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  • 特許-電気装置のための温度調節 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】電気装置のための温度調節
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20241024BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20241024BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20241024BHJP
   H01M 10/617 20140101ALI20241024BHJP
   H01M 10/6556 20140101ALI20241024BHJP
   H01M 10/6568 20140101ALI20241024BHJP
   H01M 10/653 20140101ALI20241024BHJP
【FI】
C09K5/04 C
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/617
H01M10/6556
H01M10/6568
H01M10/653
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022543493
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-13
(86)【国際出願番号】 FR2020051879
(87)【国際公開番号】W WO2021148725
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2023-07-21
(31)【優先権主張番号】2000514
(32)【優先日】2020-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アッバース, ローラン
(72)【発明者】
【氏名】ガレ, ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】ウォーカー, ジェレミ
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/162598(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/158857(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/146197(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/132335(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/197783(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00- 5/20
H01M10/52-10/667
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池、電気部品又は燃料電池から選択される機器のアイテムの温度を調節するための、ハロゲン化炭化水素、過ハロゲン化炭化水素、フッ素化ケトン、フッ素化エーテル及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの冷媒と、少なくとも1つの誘電流体とを含む伝熱組成物の使用であって、伝熱組成物が25℃で10Ω・cm以上の体積抵抗率を有し、
冷媒が、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含むか、又は1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンであり、
機器の温度の調節が、機器を伝熱組成物と直接的な接触をさせることによって行われる、使用。
【請求項2】
冷媒が、E型の1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含むか、又はE型の1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
冷媒が、伝熱組成物の総重量に対して10%~80重量%の含有量で存在する、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
誘電流体が、鉱物誘電油、合成誘電油、及び植物誘電油から選択され、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
誘電流体が、鉱物誘電油、合成誘電油、及び植物誘電油から選択され、合成流体は、アルキルベンゼン、アルキルジフェニルエタン、アルキルナフタレン、メチルポリアリールメタン及びそれらの組み合わせから選択される芳香族炭化水素である、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
誘電流体は、ベンジルトルエンとジベンジルトルエンとの混合物である、請求項4又は5に記載の使用。
【請求項7】
誘電流体が、伝熱組成物の総重量に対して20%~90重量%の含有量で存在する、請求項1からのいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
伝熱組成物が、1バールの圧力で20~80℃の液体飽和温度を有する、請求項1からのいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
伝熱組成物が、20℃で20kV以上の降伏電圧を有する、請求項1からのいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
伝熱組成物が、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンと、モノベンジルトルエン及びジベンジルトルエンの混合物とから本質的になる、請求項1からのいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
伝熱組成物が、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンと、ペンタエリスリトールから合成されたポリオールエステルとから本質的になる、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
伝熱組成物が、追加の伝熱組成物と熱を交換する、請求項1から11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
機器の冷却のための、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
機器の温度の調節が、機器を伝熱組成物に浸漬することによって行われる、請求項1から13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
機器が電気自動車又はハイブリッド車の電池である、請求項1から14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
車両の電池の充電中に実行され、車両の電池は、完全放電から30分以下の時間で完全に充電される、請求項15に記載の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池、電気部品又は燃料電池などの機器の温度を調節するため(特に機器を冷却するため)の、少なくとも1つの冷媒流体及び少なくとも1つの誘電流体を含む伝熱組成物の使用に関する。本発明は、特に電気自動車又はハイブリッド車の電池に適用される。
【背景技術】
【0002】
高熱流を放散する必要性は、多くの用途、特に電池、電子部品及び燃料電池システムの冷却において不可欠である。液体-蒸気相変化冷却は、均一なシステムの温度を維持しながら大量の熱を放散するのに有効な解決策であることが判明している。
【0003】
特に、電気自動車又はハイブリッド車の電池は、特定の作動条件下で、特に非常に特異的な温度範囲内で最大のパフォーマンスをもたらす。したがって、寒冷地では、電気自動車又はハイブリッド車の自律性が問題であり、高い加熱要件により、貯蔵された電気エネルギーの大部分を消費するため、一層問題になる。加えて、低温では、電池から利用可能な電力が低く、これは運転の問題を引き起こす。さらに、電池のコストは、電気自動車又はハイブリッド車のコストに大きく影響する。
【0004】
逆に、電池の冷却は安全上の大きな問題である。電気自動車又はハイブリッド車の電池を冷却するために、様々な誘電性の油を使用することができる。しかしながら、電池の急速充電が必要とされる場合、特にこれらの油の高い沸点のためにエバポレーションがないため、誘電性の油のみの使用では電池を効率的に冷却するのに十分ではない。この場合、より揮発性で粘性の低い流体を使用する必要がある。しかしながら、これらの流体は、通常、誘電性の油の場合に観察される蒸気圧よりも高い蒸気圧を有し、これは圧力に耐えるために電池のケーシングの補強(したがって、その重量の増加)を必要とし得る。これらの流体は、誘電性の油よりもさらに高額である。
【0005】
さらに、これらの組成物の使用に関連する安全上のいずれのリスクをも排除するために、電池の近傍で難燃性又は不燃性である組成物を使用することが重要である。
【0006】
仏国特許第2973809号明細書は、冷却剤流体組成物の温度変化に曝される油の熱の安定性を改善するためのゼオライト吸着剤の使用に関する。
【0007】
仏国特許第2962442号明細書は、冷蔵及び空調に使用するための、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む安定な組成物に関する。
【0008】
米国特許出願公開第2014/057826号明細書は、空調、冷凍及びヒートポンプ用途に使用されるか、又は洗浄される物質を含有する製品、構成要素、基材又は他の物品を洗浄するために使用される少なくとも1つのヒドロクロロフルオロオレフィンを含む伝熱組成物に関する。
【0009】
国際公開第2019/242977号パンフレットは、電気絶縁流体で満たされた流体区画と、流体区画内に配置され、電気絶縁流体によって電気的に絶縁された導電体とを備える流体絶縁開閉装置に関する。
【0010】
国際公開第2019/162598号パンフレットは、電気自動車又はハイブリッド車の電池の温度をある温度範囲内に維持するための、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む冷媒の使用に関する。
【0011】
国際公開第2019/162599号パンフレットは、車両の始動時に電気自動車又はハイブリッド車の電池を予熱するための、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む冷媒の使用に関する。
【0012】
国際公開第2019/197783号は、第1の伝熱組成物を流す蒸気圧縮回路と、第2の伝熱組成物を流す二次回路とを備えるシステムによって、自動車内の物体又は流体を冷却及び/又は加熱する方法に関する。電池に関連するコストを増加させることなく安全かつ効率的な電池を提供するために、電気自動車又はハイブリッド車における電池の最適な機能を保証する必要がある。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、第一に、電池、電気部品又は燃料電池から選択される機器のアイテムの温度を調節するための、ハロゲン化炭化水素、フッ素化ケトン、フッ素化及び過ハロゲン化エーテル、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの冷媒と、少なくとも1つの誘電流体とを含む伝熱組成物の使用であって、伝熱組成物が25℃で10Ω・cm以上の体積抵抗率を有する、使用に関する。
【0014】
特定の実施形態では、冷媒は、好ましくはE型の1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含むか、又はそれである。
【0015】
特定の実施形態では、冷媒が、伝熱組成物の総重量に対して10%~80重量%、好ましくは10%~60重量%、さらにより好ましくは10%~40重量%の含有量で存在する。
【0016】
特定の実施形態では、誘電流体が、鉱物誘電油、合成誘電油、及び植物誘電油から選択され、合成流体は、好ましくは、アルキルベンゼン、アルキルジフェニルエタン、アルキルナフタレン、メチルポリアリールメタン及びそれらの組み合わせから選択される芳香族炭化水素であり、誘電流体は、ベンジルトルエンとジベンジルトルエンとの混合物であることがより好ましい。
【0017】
特定の実施形態では、誘電流体は、伝熱組成物の総重量に対して、20%~90重量%、好ましくは40%~90重量%、より好ましくは40%~60重量%の含有量で存在する。
【0018】
特定の実施形態では、伝熱組成物は、1バールの圧力で20~80℃、好ましくは30~70℃の液体飽和温度を有する。
【0019】
特定の実施形態では、伝熱組成物は、20℃で20kV以上の降伏電圧を有する。
【0020】
特定の実施形態では、伝熱組成物は、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンと、モノベンジルトルエンとジベンジルトルエンとの混合物とから本質的になる。
【0021】
特定の実施形態では、伝熱組成物は、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンと、ペンタエリスリトールから合成されたポリオールエステルとから本質的になる。
【0022】
特定の実施形態では、伝熱組成物が、好ましくは蒸気圧縮回路に含まれる追加の伝熱組成物と熱を交換する。
【0023】
特定の実施形態では、上記の使用は、機器の冷却のためのものである。
【0024】
特定の実施形態では、機器の温度の調節が、機器を伝熱組成物と直接的な接触をさせることによって、好ましくは機器を伝熱組成物に浸漬することによって行われる。
【0025】
特定の実施形態では、機器は、電気自動車又はハイブリッド車の電池である。
【0026】
特定の実施形態では、上記の使用は、車両の電池の充電中に実行され、車両の電池は、好ましくは完全放電から30分以下、好ましくは15分以下の時間で完全に充電される。
【0027】
本発明は、上記の必要性を満たす。具体的には、電池に関連するコストを増加させることなく安全かつ効率的な電池を提供するように、機器、特に電気自動車又はハイブリッド車の電池の最適な機能を保証する。
【0028】
これは、ハロゲン化炭化水素、フッ素化ケトン、フッ素化及び過ハロゲン化エーテル、並びにそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの冷媒、及び少なくとも1つの誘電流体を含む伝熱組成物の使用によって達成され、伝熱組成物は、25℃で10Ω.cm以上の体積抵抗率を有する。
【0029】
以下の本文を通して、機器が電池、特に電気自動車又はハイブリッド車の電池である場合を考える。しかしながら、本発明は、別の機器、特に電気部品又は燃料電池を用いて同様の方法で実施することができる。
【0030】
具体的には、誘電流体と冷媒との組み合わせは、コストを増加させることなく、特に急速充電中に、電池の効率及び寿命を増加させることを可能にする、(特に誘電流体からなる組成物と比較して)揮発性でわずかに粘性の組成物を提供することを可能にする。
【0031】
組成物が25℃で10Ω.cm以上の体積抵抗率(及び好ましくは20℃で20kV以上の降伏電圧)を有するという事実は、組成物の誘電特性が機器の近傍、特にそれと直接又は間接的に接触する電池の近傍での使用に適合することを確実にする。
【0032】
冷媒は、誘電流体の粘度の低下を可能にし、組成物をより揮発性にし、したがってより効果的にする。冷媒はまた、(誘電流体のみを含む組成物と比較して)組成物の液体飽和温度の低下を可能にし、電池の冷却効率を改善する。
【0033】
さらに、組成物の蒸気圧は、一般に、冷媒単独の蒸気圧よりも低く、それにより、圧力、したがって車両の重量に耐えるための電池を含むエンクロージャの補強に関する制約を低減することができ、それによって車両のパフォーマンスを向上させることができる。
【0034】
組成物のコストは、一般に、冷媒単独のコストよりも低い。
【0035】
有利には、冷媒と誘電流体との組み合わせはまた、わずかに難燃性又は不燃性の組成物を得ることを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】冷媒の含有量の関数として、1バールの圧力での伝熱組成物の液体飽和温度の変化を示す図である(以下の実施例のセクションを参照)。温度をy軸(℃)に示し、誘電流体の含有量をx軸(wt%)に示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
ここで、本発明を、以下の説明において非限定的に、より詳細に説明する。
【0038】
伝熱組成物
本発明による伝熱組成物は、少なくとも1つの冷媒と、少なくとも1つの誘電流体とを含む。
【0039】
「冷媒」という用語は、低温低圧で蒸発することによって熱を吸収することができ、高温高圧で凝縮することによって熱を放出することができる流体を意味する。
【0040】
冷媒は、ハロゲン化炭化水素、過ハロゲン化炭化水素、フッ素化ケトン、フッ素化エーテル、及びそれらの組み合わせから選択される。
【0041】
ハロゲン化炭化水素の中でも、ヒドロフルオロカーボン、ヒドロクロロフルオロカーボン、ヒドロフルオロオレフィン、ヒドロクロロオレフィン及びヒドロクロロフルオロオレフィンを挙げることができる。
【0042】
例として、冷媒は、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロブタ-2-エン(HFO-1336mzz、E又はZ異性体)、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd、E又はZ異性体)、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブタ-1-エン(HFO-1345fz)、2,4,4,4-テトラフルオロブタ-1-エン(HFO-1354mfy)、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze、E又はZ異性体)、ジフルオロメタン(HFC-32)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)、ペンタフルオロエタン(HFC-125)1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(HFC-365mfc)、フルオロエタン(HFC-161)、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFC-227ea)、1,1,1-トリフルオロプロパン(HFC-263fb)、1,2-ジクロロエチレン(E又はZ)及びそれらの組み合わせから選択することができる。
【0043】
過ハロゲン化炭化水素の中でも、ドデカフルオロペンタン、テトラデカフルオロヘキサン、ヘキサデカフルオロヘプタン及びそれらの組み合わせなどのペルフルオロ化合物を挙げることができる。
【0044】
フッ素化ケトンの中で、言及され得る例としては、フッ素化モノケトン、1,1,1,2,2,4,5,5,5-ノナフルオロ-4-(トリフルオロメチル)-3-ペンタノンなどの過フッ素化モノケトン、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0045】
フッ素化エーテルの中でも、メトキシノナフルオロブタン(HFE7100)、エトキシノナフルオロブタン(HFE-7200)、1-メトキシヘプタフルオロプロパン(HFE-7000)、ペルフルオロポリエーテル及びそれらの組み合わせなどのヒドロフルオロエーテルを挙げることができる。
【0046】
冷媒は、上述のようにいくつか、例えば2つ、又は3つ、又は4つ、又は5つの化合物を含んでもよい。
【0047】
特定の好ましい実施形態では、冷媒は、E又はZ型、より好ましくはE型のHFO-1233zdを含む。
【0048】
好ましくは、本発明による伝熱組成物は、冷媒として1つの化合物のみを本質的に含む。この場合、この冷媒は、E型又はZ型のHFO-1233zdであることが好ましく、E型であることがより好ましい。
【0049】
本発明による組成物は、当業者に周知の任意の手段によって、例えば本発明による組成物の様々な成分の単純な混合によって調製され得る。
【0050】
本発明による冷媒は、特に、20℃で0.1~2cP、好ましくは20℃で0.2~0.9CPの液体粘度を有することができる。粘度は、以下の実施例2に示す方法に従って測定することができる。
【0051】
本発明による冷媒は、特に、1バールにおいて0~90℃、好ましくは15~70℃の沸点(液体飽和温度)を有することができる。
【0052】
本発明の目的のために、「誘電流体」という用語は、電気を伝導しない(又はわずかにしか伝導しない)が、静電気力を及ぼすことを可能にする流体を意味する。
【0053】
好ましくは、誘電流体は、鉱物誘電油及び合成誘電油、並びに任意の割合のそれらの混合物から選択される。
【0054】
「油」という用語は、室温で液体の形態であり、水と混和しない脂肪物質を意味する。油は、植物、鉱物又は合成起源の液状の脂肪である。
【0055】
絶縁(誘電)油は、発生した熱を放散できるように伝熱流体特性を有する。
【0056】
伝熱組成物に含まれる油は、特に、鉱物誘電油、合成誘電油、及び植物誘電油、並びにそれらの組み合わせから選択され得る。
【0057】
本発明の一実施形態によれば、誘電流体は、少なくとも1つの鉱物誘電油を含む。そのような鉱物誘電油の非限定的な例には、Nynas社(特に、Nytro Taurus、Nytro Libra、Nytro 4000X及びNytro 10XN)によって販売されているNytroファミリーの誘電油、及びShell社によって販売されているDaliaなどのパラフィン油及びナフテン油が含まれる。
【0058】
鉱物誘電油は、Nynas社によって販売されているNytro Taurus油及びShell社によって販売されているDalia油などのパラフィン油(すなわち、直鎖又は分枝鎖の飽和炭化水素)、又はNynas社によって販売されているNytro Libra及びNytro 10XN油などのナフテン油(すなわち、環状パラフィン)、芳香族化合物(すなわち、単結合と交互になっている二重結合を特徴とする1つ以上の環を含有する環状不飽和炭化水素)、及び非炭化水素化合物であってもよい。
【0059】
本発明の別の実施形態によれば、誘電流体は合成誘電油である。そのような合成誘電油の非限定的な例としては、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、シリコーン油、エステル、ポリエステル及びポリオールエステル、並びにそれらの2つ以上のあらゆる割合の混合物が挙げられる。
【0060】
芳香族炭化水素の中でも、非限定的な様式で、アルキルベンゼン、アルキルジフェニルエタン(例えば、フェニルオキシキシエタン(PXE)、フェニルエチルフェニルエタン(PEPE)、モノイソプロピルビフェニル(MIPB)、1,1-ジフェニルエタン(1,1-DPE)、アルキルナフタレン(例えば、ジイソプロピルナフタレン(DIPN)、メチルポリアリールメタン(例えば、ベンジルトルエン(BT)及びジベンジルトルレンDBT)、及びそれらの混合物を挙げることができる。前記芳香族炭化水素において、少なくとも1つの環は芳香族であり、任意選択で存在する1つ以上の他の環は、部分的又は完全に不飽和であってもよいことを理解されたい。最も特に好ましい例は、Jarylec(登録商標)という名称でArkema社によってSoltex Inc.によって販売されている誘電流体、及びJX Nippon Chemical Texas Inc.社によるSAS 60Eである。
【0061】
脂肪族炭化水素の中でも、ポリ(アルファ)オレフィン(PAO)、例えばポリイソブテン(PIB)、又は例えばSoltex Inc社によって販売されているものなどのビニリデンタイプのオレフィンを非限定的に挙げることができる。
【0062】
シリコーン油の中でも、非限定的に、ポリジメチルシロキサンタイプの直鎖シリコーン油、例えば、Wacker(登録商標)AKという名称でWacker社によって販売されているものを挙げることができる。
【0063】
合成エステルの中でも、ジオクチルフタレート(DOP)又はジイソノニルフタレート(DINP)(例えば、BASF社によって販売されている)などのフタル酸タイプのエステルを非限定的に挙げることができる。
【0064】
非限定的に、多価アルコールと有機酸、特に飽和又は不飽和C~C22有機酸から選択される酸との間の反応から生じるエステルについても言及され得る。そのような有機酸の非限定的な例として、ウンデカン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、パルミチン酸及びそれらの混合物を挙げることができる。上述のエステルの合成に使用され得るポリオールの中でも、言及され得る非限定的な例としては、油Mivolt DF 7Midel 7131の合成のためのペンタエリスリトール、及びM&I Materials社のMivolt DFKが挙げられる。
【0065】
したがって、ポリアルコールと有機酸との反応から生じる合成エステルは、例えば、M&I Materials社のMidel 7131又はNyco社のNycodielの範囲のエステルである。
【0066】
天然エステル及び植物油の中で、言及され得る非限定的な例には、油性種子又は天然起源の他の供給源からの生成物が含まれる。言及され得る非限定的な例としては、Cargill社によって販売されているFR3(商標)又はEnvirotemp(商標)、又はM&I Materials社によって販売されているMidel eN 1215が挙げられる。
【0067】
本発明による伝熱組成物は、1つ以上、例えば2つ、又は3つ、又は4つ又は5つの油を含んでもよい。
【0068】
好ましい誘電流体は、ベンジルトルエンとジベンジルトルエンとの混合物である。
【0069】
別の好ましい誘電流体は、ペンタエリスリトールから作製されるポリオールエステルである。
【0070】
好ましくは、本発明による伝熱組成物は、ただ1つの誘電流体を含む。この場合、この誘電流体は、メチルポリアリールメタンであることが好ましく、より具体的には、ベンジルトルエンとジベンジルトルエンとの混合物(例えば、Arkema社のJarylec(登録商標))又はペンタエリスリトールから作製されたポリオールエステルであることが好ましい。
【0071】
誘電流体は、規格ISO3104に従って、20℃で1から60cPの粘度を特に有してもよい。
【0072】
誘電流体は、特に、エブリオメトリーによって測定される場合、30℃を超える沸点を有し得る。
【0073】
誘電流体は、伝熱組成物の総重量に対して0超~100重量%未満、好ましくは20%~90重量%、より好ましくは40%~90重量%、さらにより好ましくは40%~60重量%の含有量で組成物中に存在してもよい。
【0074】
例えば、この含有量は、伝熱組成物の総重量に対して1%~10%、又は10%~15重量%、又は15%~20重量%、又は20%~25重量%、又は25%~30重量%、又は30%~35重量%、又は35%~40重量%、又は40%~45重量%、又は45%~50重量%、又は50%~55重量%、又は55%~60重量%、又は60%~65重量%、又は65%~70重量%、又は70%~75重量%、又は75%~80重量%、又は80%~85重量%、又は85%~90重量%、又は90%~95重量%、又は95%~99重量%であってもよい。
【0075】
冷媒は、伝熱組成物の総重量に対して0超~100重量%未満、好ましくは10%~80重量%、好ましくは10%~60重量%、より好ましくは10%~40重量%の含有量で組成物中に存在してもよい。
【0076】
例えば、この含有量は、伝熱組成物の総重量に対して1%~10%、又は10%~15重量%、又は15%~20重量%、又は20%~25重量%、又は25%~30重量%、又は30%~35重量%、又は35%~40重量%、又は40%~45重量%、又は45%~50重量%、又は50%~55重量%、又は55%~60重量%、又は60%~65重量%、又は65%~70重量%、又は70%~75重量%、又は75%~80重量%、又は80%~85重量%、又は85%~90重量%、又は90%~95重量%、又は95%~99重量%であってもよい。
【0077】
好ましくは、本発明による伝熱組成物は、ベンジルトルエン及びジベンジルトルエン(例えば、Arkema社のJarylec(登録商標))と、少なくとも1つのフッ素化又はフッ素化炭化水素との混合物、例えば、非限定的な方法で、ヒドロフルオロプロパン、ヒドロフルオロプロペン、ヒドロクロロフルオロプロパン、ヒドロクロロフルオロプロペン、及びすべての割合のそれらの混合物を含む。
【0078】
好ましくは、本発明による伝熱組成物は、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(好ましくはE型)及びモノベンジルトルエンとジベンジルトルエンとの混合物を含む。さらにより優先的には、本発明による伝熱組成物は、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(好ましくはE型)及びモノベンジルトルエンとジベンジルトルエンとの混合物から本質的になるか、又はこれらからさえもなる。
【0079】
他の実施形態では、本発明による伝熱組成物は、ペンタエリスリトール及び少なくとも1つのフッ素化又はフッ素化炭化水素から作製されたポリオールエステル、例えば、非限定的な方法で、ヒドロフルオロプロパン、ヒドロフルオロプロペン、ヒドロクロロフルオロプロパン、ヒドロクロロフルオロプロペン、及びそれらの混合物をすべての割合で含む。
【0080】
好ましくは、本発明による伝熱組成物は、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(好ましくはE型)及びペンタエリスリトールから製造されたポリオールエステルを含む。さらにより優先的には、本発明による伝熱組成物は、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(好ましくはE型)及びペンタエリスリトールから作製されたポリオールエステルから本質的になるか、又はさらにはこれらからなる。
【0081】
本発明の文脈で使用され得る組成物はまた、例えば、非限定的な様式で、抗酸化剤、不動態化剤、流動点降下剤、分解阻害剤、香料及び香味料、着色剤、保存剤、及びそれらの混合物から選択される1つ以上の添加剤及び/又は充填剤を含み得る。分解阻害剤の存在が特に好ましい。
【0082】
組成物に有利に使用され得る抗酸化剤の中で、言及され得る非限定的な例には、フェノール系抗酸化剤、例えばジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、トコフェロール、及びこれらのフェノール系抗酸化剤の酢酸塩、アミン型の抗酸化剤、例えばフェニル-α-ナフチルアミン、ジアミン型の抗酸化剤、例えばN,N’-ビス(2-ナフチル)-パラ-フェニレンジアミン、アスコルビン酸及びその塩、アスコルビン酸のエステル、単独で、又はそれらの2つ以上の混合物として、又は他の成分、例えば緑茶抽出物、コーヒー抽出物との混合物も含まれる。
【0083】
特に適切な抗酸化剤は、商品名Ionol(登録商標)でBrenntag社から市販の製品である。
【0084】
本発明の文脈において使用され得る不動態化剤は、トリアゾール誘導体、ベンズイミダゾール、イミダゾール、チアゾール及びベンゾチアゾールから有利に選択される。言及され得る非限定的な例としては、ジオクチルアミノメチル-2,3-ベンゾトリアゾール及び2-ドデシルジチオイミダゾールが挙げられる。
【0085】
存在し得る流動点降下剤の中で、言及され得る非限定的な例としては、スクロースの脂肪酸エステル、及びポリ(アルキルメタクリレート)又はポリ(アルキルアクリレート)などのアクリルポリマーが挙げられる。
【0086】
好ましいアクリルポリマーは、50,000g.mol-1~500,000g.mol-1の分子量を有するものである。これらのアクリルポリマーの例としては、1~20個の炭素原子を含む直鎖アルキル基を含むことができるポリマーが挙げられる。
【0087】
これらの中でも、以前として非限定的な例として、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ヘプチルアクリレート)、ポリ(ヘプチルメタクリレート)、ポリ(ノニルアクリレート)、ポリ(ノニルメタクリレート)、ポリ(ウンデシルアクリレート)、ポリ(ウンデシルメタクリレート)、ポリ(トリデシルアクリレート)、ポリ(トリデシルメタクリレート)、ポリ(ペンタデシルアクリレート)、ポリ(ペンタデシルメタクリレート)、ポリ(ヘプタデシルアクリレート)及びポリ(ヘプタデシルメタクリレート)を挙げることができる。
【0088】
このような流動点降下剤の例は、三洋化成工業株式会社から商品名Acubeとして市販されている。
【0089】
最も特に好ましい態様によれば、分解阻害剤が添加剤として存在する。分解阻害剤は、特に、ジフェニルカルボジイミド、ジトリルカルボジイミド、ビス(イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(ブチルフェニル)カルボジイミドなどのカルボジイミド誘導体からだけでなく、フェニルグリシジルエーテル又はエステル、アルキルグリシジルエーテル又はエステル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシシクロヘキサン)カルボキシレート、アントラキノンファミリーの化合物、例えば「BMAQ」の名称で販売されているβ-メチルアントラキノン、ビニルシクロヘキセンジエポキシドなどのエポキシド誘導体、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレート(3,4-エポキシ-6-メチルヘキサン)、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、Whyte Chemicals社から特に入手可能なDGEBA又はCEL 2021PなどのビスフェノールAのジグリシジルエポキシエーテルから選択されてもよい。
【0090】
添加剤の総量は、好ましくは、伝熱組成物の5重量%、特に4重量%、より具体的には3重量%、最も具体的には2重量%又は1重量%さえをも超えない。
【0091】
特定の実施形態では、伝熱組成物は不純物を含有する。存在する場合、それらは、伝熱組成物に対して1%未満、好ましくは0.5%未満、好ましくは0.1%未満、好ましくは0.05%未満、好ましくは0.01%未満(基準)を表し得る。
【0092】
本発明による伝熱組成物は、25℃で10Ω.cm以上、好ましくは10Ω.cm又は10Ω.cm以上の体積抵抗率を有する。材料の抵抗率は、電流の流れに対抗するその能力を表す。言い換えれば、体積抵抗率は、組成物の誘電特性の指標である。体積抵抗率は、規格IEC60247に従って測定される。
【0093】
例えば、この体積抵抗率は、10~5×10Ω.cm、又は5×10~10Ω.cm、又は10~5×10Ω.cm、又は5×10~10Ω.cm、又は10~5×10Ω.cm、又は5×10~10Ω.cm、又は10Ω.cm超であってもよい。
【0094】
さらに、本発明による伝熱組成物は、20℃での降伏電圧が20kV以上、好ましくは20kV以上、好ましくは30kV以上、好ましくは50kV以上、より好ましくは100kV以上であってもよい。「降伏電圧」という用語は、絶縁体の一部を導電性にする最小電圧を意味する。したがって、このパラメータは、組成物の誘電特性の指標でもある。降伏電圧は、規格IEC60156に従って測定される。
【0095】
例えば、本発明による組成物の20℃での降伏電圧は、25~30kV、又は30~40kV、又は40~50kV、又は50~60kV、又は60~70kV、又は70~80kV、又は80~90kV、又は90~100kV、又は100~110kV、又は110~120kV、又は120~130kV、又は130~140kV、又は140~150kVであり得る。
【0096】
本発明による伝熱組成物はまた、1バールの圧力で20~80℃、好ましくは30~70℃の液体飽和温度を有し得る。例えば、この温度は、20~25℃、又は25~30℃、又は30~35℃、又は35~40℃、又は40~45℃、又は45~50℃、又は50~55℃、又は55~60℃、又は60~65℃、又は65~70℃、又は70~75℃、又は75~80℃であってもよい。
【0097】
本発明による伝熱組成物は、特に、ISO3104規格に従って20℃で0.1~20cPの粘度を有し得る。
【0098】
本発明による伝熱組成物は、好ましくは難燃性であり、又は好ましくは不燃性である。
【0099】
伝熱組成物を含む装置
伝熱組成物は、電池、好ましくは二次供給源との組成物の熱交換を可能にするのに適した装置に収容される。
【0100】
二次供給源は、環境又は追加の伝熱組成物であってもよい。
【0101】
特定の実施形態では、装置は、伝熱組成物と車両の電池との直接的な接触を許容せず、前記組成物は、熱交換器、ヒートパイプ又は冷却プレートを流れる。誘電特性は、穿孔された場合の施設の安全性を保証する。
【0102】
特定の実施形態では、装置は、伝熱組成物と車両の電池との直接的な接触を可能にする。好ましくは、車両の電池は、伝熱組成物に浸漬される。この場合、装置は、電池の全部又は一部を収容する閉じたエンクロージャを含むことができ、伝熱組成物は、エンクロージャ内に収容され、電池の外壁と接触する。
【0103】
これにより、伝熱組成物の熱特性を最良に使用することができる。
【0104】
特定の実施形態では、伝熱組成物は完全に液状である。
【0105】
他の実施形態では、伝熱組成物は、部分的に液状であり、部分的に気体の状態である。直接的な接触をしている電池を含むエンクロージャ、又は間接的に接触している回路の圧力は、日中の車両の場合70℃などであり得る周囲の最高温度で、伝達組成物の蒸気圧に達し得る。エンクロージャ内の圧力は、例えば、5バール未満、又は4バール未満、又は2バール未満のままであり得る。
【0106】
伝熱組成物との電池の直接的な接触による冷却は、電池の充電が急速充電であり、これが電池の急速加熱を伴う場合に特に好ましい。これは、電池と伝熱組成物との間のより速い熱交換を可能にし、冷却要件が増加しても冷却効率を維持するためである。
【0107】
電池が浸漬される場合、伝熱組成物は、エンクロージャの壁を介して環境と直接的に熱を交換することができる。放熱要素(フィンなど)は、壁の内面及び/又は外面に設けられてもよい。あるいは、伝熱組成物は、エンクロージャに配置された熱交換器を介して、又はエンクロージャの壁のプレート若しくはチャネルを介して、追加の伝熱組成物と熱交換してもよい。あるいは、伝熱組成物は、エンクロージャの外部の熱交換器で環境と、又は追加の伝熱組成物と熱を交換するために、エンクロージャの内外に循環してもよい。
【0108】
あるいは、伝熱組成物は、熱交換器を介して電池と熱交換してもよい。次いで、装置は、組成物が流れる回路を備えてもよい。熱交換器は、特に、流体/固体タイプ、例えばプレート交換器であってもよい。
【0109】
好ましくは、回路は圧縮機を含まない。言い換えれば、回路は蒸気圧縮回路ではない。
【0110】
伝熱組成物は、熱交換器を通過するときに液状のままであってもよく、又は逆に、冷却又は加熱に使用されるかどうかに応じて、完全又は部分的なエバポレーション又は凝縮を受けてもよい。
【0111】
組成物を循環させるための手段、例えばポンプが設けられ得る。
【0112】
追加の伝熱組成物が設けられる場合、これは、特に蒸気圧縮回路であり得る追加の回路に存在し得る。組成物間の熱交換は、例えば並流又は好ましくは向流であり得る追加の熱交換器で行われる。
【0113】
追加の伝熱組成物は、それ自体、追加の熱交換器によって環境と熱交換することができる。これは、任意選択的に、車室内の空気を加熱又は冷却するために使用することもできる。
【0114】
この目的のために、追加の回路は、別個の熱交換器を有する様々な分岐を含むことができ、追加の伝熱組成物は、動作モードに応じて、これらの分岐内を流れるか、又は流れない。任意選択的に、代替的に又は追加的に、追加の回路は、追加の伝熱組成物の流れの方向を変更するための手段を含むことができ、例えば、1つ又は複数の三方又は四方弁を含む。
【0115】
「向流熱交換器」という用語は、第1の流体と第2の流体との間で熱が交換される熱交換器を意味し、交換器の入口の第1の流体は、交換器の出口の第2の流体と熱を交換し、交換器の出口の第1の流体は、交換器の入口の第2の流体と熱を交換する。
【0116】
例えば、向流熱交換器は、第1の流体の流れ及び第2の流体の流れが反対方向又は実質的に反対方向である装置を備える。向流傾向の交差電流モードで動作する交換器も、向流熱交換器の中に含まれる。
【0117】
熱交換器は、特に、U字形管、水平又は垂直管束、螺旋、プレート又はフィンを有する交換器であってもよい。
【0118】
温度制御
本発明は、均一な温度を維持することによって電池の温度を調節するための、本発明による伝熱組成物の使用に関する。好ましくは、組成物は、電池を冷却するために使用される。それは、電池を加熱するために使用されてもよい。必要に応じて加熱と冷却を交互にしてもよい(外気温、電池の温度、電池の動作モード)。
【0119】
加熱はまた、少なくとも部分的に電気抵抗によって行われてもよい。
【0120】
したがって、本発明による伝熱組成物を電池の均一な冷却のみに供することが可能であるが、他の手段、例えば電気抵抗が、電池を加熱するために使用される。
【0121】
「電池の温度」という用語は、一般に、その電気化学セルの1つ又は複数の外壁の温度を意味する。
【0122】
電池の温度は、温度センサによって測定することができる。電池にいくつかの温度センサが存在する場合、電池の温度は、測定された様々な温度の平均と見なすことができる。本発明は、電池の異なる箇所で測定された温度の間の差を大幅に低減することを可能にする。
【0123】
温度制御は、車両の電池が充電されているときに実行することができる。あるいは、電池が放電しているとき、特に車両のエンジンがオンになったときに実行することができる。これは、電池が機能しているときに、外部の温度のために、及び/又は前記電池の固有の加熱のために、電池の温度が過剰になることを特に防止する。
【0124】
特に、電池の充電は急速充電であり得る。したがって、30分以下、好ましくは15分以下の期間にわたる(電池が完全に放電された瞬間からの)電池の完全な充電中、本発明による組成物の使用は、電池の温度を均一な分布で最適な温度範囲内に保つことを可能にする。これは、急速充電中に、電池が急速に加熱され、特にその機能、性能、及び寿命に影響を及ぼし得るホットスポットで、高温に達する傾向があることを考慮すると、有利である。
【0125】
特定の実施形態では、電池の冷却は、特定の期間にわたって継続される。
【0126】
特定の実施形態では、冷却及び任意選択的に加熱は、特に車両が動作している(エンジンが作動している)とき、特に車両が動いているときに、電池の温度を最適温度の範囲内に維持することを可能にする。具体的には、電池の温度が低すぎると、その性能が著しく低下しやすい。
【0127】
したがって、特定の実施形態では、車両の電池の温度は、最低温度tと最高温度tとの間に維持されてもよい。
【0128】
特定の実施形態では、最低温度tは10℃以上であり、最高温度tは80℃以下であり、好ましくは、最低温度tは15℃以上であり、最高温度tは70℃以下であり、より好ましくは、最低温度tは16℃以上であり、最高温度tは50℃以下である。
【0129】
フィードバックループは、所望の温度の維持を確実にするために、電池の測定温度の関数として設備の動作パラメータを変更するために、有利に存在する。
【0130】
車両の電池の温度が最低温度tと最高温度tとの間に維持されている間の外部の温度は、特に-60~-50℃、又は50~-40℃、又は40~-30℃、又は30~-20℃、又は20~-10℃、又は10~0℃、又は0~10℃、又は10~20℃、又は20~30℃、又は30~40℃、又は40~50℃、又は50~60℃、又は60~70℃であり得る。
【0131】
「外部の温度」という用語は、最低温度tと最高温度tとの間の車両の電池の温度を維持する前、及び維持している間の車両外部の常温を意味する。
【実施例
【0132】
実施例1-相溶性及び誘電特性
冷媒としてのHCFO-1233zdEを、ベンジルトルエンとジベンジルトルエンとの混合物(ArkemaからJarylec(登録商標)C101の名称で販売されている)と合わせることによって、組成物を調製した。2つの生成物がすべての割合で混和性であることが最初に確認された。
【0133】
油は、気相中及び液相中の温度を均一にするように、マグネティックスターラー及び伝熱流体を流すジャケットを備えた0.34Lのオートクレーブにおいて秤量することによって導入した。
【0134】
次いで、オートクレーブを-10℃に冷却し、その時点で真空引きした。
【0135】
円筒に収容されたHCFO-1233zdEを、秤量して液相として閉じた回路のモードで移送した。
【0136】
液相の組成物が温度の関数として変化しないように、導入された液体の最小の体積を計算した。
【0137】
最終的な混合物を均質化するように撹拌しながら、所望の温度にした。次いで、混合物が平衡に達するまで撹拌を停止した。温度及び圧力を平衡状態で記録した。
【0138】
図1は、1バールの飽和蒸気圧での組成物の液体飽和温度に対する冷媒の含有量の影響を示す。より具体的には、100%の油を含む組成物と比較して、組成物への冷媒の添加は、低い含有量であっても、組成物の液体飽和温度を著しく低下させ、したがって電池を冷却するための容量を増加させることが分かる。
【0139】
69.2gのHCFO-1233zdEと、100.5gのArkema社製Jarylec(登録商標)C101とを、以下に示す条件下で混合することにより、組成物を調製した。
【0140】
別の組成物が、以下に示す条件下で、Arkema社製の35重量%のHCFO-1233zdE及び65重量%のJarylec(登録商標)C101を混合することによって調製した。
【0141】
降伏電圧は、規格IEC60159:1995に従って測定した。
【0142】
実施例2-粘度
粘度測定は、0.2Lの容量を有するジャケット付きオートクレーブ反応器で行い、この反応器内に伝熱流体を流し、反応器に油であるJarylec(登録商標)C101を導入した。反応器を-10℃に冷却し、磁気で撹拌した。次いで、圧力差によってHCFO-1233zdEを導入した。次いで、反応器を測定温度にした。
【0143】
次いで、粘度を、振動ロッド粘度計、Softraser製のモデルMIVI9601を用いて測定した。カメラを用いて、測定条件での油と冷媒の混和性を確認し、測定前に粘度計ロッドの浸漬を確認した。
【0144】
比較目的のために、標準ISO3104による粘度測定を20℃で油(0%HCFO-1233zdE)に対して行った。得られた値は6.5cPである。
【0145】
実施例3-燃焼性
引火点測定を、90重量%のJarylec(登録商標)C101油及び10重量%のHCFO-1233zdEを含有する組成物、並びに100重量%のJarylec(登録商標)C101の油を含有する比較用組成物に対して行った。
【0146】
混合物を低温、大気圧下で調製した。それは、常温及び大気圧で、均一で液体である。
【0147】
引火点測定は、ISO3679又はISO3680「引火/非引火点試験-急速密閉カップ平衡法」の規格に従って実施した。標準化させた試験は、充填ポートを自由なままにし、したがって開放し、またカップを大気中に閉じた状態でガス抜きしながら行われる。
【0148】
試験は、温度平衡(標準化された条件下で2分間)中にさらにより限定された装置をシミュレートするように充填ポートを遮断することによって、場合によって適合された。この場合、試験は「蓋がブロックしている」状態で行われる。
【0149】
調査した温度範囲は300℃までであった。
【0150】
実施例4-伝熱係数(二相浸漬)
伝熱率測定を実行するために、常温を変化させることによって流体のパフォーマンスを測定するために、熱調節チャンバ内に配置された試験装置が使用される。試験装置は、加熱要素及びコンデンサーを備えた容器を含む。コンデンサーは、容器の上部に配置され、氷冷水ループによって冷却される。加熱要素は、直径15mm、高さ80mmの円筒形の抵抗器であり、銅シース内にあり、飽和液体で満たされた円筒に垂直に浸漬されてそれを加熱する。最大15W/cmを供給することができる。8つの温度センサを銅シース上に配置して表面温度を測定する。
【0151】
そのプロパ-、特に粘度がJarylec(登録商標)C101油の特性に類似しており、そのプロパ-、特に熱(0.05W/(m.K)を超える熱伝導率)及び誘電プロパ-が本願の仕様に適合する油とHCFO-1233zdEとの2つの異なる混合物を試験した。HCFO-1233zdEは、水分又は大気汚染のいかなる導入も回避しながら最初に導入された。メスシリンダーを用いて重力によって油を加えた。混和性及び均一性をサンプリングによって確認した。
【0152】
冷却水温(コンデンサーの温度10℃)及び流量を所望の値に設定した。常温は26℃に設定した。熱の出力を0~90Wまで5Wずつ増加させた後、再び減少させてヒステリシスを検出した。昇温中の平均伝熱係数の値を測定した:H=F/(T-Tsat)、式中、Fは熱流束密度、Tは壁温、Tsatは測定した組成物の液体飽和温度である。
【0153】
実施例5-伝熱係数(単相浸漬)
比較伝熱係数測定を行うために、気密ハウジング内に36個の角柱セル(35個のダミーセルによって囲まれた1個の実際のチタン酸リチウムセル)のモジュールを含む試験装置が使用される。セル及びバスバーを0.5L/分~40L/分の速度で循環する液体に浸漬する。液体の入口及び出口温度、流量及び圧力を測定し、監視する。液体は外部から冷却される。
【0154】
セルは、その小さな表面で冷却される。液体の通路は、並列に配置されている。モジュールには26個の温度センサが装備されており、そのうちの8個は実際のセルの大きな表面のうちの1つに分配している。
【0155】
試験は、0~1W/cmの異なる熱流束密度Fで実施した。Fは、供給された総熱出力を総交換面積で割ったものに等しい。
【0156】
試験した液体は、Jarylec(登録商標)C101と同様の粘度を有する油、又はこの油とHCFO-1233zdEとの混合物のいずれかであった。HCFO-1233zdEは、水分又は大気汚染のいかなる導入も回避しながら最初に導入された。メスシリンダーを用いて重力によって油を加えた。混和性及び均一性をサンプリングによって確認した。
【0157】
装置は自動試験モードで使用し、熱流束密度Fは0.25W/cm(供給電力を変えることによって調整)、平均流体温度は15℃(ハウジング入口の液体の温度とハウジング出口の液体の温度の平均)であった。所与の熱流束密度に対して、液体流量は、流体に依存する最大ポンピング速度まで増加した。
【0158】
伝熱係数Hは、平均セル温度とハウジング入口の流体の温度との差で割った熱流束密度に対応する。
【0159】
純油では、達成可能な最大液体流量は15L/分である。10%のHCFO-1233zdEを含む組成物では、達成可能な最大液体流量は18L/分である。
図1