(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】測定機器、計測システム、計測演算装置、計測演算方法および計測演算プログラム
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20241024BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20241024BHJP
H03M 7/30 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01H17/00 A
H03M7/30 Z
(21)【出願番号】P 2024095461
(22)【出願日】2024-06-12
【審査請求日】2024-07-09
(31)【優先権主張番号】P 2023106425
(32)【優先日】2023-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000145806
【氏名又は名称】株式会社小野測器
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 由幹
(72)【発明者】
【氏名】大▲高▼ 政祥
(72)【発明者】
【氏名】足立 新
(72)【発明者】
【氏名】翁 志強
(72)【発明者】
【氏名】寺島 詳二
(72)【発明者】
【氏名】石畠 宏平
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-115429(JP,A)
【文献】国際公開第2015/105010(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/145215(WO,A1)
【文献】加藤由幹,サブナイキストサンプリングと圧縮センシングを用いたプロペラの故障診断,評価・診断に関するシンポジウム講演論文集,日本機械学会,2022年06月25日,第19巻,セッションID110
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-17/10
G01M 99/00
G01H 17/00
H03M 7/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の回転位置または回転速度の情報を取得する回転情報取得部と、
前記回転位置または回転速度に対応して変化する被測定信号を所定の第1ランダム行列Φに基づいて、前記回転位置または回転速度に同期してランダムに測定する測定部と
を備えたことを特徴とする測定機器。
【請求項2】
回転機械の回転位置または回転速度の情報を取得する回転情報取得部と、前記回転位置または回転速度に対応して変化する被測定信号を所定の第1ランダム行列Φに基づいて、前記回転位置または回転速度に同期してランダムに測定する測定部と、前記ランダムに測定したランダム測定値をベクトル表現したランダム測定ベクトルyと前記第1ランダム行列Φとを計測演算装置に送信する送信部とを備えた測定機器と、
前記ランダム測定ベクトルyを前記測定機器から受信する受信部と、前記ランダム測定ベクトルyを、前記第1ランダム行列Φと基底ベクトル{Ψ
i}を列とするn×nの直交基底行列ψとその係数xとの積Φψxで表現したとき、正則化係数λ0として、式(1)、式(2)で定義した式(3)が最小となるように、直交基底行列ψの係数x={x
i}を推定する推定部と、を有する計測演算装置と、
を通信可能に接続した計測システム。
【数1】
【数2】
【数3】
【請求項3】
回転機械の回転位置または回転速度に対応して変化する被測定信号を、所定の第1ランダム行列Φに基づいて、該回転位置または回転速度に同期してランダムに測定したランダム測定値を測定機器から受信する受信部と、
前記ランダム測定値をベクトル表現したランダム測定ベクトルyを、前記第1ランダム行列Φと基底ベクトル{Ψ
i}を列とするn×nの直交基底行列ψとその係数xとの積Φψxで表現したとき、正則化係数λ0として、式(4)、式(5)で定義した式(6)が最小となるように、直交基底行列ψの係数x={x
i}を推定する推定部と、
を有することを特徴とする計測演算装置。
【数4】
【数5】
【数6】
【請求項4】
前記推定部が係数xを推定する前に、予め、前記ランダム測定ベクトルyおよび任意の第2ランダム行列に基づいて、最も誤差が少ない正則化係数λにおける交差検証の標準偏差以内で最大値になるように、前記正則化係数λ0を事前決定する正則化係数設定部と、
前記第2ランダム行列を、前記第1ランダム行列Φとして前記測定機器に設定させる設定部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の計測演算装置。
【請求項5】
前記第1ランダム行列Φは、前記被測定信号をランダムに間引いたことを示す行列であり、
最も誤差が少ない正則化係数λにおける交差検証の標準偏差以内で最大値になる前記正則化係数λ0を決定する正則化係数設定部をさらに備える
ことを特徴とする請求項3に記載の計測演算装置。
【請求項6】
前記基底ベクトル{Ψ
i}は、前記回転位置を変数とするフーリエ基底ベクトルであり、
前記係数xは、フーリエ係数である
ことを特徴とする請求項3に記載の計測演算装置。
【請求項7】
回転機械の回転位置または回転速度に対応して変化する被測定信号を、所定の第1ランダム行列Φに基づいて、該回転位置または回転速度に同期してランダムに測定したランダム測定値を測定機器から受信する受信過程と、
前記ランダム測定値をベクトル表現したランダム測定ベクトルyを、前記第1ランダム行列Φと基底ベクトル{Ψ
i}を列とするn×nの直交基底行列ψとその係数xとの積Φψxで表現したとき、正則化係数λ0として、式(7)、式(8)で定義した式(9)
が最小となるように、直交基底行列ψの係数x={x
i}を推定する推定過程と、
を有することを特徴とする計測演算方法。
【数7】
【数8】
【数9】
【請求項8】
回転機械の回転位置または回転速度に対応して変化する被測定信号を、所定の第1ランダム行列Φに基づいて、該回転位置または回転速度に同期してランダムに測定したランダム測定値を測定機器から受信する受信過程と、
前記ランダム測定値をベクトル表現したランダム測定ベクトルyを、前記第1ランダム行列Φと基底ベクトル{Ψ
i}を列とするn×nの直交基底行列ψとその係数xとの積Φψxで表現したとき、正則化係数λ0として、式(10)、式(11)で定義した式(12)が最小となるように、
直交基底行列ψの係数x={x
i}を推定する推定過程と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする計測演算プログラム。
【数10】
【数11】
【数12】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定機器、計測システム、計測演算装置、計測演算方法および計測演算プログラムに関し、例えば、回転機械の特性を測定する測定機器に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械は、材料の欠陥、疲労や経年変化などにより必然的に故障する。故障が生じると、機器のダウンタイムにつながり、経済的損失が生まれてしまう。そのため、回転機械の故障診断を行い、健康な状態に保つことが重要となる。回転機械の故障診断は様々なセンシング方法により実施されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、圧縮センシング技術と、計測開始時間をランダムとして一定周波数での計測する手法(Random Start Uniform Sampling Method,以降RSUSM)とを組み合わせた技術が開示されている。圧縮センシング理論は、計測データがある基底(例えば、フーリエ基底)に対してスパース性を有すること、基底がインコヒーレントであること(Random sampling を行うこと)という条件を満たすなら、通常必要とされるよりもはるかに少ない測定データから信号を正確に復元することができる技術である。これにより、非特許文献1の技術では、モニタリングに必要な計測データを削減している。
また、特許文献1には、センサにIDを振り、サーバシステムで集中管理をしつつ、状況に合わせて温度補整や直線性を補整処理する計測データ提供サービスシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】加藤由幹,“サブナイキストサンプリングと圧縮センシングを用いたプロペラの故障診断”,日本機械学会第19回評価・診断に関するシンポジウム,2021年12月2-3日(開催日)
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1で使用している圧縮センシング理論は、計測データがフーリエ基底に対してスパース性を有することが必要である。しかしながら、周波数スペクトルが広がってしまい(つまり、スパース性が低い)、必要な精度で元の信号を復元することができないことがある。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、計測データの削減を図りつつ、元の信号の復元率を高くすることができる測定機器、計測システム、計測演算装置、計測演算方法および計測演算プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決される。
回転機械(回転電機を含む。)の回転位置または回転速度の情報を取得する回転情報取得部と、前記回転位置または回転速度に対応して変化する被測定信号を所定の第1ランダム行列Φに基づいて、前記回転位置または回転速度に同期してランダムに測定する測定部とを備えたことを特徴とする測定機器。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、計測データの削減を図りつつ、元の信号の復元率を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態である計測システムの構成図である。
【
図2】回転速度の高低による被測定信号の差異を説明するための図である。
【
図3B】回転機械の回転位相の時間変化を示す図である。
【
図3C】被測定信号と回転位相との関係を示す図である。
【
図4】本発明の第1実施形態である計測システムの動作を説明するためのフローチャートである。
【
図5】本発明の第1比較例である計測システムの構成図である。
【
図6】第1比較例の計測システムで測定した、正常なプロペラの振動の周波数特性である。
【
図7】本発明の実施形態である計測システムで測定した、正常なプロペラの振動の次数特性である。
【
図8】第1比較例の計測システムで測定した、1本の羽根が半損したプロペラの振動の周波数特性である。
【
図9】本発明の第1実施形態である計測システムで測定した、1本の羽根が半損したプロペラの振動の次数特性である。
【
図10】第1比較例の計測システムで測定した、1本の羽根が全損したプロペラの振動の周波数特性である。
【
図11】本発明の第1実施形態である計測システムで測定した、1本の羽根が全損したプロペラの振動の次数特性である。
【
図12】本発明の第2比較例である計測システムの構成図である。
【
図13】本発明の第2実施形態の計測システムの構成図である。
【
図14】汎用マイクおよび計測用マイクの周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示しているにすぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。また、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素は、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態である計測システムの構成図である。
計測システム100は、回転電機30の特性をセンサ20で計測するものであり、測定機器10と計測演算装置50とが通信可能に接続されて構成されている。回転電機30は、モータ31にプロペラ32が取り付けられた回転機械である。プロペラ32は、複数(例えば、7つ)の羽根32aを有したものが正常品であるが、本実施形態では、その内の1つの羽根が欠損した欠損部32bを有した状態で特性を測定する。モータ31は、プロペラ32を回転させるものであり、例えば、測定機器10から電力供給を受けて駆動する。センサ20は、例えば、マイクであり、風圧を介して、プロペラ32で発生する音圧を検出する。
【0013】
測定機器10は、センサ20が出力する被測定信号s(t)を、回転電機30の回転位置を示す回転位相θに同期して、ランダムにサンプルするものである。測定機器10は、測定部としてのランダム測定部1と、設定部としてのランダム行列設定部2と、回転情報取得部3と、受信部4とを備えて構成される。
ランダム測定部1は、被測定信号s(t)を回転位相θに同期して、第1ランダム行列Φにしたがってランダムにサンプルしたランダム測定値をベクトル表現したランダム測定ベクトルy=Φsの信号を計測演算装置50に出力(送信)する。ここで、第1ランダム行列Φは、被測定信号s(t)を回転位相θに同期した、全ての時系列信号の列(離散測定信号s)をランダムに間引いたことを示す行列Φrと、離散測定信号sの測定開始タイミングをランダムにする計測を複数回行うことを示す行列Φrsuとがある。行列Φrsuは、一度の計測で、一定角周波数ωrsu(ωrsu<<サンプリング角周波数ωs、例えば、2πfrsu=2π×0.3Hz)または一定周波数frsuのMp点(例えば、Mp=27点)のデータを取るものとする。その結果、ランダム測定部1が被測定信号s(t)をサンプルするサンプル数は、離散測定信号sの数よりも減少する。ランダム測定部1は、被測定信号s(t)を回転位相θに同期してサンプルして、全ての時系列信号の列(離散測定信号s)を出力するよりも安価に製作することができる。
【0014】
ランダム行列設定部2は、ランダム測定部1で用いる第1ランダム行列Φを設定するものである。第1ランダム行列Φは、固定であってもよいが、本実施形態では、第2ランダム行列Φ0を初期値として、第2ランダム行列Φ0を更新することにより、第1ランダム行列Φとするものとする。回転情報取得部3は、回転電機30の回転位置を検出し、回転位相θの信号としてランダム測定部1に出力する。受信部4は、ランダム行列設定部2の更新データ(第1ランダム行列Φ)を計測演算装置50から受信する。
【0015】
計測演算装置50は、測定機器10から受信したランダム測定値(ランダム測定ベクトルy=Φs)から離散測定信号sを復元する。つまり、計測演算装置50は、測定機器10から受信した少ないデータ量のデータ(y=Φs)から全データ(離散測定信号s)を復元する。ここで、離散測定信号sは、基底ベクトル{Ψi}を列とするn×nの直交基底行列ψの係数xとしたとき、s=ψxで表現される。ここで、基底ベクトル{Ψi}は、例えば、回転位相θを変数とするフーリエ基底ベクトルである。なお、フーリエ基底ベクトルの1周期は、回転電機30の1回転となる。
【0016】
計測演算装置50は、受信部55と、制御部60と、送信部56とを備えて構成されるPC(Personal Computer)である。受信部55は、測定機器10からランダム測定ベクトルy=Φsのデータを受信する。制御部60は、CPU(Central Processing Unit)を有するコンピュータであり、計測演算プログラムを実行することにより、推定部61と、正則化係数設定部62と、復元部63との機能を実現する。
【0017】
推定部61は、計測演算装置50が受信したランダム測定ベクトルy=Φsを用いて、n×nの直交基底行列ψの係数xを推定する。具体的には、LASSO(Least Absolute Shrinkage and Selection Operator)の手法を用い、正則化係数λ0としたとき、以下の式(1)が最小となるように、係数x={x
i}を推定する。
【数1】
【0018】
ここで、以下の式(2)、式(3)にて、数式内のノルムを定義している。
【数2】
【数3】
【0019】
Σ|xi|は、i=1~Nまでxiの絶対値を加算することを意味し、
Σ|xi|2は、i=1~Nまでxiの絶対値の2乗を加算することを意味する。
なお、ランダム測定ベクトルyから第1ランダム行列Φとn×nの直交基底行列ψとその係数xとの積Φψxを減算した(y-Φψx)は、誤差を表現している。
【0020】
正則化係数設定部62は、n×nの直交基底行列ψの係数xを推定する前に、予め、正則化係数λ0の値を、最も誤差が少ない正則化係数λにおける交差検証の標準偏差以内で最大値になるように設定する。このとき、第1ランダム行列Φは、測定機器10のランダム行列設定部2に格納している初期値(第2ランダム行列Φ0)を用いるが、適宜、変更しても構わない。
【0021】
復元部63は、n×nの直交基底行列ψと、推定部61で推定した係数x={xi}とを乗算して、離散測定信号s=ψxを復元する。つまり、復元部63は、ランダムにサンプルしたランダム測定ベクトルy=Φsを用いて、離散測定信号sの全体を復元することができる。
【0022】
送信部56は、正則化係数設定部62で正則化係数λ0の値を決定するときに、第2ランダム行列Φ0を用いることなく、変更したときには、変更した第1ランダム行列Φを測定機器10に送信する。これにより、測定機器10のランダム行列設定部2の値が第2ランダム行列Φ0から第1ランダム行列Φに更新される。
【0023】
図2は、回転速度の高低による被測定信号s(t)のサンプル数の差異を説明するための図である。
横軸が時間tであり、下図の縦軸が被測定信号s(t)である。被測定信号s(t)は、正弦波信号であって、時刻0~t1の1周期目が高回転速度であり、時刻t1~t2までの2周期目が低回転速度であるとする。下図では、回転位相に同期して被測定信号s(t)をサンプルした点を白丸(○)で示している。例えば、
図2の下図では、回転位相の40°毎に白丸(○)を付している。また、上図の横線上には、同一タイミングの縦線を記している。高回転速度領域Aであっても、低回転速度領域Bであっても、1周期当りのサンプル数は等しい。
【0024】
なお、1回転当りを1周期として1回発生する現象を回転1次成分、そのn倍を回転n次成分と定義し、X軸を次数にとりY軸を次数成分の振動騒音の大きさとして表して行う分析を「回転次数比分析」という
【0025】
図3Aは、被測定信号の時間変化を示す図である。横軸は時間tであり、縦軸は被測定信号s(t)である。また、
図3Bは、回転機械(回転電機30)の回転位相の時間変化を示す図である。
横軸は時間tであり、縦軸は回転位相θ(t)である。ここでは、被測定信号s(t)は、周波数が徐々に高くなる正弦波信号であるとする。被測定信号s(t)および回転位相θ(t)の複数の測定点a,b,c,dに黒丸(●)を付している。
【0026】
図3Bにおいて、時間t=0で回転位相θ(0)=0であり、回転位相θ(t)は、時間経過(測定点a→b→c→d)と共に単調増加する。例えば、b点(
図3A)では、3周期目の手前なので(360×4)°よりも少ない回転位相になっている。c点(
図3A)では、5周期目の手前なので(360×4)°よりも多い回転位相になっている。d点(
図3A)では、6周期後であり、(360×4)°と(360×8)°との間の回転位相になっている。
【0027】
図3Cは、被測定信号と回転位相との関係を示す図である。
横軸は、回転位相θであり、縦軸は、被測定信号s(θ)である。
c-d間では、時間T1(
図3A)が短いが回転位相幅Θ1は長く表現される。言い換えれば、
図3Cのように、回転位相θを変数にすれば、回転電機30の回転速度が変化するものであっても、被測定信号s(θ)は、正弦波として評価することができる。
【0028】
図4は、本発明の実施形態である計測システムの動作を説明するためのフローチャートである。このフローは、測定対象を変更したときの最初に起動する。これにより、計測演算装置50は、パラメータ(正則化係数λや第1ランダム行列Φ)を事前決定し、測定を開始する。また、ランダム行列設定部2には、予めランダム行列Φ=Φ0が設定(格納)されている。
【0029】
測定機器10は、一定時間、センサ20から被測定信号s(t)を事前取得する(ステップS1)。また、測定機器10は、回転電機30から回転位相θ(t)の信号を受信している。これにより、測定機器10は、離散測定信号sを取得する。測定機器10は、事前にサンプル取得した離散測定信号sを用いて、ランダム測定ベクトルy=Φsを演算する(ステップS2)。ステップS2の処理後、測定機器10は、ランダム測定ベクトルyを計測演算装置50に送信する(ステップS3)。計測演算装置50は、ランダム測定ベクトルyを受信し(ステップS4)、正則化係数λ=λ0を最も誤差が少ないλにおける交差検証の標準偏差以内で最大値になるように決定する(ステップS5)。このとき、正則化係数設定部62(
図1)は、ランダム行列Φ=Φ0を使用するが、第1ランダム行列Φを適宜修正してから、正則化係数λ0を決定しても構わない。
【0030】
ステップS5の処理後、計測演算装置50は、適宜修正された第1ランダム行列Φを測定機器10に設定させるために、修正された第1ランダム行列Φを送信する(ステップS6)。測定機器10は、第1ランダム行列Φを受信し、ランダム行列設定部2に設定されている第2ランダム行列Φ0を受信した第1ランダム行列Φに再設定する(ステップS7)。これにより、測定機器10は、測定開始の準備が完了する。
【0031】
測定機器10は、センサ20から被測定信号s(t)をランダムに取得する(ステップS8)。このとき、ランダム行列設定部2には、S7で再設定された第1ランダム行列Φが格納されている。また、測定機器10は、回転電機30から回転位相θ(t)の信号を受信している。ステップS8の実行中に、測定機器10は、ランダムに取得した被測定信号s(t)を用いて、ランダム測定ベクトルy=Φsを演算する(ステップS9)。ステップS9の処理後、測定機器10は、ランダム測定ベクトルyを計測演算装置50に送信する(ステップS10)。計測演算装置50は、ランダム測定ベクトルyを受信し(ステップS11)、LASSOの手法を用いて、n×nの直交基底行列ψの係数x={xi}を決定する(ステップS12)。ステップS12の処理後、計測演算装置50は、離散測定信号s=ψxを復元する。
【0032】
図5は、本発明の第1比較例である計測システムの構成図である。
計測システム101は、測定機器11と計測演算装置51とが通信可能に接続されて構成されている。測定機器11は、センサ20の被測定信号s(t)を所定のサンプリング時間で逐次測定し、離散測定信号sを出力する逐次測定部5を備えている。つまり、測定機器11は、前記実施形態の測定機器10に比較して、ランダムにサンプリングしていない点と、回転電機30から回転位相θ(t)に同期していない点との双方で相違する。
【0033】
計測演算装置51は、受信部55と、x演算部64と、復元部65とを備えて構成される。受信部55は、測定機器11から離散測定信号sを受信する。x演算部64は、フーリエ基底ベクトルψfの係数(フーリエ係数xf)を演算する。ここで、フーリエ基底ベクトルψfの変数は、時間である。つまり、x演算部64は、離散測定信号sを離散フーリエ変換する。復元部65は、フーリエ基底ベクトルψfとフーリエ係数xfを用いて、離散測定信号s=ψf・xfを復元する。
【0034】
また、測定機器11が被測定信号s(t)を所定のサンプリング時間毎に逐次取得している。そのため、計測演算装置51では、高速フーリエ変換可能であるが、前記実施形態では、被測定信号s(t)をランダムサンプリングしており、離散フーリエ変換することができない。しかしながら、前記実施形態の計測演算装置50では、LASSO(Least Absolute Shrinkage and Selection Operator)によるL1正則化を解くことによって、n×nの直交基底行列ψの係数xをスパースにしている。
【0035】
図6は、第1比較例の計測システム101で測定した、正常なプロペラの振動の周波数特性である。つまり、プロペラ32は、欠損部32b(
図1)が無く、正常な7つの羽根32aで構成されている。横軸は、周波数[Hz]であり、縦軸は、フーリエ係数xfである。
プロペラ32の回転周波数fpは、fp=40Hzとしている。つまり、プロペラ32の羽根32aが7枚であるので、プロペラ通過周波数fppはfpp=7×fp=280Hzである。
40Hz及び280Hz程度でピークが見られる。280Hz程度のピークでは、スペクトルが広い。
【0036】
図7は、前記第1実施形態である計測システム100で測定した、正常なプロペラの振動の次数特性である。横軸は、フーリエ基底ベクトルψfの次数であり、縦軸は、その係数xである。
プロペラ32の羽根32aが7枚であるので、1次,2次,3次,4次,5次,6次の成分に比較して、7次の成分が特に高くなっている。また、各次数で急峻に立ち上がっており、スパース性が高いと評価することができる。
【0037】
図8は、第1比較例の計測システム101で測定した、1本の羽根が半損したプロペラの振動の周波数特性である。
図6と同様に、横軸は、周波数[Hz]であり、縦軸は、フーリエ係数xfである。
1本の羽根が半損しているので、基本波である回転周波数fp=40Hzのピークが
図6(正常なプロペラ)よりも高くなっている。また、2倍,3倍の高調波成分が出ており、7倍の高調波成分(280Hz)も僅かに出ている。しかしながら、7倍の高調波成分は、スペクトルが広くなっている。
【0038】
図9は、前記第1実施形態である計測システム100で測定した、1本の羽根が半損したプロペラの振動の次数特性である。
図7と同様に、横軸は、n×nの直交基底行列ψ(フーリエ基底)の次数であり、縦軸は、その係数xである。
1次の成分が高く、2次、3次等も出ている。また、7次の成分も一定程度出ている。また、各次数のスペクトルが狭く、スパース性が高い。
【0039】
図10は、第1比較例の計測システム101で測定した、1本の羽根が全損したプロペラの振動の周波数特性である。
図6,8と同様に、横軸は、周波数f[Hz]であり、縦軸は、フーリエ係数xfである。1本の羽根が全損しているので、基本波である回転周波数fp=40Hzのピークが
図8(半損)よりも高くなっている。また、2倍,3倍の高調波成分が出ており、7倍の高調波成分(280Hz)が
図8よりも多く出ている。なお、7倍の高調波成分のスペクトルは、
図8と同程度に広い。
【0040】
図11は、本発明の第1実施形態である計測システム100で測定した、1本の羽根が全損したプロペラの振動の次数特性である。
図7,9と同様に、横軸は、フーリエ基底ベクトルψfの次数であり、縦軸は、その係数xである。
図9と同様に、7次を含めて、1次、2次、3次等の成分が出ている。これらのピーク値は、
図9よりも高くなっている。また、各次数のスペクトルが狭く、スパース性が高い。
【0041】
(第2比較例)
図12は、本発明の第2比較例である計測システムの構成図である。
計測システム102は、測定機器12と計測演算装置52とを通信可能に接続されて構成されている。測定機器12は、回転電機30の回転位相θの信号に同期して被測定信号s(t)を測定する同期測定部6を備える。言い換えれば、同期測定部6は、所定の等位相間隔で被測定信号s(t)をサンプリングする。つまり、同期測定部6は、被測定信号s(t)をランダムにサンプルしない点で、前記実施形態のランダム測定部1(
図1)と相違する。計測演算装置52は、受信部55と、x演算部67と、復元部68とを備えて構成される。
【0042】
受信部55は、同期測定部6が出力する離散測定信号sを受信する。x演算部67は、フーリエ基底ベクトルψfのフーリエ係数xfを演算する。ここで、フーリエ基底ベクトルψfは、回転位相θを変数としている。復元部68は、フーリエ基底ベクトルψfとフーリエ係数xfを用いて、離散時間信号s=ψf・xfを復元する。
【0043】
本比較例の計測システム102によれば、測定機器12は、被測定信号s(t)を回転位相θの信号に同期してサンプルするので、回転電機30の回転速度が速くても遅くても、1周期当りのサンプル数が等しくなる。また、計測演算装置52は、等位相間隔の離散測定信号sを受信するので、前記比較例1の計測演算装置51(
図5)と同様に、フーリエ係数xfを演算することができる。
【0044】
また、本比較例の測定機器12では、被測定信号s(t)を等位相間隔でサンプリングしているので、データサンプル数が多い。これに対して、前記実施形態の測定機器10によれば、被測定信号s(t)をランダムサンプリングしているので、データサンプル数が少ない。
【0045】
(第2実施形態)
前記第1実施形態では、センサ20は、マイクの種類を選定しなかった。本実施形態では、ランダム測定部1で使用するセンサ(汎用センサ21(
図13))を計測用マイクよりも簡易、小形なMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)製の汎用マイクとする。
【0046】
図13は、本発明の第2実施形態の計測システムの構成図である。
計測システム103は、前記実施形態の計測システム100と同様に、測定機器10と計測演算装置53とを備えて構成される。但し、測定機器10のランダム測定部1は、センサ20(
図1)の代わりに、汎用センサ21を接続する。汎用センサ21は、例えば、MEMS製の汎用センサであり、センサ20として計測用センサを使用したときに比較して、周波数の感度が悪い。
【0047】
図14は、汎用マイクおよび計測用マイクの周波数特性を示す図である。
横軸は、周波数[Hz]であり、縦軸は、デシベルである。実線は、計測用マイクを示し、破線は、MEMS製の汎用マイクを示す。実線および破線は、基準周波数1kHzで0デシベルである。計測用マイクは、20Hz程度から20kHz程度までフラットな周波数特性を維持する。これに対して、MEMS製の汎用マイクは、20Hzから200Hz程度の低い周波数で出力が低下する。
【0048】
計測演算装置53は、周波数補正器69を備える点で、計測演算装置50(
図1)と相違する。周波数補正器69は、受信部55で受信したランダム測定ベクトルyの周波数特性を補正する。具体的には、周波数補正器69は、20Hz~200Hz程度の低い周波数でゲインを高め、汎用センサ21と併せた周波数特性を計測用センサと同程度にする。
【0049】
(変形例)
本発明は、前記各実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変形実施が可能であり、例えば、次のようなものがある。
(1)前記各実施形態の計測システム100(
図1)では、測定機器10と計測演算装置50とを通信可能に接続していたが、一体構成としても構わない。このときには、ランダム測定部1は、シリアルデータであるランダム測定ベクトルyを受信部55に出力し、受信部55は、シリアルデータであるランダム測定ベクトルyを入力する。
【0050】
(2)前記実施形態では、LASSOの手法を用いたが、貪欲法や凸最適化に基づく手法,確率伝播法に基づく手法などさまざまな計算効率の高いアルゴリズムを用いて解くことができる。
【0051】
(3)前記実施形態の測定機器10では、回転電機30の回転位置を示す回転位相θの信号に同期してランダムサンプリングしていたが、回転速度であっても、アンラップ処理をして積分処理を行うと回転位置を算出することができる。つまり、回転情報取得部3が回転電機30の回転位置または回転速度の情報を取得し、測定機器10は、回転電機30の回転位置または回転速度の情報に同期して、ランダムサンプリングを行う。
【0052】
(3)前記実施形態において、予め、被測定信号s(t)を回転位相θに同期させつつ、等位相間隔で取得し、取得した離散測定信号sを離散フーリエ変換し、フーリエ係数fk={fki}と推定部61が推定した係数x={xi}との差分を演算し、その二乗和(パワーの差分)が所定範囲内であることを事前確認することが好ましい。事前確認した上で、正則化係数設定部62が正則化係数λ0を設定することが好ましい。これに限らず、係数x={xi}の二乗和の第1パワーを演算すると共に、フーリエ係数xf={xfi}の二乗和の第2パワーを演算し、第1パワーと第2パワーとの差分を演算してもよい。このときパワーの差分の事前確認は、計測用センサを使用し、被測定信号s(t)のランダムサンプリングでは、簡易・小形な汎用センサを用いても構わない。
【0053】
(4)前記各実施形態では、モータ31にプロペラ32が取り付けた回転電機30の音圧を測定対象にしたが、ベアリング等の回転機械(回転電機を含む。)の振動や音圧を測定対象にすることもできる。
【符号の説明】
【0054】
1 ランダム測定部(測定部)
2 ランダム行列設定部(設定部)
3 回転情報取得部
4 受信部
10,11,12 測定機器
20 センサ(計測用センサ)
21 汎用センサ
30 回転電機(回転機械)
50,51,52,53 計測演算装置
56 送信部(設定部)
60 制御部(コンピュータ)
61 推定部
62 正則化係数設定部
63,65,68 復元部
69 周波数補正器
100,101,102,103 計測システム
s(t),s(θ) 被測定信号
s 離散測定信号
θ 回転位相(回転位置)
y ランダム測定ベクトル
Φ 第1ランダム行列
Φ0 第2ランダム行列
λ 正則化係数
x 係数
ψ 直交基底行列
【要約】
【課題】計測データの削減を図りつつ、元の信号の復元率を高くする。
【解決手段】回転電機30の回転位相θの情報に対応して変化する被測定信号s(t)を第1ランダム行列Φに基づいて、回転位置に同期してランダムに測定するランダム測定部1と、ランダムに測定したランダム測定値をベクトル表現したランダム測定ベクトルyと第1ランダム行列Φとを計測演算装置50に送信する測定機器10と、LASSOの手法を用いて、ランダム測定ベクトルyを基底ベクトル{Ψ
i}を列とするn×nの直交基底行列ψの係数x={x
i}を推定する推定部61と、を有する計測演算装置50と、を通信可能に接続した。
【選択図】
図1