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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】切削システム及び切削方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/09 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
B23Q17/09 H
B23Q17/09 B
B23Q17/09 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022129005
(22)【出願日】2022-08-12
(65)【公開番号】P2024025504
(43)【公開日】2024-02-26
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 尚登
(72)【発明者】
【氏名】笠原 和人
(72)【発明者】
【氏名】足立 貴嗣
(72)【発明者】
【氏名】名畑 英二
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-006170(JP,A)
【文献】特開平10-090011(JP,A)
【文献】特開2008-131729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q17/00-23/00
B23Q37/00-41/08
G05B19/18-19/416
G05B19/418
G05B19/42-19/46
G01M13/00-13/045
G01M99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を加工するための切削工具と、前記被加工物または前記切削工具を回転させるための回転軸とを有し、前記回転軸の回転に伴って前記切削工具が前記被加工物を切削加工する工作機械に適用される切削システムであって、
複数の前記被加工物それぞれの切削加工において前記切削工具にかかる切削負荷を取得する取得部と、
前記切削負荷の累積値を取得する累積部と、
前記累積値に基づいて、前記複数の被加工物又は前記切削工具を評価する評価部と、
を備え
前記累積部は、前記複数の被加工物のうち同一の前工程を経た被加工物ごとに前記累積値を取得し、
前記評価部は、前記前工程を経た被加工物ごとの前記累積値に基づいて、前記前工程の精度を評価する、
切削システム。
【請求項2】
被加工物を加工するための切削工具と、前記被加工物または前記切削工具を回転させるための回転軸とを有し、前記回転軸の回転に伴って前記切削工具が前記被加工物を切削加工する工作機械に適用される切削システムであって、
複数の前記被加工物それぞれの切削加工において前記切削工具にかかる切削負荷を取得する取得部と、
前記切削負荷の累積値を取得する累積部と、
前記累積値に基づいて、前記複数の被加工物又は前記切削工具を評価する評価部と、
を備え、
前記評価部は、複数の前記切削工具それぞれについての前記累積値を前記切削加工の回数で割った工具別累積値に基づいて、前記複数の切削工具それぞれの工具性能を評価する、
切削システム。
【請求項3】
前記評価部は、前記累積値に基づいて、前記切削工具の寿命を評価する、
請求項1又は2に記載の切削システム。
【請求項4】
前記取得部は、
前記切削工具又は前記被加工物の回転軸を回転駆動させるモータのロードメータ値と、前記モータのモータ回転数とに基づいて、前記モータのトルク値を取得するトルク算出部と、
前記トルク値に基づいて、前記切削負荷を算出する負荷算出部と、
を有する、
請求項1又は2に記載の切削システム。
【請求項5】
被加工物を加工するための切削工具と、前記被加工物または前記切削工具を回転させるための回転軸とを有し、前記回転軸の回転に伴って前記切削工具が前記被加工物を切削加工する工作機械に適用される切削方法であって、
複数の前記被加工物それぞれの切削加工において前記切削工具にかかる切削負荷を取得する工程と、
前記複数の被加工物のうち同一の前工程を経た被加工物ごとに前記切削負荷の累積値を取得する工程と、
前記前工程を経た被加工物ごとの前記累積値に基づいて、前記複数の被加工物又は前記切削工具と前記前工程の精度とを評価する工程と、
を備える切削方法。
【請求項6】
被加工物を加工するための切削工具と、前記被加工物または前記切削工具を回転させるための回転軸とを有し、前記回転軸の回転に伴って前記切削工具が前記被加工物を切削加工する工作機械に適用される切削方法であって、
複数の前記被加工物それぞれの切削加工において前記切削工具にかかる切削負荷を取得する工程と、
前記切削負荷の累積値を取得する工程と、
複数の前記切削工具それぞれについての前記累積値を前記切削加工の回数で割った工具別累積値に基づいて、前記複数の切削工具それぞれの工具性能を評価する工程と、
を備える切削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削システム及び切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、工作機械の工具に寿命時間を設定し、寿命時間から工具の使用時間を減算することによって残寿命時間を算出する手法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-047021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、工具の摩耗度合いは被加工物の種類(材質及び形状)によって変動するため、工具の使用時間のみに基づいて工具寿命を精度良く評価することはできない。
【0005】
本開示は、複数の被加工物又は切削工具を精度良く評価可能な切削システム及び切削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る切削システムは、工作機械に適用される切削システムであって、取得部と、累積部と、評価部とを備える。工作機械は、被加工物を加工するための切削工具と、前記被加工物または前記切削工具を回転させるための回転軸とを有する。工作機械は、回転軸の回転に伴って前記切削工具が前記被加工物を切削加工する。取得部は、複数の被加工物それぞれの切削加工において切削工具にかかる切削負荷を取得する。累積部は、切削負荷の累積値を取得する。評価部は、累積値に基づいて、複数の被加工物又は切削工具を評価する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、複数の被加工物又は切削工具を精度良く評価可能な切削システム及び切削方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る切削システムの構成を示す模式図
図2】第1実施形態に係る解析部の構成を示すブロック図
図3】トルク線図の一例を示すグラフ
図4】第1実施形態に係る切削方法を説明するためのフローチャート
図5】第2実施形態に係る解析部の構成を示すブロック図
図6】第2実施形態に係る切削方法を説明するためのフローチャート
図7】第3実施形態に係る解析部の構成を示すブロック図
図8】第3実施形態に係る切削方法を説明するためのフローチャート
図9】変形例1に係る切削システムの構成を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0009】
〈第1実施形態〉
【0010】
(切削システム)
図1は、第1実施形態に係る切削システム1の構成を示す模式図である。切削システム1は、3つの工作機械10a~10c及び管理装置20を備える。
【0011】
(工作機械)
本実施形態において、切削システム1は、3つの工作機械10a~10cを備えているが、切削システム1が備える工作機械の数は1以上であればよい。
【0012】
各工作機械10a~10cとしては、ボール盤、旋盤、フライス盤、中ぐり盤、マシニングセンタ、研削盤などが挙げられるが、これらには限られない。本実施形態において、各工作機械10a~10cは、同種の工作機械であるが、異種の工作機械であってもよい。
【0013】
図1に示すように、各工作機械10a~10cは、テーブル11、切削工具12、回転軸13、モータ14、アンプ15及びコントローラ16を備える。
【0014】
テーブル11には、未加工のワークW(被加工物)が載置される。ワークWの切削加工が完了すると、加工済みのワークWは搬出され、新たなワークWがテーブル11に載置される。
【0015】
切削工具12は、ワークWの切削加工に用いられる。本実施形態において、工作機械10a~10cでは、同種類の切削工具12が用いられる。ただし、切削工具12の製造メーカは互いに異なるものとする。切削工具12は、回転軸13に取り付けられており、回転軸13の軸心AXを中心として回転する。本実施形態では、回転軸13に取り付けられた切削工具12が回転することによって、切削工具12がワークWに対して相対回転する。しかし、切削工具12はワークWに対して相対回転可能であればよく、回転軸(不図示)に取り付けられたワークWが回転することによって、切削工具12がワークWに対して相対回転してもよい。
【0016】
切削工具12は、ワークWに対して相対移動する。本実施形態では、テーブル11が移動することによって切削工具12がワークWに対して相対移動するが、回転軸13が移動することによって切削工具12がワークWに対して相対移動してもよい。
【0017】
回転軸13には、切削工具12が取り付けられる。回転軸13は、軸心AXを中心として回転可能である。モータ14は、回転軸13を回転駆動させる。モータ14は、アンプ15から供給される駆動電流によって回転する。モータ14は、モータ回転数をコントローラ16に送信する。
【0018】
アンプ15は、図示しない電源に接続されている。アンプ15は、コントローラ16から指令電流を受信する。アンプ15は、受信した指令電流に基づいて、モータ14に駆動電流を供給する。
【0019】
コントローラ16は、モータ14を制御する。具体的には、コントローラ16は、NC(Numerical Control)プログラムに従って、アンプ15に指令電流を出力する。コントローラ16は、モータ14からモータ回転数を受信する。
【0020】
コントローラ16は、アンプ15に出力する指令電流に基づいて、モータ14のロードメータ値を算出する。ロードメータ値は、モータ14の定格電流に対する指令電流の割合である。
【0021】
コントローラ16は、ワークWの切削工程におけるロードメータ値及びモータ回転数を所定の時間間隔(例えば、10ミリ秒ごと)でサンプリングする。コントローラ16は、サンプリングするたびに、ロードメータ値と、モータ回転数と、工具IDと、動作データの生成日時とを含む動作データを生成する。工具IDは、切削工具12に固有の識別子であり、各工作機械10a~10cの切削工具12それぞれの工具IDは互いに異なる。ただし、切削システム1が工作機械を1つだけ備え、かつ、当該工作機械において1種類の切削工具12のみが用いられる場合には、動作データは工具IDを含まなくてよい。
【0022】
コントローラ16は、ネットワーク(例えば、インターネット)を介して、管理装置20と通信可能である。コントローラ16は、生成した動作データを管理装置20に送信する。コントローラ16が動作データを送信するタイミングは特に限られないが、例えば、1つのワークWの切削加工が完了したときに複数の動作データを纏めて送信することができる。
【0023】
(管理装置)
管理装置20の機能は、例えば、サーバー、パーソナルコンピュータ又はポータブル端末により達成することができる。管理装置20の機能をサーバーにより達成する場合、サーバーは、クラウドサーバーであってもよい。管理装置20の機能をパーソナルコンピュータにより達成する場合、パーソナルコンピュータは、各工作機械10a~10cと一体に形成されてもよいし、各工作機械10a~10cの近くに配置されてもよいし、各工作機械10a~10cが配置されている場所とは異なる管理室などに配置されてもよい。管理装置20の機能をポータブル端末により達成する場合、ポータブル端末としては、例えばタブレットなどの持ち運び可能な端末を用いることができる。
【0024】
図1に示すように、管理装置20は、動作データ受信部21、記憶部22及び解析部23を有する。
【0025】
[動作データ受信部]
動作データ受信部21は、ネットワークを介して、各工作機械10a~10cのコントローラ16と通信可能である。動作データ受信部21は、各工作機械10a~10cのコントローラ16から動作データを受信する。動作データ受信部21は、受信した動作データを記憶部22に記憶させる。
【0026】
[記憶部]
記憶部22は、複数の動作データを記憶する。具体的には、記憶部22は、動作データに含まれる工具IDごとに、ロードメータ値及びモータ回転数を対応付けて記憶する。記憶部22は、複数の動作データを生成日時順に記憶することが好ましい。
【0027】
[解析部]
解析部23は、記憶部22に記憶されている複数の動作データを解析する。図2は、解析部23の構成を示すブロック図である。図2に示すように、解析部23は、取得部23a、累積部23b及び寿命評価部23cを有する。
【0028】
・取得部23a
取得部23aは、動作データに基づいて、切削工具12にかかる切削負荷を取得する。取得部23aは、図2に示すように、トルク算出部a1及び負荷算出部a2を含む。
【0029】
トルク算出部a1は、記憶部22に記憶されている動作データに含まれるロードメータ値及びモータ回転数に基づいて、以下のように、モータ14のトルク値を取得する。
【0030】
トルク算出部a1は、モータ回転数とトルク値との関係が定められたトルク線図を記憶している。図3は、トルク線図の一例を示すグラフである。図3では、横軸をモータ回転数とし、縦軸をトルク値とするグラフ上に、ロードメータ値が100%であるときのモータ回転数と最大トルク値との関係を示す折れ線が描かれている。トルク算出部a1は、トルク線図を参照して、動作データに含まれるモータ回転数に対応する最大トルク値を取得する。トルク算出部a1は、動作データに含まれるロードメータ値を最大トルク値に乗算することによって、モータ14のトルク値を算出する。
【0031】
負荷算出部a2は、トルク算出部a1によって算出されたトルク値を切削工具12の工具径で割ることによって、切削工具12にかかる切削負荷を算出する。工具径とは、回転軸13の軸心AXに垂直な方向における切削工具12の刃先寸法である。
【0032】
負荷算出部a2は、記憶部22に記憶されている各動作データと算出した切削負荷とを互いに対応付けて記憶させる。
【0033】
・累積部23b
累積部23bは、記憶部22に記憶されている複数の動作データの中から、所望の工具IDに係る全ての動作データに対応付けて記憶されている切削負荷を取得する。そして、累積部23bは、全ての切削負荷を累積することによって、切削負荷の累積値を取得する。累積部23bは、工具IDごとに切削負荷の累積値を取得する。
【0034】
切削負荷の累積方法としては、加工時間に基づいて切削負荷を積分する方法や、切削工具12の刃先の回転距離(軸心AXを中心とする刃先の移動量)に基づいて切削負荷を積分する方法などが挙げられるが、これらには限られない。
【0035】
・寿命評価部23c
寿命評価部23cは、本開示に係る「評価部」の一例である。寿命評価部23cは、特定の工具IDによって示される切削工具12の限界累積値を記憶している。限界累積値は、新品の切削工具12を切削加工で限界まで摩耗させたときの切削負荷の累積値を計測することで予め得られる。
【0036】
寿命評価部23cは、累積部23bによって取得された切削負荷の累積値を限界累積値と比較することによって、切削工具12の寿命を評価する。例えば、切削負荷の累積値を限界累積値で割った値が1に近づくほど、切削工具12の残寿命が短いことが分かる。
【0037】
ここで、表1は、3種類の異なる切削工具No.1~3を用いて切削加工を実際に行った時の摩耗幅、切削負荷の累積値、加工数及び加工時間の関係を示している。なお、切削加工は、同じ材質かつ同じ形状(具体的には、同じ加工量)のワークに対して同じ切削条件にて行われた。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示されるように、摩耗幅は、切削負荷の累積値と強い相関があるため、切削負荷の累積値は、切削工具の摩耗量を示す指標として好適である。従って、上記の通り、切削負荷の累積値を用いることによって、切削工具12の寿命を精度良く評価できることを理解できる。
【0040】
なお、表1では、同じ材質かつ同じ形状のワークに対して同じ切削条件で切削加工が行われたため、摩耗幅は加工時間とも強い相関がある。そして、切削負荷の累積値は、摩耗幅との関係において、加工時間と同程度の相関を有している。後述するように、ワークの材質、加工量及び切削条件が変化すると、摩耗幅と加工時間との相関は低下するが、摩耗幅と切削負荷の累積値との相関は低下しにくい。
【0041】
(切削方法)
切削システム1における切削方法について、図面を参照しながら説明する。図4は、第1実施形態に係る切削方法を説明するためのフローチャートである。切削工具12にかかる切削負荷の解析は、3つの工作機械10a~10cに共通しているため、以下においては、1つの工作機械の切削工具12にかかる切削負荷の解析について説明する。
【0042】
ステップS1において、コントローラ16は、切削工具12を用いたワークWの切削工程におけるロードメータ値及びモータ回転数をサンプリングする。
【0043】
ステップS2において、コントローラ16は、ロードメータ値と、モータ回転数と、工具IDと、生成日時とを含む動作データを生成する。
【0044】
ステップS3において、動作データ受信部21は、コントローラ16から受信した複数の動作データを記憶部22に記憶させる。
【0045】
ステップS4において、取得部23aは、複数の動作データに基づいて、複数のワークWそれぞれの切削加工において切削工具12にかかる切削負荷を取得する。
【0046】
ステップS5において、累積部23bは、切削工具12にかかる切削負荷の累積値を取得する。
【0047】
ステップS6において、寿命評価部23cは、切削負荷の累積値を限界累積値と比較することによって、切削工具12の寿命を評価する。
【0048】
(特徴)
【0049】
(1)本実施形態に係る切削システム1は、累積部23b及び寿命評価部23cを備える。累積部23bは、複数のワークWそれぞれの切削加工において切削工具12にかかる切削負荷の累積値を取得する。寿命評価部23cは、切削負荷の累積値に基づいて切削工具12を評価する。具体的には、寿命評価部23cは、切削負荷の累積値に基づいて、切削工具12の寿命を評価する。
【0050】
本実施形態に係る切削システム1では、切削負荷の累積値によって切削工具12の寿命を評価しているので、ワークWの材質、ワークWの形状(具体的には、加工量)及び切削条件の違いを考慮して切削工具12の寿命を評価することができる。従って、同品種のワークWを切削加工する場合には、切削条件の違いが考慮されるため、切削工具12の寿命を精度よく評価できる。また、異品種のワークWを切削加工する場合であっても、ワークWの材質や形状の違いが考慮されるため、切削工具12の寿命を精度よく評価できる。さらに、切削工具12の寿命を精度よく評価できることによって、切削工具12を寿命限界まで利用できる。よって、切削工具12を効率的に使うことができ、切削システム1における生産性を向上させることができる。例えば、増産時には切削速度を上げ、減産時には切削速度を下げるというように、生産計画にあわせて切削条件を変更する場合があるが、切削条件の違いが切削負荷の累積値に反映されるため、切削条件の変更が必要な場合であっても切削工具12の寿命を精度よく評価できる。
【0051】
一方で、切削加工したワークの個数に基づいて切削工具12の寿命を評価する場合、ワークの材質、ワークの形状(具体的には、加工量)及び切削条件の違いを考慮できないため、切削工具12の寿命の評価精度が低くなる。具体的には、異品種のワークを切削加工するときには、ワークの材質や形状の違いを考慮できないので、切削加工したワークの個数が同じでも、ワークが硬いほど、また、ワークの加工量が多いほど切削負荷が大きくなるといった影響を受けて、切削工具12の寿命の評価精度は低くなってしまう。また、同品種のワークを切削加工するときには、切削条件の違いを考慮できないので、切削速度が速いほど切削負荷が大きくなるという影響を受けて、切削工具12の寿命の評価精度は低くなってしまう。
【0052】
また、切削加工の時間に基づいて切削工具12の寿命を評価する場合、ワークの形状が異なることに起因する加工量の違いを考慮できるため、異品種のワークを切削加工するときには、ワークの個数に基づいて評価する場合に比べて好適である。しかしながら、この場合であっても、ワークの材質や切削条件の違いを考慮することはできないので、ワークの個数に基づいて評価する場合と同様、切削工具12の寿命の評価精度は低くなってしまう。
【0053】
(2)本実施形態に係る切削システム1は、切削負荷を取得する取得部23aを備える。取得部23aは、トルク算出部a1と負荷算出部a2とを含む。トルク算出部a1は、モータ14のロードメータ値と、モータ14のモータ回転数とに基づいて、モータ14のトルク値を取得する。負荷算出部a2は、トルク算出部a1によって取得されたトルク値に基づいて切削負荷を算出する。
【0054】
従って、切削負荷やトルク値を検出するためにセンサを設ける必要がなく、かつ、煩雑な解析を経ることなく、ロードメータ値から切削負荷を簡便に求めることができる。
【0055】
一方で、従来、切削負荷やトルクを検出するためのセンサを取り付けて、切削負荷やトルクを取得する方法が知られているが、センサの設置場所を確保する必要があるだけでなく、センサ自体が高価である。
【0056】
また、従来、モータの実測電流値から切削負荷を算出する方法も知られているが、実測電流値は、切削加工中、定期的に0(ゼロ)となる期間があるため、切削負荷を算出するには解析(変換や抽出)が必要であり煩雑である。さらに、モータの種類によって実測電流値を示す波形の特徴が異なるため、それに合わせて変換及び抽出の方法を選択しなければならず、複数種類の工作機械を用いる場合には、さらに煩雑な解析が必要である。
【0057】
〈第2実施形態〉
第2実施形態に係る切削システムは、図1に示した第1実施形態に係る切削システム1と同じ構成を有する。ただし、本実施形態において、動作データは、ロードメータ値とモータ回転数と工具IDと生成日時とに加えて、ワークIDと前工程IDを更に含むこととする。ワークIDは、ワークWに固有の識別子、及び、ワークWの製造ロットごとに固有の識別子のうち少なくとも一方を含む。ワークIDは、製造ロットを識別する情報を含んでいてもよい。前工程IDは、切削加工されるワークWが経た前工程に固有の識別子である。前工程としては、例えば、鋳造工程、鍛造工程、機械加工工程などが挙げられるが、これらには限られない。
【0058】
図5は、第2実施形態に係る解析部23の構成を示すブロック図である。
【0059】
解析部23は、取得部23a、累積部23d及び前工程評価部23eを有する。
【0060】
・取得部23a
取得部23aは、トルク算出部a1及び負荷算出部a2を含む。トルク算出部a1及び負荷算出部a2の機能及び構成は、上記第1実施形態において説明した通りである。
【0061】
・累積部23d
累積部23dは、各ワークWが固有の識別子として持つワークIDごとに切削負荷を累積することによって、ワークWごとに切削負荷の累積値を取得する。
【0062】
ワークIDごとに切削負荷を累積する手法は特に限られないが、累積部23dは、次のようにワークIDごとに切削負荷を累積してもよい。例えば、ワークIDがワークWに固有の識別子を含んでいる場合、累積部23dは、ワークIDを認識することで、ワークIDごとに切削負荷を累積してもよい。また、累積部23dは、動作データの順番通り(生成日時順)に切削負荷を累積し、加工完了通知や工具交換通知を各工作機械10a~10cのコントローラ16から受信したタイミングで累積を区切ることによって、ワークIDごとに切削負荷を累積してもよい。加工完了通知とは、ワークWの切削加工が完了したことを示す通知である。工具交換通知とは、切削工具12が交換されたことを示す通知である。また、累積部23dは、動作データの順番通りに切削負荷を累積し、オペレータによる端末操作に応じて累積を区切ることによって、ワークIDごとに切削負荷を累積してもよい。
【0063】
また、累積部23dは、前工程IDに基づいて、すべてのワークWについての切削負荷の累積値を同一の前工程を経た被加工物グループごとに分類する。
【0064】
・前工程評価部23e
前工程評価部23eは、本開示に係る「評価部」の一例である。前工程評価部23eは、各被加工物グループに含まれる各ワークWの切削負荷の累積値に基づいて、当該グループに含まれるワークWが経た前工程の精度を評価する。
【0065】
ここで、上述した通り、前工程としては鋳造工程、鍛造工程、機械加工工程などが挙げられ、切削加工の対象面は、鋳造された鋳肌そのままの面であったり、鍛造されたままの面であったり、機械加工された面であったりする。そして、切削加工において、ワークWを所望の寸法に切削する際、切削加工量が多ければ切削負荷の累積値は大きくなる。言い換えれば、前工程の加工精度や寸法精度が悪く、切削加工での目標である仕上がり寸法との乖離が大きければ、切削負荷の累積負荷は大きくなる。
【0066】
従って、前工程評価部23eは、平常時の加工精度が高い場合に、平常時の切削負荷の累積値と比較して、ワークWの切削負荷の累積値が大きい場合には、当該グループに対応付けられた前工程IDによって示される前工程におけるワークWの寸法精度や加工精度が低いため、切削加工代が多く残されていたと推定しても良い。また、前工程評価部23eは、ワークWの切削負荷の累積値が小さい場合には、当該グループに対応付けられた前工程IDによって示される前工程におけるワークWの寸法精度や加工精度が低いため、切削加工代が過剰に少なくなっていたと推定しても良い。
【0067】
平常時の切削負荷の累積値としては、過去に行われた切削加工におけるワークWの切削負荷の累積値の平均値又は中央値を用いてもよい。或いは、平常時の切削負荷の累積値としては、各被加工物グループにおいて所定期間内に取得されたワークWの切削負荷の累積値の平均値又は中央値を用いてもよい。ワークWの切削負荷の累積値が平常時の切削負荷の累積値より大きいか否か(又は、小さいか否か)の判定は、ワークWの切削負荷の累積値と平常時の切削負荷の累積値との絶対差が、平常時の切削負荷の累積値に所定割合を乗算して得られた閾値を超えたか否かによって行ってもよい。
【0068】
また、前工程評価部23eは、ワークWの切削負荷の累積値の標準偏差が大きい被加工物グループが存在する場合には、当該グループに対応付けられた前工程IDによって示される前工程におけるワークWの寸法精度や加工精度にばらつきがあると判断してもよい。
【0069】
なお、寸法精度とは、鋳造工程や鍛造工程のように加工(例えば、機械加工)によらない工程において形成されるワークWの寸法の精度を意味する。加工精度とは、加工(例えば、機械加工)による工程において形成されるワークWの加工の精度を意味する。
【0070】
さらに、前工程評価部23eは、ワークWの切削負荷の累積値が小さい場合には、前工程における不具合が原因でワークWに欠陥(例えば、不十分な熱処理によって生じた硬さ不足や内部欠陥など)があると判断してもよい。
【0071】
(切削方法)
切削方法について、図面を参照しながら説明する。図6は、第2実施形態に係る切削方法を説明するためのフローチャートである。
【0072】
ステップS1~3は、上記第1実施形態と同じであるため説明を割愛する。
【0073】
ステップS11において、累積部23dは、前工程IDに基づいて、すべてのワークWの動作データを同一の前工程を経た被加工物グループごとに分類する。
【0074】
ステップS12において、累積部23dは、ワークIDに基づいて、各被加工物グループに含まれるワークWごとに動作データを分類する。
【0075】
ステップS13において、累積部23dは、各被加工物グループに含まれる各ワークWの切削負荷の累積値を取得する。
【0076】
ステップS14において、前工程評価部23eは、各被加工物グループに含まれる各ワークWの切削負荷の累積値に基づいて、当該グループに含まれるワークWが経た前工程の精度を評価する。
【0077】
(特徴)
本実施形態において、累積部23dは、複数のワークWのうち同一の前工程を経たワークWごとに切削負荷の累積値を取得し、前工程評価部23eは、同一の前工程を経たワークWごとの累積値に基づいて前工程の精度を評価する。
【0078】
このように、切削負荷の累積値を利用することによって、前工程の寸法精度、加工精度、不具合などを簡便かつ精度良く評価することができる。
【0079】
〈第3実施形態〉
第3実施形態に係る切削システムは、図1に示した第1実施形態に係る切削システム1と同じ構成を有する。
【0080】
図7は、第3実施形態に係る解析部23の構成を示すブロック図である。
【0081】
解析部23は、取得部23a、累積部23f及び工具性能評価部23gを有する。
【0082】
・取得部23a
取得部23aは、トルク算出部a1及び負荷算出部a2を含む。トルク算出部a1及び負荷算出部a2の機能及び構成は、上記第1実施形態において説明した通りである。
【0083】
・累積部23f
累積部23fは、記憶部22に記憶された複数の動作データを切削工具12ごとに分類する。この際、累積部23fは、動作データに含まれる工具IDに基づいて、複数の動作データを切削工具12ごとに分類してもよい。
【0084】
累積部23fは、各切削工具12についての切削負荷の累積値を取得する。
【0085】
・工具性能評価部23g
工具性能評価部23gは、本開示に係る「評価部」の一例である。工具性能評価部23gは、各切削工具12についての切削負荷の累積値を切削加工の回数で割った工具別累積値を取得する。切削加工の回数は、各切削工具12によって切削加工されたワークWの数である。ワークWの数は、動作データに含まれる生成日時に基づいて取得してもよい。工具別累積値は、各切削工具12における1つのワークWの切削加工中にかかった切削負荷の累積値である。切削負荷の累積方法は、上述の通りである。
【0086】
工具性能評価部23gは、工具別累積値を各切削工具12間で比較することによって、各切削工具12の工具性能を評価する。例えば、各工作機械10a~10cのいずれかの切削工具12についての工具別累積値が顕著に小さい場合には、当該切削工具12の製造メーカが製作した切削工具12は工具性能が高いと判断してもよい。
【0087】
(切削方法)
切削方法について、図面を参照しながら説明する。図8は、第2実施形態に係る切削方法を説明するためのフローチャートである。
【0088】
ステップS1~3は、上記第1実施形態と同じであるため説明を割愛する。
【0089】
ステップS21において、累積部23fは、切削工具12ごとに切削負荷の累積値を取得する。
【0090】
ステップS22において、工具性能評価部23gは、切削工具12ごとに切削負荷の累積値を切削加工の回数で割った工具別累積値を取得する。
【0091】
ステップS23において、工具性能評価部23gは、工具別累積値に基づいて、各切削工具12の工具性能を評価する。
【0092】
(特徴)
本実施形態において、工具性能評価部23gは、各切削工具12についての切削負荷の累積値を切削加工の回数で割った工具別累積値を求め、工具別累積値に基づいて各切削工具12の工具性能を評価する。
【0093】
このように、切削負荷の累積値を利用することによって、切削工具12の工具性能を簡便かつ精度良く評価することができる。
【0094】
(実施形態の変形例)
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0095】
[変形例1]
解析部23の寿命評価部23cは、切削工具12の寿命に関するアラートを発報してもよい。例えば、図9に示すように、管理装置20が表示部24を有している場合、寿命評価部23cは、切削工具12の寿命に関するアラートを表示部24に表示させる。例えば、寿命評価部23cは、切削負荷の累積値が限界累積値に達したとき、切削工具12を交換する必要があることを示すアラートを表示部24に表示させることができる。或いは、寿命評価部23cは、切削負荷の累積値が限界累積値より小さい所定の閾値に達したとき、切削工具12の交換時期が近付いていることを示すアラートや、切削工具12の目視確認を推奨するアラートなどを表示部24に表示させてもよい。表示内容や閾値については適宜設定することができる。表示部24としては、周知のモニタ、ディスプレイなどを用いることができる。
【0096】
ただし、寿命評価部23cによるアラートの発報方法は特に限られず、アラートを表示部24に表示する方法のほか、アラートを示す警報音をスピーカから発する方法など種々の方法を採用できる。
【0097】
[変形例2]
各工作機械10a~10cは、切削工具12の自動交換機構を有していてもよい。この場合、解析部23の寿命評価部23cは、切削負荷の累積値が限界累積値に達したとき、自動交換機構に切削工具12の自動交換を指示してもよい。
【0098】
[変形例3]
本開示に係る「評価部」として、第1実施形態の寿命評価部23c、第2実施形態の前工程評価部23e、及び第3実施形態の工具性能評価部23gについて説明したが、本開示に係る「評価部」は、これらのうち2つ以上の機能及び構成を有していてもよい。
【0099】
[変形例4]
上記第1乃至第3実施形態において、取得部23aは、ロードメータ値及びモータ回転数に基づいて取得されるトルク値に基づいて切削負荷を取得することとしたが、これに限られない。本開示に係る取得部は、切削負荷を直接的に検出するセンサの検出値から切削負荷を取得してもよいし、モータ14のトルク値を検出するセンサによって検出されるトルク値に基づいて切削負荷を取得してもよい。或いは、本開示に係る取得部は、モータ14の実測電流値及びモータ回転数に基づいて取得されるトルク値に基づいて切削負荷を取得してもよい。
【0100】
(付記1)
被加工物を加工するための切削工具と、前記被加工物または前記切削工具を回転させるための回転軸とを有し、前記回転軸の回転に伴って前記切削工具が前記被加工物を切削加工する工作機械に適用される切削システムであって、複数の前記被加工物それぞれの切削加工において前記切削工具にかかる切削負荷を取得する取得部と、前記切削負荷の累積値を取得する累積部と、前記累積値に基づいて、前記複数の被加工物又は前記切削工具を評価する評価部とを備える切削システム。
【0101】
(付記2)
前記評価部は、前記累積値に基づいて、前記切削工具の寿命を評価する、付記1に記載の切削システム。
【0102】
(付記3)
前記累積部は、前記複数の被加工物のうち同一の前工程を経た被加工物ごとに前記累積値を取得し、前記評価部は、前記前工程を経た被加工物ごとの前記累積値に基づいて、前記前工程の精度を評価する、付記1又は2に記載の切削システム。
【0103】
(付記4)
評価部は、複数の前記切削工具それぞれについての前記累積値を前記切削加工の回数で割った工具別累積値に基づいて、前記複数の切削工具それぞれの工具性能を評価する、付記1乃至3のいずれかに記載の切削システム。
【0104】
(付記5)
前記取得部は、前記切削工具又は前記被加工物の回転軸を回転駆動させるモータのロードメータ値と、前記モータのモータ回転数とに基づいて、前記モータのトルク値を取得するトルク算出部と、前記トルク値に基づいて、前記切削負荷を算出する負荷算出部とを有する付記1乃至4のいずれかに記載の切削システム。
【0105】
(付記6)
被加工物を加工するための切削工具と、前記被加工物または前記切削工具を回転させるための回転軸とを有し、前記回転軸の回転に伴って前記切削工具が前記被加工物を切削加工する工作機械に適用される切削方法であって、複数の前記被加工物それぞれの切削加工において前記切削工具にかかる切削負荷を取得する工程と、前記切削負荷の累積値を取得する工程と、前記累積値に基づいて、前記複数の被加工物又は前記切削工具を評価する工程とを備える切削方法。
【符号の説明】
【0106】
1…切削システム、10a~10c…工作機械、11…テーブル11、12…切削工具、13…回転軸、14…モータ、15…アンプ、16…コントローラ、20…管理装置、21…動作データ受信部、22…記憶部、23…解析部、23a…取得部、23b,23d,23f…累積部、23c…寿命評価部、23e…前工程評価部、23g…工具性能評価部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9