(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】核酸構築物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20241024BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241024BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241024BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241024BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241024BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241024BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241024BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241024BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/62 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023104158
(22)【出願日】2023-06-26
(62)【分割の表示】P 2021504817の分割
【原出願日】2019-07-31
【審査請求日】2023-06-26
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】517215973
【氏名又は名称】オートラス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ショーン コルドバ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ シリボーン
(72)【発明者】
【氏名】マーティン プーレ
【審査官】齋藤 光介
(56)【参考文献】
【文献】LOUGHRAN, G. et al,Stop codon readthrough generates a C-terminally extended variant of the human vitamin D receptor with reduced calcitriol response,J. Biol. Chem.,2018年01月31日,Vol.293(12),pp.4434-4444
【文献】FAN, Y. et al,Heterogeneity of Stop Codon Readthrough in Single Bacterial Cells and Implications for Population Fitness,Molecular Cell,2017年,Vol.67,pp.826-836
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の目的のヌクレオチド配列(NOI1);翻訳リードスルーモチーフ(TRM);第2の目的のヌクレオチド配列(NOI2);および、NOI1およびNOI2が別個のタンパク質として発現されるように、切断部位(CL)をコードするヌクレオチド配列を含む、核酸構築物
であって、ここで、前記翻訳リードスルーモチーフ(TRM)が、配列STOP-CUAGまたはSTOP-CAAUUA(ここで、「STOP」は終止コドンである)を含む、核酸構築物。
【請求項2】
構造:
NOI1-TRM-CL-NOI2
を有する、請求項1に記載の核酸構築物。
【請求項3】
前記翻訳リードスルーモチーフが、以下の配列:
UGA-CUAG(配列番号5)
UAG-CUAG(配列番号6)
UAA-CUAG(配列番号7)
UGA-CAAUUA(配列番号8)
UAG-CAAUUA(配列番号9)
UAA-CAAUUA(配列番号10)
の1つを含む、請求項
1または2に記載の核酸構築物。
【請求項4】
構造:
NOI1-TRM-CL-NOI2
NOI1-TRM1-TRM2-CL-NOI2
NOI1-CL1-TRM-CL2-NOI2
NOI1-TRM-CL-SP-NOI2
NOI1-TRM1-CL1-NOI2-TRM2-CL2-NOI3
NOI1-TRM1-CL1-TRM2-CL2-NOI2
(ここで、
TRM1およびTRM2は同じものまたは異なるものでもよく、第1および第2の翻訳リードスルーモチーフであり;
CL1およびCL2は同じものまたは異なるものでもよく、それぞれが切断部位をコードする第1および第2の核酸配列であり、
SPは減衰シグナルペプチドであり;ならびに
NOI3は第3の目的のヌクレオチド配列である)
を有する、請求項
1~3のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項5】
前記切断部位が、自己切断ペプチド、フューリン切断部位またはタバコエッチウイルス切断部位を含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項6】
前記切断部位が、アフトウイルスもしくはカルジオウイルス由来の2A自己切断ペプチドまたは2A様ペプチドを含む、請求項
5に記載の核酸構築物。
【請求項7】
NOI2が、サイトカイン、ケモカインまたは毒素をコードする、請求項1~
6のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の核酸構築物を含む、ベクター。
【請求項9】
請求項
8に記載のレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクター。
【請求項10】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の核酸構築物または請求項
8もしくは
9に記載のベクターを含む、細胞。
【請求項11】
請求項1
0に記載の細胞を作製するための方法であって、請求項1~
7のいずれか一項に記載の核酸構築物または請求項
8もしくは
9に記載のベクターを細胞に導入する工程を含む、方法。
【請求項12】
核酸構築物中の2つの導入遺伝子の相対発現をモジュレートするための方法であって、下流導入遺伝子の発現を減少させるために、前記2つの導入遺伝子の間に翻訳リードスルーモチーフ
および切断部位(CL)をコードするヌクレオチド配列を含める工程を含む、方法
であって、ここで、前記翻訳リードスルーモチーフが、配列STOP-CUAGまたはSTOP-CAAUUA(ここで、「STOP」は終止コドンである)を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導入遺伝子の相対発現をモジュレートするための構築物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の導入遺伝子の発現
遺伝子治療は、病的症状を処置または矯正するための生体分子を発現するように細胞を修飾することを伴う。生理学的または治療的に関連するレベルの生体分子のいずれかの取得は、遺伝子治療を成功させるために重要である。
【0003】
遺伝子発現をモジュレートするための現在の方法は、一般に、転写速度を増加もしくは減少させるか、またはそれらに調節エレメントを挿入して、操作された転写因子および小分子の作用を通じてそれらの発現を誘導性にするようにプロモーター領域を修飾することに依拠する。
【0004】
遺伝子治療のアプローチは、多くの場合、1つを超える導入遺伝子の発現を伴う。複数の産物を産生するために複数のベクターを細胞に形質導入することは困難であり、費用がかかり、予測不可能である。この理由により、単一のベクターからの2つのタンパク質の共発現を可能にするために様々な方法が開発されている(
図1を参照のこと)。
【0005】
最初の試みは、同じカセット内で2つの異なるプロモーターを使用したが、これは、それぞれが別個のタンパク質をコードする2つの別個の転写産物をもたらす。多くの理由により、これは困難なアプローチである。重要な問題は、第1のプロモーターが優位であり、第2のプロモーターのサイレンシングを引き起こす「プロモーター干渉」である。加えて、異なるプロモーターは、異なる細胞状況では異なって機能し、これは、各導入遺伝子の相対発現の一貫した「調整(tuning)」を達成困難にする。
【0006】
代替的なアプローチは、内部リボソーム侵入配列(IRES)を使用することである。ここでは、単一の転写産物が生成される。転写産物中のIRES配列は、2つの導入遺伝子のオープンリーディングフレームの間に配置され、mRNAキャップ構造を模倣する。したがって、リボソームは、5’キャップまたはIRESのいずれかで翻訳を開始し、2つの別個のタンパク質の発現をもたらす。この方法の重要な制限は、相対発現を制御することができないことである。3’転写産物は、典型的には、5’のものよりも低く発現されるが、発現の比は予測および調整困難である。
【0007】
口蹄疫ウイルス(FMDV)(および関連ウイルス)が単一のオープンリーディングフレーム(ORF)から複数のタンパク質を発現できるようにするFMDV 2Aペプチドの役割を明らかにした後に、さらなるアプローチが開発された(Donnellyら、J.Gen.Virol.;82,1027-1041(2001))。2Aペプチド(およびホモログ)は、ORFの翻訳の直後に非常に高い効率で切断され、単一のORFからの複数のペプチドの発現を可能にする。2Aペプチドなどの自己切断ペプチドの使用は、1:1の比で導入遺伝子の発現をもたらす。
【0008】
国際公開第2016/174409号は、核酸構築物内の導入遺伝子発現の比を変動させるための改変シグナルペプチドの使用について記載している。この系では、変異を、例えばタイプI膜貫通タンパク質のシグナルペプチドモチーフに導入して、細胞表面への輸送の有効性を減少させる。このアプローチは、細胞表面の発現レベルを、野生型シグナルペプチドモチーフと比較して約10倍減少させることを可能にする。
【0009】
しかしながら、この戦略は、細胞表面へのタンパク質の輸送を減少させることにより機能するので、細胞表面タンパク質の発現を低下させるためにのみ適切である。また、発現の10倍の減少は、過剰発現が宿主細胞の死をもたらし得る毒性化合物の発現などのいくつかの用途については十分ではない可能性がある。
【0010】
したがって、細胞における2つまたはそれを超える導入遺伝子の相対発現を改変するための代替的なアプローチであって、これらの制限を伴わない代替的なアプローチが必要である。
【0011】
キメラ抗原受容体(CAR)
キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)療法は、細胞表面上の腫瘍特異的抗原を認識するキメラ抗原受容体(CAR)の発現を通じて、細胞溶解性T細胞を標的腫瘍細胞に向け直す。キメラ抗原受容体は、抗体またはリガンド結合モチーフ、スペーサードメインおよび膜貫通ドメインがT細胞受容体(TCR)のCD3ζ鎖由来の細胞内シグナル伝達ドメインに融合されたものからなる。CD28、OX40または4-1BBなどの共受容体由来のシグナル伝達ドメインもまた、CD3ζシグナル伝達ドメインと共にCAR1に含められ得る。
【0012】
CAR-T細胞療法は、それ自体が、印象的な奏効率を達成したB細胞白血病などの血液悪性腫瘍のための有効な処置であることを実証している。しかしながら、多くの要因が複合的にCAR-T細胞活性を制限する固形腫瘍の処置では、CAR-T細胞療法は同じ成功を達成することができなかった。これらとしては、PD-L1などの免疫抑制リガンドの発現、好ましい炎症反応を緩和するサイトカインの分泌、腫瘍細胞によるアポトーシスを誘導するリガンドの発現、および栄養素の枯渇が挙げられる。免疫抑制性腫瘍微小環境を克服するために、CAR-T細胞は、免疫抑制性シグナル伝達を遮断するか、またはT細胞が好ましくない腫瘍微小環境で生存することを可能にする分子を発現するように操作されている。
【0013】
炎症反応を増強するサイトカインは、CAR-T細胞療法の有効性を増加させ得る。これらとしては、IL-7、IL-12、IL15、IL-17A、IL-18およびIL-21が挙げられ、これらは、外部から提供されるか、またはCART細胞療法中に放出されると、CAR-T細胞の反応を増強することが示されている。
【0014】
IL-12は強力な免疫調節性サイトカインであり、通常、Tおよびナチュラルキラー(NK)細胞シグナル;ならびに細胞外マトリックス成分に反応して食細胞および樹状細胞から分泌される。CAR-T細胞は、構成的または誘導性プロモーターからIL-12を発現するように操作されており、これは、固形腫瘍をターゲティングする場合にCAR-T細胞療法の有効性を改善することが示されている。IL-12は全身的に毒性であるので、CART細胞または他の免疫細胞は、IL-12を腫瘍微小環境1に放出するように操作されている。しかしながら、トランスジェニックT細胞のIL-12分泌は、非常に毒性の全身レベルをもたらし得る。
【0015】
サイトカイン、ケモカインまたは毒素の発現は、CAR-T細胞療法の有効性を改善し得るが、これらの生体分子の分泌は、治療的利益および最小副作用を提供する安全レベル内に毒性を制限するように厳密に調節されなければならない。これは、シス作用性配列を挿入もしくは欠失させて所望のレベルの転写を得るか、または誘導性エレメントをプロモーター領域に導入することにより、プロモーター領域からの遺伝子転写の速度を調節することにより達成され得る。注目すべき誘導性プロモーター系としては、テトラサイクリン応答エレメント(TRE)2の19bpヌクレオチド配列に結合する操作された形態のテトラサイクリンリプレッサータンパク質(TetR)と併せてTREを利用するテトラサイクリンオフおよびテトラサイクリンオフ系が挙げられる。テトラサイクリンオフ系では、TetRを単純ヘルペスウイルス由来のビリオンタンパク質(viron protein)16(VP16)のトランス活性化ドメインに融合して、テトラサイクリントランスアクチベーター(tTA)を生成する。テトラサイクリンの非存在下では、tTAはプロモーター領域中のTREに結合し、遺伝子転写を増強する;逆に、テトラサイクリンの存在下では、tTAはTREに結合することができず、転写は起こらない。tTA中のTetRドメインを変異させて、TREへの結合についてそれをテトラサイクリン依存的にすることにより、系上に逆tTA(rtTA)およびテトラサイクリンが作られた。テトラサイクリンの存在下では、rtTAは、TREに結合して転写を刺激することができるが、その非存在下ではできない。テトラサイクリン誘導系は導入遺伝子発現の制御を可能にするが、それは、小分子の使用、プロモーター配列へのTREの挿入、およびそれを行うためのtTAまたはrtTAのいずれかの発現に依拠し、細胞に大きな負担をかける。
【0016】
遺伝子発現を制御するための代替的なアプローチは、内部リボソーム侵入部位(IRES)を使用することである。上記で説明されているように、IRESは一次導入遺伝子の下流に配置され、通常は一次導入遺伝子よりも低いレベルで、さらなる導入遺伝子の構成的発現を促進する。免疫反応を増強し、CAR-T細胞の注入前の宿主のプレコンディショニングの必要性を回避するために、このようなアプローチは、CAR-T細胞においてIL-12を構成的に発現させるために使用されている。しかしながら、IL-12の発現レベルは予測不可能であり、依然としてインビボで毒性である可能性がある。
【0017】
したがって、上記不利な点に関連しない分子、例えばサイトカイン、ケモカインまたは毒素とキメラ抗原受容体を共発現させるための代替的な方法が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、導入遺伝子の発現をモジュレートする手段としてフレームスリップまたは翻訳リードスルーを使用する系を開発した。特に、前記系は、単一のmRNA転写産物から発現される2つまたはそれを超える導入遺伝子の相対発現を制御するために使用され得る。
【0019】
したがって、第1の態様では、本発明は、第1の目的のヌクレオチド配列(NOI1);フレームスリップモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフ(FSM/TRM);および第2の目的のヌクレオチド配列(NOI2)を含む核酸構築物を提供する。
【0020】
核酸構築物はまた、NOI1およびNOI2が別個のタンパク質として発現されるように、切断部位(CL)をコードするヌクレオチド配列を含み得る。
【0021】
核酸構築物は、構造:
NOI1-FSM/TRM-CL-NOI2またはNOI1-CL-FSM/TRM-NOI2
を含み得る。
【0022】
特に、核酸構築物は、構造:
NOI1-CL-FSM-NOI2;または
NOI1-TRM-CL-NOI2
を含む。
【0023】
核酸構築物は、2つを超える目的のヌクレオチド配列を含み得る。例えば、核酸構築物は、構造:
NOI1-FSM1/TRM1-CL1-NOI2-FSM2/TRM2-CL2-NOI3、または
NOI1-CL1-FSM1/TRM1-NOI2-CL2-FSM2/TRM2-NOI3
(ここで、
NOI1、NOI2およびNOI3は目的のヌクレオチド配列であり;
FSM1/TRM1およびFSM2/TRM2は同じものまたは異なるものでもよく、フレームスリップモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフであり;ならびに
CL1およびCL2は同じものまたは異なるものでもよく、それぞれが切断部位をコードする核酸配列である)
を有し得る。
【0024】
フレームスリップモチーフ(FSM)は、ウラシル、チミンまたはグアニン塩基のリピート、例えば配列UUUUUUU(配列番号1)を含み得る。
【0025】
フレームスリップモチーフはまた、終止コドンを含み得る。例えば、FSMは、以下の配列:
UUUUUUUGA(配列番号2)
UUUUUUUAG(配列番号3)
UUUUUUUAA(配列番号4)
の1つを含み得る。
【0026】
翻訳リードスルーモチーフ(TRM)は、配列STOP-CUAGまたはSTOP-CAAUUA(ここで、「STOP」は終止コドンである)を含み得る。例えば、翻訳リードスルーモチーフは、以下の配列:
UGA-CUAG(配列番号5)
UAG-CUAG(配列番号6)
UAA-CUAG(配列番号7)
UGA-CAAUUA(配列番号8)
UAG-CAAUUA(配列番号9)
UAA-CAAUUA(配列番号10)
の1つを含み得る。
【0027】
翻訳リードスルーモチーフを含む核酸構築物は2つの隣接TRMを含み得、これらは、同じものまたは異なるものでもよい。
【0028】
翻訳リードスルーモチーフを含む核酸構築物は、それぞれが切断部位をコードする2つの核酸配列を含み得る。TRMは、2つの切断部位コード配列の間に位置し得るか、またはそれぞれが切断部位の上流に配置された2つのTRMが存在し得る。
【0029】
翻訳リードスルーモチーフを含む核酸構築物は、第2の(または後続の)目的のヌクレオチドの上流に位置する減衰または非効率シグナルペプチドを含み得る。
【0030】
翻訳リードスルーモチーフを含む核酸構築物は、以下の構造:
NOI1-TRM-CL-NOI2
NOI1-TRM1-TRM2-CL-NOI2
NOI1-CL1-TRM-CL2-NOI2
NOI1-TRM-CL-SP-NOI2
NOI1-TRM1-CL1-NOI2-TRM2-CL2-NOI3
NOI1-TRM1-CL1-TRM2-CL2-NOI2
(ここで、
TRM1およびTRM2は同じものまたは異なるものでもよく、第1および第2の翻訳リードスルーモチーフであり;
CL1およびCL2は同じものまたは異なるものでもよく、切断部位をコードする第1および第2の核酸配列であり、
SPは減衰シグナルペプチドであり;ならびに
NOI3は第3の目的のヌクレオチド配列である)
の1つを有し得る。
【0031】
切断部位は、例えば、自己切断ペプチド、フューリン切断部位またはタバコエッチウイルス切断部位を含み得る。
【0032】
切断部位は、例えば、アフトウイルスもしくはカルジオウイルス由来の2A自己切断ペプチドまたは2A様ペプチドを含み得る。
【0033】
第2(または後続)の目的のヌクレオチドは、サイトカイン、ケモカインまたは毒素をコードし得る。
【0034】
核酸構築物は、細胞において発現されると、2つの産物:
a)NOI1のみによりコードされる第1の産物;ならびに
b)NOI1およびNOI2によりコードされる第2の産物であって、フレームスリップまたは翻訳リードスルーが起こる場合に産生される第2の産物
を産生することができるものであり得る。
【0035】
この実施形態では、第2の産物は、キメラ抗原受容体(CAR)であり得、第1の産物は、CAR媒介性細胞伝達を誘導することができないCARの短縮バージョンであり得る。
【0036】
あるいは、第1の産物は、細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)(すなわち、第1世代CAR)であり得、第2の産物は、細胞内シグナル伝達ドメインおよび1つまたはそれを超える共刺激ドメインを含むCAR(すなわち、第2世代または第3世代CARである。
【0037】
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様による核酸構築物を含むベクターを提供する。
【0038】
ベクターは、例えば、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターであり得る。
【0039】
第3の態様では、本発明は、本発明の第1の態様による核酸構築物または本発明の第2の態様によるベクターを含む細胞を提供する。
【0040】
第4の態様では、本発明は、本発明の第3の態様による細胞を作製するための方法であって、本発明の第1の態様による核酸構築物または本発明の第2の態様によるベクターを細胞に導入する工程を含む方法を提供する。
【0041】
第5の態様では、核酸構築物中の2つの導入遺伝子の相対発現をモジュレートするための方法であって、下流導入遺伝子の発現を減少させるために、前記2つの導入遺伝子の間にフレームスリップモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフを含める工程を含む方法を提供する。
【0042】
導入遺伝子発現を制御する手段としてフレームスリップまたは翻訳リードスルーを使用することの重要な利点は、広範囲の発現が達成可能であり、2つの導入遺伝子が発現される場合に、第2の導入遺伝子の発現レベルを第1の導入遺伝子の1%未満に減少させ得ることである。これは、改変シグナルペプチドを使用して達成され得るレベルよりもかなり低いものであり、非常に低いレベルの発現が必須である毒性化合物などのタンパク質の発現に前記技術を使用することを可能にする。
【0043】
フレームスリップまたは翻訳リードスルーの使用は、予測可能な規定の比で導入遺伝子の発現を可能にする。異なるフレームスリッピングまたはリードスルーモチーフを使用することにより、導入遺伝子発現のレベルを調整することも可能である。
【0044】
この系は、任意の導入遺伝子の発現を制御するために使用され得、細胞表面タンパク質の発現に限定されない。
特定の態様では、例えば以下の項目が提供される:
(項目1)
第1の目的のヌクレオチド配列(NOI1);フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM);および第2の目的のヌクレオチド配列(NOI2)を含む、核酸構築物。
(項目2)
NOI1およびNOI2が別個のタンパク質として発現されるように、切断部位(CL)をコードするヌクレオチド配列も含む、項目1に記載の核酸構築物。
(項目3)
構造:
NOI1-CL-FSM-NOI2;または
NOI1-TRM-CL-NOI2
を有する、項目2に記載の核酸構築物。
(項目4)
ウラシル、チミンまたはグアニン塩基のリピートを含むフレームスリップモチーフ(FSM)を含む、項目1~3のいずれかに記載の核酸構築物。
(項目5)
前記FSMが配列UUUUUUU(配列番号1)を含む、項目4に記載の核酸構築物。
(項目6)
前記FSMが終止コドンも含む、項目4または5に記載の核酸構築物。
(項目7)
前記FSMが、以下の配列:
UUUUUUUGA(配列番号2)
UUUUUUUAG(配列番号3)
UUUUUUUAA(配列番号4)
の1つを含む、項目6に記載の核酸構築物。
(項目8)
配列STOP-CUAGまたはSTOP-CAAUUA(ここで、「STOP」は終止コドンである)を含む翻訳リードスルーモチーフ(TRM)を含む、項目1~3のいずれかに記載の核酸構築物。
(項目9)
前記翻訳リードスルーモチーフが、以下の配列:
UGA-CUAG(配列番号5)
UAG-CUAG(配列番号6)
UAA-CUAG(配列番号7)
UGA-CAAUUA(配列番号8)
UAG-CAAUUA(配列番号9)
UAA-CAAUUA(配列番号10)
の1つを含む、項目8に記載の核酸構築物。
(項目10)
構造:
NOI1-TRM-CL-NOI2
NOI1-TRM1-TRM2-CL-NOI2
NOI1-CL1-TRM-CL2-NOI2
NOI1-TRM-CL-SP-NOI2
NOI1-TRM1-CL1-NOI2-TRM2-CL2-NOI3
NOI1-TRM1-CL1-TRM2-CL2-NOI2
(ここで、
TRM1およびTRM2は同じものまたは異なるものでもよく、第1および第2の翻訳リードスルーモチーフであり;
CL1およびCL2は同じものまたは異なるものでもよく、それぞれが切断部位をコードする第1および第2の核酸配列であり、
SPは減衰シグナルペプチドであり;ならびに
NOI3は第3の目的のヌクレオチド配列である)
を有する、項目8または9に記載の核酸構築物。
(項目11)
前記切断部位が、自己切断ペプチド、フューリン切断部位またはタバコエッチウイルス切断部位を含む、項目2~10のいずれかに記載の核酸構築物。
(項目12)
前記切断部位が、アフトウイルスもしくはカルジオウイルス由来の2A自己切断ペプチドまたは2A様ペプチドを含む、項目11に記載の核酸構築物。
(項目13)
NOI2が、サイトカイン、ケモカインまたは毒素をコードする、項目1~12のいずれかに記載の核酸構築物。
(項目14)
細胞において発現されると、2つの産物:
a)NOI1のみによりコードされる第1の産物;ならびに
b)NOI1およびNOI2によりコードされる第2の産物であって、フレームスリップまたは翻訳リードスルーが起こる場合に産生される第2の産物
を産生することができる、項目1に記載の核酸構築物。
(項目15)
前記第2の産物がキメラ抗原受容体(CAR)であり、前記第1の産物が、CAR媒介性細胞シグナル伝達を誘導することができない前記CARの短縮バージョンである、項目14に記載の核酸構築物。
(項目16)
前記第1の産物が、細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)であり、前記第2の産物が、細胞内シグナル伝達ドメインおよび1つまたはそれを超える共刺激ドメインを含むCARである、項目14に記載の核酸構築物。
(項目17)
項目1~16のいずれかに記載の核酸構築物を含む、ベクター。
(項目18)
項目17に記載のレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクター。
(項目19)
項目1~16のいずれか一項に記載の核酸構築物または項目17もしくは19に記載のベクターを含む、細胞。
(項目20)
項目19に記載の細胞を作製するための方法であって、項目1~16のいずれかに記載の核酸構築物または項目17もしくは18に記載のベクターを細胞に導入する工程を含む、方法。
(項目21)
核酸構築物中の2つの導入遺伝子の相対発現をモジュレートするための方法であって、下流導入遺伝子の発現を減少させるために、前記2つの導入遺伝子の間にフレームスリップモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフを含める工程を含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】同じベクターから異なるタンパク質を発現させるために利用される方法。(a)同じカセット内の2つの異なるプロモーターは、それぞれが別個のタンパク質を生じさせる2つの異なる転写産物をもたらす。(b)内部リボソーム侵入配列(IRES)の使用は、2つの別個のタンパク質に翻訳される単一の転写産物をもたらす。(c)FMDV2Aペプチドの使用は、2つの別個のタンパク質に迅速に切断される単一の転写産物および単一のポリタンパク質をもたらす。
【
図2】フレームスリップモチーフおよび構築物設計。(A)一連の7つのウリジンを導入遺伝子配列に挿入したフレームスリップモチーフであって、フレームスリップを促進するフレームスリップモチーフを示す図。フレームスリッピングは、通常は-1方向の代替的なリーディングフレームの継続的な転写/翻訳、および機能的タンパク質の生成をもたらす。(B)導入遺伝子、フレームスリップモチーフ(SLIP)および2A自己切断ペプチド配列の位置を示す構築物の構造。(C)RQR8選別選択マーカーと、それに続く、制御配列(6×U)またはフレームスリップモチーフ(7×U)のいずれかと、CD19の膜貫通および短縮エンドドメインに融合されたCD22の外部ドメインからなるCD22-CD19キメラタンパク質とを含有する構築物を形質導入したSupT1細胞のフローサイトメトリー分析。フレームスリップモチーフの導入は、CD22-CD19キメラの発現の劇的な減少をもたらし、同様のレベルのRQR8選別選択マーカーが観察された。
【
図3】翻訳リードスルーモチーフおよび構築物設計。(A)公知の翻訳リードスルーモチーフの例。(B~G)翻訳リードスルーモチーフ構築物の構造。(B)翻訳リードスルーモチーフを第1の導入遺伝子の3’側ならびに2A自己切断ペプチド配列および導入遺伝子2の5’側に配置した2つの導入遺伝子からなる翻訳リードスルー構築物。導入遺伝子1の発現は、導入遺伝子2よりも有意に高い。(B’)単一の終止コドンで達成されるものよりも発現レベルをさらに減少させるために2つの終止コドンを翻訳リードスルーモチーフに組み込んだ二重終止翻訳リードスルー構築物。(C)2つの2A自己切断ペプチド配列に挟まれた翻訳リードスルーモチーフからなるユニバーサル翻訳リードスルー構築物。この構築物は、予測不可能なレベルの翻訳リードスルーをもたらし得る配列依存的効果を軽減する。(D)導入遺伝子2の発現レベルをさらに減少させるために翻訳リードスルーモチーフを減衰シグナルペプチド(attenuated signal peptide)配列と組み合わせたコンビナトリアルアプローチ。(EおよびE’)減少した導入遺伝子発現のカスケードを生じさせるために複数のモチーフを直列に配置した複合翻訳リードスルーモチーフ。(E)翻訳リードスルーモチーフおよび2A自己切断ペプチド配列を使用して、単一のカセットから複数の導入遺伝子を発現させる。(E’)自己切断ペプチド配列を使用して、導入遺伝子2の5’側の翻訳リードスルーモチーフを分離する。(FおよびF’)機能的翻訳リードスルー構築物。(F)翻訳リードスルーモチーフをCARのスペーサードメインの3’側に配置することにより、抗原結合ドメイン(scFv/VHH)および機能的CARの分泌を達成し得る。機能的リードスルーは機能的CARの発現をもたらし、終止コドンにおける翻訳の終結は分泌抗体を生じさせる。(F’)翻訳リードスルーモチーフを第1のエンドドメイン(CD3ζエンドドメインまたは共受容体エンドドメインのいずれか)の3’側に配置することにより、第1世代、第2世代および第3世代CARの組み合わせを産生し得る。機能的翻訳リードスルーは、第1世代CARから第2または第3世代CARに発現を切り替える。
【
図4A】CD22-CD19キメラの発現を制御するための減衰シグナルペプチドおよび翻訳リードスルーモチーフアプローチの比較。(A)RQQ8選別選択マーカーおよびCD22-CD19キメラをコードする構築物をトランスフェクトしたHEK293T細胞のフローサイトメトリー分析。シグナルペプチド変異体(1行目)、翻訳リードスルーモチーフ構築物(2行目および3行目)および二重終止翻訳リードスルーモチーフ(4行目)。野生型シグナルペプチドと比較して、リジン11シグナルペプチド変異体(L11K変異)では、CD22-CD19キメラの発現は減少する。stop-CUAGおよびstop-CAAUUA翻訳リードスルーモチーフは、それらをCD22-CD19導入遺伝子の5’側に配置した場合に同様の結果をもたらし、両モチーフは、キメラの発現レベルをRQR8選別選択マーカーの約2%またはそれ未満に減少させる。二重終止翻訳リードスルーモチーフ(4行目)を使用して、より低い発現レベルのCD22-CD19キメラを得た。(B)減衰シグナルペプチド変異体を翻訳リードスルー構築物と比較する、トランスフェクトしたHEK293T細胞の表面上のCD22-CD19キメラの平均蛍光強度の定量。翻訳リードスルー構築物を使用して、減衰シグナルペプチド変異体と比較して実質的により低いレベルのCD22-CD19キメラを得た。
【
図4B】CD22-CD19キメラの発現を制御するための減衰シグナルペプチドおよび翻訳リードスルーモチーフアプローチの比較。(A)RQQ8選別選択マーカーおよびCD22-CD19キメラをコードする構築物をトランスフェクトしたHEK293T細胞のフローサイトメトリー分析。シグナルペプチド変異体(1行目)、翻訳リードスルーモチーフ構築物(2行目および3行目)および二重終止翻訳リードスルーモチーフ(4行目)。野生型シグナルペプチドと比較して、リジン11シグナルペプチド変異体(L11K変異)では、CD22-CD19キメラの発現は減少する。stop-CUAGおよびstop-CAAUUA翻訳リードスルーモチーフは、それらをCD22-CD19導入遺伝子の5’側に配置した場合に同様の結果をもたらし、両モチーフは、キメラの発現レベルをRQR8選別選択マーカーの約2%またはそれ未満に減少させる。二重終止翻訳リードスルーモチーフ(4行目)を使用して、より低い発現レベルのCD22-CD19キメラを得た。(B)減衰シグナルペプチド変異体を翻訳リードスルー構築物と比較する、トランスフェクトしたHEK293T細胞の表面上のCD22-CD19キメラの平均蛍光強度の定量。翻訳リードスルー構築物を使用して、減衰シグナルペプチド変異体と比較して実質的により低いレベルのCD22-CD19キメラを得た。
【
図5-1】直列の翻訳リードスルーモチーフ。A)直列に配置した終止コドンおよび翻訳リードスルーモチーフを用いて生成した構築物の図。簡単にするために、直列の翻訳リードスルーモチーフを有する構築物の構造を示す4つの例のみが示されている。CD8aストーク上に提示されるHAエピトープである細胞表面マーカーは常にカセット中の第1の位置にあり、それに続いて、異なるコード配列を有するタンデムClover3またはEBFPのいずれかが自己切断ペプチド配列(2A)により分離されている。終止コドンを(トリプトファンをコードする)UGGで置き換え、タンデムmCloverまたはEBFPが第2または第3の位置にある2つの対照構築物をクローニングした。直列の翻訳リードスルーモチーフを有する構築物について、3つすべての終止コドン(UGA、UAGおよびUAA)を試験し、利用した翻訳リードスルーモチーフはCUAGであった。同じ終止コドンを両位置で使用した。B)構築物を形質導入したPBMCのフローサイトメトリーは、0、1または2個の終止コドン/翻訳リードスルーモチーフを有する構築物からのタンデムClover3蛍光強度を示す(対照は終止コドンなしであり、タンデムClover3が位置2にある)。ヒストグラムは、直列の翻訳リードスルーモチーフを有する構築物からのタンデムClover3発現の減少を示しており、レベルは、存在する終止コドンに応じて変動する。C)細胞表面マーカーと比べたタンデムClover3蛍光強度レベルの正規化。UGA、UAGまたはUAA終止コドンおよびCUAG翻訳リードスルーモチーフのすぐ下流に配置した場合、レベルはそれぞれ6倍、24倍または33倍減少した。タンデムClover3配列を2つの終止コドンおよび翻訳リードスルーモチーフの下流に配置した場合、タンデムClover3レベルの100倍の減少が観察された。
【
図5-2】直列の翻訳リードスルーモチーフ。A)直列に配置した終止コドンおよび翻訳リードスルーモチーフを用いて生成した構築物の図。簡単にするために、直列の翻訳リードスルーモチーフを有する構築物の構造を示す4つの例のみが示されている。CD8aストーク上に提示されるHAエピトープである細胞表面マーカーは常にカセット中の第1の位置にあり、それに続いて、異なるコード配列を有するタンデムClover3またはEBFPのいずれかが自己切断ペプチド配列(2A)により分離されている。終止コドンを(トリプトファンをコードする)UGGで置き換え、タンデムmCloverまたはEBFPが第2または第3の位置にある2つの対照構築物をクローニングした。直列の翻訳リードスルーモチーフを有する構築物について、3つすべての終止コドン(UGA、UAGおよびUAA)を試験し、利用した翻訳リードスルーモチーフはCUAGであった。同じ終止コドンを両位置で使用した。B)構築物を形質導入したPBMCのフローサイトメトリーは、0、1または2個の終止コドン/翻訳リードスルーモチーフを有する構築物からのタンデムClover3蛍光強度を示す(対照は終止コドンなしであり、タンデムClover3が位置2にある)。ヒストグラムは、直列の翻訳リードスルーモチーフを有する構築物からのタンデムClover3発現の減少を示しており、レベルは、存在する終止コドンに応じて変動する。C)細胞表面マーカーと比べたタンデムClover3蛍光強度レベルの正規化。UGA、UAGまたはUAA終止コドンおよびCUAG翻訳リードスルーモチーフのすぐ下流に配置した場合、レベルはそれぞれ6倍、24倍または33倍減少した。タンデムClover3配列を2つの終止コドンおよび翻訳リードスルーモチーフの下流に配置した場合、タンデムClover3レベルの100倍の減少が観察された。
【
図6-1】翻訳リードスルーモチーフの下流のヒトflexi-IL-12の制御発現。A)IL-12α(p35)およびIL-12β(p40)サブユニットの間の融合物からなるヒトflexi-IL-12を、両タンパク質の発現を容易にする自己切断ペプチドと共に選別選択マーカーRQR8の下流に配置した構築物の構造を示すダイアグラム。翻訳リードスルーモチーフCAAUUAを用いて、3つすべての終止コドンを試験した。B)構築物を形質導入し、CD3εおよびRQR8に対する抗体で染色したPBMCの代表的なフローサイトメトリープロット。C)形質導入効率の決定の24、48および72時間後における形質導入PBMC由来の分泌IL-12の定量。結果は、翻訳リードスルー構築物によりIL-12分泌が有意に減少することを実証している。
【
図6-2】翻訳リードスルーモチーフの下流のヒトflexi-IL-12の制御発現。A)IL-12α(p35)およびIL-12β(p40)サブユニットの間の融合物からなるヒトflexi-IL-12を、両タンパク質の発現を容易にする自己切断ペプチドと共に選別選択マーカーRQR8の下流に配置した構築物の構造を示すダイアグラム。翻訳リードスルーモチーフCAAUUAを用いて、3つすべての終止コドンを試験した。B)構築物を形質導入し、CD3εおよびRQR8に対する抗体で染色したPBMCの代表的なフローサイトメトリープロット。C)形質導入効率の決定の24、48および72時間後における形質導入PBMC由来の分泌IL-12の定量。結果は、翻訳リードスルー構築物によりIL-12分泌が有意に減少することを実証している。
【
図7-1】翻訳リードスルーモチーフの下流のマウスIL-12の制御発現。A)自殺遺伝子(RapaCasp9)、細胞表面マーカーThy1.1およびマウスflexi-IL-12を有するトリシストロン性構築物のダイアグラム。内部リボソーム侵入部位(IRES)、減衰シグナルペプチドモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフにより、マウスflexi-IL-12レベルをモジュレートした。B)構築物を形質導入し、CD3およびThy1.1に対する抗体で染色したBalbC脾細胞の代表的なフローサイトメトリープロット。C)形質導入した脾細胞由来の分泌IL-12レベルのELISAによる定量。D)形質導入した脾細胞由来の上清を使用して、活性化脾細胞を再刺激した。ELISAにより、IFNgの存在について、再刺激由来の上清を分析した。重要なことに、これらの結果は、翻訳リードスルーモチーフを形質導入した脾細胞由来の上清が、再刺激脾細胞からのIFNγ分泌を誘発することができたことを実証した。
【
図7-2】翻訳リードスルーモチーフの下流のマウスIL-12の制御発現。A)自殺遺伝子(RapaCasp9)、細胞表面マーカーThy1.1およびマウスflexi-IL-12を有するトリシストロン性構築物のダイアグラム。内部リボソーム侵入部位(IRES)、減衰シグナルペプチドモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフにより、マウスflexi-IL-12レベルをモジュレートした。B)構築物を形質導入し、CD3およびThy1.1に対する抗体で染色したBalbC脾細胞の代表的なフローサイトメトリープロット。C)形質導入した脾細胞由来の分泌IL-12レベルのELISAによる定量。D)形質導入した脾細胞由来の上清を使用して、活性化脾細胞を再刺激した。ELISAにより、IFNgの存在について、再刺激由来の上清を分析した。重要なことに、これらの結果は、翻訳リードスルーモチーフを形質導入した脾細胞由来の上清が、再刺激脾細胞からのIFNγ分泌を誘発することができたことを実証した。
【
図8A】翻訳リードスルーIL-12構築物の毒性試験。A)前記RapaCasp6、Thy1.1およびIL-12コード構築物と、短縮マウスCD34(mudCD34)、ホタルルシフェラーゼ(FLuc)および抗GD2キメラ抗原受容体(CAR)を含有する第2の構築物とを脾細胞に共形質導入した。CD34およびThy1.1に対する抗体で形質導入した脾細胞を染色し、フローサイトメトリーを行って形質導入効率を決定した。B)形質導入した脾細胞をマウスに注射し、15日後、それらを屠殺し、それらの脾臓を摘出した。構成的発現IL-12を形質導入した脾細胞を注射したマウスにおいてのみ、脾臓肥大が観察された(2Aと示されている群)。
【
図8B】翻訳リードスルーIL-12構築物の毒性試験。A)前記RapaCasp6、Thy1.1およびIL-12コード構築物と、短縮マウスCD34(mudCD34)、ホタルルシフェラーゼ(FLuc)および抗GD2キメラ抗原受容体(CAR)を含有する第2の構築物とを脾細胞に共形質導入した。CD34およびThy1.1に対する抗体で形質導入した脾細胞を染色し、フローサイトメトリーを行って形質導入効率を決定した。B)形質導入した脾細胞をマウスに注射し、15日後、それらを屠殺し、それらの脾臓を摘出した。構成的発現IL-12を形質導入した脾細胞を注射したマウスにおいてのみ、脾臓肥大が観察された(2Aと示されている群)。
【
図9-1】脾細胞のフローサイトメトリー分析。A)CD11b、CD3、CD4、CD8およびCD19に対する抗体で屠殺マウス由来の脾細胞を染色し、フローサイトメトリーにより分析した。使用したゲーティング戦略が示されている。B~F)存在するCD11b
+(マクロファージ)、CD3
+(T細胞)、CD4
+(ヘルパーT細胞)、CD8
+(細胞傷害性T細胞)およびC19
+(B細胞)のパーセンテージ。IL-12またはIRESを構成的に発現する構築物を形質導入した脾細胞を注射したマウスの脾臓では、増加した数のマクロファージおよびT細胞が存在していた。IL-12を構成的に発現する脾細胞を有するマウスでは、B細胞数の減少が観察された。
【
図9-2】脾細胞のフローサイトメトリー分析。A)CD11b、CD3、CD4、CD8およびCD19に対する抗体で屠殺マウス由来の脾細胞を染色し、フローサイトメトリーにより分析した。使用したゲーティング戦略が示されている。B~F)存在するCD11b
+(マクロファージ)、CD3
+(T細胞)、CD4
+(ヘルパーT細胞)、CD8
+(細胞傷害性T細胞)およびC19
+(B細胞)のパーセンテージ。IL-12またはIRESを構成的に発現する構築物を形質導入した脾細胞を注射したマウスの脾臓では、増加した数のマクロファージおよびT細胞が存在していた。IL-12を構成的に発現する脾細胞を有するマウスでは、B細胞数の減少が観察された。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、導入遺伝子の発現を減少させるモチーフ、例えばフレームスリップモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフを含む核酸構築物に関する。
【0047】
フレームスリップ
転写中に、RNAポリメラーゼは、DNAテンプレートへの相補性に基づいて、成長中のRNA鎖へのヌクレオチドの取り込みを触媒する。しかしながら、RNAポリメラーゼが一続きのリピート塩基に遭遇すると、スリッページまたは「スタッタリング」が発生し得る。転写スリッページは、天然では例えば、大腸菌pyrBIおよびcodBAオペロンの調節、パラミクソウイルスにおけるP遺伝子の発現、ならびにThermus thermophilesの細胞dnaX遺伝子の解読に利用される。
【0048】
RNAポリメラーゼがスリップすると、リピート塩基の1つ(またはおそらく2つ)が欠如するので、これは、代替的なリーディングフレームをコードするmRNAの合成をもたらし得る。
【0049】
本発明の核酸構築物は、代替的なリーディングフレームをコードするmRNAをもたらすRNAポリメラーゼのスリッページが存在する場合にのみ下流導入遺伝子の転写が起こるような転写フレームスリップ部位を含み得る。
【0050】
タンパク質へのmRNA配列の翻訳は、リボソーム、開始および伸長因子、アミノアシル転移RNA(aa-tRNA)、アミノアシルtRNAシンテターゼならびに終結因子のオーケストレーションを伴う複雑なプロセスである。翻訳の開始は、因子の複合体がmRNAの5’末端に結合すると始まり、次いで、これが40SリボソームのリクルートおよびmRNAのスキャンをもたらす。開始因子と40Sリボソームとの複合体が、アミノ酸メチオニン(AUGコドン)をコードするコドン(ヌクレオチドのトリプレット)に遭遇すると、60Sリボソームがリクルートされ、適切なアミノ酸がロードされた同族tRNAの対形成からポリペプチド合成が始まる。翻訳の開始は、AUG以外の代替的な開始コドンで起こり得るが、AUGは、最も頻繁に使用される開始コドンである。ポリペプチドの伸長は、tRNAがその同族コドンに結合し、新たに付加されたアミノ酸と伸長中のポリペプチドとの間にペプチド結合が形成し、ポリペプチドが移動して次のコドンを露出させる周期的な方法で起こる。
【0051】
翻訳中に、リボソームが特定のコドンで停止する場所では、リボソーム中断が起こり得る。リボソーム中断は、核細胞経路(nucleocytic pathway)によるmRNAの分解を促進し得るか、またはそれは、-1もしくは-2方向のスリップを誘導し得る。UUUUUUAなどのmRNA内の反復配列は、翻訳フレームスリッピングを誘導することが公知であり、この配列は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の群特異抗原遺伝子(gag)およびポリメラーゼ(pol)遺伝子の3’末端に存在する。HIV gag/pol遺伝子の翻訳フレームスリッピング-1は、Gag-Polポリタンパク質の発現をもたらす。
【0052】
本発明の核酸構築物は、リボソームによるフレームスリップが存在する場合にのみ下流転写産物の翻訳が起こるように、翻訳フレームスリッピング部位を含み得る。
【0053】
フレームスリップ部位は、同じタイプの一続きの塩基を含み得る。
【0054】
フレームスリップモチーフは、核酸構築物中の切断部位の上流および/または下流に配置され得る。フレームスリップモチーフは、核酸構築物中の第1および第2の導入遺伝子の間に位置する。
【0055】
フレームスリップモチーフは単独で使用され得る。この実施形態では、第2の導入遺伝子は、フレームスリップが第2の導入遺伝子の転写または翻訳に必要であるように、フレームスリッピング部位の下流のフレームの外に配置され得る。
【0056】
モチーフは、例えば、5、7、8、10または11個の一続きの塩基を含み得る。部位は、例えば、ウラシル、アデノシンまたはグアニン塩基のリピートを含み得る。部位は、例えば、配列番号1として示されている配列を含み得る。
UUUUUUU(配列番号1)。
【0057】
あるいは、フレームスリップ部位は、終止コドンと組み合わせて使用され得る。この実施形態では、終止コドンは、終止コドンが無視されるためにフレームスリッピングが必要であるように、フレームスリップ部位の下流のフレーム内に位置する。
【0058】
終止コドンは、UGA、UAGまたはUAAであり得る。フレームスリップ部位は、3の倍数のウラシル、アデノシンまたはグアニン塩基のリピート、例えばウラシル、アデノシンまたはグアニン塩基の3、6または9個のリピートを含み得る。
【0059】
フレームスリップ部位/終止コドン組み合わせの例は、配列番号2、3および4として示されている。
UUUUUUUGA(配列番号2)
UUUUUUUAG(配列番号3)
UUUUUUUAA(配列番号4)。
【0060】
翻訳リードスルー
リボソームがUGA、UAGまたはUAA終止コドンに遭遇すると、翻訳は終結する。この時点で、終結因子は終止コドンを認識し、リボソームの解離および再利用を容易にする。終結因子と近同族tRNAとの間の競合およびポリペプチドの継続的な伸長は0.1%の割合でしか起こらないので、翻訳の終了は、通常、終止コドンの再コーディングにより高い忠実度で起こる。しかしながら、特定の遺伝子では、翻訳リードスルーをもたらす終止コドンの再コーディングのレベルの上昇が報告されている。いくつかの場合では、これは、機能的リードスルーと称されるプロセスで、さらなる機能的モチーフを有するより長いポリペプチドの生成をもたらした。
【0061】
終結因子1(RF1)が終止コドンを認識することができず、近同族aa-tRNAがアミノ酸を伸長中のポリペプチドに挿入し、それにより、終止コドンを抑制すると、翻訳リードスルーが起こる。終結因子およびaa-tRNAの局所濃度は、終止コドン抑制および翻訳リードスルーのレベルに影響を及ぼし、低濃度の終結因子は翻訳リードスルーを促進する。哺乳動物では、UAG終止コドンの抑制は、トリプトファン、アルギニンまたはシステイン残基の挿入をもたらす。
【0062】
終止コドン抑制の最初期に発見された例の1つは、翻訳リードスルーがタンパク質3のC末端への22個のアミノ酸の付加をもたらすウサギベータグロビン遺伝子である。
【0063】
翻訳リードスルーの頻度は、1)使用される終止コドン(UGA、UAGまたはUAA);2)終止コドンに直接隣接する配列(終止コドンの上流および下流の6ヌクレオチドが特に重要である)および;3)mRNAの3’末端におけるシス作用性配列の存在を含む多くの要因に依存する。
【0064】
3つの終止コドンの終結効率は変動し、UAAは最も強い終止コドンであり、UGAは最も弱く、終結効率の階層はUAA>UAG>UGAとして定義される。その結果、最高レベルの翻訳リードスルーはUGA終止コドンで示され、最低はUAA終止コドンで示される。
【0065】
翻訳リードスルーを示す遺伝子の配列分析は、終止コドン抑制および持続的な翻訳を促進する少なくとも2つの異なるモチーフ:STOP-CUAGおよびSTOP-CAAUUA(ここで、stopはUGA、UAGまたはUAAであり得る)を同定した。翻訳リードスルーのレベルは、使用される終止コドンに依存する:UGAは最高レベルの翻訳リードスルーを立証し、UAGおよびUAA終止コドンから漸減レベルのリードスルーが得られるので、リードスルーの全体的な階層はUGA>UAG>UAAである。
【0066】
本発明の核酸構築物は、配列番号5~10として示されている配列の1つを含み得る。UGACUAG(配列番号5)
UAGCUAG(配列番号6)
UAACUAG(配列番号7)
UGACAAUUA(配列番号8)
UAGCAAUUA(配列番号9)
UAACAAUUA(配列番号10)
【0067】
翻訳リードスルー部位は、核酸構築物中の第1および第2の導入遺伝子の間に位置し得る。翻訳リードスルー部位は、核酸構築物中の切断部位の上流および/または下流に配置され得る。翻訳リードスルー部位は、切断部位に隣接し得る(
図3C)。2つまたはそれを超える翻訳リードスルー部位が使用され得、例えば、互いの隣に(
図3B’)または切断部位に隣接して配置され得る(
図E’)。
【0068】
下流導入遺伝子の発現レベルをさらに減少させるために、複数の終止コドンが翻訳リードスルーモチーフの5’側に挿入され得る(
図2B)。多重終止翻訳リードスルーモチーフの例は、2つのUGA終止コドンがCUAGリードスルーモチーフの5’側に配置された配列番号11として示されている。
UGAUGACUAG(配列番号11)
【0069】
核酸構築物が2つを超える導入遺伝子を含む場合、複合翻訳リードスルーモチーフは、切断部位をコードする配列の5’側に直列に配置され得る。これは、複数の導入遺伝子が異なる比で発現されることを可能にする。さらなる各リードスルーモチーフを用いて、発現レベルは、上流導入遺伝子と比べて10~50倍減少するはずである。
【0070】
複合翻訳リードスルーモチーフを有する核酸構築物は、構造:
NOI1-TRM1-CL1-NOI2-TRM2-CL2-NOI3
を有し得る。
【0071】
リードスルー部位は、2つのバージョンのタンパク質(リードスルー部位までの(すなわち、リードスルーが起こらない場所の)転写産物の翻訳により作られる短いバージョン、ならびにリードスルー部位以外および下流の(すなわち、リードスルーが起こる場所の)転写産物の翻訳により作られる長いバージョン)が作られるようにコード配列内に配置され得る。このような配置の例は、
図3のFおよびF’に示されている。
【0072】
改変シグナルペプチド
翻訳リードスルーモチーフは導入遺伝子発現を有意に減少させるが、特定の状況では、発現レベルをさらに減少させる必要があり得る。タイプI膜貫通タンパク質および分泌タンパク質の場合、発現のさらなる減少は、改変シグナルペプチド配列と翻訳リードスルーモチーフを組み合わせることにより達成され得る。このようなアプローチは、シグナルペプチド配列を有するタイプI膜貫通タンパク質および分泌タンパク質に適する。この場合、改変シグナルペプチドおよび第2の導入遺伝子は、翻訳リードスルーモチーフおよび自己切断ペプチド配列の3’側に配置される(
図3D)。
【0073】
シグナルペプチドは、分泌経路に向かう新たに合成されたタンパク質の大部分のN末端に存在する一般には5~30アミノ酸長の短いペプチドである。これらのタンパク質としては、特定の細胞小器官(例えば、小胞体、ゴルジまたはエンドソーム)のいずれかの内部に存在し、細胞から分泌されるタンパク質および膜貫通タンパク質が挙げられる。
【0074】
シグナルペプチドは、一般に、単一のアルファヘリックスを形成する傾向を有する一続きの長い疎水性アミノ酸であるコア配列を含有する。シグナルペプチドは正に荷電した短い一続きのアミノ酸で始まり得、これは、トランスロケーション中のポリペプチドの適切なトポロジーの強化に役立つ。シグナルペプチドの末端には、典型的には、シグナルペプチダーゼにより認識および切断される一続きのアミノ酸がある。シグナルペプチダーゼは、トランスロケーションの途中またはその完了後のいずれかで切断して、遊離シグナルペプチドおよび成熟タンパク質を生成し得る。次いで、遊離シグナルペプチドは、特定のプロテアーゼにより消化される。
【0075】
一般に、シグナルペプチドは分子のアミノ末端に位置するが、いくつかのカルボキシ末端シグナルペプチドが公知である。
【0076】
改変シグナルペプチドは、国際公開第2016/174409号(これは、参照により本明細書に組み込まれる)に詳細に記載されている。改変シグナルペプチドは、それが由来する野生型シグナルペプチドよりも少ない疎水性アミノ酸を有するように1つまたはそれを超える変異、例えば置換または欠失を含み得る。「野生型」という用語は、それが由来する天然タンパク質に存在するシグナルペプチドの配列を意味する。
【0077】
核酸構築物が、両方が膜貫通タンパク質をコードする2つの導入遺伝子を含む場合、下流導入遺伝子によりコードされるタンパク質(これは、より低い相対発現を有する)は、上流導入遺伝子によりコードされるタンパク質(これは、より高い相対発現を有する)よりも少ない疎水性アミノ酸を含み得る。
【0078】
シグナルペプチド効率を改変するために変異される疎水性アミノ酸は、アラニン(A);バリン(V);イソロイシン(I);ロイシン(L);メチオニン(M);フェニルアラニン(P);チロシン(Y);またはトリプトファン(W)であり得る。
【0079】
改変シグナルペプチドは、疎水性アミノ酸の1、2、3、4または5つのアミノ酸欠失または置換を含み得る。疎水性アミノ酸は、非疎水性アミノ酸、例えば親水性または中性アミノ酸で置き換えられ得る。
【0080】
核酸構築物
本発明は、第1の目的のヌクレオチド配列(NOI1);フレームスリップモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフ(FSM/TRM);および第2の目的のヌクレオチド配列(NOI2)を含む核酸構築物に関する。
【0081】
「目的のヌクレオチド」は、RNAまたはDNAであり得る。目的のヌクレオチド(NOI)は、タンパク質の全部または一部であり得る目的のポリペプチド(POI)をコードする。
【0082】
NOI1およびNOI2(必要に応じて後続のNOI(複数可)と一緒に)は、一緒に転写および翻訳される場合にタンパク質をコードし得る。例えば、核酸構築物は、細胞において発現されると、2つの産物:
a)NOI1のみによりコードされる第1の産物;ならびに
b)NOI1およびNOI2によりコードされる第2の産物であって、フレームスリップまたは翻訳リードスルーが起こる場合に産生される第2の産物
を産生することができるものであり得る。
【0083】
NOI1およびNOI2によりコードされる全長産物の相対発現レベルは、NOI1のみによりコードされる短縮産物の発現レベル未満であり得る。
【0084】
あるいは、核酸構築物は、目的のヌクレオチド配列が別個のタンパク質として発現されるように、1つまたはそれを超える切断部位を含み得る。
【0085】
本発明の核酸構築物は、第1および第2のポリペプチドを含むポリタンパク質をコードし得る。ポリタンパク質は切断部位で切断されて、2つの別個のポリペプチドを生じさせ得る。
【0086】
NOIは、細胞内タンパク質、膜貫通タンパク質または分泌タンパク質をコードし得る。
【0087】
NOIは、例えば、キメラ抗原受容体(CAR)もしくはその一部、またはCARもしくはCAR発現細胞の活性に影響を与える作用物質(agent)、例えばサイトカインをコードし得る。
【0088】
導入遺伝子は、標的抗原をコードし得る。この点で、前記技術は、様々な非常に低レベルの標的抗原を用いて標的抗原を産生するために使用され得る。これらは、例えば、CARまたは操作されたT細胞受容体(TCR)を発現するT細胞の機能アッセイで使用され得る。
【0089】
NOIは、細胞による別の実体の合成に関与するタンパク質をコードし得る。例えば、細胞は、2つの酵素:GM3シンターゼおよびGD2シンターゼ(国際公開第2015/132604号)のトランスジェニック発現によりがん抗原ジシアロガングリオシド(GD2)を発現するように誘導され得る。細胞におけるこれらの酵素の発現レベルを低下させることにより、GD2low標的細胞を作ることが可能である。
【0090】
NOIは、炎症反応を増強しおよび/またはCAR-T細胞療法の有効性を増加させるサイトカインなどのサイトカインをコードし得る。サイトカインは、以下:IL-7、IL-12、IL15、IL-17A、IL-18およびIL-21から選択され得る。特に、サイトカインはIL-12であり得る。
【0091】
インターロイキン12(IL-12)は、抗原刺激に反応して樹状細胞、マクロファージ、好中球およびヒトBリンパ芽球細胞により天然に産生されるインターロイキンである。IL-12は、Th1細胞へのナイーブT細胞の分化に関与する。それは、T細胞の成長および機能を刺激し得るT細胞刺激因子として公知である。それは、T細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞からのインターフェロンガンマ(IFN-γ)および腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)の産生を刺激し、IFN-γのIL-4媒介性抑制を減少させる。
【0092】
IL-12は、ナチュラルキラー細胞およびTリンパ球の活性において重要な役割を果たす。IL-12は、NK細胞およびCD8+細胞傷害性Tリンパ球の細胞傷害活性の増強を媒介する。
【0093】
IL-12は、腫瘍微小環境をモジュレートしてがんに対して免疫反応を向け直すための特に重要な強力な免疫調節性サイトカインである。IL-12は全身的に毒性であるので、IL-12を局所的に産生するための方法が関心対象である。
【0094】
IL-12は、2つの別個の遺伝子IL-12A(p35)およびIL-12B(p40)によりコードされるヘテロ二量体サイトカインである。活性ヘテロ二量体(「p70」と称される)は、タンパク質合成後に形成される。
【0095】
NOIは、IL-12Aおよび/またはIL-12Bをコードし得る。ヒトIL-12Aの配列は、Uniprotアクセッション番号P29459から入手可能である。シグナルペプチドを欠くこの配列の一部は、配列番号53として以下に示されている。ヒトIL-12Bの配列は、Uniprotアクセッション番号P29460から入手可能である。シグナルペプチドを欠くこの配列の一部は、配列番号54として以下に示されている。
【化1】
【0096】
NOIは、リンカーにより接続されたヒトIL-12α(p35)およびIL-12β(p40)サブユニットの間の融合物である「flexi-IL-12」をコードし得る。適切なflexi-IL-12配列は、配列番号55として以下に示されている。
【化2-1】
【化2-2】
【0097】
配列番号55では、マウスカッパ鎖V-III領域MOPC63(Uniprot P01661)由来のシグナルペプチドは太字で示されており;セリン-グリシンリンカーは下線付きの太字である。
【0098】
NOIは、配列番号53、54もしくは55として示されている配列の1つまたはそのバリアントを含み得る。バリアント配列が、インビボで発現される場合にIL-12機能を保持するという条件で、バリアント配列は、配列番号53、54または55と少なくとも80、85、90、95、98または99%の配列同一性を有し得る。例えば、バリアント配列は、インビボで細胞傷害性T細胞の活性を増強する能力を保持し得、および/またはバリアント配列は、T細胞によるインターフェロンガンマ(IFN-γ)の産生を刺激し得る。
【0099】
IL-12またはfliexi-IL12をコードする配列は、フレームスリップモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフの下流に配置され得る。これは、サイトカイン発現を制御し、CARと比べてサイトカインの発現レベルを減少させる手段を提供する。
【0100】
NOIは、ケモカイン、例えば、CAR-T細胞療法の有効性を改善するケモカインをコードし得る。ケモカインはCCL19であり得る。特に、核酸構築物は、CCL19およびIL-7を共発現し得る。
【0101】
NOIは、抗体またはその一部をコードし得る。例えば、NOIは、免疫調節性抗体または抗体断片をコードし得る。抗体は、阻害性シグナル(PD1など)を遮断し得るか、または免疫系(例えば、OX40作動薬、41BB作動薬またはICOS作動薬)を活性化し得る。
【0102】
導入遺伝子は、毒性化合物、例えばボツリヌス菌、ジフテリアまたはシュードモナス毒素をコードし得る。
【0103】
キメラ抗原受容体
古典的なキメラ抗原受容体(CAR)は、細胞外抗原認識ドメイン(バインダー)を細胞内シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)に接続するキメラタイプI膜貫通タンパク質である。バインダーは、典型的には、モノクローナル抗体(mAb)由来の一本鎖可変断片(scFv)であるが、それは、抗体様抗原結合部位を含む他のフォーマットをベースとするものであり得る。スペーサードメインは、通常、膜からバインダーを分離し、それを適切な配向にすることを可能にするために必要である。使用される一般的なスペーサードメインはIgG1のFcである。抗原に応じて、よりコンパクトなスペーサー、例えばCD8α由来のストークおよびさらにはIgG1ヒンジのみで十分であり得る。膜貫通ドメインはタンパク質を細胞膜に固定し、スペーサーをエンドドメインに接続する。
【0104】
初期CAR設計は、FcεR1またはCD3ζのγ鎖のいずれかの細胞内部分由来のエンドドメインを有していた。その結果、これらの第1世代受容体は免疫学的シグナル1を伝達したが、これは、同族標的細胞のT細胞殺滅をトリガーするために十分であったが、T細胞を完全に活性化して増殖および生存させることができなかった。この制限を克服するために、複合エンドドメインが構築された:CD3ζのものへのT細胞共刺激分子の細胞内部分の融合は、抗原認識後に活性化および共刺激シグナルを同時に伝達し得る第2世代受容体をもたらす。最も一般に使用される共刺激ドメインはCD28のものである。これは、T細胞増殖をトリガーする最も強力な共刺激シグナル(すなわち、免疫学的シグナル2)を供給する。生存シグナルを伝達する密接に関連するOX40および41BBなどのTNF受容体ファミリーエンドドメインを含むいくつかの受容体も記載されている。活性化、増殖および生存シグナルを伝達することができるエンドドメインを有するさらに強力な第3世代CARが今では記載されている。
【0105】
CARが標的抗原に結合すると、これは、それが発現されるT細胞への活性化シグナルの伝達をもたらす。したがって、CARは、標的抗原を発現する腫瘍細胞に向けてT細胞の特異性および細胞傷害性を誘導する。
【0106】
したがって、CARは、典型的には、(i)抗原結合ドメイン;(ii)スペーサー;(iii)膜貫通ドメイン;および(iii)シグナル伝達ドメインを含むまたはそれに関連する細胞内ドメインを含む。
【0107】
CARは、一般構造:
抗原結合ドメイン-スペーサードメイン-膜貫通ドメイン-細胞内シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)
を有し得る。
【0108】
本発明の核酸構築物のNOIまたはNOIの組み合わせは、CARの全部または一部をコードし得る。
【0109】
機能的リードスルーは、CARの機能性を増加させるために利用され得る。これは、翻訳リードスルーモチーフを抗原結合ドメインの下流またはCARのシグナル伝達ドメインの間に挿入することにより達成され得る(
図3FおよびF’)。
【0110】
いくつかの状況では、抗原結合ドメイン(scFv/VHH)を分泌させて、CART細胞が、低レベルの標的抗原を発現する正常組織を標的とするオンターゲットオフ腫瘍効果を軽減することが望ましい場合がある。分泌された抗原結合ドメインは、正常細胞の表面上において発現される抗原に結合し、それにより、CART細胞による正常細胞の認識を防止するはずである。機能的リードスルーは、翻訳リードスルーモチーフをCARの膜貫通ドメインのすぐ上流に配置することにより、抗原結合ドメインを分泌するようにT細胞を操作するために使用され得る。
【0111】
核酸構築物は、一般構造:
scFv/VHH-TRM-スペーサー-TMドメイン-エンドドメイン、または
scFv/VHH-スペーサー-TRM-TMドメイン-エンドドメイン
(ここで、
scFv/VHHは、抗原結合ドメインをコードするヌクレオチド配列であり、
スペーサーは、スペーサーをコードするヌクレオチド配列であり、
TMドメインは、TMドメインをコードするヌクレオチド配列であり、および
エンドドメインは、エンドドメインをコードするヌクレオチド配列であり、例えば、第1、第2または第3世代エンドドメインであり得る)
を有し得る。
【0112】
機能的リードスルーはまた、第1、第2または第3世代であるCARの組み合わせを生成するために使用され得る。この状況では、翻訳リードスルーモチーフは、CD3zおよび共受容体エンドドメインの間に配置され得、これが、第1世代CAR(CD3ζシグナル伝達ドメインのみ)の高レベルの発現、および実質的に低いレベルの第2または第3世代CARをもたらす。
核酸構築物は、一般構造:
scFv/VHH-スペーサー-TMドメイン-CD3ζエンドドメインTRM-共刺激ドメイン、または
scFv/VHH-スペーサー-TMドメイン-CD3ζエンドドメインTRM1-共刺激ドメイン1-TRM2-共刺激ドメイン2
(ここで、
scFv/VHHは、抗原結合ドメインをコードするヌクレオチド配列であり、
スペーサーは、スペーサーをコードするヌクレオチド配列であり、
TMドメインは、TMドメインをコードするヌクレオチド配列であり、および
CD3ζエンドドメインは、CD3ζエンドドメインをコードするヌクレオチド配列であり、
共刺激ドメインは、共受容体、例えばCD28またはTNF受容体スーパーファミリーのメンバー由来のエンドドメインなどの共刺激ドメインをコードするヌクレオチド配列である)
を有し得る。
【0113】
共受容体およびCD3ζシグナル伝達ドメインの両方を有するCARは少ないので、CARの会合が主に共刺激シグナル(シグナル2)を細胞に提供し、減少した抗原シグナル(シグナル1)を細胞に提供するようにCD3ζおよび共受容体エンドドメインの位置を交換することにより、異なる反復が生成され得る。
【0114】
キメラサイトカイン受容体
国際公開第2017/029512号は、非サイトカイン結合分子の結合特異性をサイトカイン受容体のエンドドメインに移植するキメラサイトカイン受容体について記載している。それはまた、二量体化ドメイン;およびサイトカイン受容体エンドドメインを含むキメラ膜貫通タンパク質について記載している。
【0115】
二量体化は自発的に起こり得、この場合、キメラ膜貫通タンパク質は構成的に活性である。あるいは、二量体化は、化学的二量体化誘導物質(CID)の存在下でのみ起こり得、この場合、膜貫通タンパク質は、CIDの存在下でのみサイトカインタイプシグナル伝達を引き起こす。
【0116】
構成的に活性なキメラサイトカイン受容体は、外部ドメインとして抗体のFab部分を含み得る。この点で、二量体化ドメインは、重鎖定常ドメイン(CH)および軽鎖定常ドメイン(CL)の二量体化部分を含み得る。
【0117】
キメラ膜貫通タンパク質は、2つのポリペプチド:
(i)
(a)第1の二量体化ドメイン;および
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第1の鎖
を含む第1のポリペプチド;ならびに
(ii)
(a)第1の二量体化ドメインと二量体化する第2の二量体化ドメイン;および
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第2の鎖
を含む第2のポリペプチド
を含み得る。
【0118】
特に、キメラ膜貫通タンパク質は、
(i)
(a)重鎖定常ドメイン(CH)
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第1の鎖
を含む第1のポリペプチド;および
(ii)
(a)軽鎖定常ドメイン(CL)
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第2の鎖
を含む第2のポリペプチド
を含み得る。
【0119】
サイトカイン受容体エンドドメインの第1および第2の鎖は、タイプIサイトカイン受容体エンドドメインα、βおよびγ鎖から選択され得る。
【0120】
サイトカイン受容体エンドドメインは、
(i)IL-2受容体β鎖エンドドメイン
(ii)IL-7受容体α鎖エンドドメイン;または
(iii)IL-15受容体α鎖エンドドメイン;および/または
(iv)共通γ鎖受容体エンドドメイン
を含み得る。
【0121】
IL-2
IL-2は、多くの場合にα、βおよびγ「鎖」と称される3つの異なるタンパク質の異なる組み合わせにより生成される3つの形態を有するIL-2受容体に結合する;これらのサブユニットはまた、他のサイトカインに対する受容体の一部である。IL-2Rのβおよびγ鎖は、タイプIサイトカイン受容体ファミリーのメンバーである。
【0122】
3つの受容体鎖は、様々な細胞タイプ上において別個に異なって発現され、異なる組み合わせおよび順序で集合して、低親和性、中程度親和性および高親和性のIL-2受容体を生成し得る。
【0123】
α鎖は低親和性でIL-2に結合し、βおよびγの組み合わせは一緒になって、主に記憶T細胞およびNK細胞上において中程度親和性でIL-2に結合する複合体を形成し;3つの受容体鎖はすべて、活性化T細胞および制御性T細胞上において高親和性(Kd約10~11M)でIL-2に結合する複合体を形成する。
【0124】
これらの3つのIL-2受容体鎖は細胞膜に広がり、細胞内に伸びることにより、生化学的シグナルを細胞内部に送達する。アルファ鎖はシグナル伝達に関与しないが、ベータ鎖はチロシンホスファターゼJAK1と複合体形成する。同様に、ガンマ鎖は、JAK3と称される別のチロシンキナーゼと複合体形成する。これらの酵素は、IL-2Rの外部ドメインへのIL-2結合により活性化される。
【0125】
初期T細胞もまた抗原により刺激されると、IL-2シグナル伝達は、エフェクターT細胞および記憶T細胞へのT細胞の分化を促進する。抗原選択T細胞クローンの数および機能の拡大に依存するT細胞免疫記憶の発生におけるそれらの役割を通じて、それらはまた、長期細胞性免疫において重要な役割を有する。
【0126】
本発明のキメラサイトカイン受容体は、IL-2受容体β鎖および/またはIL-2受容体(すなわち、共通)γ鎖を含み得る。
【0127】
IL-2β鎖および共通γ鎖のエンドドメインのアミノ酸配列は、配列番号56および57として示されている。
【化3】
【0128】
「に由来する」という用語は、本発明のキメラサイトカイン受容体のエンドドメインが、内因性分子の野生型配列と同じ配列、またはJAK-1もしくはJAK-3と複合体形成して上記シグナル伝達経路の1つを活性化する能力を保持するそのバリアントを有することを意味する。
【0129】
バリアント配列が、野生型配列の機能、すなわちJAK-1またはJAK-3と複合体形成して例えばJAK-STATシグナル伝達経路を活性化する能力を保持するという条件で、「バリアント」配列は、野生型配列(例えば、配列番号56または57)と少なくとも80、85、90、95、98または99%の配列同一性を有する。
【0130】
2つのポリペプチド配列間の同一性のパーセンテージは、http://blast.ncbi.nlm.nih.govで自由に利用可能なBLASTなどのプログラムにより容易に決定され得る。
【0131】
定常領域ドメイン
ヒトでは、2つのタイプの軽鎖:カッパ(κ)鎖およびラムダ(λ)鎖がある。ラムダクラスは、4つのサブタイプ:λ1、λ2、λ3およびλ4を有する。Fabタイプキメラ受容体の軽鎖定常領域は、これらの軽鎖タイプのいずれかに由来し得る。
【0132】
キメラサイトカイン受容体の軽鎖定常ドメインは、カッパ鎖定常ドメインである配列番号58として示されている配列を有し得る。
【化4】
【0133】
5つのタイプの哺乳動物免疫グロブリン重鎖:それぞれ免疫グロブリンIgG、IgD、IgA、IgMおよびIgEのクラスを規定するγ、δ、α、μおよびεがある。重鎖γ、δおよびαは、3つのタンデムIgドメインから構成される定常ドメインを有し、柔軟性を付加するためにヒンジを有する。重鎖μおよびεは、4つのドメインから構成されている。
【0134】
本発明のキメラサイトカイン受容体のCHドメインは、γ免疫グロブリン重鎖に由来する配列番号59として示されている配列を含み得る。
【化5】
【0135】
好ましい実施形態では、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする第1のヌクレオチド配列;フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM);およびキメラサイトカイン受容体(CCR)をコードする第2のヌクレオチド配列を含む核酸構築物を提供する。
【0136】
切断部位
本発明の第1の態様の核酸構築物は、第1および第2のポリペプチドが別個の実体として発現され得るように、第1および第2のポリペプチドをコードする核酸配列の間に位置する切断部位をコードする配列を含み得る。
【0137】
切断部位は、第1および第2のポリペプチドを含むポリペプチドが分離されることを可能にする任意の配列であり得る。
【0138】
「切断」という用語は本明細書では便宜的に使用されるが、切断部位は、古典的切断以外の機構により、第1および第2のポリペプチドを個々の実体に分離させ得る。例えば、口蹄疫ウイルス(FMDV)2A自己切断ペプチド(以下を参照のこと)については、「切断」活性:宿主細胞プロテイナーゼによるタンパク質分解、自己タンパク質分解または翻訳効果の説明のために、様々なモデルが提案されている(Donnellyら、(2001)J.Gen.Virol.82:1027-1041)。切断部位が、第1および第2のポリペプチドをコードする核酸配列の間に位置する場合に、第1および第2のポリペプチドを別個の実体として発現させる限り、このような「切断」の正確な機構は、本発明の目的のために重要ではない。
【0139】
切断部位はフューリン切断部位であり得る。
【0140】
フューリンは、サブチリシン様プロプロテインコンバターゼファミリーに属する酵素である。このファミリーのメンバーは、潜在型前駆体タンパク質をそれらの生物学的に活性な産物にプロセシングするプロプロテインコンバターゼである。フューリンは、対形成した塩基性アミノ酸プロセシング部位で前駆体タンパク質を効率的に切断し得るカルシウム依存性セリンエンドプロテアーゼである。フューリン基質の例としては、プロ副甲状腺ホルモン、トランスフォーミング成長因子ベータ1前駆体、プロアルブミン、プロベータセクレターゼ、膜タイプ1マトリックスメタロプロテイナーゼ、プロ神経成長因子のベータサブユニットおよびフォン・ビルブランド因子が挙げられる。フューリンは、塩基性アミノ酸標的配列(標準的には、Arg-X-(Arg/Lys)-Arg’(配列番号50))のすぐ下流でタンパク質を切断し、ゴルジ装置中に豊富である。
【0141】
切断部位は、タバコエッチウイルス(TEV)切断部位であり得る。
【0142】
TEVプロテアーゼは、キモトリプシン様プロテアーゼである高度に配列特異的なシステインプロテアーゼである。それは、その標的切断部位に非常に特異的であるので、インビトロおよびインビボの両方で融合タンパク質の制御切断に頻繁に使用される。コンセンサスTEV切断部位は、ENLYFQ\S(配列番号51)(ここで、「\」は切断されるペプチド結合を示す)である。ヒト細胞などの哺乳動物細胞は、TEVプロテアーゼを発現しない。したがって、本核酸構築物がTEV切断部位を含み、哺乳動物細胞において発現される実施形態では、外因性TEVプロテアーゼもまた、哺乳動物細胞において発現されなければならない。
【0143】
切断部位は、自己切断ペプチドをコードし得る。
【0144】
「自己切断ペプチド」は、第1および第2のポリペプチドを含むポリペプチドおよび自己切断ペプチドが産生されると、いかなる外部切断活性も必要とせずにそれが異なる別個の第1および第2のポリペプチドにすぐに「切断」または分離されるように機能するペプチドを指す。
【0145】
自己切断ペプチドは、アフトウイルスまたはカルジオウイルス由来の2A自己切断ペプチドであり得る。アフトウイルスおよびカルジオウイルスの主な2A/2B切断は、それ自体のC末端における2A「切断」により媒介される。口蹄疫ウイルス(FMDV)およびウマ鼻炎Aウイルスなどのアフトウイルスでは、2A領域は、タンパク質2BのN末端残基(保存的プロリン残基)と一緒に、それ自体のC末端における「切断」を媒介することができる自律的エレメントに相当する約18アミノ酸の短いセクションである。
【0146】
より長いカルジオウイルスタンパク質のC末端19アミノ酸は、2BのN末端プロリンと一緒に、アフトウイルスFMDV2a配列とほぼ等しい効率で「切断」を媒介する。カルジオウイルスとしては、脳心筋炎ウイルス(EMCV)およびタイラーマウス脳炎ウイルス(TMEV)が挙げられる。
【0147】
EMCVおよびFMDV2Aの変異性分析は、モチーフDxExNPGP(配列番号52)が「切断」活性に本質的に関与することを明らかにした(Donellyら(2001)上記)。
【0148】
本発明の切断部位は、アミノ酸配列:
Dx1Ex2NPGP(ここで、x1およびx2は任意のアミノ酸である。X1は、以下の群:I、V、MおよびSから選択され得る。X2は、以下の群:T、M、S、L、E、QおよびFから選択され得る)を含み得る。
【0149】
例えば、切断部位は、表2に示されているアミノ酸配列の1つを含み得る。
【表2-1】
【表2-2】
【0150】
2A配列に基づく切断部位は、例えば15~22アミノ酸長であり得る。配列は、2Aタンパク質のC末端、それに続いて(2BのN末端プロリンに対応する)プロリン残基を含み得る。
【0151】
変異性研究はまた、天然に存在する2A配列に加えて、いくつかのバリアントも活性であることを示した。切断部位は、1つ、2つまたは3つのアミノ酸置換を有する天然に存在する2Aポリペプチド由来のバリアント配列であって、2つまたはそれを超える別個のタンパク質へのポリタンパク質配列の「切断」を誘導する能力を保持するバリアント配列に対応し得る。
【0152】
切断配列は、すべてがある程度活性であることが示されている以下のものから選択され得る(Donnellyら(2001)上記):
【化6】
【0153】
DxExNPGPの配列に基づいて、「モチーフ、「2A様」配列は、アフトウイルスまたはカルジオウイルス以外のピコルナウイルス、「ピコルナウイルス様」昆虫ウイルス、C型ロタウイルスならびにTrypanosoma種および細菌配列内の反復配列で見出された(Donnellyら(2001)上記)。切断部位は、これらの2A様配列、例えば:
【化7-1】
【化7-2】
の1つを含み得る。
【0154】
切断部位は、配列番号31(RAEGRGSLLTCGDVEENPGP)として示されている2A様配列を含み得る。
【0155】
5~39アミノ酸のN末端「伸長」を含めることにより、活性を増加させ得ることが示されている(Donnellyら(2001)上記)。特に、切断配列は、以下の配列の1つ、または例えば最大5つのアミノ酸変化を有するそのバリアントであって、切断部位活性を保持するそのバリアントを含み得る:
【化8】
【0156】
ベクター
本発明はまた、本発明の第1態様による核酸構築物を含むベクターを提供する。
【0157】
このようなベクターは、第1および第2のポリペプチドを発現するように核酸構築物を宿主細胞に導入するために使用され得る。
【0158】
ベクターは、例えば、プラスミドまたはウイルスベクター、例えばレトロウイルスベクターもしくはレンチウイルスベクター、またはトランスポゾンベースのベクター、または合成mRNAであり得る。
【0159】
ベクターは、哺乳動物細胞、例えばT細胞または標的細胞をトランスフェクトまたは形質導入することができるものであり得る。
【0160】
細胞
本発明はさらに、本発明の核酸構築物またはベクターを含む細胞であって、核酸配列によりコードされる第1および第2のポリペプチドを発現する細胞を提供する。
【0161】
細胞は、任意の真核細胞、例えば免疫学的細胞であり得る。
【0162】
細胞は、細胞傷害性免疫細胞、例えばT細胞またはナチュラルキラー細胞であり得る。
【0163】
導入遺伝子が標的抗原を発現する場合、その細胞は、T細胞またはCAR-T細胞の標的細胞であり得る。
【0164】
方法
さらなる態様では、本発明は、本発明による細胞を作製するための方法であって、本発明の核酸構築物またはベクターを細胞に導入する工程を含む方法を提供する。
【0165】
核酸構築物は、形質導入またはトランスフェクションにより導入され得る。
【0166】
細胞は、被験体から単離された細胞、例えば、被験体から単離されたT細胞またはNK細胞であり得る。
【0167】
本発明はまた、核酸構築物中の2つの導入遺伝子の相対発現をモジュレートするための方法であって、下流導入遺伝子の発現を減少させるために、前記2つの導入遺伝子の間にフレームスリップモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフを含める工程を含む方法を提供する。
【0168】
核酸構築物は、2つの導入遺伝子の間に位置する切断部位をコードする配列を含み得る。2つの導入遺伝子の相対発現は、異なるフレームスリップモチーフもしくは翻訳リードスルーモチーフを選択することにより、ならびに/またはモチーフのすぐ5’および/もしくは3’側の配列を変異させることにより調整され得る。
【0169】
本発明はまた、核酸構築物中の2つの導入遺伝子の相対発現をモジュレートするための方法であって、下流導入遺伝子の発現を減少させるために、前記2つの導入遺伝子の間にフレームスリップモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフを含める工程を含む方法を提供する。
【0170】
フレームスリップモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフは、本発明の先の態様に記載されているとおりであり得る。
【0171】
次に、実施例により本発明をさらに説明するが、実施例は、本発明を行う上で当業者を支援するのに役立つものであり、本発明の範囲を限定することを決して意図しない。
【実施例】
【0172】
実施例1-フレームスリップ構築物の作製および試験
以下の構築物をSupT1細胞に形質導入した。
・SFGmR.RQR8-2A-SKIP_7xU-CD22ecto-CD19tm-dCD19endo
・SFGmR.RQR8-2A-SKIP_6xU-CD22ecto-CD19tm-dCD19endo(対照)
【0173】
構築物は、国際公開第2013/153391号に記載されている選別自殺膜貫通タンパク質であるRQR8;およびCD22外部ドメインとCD19膜貫通およびエンドドメインとを有するキメラタンパク質をコードする。
【0174】
第1の構築物は、転写スリッページおよびmRNAからの塩基の喪失を促進する7つのチミン塩基(mRNA中のウラシル)を有する転写フレームスリップを含み、これは、CD22コード配列をフレーム内に配置し、CD22-CD19キメラの発現をもたらす。
【0175】
フローサイトメトリー分析は、フレームスリップモチーフの導入がCD22-CD19キメラの発現の劇的な減少をもたらし、同様のレベルのRQR8選別選択マーカーが観察されたことを示した(
図2C)。
【0176】
実施例2-翻訳リードスルー構築物の作製および試験
2つの翻訳リードスルーモチーフSTOP-CUAGおよびSTOP-CAAUUAは、ヒトT細胞(SupT1)およびヒトB細胞(Raji)において機能的であり、下流自己切断2Aペプチド配列および導入遺伝子コード配列(CD22およびBCMA)の翻訳リードスルーを支援することが示された。
【0177】
異なる終止コドンと組み合わせてこれらのリードスルーモチーフの機能を試験するために、以下の構築物をHEK293T細胞に形質導入した。
リードスルーモチーフSTOP-CUAG
・SFGmR.RQR8-STOP-TGACTAG-2A-hCD22ecto-CD19TM-dCD19endo
・SFGmR.RQR8-STOP-TAGCTAG-2A-hCD22ecto-CD19TM-dCD19endo
・SFGmR.RQR8-STOP-TAACTAG-2A-hCD22ecto-CD19TM-dCD19endo
・SFGmR.RQR8-NO_STOP_TGGCTAG-T2A-hCD22ecto-CD19TM-dCD19endo
リードスルーモチーフSTOP-CAAUUA
・SFGmR.RQR8-STOP-TGACAATTA-2A-hCD22ecto-CD19TM-dCD19endo
・SFGmR.RQR8-STOP-TAGCAATTA-2A-hCD22ecto-CD19TM-dCD19endo
・SFGmR.RQR8-STOP-TAACAATTA-2A-hCD22ecto-CD19TM-dCD19endo
・SFGmR.RQR8_NO_STOP_TGGCAATTA-T2A-hCD22-CD19TM-dCD19endo
シグナルペプチド変異体
・SFGmR.RQR8-2A-シグナルK9-hCD22ecto-CD19TM-dCD19endo
・SFGmR.RQR8-2A-シグナルK10-hCD22ecto-CD19TM-dCD19endo
・SFGmR.RQR8-2A-シグナルK11-hCD22ecto-CD19TM-dCD19endo
【0178】
野生型シグナルペプチド配列は、改変シグナルペプチドK19、K10およびK11の配列と一緒に配列番号42~45として以下に示されている。
配列番号42-マウスIgカッパ鎖V-III領域シグナルペプチド(野生型)
METDTLILWVLLLLVPGSTG
配列番号43-マウスIgカッパ鎖V-III領域シグナルペプチド(K9変異体)
METDTLILKVLLLLVPGSTG
配列番号44-マウスIgカッパ鎖V-III領域シグナルペプチド(K10変異体)
METDTLILWKLLLLVPGSTG
配列番号45-マウスIgカッパ鎖V-III領域シグナルペプチド(K11変異体)
METDTLILWVKLLLVPGSTG
【0179】
フローサイトメトリーによりCD22-CD19キメラの発現を分析し、結果は
図4Aに示されている。野生型シグナルペプチドと比較して、リジン11シグナルペプチド変異体(L11K変異)では、CD22-CD19キメラの発現は減少した。stop-CUAGおよびstop-CAAUUA翻訳リードスルーモチーフは、それらをCD22-CD19導入遺伝子の5’側に配置した場合に同様の結果をもたらし、両モチーフは、キメラの発現レベルをRQR8選別選択マーカーの約2%またはそれ未満に減少させた。二重終止翻訳リードスルーモチーフ(4行目)を使用して、CD22-CD19キメラのより低い発現レベルを得た。
【0180】
トランスフェクトしたHEK293T細胞の表面上において、CD22-CD19キメラの平均蛍光強度を定量し、結果は
図4Bに示されている。翻訳リードスルー構築物を使用して、減衰シグナルペプチド変異体と比較して実質的により低いレベルのCD22-CD19キメラを得た。
【0181】
実施例3-機能的翻訳リードスルー:可溶性抗CD22Fabの分泌
以下に示されているように、RQR8選別選択マーカーと、それに続く2A自己切断ペプチド配列と、CLおよびCH1スペーサー領域を有する抗CD22 CARとをコードする核酸構築物を設計して、可溶性Fab断片を産生した。
・SFGmR.RQR8-2A-aCD22_FabCAR_9A8-1-STOP_SKIP_TAG-41BBz
・SFGmR.RQR8-2A-aCD22_FabCAR_9A8-1-STOP_SKIP_TAA-41BBz
・SFGmR.RQR8-2A-aCD22_FabCAR_9A8-1-STOP_SKIP_TGA-41BBz
【0182】
これらの構築物をPBMCに形質導入し、低または高レベルのCD22を発現する標的細胞を使用して細胞傷害性アッセイを行って、CARの有効性を決定した。これは、低レベルの標的抗原が正常組織上において発現され、細胞傷害反応の微調整が、CART細胞によるこれらの細胞のターゲティングを防止するために必要である状況を模倣する。
【0183】
実施例4-機能的翻訳リードスルー:第1世代から第2世代または第3世代CARへの転換
機能的翻訳リードスルーを使用して、第1世代および第2世代CARの間の転換を切り替え得るかを調査するために、以下の構築物を生成する:
・SFGmR.RQR8-2A-aCD19fmc63-HCH2CH3pvaa-Zeta
・SFGmR.RQR8-2A-aCD19fmc63-HCH2CH3pvaa-Zeta-STOP_SKIP_TAA-41BB
・SFGmR.RQR8-2A-aCD19fmc63-HCH2CH3pvaa-Zeta-STOP_SKIP_TGA-41BB
・SFGmR.RQR8-2A-aCD19fmc63-HCH2CH3pvaa-Zeta-NO_STOP_SKIP_TCA-41BB
・SFGmR.RQR8-2A-aCD19fmc63-HCH2CH3pvaa-Zeta-STOP_SKIP_TAG-41BB
・SFGmR.RQR8-2A-aCD19fmc63-HCH2CH3pvaa-Zeta-STOP_SKIP_TAA-CD28
・SFGmR.RQR8-2A-aCD19fmc63-HCH2CH3pvaa-Zeta-STOP_SKIP_TAG-CD28
・SFGmR.RQR8-2A-aCD19fmc63-HCH2CH3pvaa-Zeta-NO_STOP_SKIP_TCA-CD28
・SFGmR.RQR8-2A-aCD19fmc63-HCH2CH3pvaa-Zeta-STOP_SKIP_TGA-CD28
【0184】
この第1のセットの構築物は、選別選択マーカーRQR8と、FcスペーサードメインおよびCD3ζエンドドメインを有する第1世代抗CD19CARと、それに続く、翻訳リードスルーモチーフと、4-1BBまたはCD28共刺激エンドドメインとを発現する。CARのスペーサードメインに結合して増殖をトリガーする抗Fc抗体でコーティングしたプレート中で培養する形質導入PBMCを使用して、再刺激アッセイを設定する。CD3ζのみを有する対照第1世代CARは限定的な増殖を示すが、他のCARは、共刺激シグナルが存在するのでより大きく増殖する。
【0185】
以下に示されているように、第1のセットの構築物と同様に第2のセットの構築物を生成する:
・SFGmR.RQR8-2A-aCD19fmc63-HCH2CH3pvaa-41BB-STOP_SKIP_TAA-Zeta
・SFGmR.RQR8-2A-aCD19fmc63-HCH2CH3pvaa-41BB-STOP_SKIP_TGA-Zeta
・SFGmR.RQR8-2A-aCD19fmc63-HCH2CH3pvaa-41BB-NO_STOP_SKIP_TCA-Zeta
・SFGmR.RQR8-2A-aCD19fmc63-HCH2CH3pvaa-41BB-STOP_SKIP_TAG-Zeta
・SFGmR.RQR8-2A-aCD19fmc63-HCH2CH3pvaa-CD28-STOP_SKIP_TAA-Zeta
・SFGmR.RQR8-2A-aCD19fmc63-HCH2CH3pvaa-CD28-STOP_SKIP_TGA-Zeta
・SFGmR.RQR8-2A-aCD19fmc63-HCH2CH3pvaa-CD28-NO_STOP_SKIP_TCA-Zeta
・SFGmR.RQR8-2A-aCD19fmc63-HCH2CH3pvaa-CD28-STOP_SKIP_TAG-Zeta
【0186】
これらの構築物では、4-1BBまたはCD28由来の共刺激ドメインは翻訳リードスルーモチーフの前にあり、CD3ζエンドドメインはその後に配置されている。これらの構築物を形質導入したPBMCを使用して、細胞傷害性アッセイおよび増殖アッセイを設定する。これらの構築物からの翻訳リードスルーは、機能的CAR(すなわち、細胞内シグナル伝達ドメインを有するCAR)を産生するために必要である。
【0187】
実施例5-複合リードスルーモチーフの作製および試験
多重導入遺伝子カセットの発現を非常に低いレベルに減少させるために、以下のように、2つのSTOP-翻訳リードスルーモチーフを有する構築物を設計した:
マーカー(RQR8またはHA8)-STOP_リードスルー-2A-GD3シンターゼ-STOP_リードスルー-2A-GD2シンターゼ
【0188】
ガングリオシドGD2は、2つの酵素GD2シンターゼおよびGD3シンターゼにより合成される。上記構築物は、マーカー遺伝子と比較して減少したGD3シンターゼ発現をもたらし、さらに低いGD2シンターゼ発現をもたらす。
【0189】
実施例6-ユニバーサルリードスルー構築物の作製および試験
リードスルーモチーフからの状況依存的発現に関する問題を克服するために、一群のユニバーサル構築物を生成し、これに、規定のレベルで発現される第2の導入遺伝子をクローニングし得る。ユニバーサル構築物は、自己切断2Aペプチド配列、それに続く終止コドンおよびリードスルーモチーフおよび第2の自己切断ペプチド配列からなる。終止リードスルーモチーフを自己切断ペプチド配列と隣接させることにより、翻訳リードスルーに対する状況依存的効果を減少させ、一貫した予測可能なレベルの導入遺伝子発現を生じさせる。
【0190】
試験した構築物は以下のとおりである:
リードスルーモチーフSTOP CUAG
・マーカー-2A-導入遺伝子1-2A-UGA-CUAG-2A-導入遺伝子2
・マーカー-2A-導入遺伝子1-2A-UAG-CUAG-2A-導入遺伝子2
・マーカー-2A-導入遺伝子1-2A-UAA-CUAG-2A-導入遺伝子2
リードスルーモチーフSTOP CAAUUA
・マーカー-2A-導入遺伝子1-2A-UGA-CAAUUA-2A-導入遺伝子2
・マーカー-2A-導入遺伝子1-2A-UAG-CAAUUA-2A-導入遺伝子2
・マーカー-2A-導入遺伝子1-2A-UAA-CAAUUA-2A-導入遺伝子2
【0191】
実施例7-翻訳リードスルーモチーフを直列に配置することによる超低発現
超低レベルの導入遺伝子発現を得ることが可能であるかを決定するために、トリシストロンカセット中で2つの翻訳リードスルーモチーフを直列に配置した構築物を生成した(
図5A)。カセット中の第1の導入遺伝子は常に、形質導入細胞の同定のためにCD8aストーク上に提示されたHAエピトープからなる細胞表面マーカーであり、それに続いて、終止コドン、翻訳リードスルーモチーフおよび自己切断ペプチド配列であった。カセット中の第2の導入遺伝子は、タンデムClover3(緑色蛍光タンパク質)または強化青色蛍光タンパク質(EBFP)のいずれかの2つの蛍光タンパク質の一方であり、それに続いて、終止コドン、翻訳リードスルーモチーフおよび自己切断ペプチド配列であった。カセット中の第3の導入遺伝子は交互の蛍光タンパク質であった。終止コドンおよび翻訳リードスルーモチーフを直列に配置することにより、第3の位置の蛍光タンパク質の発現レベルは、第2の位置のものよりも低いはずである。
【0192】
構築物を末梢血単核細胞(PBMC)に形質導入し、フローサイトメトリーを行って、細胞表面マーカーと比べた蛍光タンパク質の発現レベルを定量した。これらの実験の結果は、蛍光タンパク質の発現レベルが、2つの終止コドンおよび翻訳リードスルーモチーフの下流の第3の位置に配置した場合、第2の位置に配置した場合よりも有意に低いことを実証した(
図5B)。以前の実験と一致して、翻訳リードスルーのレベルは終止コドンに依存的であり、階層的な終止コドンストリンジェンシーはUAA>UAG>UGAであった。タンデムClover3の場合、終止コドンなしの対照と比較した発現レベルの減少は、UAAについては33倍、UAGについては24倍およびUGAについては6倍であった。第3の位置に配置した場合、タンデムClover3発現のレベルは、3つすべての終止コドンについて100倍超減少した(
図5C)。
【0193】
実施例8-翻訳リードスルーによるIL-12分泌の制御
IL-12は強力な炎症促進性サイトカインであり、病原体、T細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞からのシグナルならびに炎症性細胞外マトリックスの成分に反応して食細胞および樹状細胞から分泌される。IL-12の主な標的は、細胞表面上においてIL-12受容体を発現する細胞傷害性T細胞、TH1ヘルパーT細胞およびNK細胞である。IL-12に反応して、TH1ヘルパーT細胞はIFNγおよびTNFαを放出する。
【0194】
CAR-T細胞は、構成的にまたは誘導性プロモーターからIL-12を発現するように操作されており、これは固形腫瘍をターゲティングする場合にCAR-T細胞療法の有効性を改善することが示されている。IL-12の全身投与は毒性があり、この問題を回避するために、CART細胞または他の免疫細胞は、IL-12を腫瘍微小環境に放出するように操作されている。しかしながら、トランスジェニックT細胞IL-12分泌は、サイトカインの非常に毒性の全身レベルをもたらし得る。
【0195】
本発明者らは、ヒトIL-12α(p35)およびIL-12β(p40)サブユニットの間の融合物flexi-IL-12を選別選択マーカーRQR8および自己切断ペプチド配列の下流にクローニングした構築物を設計した。終止コドンまたは制御配列(トリプトファンをコードするUGG)および翻訳リードスルー配列CAAUUAをRQR8コード配列のすぐ下流に配置した(
図6A)。前記構築物をPBMCに形質導入し、CD3εおよびRQR8に対する抗体で染色して形質導入効率を決定し、導入遺伝子の存在を検証した(
図6B)。形質導入効率を決定した後、PBMCを培養に戻し、24、48および72時間の時点で上清を収集し、高感度ELISAにより、IL-12の存在について分析した(
図6C)。データは、終止コドンおよび翻訳リードスルーモチーフを含めることにより、レベルが40倍を上回って減少したことを実証した(
図6C)。終止コドンストリンジェンシーの階層の傾向は、最高のストリンジェントから最低の順にUAA>UAG>UGAであった。これらのデータは、形質導入細胞からのIL-12分泌のレベルを有意に減少させることが可能であったことを実証した。
【0196】
分泌レベルのflexi-IL-12が免疫反応をトリガーすることができたことを実証するために、本発明者らは、別の一群の構築物を生成した。これらは、自殺遺伝子(RapaCasp9)、マウス細胞表面マーカーThy1.1およびマウスflexi-IL-12を含有するトリシストロン性構築物であった(
図7A)。マウスflexi-IL-12配列はトリシストロンカセットの末端に位置し、自己切断ペプチド配列を使用して、ポリペプチドの発現を容易にした。翻訳リードスルー構築物(UAA-CAAUUA)を、減衰シグナルペプチド配列を有するマウスflexi-IL-12を含有する構築物、および内部リボソーム侵入部位(IRES)を利用してサイトカインの発現を制御する別のものと比較した。BalbCマウスから得られた脾細胞に前記構築物を形質導入し、CD3および細胞表面マーカーThy1.1に対する抗体を使用してフローサイトメトリーを行って、形質導入効率を決定した(
図7B)。形質導入効率を決定した後、脾細胞を培養に戻し、24、48および72時間の時点で上清を収集し、ELISAにより、マウスIL-12の存在について分析した(
図7C)。結果は、IRESからのIL-12の発現が約3倍減少したことを実証した。対照的に、翻訳リードスルーモチーフUAA-CAAUUAからのIL-12の発現は、ELISAによりもはや検出可能ではない点まで減少した(
図7C)。IL-12が培地中に存在するかを確認するために、上清を回収し、それを使用して活性化脾細胞を再刺激した。IFNγは、IL-12で刺激されたT細胞およびNK細胞により分泌されるので、IFNγの存在について、これらの再刺激脾細胞由来の上清を分析した(
図7D)。再刺激脾細胞から採取したすべての上清において、IFNγは検出可能であった。IL-12 ELISAの結果と一致して、対照またはIRES形質導入脾細胞由来の上清で再刺激した脾細胞から、最高レベルのIFNγ分泌が観察された。重要なことに、翻訳リードスルー構築物を形質導入した脾細胞由来の上清で再刺激した脾細胞から、IFNγの分泌が観察された(
図7D)。これらの結果は、形質導入細胞からのIL-12分泌レベルの有意な減少を得ることが可能であり、治療利益を維持しながら、潜在的にこの強力なサイトカインの毒性作用を軽減することを実証した。
【0197】
より治療的な状況で翻訳リードスルー構築物からのIL-12分泌の有効性および安全性プロファイルを実証するために、短縮したマウスCD34、抗GD2キメラ抗原受容体およびホタルルシフェラーゼをコードする構築物ならびに前に記載したサイトカイン発現構築物を脾細胞に共形質導入した。形質導入した脾細胞をCD34およびThy1.1に対する抗体で染色し、フローサイトメトリーにより分析して、形質導入効率を決定した(
図8A)。5×10
6個の形質導入した脾細胞をマウスに注射し、15日後、マウスを屠殺し、それらの脾臓を摘出した。脾臓サイズの比較は、IL-12が構成的に発現される場合にのみ脾腫が観察され(2A)、他の群における脾臓サイズが対照と同程度であったことを示した(
図8B)。
【0198】
注射マウスの脾臓にリクルートされた細胞タイプをより詳細に調査するために、CD11b、CD3、CD4、CD8およびCD19に対する抗体で脾細胞を染色し、フローサイトメトリーにより分析した(
図9A)。結果は、構成的に発現されたIL-12を形質導入した脾細胞を注射したマウスの脾臓にマクロファージ(CD11b
+)がリクルートされ、約20%の細胞がCD11b
+であったことを示した。IRES構築物が翻訳リードスルー構築物よりも高レベルのIL-12をもたらしたことを示す先のELISAデータと一致して、これらの細胞を注射したマウスの脾臓では、より多くのCD11b
+細胞が存在していた(
図9B)。IL-12またはIRESを構成的に発現する構築物を形質導入した脾細胞を注射したマウスでは、CD4
+およびCD8
+の両方のT細胞のリクルートの増加が観察された(
図9C、DおよびE)。対照的に、翻訳リードスルー構築物を形質導入した脾細胞を注射したマウスの脾臓におけるCD11b
+およびCD3
+細胞の数は、対照と同程度であった。IL-12を構成的に発現する脾細胞を注射したマウス由来の脾臓においてのみ、B細胞数の減少が観察された。総合すると、これらの結果は、抗原の非存在下では、翻訳リードスルー構築物からのIL-12の発現が、いかなる毒性も免疫細胞のリクルートも引き起こさなかったことを示唆していた。
【0199】
上記本明細書で言及される刊行物はすべて、参照により本明細書に組み込まれる。記載されている本発明の方法および系の様々な変更およびバリエーションは、本発明の範囲および精神から逸脱せずに当業者に明らかである。特定の好ましい実施形態に関して本発明を説明したが、特許請求の範囲に記載されている本発明は、このような特定の実施形態に過度に限定されるべきでないことは理解すべきである。実際、記載されている本発明の実施様式の様々な変更は、分子生物学または関連分野の当業者に明らかであり、以下の特許請求の範囲の範囲内であることを意図する。
【配列表】