(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】固体電解質組成物、および、固体電解質部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20241025BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20241025BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241025BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01B13/00 Z
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2020562892
(86)(22)【出願日】2019-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2019043916
(87)【国際公開番号】W WO2020137189
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2018243666
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019078506
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西尾 勇祐
(72)【発明者】
【氏名】酒井 章裕
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 晃暢
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/194705(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/025582(WO,A1)
【文献】特開2001-006745(JP,A)
【文献】特開2017-162728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01B 13/00
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化物固体電解質材料と、有機溶媒と、を含み、
前記ハロゲン化物固体電解質材料は、組成式Li
αM
βX
γにより表され、
ここで、α、βおよびγは、それぞれ独立して0より大きい値であり、Mは、Li以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、Xは、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記有機溶媒は、官能基を有する化合物および炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記官能基は、エーテル基、ハロゲン基およびSi-O-C基からなる群より選択される少なくとも1種である、固体電解質組成物。
【請求項2】
前記ハロゲン化物固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性を有し、かつ、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sn、Al、Sc、Ga、Bi、Sb、Zr、Hf、Ti、Ta、Nb、W、Y、Gd、TbおよびSmからなる群より選択される少なくとも1種を含むとともに、Cl、Br
およびIからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の固体電解質組成物。
【請求項3】
前記ハロゲン化物固体電解質材料は、
Liと、
Gd、Ca、Zr、Yからなる群より選択される少なくとも1種とを含むとともに、Cl、Br
およびIからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項2に記載の固体電解質組成物。
【請求項4】
前記ハロゲン化物固体電解質材料は、LiとYとを含み、かつ、Cl、Br
およびIからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項2又は請求項3に記載の固体電解質組成物。
【請求項5】
前記ハロゲン化物固体電解質材料は、LiとYとClとBrとを含む材料、LiとCaとYとGdとClとBrとを含む材料、または、LiとZrとYとClとを含む材料である請求項1から4のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項6】
前記ハロゲン化物固体電解質材料は、Li
3YBr
2Cl
4、Li
2.8Ca
0.1Y
0.5Gd
0.5Br
2Cl
4、またはLi
2.5Y
0.5Zr
0.5Cl
6である請求項1から5のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項7】
前記ハロゲン化物固体電解質材料は、実質的に、
Liと、
Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sn、Al、Sc、Ga、Bi、Sb、Zr、Hf、Ti、Ta、Nb、W、Y、Gd、TbおよびSmからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、
Cl、Br
およびIからなる群より選択される少なくとも1種の元素とのみからなる材料である請求項1又は2に記載の固体電解質組成物。
【請求項8】
前記官能基を有する化合物は、エーテル基およびハロゲン基以外の官能基を実質的に含まない、請求項1から7のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項9】
前記有機溶媒は、環構造を含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項10】
前記有機溶媒は、芳香族化合物である、請求項9に記載の固体電解質組成物。
【請求項11】
前記有機溶媒は、テトラリン、エチルベンゼン、メシチレン、プソイドクメン、キシレン、クメン、ジブチルエーテル、アニソール、1,2,4-トリクロロベンゼン、クロロベンゼン、2,4-ジクロロベンゼン、o-クロロトルエン、1,3-ジクロロベンゼン、p-クロロトルエン、1,2-ジクロロベンゼン、1,4-ジクロロブタン、3,4-ジクロロトルエンおよびオルトケイ酸テトラエチルからなる群より選択される少なくとも1種類を含む、請求項1から10のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項12】
前記ハロゲン化物固体電解質材料は、前記有機溶媒に分散している、請求項1から11のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項13】
前記ハロゲン化物固体電解質材料は、前記有機溶媒に溶解していない、請求項1から12のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項14】
硫黄元素を含まないイオン結合性固体電解質材料と、有機溶媒と、を含み、
前記イオン結合性固体電解質材料は、LiとYとClとBrとを含む材料、LiとCaとYとGdとClとBrとを含む材料、または、LiとZrとYとClとを含む材料であり、
前記有機溶媒は、官能基を有する化合物および炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記官能基は、エーテル基、ハロゲン基およびSi-O-C基からなる群より選択される少なくとも1種である、固体電解質組成物。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の固体電解質組成物から、前記有機溶媒を除去する除去工程、を包含する、固体電解質部材の製造方法。
【請求項16】
前記除去工程において、前記有機溶媒が、減圧乾燥により除去される、請求項15に記載の固体電解質部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば全固体電池の製造に用いる固体電解質組成物、および、固体電解質部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ハロゲン化物固体電解質が開示されている。
特許文献2には、硫化物固体電解質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/025582号
【文献】国際公開第2018/168505号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術においては、固体電解質組成物について固体電解質材料のイオン伝導性の劣化を抑制することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面は、ハロゲン化物固体電解質材料と、有機溶媒と、を含み、前記ハロゲン化物固体電解質材料は、組成式Li
α
M
β
X
γ
により表され、ここで、α、βおよびγは、それぞれ独立して0より大きい値であり、Mは、Li以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、Xは、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記有機溶媒は、官能基を有する化合物および炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、前記官能基は、エーテル基、ハロゲン基およびSi-O-C基からなる群より選択される少なくとも1種である、固体電解質組成物に関する。
【0006】
本開示の別の側面は、上記固体電解質組成物から、前記有機溶媒を除去する除去工程、を包含する、固体電解質部材の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る固体電解質組成物を用いることで、ハロゲン化物固体電解質材料のイオン伝導性の劣化を抑制し得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】固体電解質材料のリチウムイオン伝導度の評価方法を示す模式図である。
【
図2】実施形態1における、有機溶媒のハンセン溶解度パラメータの極性項と真空乾燥後のLYBCのリチウムイオン伝導度との関係を示すグラフである。
【
図3】実施形態1における有機溶媒中でのLYBCの粒径分布を示すグラフである。
【
図4】実施形態2における固体電解質部材の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
<発明者の着眼点>
従来、高エネルギー密度化と大容量化が求められる二次電池の分野では、有機溶媒に電解質塩を溶解させた有機電解液を用いることが主流である。有機電解液を用いる二次電池では、液漏れの懸念があり、短絡等が生じた場合の発熱量が大きくなる可能性も指摘されている。
【0010】
一方、有機電解液の代わりに無機固体電解質を用いる全固体二次電池が注目されつつある。全固体二次電池は、液漏れを生じず、無機固体電解質が可燃性を有さないため、短絡等が生じた場合の発熱も抑制されるものと期待されている。
【0011】
全固体二次電池に用いる無機固体電解質として、大別すると、硫黄を主成分として含む硫化物系固体電解質と、金属酸化物を主成分として含む酸化物系固体電解質とが知られている。しかし、硫化物系固体電解質は、水分と反応した場合に毒性を有する硫化水素を発生するという短所があり、酸化物系固体電解質は、イオン伝導性が低いという短所がある。そこで、高いイオン伝導性を有する新たな固体電解質材料の開発が望まれている。
【0012】
新たな固体電解質材料として、例えば、リチウム元素と、イットリウム元素と、少なくとも1種類のハロゲン元素とからなり、硫黄元素を含まない、イオン結合性固体電解質材料が期待されている。イオン結合性固体電解質材料を用いた全固体二次電池を実用化するためには、イオン結合性固体電解質材料を含む流動性を有する組成物を調製し、電極もしくは集電体の表面に塗工して固体電解質部材を形成する技術が必要である。
【0013】
流動性を有する組成物を調製するには、イオン結合性固体電解質材料を有機溶媒と混合する必要がある。そこで、発明者は、リチウムイオン伝導性を指標として、様々な有機溶媒に対するイオン結合性固体電解質材料の耐性を検討した。その結果、有機溶媒をイオン結合性固体電解質材料と混合すると、イオン結合性固体電解質材料のリチウムイオン伝導度が低下する場合があることが判明した。例えば硫化物系固体電解質では使用できる有機溶媒であっても、イオン結合性固体電解質材料には使用できない場合がある。以上の着眼点から、本開示の構成が得られた。
【0014】
(実施形態1)
実施形態1における固体電解質組成物は、硫黄元素を含まないイオン結合性固体電解質材料と、有機溶媒と、を含む。
【0015】
イオン結合性固体電解質材料は、イオン結合性を有し、かつイオン伝導性を有する固体電解質材料であればよい。一般に電気陰性度の差が大きい原子間の結合はイオン結合と称される。例えば、金属元素の電気陰性度は小さく、非金属元素の電気陰性度は大きい傾向がある。ここではイオン結合性固体電解質材料とは、例えば、リチウム元素以外の金属元素と非金属元素との結合を有する固体電解質材料であり得る。
【0016】
有機溶媒は、官能基を有する化合物および炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。ただし、官能基は、エーテル基、ハロゲン基およびSi-O-C基からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0017】
炭化水素とは、炭素と水素のみからなる化合物であり、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素および芳香族炭化水素のいずれでもあってもよい。固体電解質組成物中の固体電解質材料の分散性を高める観点からは、芳香族炭化水素が望ましい。炭化水素は、飽和炭化水素であってもよく、不飽和炭化水素であってもよい。また、官能基を有する化合物は、上記官能基以外の部分が炭素と水素のみから構成されてもよい。すなわち、官能基を有する化合物は、炭化水素の水素原子の少なくとも1つが、エーテル基、ハロゲン基およびSi-O-C基からなる群より選択される少なくとも1種で置換された構造を有してもよい。
【0018】
より具体的には、有機溶媒は、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテルおよびシリルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種を含み得る。シリルエーテルはアルコキシシランであってもよい。なお、有機溶媒分子に含まれるエーテル基の数は、特に限定されないが、有機溶媒分子に含まれるエーテル基の数は、例えば1つでもよい。有機溶媒の沸点は、特に限定されないが、例えば200℃以上であってもよい。また、有機溶媒は、イオン結合性固体電解質材料を分散し得る液体であればよく、イオン結合性固体電解質材料を溶解させなくてもよい。
【0019】
以上の構成によれば、イオン伝導性の劣化の小さい固体電解質組成物を提供することができる。すなわち、硫黄元素を含まないイオン結合性固体電解質材料(非硫化物系固体電解質材料)と有機溶媒とを含む固体電解質組成物から有機溶媒を乾燥により除去した場合、優れたイオン伝導性を有する固体電解質部材(例えば固体電解質膜)を得ることができる。
【0020】
イオン結合性固体電解質材料は、例えばリチウムイオン伝導性を有してもよい。
【0021】
イオン結合性固体電解質材料は、例えば、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sn、Al、Sc、Ga、Bi、Sb、Zr、Hf、Ti、Ta、Nb、W、Y、Gd、TbおよびSmからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含んでもよい。これらの元素は、水中でカチオンを生成し得る。
【0022】
イオン結合性固体電解質材料は、例えば、更に、Cl、Br、IおよびFからなる群より選択される少なくとも1種のハロゲン元素を含んでもよい。これらの元素は、水中でアニオンを生成し得る。
【0023】
以上の構成を有する固体電解質組成物は、リチウムイオン伝導性の劣化が更に抑制されやすい。よって、より高いリチウムイオン伝導性を有する固体電解質部材を製造することができる。
【0024】
イオン結合性固体電解質材料は、Liと、Gd、Ca、Zr、Yからなる群より選択される少なくとも1種とを含むとともに、Cl、Br、IおよびFからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0025】
以上の構成を有する固体電解質組成物は、リチウムイオン伝導性の劣化が更に抑制されやすい。よって、より高いリチウムイオン伝導性を有する固体電解質部材を製造することができる。
【0026】
また、イオン結合性固体電解質材料は、LiとYとを含み、かつ、Cl、Br、IおよびFからなる群より選択される少なくとも1種を含む材料であってもよい。
【0027】
より具体的には、イオン結合性固体電解質材料は、LiとYとClとBrとを含む材料、LiとCaとYとGdとClとBrとを含む材料、または、LiとZrとYとClとを含む材料であってもよい。
【0028】
更に具体的には、イオン結合性固体電解質材料は、Li3YBr2Cl4、Li2.8Ca0.1Y0.5Gd0.5Br2Cl4、またはLi2.5Y0.5Zr0.5Cl6であってもよい。
【0029】
また、イオン結合性固体電解質材料は、実質的に、Liと、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sn、Al、Sc、Ga、Bi、Sb、Zr、Hf、Ti、Ta、Nb、W、Y、Gd、TbおよびSmからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Cl、Br、IおよびFからなる群より選択される少なくとも1種の元素とのみからなる材料であってもよい。
【0030】
なお、本明細書において「実質的に、Liと、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sn、Al、Sc、Ga、Bi、Sb、Zr、Hf、Ti、Ta、Nb、W、Y、Gd、TbおよびSmからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、Cl、Br、IおよびFからなる群より選択される少なくとも1種の元素とのみからなる」とは、「意図的でなく混合されてしまう不可避の不純物などを除いて、Liと、各群より選択された元素とのみを含む」という意味である。
したがって、例えば、「実質的に、Li、Y、Cl、及びBrのみからなる」という場合、「意図的でなく混合されてしまう不可避の不純物などを除いて、Li、Y、Cl、及びBrのみを含む」という意味である。以下、同様の表現については、同様の意味であるものとする。なお、不可避の不純物としては、例えば、酸素元素が挙げられる。
【0031】
イオン結合性固体電解質材料は、実質的に、Li、Y、Cl、及びBrのみからなる材料であってもよい。また、イオン結合性固体電解質材料は、実質的にLi、Ca、Y、Gd、Cl、及びBrのみからなる材料であってもよい。更に、イオン結合性固体電解質材料は、実質的にLi、Zr、Y及びClのみからなる材料であってもよい。
【0032】
有機溶媒が官能基を有する化合物である場合、官能基を有する化合物は、エーテル基およびハロゲン基以外の官能基を実質的に含まなくてもよい。このような有機溶媒に対するイオン結合性固体電解質材料の分散性は良好である。中でもハロゲン化物であるイオン結合性固体電解質材料(以下、ハロゲン化物固体電解質材料とも称する。)の上記有機溶媒中での分散性は良好である。分散性に優れた固体電解質組成物を用いることで、リチウムイオン伝導性に優れ、かつ、より緻密な固体電解質部材を形成し得る。例えば、ピンホール、凹凸等の少ない緻密な固体電解質膜を容易に形成し得る。
【0033】
有機溶媒は、環構造を含んでもよい。環構造を含む有機溶媒に対するイオン結合性固体電解質材料の分散性は良好であり、中でもハロゲン化物固体電解質材料の分散性は良好である。環構造は、芳香族環構造であってもよい。すなわち、有機溶媒は、芳香族化合物であってもよい。芳香族化合物に対するイオン結合性固体電解質材料の分散性は良好であり、中でもハロゲン化物固体電解質材料の分散性は良好である。
【0034】
有機溶媒は、より具体的には、例えば、テトラリン、エチルベンゼン、メシチレン、プソイドクメン、キシレン、クメン、ジブチルエーテル、アニソール、1,2,4-トリクロロベンゼン、クロロベンゼン、2,4-ジクロロベンゼン、o-クロロトルエン、1,3-ジクロロベンゼン、p-クロロトルエン、1,2-ジクロロベンゼン、1,4-ジクロロブタン、3,4-ジクロロトルエンおよびオルトケイ酸テトラエチルからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。これらの有機溶媒に対するイオン結合性固体電解質材料の分散性は非常に良好であり、中でもハロゲン化物固体電解質材料の分散性は良好である。
【0035】
ハロゲン化物固体電解質材料としては、例えば、組成式(1):
LiαMβXγ
により表される材料を用い得る。ここで、α、βおよびγは、それぞれ独立して0より大きい値であり、Mは、Li以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、Xは、Cl、BrおよびIからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0036】
本明細書において用いられる用語「半金属元素」は、B、Si、Ge、As、SbおよびTeからなる群から選択される少なくとも1種を意味する。
【0037】
本明細書において用いられる「金属元素」は、(i)周期表第1族から第12族中に含まれるすべての元素(ただし、水素を除く)および(ii)周期表第13族から第16族に含まれるすべての元素(ただし、B、Si、Ge、As、Sb、Te、C、N、P、O、SおよびSeを除く。)を含む。金属元素は、ハロゲン化物イオンと共に無機化合物を形成し、カチオンとなる。
【0038】
組成式(1)において、Mは、Y(すなわち、イットリウム)を含んでもよい。すなわち、ハロゲン化物固体電解質材料は、金属元素MとしてYを含んでもよい。ハロゲン化物固体電解質材料は、イオン導電率に優れているため、ハロゲン化物固体電解質材料を用いた全固体電池は、優れた充放電効率を発現し得る。
【0039】
Yを含むハロゲン化物固体電解質材料の具体例としては、LiaMebYcX6(ここで、a+mb+3c=6、c>0、Meは、LiおよびY以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、mはMeの価数である)の組成式で表される化合物を挙げることができる。
【0040】
Meは、例えば、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sc、Al、Ga、Bi、Zr、Hf、Ti、Sn、TaおよびNbからなる群より選択される少なくとも1つである。この場合、ハロゲン化物固体電解質材料のイオン導電率を、更に高めることができる。
【0041】
ハロゲン化物固体電解質材料は、組成式(A1):
Li6-3dYdX6
により表される材料であってもよい。ここで、Xは、Cl、BrおよびIからなる群より選択される1種以上の元素である。組成式(A1)は、0<d<2を満たしてもよい。
【0042】
組成式(A1)は、d=1を満たしてもよい。すなわち、ハロゲン化物固体電解質材料は、組成式(A2):
Li3YX6
により表される材料であってもよい。
【0043】
ハロゲン化物固体電解質材料は、組成式(A3):
Li3-3δY1+δCl6
により表される材料であってもよい。組成式(A3)は、0<δ≦0.15を満たしてもよい。
【0044】
ハロゲン化物固体電解質材料は、組成式(A4):
Li3-3δY1+δBr6
により表される材料であってもよい。組成式(A4)は、0<δ≦0.25を満たしてもよい。
【0045】
ハロゲン化物固体電解質材料は、組成式(A5):
Li3-3δ+aY1+δ-aMeaCl6-x-yBrxIy
により表される材料であってもよい。ここで、Meは、Mg、Ca、Sr、BaおよびZnからなる群より選択される少なくとも1種であればよい。組成式(A5)においては、例えば、-1<δ<2、0<a<3、0<(3-3δ+a)、0<(1+δ-a)、0≦x≦6、0≦y≦6および(x+y)≦6が満たされる。
【0046】
ハロゲン化物固体電解質材料は、組成式(A6):
Li3-3δY1+δ-aMeaCl6-x-yBrxIy
により表される材料であってもよい。ここで、Meは、Al、Sc、GaおよびBiからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。組成式(A6)においては、例えば、-1<δ<1、0<a<2、0<(1+δ-a)、0≦x≦6、0≦y≦6および(x+y)≦6が満たされる。
【0047】
ハロゲン化物固体電解質材料は、組成式(A7):
Li3-3δ-aY1+δ-aMeaCl6-x-yBrxIy
により表される材料であってもよい。ここで、Meは、Zr、HfおよびTiからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。組成式(A7)においては、例えば、-1<δ<1、0<a<1.5、0<(3-3δ-a)、0<(1+δ-a)、0≦x≦6、0≦y≦6および(x+y)≦6が満たされる。
【0048】
ハロゲン化物固体電解質材料は、組成式(A8):
Li3-3δ-2aY1+δ-aMeaCl6-x-yBrxIy
により表される材料であってもよい。ここで、Meは、TaおよびNbからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。組成式(A8)においては、例えば、-1<δ<1、0<a<1.2、0<(3-3δ-2a)、0<(1+δ-a)、0≦x≦6、0≦y≦6、および(x+y)≦6が満たされる。
【0049】
組成式(A1)~(A8)のハロゲン化物固体電解質材料は、高いイオン導電率を有する。よって、組成式(A1)~(A8)のハロゲン化物固体電解質材料を用いた全固体電池は、優れた充放電効率を発現し得る。
【0050】
(実施形態2)
以下、実施形態2が説明される。上述の実施形態1と同じ説明は、適宜、省略される。
図4は、実施形態2における固体電解質部材の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0051】
実施形態2における固体電解質部材の製造方法は、上述の実施形態1における固体電解質組成物から、有機溶媒を除去する除去工程S1000を包含する。ここで、固体電解質部材とは、イオン結合性固体電解質材料を含む部材である。固体電解質部材は、例えば、イオン結合性固体電解質材料を含む固体電解質層もしくは固体電解質膜、イオン結合性固体電解質材料を含む電極層などであってもよい。
【0052】
硫黄元素を含まないイオン結合性固体電解質材料と有機溶媒とを含む固体電解質組成物から、有機溶媒を除去することで、高いリチウムイオン伝導性を有する固体電解質部材、例えば均質な固体電解質膜等の部材を製造することができる。
【0053】
除去工程S1000においては、固体電解質組成物から有機溶媒が除去される。このとき有機溶媒は、減圧乾燥により除去されてもよい。有機溶媒を除去する前の固体電解質組成物は、流動性を有するため、成形性に優れ、例えば厚さの均一性に優れた塗膜を形成し得る。このような塗膜を乾燥すれば、例えばピンホール、凹凸等の少ない緻密な固体電解質膜を容易に得ることができる。
【0054】
減圧乾燥とは、大気圧よりも低い圧力雰囲気中で固体電解質組成物から有機溶媒を除去することをいう。大気圧よりも低い圧力雰囲気は、ゲージ圧で、例えば-0.01MPa以下であればよく、真空乾燥を行ってもよい。真空乾燥とは、例えば、有機溶媒の沸点よりも20℃低い温度での蒸気圧以下で固体電解質組成物から有機溶媒を除去することをいう。減圧乾燥の際、固体電解質組成物もしくは固体電解質部材を、例えば50℃以上、250℃以下に加熱してもよい。
【0055】
以下、本開示の詳細を、実施例に基づき、表1、表2及び表3を参照しながら説明する。
表1は、有機溶媒と、組成式Li3YBr2Cl4(以下、LYBCと記載する。)で表されるイオン結合性固体電解質材料または組成式Li2S-P2S5(以下、LPSと記載する。)で表される硫化物固体電解質材料と、を含む固体電解質組成物から形成された固体電解質部材のリチウムイオン伝導度の測定結果を示している。表2は、有機溶媒と、組成式Li2.8Ca0.1Y0.5Gd0.5Br2Cl4(以下、LCYGBCと記載する。)で表されるイオン結合性固体電解質材料と、を含む固体電解質組成物から形成された固体電解質部材のリチウムイオン伝導度の測定結果を示している。表3は、有機溶媒と、組成式Li2.5Y0.5Zr0.5Cl6(以下、LYZCと記載する。)で表されるイオン結合性固体電解質材料と、を含む固体電解質組成物から形成された固体電解質部材のリチウムイオン伝導度の測定結果を示している。表1、表2及び表3には、固体電解質組成物に含まれる有機溶媒の化合物名、ハンセン溶解度パラメータの分極項δp、骨格構造、置換基および沸点と、LYBCのリチウムイオン伝導度、LPSのリチウムイオン伝導度及びLCYGBCとLYZCのリチウムイオン伝導度とを示す。表1中、符号A1~A18は実施例1~18に、B1~B14は比較例1~14に、C1は参考例に対応する。表2中、符号A19~A25は実施例19~25に、C2は参考例に対応する。表3中、符号A26は実施例26に、C3は参考例に対応する。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
(固体電解質組成物の調製)
LYBC300mgを市販のガラス製スクリュー管中で秤量した。ここに、有機溶媒を150mg秤量して加え、スパチュラで撹拌混合することにより固体電解質組成物を調製した。LPSは150mgを秤量して、有機溶媒150mgと同様の手順で撹拌混合し、固体電解質組成物を調製した。LCYGBCおよびLYZCは300mgを秤量して、有機溶媒150mgと同様の手順で撹拌混合し、固体電解質組成物を調製した。
【0060】
(真空乾燥による有機溶媒の除去)
固体電解質組成物から有機溶媒を真空乾燥により除去した固体電解質材料の粉末のリチウムイオン伝導度を評価した。真空乾燥は、固体電解質材料の温度を150℃に維持し、各有機溶媒の沸点よりも20℃低い温度の蒸気圧以下の圧力雰囲気で、1時間減圧した。
【0061】
(リチウムイオン伝導度の測定)
上記操作で得られた固体電解質材料の粉末について、リチウムイオン伝導度の測定を、加圧成形用ダイス200を用いて行った。加圧成形用ダイス200は、電子的に絶縁性のポリカーボネート製の枠型201と、ステンレス鋼製のパンチ上部203およびパンチ下部202とから構成される。
【0062】
図1に示す加圧成形用ダイスを用いて、下記の方法にて、イオン伝導度の評価を行った。
露点-30℃以下のドライ雰囲気で、固体電解質組成物を真空乾燥して得た固体電解質材料の粉末100を加圧成形用ダイス200に充填し、400MPaで一軸加圧し、伝導度測定セルを作製した。
【0063】
加圧状態のまま、パンチ上部203とパンチ下部202のそれぞれから導線を取り回し、周波数応答アナライザを搭載したポテンショスタット(Princeton Applied Resarch社 VersaSTAT4)に接続し、電気化学的インピーダンス測定法により、25℃におけるリチウムイオン伝導度の測定を行った。
【0064】
<実施例1>
有機溶媒として、芳香族炭化水素であるテトラリンを用い、固体電解質材料として、LYBCまたはLPSを用い、固体電解質組成物を既述の方法で調製した。さらに、既述の真空乾燥によって有機溶媒であるテトラリンを除去した。
【0065】
テトラリンを除去したLYBCとLPSについて、既述の方法でリチウムイオン伝導度を測定したところ、LYBCは1.7×10-3S/cm、LPSは7.8×10-4S/cmであった。
【0066】
有機溶媒との撹拌混合を経ていないLYBCとLPSの固体電解質材料について、既述の真空乾燥を行った後、既述の方法でリチウムイオン伝導度を測定したところ、LYBCは1.9×10-3S/cm、LPSは8.0×10-4S/cmであった。これらを表1の末尾に参考例(C1)として記載した。
【0067】
実施例1のLYBCのリチウムイオン伝導度を参考例のLYBCのリチウムイオン伝導度と比較すると、テトラリンによるLYBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0068】
<実施例2>
有機溶媒として、芳香族炭化水素であるエチルベンゼンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、エチルベンゼンを除去したLYBCとLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、LYBCは、1.9×10-3S/cm、LPSは7.7×10-4S/cmであった。エチルベンゼンによるLYBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0069】
<実施例3>
有機溶媒として、芳香族炭化水素であるメシチレンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、メシチレンを除去したLYBCとLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、LYBCは、1.9×10-3S/cm、LPSは7.9×10-4S/cmであった。メシチレンによるLYBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0070】
<実施例4>
有機溶媒として、芳香族炭化水素であるプソイドクメンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、プソイドクメンを除去したLYBCとLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、LYBCは、1.3×10-3S/cm、LPSは7.9×10-4S/cmであった。プソイドクメンによるLYBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0071】
<実施例5>
有機溶媒として、芳香族炭化水素であるキシレンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、キシレンを除去したLYBCとLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、LYBCは、1.9×10-3S/cm、LPSは7.9×10-4S/cmであった。キシレンによるLYBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0072】
<実施例6>
有機溶媒として、芳香族炭化水素であるクメンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、クメンを除去したLYBCとLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、LYBCは、1.2×10-3S/cm、LPSは7.4×10-4Scmであった。クメンによるLYBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0073】
実施例1から6までに記載したように、芳香族炭化水素の有機溶媒とLYBCとを用いた固体電解質組成物については、高いリチウムイオン伝導度を維持することができる。
【0074】
実施例で示した以外の炭化水素を有機溶媒として用いる場合についても同様に実施可能である。ただし、固体電解質組成物を塗工することと、真空乾燥により有機溶媒を除去することを考慮すると、常温で液体であり、かつ沸点が250℃以下の炭化水素が望ましい。炭化水素は、1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0075】
さらに、固体電解質材料についてはLYBCを用いたが、その他の硫黄元素を含まないイオン結合性固体電解質材料を用いてもよい。
【0076】
さらに、他のイオン結合性固体電解質材料でも、リチウムイオン伝導性を有し、かつ、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sn、Al、Sc、Ga、Bi、Sb、Zr、Hf、Ti、Ta、Nb、W、Y、Gd、TbおよびSmからなる群より選択される少なくとも1種を含むとともに、Cl、Br、IおよびFからなる群より選択される少なくとも1種を含み、硫黄元素を含まないイオン結合性固体電解質材料であれば、同様に実施可能である。イオン結合性固体電解質材料は、1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0077】
<実施例7>
有機溶媒として、エーテル基を有するジブチルエーテルを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、ジブチルエーテルを除去したLYBCとLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、LYBCは、1.4×10-3S/cm、LPSは8.0×10-4S/cmであった。ジブチルエーテルによるLYBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0078】
<実施例8>
有機溶媒として、エーテル基を有する芳香族化合物であるアニソールを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、アニソールを除去したLYBCとLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、LYBCは、1.9×10-3S/cm、LPSは8.0×10-4S/cmであった。アニソールによるLYBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0079】
<実施例9>
有機溶媒として、クロロ基を有する芳香族化合物である1,2,4-トリクロロベンゼンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、1,2,4-トリクロロベンゼンを除去したLYBCについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、LYBCは、1.7×10-3S/cmであった。1,2,4―トリクロロベンゼンによるLYBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0080】
<実施例10>
有機溶媒として、クロロ基を有する芳香族化合物であるクロロベンゼンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、クロロベンゼンを除去したLYBCとLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、LYBCは、1.8×10-3S/cm、LPSは7.9×10-4Scmであった。クロロベンゼンによるLYBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0081】
<実施例11>
有機溶媒として、クロロ基を有する芳香族化合物である2,4-ジクロロトルエンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、2,4-ジクロロトルエンを除去したLYBCについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、1.7×10-3S/cmとなった。2,4-ジクロロトルエンによるLYBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0082】
<実施例12>
有機溶媒として、クロロ基を有する芳香族化合物であるo-クロロトルエンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、o-クロロトルエンを除去したLYBCとLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、LYBCは、1.6×10-3S/cm、LPSは7.9×10-4S/cmであった。o-クロロトルエンによるLYBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0083】
<実施例13>
有機溶媒として、クロロ基を有する芳香族化合物である1,3-ジクロロベンゼンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、1,3-ジクロロベンゼンを除去したLYBCについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、LYBCについては、1.7×10-3S/cmとなった。1,3-ジクロロベンゼンによるLYBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0084】
<実施例14>
有機溶媒として、クロロ基を有する芳香族化合物であるp-クロロトルエンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、p-クロロトルエンを除去したLYBCとLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、1.6×10-3S/cm、LPSは7.7×10-4S/cmであった。p-クロロトルエンによるLYBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0085】
<実施例15>
有機溶媒として、クロロ基を有する芳香族化合物である1,2-ジクロロベンゼンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、1,2-ジクロロベンゼンを除去したLYBCについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、LYBCは、1.6×10-3S/cmとなった。1,2-ジクロロベンゼンによるLYBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0086】
<実施例16>
有機溶媒として、クロロ基を有する非芳香族化合物である1,4-ジクロロブタンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、1,4-ジクロロブタンを除去したLYBCとLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、LYBCは、1.6×10-3S/cm、LPSは7.6×10-4S/cmであった。1,4-ジクロロブタンによるLYBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0087】
<実施例17>
有機溶媒として、クロロ基を有する芳香族化合物である3,4-ジクロロトルエンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、3,4-ジクロロトルエンを除去したLYBCについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、1.7×10-3S/cmとなった。3,4-ジクロロトルエンによるLYBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0088】
実施例9から実施例17までハロゲン元素であるクロロ基を導入した有機溶媒の例を示したが、他のハロゲン元素であるブロモ基、ヨード基、フルオロ基などの官能基を導入した有機溶媒を用いてもよい。
【0089】
また、クロロ基、ブロモ基、ヨード基およびフルオロ基からなる群から選択される複数種のハロゲン基を導入した有機溶媒を用いてもよい。
【0090】
<実施例18>
有機溶媒として、Si-O-C基を有するオルトケイ酸テトラエチルを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、オルトケイ酸テトラエチルを除去したLYBCとLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、LYBCは、1.0×10-3S/cm、LPSは7.9×10-4Scmであった。オルトケイ酸テトラエチルによるLYBCの劣化は許容範囲であった。
【0091】
実施例7から18に記載したように、エーテル基もしくはハロゲン基もしくはSi-O-C基を有する有機溶媒と固体電解質材料としてLYBCとを用いた固体電解質組成物については、高いリチウムイオン伝導度を維持することができる。
【0092】
<実施例19>
有機溶媒として、芳香族炭化水素であるテトラリンを用い、固体電解質材料として、LCYGBCを用い、固体電解質組成物を既述の方法で調製した。さらに、既述の真空乾燥によって有機溶媒であるテトラリンを除去した。
【0093】
テトラリンを除去したLCYGBCについて、既述の方法でリチウムイオン伝導度を測定したところ、8.8×10-4S/cmであった。
【0094】
有機溶媒との撹拌混合を経ていないLCYGBCの固体電解質材料について、既述の真空乾燥を行った後、既述の方法でリチウムイオン伝導度を測定したところ、1.0×10-3S/cmであった。これを表2の末尾に参考例(C2)として記載した。
【0095】
実施例1のLCYGBCのリチウムイオン伝導度を参考例のLCYGBCのリチウムイオン伝導度と比較すると、テトラリンによるLCYGBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0096】
<実施例20>
有機溶媒として、芳香族炭化水素であるメシチレンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、メシチレンを除去したLCYGBCについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、9.4×10-4S/cmであった。メシチレンによるLCYGBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0097】
<実施例21>
有機溶媒として、芳香族炭化水素であるクメンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、クメンを除去したLCYGBCについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、1.0×10-3S/cmであった。クメンによるLCYGBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0098】
実施例19から21までに記載したように、芳香族炭化水素の有機溶媒とLCYGBCとを用いた固体電解質組成物については、高いリチウムイオン伝導度を維持することができる。
【0099】
実施例で示した以外の炭化水素を有機溶媒として用いる場合についても同様に実施可能である。ただし、固体電解質組成物を塗工することと、真空乾燥により有機溶媒を除去することを考慮すると、常温で液体であり、かつ沸点が250℃以下の炭化水素が望ましい。炭化水素は、1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0100】
<実施例22>
有機溶媒として、エーテル基を有するジブチルエーテルを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、ジブチルエーテルを除去したLCYGBCについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、1.2×10-3S/cmであった。ジブチルエーテルによるLCYGBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0101】
<実施例23>
有機溶媒として、エーテル基を有する芳香族化合物であるアニソールを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、アニソールを除去したLCYGBCについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、9.2×10-4S/cmであった。アニソールによるLCYGBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0102】
<実施例24>
有機溶媒として、クロロ基を有する芳香族化合物であるp-クロロトルエンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、p-クロロトルエンを除去したLCYGBCについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、1.1×10-3S/cmであった。p-クロロトルエンによるLCYGBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0103】
<実施例25>
有機溶媒として、クロロ基を有する芳香族化合物である3,4-ジクロロトルエンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、3,4-ジクロロトルエンを除去したLCYGBCについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、1.0×10-3Scmであった。3,4-ジクロロトルエンによるLCYGBCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0104】
<実施例26>
有機溶媒として、芳香族炭化水素であるp-クロロトルエンを用い、固体電解質材料として、LYZCを用い、固体電解質組成物を既述の方法で調製した。さらに、既述の真空乾燥によって有機溶媒であるp-クロロトルエンを除去した。
【0105】
p-クロロトルエンを除去したLYZCについて、既述の方法でリチウムイオン伝導度を測定したところ、1.2×10-3S/cmであった。
【0106】
有機溶媒との撹拌混合を経ていないLYZCの固体電解質材料について、既述の真空乾燥を行った後、既述の方法でリチウムイオン伝導度を測定したところ、1.2×10-3Scmであった。これを表3の末尾に参考例(C3)として記載した。
【0107】
実施例26のLYZCのリチウムイオン伝導度を参考例のLYZCのリチウムイオン伝導度と比較すると、p-クロロトルエンによるLYZCの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0108】
実施例24から実施例26までハロゲン元素であるクロロ基を導入した有機溶媒の例を示したが、他のハロゲン元素であるブロモ基、ヨード基、フルオロ基などの官能基を導入した有機溶媒を用いてもよい。
【0109】
また、クロロ基、ブロモ基、ヨード基およびフルオロ基からなる群から選択される複数種のハロゲン基を導入した有機溶媒を用いてもよい。
【0110】
実施例19から26に記載したように、エーテル基もしくはハロゲン基を有する有機溶媒と固体電解質材料としてLCYGBCもしくはLYZCとを用いた固体電解質組成物については、高いリチウムイオン伝導度を維持することができる。
【0111】
実施例で示した以外のエーテル基もしくはハロゲン基もしくはSi-O-C基を有する有機溶媒を用いてもよい。ただし、固体電解質組成物を塗工することと、真空乾燥により有機溶媒を除去することを考慮すると、常温で液体であり、かつ沸点が250℃以下で、上記官能基で水素原子が置換された炭化水素が望ましい。これらの有機溶媒は1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0112】
さらに、固体電解質材料についてはLCYGBC及びLYZCを用いたが、その他の硫黄元素を含まないイオン結合性固体電解質材料を用いてもよい。
【0113】
さらに、他のイオン結合性固体電解質材料でも、リチウムイオン伝導性を有し、かつ、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sn、Al、Sc、Ga、Bi、Sb、Zr、Hf、Ti、Ta、Nb、W、Y、Gd、TbおよびSmからなる群より選択される少なくとも1種を含むとともに、Cl、Br、IおよびFからなる群から選択される少なくとも1種を含み、硫黄元素を含まないイオン結合性固体電解質材料であれば、同様に実施可能である。イオン結合性固体電解質材料は1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0114】
<比較例1>
有機溶媒として、エステル基を有する非芳香族化合物である酪酸ブチルを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、酪酸ブチルを除去したLYBCについてリチウムイオン伝導度を測定しようとしたところ、酪酸ブチルを除去できなかった。固体電解質組成物を塗工することと、真空乾燥により有機溶媒を除去することを考慮すると、酪酸ブチルは不適であることが判明した。LPSについても同様の操作を行い、酪酸ブチルを除去したLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、7.9×10-4S/cmとなった。酪酸ブチルによるLPSの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0115】
<比較例2>
有機溶媒として、エステル基を有する非芳香族化合物である3-エトキシプロピオン酸エチルを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、3-エトキシプロピオン酸エチルを除去したLYBCについてリチウムイオン伝導度を測定しようとしたところ、抵抗が大きく測定できなかった。3-エトキシプロピオン酸エチルにより、LYBCが大きく劣化していると考えられる。LPSについても同様の操作を行い、3-エトキシプロピオン酸エチルを除去したLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、8.1×10-4S/cmとなった。3-エトキシプロピオン酸エチルによるLPSの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0116】
<比較例3>
有機溶媒として、エステル基を有する非芳香族化合物である酢酸ブチルを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、酢酸ブチルを除去したLYBCとLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、LYBCは、1.1×10-9S/cm、LPSは8.2×10-4S/cmであった。参考例のLYBCのリチウムイオン伝導度と比較すると、値が大きく低下しており、酢酸ブチルによりLYBCが劣化していると考えられる。酢酸ブチルによるLPSの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0117】
<比較例4>
有機溶媒として、エステル基を有する非芳香族化合物であるアクリル酸2-エチルヘキシルを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、アクリル酸2-エチルヘキシルを除去したLYBCについてリチウムイオン伝導度を測定しようとしたところ、アクリル酸2-エチルヘキシルを除去できなかった。固体電解質組成物を塗工することと、真空乾燥により有機溶媒を除去することを考慮すると、アクリル酸2-エチルヘキシルは不適であることが判明した。LPSについても同様の操作を行い、酪酸ブチルを除去したLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、7.9×10-4S/cmとなった。アクリル酸2-エチルヘキシルによるLPSの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0118】
<比較例5>
有機溶媒として、エステル基を有する非芳香族化合物である酢酸2-エトキシエチルを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、酢酸2-エトキシエチルを除去したLYBCについてリチウムイオン伝導度を測定しようとしたところ、酢酸2-エトキシエチルを除去できなかった。固体電解質組成物を塗工することと、真空乾燥により有機溶媒を除去することを考慮すると、酢酸2-エトキシエチルは不適であることが判明した。LPSについても同様の操作を行い、酢酸2-エトキシエチルを除去したLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、8.2×10-4S/cmとなった。酢酸2-エトキシエチルによるLPSの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例ほぼ同等であった。
【0119】
<比較例6>
有機溶媒として、エステル基を有する芳香族化合物である安息香酸エチルを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、安息香酸エチルを除去したLYBCとLPSについてリチウムイオン伝導度を測定しようとしたところ、抵抗が大きく測定できなかった。安息香酸エチルにより、LYBCが大きく劣化していると考えられる。LPSについても同様の操作を行い、安息香酸エチルを除去したLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、8.1×10-4S/cmとなった。安息香酸エチルによるLPSの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0120】
比較例1から6に記載したエステル基を有する有機溶媒は、イオン結合性固体電解質材料であるLYBCは劣化させるが、共有結合性固体電解質材料であるLPSは劣化させないことが判明した。硫黄元素を含まないイオン結合性固体電解質材料にエステル基を含む有機溶媒を用いることは不適であると考えてよい。
【0121】
<比較例7>
有機溶媒として、ケトン基を有する非芳香族化合物であるジイソブチルケトンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、ジイソブチルケトンを除去したLYBCについてリチウムイオン伝導度を測定しようとしたところ、抵抗が大きく測定できなかった。ジイソブチルケトンにより、LYBCが大きく劣化していると考えられる。LPSについても同様の操作を行い、ジイソブチルケトンを除去したLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、7.2×10-4S/cmとなった。ジイソブチルケトンによるLPSの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0122】
<比較例8>
有機溶媒として、ケトン基を有する環状非芳香族化合物であるイソホロンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、イソホロンを除去したLYBCについてリチウムイオン伝導度を測定しようとしたところ、イソホロンを除去できなかった。固体電解質組成物を塗工することと、真空乾燥により有機溶媒を除去することを考慮すると、イソホロンは不適であることが判明した。LPSについても同様の操作を行い、イソホロンを除去したLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、7.6×10-4S/cmとなった。イソホロンによるLPSの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0123】
<比較例9>
有機溶媒として、ケトン基を有する環状非芳香族化合物であるN-メチルピロリドンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、N-メチルピロリドンを除去したLYBCについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、1.8×10-7S/cmとなった。参考例と比較すると、値が大きく低下しており、N-メチルピロリドンによりLYBCが劣化していると考えられる。LPSについても同様の操作を行い、N-メチルピロリドンを除去したLPSについてリチウムイオン伝導度を測定しようとしたところ、抵抗が大きく測定ができなかった。N-メチルピロリドンは、LYBCもLPSも劣化させるため、使用することができないことが判明した。
【0124】
比較例7から9により、ケトン基を有する有機溶媒は、LYBCを劣化させることが判明した。硫黄元素を含まないイオン結合性固体電解質材料にケトン基を含む有機溶媒を用いることは不適であると考えてよい。
【0125】
<比較例10>
有機溶媒として、アミノ基を有する非芳香族化合物であるN,N-ジメチルドデシルアミンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、N,N-ジメチルドデシルアミンを除去したLYBCについてリチウムイオン伝導度を測定しようとしたところ、N,N-ジメチルドデシルアミンを除去できなかった。固体電解質組成物を塗工することと、真空乾燥により有機溶媒を除去することを考慮すると、N,N-ジメチルドデシルアミンは不適であることが判明した。LPSについても同様の操作を行い、N,N-ジメチルドデシルアミンを除去したLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、7.6×10-4S/cmとなった。N,N-ジメチルドデシルアミンによるLPSの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0126】
<比較例11>
有機溶媒として、アミノ基を有する芳香族化合物であるN,N-ジメチルアニリンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、N,N-ジメチルアニリンを除去したLYBCについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、7.5×10-4S/cmであった。参考例と比較すると、値が大きく低下しており、N,N-ジメチルアニリンによりLYBCが劣化していると考えられる。LPSについても同様の操作を行い、N,N-ジメチルアニリンを除去したLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、7.7×10-4S/cmとなった。N,N-ジメチルアニリンによるLPSの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0127】
<比較例12>
有機溶媒として、アミノ基を有する芳香族化合物であるN-メチルアニリンを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、N-メチルアニリンを除去したLYBCについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、1.1×10-7S/cmとなった。参考例と比較すると、値が大きく低下しており、N-メチルアニリンによりLYBCが劣化していると考えられる。LPSについても同様の操作を行い、N,N-ジメチルアニリンを除去したLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、7.9×10-4S/cmとなった。N-メチルアニリンによるLPSの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0128】
比較例10から12により、アミノ基を有する有機溶媒は、LPSは劣化させないが、LYBCを劣化させることが判明した。硫黄元素を含まないイオン結合性固体電解質材料にアミノ基を含む有機溶媒を用いることは不適であると考えてよい。
【0129】
<比較例13>
有機溶媒として、水酸基を有する非芳香族化合物である2-エチル-1-ヘキサノールを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、2-エチル-1-ヘキサノールを除去したLYBCについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、9.8×10-6S/cmとなった。参考例と比較すると、値が大きく低下しており、2-エチル-1-ヘキサノールによりLYBCが劣化していると考えられる。LPSについても同様の操作を行い、2-エチル-1-ヘキサノールを除去したLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、7.9×10-4S/cmとなった。2-エチル-1-ヘキサノールによるLPSの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0130】
比較例13により、水酸基を有する有機溶媒は、LPSは劣化させないが、LYBCを劣化させることが判明した。硫黄元素を含まないイオン結合性固体電解質材料に水酸基を含む有機溶媒を用いることは不適であると考えてよい。
【0131】
<比較例14>
有機溶媒として、アルデヒド基を有する芳香族化合物であるベンズアルデヒドを用いたこと以外、実施例1と同様の操作を行い、ベンズアルデヒドを除去したLYBCについてリチウムイオン伝導度を測定しようとしたところ、ベンズアルデヒドを除去できなかった。固体電解質組成物を塗工することと、真空乾燥により有機溶媒を除去することを考慮すると、ベンズアルデヒドは不適であることが判明した。LPSについても同様の操作を行い、ベンズアルデヒドを除去したLPSについてリチウムイオン伝導度を測定したところ、7.5×10-4S/cmとなった。ベンズアルデヒドによるLPSの劣化はなく、リチウムイオン伝導度も参考例とほぼ同等であった。
【0132】
アルデヒド基を有する有機溶媒は、LPSは劣化させないが、LYBCを劣化させることが判明した。硫黄元素を含まないイオン結合性固体電解質材料にアルデヒド基を含む有機溶媒を用いることは不適であると考えてよい。
【0133】
図2は、表1に記載のLYBCの有機溶媒に対するハンセン溶解度パラメータの極性項の値(任意の単位)を横軸に、真空乾燥後のLYBCのリチウムイオン伝導度(mS/cm)を縦軸にして、実施例1~18の値と比較例1~14の値を記入したものである。抵抗が大きく、リチウムイオン伝導度を測定できなかった場合や、乾燥できなかった場合の有機溶媒については、0mS/cmとして、グラフに値を記入した。
【0134】
図2からは、真空乾燥後のLYBCのリチウムイオン伝導度には、有機溶媒の極性項の値よりも、置換した官能基の影響が大きいことがわかる。詳細な作用機序については不明だが、有機溶媒の分子内に電子密度の局在化を生じせしめるような官能基、例えば、エステル基、ケトン基、アミノ基、水酸基等が導入されると、その局在化部位と、イオン結合性のLYBCの構成元素とが、溶媒和等の相互作用を生じることにより、LYBCの構造が崩れ、真空乾燥後のLYBCのリチウムイオン伝導度の低下を引き起こしていると推定される。これは、硫黄元素を含まないイオン結合性固体電解質材料について共通の傾向であると考えてよい。
【0135】
図3は、有機溶媒とLYBCを含む固体電解質組成物におけるLYBCの粒径分布である。n-ヘプタン、アニソール、テトラリン、o-クロロトルエンおよびp-クロロトルエンの5種類の有機溶媒について測定した。横軸は、画像解析式粒子解析システムで測定した粒子径(μm)、縦軸は存在確率(任意単位)である。
【0136】
以下に測定方法の詳細について記載する。
(固体電解質組成物の調製)
アルゴン雰囲気中で管理されたグローブボックス内で有機溶媒30mlを秤量し、LYBC0.006gを秤量し、これらを撹拌混合した。有機溶媒は事前にモレキュラーシーブで十分乾燥させた。さらに、水分、酸素などの侵入を避けるために、撹拌混合用の容器は二重とし、外側容器には非極性溶媒(具体的にはヘプタン)を注入して封をした。この状態で、超音波により30分間分散を行った。
【0137】
(粒径分布測定)
画像解析式粒度分布測定装置(型式:XPT-C、PS Prozesstechnik GmbH社製)を用いて、スターラーで撹拌しながら測定を行った。
【0138】
図3の粒径分布のピークの値を見ると、p-クロロトルエン<o-クロロトルエン=テトラリン<アニソール<n-ヘプタンの順となっている。ここで、「=」は、実質的に等しいことを意味しており、以下の「=」についても同様の意味である。これは有機溶媒中の分散性を示しており、p-クロロトルエン、o-クロロトルエン=テトラリン、アニソール、n-ヘプタンの順に分散性が良好で、LYBCの凝集が少ない固体電解質組成物となっている。以上より、有機溶媒は、芳香族化合物であることが望ましく、特に、電極活物質を含む固体電解質組成物を調製する際には、芳香族化合物を有機溶媒として用いることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明に係る固体電解質組成物は、例えば、全固体リチウム二次電池の製造時に用いると有用である。
【符号の説明】
【0140】
100 固体電解質材料
200 加圧成形用ダイス
201 ポリカーボネート製の枠型
202 ステンレス鋼製のパンチ下部
203 ステンレス鋼製のパンチ上部