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特許7576608人工毛髪用芯鞘複合繊維、それを含む頭飾製品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】人工毛髪用芯鞘複合繊維、それを含む頭飾製品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A41G 3/00 20060101AFI20241024BHJP
   A41G 5/00 20060101ALI20241024BHJP
   D01F 8/14 20060101ALI20241024BHJP
   D01F 8/12 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
A41G3/00 A
A41G5/00
D01F8/14 C
D01F8/12 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022504996
(86)(22)【出願日】2021-01-05
(86)【国際出願番号】 JP2021000047
(87)【国際公開番号】W WO2021176829
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2023-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2020036165
(32)【優先日】2020-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】安友 徳和
【審査官】村山 睦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/179803(WO,A1)
【文献】特開昭58-065033(JP,A)
【文献】特開平04-370221(JP,A)
【文献】国際公開第2014/196642(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41G 3/00
A41G 5/00
D01F 8/14
D01F 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部と鞘部を含む人工毛髪用芯鞘複合繊維であって、
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、扁平二葉形の断面形状を有し、繊維断面における芯鞘比率が面積比で芯:鞘が3:7~8:2であり、
前記鞘部は、ポリアミド系樹脂を含むポリアミド系樹脂組成物で構成され、
前記芯部は、楕円の長軸の中心から等距離の両側の箇所から長軸に対する2本の垂線を引き、前記2本の垂線と楕円の長軸の2つの交点から中心に向けて楕円に対する4本の接線を引いた際、前記4本の接線と楕円の長軸の両側の湾曲部で形成された形状からなる断面形状を有し、
前記芯部断面の長軸方向は前記繊維断面の長軸方向と略一致し、前記芯部断面の短軸方向は前記繊維断面の短軸方向と略一致し、
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、同心芯鞘型であることを特徴とする人工毛髪用芯鞘複合繊維。
【請求項2】
前記芯部が、ポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルからなる群から選ばれる1種以上のポリエステル系樹脂を含むポリエステル系樹脂組成物で構成されている請求項1に記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維。
【請求項3】
前記鞘部が、ナイロン6及びナイロン66からなる群から選ばれる少なくとも1種を主体としたポリアミド系樹脂を含むポリアミド系樹脂組成物で構成されている請求項1又は2に記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維を含むことを特徴とする頭飾製品。
【請求項5】
ヘアーウィッグ、かつら、ウィービング、ヘアーエクステンション、ブレードヘアー、ヘアーアクセサリー及びドールヘアーからなる群から選ばれる一種である請求項4に記載の頭飾製品。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維の製造方法であって、
芯部樹脂組成物及び鞘部樹脂組組成物を芯鞘型複合ノズルを用いて溶融紡糸する工程を含むことを特徴とする人工毛髪用芯鞘複合繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人毛の代替品として使用できる人工毛髪用芯鞘複合繊維、それを含む頭飾製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かつら、ヘアーウィッグ、付け毛、ヘアーバンド、ドールヘアーなどの頭飾製品においては、従来、人毛が使われていたが、近年、人毛の入手が困難となり、人毛に代わる人工毛髪の需要が高まっている。
【0003】
このような人工毛髪は、人毛に近い触感や外観を有することが求められ、その素材として用いられる合成繊維としては、アクリル系繊維、塩化ビニル系繊維、塩化ビニリデン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維などが挙げられる。中でも、人毛に近い風合いが得られ、耐久性や耐熱性に優れる人工毛髪用芯鞘複合繊維として、ポリエステルを芯成分とし、ポリアミドを鞘成分とする芯鞘複合繊維が開発されている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1では、285℃におけるポリエステルの溶融粘度aとポリアミドの溶融粘度bの粘度比a/bを0.5~2.5にすることで、人工毛髪用芯鞘複合繊維の耐久性及び耐熱性に高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開公報2017/187843号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように特許文献1に記載の繊維は、ポリエステルを芯成分とし、ポリアミドを鞘成分とする芯鞘複合繊維であるが、鞘成分として用いられているポリアミドは、ヘアーアイロンなどでカールセットを行うと、ポリエステルよりもセット性が悪いため、人工毛髪用芯鞘複合繊維としてはカールセット性が十分でなく、更なる改善が求められる。
【0007】
本発明は、人毛に近い触感と優れた櫛通り性を有するとともに、カールセット性も良好な人工毛髪用芯鞘複合繊維、それを含む頭飾製品及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、1以上の実施形態において、芯部と鞘部を含む人工毛髪用芯鞘複合繊維であって、前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、扁平二葉形又は楕円形の断面形状を有し、繊維断面における芯鞘比率が面積比で芯:鞘が3:7~8:2であり、前記鞘部は、ポリアミド系樹脂を含むポリアミド系樹脂組成物で構成され、前記芯部は、繊維断面の短軸方向に沿って中心側から外周側に向けて突出した一対の凸部を有する変形扁平二葉形又は変形楕円形の断面形状を有することを特徴とする人工毛髪用芯鞘複合繊維に関する。
【0009】
本発明は、また、1以上の実施形態において、前記人工毛髪用芯鞘複合繊維を含むことを特徴とする頭飾製品に関する。
【0010】
本発明は、また、1以上の実施形態において、前記人工毛髪用芯鞘複合繊維の製造方法であって、芯部樹脂組成物及び鞘部樹脂組成物を芯鞘型複合ノズルを用いて溶融紡糸する工程を含む人工毛髪用芯鞘複合繊維の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の人工毛髪用芯鞘複合繊維は、人毛に近い触感と優れた櫛通り性を有するだけでなく、十分に優れたカールセット性を有し、頭飾製品の素材として好適である。
【0012】
本発明の製造方法によれば、人毛に近い触感と優れた櫛通り性を有するだけでなく、十分に優れたカールセット性を有する人工毛髪用芯鞘複合繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の1以上の実施形態の人工毛髪用芯鞘複合繊維の繊維断面を示す模式図である。
図2図2は、実施例1の繊維の繊維断面のレーザー顕微鏡写真である。
図3図3は、比較例1の繊維の繊維断面のレーザー顕微鏡写真である。
図4図4は、比較例3の繊維の繊維断面のレーザー顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、上述の従来技術の問題点を解決すべく為された発明であって、即ち、カールセット性に優れた人工毛髪用芯鞘複合繊維(以下において、単に「芯鞘複合繊維」とも記す)の提供を目的とし、従来芯部と鞘部(繊維)が相似形の芯鞘構造の繊維では、カールセット性が十分に優れた人工毛髪用芯鞘複合繊維を得ることが困難であることを見出し、繊維及び芯部を特定の断面形状とすることで、十分に優れたカールセット性を付与可能であることを見出した。
【0015】
(芯鞘複合繊維の形状)
本発明の1以上の実施形態において、人工毛髪用芯鞘複合繊維は、扁平二葉形又は楕円形の断面形状を有し、好ましくは扁平二葉形の断面形状を有する。また、芯部は、繊維断面の短軸方向に沿って中心側から外周側に向けて突出した一対の凸部を有する変形扁平二葉形又は繊維断面の短軸方向に沿って中心側から外周側に向けて突出した一対の凸部を有する変形楕円形の断面形状を有し、好ましくは変形扁平二葉形の断面形状を有する。
【0016】
扁平二葉形は、円形及び楕円形からなる群から選ばれる二つの葉形が凹部を介して結合したものであり、ここで言う円形又は楕円形の形状とは、必ずしも連続した弧を描く必要はなく、鋭角な角でなければ一部が変形した略円形又は略楕円形も含む。
【0017】
変形扁平二葉形は、扁平二葉形が変形したものであり、繊維断面の短軸方向に沿って中心側から外周側に向けて突出した一対の凸部を有する扁平二葉形であり、扁平二葉形では円形及び楕円形からなる群から選ばれる二つの葉形が凹部を介して結合しているのに対し、変形扁平二葉形では円形及び楕円形からなる群から選ばれる二つの葉形が凸部を介して結合していることになる。
【0018】
断面形状に関して、本発明の人工毛髪用芯鞘複合繊維が含むことのある、添加剤などに由来する繊維及び芯部の外周に生じる2μm以下の凹凸は、考慮しないものとする。
【0019】
図1は、本発明の1以上の実施形態の人工毛髪用芯鞘複合繊維の繊維断面を示す模式図である。該実施形態の人工毛髪用芯鞘複合繊維1は、鞘部10と芯部20を含み、人工毛髪用芯鞘複合繊維1は、二つの楕円形が凹部を介して結合している扁平二葉形の断面形状を有する。
【0020】
人工毛髪用芯鞘複合繊維の繊維断面において、線対称軸及び線対称軸に平行するように繊維断面の外周の任意の二点を結んだ直線のうち、最大長となる直線が繊維断面長軸に該当し、該直線の方向及びそれに平行する方向が長軸方向に該当する。また、繊維断面長軸に対して垂直になるように繊維断面の外周の任意の二つの点を結んだ際、最大長となる二つの点を結ぶ直線が繊維断面短軸に該当し、該直線の方向及びそれに平行する方向が短軸方向に該当する。
【0021】
繊維断面長軸の長さ(Lと称す。)と、繊維断面短軸の長さ(Sと称す。)が下記式(1)を満たすことが好ましい。
【0022】
L/S=1.1以上2.0以下 (1)
【0023】
図1に示すように、芯部20は、繊維断面の短軸方向に沿って中心側から外周側に向けて突出した一対の凸部30を有する変形扁平二葉形であり、二つの楕円形が凸部30を介して結合している。或いは、芯部20は、繊維断面の短軸方向に沿って中心側から外周側に向けて突出した一対の凸部30を有する変形楕円形とも言える。
【0024】
芯部断面において、線対称軸及び線対称軸に平行するように芯部断面の外周の任意の二点を結んだ直線のうち、最大長となる直線である芯部断面長軸の長さ(Lcと称す。)と、芯部断面長軸に対して垂直になるように繊維断面の外周の任意の二つの点を結んだ際、最大長となる二つの点を結ぶ直線である芯部断面短軸の長さ(Scと称す。)が下記式(2)を満たすことが好ましい。
【0025】
Lc/Sc<L/S (2)
【0026】
本発明の1以上の実施形態において、人工毛髪用芯鞘複合繊維が、扁平二葉形の繊維断面外形を有することにより、繊維表面に平坦な領域が少なくなっており、平坦領域で顕著な光の反射が小さく、人毛に近似した光沢になりやすい。また、本発明の1以上の実施形態の人工毛髪用芯鞘複合繊維は、好ましくは、その表面が、即ち、繊維断面の外周形状が、滑らかな凹凸から構成されるので、繊維同士や櫛を通したときの接触面積が少なくなり、人毛に近い触感と良好な櫛通り性が実現される。
【0027】
芯部が、繊維断面において、繊維の短軸方向に沿って一対の凸部を有することが、本発明の特徴の一つであり、これによってカールセット性が良好となる。ここで、繊維断面が、すなわち鞘部の外周形状が、好ましい形態である扁平二葉形の断面形状を有する場合において、繊維断面の対向する凹部を連結する連結線と、芯部の一対の凸部を連結する連結線とが重なることで、カールセット性がより良好となる。
【0028】
本発明の好ましい1以上の実施形態において、人工毛髪用芯鞘複合繊維は、扁平二葉形の繊維断面を有することにより、凹部を連結する連結線の方向及びそれに平行な方向、すなわち繊維の短軸方向の曲げモーメントが、該連結線と交差する、好ましくは直交する繊維の長軸方向の曲げモーメントよりも小さくなりやすいことに起因して、曲げ変形を与えた場合に短軸方向に曲がりやすい。そこで、芯部の断面形状が、繊維の短軸方向に沿って互いに逆方向に中心側から外周側に突出する一対の凸部を有することにより、繊維短軸方向における芯部と鞘部との占有線分の比率を示す芯鞘線比率の芯部線分率が実質的に大きい繊維となるため、繊維全体のポリアミド系樹脂含有率が高くても、繊維の短軸方向において、ポリエステル系樹脂などの芯部の性質が顕著となり、カールセット性の低いポリアミド系樹脂の性質を補えることで、カールセット性の極めて高い繊維が得られる。
【0029】
人工毛髪用芯鞘複合繊維の芯鞘比率は、面積比で芯部:鞘部が3:7~8:2の範囲であり、好ましくは、4:6~7:3の範囲である。芯鞘比率が上述した範囲であると、触感や質感などに関連する物性としての、曲げモーメントが人毛に近くなるため、人毛と同質の人工毛髪が得られやすい。
【0030】
芯部の比率が小さいと、曲げモーメントが人毛より小さくなる傾向がある。一方、芯部の比率が大きいと、曲げ剛性値が大きくなる傾向があり、また、鞘部の断面における層としての厚みが極めて薄くなるため芯が露出しやすくなり、このような場合には、芯部からの鞘部の剥離という不具合が発生する可能性もある。芯部は繊維表面に露出せず、鞘部にて完全に覆われていることが好ましい。
【0031】
上述した繊維及び芯部の断面形状、並びに芯鞘比率は、目的の断面形状に近い形状を有するノズル(孔)を使用することにより制御することができる。
【0032】
人工毛髪用芯鞘複合繊維は、人工毛髪に適するという観点から、単繊維繊度が10dtex以上150dtex以下であることが好ましく、より好ましくは30dtex以上120dtex以下であり、さらに好ましくは40dtex以上100dtex以下であり、特に好ましくは50dtex以上90dtex以下である。
【0033】
本発明の1以上の実施形態の人工毛髪用芯鞘複合繊維は、繊維の集合体、例えば繊維束としては、必ずしも全ての繊維が同一の繊度、断面形状を有する必要はなく、異なる繊度、断面形状を有する繊維が混在していてもよい。
【0034】
(芯鞘複合繊維の組成)
本発明の1以上の実施形態において、鞘部は、ポリアミド系樹脂を含むポリアミド系樹脂組成物、すなわちポリアミド系樹脂を主成分とするポリアミド系樹脂組成物で構成されるため、触感が良好になる。本発明の1以上の実施形態において、「ポリアミド系樹脂を主成分とするポリアミド系樹脂組成物」とは、ポリアミド系樹脂組成物の合計重量を100重量%とした場合、ポリアミド系樹脂を67重量%以上含むことを意味し、75重量%以上含むことが好ましく、85重量%以上含むことがより好ましく、90重量%以上含むことがさらに好ましく、95重量%以上含むことがさらにより好ましい。
【0035】
ポリアミド系樹脂は、ラクタム、アミノカルボン酸、ジカルボン酸及びジアミンの混合物、ジカルボン酸誘導体及びジアミンの混合物、並びにジカルボン酸及びジアミンの塩からなる群から選ばれる1種以上を、重合して得られるナイロン樹脂を意味する。
【0036】
ラクタムの具体例としては、特に限定されないが、例えば、2-アゼチジノン、2-ピロリジノン、δ-バレロラクタム、ε-カプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、ウンデカラクタム、及びラウロラクタムなどを挙げることができる。これらのうち、ε-カプロラクタム、ウンデカラクタム、及びラウロラクタムが好ましく、特にε-カプロラクタムが好ましい。これらのラクタムは、1種で用いてもよく、2種以上の混合物で使用することもできる。
【0037】
アミノカルボン酸の具体例としては、特に限定されないが、例えば、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、9-アミノノナン酸、10-アミノデカン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸などを挙げることができる。これらのうち、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、及び12-アミノドデカン酸が好ましく、特に6-アミノカプロン酸が好ましい。これらのアミノカルボン酸は、1種で用いてもよく、2種以上の混合物で使用することもできる。
【0038】
ジカルボン酸及びジアミンの混合物、ジカルボン酸誘導体及びジアミンの混合物、又はジカルボン酸及びジアミンの塩で用いられるジカルボン酸の具体例としては、特に限定されないが、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。これらのうち、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、及びイソフタル酸が好ましく、特にアジピン酸、テレフタル酸、及びイソフタル酸が好ましい。これらのジカルボン酸は、1種で用いてもよく、2種以上の混合物で使用することもできる。
【0039】
ジカルボン酸及びジアミンの混合物、ジカルボン酸誘導体及びジアミンの混合物、又はジカルボン酸及びジアミンの塩で用いられる。ジアミンの具体例としては、特に限定されないが、例えば、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン(MDP)、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,13-ジアミノトリデカン、1,14-ジアミノテトラデカン、1,15-ジアミノペンタデカン、1,16-ジアミノヘキサデカン、1,17-ジアミノヘプタデカン、1,18-ジアミノオクタデカン、1,19-ジアミノノナデカン、1,20-ジアミノエイコサンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4-アミノヘキシル)メタンなどの脂環式ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミンなどの芳香族ジアミンなどが挙げられる。これらのうち、特に脂肪族ジアミンが好ましく、とりわけヘキサメチレンジアミンが好ましく用いられる。これらのジアミンは、1種で用いてもよく、2種以上の混合物で使用することもできる。
【0040】
ポリアミド系樹脂(ナイロン樹脂と称す場合がある)としては、特に限定されないが、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6・10、ナイロン6・12、ナイロン6T及び/又は6I単位を含有する半芳香族ナイロン、並びにこれらナイロン樹脂の共重合体などを用いることが好ましい。とりわけ、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6及びナイロン66の共重合体がより好ましい。
【0041】
ポリアミド系樹脂は、例えば、ポリアミド系樹脂原料を触媒の存在下または不存在下で加熱して行うポリアミド系樹脂重合方法により製造することができる。その重合時に攪拌はあっても無くてもよいが、均質な生成物を得るには攪拌した方が好ましい。重合温度は目的とする重合物の重合度、反応収率、反応時間に応じて任意に設定可能であるが、最終的に得られるポリアミド系樹脂の品質から低温の方が好ましい。反応率についても任意に設定できる。圧力について制限はないが揮発性成分を効率よく系外に抜出すためには系内を減圧とすることが好ましい。
【0042】
本発明に用いられるポリアミド系樹脂は、必要に応じてカルボン酸化合物及びアミン化合物などの末端封鎖剤で末端を封鎖してもよい。モノカルボン酸又はモノアミンを添加して末端を封鎖する場合に、得られるナイロン樹脂の末端アミノ基又は末端カルボキシル基濃度は、当該末端封鎖剤を使用しない場合に比べて低下する。一方、ジカルボン酸又はジアミンで末端封鎖する場合は、末端アミノ基と末端カルボキシル基濃度の和は変化しないが、末端アミノ基と末端カルボキシル基との濃度の比率が変化する。
【0043】
カルボン酸化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ウンデカン酸、ラウリル酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキン酸などの脂肪族モノカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、メチルシクロヘキサンカルボン酸などの脂環式モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、エチル安息香酸、フェニル酢酸などの芳香族モノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0044】
アミン化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ノナデシルアミン、イコシルアミンなどの脂肪族モノアミン、シクロヘキシルアミン、メチルシクロヘキシルアミンなどの脂環式モノアミン、ベンジルアミン、β-フェニルエチルアミンなどの芳香族モノアミン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,13-ジアミノトリデカン、1,14-ジアミノテトラデカン、1,15-ジアミノペンタデカン、1,16-ジアミノヘキサデカン、1,17-ジアミノヘプタデカン、1,18-ジアミノオクタデカン、1,19-ジアミノノナデカン、1,20-ジアミノエイコサンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4-アミノヘキシル)メタンなどの脂環式ジアミン、キシリレンジアミンなどの芳香族ジアミンなどが挙げられる。
【0045】
ポリアミド系樹脂の末端基濃度は特に制限ないが、繊維用途で染色性を高める必要がある場合や樹脂用途でアロイ化に適した材料を設計する場合などには、末端アミノ基濃度が高い方が好ましい。また、長期エージング条件下での着色やゲル化を抑制したい場合などは逆に末端アミノ基濃度が低い方が好ましい。更に再溶融時のラクタム再生、オリゴマー生成による溶融紡糸時の糸切れ、連続射出成形時のモールドデポジット、フィルムの連続押出におけるダイマーク発生を抑制したい場合には末端カルボキシル基濃度及び末端アミノ基濃度が共に低い方が好ましい。適用する用途によって末端基濃度を調製すればよいが、末端アミノ基濃度、末端カルボキシル基濃度共に、好ましくは、1.0×10-5~15.0×10-5eq/g、より好ましくは2.0×10-5~12.0×10-5eq/g、特に好ましくは3.0×10-5~11.0×10-5eq/gである。
【0046】
また、末端封鎖剤の添加方法としては重合初期にカプロラクタムなどの原料と同時に仕込む方法、重合途中で添加する方法、ナイロン樹脂を溶融状態で縦型攪拌式薄膜蒸発機を通過させる際に添加する方法などが採用される。末端封鎖剤はそのまま添加してもよいし、少量の溶剤に溶解して添加してもよい。
【0047】
ポリアミド系樹脂は、樹脂物性、汎用性及びコストの観点から、好ましくは、ナイロン6及びナイロン66からなる群から選ばれる少なくとも1種を主体としたポリアミド系樹脂である。本発明の1以上の実施形態において、「ナイロン6及びナイロン66からなる群から選ばれる少なくとも1種を主体としたポリアミド系樹脂」とは、ナイロン6及び/又はナイロン66を80モル%以上含むポリアミド系樹脂を意味する。
【0048】
鞘部を構成するポリアミド系樹脂組成物は、ポリアミド系樹脂に加えて他の樹脂を含んでもよい。他の樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、モダアクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
本発明の1以上の実施形態において、カールセット性を向上させる観点から、芯部は、ポリエステル系樹脂を含むポリエステル系樹脂組成物、すなわちポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル系樹脂組成物で構成されていることが好ましい。本発明の1以上の実施形態において、「ポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル系樹脂組成物」とは、ポリエステル系樹脂組成物の合計重量を100重量%とした場合、ポリエステル系樹脂を67重量%以上含むことを意味し、75重量%以上含むことが好ましく、85重量%以上含むことがより好ましく、90重量%以上含むことがさらに好ましく、95重量%以上含むことがさらにより好ましい。
【0050】
ポリエステル系樹脂は、物性、汎用性、及びコストの観点から、好ましくは、ポリアルキレンテレフタレート、及び、ポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルからなる群から選ばれる1種以上である。本発明の1以上の実施形態において、「ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステル」は、ポリアルキレンテレフタレートを80モル%以上含有する共重合ポリエステルをいう。
【0051】
ポリアルキレンテレフタレートとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどが挙げられる。
【0052】
ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体とし、他の共重合成分を含有する共重合ポリエステルなどが挙げられる。
【0053】
他の共重合成分としては、例えば、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの多価カルボン酸及びそれらの誘導体;5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルなどのスルホン酸塩を含むジカルボン酸及びそれらの誘導体;1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、4-ヒドロキシ安息香酸、ε-カプロラクトン、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルなどが挙げられる。
【0054】
共重合ポリエステルは、安定性及び操作の簡便性の点から、主体となるポリアルキレンテレフタレートに少量の他の共重合成分を含有させて反応させることにより製造するのが好ましい。ポリアルキレンテレフタレートとしては、テレフタル酸及び/又はその誘導体(例えば、テレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの重合体を用いることができる。共重合ポリエステルは、主体となるポリアルキレンテレフタレートの重合に用いるテレフタル酸及び/又はその誘導体(例えば、テレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの混合物に、少量の他の共重合成分であるモノマーあるいはオリゴマー成分を含有させたものを重合させることにより製造してもよい。
【0055】
共重合ポリエステルは、主体となるポリアルキレンテレフタレートの主鎖及び/又は側鎖に上記他の共重合成分が重縮合していればよく、共重合の方法などには特別な限定はない。
【0056】
ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルの具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテル、1,4-シクロヘキサジメタノール、イソフタル酸及び5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルからなる群から選ばれる一種の化合物を共重合したポリエステルなどが挙げられる。
【0057】
ポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、ポリエチレンテレフタレート;ポリプロピレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルを共重合したポリエステル;ポリエチレンテレフタレートを主体とし、1,4-シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステル;ポリエチレンテレフタレートを主体とし、イソフタル酸を共重合したポリエステル;及びポリエチレンテレフタレートを主体とし、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルを共重合したポリエステルなどを単独又は2種以上組み合わせて用いることが好ましい。
【0058】
ポリエステル系樹脂の固有粘度(IV値と称す場合がある)は、特に限定されないが、0.3以上1.2以下であることが好ましく、0.4以上1.0以下であることがより好ましい。固有粘度が0.3以上であると、得られる繊維の機械的強度が低下せず、燃焼試験時にドリップする恐れもない。また、固有粘度が1.2以下であると、分子量が増大しすぎず、溶融粘度が高くなり過ぎることがなく、溶融紡糸が容易となるうえ、繊度も均一になりやすい。
【0059】
芯部を構成するポリエステル系樹脂組成物は、主成分樹脂であるポリエステル系樹脂に加えて他の樹脂を含んでも良い。他の樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、モダアクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
人工毛髪用芯鞘複合繊維は、触感と外観を人毛により近似させ、カール性及びカール保持性をより向上させる観点から、芯部をポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルからなる群から選ばれる1種以上のポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル系樹脂組成物で構成することが好ましく、鞘部をナイロン6及びナイロン66からなる群から選ばれる少なくとも1種を主体としたポリアミド系樹脂を主成分とするポリアミド系樹脂組成物で構成することがより好ましい。
【0061】
本発明の1以上の実施形態において、難燃性の観点から、難燃剤を併用してもよい。難燃剤としては、臭素含有難燃剤やリン含有難燃剤などが挙げられる。リン含有難燃剤として、例えば、リン酸エステルアミド化合物、有機環状リン系化合物などが挙げられる。臭素系難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、臭素化エポキシ系難燃剤;ペンタブロモトルエン、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニル、デカブロモジフェニルエーテル、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、テトラブロモ無水フタル酸、エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、オクタブロモトリメチルフェニルインダン、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートなどの臭素含有リン酸エステル類;臭素化ポリスチレン類;臭素化ポリベンジルアクリレート類;臭素化フェノキシ樹脂;臭素化ポリカーボネートオリゴマー類;テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(アリルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(ヒドロキシエチルエーテル)などのテトラブロモビスフェノールA誘導体;トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジンなどの臭素含有トリアジン系化合物;トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートなどの臭素含有イソシアヌル酸系化合物などが挙げられる。中でも、耐熱性及び難燃性の観点から、臭素化エポキシ系難燃剤を用いることが好ましい。
【0062】
臭素化エポキシ系難燃剤は、原料としては分子末端がエポキシ基又はトリブロモフェノールからなる臭素化エポキシ系難燃剤を用いることができるが、臭素化エポキシ系難燃剤の溶融混練後の構造は、特に限定されず、下記式(1)に示す構成ユニットと下記式(1)の少なくとも一部が改変した構成ユニットの総数を100モル%とした場合、80モル%以上が下記式(1)で示す構成ユニットであることが好ましい。臭素化エポキシ系難燃剤は、溶融混練後に、構造が分子末端で変化してもよい。例えば、臭素化エポキシ系難燃剤の分子末端がエポキシ基又はトリブロモフェノール以外の水酸基、リン酸基、ホスホン酸基などに置換されていてもよく、分子末端がポリエステル成分とエステル基で結合していてもよい。
【0063】
【化1】
【0064】
また、臭素化エポキシ系難燃剤の分子末端以外の構造の一部が変化してもよい。例えば、臭素化エポキシ系難燃剤の二級水酸基とエポキシ基が結合して分岐構造となっていてもよく、臭素化エポキシ系難燃剤分子中の臭素含有量が大きく変化しなければ、上記式(1)の臭素の一部が脱離又は付加してもよい。
【0065】
臭素化エポキシ系難燃剤としては、例えば、下記式(2)に示しているような高分子型の臭素化エポキシ系難燃剤が好ましく用いられる。下記式(2)において、mは1~1000である。下記式(2)に示しているような高分子型の臭素化エポキシ系難燃剤としては、例えば、阪本薬品工業株式会社製の臭素化エポキシ系難燃剤(商品名「SR-T2MP」)などの市販品を用いてもよい。
【0066】
【化2】
【0067】
臭素化エポキシ難燃剤は、特に限定されないが、芯部及び/又は鞘部において、例えば、主成分樹脂100重量部に対して5重量部以上40重量部以下含ませることが好ましい。例えば、耐熱性と難燃性の観点から、芯部をポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルからなる群から選ばれる1種以上のポリエステル系樹脂100重量部と、臭素化エポキシ難燃剤5重量部以上40重量部以下を含むポリエステル系樹脂組成物で構成され、鞘部をナイロン6及びナイロン66からなる群から選ばれる少なくとも1種を主体としたポリアミド系樹脂100重量部と、臭素化エポキシ難燃剤5重量部以上40重量部以下を含むポリアミド系樹脂組成物で構成することが好ましい。
【0068】
本発明の1以上の実施形態において、難燃助剤を併用してもよい。難燃助剤は、特に限定されないが、難燃性の観点から、アンチモン系化合物やアンチモンを含む複合金属などを用いることが好ましい。アンチモン系化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、アンチモン酸カリウム、アンチモン酸カルシウムなどが挙げられる。難燃性改良効果や触感への影響から、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、及びアンチモン酸ナトリウムからなる群から選ばれる一種以上がより好ましい。
【0069】
難燃助剤は、特に限定されないが、芯部及び/又は鞘部において、例えば、主成分樹脂100重量部に対して0.1重量部以上10重量部以下含ませることが好ましい。
【0070】
特に、鞘部を構成するポリアミド系樹脂組成物に難燃助剤を含有させることにより、繊維表面に適度な表面凹凸が形成され、難燃性に加え、人毛に近い低光沢な外観を有する人工毛髪用芯鞘複合繊維が得られる。
【0071】
人工毛髪用芯鞘複合繊維は、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲内で、耐熱剤、安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤などの各種添加剤を含有してもよい。
【0072】
(芯鞘複合繊維の製造方法)
本発明の1以上の実施形態において、人工毛髪用芯鞘複合繊維は、芯部及び鞘部のそれぞれを構成する樹脂組成物を、個別に種々の一般的な混練機を用いて溶融混練した後、芯鞘型複合ノズルを用いて、溶融紡糸することにより作製することができる。
【0073】
例えば、上述したポリエステル系樹脂、臭素化エポキシ系難燃剤などの各成分をドライブレンドしたポリエステル系樹脂組成物を、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練して芯部を構成する芯成分とする一方、上述したポリアミド系樹脂、臭素化エポキシ系難燃剤などの各成分をドライブレンドしたポリアミド系樹脂組成物を、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練して鞘部を構成する鞘成分とし、複合紡糸ノズルを用いて溶融紡糸することにより作製することができる。
【0074】
混練機としては、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどが挙げられる。中でも、二軸押出機が、混練度の調整、操作の簡便性の点から好ましい。
【0075】
溶融紡糸法においては、例えば、ポリエステル系樹脂組成物の場合は、押出機、ギアポンプ、ノズルなどの温度を250℃以上300℃以下とし、ポリアミド系樹脂組成物の場合は、押出機、ギアポンプ、ノズルなどの温度を260℃以上320℃以下とし、溶融紡糸し、紡出糸条を加熱筒に通過させた後、それぞれの樹脂のガラス転移点以下に冷却し、50m/分以上5000m/分以下の速度で引き取ることにより紡出糸条(未延伸糸)が得られる。
【0076】
具体的には、溶融紡糸の際、芯部を構成するポリエステル系樹脂組成物は溶融紡糸機の芯部用押出機で供給し、鞘部を構成するポリアミド系樹脂組成物は溶融紡糸機の鞘部用押出機で供給し、所定の形状を有する芯鞘型複合紡糸ノズル(孔)にて溶融ポリマーを吐出することで紡出糸条(未延伸糸)を得る。
【0077】
紡出糸条(未延伸糸)は熱延伸されることが好ましい。延伸は、紡出糸条を一旦巻き取ってから延伸する2工程法と、紡出糸条を巻き取ることなく連続して延伸する直接紡糸延伸法のいずれの方法によって行ってもよい。熱延伸は、1段延伸法又は2段以上の多段延伸法で行われる。熱延伸における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽などを使用することができ、これらを適宜併用することもできる。
【0078】
本発明の1以上の実施形態において、人工毛髪用芯鞘複合繊維に、繊維処理剤、柔軟剤などの油剤を付与し、触感、風合いをより人毛に近づけてもよい。
【0079】
繊維処理剤としては、例えば、触感や櫛通り性を向上させるためのシリコーン系繊維処理剤や非シリコーン系繊維処理剤などが挙げられる。
【0080】
また、本発明の1以上の実施形態において、人工毛髪用芯鞘複合繊維に、ギアクリンプによる加工を施してもよい。これにより繊維に緩やかな屈曲を付与し、自然な外観が得られ、繊維間の密着性が低下することから櫛通り性も向上する。
【0081】
該ギアクリンプによる加工では、一般的に、繊維を軟化温度以上に加熱した状態で2つの噛み合った歯車の間を通過させ、この歯車の形状を転写させることで繊維屈曲を発現させる。また、必要に応じて、繊維製造段階において、異なる温度で人工毛髪用芯鞘複合繊維を熱処理することで、異なる形状のカールを発現することができる。
【0082】
(頭飾製品)
本発明の1以上の実施形態において、人工毛髪用芯鞘複合繊維は、頭飾製品に好適に用いることができる。頭飾製品としては、特に限定されないが、ヘアーウィッグ、かつら、ウィービング、ヘアーエクステンション、ブレードヘアー、ヘアーアクセサリー及びドールヘアーからなる群から選ばれる一種が好ましく挙げられ、本発明に係る十分に優れたカールセット性を、より有効に発揮せしめる観点から、ヘアーウィッグ及びウィービングが、より好ましい。
【0083】
頭飾製品は、本発明の人工毛髪用芯鞘複合繊維のみで構成されていてもよく、他の人工毛髪用芯鞘複合繊維、人毛や獣毛などの天然繊維を組み合わせて構成されていてもよい。
【実施例
【0084】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0085】
実施例及び比較例で用いた測定方法及び評価方法は、以下のとおりである。
【0086】
(単繊維繊度)
オートバイブロ式繊度測定器「DENIER COMPUTER タイプDC-11」(サーチ社製)を使用して測定し、30個のサンプルの測定値の平均値を算出して単繊維繊度とした。
【0087】
(カールセット性)
室温(23℃)にて、蓑毛にしたフィラメントをφ32mmのパイプに捲きつけ、120℃で60分間カールセットし、室温(23℃)で60分間エイジングした後に、カールしたフィラメントの一端を固定し釣り下げ、セット後のフィラメント長を測定した。この長さをカールセット性の指標とし、17cm以下であるとカールセットが可能と判断した。
【0088】
(芯部の露出)
室温(23℃)にて、繊維を束ね、繊維束(総繊度550dtex)がズレないように収縮チューブで固定した後、カッターで切断し、その際の芯部の露出の有無を、目視にて評価、あるいは、切断した繊維断面をレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス社製、「VK-9500」)にて観察し評価した。
【0089】
(繊維断面の形状)
室温(23℃)にて、繊維を束ね、繊維束(総繊度550dtex)がズレないように収縮チューブで固定した後、カッターで輪切りにし、断面観察用繊維束を作製した。この繊維束をレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス社製、「VK-9500」)にて500倍の倍率で撮影し、繊維断面写真を得た。繊維断面写真に基づいて、芯鞘比率、L/S及びLc/Scを求めた。
【0090】
(触感)
専門美容師による官能評価を行い、以下の4段階の基準で評価した。
A:人毛と同等の非常に良好な触感
B:人毛に比べやや劣るが良好な触感
C:人毛に比べ劣る悪い触感
D:人毛に比べ大きく劣る悪い触感
【0091】
(櫛通り性)
カールを完全に伸ばした状態で、繊維の長さを63.5cmになるように切断し、得られた繊維長が63.5cmの繊維5.0gを束ねた。その後、繊維束の中央を紐で括り、2つ折りにして紐の部分を固定して、ヘアーアイロン加工用の繊維束を作製した。次に、180℃に加熱したヘアーアイロン(米国IZUNAMI.INC社製、「IZUNAMIITC450フラットアイロン」)にて、繊維束を固定している根元から毛先までを圧着しながら加熱する操作を5回繰り返し、櫛通り性評価用の繊維束を作製した。その後、髪梳き用の櫛(ドイツ製、「MATADOR PROFESSIONAL386.81/2F」)にて、櫛通り性評価用の繊維束を固定している根元から毛先まで100回櫛を通し、変形あるいは分裂した繊維の数から、以下の基準にて櫛通り性を評価した。
A:櫛を100回通して変形あるいは分裂した繊維は10本未満で、最後まで抵抗なく櫛が通るレベル
B:櫛を100回通して変形あるいは分裂した繊維は10本以上30本未満で、途中で抵抗がやや強くなるが櫛は通るレベル
C:櫛を100回通して変形あるいは分裂した繊維は30本以上100本未満で、途中で抵抗が強くなり、櫛の通らないことが1回以上20回未満の確率で発生するレベル
D:櫛を100回通して変形あるいは分裂した繊維は100本以上で、途中で抵抗が強くなり、櫛の通らないことが20回以上の確率で発生するレベル
【0092】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレートペレット(East West Chemical Private Limited製、EastPET 商品名「A-12」、以下「PET」とも記す)100重量部に、臭素化エポキシ系難燃剤(阪本薬品工業製、商品名「SR-T2MP」)20重量部、及びアンチモン酸ナトリウム(日本精鉱製、商品名「SA-A」)2重量部を添加し、ドライブレンド後に二軸押出機に供給し、バレル設定温度280℃にて溶融混練を行い、ペレット化してポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0093】
続いて、ナイロン6(ユニチカ製、商品名「A1030BRL」、以下「PA6」とも記す)100重量部に、臭素化エポキシ系難燃剤(阪本薬品工業製、商品名「SR-T2MP」)20重量部、及びアンチモン酸ナトリウム(日本精鉱製、商品名「SA-A」)2重量部を添加し、ドライブレンド後に二軸押出機に供給し、バレル設定温度260℃にて溶融混練を行い、ペレット化してポリアミド系樹脂組成物を得た。
【0094】
次にペレット状のポリエステル系樹脂組成物及びポリアミド系樹脂組成物を、それぞれ押出機に供給し、下記表1に扁平比及び形状を有する芯鞘型複合紡糸ノズル(孔)より押し出し、40~200m/分の速度で巻き取って、ポリエステル系樹脂組成物を芯部とし、ポリアミド系樹脂組成物を鞘部とし、芯鞘比率が面積比で芯:鞘が5:5であり、下記表1に記載の断面形状を有する芯鞘複合繊維の未延伸糸を得た。ノズル扁平比は、ノズル断面において、線対称軸及び線対称軸に平行するように断面の外周の任意の二点を結んだ線分の中、最大長となる線分である長軸の長さと、長軸に対して垂直になるように繊維断面の外周の任意の二つの点を結んだ線分の中、最大長となる線分である短軸の長さの比である。
【0095】
得られた未延伸糸を85℃のヒートロールを用いて45m/分の速度で引き取りながら延伸を行い、3倍延伸糸とし、さらに連続して200℃に加熱したヒートロールを用いて45m/分の速度で巻き取り、熱処理を行い、ポリエーテル系油剤(丸菱油化工業製、商品名「KWC-Q」)を0.20%omf(乾燥繊維重量に対する油剤純分重量百分率)となるよう付着させた後、乾燥させて下記表1に示す単繊維繊度を有する芯鞘複合繊維を得た。
【0096】
(実施例2)
鞘部に用いる樹脂をナイロン66(東レ社製、商品名「アミランCM3001」)とし、ペレット化時のバレル設定温度を280℃とし、芯鞘比率を面積比で芯:鞘を7:3とした以外は、実施例1と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0097】
(実施例3)
芯鞘比率を面積比で芯:鞘を8:2とした以外は、実施例1と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0098】
(実施例4)
ノズル扁平比を1.4とした以外は、実施例1と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0099】
(比較例1)
ノズル形状を下記表1に示す形状とした以外は、実施例1と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0100】
(比較例2)
ノズル形状を下記表1に示す形状とした以外は、実施例2と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0101】
(比較例3)
ノズル形状を下記表1に示す形状とした以外は、実施例1と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0102】
(比較例4)
芯鞘比率を面積比で芯:鞘を2:8とし、ノズル形状を下記表1に示す形状とした以外は、実施例1と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0103】
(比較例5)
芯鞘比率を面積比で芯:鞘を9:1とした以外は、実施例1と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0104】
(比較例6)
ノズル形状を下記表1に示す形状とした以外は、実施例4と同様にして芯鞘複合繊維を得た。
【0105】
実施例及び比較例の繊維の芯部の露出の有無及び断面形状を上述したとおりに評価観察した。また、実施例及び比較例の繊維のカールセット性、触感及び櫛通り性を上述したとおりに評価した。これらの結果を表1に示した。
【0106】
【表1】
【0107】
図2は、実施例1の繊維の繊維断面のレーザー顕微鏡写真である。図2から分かるように、該人工毛髪用芯鞘複合繊維において、繊維は扁平二葉形の断面形状を有し、芯部は繊維断面の短軸方向に沿って中心側から外周側に向けて突出した一対の凸部を有する変形扁平二葉形の断面形状を有する。図3は、比較例1の繊維の繊維断面のレーザー顕微鏡写真である。図3に示されているように、該人工毛髪用芯鞘複合繊維において、繊維及び芯部はいずれも扁平二葉形の断面形状を有する。図4は、比較例3の繊維の繊維断面のレーザー顕微鏡写真である。図4に示されているように、該人工毛髪用芯鞘複合繊維において、繊維及び芯部はいずれも略円形の断面形状を有する。
【0108】
表1から分かるように、実施例1~4の繊維は、カールセット性が良好で、芯部の露出が無く、人毛に似た触感を有し、櫛通り性も良好であった。
【0109】
一方、芯部の断面形状に一対の凸部を有しない比較例1、比較例2及び比較例6の繊維はカールセット性の悪かった。円形の繊維断面を有する比較例3の繊維については、繊維表面に凹凸を有しないため、不自然な外観となり、触感、櫛通りともに良好な繊維が得られなかった。芯鞘比率を面積比で2:8とした比較例4の繊維は、芯部が少なすぎるためにカールセット性が劣る結果となった。芯鞘比率を面積比で9:1とした比較例5の繊維は、鞘部の肉厚が薄くなりすぎて芯部が露出し、触感、櫛通りともにともに非常に悪くなった。
【0110】
本発明は、特に限定されないが、例えば、下記の実施形態を含んでもよい。
[1] 芯部と鞘部を含む人工毛髪用芯鞘複合繊維であって、
前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は、扁平二葉形又は楕円形の断面形状を有し、繊維断面における芯鞘比率が面積比で芯:鞘が3:7~8:2であり、
前記鞘部は、ポリアミド系樹脂を含むポリアミド系樹脂組成物で構成され、
前記芯部は、繊維断面の短軸方向に沿って中心側から外周側に向けて突出した一対の凸部を有する変形扁平二葉形又は変形楕円形の断面形状を有することを特徴とする人工毛髪用芯鞘複合繊維。
[2] 前記人工毛髪用芯鞘複合繊維は扁平二葉形の断面形状を有し、前記芯部は変形扁平二葉形の断面形状を有する、[1]に記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維。
[3] 前記芯部が、ポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルからなる群から選ばれる1種以上のポリエステル系樹脂を含むポリエステル系樹脂組成物で構成されている、[1]又は[2]に記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維。
[4] 前記鞘部が、ナイロン6及びナイロン66からなる群から選ばれる少なくとも1種を主体としたポリアミド系樹脂を含むポリアミド系樹脂組成物で構成されている、[1]~[3]のいずれかに記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維を含むことを特徴とする頭飾製品。
[6] ヘアーウィッグ、かつら、ウィービング、ヘアーエクステンション、ブレードヘアー、ヘアーアクセサリー及びドールヘアーからなる群から選ばれる一種である、[5]に記載の頭飾製品。
[7] [1]~[4]のいずれかに記載の人工毛髪用芯鞘複合繊維の製造方法であって、芯部樹脂組成物及び鞘部樹脂組組成物を芯鞘型複合ノズルを用いて溶融紡糸する工程を含むことを特徴とする人工毛髪用芯鞘複合繊維の製造方法。
【符号の説明】
【0111】
1 人工毛髪用芯鞘複合繊維(断面)
10 鞘部
20 芯部
30 凸部
図1
図2
図3
図4