(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】水系防汚塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20241024BHJP
C09D 193/04 20060101ALI20241024BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20241024BHJP
C09D 139/00 20060101ALI20241024BHJP
C09D 125/06 20060101ALI20241024BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20241024BHJP
C09D 5/16 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D193/04
C09D175/04
C09D139/00
C09D125/06
C09D5/02
C09D5/16
(21)【出願番号】P 2024050082
(22)【出願日】2024-03-26
【審査請求日】2024-06-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 究
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-213336(JP,A)
【文献】特開2023-177193(JP,A)
【文献】特開2009-173914(JP,A)
【文献】特開2002-080778(JP,A)
【文献】特開昭47-020230(JP,A)
【文献】国際公開第2023/145634(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/215600(WO,A1)
【文献】特開2022-107656(JP,A)
【文献】特開2022-069873(JP,A)
【文献】特開2022-065973(JP,A)
【文献】特開2022-028627(JP,A)
【文献】特開2021-155728(JP,A)
【文献】特開2021-155727(JP,A)
【文献】特開2021-105178(JP,A)
【文献】特開2021-024988(JP,A)
【文献】特開2020-193282(JP,A)
【文献】特開2020-189896(JP,A)
【文献】特開2020-189447(JP,A)
【文献】特開2020-073656(JP,A)
【文献】国際公開第2020/022431(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/221266(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/164283(WO,A1)
【文献】特開2017-130864(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022661(WO,A1)
【文献】特開2014-005397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 193/04
C09D 175/04
C09D 139/00
C09D 125/06
C09D 5/02
C09D 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂(A)と、
800以上の重量平均分子量を有
し、0~50℃のガラス転移温度(Tg)を有するロジン系化合物(B)と、
水(C)と、
を含有する水系防汚塗料組成物。
【請求項2】
合成樹脂(A)と、
800以上の重量平均分子量を有するロジン系化合物(B)と、
水(C)と、
を含有する水系防汚塗料組成物(ただし、ポリブテンのエマルジョンを含有する前記組成物を除く)。
【請求項3】
前記組成物における、前記合成樹脂(A)と前記ロジン系化合物(B)との含有量比(A):(B)が、質量基準で、1.0:0.7~1.0:3.0である、請求項1に記載の水系防汚塗料組成物。
【請求項4】
前記ロジン系化合物(B)が、100mgKOH/g以下の酸価を有する、請求項1に記載の水系防汚塗料組成物。
【請求項5】
前記ロジン系化合物(B)が、ロジン系エステルを含む、請求項1に記載の水系防汚塗料組成物。
【請求項6】
前記ロジン系エステルが、ロジンまたはその誘導体と3価以上の多価アルコールとのエステルである、請求項
5に記載の水系防汚塗料組成物。
【請求項7】
前記合成樹脂(A)が、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂およびウレタン系樹脂から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の水系防汚塗料組成物。
【請求項8】
前記組成物における前記水(C)の含有割合が、20~60質量%である、請求項1に記載の水系防汚塗料組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の水系防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜。
【請求項10】
基材と、
前記基材の表面上に設けられた請求項
9に記載の防汚塗膜と、
を有する防汚塗膜付き基材。
【請求項11】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の水系防汚塗料組成物を基材に塗布するかまたは含浸させ、塗布体または含浸体を得る工程(1)、および、
前記塗布体または前記含浸体を乾燥する工程(2)
を有する、防汚塗膜付き基材の製造方法。
【請求項12】
合成樹脂(A)と、800以上の重量平均分子量を有
し、0~50℃のガラス転移温度(Tg)を有するロジン系化合物(B)と、水(C)と、を混合する工程を有する、水系防汚塗料組成物の製造方法。
【請求項13】
合成樹脂(A)と、800以上の重量平均分子量を有するロジン系化合物(B)と、水(C)と、を混合する工程を有する、水系防汚塗料組成物(ただし、ポリブテンのエマルジョンを含有する前記組成物を除く)の製造方法。
【請求項14】
前記工程において、前記合成樹脂(A)と前記ロジン系化合物(B)との使用量比(A):(B)が、質量基準で、1.0:0.7~1.0:3.0である、請求項
12または13に記載の水系防汚塗料組成物の製造方法。
【請求項15】
前記ロジン系化合物(B)が、ロジン系エステルを含む、請求項
12または13に記載の水系防汚塗料組成物の製造方法。
【請求項16】
前記工程において、前記合成樹脂(A)の水系分散体、および前記ロジン系化合物(B)の水系分散体を用いる、請求項
12または13に記載の水系防汚塗料組成物の製造方法。
【請求項17】
前記合成樹脂(A)の水系分散体が、23℃において7.0~9.0のpHを有する、請求項
16に記載の水系防汚塗料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水系防汚塗料組成物およびその製造方法、防汚塗膜、防汚塗膜付き基材、ならびに防汚塗膜付き基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防汚塗料組成物としては、有機溶剤希釈型の組成物が用いられている。近年、環境の保全または塗装作業環境の改善の観点から、防汚塗料組成物の水系化、すなわち水系防汚塗料組成物が望まれている(例えば、特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭51-014936号公報
【文献】特開2009-173914号公報
【文献】特開2003-277680号公報
【文献】国際公開第2023/232825号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
防汚塗料組成物の水系化は、揮発性有機化合物(VOC)量の削減に有効である。しかしながら、水系防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜は、水との親和性が高い。したがって、このような防汚塗膜は、長期にわたる防汚性を発現することは困難であった。
【0005】
このような問題に対して、本発明者らは、ロジン系化合物を含有する防汚塗膜が長期にわたる防汚性に優れる傾向にあることを見出した。しかしながら、本発明者らは、さらに検討を進めたところ、ロジン系化合物を含有する水系防汚塗料組成物の貯蔵安定性が充分ではない場合があることを見出した。本開示の一つの目的は、貯蔵安定性に優れる水系防汚塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の水系防汚塗料組成物の一態様は、合成樹脂(A)と、800以上の重量平均分子量を有するロジン系化合物(B)と、水(C)と、を含有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、貯蔵安定性に優れる水系防汚塗料組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。
本明細書中で説明する各成分は、それぞれ1種または2種以上を用いることができる。
本明細書において、単独重合体と共重合体とを特に区別せずに、「重合体」と記載することがある。すなわち「重合体」という用語は、単独重合体でもよく、共重合体でもよい意味で用いる。
【0009】
「(メタ)アクリレート」という用語は、アクリレートでもよく、メタクリレートでもよい意味で用いる。「(メタ)アクリル」という用語は、アクリルでもよく、メタクリルでもよい意味で用いる。「(メタ)アクリル酸」という用語は、アクリル酸でもよく、メタクリル酸でもよい意味で用いる。
【0010】
本明細書において、数値範囲n1~n2は、n1<n2である場合はn1以上n2以下の数値範囲を意味し、n1>n2である場合はn2以上n1以下の数値範囲を意味する。本明細書において、ある要素について下限値および上限値がそれぞれ複数記載されている場合は、記載された下限値から任意に選ばれる値と、記載された上限値から任意に選ばれる値と、を組み合わせてなる数値範囲もまた、記載されているものとする。
【0011】
「モノマーXに由来する構造単位」とは、モノマーXをA1A2C=CA3A4(C=Cは重合性炭素-炭素二重結合であり、A1~A4はそれぞれ炭素原子に結合する原子または基である。)と表すならば、例えば下記式で表される構造単位である。
【0012】
【0013】
[水系防汚塗料組成物(組成物(I)]
本開示の水系防汚塗料組成物(以下「組成物(I)」ともいう。)は、以下にそれぞれ説明する、合成樹脂(A)と、ロジン系化合物(B)と、水(C)と、を含有する。
【0014】
<合成樹脂(A)>
合成樹脂(A)としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、およびウレタン系樹脂が挙げられる。これらの中でも、屋外暴露試験における耐クラック性、水中浸漬での耐クラック性、および長期にわたる防汚性に優れる防汚塗膜を容易に形成できる等の観点から、(メタ)アクリル系樹脂およびスチレン系樹脂が好ましく、耐クラック性により優れる防汚塗膜を容易に形成でき、また合成樹脂(A)として容易に入手できる等の観点から、(メタ)アクリル系樹脂がより好ましい。
【0015】
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系モノマーに由来する構造単位を有しており、(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能なエチレン性不飽和モノマー(以下「その他のエチレン性不飽和モノマー」ともいう。)に由来する構造単位をさらに有してもよい。(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系モノマーの単独重合体でもよく、2種以上の(メタ)アクリル系モノマーの共重合体でもよく、(メタ)アクリル系モノマーとその他のエチレン性不飽和モノマーとの共重合体でもよい。該共重合体は、例えば、ランダム共重合体でよく、ブロック共重合体でもよい。(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系モノマーに由来する構造単位を2種以上有してもよい。(メタ)アクリル系樹脂は、その他のエチレン性不飽和モノマーに由来する構造単位を1種有してもよく、2種以上有してもよい。
【0016】
(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸アミド、(メタ)アクリロニトリル、および(メタ)アクリル酸が挙げられる。
【0017】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、およびラウリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、および4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;メトキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、およびエトキシブチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリレート;ならびにアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、およびブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0018】
(メタ)アクリル酸アミドとしては、例えば、アミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、およびメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリル酸アミノアルキルアミド;ならびに(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、メトキシブチル(メタ)アクリルアミド、およびジアセトン(メタ)アクリルアミド等のその他のアミド基含有(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。
【0019】
その他のエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、および1-ブテン等のα-オレフィン;1,3-ブタジエン、イソプレン、およびクロロプレン等の共役ジエン;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、およびハロゲン化スチレン等のスチレン系モノマー;酢酸ビニル、およびプロピオン酸ビニル等のビニルエステル;クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、およびイタコン酸等の不飽和ジカルボン酸;マレイン酸エチル、およびマレイン酸ブチル等の不飽和ジカルボン酸のモノエステル;ならびにマレイン酸ジエチル、およびマレイン酸ジブチル等の不飽和ジカルボン酸のジエステルが挙げられる。
【0020】
(メタ)アクリル系樹脂において、重合性モノマーに由来する構造単位の全量100質量%中の(メタ)アクリル系モノマーに由来する構造単位の含有割合は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、よりさらに好ましくは50質量%以上、特に好ましくは60質量%以上である。本明細書において、各構造単位の含有割合は、核磁気共鳴分光法(NMR)により測定される。
【0021】
(メタ)アクリル系樹脂において、重合性モノマーに由来する構造単位の全量100質量%中のその他のエチレン性不飽和モノマーに由来する構造単位の含有割合は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、よりさらに好ましくは50質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。
【0022】
(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル系モノマーの単独または共重合体である(メタ)アクリル系モノマー重合体、(メタ)アクリル系モノマー-スチレン系モノマー共重合体、および(メタ)アクリル系モノマー-ビニルエステル共重合体が挙げられる。(メタ)アクリル系樹脂は、例えば、ウレタン変性体でもよく、シリコーン変性体でもよい。
【0023】
(メタ)アクリル系樹脂は、自己架橋型でもよく、非自己架橋型でもよい。
【0024】
(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、耐クラック性および防汚性にバランスよく優れる防汚塗膜を容易に形成できる等の観点から、好ましくは-50℃以上、より好ましくは-30℃以上、さらに好ましくは-10℃以上、特に好ましくは0℃以上であり、好ましくは90℃以下、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは60℃以下、特に好ましくは50℃以下であり、例えば-50~90℃である。(メタ)アクリル系樹脂のTgは、示差走査熱量測定(DSC)装置を用いて、窒素雰囲気下、20℃/分の昇温速度で-50℃~150℃の範囲における熱量変化を測定して得られる、加熱時のDSCのオンセット値における温度(℃)である。
【0025】
(メタ)アクリル系樹脂は、0mgKOH/g超の酸価を有してもよい。(メタ)アクリル系樹脂の酸価は、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは5mgKOH/g以上、さらに好ましくは10mgKOH/g以上であり、好ましくは35mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、さらに好ましくは25mgKOH/g以下であり、例えば1~35mgKOH/gである。酸価が下限値以上の(メタ)アクリル系樹脂は、水系防汚塗料組成物中における安定性に優れる傾向にある。酸価が上限値以下の(メタ)アクリル系樹脂を含有する組成物は、耐水性に優れる塗膜を形成できる傾向にある。(メタ)アクリル系樹脂の酸価は、試料の固形分1g当たりの、カルボキシ基などの酸基を中和するために必要な水酸化カリウムの量(mg)であり、JIS K0070:1992(中和滴定法)に準拠して測定される。
【0026】
(メタ)アクリル系樹脂の合成方法としては、公知の方法が挙げられ、例えば、ラジカル重合開始剤の存在下で、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、または乳化重合法で重合性モノマーを重合する方法が挙げられる。
【0027】
(メタ)アクリル系樹脂は、構造単位および重量平均分子量等を考慮して、(メタ)アクリル系モノマーおよび必要に応じてその他のエチレン性不飽和モノマーを適宜選択し、公知の方法、例えば溶液ラジカル重合法などにより製造される。
【0028】
スチレン系樹脂としては、例えば、スチレン系モノマーの単独または共重合体、およびスチレン系モノマーとこれに対して共重合可能なモノマーとの共重合体が挙げられる。スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、およびハロゲン化スチレンが挙げられ、これらの中でもスチレンが好ましい。スチレン系モノマーに対して共重合可能なモノマーとしては、例えば、上述したその他のエチレン性不飽和モノマー(ただし、スチレン系モノマーを除く。)が挙げられる。スチレン系樹脂は、例えば、ウレタン変性体でもよく、シリコーン変性体でもよい。
【0029】
本明細書において、スチレン系樹脂からは、(メタ)アクリル系樹脂を除く。すなわち、(メタ)アクリル系モノマーに由来する構造単位とスチレン系モノマーに由来する構造単位とを有する樹脂は、(メタ)アクリル系樹脂に分類する。
【0030】
ウレタン系樹脂としては、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との反応物であればよい。ポリオール化合物としては、例えば、多価アルコール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、(メタ)アクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、およびポリオレフィンポリオールが挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、および芳香族ポリイソシアネートが挙げられる。
【0031】
合成樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、成膜性に優れる防汚塗料組成物が得られる等の観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは700,000以下である。Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定される。合成樹脂(A)が、水の蒸発時に高分子量化する、いわゆる自己架橋型樹脂である場合、上記Mwの上限値に限るものではない。
【0032】
合成樹脂(A)は、水中に分散可能な、水分散性の粒子であることが好ましい。合成樹脂(A)が(メタ)アクリル系樹脂粒子である場合は、該粒子を構成する(メタ)アクリル系樹脂は、例えば、カルボキシ基およびヒドロキシ基などの親水性基を有してもよい。
【0033】
合成樹脂(A)は、組成物(I)中に粒子状で存在してもよい。例えば、組成物(I)の塗布および乾燥時に、水が蒸発して粒子同士が結着して、造膜する。合成樹脂(A)のZ平均粒子径は、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは30nm以上、特に好ましくは50nm以上であり、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは500nm以下、特に好ましくは300nm以下であり、例えば10nm~2μmである。Z平均粒子径が上記範囲内の合成樹脂(A)は、水系防汚塗料組成物中で安定して存在できる傾向にあり、このような組成物は、塗膜物性が均一な塗膜を形成できる傾向にある。本明細書において、Z平均粒子径は、粒子径測定装置(例えばMalvern社製Zetasizer Nano-ZS)を用いた動的光散乱法(DLS)により23℃にて測定される。
【0034】
組成物(I)は、合成樹脂(A)を2種以上含有してもよい。
【0035】
合成樹脂(A)の含有割合は、組成物(I)の固形分100質量%中、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、特に好ましくは16質量%以下であり、例えば3~30質量%である。
【0036】
組成物(I)における固形分の含有割合は、塗装作業性に優れる組成物にできる観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下であり、例えば40~80質量%である。
【0037】
組成物(I)および各成分(例:水系分散体)の固形分とは、組成物(I)および各成分をそれぞれ108℃の恒温器中で3時間乾燥させたときの加熱残分を意味する。固形分の含有割合は、実施例欄に記載の方法により測定される。
【0038】
組成物(I)の製造では、塗膜物性の観点から、合成樹脂(A)の水系分散体を用いることが好ましく、合成樹脂(A)の水系エマルションを用いることがより好ましい。これにより、組成物(I)中に合成樹脂(A)が安定して均一に存在しやすくなり、塗膜物性が均一な塗膜を形成できる傾向にある。
【0039】
合成樹脂(A)の水系エマルションは、例えば、界面活性剤を用いて合成樹脂(A)を乳化することにより調製してもよく、合成樹脂(A)を形成する重合性モノマーの乳化重合により直接調製してもよい。界面活性剤としては、特に限定されず、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、および非イオン系界面活性剤から適宜選択できる。
【0040】
水系分散体中の合成樹脂(A)の含有割合は、分散体の安定性および塗料製造上の作業性等の観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下であり、例えば20~80質量%である。
【0041】
合成樹脂(A)の水系分散体とは、水を含む分散媒(以下「水系媒体」ともいう。)中に合成樹脂(A)が分散された分散体である。水系媒体は、水を含んでいれば特に制限されない。水系媒体中の水の含有割合は、環境負荷の低減という観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、よりさらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0042】
水系媒体は、水以外の媒体を含んでいてもよい。このような媒体としては、例えば、アセトン、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジアセトンアルコール、ジオキサン、エチレングリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、およびエチレングリコールモノヘキシルエーテルが挙げられる。上記媒体は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0043】
合成樹脂(A)の水系分散体の23℃でのpHは、水系分散体の安定性等の観点から、好ましくは7.0~12.0、より好ましくは7.0~10.0、さらに好ましくは7.0~9.0である。このような水系分散体を用いることにより、例えば、組成物(I)中に合成樹脂(A)が安定して均一に存在しやすくなる。したがって、組成物(I)を用いて塗膜物性が均一な塗膜を形成できる。
【0044】
<ロジン系化合物(B)>
ロジン系化合物(B)とは、未変性ロジンであるロジン、およびロジンの誘導体から選ばれる少なくとも1種である。合成樹脂(A)に加えてロジン系化合物(B)を含有する組成物(I)は、防汚性に優れる防汚塗膜を形成できる。
【0045】
ロジンとしては、例えば、天然ロジンが挙げられ、具体的には、ガムロジン、トール油ロジン、およびウッドロジンが挙げられる。ロジンを構成する成分としては、例えば、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、セコデヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、ピマル酸、イソピマル酸、レボピマル酸、パラマトリン酸、およびサンダラコピマル酸が挙げられる。ロジンを構成する上記成分は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0046】
ロジンの誘導体としては、例えば、ロジン系エステル、水素化ロジン、不均化ロジン、重合ロジン(二量化ロジンともいう。)、酸変性ロジン、およびロジン変性フェノール樹脂が挙げられる。これらの中でも、貯蔵安定性に優れる水系防汚塗料組成物を調製できるとともに、防汚性に優れる防汚塗膜を形成できる等の観点から、ロジン系エステル、水素化ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、および酸変性ロジンが好ましく、ロジン系エステルがより好ましい。酸変性ロジンとしては、例えば、マレイン酸変性ロジン、無水マレイン酸変性ロジン、フマル酸変性ロジン、および(メタ)アクリル酸変性ロジンが挙げられる。ロジンの誘導体は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0047】
ロジンおよびロジンの誘導体は、塩の形態をとっていてもよい。これらの塩としては、例えば、アンモニウム塩、および金属塩(鹸化ロジン、鹸化ロジン誘導体)が挙げられる。上記金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、およびカリウム塩等のアルカリ金属塩;ならびに、亜鉛塩、銅塩、アルミニウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、およびバリウム塩が挙げられる。
【0048】
ロジン系化合物(B)の重量平均分子量(Mw)は、800以上である。理由は定かではないが、このようなMwを有するロジン系化合物を用いることにより、例えばMwが小さいロジン系化合物を用いる場合と比べて、貯蔵安定性により優れる水系防汚塗料組成物を調製できる。
【0049】
ロジン系化合物(B)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは850以上、より好ましくは900以上、さらに好ましくは950以上、特に好ましくは1,000以上である。ロジン系化合物(B)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは3,000以下、より好ましくは2,750以下、さらに好ましくは2,500以下、よりさらに好ましくは2,250以下、特に好ましくは2,000以下である。上記Mwは、例えば、好ましくは800~3,000、より好ましくは850~2,750、さらに好ましくは900~2,500、よりさらに好ましくは950~2,250、特に好ましくは1,000~2,000である。
【0050】
ロジン系化合物(B)の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定される標準ポリスチレン換算の値である。その測定条件の詳細は、実施例欄に記載する。
【0051】
ロジン系化合物(B)は、ロジン系エステルを含むことが好ましく、ロジン系エステルを主成分として含むことがより好ましい。ロジン系エステルとしては、例えば、ロジンとアルコールとのエステル、およびロジンの誘導体(エステルを除く。)とアルコールとのエステルが挙げられる。理由は定かではないが、ロジン系エステルを用いることにより、例えば遊離酸であるロジン(遊離ロジン酸)、酸変性ロジンまたはロジンの塩を用いる場合と比べて、貯蔵安定性により優れる水系防汚塗料組成物を調製できる。
【0052】
アルコールとしては、多価アルコールが好ましい。多価アルコールは、アルコール性水酸基を2個以上、好ましくは2~10個、より好ましくは2~8個、さらに好ましくは3~6個、特に好ましくは3~4個有する化合物である。多価アルコールは、一実施形態において、アルコール性水酸基を3個以上有する、3価以上の多価アルコールである。
【0053】
多価アルコールとしては、例えば、
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、および1,4-シクロヘキサンジメタノール等の、好ましくは炭素数20以下、より好ましくは炭素数10以下、さらに好ましくは炭素数6以下の脂肪族ジオール;ならびに
グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、ペンタントリオール、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、グルコース、スクロース、およびソルビトール等の、好ましくは炭素数20以下、より好ましくは炭素数10以下、さらに好ましくは炭素数6以下の3価以上の脂肪族アルコール;
が挙げられる。
【0054】
アルコールの中でも、多価アルコールが好ましく、3価以上の多価アルコールがより好ましく、3価以上の脂肪族アルコールがさらに好ましく、グリセリンまたはペンタエリスリトールが特に好ましい。すなわち、ロジン系エステルとしては、ロジンまたはその誘導体と多価アルコールとのエステルが好ましく、ロジンまたはその誘導体と3価以上の多価アルコールとのエステルがより好ましく、ロジンまたはその誘導体と3価以上の脂肪族アルコールとのエステルがさらに好ましく、ロジンもしくはその誘導体とグリセリンとのエステル、またはロジンもしくはその誘導体とペンタエリスリトールとのエステルが特に好ましい。
【0055】
ロジン系エステルとしては、具体的には、ロジンエステル、水素化ロジンエステル、不均化ロジンエステル、重合ロジンエステル、酸変性ロジンエステル、およびロジンエステル変性フェノール樹脂が挙げられる。これらの中でも、ロジンエステル、水素化ロジンエステル、不均化ロジンエステル、重合ロジンエステル、および酸変性ロジンエステルが好ましい。
【0056】
ロジン系化合物(B)は、一実施形態において、ロジン系エステルとともに、ロジン、ロジンのアンモニウム塩、およびロジンの金属塩(鹸化ロジン)から選ばれる少なくとも1種の成分をさらに含んでもよい。ロジンの金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、およびカリウム塩等のアルカリ金属塩;ならびに、亜鉛塩、銅塩、アルミニウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、およびバリウム塩が挙げられる。
【0057】
ロジン系化合物(B)は、ロジン系エステルを主成分として、すなわち50質量%超の範囲で含むことが好ましい。ロジン系化合物(B)におけるロジン系エステルの含有割合は、好ましくは50質量%超であり、例えば、60質量%以上でもよく、70質量%以上でもよく、80質量%以上でもよく、90質量%以上でもよい。このような態様のロジン系化合物(B)を含有する組成物(I)は、貯蔵安定性に優れる。
【0058】
ロジン系化合物(B)のガラス転移温度(Tg)は、塗装作業性、貯蔵安定性等の観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは15℃以上、特に好ましくは20℃以上であり、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは55℃以下、よりさらに好ましくは50℃以下、とりわけ好ましくは45℃以下、特に好ましくは40℃以下であり、例えば0~80℃である。ロジン系化合物(B)のTgは、示差走査熱量測定(DSC)装置を用いて測定される。その測定条件の詳細は、実施例欄に記載する。
【0059】
ロジン系化合物(B)の酸価は、好ましくは100mgKOH/g以下、より好ましくは80mgKOH/g以下、さらに好ましくは70mgKOH/g以下、よりさらに好ましくは60mgKOH/g以下、特に好ましくは50mgKOH/g以下であり、例えば、40mgKOH/g以下でもよく、35mgKOH/g以下でもよく、30mgKOH/g以下でもよく、25mgKOH/g以下でもよく、20mgKOH/g以下でもよく、15mgKOH/g以下でもよい。上記上限値以下の酸価を有するロジン系化合物(B)を含有する組成物(I)は、貯蔵安定性により優れる。
【0060】
ロジン系化合物(B)の酸価の下限値は、特に限定されない。ロジン系化合物(B)の酸価は、例えば、0mgKOH/g以上でもよく、5mgKOH/g以上でもよく、10mgKOH/g以上でもよい。
【0061】
ロジン系化合物(B)の酸価は、試料の固形分1g当たりの、カルボキシ基などの酸基を中和するために必要な水酸化カリウムの量(mg)であり、JIS K0070:1992(中和滴定法)に準拠して測定される。
【0062】
ロジン系化合物(B)は、水中に分散可能な、水分散性の粒子であることが好ましい。ロジン系化合物(B)は、組成物中に粒子状で存在してもよい。ロジン系化合物(B)のZ平均粒子径は、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは30nm以上、特に好ましくは50nm以上であり、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは500nm以下、特に好ましくは300nm以下であり、例えば10nm~2μmである。Z平均粒子径が上記範囲内のロジン系化合物(B)は、水系防汚塗料組成物中で安定して存在できる傾向にあり、このような組成物は、塗膜物性が均一な塗膜を形成できる傾向にある。
【0063】
組成物(I)は、ロジン系化合物(B)を2種以上含有してもよい。
【0064】
組成物(I)において、合成樹脂(A)とロジン系化合物(B)との含有量比((A)の含有量:(B)の含有量)は、質量基準で、例えば1.0:0.3~1.0:4.0、好ましくは1.0:0.7~1.0:3.0、より好ましくは1.0:0.9~1.0:2.8、さらに好ましくは1.0:1.2~1.0:2.5、よりさらに好ましくは1.0:1.4~1.0:2.4、特に好ましくは1.0:1.5~1.0:2.3である。上記含有量比で合成樹脂(A)とロジン系化合物(B)とを含有する組成物(I)は、屋外暴露試験における耐クラック性、および長期にわたる防汚性にバランスよく優れる防汚塗膜を形成できる。合成樹脂(A)に対するロジン系化合物(B)の含有量の比が大きいと、防汚性がより優れる傾向にあり、合成樹脂(A)に対するロジン系化合物(B)の含有量の比が小さいと、耐クラック性がより優れる傾向にある。
【0065】
ロジン系化合物(B)の含有割合は、組成物(I)の固形分100質量%中、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、特に好ましくは25質量%以下であり、例えば3~40質量%である。このような態様の組成物(I)は、屋外暴露試験における耐クラック性、および長期にわたる防汚性にバランスよく優れる防汚塗膜を形成できる。
【0066】
組成物(I)の製造では、塗膜物性の観点から、ロジン系化合物(B)の水系分散体を用いることが好ましく、ロジン系化合物(B)の水系エマルションを用いることがより好ましい。これにより、組成物(I)中にロジン系化合物(B)が安定して均一に存在しやすくなり、塗膜物性が均一な塗膜を形成できる傾向にある。
【0067】
水系分散体中のロジン系化合物(B)の含有割合は、分散体の安定性および塗料製造上の作業性等の観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下であり、例えば20~80質量%である。
【0068】
ロジン系化合物(B)の水系分散体とは、水系媒体中にロジン系化合物(B)が分散された分散体である。水系媒体は、水を含んでいれば特に制限されない。水系媒体中の水の含有割合は、環境負荷の低減という観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、よりさらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。水系媒体における水以外の媒体の具体例は、上述したとおりである。
【0069】
ロジン系化合物(B)の水系分散体の23℃でのpHは、ロジン系化合物(B)の水系分散体の安定性、および組成物(I)中での合成樹脂(A)の安定性等の観点から、好ましくは6.0~12.0、より好ましくは6.0~10.0、さらに好ましくは6.0~9.0、特に好ましくは6.0~8.5である。
【0070】
<水(C)>
組成物(I)は、水系防汚塗料組成物である。「水系」組成物とは、水を含有する組成物のことをいう。水(C)としては、例えば、水道水、イオン交換水、および脱イオン水が挙げられ、イオン交換水または脱イオン水が好ましい。水(C)としては、例えば、合成樹脂(A)の水系分散体に含まれる水、およびロジン系化合物(B)の水系分散体に含まれる水も挙げられる。
【0071】
組成物(I)における水(C)の含有割合は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下であり、例えば20~60質量%である。水(C)の含有割合は、カールフィッシャー法に従い、水分測定装置(例えばCA-310、日東精工アナリテック製)を用いて測定される。
【0072】
<防汚剤(D)>
組成物(I)は、防汚剤(D)をさらに含有してもよい。
防汚剤(D)としては、例えば、無機系防汚剤、および有機系防汚剤が挙げられる。
【0073】
無機系防汚剤としては、例えば、亜酸化銅、金属銅粉、およびチオシアン酸第1銅(ロダン銅)等の、銅または銅化合物(ただし、ピリチオン系化合物を除く。)が挙げられる。これらの中でも、亜酸化銅またはチオシアン酸第1銅(ロダン銅)が好ましい。
【0074】
有機系防汚剤としては、例えば、
銅ピリチオン、およびジンクピリチオン等の金属ピリチオン(ピリチオン系化合物);
テトラメチルチウラムジサルフィド等のテトラアルキルチウラムジサルフィド;
ジンクジメチルジチオカーバメート、ジンクエチレンビスジチオカーバメート、およびビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート等のカーバメート系化合物;
2,4,6-トリフェニルマレイミド、2,3-ジクロロ-N-(2',6'-ジエチルフェニル)マレイミド、および2,3-ジクロロ-N-(2'-エチル-6'-メチルフェニル)マレイミド等のマレイミド系化合物;
2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、N,N-ジメチルジクロロフェニル尿素、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチルチオ-4-tert-ブチルアミノ-6-シクロプロピル-S-トリアジン、クロロメチル-n-オクチルジスルフィド、N',N'-ジメチル-N-フェニル-(N-フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、およびN',N'-ジメチル-N-トリル-(N-フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド;
ピリジントリフェニルボラン、および4-イソプロピルピリジンジフェニルメチルボラン等のアミン・有機ボラン錯体;ならびに
(+/-)-4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール(以下「メデトミジン」ともいう。);
が挙げられる。
【0075】
有機系防汚剤の中でも、銅ピリチオン、ジンクピリチオン、ジンクエチレンビスジチオカーバメート、2-メチルチオ-4-tert-ブチルアミノ-6-シクロプロピル-S-トリアジンまたはメデトミジンが好ましく、銅ピリチオン、ジンクエチレンビスジチオカーバメートまたはメデトミジンがより好ましい。
【0076】
組成物(I)は、防汚剤(D)を1種または2種以上含有してもよい。
【0077】
組成物(I)が防汚剤(D)を含有する場合における防汚剤(D)の含有割合は、組成物(I)の固形分100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、よりさらに好ましくは5質量%以上、特に好ましくは10質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下であり、例えば0.01~80質量%である。
【0078】
<他の成分>
組成物(I)は、顔料および添加剤などの、上述した成分以外の成分(以下「他の成分」ともいう。)をさらに含有してもよい。添加剤としては、例えば、分散剤、消泡剤、粘性調整剤、造膜助剤、防カビ剤、防腐剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、および酸化防止剤が挙げられる。
組成物(I)は、他の成分を1種または2種以上含有してもよい。
【0079】
顔料としては、例えば、体質顔料、および着色顔料が挙げられる。顔料としては、例えば、有機系顔料、および無機系顔料が挙げられる。組成物(I)は、顔料を1種または2種以上含有してもよい。
【0080】
体質顔料としては、例えば、タルク、シリカ、マイカ、クレー、カリ長石、炭酸カルシウム、カオリン、アルミナホワイト、ホワイトカーボン、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、および硫化亜鉛が挙げられる。
組成物(I)が体質顔料を含有する場合における体質顔料の含有割合は、組成物(I)の固形分100質量%中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下であり、例えば0.1~80質量%である。
【0081】
着色顔料としては、例えば、有機系顔料、および無機系顔料が挙げられる。有機系顔料としては、例えば、ナフトールレッド、およびフタロシアニンブルーが挙げられる。無機系顔料としては、例えば、カーボンブラック、弁柄、チタン白(酸化チタン)、黄色酸化鉄、および赤色酸化鉄が挙げられる。
組成物(I)が着色顔料を含有する場合における着色顔料の含有割合は、組成物(I)の固形分100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下であり、例えば0.01~40質量%である。
【0082】
分散剤としては、塗料組成物中での水に対する不溶分(例えば顔料)の分散性を向上できる材料が好ましい。分散剤を用いることにより、例えば、外観が良好な塗膜を容易に形成でき、耐クラック性に優れる塗膜を容易に形成できる。分散剤としては、例えば、顔料吸着性基(顔料親和性基)を有し、脂肪酸、ポリアミノ、ポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタン、およびポリ(メタ)アクリレートなどの相溶性鎖を有する重合体が挙げられる。顔料吸着性基としては、例えば、カルボキシ基、酸無水物基、リン酸基、アミノ基、これらの塩の基、およびアンモニウム塩基が挙げられる。
組成物(I)が分散剤を含有する場合における分散剤の含有割合は、組成物(I)の固形分100質量%中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下であり、例えば0.1~5質量%である。
【0083】
消泡剤としては、塗料組成物の製造時または塗装時に泡の発生を抑制できる材料、または塗料組成物中に発生した泡を破泡できる材料が好ましい。消泡剤を用いることにより、例えば、塗膜中での気泡痕またはピンホールの発生を抑制でき、したがって塗膜の成膜性および耐クラック性を向上できる。消泡剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリマー系(非シリコーン系)消泡剤、およびミネラルオイル系消泡剤が挙げられる。
組成物(I)が消泡剤を含有する場合における消泡剤の含有割合は、組成物(I)の固形分100質量%中、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下であり、例えば0.05~5質量%である。
【0084】
粘性調整剤としては、塗料組成物中での水に対する不溶分(例えば顔料)の沈降を抑制でき、塗料組成物の貯蔵安定性を向上できる材料が好ましい。粘性調整剤としては、例えば、水添ヒマシ油系揺変剤、アマイドワックス系揺変剤、酸化ポリエチレン系揺変剤、およびウレタン系揺変剤などの有機系揺変剤;ならびに粘土鉱物(例えば、ベントナイト、スメクタイト、およびヘクトライト)、および合成微粉シリカなどの無機系揺変剤が挙げられる。
組成物(I)が粘性調整剤を含有する場合における粘性調整剤の含有割合は、組成物(I)の固形分100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下であり、例えば0.01~5質量%である。
【0085】
造膜助剤としては、例えば、アルコール類、グリコールエーテル類、およびエステル類が挙げられる。アルコール類としては、例えば、イソプロピルアルコール、および2,2,4-トリメチルペンタンジオールが挙げられる。グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、およびジプロピレングリコールn-ブチルエーテルが挙げられる。エステル類としては、例えば、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレートが挙げられる。
組成物(I)が造膜助剤を含有する場合における造膜助剤の含有割合は、組成物(I)の全量100質量%中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは15質量%以下、より好ましくは5質量%以下であり、例えば0.1~15質量%である。
【0086】
<水系防汚塗料組成物の製造方法>
組成物(I)は、例えば、合成樹脂(A)と、ロジン系化合物(B)と、水(C)と、を混合することにより製造できる。この際、合成樹脂(A)とロジン系化合物(B)との使用量比(A):(B)は、質量基準で、例えば1.0:0.3~1.0:4.0、好ましくは1.0:0.7~1.0:3.0、より好ましくは1.0:0.9~1.0:2.8、さらに好ましくは1.0:1.2~1.0:2.5、よりさらに好ましくは1.0:1.4~1.0:2.4、特に好ましくは1.0:1.5~1.0:2.3である。
【0087】
組成物(I)は、例えば、合成樹脂(A)と、ロジン系化合物(B)と、水(C)と、必要に応じて防汚剤(D)と、必要に応じて上記他の成分とを、一度にまたは任意の順序で攪拌容器内に仕込み、公知の攪拌・混合手段を用いて各成分を混合し、水(C)中に分散または溶解させて製造できる。
【0088】
組成物(I)の製造において、塗料製造上の作業性等の観点から、合成樹脂(A)の水系分散体と、ロジン系化合物(B)の水系分散体と、を用いることが好ましく、合成樹脂(A)の水系エマルションと、ロジン系化合物(B)の水系エマルションと、を用いることがより好ましい。それぞれの水系分散体の詳細は、上述したとおりである。
【0089】
攪拌・混合手段としては、例えば、ペイントシェーカー、ハイスピードディスパー、サンドグラインドミル、バスケットミル、ボールミル、三本ロールミル、ロスミキサー、またはプラネタリーミキサーを用いる手段が挙げられる。混合(混練)は、季節および環境等に応じて加温または冷却しながら行ってもよい。
【0090】
組成物(I)は、水系塗料組成物であることから、環境または人体への悪影響が極めて少ない。組成物(I)は、貯蔵安定性に優れる。組成物(I)は、一実施形態において、屋外暴露試験における耐クラック性に優れる防汚塗膜を形成できる。防汚塗膜は、例えば船舶の外舷部にも設けられることから、屋外暴露試験における耐クラック性に優れることは有利な効果である。組成物(I)は、一実施形態において、水生生物の付着を長期にわたって抑制できるという防汚性に優れる防汚塗膜を形成できる。
【0091】
組成物(I)における有機溶剤などの揮発性有機化合物(VOC)の含有量は、自然環境および塗装作業環境への配慮などの観点から、好ましくは150g/L以下、より好ましくは100g/L以下である。組成物(I)におけるVOCの含有量は、低いほど好ましいが、該含有量は、例えば1g/L以上でもよく、5g/L以上でもよく、10g/L以上でもよく、20g/L以上でもよく、30g/L以上でもよい。組成物(I)におけるVOCの含有量は、例えば、1~150g/Lでもよい。
【0092】
組成物(I)におけるVOCの含有量は、それぞれ以下に説明する組成物比重、固形分濃度および水分濃度の値を用いて、下記式(1)に基づき算出される。
VOCの含有量(g/L) =
組成物比重×1000×(100-固形分濃度-水分濃度)/100 ・・・(1)
【0093】
組成物比重(g/mL)は、23℃の温度条件下で、組成物を内容積100mLの比重カップに充満させ、該組成物の質量を計量することで算出される値である。
固形分濃度(質量%)は、実施例欄に記載の方法で算出される値である。組成物の固形分とは、実施例欄に記載の通り、組成物を108℃の恒温器中で3時間乾燥させたときの加熱残分を意味する。
【0094】
水分濃度(質量%)は、組成物100質量%中に含まれる水の量(質量%)であり、カールフィッシャー法に従い、水分測定装置(例えばCA-310、日東精工アナリテック製)を用いて測定される。
【0095】
組成物(I)は、一実施形態において、合成樹脂(A)と、ロジン系化合物(B)と、水(C)と、を含有する、一液型の組成物であることが好ましい。このような一液型の組成物において組成物(I)は、貯蔵安定性に優れる。
【0096】
[水系防汚塗料組成物の用途]
本開示の防汚塗膜(以下「防汚塗膜(J)」ともいう。)は、組成物(I)から形成される。本開示の防汚塗膜付き基材(以下「防汚基材(K)」ともいう。)は、基材と、該基材の表面上に設けられた防汚塗膜(J)と、を有する。
【0097】
防汚基材(K)の製造方法は、組成物(I)を基材(被塗装物)に塗布するかまたは含浸させ、塗布体または含浸体を得る工程(1)、および、該塗布体または該含浸体を乾燥する工程(2)を有する。
【0098】
組成物(I)の塗布方法としては、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、刷毛塗り、またはローラー塗り等の公知の方法が挙げられる。塗布または含浸された組成物(I)の乾燥は、自然乾燥によって行ってもよく、加熱乾燥によって行ってもよい。具体的には、塗布または含浸された組成物(I)を、例えば、-5~40℃の条件下で、好ましくは1~10日間程度、より好ましくは1~8日間程度放置することにより乾燥して、防汚塗膜(J)を得ることができる。
【0099】
あるいは、防汚基材(K)は、仮の基材の表面に組成物(I)から防汚塗膜(J)を形成し、この防汚塗膜(J)を仮の基材から剥がして防汚すべき基材に貼付することによっても製造できる。この際、接着剤層を介して基材上に防汚塗膜(J)を貼付してもよい。
【0100】
基材は、その表面がプライマー処理されていてもよく、その表面にエポキシ樹脂系塗料、ビニル樹脂系塗料、(メタ)アクリル樹脂系塗料、またはウレタン樹脂系塗料等の各種樹脂系塗料から形成された層を有してもよい。この場合の防汚塗膜(J)が設けられる基材の表面とは、プライマー処理後の表面や、上記樹脂系塗料から形成された層の表面を意味する。
【0101】
基材は、特に制限されない。組成物(I)は、船舶等の広範な産業分野において、基材を長期間にわたって防汚する等のために用いることが好ましい。このため、基材としては、例えば、船舶の船体外板(鋼板等)、水中構造物、各種施設における海水または淡水の給排水管、漁業資材、ならびにその他の海洋資材が挙げられる。船舶としては、例えば、コンテナ船およびタンカーなどの大型鋼船、漁船、FRP船、木船、ヨット、モーターボート、ならびに水上オートバイが挙げられる。船体外板としては、例えば、船底外板、および外舷部が挙げられる。水中構造物としては、例えば、石油パイプライン、導水配管、循環水管、各種施設における給排水口、海底ケーブル、海水利用機器類(海水ポンプ等)、ならびに、メガフロート、湾岸道路、海底トンネル、港湾設備、洋上風力発電設備、および運河・水路等における各種水中土木工事用構造物が挙げられる。上記施設としては、例えば、工場、火力発電所、および原子力発電所が挙げられる。漁業資材としては、例えば、ロープ、漁具、漁網、浮き子、およびブイが挙げられる。その他の海洋資材としては、例えば、水着、ダイバースーツ、水中メガネ、酸素ボンベ、および魚雷が挙げられる。これらの中でも、船舶の船体外板、水中構造物、漁業資材および給排水管が好ましく、船舶の船体外板および水中構造物がより好ましく、船舶の船体外板が特に好ましい。
【0102】
防汚基材(K)を製造するに当たって、基材が漁網または鋼板の場合には、基材の表面に組成物(I)を直接塗布してもよく、基材が漁網の場合には、その表面に組成物(I)を含浸させてもよく、また、基材が鋼板の場合には、基材の表面に防錆剤またはプライマーなどの下地材を予め塗布して下地層を形成した後に、該下地層の表面に組成物(I)を塗布してもよい。また、基材上に劣化した防汚塗膜を有する防汚基材のように、基材上に防汚塗膜(J)または従来の防汚塗膜が形成された防汚基材の表面に、補修を目的として、防汚塗膜(J)をさらに形成してもよい。
【0103】
防汚塗膜(J)の厚さは、特に限定されないが、例えば、30~1000μm程度である。防汚塗膜(J)を形成する場合には、1回の塗装で形成される防汚塗膜の厚さが、好ましくは10~300μm、より好ましくは30~200μmの厚さで、組成物(I)を1回~複数回塗布する方法が挙げられる。
【0104】
防汚塗膜(J)を有する船舶は、水生生物の付着を抑制できることに起因して、船舶速度の低下および燃費の増大を抑制できる。防汚塗膜(J)を有する水中構造物は、長期間にわたって水生生物の付着を抑制できることに起因して、水中構造物の機能を長期間維持できる。防汚塗膜(J)を有する漁網は、環境汚染の恐れが少ない上に、水生生物の付着を抑制できることに起因して、網目の閉塞を抑制できる。防汚塗膜(J)をその内面に有する給排水管は、水生生物の付着および繁殖を抑制できることに起因して、給排水管の閉塞や流速の低下を抑制できる。
【0105】
[態様例]
本開示は、例えば以下の[1]~[17]に関する。
[1]合成樹脂(A)と、800以上の重量平均分子量を有するロジン系化合物(B)と、水(C)と、を含有する水系防汚塗料組成物。
[2]前記組成物における、前記合成樹脂(A)と前記ロジン系化合物(B)との含有量比(A):(B)が、質量基準で、1.0:0.3~1.0:4.0である、前記[11]に記載の水系防汚塗料組成物。
[3]前記組成物における、前記合成樹脂(A)と前記ロジン系化合物(B)との含有量比(A):(B)が、質量基準で、1.0:0.7~1.0:3.0である、前記[1]または[2]に記載の水系防汚塗料組成物。
[4]前記ロジン系化合物(B)が、100mgKOH/g以下の酸価を有する、前記[1]~[3]のいずれかに記載の水系防汚塗料組成物。
[5]前記ロジン系化合物(B)が、ロジン系エステルを含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載の水系防汚塗料組成物。
[6]前記ロジン系エステルが、ロジンまたはその誘導体と3価以上の多価アルコールとのエステルである、前記[5]に記載の水系防汚塗料組成物。
[7]前記合成樹脂(A)が、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂およびウレタン系樹脂から選ばれる少なくとも1種である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の水系防汚塗料組成物。
[8]前記組成物における前記水(C)の含有割合が、20~60質量%である、前記[1]~[7]のいずれかに記載の水系防汚塗料組成物。
[9]前記[1]~[8]のいずれかに記載の水系防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜。
[10]基材と、前記基材の表面上に設けられた前記[9]に記載の防汚塗膜と、を有する防汚塗膜付き基材。
[11]前記[1]~[8]のいずれかに記載の水系防汚塗料組成物を基材に塗布するかまたは含浸させ、塗布体または含浸体を得る工程(1)、および、前記塗布体または前記含浸体を乾燥する工程(2)を有する、防汚塗膜付き基材の製造方法。
[12]合成樹脂(A)と、800以上の重量平均分子量を有するロジン系化合物(B)と、水(C)と、を混合する工程を有する、水系防汚塗料組成物の製造方法。
[13]前記工程において、前記合成樹脂(A)と前記ロジン系化合物(B)との使用量比(A):(B)が、質量基準で、1.0:0.3~1.0:4.0である、前記[12]に記載の水系防汚塗料組成物の製造方法。
[14]前記工程において、前記合成樹脂(A)と前記ロジン系化合物(B)との使用量比(A):(B)が、質量基準で、1.0:0.7~1.0:3.0である、前記[12]または[13]に記載の水系防汚塗料組成物の製造方法。
[15]前記ロジン系化合物(B)が、ロジン系エステルを含む、前記[12]~[14]のいずれかに記載の水系防汚塗料組成物の製造方法。
[16]前記工程において、前記合成樹脂(A)の水系分散体、および前記ロジン系化合物(B)の水系分散体を用いる、前記[12]~[15]のいずれかに記載の水系防汚塗料組成物の製造方法。
[17]前記工程において、前記合成樹脂(A)の水系分散体を用い、前記合成樹脂(A)の水系分散体が、23℃において7.0~9.0のpHを有する、前記[12]~[16]のいずれかに記載の水系防汚塗料組成物の製造方法。
【実施例】
【0106】
以下、実施例に基づき本開示の水系防汚塗料組成物をさらに具体的に説明するが、本開示の水系防汚塗料組成物は以下の実施例に何ら限定されない。以下の実施例および比較例において、「部」は「質量部」を示す。
【0107】
[固形分濃度]
組成物および各成分の固形分とは、組成物および各成分をそれぞれ108℃の恒温器中で3時間乾燥させたときの加熱残分を意味する。加熱残分は、具体的には、組成物または各成分の試料1.0gを平底皿に量り採り、質量既知の針金を使って均一に広げ、恒温器内で、1気圧かつ108℃の条件で3時間乾燥させて得られる、試料の残渣である。加熱残分の量から、組成物および各成分の固形分濃度(質量%)を算出した。
【0108】
[重量平均分子量(Mw)]
ロジン系化合物(B)の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)を用いて下記測定条件で測定した。
・測定条件
・装置:「Alliance 2695」(Waters社製)
・カラム:「TSKgel SuperH4000」1本と「TSKgel SuperH2000」2本とを連結(いずれも東ソー製、内径6mm×長さ15cm)
・溶離液:テトラヒドロフラン99%(BHT含有)
・流速:0.6ml/min
・検出器:「RI-104」(Shodex社製)
・カラム恒温槽温度:40℃
・標準物質:標準ポリスチレン
・サンプル調製法:試料をサンプル管に量り取り、
テトラヒドロフランを加えて約100倍に希釈した。
【0109】
[ガラス転移温度(Tg)]
ロジン系化合物(B)のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)装置を用いて下記測定条件で測定した。
・測定条件
・装置:「DSC Q2000」(TAインスツルメント社製)
・容器:アルミニウム製
・昇温速度:20℃/分
・昇温範囲:-50℃から150℃
・温度変調:なし
・Tg測定値:2サイクル目の加熱時のオンセット値における温度
・サンプル調製法:ガラス皿に試料を薄く塗り広げ、40℃で1.5時間減圧乾燥し、
乳鉢で粉砕した粉末を約3mg使用した。
【0110】
[原材料]
<合成樹脂(A)の水系分散体>
・PRIMAL TX-100
ダウ・ケミカル製、
(メタ)アクリル系樹脂(自己架橋型)の水系エマルション、
固形分濃度:46.5質量%、pH:7.8、Tg:28℃
【0111】
<ロジン系化合物(B)の水系分散体>
・ハリエスターSK-218NS
ハリマ化成製、
ロジン系エステル(ロジンまたはその誘導体と3価以上の多価アルコールとのエステル)の水系エマルション、固形分濃度:50質量%、pH:8.2
酸価(固形分):13.6mgKOH/g、Mw:1200、Tg:35℃
・Aquadhes 6203
Pino Pine製、
ロジン系エステル(ロジンまたはその誘導体と3価以上の多価アルコールとのエステル)の水系ディスパージョン、固形分濃度:59質量%、pH:6.4
酸価(固形分):43.7mgKOH/g、Mw:1000、Tg:27℃
【0112】
<上記化合物(B)以外のロジン系化合物(cB)の水系分散体または水溶液>
・ハーサイズNES-500
ハリマ化成製、
ロジンの水系エマルション、固形分濃度:50質量%、pH:5.7
酸価(固形分):246mgKOH/g、Mw:310、Tg:61℃
・Bremar SP3180 35% Wasser/NH3
Robert Kraemer製、
ロジン水溶液、固形分濃度:35質量%、pH:8.8、
酸価(固形分):251.0mgKOH/g、Mw:460、Tg:90℃
・Bremar SP3180 50% Wasser/NaOH
Robert Kraemer製、
ロジン水溶液、固形分濃度:50質量%、pH:9.2、
酸価(固形分):6.2mgKOH/g、Mw:290、Tg:43℃
【0113】
<体質顔料>
・Talc FC-1
福岡タルク工業所製、タルク
・Mica Powder 325mesh
福岡タルク工業所製、マイカ
【0114】
<着色顔料>
・Novoperm Red F5RK
クラリアントジャパン製、ナフトールレッド
・三菱カーボンブラック
三菱ケミカル製、カーボンブラック
【0115】
<防汚剤(D)>
・Lo Lo Tint 97
American Chemet Corporation製、亜酸化銅
・Selektope
I-TECH製、メデトミジン
【0116】
<分散剤>
・DISPERBYK-190
ビックケミー・ジャパン製、
顔料親和性基を有する高分子量ブロックポリマーの溶液、固形分濃度:40質量%
【0117】
<消泡剤>
・BYK-018
ビックケミー・ジャパン製、
破泡性ポリシロキサンと疎水性粒子との混合物、固形分濃度:97質量%
【0118】
<粘性調整剤>
・Adekanol UH-752
ADEKA製、
ポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー、固形分濃度:28質量%
・Bentone DE
Elementis Specialties Inc.製、
ヘクトライトクレイ
【0119】
<造膜助剤>
・キョーワノールM
KHネオケム製、
2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート
・ダワノールDPM Glycol Ether
ダウ・ケミカル製、
ジプロピレングリコールメチルエーテル
・ダワノールDPnB Glycol Ether
ダウ・ケミカル製、
ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル
【0120】
[防汚塗料組成物の調製]
[実施例1]
防汚塗料組成物を以下のようにして調製した。
容器に、11.8部のイオン交換水、1.5部のDISPERBYK-190(分散剤)、0.2部のBentone DE(粘性調整剤)を添加して、ペイントシェーカーを用いて各成分が水中に均一に分散または溶解するまで混合した。その後、上記容器に、3.0部のMica Powder 325mesh(体質顔料)、37.0部のLo Lo Tint 97(防汚剤(D))、0.6部のNovoperm Red F5RK(着色顔料)、0.3部のBYK-018(消泡剤)、および100部のガラスビーズを添加して、ペイントシェーカーを用いて1時間攪拌し、これらの成分を分散させて、混合物を得た。
【0121】
分散後、上記混合物から濾過網(目開き:80メッシュ)でガラスビーズを除いた濾液に、11.7部のPRIMAL TX-100(合成樹脂(A)の水系分散体)、24.8部のハリエスターSK-218NS(ロジン系化合物(B)の水系分散体)、6.5部のTalc FC-1(体質顔料)、0.2部のAdekanol UH-752(粘性調整剤)、および2.4部のキョーワノールM(造膜助剤)を、ディスパーを回転させながら添加し、20分間分散させて、防汚塗料組成物を得た。
【0122】
[実施例2~8および比較例1~3]
各成分の種類および配合量を表1または表2に示したように変更したこと以外は実施例1と同様にして、防汚塗料組成物を調製した。
【0123】
[防汚塗料組成物の物性評価]
<貯蔵安定性試験>
実施例または比較例の防汚塗料組成物の調製から1日後の状態(初期塗料状態)を、以下の基準に従い評価した。また、実施例または比較例の防汚塗料組成物を密閉容器に充填し、50℃で1か月間貯蔵した後の上記防汚塗料組成物の状態を、以下の基準に従い評価した。
(評価基準)
AA:手攪拌により均一に混合でき、ツブまたはカタマリがない。
BB:ゲル化もしくは沈降が激しく、またはツブもしくはかたまりがある。
【0124】
<屋外暴露試験>
防食塗料を塗装済みの試験板上にアプリケーター(スキマ0.5mm)を用いて、実施例または比較例の防汚塗料組成物を塗布して、試験板を作製した。試験板を23℃条件下で1週間乾燥させ、JIS K 5600-7-6(屋外暴露耐候性)に準拠した暴露架台に設置し、6か月後に塗膜のクラックの発生状況を以下の基準に従い評価した。実施例および比較例それぞれにおいて5個の試験板について上記試験を行い、クラックが発生した試験板の数を確認した。
(評価基準)
AA:光学顕微鏡(High Speed Microscope VW-9000(KEYENCE社製)、レンズ:VW-600C)を用いて100倍に拡大しても、クラックを認識できない。
BB:目視で、または上記光学顕微鏡を用いて100倍に拡大すると、クラックを認識できる。
【0125】
<静置防汚性試験>
サンドブラスト処理鋼板(300mm×100mm×2.3mm)に、アプリケーターを用いて、エポキシ系防食塗料(商品名「バンノー500」、中国塗料製)を乾燥膜厚が150μmになるように塗布し、乾燥させて硬化塗膜を形成した。次いで、該硬化塗膜に、エポキシ系バインダー塗料(商品名「バンノー500N」、中国塗料製)を乾燥膜厚が100μmになるように塗布し、23℃で1日間乾燥させて、試験板を作製した。
【0126】
次いで、上記試験板(上記エポキシ系バインダー塗料の硬化塗膜の表面)に、実施例または比較例の防汚塗料組成物を、アプリケーターを用いて、乾燥膜厚が150μmになるように塗布し、23℃で7日間乾燥させて防汚塗膜を形成して、防汚塗膜付き試験板を作製した。
【0127】
この防汚塗膜付き試験板を、広島県廿日市沖に海水面下約2mの位置に懸垂浸漬して静置状態とした。浸漬開始から12ヵ月後に、試験板の海水常時没水部の防汚塗膜の全面積(試験面)を100%とした場合における、防汚塗膜上の海生生物付着面積を測定し、下記評価基準に基づいて静置防汚性を評価した。
【0128】
(評価基準)
5:海生生物が付着した面積が試験面の1%未満
4:同上面積が試験面の1%以上10%未満
3:同上面積が試験面の10%以上30%未満
2:同上面積が試験面の30%以上70%未満
1:同上面積が試験面の70%以上
【0129】
【0130】
【要約】
【課題】貯蔵安定性に優れる水系防汚塗料組成物を提供する。
【解決手段】合成樹脂(A)と、800以上の重量平均分子量を有するロジン系化合物(B)と、水(C)と、を含有する水系防汚塗料組成物。
【選択図】なし