IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 八重洲無線株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】無線中継システム
(51)【国際特許分類】
   H04W 72/121 20230101AFI20241024BHJP
   H04W 72/54 20230101ALI20241024BHJP
   H04W 84/08 20090101ALI20241024BHJP
   H04W 84/18 20090101ALI20241024BHJP
【FI】
H04W72/121
H04W72/54 110
H04W84/08
H04W84/18 110
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023218922
(22)【出願日】2023-12-26
【審査請求日】2023-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000234937
【氏名又は名称】八重洲無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089956
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 利和
(72)【発明者】
【氏名】飯束 嘉庸
【審査官】石井 則之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-9236(JP,A)
【文献】特開平8-223631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B7/14-7/26
H04W4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線中継器と一のグループを構成する複数の無線通信端末とからなり、電波法施行規則及び無線設備規則に基づいて策定された標準規格において前記無線中継器と各無線通信端末間の通信に係る上り波と下り波に使用可能な対波とされる2つのチャネル(以下、「ペアチャネル」という)の群から一のペアチャネルを選択して半複信方式による前記無線通信端末間のグループ通信を行う無線中継システムであって、
前記無線中継器は、
受信復調部Aと受信復調部Bと変調送信部Cとそれらを制御する制御部を備え、前記受信復調部Aと前記変調送信部Cには前記一のペアチャネルが設定される一方、前記受信復調部Bは前記受信復調部Aの受信チャネルとして使用可能なチャネル群を巡回走査して空きチャネルを探索し、待受・受信モードでは、前記受信復調部Aと前記受信復調部BをON状態、前記変調送信部CをOFF状態とし、前記受信復調部Aの復調信号から前記グループに係るグループ識別情報が検出確認された場合に中継モードに切り替わり、同中継モードでは、前記変調送信部CをON状態として前記受信復調部Aが出力する復調信号で送信チャネルの搬送波を変調して送信し、加えて、前記待受・受信モードにおいて、前記受信復調部Aがその復調信号から前記グループ識別情報を検出確認できない一定電界強度以上の電波を所定時間以上受信した場合には、前記受信復調部Aと前記変調送信部Cの設定ペアチャネルを前記受信復調部Bが探索した空きチャネルに係るペアチャネルに変更すると共に、前記変調送信部CをON状態にして前記グループ識別情報とチャネル変更要求情報を送信するものであり、
前記各無線通信端末は、
受信復調部Dと受信復調部Eと変調送信部Fとそれらを制御する制御部を備え、前記受信復調部Dと前記変調送信部Fには前記無線中継器側の前記受信復調部Aと前記変調送信部Cに設定されているペアチャネルが送受信について逆の関係で設定される一方、前記受信復調部Eは前記受信復調部Dの受信チャネルとして使用可能なチャネル群を巡回走査して空きチャネルを探索し、待受・受信モードでは、前記受信復調部Dと前記受信復調部EをON状態、前記変調送信部FをOFF状態として、前記受信復調部Dが出力する復調信号を音声再生し、送信モードでは、前記受信復調部Dと前記受信復調部EをOFF状態、前記変調送信部FをON状態として、入力音声信号で前記変調送信部Fの送信チャネルの搬送波を変調して送信し、加えて、前記待受・受信モードにおいて、前記受信復調部Eがその巡回走査過程で前記無線中継器側が送信した前記グループ識別情報と前記チャネル変更要求情報を受信した場合には、その受信チャネルとそれに対してペアチャネルの関係にあるチャネルをそれぞれ前記受信復調部Dと前記変調送信部Fに設定するものである
ことを特徴とする無線中継システム。
【請求項2】
前記無線中継器において、前記受信復調部Aがその復調信号から前記グループ識別情報を確認できない一定電界強度以上の電波を所定時間以上受信した場合に、その所定時間以上の受信が検出される直前の前記受信復調部Bによる一巡回走査過程で複数の空きペアチャネルが検出されているときには、非空きペアチャネルに対する周波数の離隔度が最も大きい空きペアチャネルを前記受信復調部Aと前記変調送信部Cに変更設定して、前記変調送信部Cから前記グループ識別情報とチャネル変更要求情報を送信することとした請求項1に記載の無線中継システム。
【請求項3】
前記無線中継器において、前記変調送信部Cの送信動作に先立って前記受信復調部Aを用いたキャリアセンスを実行する場合には、非空きペアチャネルに対する周波数の離隔度が大きい順に空きペアチャネルを選択してキャリアセンスを実行することとした請求項2に記載の無線中継システム。
【請求項4】
無線中継器と一のグループを構成する複数の無線通信端末とからなり、電波法施行規則及び無線設備規則に基づいて策定された標準規格において前記無線中継器と各無線通信端末間の通信に係る上り波と下り波に使用可能な対波とされる2つのチャネル(以下、「ペアチャネル」という)の群から一のペアチャネルを選択して半複信方式による前記無線通信端末間のグループ通信を行う無線中継システムであって、
前記無線中継器は、
受信復調部Aと受信復調部Bと変調送信部Cとそれらを制御する制御部を備え、前記受信復調部Aと前記変調送信部Cには前記一のペアチャネルが設定される一方、前記受信復調部Bは前記受信復調部Aの受信チャネルとして使用可能なチャネル群を巡回走査し、待受・受信モードでは、前記受信復調部Aと前記受信復調部BをON状態、前記変調送信部CをOFF状態とし、前記受信復調部Aの復調信号から前記グループに係るグループ識別情報が検出確認された場合に中継モードに切り替わり、同中継モードでは、前記変調送信部CをON状態にして前記受信復調部Aが出力する復調信号で送信チャネルの搬送波を変調して送信し、加えて、前記待受・受信モードにおいて、前記受信復調部Bがその巡回走査過程で前記各無線通信端末のいずれかが送信した前記グループ識別情報とチャネル変更要求情報を受信した場合には、その受信チャネルとそれに対してペアチャネルの関係にあるチャネルをそれぞれ前記受信復調部Aと前記変調送信部Cに設定すると共に、前記変調送信部Cから前記グループ識別情報と前記チャネル変更要求情報を送信するものであり、
前記各無線通信端末は、
受信復調部Dと受信復調部Eと変調送信部Fとそれらを制御する制御部を備え、前記受信復調部Dと前記変調送信部Fには前記無線中継器側の受信復調部Aと変調送信部Cに設定されているペアチャネルが送受信について逆の関係で設定される一方、前記受信復調部Eは前記受信復調部Dの受信チャネルとして使用可能なチャネル群を巡回走査すると共に空きチャネルを探索し、待受・受信モードでは、前記受信復調部Dと前記受信復調部EをON状態、前記変調送信部FをOFF状態として、前記受信復調部Dが出力する復調信号を音声再生し、送信モードでは、前記受信復調部Dと前記受信復調部EをOFF状態、前記変調送信部FをON状態として、入力音声信号で前記変調送信部Fの送信チャネルの搬送波を変調して送信し、加えて、前記待受・受信モードにおいて、前記受信復調部Dがその復調信号から前記グループ識別情報を検出確認できない一定電界強度以上の電波を所定時間以上受信した場合には、前記受信復調部Dと前記変調送信部Fの設定ペアチャネルを前記受信復調部Eが探索した空きチャネルに係るペアチャネルに変更すると共に、前記変調送信部FをON状態にして前記グループ識別情報と前記チャネル変更要求情報を送信する一方、前記受信復調部Eがその巡回走査過程で前記無線中継器側が送信した前記グループ識別情報と前記チャネル変更要求情報を受信した場合には、その受信チャネルとそれに対してペアチャネルの関係にあるチャネルをそれぞれ前記受信復調部Dと前記変調送信部Fに設定するものである
ことを特徴とする無線中継システム。
【請求項5】
前記無線通信端末において、前記受信復調部Dがその復調信号から前記グループ識別情報を確認できない一定電界強度以上の電波を所定時間以上受信した場合に、その所定時間以上の受信が検出される直前の前記受信復調部Eによる一巡回走査過程で複数の空きペアチャネルが検出されているときには、非空きペアチャネルに対する周波数の離隔度が最も大きい空きペアチャネルを前記受信復調部Dと前記変調送信部Fに変更設定して、前記変調送信部Fから前記グループ識別情報とチャネル変更要求情報を送信することとした請求項4に記載の無線中継システム。
【請求項6】
前記無線通信端末において、前記変調送信部Fの送信動作に先立って前記受信復調部Dを用いたキャリアセンスを実行する場合には、非空きペアチャネルに対する周波数の離隔度が大きい順に空きペアチャネルを選択してキャリアセンスを実行することとした請求項5に記載の無線中継システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線中継器とそれを通じて相互に半複信方式で通信を行う複数の無線通信端末とからなり、無線中継器又は無線通信端末に対して妨害電波があった場合に、現使用のペアチャネルを空き状態にあるペアチャネルへ自動的に変更する無線中継システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特定小電力無線局である業務用無線通信機を用いたグループ通信においては、通信エリアを拡大して、多層階のビルや別棟との連絡、遮蔽物などで電波の届きにくいエリアの通話確保、及び通話品質の改善を図る目的で無線中継器(親局)が設けられることが多く、無線中継器を経由した無線通信端末によるグループ通信ネットワークが構成される。
また、空中線電力1mW以下の陸上移動業務の無線局(作業連絡用)である業務用無線通信機にあっては、親局を経由した子局相互間の通話が基本とされており、前記と同様のグループ通信ネットワークとなる。
【0003】
そして、それらのネットワークでは無線中継器を介した各無線通信端末間の半複信方式による通信となるが、その通信に係る上り波と下り波にはペアチャネル(対波)が用いられ、使用可能なペアチャネルは電波法施行規則及び無線設備規則に基づいて策定された標準規格(下記非特許文献1及び2を参照)で電波の型式と通信方式に応じて定められており、無線中継器と各無線通信端末が特定小電力無線局に該当するものである場合には図3Aの27組のペアチャネルが使用可能とされる。
【0004】
ここで、前記グループ通信ネットワークが、図22に示すように、無線中継器100と2台の無線通信端末201,202とからなる模式的構成になっていると仮定する。
無線中継器100と各無線通信端末201,202はチャネル番号CH1のペアチャネルを使用する状態にあり、同ペアチャネルのL帯側とH帯側のチャネルが送受信に関して逆の関係で無線中継器100と各無線通信端末201,202に設定されている。具体的には、無線中継器100の受信復調部RX01はチャネル番号CH1のL帯側のチャネルに、変調送信部TX01は同チャネル番号のH帯側のチャネルに設定されており、各無線通信端末201,202の受信復調部RX11,RX21はチャネル番号CH1のH帯側のチャネルに、変調送信部TX11,TX21は同チャネル番号のL帯側のチャネルに設定されている。
また、このグループ通信ネットワークのグループ識別情報はコード”01”とされており、通信に際しては常に同コードを信号中に含めて送信し、また受信に際しては同コードの検出確認が行われる。
【0005】
したがって、図22の待受状態から無線通信端末201が無線通信端末202を発呼して通信を行う場合には、図23に示すように、無線通信端末201から無線中継器100への上り波はチャネル番号CH1のL帯側のチャネルとなり、下り波は同チャネル番号のH帯側のチャネルとなる。
これは、逆に無線通信端末202側が無線通信端末201を発呼した通信の場合においても当然に同様のチャネル使用条件となり、各無線通信端末201,202は送受信が入れ替わりながら半複信方式による通信を間欠的に実行できる。
【0006】
ところで、前記グループ通信ネットワークの運用エリアに近接した場所で他の通信ネットワークの運用が開始されて、図24に示すように、前記通信の合間である待受状態に当該グループ外の無線通信端末301(グループ識別情報はコード”02”)がチャネル番号CH1のチャネルを使用した通信がなされると、無線中継器100が占有されることになり、また各無線通信端末201,202が特定小電力無線局であるとキャリアセンスでビジー状態の結果になるため、いずれにしても各無線通信端末201,202間の通信は不能状態になる。
この通信不能状態が発生する原因は、前記のようにグループ外の無線通信端末301の電波による場合に限らず、近隣に強力なノイズ源がある場合などにおいても同様に通信不能状態が発生する。
【0007】
その場合、チャネル番号CH1のチャネルでの妨害電波が終了するまで待機すればグループ通信を再開させることができるが、再度どのようなタイミングで妨害電波が発生するかも知れず、チャネル番号CH1のペアチャネルを使用する限り安定した通信が望めない。
したがって、最適な対策としてはグループ通信ネットワークで使用している現状のペアチャネルを他の空きペアチャネルへ変更することである。
【0008】
この問題に対して、下記特許文献1においては、妨害電波やフェージング等があって通信が不可能な状態になっても無線中継機能を維持させるレピータ装置及び通信端末に係る提案がなされている。
このレピータ装置は、それぞれに設定された送受信周波数でレピータとして機能するユニットである制御チャネルレピータと複数の通信チャネルレピータを備えている。ただし、ここにいわゆる制御チャネルは、前記特定小電力無線局であれば、図3Aの27組のペアチャネルの他にチャネル番号19として特別に設けられた周波数制御チャネルに相当するものと想定される。
一方、レピータ装置を介して通信を行う各通信端末は、レピータ装置に対して制御チャネルを介して発呼した際に当該レピータ装置が不応答であったことを示す送信不成立情報又は/及び送信再送回数情報(以下、「送信不調情報」という)を記録し、制御チャネルを介してレピータ装置に送信される信号中に送信不調情報を付加して送信する。
【0009】
レピータ装置は、機能手段として、通信端末側から制御チャネルを介して受信した送信不調情報を記録する制御チャネル状態検出手段と、送信不調情報と予め設定した閾値情報とを比較する手段と、通信チャネルレピータが空線状態か否かを検出する通信チャネル空線検出手段と、送信不調情報が閾値を越えた場合に空線状態の通信チャネルレピータを制御チャネルレピータに切替える旨の情報を生成する制御チャネル切替情報生成手段と、生成した制御チャネル切替情報を通信端末に対して送信するとともに、その制御チャネル切替情報に基づいて、該当する通信チャネルレピータを制御チャネルレピータに切替えるレピータ切替手段も備えており、それにより、制御チャネルレピータの通信状態が悪化したときに通信状態のよい通信チャネルレピータにその機能を代行させる。
【0010】
したがって、下記特許文献1の提案は、制御チャネルに妨害電波などが発生して制御チャネルレピータが機能しなくなった際に空線状態にある通信チャネルレピータに制御チャネルレピータの機能を代行させるものであるが、段落[0007]には「通信チャネルレピータに関しても、その通信品質が劣化した場合、正常な制御チャネルレピータや制御チャネルを通信チャネルとして使用することにより、正常な中継機能を維持することが可能である。」と記載されており、通信チャネルに妨害電波などが発生した場合にも当該通信チャネルレピータから他の通信チャネルレピータに切り替えることが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2009‐267685号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】社団法人電波産業会、「特定小電力無線局/無線電話用無線設備/標準規格」,RCR STD-20 5.1版、令和3年10月29日改定
【文献】社団法人電波産業会、「空中線電力1mW以下の陸上移動業務の無線局(作業連絡要)の無線設備/標準規格」,RCR STD-31 4.0版、令和2年9月28日改定
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のように、特許文献1の提案では、レピータ装置において、制御チャネルに妨害電波などが生じた場合に、制御チャネルレピータの機能を通信チャネルレピータに担わせ、また、具体的には開示されていないが、通信チャネルに妨害電波などが生じた場合にも、当該通信チャネルレピータから他の通信チャネルレピータや制御チャネルレピータへ機能を移行させるようになっている。
【0014】
ただし、前記レピータ装置はチャネル毎にユニットとしてのチャネルレピータ(制御チャネルレピータと複数の通信チャネルレピータ)を備えたものであり、各チャネルレピータはそれぞれに送受信周波数(特定小電力無線局であればペアチャネル)が設定された受信復調部と変調送信部を備えている。
したがって、仮に27組のペアチャネルに対応できるレピータ装置となると、制御チャネルも併せて受信復調部と変調送信部がそれぞれ28個組み込まれた構成になって当然に高価な装置となり、半複信方式での無線中継システムの場合には不使用状態の通信チャネルレピータが多数生じることから利用効率がきわめて悪いものになる。
【0015】
また、前記レピータ装置では、中継動作中の通信チャネルに妨害電波などが生じた場合において、当該通信チャネルレピータから他の通信チャネルレピータへ移行させるのはよいが、その通信チャネルの変更に係る情報を通信端末側へ通知するに際しては制御チャネルレピータを用いることになる。
その場合、制御チャネルは周波数制御を目的とする情報を送受信するためのチャネルであることから、他の通信チャネルと比較して頻繁に利用される傾向にあるため、近接エリアで同種の通信ネットワークが運用されているような場合にはビジー状態が継続して利用できない可能性が高くなる。
【0016】
また、一つの通信チャネルレピータに妨害電波などが生じて、中継動作を空線状態の通信チャネルレピータへ移行させる場合に、多数の通信チャネルレピータを備えていると通信チャネル空線検出手段において空線状態の通信チャネルレピータが多数検出されることがあるが、空線状態とされる通信チャネルであっても隣接する周波数の通信チャネルが使用されていると電波干渉が生じる可能性があり得る。
【0017】
本発明は、以上の課題を勘案して創作されたものであり、無線中継器と複数の無線通信端末とからなり、上り波と下り波にペアチャネルを用いて各無線通信端末が無線中継器を介したグループ通信を行う無線通信システムにおいて、現使用のペアチャネルに対する妨害電波があることを無線中継器又は無線通信端末で検出確認した場合に、当該ペアチャネルを自動的に他の空きペアチャネルに変更する機能を、比較的簡単な構成により、また制御チャネルも用いることもなく、合理的に実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
第1の発明は、無線中継器と一のグループを構成する複数の無線通信端末とからなり、電波法施行規則及び無線設備規則に基づいて策定された標準規格において前記無線中継器と各無線通信端末間の通信に係る上り波と下り波に使用可能な対波とされる2つのチャネル(以下、「ペアチャネル」という)の群から一のペアチャネルを選択して半複信方式による前記無線通信端末間のグループ通信を行う無線中継システムであって、前記無線中継器は、受信復調部Aと受信復調部Bと変調送信部Cとそれらを制御する制御部を備え、前記受信復調部Aと前記変調送信部Cには前記一のペアチャネルが設定される一方、前記受信復調部Bは前記受信復調部Aの受信チャネルとして使用可能なチャネル群を巡回走査して空きチャネルを探索し、待受・受信モードでは、前記受信復調部Aと前記受信復調部BをON状態、前記変調送信部CをOFF状態とし、前記受信復調部Aの復調信号から前記グループに係るグループ識別情報が検出確認された場合に中継モードに切り替わり、同中継モードでは、前記変調送信部CをON状態として前記受信復調部Aが出力する復調信号で送信チャネルの搬送波を変調して送信し、加えて、前記待受・受信モードにおいて、前記受信復調部Aがその復調信号から前記グループ識別情報を検出確認できない一定電界強度以上の電波を所定時間以上受信した場合には、前記受信復調部Aと前記変調送信部Cの設定ペアチャネルを前記受信復調部Bが探索した空きチャネルに係るペアチャネルに変更すると共に、前記変調送信部CをON状態にして前記グループ識別情報とチャネル変更要求情報を送信するものであり、前記各無線通信端末は、受信復調部Dと受信復調部Eと変調送信部Fとそれらを制御する制御部を備え、前記受信復調部Dと前記変調送信部Fには前記無線中継器側の前記受信復調部Aと前記変調送信部Cに設定されているペアチャネルが送受信について逆の関係で設定される一方、前記受信復調部Eは前記受信復調部Dの受信チャネルとして使用可能なチャネル群を巡回走査して空きチャネルを探索し、待受・受信モードでは、前記受信復調部Dと前記受信復調部EをON状態、前記変調送信部FをOFF状態として、前記受信復調部Dが出力する復調信号を音声再生し、送信モードでは、前記受信復調部Dと前記受信復調部EをOFF状態、前記変調送信部FをON状態として、入力音声信号で前記変調送信部Fの送信チャネルの搬送波を変調して送信し、加えて、前記待受・受信モードにおいて、前記受信復調部Eがその巡回走査過程で前記無線中継器側が送信した前記グループ識別情報と前記チャネル変更要求情報を受信した場合には、その受信チャネルとそれに対してペアチャネルの関係にあるチャネルをそれぞれ前記受信復調部Dと前記変調送信部Fに設定するものであることを特徴とする無線中継システムに係る。
【0019】
この第1の発明は、無線中継器で妨害電波を受けた場合にグループ通信ネットワークの現使用チャネルを自動的に変更するための無線中継システムに関する。
妨害電波の認定については、受信復調部Aの復調信号からグループ識別情報が検出確認できないこと、その電波が一定電界強度以上であること及びその受信が所定時間以上継続した場合としており、グループに属していない無線通信端末やその他のノイズ発生源の電波がグループ通信の音声通話を害するレベルにあって且つ一定時間継続した場合に妨害電波有りとする。
この発明では、無線中継器と各無線通信端末がそれぞれ本来の信号受信用の受信復調部Aと受信復調部Dと共にチャネル巡回走査用の受信復調部Bと受信復調部Eを備えており、無線中継器では、待受・受信モードでの受信復調部Bの巡回走査動作により、受信復調部Aの受信チャネルとして使用可能なチャネル群から空きペアチャネルを探索し、各無線通信端末では、待受・受信モードでの受信復調部Eの巡回走査動作により、受信復調部Dの現状設定チャネルでは受信できない無線中継器からの情報送信電波を受信させる。
そして、無線中継器では、受信復調部Aに対して前記妨害電波があった場合に、受信復調部Bで予め探索している空きペアチャネルを受信復調部Aと変調送信部Cに変更設定すると共に、変調送信部Cから空きチャネルを通じてグループ識別情報とチャネル変更要求情報を送信し、一方、各無線通信端末側では、無線中継器から送信されたグループ識別情報とチャネル変更要求情報を受信復調部Eの巡回走査過程で受信すると、その受信チャネルに係るペアチャネルを受信復調部Dと変調送信部Fに対して変更設定する。
その場合、無線中継器側の受信復調部Aと変調送信部Cに変更設定される各チャネルと各無線通信端末側の受信復調部Dと変調送信部Fに変更設定される各チャネルは当然に同一の空きペアチャネルであるが、チャネルは無線中継器側と各無線通信端末側とでは送受信について逆の関係になる。
その結果、第1の発明に係る無線中継システムによれば、無線中継器が妨害電波を受けた場合には、グループ通信に使用されているペアチャネルを自動的に他の空きペアチャネルへ変更でき、妨害電波の影響を排したSN比の高い良好な状態での半複信方式の無線通信が可能になる。
【0020】
第1の発明に係る無線通信システムの前記無線中継器において、前記受信復調部Aがその復調信号から前記グループ識別情報を確認できない一定電界強度以上の電波を所定時間以上受信した場合であって、その所定時間以上の受信が検出される直前の前記受信復調部Bによる一巡回走査過程で複数の空きペアチャネルが検出されているときには、非空きペアチャネルに対する周波数の離隔度が最も大きい空きペアチャネルを前記受信復調部Aと前記変調送信部Cに変更設定して、前記変調送信部Cから前記グループ識別情報とチャネル変更要求情報を送信するように制御されることが望ましい。
【0021】
前記ペアチャネルは各種無線局の無線設備の標準規格によって定められているが、それぞれの標準規格において多数の使用可能なペアチャネルが所定周波数間隔で昇順に用意されている。
したがって、無線中継器の設置場所などの条件にもよるが、受信復調部Bにおける一巡回走査の過程では多数の空きペアチャネルが検出される場合が多い。
ところで、例えば、上記非特許文献1での標準規格にある各ペアチャネル間の周波数間隔は、図3Aに示すようにチャネル番号1~18では12.5kHz、チャネル番号32~40では25.0kHzとされており、チャネル番号の異なるペアチャネル間では混信が生じない前提にはなっているが、近接したエリアで他のグループの無線通信システムが隣接したチャネル番号のチャネルを使用して運用されている場合、近隣のレストランの電子レンジなどの強力なノイズ源がある場合、その他、不法無線局などが近い周波数で運用されている場合や電波異常伝播が発生した場合などには、チャネル番号が異なっていても電波干渉が生じて通話通信に支障が生じることがある。
そこで、第1の発明に係る前記無線中継器では、受信復調部Aで妨害電波の受信が検出される直前に受信復調部Bがその一巡回走査過程で複数の空きペアチャネルを検出している場合には、それら空きペアチャネルの中から非空きペアチャネル(現状設定ペアチャネルも含む)に対する周波数の離隔度が最も大きい空きペアチャネルを選択して前記受信復調部Aと前記変調送信部Cに変更設定することで、できる限り電波干渉の影響を受けていない空きペアチャネルが選択されるようにしている。
そして、無線中継器は、変調送信部Cによりその選択した空きチャネルを通じてグループ識別情報とチャネル変更要求情報を送信させ、各無線通信端末側の送受信チャネルもその空きチャネルに変更設定させる。
したがって、妨害電波の影響をより有効に排除できると共に、電波干渉もなくSN比の高い半複信方式の無線通信を実現できることになる。
【0022】
また、第1の発明に係る無線通信システムの前記無線中継器が、前記のように空きペアチャネルの中から非空きペアチャネルに対する周波数の離隔度を考慮した空きペアチャネルの選択を行って前記受信復調部Aと前記変調送信部Cに変更設定するものであり、且つ、前記変調送信部Cの送信動作に先立って前記受信復調部Aを用いたキャリアセンスを実行する必要がある場合には、非空きペアチャネルに対する周波数の離隔度が大きい順に空きペアチャネルを選択してキャリアセンスを実行するように制御することが望ましい。
【0023】
前記無線中継器では、送信の空中線電力が1mW以下のものを除いて、送信動作に先立ってキャリアセンスを実行する必要があるが、受信復調部Bが妨害電波の受信が検出する直前の一巡回走査で検出した空きペアチャネルでキャリアセンスを実行するために、殆どの場合にアイドル状態となる筈である。
しかしながら、混雑したネットワーク環境にある場合には、キャリアセンスを実行するまでの僅かな時間においても、他のグループがキャリアセンスの対象となる空きチャネルの使用を開始した等の理由でキャリアセンスの結果がビジー状態となる場合もあり得る。
そのような事情を考慮して、この無線中継器では、キャリアセンスの結果が送信不可になった場合における次のキャリアセンスの対象となる空きペアチャネルの選択基準を、現状設定ペアチャネルに対して周波数の離隔度合いが大きい順とすることで、できる限り妨害電波の影響を受けにくい空きペアチャネルが選択されるようにしている。
【0024】
第2の発明は、無線中継器と一のグループを構成する複数の無線通信端末とからなり、電波法施行規則及び無線設備規則に基づいて策定された標準規格において前記無線中継器と各無線通信端末間の通信に係る上り波と下り波に使用可能な対波とされる2つのチャネル(以下、「ペアチャネル」という)の群から一のペアチャネルを選択して半複信方式による前記無線通信端末間のグループ通信を行う無線中継システムであって、前記無線中継器は、受信復調部Aと受信復調部Bと変調送信部Cとそれらを制御する制御部を備え、前記受信復調部Aと前記変調送信部Cには前記一のペアチャネルが設定される一方、前記受信復調部Bは前記受信復調部Aの受信チャネルとして使用可能なチャネル群を巡回走査し、待受・受信モードでは、前記受信復調部Aと前記受信復調部BをON状態、前記変調送信部CをOFF状態とし、前記受信復調部Aの復調信号から前記グループに係るグループ識別情報が検出確認された場合に中継モードに切り替わり、同中継モードでは、前記変調送信部CをON状態にして前記受信復調部Aが出力する復調信号で送信チャネルの搬送波を変調して送信し、加えて、前記待受・受信モードにおいて、前記受信復調部Bがその巡回走査過程で前記各無線通信端末のいずれかが送信した前記グループ識別情報とチャネル変更要求情報を受信した場合には、その受信チャネルとそれに対してペアチャネルの関係にあるチャネルをそれぞれ前記受信復調部Aと前記変調送信部Cに設定すると共に、前記変調送信部Cから前記グループ識別情報と前記チャネル変更要求情報を送信するものであり、前記各無線通信端末は、受信復調部Dと受信復調部Eと変調送信部Fとそれらを制御する制御部を備え、前記受信復調部Dと前記変調送信部Fには前記無線中継器側の受信復調部Aと変調送信部Cに設定されているペアチャネルが送受信について逆の関係で設定される一方、前記受信復調部Eは前記受信復調部Dの受信チャネルとして使用可能なチャネル群を巡回走査すると共に空きチャネルを探索し、待受・受信モードでは、前記受信復調部Dと前記受信復調部EをON状態、前記変調送信部FをOFF状態として、前記受信復調部Dが出力する復調信号を音声再生し、送信モードでは、前記受信復調部Dと前記受信復調部EをOFF状態、前記変調送信部FをON状態として、入力音声信号で前記変調送信部Fの送信チャネルの搬送波を変調して送信し、加えて、前記待受・受信モードにおいて、前記受信復調部Dがその復調信号から前記グループ識別情報を検出確認できない一定電界強度以上の電波を所定時間以上受信した場合には、前記受信復調部Dと前記変調送信部Fの設定ペアチャネルを前記受信復調部Eが探索した空きチャネルに係るペアチャネルに変更すると共に、前記変調送信部FをON状態にして前記グループ識別情報と前記チャネル変更要求情報を送信する一方、前記受信復調部Eがその巡回走査過程で前記無線中継器側が送信した前記グループ識別情報と前記チャネル変更要求情報を受信した場合には、その受信チャネルとそれに対してペアチャネルの関係にあるチャネルをそれぞれ前記受信復調部Dと前記変調送信部Fに設定するものであることを特徴とする無線中継システムに係る。
【0025】
この第2の発明は、無線中継器ではなく無線通信端末が妨害電波を受けた場合にグループ通信ネットワークの使用チャネルを自動的に変更するための無線中継システムに関する。
この発明でも、第1の発明と同様に、無線中継器と各無線通信端末はそれぞれ本来の信号受信用の受信復調部Aと受信復調部Dと共にチャネル巡回走査用の受信復調部Bと受信復調部Eを備えている。
ただし、この第2の発明の場合では、いずれか一の無線通信端末の受信復調部Dでの妨害電波の受信が端緒となり、その無線通信端末が受信復調部Eで探索した空きペアチャネルを受信復調部Dと変調送信部Fに設定してグループ識別情報とチャネル変更要求情報を送信する。
一方、無線中継器はチャネル変更要求を前記一の無線通信端末以外の無線通信端末へ伝搬させる役割を担い、受信復調部Bの巡回走査過程でグループ識別情報とチャネル変更要求情報を受信すると、その受信チャネルに係るペアチャネルを受信復調部Aと変調送信部Cに変更設定すると共に、変調送信部Cからグループ識別情報とチャネル変更要求情報を送信する。
以降、各無線通信端末はその受信復調部Eの巡回走査過程で無線中継器からのグループ識別情報とチャネル変更要求情報を受信すると、前記第1の発明の場合と同様に、その受信チャネルとそれに対してペアチャネルの関係にあるチャネルがそれぞれ受信復調部Dと変調送信部Fに設定される。
その結果、無線中継器も各無線通信端末もそれぞれグループ通信に使用されているペアチャネルを自動的に妨害電波のある状態から他の空きペアチャネルへ変更でき、SN比の高い良好な状態での半複信方式の無線通信が可能になる。
なお、無線中継器からのグループ識別情報とチャネル変更要求情報は、妨害電波を受けて既に受信復調部Dと変調送信部Fが空きペアチャネルに設定された無線通信端末においても受信復調部Dと受信復調部Eで共に受信されることになる。
その場合、当該無線通信端末でも空きペアチャネルを再設定することになってもよいが、受信復調部Dでの直接受信があることで無視することもできる。
【0026】
第2の発明に係る無線通信システムの前記各無線通信端末において、前記受信復調部Dがその復調信号から前記グループ識別情報を確認できない一定電界強度以上の電波を所定時間以上受信した場合であって、その所定時間以上の受信が検出される直前の前記受信復調部Eによる一巡回走査過程で複数の空きペアチャネルが検出されているときには、非空きペアチャネルに対する周波数の離隔度が最も大きい空きペアチャネルを前記受信復調部Dと前記変調送信部Fに変更設定して、前記変調送信部Fから前記グループ識別情報とチャネル変更要求情報を送信するように制御されることが望ましい。
【0027】
また、第2の発明に係る無線通信システムの前記無線通信端末において、前記変調送信部Fの送信動作に先立って前記受信復調部Dを用いたキャリアセンスを実行する場合には、非空きペアチャネルに対する周波数の離隔度が大きい順に空きペアチャネルを選択してキャリアセンスを実行するように制御することが望ましい。
【0028】
これらの空きペアチャネルの選択方式は、第1の発明における無線中継器が妨害電波を受信した場合と同様の制御に係るものであり、妨害電波の影響をより有効に排除する共に、電波干渉もなくSN比の高い半複信方式の無線通信を実現する。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、無線中継器と一のグループを構成する複数の無線通信端末とからなり、電波法施行規則及び無線設備規則に基づいて策定された標準規格において無線中継器と各無線通信端末間の通信に係る上り波と下り波に使用可能とされるペアチャネル群から一のペアチャネルを選択して半複信方式による無線通信端末間のグループ通信を行う無線中継システムにおいて、無線中継器又は無線通信端末が妨害電波を受けた場合に、前記ペアチャネル群についての巡回走査により予め探索されている複数の空きペアチャネルの中から非空きペアチャネル(妨害電波を受けた現状設定ペアチャネルも含む)に対する周波数の離隔度が最も大きい空きペアチャネルを選択して、現状設定ペアチャネルに替えて変更設定することにより、妨害電波の影響をより有効に排除できると共に、電波干渉もなくSN比の高い半複信方式の無線通信を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の無線中継システムに係る実施形態に適用される無線中継器の機能ブロック図である。
図2】本発明の無線中継システムに係る実施形態に適用される無線通信端末の機能ブロック図である。
図3A】実施形態の無線中継システムで使用されるペアチャネル群(上記非特許文献1の表3-2及び表3-4に示される計27組)を示す表である。
図3B】実施形態の無線中継システムで使用される通信フレームフォーマット図である。
図4】実施形態1に係る無線中継ネットワーク図(通信状態)である。
図5】実施形態1に係る無線中継ネットワーク図(待受状態)である。
図6】実施形態1に係る無線中継ネットワーク図(無線中継器への妨害電波発生状態)である。
図7】実施形態1における無線中継器の動作フローチャートである。
図8】実施形態1に係る無線中継ネットワーク図(無線中継器でチャネル変更設定がなされた状態)である。
図9】実施形態1に係る無線中継ネットワーク図(無線中継器からチャネル変更要求が送信された状態)である。
図10】実施形態1における各無線通信端末の動作フローチャートである。
図11】実施形態1に係る無線中継ネットワーク図(無線通信端末でチャネル変更設定がなされた状態/待受状態)である。
図12】実施形態1に係る無線中継ネットワーク図(チャネル変更後の通信状態)である。
図13】実施形態2に係る無線中継ネットワーク図(無線通信端末への妨害電波発生状態)である。
図14】実施形態2における無線通信端末の動作フローチャートである。
図15】実施形態2に係る無線中継ネットワーク図(妨害電波を受信した無線通信端末でチャネル変更設定がなされた状態)である。
図16】実施形態2に係る無線中継ネットワーク図(妨害電波を受信した無線通信端末からチャネル変更要求が送信された状態)である。
図17】実施形態2における無線中継器の動作フローチャートである。
図18】実施形態2に係る無線中継ネットワーク図(無線中継器でチャネル変更設定がなされた状態/待受状態)である。
図19】実施形態2に係る無線中継ネットワーク図(無線中継器からチャネル変更要求が送信された状態)である。
図20】実施形態2における無線通信端末の動作フローチャート(図14におけるステップS42aに相当)である。
図21】実施形態2に係る無線中継ネットワーク図(全ての無線通信端末でチャネル変更設定がなされた状態/待受状態)である。
図22】従来技術に係る無線中継ネットワーク図(待受状態)である。
図23】従来技術に係る無線中継ネットワーク図(通信状態)である。
図24】従来技術に係る無線中継ネットワーク図(無線中継器への妨害電波発生状態)である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の無線中継システムに係る実施形態について図1から図20までを用いて詳細に説明する。ただし、この実施形態では無線中継器と無線通信端末が上記非特許文献1に係る特定小電力無線局/無線電話用無線設備に準拠するものとする。
【0032】
<無線中継器の構成>
実施形態に係る無線中継器50は図1の構成を備えている。同図において、51は受信アンテナ、RX01とRX02は受信復調部、TX01は変調送信部、52は送信アンテナ、53はシステム制御部、54は操作部、55は各種インジケータランプであり、無線中継器50全体の動作はシステム制御部53によって制御される。
受信復調部RX01と変調送信部TX01はそれぞれ上り波と下り波のチャネルに制御設定され、受信復調部RX01が受信アンテナ51での受信電波信号から設定チャネルの信号を復調して変調送信部TX01へ出力し、変調送信部TX01では設定チャネルのキャリア信号を受信復調部RX01から入力される復調信号で変調した後、その被変調信号を電力増幅して送信アンテナ52から電波発射させる。
【0033】
ここで、受信復調部RX01と変調送信部TX01に設定される各チャネルは図3Aにおいていずれか一のチャネル番号に係るペアチャネルの関係にあり、下記の各実施形態ではそのL帯側のチャネルが受信復調部RX01に、H帯側のチャネルが変調送信部TX01に設定される。したがって、無線中継器50は、上り波をL帯側のチャネルとし、下り波をH帯側のチャネルとして、ペアチャネルを利用した中継通信を実行する。
【0034】
一方、受信復調部RX02については、待受・受信モードにおいて図3AのL帯側(受信復調部RX01と同一帯側)の全チャネルを巡回走査するように制御される。
この受信復調部RX02の巡回走査の利用目的については下記の実施形態1と実施形態2で異なり、実施形態1においては、前記L帯群の巡回走査過程で空きペアチャネルを確認して、その情報をシステム制御部53が内蔵メモリに更新記憶させるために利用され、下記実施形態2においては、下記無線通信端末60側から受信復調部RX01の設定チャネルと異なる変更後のチャネルで送信されてくるグループ識別情報やチャネル変更要求信号を受信するために利用される。
【0035】
なお、操作部54からは電源のON/OFF、グループ通信モードの選択、使用可能なペアチャネルの選択、その他の設定情報のためのボタン操作等を行うことができ、各種インジケータランプはモード設定状態やバッテリー(図示せず)の消耗状態等を示すべく点灯/点滅/消灯されるが、それらの管理・制御についてもシステム制御部53が実行する。
【0036】
<無線通信端末の構成>
実施形態に係る無線通信端末60は図2の構成を備えている。同図において、61は送受信アンテナ、62はアンテナ切替部、RXn1とRXn2は受信復調部、63は増幅器、64はスピーカ(又はイヤホン)、65はマイクロホン、66は増幅器、TXn1は変調送信器、67はシステム制御部、68は操作部、69は液晶表示部であり、無線通信端末60全体の動作はシステム制御部67によって制御される。なお、受信復調部RXn1,RXn2及び変調送信器TXn1での符号に係る「n」は、複数の無線通信端末60を用いてグループ通信を行う場合に、それぞれの端末における受信復調部と変調送信器を区別するための便宜上の数値(n=1,2,3…)である。
【0037】
無線通信端末60の受信系では、受信アンテナ61で受信した電波信号がアンテナ切替部62を通じて受信復調部RXn1へ入力されるが、受信復調部RXn1はその設定チャネルに係る信号だけを復調し、その復調信号が増幅器63で増幅されてスピーカ64から音声出力させる。
受信復調部RXn1と変調送信部TXn1にはペアチャネルが設定されるが、それらのチャネルは無線中継器50側の受信復調部RX01と変調送信部TX01に設定されるペアチャネルと送受信について逆の関係になり、下記の各実施形態では受信復調部RXn1にH帯側のチャネルが、変調送信部TXn1にL帯側のチャネルが設定される。
【0038】
一方、受信復調部RXn2については、待受・受信モードにおいて図3AのH帯側(受信復調部RXn1と同一帯側)の全チャネルを巡回走査するように制御される。
この受信復調部RXn2の巡回走査の利用目的については下記の実施形態1と実施形態2で異なり、実施形態1においては、下記無線中継器50側から受信復調部RXn1の設定チャネルと異なる変更後のチャネルで送信されてくるグループ識別情報やチャネル変更要求信号を受信するために利用され、実施形態2においては、前記H帯群の巡回走査により空きペアチャネルを確認して、その走査情報をシステム制御部67が内蔵メモリに更新記憶させるために利用され、また、実施形態1の場合と同様の目的にも利用される。
【0039】
無線通信端末60の送信系では、マイクロホン65から入力された音声信号が増幅器66で増幅され、変調送信部TXn1が設定チャネルのキャリア信号を前記増幅後の音声信号で変調すると共にその被変調信号を電力増幅し、アンテナ切替部62を通じて送信アンテナ61から電波発射させる。
【0040】
なお、送受信モードの変更に応じてアンテナ切替部62をアンテナ61と変調送信部TXn1側又は受信復調部RXn1,RXn2側の接続状態を切り替える必要があり、また、操作部68でのボタン操作やダイアル操作により電源のON/OFF、各種通信モードの選択、使用可能なペアチャネルの選択、その他の設定情報を行うことができ、液晶表示部69にはモード設定状態や使用チャネルやバッテリー(図示せず)の消耗状態等を表示させるが、それらの管理・制御についてもシステム制御部67が実行する。
【0041】
<通信フレームフォーマット>
図3Bは下記実施形態におけるグループ通信で使用される通信フレームフォーマット図の一例である。
送信側では同フォーマットに組み込まれた音声信号部のベースバンド信号によりMSK(Minimum Shift Keying)等で変調した変調波を送信し、受信側ではその変調波に係る受信信号を復調して音声信号を再生する一方、音声信号に先行して受信するデータペイロードの各情報信号が分離検出されて動作制御のためのデータとされる。
そして、そのデータペイロードには自機識別情報やグループ識別情報や送受信チャネル情報がセットされていると共に、無線中継器50又は無線通信端末60において妨害電波が検出された場合にはチャネル変更要求信号もセットできるようになっている。
【0042】
<実施形態1>
この実施形態1は、前記の無線中継器(以下、「中継器」と略す)50と3台の無線通信端末(以下、「通信端末」と略す)60(60a,60b,60c)で半複信方式によるグループ通信ネットワークを構成する無線通信システムにおいて、中継器50が妨害電波を受信したときに、グループ通信に使用されているペアチャネルを他の空きペアチャネルに変更する場合の各機器50,60a,60b,60cの動作とシステムとしての手順に係る。
【0043】
図4の無線中継ネットワーク図は、グループ通信のための送受信チャネルがペアチャネルCH1に設定されており、通信端末60aが送信側、通信端末60b,60cが受信側となった場合の中継器50を介した中継通信状態を示す。
ここで、図4以降の全ての無線中継ネットワーク図(図22から図24を除く)において、中継器50に含まれる機能ブロックのRX01,RX02とTX01は図1でそれらの符号に対応する2つの受信復調部と変調送信部を示し、通信端末60a,60b,60cに含まれる機能ブロックのRXn1,RXn2とTXn1(n=1,2,3)は、図2でそれらの符号に対応する2つの受信復調部と変調送信部を示す。
また、受信復調部と変調送信部に係る前記各符号に「:」を介して付記されている「CHi-X」(i=1,2、X=L,H,SCAN)について、「CHi」はペアチャネルに係るチャネル番号(図3Aを参照)に相当し、「L」又は「H」はチャネルがペアチャネルの内のL波帯かH波帯かを示し、「SCAN」は図3AのL帯群又はH帯群の全チャネルに対する巡回走査状態にあることを示す。
また、中継器50と通信端末60a,60b,60cの機能ブロックにおいて、斜線が施されていないものはON状態、斜線が施されているものはOFF状態にあることを示す。
【0044】
図4の中継通信状態においては、通信端末60aが受信復調部RX11,RX12をOFF状態、変調送信部TX11をON状態にして通話音声信号をチャネルCH1-Lで送信した場合に係る。
中継器50では、その電波を受信復調部RX01で受信復調すると、変調送信部TX01をOFF状態からON状態に切り替え、復調した通話音声信号で搬送波信号を変調した被変調信号をチャネルCH1-Hで送信する一方、待受・受信状態にある通信端末60b,60cがその中継送信された電波を受信復調部RX21,RX31で受信復調して音声再生する。
【0045】
図4は通信端末60aが送信端末となった場合を示すが、通信端末60a,60b,60cのいずれが送信端末となっても、中継器50を介して、チャネルCH1-Lを上り波とし、チャネルCH1-Hを下り波とした半複信方式によるグループ通信が同様に実行される。
ただし、グループ通信であるため、中継器50と通信端末60a,60b,60cでは常に送信信号のデータペイロードにグループ識別情報(以下、「G-ID」という)としてコード”01”を含めて送信し、また受信復調した信号のデータペイロードにG-ID”01”が含まれていることを確認した上で通話音声信号の再生を行う。
なお、この実施形態では上記非特許文献1の特定小電力無線局/無線電話用無線設備/標準規格に基づくネットワーク通信となるため、通信端末60a,60b,60cと中継器50は送信に先立ってキャリアセンスを実行し、他の無線局等による所定電界強度以上の電波を受信していないことを確認した上で送信を行う。
【0046】
図5は前記無線中継ネットワークにおける待受状態を示し、図4で送信端末となった通信端末60aは、他の通信端末60b,60cと同様に、変調送信部TX11をOFF状態に、受信復調部RX11,RX12をON状態に戻しており、中継器50においても受信復調部RX01に受信信号が無いために変調送信部TX01がOFF状態に切り替わっている。
【0047】
ところで、中継器50の受信復調部RX02では、待受・受信モードにおいて常に図3AのL帯群の全27チャネルを巡回走査して、各チャネルについて空き状態か否かを確認しており、その一巡回走査分の情報をシステム制御部53が内蔵メモリにリングバッファ方式で記憶させている。
具体的には、上記非特許文献1の第1-10頁のキャリアセンスに関する記事にあるように、1つのチャネル毎に200msecをかけて受信入力電力の値が給電線入力点において-96dBm以上の値になるかどうかを判定し、その条件に該当したチャネルにフラグを立てておく動作を図3AのL帯群の全27チャネルを一巡回分として実行することにより、前記フラグが下りているチャネルを空き状態とした走査情報テーブルを作成して逐次内蔵メモリに更新記憶させている。
なお、この実施形態では前記27チャネルを走査対象としているが、無線中継ネットワークでの使用ペアチャネルを前記27チャネルの中から選択したものに制限している場合には、当然にそれらの制限したチャネル(例えば、10チャネル)だけを一巡回走査の対象とすることになる。
【0048】
図6は待受状態(図5)において中継器50に妨害電波があった場合を示し、ここでは中継器50が他のグループ(G-ID”02”)に属する通信端末70からの通話音声信号をチャネルCH1-Lの電波で受信した状態を示している。
その状態では、当然に中継器50の受信復調部RX01で前記妨害電波の信号が受信復調されることになるが、中継器50のシステム制御部53では図7のフローチャートに示す手順を実行することにより無線中継ネットワークの使用チャネルを変更させる。
【0049】
先ず、待受状態において中継器50の受信復調部RX01が所定電界強度以上の電波を受信すると、システム制御部53が受信復調部RX01から得られる受信復調信号のデータペイロードを確認し、G-IDとしてのグループコードである”01”が検出できるか否かを判断する(S1~S4)。
その場合の受信復調部RX01での電波受信に係る電界強度に関しては、音声通信の妨害になるかどうかを勘案してレベルを定めればよいが、受信復調部RX02での巡回走査による空きチャネル探索の場合と同様に、受信入力電力の値が給電線入力点において-96dBm以上となるかどうかを基準にしてもよい。
【0050】
前記ステップS1~S4において、受信復調部RX01での電波受信に係る電界強度が前記基準より小さい場合には、妨害電波とはみなさずに待受状態のままとし(S1,S2:N→S1)、また、GID:”01”が検出された場合には、グループ内の通信端末60a,60b,60cからの送信電波の受信に相当するため、図4に示したような電波受信中は通常の中継動作を実行することになる(S4:Y→S5→S1)。
【0051】
一方、GID:”01”が検出されない場合には、内蔵のインターバルタイマーによる計時を開始させ(S4:N→S6)、電界強度を維持したまま当該電波の受信が継続するかどうかを確認する(S6,S7)。
そして、インターバルタイマーにセットされた所定時間を計時する前に当該電波の受信が途絶えるとタイマーをリセットして待受状態に戻るが(S7→S8→S1)、タイムアウトになるとタイマーをリセットした後、以降の無線中継ネットワークの使用チャネルを変更するための手順へ移行する(S9:Y→S10~S15)。
【0052】
なお、ここでは妨害電波が図6で示したように他のグループの通信端末70としているが、他の電波源による妨害電波を除外するものではなく、グループに属する通信端末60a,60b,60c以外からの電波受信を対象とするために、妨害電波の認定についてはG-IDとして”01”が検出されないことだけを条件としている(S4)。
また、妨害電波が所定時間(例えば、1sec)以上継続しなければ、無線中継ネットワークの使用チャネルを維持するようにしており(S9→S7→S8→S1)、通話にあまり影響しないような突発的な妨害電波によって頻繁に使用チャネルの変更動作が繰り返されることを回避している。
【0053】
無線中継ネットワークの使用チャネルの変更は、受信復調部RX01と変調送信部TX01の現状設定ペアチャネル(CH1-LとCH1-H)を受信復調部RX02による直前の巡回走査で得られている各ペアチャネルの状態情報に基づいて選択した空きペアチャネルに変更設定するものである。
すなわち、受信復調部RX02がタイムアウト直前の図3AのL帯群についての一巡回走査により検出した空きペアチャネルの内、非空きペアチャネルに対して周波数の離隔度が最も大きい空きペアチャネル(ここではチャネル番号:CH2とする)を選択し、受信復調部RX01と変調送信部TX01の現状設定ペアチャネル(CH1-LとCH1-H)をその選択したペアチャネル(CH2-LとCH2-H)に変更設定する(S10,S11)。
【0054】
具体的には、タイムアウト直前の一巡回走査において、図3Aの右列の妨害電波フラグのようにOFFの空きペアチャネルと、ONの非空きペアチャネルが検出されている走査情報テーブルが作成されている状態で、受信復調部RX01と変調送信部TX01の現状設定ペアチャネルのチャネル番号(CH1)が6であったとして、そのペアチャネルについて妨害電波があった場合には、前記走査情報テーブルにおいて非空きペアチャネルに対する周波数の離隔度が最も大きい空きペアチャネルはチャネル番号32(CH2)に相当することから、その空きペアチャネル(CH2-LとCH2-H)が受信復調部RX01と変調送信部TX01に変更設定されることになる。
【0055】
「非空きペアチャネルに対する周波数の離隔度が最も大きい空きペアチャネル」の求め方としては、次のような手順になる。
(1) 妨害フラグの列欄において、OFFの両側又はOFFの連続部分の両端にONがある場合には、その両側又は両端のONに係るチャネル周波数の間隔を求める。
(2) 妨害フラグの列欄において、チャネル番号1のフラグがOFFである場合において、フラグがONである最小チャネル番号のチャネル周波数とチャネル番号1のチャネル周波数との間隔を求める。
(3) 妨害フラグの列欄において、チャネル番号40のフラグがOFFである場合において、チャネル番号40のチャネル周波数とフラグがONである最大チャネル番号のチャネル周波数との間隔とを求める。
(4) (1)で求めた間隔の1/2と、(2)で求めた間隔と、(3)で求めた間隔とを比較して、(1)の値が最大であった場合には、ONに挟まれたOFFのチャネルに係るペアチャネル又は両端のONのチャネル周波数の加算平均に最も近い周波数のチャネルに係るペアチャネルを、(2)の値が最大であった場合には、チャネル番号1のペアチャネルを、(3)の値が最大であった場合には、チャネル番号40のペアチャネルをそれぞれ該当ペアチャネルとして選択する。
図3Aの右列の妨害電波フラグに基づいて、(4)のアルゴリズムで求めた該当ペアチャネルは前記のようにチャネル番号32(CH2)となる。
【0056】
図8は中継器50の受信復調部RX01と変調送信部TX01が空きペアチャネル(CH2-LとCH2-H)に変更設定された状態を示し、中継器50はチャネル番号CH2のペアチャネルへ移行したことにより通信端末70からの妨害電波の影響を受けなくなっているが、通信端末60a,60b,60c側は依然として従前の無線中継ネットワークの使用チャネルが設定されたままであり、中継器50はGID:”01”とチャネル変更要求信号(以下、「CCR」という)を通信端末60a,60b,60cへ送信してチャネル番号CH2のペアチャネルを設定させる必要がある。
【0057】
したがって、中継器50はCH2-Hに変更設定された変調送信部TX01をON状態にしてCCRを送信することになるが、送信に先立って受信復調部RX01を用いてペアチャネル(CH2-L又はCH2-H)に係るキャリアセンスを実行する必要がある(S12)。
その場合、直前の一巡回走査においてチャネル番号CH2のペアチャネルが空き状態であることを確認しているため、キャリアセンスの結果は殆どアイドル状態で送信可となるはずであるが、たまたま前記一巡回走査の後にチャネル番号CH2のペアチャネルに係る妨害電波が発生していたようなときにはビジー状態で送信不可の結果となる。
【0058】
そのため、キャリアセンスの結果がビジー状態になった時には、前記走査情報テーブルにおいて非空きペアチャネルに対する周波数の離隔度が第2番目に大きい空きペアチャネル(前記走査情報テーブルではチャネル番号9)を選択してキャリアセンスを再実行することになる(S11,S12,S13→S14→S12)。
なお、ビジー状態となったチャネル番号のペアチャネルには後発的に妨害電波フラグを立てた状態で前記離隔度を比較判定し、以降も同様にして前記離隔度が第m番目に大きい空きペアチャネルを選択することになるが、一般的には第3番目以降で選択するようなことはきわめて稀である。
【0059】
中継器50はキャリアセンスの結果がアイドル状態であると、変調送信部TX01をON状態にして、変更設定されたペアチャネルのH帯側のチャネルでGID:”01”とCCRを送信する(S13→S15)。
図9は、非空きペアチャネルに対する周波数の離隔度が最も大きいペアチャネル(CH2-L又はCH2-H)で第1回目のキャリアセンスがアイドル状態となってチャネルCH2-HでGID:”01”とCCRを送信した状態を示す。
【0060】
この段階で各通信端末60a,60b,60cの受信復調部RXn1と変調送信部TXn1は従前のペアチャネル(CH1-HとCH1-L)のままであり、中継器50から送信されたGID:”01”とCCRは受信復調部RXn2の巡回走査におけるチャネルCH2-Hの走査過程で検出されることになる。
【0061】
図10は各通信端末60a,60b,60c側での送受信設定チャネルの変更手順を示す。
先ず、各通信端末60a,60b,60cでは待受状態においてそれぞれの受信復調部RXn2で図3AのH帯群の27チャネルを巡回走査しており、所定電界強度以上の電波を受信するとその受信チャネルで一旦巡回走査を停止させる(S21~S23)。
そして、システム制御部53が受信復調部RXn2から得られる受信復調信号のデータペイロードを確認し、GID:”01”が検出できるか否かを判断する(S24,S25)。
【0062】
ここで、GID:”01”が検出されなかった場合には、受信復調部RXn2の巡回走査を再開させて待受状態に戻るが(S25→S26→S21)、GID:”01”が検出された場合には、さらにCCRが検出されるかどうかを確認する(S25→S27)。
CCRが検出されなかった場合は、GID:”01”は検出されているので中継器50が中継したグループ通信に係る受信であり、受信復調部RXn2の巡回走査を再開させると共に、現状チャネル(CH1-H,CH1-L)を維持したまま受信復調部RXn1が通話信号を受信して再生し、その受信が終了することで待受状態に戻る(S27→S28~S30→S21)。
【0063】
一方、CCRが検出された場合には、増幅器64をミュート設定し、受信復調部RXn1と変調送信部TXn1の各チャネルを受信復調部RXn2の走査停止チャネルに係るペアチャネル(CH2-LとCH2-H)に変更設定した後、増幅器64のミュート設定を解除して待受状態に戻る(S27→S31~S33→S21)。
この待受状態では、図11に示されるように、中継器50と各通信端末60a,60b,60cには空きペアチャネルであるCH2のL帯とH帯のチャネルが送受信について逆の関係で設定されたことになる。
【0064】
したがって、図12に示すように、各通信端末60a,60b,60cのいずれか(図12では通信端末60a)がその変調送信部TXn1から上りチャネルCH2-LでデータペイロードにGID:”01”を含めて通話音声信号を送信すると、中継器50がそれを受信・中継して下りチャネルCH2-Hで送信し、前記送信端末以外の各通信端末60a,60b,60c(図12では通信端末60b,60c)が受信復調部RXn1でその中継された送信電波を受信復調して音声再生させる。
【0065】
以上のとおり、中継器50を介した各通信端末60a,60b,60c間の半複信方式によるグループ通信のネットワークチャネルがペアチャネルCH1である図5の待受状態において、中継器50に対して妨害電波があった場合には、自動的に前記ネットワークチャネルが図11に示すようにペアチャネルCH2へ変更され、妨害電波の影響を受けないグループ通信が可能になる。
【0066】
<実施形態2>
この実施形態2は、前記実施形態1の場合と同様に中継器50と3台の通信端末60(60a,60b,60c)で半複信方式によるグループ通信ネットワークを構成する無線通信システムに係るものであるが、通信端末60のいずれかが妨害電波を受信したときに、グループ通信に使用されているペアチャネルを他の空きペアチャネルに変更する場合の各機器50,60の動作とシステムとしての手順に係る。
【0067】
図13は、図5の待受状態において通信端末60aに妨害電波があった場合を示し、実施形態1では図6に相当するものであり、通信端末60aが他のグループ(G-ID”02”)に属する通信端末70からの通話音声信号をチャネルCH1-Hの電波で受信した状態を示している。
その状態では、当然に通信端末60aの受信復調部RX11で前記妨害電波の信号が受信復調されることになるが、通信端末60aのシステム制御部67は図14のフローチャートに示す手順を実行する。
【0068】
その手順は、通信端末60と中継器50の相違による部分を除けば、実施形態1での中継器50における手順(図7)に類似したものとなる。
先ず、待受状態において通信端末60aの受信復調部RX11が所定電界強度以上の電波を受信すると、システム制御部67が受信復調部RX11から得られる受信復調信号のデータペイロードを確認し、GID:”01”が検出できるか否かを判断する(S41~S44)。
その場合の受信復調部RX11での電波受信に係る電界強度に関しては、実施形態1での中継器50の場合と同様に、音声通信の妨害になるかどうかを勘案してレベルを定めればよく、受信入力電力の値が給電線入力点において-96dBm以上となるかどうかを基準にすればよい。
【0069】
前記ステップS41~S44において、受信復調部RX11での電波受信に係る電界強度が前記基準より小さい場合には、妨害電波とはみなさずに待受状態のままとし(S41,S42:N→S42a:図20でS81→S41)、また、GID:”01”が検出された場合には、グループ内の通信端末60a,60b,60cから中継器50を介して送られてきた送信電波の受信に相当するため、現状チャネルで通話信号を受信して音声再生を実行し、その通話信号の受信が終了すると待受状態に戻ることになる(S44:Y→S45,S46→S41)。
【0070】
一方、GID:”01”が検出されない場合には、内蔵のインターバルタイマーによる計時を開始させ(S44:N→S47)、電界強度を維持したまま当該電波の受信が継続するかどうかを確認する(S47,S48)。
そして、インターバルタイマーにセットされた所定時間を計時する前に当該電波の受信が途絶えるとタイマーをリセットして待受状態に戻るが(S48→S49→S41)、タイムアウトになるとタイマーをリセットした後、以降の無線中継ネットワークの使用チャネルを変更するための手順へ移行する(S50:Y→S51~S58)。
【0071】
なお、妨害電波については、他のグループの通信端末70からのものだけでなく、グループに属する他の通信端末60b,60cと中継器50以外からの電波受信を対象とするために、実施形態1の場合と同様に、その認定についてはG-IDとして”01”が検出されないことだけを条件としている(S44)。
また、妨害電波が所定時間(例えば、1sec)以上継続しなければ、無線中継ネットワークの使用チャネルを維持するようにしており、通話にあまり影響しないような突発的な妨害電波によって頻繁に使用チャネルの変更動作が繰り返されることを回避している点についても、実施形態1の場合と同様である。
【0072】
前記タイムアウトがあった後、無線中継ネットワークの使用チャネルの変更に際しては、まず自機(ここでは通信端末60a)の現状設定ペアチャネル(CH1-LとCH1-H)を変更することになるが、受信復調部RX11のチャネル切り替えがなされる際の不要音が再生出力されてしまうことを防止するために増幅器63をミュート設定する(S51)。
【0073】
そして、受信復調部RX11と変調送信部TX11の現状設定ペアチャネル(CH1-HとCH1-L)を受信復調部RX12による直前の巡回走査で得られている各ペアチャネルの状態情報に基づいて選択した空きペアチャネルに変更設定する。
すなわち、受信復調部RX12がタイムアウト直前に図3AのH帯群について一巡回走査で検出した空きペアチャネルの内、非空きペアチャネルに対して周波数の離隔度が最も大きい空きペアチャネル(ここではCH2-HとCH2-Lとする)を選択し、受信復調部RX11と変調送信部TX11の現状設定ペアチャネル(CH1-HとCH1-L)をその選択したペアチャネル(CH2-HとCH2-L)に変更設定する(S52,S53)。
ここで、非空きペアチャネルに対して周波数の離隔度が最も大きい空きペアチャネルを選択する方法は、実施形態1で説明した手順とアルゴリズムに基づくものであり、ここではその説明は省略する。
【0074】
図15は通信端末60aの受信復調部RX11と変調送信部TX11が空きペアチャネル(CH2-HとCH2-L)に変更設定された状態を示し、通信端末60aはチャネル番号CH2のペアチャネルへ移行したことにより通信端末70からの妨害電波の影響を受けなくなっているが、中継器50と通信端末60b,60cは依然として従前の無線中継ネットワークの使用チャネルが設定されたままであるため、通信端末60aは中継器50へGID:”01”とCCRを送信して無線中継ネットワーク全体をチャネル番号CH2のペアチャネルに設定させる。
【0075】
したがって、通信端末60aはCH2-Hに変更設定された変調送信部TX01をON状態にしてGID:”01”とCCRを送信することになるが、送信に先立って受信復調部RX01を用いてペアチャネル(CH2-L又はCH2-H)に係るキャリアセンスを実行する必要がある(S54)。
その場合、直前の一巡回走査においてチャネル番号CH2のペアチャネルが空き状態であることを確認しているため、キャリアセンスの結果は殆どアイドル状態で送信可となるはずであるが、たまたま前記一巡回走査の後にチャネル番号CH2のペアチャネルに係る妨害電波が発生していたようなときにはビジー状態で送信不可の結果となる。
【0076】
そのため、キャリアセンスの結果がビジー状態になった時には、前記走査情報テーブルにおいて非空きペアチャネルに対する周波数の離隔度が第2番目に大きい空きペアチャネル(前記走査情報テーブルではチャネル番号9)を選択してキャリアセンスを再実行することになる(S55:N→S56→S53,S54)。
なお、ビジー状態となったチャネル番号のペアチャネルには後発的に妨害電波フラグを立てた状態で前記離隔度を比較判定し、以降も同様にして前記離隔度が第m番目に大きい空きペアチャネルを選択することになるが、一般的には第3番目以降で選択するようなことはきわめて稀である。
【0077】
通信端末60aはキャリアセンスの結果がアイドル状態であると、図16に示すように、変調送信部TX11をON状態、受信復調部RX11,RX12をOFF状態にして、変更設定された図3Aのチャネル番号CH2のL帯側のチャネルでGID:”01”とCCRを送信する(S55→S57)。
また、CCRの送信により増幅器64のミュート設定を解除して待受状態へ戻る(S58)。
【0078】
ここに、通信端末60aの送信電波(チャネル番号CH2、L帯群側)は中継器50の受信復調部RX02の巡回走査だけで受信可能である。
なぜなら、中継器50の受信復調部RX01と通信端末60b,60cの受信復調部RX21,RX31は未だチャネル番号CH1のチャネルのままでチャネル番号が異なっており、通信端末60b,60cの受信復調部RX22,RX32は27チャネルの巡回走査を実行しているがH帯群側のチャネルについての巡回走査であり、中継器50の受信復調部RX02だけがL帯群側の27チャネルを巡回走査しているからである。
【0079】
中継器50におけるその段階での実行手順は図17に示される。
先ず、中継器50では、待受状態において受信復調部RX02で図3AのL帯群の27チャネルを巡回走査しており、所定電界強度以上の電波を受信するとその受信チャネルで一旦巡回走査を停止させる(S61~S63)。
そして、システム制御部67が受信復調部RX02から得られる受信復調信号のデータペイロードを確認し、GID:”01”が検出できるか否かを判断する(S64,S65)。
【0080】
ここで、GID:”01”が検出されなかった場合には、受信復調部RX02の巡回走査を再開させて待受状態に戻るが(S65→S66→S61)、GID:”01”が検出された場合には、さらにCCRが検出されるかどうかを確認する(S65→S67)。
CCRが検出されなかった場合は、GID:”01”は検出されているのでグループ内の通信端末60a,60b,60cのいずれかからのグループ通信に係る受信であり、受信復調部RX02の巡回走査を再開させると共に、受信復調部RX02と変調送信部TX01の現中継チャネル(CH1-L,CH1-H)を維持したまま変調送信部TX01をON状態に切り替えて音声通話信号の中継動作を実行し、その受信の終了により変調送信部TX01をOFF状態に切り替えて待受状態に戻る(S67→S68,S69→S61)。
【0081】
一方、GID:”01”が検出されて、さらにCCRが検出された場合には、受信復調部RX01と変調送信部TX01の各チャネルを受信復調部RX02の走査停止チャネルに係るペアチャネル(ここではCH2-LとCH2-H)に変更設定する(S65→S67→S70)。
すなわち、図16に示すように、中継器50が通信端末(ここでは60a)からのCCRを受信すると、通信端末60a側の受信復調部RX11と変調送信部TX11に設定されているペアチャネル(CH2-HとCH2-L)が、送受信について逆の関係で中継器50の受信復調部RX01と変調送信部TX01に変更設定される。
【0082】
図18は中継器50の受信復調部RX01と変調送信部TX01にペアチャネル(CH2-LとCH2-H)が設定された状態を示すが、この段階では通信端末60aと中継器50がチャネル番号CH2のペアチャネルを使用した送受信設定になっているのに対して、通信端末60b,60cは未だ妨害電波のチャネルであるチャネル番号CH1のペアチャネルでの送受信設定のままである。
そこで、中継器50のシステム制御部53は受信復調部RX01によりチャネル番号CH2に係るキャリアセンスを実行させ、アイドル状態であることが確認できれば変調送信部TX01からG-ID:"01"とCCRを送信する(S71,S72:Y→S73)。
【0083】
なお、この場合のキャリアセンスにおいても、通信端末60aの受信復調部RX12による直前の巡回走査でチャネル番号CH2のペアチャネルが空き状態であることが確認されていることから、殆どの場合においてアイドル状態になる筈であるが、もしビジー状態になっているようなことがあれば、実施形態1におけるステップS10~S15を実行させて中継器50の主導による使用ペアチャネルの変更設定を行えばよい(S71,S72→S74)。
【0084】
図19は中継器50からG-ID:"01"とCCRが送信された状態を示し、その送信チャネルは変調送信部TX01に変更設定されたチャネル番号CH2のH帯側のチャネルである。
その場合、通信端末60aは受信復調部RX11でそれらの信号を受信するが、その復調信号のデータペイロードからはG-ID:"01"が検出されるため、図14のステップS41~S44:YからステップS45,S46の手順となって通常のグループ中継通信と同等の扱いで処理され、データペイロードからCCRが検出されてもそれを無視して、受信終了により待受状態に戻る(S46→S41)。
【0085】
一方、通信端末60b,60cにおいては、それぞれの受信復調部RX21,RX31がチャネル番号CH1のチャネル設定のままであるため中継器50からの電波を受信できず、それぞれの受信復調部RX22,RX32の巡回走査過程で受信することになる。
そして、通信端末60において、受信復調部RXn1において受信がなく、受信復調部RXn2の巡回走査過程においてのみ電波の受信がある場合の実行手順の詳細は、図14のステップS42aを受けた図20で示される。
【0086】
その図20の全ての実行手順は、実施形態1における図10(無線通信端末60a,60b,60cの動作)のステップS22~S33に相当しており、受信復調部RXn2の巡回走査過程で中継器50から送信された電波を受信すると巡回走査を停止させ、復調信号のデータペイロードからGID:”01”とCCRが検出された場合に、増幅器64をミュート設定した状態で受信復調部RXn1と変調送信部TXn1の各チャネルを受信復調部RXn2の走査停止チャネルに係るペアチャネルに変更設定するものである。
【0087】
その結果、通信端末60b,60cにおける受信復調部RX21,RX31と変調送信部TX21,TX31の設定チャネルは、図21に示すように、チャネル番号CH1のペアチャネルからチャネル番号CH2のペアチャネルに変更設定され、グループ通信に係る無線中継ネットワーク全体の使用するペアチャネルが妨害電波の影響を受けないチャネル番号CH2のペアチャネルに切り替わる。
【0088】
なお、この実施形態2の無線中継システムは実施形態1の無線中継システムと統合することも可能であり、妨害電波に対する使用チャネルの変更をより適応的に実現できる。
【0089】
<適用されるペアチャネル>
上記の各実施形態におけるペアチャネルとしては、上記非特許文献1の第1編の第1-5頁と第1-6頁に掲載されている表3-2及び表3-4の計27組のペアチャネル(図3A)を使用しているが、同文献の第2編の第2-7頁及び第2-8頁に掲載されている表3-3及び表3-4の計52組のペアチャネル、上記非特許文献2の第11頁から第13頁に掲載されている表3-2の計72個の子機用チャネルの内から昇順に連続させて選択した24個のチャネルと第13頁から第14頁に掲載されている表3-3の昇順に連続した24個の親機用(中継器用)チャネルとの任意の組み合わせによる計24組のペアチャネル、及び「デジタル簡易無線局の無線設備/標準規格」:RCR STD-T98 2.0版の第1編の第1-19頁に掲載されている計10組のペアチャネル、第2編の第2-24頁に掲載されている計10組のペアチャネル、第3編の第3-19頁に掲載されている計10組のペアチャネルなども適用可能である。
なお、上記非特許文献2に係る標準規格は空中線電力1mW以下の陸上移動業務の無線局についてのものであるため、キャリアセンスは不要である。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、特定小電力無線局/無線電話用無線設備、空中線電力1mW以下の陸上移動業務の無線局(作業連絡用)の無線設備、及びデジタル簡易無線局の無線設備において利用可能とされるペアチャネルを用いた半複信方式による無線中継ネットワークシステムに適用できる。
【符号の説明】
【0091】
50…無線中継器、51,52…アンテナ、53…システム制御部、54…操作部、55…各種インジケータランプ、RX01…受信復調部、RX02…受信復調部(チャネル巡回走査)、TX01…変調送信部、60(60a,60b,60c)…無線通信端末、61…アンテナ、62…アンテナ切替部、63…増幅器、64…スピーカ(又はイヤホン)、65…マイクロホン、67…システム制御部、68…操作部、69…液晶表示部、RXn1…受信復調部、RXn2…受信復調部(チャネル巡回走査)、TXn1…変調送信部、70…他のグループに属する無線通信端末。

【要約】
【課題】対波を用いた半複信方式のグループ通信を行う無線中継システムにおいて、中継器又は通信端末に妨害電波があると通信不能になる。
【解決手段】中継器50と各通信端末60は、それぞれ送受信用の変調送信部TX01,TXn1(n=1,2,3)及び受信復調部RX01,RXn1と共に、使用可能なチャネル群を巡回走査して空き対波を探索する受信復調部RX02,RXn2を備える。中継器50のRX01に妨害電波があると、RX02で探索した空き対波の内で非空き対波からの離隔度が最大の対波に変更設定してTX01からチャネル変更要求(CCR)を送信する。各通信端末60ではRXn2の巡回走査でCCRを受信し、自機の送受信用対波をCCRの受信チャネルに対応するものに変更設定する。通信端末60aに妨害電波があると、CCRが同端末60a→中継器50→他の端末60b,60cと伝送される。
【選択図】図9
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24