(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】着磁装置
(51)【国際特許分類】
H02K 15/03 20060101AFI20241024BHJP
H01F 13/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
H02K15/03 H
H01F13/00 300
(21)【出願番号】P 2023027108
(22)【出願日】2023-02-24
【審査請求日】2023-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】加藤 稔貴
(72)【発明者】
【氏名】根本 真次
(72)【発明者】
【氏名】平良 斗輝生
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-117144(JP,A)
【文献】特開2012-195663(JP,A)
【文献】特開2011-139091(JP,A)
【文献】特開2014-72223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/03
H01F 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に配置された複数の磁性体を有するロータに磁界を印加することで、複数の前記磁性体を着磁する着磁装置であって、
前記磁界を発生する少なくとも1つのコイルユニットを備え、
前記コイルユニットは、
支持体と、
前記支持体の外周面に巻回されるコイルと、
前記コイルの中心軸線から離れる方向への前記コイルの変形を阻止するように前記コイルに巻かれている繊維強化樹脂と、
を有する、着磁装置。
【請求項2】
請求項1記載の着磁装置において、
前記支持体は、矩形状であり、第1側面と、前記第1側面に連結する第2側面と、前記第1側面と向かい合い且つ前記第2側面に連結する第3側面と、前記第2側面と向かい合い且つ前記第1側面及び前記第3側面に連結する第4側面とを有し、
前記コイルは、
前記第1側面に沿って延びる第1コイル辺と、
前記第1コイル辺に連結され、前記第2側面に沿って延びる第2コイル辺と、
前記第2コイル辺に連結され、前記第3側面に沿って延びる第3コイル辺と、
前記第1コイル辺と前記第3コイル辺とに連結され、前記第4側面に沿って延びる第4コイル辺と、
を有し、
前記繊維強化樹脂は、
前記第1コイル辺と前記第3コイル辺とを掛け渡すように前記支持体及び前記コイルに巻回される第1帯状体と、
前記第2コイル辺と前記第4コイル辺とを掛け渡すように前記支持体及び前記コイルに巻回される第2帯状体とを有する、着磁装置。
【請求項3】
請求項2記載の着磁装置において、
前記第1帯状体は、前記コイルの中心軸線と交差し、且つ、前記第1コイル辺の中央部と前記第3コイル辺の中央部とを掛け渡すように前記支持体及び前記コイルに巻回され、
前記第2帯状体は、前記コイルの中心軸線と交差し、且つ、前記第2コイル辺の中央部と前記第4コイル辺の中央部とを掛け渡すように前記支持体及び前記コイルに巻回される、着磁装置。
【請求項4】
請求項2記載の着磁装置において、
前記第1帯状体を構成する繊維の方向は、前記支持体及び前記コイルに対する前記第1帯状体の巻回方向と同じ方向であり、
前記第2帯状体を構成する繊維の方向は、前記支持体及び前記コイルに対する前記第2帯状体の巻回方向と同じ方向である、着磁装置。
【請求項5】
請求項2記載の着磁装置において、
前記コイルユニットでは、前記第1コイル辺と前記第3コイル辺とは、前記ロータの軸方向に沿って延びると共に、前記ロータの径方向に互いに離間している、着磁装置。
【請求項6】
請求項1記載の着磁装置において、
前記繊維強化樹脂は、炭素繊維強化樹脂である、着磁装置。
【請求項7】
請求項6記載の着磁装置において、
前記炭素繊維強化樹脂は、テンションをかけた状態で前記コイルに巻かれている、着磁装置。
【請求項8】
請求項1記載の着磁装置において、
前記繊維強化樹脂は、前記コイルを介して前記支持体に巻かれている、着磁装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の着磁装置において、
前記コイルユニットは、前記支持体、前記コイル及び前記繊維強化樹脂を覆う樹脂製の被覆部をさらに有する、着磁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着磁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低炭素社会又は脱炭素社会の実現に向けた取り組みが活発化している。車両においても、CO2排出量の削減及びエネルギー効率の改善のために、電動化技術に関する研究開発が行われている。このため、温室効果ガスを排出せず、環境性能に優れた電気自動車に注目が集まっている。電気自動車には、駆動源として、高出力なモータが搭載される。また、航空機及び作業用機器についても電動化が進められており、汎用機器の分野でも、エンジンからモータへの置き換えが進められている。
【0003】
モータの中でも、ロータに永久磁石を有するPMモータは、効率に優れ環境性能が高いとされる。このようなモータに用いられるロータは、製造工程の最終段階で永久磁石を磁化させる着磁工程を有する。例えば、特許文献1は、ロータに配列された多極の永久磁石に対する着磁装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
着磁装置は、コイルを備える。着磁工程では、コイルに電流を流してコイルの周囲に磁界を発生させ、該磁界によって磁性体を着磁させる。このときに、コイルの中心軸線を挟んで向かい合う一方のコイル辺から生じる磁界と、他方のコイル辺を流れる電流とによって、該他方のコイル辺には電磁力が作用する。これにより、コイルが電磁力によって変形する。コイルの変形によって磁界が変動すると、磁性体を適切に着磁することが難しくなる。
【0006】
本発明は、上記した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様は、周方向に配置された複数の磁性体を有するロータに磁界を印加することで、複数の前記磁性体を着磁する着磁装置であって、前記着磁装置は、前記磁界を発生する少なくとも1つのコイルユニットを備え、前記コイルユニットは、支持体と、前記支持体の外周面に巻回されるコイルと、前記コイルの中心軸線から離れる方向への前記コイルの変形を阻止するように前記コイルに巻かれている繊維強化樹脂と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、支持体の外周面にコイルが巻回されると共に、コイルの中心軸線から離れる方向へのコイルの変形を阻止するようにコイルに繊維強化樹脂が巻かれている。これにより、コイルに電流を流して磁界が発生したときに、電流及び磁界による電磁力によってコイルが変形することを防止することができる。この結果、コイルユニットの耐久性を向上させることが可能となる。また、繊維強化樹脂であるため、磁界に影響を及ぼすことなく、コイルの変形を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る着磁装置の斜視図である。
【
図7】
図7は、変形例でのコイルユニットの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本実施形態に係る着磁装置10の斜視図である。
【0011】
本実施形態に係る着磁装置10は、保持ユニット12と、複数のコイルユニット14とを備える。
【0012】
保持ユニット12は、保持部材16と、ロータ固定部18と、コイル固定部20とを有する。
【0013】
保持部材16は、円柱状の部材である。保持部材16の上面22は、平坦な載置面24である。ロータ固定部18及びコイル固定部20は、載置面24に設けられている。
【0014】
ロータ固定部18は、載置面24の中央部に設けられている。
図4に示すように、ロータ固定部18は、凹部26と固定ピン28とを有する。凹部26は、載置面24から保持部材16の軸方向に窪む円形の凹部である。固定ピン28は、凹部26の中央部から保持部材16の軸方向に突出している。
図1に示すように、ロータ固定部18には、ロータ30が固定される。
【0015】
ロータ30は、例えば、PMモータに用いられる。
図5に示すように、ロータ30は、ロータ本体32と複数の磁性体34とを有する。ロータ本体32は、軟磁性体よりなる円柱形の部材である。ロータ本体32の中央部には、シャフト36がロータ30の軸方向に貫通している。シャフト36の一端部は、ロータ30の軸方向に沿ったロータ30の一端部から該軸方向に突出している。シャフト36の他端部は、ロータ30の他端部から該軸方向に突出している。シャフト36の他端部には、固定ピン28に嵌合可能な不図示の凹部が形成されている。
【0016】
ロータ本体32の外周側には、複数の収容孔38が形成されている。複数の収容孔38は、ロータ本体32の周方向に等間隔に形成されている。複数の収容孔38の各々は、ロータ本体32を軸方向に貫通している。
【0017】
複数の収容孔38の各々には、磁性体34が挿入される。複数の磁性体34の各々は、収容孔38に挿入された状態で不図示の樹脂等によって封止されることで、ロータ本体32に固定される。複数の磁性体34は、着磁装置10の着磁対象となる磁性体である。複数の磁性体34は、硬磁性体である。複数の磁性体34は、着磁装置10によって着磁されることで、永久磁石となる。
【0018】
複数の磁性体34の周方向の配置数は、ロータ30の極数と同じである。複数の磁性体34の各々は、例えば、外周側がN極又はS極となるように径方向に着磁される。ロータ30は、外周側がN極に着磁された磁性体34と、外周側がS極に着磁された磁性体34とが、周方向に交互に現れるように、着磁される。
【0019】
本実施形態では、ロータ本体32に、例えば、4つの収容孔38が形成される。具体的には、4つの収容孔38は、平面視で、ロータ30の周方向に90°間隔で形成されている。従って、ロータ本体32には、ロータ30の周方向に90°間隔で、4個の磁性体34が収容される。なお、ロータ30は、SPMモータに使用されてもよい。また、磁性体34の数(ロータ30の極数)は4に限定されない。例えば、磁性体34の数(ロータ30の極数)は8であってもよい。
【0020】
ロータ固定部18において、凹部26の内径は、ロータ30の外径よりも僅かに大きい。固定ピン28の直径は、シャフト36の凹部の内径よりも僅かに小さい。ロータ30の軸方向に沿った固定ピン28の全長は、凹部26の深さよりも短い。ロータ30を凹部26に挿入し、シャフト36の凹部と固定ピン28とが嵌合することで、ロータ30がロータ固定部18に固定される。
【0021】
コイル固定部20は、複数の溝部40を有する。複数の溝部40は、保持部材16の載置面24において、凹部26から放射状に延びている。複数の溝部40は、保持部材16の周方向に沿って、所定の角度間隔で形成されている。複数の溝部40は、同じ幅及び同じ深さを有する。複数の溝部40の各々は、コイルユニット14を保持可能である。
図1に示すように、複数のコイルユニット14の各々は、平板状である。複数のコイルユニット14は、同じ形状、同じ大きさ及び同じ厚みを有する。複数の溝部40の各々に平板状のコイルユニット14を差し込むことにより、コイルユニット14が溝部40に保持される。
【0022】
複数の溝部40の各々では、溝部40に保持されたコイルユニット14を該溝部40に沿ってスライドさせることにより、保持部材16の径方向に沿ったコイルユニット14の保持位置を変更可能である。また、本実施形態では、溝部40の数は特に限定されない。例えば、4、6、…、といった偶数とすることが可能である。また、複数の溝部40は、周方向に等間隔で形成されてもよい。
【0023】
コイルユニット14の形状は、略矩形の板状である。
図2に示すように、コイルユニット14は、支持体42と、コイル44と、繊維強化樹脂46と、被覆部48とを有する。
【0024】
図2~
図3Bに示すように、支持体42は、樹脂等の非磁性材料により形成された部材である。支持体42は、矩形状の板体である。支持体42の外周面50は、4つの側面(第1側面52、第2側面54、第3側面56、第4側面58)から構成される。第1側面52の一端は、第2側面54の一端に連結されている。第1側面52の他端は、第4側面58の一端に連結されている。第2側面54と第4側面58とは、互いに平行である。第2側面54と第4側面58とは、互いに向かい合っている。第3側面56の一端は、第2側面54の他端に連結されている。第3側面56の他端は、第4側面58の他端に連結されている。第1側面52と第3側面56とは、互いに平行である。第1側面52と第3側面56とは、互いに向かい合っている。
【0025】
なお、支持体42の角部は、円弧状に形成されている。そのため、実際には、外周面50を構成する第1側面52、第2側面54、第3側面56及び第4側面58は、円弧状の角部を介して連結されている。
【0026】
コイル44は、支持体42の外周面50に巻回されている。上記のように、支持体42が矩形状であるため、コイル44の形状も矩形状である。すなわち、コイル44は、複数のコイル辺60(第1コイル辺62、第2コイル辺64、第3コイル辺66、第4コイル辺68)を有する。第1コイル辺62は、第1側面52に沿って延びている。第2コイル辺64は、第2側面54に沿って延びている。第3コイル辺66は、第3側面56に沿って延びている。第4コイル辺68は、第4側面58に沿って延びている。第1コイル辺62の一端は、第2コイル辺64の一端に連結されている。第1コイル辺62の他端は、第4コイル辺68の一端に連結されている。第2コイル辺64の他端は、第3コイル辺66の一端に連結されている。第4コイル辺68の他端は、第3コイル辺66の他端に連結されている。
【0027】
なお、上記のように、支持体42の角部が円弧状に形成されているので、コイル44のうち、支持体42の角部に沿って延びる部分は、円弧状に形成される。従って、第1コイル辺62、第2コイル辺64、第3コイル辺66及び第4コイル辺68は、実際には、コイル44の円弧状の部分を介して連結されている。
【0028】
コイル44には、該コイル44の中心軸線88から離れる方向へのコイル44の変形を阻止するように、繊維強化樹脂46が巻かれている。
図3A及び
図3Bに示すように、繊維強化樹脂46は、強化材である繊維70を樹脂72と混合させることで構成される。樹脂72は、例えば、エポキシ樹脂又はフェノール樹脂である。繊維70は、例えば、炭素繊維又はガラス繊維である。従って、繊維強化樹脂46は、例えば、炭素繊維強化樹脂又はガラス繊維強化樹脂である。なお、本実施形態では、繊維強化樹脂46は、炭素繊維強化樹脂であることが望ましい。
【0029】
図2に示すように、繊維強化樹脂46は、第1帯状体74と第2帯状体76とを有する。第1帯状体74及び第2帯状体76は、帯状の繊維強化樹脂である。
【0030】
図2及び
図3Bに示すように、第1帯状体74は、繊維70である第1繊維78と、樹脂72である第1樹脂80とを有する。第1帯状体74は、一方向に延びる複数の第1繊維78を第1樹脂80の内部で幅方向に並べることにより構成される。
【0031】
図2及び
図3Aに示すように、第2帯状体76は、繊維70である第2繊維82と、樹脂72である第2樹脂84とを有する。第2帯状体76は、一方向に延びる複数の第2繊維82を第2樹脂84の内部で幅方向に並べることにより構成される。
【0032】
図2に示すように、第1帯状体74は、第1コイル辺62と第3コイル辺66とを掛け渡すように、支持体42及びコイル44に巻回されている。具体的には、第1帯状体74は、コイル44の中心軸線88と交差し、且つ、第1コイル辺62の中央部と前記第3コイル辺66の中央部とを掛け渡すように、支持体42及びコイル44に巻回されている。この場合、第1繊維78の方向は、支持体42及びコイル44に対する第1帯状体74の巻回方向と同じ方向である。
【0033】
第2帯状体76は、第2コイル辺64と第4コイル辺68とを掛け渡すように、支持体42及びコイル44に巻回されている。具体的には、第2帯状体76は、コイル44の中心軸線88と交差し、且つ、第2コイル辺64の中央部と前記第4コイル辺68の中央部とを掛け渡すように、支持体42及びコイル44に巻回されている。この場合、第2繊維82の方向は、支持体42及びコイル44に対する第2帯状体76の巻回方向と同じ方向である。
【0034】
従って、第1帯状体74と第2帯状体76とは、コイル44の中心軸線88上で交差している。
【0035】
なお、繊維強化樹脂46が炭素繊維強化樹脂である場合、繊維強化樹脂46は、テンションをかけた状態でコイル44に巻かれていることが望ましい。この場合、第1帯状体74は、該第1帯状体74の巻回方向にテンションをかけた状態でコイル44に巻かれている。また、第2帯状体76は、該第2帯状体76の巻回方向にテンションをかけた状態でコイル44に巻かれている。
【0036】
図1及び
図2に示すように、被覆部48は、支持体42、コイル44及び繊維強化樹脂46を覆う。被覆部48は、樹脂からなる。
【0037】
コイル44は、端子部90をさらに有する。端子部90は、コイル44の一端92と他端94とである。端子部90は、被覆部48を貫通して外部に突出している。端子部90には、不図示の配線が接続される。
【0038】
図5に示すように、複数のコイルユニット14は、複数の磁性体34と向かい合うように、ロータ30の周囲に配置される。具体的には、1つの磁性体34に対して2つのコイルユニット14が向かい合うように、複数の溝部40に複数のコイルユニット14を挿入する。従って、着磁装置10では、4つの磁性体34に対して、8つのコイルユニット14が配置される。このときに、複数のコイルユニット14の各々は、第1コイル辺62と第3コイル辺66(
図2参照)とがロータ30の軸方向に沿って延びると共にロータ30の径方向に互いに離間するように、ロータ30の周囲に配置される。すなわち、複数のコイルユニット14の各々は、コイル44の中心軸線88(
図2参照)がロータ30の周方向を向くように、ロータ30の周囲に配置される。
図5では、第1コイル辺62を磁性体34と向かい合わせる場合を図示している。
【0039】
着磁装置10において、外部から端子部90(
図2参照)を介してコイル44に電流を流すと、コイル44のコイル辺60の周囲には、電流の向きに対して、右ネジの法則により、同心円状の磁界が発生する。本実施形態では、磁性体34と向かい合っている第1コイル辺62の周囲に発生する同心円状の磁界を該磁性体34の着磁に利用する。
【0040】
なお、着磁装置10では、ロータ30の極数(磁性体34の数)と同数、又は、極数よりも多数のコイルユニット14が配置される。例えば、
図5では、1つの磁性体34に対して2つのコイルユニット14を使用する場合を図示している。1つの磁性体34に対して2つのコイルユニット14を使用することで、磁性体34を効率よく着磁することができる。
【0041】
本実施形態の着磁装置10は、以上のように構成される。次に、着磁装置10の動作について説明する。
【0042】
先ず、着磁対象とするロータ30の極数(磁性体34の周方向の数)と同じ個数又はそれよりも多い個数のコイルユニット14を用意する。例えば、
図5に示すように、4極のロータ30に着磁を行う場合には、4つの磁性体34に対して8個のコイルユニット14を用意する。
【0043】
次に、コイルユニット14を着磁装置10に固定する。この場合、複数の溝部40に所定個数のコイルユニット14を嵌合する。また、コイルユニット14の内周側の端部(第1コイル辺62側の端部)がロータ30の外周部の近傍に位置するように、ロータ30の径方向におけるコイルユニット14の位置を調整する。コイルユニット14は、溝部40に沿ってロータ30の径方向にスライド可能である。これにより、ロータ30の径方向に対するコイルユニット14の位置決めが容易になる。
【0044】
次に、複数のコイルユニット14が配置された保持部材16のロータ固定部18にロータ30を固定する。この場合、ロータ固定部18の凹部26にロータ30を挿入し、シャフト36の凹部と固定ピン28とを嵌合させることで、ロータ30をロータ固定部18に固定する。このときに、複数の磁性体34の各々が複数のコイルユニット14のうちの2つのコイルユニット14と向かい合うように、ロータ30の周方向の位置決めを行う。これにより、1つの磁性体34に対して2つのコイルユニット14が隣接して配置される。
【0045】
次に、複数の磁性体34に対する着磁を行う。具体的には、複数のコイルユニット14に電流を供給する。この場合、1つの磁性体34に対して隣接する2つのコイルユニット14が、互いに逆向きの磁界を発生するように、複数のコイルユニット14に電流を供給する。これにより、2つのコイルユニット14の第1コイル辺62の周囲に、右ネジの法則により同心円状の磁界が発生する。隣接する2つのコイルユニット14による同心円状の2つの磁界によって、2つのコイルユニット14と向かい合う磁性体34に対して、径方向の内向きの磁界又は径方向の外向きの磁界が加えられる。これにより、磁性体34は、径方向の内向き又は径方向の外向きに磁化される。この結果、径方向の外側がN極となるように着磁された磁性体34と、径方向の外側がS極となるように着磁された磁性体34とが、周方向に交互に現れるように、複数の磁性体34が磁化される。
【0046】
複数の磁性体34に対する着磁作業が終了した後、保持部材16からロータ30が取り外される。
【0047】
本実施形態は、以下の効果を有する。
【0048】
図6Aは、比較例のコイルユニット100を示す。なお、コイルユニット100において、本実施形態でのコイルユニット14(
図2参照)と同じ構成要素については、同じ参照符号を付けて説明する。また、
図6Aでは、支持体42の図示を省略している。コイルユニット100は、本実施形態のコイルユニット14(
図2参照)と比較して、繊維強化樹脂46及び被覆部48が設けられていない。
【0049】
コイルユニット100では、磁性体34(
図5参照)に対する着磁を行うときに、コイル44に電流を流すと、コイル44の中心軸線88を挟んで向かい合う一方のコイル辺60から生じる磁界と、他方のコイル辺60を流れる電流とによって、該他方のコイル辺60には電磁力が作用する。例えば、第2コイル辺64の周囲に発生する磁界(磁束密度B)と、第1コイル辺62を流れる電流Iとによって、第1コイル辺62には電磁力Fが作用する。なお、コイル44の各コイル辺60に電流Iが流れるため、第1コイル辺62以外の各コイル辺60にも電磁力Fが作用する。
【0050】
コイルユニット100では、コイル44に電磁力Fが作用することで、
図6Bに示すように、該コイル44が電磁力Fによって変形する。
図6Bでは、第1コイル辺62~第4コイル辺68に作用する電磁力Fによって、第1コイル辺62~第4コイル辺68の各々の中央部が外向きに変形する場合を図示している。このように、コイル44が変形することに伴い、該コイル44の周囲に発生する磁界が変動する。磁界が変動することにより、磁性体34を適切に着磁することが難しくなる。また、コイル44が変形することで、コイル44を被覆している絶縁皮膜の破れ、コイル44の破損等が発生する可能性がある。さらに、コイルユニット100を長期間にわたって使用する場合には、コイル44が変形することでコイルユニット100が劣化し、寿命が短くなる可能性がある。
【0051】
このようなコイル44の変形を抑えるためには、金属製の箱にコイル44を収容するか、又は、金属製の帯体でコイル44を巻回することが考えられる。しかしながら、金属製の部材を用いると、コイル44に電流を流したときに、コイル44の周囲に発生した磁界が、金属の影響を受けてしまう。また、金属製の箱にコイル44を収容する場合、又は、金属製の帯体でコイル44を巻回する場合のいずれにおいても、金属板の厚み分だけ、ロータ30(
図5参照)とコイル44との間にギャップが生じる。この結果、磁性体34を着磁するための磁界が小さくなる。
【0052】
これに対して、本実施形態に係る着磁装置10(
図1参照)では、
図2に示すように、コイルユニット14において、支持体42の外周面50にコイル44が巻回されると共に、コイル44の中心軸線88から離れる方向へのコイル44の変形を阻止するようにコイル44に繊維強化樹脂46が巻かれている。これにより、コイル44に電流を流して磁界が発生したときに、電流及び磁界による電磁力によってコイル44が変形することを防止することができる。この結果、コイルユニット14の耐久性を向上させることができる。また、繊維強化樹脂46を用いるため、発生した磁界に影響を及ぼすことなく、コイル44の変形を防止することができる。また、コイル44に繊維強化樹脂46を巻くことで、金属製の箱にコイル44を収容するか、又は、金属製の帯体でコイル44を巻回する場合と比較して、コイルユニット14とロータ30とのギャップを小さくすることが可能となる。
【0053】
コイルユニット14では、第1帯状体74は、第1コイル辺62と第3コイル辺66とを掛け渡すように、支持体42及びコイル44に巻回される。また、コイルユニット14では、第2帯状体76は、第2コイル辺64と第4コイル辺68とを掛け渡すように、支持体42及びコイル44に巻回される。これにより、コイル44に電流を流して磁界が発生したときに、第1コイル辺62~第4コイル辺68に作用する外向きの電磁力によってコイル44が変形することを効率よく防止することができる。
【0054】
コイルユニット14では、コイル44の中心軸線88と交差し、第1コイル辺62の中央部と第3コイル辺66の中央部とを掛け渡すように、第1帯状体74を巻回する。また、コイルユニット14では、コイル44の中心軸線88と交差し、第2コイル辺64の中央部と第4コイル辺68の中央部とを掛け渡すように、第2帯状体76を巻回する。これにより、コイル44に電流を流して磁界が発生したときに、第1コイル辺62~第4コイル辺68に作用する外向きの電磁力によってコイル44が変形することをより確実に防止することができる。
【0055】
コイルユニット14では、
図2及び
図3Bに示すように、第1帯状体74を構成する繊維70(第1繊維78)の方向が、第1帯状体74の巻回方向と同じ方向である。また、コイルユニット14では、
図2及び
図3Aに示すように、第2帯状体76を構成する繊維70(第2繊維82)の方向が、第2帯状体76の巻回方向と同じ方向である。これにより、コイル44に電流を流して磁界が発生したときに、第1コイル辺62~第4コイル辺68に発生する外向きの電磁力によってコイル44が変形することをより確実に防止することができる。
【0056】
図2及び
図5に示すように、コイルユニット14では、第1コイル辺62と第3コイル辺66とがロータ30の軸方向に沿って延びると共に、ロータ30の径方向に互いに離間している。これにより、ロータ30の大きさ及びロータ30の極数(磁性体34の個数)に対応して、複数のコイルユニット14を適切にロータ30の周囲に配置することができると共に、複数の磁性体34を効率よく着磁することができる。
【0057】
図2~
図3Bに示すように、コイルユニット14では、繊維強化樹脂46が炭素繊維強化樹脂であるため、該繊維強化樹脂46の機械的強度が向上する。これにより、コイル44に電流を流して磁界が発生したときに、コイル44に作用する電磁力によってコイル44が変形することを確実に防止することができる。また、繊維強化樹脂46の厚みを薄くしても、コイル44の変形を抑制するだけの機械的強度を確保することができる。これにより、コイルユニット14とロータ30とのギャップが大きくなることを抑えることができる。この結果、コイルユニット14からロータ30に印加する磁界の強度を確保することができる。
【0058】
繊維強化樹脂46が炭素繊維強化樹脂である場合、該繊維強化樹脂46は、テンションをかけた状態でコイル44に巻回されてもよい。繊維強化樹脂46の巻回方向にテンションをかけて該繊維強化樹脂46をコイル44に巻回すると、炭素繊維強化樹脂には、縮まろうとする圧縮力が作用する。これにより、コイル44の変形を阻止しようとする力(コイル44を支持体42に固定保持しようとする力)が強まる。この結果、コイル44の変形を一層抑制することができると共に、コイルユニット14の機械的強度を向上させることができる。
【0059】
コイルユニット14では、支持体42、コイル44及び繊維強化樹脂46が被覆部48で覆われている。これにより、繊維強化樹脂46が破損した場合でも、当該繊維強化樹脂46を構成する繊維70が飛散することを防止することができる。また、被覆部48は、繊維70の飛散を防止するために設けられるので、被覆部48の厚みは、支持体42、コイル44及び繊維強化樹脂46を覆う程度の薄い厚みであってもよい。従って、金属製の箱にコイル44を収容するか、又は、金属製の帯体でコイル44を巻回する場合と比較して、被覆部48の厚みを小さくすることができる。これにより、コイルユニット14とロータ30とのギャップが大きくなることを抑えることができる。
【0060】
なお、本実施形態では、
図7の変形例のように、コイルユニット14を構成してもよい。この変形例では、繊維強化樹脂46は、コイル44を介して支持体42に巻かれている。すなわち、繊維強化樹脂46は、コイル44の外周面に巻回される。つまり、繊維強化樹脂46は、コイル44の巻回方向に沿って、該コイル44の外周面に巻回される。この変形例の構成でも、コイル44に電流を流して磁界が発生したときに、電流及び磁界による電磁力によってコイル44が変形することを防止することができる。
【0061】
上述した開示に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0062】
(付記1)
周方向に配置された複数の磁性体(34)を有するロータ(30)に磁界を印加することで、複数の前記磁性体を着磁する着磁装置(10)であって、前記着磁装置は、前記磁界を発生する少なくとも1つのコイルユニット(14)を備え、前記コイルユニットは、支持体(42)と、前記支持体の外周面(50)に巻回されるコイル(44)と、前記コイルの中心軸線(88)から離れる方向への前記コイルの変形を阻止するように前記コイルに巻かれている繊維強化樹脂(46)と、を有する。
【0063】
このような構成によれば、支持体の外周面にコイルが巻回されると共に、コイルの中心軸線から離れる方向へのコイルの変形を阻止するようにコイルに繊維強化樹脂が巻かれている。これにより、コイルに電流を流して磁界が発生したときに、電流及び磁界による電磁力によってコイルが変形することを防止することができる。この結果、コイルユニットの耐久性を向上させることが可能となる。また、繊維強化樹脂であるため、磁界に影響を及ぼすことなく、コイルの変形を防止することができる。また、支持体及びコイルに繊維強化樹脂を巻くことで、金属製の箱にコイルを収容するか、又は、金属製の帯体でコイルを巻回する場合と比較して、コイルユニットとロータとのギャップを小さくすることが可能となる。
【0064】
(付記2)
付記1に記載の着磁装置において、前記支持体は、矩形状であり、第1側面(52)と、前記第1側面に連結する第2側面(54)と、前記第1側面と向かい合い且つ前記第2側面に連結する第3側面(56)と、前記第2側面と向かい合い且つ前記第1側面及び前記第3側面に連結する第4側面(58)とを有し、前記コイルは、前記第1側面に沿って延びる第1コイル辺(62)と、前記第1コイル辺に連結され、前記第2側面に沿って延びる第2コイル辺(64)と、前記第2コイル辺に連結され、前記第3側面に沿って延びる第3コイル辺(66)と、前記第1コイル辺と前記第3コイル辺とに連結され、前記第4側面に沿って延びる第4コイル辺(68)と、を有し、前記繊維強化樹脂は、前記第1コイル辺と前記第3コイル辺とを掛け渡すように前記支持体及び前記コイルに巻回される第1帯状体(74)と、前記第2コイル辺と前記第4コイル辺とを掛け渡すように前記支持体及び前記コイルに巻回される第2帯状体(76)とを有してもよい。
【0065】
このような構成によれば、第1帯状体が第1コイル辺と第3コイル辺とを掛け渡すように支持体及びコイルに巻回されると共に、第2帯状体が第2コイル辺と第4コイル辺とを掛け渡すように支持体及びコイルに巻回される。これにより、コイルに電流を流して磁界が発生したときに、第1コイル辺~第4コイル辺に作用する外向きの電磁力によってコイルが変形することを効率よく防止することができる。
【0066】
(付記3)
付記2に記載の着磁装置において、前記第1帯状体は、前記コイルの中心軸線(88)と交差し、且つ、前記第1コイル辺の中央部と前記第3コイル辺の中央部とを掛け渡すように前記支持体及び前記コイルに巻回され、前記第2帯状体は、前記コイルの中心軸線と交差し、且つ、前記第2コイル辺の中央部と前記第4コイル辺の中央部とを掛け渡すように前記支持体及び前記コイルに巻回されてもよい。
【0067】
このような構成によれば、コイルに電流を流して磁界が発生したときに、第1コイル辺~第4コイル辺の各々には、中央部を外向きに変形させる電磁力が作用する。そこで、コイルの中心軸線と交差し、第1コイル辺の中央部と第3コイル辺の中央部とを掛け渡すように第1帯状体を巻回すると共に、コイルの中心軸線と交差し、第2コイル辺の中央部と第4コイル辺の中央部とを掛け渡すように第2帯状体を巻回する。これにより、コイルに電流を流して磁界が発生したときに、第1コイル辺~第4コイル辺に作用する外向きの電磁力によってコイルが変形することをより確実に防止することができる。
【0068】
(付記4)
付記2又は3に記載の着磁装置において、前記第1帯状体を構成する繊維(70、78)の方向は、前記支持体及び前記コイルに対する前記第1帯状体の巻回方向と同じ方向であり、前記第2帯状体を構成する繊維(70、82)の方向は、前記支持体及び前記コイルに対する前記第2帯状体の巻回方向と同じ方向であってもよい。
【0069】
このような構成によれば、第1帯状体を構成する繊維の方向が第1帯状体の巻回方向と同じ方向であると共に、第2帯状体を構成する繊維の方向が第2帯状体の巻回方向と同じ方向であるので、コイルに電流を流して磁界が発生したときに、第1コイル辺~第4コイル辺に発生する外向きの電磁力によってコイルが変形することをより確実に防止することができる。
【0070】
(付記5)
付記2~4のいずれか1つに記載の着磁装置において、前記コイルユニットでは、前記第1コイル辺と前記第3コイル辺とは、前記ロータの軸方向に沿って延びると共に、前記ロータの径方向に互いに離間してもよい。
【0071】
このような構成によれば、第1コイル辺と第3コイル辺とがロータの軸方向に沿って延びると共に、ロータの径方向に互いに離間しているので、ロータの大きさ及びロータの極数(磁性体の個数)に対応して、複数のコイルユニットを適切にロータの周囲に配置することができると共に、複数の磁性体を効率よく着磁することができる。
【0072】
(付記6)
付記1~5のいずれか1つに記載の着磁装置において、前記繊維強化樹脂は、炭素繊維強化樹脂であってもよい。
【0073】
このような構成によれば、繊維強化樹脂が炭素繊維強化樹脂であるため、該繊維強化樹脂の機械的強度が向上する。これにより、コイルに電流を流して磁界が発生したときに、コイルに作用する電磁力によってコイルが変形することを確実に防止することができる。また、繊維強化樹脂の厚みを薄くしても、コイルの変形を抑制するだけの機械的強度を確保することができる。これにより、コイルユニットとロータとのギャップが大きくなることを抑えることができる。この結果、コイルユニットからロータに印加する磁界の強度を確保することができる。
【0074】
(付記7)
付記6に記載の着磁装置において、前記炭素繊維強化樹脂は、テンションをかけた状態で前記コイルに巻かれてもよい。
【0075】
繊維強化樹脂が炭素繊維強化樹脂である場合、繊維強化樹脂の巻回方向にテンションをかけて該繊維強化樹脂をコイルに巻回すると、炭素繊維強化樹脂には、縮まろうとする圧縮力が作用する。これにより、コイルの変形を阻止しようとする力が強まる。この結果、コイルの変形を一層抑制することができると共に、コイルユニットの機械的強度を向上させることができる。
【0076】
(付記8)
付記1、6、7のいずれか1つに記載の着磁装置において、前記繊維強化樹脂は、前記コイルを介して前記支持体に巻かれてもよい。
【0077】
繊維強化樹脂がコイルを介して支持体に巻かれている。すなわち、繊維強化樹脂は、コイルの外周面に巻回される。つまり、繊維強化樹脂は、コイルの巻回方向に沿って、該コイルの外周面に巻回される。これにより、コイルに電流を流して磁界が発生したときに、電流及び磁界による電磁力によってコイルが変形することを防止することができる。
【0078】
(付記9)
付記1~8のいずれか1つに記載の着磁装置において、前記コイルユニットは、前記支持体、前記コイル及び前記繊維強化樹脂を覆う樹脂製の被覆部(48)をさらに有してもよい。
【0079】
このような構成によれば、支持体、コイル及び繊維強化樹脂を被覆部で覆うことにより、繊維強化樹脂が破損した場合でも、当該繊維強化樹脂を構成する繊維が飛散することを防止することができる。また、被覆部は、繊維の飛散を防止するために設けられるので、被覆部の厚みは、支持体、コイル及び繊維強化樹脂を覆う程度の薄い厚みであってもよい。従って、金属製の箱にコイルを収容するか、又は、金属製の帯体でコイルを巻回する場合と比較して、被覆部の厚みを小さくすることができる。これにより、コイルユニットとロータとのギャップが大きくなることを抑えることができる。
【0080】
なお、本発明は、上述した開示に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【符号の説明】
【0081】
10…着磁装置
14…コイルユニット
30…ロータ
34…磁性体
42…支持体
44…コイル
46…繊維強化樹脂
50…外周面
88…中心軸線