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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】短絡溶接方法と溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/073 20060101AFI20241024BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B23K9/073 545
B23K9/12 305
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023577723
(86)(22)【出願日】2022-07-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-12
(86)【国際出願番号】 EP2022069377
(87)【国際公開番号】W WO2023285416
(87)【国際公開日】2023-01-19
【審査請求日】2024-02-06
(31)【優先権主張番号】21185397.3
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504380611
【氏名又は名称】フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】FRONIUS INTERNATIONAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルトヘア,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ゼリンガー,ドミニク
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/057683(WO,A1)
【文献】特表2023-500124(JP,A)
【文献】特開2021-079427(JP,A)
【文献】国際公開第2010/146844(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/203162(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/073
B23K 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続した溶接サイクルを有する短絡方法であって、各溶接サイクルはアークフェーズ(6)と短絡フェーズ(7)とを有しており、短絡溶接方法は、溶接サイクルの間に、
材料が溶接ワイヤ(3)からワークピース(5)に放たれてアークが点火されるように、溶融溶接ワイヤ(3)を前記短絡フェーズ(7)の間に後進速度(-v)で前記ワークピースから離れるように搬送し、前記溶接ワイヤ(3)が、前記短絡フェーズ(7)の間に第1期間(T)を有する第1後進搬送フェーズ(13)において最終後進速度(vre_max)にもたらされて、前記溶接ワイヤ(3)の前記後進速度(-v)が再び減速する第2後進搬送フェーズ(15)の開始まで前記最終後進速度(vre_max)で搬送され、前記第2後進搬送フェーズ(15)は前記第1後進搬送フェーズ(13)の直後に続く、ステップと、
前記溶接ワイヤ(3)を前記ワークピース(5)に接触させて前記溶接ワイヤ(3)と前記ワークピース(5)との間に短絡を発生させるように、前記溶接ワイヤ(3)を前記アークフェーズ(6)の間に前進速度(v)で前記ワークピース(5)の方向に搬送し、前記溶接ワイヤ(3)が前記アークフェーズ(6)の間に第2期間(T)を有する第1前進搬送フェーズ(16)において最終前進速度(vv_max)にもたらされて、前記溶接ワイヤ(3)の前記前進速度(v)が再び減速される第2前進搬送フェーズ(18)の開始まで前記最終前進速度(vv_max)で搬送されて、前記第2前進搬送フェーズ(18)が前記第1前進搬送フェーズ(16)の直後に続く、ステップ
とを有しており、
前記第2後進搬送フェーズ(15)において、前記溶接ワイヤ(3)が前記短絡の中断(12)の時点で所定の減速した後進速度(vre_K)を超えないように、前記第1後進搬送フェーズ(13)の前記第1期間(T)が、フィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御によって調整され、前記第1後進搬送フェーズ(13)が前記第1期間(T)を調整することによって短縮または延長され、
前記所定の減速した後進速度(vre_K)の絶対値が前記最終後進速度(vre_max)の絶対値よりも小さい、ことを特徴とする短絡溶接方法。
【請求項2】
前記第2後進搬送フェーズ(15)は、実質的に一定の後進速度(-v)を有する第1中間プラトーフェーズ(21)を有しており、
前記第1中間プラトーフェーズ(21)において、前記溶接ワイヤ(3)は、前記ワークピース(5)から離れるように搬送される、
ことを特徴とする請求項1に記載の短絡溶接方法。
【請求項3】
第1期間(T)は、前記短絡の中断(12)が第1中間プラトーフェーズ(21)で生じるように、前記フィードフォワード制御及び/又は前記フィードバック制御によって適合される、
ことを特徴とする請求項2に記載の短絡溶接方法。
【請求項4】
第1期間(T)を適合させるためのフィードバック制御が提供され、前記フィードバック制御は、コントローラ(23)を有する制御回路(22)によって実行されて、前記フィードバック制御は、前記第1中間プラトーフェーズ(21)が第1目標期間(Tmin_1)に対応するように前記第1期間(T)を適合させる、
ことを特徴とする請求項3に記載の短絡溶接方法。
【請求項5】
第1期間(T)を適合させるためのフィードバック制御が提供され、前記フィードバック制御は、コントローラ(23)を有する制御回路(22)によって実行され、前記制御回路(22)の制御変数(S)が前記第1期間(T)によって設定され、前記制御回路(22)の参照変数(F)が前記溶接ワイヤ(3)の目標後進速度によって設定され、前記制御回路(22)の測定される制御変数(Y)が前記短絡の前記中断(12)の時点における前記溶接ワイヤ(3)の測定される後進速度(-v)によって設定される、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の短絡溶接方法。
【請求項6】
抵抗値(R)が溶接電流(I)及び溶接電圧(U)から連続的に判断され、前記抵抗値(R)から前記短絡の中断(12)の時点について予測がなされ、前記第1期間(Tは、前記予測に基づいて前記第2後進搬送フェーズ(15)開始させることによって適合される、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の短絡溶接方法。
【請求項7】
前記予測は、所定の抵抗閾値(Rs)に基づいて、または抵抗変化率(dR/dt)に基づいて生成される、
ことを特徴とする請求項6に記載の短絡溶接方法。
【請求項8】
前記第1後進搬送フェーズ(13)は第1最終プラトーフェーズ(14)を有しており、前記第1最終プラトーフェーズ(14)では、前記溶接ワイヤ(3)が実質的に一定の最終後進速度(vre_max)で搬送され、前記第1最終プラトーフェーズ(14)の期間(T)が前記フィードフォワード制御及び/又は前記フィードバック制御によって適合される、
ことを特徴とする請求項1に記載の短絡溶接方法。
【請求項9】
前記第1前進搬送フェーズ(16)の前記第2期間(T)は、前記第2前進搬送フェーズ(18)において、前記溶接ワイヤ(3)が前記短絡の発生(11)の時点で所定の減速した前進速度(vv_K)を超えないように、追加のフィードフォワード制御及び/又は前記フィードバック制御によって適合され、前記第1前進搬送フェーズ(16)が前記第2期間(T)を調整することによって短縮又は延長される、
ことを特徴とする請求項1に記載の短絡溶接方法。
【請求項10】
前記第2前進搬送フェーズ(18)が、実質的に一定の前進速度(v)を有する第2中間プラトーフェーズ(25)を有しており、前記第2中間プラトーフェーズ(25)において、前記溶接ワイヤ(3)は、前記ワークピース(5)に向かって搬送される、
ことを特徴とする請求項9に記載の短絡溶接方法。
【請求項11】
前記第2期間(T)が、前記短絡の発生(11)が前記第2中間プラトーフェーズ(25)で生じるように、前記追加のフィードフォワード制御及び/又は前記フィードバック制御によって適合される、
ことを特徴とする請求項10に記載の短絡溶接方法。
【請求項12】
第2期間(T)を適合させるための追加のフィードバック制御が提供され、前記追加のフィードバック制御は、追加のコントローラ(23’)を有する追加の制御回路(22’)によって実行され、前記追加のフィードバック制御は、前記第2中間プラトーフェーズ(25)が第2目標期間(Tmin_2)に対応するように、前記第2期間(T)を適合させる、
ことを特徴とする請求項11に記載の短絡溶接方法。
【請求項13】
第2期間(T)を適合させるための追加のフィードバック制御が提供され、前記追加のフィードバック制御は、追加のコントローラ(23’)を有する追加の制御回路(22’)によって実行されており、
前記追加の制御回路(22’)の制御変数(S)が第2期間(T)によって設定されており、前記追加の制御装置(22’)の参照変数(F)が前記溶接ワイヤ(3)の目標前進速度によって設定されており、前記追加の制御回路(22’)の測定される制御変数(Y)が前記短絡の発生(11)の時点における前記溶接ワイヤ(3)の測定される前進速度(v)によって設定される、
ことを特徴とする請求項9に記載の短絡溶接方法。
【請求項14】
連続した溶接サイクルを有し、それぞれがアークフェーズ(6)と短絡フェーズ(7)とを有する、前記請求項1に記載の短絡溶接方法、を実行するための溶接装置(1)であって、溶接トーチ(2)と、フィードフォワード及び/又はフィードバック制御ユニット(8)と、溶融溶接ワイヤ(3)を搬送するための搬送装置(4)とを有しており、
前記溶接装置(1)は、材料が前記溶接ワイヤ(3)から前記ワークピース(5)に放たれてアークが点火されるように、前記短絡フェーズ(7)の間に前記溶融溶接ワイヤ(3)を前記ワークピース(5)から離れるように搬送するように構成されており、
前記溶接装置(1)は、前記短絡フェーズ(7)の間に第1期間(T)を有する第1後進搬送フェーズ(13)において前記溶接ワイヤ(3)を最終後進速度(vre_max)にもたらして、前記溶接ワイヤ(3)の前記後進速度(-v)が再び減速される第2後進搬送フェーズ(15)の開始まで前記溶接ワイヤを前記最終後進速度(vre_max)で搬送するようにさらに構成されており、前記第2後進搬送フェーズ(15)は前記第1後進搬送フェーズ(13)の直後に続き、
前記溶接装置(1)は、前記溶接ワイヤ(3)と前記ワークピース(5)との間に短絡を発生させるように、前記溶接ワイヤ(3)を前記アークフェーズ(6)の間に前進速度(v)で前記ワークピース(5)の方向に搬送するようにさらに構成されており、
前記溶接装置(1)は、前記アークフェーズ(6)の間に第2期間(T)を有する第1前進搬送フェーズ(16)において前記溶接ワイヤ(3)を最終前進速度(vv_max)にもたらして、前記溶接ワイヤ(3)の前記前進速度(v)が再び減速される第2前進搬送フェーズ(18)の開始まで前記溶接ワイヤを前記最終前進速度(vv_max)で搬送するようにさらに構成されており、前記第2前進搬送フェーズ(18)は前記第1前進搬送フェーズ(16)の直後に続き、
前記第1後進搬送フェーズ(13)の前記第1期間(T)が、前記第2後進搬送フェーズ(15)の前記溶接ワイヤ(3)が前記短絡の中断(12)の時点で所定の減速した後進速度(vre_K)を超えないように、フィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御によって適合されるように、前記フィードフォワード及び/又はフィードバック制御ユニット(8)が構成されており、前記第1後進搬送フェーズ(13)が前記第1期間(T)を調整することによって短縮又は延長され、
前記所定の減速した後進速度(vre_K)の絶対値が前記最終後進速度(vre_max)の絶対値よりも小さい、
溶接装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続した溶接サイクルを有する短絡溶接方法に関し、連続した溶接サイクルのそれぞれがアークフェーズと短絡フェーズとを有しており、溶接サイクルの間に、
材料が溶接ワイヤからワークピースに放たれて且つアークが点火されるように、溶融溶接ワイヤを後進速度で短絡フェーズの間にワークピースから離れるように搬送し、溶接ワイヤが短絡フェーズの間に第1期間を有する第1後進搬送フェーズにおいて最終後進速度にもたらされ、溶接ワイヤの後進速度が再び減速する第2後進搬送フェーズの開始まで最終後進速度で搬送され、第2後進搬送フェーズが第1後進搬送フェーズの終了に直ちに続くステップと、
溶接ワイヤをワークピースに接触させて溶接ワイヤとワークピースとの間に短絡を発生させるために、溶接ワイヤを前進速度でアークフェーズの間にワークピースの方向に搬送し、溶接ワイヤがアークフェーズの間に第2期間を有する第1前進搬送フェーズにおいて最終前進速度にもたらされ、溶接ワイヤの前進速度が再び減少する第2前進搬送フェーズの開始まで最終前進速度で搬送され、第2前進搬送フェーズが第1前進搬送フェーズの終了に直ちに続くステップと
を有する。
【0002】
さらに、本発明は、アークフェーズおよび短絡フェーズをそれぞれ有する連続した溶接サイクルを有する上記短絡溶接方法を実行するための溶接装置に関し、溶接装置は溶接トーチを有している。
【背景技術】
【0003】
上述したタイプの短絡溶接方法には、特に、いわゆるCMT(コールドメタルトランスファー)溶接法が含まれる。CMT溶接法では、溶接シーム又は皮膜を生成するために、溶接電流が印加される溶融材料の溶接ワイヤをワークピースの方向と、ワークピースから再び離れる方向に交互に移動させる。短絡フェーズでは、ワークピースと溶接ワイヤとの間に短絡があり、溶接ワイヤからワークピースへの材料の供出をアシストしている。材料の供出とアークの(再)点火後の短絡の中断により、短絡フェーズは終了し、アークフェーズが開始される。アークフェーズでは、熱エネルギーが溶接ワイヤとワークピースに導入される。
【0004】
当技術分野では、溶融溶接ワイヤは、固定された所定の速度で、固定された所定の時間、所定のシーケンスに従って、ワークピースへ(アークフェーズ)またはワークピースから離れる(短絡フェーズ)ように搬送される。これは、例えばEP3292936A1から周知である。短絡フェーズでは、溶接ワイヤを最終後進速度にもたらし、溶接ワイヤを最終前進速度でワークピースの方向に搬送するために、最終後進速度をその後再び減速させる。各フェーズにおいて溶接ワイヤが最終速度で搬送される時間はあらかじめ設定されている。短絡の発生時期と中断時期がトリガーとなる。
【0005】
さらなる溶接方法は、JP2021079427A、EP3815828A1およびUS2018/0264576A1から周知である。
【0006】
上述したタイプの短絡溶接方法の場合、溶接サイクルごとに、時間において短絡の発生および中断が様々であるので、溶接周波数が一定しないということがしばしば起こる。これは溶接シームの品質の低下につながる。多くの材料、例えばクロム-ニッケル合金又はチタン等の粘り気のある材料の場合、ワークピースへの材料の供出の間に望ましくない溶接のスプラッシュが発生することもあり、これも溶接周波数および溶接品質に悪影響を及ぼす。溶接のスプラッシュは通常、材料の供出時に溶接ワイヤの速度が高すぎることによる。一方、溶接ワイヤの速度が低すぎると、溶接周波数または液滴の供出周波数、ひいては溶接方法を不必要に遅くさせ、短絡の時間がさらに不規則になる可能性がある。短絡の時点でも、溶接周波数のさらなる不規則性および、例えば溶接ワイヤによる非溶融母材の接触、溶接槽の振動、溶接ワイヤの短時間の「固着」などの望ましくない影響を避けるために、溶接ワイヤの速度は高すぎないように選択すべきである。したがって、可能な限り高い溶接周波数、とりわけ可能な限り最も安定した溶接周波数が確保され、高い溶接品質が得られる一方で、溶接スプラッシュが回避されるような方法で、溶接ワイヤの速度カーブを選択することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
溶接周波数を安定させ、溶接スプラッシュを回避するために、それぞれのフェーズで溶接ワイヤが前進速度および後進速度で搬送される理想的な速度と期間は、特に溶接シームの形状、温度、不純物、ワークピースの材料、およびその他のパラメータに依存するため、決定することは困難である。したがって、短絡溶接方法における溶接ワイヤの理想的な持続時間または速度プロファイルを選択しまたは達成することは、現在の技術水準において容易ではない。
【0008】
したがって、これらの実施形態に鑑み、本発明の目的は、現在の技術水準における欠点を緩和し又は完全に解消することにある。好ましくは、溶接品質を向上させるために、短絡溶接方法の溶接周波数をできるだけ安定させることが本発明の目的である。
【0009】
この目的は、請求項1に記載の短絡溶接方法および請求項14に記載の溶接装置によって達成される。好ましい実施形態は従属請求項に画定されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1によれば、したがって、上記タイプの短絡溶接方法において、第1後進搬送フェーズの第1期間が、短絡の中断時で、第2後進搬送フェーズにおいて、溶接ワイヤが所定の減速した後進速度を超えないように、フィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御によって適合されることがしたがって最初に提供される。好ましくは、第1期間は、短絡の中断の時点で、第2後進搬送フェーズにおける溶接ワイヤが本質的に所定の減速した後進速度を有するように、フィードバック制御および/またはフィードフォワード制御によって適合される。有利なことに、第1期間を適合させることにより、第1後進搬送フェーズひいては最終後進速度における溶接ワイヤの搬送が、短絡の中断前に余裕をもって終了し、溶接ワイヤの後進速度の減速が開始されるので、材料がワークピースに供出されるときに溶接ワイヤが急速に搬送されないので、溶接スプラッシュが回避される。こうして、フィードフォワード制御および/またはフィードバック制御は、溶接ワイヤの後進速度が高すぎる場合には減速されることを確かにする。換言すれば、フィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御は、第2後進搬送フェーズにおける溶接ワイヤが短絡の中断時点においてより低い後進速度値に設定されることを確かにしており、これは所定の減速した後進速度値を超えない。その結果、溶接周波数が安定する。所定の減速した後進速度の絶対値は、最終後進速度の絶対値より小さい。第1後進搬送フェーズの第1期間は可変であり、フィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御によって適合される。短絡の中断は、短絡の発生と同様に、溶接電圧を測定することによって、好ましくは検出される。第1期間に対する典型的な値は、例えば1msから10msの間、好ましくは2msから3msの間であり、溶接周波数に対する値は5Hzから200Hzの間、好ましくは80Hzから150Hzの間である。フィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御による第1期間の適合は、溶接サイクルごとに、または本発明のいくつかの実施形態では、溶接サイクル内でも行われ得る。第1期間を適合することにより、第1後進搬送フェーズは短縮されまたは延長される。例えば、短絡の中断時点で、溶接ワイヤが過度に早く搬送されていると判断される場合、第1後進搬送フェーズの第1期間をそれに対応して短縮できる。例えば、短絡の中断時点で、溶接ワイヤが過度に遅く搬送されていると判断される場合、第1後進搬送フェーズの第1期間をそれに対応して延長できる。第1後進搬送フェーズは、溶接ワイヤが前進速度から後進速度に変わるときに始まる。第1後進搬送フェーズでは、溶接ワイヤは加速によって最終後進速度にもたらされる。最終後進速度に到達したとき、溶接ワイヤの加速を止めて、溶接ワイヤの速度を実質的に一定に保つことができる。好ましくは、第1後進搬送フェーズでは実質的に一定の加速が行われる。第1後進搬送フェーズの直後に第2後進搬送フェーズが続き、第2後進搬送フェーズでは後進速度は溶接ワイヤの加速(「ブレーキ」)によって再び減速する(今度は逆方向)。後進速度の減速により、絶対値の減少、つまり溶接ワイヤの後進移動の減速を意味する。短絡の中断は、好ましくは第2後進搬送フェーズで生じ、フィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御は、短絡の中断時点で、溶接ワイヤが所定の減速した後進速度を超えないことを確かにする。フィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御は、短絡の中断時点で、溶接ワイヤが所定の減速した後進速度に対応することを確かにすれば好ましい。短絡が中断されるとき、溶接ワイヤの加速を保持時間だけ止めることができる。続いて、第2後進搬送フェーズで加速を続けることができる。第2後進搬送フェーズは第1前進搬送フェーズにより後続され、第1前進搬送フェーズでは溶接ワイヤが最終前進速度にもたらされる。第1前進搬送フェーズの直後に第2前進搬送フェーズが続き、第2前進搬送フェーズでは前進速度が溶接ワイヤの加速によって再び減速する。第2前進搬送フェーズは、第1後進搬送フェーズにより再び後続される。従って、溶接サイクルは、第1後進搬送フェーズおよび第2後進搬送フェーズと、同様に第1前進搬送フェーズ及び第2前進搬送フェーズとから、この順に構成される。最終後進速度及び/又は最終前進速度の値は、例えば、10m/minから70m/minの間であり、特に20m/min~60m/minの間であり得る。前進速度は、この開示においてプラスでありつまり符号がない。後進速度には、差別化のためにマイナスの符号を付している。前進速度と後進速度は、ワークピースの方向における前進速度が複数の溶接サイクルを平均して生じるように選択される。換言すれば、積分は複数の溶接サイクルにわたる速度コースでプラスである。これは、溶融溶接ワイヤがワークピースに材料を放出し、溶接シームまたは被膜を形成するので、必要である。溶接ワイヤの加速度値の典型的な値は、例えば30,000m/min/sから60,000m/min/sの範囲である。溶接ワイヤは、好ましくは電気モーター、特にギアレス直接駆動によって搬送される。
【0011】
好ましい実施形態では、第2後進搬送フェーズは、実質的に一定の後進速度で第1中間プラトーフェーズを有しており、第1中間プラトーフェーズにおいて、溶接ワイヤは、好ましくは、所定の減速した後進速度でワークピースから離れるように搬送されることが提供される。溶接ワイヤの後進速度を減速させる加速は、中間プラトーフェーズにより中断される。第1中間プラトーフェーズの利点は、溶接ワイヤがこの間、最終後進速度に比して減速した本質的に一定の後進速度で搬送され、ワークピースへの材料移転が加速なしに行われ得るので、溶接スプラッシュが生じないことである。後進速度は第1中間プラトーフェーズ全体の間で実質的に一定である。
【0012】
したがって、短絡の中断が第1中間プラトーフェーズで生じるように、第1期間がフィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御によって適合されるなら好ましい。短絡の中断後、溶接ワイヤの加速が第2後進搬送フェーズで継続される前に、一定の保持期間中、溶接ワイヤの加速を依然として保留できる。保持期間の後、溶接ワイヤを、最終的に(最終)前進速度で搬送されるまでさらに加速できる。
【0013】
本発明の一実施形態では、第1期間を適合させるための制御が提供され、この制御は、コントローラ、特にPコントローラまたはPIコントローラを有する制御回路によって実行され、この制御は、第1中間プラトーフェーズが第1目標期間に対応するように第1期間を適合させる。第1期間によって制御回路の制御変数が設立され、第1中間プラトーフェーズによって制御回路の参照変数が設立されるなら、好ましい。第1中間プラトーフェーズの期間は測定された制御変数として役立つことができる。コントローラは、短絡の中断が第1中間プラトーフェーズで生じるように、第1期間を適合させる。第1目標期間は第1中間プラトーフェーズがどれだけ長く続くべきか特定する。第1目標期間は、例えば、0.5msから1.5msの間であってもよい。参照変数は、制御回路のターゲット変数として参照されてもよい。コントローラは、溶接サイクルごとに第1期間を調整する。第1目標期間と第1中間プラトーフェーズの有効期間との間に乖離がある場合、第1後進搬送フェーズの第1期間が次の溶接サイクルにおいて適合される。有効期間が第1中間プラトーフェーズである場合、第1後進搬送フェーズの第1期間は短縮される。第1中間プラトーフェーズの有効期間が長すぎる場合、第1後進搬送フェーズの第1期間は延長される。任意の振動を回避するために、制御は好ましくはパラメータ可能なフィルタを有することができる。フィルタは、例えば最大変化率またはスルーレートを画定してもよい。フィルタを例えばPT1要素によって形成できる。
【0014】
代替実施形態において、第1期間を適合させるための制御が提供され、この制御は、制御装置、特にPコントローラまたはPIコントローラを有する制御回路によって実行され、制御回路の制御変数は第1期間によって設定され、制御回路の参照変数は溶接ワイヤの目標後進速度、特に所定の減速した後進速度によって設定され、制御回路の測定された制御変数は短絡の中断時点で溶接ワイヤの測定された後進速度によって設定される。短絡の中断時点において、溶接ワイヤの実測後進速度が目標後進速度から乖離している場合は、次の溶接サイクルの第1期間を適応する。従って、短絡の中断時点で、溶接ワイヤの後進速度が高すぎまたは低すぎる場合、次の溶接サイクルでは、第1後進搬送フェーズの第1期間が短縮されまたは延長される。短絡の中断時点での溶接ワイヤの速度を測定できる。
【0015】
制御に関して、参照変数にオフセット値を加えることが有利であってもよい。
【0016】
さらなる代替の実施形態では、溶接電流と溶接電圧から抵抗値が連続的に決定され、抵抗値からの短絡の中断時間について予測が行われ、第1期間は第2後進搬送フェーズで開始することにより予測に基づいて適合される。連続的に決定される抵抗値は、短絡の差し迫った中断について向けられる結論を可能とする。短絡の中断が差し迫っている場合、第1後進搬送フェーズを終了させ、溶接ワイヤの後進搬送速度を減速させ、それによって、短絡の中断時点での溶接ワイヤが所定の減速した後進速度を超えないか、または実質的に対応する。短絡の中断が第1中間プラトーフェーズで生じるように、第1後進搬送フェーズが適時に終了することが好ましくは提供される。したがって、この実施形態では、第1期間の適合は溶接サイクル内に生じる。
【0017】
短絡の中断の瞬間を判断できるようにするために、所定の抵抗しきい値に基づいてまたは抵抗変化率に基づいて予測を作成することを提供できる。例えば、連続的に判断された抵抗値が所定の抵抗値しきい値を超えたとき、または抵抗変化率が所定の抵抗変化率しきい値を超えたとき、第1後進搬送フェーズを終了させることができる。
【0018】
第1後進搬送フェーズが第1最終プラトーフェーズを有し、第1最終プラトーフェーズにおいて溶接ワイヤが実質的に一定の最終後進速度で搬送され、第1最終プラトーフェーズの時間がフィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御によって適合される場合、本発明の特に効率的な実施形態が生じる。後進搬送フェーズの第1期間の適合は、第1最終プラトーフェーズの期間の適合を介して行われる。
【0019】
先の記述は短絡溶接方法の短絡フェーズに関するものである。溶接方法、特に溶接周波数の効率と安定性とを増大させるため、これまでに説明した方法ステップを、アークフェーズと短絡の発生に同様に適用できる。したがって、一実施形態では、第1前進搬送フェーズの第2期間が、短絡が発生する時点で第2前進供給フェーズにおける溶接ワイヤが所定の減速した前進速度を超えないように、さらなるフィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御によって適合されることが提供される。第2期間を適合させることによって、第1前進搬送フェーズは、第2前進搬送フェーズにおける溶接ワイヤが短絡の中断時点で所定の減速した前進速度を超えないようにまたは所定の減速した前進速度に実質的に対応するように、短縮または延長される。第2前進搬送フェーズは第1前進搬送フェーズの直後に続く。所定の減速した前進速度は最終前進速度に比して小さい。好ましくは、第2前進搬送フェーズは、実質的に一定の前進速度を有する第2中間プラトーフェーズを備え、第2中間プラトーフェーズにおいて、溶接ワイヤは、好ましくは、所定の減速した前進速度で搬送される。さらに、第2期間が、短絡の発生が第1中間プラトーフェーズで生じるように、さらなるフィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御によって適合されることが、好ましくは提供される。
【0020】
短絡フェーズに関連して上述した調整する及び/又は制御システムの実施形態は、アークフェーズにも同様に適用できる。
【0021】
したがって、本発明の一実施形態では、第2期間を適合させるためのさらなる制御が提供され、このさらなる制御は、さらなる制御装置、特にPコントローラまたはPIコントローラを有するさらなる制御回路によって実行され、この更なる制御は、第2中間プラトーフェーズが第2目標期間を有するように、第2期間を適合させる。第2期間によってさらなる制御回路の制御変数が設立され、第2中間プラトーフェーズの第2目標期間によってさらなる制御回路の参照変数が設立されるなら好ましい。さらなるコントローラは、短絡の発生が第2中間プラトーフェーズで生じるように、第2期間を適合させる。第2目標期間は第2中間プラトーフェーズの期間がどれだけ長く続くべきか特定する。第2中間プラトーフェーズの第2目標期間は、例えば、0.5msから2msの間であってもよい。参照変数は、制御回路の目標変数として参照されてもよい。さらなるコントローラは、第2期間を溶接サイクルごとに適合させる。第2目標期間と第2中間プラトーフェーズの有効期間との間に乖離がある場合、第2前進搬送フェーズの第2期間が次の溶接サイクルにおいて適合される。この実施形態では、第2目標期間はこのように予め定められており、第2期間は、第2中間プラトーフェーズが第2目標期間を有するように適合される。例えば、第2中間プラトーフェーズの有効期間が過度に短い場合、第1前進搬送フェーズの第2期間が短縮される。例えば、第2中間プラトーフェーズの有効期間が過度に長い場合、第2前進搬送フェーズの第2期間が延長される。
【0022】
代替実施形態において、第2期間を適合させるためのさらなる制御が提供され、このさらなる制御は、さらなる制御装置、特にPコントローラ又はPIコントローラを有するさらなる制御回路によって実行され、さらなる制御回路の制御変数は第2期間によって設定され、さらなる制御回路の参照変数は溶接ワイヤの目標前進速度、特に所定の減速した前進速度によって設定され、さらなる制御回路の測定された制御変数は短絡の発生時における溶接ワイヤの測定された前進速度によって設定される。溶接ワイヤの前進速度の所望の前進速度からの偏差の場合、第2期間が次の溶接サイクルにおいて適合される。したがって、短絡の発生時に溶接ワイヤの前進速度が高すぎまたは低すぎる場合、次の溶接サイクルでは第2前進搬送フェーズの第2期間が短縮されまたは延長される。短絡の発生時点での溶接ワイヤの速度を計測できる。
【0023】
制御に関して、参照変数にオフセット値を加えることが有利であってもよい。
【0024】
第1前進搬送フェーズが第2最終プラトーフェーズを有し、第2最終プラトーフェーズにおいて溶接ワイヤが実質的に一定の最終前進速度で搬送され、第2最終プラトーフェーズの期間がフィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御によって適合される場合、本発明の特に効率的な実施形態が生じる。前進搬送フェーズの第2期間の適合は、第2最終プラトーフェーズの期間の適合を介して行われる。
【0025】
最初に述べた目的は、請求項14に記載の溶接装置によっても達成される。
溶接装置は短絡溶接方法を実行するように構成されており、溶接トーチを有する。
溶接装置は、
材料が溶接ワイヤから放たれて且つアークが点火されるように、溶融溶接ワイヤを後進速度で短絡フェーズの間にワークピースから離れるように搬送するように企図されており、該溶接装置は、溶接ワイヤを短絡フェーズの間に第1期間を有する第1後進搬送フェーズにおいて最終後進速度にもたらして、溶接ワイヤの後進速度が再び減速される第2後進搬送フェーズの開始まで溶接ワイヤを最終後進速度で搬送するようにさらに企図されており、第2後進搬送フェーズは第1後進搬送フェーズの終わりに直ちに続き、
該溶接装置は、溶接ワイヤとワークピースとの間に短絡が発生させるために、溶接ワイヤを前進速度でアークフェーズの間にワークピースの方向に搬送するようにさらに企図されており、溶接装置は、溶接ワイヤをアークフェーズの間に第2期間を有する第1前進搬送フェーズにおいて最終前進速度にもたらして、溶接ワイヤの前進速度が再び減速される第2前進搬送フェーズの開始まで溶接ワイヤを最終前進速度で搬送するようにさらに企図されており、第2前進搬送フェーズは第1前進搬送フェーズに直ちに続き、
短絡の中断時に、第2後進搬送フェーズにおいて、溶接ワイヤが所定の減速した後進速度を超えないように、第1後進搬送フェーズの第1期間を適合させるように企図された、制御ユニット及び/又は調整ユニットが設けられている。
【0026】
本装置の利点とさらなる特徴に関して、上述の短絡溶接方法を参照されたい。短絡溶接方法に関連して説明した特徴は、溶接装置にも引き継ぐことができる。溶接装置は、溶接ワイヤを搬送するように構成されたワイヤ供給装置を有してもよい。溶接装置は、電気モーター、特にギアレス直接駆動を有することができる。
【0027】
以下に説明するタイプのさらなる短絡溶接方法も開示されている。したがって、最初に述べたタイプの短絡溶接方法では、第1前進搬送フェーズの第2期間が、第2前進搬送フェーズにおいて溶接ワイヤが短絡の発生時に所定の減速した前進速度を超えないように、さらなるフィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御によって適合されることが提供される。この方法は次のように説明できる。
【0028】
連続した溶接サイクルを有する短絡溶接方法であって、連続した溶接サイクルのそれぞれがアークフェーズと短絡フェーズとを有しており、溶接サイクルの間に、
材料が溶接ワイヤからワークピースに放たれて且つアークが点火されるように、溶融溶接ワイヤを後進速度で短絡フェーズの間にワークピースから離れるように搬送し、溶接ワイヤが短絡フェーズの間に第1期間を有する第1後進搬送フェーズにおいて最終後進速度にもたらされ、溶接ワイヤの後進速度が再び減速する第2後進搬送フェーズの開始まで最終後進速度で搬送されるステップと、
溶接ワイヤをワークピースに接触させて溶接ワイヤとワークピースとの間に短絡を発生させるために、溶接ワイヤを前進速度でアークフェーズの間にワークピースの方向に搬送し、溶接ワイヤがアークフェーズの間に第2期間を有する第1前進搬送フェーズにおいて最終前進速度にもたらされ、溶接ワイヤの前進速度が再び減速される第2前進搬送フェーズの開始まで最終前進速度で搬送されるステップと
を有し、
ここで、第1前進搬送フェーズの第2期間は、第2前進搬送フェーズにおいて、溶接ワイヤが、短絡が発生する時点で所定の減速した前進速度を超えないように、さらなるフィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御によって適合される。
【0029】
こうして、フィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御は、溶接ワイヤの前進速度が高すぎる場合、該前進速度を低減させることを確かにする。換言すれば、フィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御は、短絡の発生時に、第2前進搬送フェーズにおける溶接ワイヤが、より低い前進速度値に設定されており、該前進速度値は所定の減速された前進速度値を超えない。
【0030】
追加のフィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御は、請求項1に記載の短絡方法に関連して既に説明されている。上記の特徴および説明は、本明細書に記載されている短絡法にも適用される。
【0031】
後述するタイプのさらなる溶接装置も開示されている。溶接装置は、さらに短絡溶接方法を実行するように構成されており、溶接トーチを有しており、溶接装置は、
材料が溶接ワイヤからワークピースに放たれて且つアークが点火されるように、溶融溶接ワイヤを後進速度で短絡フェーズの間にワークピースから離れるように搬送するように企図されており、該溶接装置は溶接ワイヤを短絡フェーズの間に第1期間を有する第1後進搬送フェーズにおいて最終後進速度にもたらして、溶接ワイヤの後進速度が再び減速される第2後進搬送フェーズの開始まで溶接ワイヤを最終後進速度で搬送するようにさらに企図されており、
該溶接装置は、溶接ワイヤとワークピースとの間に短絡を発生させるように、アークフェーズの間に前進速度で溶融溶接ワイヤワークピースの方向に搬送するようにさらに企図されており、該溶接装置は、溶接ワイヤをアークフェーズの間に第2期間を有する第1前進搬送フェーズにおいて最終前進速度にもたらして、溶接ワイヤの前進速度が再び減速される第2前進搬送フェーズの開始まで溶接ワイヤを最終前進速度で搬送するようにさらに企図されており、
ここで、追加の制御および/または調整ユニットが設けられ、このユニットは、短絡の発生時に、第2前進搬送フェーズにおいて、溶接ワイヤが所定の減速した前進速度を超えないように、第1前進搬送フェーズの第2期間を適合させるように企図されている。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1において、短絡溶接方法を実行するための溶接装置を示す。
図2図2において、現状の技術水準からの、溶接電圧プロファイル、溶接電流プロファイル、短絡溶接方法における溶接ワイヤの速度プロファイルを示す。
図3図3において、本発明に係る短絡溶接方法における、溶接電圧プロファイル、溶接電流プロファイル、及び溶接ワイヤの速度プロファイルを示す。
図4A図4Aおよび図4Bにおいて、制御回路を示す。
図4B図4Aおよび図4Bにおいて、制御回路を示す。
図5図5において、本発明に係る短絡溶接方法における、溶接電圧プロファイル、溶接電流プロファイル、及び溶接ワイヤのさらなる速度プロファイルを示す。
図6A図6Aおよび図6Bにおいて、さらなる制御回路を示す。
図6B図6Aおよび図6Bにおいて、さらなる制御回路を示す。
図7図7において、溶接電圧プロファイル、溶接電流プロファイル、溶接ワイヤの速度プロファイル、抵抗値の時間プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図を参照しながら本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されることを意図するものではない。
【0034】
図1は、溶接トーチ2を有する溶接装置1を示しており、溶接トーチ2は短絡溶接方法、特にCMT溶接法を実施するように企図されている。短絡溶接方法では、溶融溶接ワイヤ3(電極)が、電動機を有し得る搬送装置4によって、ワークピース5の方向とバックする方向とに交互に移動させられる。このシーケンスの結果、短絡溶接方法はアークフェーズ6と短絡フェーズ7とに細分化される(例えば図2図3を参照)。溶接装置1は、溶接ワイヤ3を制御及び/又は調整するための制御/調整ユニット8を有する。溶接ワイヤ3は、供給ドラム9によって溶接トーチ2の領域にガイドされる。
【0035】
図2は、(溶接電圧Uの時間曲線と溶接電流Iの時間曲線の下に)現状の技術水準からの短絡溶接方法における溶接ワイヤ3の速度曲線10を、固定された所定のプリセットされた時間シーケンスで示したものである。速度vは縦軸にプロットされ、ここで、+vはワークピース5の方向における溶接ワイヤ3の前進速度を示し、-vは、ワークピース5から離れる溶接ワイヤ3の後進速度を示す。短絡溶接方法はアークフェーズ6と短絡フェーズ7とに分けることができる。短絡フェーズ7は、溶接ワイヤ3がワークピース5に接触したとき、溶接ワイヤ3とワークピース5との間に短絡の発生11で開始する。アークフェーズ6は、溶接ワイヤ3とワークピース5との間の短絡の中断12で始まり、短絡の発生で再び終了する。アークフェーズ6の間、溶接ワイヤ3は主に前進速度+Vでワークピース5の方向に搬送される。短絡フェーズ7の間、溶接ワイヤ3は主に後進速度-Vでワークピース5から離れるように搬送される。溶接サイクルはアークフェーズ6と短絡フェーズ7とからなる。
【0036】
溶接ワイヤ3の速度カーブ10を、溶接ワイヤ3が搬送される個々の溶接ワイヤの速度フェーズにさらに細分化できる。第1後進搬送フェーズ13では、溶接ワイヤ3が加速によって最終後進速度Vre_maxにもたらされる。最終後進速度vre_maxは、例えば、10m/minから60m/minの間、特に20m/minから60m/minの間の範囲にできる。第1後進搬送フェーズ13は合計期間を有しており、これは第1期間Tとして参照され、例えば3msであり得る。溶接ワイヤ3が最終後進速度vre_maxに到達した後、加速が終了し、溶接ワイヤ3は、第1最終プラトーフェーズ14において実質的に一定の最終後進速度vre_maxでワークピース5から離れるように搬送される。最終プラトーフェーズ14は、期間Tを有する。第1後進搬送フェーズ13の直後には第2後進搬送フェーズ15があり、溶接ワイヤ3の後進速度-vが加速によって再び減速される。後進速度-vはこのフェーズでゼロに減速される。続いて、溶接ワイヤ3を最終前進速度Vv_maxまで加速する第1前進搬送フェーズ16が提供される。第1前進搬送フェーズ16の合計期間は、第2期間Tとして参照される。第2最終プラトーフェーズ17では、Tで示されている期間であるが、最終前進速度vv_maxは実質的に一定に維持される。第1前進搬送フェーズ16の直後には第2前進搬送フェーズ18が続き、第2前進搬送フェーズ18では前進速度+vは再びゼロに減速される。続いて、第1後進搬送フェーズ13が再び提供される。示される速度カーブは、所望のカーブを模式的且つ理想的に表したものである。実際の速度カーブは、図示のカーブとは物理的に異なる場合がある。
【0037】
短絡フェーズ7の終了時、短絡の中断12において、溶接ワイヤ3からワークピース5への材料の供出(液滴の供出)が生じて溶接シーム19が生成される(図1参照)。しかしながら、溶接ワイヤ3の速度は、図2の場合と同様に、短絡の中断12の時に高すぎるため、溶接のスプラッシュが発生する可能性があり、溶接シーム19の品質に悪影響を与える。これは特に、チタンのような粘り気のある材料の場合である。
【0038】
現状の技術水準では、速度カーブ10は、固定的に所定の時間期間T、TまたはT、Tにわたって決定される。第1期間Tは、溶接のスプラッシュを回避するために、溶接ワイヤ3が中断12のときに十分にゆっくりと搬送されるように設定されるべきである。しかしながら、短絡の中断12の時点だけでなく、短絡の発生11の時点も、図2に示されえるように、異なってもよく、材料、溶接シーム、不純物、温度他などのパラメータに依存する。したがって、固定時間TおよびTまたはT、Tの選択は、完全に単純なものではない。例えば、短絡の中断12の時点で、溶接ワイヤ3が過度に高い後進搬送速度-vで搬送されて、溶接のスプラッシュが生成されるような場合が発生する可能性がある。これは図2に示されているように、短絡があまりに速い速度における時間20の時点で中断されている。図2にも見られるように、時間20の時点は速度カーブ10に対して時間的に変化する。また、短絡の発生11の時点も変化し得る。短絡の発生11の時点と中断12の時点のバラつきにより、溶接周波数は不規則であるので安定しない。
【0039】
従って、本発明によれば、第1後進搬送フェーズ13の第1期間Tは、第2後進搬送フェーズ15における溶接ワイヤ3が、短絡の発生12の時点において所定の減速した後進速度vre_Kを超えないように、特に対応しないように、フィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御によって適合されることが提供される。これは図3の右の短絡フェーズ7に示されている。従って、第1後進搬送フェーズ13は左の短絡フェーズ7に比して時間内に終了し、第2後進搬送フェーズ15は短絡の中断12が生じる前に開始される。制御及び/又は調整操作は、制御および/または調整ユニット8で実施され得る。
【0040】
第2後進搬送フェーズ15は、実質的に一定の後進速度-vを有する第1中間プラトーフェーズ21を有してもよい。第1中間プラトーフェーズ21では、溶接ワイヤ3は、好ましくは、所定の減速した後進速度vre_Kでワークピース5から離れるように搬送される。フィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御は、短絡の中断12が第1中間プラトーフェーズ21で生じるように、図示の実施形態では第1期間Tを調整する。これは溶接サイクル内で行うことができ、又は溶接サイクルごとに行うこともできる。短絡の中断12の後、溶接ワイヤ3の所定の減速した後進速度vre_Kは、溶接ワイヤ3の加速が継続される前に保持時間Thold_1の間、依然として保持される。
【0041】
図4Aに、制御システムのブロック図がされている。
【0042】
制御システムは、閉鎖された制御回路22によって構成されており、逸脱の場合に、溶接サイクルごとに第1期間Tを適合するように構成されており、それにより、溶接ワイヤ3は、短絡の中断12の時点において、第2後進搬送フェーズ15における後続の溶接サイクルにおいて所定の減速した後進速度vre_Kを超えない。図3は、溶接サイクルごとの調整を示している。特に、第1期間Tを、短絡の中断12が第1中間プラトーフェーズ21で生じるように適合させることができる。制御回路22は、例えばPコントローラ又はPIコントローラとして設計され得るコントローラ23と、被制御部24とを含む。第1期間Tは、制御変数Sとして制御回路22に提供される。制御変数Sはコントローラ23によって調整され得る。制御回路22の目標または参照変数Fは、第1中間プラトーフェーズ21の第1目標期間Tmin_1によって設定される。第1中間プラトーフェーズ21の期間T21は、測定される制御変数Yとして使用される。
【0043】
図4Bには、制御システムの代替実施形態が示されている。制御回路22の制御変数Sは、第1期間Tに再び使用される。これはコントローラ23により調整され得る。しかしながら、短絡の中断12のときに溶接ワイヤが有するべき溶接ワイヤ3の所定の減速した後進速度vre_Kが、制御回路22の目標または参照変数Fとして使用される。短絡の中断12の時点における溶接ワイヤ3の測定される後進速度-vが、測定される制御変数Yとして使用される。短絡の中断12時点における溶接ワイヤ3の速度が所定の減速した後進速度vre_Kから乖離している場合、制御装置23は、次の溶接サイクルの第1期間Tを調整し、それにより溶接ワイヤ3が短絡の中断12における所定の減速した後進速度vre_Kで将来において搬送される。溶接サイクルごとの調整が図3に示されている。特に、第1期間Tを、短絡の中断12が第1中間プラトーフェーズ21で生じるように適合させることができる。
【0044】
短絡フェーズと同様に、第1前進搬送フェーズ16の第2期間Tの適合は、追加の制御及び/又は調整ユニット8’において追加のフィードフォワード制御及び/又はフィードバック制御によって実行することができ、それにより溶接ワイヤ3が短絡の発生11の時点において、第2前進搬送フェーズ18の所定の減速した前進速度vv_Kを超えない。これは図5において右のアークフェーズ6に示されている。したがって、第1前進搬送フェーズ16は余裕をもって終了し、短絡の発生11が生じる前に第2前進搬送フェーズ18が開始される。図5には、溶接電流プロファイル及び溶接電圧プロファイルも示されている。
【0045】
さらなる制御が図6Aおよび図6Aに示されている。
【0046】
図6Aに、追加の制御システムのブロック図が示されている。追加の制御システムは、閉鎖制御回路22’によって構成されており、短絡の発生11の時点において、必要に応じて、溶接サイクルごとに第2Tを適合させるように設計されており、それにより溶接ワイヤ3が第2後進搬送フェーズ18における後続の溶接サイクルの所定の減速した前進速度vv_Kを超えない。これは図5に示されている。特に、第1期間Tを、短絡の発生11が第2中間プラトーフェーズ25において一定の所定の減速した前進速度vv_Kで生じるように適合させることができる。制御回路22’は、例えばPコントローラまたはPIコントローラとして設計できるコントローラ23と、被制御部24’とを含む。制御変数Sとして、追加の制御回路22’は第2期間Tを使用する。これは追加のコントローラ23’により調整され得る。追加の制御回路22’の目標または参照変数Fは、第2中間プラトーフェーズ5の第2目標期間Tmin_2によって設定される。第2中間プラトーフェーズ25の期間T25は、測定された制御変数Rとして使用される。
【0047】
図6Bには、追加の制御回路22’の代替の施形態が示されている。追加の制御回路22’の制御変数Sは、第2期間Tに再び使用される。これは追加のコントローラ23’により調整され得る。しかしながら、短絡の発生11の時点において溶接ワイヤが有するべき溶接ワイヤ3の所定の減速した前進速度vv_Kは、追加の制御回路22’の目標または参照変数Fとして使用される。短絡の発生11の時点における溶接ワイヤ3の測定された前進速度vが測定された制御変数Yとして用いられる。短絡の発生11の時点における溶接ワイヤ3の速度が、所定の減速した前進速度vv_Kから乖離している場合、追加のコントローラ23’は、短絡の発生11において、溶接ワイヤ3が所定の減速した前進速度vv_Kで将来搬送されるように、次の溶接サイクルにおける第2期間Tを調整する。溶接サイクルごとの調整が図5に示されている。特に、第2期間Tを、短絡の発生11が第2中間プラトーフェーズ25で生じるように適合させることができる。
【0048】
図7は、速度カーブ10、溶接電圧カーブ、溶接電流カーブ、および抵抗値Rの時間カーブを示しており、これらに基づいて、短絡の中断12が予測され得る。抵抗値は溶接電圧Uと溶接電流Iから計算される。この予測に基づいて、第1期間Tを調整できる。これは1サイクル内でなされ得る。第1期間Tの調整は制御システムにより実行され得る。例えば、抵抗値が抵抗閾値Rsを超えた場合、または抵抗変化率dR/dtが所定の抵抗変化率閾値を超えた場合、短絡の差し迫った中断12が判定されてもよい。続いて、制御システムは、第1後進搬送フェーズ13を終了させて、第2後進搬送フェーズ15を開始させてもよい。このようにして、第1時間期間Tが調整される。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7