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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
H01G4/30 201D
H01G4/30 201C
H01G4/30 311D
H01G4/30 513
H01G4/30 516
H01G4/30 517
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023014149
(22)【出願日】2023-02-01
(62)【分割の表示】P 2018031512の分割
【原出願日】2018-02-26
(65)【公開番号】P2023052831
(43)【公開日】2023-04-12
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧野 由
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-058718(JP,A)
【文献】特開2014-007187(JP,A)
【文献】特開2016-033850(JP,A)
【文献】特開2010-87434(JP,A)
【文献】特開2002-245874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/00-4/224
H01G 4/255-4/40
H01G 13/00-13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックを主成分とする誘電体層と、金属を主成分とする内部電極層と、が交互に積層された積層構造を備え、
前記内部電極層の少なくとも一部において、前記内部電極層の算術平均粗さRaは28nm以下であり、
前記内部電極層の少なくとも一部において、前記内部電極層の最大高さRzは357nm以下であ
前記内部電極層は、平均粒径が15nm以下で粒径の標準偏差が5以下のセラミック粒子を含む、
ことを特徴とする積層セラミックコンデンサ。
【請求項2】
前記内部電極層の少なくとも一部において、前記内部電極層の算術平均粗さRaは25nm以下であり、
前記内部電極層の少なくとも一部において、前記内部電極層の最大高さRzは150nm以下である、
ことを特徴とする請求項1記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項3】
前記内部電極層の主成分金属は、ニッケルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項4】
前記誘電体層の主成分セラミックは、チタン酸バリウムであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項5】
前記内部電極層の厚さは、0.5μm以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項6】
前記内部電極層は、平均粒径が10nm以下で粒径の標準偏差が3以下のセラミック粒子を含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項7】
前記内部電極層は、平均粒径が8.6nm以下で粒径の標準偏差が2.7以下のセラミック粒子を含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンや携帯電話などの電子機器の小型化に伴い、搭載される電子部品の小型化が急速に進んでいる。例えば、積層セラミックコンデンサにおいては、所定の特性を確保しつつ、チップサイズを小さくするために、誘電体層及び内部電極層の薄層化が求められている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-57098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、内部電極層の金属と誘電体層のセラミックとの焼結開始温度が異なることに起因して、焼結後の内部電極層の連続率が低下する。このため、収縮遅延効果をもたらすために、内部電極層にセラミックの共材を添加することが知られている。しかしながら、内部電極層を薄層化すると、共材が誘電体層側に吐き出されやすくなる。これにより、内部電極層の表面粗さが悪化し、誘電体層と内部電極層との積層方向において、内部電極層の厚みにばらつきが生じる。内部電極層の厚みにばらつきが生じると、内部電極層が薄い箇所において、内部電極層と誘電体層との界面に液相が凝集しやすくなり、信頼性の悪化が起こりやすくなる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、信頼性の悪化を抑制することができる積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る積層セラミックコンデンサは、セラミックを主成分とする誘電体層と、金属を主成分とする内部電極層と、が交互に積層された積層構造を備え、前記内部電極層の少なくとも一部において、前記内部電極層の算術平均粗さRaは28nm以下であり、前記内部電極層の少なくとも一部において、前記内部電極層の最大高さRzは357nm以下であ前記内部電極層は、平均粒径が15nm以下で粒径の標準偏差が5以下のセラミック粒子を含む、ことを特徴とする。

【0007】
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記内部電極層の少なくとも一部において、前記内部電極層の算術平均粗さRaは25nm以下であり、前記内部電極層の少なくとも一部において、前記内部電極層の最大高さRzは150nm以下である、としてもよい。
【0008】
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記内部電極層の主成分金属をニッケルとしてもよい。
【0009】
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記誘電体層の主成分セラミックをチタン酸バリウムとしてもよい。
【0010】
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記内部電極層の厚さを0.5μm以下としてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、信頼性の悪化を抑制することができる積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
図2図2は、積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
図3図3は、実施例および比較例における内部電極形成用導電ペーストの主成分金属及び共材の平均粒径、標準偏差、累積粒度分布傾きと、共材の添加量を示す図である。
図4図4(a)~図4(d)は、誘電体層と内部電極層との積層方向における断面のSEM写真を描いた図である。
図5図5は、実施例及び比較例における内部電極層の算術平均粗さRa及び最大高さRzと、積層セラミックコンデンサの容量、絶縁破壊電圧(BDV)、及び高温加速寿命(HALT)とを示す図である。
図6図6(a)~図6(d)は、比較例8における脱バインダ処理後から緻密化後までの誘電体層及び内部電極層の状態を示す図である。
図7図7(a)~図7(d)は、比較例3における脱バインダ処理後から緻密化後までの誘電体層及び内部電極層の状態を示す図である。
図8図8(a)~図8(d)は、実施例3における脱バインダ処理後から緻密化後までの誘電体層及び内部電極層の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0014】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。図1で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0015】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を主成分とする誘電体層11と、卑金属材料等の金属材料主成分とする内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0016】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.2mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ1.6mm、幅0.8mm、高さ0.8mmであり、または長さ2.0mm、幅1.25mm、高さ1.25mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0017】
内部電極層12は、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12として、Pt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を主成分として用いてもよい。内部電極層12の平均厚さは、例えば、0.5μm以下であり、0.3μm以下とすることが好ましい。誘電体層11は、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO(チタン酸バリウム),CaZrO(ジルコン酸カルシウム),CaTiO(チタン酸カルシウム),SrTiO(チタン酸ストロンチウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaSrTi1-zZr(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等を用いることができる。誘電体層11の厚みは、例えば、0.8μm以下である。
【0018】
積層セラミックコンデンサ100の小型大容量化のために、誘電体層11および内部電極層12の薄層化が求められている。内部電極層12の金属と誘電体層11のセラミックとの焼結開始温度が異なることに起因して、焼結後の内部電極層の連続率が低下するという課題がある。このため、収縮遅延効果をもたらすために、内部電極層12にセラミックの共材を添加することが知られている。しかしながら、内部電極層12が薄くなると、共材が誘電体層11側に放出されやすくなり、内部電極層12の表面粗さが悪化する。この結果、誘電体層11と内部電極層12との積層方向において、内部電極層12の厚みがばらつく。内部電極層12の厚みがばらつくと、内部電極層12が薄い箇所において、内部電極層12と誘電体層11との界面に液相が凝集しやすくなり、信頼性の悪化が起こりやすくなる。
【0019】
そこで、本実施形態においては、内部電極層12の表面粗さを小さくする。具体的には、内部電極層12の算術平均粗さRaを30nm以下とし、内部電極層12の最大高さRzを360nm以下とする。ここで、算術平均粗さRa及び最大高さRzはJIS B 0601:2013で規定されているものをいう。算術平均粗さRaは、25nm以下とすることが好ましい。最大高さRzは、150nm以下とすることが好ましい。この構成では、内部電極層12の厚みのばらつきが少なくなり、更に、内部電極層12の連続率が高くなる。これにより、液相が誘電体層11と内部電極層12との界面に凝集することが抑制されるため、信頼性の悪化が抑制され、所定の特性を得ることが可能となる。内部電極層12の平均厚みが0.5μm以下であると、共材が誘電体層11に吐き出されやすくなるため、本構成は内部電極層12の平均厚みが0.5μm以下である場合に効果的である。
【0020】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。図2は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0021】
(原料粉末作製工程)
まず、図2で例示するように、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABOの粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、BaTiOは、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiOは、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11を構成するセラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0022】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Mn(マンガン),V(バナジウム),Cr(クロム),希土類元素(Y(イットリウム), Sm(サマリウム),Eu(ユウロピウム),Gd(ガドリニウム),Tb(テルビウム),Dy(ジスプロシウム), Ho(ホロミウム), Er(エルビウム),Tm(ツリウム)およびYb(イッテルビウム))の酸化物、並びに、Co(コバルト),Ni(ニッケル),Li(リチウム),B(ホウ素),Na(ナトリウム),K(カリウム)およびSi(シリコン)の酸化物もしくはガラスが挙げられる。
【0023】
本実施形態においては、好ましくは、まず誘電体層11を構成するセラミックの粒子に添加化合物を含む化合物を混合して820~1150℃で仮焼を行う。続いて、得られたセラミック粒子を添加化合物とともに湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック粉末を調製する。例えば、セラミック粉末の平均粒径は、誘電体層11の薄層化の観点から、好ましくは50~300nmである。例えば、上記のようにして得られたセラミック粉末について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。
【0024】
(積層工程)
次に、得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み0.8μm以下の帯状の誘電体グリーンシートを塗工して乾燥させる。
【0025】
次に、誘電体グリーンシートの表面に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、極性の異なる一対の外部電極に交互に引き出される内部電極層パターンを配置する。金属導電ペーストの金属材料には、例えば、平均粒径が100nm以下のものを用いる。また、粒径の標準偏差は、15以下とする。これにより、シャープな粒度分布が得られる。平均粒径は、100nm以下であることが好ましく、70nm以下であることがより好ましい。また、最大粒径は140nm以下であることが好ましい。140nmよりも大きい粒径を有する金属材料が混入すると、粒径が大きいために内部電極層12の表面粗さが悪化するからである。粒径の標準偏差は、15以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましい。また、累積粒度分布の傾きは、8以上であることが好ましい。なお、累積粒度分布の傾きは、累積粒度分布を対数プロットしD20とD80間の傾き(=1/(logD80-logD20))と定義することができる。
【0026】
また、金属導電ペーストには、共材としてセラミック粒子を添加する。セラミック粒子の主成分セラミックは、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。例えば、チタン酸バリウムを均一に分散させてもよい。共材には、例えば平均粒径が10nm以下のものを用いる。また、粒径の標準偏差は、5以下とする。これにより、シャープな粒度分布が得られる。平均粒径は、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。粒径の標準偏差は、5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。また、累積粒度分布の傾きは、7以上であることが好ましい。なお、累積粒度分布の傾きは、累積粒度分布を対数プロットしD20とD80間の傾き(=1/(logD80-logD20))と定義することができる。さらに、共材の添加量は、金属材料100重量部に対する部数を2.5以上25以下とすることが好ましく、5以上20以下とすることがより好ましい。共材の添加量が5部未満であると共材の量の不足によって内部電極層12の連続率が低下し、算術平均粗さRa及び最大高さRzが悪化するからである。反対に、共材の添加量が20部よりも大きいと、共材の量が多すぎて内部電極層12の連続率が低下し、算術平均粗さRa及び最大高さRzが悪化するからである。
【0027】
その後、内部電極層パターンが印刷された誘電体グリーンシートを所定の大きさに打ち抜いて、打ち抜かれた誘電体グリーンシートを、基材を剥離した状態で、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極20a,20bに交互に引き出されるように、所定層数(例えば100~500層)だけ積層する。積層した誘電体グリーンシートの上下にカバー層13となるカバーシートを圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットし、その後に外部電極20a,20bの下地層となる金属導電ペーストを、カットした積層体の両端面にディップ法等で塗布して乾燥させる。これにより、積層セラミックコンデンサ100の成型体が得られる。
【0028】
(焼成工程)
このようにして得られた成型体を、250~500℃のN雰囲気中で脱バインダ処理した後に、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成することで、各化合物が焼結して粒成長する(緻密化する)。このようにして、積層セラミックコンデンサ100が得られる。なお、焼成条件を調整することで、内部電極層12に残存する共材の残存量を調整することができる。具体的には、焼成工程において昇温速度を大きくすることで、共材が金属導電ペーストから吐き出される前に主成分金属が焼結するため、共材が内部電極層12に残存しやすくなる。例えば、内部電極層12における共材の残存量を多くする観点から、焼成工程において室温から最高温度までの平均昇温速度は、30℃/分以上とすることが好ましく、45℃/分以上とすることがより好ましい。なお、平均昇温速度が大きすぎると、成型体に残留する有機成分の排出が十分に行われず、焼成工程中にクラックが発生するなどの不具合が生じるおそれがある。あるいは、成型体の焼結に内外差が発生することで緻密化が不十分となり、静電容量が低下するなどの不具合が生じるおそれがある。そこで、平均昇温速度を、80℃/分以下とすることが好ましく、65℃/分以下とすることがより好ましい。
【0029】
(再酸化処理工程)
その後、Nガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
(めっき処理工程)
その後、めっき処理により、外部電極20a,20bの下地層に、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行う。
【0030】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法によれば、内部電極層12を構成する主成分金属および共材として粒度分布のシャープな小径材料を用いることで、高分散な金属導電ペーストが作製される。また、部分的に大きい材料が混入することが抑制される。このような金属導電ペーストを用いることで、焼結過程において誘電体層11への共材の拡散が抑制され、内部電極層12の算術平均粗さRa及び最大高さRzの悪化が抑制される。具体的には、平均粒径が100nm以下で粒度分布の標準偏差が1.5以下の金属粉末を主成分金属として用い、平均粒径が10nm未満で粒度分布の標準偏差が5以下のセラミック粉末を共材として用いる。さらに、金属粉末100重量部に対する共材の部数を2.5以上25以下とする。
【0031】
内部電極層12の算術平均粗さRa及び最大高さRzの悪化が抑制されると、誘電体層11への共材の拡散が抑制され、内部電極層12の連続率が高く、内部電極層12の厚みにばらつきが少ない積層セラミックコンデンサ100が得られる。これにより、液相が誘電体層11と内部電極層12との界面に凝集することが抑制されるため、信頼性の悪化が抑制され、所定の特性を得ることが可能となる。
【実施例
【0032】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0033】
(実施例1~5)
平均粒径が100nm(比表面積10m/g)のチタン酸バリウム粉末に必要な添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕して誘電体材料を得た。誘電体材料に有機バインダおよび溶剤を加えてドクターブレード法にて誘電体グリーンシートを作製した。誘電体グリーンシートの塗工厚みを0.8μmとし、有機バインダとしてポリビニルブチラール(PVB)等を用い、溶剤としてエタノール、トルエン酸等を加えた。その他、可塑剤などを加えた。
【0034】
次に、内部電極層12の主成分金属(Ni)の粉末(Ni固形分で50wt%)と、共材(チタン酸バリウム)と、バインダ(エチルセルロース)を5部と、溶剤と、必要に応じてその他助剤とを含んでいる内部電極形成用導電ペーストを遊星ボールミルで作製した。図3に示すように、主成分金属の粉末には、平均粒径が70nm(比表面積10m/g)、粒径の標準偏差が12、累積粒度分布の傾きが8のものを用いた。共材には、平均粒径が8.6nm、粒径の標準偏差が2.7、累積粒度分布の傾きが7のものを用いた。共材の添加量は、主成分金属100重量部に対する部数を、実施例1では2.5部、実施例2では5部、実施例3では10部、実施例4では20部、実施例5では25部とした。
【0035】
誘電体シートに内部電極形成用導電ペーストをスクリーン印刷した。内部電極形成用導電ペーストを印刷したシートを250枚重ね、その上下にカバーシートをそれぞれ積層した。その後、熱圧着によりセラミック積層体を得て、所定の形状に切断した。
【0036】
得られたセラミック積層体をN雰囲気中で脱バインダした後に、セラミック積層体の両端面から各側面にかけて、Niを主成分とする金属フィラー、共材、バインダ、溶剤などを含む金属ペーストを塗布し、乾燥させた。その後、還元雰囲気中で1100℃~1300℃で10分~2時間、金属ペーストをセラミック積層体と同時に焼成して焼結体を得た。室温から最高温度までの平均昇温速度は、実施例1~5のいずれにおいても55℃/分とした。
【0037】
得られた焼結体の形状寸法は、長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであった。焼結体をN雰囲気下800℃の条件で再酸化処理を行った後、メッキ処理して下地層21の表面にCuめっき層22、Niめっき層23およびSnめっき層24を形成し、積層セラミックコンデンサ100を得た。積層セラミックコンデンサ100における内部電極層12の平均厚みは、0.3μmであった。
【0038】
(比較例1~10)
比較例1~5においては、図3に示すように、内部電極形成用導電ペーストの主成分金属(Ni)の粉末に、平均粒径が70nm、粒径の標準偏差が12、累積粒度分布の傾きが8のものを用いた。共材には、平均粒径が29nm、粒径の標準偏差が8.7、累積粒度分布の傾きが5のものを用いた。また、共材の添加量は、比較例1では2.5部、比較例2では5部、比較例3では10部、比較例4では20部、比較例5では25部とした。
【0039】
比較例6~10においては、図3に示すように、内部電極形成用導電ペーストの主成分金属(Ni)の粉末に、平均粒径が120nm、粒径の標準偏差が33、累積粒度分布の傾きが6のものを用いた。共材には、平均粒径が29nm、粒径の標準偏差が8.7、累積粒度分布の傾きが5のものを用いた。また、共材の添加量は、比較例6では2.5部、比較例7では5部、比較例8では10部、比較例9では20部、比較例10では25部とした。その他の条件は、実施例1~5と同様とした。
【0040】
(分析)
図4(a)~図4(d)は、長さ方向、幅方向、及び高さ方向における中央付近での誘電体層11と内部電極層12との積層方向における断面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を描いた図である。図4(a)は、セラミック積層体を900℃で焼成した場合の比較例3のSEM写真であり、図4(b)は、セラミック積層体を1250℃で焼成した場合の比較例3のSEM写真である。図4(c)は、セラミック積層体を900℃で焼成した場合の実施例3のSEM写真であり、図4(d)は、セラミック積層体を1250℃で焼成した場合の実施例3のSEM写真である。図4(b)及び図4(d)の結果から、誘電体層11と内部電極層12との積層方向における内部電極層12の算術平均粗さRa及び最大高さRzを計測した。なお、内部電極層12が途切れた箇所102では、内部電極層12の積層方向での高さを最大高さRzとした。
【0041】
図5で示すように、算術平均粗さRa及び最大高さRzは、実施例1ではそれぞれ28[nm]、357[nm]であり、実施例2ではそれぞれ25[nm]、148[nm]であり、実施例3ではそれぞれ22[nm]、134[nm]であり、実施例4ではそれぞれ21[nm]、122[nm]であり、実施例5ではそれぞれ27[nm]、327[nm]であることを確認した。また、算術平均粗さRa及び最大高さRzは、比較例1ではそれぞれ37[nm]、612[nm]であり、比較例2ではそれぞれ32[nm]、554[nm]、比較例3では32[nm]、542[nm]であり、比較例4ではそれぞれ31[nm]、533[nm]であり、比較例5ではそれぞれ36[nm]、587[nm]であり、比較例6ではそれぞれ46[nm]、775[nm]であり、比較例7ではそれぞれ42[nm]、712[nm]であり、比較例8ではそれぞれ41[nm]、720[nm]であり、比較例9ではそれぞれ41[nm]、713[nm]であり、比較例10ではそれぞれ43[nm]、743[nm]であることを確認した。
【0042】
比較例6~10よりも、比較例1~5の方が、内部電極層12の算術平均粗さRa及び最大高さRzが良く、比較例1~5よりも、実施例1~5の方が内部電極層12の算術平均粗さRa及び最大高さRzが良い理由は、以下のように考えられる。
【0043】
例えば、比較例8では、主成分金属(Ni)の平均粒径が120nmであるため、脱バインダ処理後において、図6(a)に示すように、主成分金属の粒子P12間の空隙などに共材CM1が存在しやすく、共材CM1の一部は凝集する。焼成工程において温度が800℃程度になると、図6(b)に示すように、主成分金属の粒子P12間から共材CM1が誘電体層11側に拡散し、内部電極層12の表面粗さが悪化する。この場合、温度900℃~1000℃における液相拡散時に、図6(c)に示すように、内部電極層12の表面粗さが悪い箇所(空隙)に液相101が溜まりやすくなる。そして、温度が更に上昇して最高温度(例えば、1250℃)となると、図6(d)に示すように、液相凝集が更に起こり、内部電極層12の表面粗さが更に悪化すると考えられる。
【0044】
また、例えば、比較例3では、主成分金属(Ni)の平均粒子径が比較例8よりも小さい(70nm)ため、図7(a)に示すように、空隙は少ないが、やはり共材CM1が空隙に存在し、一部は凝集する。そして、焼成工程において温度が800℃程度になると、主成分金属の平均粒径が小さいため主成分金属の粒子P12間の隙間は小さいものの、図7(b)に示すように、凝集した共材CM1が拡散して、内部電極層12の表面粗さが悪化する。そして、温度900℃~1000℃における液相拡散時に、図7(c)に示すように、内部電極層12の表面粗さが悪い箇所(空隙)に液相101が溜まりやすくなる。そして、更に焼成温度が上昇して最高温度(例えば、1250℃)となると、図7(d)に示すように、液相凝集が更に起こり、内部電極層12の表面粗さが更に悪化すると考えられる。
【0045】
一方、例えば、実施例3では、主成分金属および共材として粒度分布のシャープな小径材料を用いることで、高分散な金属導電ペーストが作製されるため、図8(a)に示すように、共材CM1が主成分金属の粒子P12間に均一に存在する。そして、共材CM1が高分散及び小径であるため、主成分金属との相互作用が強く、焼成工程において温度が800℃程度になっても、図8(b)に示すように、共材拡散が抑制され、内部電極層12の表面粗さの悪化が抑制される。さらに、温度900℃~1000℃では、図8(c)に示すように、液相101は誘電体層11の内部や誘電体層11と内部電極層12との界面に比較的均一に凝集する。このため、図8(d)に示すように、温度が最高温度に達した後も、内部電極層12は表面粗さを維持することができると考えられる。
【0046】
また、実施例1及び5よりも実施例2~4の方が、内部電極層12の算術平均粗さRa及び最大高さRzが良い理由は以下のように考えられる。共材の添加量が5部未満であると共材の量の不足によって内部電極層12の連続率が低下し、算術平均粗さRa及び最大高さRzが悪化する。反対に、共材の添加量が20部よりも大きいと、共材の量が多すぎて内部電極層12の連続率が低下し、算術平均粗さRa及び最大高さRzが悪化する。
【0047】
次に、実施例及び比較例に係る積層セラミックコンデンサ100について、容量、絶縁破壊電圧(BDV)、及び高温加速寿命(HALT)の評価を行った。図5に、容量、絶縁破壊電圧(BDV)、及び高温加速寿命(HALT)の評価結果を示す。なお、BDVは、10V/秒の速度でDC電圧を印加することにより測定した。また、HALTは、125℃-10Vで測定した。
【0048】
図5において、容量が19[μF]以上、BDVが38[V]以上、かつ、HALTが300[min]以上を合格基準とすると、実施例1~5はいずれも合格基準を満たしているが、比較例1~10は、合格基準を満たさないことがわかる。これは、実施例1~5では、内部電極層12の算術平均粗さRaが30nm以下かつ最大高さRzが360nm以下となり、比較例1~10では内部電極層12の算術平均粗さRaが30nm以下かつ最大高さRzが360nm以下とならなかったからである。
【0049】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 積層チップ
11 誘電体層
12 内部電極層
13 カバー層
20a,20b 外部電極
100 積層セラミックコンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8