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特許7576741リチウムイオン二次電池用正極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20241025BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241025BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241025BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/70 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020141742
(22)【出願日】2020-08-25
(65)【公開番号】P2022037549
(43)【公開日】2022-03-09
【審査請求日】2023-02-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】トヨタバッテリー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】出口 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】坂井 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】内山 翔太
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-131123(JP,A)
【文献】特開2012-209161(JP,A)
【文献】特開2014-177722(JP,A)
【文献】国際公開第2012/114502(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/180742(WO,A1)
【文献】特開2018-200804(JP,A)
【文献】特開2016-058309(JP,A)
【文献】特開2007-280687(JP,A)
【文献】特開2018-160418(JP,A)
【文献】特開2018-206537(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057527(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/160391(WO,A1)
【文献】特開2013-077476(JP,A)
【文献】特開2011-108522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-4/62
H01M 4/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、当該正極集電体上に形成された正極合材層とを備えるリチウムイオン二次電池用正極の製造方法であって、
正極活物質と導電材と溶媒とを少なくとも含む正極ペーストを準備する工程と、
前記正極ペーストを前記正極集電体上に塗工する工程と、
前記塗工された前記正極ペーストを乾燥させて前記正極集電体上に前記正極合材層を形成する工程と、を備え、
前記正極ペーストに含まれる前記導電材は、アスペクト比が100以上200以下カーボンナノチューブであり、
前記導電材は表面に官能基を有し、
前記導電材に含まれる前記官能基の量が1質量%以上5質量%以下であり、
前記正極ペーストの粘度は、500010000mPa・sであり、
前記正極ペーストを乾燥させた後、プレス工程を備えないことを特徴とする、
リチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項2】
前記導電材同士が水素結合により互いに結合している、請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項3】
前記正極合材層の空隙率が50%以上70%以下である、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項4】
前記正極集電体の前記正極合材層側の表面に凹凸が形成されている、請求項1~のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項5】
前記正極集電体と前記正極合材層との間に第2の正極合材層を形成する工程を更に備え、
前記第2の正極合材層に含まれる導電材の量が前記正極合材層に含まれる導電材の量よりも多い、
請求項1~のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極、及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出する正極および負極の間を、電解質中のリチウムイオンが移動することで充放電可能な二次電池である。
【0003】
特許文献1には、圧延工程を省略もしくは簡略化することができるリチウムイオン二次電池用電極の製造方法に関する技術が開示されている。特許文献1に開示されている技術では、高分子化合物成分が粒子表面に化学共有結合した負極活物質粉体や正極用導電剤粉体を用いることで、圧延工程を省略もしくは簡略化することを可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-100360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオン二次電池の正極は、正極集電体と、当該正極集電体上に形成された正極合材層とを備える。正極合材層は、正極活物質と導電材とを含んでおり、導電材を用いて正極合材層中に導電パスを形成している。
【0006】
ここで、正極合材層中に十分な導電パスを形成するためには、プレス工程を用いて正極合材層の密度を高くする必要がある。一方で、プレス工程を用いて正極合材層の密度を高くすると正極合材層の空隙率が減少するため、リチウムイオン二次電池の出力が低下するという問題がある。
【0007】
上記課題に鑑み本発明の目的は、正極合材層中に十分な導電パスを形成するとともに、正極合材層の空隙率を高めることが可能なリチウムイオン二次電池用正極の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極、及びリチウムイオン二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様にかかるリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、正極集電体と、当該正極集電体上に形成された正極合材層とを備えるリチウムイオン二次電池用正極の製造方法であって、正極活物質と導電材と溶媒とを少なくとも含む正極ペーストを準備する工程と、前記正極ペーストを前記正極集電体上に塗工する工程と、前記塗工された前記正極ペーストを乾燥させて前記正極集電体上に前記正極合材層を形成する工程と、を備える。前記正極ペーストに含まれる前記導電材は、アスペクト比が80以上の導電材であり、前記正極ペーストを乾燥させた後、プレス工程を備えないことを特徴としている。
【0009】
本発明の一態様にかかるリチウムイオン二次電池用正極は、正極集電体と、前記正極集電体上に形成された正極合材層と、を備え、前記正極合材層は、正極活物質と導電材とを少なくとも含み、前記導電材のアスペクト比が80以上であることを特徴としている。
【0010】
本発明の一態様にかかるリチウムイオン二次電池は、上述のリチウムイオン二次電池用正極を有するリチウムイオン二次電池である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、正極合材層中に十分な導電パスを形成するとともに、正極合材層の空隙率を高めることが可能なリチウムイオン二次電池用正極の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極、及びリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極の構成例を説明するための断面図である。
図2】実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極が備える正極合材層の詳細を説明するための模式図である。
図3】実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図4】実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極の他の構成例を説明するための断面図である。
図5】正極合材層の空隙率と抵抗値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極の構成例を説明するための断面図である。図2は、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極が備える正極合材層の詳細を説明するための模式図である。図1に示すように、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極1は、正極集電体10と、正極集電体10上に形成された正極合材層11と、を備える。
【0014】
正極集電体10は、金属箔や金属板で構成されている。正極集電体10には、例えば、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。
【0015】
図2に示すように、正極合材層11は、正極活物質15と導電材16とを少なくとも含む。
【0016】
正極活物質15は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であり、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、アルミ酸リチウム(LiAlO)等を用いることができる。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、アルミ酸リチウム(LiAlO)を任意の割合で混合したNCA系の材料を用いてもよい。一例を挙げると、LiNi0.8Co0.15Al0.05を用いることができる。また、LiCoO、LiMn、LiNiOを任意の割合で混合した材料を用いてもよい。例えば、これらの材料を等しい割合で混合したニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)を用いてもよい。
【0017】
正極活物質の粒径は、例えば3~15μmである。なお、本発明において各々の材料の粒径はメジアン径D50であり、レーザー回折・散乱法を用いて測定した値である。また、正極活物質はこれらの材料に限定されることはなく、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であればどのような材料であってもよい。
【0018】
導電材16は、正極合材層11中に導電パスを形成するための材料であり、アスペクト比が80以上になるように調整する。また、本実施の形態では、導電材16のアスペクト比を100以上にするのが好ましい。また、アスペクト比が1000を超えると、ペースト状にしたとき分散しないため好ましくない。図2に示すように、本実施の形態にかかる正極では、正極活物質15の表面の一部を導電材16が被覆している。
なお、ここでいうアスペクト比は、正極合剤層を塗工・乾燥後のアスペクト比であり、正極ペーストで溶媒に分散させる際に導電材が切断されてしまう場合もあるので、その場合は、それも考慮し、導電材を選定する。
【0019】
また、導電材16は表面に官能基を有していてもよい。導電材16に含まれる官能基の量は、導電材16の質量に対して0.1質量%以上30質量%以下、好ましくは1質量%以上5質量%以下としてもよい。
【0020】
導電材16の表面に官能基を有する場合は、導電材16表面の官能基同士が各々引き合い、導電材16同士が互いに電気的に接続する(図2の符号18参照)。よって、正極合材層11中に導電パスを効率的に形成することができる。すなわち、導電材16の表面に官能基を有する場合は、後述の塗工工程(図3のステップS2参照)において塗工直後の流動性のある状態で、正極ペースト中の導電材16同士(導電材16と正極活物質15でもよい)が水素結合等の弱い結合により接触し、緻密な導電ネットワーク(導電パス)が形成される。
【0021】
官能基としては、例えばO-C=O、O=C-N、O-H等の酸素を含む官能基が好ましい。酸素は電気陰性度が高いため、導電材の官能基と水素結合を形成しやすい。このため、導電材16同士(導電材16と正極活物質15でもよい)が水素結合により互いに結合する。
【0022】
導電材13には、例えばカーボンナノチューブを用いることができる。導電材16の表面に官能基を形成する場合は、酸処理や塩基処理等を施してもよい。
【0023】
本実施の形態において、正極活物質15に対する導電材16の量は、0.1質量%以上10質量%以下、好ましくは0.1質量%以上2質量%以下とすることができる。
【0024】
正極合材層11は更に、分散剤、及びバインダーを含んでいてもよい。
【0025】
分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリアルキレンポリアミン、ベンゾイミダゾールなどが挙げられる。
【0026】
バインダー14には、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等を用いることができる。
【0027】
本実施の形態において、正極合材層11の密度は1.2~2.4g/cmとすることが好ましい。また、正極合材層11の空隙率は、50%以上70%以下とすることが好ましい。正極合材層11の膜厚は、20~150μmとすることが好ましい。
【0028】
次に、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極の製造方法について説明する。図3は、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0029】
リチウムイオン二次電池用正極を製造する際は、まず正極ペーストを準備する(ステップS1)。具体的には、正極活物質と導電材と溶媒とを少なくとも含む正極ペーストを準備する。正極活物質および導電材には上述した材料を用いることができる。溶媒には、例えばイソプロピルアルコール、N-メチルピロリドン、水等を用いることができる。正極ペーストには更に、分散剤、及びバインダーを含めてもよい。分散剤、及びバインダーには上述した材料を用いることができる。本実施の形態では、正極ペーストに含まれる導電材のアスペクト比を80以上としている。
【0030】
次に、ステップS1で準備した正極ペーストを正極集電体10上に塗工する(ステップS2)。正極集電体10には、上述した材料を用いることができる。なお、正極ペーストの粘度は、500~30000mpsとすることが好ましい。正極ペーストの粘度が低すぎると、正極ペーストを正極集電体10上に塗工する際に塗工しづらくなるからである。また、正極ペーストの粘度が高すぎると、正極ペーストを正極集電体10上に塗工した際に、正極ペースト中における導電材の流動性が悪くなり、導電パスの形成が妨げられるからである。
【0031】
その後、正極集電体10上に塗工された正極ペーストを乾燥させて正極集電体10上に正極合材層11を形成する(ステップS3)。このときの乾燥温度は、100℃~200℃とする。このような工程により、図1に示したようなリチウムイオン二次電池用正極1を製造することができる。本実施の形態では、製造された正極の正極合材層の空隙率が50%以上70%以下とすることが好ましい。正極合材層11の空隙率は、正極ペーストに使用する材料、ステップS3において正極ペーストを乾燥させる際の乾燥スピード等を変更することで調整することができる。
【0032】
本実施の形態では、ステップS3において正極ペーストを乾燥させた後、プレス工程を備えないことを特徴としている。本発明においてプレス工程とは、正極合材層に外力を加えて正極合材層を圧縮する工程であり、正極合材層の空隙率を5%以上減少させる工程である。換言すると、正極合材層に外力を加えた場合であっても、正極合材層の空隙率の減少幅が5%未満であれば、本発明のプレス工程に含まれないものとする。例えば、正極合材層を形成した後、正極合材層の形状を整えるために正極合材層に外力を加える工程(正極合材層の空隙率の減少幅が5%未満)は、プレス工程に含まれないものとする。
【0033】
上述のように、本実施の形態にかかる発明では、正極合材層11に含まれる導電材16に、アスペクト比が80以上の導電材を用いている。このようにアスペクト比が80以上の導電材を用いた場合は、正極合材層11中に緻密な導電ネットワーク(導電パス)を形成することができる(図2参照)。
【0034】
一方で、このような導電パスは、アスペクト比が80以上の導電材を使用した場合、プレス工程により正極合材層に外力が加わると切れてしまい、正極合材層の電子抵抗が増大することは、本発明者らの研究で分かった。これは、流動的なペーストの状態だと、導電材間、導電材-活物質間の接触状態が良好な状態になり、プレスすることで、良好な状態が崩れるからだと考えられる。このため、本実施の形態にかかる発明では、ステップS3において正極ペーストを乾燥させた後、正極合材層をプレス加工するプレス工程を省略している。このようにプレス工程を省略することで、正極合材層中の導電ネットワーク(導電パス)が切れることを抑制することができ、正極合材層中の導電パスを緻密な状態とすることができる。したがって、正極合材層中における電子伝導性を良好にすることができる。よって、リチウムイオン二次電池用正極の抵抗の増加を抑制することができる。換言すると、リチウムイオン二次電池の内部抵抗の増加を抑制することができる。
【0035】
なお、プレス工程を経ると正極活物質と導電材の接点が離れてしまうことにより正極合材層の電子抵抗が上昇するが、更に正極合材層をプレスして正極合材層の密度を上げていくと、正極活物質と導電材の接点が徐々に増えて、正極合材層の電子抵抗が減少する。しかし、この場合でも、プレス工程を省略した場合の正極合材層の電子抵抗の低さには及ばない。なお、アスペクト比が80よりも短い導電材を使用した場合、プレスしないときの抵抗は、プレスしたときの抵抗よりも高くなるため、上記したような現象は、アスペクト比が80以上の導電材特有のものであると考える。
【0036】
また、本実施の形態にかかる発明では、正極合材層をプレス加工するプレス工程を省略しているので、正極合材層の空隙率を高くすることができる。したがって、リチウムイオン二次電池の出力を高めることができる。
【0037】
以上で説明したように、本実施の形態にかかる発明では、正極合材層に含まれる導電材に、アスペクト比が80以上の導電材を用いるとともに、正極合材層をプレス加工するプレス工程を省略している。したがって、正極合材層中に十分な導電パスを形成するとともに、正極合材層の空隙率を高めることができる。
【0038】
また、本実施の形態にかかる発明では、正極合材層をプレス加工するプレス工程を省略することができるので、リチウムイオン二次電池用正極の製造工程を簡略化することができる。
【0039】
次に、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極の他の構成例について説明する。上述のように、正極合材層11をプレス加工するプレス工程を省略した場合は、正極集電体10と正極合材層11との間の抵抗が増加する恐れがある。このような場合は、正極集電体10と正極合材層11との間に導電パスを形成して抵抗を低減することが好ましい。
【0040】
正極集電体10と正極合材層11との間に導電パスを形成する方法としては、例えば正極集電体10の正極合材層11側の表面に凹凸を形成する方法が挙げられる。このように正極集電体10の表面に凹凸を形成した場合は、正極集電体10と正極合材層11との間の接触面積が増えるので、正極集電体10と正極合材層11との間の抵抗を低減させることができる。具体的には、正極集電体10の表面粗度は、100nm以上が好ましい。
なお、表面の凹凸は、サンドペーパ等で物理的に荒らしたり、圧延するときのプレスロールの表面粗度を大きくしたりして、形成することができる。
【0041】
また、図4に示すリチウムイオン二次電池用正極2のように、正極合材層20を第1の正極合材層11(図1の正極合材層11に対応)と第2の正極合材層21の2層構成としてもよい。すなわち、正極集電体10と第1の正極合材層11との間に第2の正極合材層21を形成してもよい。この場合、第2の正極合材層21に含まれる導電材の量を、第1の正極合材層11に含まれる導電材の量よりも多くしてもよい。このように、正極集電体10と接する側の第2の正極合材層21の導電材の量を多くした場合は、第2の正極合材層21と正極集電体10との間の抵抗を低減させることができ、結果として、正極集電体10と正極合材層20との間の抵抗を低減させることができる。一例を挙げると、第2の正極合材層21中に占める導電材の割合を10%以上とし、第1の正極合材層11中に占める導電材の割合を10%未満としてもよい。
【0042】
また、第2の正極合材層21の導電材として、第1の正極合材層11の導電材と異なる材料を用いてもよい。例えば、第2の正極合材層21の導電材として、アセチレンブラック(AB)や黒鉛系の材料を用いてもよい。
【0043】
また、図4に示すリチウムイオン二次電池用正極2を製造する際、正極ペーストを正極集電体10上に塗工して乾燥させて第2の正極合材層21を形成した後、第2の正極合材層21をプレスしてもよい。このように第2の正極合材層21をプレスすることで、第2の正極合材層21の密度を高くすることができ導電性を向上させることができる。また、正極集電体10と第2の正極合材層21との間の抵抗を低くすることができる。その後、第2の正極合材層21の上に第1の正極合材層11を上記の方法(プレス工程なし)を用いて形成する。すなわち、図4に示すリチウムイオン二次電池用正極2を製造する際、第2の正極合材層21のみをプレス加工し、第1の正極合材層11はプレス加工しないようにしてもよい。
【0044】
次に、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池について説明する。
以下では一例として、捲回電極体を備えるリチウムイオン二次電池について説明する。捲回電極体は、長尺状の正極シート(正極)と長尺状の負極シート(負極)とを長尺状のセパレータを介して積層し、この積層体を捲回し、得られた捲回体を側面方向から押しつぶすことで形成する。正極シートには、上述したリチウムイオン二次電池用正極を用いることができる。負極シートも正極シートと同様に、箔状の負極集電体の両面に負極活物質を含む負極合材層が形成された負極を用いることができる。
【0045】
リチウムイオン二次電池の容器は、上端が開放された扁平な直方体状の容器本体と、その開口部を塞ぐ蓋体とを備える。容器を構成する材料としては、アルミニウム、スチール等の金属材料が好ましい。または、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリイミド樹脂等の樹脂材料を成形した容器であってもよい。容器の上面(つまり、蓋体)には、捲回電極体の正極と電気的に接続される正極端子および捲回電極体の負極と電気的に接続される負極端子が設けられている。
【0046】
そして、捲回電極体の両端部の正極シートおよび負極シートが露出した部分(正極合材層および負極合材層がない部分)に、正極リード端子および負極リード端子をそれぞれ設け、上述の正極端子および負極端子とそれぞれ電気的に接続する。このようにして作製した捲回電極体を容器本体に収容し、蓋体を用いて容器本体の開口部を封止する。その後、蓋体に設けられた注液孔から電解液を注液し、注液孔を封止キャップで閉塞することにより、リチウムイオン二次電池を作製することができる。
【実施例
【0047】
次に本発明の実施例について説明する。
下記の方法を用いて、実施例および比較例にかかるサンプルを作製した。
【0048】
<実施例>
図3に示したフローを用いて、実施例にかかるサンプルを作製した。まず、正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3を、導電材としてカーボンナノチューブを、バインダーとしてPVdFを、溶媒としてNMPを、それぞれ準備した。このとき使用した正極活物質の粒径(D50)は5~10μmであった。また、使用した導電材(カーボンナノチューブ)は、ペーストの状態で平均外径が10~20nm、アスペクト比が100~200であった。また、導電材の表面には1~2%の官能基(O-C=O、O=C-N、O-Hの合計)が存在していた。
【0049】
そして、これらの原料を混合して正極ペーストを準備した。このときの混合比は、正極活物質を55~60質量%、導電材を0.1~3質量%、分散剤を0.01~1質量%、バインダーを0.3~2質量%、溶媒を30~45質量%とした。また、正極ペーストの粘度は、5000~10000mpsの間となるように調整した。なお、正極ペーストの粘度は、レオメータ(アントンパール社製MCR-302、コーンプレートCP-50-1)を使用し、25℃、せん断速度10-2-1~103-1の条件で測定した。
【0050】
その後、準備した正極ペーストを正極集電体であるアルミニウム箔に塗工した。そして、正極ペーストを乾燥温度120℃の条件で2分間乾燥させて正極集電体上に正極合材層を形成した。このときの正極合材層の厚さは35~40μmであった。
【0051】
<比較例>
上述の実施例と同様に図3に示したフローを用いて正極集電体上に正極合材層を形成した後、更に正極合材層をプレス加工することで比較例1~4にかかるサンプルを作製した。比較例1~4にかかるサンプルのプレス条件はそれぞれ、1.8、2.0、2.4、2.8g/ccとした。
【0052】
<サンプルの評価>
各々のサンプルの正極合材層の空隙率を測定した。具体的には、各材料の比重と組成比から材料自体の体積を算出し、実際の正極合剤層の体積から引くことで、空隙の体積を算出する。そして、空隙の体積を実際の正極合剤層の体積で割ることで、空隙率を算出した。
【0053】
また、各々のサンプルの正極合材層の電気抵抗率(Ω・cm)(以下、抵抗値と記載する)を日東精工アナリテック社製(旧三菱ケミカルアナリテック) MCP-T610を用いて測定した。
【0054】
上述のようにして測定した正極合材層の空隙率と抵抗値との関係を図5に示す。図5に示すように、実施例にかかるサンプルはプレス加工を施していないので、空隙率が最も高い値(64%)を示した。また、上述のように導電材にアスペクト比が100~200のカーボンナノチューブを用いたので、プレス加工を施さない場合であっても、正極合材層の抵抗値を低くすることができた。よって、実施例にかかるサンプルでは、正極合材層中に十分な導電パスを形成することができ、また、正極合材層の空隙率を高めることができた。
【0055】
一方、比較例1~4にかかるサンプルでは、実施例と比べて空隙率が低くなった。また、プレス圧力が大きくなるほど空隙率が低くなった。比較例1にかかるサンプルでは、正極合材層の抵抗値が最も高くなった。これは、正極合材層にプレス加工を施すことで、正極合材層中の導電パスが切れてしまい、この結果、正極合材層の電子抵抗が高くなったからである。一方、プレス圧力を徐々に高めていくと、比較例2~4に示すように、正極合材層の抵抗値が低くなる傾向を示した。この理由は、乾燥後の正極合材層にプレス加工を施した場合は、正極活物質と導電材との接点が離れてしまい正極合材層の電子抵抗が上昇するが(比較例1)、その後、更にプレスして正極合材層の密度を上げていくと、正極活物質と導電材との接点が徐々に増えて、正極合材層の電子抵抗が減少したからであると考えられる(比較例2~4)。しかし、プレス加工を施したサンプルのうち最も正極合材層の抵抗値が低い比較例4であっても、プレス工程を省略した実施例にかかるサンプルよりも正極合材層の抵抗値は高かった。
【0056】
以上、本発明を上記実施の形態に即して説明したが、本発明は上記実施の形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
1 正極
10 正極集電体
11 正極合材層(第1の正極合材層)
15 正極活物質
16 導電材
20 正極合材層
21 第2の正極合材層
図1
図2
図3
図4
図5