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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】軸方向に圧縮可能なベアステント
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/90 20130101AFI20241024BHJP
【FI】
A61F2/90
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022581717
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-28
(86)【国際出願番号】 CN2020127259
(87)【国際公開番号】W WO2022007280
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】202010643320.4
(32)【優先日】2020-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】523002057
【氏名又は名称】シャンハイ フローダイナミクス メディカル テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディン ジエン
(72)【発明者】
【氏名】ファン チェンイン
【審査官】今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-000794(JP,A)
【文献】特表2017-511742(JP,A)
【文献】特表2004-528862(JP,A)
【文献】特表2012-523922(JP,A)
【文献】特表2004-520101(JP,A)
【文献】特開平10-033692(JP,A)
【文献】特開2012-223209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/82-2/945
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大動脈に用いられる軸方向に圧縮可能なベアステントであって、
前記ベアステントは、少なくとも2種類の異なる直径の第1ワイヤと第2ワイヤを軽く接触させるように交織することによって形成され、自然解放状態で、前記ベアステントは、3~60%の金属被覆率を有し、解放状態且つ軸方向の最大圧縮状態で、80%以上の金属被覆率を有し、それによって前記ベアステントの液体不透過性を向上させ、第1ワイヤは、20~150μmの直径を有し、第2ワイヤは、150~600μmの直径を有し、
前記ベアステントは、少なくとも2層の交織メッシュを有し、前記ベアステントの少なくとも一端の端部は、折り返し編み方式で形成される、ベアステント。
【請求項2】
前記ベアステントは、自然解放状態で、200N以上の径方向の支持力を有する、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項3】
前記ベアステントは、自然解放状態で、200~600Nの径方向の支持力を有する、
請求項2に記載のベアステント。
【請求項4】
前記ベアステントが前記大動脈内に留置される場合、その軸方向に沿って異なる圧縮度を有する、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項5】
前記第1ワイヤと前記第2ワイヤが均一分布の方式で交織されて前記ベアステントを形成する、
請求項2又は3に記載のベアステント。
【請求項6】
前記ベアステントは、解放状態且つ軸方向の最大圧縮状態で、80~90%の金属被覆率を有し、又は、
前記ベアステントは、解放状態且つ軸方向の最大圧縮状態で、400N以上の径方向の支持力を有し、又は、
前記ベアステントは、解放状態且つ軸方向の最大圧縮状態で、400~1000Nの径方向の支持力を有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載のベアステント。
【請求項7】
前記ベアステントは、腹部大動脈を含む領域に用いられ、前記ベアステントの内部空間に、左右の総腸骨動脈ステントを固定するための隣接する2つの環状通路として配置された総腸骨動脈ステント固定部が設けられる、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項8】
前記総腸骨動脈ステント固定部は、前記ベアステント内部の腹部大動脈に対応する左右の総腸骨動脈に近い分岐部に設けられ、前記2つの総腸骨動脈ステント固定部は、互いに接する環状に配置され、且つ前記ベアステントの内壁と一体形成されている、
請求項7に記載のベアステント。
【請求項9】
前記ベアステント全体は、同じ直径を有するか、又は前記ベアステントは、可変の直径を有し、且つ前記直径は、20~60mmの範囲内にあり、又は、前記ベアステントは、20~35mmの範囲内の直径を有するか、又は前記ベアステントの一部は、38~60mmの範囲内の直径を有する、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項10】
前記第1ワイヤは、異なる直径を有する第1細ワイヤ及び第2細ワイヤを含み、前記第1細ワイヤは、20~100μmの直径を有し、前記第2細ワイヤは、100~150μmの直径を有する、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項11】
前記第2ワイヤは、異なる直径を有する第1太ワイヤ及び第2太ワイヤを含み、前記第1太ワイヤは、150~300μmの直径を有し、前記第2太ワイヤは、300~600μmの直径を有する、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項12】
前記ベアステントは、48~156本のワイヤで交織して得られ、前記第2ワイヤは、4~32本であり、残りは、第1ワイヤである、
請求項1に記載のベアステント。
【請求項13】
前記ベアステントは、48~156本のワイヤで交織して得られ、前記第2ワイヤは、4~32本であり、残りは、第1ワイヤであり、前記第1ワイヤは、前記第1細ワイヤと前記第2細ワイヤとの合計が152本を超えないことを前提で、32~120本の第1細ワイヤ及び32~120本の第2細ワイヤを含む、
請求項10に記載のベアステント。
【請求項14】
前記ベアステントは、48~128本のワイヤで交織して得られ、前記第2ワイヤは、6~24本の第1太ワイヤ、及び6~24本の第2太ワイヤを含み、前記第1太ワイヤと前記第2太ワイヤとの合計が32本を超えないことを前提で、残りは第1ワイヤである、
請求項11に記載のベアステント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ベアステントに関し、特に、大動脈病変、例えば、大動脈瘤又は大動脈解離の治療に使用されるベアステントに関する。
【背景技術】
【0002】
動脈壁は、密着している内膜、中膜、及び外膜からなる。動脈血管の内壁が局所的に損傷すると、動脈血流の強い衝撃により、動脈壁の中膜が徐々に剥離が発生し、血管壁の中膜と外膜との間に血液が入り込み、真と偽の2つの腔が形成される。最もよく見られるのは、大動脈解離である。大動脈解離により動脈壁を薄くなり、いつでも破裂する危険があり、一旦破裂すると、数分以内に患者が死亡する。
【0003】
大動脈解離は、内膜の裂け部位及び拡張範囲に基づいて、A型とB型に分けられる(i.e.,Stanford分類)。A型とは、上行大動脈に累が及ぶ病変を指し、動脈壁の解離部位は上行大動脈から始まる場合があるし、病変が弓部大動脈又は下行大動脈の近位で発生して上行大動脈に及ぶ場合もある。B型とは、動脈壁の解離部位が左鎖骨下動脈の開口部の心臓近位端を超えない下行大動脈で発生することを指す。
【0004】
大動脈瘤も、大動脈の異常に拡張される病症である。大動脈瘤の破裂も、患者にとって致命的である。
【0005】
したがって、大動脈解離と大動脈瘤の早期診断と素早い治療が非常に必要である。
【0006】
現在、大動脈解離又は大動脈瘤の治療には、通常、3つの方案がある。
【0007】
1つの方案は、人工血管置換のための開放手術を採用することである。現在、この方案は、A型大動脈解離に多く用いられているが、術中死亡率が高く、術後に残存解離(即ち、B型解離)が形成することが多く、10年以内に9~67%の確率で再手術が必要になるという欠点がある。また、治療費も高額で、この手術手技を有する病院が相対的少ない。しかも開放手術は、すべての患者に適しているわけではなく、この方案の恩恵を受ける患者の割合は非常に少ない。
【0008】
もう1つの方法は、EVAR腔内介入法、つまり、ステントグラフト内挿術である。この方案は、外傷が小さく、回復が速く、死亡率が低いという利点があるが、ステント留置部位が弓部大動脈や腹部大動脈であることが多く、術中及び術後に弓部大動脈の凸側の3大分岐動脈や腹部大動脈における左腎動脈、右腎動脈、腹腔動脈、及び上腸間膜動脈などの主要な分岐動脈を塞ぐことができない。通常の方法では、ステントグラフトの重要な分岐動脈に対応する部位にその場で穴を開ける。これにより、一方、手術の難易度が高くなり、経験豊富な外科医が実施する必要があり、もう一方、留置時の位置決めが正確でなかったり、留置中にステントがずれたりすると、重要な分岐血管を塞いでしまい、深刻な結果を招く。また、ステントが術前に改造された場合、メーカーは保証サービスの提供を拒否する場合がある。
【0009】
3つ目の方案は、高密度メッシュステントを採用して全大動脈腔内介入法を行う最近提案された方案である。EVAR腔内介入法とは異なり、この方案は、機械的に偽腔を塞ぐメカニズムを採用せず、高密度メッシュステントで血流通過を大きく阻害することがなく、病変血管の内壁に血液の流れへのブロッキングを形成して、偽腔内の血流動力学を変化させ、その中の圧力を低下させ、管腔内血栓化を促進することにより治療目的を達成する。この方案は、高密度メッシュステントを採用しているため、EVAR腔内介入法と比較して、同様に外傷が小さく、回復が速く、死亡率が低いという利点があり、それだけでなく、高密度メッシュステントは、分岐動脈への血流を大きく阻害しないため、手術の難易度を大幅に低下させる。したがって、一般的な経験を有する医師が実施することができる。
【0010】
しかしながら、このタイプのステントは、治療効果が十分ではなく、血管内壁の裂け目が完全に塞がれていないため、常に理想的な管腔内血栓が形成されるわけではない。また、現在の高密度メッシュステントは、すべての大動脈解離や大動脈瘤の病変タイプに適用することはまだ難しく、特に、A型大動脈病変に適用することは難しい。
【0011】
A型大動脈解離は、上行大動脈に累が及び、この部位の血管の内径は病変により顕著に増大し、通常は38~55mmに達する。このような大径の高密度メッシュステントは、小径まで径方向に圧縮することができないため、より太い送達システムが必要になることが多い。これにより、送達システムが直径の相対的に小さい大腿動脈によって留置を実現することが難しくなり、特に、血管が相対的に細いアジア人に対して、実施することができない場合が生じる。ステントの圧縮状態の直径を小さくするために、細いワイヤでステントを編むことができるが、これにより、ステントの径方向の支持力が治療効果を発揮するには不十分である。
【発明の概要】
【0012】
これを鑑みて、本開示の主な目的は、上述した少なくとも1つの従来技術の課題を解決又は改善できるステントを提供することである。具体的には、本開示は、大腿動脈を介して送達するのに適した送達状態直径を有する大動脈解離又は大動脈瘤の治療のためのステント、特に、A型大動脈病変のためのステントを提供することを目的とする。前記ステントは、解放状態で局所的に軸方向に圧縮することができ、それにより、必要な部位(例えば、内膜の裂け部位)に低い液体透過性、高い径方向の支持力を有するセグメントが形成され、病変部位の治療を遂行する。
【0013】
このため、本開示は、大動脈用のベアステントを提供し、前記ベアステントは、少なくとも2種類の異なる直径の第1ワイヤと第2ワイヤを軽く接触させるように交織することによって形成され、自然解放状態で、前記ベアステントは、少なくとも30%の金属被覆率を有し、第1ワイヤは、20~150μmの直径を有し、第2ワイヤは、150~600μmの直径を有する。
【0014】
本開示のベアステントは、少なくとも2種類の異なる直径のワイヤ、即ち、上記で定義した第1ワイヤと第2ワイヤとを軽く接触させるように交織することによって形成される。上記範囲内のワイヤで交織された、上記の金属被覆率を有するベアステントは、自然解放(即ち、軸方向の圧縮も延伸もない)状態で、適切な径方向の支持力を有し、それにより、このようなステントを径方向に圧縮して適切な直径の送達構造形態にすることが困難である課題を解決する。適切な径方向の支持力の範囲内で、比較的容易にステントの径方向の圧縮を行うことができる。
【0015】
しかしながら、本開示のステントの径方向の支持力は、大動脈における内膜の裂け部位を塞ぐために用いられるのに十分ではなく、しかも自然解放状態でのベアステントは、まだ比較的に高い流体透過性を有する。この問題を解決するために、以下に詳述するステントの留置方法によれば、本開示のベアステントは、解放後に少なくとも局所的に軸方向に圧縮可能である。この特徴ができるのも、上述の異なる直径を有する2種類のワイヤを軽く接触させるように交織する方式によって本開示のベアステントを形成することによるものでもある。ワイヤ同士を軽く接触させるような交織方式では、ワイヤとワイヤが交点で、どのワイヤでも乱れずに移動することができ、これは、ベアステントの径方向の圧縮に有利である。ステントが血管内で解放される場合、局部的な軸方向の圧縮により、ステントの非分岐血管の局所セグメントにおいて、十分な交織密度が得られ、それにより、当該局所セグメントの径方向の支持力及び液体不透過性を顕著に向上させ、血管内膜の裂け部位では、血管真腔の拡張及び裂け目の閉塞作用が同時に発揮される。
【0016】
本開示のステントは、適切な金属被覆率を有する必要がある。交織が密すぎると、径方向の圧縮が困難になり、血流が阻害される可能性があり、逆に交織が薄すぎると、軸方向の圧縮を行っても所望の径方向の支持力や液体不透過性に達することができず、それにより、内膜の裂け部位を効果的に塞ぐことができない。
【0017】
本開示によれば、前記ベアステントが大動脈内に留置される場合、その長さ方向に沿って異なる圧縮度を有する。
【0018】
実際の適用では、本開示のベアステントが大動脈内で解放される場合、圧縮比に応じて、ベアステントの異なるセグメントの金属被覆率は異なってもよく、例えば、軸方向の最大圧縮時の金属被覆率から自然解放状態での金属被覆率の間で変化することができる。
【0019】
本開示のステントの上記特性により、本開示のベアステントは、治療部位において、異なる要件に応じて異なる径方向の支持力と流体透過性を示すことができ、それによって、血管内壁の裂け目を塞ぎ、血管真腔を拡張し、分岐動脈への血流を保持する多重作用を果たすことができる。
【0020】
一実施形態によれば、血管内自然解放状態で、前記ベアステント200N以上の径方向の支持力を有する。
【0021】
一実施形態によれば、本開示のベアステントは、血管内自然解放状態で、30~60%の金属被覆率、及び200~600Nの径方向の支持力を有する。
【0022】
本開示によれば、前記ベアステントが前記大動脈内に留置される場合、その軸方向に沿って異なる圧縮度を有する。
【0023】
一実施形態によれば、本開示のベアステントのステント全体は、均一な交織密度を有する。したがって、前記第1ワイヤと前記第2ワイヤが均一分布の方式で交織されて前記ベアステントを形成する。
【0024】
一実施形態によれば、前記ベアステントは、解放状態且つ軸方向の最大圧縮状態で、80%以上、好ましくは80~90%の金属被覆率を有する。
【0025】
一実施形態によれば、前記ステントは、解放状態且つ軸方向の最大圧縮状態で、400N以上、好ましくは400~1000Nの径方向の支持力を有する。
【0026】
前記ベアステントが軸方向に最大に圧縮された後、上記範囲内の径方向の支持力は、狭くなった血管真腔を効果的に支えることができる。したがって、実際の適用では、本開示のステントは、血管(特に、大動脈)内で解放される場合、圧縮比によってその異なるセグメントの径方向の支持力は実質的に異なり、200~1000Nの範囲内で変化することができる。
【0027】
本開示のベアステントの治療部位が腹部大動脈部位に関わる場合、前記ベアステントの内部空間に、左右の総腸骨動脈ステントを固定するための2つの総腸骨動脈ステント固定部が設けられる。一具体的な例では、前記総腸骨動脈ステント固定部は、前記ステント内部の腹部大動脈に対応する左右の総腸骨動脈に近い分岐部に設けられ、前記2つの総腸骨動脈ステント固定部は、互いに接する環状に配置され、且つ前記ベアステントの内壁と一体形成されている。
【0028】
腹部大動脈ステント下部に2つの円筒状分岐の固定部を形成する構成と異なり、本開示のベアステントの2つの固定部は、ベアステントの内部に設けられ、したがって、ベアステントの外部は同じく円筒形で保持され、総腸骨動脈近傍の支持性が低下することなく、血管を開けるのにより有利である。また、総腸骨動脈固定部は、ステントと一体形成されているため、左右の腸骨動脈ステントをより安定的に固定することができる。
【0029】
本開示のベアステントは、上行大動脈から腹部大動脈までの少なくとも弓部大動脈及び/又は腹部大動脈を含む大動脈領域、又は上行大動脈から腹部大動脈までの少なくとも上行大動脈を含む大動脈領域に用いられ得る。本開示のベアステントは、異なる適用部位に適応するために、異なる規格を有し得る。当業者は、患者の具体的な状況に応じて選択することができる。
【0030】
本開示によれば、前記ベアステント全体は、同じ直径を有するか、又は前記ベアステントは、可変の直径を有し得、前記直径は、20~60mm、好ましくは20~55cmの範囲内であり得る。全体的に、ステントの内径は、治療効果を発揮するために、解放された後に解放部位の血管の内径より若干大きくする必要がある。
【0031】
一実施形態によれば、前記ベアステントは、20~35mm範囲内の直径を有する。ベアステントについて、ステント全体は、上記範囲内で同じ直径を有してもよく、又はステント全体は、上記範囲内で可変の直径を有してもよい。このようなベアステントは、下行大動脈から腹部大動脈及び両側の腸骨動脈までの主腸骨動脈血管に適用することができる。
【0032】
別の実施形態によれば、前記ベアステントの一部は、38~60mm、好ましくは38~55mmの範囲内の直径を有する。本実施形態におけるベアステントは、解放状態で、前記ベアステントの心臓近位端に位置する第1セグメントを有し得る。当該第1セグメントは、上行大動脈に適用するために38~55mmの直径を有し得る。当該第1セグメントの解放後の長さは、8~11cm、好ましくは8~10cmである。前記ステントは、前記第1セグメントに隣接する第2セグメントをさらに有し得る。当該第2セグメントは、弓部大動脈、ひいては腹部大動脈までも延伸する部分に適用されるために、例えば20~35mmの直径を有し得る。当該第2セグメントは、当該第1セグメントに続いて前記ステントの心臓遠位端まで延伸する。当該第2セグメントの解放後の長さは、28~40cm、好ましくは28~31cmであり得る。また、上記の2つのセグメントを、2つのステントとしてそれぞれ形成することもでき、留置時にステントの第2セグメントがステントの第1セグメントの内部に部分的に延伸する。後者の方は、より柔軟である。必要に応じて、操作を容易にするために3つの独立したステントを形成することもできる。
【0033】
別の実施形態によれば、前記ベアステントは、下行大動脈から補助大動脈までに対応する部分のみを有し得るため、例えば、20~35mmの直径及び20~30cmの長さを有する。
【0034】
本開示のベアステント用の第1ワイヤは、50~150μmの直径を有し得、第2ワイヤは、150~600μmの直径を有し得る。
【0035】
別の実施形態によれば、前記ベアステントは、3つの異なる直径を有するワイヤで交織して得られ、前記第1ワイヤは、異なる直径を有する第1細ワイヤ及び第2細ワイヤを含み得る。具体的な実施形態によれば、前記第1細ワイヤは、20~100μmの直径を有し得、前記第2細ワイヤは、100~150μmの直径を有し得る。
【0036】
さらに別の実施形態によれば、前記ベアステントは、3つの異なる直径を有するワイヤで交織され、前記第2ワイヤは、異なる直径を有する第1太ワイヤ及び第2太ワイヤを含み得る。具体的な実施形態によれば、前記第1太ワイヤは、150~300μmの直径を有し得、前記第2太ワイヤは、300~600μmの直径を有し得る。
【0037】
さらに別の実施形態によれば、前記ステントは、上記した第1細ワイヤ及び第2細ワイヤと、第1太ワイヤ及び第2太ワイヤの、4種類の異なる直径のワイヤから交織して得られる。
【0038】
もちろん、異なる直径を有する多種類のワイヤを採用することもできるが、効果とコストを考慮すると、価格性能比が比較的に低い。
【0039】
前記ベアステントを交織するためのワイヤの数は、48~156本、好ましくは48~128本であり得る。ここで、第2ワイヤの数は、4本以上、例えば4~32本であり得、残りは、第1ワイヤである。
【0040】
一実施形態によれば、前記ベアステントを交織するためのワイヤの数は、48~156本であり得、第2ワイヤの数は、4~32本であり、残りは、第1ワイヤであり、前記第1ワイヤは、前記第1細ワイヤと前記第2細ワイヤとの合計が152本を超えないことを前提で、32~120本の第1細ワイヤ及び32~120本の第2細ワイヤを含み得る。
【0041】
別の実施形態によれば、前記ベアステントを交織するためのワイヤの数は、48~156本であり得、前記第2ワイヤは、6~24本の第1太ワイヤ、及び6~24本の第2太ワイヤを含み、前記第1太ワイヤと前記第2太ワイヤとの合計が32本を超えないことを前提で、残りは第1ワイヤである。
【0042】
太ワイヤ(即ち、第2ワイヤ)の数が多すぎると、ステントが理想的な送達状態に効果的に圧縮できなくなり、数が少なすぎると、圧縮後でも前記ステントが所望の径方向の支持力を与えることができず、解放状態で前記ステントの所望の構造及び形態を保持できなくなる。特に、本開示のベアステントについては、第2太ワイヤは、30本以下、好ましくは24本以下であることが好ましい。
【0043】
一実施形態によれば、前記ベアステントは、少なくとも2層の交織メッシュで構成される。一実施形態によれば、前記ベアステントは、2層、3層又は4層の交織メッシュを有し得、好ましくは2層である。前記ベアステントが多層の交織メッシュを有する場合、ステント全体は、上記した所定の径方向の支持力及び金属被覆率を有する。
【0044】
理解すべきこととして、治療タイプに必要な径方向の支持力の範囲及び金属被覆率範囲に応じて、当業者は、本明細書の記載に従って、具体的な製造条件下で適切な交織材料を選択して合理的な層数を決定し、さらに適切なワイヤの直径、数などを選択し、必要な径方向の支持力範囲及び金属被覆率範囲を有するステントを得るために、適切な交織方法を決定することができる。例えば、専用のソフトウェアによって適切な交織方案を設計することができる。
【0045】
更なる実施形態によれば、本開示のベアステントの端部(特に、ステントの径方向の支持力が最大である心臓近位端)は、折り返し編みの方式で形成され得る。もう一方の端は、さらに折り返し編みを実施することができない突き出す先端が存在する場合、各層の適切な配置方式を選択することができ、それによって、突き出す先端が前記ベアステントの内側に位置させる。2層の突き出す先端が存在する場合は、一方の突き出す先端に対して短い距離で折り返し編みを行い、他方の突き出す先端をこの折り返し編みでできたセグメントに包み込む。又は複数のステントを組み合わせて使用する場合は、単層又は2層の突き出す先端を別の高密度メッシュステント内に重ねて配置することができる。本実施形態のベアステントは、滑らかな端部を有するため、露出されたワイヤ端(突き出す先端)による血管内壁への機械的損傷を回避する。
【0046】
本開示のベアステントは、自己拡張可能又はカプセル的に拡張可能である。前記ベアステントの第1ワイヤ及び第2ワイヤを交織する材料は異なってもよいが、同じであることが好ましい。通常、前記ワイヤの材料は、形状記憶合金(ニチノールなど)、コバルトクロム合金、タングステン又はタンタルなどの金属であり得る。
【0047】
本開示のベアステントを、通常の外径(例えば、約5~約10mm、好ましくは約5~約7mm)を有する送達システムを使用して大腿動脈を介して送達することができ、より大きな外径の送達システムを使用する必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本開示によるステントの概略図及び部分拡大図である。
図2】本開示によるステントに対する局所的な軸方向の圧縮及び伸張の概略図である。
図3】本開示のさらに別の実施形態によるベアステントの概略図である。
図4】本開示の一実施形態によるステントの部分拡大図である。
図5】本開示による多層ステント壁の断面図である。
図6】本開示によるステント送達システムの概略図である。
図7】本開示のステント送達システムを使用して大動脈内膜裂け目にステントを留置する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下では、本開示の実施形態における図面を参照して、本開示の実施形態における技術方案をさらに明確且つ完全に説明する。明らかに、説明される実施形態は、本開示の一部の実施形態に過ぎず、すべての実施形態ではなく、本開示の実施例に記載の技術方案は、競合することなく任意に組み合わせて実施することができる。本開示の実施形態に基づいて、創造的な労力を払わずに、当業者によって得られた他のすべての実施形態は、本開示の保護範囲に含まれる。
【0050】
本明細書において、特に明記されていない限り、本願で使用される用語は、当業者によって一般的に用いられるものとして理解されるべきである。したがって、特に明記されていない限り、本願で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。矛盾がある場合は、本明細書を優先する。
【0051】
図面中の同じ参照符号は、同じ構成要素を示す。例示的な図中の各構成要素の形状及びサイズは、説明のためのみであり、実際の形状、サイズ及び絶対位置を表すものではない。
【0052】
説明すべきこととして、本開示において、「備える」、「含む」という用語、又はその他の任意の変形は、一連の要素を含む方法又は装置が、明示的に記載された要素だけでなく、明示的に列挙されていない他の要素、又は実施方法又は装置の固有の要素をさらに含むように、非排他的な包含をカバーすることを意図している。
【0053】
説明すべきこととして、本開示における「第1/第2」などの用語は、特定の順番を限定するものではなく、類似する対象を区別するものであり、「第1/第2」は、適切な場合において特定の順番又は前後順番を変換できる。理解可能なこととして、「第1/第2」は、適切な場合において特定の順番又は前後順番を変換できるので、本明細書に記載の本願実施例は、本明細書に図示又は記載されたもの以外の順番で実行できる。
【0054】
本開示をより明確に説明するために、「心臓近位端」及び「心臓遠位端」という用語は、インターベンション医学の分野で慣用されている用語である。ここで、「心臓遠位端」は、手術操作における心臓から離れる端を指し、「心臓近位端」は、手術操作における心臓に近い端を指す。
【0055】
本明細書における「ベアステント」及び「ステント」という用語は、特に明記しない限り、交換して使用することができ、同一の意味、即ち、ベアステントを指す。
【0056】
本開示は、大動脈用のベアステントを提供し、前記ベアステントは、少なくとも2種類の異なる直径の第1ワイヤと第2ワイヤを交織することによって形成され、前記ステントは、解放状態で前記ステントの軸方向に少なくとも部分的に圧縮可能であるように構成される。
【0057】
図1は、本開示によるステント1の概略図及び部分拡大図である。前記ステント1は、複数の第1ワイヤ3と複数の第2ワイヤ4とを軽く接触させるように交織することによって形成される。図1に示すステント1は、メッシュ孔5を有する単層メッシュ構造である。
【0058】
本開示のステントは、2~4層のような多層構造を有することもできる。例えば、折り返し編み方式で多層を形成することができる。
【0059】
本開示のステントは、上行大動脈から腹部大動脈までの任意のセグメント又は大動脈全体に適用されるため、約60mm(好ましくは55mm)から約20mmまでの大直径を有し得る。
【0060】
本開示によれば、ステント1は、合計48~156本、好ましくは48~128本のワイヤで交織して得られることが可能である。例えば、列挙的に、本開示のステントは、48、64、96、128本のワイヤで交織して得られることが可能である。ワイヤの数は、ステントの直径、層数、及び使用するワイヤの材質などによって決定することができる。
【0061】
本開示のステント用の材質は、十分な径方向の支持力を提供することができ、一定の細さを有するものであれば、末梢血管ステントに適した任意の材料であり得る。通常、ニッケルチタン合金ワイヤ、コバルトクロム合金ワイヤ、タングステンワイヤ、タンタルワイヤなどの金属ワイヤが好ましく、ニッケルチタン合金ワイヤがより好ましい。
【0062】
太ワイヤとしての第2ワイヤ4は、少なくとも4本であり、通常は30本を超えない。第2ワイヤ4の直径は、150~600μmの間であり、例えば、150μm、200μm、250μm、300μm、350μm、400μm、450μm、500μm、550μm又は600μmである。第2ワイヤ4は、ステント1に対して基本的な支持力と構造的完全性を提供する。しかしながら、第2ワイヤの数は、多すぎてはいけない。例えば、直径がわずか300μmであるワイヤを採用しても、数が約32本に達すると、特に約40mmより大きい超大径のステント部分に対して、適切な送達サイズに圧縮することが難しく、使用できなくなる。
【0063】
ステント1において、太ワイヤ以外はすべて、細ワイヤとしての第1ワイヤ3である。本開示に用いられる第1ワイヤ3は、20~150μm、好ましくは50~150μmの直径、例えば、50μm、60μm、70μm、80μm、90μm、100μm、110μm、1120μm、130μm、140μm、及び150μmの直径を有し得る。第1ワイヤ3は、ステント1を補助的に支える作用、第2ワイヤ4の隙間を埋める作用を発揮する。また、第1ワイヤ3は、第2ワイヤ4よりはるかに多くの数を有するため、ステント1の形状を保持する作用も発揮する。本発明者らの研究によると、理論的に実現可能であるように見えるが、実際には、本開示のワイヤ同士を軽く接触させるような交織方式を採用して、第2ワイヤ(即ち、太ワイヤ)だけでは、一定の形状と十分な支持力を有する大径のステントを形成できない。レーザー彫刻技術によって形成されたワイヤとワイヤの交点が固定されている大径ステントは、ワイヤの直径が同じであっても支持力がはるかに小さく、本開示の大動脈血管用の要件を満たすことができない。
【0064】
本開示のステント1は、ワイヤ同士を軽く接触させるように交織して得られ、ワイヤとワイヤの交点で、自由に相対移動ができるため、本開示のステント1の任意のメッシュ5を容易に圧縮することができる。このように形成されたステント1は、一端が固定された状態で、その中心軸A-Aに沿って軸方向に圧縮して圧縮後のステント1’が得られることができ、又はD-Dの方向に沿ってステントの中心軸に向かって径方向に圧縮して圧縮後のステント1’’が得られることができる(図2を参照)。
【0065】
本願における「交織」とは、ステントの一端から他端まで、ずっと第1ワイヤと第2ワイヤによって共同で交織されることを指し、これにより、複数のセグメントを含むステント内のあるセグメントが1つの直径のワイヤで交織され、他のセグメントが別の直径のワイヤで交織される交織方式と異なる。
【0066】
本願におけるステントの「軸方向」とは、図2に示すA-Aに沿った方向を指し、当該方向は、ステントの円筒形状の中心軸方向である。本願におけるステントの「径方向」とは、図1に示すD-Dに沿った方向を指し、当該方向は、ステントの円筒形状の円の直径方向である。通常、本願における「径方向の圧縮」とは、円周から円の中心に向かって圧縮することを指す。
【0067】
本開示のステントの上記の特性は、様々な利点をもたらすことができる。ステントは軸方向に圧縮することができるため、圧縮後のステントは、高い径方向の支持力及び高い織物被覆率を有する。高い径方向の支持力により、狭くなった血管への効果的な拡張が得られ、高い織物被覆率により、低い流体透過性が得られ、血管内膜破損部を効果的に塞ぐことができる。このとき、ステント1内の第2ワイヤ4は、支えるための骨組みの作用を果たし、第1ワイヤは、第2ワイヤ間の隙間を埋め、ステントグラフトと同様な織物膜の作用を果たす。本開示のベアステントは、軸方向に圧縮された後、非常に高い径方向の支持力を提供することができ、上行大動脈に累が及ぶA型大動脈解離の治療にも効果的に用いられることができる点でステントグラフトと相違する。
【0068】
本開示のステント1は、自然解放状態で、200N以上の径方向の支持力を有し得、軸方向の最大圧縮状態で、400N以上の径方向の支持力を有し得る。
【0069】
本願におけるステントの「自然解放状態」とは、37±2℃の水浴において、ステントを固定する際に、ステントを軸方向に圧縮せずに解放した状態を指す。
【0070】
本願におけるステントの「軸方向の最大圧縮状態」とは、ステントが自然解放状態で、これ以上圧縮できない状態まで軸方向に圧縮されることを指す。
【0071】
本願におけるステントの「径方向の支持力」とは、自然解放状態で、ステントを固定した後、直径方向に元の直径の85%まで圧縮するときに必要な力を指す。
【0072】
径方向の支持力とは対照的に、ステントは、血管内膜裂け目を効果的に塞ぐために、高い液体不透過性も必要とする。この特性は、金属被覆率で表すことができる。本開示のステント1は、自然解放状態で、30~60%の金属被覆率を有し得、軸方向の最大圧縮状態で、80%以上の金属被覆率を有し得る。
【0073】
本願におけるステントの「金属被覆率」とは、電子顕微鏡のスキャンによって測定された単位面積当たりの金属被覆率を指す。単位面積当たりの金属被覆率と空隙率との合計は100%であるべきである。
【0074】
図3は、本開示の一変形実施形態を示す図である。本実施形態によれば、本開示のベアステントは、対応する治療部位が腹部大動脈である部分において、左右の総腸骨動脈ステントを受容して固定するための2つの総腸骨動脈ステント固定部を有し得る。図3を参照すると、本実施形態のベアステントが概略的に示されている。図3に示すステント20は、腹部大動脈というセグメントに適用される。ステント20の下部の内部は、隣接する2つの環状通路として配置された総腸骨動脈ステント固定部22を有する。明確に図示するために、図3で当該固定部22を平面として示しているが、実際には当該固定部22は、一定の厚みを有する。いくつかの例では、総腸骨動脈ステント固定部22は、ステント20の下端まで下方に延伸され得る。
【0075】
前記総腸骨動脈ステント固定部22は、ステント20と同じく第1ワイヤ及び第2ワイヤで交織され(第1ワイヤ及び第2ワイヤは図示せず)、ベアステントと一体形成される。2つの環状の外側部分は、ステント20の内壁と一体に交織される。2つの環状通路の内径のサイズは、受容、固定される左右の総腸骨動脈ステントの外径に適応し、通常、総腸骨動脈ステントを固定することができるように、左右の総腸骨動脈ステントの外径より若干小さくなっている。
【0076】
一実施形態によれば、本開示のステントは、異なる直径を有する3本のワイヤで交織され得る。図4に示すように、図4は、本実施形態のステントの単層を部分的に拡大した概略図である。当該ステントは、2種類の第1ワイヤ33a、33b及び1種類の第2ワイヤ34で交織される。ここで、第1ワイヤは、50~100μmの直径を有し得る第1細ワイヤ33a、及び100~150μmの直径を有し得る第2細ワイヤ33bを含み、第2ワイヤは、150~600μmの直径、好ましくは150~400μmの直径を有し得る。本実施形態は、他の変形形態としてもよく、例えば、1種類の第1ワイヤ及び2種類の第2ワイヤ(例えば、直径がそれぞれ150~300μm及び300~600μmの範囲内にある)、又は2種類の第1ワイヤ及び2種類の第2ワイヤからステント(図示せず)を構成してもよいが、これに限定されない。
【0077】
3種類以上の異なる直径のワイヤで形成されたステントは、ステント全体の径方向の支持力をより均一にし、ステントの柔軟性も高めることができる。
【0078】
ステントは、多層、好ましくは2層、3層、又は4層を有し得る。好ましい実施形態によれば、多層のステントは、単層の交織メッシュを折り返し編み方式によって形成されることができる。図5のA~Cに示すように、図5は、2~4層のステント壁の断面図である。図5のAは二層構造であり、図中の上層42は、ステントの内部側に位置し、下層44は、ステントの外部側(即ち、血管壁と接触する側)に位置する。この構造では、心臓近位端41での折り返し編みにより滑らかな縁が形成される。心臓遠位端43で、ステント外部の下層44へ一定距離の折り返し編みを行い、ステント内部の上層42の心臓遠位端に開放されるエッジ(突き出す先端)を下層44の内側に包み込む。これにより、両端とも滑らかな縁が形成される。同様に、図5のBにおける上層52は、心臓近位端51で折り返し編みを行って下層54を形成し、さらに心臓遠位端53で折り返し編みを行って中間層56を形成する。心臓遠位端53で下層54及び中間層56は、上層52より若干長く、それにより、上層の心臓遠位端の開放エッジは、ステントの内部に位置する。このように、ステントの両端も滑らかな縁になる。図5のCにおける4層についても同様であり、ステントの内側寄りの2つの層62、68は、心臓遠位端63において、ステントの外側寄りの2つの層64、66に対して折り返し編みを行って形成されるエッジより短く、心臓近位端61において、最上層62の折り返し編みにより最下層64を形成し、2つの中間層68及び66を中間に包み込む。変形形態として、最上層62又は中間層68の心臓遠位端で短い距離で折り返して編んで、該層の開放エッジを中間に包むことができる。このように、ステントの両端とも完全に滑らかな縁である。
【0079】
本開示のステントは、多層の形態であることが好ましく、このように、ステントの両端(特に、心臓近位端)が滑らかな縁を形成し、織物の開放エッジによる血管への二次損傷を回避することができる。
【0080】
以上、本開示のステントについて例示的に詳細に説明したが、上記の例は、本開示の範囲を限定するものではなく、本開示のステントの利点を説明するためのものであり、例における特徴は、適切な場合、個別に又は組み合わせて、他の例のステントに適用され得ることを当業者は理解すべきである。本明細書の開示に基づいて、当業者が前記ステントに対して行った明らかな変形及び修正も、本開示の構想に適合する限り、本開示の範囲内に含まれる。
【0081】
本開示のステントは、ステント送達システムによって、対応する血管部位に留置され得る。本開示のステントを送達するために使用可能なステント送達システムは、通常の大動脈ステントを留置する外径、例えば、5~10cm、好ましくは5~7cmを有する。本開示の上述のステントは、送達構成で前記システムに組み込まれ、且つ前記ステントの両端とも束縛され、ステントの他の部分が解放されてからのみ束縛を解除し、それにより、ステントが完全に解放される。
【0082】
図6を参照すると、図6は、本開示によるステント送達システム100の概略図である。送達カテーテル120は、縦軸X-Xに沿って外側から内側へ同軸に順次配置された外側チューブ130、内側チューブ140、及びプッシュロッド170を備える。送達カテーテル120は、心臓遠位端123及び心臓近位端122を有する。送達カテーテル120はさらに、止血弁125を有する。外側チューブ130は、心臓近位端180及び心臓遠位端190を有し、第1中空キャビティ133は、外側チューブ130全体にわたって貫通する。内側チューブ140は、その心臓遠位端190の第1中空キャビティ133内に、縦軸X-Xに沿って外側チューブ130と同軸に配置され、第2中空キャビティ143を有する。プッシュロッド170は、延伸して外側チューブ130の第1中空キャビティ133を貫通し、内側チューブ140の第2中空キャビティ143を貫通して外側チューブの心臓遠位端縁135の外側まで延伸する。プッシュロッド170は、ガイドワイヤが貫通するための第3中空キャビティ(図示せず)を有し得る。
【0083】
外側チューブ130の心臓近位端180において、ステント150は、プッシュロッド170と外側チューブ130との間の第1中空キャビティ133内に、送達構造形態で解放可能に保持される。第1束縛部材161は、ステント150の心臓近位端154をプッシュロッド170の心臓近位端へ束縛する。当該第1束縛部材161は、通常のストッパであり得、ステント150の心臓近位端154が解放されるように、必要に応じてステント150から取り外すことができる。第2束縛部材162は、ステント150の心臓遠位端156を内側チューブ140の心臓近位端へ束縛する。同様に、当該第2束縛部材162は、通常のストッパであり得、ステント150の心臓遠位端156が解放されるように、必要に応じてステント150から取り外すことができる。
【0084】
本実施形態の送達システム100によれば、外側チューブ130の心臓近位端131は、送達カテーテル120の心臓近位端122と分離しても良く、プッシュロッド170を心臓近位端に向かって押すか、又は外側チューブ130を心臓遠位端に向かって引っ張ることにより、外側チューブ130は、内側チューブ140及びプッシュロッド170を互いに相対移動させることができる。
【0085】
図6に示すシステム100は、プッシュロッド170を心臓近位端122に向かって押すことにより、送達カテーテル120の心臓近位端122が、それ自体に固定的に接続されたプッシュロッド170と、プッシュロッド170の端部に束縛されたステント150と、ステントの心臓遠位端に束縛された内側チューブを連れて、外側チューブ130に対して心臓近位端に向かって移動させる。このようにして、ステント150は、その心臓近位端154から解放される。
【0086】
図7を参照すると、図7は、本開示のステント送達システムを使用して大動脈内膜裂け目にステントを留置する概略図である。図7のAには、血管内膜裂け目93を含む大動脈血管91の一部が概略的に示され、当該裂け目93により内膜が裂けて偽腔92が形成される。本開示のステント送達システム100が裂け目93へ引き入れられ、外側チューブ130の位置を変えずに、プッシュロッドを矢印で示す方向に押すことによって、ステントセグメント151が解放されている。さらに、図7のBを参照すると、内側、外側チューブの位置を変えないように保持し、プッシュロッドを図中矢印で示す方向に引き戻し、解放されたステントセグメント151を逆方向に圧縮し、最終的に血管内膜の裂け目93が位置する血管領域に当接して、圧縮セグメント151’を形成する。ステントを設計する際には、通常、ステントの直径は、留置部位の血管直径より若干大きく設計されているため、圧縮セグメント151’は、当該セグメントの血管内壁に緊密に当着して裂け目93を塞ぎ、当該セグメントの血管真腔を拡張する。血管壁の内側への収縮力により、圧縮セグメント151’は、当該圧縮された形状で当該血管内に保持される。
【0087】
次に、図7のCに示すように、図中矢印で示す方向に外側チューブ130を心臓遠位端に引っ張る(内側チューブ140及びプッシュロッド170が動かさないように保持する)ことにより、残りのステントセグメント152をさらに解放する。最後に、ステントが完全に解放されてから、ストッパによるステント両端の束縛を解除し、それにより、ステント150全体を治療部位に解放し、血管から送達カテーテルを引き抜く(図7のDを参照)。病変部位に留置されたステント150には、圧縮セグメント151’と自然解放セグメント152の2つのセグメントがある。このうち、圧縮セグメント151’は、裂け目93を塞ぐ作用及び血管に対する強い径方向支持作用を発揮し、自然解放セグメント152は、血管の他の部分に対して適切な支持作用を発揮し、血液の流れを阻害せず、特に分岐血管への血液の流れを阻害しない。
【0088】
本開示によれば、ステントセグメント151を解放した後(即ち、図7のAに示す状態)、ステントの位置を確認することができるため、圧縮後の当該セグメントが裂け目93を正確に塞ぐことができる。位置が理想的でない場合は、調整を行うことができ、解放されたセグメント151を再度外側チューブ内に戻し、送達システムの位置を調整してから再度解放することができる。
【0089】
同様に、最適な留置効果のために、どのセグメントが解放された後もステントの位置を確認することができる。最後に、ステント両端の束縛を解除する前に、ステントの位置を再度確認し、このとき、位置が理想的でない場合、さらにステントを戻して再度解放することができる。ステント両端の束縛を解除した後、ステントの位置は調整できなくなる。
【0090】
また、ステントの他のセグメントの圧縮方式は、図4のBに示すのと同様の方式である。例えば、ステントの前部が解放され、血管壁に当接した後、ステントの一部を解放し続ける。後続に解放されるステントの末端は、外側チューブに束縛されるため、プッシュロッドを動かさないように保持し、外側チューブと内側チューブを心臓近位端に同時に移動させることができ、これにより、新たに解放されてまだ血管壁に当接していないステントの一部が圧縮され、血管壁に当接し、高い金属被覆率と高い径方向の支持力のセグメントが形成される。
【0091】
本開示のステント送達システムの詳細な方案、及びこのシステムを使用してステントを血管内に留置する方法が、上記の例を通して示されている。当業者は、上記の内容に基づいて、本開示の精神から逸脱することなく、実際の応用ニーズに適応する変形及び修正を容易に行うことができ、これらの変形及び修正も本開示の範囲内に含まれる。
【0092】
実施例
本実施例は、図1に示すような構造を有するベアステントを提供し、当該ステントは、下行大動脈の領域に使用される。前記ベアステントは、ニッケルチタン合金材料を採用し、54本の直径100μmの第1ワイヤと12本の直径400μmの第2ワイヤを交織して形成される。当該ベアステントは、折り返し編み方式によって2層に交織される。折り返し編み方式は、図5のAに示す通りであり、心臓近位端は、折り返し編みで得られる滑らかな端であり、心臓遠位端は、2層の突き出す先端であり、外側の突き出す先端に対して部分的に折り返し編みを行い、内側の突き出す先端を折り返し編みでできたセグメントの内部に配置し、突き出す先端の露出による血管壁の損傷を防ぐ。
【0093】
前記ベアステントは、円錐形であり、心臓近位端の直径は、45mmであり、心臓遠位端の直径は、32mmであり、長さは、8cmである。当該ステントが血管内で解放された後に固定された長さは、24cmに達する。
【0094】
走査型電子顕微鏡で測定した結果、本実施例のステントの自然状態での金属被覆率は40%であり、軸方向の最大圧縮後の金属被覆率は約90%である。径方向の支持力測定器で測定した結果として、本実施例のステントの自然状態での太い部分の径方向の支持力は、350Nであり、軸方向の最大圧縮後の各部分の径方向の支持力は、いずれも400Nより大きく、さらには600Nより大きい。
【0095】
また、弓部大動脈に固定されたステントの軸方向に曲がった時の力を受ける状況をシミュレートするために、測定したステントの径方向の直線化力は、0.4~1.0Nである。
【0096】
上記の説明は、単なる本開示の具体的な実施例の一部に過ぎず、本開示の特許範囲を限定することを意図するものではなく、本開示の技術的構想の下で、本開示の明細書及び図面内容を使用することによって行われる等価構造変換、又はその他の関連技術分野に直接/間接的に適用することは、本開示の特許保護の範囲内に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7