(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネセントデバイス
(51)【国際特許分類】
H10K 50/15 20230101AFI20241024BHJP
H10K 50/11 20230101ALI20241024BHJP
H10K 50/818 20230101ALI20241024BHJP
H10K 50/81 20230101ALI20241024BHJP
H10K 50/82 20230101ALI20241024BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20241024BHJP
【FI】
H10K50/15
H10K50/11
H10K50/818
H10K50/81
H10K50/82
H10K85/60
(21)【出願番号】P 2023110447
(22)【出願日】2023-07-05
(62)【分割の表示】P 2019562621の分割
【原出願日】2018-05-31
【審査請求日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】10-2017-0067654
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0056164
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】509266480
【氏名又は名称】デュポン スペシャルティ マテリアルズ コリア リミテッド
【氏名又は名称原語表記】DUPONT SPECIALTY MATERIALS KOREA LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】弁理士法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン、スンウ
(72)【発明者】
【氏名】イー、トンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、サンヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ナムキョン
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-138100(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0025619(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0031370(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0014657(US,A1)
【文献】特開2010-123716(JP,A)
【文献】特開2006-156390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/15
H10K 50/11
H10K 50/818
H10K 50/81
H10K 50/82
H10K 85/60
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、前記第1の電極と対向する第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極の間の少なくとも正孔輸送帯及び発光層とを含む赤色発光有機エレクトロルミネセントデバイスであって、前記正孔輸送帯及び前記発光層は、それぞれ、1つ以上の層からなり、並びに前記正孔輸送帯を構成する前記層の少なくとも1つの層、及び前記発光層を構成する前記層の少なくとも1つの層は、それぞれ620nmの波長で1.8以上の屈折率を有する有機エレクトロルミネセント化合物を含み、
但し、前記正孔輸送帯を構成する前記層は下記式:
【化1】
で表される化合物を含まないことを条件とし、
前記第1の電極及び前記第2の電極の電極のうちの一方が反射膜である場合、もう一方の電極の620nmの波長における透過率は、10%~60%である、
赤色発光有機エレクトロルミネセントデバイス。
【請求項2】
620nmの波長で1.8以上の屈折率を有する前記正孔輸送帯に含まれる前記化合物の以下の式1:
(式1)分子量に基づく比分極率=分極率(ボーア
3)-分子量(g/モル)
を使用して計算された分子量に基づく比分極率が30以上である、請求項1に記載の赤色発光有機エレクトロルミネセントデバイス。
【請求項3】
620nmの波長で1.8以上の屈折率を有する前記正孔輸送帯に含まれる前記化合物の分子動力学計算により得られる密度は、1.1以上である、請求項1に記載の赤色発光有機エレクトロルミネセントデバイス。
【請求項4】
620nmの波長で1.8以上の屈折率を有する前記正孔輸送帯に含まれる前記化合物の分子動力学計算により得られる密度は、1.1以上である、請求項2に記載の赤色発光有機エレクトロルミネセントデバイス。
【請求項5】
CIE 1931色座標に基づくx座標の数値が0.660~0.750である光を放出する、請求項1に記載の赤色発光有機エレクトロルミネセントデバイス。
【請求項6】
前記数値が0.660~0.700である、請求項5に記載の赤色発光有機エレクトロルミネセントデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高屈折率の有機エレクトロルミネセント化合物を含む有機エレクトロルミネセントデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロルミネセント(EL)デバイスは、より広い視野角、より大きなコントラスト比、及びより速い応答時間を提供するという利点を有する自発光デバイスである。1987年にEastman Kodakによって、発光層を形成するための材料として小さい芳香族ジアミン分子とアルミニウム錯体とを使用することによって、最初の有機ELデバイスが開発された (Appl.Phys.Lett.51、913、1987を参照)。
【0003】
有機ELデバイス(OLED)は、有機発光材料に電気を印加することによって電気エネルギーを光に変換し、通常、アノードと、カソードと、2つの電極間に形成された媒体層とを含む。有機ELデバイスの媒体層は、正孔注入層、正孔輸送層、電子阻止層、発光層、電子緩衝層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層等を含み得、媒体層において使用される材料は、機能に応じて、正孔注入材料、正孔輸送材料、電子阻止材料、発光材料、電子緩衝材料、正孔阻止材料、電子輸送材料、電子注入材料等に分類されることができる。有機ELデバイスにおいて、電圧の印加によりアノードからの正孔とカソードからの電子が発光層に注入され、正孔と電子の再結合により高エネルギーを有する励起子が生成される。有機発光化合物は、有機発光化合物が励起状態から基底状態に戻るときのエネルギーによって励起状態に移行し、エネルギーから発光する。
【0004】
一方、色純度を向上させるために、且つ/又は光抽出効率を高めるために、有機エレクトロルミネセントデバイスの光学的厚さを最適化する必要がある。
【0005】
大韓民国特許出願公開第2016-0049157A号明細書は、有機エレクトロルミネセントデバイスのキャッピング層の屈折率と厚さを制御することにより、光効率が向上し色歪みが改善された有機エレクトロルミネセントデバイスを開示している。しかしながら、前述の参考文献は、複数のキャッピング層の屈折率と厚さの制御を開示しているに過ぎない。大韓民国特許第1496789B1号明細書は、正孔輸送層が発光層から放出される光スペクトルの最大ピーク波長に基づいて1.20~1.65の屈折率を有する材料からなる有機エレクトロルミネセントデバイスを開示している。J.phys.Chem.A.1999,103,pp.1818-1821は、ハロゲンで置換されたベンゼンの屈折率を測定する方法を開示しており、J.Mater.Chem.,2011,21,pp.19187-19202は、小分子OLEDに含まれる材料の分子配向と、配向による電気的及び光学的特性の改善の効果を開示している。
【0006】
しかしながら、前述の参考文献は、正孔輸送帯及び/又は発光層の少なくとも1つの層が約1.8以上の屈折率を有する有機エレクトロルミネセント化合物を含む赤色発光有機エレクトロルミネセントデバイスを具体的に開示していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の目的は、所望の色座標を実現しながら、又は同じデバイス厚さでより濃い色の座標特性を実現しながら、厚みが減少した有機エレクトロルミネセントデバイスを提供することである。更に、デバイスの生産効率は、有機エレクトロルミネセントデバイスで使用される材料の量を減らすことによって高めることができ、又はデバイス性能は同じデバイス厚さで改善することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記技術的課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者らは、第1の電極と、第1の電極と対向する第2の電極と、第1の電極と第2の電極の間の少なくとも正孔輸送帯及び発光層とを含む赤色発光有機エレクトロルミネセントデバイスによって上記の目的を達成できることを見出し、この場合に、正孔輸送帯及び発光層は、それぞれ、1つ以上の層からなり、並びに正孔輸送帯を構成する前記層及び発光層を構成する前記層の少なくとも1つの層は、約1.8以上の屈折率を有する有機エレクトロルミネセント化合物を含む。
【0009】
本開示によれば、色純度を損なうことなく、赤色発光有機エレクトロルミネセントデバイスに使用される材料の量を低減することによりデバイスの厚さを減少させることによって生産効率を高めることができ、又は高純度の濃い色が、デバイスの厚さを増加させずに表現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態による有機エレクトロルミネセントデバイスの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、本開示が詳細に説明される。しかしながら、以下の説明は、本開示を説明することを意図し、決して本開示の範囲を限定することを意味しない。
【0012】
本開示の第1の実施形態は、第1の電極と、第1の電極と対向する第2の電極と、第1の電極と第2の電極の間の少なくとも正孔輸送帯及び発光層とを含む赤色発光有機エレクトロルミネセントデバイスを提供し、この場合に、正孔輸送帯及び発光層は、それぞれ、1つ以上の層からなり、並びに正孔輸送帯を構成する前記層及び発光層を構成する前記層の少なくとも1つの層は、約1.8以上の屈折率を有する有機エレクトロルミネセント化合物を含む。
【0013】
本開示の第2の実施形態は、第1の実施形態による有機エレクトロルミネセントデバイスを提供し、この場合に、約1.8以上の屈折率を有する正孔輸送帯に含まれる化合物の本開示による式1を使用して計算された分子量に基づく比分極率は約30以上である。
【0014】
本開示の第3の実施形態は、第1又は第2の実施形態による有機エレクトロルミネセントデバイスを提供し、この場合に、約1.8以上の屈折率を有する正孔輸送帯に含まれる化合物の分子動力学計算により得られる密度は約1.1以上である。
【0015】
本開示の第4の実施形態は、第1から第3の実施形態のいずれか1つによる有機エレクトロルミネセントデバイスを提供し、この場合に、第1の電極及び第2の電極の一方が反射膜である場合、もう一方の電極の約620nmの波長における透過率は約10%~約60%である。
【0016】
本開示の第5の実施形態は、第1から第4の実施形態のいずれか1つによる有機エレクトロルミネセントデバイスを提供し、CIE 1931色座標に基づくx座標の数値は約0.660~約0.750である光を放出する。
【0017】
本開示の第6の実施形態は、第1から第5の実施形態のいずれか1つによる有機エレクトロルミネセントデバイスを提供し、この場合に、CIE 1931色座標に基づくx座標の数値は約0.660~約0.700である。
【0018】
本開示における用語「有機エレクトロルミネセント化合物」は、有機エレクトロルミネセントデバイスに使用されることができ、必要に応じて、有機エレクトロルミネセントデバイスを構成する任意の材料の層に含まれ得る化合物を意味する。
【0019】
本開示における用語「有機エレクトロルミネセント材料」は、有機エレクトロルミネセントデバイスに使用されることができ、少なくとも1つの化合物を含み得る材料を意味する。有機エレクトロルミネセント材料は、必要に応じて、有機エレクトロルミネセントデバイスを構成する任意の層に含まれ得る。例えば、有機エレクトロルミネセント材料は、正孔注入材料、正孔輸送材料、正孔補助材料、発光補助材料、電子阻止材料、発光材料、電子緩衝材料、正孔阻止材料、電子輸送材料、電子注入材料等であり得る。
【0020】
有機エレクトロルミネセントデバイスは、発光構造に応じて底部発光デバイスと上部発光デバイスに分類される。薄膜トランジスタ側への光ヘッドの大部分が底部発光デバイスである有機エレクトロルミネセントデバイス、及び薄膜トランジスタの反対側への光ヘッドの大部分が上部発光デバイスである有機エレクトロルミネセントデバイス。
【0021】
有機エレクトロルミネセントデバイスを操作するために、薄膜トランジスタ、キャパシタ、画素規定層(pixel defining layer)などの複数の層が形成されるため、上部発光デバイスと比較して非共振構造を有する底部発光デバイスには、開口率が低いなどデバイスの操作に弱点がある。開口率は、単位画素で実際に発光できる光の面積の比である。開口率が高いと、同じ電流で発光する光の量が多くなるため、輝度が高くなる。結果として、電力消費の点で有利であり、蓄積電流による劣化が低減されるため、デバイスの寿命が長くなる。従って、上部発光デバイスには、有効な画素を表現するという点で利点がある。
【0022】
近年、有機エレクトロルミネセントデバイスの性能を向上させることができる材料の研究だけでなく、特に、共鳴構造を含む上部発光デバイスのアノードとカソードの間の光学的厚さを最適化することにより色純度の向上と光抽出効率の上昇によりデバイスの性能を改善させる研究も行われてきた。
【0023】
特定の色を実現する特定の波長での有効な光抽出条件を満たすために、デバイスの厚さ及び屈折率を制御することができ、これらは互いに補完的である。従って、高屈折率の材料を使用する場合、デバイスの厚さを減らすことができるために、材料の量の削減とプロセス生産性の改善が予想される。特に、赤色発光有機エレクトロルミネセントデバイスの厚さは、青色又は緑色発光デバイスよりも大きいため、高屈折率材料を使用することにより、デバイスの生産効率を大幅に改善することができる。本開示の有機エレクトロルミネセントデバイスは、上部発光デバイスに適用されることができる。しかしながら、これに限定されるものではないため、底部発光デバイスに適用することができる。
【0024】
具体的には、有機エレクトロルミネセントデバイスの発光層から発生した光が外部に抽出されると、多くの中間層を通過する。多くの中間層を通過した光は反射されることができ、中間層を透過しない。このため、光は透過と反射を経て外部に抽出される。更に、それぞれの層の間の中間層内では、反射が繰り返されることができ、このようなプロセスで多くの光が共振する。この共振により、光が増幅され、外部に抽出される光の量が増加する。従って、発光効率は、有機エレクトロルミネセントデバイスの発光層から生成される効果的に増幅された光によって改善されることができる。
【0025】
2つの電極のうちの一方の電極が反射膜として形成され、他方の電極が半透過膜として形成される場合、共振効果は、2つの電極のうちの一方の電極が透過膜として形成される場合と比較して大きい。この共鳴現象は、材料の光学特性と光路を制御することによって最適化できる。
【0026】
例えば、中間層を通過するときの光の屈折による光路とスネルの法則を考慮すると(屈折率と膜厚は波長に整数を乗じた値に比例する)、濃い赤色を表現するために、同じ発光材料を使用する場合は有機層の厚さを増すことによって、光路が増加することができ、又は高屈折率の材料を使用することができる。
【0027】
しかしながら、光路を増加するために厚い有機層を形成すると、使用される材料の量と、プロセスごとに使用される全ての消耗品が増加する。従って、これは非効率的である。
【0028】
従って、本開示において、共鳴効果は、高屈折率の材料を使用する薄膜によって最適化され、又、所望のCIE 1931色座標が達成されることができる。従って、プロセスに関して利点を有する有機エレクトロルミネセントデバイスが提供される。更に、同じ厚さで高い屈折率の材料を使用してより濃い色を得ることができるため、色座標に関して優れた特性を有する有機エレクトロルミネセントデバイスが提供される。
【0029】
以下、
図1を参照して、本開示の有機エレクトロルミネセントデバイスの構造を説明する。
【0030】
本開示の一実施形態によれば、有機エレクトロルミネセントデバイスは、基板、第1の電極、媒体層、第2の層、及びキャッピング層が下から順に積層された構造を有する。
【0031】
互いに対向する第1の電極及び第2の電極の一方はアノードであり得、他方はカソードであり得る。即ち、第1の電極はアノードであり得、第2の電極はカソードであり得、逆もまた同様である。第1の電極は反射膜として形成されることができ、第2の電極は半透過膜(上部発光デバイス)として形成されることができる。しかしながら、これに限定されず、第1の電極は半透過膜として形成されることができ、第2の電極は反射膜(底部発光デバイス)として形成されることができる。
【0032】
本開示において、反射膜は、光を反射する機能を有してさえいれば十分であり、光透過特性を有する膜を含む。反射膜は、銀、銀合金などからなることができ、高い反射率を有し、この技術分野で一般的に使用されるものであり得る。具体的には、本開示の反射膜の透過率は、約50%以下、好ましくは約30%以下、より好ましくは約10%以下である。透過率が上記の上限よりも低い場合、光を十分に反射することにより、反射膜としての機能が効果的に発揮される。
【0033】
本開示において、半透過膜は、約10%~約60%、好ましくは約20%~約50%の透過率を有する膜であり、光の一部を反射すること並びに光の一部を透過することにより光抽出を可能にする機能を有する。
【0034】
第1の電極及び第2の電極の一方の電極が反射膜として機能する場合、約620nmの波長での他方の電極の透過率は、10%以上、好ましくは約10%~約60%、より好ましくは約20%~約50%であり得る。透過率が下限より高い場合、透過により光を効果的に抽出することができ、透過率が上限より低い場合、反射により効果的な共振が発生することができる。
【0035】
第2の電極に形成されたキャッピング層(CPL)は、第1の電極、媒体層、及び第2の電極を保護し、媒体層内で発生した光を効果的に外部に抽出することを可能にする。
【0036】
第1の電極と第2の電極の間の媒体層は、1つ以上の発光層及び1つ以上の正孔輸送帯を含み得、1つ以上の電子輸送帯を更に含み得る。
【0037】
正孔輸送帯は、正孔がアノードと発光層の間で輸送される帯であり、正孔輸送層、正孔注入層、電子阻止層、正孔補助層、及び発光補助層からなる群から選択される1つ以上の層からなり得る。必要に応じて、更なる層が含まれることができる。それぞれの層は1つ以上の層からなり得る。正孔輸送帯を構成する少なくとも1つの層は、約1.8以上の屈折率を有する有機エレクトロルミネセント化合物を含み得る。屈折率が下限よりも高い場合、層の厚さを効果的に減らすことにより、デバイスの生産効率を高めることができる。
【0038】
更に、発光層は、電子と正孔が正孔輸送帯と電子輸送帯の間で出会うことにより光を放出する帯であり、1つ又は2つ以上の層からなり得る。必要に応じて、材料が混合される更なる層が含まれることができる。発光層を構成する少なくとも1つの層は、約1.8以上の屈折率を有する有機エレクトロルミネセント化合物を含み得る。屈折率が下限よりも高い場合、デバイスの同じ厚さでより濃い色を実現できる。
【0039】
図2は、CIE 1931の図である。赤色の場合、CIE X値が大きいほど、RGBの3つの頂点が接続されている三角形の面積が大きくなる。これは、ディスプレイの色表現帯が増加する利点を示している。
【0040】
正孔輸送層は、アノード(又は正孔注入層)と発光層との間に配置され、アノードから輸送される正孔が発光層にスムーズに輸送されることを可能にし、カソードから輸送された電子を阻止して発光層に留まるようにも機能し得る。正孔注入層は、正孔注入障壁(又は正孔注入電圧)をアノードから正孔輸送層又は電子阻止層まで下げるために使用されることができる。電子阻止層は、正孔輸送層(又は正孔注入層)と発光層との間に配置され得、発光層からの電子のオーバーフローを阻止することによって励起子を発光層内に閉じ込めて発光漏れを防止することができる。又、正孔補助層は、正孔輸送層(又は正孔注入層)と発光層との間に配置されることができ、正孔輸送速度(又は正孔注入速度)を促進又は阻止するのに有効であり得、これにより電荷バランスを制御することができる。発光補助層は、アノードと発光層との間、又はカソードと発光層との間に配置されることができる。発光補助層をアノードと発光層との間に配置する場合、正孔注入及び/又は正孔輸送を促進するために、或いは電子のオーバーフローを防止するために用いることができる。発光補助層をカソードと発光層との間に配置する場合、電子注入及び/又は電子輸送を促進するために、或いは正孔のオーバーフローを防止するために用いることができる。更に、有機エレクトロルミネセントデバイスが2つ以上の正孔輸送層を含む場合、正孔輸送層が、更に含まれ、発光補助層、正孔補助層、電子阻止層等として使用されることができる。発光補助層、正孔補助層及び/又は電子阻止層は、有機エレクトロルミネセントデバイスの発光効率及び/又は寿命を改善するという効果を有し得る。
【0041】
本開示の一実施形態によれば、正孔輸送帯は正孔輸送層を含む。本明細書において、正孔輸送層は、約1.8以上の屈折率を有する有機エレクトロルミネセント化合物を含み得る。
【0042】
本開示の別の実施形態によれば、正孔輸送帯は、正孔輸送層を含み、正孔注入層、電子阻止層、正孔補助層、及び発光補助層のうちの1つ以上を更に含む。本明細書において、正孔輸送層、正孔注入層、電子阻止層、正孔補助層、及び発光補助層のうちの1つ以上は、約1.8以上の屈折率を有する有機エレクトロルミネセント化合物を含み得る。
【0043】
本開示の更に別の実施形態によれば、発光層は、1つ又は2つ以上の層からなり得る。本明細書において、1つ以上の発光層は、約1.8以上の屈折率を有する有機エレクトロルミネセント化合物を含み得る。
【0044】
特定の色を表現するために、即ち、望ましいCIE 1931色座標を実現するために、媒体層の厚さを変えることができる。正孔輸送帯が厚く形成されるほど、CIE 1931色座標の赤色が濃くなる。更に、正孔輸送帯で使用される材料の特性に応じて、望ましいCIE 1931色座標を実現する際に様々な厚さ特性が示される。本開示において、厚さの増加を抑制しながら所望のCIE 1931色座標を効果的に実現するために、正孔輸送帯の少なくとも1つの層は、約1.8以上の屈折率を有する有機エレクトロルミネセント化合物を含み得る。更に、厚さの増加なしに濃い赤色を表現するために、発光層の少なくとも1つの層は、約1.8以上の屈折率を有する有機エレクトロルミネセント化合物を含み得る。
【0045】
具体的には、本開示は、CIE 1931色座標に基づいて、x座標値が約0.660~約0.750、好ましくは約0.660~約0.700である光を放出する有機エレクトロルミネセントデバイスに適用されることができる。本開示で望まれる赤色光は、数値が数値範囲内にある場合に実現されることができる。
【0046】
更に、本開示において、約1.8以上の屈折率を有する正孔輸送帯に含まれる化合物の分子量に基づく比分極率は、約30以上であり得る。同時に又は別々に、約1.8以上の屈折率を有する正孔輸送帯に含まれる化合物の分子動力学計算により得られる密度は、約1.1以上であり得る。
【0047】
光の屈折は、異なる媒体の境界を通過するときに光が屈折する現象であり、異なる媒体の光の速度の違いによって引き起こされる。更に、真空中の速度に対する媒体の光の速度の比は、屈折率として定義される。光が媒体に入ると、媒体を構成する分子に出会う。光は分子に存在する電子を振動させ、振動した電子は同じ周波数の光を生成する。このような無数のプロセスにより、媒体から光が伝播するにつれて光の速度は遅くなり、材料の分極率が大きくなると更に遅くなり、これにより相互作用が増加する。更に、光路内の分子の数が大きいほど、相互作用の数が増えるにつれて光は遅くなる。従って、分極率と密度が大きいほど、光は遅くなり、屈折率は大きくなる。
【0048】
本開示において、材料の分極率及び密度は、量子動力学計算及び分子動力学計算により得られ、続いて屈折率との相関を見出す。
【0049】
電子が分子内に多く存在する、又は電子がコアから遠ざかるにつれてコアの影響が弱くなり、分極率は大きくなる。従って、分子量が大きくなるにつれ分極率が増加する傾向がある。分極率は分子量の影響を受けるため、分子量が異なる場合の分極率の比較は困難である。従って、比分極率(分子量に基づく比分極率)は、分子量がx軸であり分極率がy軸であるグラフで勾配が1になる点でのオフセット値として定義される。具体的には、分子量に基づく比分極率は、以下の式1によって計算できる。
【0050】
(式1)分子量に基づく比分極率=分極率(ボーア3)-分子量(g/モル)。
【0051】
30以上の分子量及び/又は1.1以上の密度に基づいた比分極率を有する化合物は、1.8以上の屈折率を示すことが確認された。従って又、本開示の目的は、30以上の分子量に基づく比分極率、1.1以上の密度を有し、好ましくは計算時に両方を有する材料を正孔輸送帯で使用することによって達成することができる。従って、1.8以上の高屈折率材料を使用する場合、デバイスの厚さの減少により材料の削減とプロセス生産性の改善が得られる、又は、デバイス特性の改善、即ちより濃い色の特性が、同じデバイスの厚さで得られることができる。本開示の有機エレクトロルミネセントデバイスは、全ての青、緑、及び赤のデバイスに適用されることができるが、特に、デバイスの厚さが最大である赤のデバイスにおいて最大の効果が得られ得る。
【0052】
発光層の少なくとも1つは、1つ以上のドーパント化合物と1つ以上のホスト化合物とを含み得る。
【0053】
電子輸送帯は、カソードと発光層の間で電子が輸送される帯であり、電子輸送層、電子緩衝層、電子注入層、中間層、正孔阻止層、及び発光補助層からなる群から選択される1つ以上の層からなり得る。必要に応じて、更なる層が含まれることができる。それぞれの層は1つ以上の層からなり得る。
【0054】
本開示の有機ELデバイスを構成するそれぞれの層を形成するために、真空蒸着、スパッタリング、プラズマ、イオンプレーティング方法等などの乾式膜形成法、又はインクジェット印刷、ノズル印刷、スロットコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング、フローコーティング方法等などの湿式膜形成法を用いることができる。
【0055】
湿式膜形成法を用いる場合、薄膜は、それぞれの層を構成する材料を、エタノール、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ジオキサン等などの、好適な溶媒に溶解させる又は分散させることによって形成される。溶媒は、それぞれの層を構成する材料が溶媒に可溶である又は分散可能である限り、特に制限されず、膜の形成においていかなる問題も引き起こさない。
【0056】
本開示の有機エレクトロルミネセントデバイスを用いることによって、例えば、スマートフォン、タブレット、ノートブック、PC、TV、又は車両用の表示デバイス、或いは例えば屋内又は屋外の照明デバイスなどの照明デバイスを製造することができる。
【0057】
以下、本開示の有機エレクトロルミネセントデバイスの調製方法及びその発光特性について詳細に説明する。
【実施例】
【0058】
[屈折率の測定方法]
本開示の有機エレクトロルミネセント材料の屈折率を得るために、屈折率を得る材料を真空蒸着装置のセルに導入し、次いで装置のチャンバー内の圧力を、10-6トールに制御した。その後、セルに電流を流して導入された材料を蒸発させ、これによりシリコンウェハー基板に厚さ30nmの試料を生成した。
【0059】
屈折率をエリプソメーターを使用して測定した。具体的には、入射角60度の620nmに基づく屈折率として、HORIBA Ltd.,のUVSELを用い350~800nmの波長での屈折率を使用した。
【0060】
測定した屈折率と、材料の分子構造に基づく量子力学計算と分子動力学計算の計算結果を比較した。
【0061】
[分極率の計算方法]
分極率の全ての計算を、Gaussian 09のプログラムで密度汎関数理論(DFT)を使用して測定した。B3LYP/6-31g*のレベルで構造を最適化した後、620nmでの連結周波数分極率を計算した。分極率は、単位電場あたりの双極子モーメント変化で表され、2次ランクテンソルの形で表される。分極率の3×3マトリックスの対角線平均である等方性分極率を使用した。
【0062】
[密度の計算方法]
有機エレクトロルミネセントデバイスの薄膜は基本的に非晶質であるため、非晶質状態をシミュレートするために、0.1g/mLの密度で100個の同一分子を含む非晶質セルを作成した後、静圧及び静温度での分子動力学計算を実施した。シミュレーションを、システムの密度が変更されない状態まで保持した。
【0063】
密度の計算は全て、BIOVIA CorporationのプログラムMaterial Studioを使用して測定した。
【0064】
密度の計算では、非晶質セルモジュールを使用して0.1g/mLの密度で100個の分子を含む非晶質セルを作成した後、密度が変更されない状態までForciteモジュールを使用して分子動力学計算を行った。
【0065】
実施例2および4:正孔輸送帯の少なくとも1つの層において本開示による高屈折率材料を含む赤色発光OLEDデバイスの作製
本開示による赤色発光OLEDデバイスを、以下の通り作製した。第1の電極が反射膜として形成される上部発光デバイスのITO/Ag/ITOガラス基板を、順次、アセトン、エタノール、及び蒸留水で超音波洗浄し、次いでイソプロパノールに保存した。次に、ガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着した。化合物HI-1を真空蒸着装置のセルに導入し、次いで、装置のチャンバー内の圧力を10-6トールに制御した。その後、セルに電流を流して導入された材料を蒸発させ、これにより基板に厚さ65nmの第1の正孔注入層を形成した。次いで、化合物HI-2を真空蒸着装置の別のセルに導入し、電流をセルに流して、導入された材料を蒸発させ、これにより厚さ5nmの第2の正孔注入層を第1の正孔注入層に形成した。化合物HT-1を真空蒸着装置の別のセルに導入した。その後、セルに電流を流して導入された材料を蒸発させ、これにより第2の正孔注入層に厚さ65nmの第1の正孔輸送層を形成した。次いで、以下の表1の化合物を真空蒸着装置の別のセルに導入し、セルに電流を流して導入された材料を蒸発させ、これにより第1の正孔輸送層に表1に記載の厚さの第2の正孔輸送層を形成した。正孔注入層及び正孔輸送層を形成した後、次いで発光層を以下の通り蒸着した。ホストとして化合物RH-1及びRH-2を真空蒸着装置の1つのセルに導入し、ドーパントとして化合物RD-1を真空蒸着装置の別のセルに導入した。2つの材料を異なる速度で蒸発させ、ドーパントをホスト及びドーパントの総量に基づいて2重量%のドープ量で蒸着させて、第2の正孔輸送層に厚さ40nmの発光層を形成した。次に、化合物ET-1及び化合物EI-1を2つのセルに導入し、1:1の重量比で蒸発させ、発光層に厚さ35nmの電子輸送層を形成した。電子輸送層に厚さ2nmの電子注入層として化合物EI-1を蒸着させた後、Mg(マグネシウム)とAg(銀)を18:1の重量比で蒸発させ、これにより厚さ16nmの第2の電極を形成した。次いで、化合物HI-1を、キャップ層として63nmの厚さで蒸発させた。このようにして、OLEDデバイスを作製した。
【0066】
比較例1~比較例3、比較例1’および比較例3’:正孔輸送帯の少なくとも1つの層において従来の低屈折率材料を含む赤色発光OLEDデバイスの作製
以下の表1に示す化合物を第2の正孔輸送材料として使用したことを除いて、実施例2および4と同じ方法でOLEDデバイスを作製した。
【0067】
駆動電圧、発光効率、並びにCIE 1931色座標のX及びY値は、作製された赤色発光OLEDデバイスの輝度3,700ニットでPHOTO RESEARCH Inc.の輝度計(PR-655)を使用して電圧を印加することにより測定され、以下の表1に示す。
【化1】
【0068】
【0069】
表1のように、本開示によるOLEDデバイスは、従来の材料を使用するOLEDデバイスと比較してより薄い厚さでx座標値が0.670に近い光を放出した。この違いにより、大量生産の大規模プロセスで生産効率を大幅に向上させることができる。
【0070】
実施例5及び実施例6:発光層の少なくとも1つの層において本開示による高屈折率材料を含む赤色発光OLEDデバイスの作製
本開示による赤色発光OLEDデバイスを、以下の通り作製した。第1の電極が反射膜として形成される上部発光デバイスのITO/Ag/ITOガラス基板を、順次、アセトン、エタノール、及び蒸留水で超音波洗浄し、次いでイソプロパノールに保存した。次に、ガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着した。化合物HI-1を真空蒸着装置のセルに導入し、次いで、装置のチャンバー内の圧力を10-6トールに制御した。その後、セルに電流を流して導入された材料を蒸発させ、これによりガラス基板に厚さ65nmの第1の正孔注入層を形成した。次いで、化合物HI-2を真空蒸着装置の別のセルに導入し、電流をセルに流して、導入された材料を蒸発させ、これにより厚さ5nmの第2の正孔注入層を第1の正孔注入層に形成した。化合物HT-1を真空蒸着装置の別のセルに導入した。その後、セルに電流を流して導入された材料を蒸発させ、これにより第2の正孔注入層に厚さ65nmの第1の正孔輸送層を形成した。次いで、化合物HT-2を真空蒸着装置の別のセルに導入し、セルに電流を流して導入された材料を蒸発させ、これにより第1の正孔輸送層に95nmの厚さの第2の正孔輸送層を形成した。正孔注入層及び正孔輸送層を形成した後、次いで発光層を以下の通り蒸着した。ホストとして化合物RH-1又はRH-3を真空蒸着装置の1つのセルに導入し、ドーパントとして化合物RD-1を真空蒸着装置の別のセルに導入した。2つの材料を異なる速度で蒸発させ、ドーパントをホスト及びドーパントの総量に基づいて3重量%のドープ量で蒸着させて、第2の正孔輸送層に厚さ40nmの発光層を形成した。次に、化合物ET-1及び化合物EI-1を2つのセルに導入し、1:1の重量比で蒸発させ、発光層に厚さ35nmの電子輸送層を形成した。電子輸送層に厚さ2nmの電子注入層として化合物EI-1を蒸着させた後、Mg(マグネシウム)とAg(銀)を9:1の重量比で蒸発させ、これにより厚さ17nmの第2の電極を形成した。次いで、化合物HT-1を、キャップ層として83nmの厚さで蒸発させた。このようにして、OLEDデバイスを作製した。
【0071】
比較例4及び比較例5:発光層の少なくとも1つの層において従来の低屈折率材料を含む赤色発光OLEDデバイスの作製
化合物RH-4又はRH-5を発光層のホスト材料として使用したことを除いて、実施例5及び6と同じ方法でOLEDデバイスを作製した。
【0072】
駆動電圧、発光効率、並びにCIE 1931色座標のX及びY値、並びにEL主要ピークは、作製された赤色発光OLEDデバイスの輝度5,000ニットでPHOTO RESEARCH Inc.の輝度計(PR-655)を使用して電圧を印加することにより測定され、以下の表2に示す。
【化2】
【0073】
【0074】
表2のように、本開示によるOLEDデバイスは、CIEx座標値が0.670に近い光、即ち、従来の材料を使用したOLEDデバイスと比較して同じデバイス厚さと構造でより濃い色を放出した。この違いは、ディスプレイで表現できる色領域の大幅な増加の利点を示している。
【0075】
この利点は、以下の表3に更に具体的に示されている。
【0076】
【0077】
表3の項目は、
図2のCIE 1931図に基づいており、表3のT1からT3は、
図2のT1からT3を指している。
【0078】
表3のように、高屈折率化合物を用いた実施例5及び6のデバイスの色座標特性については、比較的低い屈折率の化合物を用いた比較例4及び5のデバイスの色座標特性と比較して、表現可能な面積が広い。