正された前記複数の部分画像に基づいて前記試料の画像を生成する、荷電粒子線装置
【請求項4】
請求項3において、
前記画像処理部は、
補正された前記複数の部分画像を重ね、同じ座標に画素が2以上ある場合には画素値の平均を求めて前記試料の画像の画素値とし、同じ座標に画素が1つの場合には当該1つの画素の画素値を前記試料の画像の画素値とする、荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記画像処理部は、
複数の前記フレーム画像のうちの1つの前記フレーム画像を構成する前記N個の部分画像において、隣り合う前記部分画像の隙間に対応する前記試料の画像の画素の画素値を、複数の前記フレーム画像のうちの他の前記フレーム画像の画素値に基づいて決定する、荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記制御部は、前記補正処理において、前記基準画像をフーリエ変換した結果と前記参照画像をフーリエ変換した結果の相関関数を算出することにより、前記基準画像と前記参照画像との間の位置ずれ量を求め、
前記画像処理部は、前記画像を生成する処理において、前記基準画像と前記参照画像との間の相互情報量に基づいて、前記参照画像をアフィン変換することにより、前記基準画像と前記参照画像との間の位置ずれ量を求めて、前記位置ずれ情報を取得する、荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項において、
前記プローブで前記試料を走査することによって前記試料から放出されたオージェ電子を検出する検出器を含み、
前記参照画像と前記フレーム画像は、オージェ像である、荷電粒子線装置。
【請求項8】
試料を荷電粒子線で形成されたプローブで走査し、前記試料から放出される信号を検出して画像を取得する荷電粒子線装置における画像取得方法であって、
前記試料上における前記プローブの照射位置のずれを補正する補正工程および前記プローブで前記試料の観察領域を走査してフレーム画像を取得する画像取得工程を繰り返し行う工程と、
複数の前記フレーム画像に基づいて、前記試料の画像を生成する画像処理工程と、
を含み、
前記補正工程において、前記プローブで前記観察領域を走査して参照画像を取得し、基準画像と前記参照画像との間の位置ずれ量に基づいて前記プローブの照射位置のずれを補正し、
前記画像処理工程では、前記基準画像と前記参照画像との間の位置ずれ情報を取得し、前記位置ずれ情報に基づいて各前記フレーム画像間の位置ずれを補正し、補正された複数の前記フレーム画像に基づいて前記試料の画像を生成し、
前記参照画像と前記フレーム画像は、同じ画像である、画像取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置および画像取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子プローブで試料を走査して走査像を取得する荷電粒子線装置として、走査電子顕微鏡(SEM)や、走査透過電子顕微鏡(STEM)、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、オージェ電子分光装置(Auger)などが知られている。
【0003】
このような荷電粒子線装置では、試料において電子プローブが照射された領域に発生する熱とその周辺の温度ムラなどによって、試料がドリフトする場合がある。また、光学系の温度変化などによって、電子プローブの照射位置がドリフトしてしまう場合がある。このように、時間とともに電子プローブと試料の相対的な位置が変動してしまうと、走査像を高い位置精度で取得することができない。そのため、10万倍以上の高い倍率で観察や分析が可能な荷電粒子線装置では、電子プローブの照射位置を補正する機能が必須となる。
【0004】
例えば、特許文献1には、フーリエ変換の積により2つの画像間の相関関数を求めて画像間の位置ずれを検出する方法において、相関のフーリエ成分の実部に1より小さい整数を乗じてフーリエ逆変換し、固定ノイズによる相関のピークが、正味の位置ずれを表すピークよりも小さくなるようにしたことを特徴とする画像間の位置ずれ検出方法が開示されている。この画像間の位置ずれに基づいて、電子プローブの照射位置を補正できる。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、基準画像と比較画像の相互相関関数に基づいてドリフト量を計算し、当該ドリフト量に基づいて電子線を偏向させることによって、電子プローブの照射位置を補正する荷電粒子線装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-348172号公報
【文献】特開2015-210999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
荷電粒子線装置では、試料の観察領域を電子プローブで繰り返し走査して複数のフレーム画像を取得し、当該複数のフレーム画像を積算して試料の画像を取得することができる。このように複数のフレーム画像を積算して試料の画像を取得する場合、ドリフト量が大きいと、フレームごとに電子プローブの位置を補正しても、フレーム画像間に位置ずれが生じてしまう。フレーム画像間に位置ずれが生じてしまうと、フレーム画像を積算しても試料の画像にぼけが生じてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る荷電粒子線装置の一態様は、
試料を荷電粒子線で形成されたプローブで走査し、前記試料から放出される信号を検出して画像を取得する荷電粒子線装置であって、
前記荷電粒子線で前記プローブを形成し、前記プローブで前記試料を走査する光学系と、
前記試料上における前記プローブの照射位置のずれを補正する補正処理および前記光学系に前記プローブで前記試料の観察領域を走査させてフレーム画像を取得する画像取得処理を繰り返し行う制御部と、
複数の前記フレーム画像に基づいて、前記試料の画像を生成する画像処理部と、
を含み、
前記制御部は、前記補正処理において、前記光学系に前記プローブで前記観察領域を走査させて参照画像を取得し、基準画像と前記参照画像との間の位置ずれ量に基づいて前記プローブの照射位置のずれを補正し、
前記画像処理部は、前記基準画像と前記参照画像との間の位置ずれ情報を取得し、前記位置ずれ情報に基づいて各前記フレーム画像間の位置ずれを補正し、補正された複数の前記フレーム画像に基づいて前記試料の画像を生成し、
前記参照画像と前記フレーム画像は、同じ画像である
【0009】
このような荷電粒子線装置では、プローブの照射位置の補正に加えて、各フレーム画像の位置ずれを補正するため、プローブの照射位置の補正では補正できないフレーム画像間の位置ずれを補正できる。したがって、このような荷電粒子線装置では、フレーム画像間の位置ずれに起因する画像のぼけを低減でき、鮮明な試料の画像を得ることができる。
【0010】
本発明に係る画像取得方法の一態様は、
試料を荷電粒子線で形成されたプローブで走査し、前記試料から放出される信号を検出して画像を取得する荷電粒子線装置における画像取得方法であって、
前記試料上における前記プローブの照射位置のずれを補正する補正工程および前記プローブで前記試料の観察領域を走査してフレーム画像を取得する画像取得工程を繰り返し行う工程と、
複数の前記フレーム画像に基づいて、前記試料の画像を生成する画像処理工程と、
を含み、
前記補正工程において、前記プローブで前記観察領域を走査して参照画像を取得し、基準画像と前記参照画像との間の位置ずれ量に基づいて前記プローブの照射位置のずれを補正し、
前記画像処理工程では、前記基準画像と前記参照画像との間の位置ずれ情報を取得し、前記位置ずれ情報に基づいて各前記フレーム画像間の位置ずれを補正し、補正された複数の前記フレーム画像に基づいて前記試料の画像を生成し、
前記参照画像と前記フレーム画像は、同じ画像である
【0011】
このような画像取得方法では、プローブの照射位置の補正に加えて、各フレーム画像の位置ずれを補正するため、プローブの照射位置の補正では補正できないフレーム画像間の位置ずれを補正できる。したがって、このような画像取得方法では、フレーム画像間の位置ずれに起因する画像のぼけを低減でき、鮮明な試料の画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係るオージェ電子分光装置の構成を示す図。
図2】電子プローブの走査を説明するための図。
図3】第1実施形態に係るオージェ電子分光装置の制御部の処理の一例を示すフローチャート。
図4】補正処理の一例を示すフローチャート。
図5】第1実施形態に係るオージェ電子分光装置の画像処理部の処理の一例を示すフローチャート。
図6】第1実施形態に係るオージェ電子分光装置の画像処理部の処理を説明するための図。
図7】第2実施形態に係るオージェ電子分光装置の構成を示す図。
図8】第2実施形態に係るオージェ電子分光装置の制御部の処理の一例を示すフローチャート。
図9】鉛フリー半田の二次電子像、鉛フリー半田のグロスのオージェ像、および鉛フリー半田のネットのオージェ像。
図10】第3実施形態に係るオージェ電子分光装置の制御部の処理の一例を示すフローチャート。
図11】第3実施形態に係るオージェ電子分光装置の動作を説明するための図。
図12】第3実施形態に係るオージェ電子分光装置の動作を説明するための図。
図13】第3実施形態に係るオージェ電子分光装置の動作を説明するための図。
図14】第3実施形態に係るオージェ電子分光装置の画像処理部の処理の一例を示すフローチャート。
図15】第3実施形態に係るオージェ電子分光装置の画像処理部の処理を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0014】
1. 第1実施形態
1.1. オージェ電子分光装置
まず、第1実施形態に係るオージェ電子分光装置について図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係るオージェ電子分光装置100の構成を示す図である。
【0015】
オージェ電子分光装置100は、オージェ電子分光法による測定を行う。オージェ電子分光法とは、電子線等により励起されて試料から放出されるオージェ電子のエネルギーを測定することによって、元素分析を行う手法である。
【0016】
オージェ電子分光装置100は、図1に示すように、光学系20と、試料ステージ30と、電子分光器50と、二次電子検出器70と、制御部80と、記憶部82と、画像処理部90と、を含む。
【0017】
光学系20は、電子線でプローブを形成し、当該プローブで試料Sを走査する電子光学系である。光学系20は、電子源21と、集束レンズ22と、偏向器24と、走査偏向器25と、対物レンズ26と、を含む。
【0018】
電子源21は、電子線を放出する。電子源21は、例えば、陰極から放出された電子を陰極と陽極との間に印加された加速電圧によって加速させ、電子線を放出する電子銃である。
【0019】
集束レンズ22および対物レンズ26は、電子源21から放出された電子線を集束させて電子プローブを形成する。走査偏向器25は、集束レンズ22および対物レンズ26によって集束された電子線を二次元的に偏向させる。走査偏向器25で電子線を二次元的に偏向させることによって、電子プローブで試料Sを走査できる。偏向器24は、集束された電子線を二次元的に偏向させる。偏向器24は、例えば、走査像の視野を電磁的に移動させるイメージシフトに用いられる。
【0020】
試料ステージ30は、試料Sを保持する。試料ステージ30は、例えば試料Sを水平方向に移動させる水平方向移動機構、試料Sを高さ方向に移動させる高さ方向移動機構、および試料Sを傾斜させる傾斜機構を備えている。試料ステージ30によって、試料Sを位置決めできる。
【0021】
電子分光器50は、オージェ電子を分光する。電子分光器50は、例えば、静電半球型
アナライザーである。電子分光器50は、内半球電極と、外半球電極と、を有している。電子分光器50では、内半球電極と外半球電極との間に電圧を印加することで、印加した電圧に応じたエネルギー範囲のオージェ電子を検出する。
【0022】
電子分光器50で検出されたオージェ電子をエネルギーごとに計数することによってオージェスペクトルを得ることができる。また、電子プローブで試料Sを走査し、試料S上の各点でのオージェ電子の量(強度)を測定することによって、オージェ像を得ることができる。オージェ像は、試料S上におけるオージェ電子の強度の分布を示す画像である。
【0023】
二次電子検出器70は、電子線が試料Sに照射されることによって試料Sから放出された二次電子を検出する。電子プローブで試料Sを走査し、試料S上の各点での二次電子の量(強度)を測定することによって、二次電子像を得ることができる。
【0024】
なお、図示はしないが、オージェ電子分光装置100は、電子線が試料Sに照射されることによって試料Sから放出された反射電子を検出する反射電子検出器を備えていてもよい。電子プローブで試料Sを走査して、試料S上の各点での反射電子の量を測定することによって、反射電子像を得ることができる。
【0025】
制御部80は、光学系20を制御する。また、制御部80は、試料S上における電子プローブの照射位置のずれを補正する補正処理および光学系20に電子プローブで試料Sの観察領域を走査させてフレーム画像を取得する画像取得処理を繰り返し行う。制御部80の処理の詳細については後述する「1.2.1. 制御部の処理」で説明する。
【0026】
制御部80は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)などのプロセッサと、記憶装置(RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)など)と、を含む。制御部80では、プロセッサで記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより、各種計算処理、各種制御処理を行う。
【0027】
記憶部82は、制御部80で取得した画像を記憶する。記憶部82は、例えば、RAMや、ハードディスクなどを含む。
【0028】
画像処理部90は、試料Sの画像を生成する。画像処理部90は、複数のフレーム画像に基づいて、試料Sの画像を生成する。画像処理部90の処理の詳細については後述する「1.2.2. 画像処理部の処理」で説明する。
【0029】
画像処理部90は、例えば、CPUやDSPなどのプロセッサと、RAMやROMなどの記憶装置と、を含む。画像処理部90では、プロセッサで記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより、各種計算処理、各種制御処理を行う。
【0030】
図2は、オージェ電子分光装置100における電子プローブの走査を説明するための図である。
【0031】
オージェ電子分光装置100では、電子源21から放出された電子を集束レンズ22および対物レンズ26で集束して電子プローブを形成し、走査偏向器25で電子線を偏向させることによって電子プローブで試料Sを走査する。電子プローブで試料Sを走査し、試料S上の各点から放出されたオージェ電子を電子分光器50で分光し、特定のエネルギーのオージェ電子を検出することによってオージェ像を取得できる。また、電子プローブで試料Sを走査し、試料S上の各点から放出された二次電子を二次電子検出器70で検出することによって二次電子像を取得できる。
【0032】
オージェ電子分光装置100では、図2に示すように、試料Sの観察領域S2をラスター走査する。例えば、電子プローブの走査は、図2に示すように、X軸に沿って走査線Lを引き、走査線Lを引く位置をY軸に沿って移動させることを繰り返すことで行われる。観察領域S2を電子プローブで1回走査することによって、1つのフレーム画像Fを得ることができる。オージェ電子分光装置100では、観察領域S2を電子プローブで繰り返し走査することによって複数のフレーム画像Fを取得し、複数のフレーム画像Fに基づいて1つの試料Sの画像(オージェ像)を生成する。複数のフレーム画像Fに基づいて試料Sの画像を生成することによって、電子線による試料Sの損傷を低減しつつ、ノイズが低減された画像を得ることができる。
【0033】
1.2. 動作
1.2.1. 制御部の処理
図3は、オージェ電子分光装置100の制御部80の処理の一例を示すフローチャートである。ここでは、オージェ電子分光装置100がオージェ像を取得するときの動作について説明する。
【0034】
制御部80がオージェ像を取得する処理を実行する前に、ユーザーがオージェ像を取得するための光学系20の条件(加速電圧やプローブ電流等)および電子分光器50の条件を設定する。ユーザーは制御部80の設定部(ユーザーインターフェイス等)を操作して、これらの条件を設定する。設定部におけるこれらの条件の設定が制御部80の処理に反映される。
【0035】
また、ユーザーが試料S上の観察領域S2を決定する。ユーザーは、例えば、オージェ電子分光装置100において試料Sの二次電子像を取得して試料Sを観察し、観察領域S2を決定する。
【0036】
ユーザーは、光学系20の条件、電子分光器50の条件、および観察領域S2を決定した後、オージェ電子分光装置100に対して、オージェ像の取得を開始する指示を行う。
【0037】
制御部80は、ユーザーがオージェ像の取得を開始する指示を行ったか否かを判定する(S100)。制御部80は、開始ボタンに対する押下操作が行われた場合や、入力機器から開始指示が入力された場合に、ユーザーが開始指示を行ったと判定する。
【0038】
制御部80は、ユーザーが開始指示を行ったと判定した場合(S100のYes)、基準画像を取得する(S102)。
【0039】
基準画像は、オージェ像の位置の基準となる画像である。ここでは、基準画像は、二次電子像である。制御部80は、例えば、光学系20に、電子プローブで観察領域S2を走査させ、二次電子検出器70から基準画像(二次電子像)のデータを取得する。なお、基準画像は、観察領域S2を決定した後、開始指示が行われる前に取得されてもよい。
【0040】
次に、制御部80は、試料S上における電子プローブの照射位置のずれを補正する補正処理を行う(S104)。補正処理S104については後述する。
【0041】
次に、制御部80は、フレーム画像Fを取得する画像取得処理を行う(S106)。
【0042】
制御部80は、図2に示すように、光学系20に電子プローブで観察領域S2を走査させ、オージェ像のフレーム画像Fのデータを取得する。オージェ像のフレーム画像Fは、観察領域S2を1回走査して得られたオージェ像である。制御部80は、フレーム画像Fを記憶部82に記憶させる。
【0043】
次に、制御部80は、フレーム画像Fを設定された数だけ取得したか否かを判定する(S108)。
【0044】
制御部80は、記憶部82に記憶されたフレーム画像Fを数え、あらかじめ設定された数だけフレーム画像Fを取得したか否かを判定する。
【0045】
制御部80は、フレーム画像Fを設定された数だけ取得していないと判定した場合(S108のNo)、補正処理S104、画像取得処理S106、および判定処理S108を行う。制御部80は、フレーム画像Fを設定された数だけ取得したと判定されるまで、補正処理S104、および画像取得処理S106を繰り返す。制御部80は、1フレームごとに補正処理S104および画像取得処理S106を行う。
【0046】
制御部80は、フレーム画像Fを設定された数だけ取得したと判定した場合(S108のYes)、処理を終了する。これにより、設定された数のフレーム画像Fを取得できる。
【0047】
なお、ここでは、補正処理S104の後に、画像取得処理S106を行う場合について説明したが、画像取得処理S106の後に、補正処理S104を行ってもよい。
【0048】
図4は、補正処理S104の一例を示すフローチャートである。
【0049】
まず、制御部80は、光学系20に電子プローブで観察領域S2を走査させて参照画像を取得する(S140)。
【0050】
参照画像は、観察領域S2の二次電子像である。制御部80は、光学系20に、電子プローブで観察領域S2を走査させ、二次電子検出器70から参照画像(二次電子像)のデータを取得する。制御部80は、取得した参照画像としての二次電子像を記憶部82に記録させる。
【0051】
制御部80は、基準画像と参照画像(二次電子像)との間の位置ずれ量および位置ずれの方向を求める(S142)。
【0052】
制御部80は、例えば、パターンマッチングにより基準画像と参照画像との間の位置ずれ量および位置ずれの方向を求める。また、例えば、基準画像と参照画像をそれぞれフーリエ変換し、基準画像のフーリエ変換した結果と、参照画像をフーリエ変換した結果の相関関数を計算し、位置ずれ量および位置ずれの方向を求めてもよい。また、制御部80は、特開2000-348172号公報に記載された手法を用いて、基準画像と参照画像との間の位置ずれ量および位置ずれの方向を求めてもよい。
【0053】
次に、制御部80は、基準画像と参照画像との間の位置ずれ量が所定量以上か否かを判定する(S143)。所定量は、ユーザーが任意の値に設定可能である。
【0054】
制御部80は、基準画像と参照画像との間の位置ずれ量が所定量以上と判定した場合(S143のYes)、基準画像と参照画像との間の位置ずれ量および位置ずれの方向に基づいて、光学系20を動作させて、試料S上の電子プローブの照射位置のずれを補正する(S144)。
【0055】
制御部80は、基準画像と参照画像との間の位置ずれ量および位置ずれの方向に基づいて、試料S上の電子プローブの照射位置のずれがキャンセルされるように光学系20を動
作させる。例えば、照射位置のずれの補正は、偏向器24によって電子線を偏向させることによって、電子プローブの照射位置を、位置ずれの方向とは反対方向に、位置ずれ量だけ移動させることで行われる。偏向器24によって電子プローブの位置ずれを補正した状態で、走査偏向器25によって電子プローブの走査を行う。これにより、電子プローブの照射位置が補正された状態で、電子プローブの走査を行うことができる。
【0056】
制御部80は、電子プローブの照射位置のずれがキャンセルされるように光学系20を動作させた後、または、基準画像と参照画像との間の位置ずれ量が所定量以上ではないと判定した場合(S143のNo)、補正処理を終了する。
【0057】
1.2.2. 画像処理部の処理
画像処理部90は、画像取得処理S106を繰り返すことで取得された複数のフレーム画像Fに基づいて、試料Sの画像を生成する。
【0058】
図5は、画像処理部90の処理の一例を示すフローチャートである。図6は、画像処理部90の処理を説明するための図である。
【0059】
まず、画像処理部90は、記憶部82に記録された基準画像、複数の参照画像、および複数のフレーム画像Fを読み出して、基準画像、複数の参照画像、および複数のフレーム画像Fを取得する(S200)。
【0060】
次に、画像処理部90は、基準画像と各参照画像との間の位置ずれ情報を取得する(S202)。
【0061】
画像処理部90は、基準画像と各参照画像との間の相互情報量に基づいて、参照画像を幾何学的変換、すなわち、アフィン変換(平行移動、回転、拡大縮小など)することで、基準画像と位置合わせを行う。これにより、画像処理部90は、基準画像と各参照画像との間の位置ずれ情報を取得する。位置ずれ情報は、基準画像と各参照画像との間の位置ずれに関する情報であり、基準画像と各参照画像との間の位置ずれ量、位置ずれの方向、回転、拡大縮小率などの情報を含む。
【0062】
次に、画像処理部90は、基準画像と各参照画像との間の位置ずれ情報に基づいて、各フレーム画像Fの位置ずれを補正する(S204)。
【0063】
上述した補正処理S104は、1フレームごとに行われるため、1フレームごとに参照画像とフレーム画像Fが取得される。そのため、各フレーム画像Fの位置ずれは、基準画像と各フレーム画像Fと同じフレームで取得された参照画像との間の位置ずれ情報に基づいて補正される。
【0064】
画像処理部90は、各フレーム画像Fの位置(座標)を、基準画像と各参照画像との間の位置ずれの方向とは反対方向に、位置ずれ量だけ移動させる。例えば、画像処理部90は、1フレーム目のフレーム画像Fの位置(座標)を、基準画像と1フレーム目の参照画像との間の位置ずれの方向とは反対方向に、基準画像と1フレーム目の参照画像との間の位置ずれ量だけ移動させる。これにより、1フレーム目のフレーム画像Fを構成する各画素の座標が、位置ずれの方向とは反対方向に位置ずれ量だけ変更される。また、画像処理部90は、基準画像と1フレーム目の参照画像との間の回転に基づいて、1フレーム目のフレーム画像Fの回転を補正する。また、画像処理部90は、基準画像と1フレーム目の参照画像との間の拡大縮小率に基づいて、1フレーム目のフレーム画像Fを拡大または縮小させる。画像処理部90は、2フレーム目以降のフレーム画像Fに対しても1フレーム目のフレーム画像Fと同様の処理を行って、各フレーム画像Fの位置ずれを補正する。
【0065】
次に、画像処理部90は、位置ずれが補正された複数のフレーム画像Fに基づいて試料Sの画像IS(オージェ像)を生成する(S206)。
【0066】
画像処理部90は、図6に示すように、位置ずれが補正された複数のフレーム画像Fを重ねて、同じ座標の画素ごとに画素値を平均または積算する。これにより、試料Sの画像IS(オージェ像)を生成できる。画素値は、各画素の明るさを表す値であり、オージェ電子の量(強度)に対応している。ここでは、オージェ像(画像IS)は、グレースケール画像であり、オージェ電子の量(強度)を各画素の明るさで表している。
【0067】
1.3. 効果
オージェ電子分光装置100では、制御部80は、試料S上における電子プローブの照射位置のずれを補正する補正処理S104および光学系20に電子プローブで試料Sの観察領域S2を走査させてフレーム画像Fを取得する画像取得処理S106を繰り返し行う。また、画像処理部90は、複数のフレーム画像Fに基づいて、試料Sの画像ISを生成する。また、制御部80は、補正処理S104において、光学系20に電子プローブで観察領域S2を走査させて参照画像を取得し、基準画像と参照画像との間の位置ずれ量に基づいて電子プローブの照射位置のずれを補正する。また、画像処理部90は、基準画像と参照画像との間の位置ずれ情報に基づいて各フレーム画像F間の位置ずれを補正し、補正された複数のフレーム画像Fに基づいて試料Sの画像を生成する。
【0068】
このように、オージェ電子分光装置100では、電子プローブの照射位置の補正に加えて、各フレーム画像Fの位置ずれを補正するため、電子プローブの照射位置の補正では補正できないフレーム画像F間の位置ずれを補正できる。そのため、オージェ電子分光装置100では、フレーム画像F間の位置ずれに起因する画像のぼけを低減でき、鮮明な試料Sの画像ISを得ることができる。したがって、オージェ像の空間分解能を向上できる。
【0069】
オージェ電子分光装置100では、参照画像は二次電子像であり、フレーム画像Fはオージェ像である。二次電子像は、オージェ像に比べて、短時間でノイズが少ない画像を取得できる。したがって、参照画像として二次電子像を用いることによって、短時間で正確に補正処理S104を行うことができる。
【0070】
1.4. 変形例
上述した第1実施形態では、制御部80は、補正処理S104において二次電子像を参照画像として取得し、画像取得処理S106においてフレーム画像Fとしてオージェ像を取得した。
【0071】
これに対して、制御部80は、参照画像をオージェ像と同時に取得してもよい。オージェ電子分光装置100では、図1に示すように、オージェ電子を検出するための電子分光器50と二次電子検出器70の両方を備えているため、オージェ電子と二次電子を同時に検出できる。したがって、観察領域S2の1回の走査において電子分光器50でオージェ電子を検出し、二次電子検出器70で二次電子を検出することによって、オージェ像(フレーム画像)と参照画像を同時に取得してもよい。
【0072】
2. 第2実施形態
2.1. オージェ電子分光装置
次に、第2実施形態に係るオージェ電子分光装置について、図面を参照しながら説明する。図7は、第2実施形態に係るオージェ電子分光装置200の構成を示す図である。以下、第2実施形態に係るオージェ電子分光装置200において、第1実施形態に係るオージェ電子分光装置100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付
し、その詳細な説明を省略する。
【0073】
上述したオージェ電子分光装置100では、図1に示すように、電子分光器50と二次電子検出器70を備えていた。これに対して、オージェ電子分光装置200では、図7に示すように二次電子検出器を備えていない。
【0074】
2.2. 動作
2.2.1. 制御部の処理
上述したオージェ電子分光装置100では、基準画像および参照画像は二次電子像であり、フレーム画像Fはオージェ像であった。これに対して、オージェ電子分光装置200では、基準画像、参照画像、およびフレーム画像Fは、オージェ像である。
【0075】
図8は、オージェ電子分光装置200の制御部80の処理の一例を示すフローチャートである。以下では、上述した図3に示すオージェ電子分光装置100の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0076】
制御部80は、ユーザーがオージェ像の取得開始の指示を行ったか否かを判定する(S300)。
【0077】
次に、制御部80は、ユーザーが開始指示を行ったと判定した場合(S300のYes)、基準画像を取得する(S302)。
【0078】
制御部80は、基準画像として、オージェ像を取得する。すなわち、制御部80は、光学系20に電子プローブで観察領域S2を走査させ、電子分光器50からオージェ像のデータを取得する。なお、基準画像としてのオージェ像は、1フレーム目のフレーム画像Fとしても用いられる。
【0079】
次に、制御部80は、フレーム画像Fを取得する画像取得処理を行う(S304)。画像取得処理S304は、上述した画像取得処理S106と同様に行われる。ここでは、2フレーム目のフレーム画像Fを取得する。
【0080】
次に、制御部80は、試料S上における電子プローブの照射位置のずれを補正する補正処理を行う(S306)。
【0081】
補正処理S306では、基準画像として処理S302で取得した1フレーム目のオージェ像を用い、参照画像として2フレーム目のオージェ像を用いる点を除いて、上述した図4に示す補正処理S104と同様に行われる。
【0082】
次に、制御部80は、フレーム画像Fを設定された数だけ取得したか否かを判定する(S308)。判定処理S308は、上述した判定処理S108と同様に行われる。
【0083】
制御部80は、フレーム画像Fを設定された数だけ取得していないと判定した場合(S308のNo)、画像取得処理S304、補正処理S306、および判定処理S308を行う。補正処理S306では、基準画像として処理S302で取得した1フレーム目のオージェ像を用い、参照画像として画像取得処理S304で取得した3フレーム目のオージェ像を用いる。
【0084】
制御部80は、フレーム画像Fを設定された数だけ取得したと判定されるまで、画像取得処理S304、補正処理S306、および判定処理S308を繰り返す。このように、制御部80は、1フレームごとに画像取得処理S304および補正処理S306を行う。
【0085】
制御部80は、フレーム画像Fを設定された数だけ取得したと判定した場合(S308のYes)、処理を終了する。これにより、設定された数のフレーム画像Fを取得できる。
【0086】
図9は、鉛フリー半田の二次電子像、鉛フリー半田のグロスのオージェ像、および鉛フリー半田のネットのオージェ像である。グロスのオージェ像は、オージェスペクトルのピーク位置での強度の分布を示す画像である。ネットのオージェ像は、オージェスペクトルのピーク位置での強度からバックグラウンド位置での強度を差し引いたものである。
【0087】
図9に示すように、グロスのオージェ像は、S/N比(signal to noise ratio)も大きく、二次電子像と類似している。そのため、グロスのオージェ像は、基準画像および参照画像として好適である。
【0088】
2.2.2. 画像処理部の処理
オージェ電子分光装置200の画像処理部90の処理は、基準画像および参照画像としてオージェ像を用いる点を除いて、上述した図5に示すオージェ電子分光装置100の画像処理部90の処理と同様であり、その説明を省略する。
【0089】
2.3. 効果
オージェ電子分光装置200では、参照画像とフレーム画像Fは、オージェ像である。このようにオージェ電子分光装置200では、参照画像とフレーム画像Fが同じであるため、例えば、参照画像として二次電子像を取得する必要がなく、短時間で複数のフレーム画像Fを取得できる。
【0090】
3. 第3実施形態
3.1. オージェ電子分光装置
第3実施形態に係るオージェ電子分光装置の構成は、上述した図1に示すオージェ電子分光装置100と同様であり、その説明を省略する。
【0091】
3.2. 動作
3.2.1. 制御部の処理
上述したオージェ電子分光装置100では、制御部80は1フレームごとに補正処理S104を行ったが、第3実施形態に係るオージェ電子分光装置では、制御部80は、1/N(Nは2以上の整数)ごとに補正処理を行う。
【0092】
図10は、第3実施形態に係るオージェ電子分光装置の制御部80の処理の一例を示すフローチャートである。図11図13は、第3実施形態に係るオージェ電子分光装置の動作を説明するための図である。以下では、上述した図3に示すオージェ電子分光装置100の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0093】
制御部80は、ユーザーが開始指示を行ったと判定した場合(S400のYes)、基準画像を取得する(S402)。
【0094】
基準画像を取得する処理S402は、上述した図3に示す基準画像を取得する処理S102と同様に行われる。なお、基準画像は、観察領域S2を決定した後、開始指示を行う前に取得してもよい。
【0095】
次に、制御部80は、試料S上における電子プローブの照射位置のずれを補正する補正処理を行う(S404)。補正処理S404は、補正処理S104と同様に行われる。
【0096】
次に、制御部80は、図11に示すように、光学系20に、観察領域S2を1/N(Nは2以上の整数)フレーム分だけ走査させて、部分画像PI-1を取得する(S406)。図示の例では、観察領域S2を3分割している。すなわち、図示の例では、N=3である。観察領域S2の分割数は、任意に設定可能である。制御部80は、取得した部分画像PI-1を記憶部82に記憶させる。
【0097】
次に、制御部80は、1フレーム分の部分画像が取得されたか否かを判定する(S408)。図示の例では、観察領域S2は3分割されているため、制御部80は、3つの部分画像PI-1、PI-2、PI-3が取得された場合に、1フレーム分の部分画像を取得したと判定する。
【0098】
制御部80は、1フレーム分の部分画像が取得されていないと判定した場合(S408のNo)、補正処理S404を行い、図12に示すように、部分画像PI-2を取得する(S406)。次に、制御部80は、1フレーム分の部分画像が取得されていないと判定した場合(S408のNo)、補正処理S404を行い、図13に示すように、部分画像PI-3を取得する(S406)。これにより、1フレーム分の部分画像PI-1、PI-2、PI-3を取得できる。すなわち、1つのフレーム画像Fを取得できる。このように、制御部80は、1/Nフレームごとに補正処理S404を行い、1/Nフレーム分の部分画像を取得する処理をN回繰り返すことで、フレーム画像Fを取得する。
【0099】
制御部80は、1フレーム分の部分画像が取得されたと判定した場合(S408のYes)、フレーム画像Fを設定された数だけ取得したか否かを判定する(S410)。
【0100】
制御部80は、フレーム画像Fを設定された数だけ取得していないと判定した場合(S410のNo)、補正処理S404、画像取得処理S406、判定処理S408、および判定処理S410を行う。制御部80は、フレーム画像Fを設定された数だけ取得したと判定されるまで、補正処理S404、画像取得処理S406、判定処理S408、および判定処理S410を繰り返す。
【0101】
制御部80は、フレーム画像Fを設定された数だけ取得したと判定した場合(S410のYes)、処理を終了する。これにより、設定された数のフレーム画像Fを構成する複数の部分画像を取得できる。例えば、フレーム画像Fの数が10枚に設定されている場合、10×N枚の部分画像を取得できる。
【0102】
3.2.2. 画像処理部の処理
画像処理部90は、取得された複数の部分画像に基づいて、試料Sの画像を生成する。
【0103】
図14は、画像処理部90の処理の一例を示すフローチャートである。図15は、画像処理部90の処理を説明するための図である。以下では、上述した図5に示すオージェ電子分光装置100の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0104】
まず、画像処理部90は、記憶部82に記録された基準画像、複数の参照画像、および複数の部分画像を読み出して、基準画像、複数の参照画像、および複数の部分画像を取得する(S500)。
【0105】
次に、画像処理部90は、基準画像と各参照画像との間の位置ずれ情報を取得する(S502)。
【0106】
画像処理部90は、上述した図5に示す基準画像と参照画像との間の位置ずれ情報を取
得する処理S202と同様の手法で、基準画像と各参照画像との間の位置ずれ情報を取得する。
【0107】
次に、画像処理部90は、基準画像と各参照画像との間の位置ずれ情報に基づいて、各部分画像の位置ずれを補正する(S504)。
【0108】
上述したように、補正処理S104は、1/Nフレームごとに行われるため、1/Nフレームごとに参照画像と部分画像が取得される。そのため、各部分画像の位置ずれは、基準画像と、各部分画像と同じフレームで取得された参照画像との間の位置ずれ情報に基づいて補正される。
【0109】
次に、画像処理部90は、位置ずれが補正された複数の部分画像に基づいて試料Sの画像(オージェ像)を生成する(S506)。
【0110】
画像処理部90は、例えば、複数の部分画像を重ね、同じ座標に画素が2以上ある場合には画素値の平均を求めて試料Sの画像ISの画素値とする。また、同じ座標に画素が1つの場合には当該1つの画素の画素値を試料Sの画像ISの画素値とする。
【0111】
例えば、図15に示すように、1フレーム目に取得された部分画像PI-1,PI-2,PI-3に、2フレーム目に取得された部分画像PI-4,PI-5,PI-6を重ねた場合、座標(X1,Y1)の位置P1では、部分画像PI-1と部分画像PI-4が重なっている。そのため、部分画像PI-1の座標(X1,Y1)の画素の画素値と、部分画像PI-4の座標(X1,Y1)の画素の画素値を平均し、画像ISの座標(X1,Y1)の画素の画素値とする。所定の位置において、3以上の部分画像が重なっている場合も同様に、部分画像の画素値の平均を画像ISの画素の画素値とする。
【0112】
また、座標(X2,Y2)の位置P2では、部分画像PI-4が存在している。そのため、部分画像PI-4の座標(X2,Y2)の画素の画素値を、画像ISの座標(X2,Y2)の画素の画素値とする。
【0113】
ここで、1つのフレーム画像Fを構成するN個の部分画像において、隣り合う部分画像の隙間2に対応する画像ISの画素の画素値は、他のフレーム画像Fの画素値に基づいて決定される。
【0114】
例えば、図15に示すように、フレーム画像Fを構成する3つの部分画像PI-1,PI-2,PI-3において、隣り合う部分画像PI-2と部分画像PI-3の隙間2がある。このとき、他のフレーム画像Fを構成する3つの部分画像PI-4,PI-5,PI-6のうちの部分画像PI-6は、隙間2に重なる。そのため、隙間2の領域に対応する画像ISの画素の画素値は、隙間2に重なる部分画像PI-6の画素の画素値が用いられる。このように、1つのフレーム画像Fにおいて、部分画像の位置ずれを補正することで生じた空白部分は、他のフレーム画像Fの画素値を用いて補われる。
【0115】
このようにして、画像処理部90は、位置ずれが補正された複数の部分画像に基づいて試料Sの画像ISを生成する。
【0116】
3.3. 効果
第3実施形態に係るオージェ電子分光装置では、制御部80は、補正処理S404を、1/Nフレームごとに行い、画像取得処理S406において、光学系20に観察領域S2を1/Nフレーム分だけ走査させて、部分画像を取得し、補正処理S404および画像取
得処理S406をN回繰り返すことによって、各フレーム画像Fを取得する。このように第3実施形態では、1/Nフレームごとに補正処理S404が行われるため、例えば、1フレームごとに補正処理を行う場合と比べて、より短い時間間隔で電子プローブの照射位置のずれを補正できる。
【0117】
第3実施形態に係るオージェ電子分光装置では、画像処理部90は、基準画像と参照画像との間の位置ずれ情報に基づいて各部分画像間の位置ずれを補正し、補正された複数の部分画像に基づいて試料Sの画像ISを生成する。そのため、第3実施形態では、より短い時間間隔で電子プローブの照射位置のずれを補正できる。
【0118】
第3実施形態に係るオージェ電子分光装置では、画像処理部90は、補正された複数の部分画像を重ね、同じ座標に画素が2以上ある場合には画素値の平均を求めて試料Sの画像ISの画素値とし、同じ座標に画素が1つの場合には当該1つの画素の画素値を試料Sの画像ISの画素値とする。そのため、第3実施形態では、部分画像が重なる数に応じて画素値が大きくならないため、部分画像が重なる数が異なることによる画素値の違いが画像ISに現れない。
【0119】
例えば、同じ座標に画素が2以上ある場合に画素値を積算して画像ISの画素値とすると、部分画像が重なる数が多いほど画素値が大きくなってしまう。そのため、部分画像が重なる数が異なることによる画素値の違いが画像ISに現れてしまう。同じ座標に画素が2以上ある場合に画素値の平均を求めて試料Sの画像ISの画素値とする場合には、このような問題が生じない。
【0120】
第3実施形態に係るオージェ電子分光装置では、画像処理部90は、複数のフレーム画像Fのうちの1つのフレーム画像Fを構成するN個の部分画像において、隣り合う部分画像の隙間2に対応する試料Sの画像ISの画素の画素値を、複数のフレーム画像Fのうちの他のフレーム画像Fの画素値に基づいて決定する。そのため、第3実施形態では、N個の部分画像からなる1つのフレーム画像Fに、画素値がない空白部分が生じた場合でも、他のフレーム画像Fの画素値で補うことができる。
【0121】
4. 変形例
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0122】
例えば、上述した第1~第3実施形態では、すべてのフレーム画像を取得した後に、取得した複数のフレーム画像を積算または平均して試料Sの画像ISを生成したが、フレーム画像を取得する処理と、フレーム画像を積算または平均する画像処理を並行して行って、リアルタイムに試料Sの画像をディスプレイなどの表示部に表示させてもよい。
【0123】
また、例えば、上述した第1~第3実施形態では、本発明に係る荷電粒子線装置が、オージェ電子分光装置の場合について説明したが、本発明に係る荷電粒子線装置は、電子線やイオンビームなどの荷電粒子線でプローブを形成し、当該プローブで試料を走査して走査像を取得する装置であればよい。また、プローブで試料を走査して試料で発生した信号は、二次電子や、反射電子、オージェ電子などの電子、特性X線などのX線、非弾性散乱電子、カソードルミネッセンスなどの光であってもよい。
【0124】
本発明に係る荷電粒子線装置は、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)、走査透過電子顕微鏡(STEM)、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、二次イオン質量分析装置(SIMS)であってもよい。
【0125】
また、例えば、上述した第1~第3実施形態では、試料Sの画像ISとしてオージェ像を取得する場合について説明したが、本発明に係る荷電粒子線装置は、オージェ像以外の様々な試料Sの画像を取得してもよい。例えば、試料Sの画像として、二次電子像や、反射電子像、EDS(energy dispersive X-ray spectroscopy)による元素マップ、WDS(wavelength-dispersive X-ray spectroscopy)による元素マップ、EELS(electron
energy loss spectroscopy)による元素マップを取得してもよい。
【0126】
また、例えば、上述した第1~第3実施形態では、基準画像および参照画像として二次電子像を用いる場合について説明したが、基準画像および参照画像は、二次電子像に限定されず、反射電子像や、オージェ像、EDSによる元素マップ、EELSによる元素マップなどであってもよい。
【0127】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0128】
2…隙間、20…光学系、21…電子源、22…集束レンズ、24…偏向器、25…走査偏向器、26…対物レンズ、30…試料ステージ、50…電子分光器、70…二次電子検出器、80…制御部、82…記憶部、90…画像処理部、100…オージェ電子分光装置、200…オージェ電子分光装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15