(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】光造形装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/268 20170101AFI20241024BHJP
B29C 64/129 20170101ALI20241024BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20241024BHJP
【FI】
B29C64/268
B29C64/129
B29C64/393
(21)【出願番号】P 2023500551
(86)(22)【出願日】2021-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2021044008
(87)【国際公開番号】W WO2022176313
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2021025678
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】日下 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】柏木 正浩
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-340923(JP,A)
【文献】特開2004-006440(JP,A)
【文献】特開2003-001599(JP,A)
【文献】国際公開第2016/075802(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/268
B29C 64/129
B29C 64/393
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性樹脂を硬化させる光を生成する光源と、
複数のミラーを備えたデジタルマイクロミラーデバイスであって、前記光を反射することによって所定のパターンを投影するデジタルマイクロミラーデバイスと、
複数のマイクロレンズにより構成されたマイクロレンズアレイであって、前記デジタルマイクロミラーデバイスの後段に配置され、前記デジタルマイクロミラーデバイスが反射した前記光が透過するマイクロレンズアレイと、
前記マイクロレンズアレイの後段に配置され、マイクロレンズアレイを透過した前記光を結像させる対物レンズと、
光硬化性樹脂を収容する容器と、
前記容器の内部に配置された試料台と、
前記試料台の主面からの距離がそれぞれ異なる複数のレベルの各々において、前記光が所定のパターンに結像するように前記デジタルマイクロミラーデバイスを制御する制御部と、
を備えて
おり、
前記マイクロレンズアレイの各マイクロレンズは、前記デジタルマイクロミラーデバイスの2以上のミラーからなる各ミラー群に対応するように配置されている、
ことを特徴とする光造形装置。
【請求項2】
前記光源は、前記光硬化性樹脂が吸収することによって硬化する光のエネルギーの半分のエネルギーに対応する波長を有し、且つ、パルス幅がフェムト秒オーダーである前記光を生成するレーザ光源である、
ことを特徴とする請求項1に記載の光造形装置。
【請求項3】
光硬化型樹脂中に設けた試料台の主面からの距離がそれぞれ異なる第1のレベル~第nのレベル(nは、2以上の整数)の各々に対して所定のパターンの光を結像させることにより光造形物を製造する製造方法であって、
第iのレベル(iは、1≦i≦nの整数)に対して前記光が前記所定のパターンに結像するようにデジタルマイクロミラーデバイスを制御する制御工程と、
前記制御工程において制御された前記デジタルマイクロミラーデバイスを用いて、前記第iのレベルに前記光を照射する照射工程と、を含み、
前記制御工程は、前記デジタルマイクロミラーデバイスが備える複数のミラーを制御し、
前記照射工程は、前記デジタルマイクロミラーデバイスの2以上のミラーからなる各ミラー群において反射した前記光が、マイクロレンズアレイを構成する複数のマイクロレンズであって、前記各ミラー群に対応するように配置された各マイクロレンズを透過し、
iが1からnになるまで、前記制御工程と前記照射工程とを繰り返すことによって前記光造形物の少なくとも一部を造形する、
ことを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光造形装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スキャナの代わりにデジタルマイクロミラーデバイス(Digital Micromirror Device,DMD)を用いてパターニングされた光を投影する投影型のステレオリソグラフィが知られている。このようなステレオリソグラフィは、DLP(Digital Light Processing)とも呼ばれる。また、DLPにおいては、より小さな領域の光硬化性樹脂を硬化させるために、2光子吸収法(Two-Photon Polymerization, TPP)を採用することもできる。非特許文献1のFigure 18及び非特許文献2のFig.1には、DLP及びTPPを採用した光造形装置が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Pawel Fiedor et. al.,"A New Approach to Micromachining: High-Precision and Innovative Additive Manufacturing Solutions Based on Photopolymerization Technology", Materials 2020, 13, 2951.
【文献】Qiang Geng et. al., "Ultrafast multi-focus 3-D nano-fabrication based on two-photon polymerization" NATURE COMMUNICATIONS (2019)10:2179.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような光造形装置では、立体的な光造形物を製造するために、光硬化性樹脂の硬化を一層ずつ実施する。そのため、光造形装置は、光造形物を製造する試料台を上下させるために少なくとも1軸方向に沿って移動するステージを用いる。
【0005】
本発明の一態様は、試料台を上下させるステージを用いなくても立体的な光造形物を造形することができる光造形装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光造形装置は、光硬化性樹脂を硬化させる光を生成する光源と、前記光を反射することによって所定のパターンを投影するデジタルマイクロミラーデバイスと、前記デジタルマイクロミラーデバイスの後段に配置され、前記デジタルマイクロミラーデバイスが反射した前記光が透過するマイクロレンズアレイと、前記マイクロレンズアレイの後段に配置され、マイクロレンズアレイを透過した前記光を結像させる対物レンズと、光硬化性樹脂を収容する容器と、前記容器の内部に配置された試料台と、前記試料台の主面からの距離がそれぞれ異なる複数のレベルの各々において、前記光が所定のパターンに結像するように前記デジタルマイクロミラーデバイスを制御する制御部と、を備えている。
【0007】
本発明の別の態様に係る製造方法は、光硬化型樹脂中に設けた試料台の主面からの距離がそれぞれ異なる第1のレベル~第nのレベル(nは、2以上の整数)の各々に対して所定のパターンの光を結像させることにより光造形物を製造する製造方法である。本製造方法は、第iのレベル(iは、1≦i≦nの整数)に対して前記光が前記所定のパターンに結像するようにデジタルマイクロミラーデバイスを制御する制御工程と、前記制御工程において制御された前記デジタルマイクロミラーデバイスを用いて、前記第iのレベルに前記光を照射する照射工程と、を含み、iが1からnになるまで、前記制御工程と前記照射工程とを繰り返すことによって前記光造形物の少なくとも一部を造形する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、試料台を上下させるステージを用いなくても立体的な光造形物を造形することができる光造形装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る光造形装置の模式図である。
【
図2】
図1に示した光造形装置が備えているデジタルマイクロミラーデバイス及びマイクロレンズアレイの模式図である。
【
図3】(a)~(c)は、それぞれ、
図1に示した光造形装置を用いて、第1の層~第3の層を光造形する工程の模式図である。
【
図4】(a),(b)は、
図3の(b)に示した第2の層を光造形する工程の詳細な模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔ステレオリソグラフィ装置〕
本発明の一実施形態に係るステレオリソグラフィ装置10の構成について、
図1~
図3を参照して説明する。
図1は、ステレオリソグラフィ装置10の模式図である。
図2は、ステレオリソグラフィ装置10が備えているデジタルマイクロミラーデバイス(Digital Micromirror Device,DMD)11及びマイクロレンズアレイ12の模式図である。
【0011】
<構成>
ステレオリソグラフィ装置10は、レーザ装置LAと、DMD11と、マイクロレンズアレイ12と、レンズ13と、容器14と、試料台15と、ステージ16と、制御部Cとを備えている(
図1の(a)参照)。ステレオリソグラフィ装置10は、光造形装置の一例である。
図3の(a)~(c)は、それぞれ、ステレオリソグラフィ装置10を用いて、第1の層~第3の層L1~L3を光造形する工程の模式図である。
【0012】
(レーザ装置)
レーザ光源の一例であるレーザ装置LAは、光硬化型樹脂Rを露光する光Lを生成するレーザを生成する。そのために、レーザ装置LAは、波長λがλ=405nmである光Lを生成する半導体モジュールを備えている。なお、本実施形態においては、λ=405nmである光Lを用いて光硬化型樹脂Rを硬化させるが、2光子吸収法(Two-Photon Polymerization, TPP)を用いて光硬化型樹脂Rを硬化させることもできる。この場合、λ=810nmの光Lを生成するレーザ装置LAを2台用いればよい。λ=810nmの光のエネルギーは、光硬化型樹脂Rを硬化させるλ=405nmである光のエネルギーの半分に対応する。また、TPPを用いて光硬化型樹脂Rを硬化させる場合、レーザ装置LAは、パルス幅がフェムト秒オーダーである前記光を生成する。
【0013】
レーザ装置LAから出射された光Lは、レンズを含むコリメート用の光学系を用いて発散光から
図1に示すコリメート光に変換される。なお、
図1では、光Lの光束の中心軸を光軸A
Lとしている。光軸A
Lは、光Lの主光線が通る光路と一致する。
【0014】
図1においては、液体である光硬化型樹脂Rの表面(すなわち水平面)に直交する鉛直上向き方向をz軸正方向と定め、DMD11に入射する前の光Lの伝搬方向をx軸正方向と定め、x軸正方向及びz軸正方向とともに右手系の直交座標系を構成する方向をy軸正方向と定めている。
【0015】
(デジタルマイクロミラーデバイス)
DMD11は、マトリクス状に配置された複数のミラー11ijを備えている。
図2に示した模式図においては、iは、1≦i≦5を満たす整数であり、jは、1≦j≦3を満たす整数である。すなわち、本実施形態において模式的に説明しているDMD11は、15行15列の11ijを備えている。なお、ミラー11ijは、いずれも同一に構成されている。iを用いて15個のミラーを5つのミラー群11iにグループ分けしているのは、後述するマイクロレンズアレイ12のマイクロレンズ12iとの対応付けを分かりやすくするためである。また、DMD11を構成するミラーの行列数が15行15列(以下において15×15と記載する)であるのは、あくまでもステレオリソグラフィ装置10を模式的に説明するためである。実際に採用するDMD11は、行列数が15よりもはるかに多い。DMD11の行列数の例としては、1280×1024や、1280×768や、1280×720や、1920×1080などが挙げられる。
【0016】
図2に示すように、各ミラー群11iは、マイクロレンズ12iと対応付けられている。なお、
図2においては、説明の便宜上、各ミラー群11iの正面に対向するように対応する各マイクロレンズ12iを描いている。ただし、実際は、
図1に示すように、各マイクロレンズ12iは、各ミラー群11iの正面から斜めにずれた位置に設けられている。
【0017】
各ミラー11ijの向きは、制御部Cにより制御されており、第1の方向及び第2の方向の何れかをとり得る。ミラーが第1の方向を向いている場合、光Lは、z軸負方向に向かって反射される。この状態をオン状態と呼ぶ。また、ミラーが第2の方向を向いている場合、光Lは、z軸負方向とは異なる方向に向かって反射される。この状態をオフ状態と呼ぶ。したがって、DMD11は、マトリクス状に配置された各ミラーのうちオン状態にするミラーを選択することによって、z軸負方向に向かって反射する光Lの照射領域における強度分布を所定のパターンにパターニングする。
【0018】
(マイクロレンズアレイ及び対物レンズ)
DMD11の後段には、マイクロレンズアレイ12と、レンズ13とがこの順番で設けられている。
【0019】
マイクロレンズアレイ12は、マトリクス状に配置された複数のマイクロレンズ12iにより構成されており、DMD11が反射した光Lを透過する。上述したように、各マイクロレンズ12iは、各ミラー群11iに対応付けられている。
【0020】
DMD11により所定のパターンに強度分布をパターニングされた光Lは、レンズ13を用いて、光硬化型樹脂Rの層の下方に位置する試料台15の主面151に投影される。レンズ13は、対物レンズとして機能し、マイクロレンズアレイ12を透過した光Lを主面151に結像させる。
【0021】
(容器、試料台、及びステージ)
DMD11、マイクロレンズアレイ12、及びレンズ13の下方には、容器14、試料台15、及びステージ16が設けられている。
【0022】
ステージ16は、x軸方向、y軸方向、及びz軸方向の各方向にテーブルを並進移動させることができる3軸ステージである。なお、
図1には、ステージ16のテーブルのみを示している。なお、ステージ16は、制御部Cにより制御されている。また、ステージ16のテーブルには、試料台15を支持する支持部が固定されている。
【0023】
ステージ16のテーブルの上には、容器14が載置されている。また、容器14の内部には、試料台15と、光硬化型樹脂Rとが収容されている。
【0024】
試料台15は、容器14の内部に配置されており、支持体により支持されている。上述したように、支持体は、ステージ16のテーブルに固定されている。したがって、ステージ16のテーブルを移動させた場合、容器14、支持体、及び試料台15は、同期して移動する(一体として移動する)。なお、支持体は、試料台15をz軸方向に並進移動することができるz軸ステージであってもよい。
【0025】
光硬化型樹脂Rは、閾値を超えるドーズ量の光Lを照射されることによって、液体から固体へ硬化する。光硬化型樹脂Rは、光造形用として市場に出回っている光硬化型樹脂のなかから用途に応じて選択することができる。
【0026】
ステレオリソグラフィ装置10は、光硬化型樹脂Rの自由液面に対して鉛直上向き方向から光Lを照射する自由液面方式である。したがって、試料台15は、一対の主面のうちz軸正方向側の主面である主面151が自由液面のわずかに下方に位置するように、支持体によりそのz軸方向の位置を定められている。その結果、主面151の上には、光硬化型樹脂Rの所定の厚み(例えば2μm以上5μm以下)を有する層が形成されている(
図1及び
図3の(a)参照)。なお、
図3においては、容器14の内部におけるz軸方向の長さが誇張して図示されている。例えば、
図3の(a)において、主面151から自由液面までの光硬化型樹脂Rの厚みが上述した所定の厚みに対応する。
【0027】
(制御部)
制御部Cは、DMD11における各ミラー11ijの向きと、レーザ装置LAが生成するレーザ光Lのパワー及びパルス幅と、ステージ16におけるテーブルの位置とを制御する。以下においては、DMD11における各ミラー11ijの向きを制御することを、単にDMD11を制御する、とも表現する。また、以下においては、制御部CによるDMD11の制御について説明し、制御部Cによるレーザ装置LA及びステージ16の制御については、説明を省略する。
【0028】
制御部Cは、試料台15の主面151からの距離がそれぞれ異なる複数のレベルの各々において、光Lが所定のパターンに結像するようにDMD11を制御する。
【0029】
図3の(a)に示す第1の層L1を光造形する工程において、制御部Cは、全てのミラー11ijがオン状態になるようにDMD11を制御する。その結果、DMD11は、主面151からの距離(すなわち高さ)が2.5μmである位置に対して、領域R1~R5において結像する光Lを投影する。主面151からの距離が2.5μmである位置は、第1のレベルの一例である。また、領域R1~R5により構成されるパターンは、所定のパターンの一例である。
【0030】
図3の(b)に示す第2の層L1を光造形する工程において、制御部Cは、ミラー1123,1132,1133,1141,1142,1151がオン状態になるようにDMD11を制御する。その結果、DMD11は、主面151からの距離(すなわち高さ)が7.5μmである位置に対して、領域R3,R4において結像する光Lを投影する。主面151からの距離が7.5μmである位置は、第2のレベルの一例である。また、領域R3,R4により構成されるパターンは、所定のパターンの一例である。
【0031】
図3の(c)に示す第2の層L1を光造形する工程において、制御部Cは、ミラー1113,1132,1151がオン状態になるようにDMD11を制御する。その結果、DMD11は、主面151からの距離(すなわち高さ)が12.5μmである位置に対して、領域R3において結像する光Lを投影する。主面151からの距離が12.5μmである位置は、第3のレベルの一例である。また、領域R3により構成されるパターンは、所定のパターンの一例である。
【0032】
上述したように、DMD11により所定のパターンにパターニングされた光Lは、マイクロレンズアレイ12及びレンズ13を用いて、光硬化型樹脂Rの層の下方に位置する主面151に投影される。したがって、DMD11におけるオン状態のミラーにより構成されたパターンが、主面151上の光硬化型樹脂Rの層に転写される。その結果、主面151上に所定のパターンを有する光造形物が造形される。
【0033】
なお、ステレオリソグラフィ装置10の制御ブロックである制御部Cは、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0034】
後者の場合、ステレオリソグラフィ装置10は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0035】
<光造形物の製造方法>
上述したステレオリソグラフィ装置10を用いて実施する光造形物の製造方法について、
図3及び
図4を参照して説明する。上述したように、
図3の(a)~(c)は、それぞれ、ステレオリソグラフィ装置10を用いて、第1の層~第3の層L1~L3を光造形する工程の模式図である。
図4の(a),(b)は、
図3の(b)に示した第2の層L2を光造形する工程の詳細な模式図である。
【0036】
本製造方法は、光硬化型樹脂R中に設けた試料台15の主面151からの距離がそれぞれ異なる第1のレベル~第nのレベル(nは、2以上の整数)の各々に対して所定のパターンの光を結像させることにより光造形物を製造する。本製造方法は、第iのレベル(iは、1≦i≦nの整数)に対して前記光が前記所定のパターンに結像するようにデジタルマイクロミラーデバイスを制御する制御工程と、前記制御工程において制御された前記デジタルマイクロミラーデバイスを用いて、前記第iのレベルに前記光を照射する照射工程と、を含み、iが1からnになるまで、前記制御工程と前記照射工程とを繰り返すことによって前記光造形物の少なくとも一部を造形する。本実施形態においては、nとしてn=3を採用している。ただし、nは、n=3に限定されず、光造形物の大きさや、求められる表面の滑らかさなどに応じて適宜定めることができる。
【0037】
また、本製造方法は、光造形物の全体を製造するために用いることもできるし、光造形物の一部を造形するために用いることもできる。たとえば、nとしてn=10と採用しており、各レベルに対して光を結像させることにより所定の厚み(例えば5μm)の光造形物が得られるとする。所定の厚みが5μmである場合、本製造方法を1度実施することにより厚みが50μmである光造形物が得られる。したがって、全体の厚みが50μm以下である光造形物は、本製造方法を1度実施することによって製造することができる。一方、全体の厚みが50μmを超える光造形物は、本製造方法を複数回実施することによって製造することができる。この場合、本製造方法を1度実施する度に、ステージ16のテーブルの高さ(z軸方向の位置)を50μm下げればよい。
【0038】
なお、従来の光造形物の製造方法では、1つの層を光造形する度に、ステージ16のテーブルの高さを所定の値(たとえば5μm)ずつ下げる構成を採用している。本製造方法は、このような従来の製造方法と組み合わせて1つの光造形物を製造することもできる。
【0039】
図3の(a)に示すように、光硬化型樹脂Rの自由表面が試料台15の主面151の上に位置するように、容器14内に収容された光硬化型樹脂Rの量は制御されている。
図3の(a)において、主面151の上に存在する光硬化型樹脂Rの厚みは、2μm以上5μm以下である。本実施形態においては、5μmであるものとして説明する。
【0040】
第1の層L1を光造形する工程(
図3の(a)参照)においては、全てのミラー11ijがオン状態になるように、制御部Cは、DMD11を制御している。この状態において、各ミラー11ijにより反射された光Lは、主面151と、主面151の上に設けられた光硬化型樹脂Rの自由表面との中間の高さにおいて結像される。上述したように、主面151の上に存在する光硬化型樹脂Rの厚みは5μmである。したがって、制御部Cは、各ミラー11ijにより反射された光Lが主面151から2.5μmの高さで結像するように、DMD11を制御する。すなわち、制御部Cは、全てのミラー11ijをオン状態にする。
【0041】
具体的には、最もx軸負方向側に位置するミラー群111により反射された光Lは、主面151における最もx軸正方向側の領域R1に結像され、最もx軸正方向側に位置するミラー群115により反射された光Lは、主面151における最もx軸負方向側の領域R5に結像される。ミラー群111とミラー群115との間に位置するミラー群112,113,114により反射された光は、領域R1と領域R5との間の領域R2,R3,R4に結像される。主面151からの距離が2.5μmである位置は、第1のレベルの一例である。また、領域R1~R5により構成されるパターンは、所定のパターンの一例である。
【0042】
したがって、光Lが結像された領域に存在する光硬化型樹脂Rが硬化することによって、平面視した場合に所定のパターンを有し、且つ、厚みが5μmである層状の光造形物である第1の層L1が造形される。
【0043】
次に、
図3の(b)に示すように、光硬化型樹脂Rの自由表面の位置が
図3の(a)の場合よりも5μm高くなるように、容器14に光硬化型樹脂Rを追加する。
【0044】
第2の層L2を光造形する工程(
図3の(b)参照)においては、ミラー1123,1132,1133,1141,1142,1151がオン状態になるように、制御部Cは、DMD11を制御している。この状態において、ミラー1123,1132,1141により反射された光Lは、主面151の上に設けられた光硬化型樹脂Rの自由表面のわずかに下方の領域R3において結像される。また、ミラー1133,1142,1151により反射された光Lは、主面151の上に設けられた光硬化型樹脂Rの自由表面のわずかに下方の領域R4におよそ対応する領域において結像される。第1の層L1を光造形する工程の場合と比較して、第2の層L2を光造形する工程においては、光硬化型樹脂Rの自由表面の高さが5μm上昇している。したがって、制御部Cは、各ミラー11ijにより反射された光Lが主面151から7.5μmの高さで結像するように、DMD11を制御する。すなわち、制御部Cは、ミラー1123,1132,1133,1141,1142,1151をオン状態にする。
【0045】
したがって、光Lが結像された領域に存在する光硬化型樹脂Rが硬化することによって、平面視した場合に所定のパターンを有し、且つ、厚みが5μmである層状の光造形物である第2の層L2が造形される。主面151からの距離が7.5μmである位置は、第2のレベルの一例である。また、領域R3,R4により構成されるパターンは、所定のパターンの一例である。
【0046】
なお、ミラー1123,1132,1141により反射された光Lが結像される位置は、領域R3と一致するが(
図4の(a)参照)、ミラー1133,1142,1151により反射された光Lが結像される位置は、領域R4よりもわずかにx軸正方向側へずれる(
図4の(b)参照)。これは、DMD11を模式的に15×15(以下において15×15との記載する)のミラー11ijで図示しているために生じているずれである。実際には、行列数が15×15よりもはるかに多いミラーにより構成されたDMD11を用いるので、
図4の(b)に示したようなずれは解消でき、所望の領域に光造形物を造形することができる。DMD11の行列数の例としては、1280×1024や、1280×768や、1280×720や、1920×1080などが挙げられる。
【0047】
次に、
図3の(c)に示すように、光硬化型樹脂Rの自由表面の位置が
図3の(b)の場合よりも更に5μm高くなるように、容器14に光硬化型樹脂Rを追加する。
【0048】
第3の層L3を光造形する工程(
図3の(c)参照)においては、ミラー1113,1132,1151がオン状態になるように、制御部Cは、DMD11を制御している。この状態において、ミラー1113,1132,1151により反射された光Lは、主面151の上に設けられた光硬化型樹脂Rの自由表面のわずかに下方の領域R3において結像される。第2の層L2を光造形する工程の場合と比較して、第3の層L3を光造形する工程においては、光硬化型樹脂Rの自由表面の高さが5μm上昇している。したがって、制御部Cは、各ミラー11ijにより反射された光Lが主面151から12.5μmの高さで結像するように、DMD11を制御する。すなわち、制御部Cは、ミラー1113,1132,1151をオン状態にする。
【0049】
したがって、光Lが結像された領域に存在する光硬化型樹脂Rが硬化することによって、平面視した場合に所定のパターンを有し、且つ、厚みが5μmである層状の光造形物である第3の層が造形される。主面151からの距離が12.5μmである位置は、第3のレベルの一例である。また、領域R3により構成されるパターンは、所定のパターンの一例である。
【0050】
以上のように、ステレオリソグラフィ装置10を用いることにより、試料台を上下させるz軸ステージを用いなくても、光Lが結像される位置の主面151からの高さを変化させることができるので、立体的な光造形物を造形することができる。
【0051】
なお、本実施形態では、主面151や、第1の層L1の表面などのように平坦な平面上に光造形物を造形する場合を例に、光造形工程について説明した。ただし、本発明を用いる光造形は、平坦な平面上だけではなく、曲面状の表面及び段差を有する表面の上にも造形することができる。
(まとめ)
【0052】
本発明の第1の態様に係る光造形装置は、光硬化性樹脂を硬化させる光を生成する光源と、前記光を反射することによって所定のパターンを投影するデジタルマイクロミラーデバイスと、前記デジタルマイクロミラーデバイスの後段に配置され、前記デジタルマイクロミラーデバイスが反射した前記光が透過するマイクロレンズアレイと、前記マイクロレンズアレイの後段に配置され、マイクロレンズアレイを透過した前記光を結像させる対物レンズと、光硬化性樹脂を収容する容器と、前記容器の内部に配置された試料台と、前記試料台の主面からの距離がそれぞれ異なる複数のレベルの各々において、前記光が所定のパターンに結像するように前記デジタルマイクロミラーデバイスを制御する制御部と、を備えている。
【0053】
上記の構成によれば、デジタルマイクロミラーデバイスが反射する光のパターンを適宜調整することによって、デジタルマイクロミラーデバイスにより反射された光が結像される位置と、試料台の表面との間隔を変更することができる。したがって、本光造形装置は、試料台を上下させるステージを用いなくても立体的な光造形物を造形することができる。
【0054】
本発明の第2の態様に係る光造形装置においては、上述した第1の態様に係る光造形装置の構成に加えて、前記光源は、前記光硬化性樹脂が吸収することによって硬化する光のエネルギーの半分のエネルギーに対応する波長を有し、且つ、パルス幅がフェムト秒オーダーである前記光を生成するレーザ光源である、構成が採用されている。
【0055】
上記の構成によれば、光硬化型樹脂を硬化させる場合に、2光子吸収法を用いることができる。したがって、本光造形装置は、より精細な光造形物を造形することができる。
【0056】
本発明の第3の態様に係る製造方法は、光硬化型樹脂中に設けた試料台の主面からの距離がそれぞれ異なる第1のレベル~第nのレベル(nは、2以上の整数)の各々に対して所定のパターンの光を結像させることにより光造形物を製造する製造方法である。本製造方法は、第iのレベル(iは、1≦i≦nの整数)に対して前記光が前記所定のパターンに結像するようにデジタルマイクロミラーデバイスを制御する制御工程と、前記制御工程において制御された前記デジタルマイクロミラーデバイスを用いて、前記第iのレベルに前記光を照射する照射工程と、を含み、iが1からnになるまで、前記制御工程と前記照射工程とを繰り返すことによって前記光造形物の少なくとも一部を造形する。
【0057】
上記の構成によれば、本製造方法は、上述した第1の態様に係る光造形装置と同様の効果を奏する。
【0058】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
10 ステレオリソグラフィ装置
LA レーザ装置(光源)
11 デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)
12 マイクロレンズアレイ
13 レンズ(対物レンズ)
14 容器
15 試料台
151 主面
C 制御部