(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】車両用ホイールの製造方法
(51)【国際特許分類】
B60B 5/02 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
B60B5/02 E
(21)【出願番号】P 2023503552
(86)(22)【出願日】2021-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2021007752
(87)【国際公開番号】W WO2022185387
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】391006430
【氏名又は名称】中央精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深谷 典之
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-018225(JP,A)
【文献】特開昭55-025322(JP,A)
【文献】特開昭56-159156(JP,A)
【文献】実開昭54-077877(JP,U)
【文献】特開2006-213059(JP,A)
【文献】特開2017-043878(JP,A)
【文献】特開2017-110236(JP,A)
【文献】特開平04-027542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒状のホイールリムと、前記ホイールリムの内周側に設けられるホイールディスクと、を備える繊維強化樹脂製の車両用ホイールであって、
前記ホイールディスクの外表面には、複数の繊維束が異なる向きに規則性をもって重畳するように配向された強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む第1の繊維強化樹脂により形成された外表面層を備え、
前記車両用ホイールの前記外表面層以外の部分である本体部分は、複数の繊維束が不規則に構成された強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む第2の繊維強化樹脂により形成されている、車両用ホイールの製造方法であって、
複数の繊維束が異なる向きに規則性をもって重畳するように配向された強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む第1の樹脂素材を、第1の成形型内に配置し、前記第1の樹脂素材を前記第1の成形型内で加熱・加圧することにより、前記ホイールディスクの外表面の形状を呈する外表面成形体を成形する第1の成形工程と、
複数の金型を有する第2の成形型の内、少なくとも1つの金型の内面に前記外表面成形体を配置し、前記外表面成形体とその他の金型との間に、予め
所定の温度に加熱した、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む
シート状の第2の樹脂素材を配置し、前記外表面成形体および積層された前記第2の樹脂素材を前記第2の成形型内で加熱・加圧することにより、前記車両用ホイールを成形する第2の成形工程と、
を含
み、前記所定の温度が、前記第2の樹脂素材が軟化する温度である、
車両用ホイールの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用ホイールの製造方法であって、
前記外表面成形体は、単数の前記第1の樹脂素材により、前記ホイールディスクの前記外表面の形状が継ぎ目なく形成されている、
車両用ホイールの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車両用ホイールの製造方法であって、
前記第2の成形工程は、前記第2の成形型の内、前記ホイールディスクを形成する下型に相当する金型の内面に前記外表面成形体を載置して、前記外表面成形体とその他の金型との間に、前記第2の樹脂素材を配置する、
車両用ホイールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、車両用ホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、繊維強化樹脂により成形された車両用ホイールが知られている(下記特許文献1参照)。このような繊維強化樹脂製の車両用ホイールは、成形型にシート状の繊維強化樹脂材料を複数枚積層し、加熱・加圧を行うことで繊維強化樹脂材料が流動し、複数の繊維強化樹脂材料が一体化して車両用ホイールが成形される。
【0003】
さらに、この車両用ホイールでは、2種類の大きさを有するシート状の繊維強化樹脂材料を、交互に積層した後、加熱・加圧を行って繊維強化樹脂製の車両用ホイールが成形されている。この成形方法によれば、繊維強化樹脂の繊維方向が互いに異なる複数の向きになるので、車両用ホイールの強度をより向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
繊維強化樹脂製の車両用ホイールは、繊維方向が車両用ホイールの強度に寄与している。
本発明者は、鋭意検討した結果、従来の繊維強化樹脂製の車両用ホイールに比べて外表面部分の強度を向上させる技術を新たに見出した。
【0006】
本明細書では、上述した課題の少なくとも一部を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本明細書に開示される車両用ホイールは、略円筒状のホイールリムと、前記ホイールリムの内周側に設けられるホイールディスクと、を備える繊維強化樹脂製の車両用ホイールであって、前記ホイールディスクの外表面には、複数の繊維束が異なる向きに規則性をもって重畳するように配向された強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む第1の繊維強化樹脂により形成された外表面層を備え、前記車両用ホイールの前記外表面層以外の部分である本体部分は、複数の繊維束が不規則に構成された強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む第2の繊維強化樹脂により形成されている。
【0009】
本車両用ホイールでは、本体部分は、第2の繊維強化樹脂により形成されており、第2の繊維強化樹脂は、複数の繊維束が不規則に構成された強化繊維と熱可塑性樹脂とを含んでいる。外表面層は、第1の繊維強化樹脂により形成されており、第1の繊維強化樹脂は、複数の繊維束が異なる向きに規則性をもって重畳するように配向された強化繊維と熱可塑性樹脂とを含んでおり、相対的に強度が高い。これにより、車両用ホイールにおける外表面部分の強度の向上を図ることができる。
【0010】
(2)上記車両用ホイールにおいて、前記外表面層は、前記車両用ホイールを車両に取り付けた際に車両外側から視認できる側に存在する構成としてもよい。本車両用ホイールによれば、特に車両外側から視認できる側の外表面層の強度の向上を図ることができる。
【0011】
(3)上記(1)または(2)の繊維強化樹脂製の車両用ホイールの製造方法は、複数の繊維束が異なる向きに規則性をもって重畳するように配向された強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む第1の樹脂素材を、第1の成形型内に配置し、前記第1の樹脂素材を前記第1の成形型内で加熱・加圧することにより、前記ホイールディスクの外表面の形状を呈する外表面成形体を成形する第1の成形工程と、複数の金型を有する第2の成形型の内、少なくとも1つの金型の内面に前記外表面成形体を配置し、前記外表面成形体とその他の金型との間に、予め加熱した、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む第2の樹脂素材を配置し、前記外表面成形体および積層された前記第2の樹脂素材を前記第2の成形型内で加熱・加圧することにより、前記車両用ホイールを成形する第2の成形工程と、を含む。本車両用ホイールの製造方法によれば、強度の高い外表面部分を備える車両用ホイールを製造することができる。
【0012】
(4)上記車両用ホイールの製造方法において、前記外表面成形体は、単数の前記第1の樹脂素材により、前記ホイールディスクの前記外表面の形状が継ぎ目なく形成されている構成としてもよい。本車両用ホイールの製造方法によれば、さらに強度の高い外表面部分を成形することができる。
【0013】
(5)上記車両用ホイールの製造方法において、前記第2の成形工程は、前記複数の金型を有する前記成形型の内、前記ホイールディスクを形成する下型に相当する金型の内面に前記外表面成形体を載置して、前記外表面成形体とその他の金型との間に、前記第2の樹脂素材を配置する構成としてもよい。本車両用ホイールの製造方法によれば、下型に外表面成形体を載置することで、本車両用ホイールを作りやすく、且つ意匠の向上を図ることができる。
【0014】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、車両用ホイール、その製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態における車両用ホイール100の外観構成を概略的に示すXZ平面図である。
【
図2】車両用ホイール100のXY側面構成を概略的に示す説明図である。
【
図3】車両用ホイール100の一部のXZ平面構成を概略的に示す説明図である。
【
図4】
図3のIV-IVの位置における車両用ホイール100の断面構成を概略的に示す説明図である。
【
図5】車両用ホイール100の製造工程を示すフローチャートである。
【
図6】外表面成形体30PのXZ平面構成を概略的に示す説明図である。
【
図7】車両用ホイール100の製造工程の一部を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.実施形態:
A-1.車両用ホイール100の構成:
図1は、本実施形態における車両用ホイール(以下、単に「ホイール」という)100の外観構成を概略的に示すXZ平面図である。
図1には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Y軸方向は、ホイール100の回転軸に平行な方向であるとし、以下、「ホイール軸方向」というものとするが、ホイール100は実際にはそのような向きとは異なる向きで配置されてもよい。
図2以降についても同様である。
【0017】
(ホイール100の構成)
ホイール100は、繊維強化樹脂により形成されている。ホイール100を構成する繊維強化樹脂の詳細については後述する。ホイール100は、略円筒状のホイールリム10と、該ホイールリム10の内周側に配置されたホイールディスク20と、を備える。本実施形態のホイール100は、ホイールリム10とホイールディスク20とが一体成形された、いわゆる1ピースタイプのホイールである。以下、ホイール100に対してホイール軸方向の一方側(Y軸正方向側)を「アウター側」といい、ホイール軸方向の他方側(Y軸負方向側)を「インナー側」という。ホイール100が車両本体(図示しない)に装着された場合、ホイール100のアウター側は、車両本体とは反対側に向けられ、ホイール100のインナー側は、車両本体側に向けられる。ホイール100のアウター側の面が意匠面とされる。なお、アウター側は、特許請求の範囲における、車両用ホイールを車両に取り付けた際に車両外側から視認できる側の一例である。
【0018】
図1に示すように、ホイールリム10は、ホイール軸方向(Y軸方向)視で略円環状である。ホイールディスク20は、ホイールリム10におけるアウター寄りの位置に配置されている。ホイールディスク20は、ハブ取付部220と、複数(本実施形態では10本)のスポーク部210とを含む。ハブ取付部220は、略円盤状であり、ホイール軸方向視でホイールディスク20の略中央に位置している。ハブ取付部220の略中心には、車両本体のハブ(図示しない)が連結されるハブ孔222が形成されている。また、ハブ孔222の周囲には、ホイール100を車両本体のハブに固定するための複数のボルト孔224が形成されている。複数のスポーク部210は、ホイールリム10とハブ取付部220との間に放射状に配置されている。
【0019】
(ホイール100を構成する繊維強化樹脂)
図2は、ホイール100の一部のXY側面構成を概略的に示す説明図である。
図2には、ホイール100のホイールリム10(ウェル部)の外周面が示されている。
図3は、ホイール100の一部のXZ平面構成を概略的に示す説明図である。
図3には、ホイールディスク20のアウター側の外表面の一部が拡大して示されている。
図4は、
図3のIV-IVの位置におけるホイール100の断面構成を概略的に示す説明図である。
図4には、スポーク部210の断面構成が示されており、その断面は、スポーク部210が伸びる方向に対して略垂直に切断した面である。
【0020】
図2に示すように、ホイール100は、外表面層30と本体部分40とを備えている。外表面層30は、ホイール100のうち、アウター側の表面(いわゆる意匠面)を構成する部分である。外表面層30の厚さ(ホイール100のアウター側の最表面からの厚さ)は、0.5mm以下であり、0.3mm以下でもよい。また、外表面層30の厚さは、0.2mm以上であることが好ましい。本体部分40は、ホイール100のうち、外表面層30に隣接し、かつ、該外表面層30よりもインナー側の部分である。本実施形態では、本体部分40は、ホイール100のうち、外表面層30以外の部分である。
図4に示すように、外表面層30は、本体部分40(スポーク部210)のアウター側の表面に加えて、本体部分40(スポーク部210)の側面まで連続的に覆っている。これにより、本体部分40(スポーク部210)の強度がより向上し、意匠性が高くなっている。なお、外表面層30の外表面は、本体部分40(スポーク部210)の露出する側面と略面一になっている。また、本体部分40(スポーク部210)の側面が略面一になるように形成されていればよいので、外表面層30は、本体部分40(スポーク部210)の側面全体を覆っていてもよい。
【0021】
本体部分40は、不規則性繊維強化樹脂により形成されている。不規則性繊維強化樹脂は、強化繊維42と熱可塑性樹脂(例えばポリプロピレン、ポリアミド樹脂)とを含んで構成されている。不規則性繊維強化樹脂は、複数の強化繊維42の繊維束が不規則に配置された構造を有する。
図2には、複数の強化繊維42の繊維束が不規則に配置されたランダム構造を有する不規則性繊維強化繊維が例示されており、このランダム構造がホイール100の外周面(例えばホイールリム10のウェル部の外周面やホイールディスク20の周縁部)に露出している。不規則性繊維強化樹脂を構成する強化繊維42は、例えば炭素繊維やガラス繊維である。
図2では、伸びる方向や大きさが互いに異なる複数の強化繊維42がばらついて配置された構造がホイール100の外周面に露出している。また、強化繊維42の長さは、後述する繊維束32,34の長さよりも短い。不規則性繊維強化樹脂は、特許請求の範囲における第2の繊維強化樹脂の一例である。
【0022】
外表面層30は、規則性繊維強化樹脂により形成されている。規則性繊維強化樹脂は、規則性強化繊維と熱可塑性樹脂とを含んで構成されている。なお、規則性繊維強化樹脂を構成する熱可塑性樹脂は、本体部分40における不規則性繊維強化樹脂を構成する熱可塑性樹脂と同一材料でもよいし、異なる材料でもよい。
【0023】
規則性強化繊維は、複数の繊維束が異なる向きに規則性をもって重畳するように配向された構造を有している。
図2では、複数の繊維束32,34が互いに交差するように編み込まれたメッシュ状の構造を有する規則性強化繊維が例示されており、このメッシュ状の構造が外表面層30の表面に露出している。より具体的には、規則性強化繊維は、第1の方向に配向する複数本の繊維束32と、第1の方向に交差(略直交)する第2の方向に配向する複数本の繊維束34とを含んでいる。各繊維束32は、複数本の繊維束34に交差しつつ、所定本ずつ、繊維束34の表側と裏側とに交互に位置するように配置されている。また、各繊維束34は、複数本の繊維束32に交差しつつ、所定本ずつ、繊維束32の表側と裏側とに交互に位置するように配置されている。規則性繊維強化樹脂を構成する強化繊維は、例えば炭素繊維やガラス繊維であり、本体部分40における不規則性繊維強化樹脂を構成する強化繊維と同一材料でもよいし、異なる材料でもよい。規則性繊維強化樹脂は、特許請求の範囲における第1の繊維強化樹脂の一例である。
【0024】
A-2.ホイール100の製造:
上述したホイール100の製造方法について説明する。
図5は、ホイール100の製造工程を示すフローチャートであり、
図6は、後述の外表面成形体30PのXZ平面構成を概略的に示す説明図であり、
図7は、ホイール100の製造工程の一部を示す説明図である。
【0025】
まずは、
図6に示す外表面成形体30Pを成形する(S110)。外表面成形体30Pは、規則性繊維強化樹脂により、ホイールディスク20の外表面の形状を呈するとともに外表面層30を構成する成形体である。
図6には、外表面成形体30Pの内、アウター側の表面が示されている。具体的には、シート状の第1のプリプレグ(図示しない)を準備する。第1のプリプレグは、規則性繊維強化樹脂により形成されたシート材(例えば複数の繊維束32,34が互いに交差するように編み込まれたメッシュ状の構造を有する熱可塑性樹脂シート)である。第1のプリプレグは、特許請求の範囲における第1の樹脂素材の一例である。
【0026】
次に、成形型(図示しない)を所定の第1の温度(例えば165℃以上、185℃以下)に昇温させ、その成形型の下型に第1のプリプレグを配置し、上型と下型とで所定時間挟む。これにより、第1のプリプレグが軟化する。次に、第1のプリプレグを上型と下型とで挟み込んで所定の第1の圧力(例えば1t以上、100t以下)を付与すると同時に、成形型の冷却を開始する。そして、成形型の温度が、上記第1の温度より低い第2の温度(例えば60℃以上、80℃以下)に達したら、成形された外表面成形体30Pを成形型から取り出す。なお、必要な強度に応じて、成形型内に配置する第1のプリプレグの枚数を1枚としてもよいし、2枚としてもよいし、3枚以上としてもよい。外表面成形体30Pの厚さは、例えば0.2mm以上、0.5mm以下である。S110の工程は、特許請求の範囲における第1の成形工程の一例である。
【0027】
次に、複数の金型を有する成形型200を所定の第3の温度(例えば150℃以上、170℃以下)に昇温させ、その成形型200の少なくとも1つの金型の内面に外表面成形体30Pを配置する(S120)。
図7には、成形型200が示されており、成形型200は、上型202と、下型204と、横型206とを有している。次に、
図7(A)に示すように、外表面成形体30Pのアウター側の表面が下型204の内面(上面)に対向するように外表面成形体30Pを載置する。なお、外表面成形体30Pを載置する際、横型206は閉じた位置に配置されていてもよいし、開いた位置に配置されていてもよい。また、外表面成形体30Pは常温の状態で載置されてもよい。
【0028】
次に、不規則に配置された強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維強化樹脂からなる複数の樹脂素材を、所定の第4の温度(例えば、190℃以上、210℃以下)に加熱し、外表面成形体30Pと他の金型202,206との間に配置する(S130)。具体的には、シート状の第2のプリプレグ43,44を準備する。第2のプリプレグ43,44は、不規則性繊維強化樹脂により形成されたシート材(例えば、複数の強化繊維が不規則に構成された構造や、複数の強化繊維の束が不規則に構成された構造を有する熱可塑性樹脂シート)である。第2のプリプレグ43,44は、特許請求の範囲における第2の樹脂素材の一例である。
【0029】
図7(A)に示すように、複数枚の第2のプリプレグ43を、外表面成形体30P上に積層する。複数枚の第2のプリプレグ44を重ねつつ横型206の内周面上に配置する。なお、各第2のプリプレグ43,44は、所定方向に配向された複数の強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維強化樹脂からなる複数の樹脂素材を、各々の強化繊維の繊維束が不規則になるよう積層した構成でもよい。
【0030】
続いて、上型202および横型206を閉じて、外表面成形体30Pと第2のプリプレグ43,44とに所定の第2の圧力(例えば1150t以上、1250t以下)を付与し、それと同時に成形型200の冷却を開始する。その後、成形型200の温度が、上記第3の温度より低い第5の温度(例えば70℃以上、90℃以下)に達したら、ホイール100を成形型200から取り出す(S140)。すなわち、第2のプリプレグ43、44は、予熱されることで軟化し、成形型200により加熱・加圧されることで、不規則性繊維強化樹脂が外表面成形体30Pと他の金型202、206との間で流動する。一方、外表面成形体30Pは、形状を殆ど保持した状態で、流動する不規則性繊維強化樹脂と外表面成形体30Pの規則性繊維強化樹脂とが絡み合う。そして、成形型200の温度が第5の温度に達することで、外表面成形体30Pが硬化して外表面層30が形成され、第2のプリプレグ43,44が硬化して本体部分40が形成される。また、外表面層30と本体部分40とが一体成型されることによってホイール100が形成される。なお、S140の工程において、加熱・加圧により形成された成形体に対して、所定の後処理(面取り加工やコーティング加工など)を施してもよい。S120~S140の工程は、特許請求の範囲における第2の成形工程の一例である。
【0031】
A-3.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態のホイール100では、外表面層30は、規則性繊維強化樹脂により形成されている。規則性繊維強化樹脂は、複数の繊維束32,34が異なる向きに規則性をもって重畳するように配向された強化繊維と熱可塑性樹脂とを含んでいる(
図3参照)。本体部分40は、不規則性繊維強化樹脂により形成されており、不規則性繊維強化樹脂は、複数の繊維束が不規則に構成された強化繊維42と熱可塑性樹脂とを含んでいる(
図2参照)。
【0032】
ここで、不規則性繊維強化樹脂は、複数の強化繊維42の繊維束が不規則に配置されたランダム構造を有する。このため、不規則性繊維強化樹脂は、どの方向にも同程度の強度を有するとともに強化繊維42同士の相対移動の自由度が高く、その結果、相対的に成形性が高く、高い寸法精度で本体部分40(特にホイールリム10)を成形することができる。ただし、不規則性繊維強化樹脂は、強化繊維42同士の相対移動(変形)の自由度が高い分だけ、強度の向上には限界がある。一方、規則性繊維強化樹脂は、複数の繊維束32,34が異なる向きに規則性をもって重畳するように配向した構造を有する。このため、規則性繊維強化樹脂は、繊維束32,34同士の相対移動(変形)の自由度が低いため、不規則性繊維強化樹脂に比べて、成形性は低いが、強度が高い。これにより、ホイール100の本体部分40の寸法精度を確保しつつ、外表面層30(外表面部分)の強度の向上を図ることができる。
【0033】
上記実施形態では、外表面層30は、ホイール100のアウター側に存在する。これにより、高い応力がかかると亀裂の起点となりやすいホイール100のアウター側に位置する外表面層の強度の向上を図ることができる。また、ホイール100におけるアウター側の表面に、メッシュ状に配向する繊維模様を露出させることにより、ホイール100の意匠性を向上させることができる。
【0034】
上記実施形態における
図5に示す製造方法により、相対的に強度の高い規則性繊維強化樹脂によって強度の高い外表面層30を成形しつつ、相対的に成形性の高い不規則性繊維強化樹脂によって高い寸法精度で本体部分40を成形することができる。また、成形型200の下型204に外表面成形体30Pを載置することで(
図7参照)、ホイール100を作りやすく、且つ意匠の向上を図ることができる。また、外表面成形体30Pは、単数の第1のプリプレグにより、ホイールディスク20の外表面の形状が継ぎ目なく形成されている。これにより、さらに強度の高い外表面部分を成形することができる。
【0035】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0036】
上記実施形態では、ホイール100は、1ピースタイプのホイールであるとしたが、これに限らず、ホイールリム10とホイールディスク20とが別体である、いわゆる2ピースタイプのホイールであるとしてもよい。また、上記実施形態では、車両用ホイールとして、スポーク部210を備えるホイール100を例示したが、これに限らず、スポーク部を備えないホイールでもよい。
【0037】
上記実施形態において、ホイール100のアウター側とインナー側の両方の表面部分、あるいは、インナー側のみの表面部分を規則性繊維強化樹脂により形成してもよい。
【0038】
上記実施形態における各部材を構成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により構成されていてもよい。
【0039】
上記実施形態におけるホイール100の製造方法はあくまで一例であり、種々変形可能である。
【符号の説明】
【0040】
10:ホイールリム 20:ホイールディスク 30:外表面層 30P:外表面成形体 32,34:繊維束 42:強化繊維 40:本体部分 43,44:第2のプリプレグ 100:ホイール 200:成形型 202:上型 204:下型 206:横型 210:スポーク部 220:ハブ取付部 222:ハブ孔 224:ボルト孔