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特許7576748保守作業通知システム及び保守作業通知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】保守作業通知システム及び保守作業通知方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/418 20060101AFI20241025BHJP
   G06Q 10/20 20230101ALI20241025BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G06Q10/20
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023556298
(86)(22)【出願日】2022-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2022038054
(87)【国際公開番号】W WO2023074371
(87)【国際公開日】2023-05-04
【審査請求日】2024-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2021174383
(32)【優先日】2021-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 裕也
(72)【発明者】
【氏名】嶺岸 瞳
(72)【発明者】
【氏名】島崎 悠太
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-285948(JP,A)
【文献】特許第2978778(JP,B2)
【文献】特開2021-64255(JP,A)
【文献】特開2020-102244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
G06Q 10/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の設備を含み、各設備が各々に割り当てられた工程を順次実行することで製品を生産する設備群における設備間の仕掛品の個数である仕掛数に基づいて、余裕時間を推定する推定部と、
前記推定部によって推定された余裕時間内に実行可能な保守作業を対象作業として決定する決定部と、
前記対象作業と前記対象作業が行われる対象設備とを通知する通知部と、を備える、
保守作業通知システム。
【請求項2】
前記決定部は、実行済みでない複数の保守作業と保守作業毎の作業時間とを示す作業リストを参照して前記対象作業を決定する、
請求項1に記載の保守作業通知システム。
【請求項3】
前記決定部は、前記複数の保守作業のうち、作業時間が前記余裕時間以下で、かつ、前記設備群の稼働時間が最も長くなる保守作業を前記対象作業として決定する、
請求項2に記載の保守作業通知システム。
【請求項4】
前記対象作業が完了した場合に、前記対象作業が実行済みの作業となるように前記作業リストを更新する更新部をさらに備える、
請求項2に記載の保守作業通知システム。
【請求項5】
前記推定部は、前記仕掛数の変動、又は、前記複数の設備の少なくとも1つの停止が検知された場合に、前記余裕時間を推定する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の保守作業通知システム。
【請求項6】
前記複数の設備は、第1設備と、前記第1設備の次に工程を実行する第2設備と、を含み、
前記推定部は、
前記第1設備と前記第2設備との間の第1時刻における仕掛数である第1仕掛数を取得し、
前記第1仕掛数と、前記第1設備及び前記第2設備の各々のタクトタイムと、に基づいて、前記第1設備と前記第2設備との間の、前記第1時刻より後の第2時刻における仕掛数である第2仕掛数を算出し、
前記第2仕掛数と、前記第1設備及び前記第2設備の各々のタクトタイムと、に基づいて、前記第1設備と前記第2時刻との間の仕掛品がなくなって前記第1設備が再稼働するまでの時間を、前記余裕時間として算出する、
請求項1~のいずれか1項に記載の保守作業通知システム。
【請求項7】
前記複数の設備は、第1設備と、前記第1設備の次に工程を実行する第2設備と、を含み、
前記推定部は、前記第2設備の停止が検知された場合に、
前記第1設備と前記第2設備との間の仕掛数である第1仕掛数を取得し、
前記第1仕掛数と、前記第1設備及び前記第2設備の各々のタクトタイムと、前記第2設備の平均復旧時間と、に基づいて、前記第1設備と前記第2設備との間の仕掛品がなくなって前記第1設備が再稼働するまでの時間を、前記余裕時間として算出する、
請求項1~のいずれか1項に記載の保守作業通知システム。
【請求項8】
前記推定部は、前記第1設備から前記第2設備まで仕掛品が移動するのに要する時間にさらに基づいて前記余裕時間を算出する、
請求項6に記載の保守作業通知システム。
【請求項9】
前記推定部は、前記第1設備の再稼働に要する時間にさらに基づいて前記余裕時間を算出する、
請求項6に記載の保守作業通知システム。
【請求項10】
前記推定部は、機械学習を用いて前記余裕時間を推定する、
請求項1~のいずれか1項に記載の保守作業通知システム。
【請求項11】
前記推定部は、
機械学習を用いて、前記複数の設備と各設備の1以上の停止時間との組み合わせ毎に、各設備の稼働時間の期待値を算出し、
前記稼働時間の期待値が最も高くなる組み合わせの停止時間を前記余裕時間として決定し、
前記通知部は、前記稼働時間の期待値が最も高くなる組み合わせの設備を前記対象設備として通知する、
請求項10に記載の保守作業通知システム。
【請求項12】
複数の設備を含み、各設備が各々に割り当てられた工程を順次実行することで製品を生産する設備群における設備間の仕掛品の個数である仕掛数に基づいて、余裕時間を推定するステップと、
推定された余裕時間内に実行可能な保守作業を対象作業として決定するステップと、
前記対象作業と前記対象作業が行われる対象設備とを通知するステップと、を含む、
保守作業通知方法。
【請求項13】
請求項12に記載の保守作業通知方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、保守作業通知システム及び保守作業通知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、部品実装モジュールを多連結させて一基板に対する部品の実装処理を複数の部品実装モジュールによって分担して実行する多連結モジュール型表面実装装置が開示されている。この多連結モジュール型表面実装装置では、全ての部品実装モジュールが部品実装動作を完了させる実装完了時刻の経過を待つ待機時間を利用して、設備のメンテナンス処理を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-153292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術に対しては稼働率の向上のための改善の余地がある。
【0005】
そこで、本開示は、稼働率を向上させることができる保守作業通知システム及び保守作業通知方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る保守作業通知システムは、複数の設備を含み、各設備が各々に割り当てられた工程を順次実行することで製品を生産する設備群における設備間の仕掛品の個数である仕掛数に基づいて、余裕時間を推定する推定部と、前記推定部によって推定された余裕時間内に実行可能な保守作業を対象作業として決定する決定部と、前記対象作業と前記対象作業が行われる対象設備とを通知する通知部と、を備える。
【0007】
本開示の一態様に係る保守作業通知方法は、複数の設備を含み、各設備が各々に割り当てられた工程を順次実行することで製品を生産する設備群における設備間の仕掛品の個数である仕掛数に基づいて、余裕時間を推定するステップと、推定された余裕時間内に実行可能な保守作業を対象作業として決定するステップと、前記対象作業と前記対象作業が行われる対象設備とを通知するステップと、を含む。
【0008】
また、本開示の一態様は、上記保守作業通知方法をコンピュータに実行させるプログラムとして実現することができる。あるいは、本開示の一態様は、当該プログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体として実現することもできる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、稼働率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態に係る保守作業通知システムの適用対象となる設備群の一例を示す図である。
図2図2は、設備群に対して行われる予定の保守作業のリストの一例を示す図である。
図3図3は、実施の形態に係る保守作業通知システムが適用されない場合の、タクト差がある設備の稼働状況、仕掛数及び累積生産数の一例を示す図である。
図4図4は、実施の形態に係る保守作業通知システムが適用された場合の、タクト差がある設備の稼働状況、仕掛数及び累積生産数の一例を示す図である。
図5図5は、実施の形態に係る保守作業通知システムの構成図である。
図6図6は、実施の形態に係る保守作業通知システムの機能構成を示すブロック図である。
図7図7は、実施の形態に係る保守作業通知システムによる余裕時間の推定処理の第1例において使用される主なパラメータを説明するための図である。
図8図8は、設備間のタクト差と仕掛数との関係を説明するための図である。
図9図9は、実施の形態に係る保守作業通知システムによる余裕時間の推定処理の第1例において算出される余裕時間の一例を示す図である。
図10図10は、実施の形態に係る保守作業通知システムによる余裕時間の推定処理の第2例において使用される主なパラメータを説明するための図である。
図11図11は、実施の形態に係る保守作業通知システムによる余裕時間の推定処理の第3例において想定される状況を説明するための図である。
図12図12は、実施の形態に係る保守作業通知システムによる余裕時間の推定処理の第3例に使用される入力データの一例を示す図である。
図13図13は、実施の形態に係る保守作業通知システムによる余裕時間の推定処理の第3例の結果の一例を示すマトリクス表である。
図14図14は、実施の形態に係る保守作業通知システムの動作を示すシーケンス図である。
図15図15は、実施の形態に係る保守作業通知システムの動作を示すフローチャートである。
図16図16は、実施の形態に係る保守作業通知システムの事前処理を示すフローチャートである。
図17図17は、実施の形態に係る保守作業通知システムによる余裕時間の推定処理の一例を示すフローチャートである。
図18図18は、実施の形態に係る保守作業通知システムによる余裕時間の推定処理の別の一例を示すフローチャートである。
図19図19は、実施の形態に係る保守作業通知システムによる通知画面の一例を示す図である。
図20図20は、実施の形態に係る保守作業通知システムによる詳細通知画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本開示の概要)
本開示の一態様に係る保守作業通知システムは、複数の設備を含み、各設備が各々に割り当てられた工程を順次実行することで製品を生産する設備群における設備間の仕掛品の個数である仕掛数に基づいて、余裕時間を推定する推定部と、前記推定部によって推定された余裕時間内に実行可能な保守作業を対象作業として決定する決定部と、前記対象作業と前記対象作業が行われる対象設備とを通知する通知部と、を備える。
【0012】
設備間の仕掛品は、主に、設備間のタクト差に起因して発生する。仕掛数が所定数を超えると、「チョコ停」と称される短期間の設備の待機(一時的な停止)が発生する。本態様に係る保守作業通知システムによれば、余裕時間の推定に仕掛数を利用する。
【0013】
余裕時間は、例えば、製品の生産数に与える影響が少なくて済む時間であり、設備の保守(メンテナンス)に利用できる時間である。余裕時間内に実行可能な保守作業と対象設備とが通知されるので、作業員が速やかに保守作業を行うことができる。例えば、設備群の定期メンテナンスで予定していた保守作業を、余裕時間を利用して前もって行うことができる。このため、定期メンテナンスの時間を短縮化でき、稼働時間を長くすることができる。このように、短期間の待機が抑制され、かつ、余裕時間を利用して効率良く保守作業を行うことができるので、設備群の稼働率を高めることができる。また、設備群の稼働状況に応じて動的に変化する仕掛数を利用するので、設備群の稼働状況の変化に応じて保守作業の通知を適切に行うことができる。
【0014】
また、例えば、前記決定部は、実行済みでない複数の保守作業と保守作業毎の作業時間とを示す作業リストを参照して前記対象作業を決定してもよい。
【0015】
これにより、作業員に必要な保守作業を漏れなく効率良く行わせることができる。
【0016】
また、例えば、前記決定部は、前記複数の保守作業のうち、作業時間が前記余裕時間以下で、かつ、前記設備群の稼働時間が最も長くなる保守作業を前記対象作業として決定してもよい。
【0017】
これにより、設備群の稼働時間が最も長くなるので、設備群の稼働率を更に高めることができる。
【0018】
一例として、前記決定部は、前記複数の保守作業のうち、作業時間が前記余裕時間以下で、かつ、最も長い保守作業を前記対象作業として決定してもよい。これにより、結果として、設備群の稼働時間が最も長くなる保守作業を対象作業として決定することができる。この場合、所要時間が長い保守作業を余裕時間に行わせることで、定期メンテナンスの時間をより短くすることができる。定期メンテナンスの時間が短くなることで、設備群の稼働率を更に高めることができる。
【0019】
また、例えば、前記対象作業が完了した場合に、前記対象作業が実行済みの作業となるように前記作業リストを更新する更新部をさらに備えてもよい。
【0020】
これにより、実行済みの保守作業が再通知されることを避けることができる。
【0021】
また、例えば、前記推定部は、前記仕掛数の変動、又は、前記複数の設備の少なくとも1つの停止が検知された場合に、前記余裕時間を推定してもよい。
【0022】
設備群では、一の設備の停止が他の設備にも影響を与える場合がある。つまり、他の設備も停止させる必要が生じる場合があり、この停止期間を利用して保守作業が可能となる場合がある。このため、仕掛数の増減又は設備の停止が検知された場合に余裕時間を推定することで、余裕時間の推定精度を高めることができ、稼働率の向上に貢献することができる。
【0023】
また、例えば、前記複数の設備は、第1設備と、前記第1設備の次に工程を実行する第2設備と、を含み、前記推定部は、前記第1設備と前記第2設備との間の第1時刻における仕掛数である第1仕掛数を取得し、前記第1仕掛数と、前記第1設備及び前記第2設備の各々のタクトタイムと、に基づいて、前記第1設備と前記第2設備との間の、前記第1時刻より後の第2時刻における仕掛数である第2仕掛数を算出し、前記第2仕掛数と、前記第1設備及び前記第2設備の各々のタクトタイムと、に基づいて、前記第1設備と前記第2時刻との間の仕掛品がなくなって前記第1設備が再稼働するまでの時間を、前記余裕時間として算出してもよい。
【0024】
これにより、未来(例えば、数分後)の仕掛数に基づいて余裕時間を推定することにより、即座に保守作業を開始しなければならない状況を避け、保守作業の開始までに作業員の移動などの作業準備の時間を確保することができる。余裕を持って保守作業を行うことができるので、保守作業の正確性も増し、稼働率の向上に貢献することができる。
【0025】
また、例えば、前記複数の設備は、第1設備と、前記第1設備の次に工程を実行する第2設備と、を含み、前記推定部は、前記第2設備の停止が検知された場合に、前記第1設備と前記第2設備との間の仕掛数である第1仕掛数を取得し、前記第1仕掛数と、前記第1設備及び前記第2設備の各々のタクトタイムと、前記第2設備の平均復旧時間と、に基づいて、前記第1設備と前記第2設備との間の仕掛品がなくなって前記第1設備が再稼働するまでの時間を、前記余裕時間として算出してもよい。
【0026】
これにより、他の設備の停止時間を有効に利用して、設備の保守作業を行うことができ、稼働率を高めることができる。
【0027】
また、例えば、前記推定部は、前記第1設備から前記第2設備まで仕掛品が移動するのに要する時間にさらに基づいて前記余裕時間を算出してもよい。
【0028】
これにより、設備間の仕掛品の移動時間を考慮することで、余裕時間の推定精度を高めることができ、稼働率の向上に貢献することができる。
【0029】
また、例えば、前記推定部は、前記第1設備の再稼働に要する時間にさらに基づいて前記余裕時間を算出してもよい。
【0030】
これにより、設備の再稼働に要する時間を考慮することで、余裕時間の推定精度を高めることができ、稼働率の向上に貢献することができる。
【0031】
また、例えば、前記推定部は、機械学習を用いて前記余裕時間を推定してもよい。
【0032】
これにより、機械学習によって余裕時間の推定精度を高めることができ、稼働率の向上に貢献することができる。例えば、多数の設備間の影響を機械学習によってモデル化することで、保守作業のために一の設備を停止させた場合の他の設備への影響を精度良く把握することができる。
【0033】
また、例えば、前記推定部は、機械学習を用いて、前記複数の設備と各設備の1以上の停止時間との組み合わせ毎に、各設備の稼働時間の期待値を算出し、前記稼働時間の期待値が最も高くなる組み合わせの停止時間を前記余裕時間として決定し、前記通知部は、前記稼働時間の期待値が最も高くなる組み合わせの設備を前記対象設備として通知してもよい。
【0034】
これにより、稼働率を更に向上させることができる。
【0035】
また、本開示の一態様に係る保守作業通知方法は、複数の設備を含み、各設備が各々に割り当てられた工程を順次実行することで製品を生産する設備群における設備間の仕掛品の個数である仕掛数に基づいて、余裕時間を推定するステップと、推定された余裕時間内に実行可能な保守作業を対象作業として決定するステップと、前記対象作業と前記対象作業が行われる対象設備とを通知するステップと、を含む。
【0036】
これにより、上述した保守作業通知システムと同様に、設備群の稼働率を高めることができる。
【0037】
また、本開示の一態様に係るプログラムは、上記一態様に係る保守作業通知方法をコンピュータに実行させるプログラムである。
【0038】
これにより、上述した保守作業通知システムと同様に、設備群の稼働率を高めることができる。
【0039】
以下では、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0040】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0041】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0042】
(実施の形態)
[1.設備群]
まず、実施の形態に係る保守作業通知システムの適用対象となる設備群について、図1を用いて説明する。
【0043】
図1は、実施の形態に係る保守作業通知システムの適用対象となる設備群1を示す図である。図1に示されるように、設備群1は、複数の設備10a、10b、10c、…、10xを含む。設備群1は、各設備が各々に割り当てられた工程を順次実行することで製品を生産する。設備群1は、例えば部品実装システム、部品組立システムなどである。各設備は、部品実装機、組立装置、検査装置などである。
【0044】
設備10a、10b、10c、…、10xは、この順で連結されて1つの生産ラインを構成している。設備10aが最初の設備であり、設備10xが最後の設備である。1つの製品は、設備10aから設備10xまで、この順で各設備が所定の工程を実行することによって製造される。
【0045】
各設備は、例えば、設備間に配置された搬送装置(図示せず)を介して連結されている。搬送装置は、一の設備で所定の工程が実行された後の仕掛品を次の設備に搬送する。搬送装置は、例えばベルトコンベアであるが、ロボットアーム又は自律移動ロボットなどであってもよい。設備群1に含まれる設備の連結数は、2以上であり、一例として40以上であるが、これに限定されない。
【0046】
図1に示されるように、設備間には、仕掛品置き場20a、20b及び20cが設けられている。仕掛品置き場20aは、設備10aから出力される仕掛品30aを保管するスペースである。仕掛品置き場20bは、設備10bから出力される仕掛品30bを保管するスペースである。仕掛品置き場20cは、設備10cから出力される仕掛品30cを保管するスペースである。図1には示されていないが、設備10xの手前にも仕掛品置き場が設けられている。
【0047】
仕掛品置き場20a、20b及び20cはそれぞれ、保管できる仕掛品の個数(=仕掛数)に限度がある。すなわち、仕掛品置き場毎に、最大仕掛数が定められている。各仕掛品置き場の最大仕掛数は、互いに同じでもよく、異なっていてもよい。最大仕掛数は、1又は複数であるが、0であってもよい。すなわち、仕掛品置き場が設けられていない設備間が存在してもよい。
【0048】
以上のように構成された設備群1では、各設備の保守作業が重要である。各設備に必要な保守作業を効率良く行うことで、設備群1の稼働率を高めることができる。
【0049】
図2は、設備群1に対して行われる予定の保守作業のリスト(以下、作業リストと記載)の一例を示す図である。作業リストは、実行済みでない複数の保守作業と、保守作業毎の作業時間とを示している。作業リストは、設備群1の管理者などによって予め生成される。作業時間は、例えば、過去の保守作業の実行履歴などに基づいて決定することができる。
【0050】
図2に示される作業リストでは、保守作業の重要性に応じて、「最低限のメンテナンス」リストと、「品質改善メンテナンス」リストと、に分類されている。「最低限のメンテナンス」リストは、必ず行う必要がある保守作業の一覧を示している。「品質改善メンテナンス」リストは、製品の品質改善のためには行った方がよい保守作業の一覧を示している。なお、このような重要性に応じた分類は行われていなくてもよい。
【0051】
図2に示されるように、作業リストでは、保守作業の対象設備と、保守作業の内容と、保守作業に要する作業時間と、が対応付けられて一覧化されている。例えば、最上段の「設備A 清掃 5分」は、対象設備である「設備A」(すなわち、図1の設備10a)に対して、「清掃」という保守作業を「5分」で行うことを示している。
【0052】
図2では、1日に行うべき作業リストを示しているが、作業リストが対象とする期間は1日に限定されない。作業リストは、1時間以内に行うべき保守作業を示してもよく、1週間又は1ヶ月に行うべき保守作業を示してもよい。
【0053】
[2.設備群の稼働率]
続いて、本実施の形態に係る保守作業通知システムの適用の有無による設備群1の稼働率について例を挙げて説明する。
【0054】
[2-1.適用がない場合]
図3は、本実施の形態に係る保守作業通知システムが適用されない場合の、タクト差がある設備の稼働状況、仕掛数及び累積生産数の一例を示す図である。図3では、簡単のため、連結された2台の設備A及びBによって製品が生産される例を示している。設備Bは、設備Aの直後の設備である。すなわち、設備Bは、設備Aから出力される仕掛品を処理する。これらは、後述する図4についても同様である。
【0055】
設備Aと設備Bとでは、タクトタイムに差がある。タクトタイム(単に“タクト”とも呼ばれる)は、設備が1つの仕掛品の処理にかける時間である。本実施の形態では、タクトタイムは、人工知能(AI:Artificial Intelligence)による機械学習により設備毎に推定することができる。
【0056】
図3に示される例では、設備AのタクトタイムTaが設備BのタクトタイムTbよりも短い。このため、設備A及びBが正常に稼働している場合、設備Aと設備Bとの間には、仕掛品が徐々に蓄積されるので、設備A-B間の仕掛数が単調増加する。
【0057】
上述したように、仕掛品を保管できる個数には限度があるため、設備A-B間の仕掛数が最大仕掛数Ymaxに達した場合(時刻t1)、設備Aには、設備Bの処理待ち時間が発生する。設備Bが仕掛品を処理して仕掛品置き場に余裕ができると、設備Aは、再び処理を行って仕掛品を出力するが、タクト差により比較的短期間で設備A-B間の仕掛数が再び最大仕掛数Ymaxに達し、待機する。このように、時刻t1以降、設備Aは、短期間の待機(いわゆる“チョコ停”)と稼働とを繰り返す。時刻t1以降のA-B間仕掛数は、ほぼ一定で保たれる。
【0058】
図3では、時刻t2において設備Bが所定の要因で停止している。設備Bの停止によって、設備A-B間の仕掛品を設備Bが処理できなくなるので、設備Aも、設備Bが再稼働して、設備A-B間の仕掛数が減少するまで待機することになる。時刻t3において、設備Bが再稼働し、設備A-B間の仕掛品を処理することによって仕掛数が減少する。このとき、設備Aは、仕掛数が一定以上減少するまで待機した後、時刻t4で再稼働する。
【0059】
その後、時刻t5で設備Aは、定期メンテナンスのために停止する。定期メンテナンスでは、図2に示される作業リストで示される複数の保守作業を行う。例えば、図3に示されるように、メンテナンスA~Dの4つを行い、少なくともW+X+Y+Z秒の時間が必要となる。
【0060】
設備Aの定期メンテナンスが行われている期間、設備Bは、設備A-B間の仕掛品の処理を行う。時刻t6で設備A-B間の仕掛数が0となり、設備Bも停止する。
【0061】
累積生産数は、設備Bの稼働中は単調増加し、設備Bの停止中は増加せずに一定のままである。図3に示される例では、最終的に時刻t7で、累積生産数がZ1個となる。
【0062】
以上のように、図3に示される例では、設備Aには設備Bのための待機時間が発生している。また、設備Bは、設備Aが定期メンテナンス中には停止せざるを得ない。このように、設備A及びBのいずれも十分な稼働時間を確保できておらず、設備群1の稼働率が低いという問題がある。
【0063】
[2-2.適用がある場合]
図4は、本実施の形態に係る保守作業通知システムが適用される場合の、タクト差がある設備の稼働状況、仕掛数及び累積生産数の一例を示す図である。なお、図4に示される設備A及びBの各々のタクトタイム、並びに、設備間の最大仕掛数などの各種条件は、図3に示した例と同じである。
【0064】
詳細については後述するが、本実施の形態に係る保守作業通知システムは、設備間の仕掛数に基づいて余裕時間を推定する。余裕時間は、製品の生産数に与える影響が少ない時間であり、設備の保守作業(メンテナンス)に利用できる時間である。余裕時間内に実行可能な保守作業と対象設備とが通知されるので、作業員が速やかに保守作業を行うことができ、稼働率を高めることができる。
【0065】
具体的には、図4に示されるように、保守作業通知システム100が適用される場合、設備Aの短期間の待機(いわゆる“チョコ停”)が生じないように、臨時メンテナンス用の時間を定期メンテナンスよりも前に確保する。例えば、時刻t1では設備Aの待機が必要であったが、当該待機期間を臨時の保守期間(例えば、メンテナンスAを実行)として時刻t11まで確保する。この期間には、設備Bが仕掛品の処理を行うので、設備A-B間の仕掛数は次第に減少し、仕掛品置き場に余裕ができる。このため、時刻t11から設備Aが再稼働したとしても、最大仕掛数Ymaxに到達するまでの時間が長く確保される。
【0066】
同様に、設備Bの停止に起因する時刻t2からt4までの期間、及び、時刻t12からt13までの期間をそれぞれ、臨時の保守期間(それぞれ例えば、メンテナンスB及びCを実行)として確保することができる。これにより、定期メンテナンスで行うべき保守作業が少なくなるので、定期メンテナンスの開始を時刻t14に遅らせることができる。
【0067】
このように、設備Aの待機時間が少なくなり、かつ、定期メンテナンスの時間も短くすることができる。このため、設備Bの停止が生じないようにすることができ、稼働率を高めることができる。例えば、図4に示される例では、最終的に時刻t7で、累積生産数がZ2個となり、図3の例のZ1個よりも多くなる。
【0068】
本実施の形態に係る保守作業通知システムは、図4に示される臨時の保守作業を行うための余裕期間を仕掛数に基づいて推定することで、短期間の待機の発生を抑制することができる。また、設備群1の定期メンテナンスで予定していた保守作業を、余裕時間を利用して前もって行うことができる。このため、定期メンテナンスの時間を短縮化でき、稼働時間を長くすることができる。このように、短期間の待機が抑制され、かつ、余裕時間を利用して効率良く保守作業を行うことができるので、設備群の稼働率を高めることができる。
【0069】
[3.構成]
以下では、本実施の形態に係る保守作業通知システムの構成について、図5及び図6を用いて説明する。
【0070】
図5は、本実施の形態に係る保守作業通知システム100の構成図である。図6は、本実施の形態に係る保守作業通知システム100の機能構成を示すブロック図である。
【0071】
図5に示されるように、保守作業通知システム100は、設備群1と、記憶装置110と、処理装置120と、入出力装置130と、を備える。設備群1、記憶装置110、処理装置120及び入出力装置130は、ネットワークを介して通信可能に接続されている。各装置間の通信は、有線及び/又は無線を介して行われる。
【0072】
設備群1は、図1に示したとおり、複数の設備を含んでいる。また、図示されていないが、設備群1は、複数のセンサを含んでいる。複数のセンサは、各設備、及び、各設備間の搬送装置などに設けられており、設備の稼働状態、仕掛数などを計測する。各センサが計測により得たセンサデータ(計測値)は、記憶装置110に保存される。
【0073】
[3-1.記憶装置]
記憶装置110は、処理装置120による演算処理に使用されるデータを記憶する。記憶装置110は、HDD(Hard Disk Drive)又はSDD(Solid State Drive)などの不揮発性記憶装置である。
【0074】
図6に示されるように、記憶装置110は、製品データベース111と、設備固有値データベース112と、設備状態データベース113と、保守作業履歴データベース114と、保守予定データベース115と、を記憶する。
【0075】
製品データベース111は、設備群1によって製造される製品に関わる情報を蓄積するデータベースである。具体的には、製品データベース111は、設備群1に含まれる設備毎に、仕掛品の品種、個数及び処理時間を記憶する。品種、個数及び処理時間はそれぞれ、対応する設備に設けられたセンサによって取得される。
【0076】
設備固有値データベース112は、設備群1に含まれる設備毎の固有値(以下、設備固有値と記載)を蓄積するデータベースである。設備固有値は、設備毎に予め定められた固有値である。具体的には、設備固有値は、対象設備のタクトタイム、対象設備とその直後の設備との間の最大仕掛数、対象設備とその直後の設備との間の仕掛品の移動時間、対象設備の再稼働に要する準備時間(再稼働時間)、及び、対象設備に生じうる異常(エラー)毎の平均復旧時間(MTTR:Mean Time To Repair)などである。
【0077】
タクトタイムは、AIによる機械学習によって得られる。最大仕掛数は、設備の設置時に設定される値である。移動時間、再稼働時間及びMTTRはそれぞれ、センサによる計測値に基づいて算出される値である。これらの設備固有値は、リアルタイムに変化する値ではなく、長期間(例えば、1日~数ヶ月)に亘って変化しない値である。設備固有値は、設備群1の構成が変更された場合(例えば、設備の入れ替えなど)に更新されてもよい。ここでは、5種類の設備固有値を用いる例を示しているが、設備固有値の種類及び数は、特に限定されない。例えば、設備固有値には、移動時間、再稼働時間及びMTTRは含まれていなくてもよい。
【0078】
設備状態データベース113は、設備群1に含まれる設備毎の状態情報を蓄積するデータベースである。状態情報は、設備毎に、その状態に応じてリアルタイムに変化しうる情報である。具体的には、状態情報は、対象設備の記録時刻、対象設備とその直後の設備との間の仕掛数、及び、設備の状態値(稼働か停止か)などである。記録時刻、仕掛数及び状態値はそれぞれ、センサによる計測によって得られる。なお、記録時刻とは、仕掛数の変動及び異常による停止などのトリガが発生した時刻である。ここでは、3種類の状態情報を用いる例を示しているが、状態情報には仕掛数が含まれていればよく、状態情報の種類及び数は、特に限定されない。
【0079】
保守作業履歴データベース114は、過去に行われた保守作業の履歴データを蓄積するデータベースである。履歴データは、設備群1に含まれる設備毎に、保守作業の実行履歴情報を含んでいる。具体的には、実行履歴情報は、保守作業の作業時間、保守作業を実行した者(実行者)、及び、保守作業を行いうる者(人員情報)などを含む。作業時間、実行者及び人員情報は、入出力装置130を介して得られる。
【0080】
保守予定データベース115は、保守作業の予定データを蓄積するデータベースである。予定データは、保守作業の計画に基づいて生成され、具体的には、図2に示される作業リストを含んでいる。予定データは、処理装置120に付随する入力装置又は入出力装置130を介して設備群1の管理者又は作業者が入力することで得られる。
【0081】
[3-2.処理装置]
処理装置120は、保守作業通知システム100の主な処理を行う演算装置である。処理装置120は、例えば、プロセッサ及びメモリを備えるコンピュータ機器である。プロセッサが、メモリに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、所定の処理を実行する。なお、処理装置120が実行する処理の少なくとも一部は、専用回路によって実行されてもよい。
【0082】
また、処理装置120には、システムの管理者などのユーザから所定の入力を受け付ける入力装置、及び、処理結果を出力する出力装置が接続されていてもよい。入力装置としては、マウス、キーボード、マイクロフォン、タッチパネルなどの各種入力装置を利用可能である。また、出力装置としては、表示装置、音声出力装置などの各種出力装置を利用可能である。入力装置と出力装置とは、例えばタッチパネルディスプレイのように一体化されていてもよい。
【0083】
図6に示されるように、処理装置120は、タクトタイム推定部121と、余裕時間推定部122と、実行可能作業判断部123と、保守予定更新部124と、を備える。
【0084】
タクトタイム推定部121は、設備毎のタクトタイムを推定する。具体的には、タクトタイム推定部121は、製造ログデータを用いてAIによる機械学習を行うことによって、各設備のタクトタイムを推定する。タクトタイムは、対象設備に割り当てられた工程を1つの仕掛品に対して行うのに要する平均的な時間である。
【0085】
余裕時間推定部122は、設備間の仕掛数に基づいて余裕時間を推定する。本実施の形態では、余裕時間推定部122は、仕掛数の変動、又は、設備群1に含まれる複数の設備の少なくとも1つの停止が検知された場合に、余裕時間を推定する。すなわち、仕掛数の変動又は設備の停止は、余裕時間の推定を行うトリガである。余裕時間の具体的な推定方法については、後で説明する。
【0086】
実行可能作業判断部123は、余裕時間内に実行可能な保守作業を対象作業として決定する決定部の一例である。実行可能作業判断部123は、保守予定データベース115に記憶された作業リストを参照して対象作業を決定する。例えば、実行可能作業判断部123は、作業リストが示す複数の保守作業のうち、作業時間が余裕時間以下で、かつ、設備群1の稼働時間が最も長くなる保守作業を対象作業として決定する。設備群1の稼働時間が最も長くなる保守作業は、例えば、作業リストが示す複数の保守作業のうち、作業時間が余裕時間以下で、かつ、最も長い保守作業である。
【0087】
保守予定更新部124は、対象作業が完了した場合に、対象作業が実行済みの作業となるように作業リストを更新する。対象作業の完了は、入出力装置130によって入力された情報に基づいて判別される。
【0088】
例えば、保守予定更新部124は、対象作業が完了した場合に、作業リストから対象作業を削除する。あるいは、作業リストには、作業内容毎に、実行済みか否かを示すフラグ情報が対応付けられていてもよい。保守予定更新部124は、対象作業が完了した場合に、当該フラグ情報を実行済みに変更してもよい。
【0089】
本実施の形態では、保守予定更新部124は、保守作業履歴データベース114の内容も更新する。具体的には、保守予定更新部124は、対象作業を実行済みの作業として保守作業履歴データベース114に記録する。
【0090】
[3-3.入出力装置]
入出力装置130は、例えば、保守作業を行う作業員が所持する携帯端末である。具体的には、入出力装置130は、タブレット端末又はスマートフォンなどである。入出力装置130が持ち運び可能であることにより、作業員への通知、及び、作業員からの入力をスムーズに効率良く行うことができる。
【0091】
入出力装置130は、対象作業と対象作業が行われる対象設備とを通知する通知部の一例である。入出力装置130は、対象作業の開始時刻又は開始までの時間をさらに通知してもよい。具体的には、入出力装置130は、画像又は映像を表示するタッチパネルディスプレイを備える。入出力装置130は、実行可能作業判断部123によって決定された対象作業と、対象設備とを示す通知画面(通知画像)を生成してタッチパネルディスプレイに表示する。通知画面の具体例については後で説明する。
【0092】
また、入出力装置130は、作業員からの入力を受け付ける。具体的には、入出力装置130は、作業員が操作可能なGUI(Graphical User Interface)オブジェクトを含む入力画面(入力画像)を生成してタッチパネルディスプレイに表示する。入出力装置130は、入力画面を介した操作を受け付け、受け付けた内容を示す情報を保守予定更新部124に送信する。
【0093】
通知は、ディスプレイに表示される画像によって視覚的に行われるが、これに限定されない。入出力装置130は、スピーカ及び/又はバイブレータを備えてもよい。これにより、通知は、スピーカから出力される音声によって聴覚的に行われてもよい。また、バイブレーションなども併用されてもよい。また、入出力装置130は、マイクロフォンを備え、音声による入力を受け付けてもよい。
【0094】
入出力装置130は、複数台設けられていてもよい。例えば、複数の作業員が存在する場合には、作業員毎に入出力装置130が設けられている。これにより、作業員への通知、及び、作業員からの入力をスムーズに効率良く行うことができ、保守作業をより効率良く行わせることができる。
【0095】
なお、例えば、入出力装置130は、入力機能と通知機能とでそれぞれ分離した2以上の装置によって実現されてもよい。例えば、設備群1が配置された工場内の大型モニタなどによって、通知を行う表示装置が実現されてもよい。また、設備群1に含まれる各設備に、保守作業の完了を入力する物理ボタン又はタッチパネルが設けられていてもよい。このように、入出力装置130は、携帯端末ではなく、据え置き型の端末装置であってもよい。
【0096】
また、保守作業通知システム100の構成は、図5に示される例に限定されない。例えば、記憶装置110、処理装置120及び入出力装置130は、一体化された1つの装置であってもよい。また、例えば、処理装置120は、タクトタイム推定部121及び保守予定更新部124を備えていなくてもよい。
【0097】
[4.余裕時間の推定処理]
続いて、余裕時間の推定処理の具体例について説明する。
【0098】
[4-1.第1例]
まず、仕掛数の変動が生じた場合に行われる余裕時間の推定処理について、図7図9を用いて説明する。
【0099】
図7は、本実施の形態に係る保守作業通知システム100による余裕時間の推定処理の第1例において使用される主なパラメータを説明するための図である。なお、図3及び図4と同様に、簡単のため、連結された2台の設備A及びBによって製品が生産される例を示している。
【0100】
設備Aは、第1設備の一例である。設備Bは、第1設備の次に工程を実行する第2設備の一例である。具体的には、設備Bは、設備Aの直後の設備である。すなわち、設備Bは、設備Aから出力される仕掛品を処理する。
【0101】
図7に示されるように、設備AのタクトタイムをTaとし、設備BのタクトタイムをTbとする。Ta及びTbは、タクトタイム推定部121によって推定され、設備固有値データベース112に記憶されている。また、仕掛品の移動時間をTmとし、設備Aの再稼働に要する時間をTrとする。Tm及びTrはいずれも、設備固有値として、設備固有値データベース112に記憶されている。
【0102】
第1例では、余裕時間推定部122は、現在の仕掛数Yを取得する。ここで、現在は、第1時刻の一例であり、仕掛数Yは、第1仕掛数の一例である。「現在」とは、余裕時間の推定を行うタイミングに相当し、具体的には、設備状態データベース113に記憶された設備A-B間の仕掛数の最新の値を取得した時刻である。
【0103】
余裕時間推定部122は、Y、Ta及びTbを用いて、以下の式(1)に基づいて、X分後の仕掛数Yxを算出する。ここで、X分後は、第1時刻より後の第2時刻の一例であり、仕掛数Yxは、第2仕掛数の一例である。
【0104】
(1) Yx=Y+int{abs(Tb-Ta)×X/Ta}
【0105】
なお、int{ }は、{ }内の数値の整数値を返す関数である。abs( )は、( )内の数値の絶対値を返す関数である。
【0106】
次に、余裕時間推定部122は、Yx、Ta、Tb、Tm及びTrを用いて、以下の式(2)に基づいて、余裕時間Mtを算出する。
【0107】
(2) Mt=Yx×Tb-(Tr+Ta+Tm)
【0108】
式(2)では、余裕時間Mtを、設備A-B間の仕掛品がなくなって設備Aが再稼働するまでの時間とみなしている。式(2)の右辺のYx×Tbは、仕掛品を全て処理するまでの時間である。また、Tr+Ta+Tmは、設備Aを再稼働してから最初の仕掛品が設備Bに到達するまでの時間である。なお、再稼働時間Tr及び移動時間Tmは、タクトタイムに比べて十分に小さい場合などもあり得るので、省略されてもよい。
【0109】
算出される余裕時間Mtは、現在からX分後に設備Aを停止させた場合に、生産性を低下させずに設備Aを停止しておける時間である。なお、仕掛数Yxが最大仕掛数Ymaxを超えた場合、余裕時間推定部122は、式(2)におけるYxをYmaxに置き換えることで余裕時間Mtを算出する。この場合、X分後に至るまでに、仕掛数Yが最大仕掛数Ymaxに達するので、設備Aの待機が発生しうる。
【0110】
仕掛数Yxが最大仕掛数Ymaxを超えた場合、余裕時間推定部122は、Xの値を小さい値に変更してYx及びMtを再算出してもよい。あるいは、余裕時間推定部122は、式(1)におけるYxをYmaxに置き換え、Xを変数としてXを算出してもよい。すなわち、仕掛数Yが最大仕掛数Ymaxに一致するまでの時間Xを算出したうえで、余裕時間Mtを算出してもよい。これにより、設備Aの待機を発生しないようにすることができる。
【0111】
なお、予め定められた又は算出された時間Xは、保守作業の開始までの時間とみなすことができる。このため、余裕時間推定部122は、現在時刻とXとに基づいて、保守作業の開始時刻を算出することができる。
【0112】
以下では、具体的な数値を例に挙げて余裕時間Mtの算出例を説明する。
【0113】
図8は、設備間のタクト差と仕掛数との関係を説明するための図である。図9は、実施の形態に係る保守作業通知システムによる余裕時間の推定処理の第1例において算出される余裕時間の一例を示す図である。
【0114】
図8及び図9では、設備AのタクトタイムTa=1.0秒、設備BのタクトタイムTb=2.0秒、設備Aの再稼働時間Tr=5.0秒、設備A-B間の仕掛品の移動時間Tm=2.0秒としている。また、設備A-B間の最大仕掛数Ymax=30個としている。
【0115】
図8に示されるように、設備A及びBの両方が正常に動作している場合、設備A及びBのタクト差により、設備A-B間の仕掛数Yが2秒に1個ずつ増加する。仕掛数Yが最大仕掛数Ymaxに一致すると、設備Aに一時的な待機が発生する。以降、設備Aは、生産と一時的な待機とを繰り返す。これは、図3を用いて説明した状況と同じである。仕掛数Yが最大仕掛数Ymaxになるタイミング、又は、このタイミングより前に臨時メンテナンスのための余裕時間を確保することによって、設備A及びBの稼働率を高めることができる。
【0116】
図9に示されるように、設備Aが臨時メンテナンスのために停止している場合、仕掛数Yは、2秒に1個ずつ減少する。仕掛数Yが残り4個(すなわち、仕掛数Yが0になるまで残り8秒)になったタイミングで、設備Aが5秒かけて再稼働する。仕掛数Yが0になるまで残り3秒から設備Aは再生産を開始し、仕掛品を出力する。仕掛品の移動には2秒かかるため、仕掛数Yが0になって設備Bが待機状態になる前に、再生産後の仕掛品が設備Bに到達し、設備Bは処理を継続して行うことができる。
【0117】
このように、設備A及びBのいずれにも待機が発生せず、かつ、保守時間を最長で確保するためには、仕掛数Yが最大仕掛数Ymaxになるタイミングで保守作業に入り、仕掛数が0になるタイミングで再稼働後の最初の仕掛数が設備Bに到達すればよい。この場合の保守作業に利用できる余裕時間Mtは、仕掛数Yが最大仕掛数Ymax=30となった場合であるので、式(2)に基づいて、30×2.0-(5.0+1.0+2.0)=52秒となる。
【0118】
[4-2.第2例]
次に、設備の停止が検知された場合に行われる余裕時間の推定処理について、図10を用いて説明する。なお、第1例と同じ事項については説明を省略又は簡略化する。
【0119】
図10は、実施の形態に係る保守作業通知システム100による余裕時間の推定処理の第2例において使用される主なパラメータを説明するための図である。なお、図10は、図7と同様に、簡単のため、連結された2台の設備A及びBによって製品が生産される例を示している。
【0120】
図10に示される例では、設備Bに異常停止が発生した場合を示している。Y、Ta、Tb、Tr及びTmはそれぞれ、図7に示される例と同じである。設備Bの平均復旧時間をTmttrとする。Tmttrは、設備固有値として、設備固有値データベース112に記憶されている。
【0121】
第2例では、余裕時間推定部122は、現在の仕掛数Yを取得する。次に、余裕時間推定部122は、Y、Ta、Tb、Tm、Tr及びTmttrを用いて、以下の式(3)に基づいて、余裕時間Mtを算出する。
【0122】
(3) Mt=Y×Tb+Tmttr-(Tr+Ta+Tm)
【0123】
式(3)の右辺のY×Tbは、現在の仕掛品を全て処理するまでの時間である。また、Tr+Ta+Tmは、設備Aを再稼働してから最初の仕掛品が設備Bに到達するまでの時間である。なお、再稼働時間Tr及び移動時間Tmは、タクトタイムに比べて十分に小さい場合などもあり得るので、省略されてもよい。
【0124】
設備Bの異常停止が発生した場合には、設備Bが復旧するまでの時間(Tmttr)を他の設備の保守作業に余分に利用することができる。このため、式(3)に示されるように、余裕時間Mtには、式(2)と比較してTmttrの項が加えられている。これにより、Tmttrを考慮して精度良く余裕時間Mtを算出することができる。
【0125】
[4-3.第3例]
次に、機械学習を利用した余裕時間の推定処理について、図11図13を用いて説明する。なお、第1例及び第2例と同じ事項については説明を省略又は簡略化する。
【0126】
図11は、本実施の形態に係る保守作業通知システム100による余裕時間の推定処理の第3例において想定される状況を説明するための図である。図11に示されるように、複数の設備が連結している場合には、一の設備(例えば、設備B)の停止が直前又は直後の設備以外の設備へも影響を与える場合がある。同様に、一の設備間(例えば、設備B-C間)の仕掛数の変動が前後の設備以外の設備へも影響を与える場合がある。
【0127】
本例では、余裕時間推定部122は、機械学習を用いて、複数の設備と各設備の1以上の停止時間との組み合わせ毎に、各設備の稼働時間の期待値を算出する。余裕時間推定部122は、稼働時間の期待値が最も高くなる組み合わせの停止時間を余裕時間として決定する。
【0128】
図12は、実施の形態に係る保守作業通知システム100による余裕時間の推定処理の第3例に使用される入力データの一例を示す図である。図12に示されるように、入力データとして、タクトタイム、現在の仕掛数、現在の稼働状態、最大仕掛数、設備間の仕掛品の移動時間、設備の再稼働時間、及び、停止コードの再稼働時間(MTTR)を含んでいる。それぞれは、設備毎又は設備間毎のデータである。余裕時間推定部122は、図12に示される入力データの少なくとも1つを説明変数とし、稼働時間を目的変数とする推定モデルを用いる。
【0129】
推定モデルは、例えば、ベイズ推定による回帰モデルであるが、これに限定されない。また、機械学習の手法については、特に限定されない。例えば、教師あり学習の手法として、分類器を用いた手法、サポートベクターマシンを用いた手法、決定木手法、深層畳み込みニューラルネットワーク手法などを利用することができる。
【0130】
図13は、本実施の形態に係る保守作業通知システム100による余裕時間の推定処理の第3例の結果の一例を示すマトリクス表である。図13に示されるマトリクス表では、列方向(縦軸)に設備群1を構成する複数の設備が並んでおり、行方向(横軸)に複数の停止時間が並んでいる。設備と停止時間との組み合わせ毎に、推定モデルから出力される稼働時間の期待値が対応付けられている。
【0131】
余裕時間推定部122は、マトリクス表から稼働時間が最も長くなる組み合わせを抽出する。図13に示される例では、「設備F」と「50秒」との組み合わせが、稼働時間が最も長くなる組み合わせである。このため、「設備F」が対象設備として、「50秒」が余裕時間Mtとして決定することができる。
【0132】
このとき、余裕時間推定部122は、余裕時間及び対象設備の組み合わせを複数決定してもよい。例えば、余裕時間推定部122は、稼働時間が最も長くなる組み合わせから降順で複数の組み合わせを選択し、それぞれに優先順位を付けてもよい。これにより、複数の対象作業を一覧として優先順位とともに通知することができる。
【0133】
[5.動作(保守作業通知方法)]
続いて、本実施の形態に係る保守作業通知システム100の動作について説明する。
【0134】
[5-1.主要な処理]
まず、保守作業通知システム100の主要な処理について、図14及び図15を用いて説明する。
【0135】
図14は、本実施の形態に係る保守作業通知システム100の動作を示すシーケンス図である。図15は、本実施の形態に係る保守作業通知システム100の動作を示すフローチャートである。
【0136】
図14及び図15に示されるように、まず、設備群1では、各種センサが仕掛数及び設備状態などを計測し、計測により得られたセンサデータを記憶装置110に出力する。記憶装置110では、設備群1から出力されるセンサデータをリアルタイムデータとして記憶する(S10)。リアルタイムデータは、例えば、設備状態データベース113に記憶される。なお、センサデータの一部は、製品に関わる情報及び設備固有値として、製品データベース111及び設備固有値データベース112に記憶されてもよい。
【0137】
次に、処理装置120では、余裕時間推定部122が、記憶装置110の設備状態データベース113から設備状態データを取得する(S11)。設備状態データは、少なくとも設備間毎の仕掛数を含んでいる。本実施の形態では、設備状態データは、設備毎の状態値(稼働か停止か)をさらに含んでいる。
【0138】
次に、処理装置120では、余裕時間推定部122が、仕掛数の変動、及び、設備の停止の少なくとも一方が検知されたか否かを判定する(S12)。いずれも検知されなかった場合、すなわち、余裕時間の推定処理を開始するトリガが発生しなかった場合(S12でNo)、ステップS10から処理が繰り返される。
【0139】
仕掛数の変動、及び、設備の停止の少なくとも一方が検知された場合(S12でYes)、余裕時間推定部122は、記憶装置110の設備固有値データベース112から設備固有値データを取得する(S13)。そして、余裕時間推定部122は、設備固有値及び設備状態(具体的には、仕掛数)に基づいて余裕時間を推定する(S14)。このとき、設備の異常停止が発生している場合には、余裕時間推定部122は、停止要因にさらに基づいて余裕時間を推定する。余裕時間の推定処理の具体的なフローについては、後で説明する。
【0140】
次に、実行可能作業判断部123は、記憶装置110の保守作業履歴データベース114から保守履歴データを取得し、保守予定データベース115から保守予定データを取得し、作業リストを生成する。例えば、実行可能作業判断部123は、保守予定データに基づいて実行すべき複数の保守作業を決定し、決定した保守作業毎の作業時間を保守履歴データに基づいて決定する。なお、作業リストそのものが、記憶装置110の保守予定データベース115に記憶されていてもよい。
【0141】
実行可能作業判断部123は、生成した作業リストに基づいて、実行可能な保守作業を決定する(S15)。具体的には、実行可能作業判断部123は、推定された余裕時間内に実行可能な保守作業があるか否かを判断する。余裕時間内に実行可能な保守作業がない場合(S15でNo)、ステップS10から処理が繰り返される。余裕時間内に実行可能な保守作業が1つ以上ある場合、その中から1つの保守作業を対象作業として決定する(S15でYes)。例えば、実行可能作業判断部123は、作業時間が余裕時間以下で、かつ、最も長い保守作業を対象作業として決定する。
【0142】
このとき、決定する対象作業は、2つ以上の保守作業であってもよい。例えば、複数の保守作業の各作業時間の合計が余裕時間内に収まる場合、実行可能作業判断部123は、複数の保守作業を対象作業として決定してもよい。このとき、作業時間の合計が最も長くなる複数の保守作業が決定されてもよい。
【0143】
なお、実行可能作業判断部123が取得する保守履歴データは、例えば作業時間の算出に利用される。作業時間が予め算出されて、保守予定データベース115に記憶されている場合には、実行可能作業判断部123は、保守履歴データを取得しなくてもよい。
【0144】
次に、対象作業が決定された場合(S15でYes)、実行可能作業判断部123は、入出力装置130に対して決定した対象作業及び対象設備を通知する(S16)。入出力装置130は、受け取った通知に基づいて、作業員に対する通知画面を生成してディスプレイに表示する。これにより、作業員に対する通知が行われる。
【0145】
作業員は、通知に従って保守作業を行う。保守作業が完了すると、作業員は、入出力装置130を介して通知された保守作業が完了したことを入力する。処理装置120は、入出力装置130からの通知を受信するまで待機する(S17でNo)。次に、処理装置120では、入出力装置130から作業完了通知を受信した後(S17でYes)、保守予定更新部124が、保守履歴及び作業リストを更新する(S18)。具体的には、保守予定更新部124は、記憶装置110の保守作業履歴データベース114に対象作業に要した作業時間、及び、対象作業を行った作業員などを登録する。また、保守予定更新部124は、記憶装置110の保守予定データベース115の作業リストから対象作業を削除する。
【0146】
以上の処理は、設備群1の稼働中に繰り返しリアルタイムで行われる。設備間の仕掛数に基づいて臨時の保守作業を行う時間が確保できる場合に、対象作業及び対象設備が通知されるので、作業員は、速やかに保守作業を行うことができる。各設備の待機期間が少なくなり、定期メンテナンスの時間も少なくなるので、設備群1の稼働率を高めることができる。
【0147】
[5-2.タクトタイムの推定]
次に、処理装置120のタクトタイム推定部121によるタクトタイムの推定処理について、図16を用いて説明する。タクトタイムの推定処理は、図14及び図15に示される主要な処理の実行前に、事前処理として行われる。
【0148】
図16は、本実施の形態に係る保守作業通知システム100の事前処理を示すフローチャートである。図16に示される事前処理は、例えば、1ヶ月に1回などの比較的長期間のサイクルで行われる。なお、事前処理を行うタイミングは特に限定されず、1日又は1週間に1回又は複数回行われてもよく、設備の入れ替えなどの所定のイベントが発生したタイミングで行われてもよい。
【0149】
図16に示されるように、処理装置120では、タクトタイム推定部121が記憶装置110から期間データを取得する(S20)。期間データとは、所定の期間の製造ログデータである。製造ログデータは、例えば、製品データベース111に記憶されており、製品の品種、個数及び1つあたりの処理時間などを、処理した製品(仕掛品)毎に含んでいる。
【0150】
次に、タクトタイム推定部121は、機械学習によってタクトタイム推定モデルを生成する(S21)。タクトタイム推定モデルは、例えば、設備毎に作成され、設備毎のタクトタイムを推定するための学習モデルである。
【0151】
タクトタイム推定モデルは、例えば、ベイズ推定による回帰モデルであるが、これに限定されない。また、機械学習の手法については、特に限定されない。例えば、教師あり学習の手法として、分類器を用いた手法、サポートベクターマシンを用いた手法、決定木手法、深層畳み込みニューラルネットワーク手法などを利用することができる。
【0152】
次に、タクトタイム推定部121は、生成したタクトタイム推定モデルを評価する(S22)。具体的には、タクトタイム推定部121は、タクトタイム推定モデルによるタクトタイムの推定値の精度を算出する。モデルの評価方法は、一般的に機械学習により生成されるモデルの評価方法が用いられる。
【0153】
推定値の精度が閾値未満である場合(S23でNo)、タクトタイム推定部121は、ステップS21に戻り、パラメータを変更する、あるいは、使用する学習データを追加するなどにより、タクトタイム推定モデルを再生成する。所望の精度の推定値が得られるまで、モデルの生成と評価とが繰り返される。
【0154】
推定値の精度が閾値以上である場合(S23でYes)、タクトタイム推定部121は、生成したタクトタイム推定モデルを記憶装置110の設備固有値データベース112に格納する(S24)。なお、推定モデルの代わりに、設備毎のタクトタイムが記憶装置110に記憶されてもよい。
【0155】
以上のように、機械学習を利用することで、多種多様な設備及び品種に対しても所望の精度でタクトタイムを推定することができる。なお、タクトタイムの推定処理は、機械学習による手法に限定されず、統計処理などで行われてもよい。
【0156】
[5-3.余裕時間の推定処理(S14)]
次に、余裕時間の推定処理について、図17及び図18を用いて説明する。上述したとおり、余裕時間の推定処理には第1例~第3例の3つの例がある。余裕時間推定部122は、第1例~第3例のうち少なくとも1つを用いて余裕時間を推定する。
【0157】
図17は、本実施の形態に係る保守作業通知システム100による余裕時間の推定処理の一例を示すフローチャートである。図17は、第1例と第2例とを併用する例を示している。
【0158】
図17に示されるように、余裕時間推定部122は、異常停止した設備がない場合(S30でNo)、第1例に係る余裕時間の推定処理を行う(S31)。すなわち、余裕時間推定部122は、式(1)に基づいてX分後の仕掛数Yxを算出し、算出した仕掛数Yx及び式(2)に基づいて余裕時間Mtを算出する。
【0159】
異常停止した設備がある場合(S30でYes)、第2例に係る余裕時間の推定処理を行う(S32)。すなわち、余裕時間推定部122は、式(3)に基づいて余裕時間Mtを算出する。
【0160】
ステップS31又はS32が行われた後、余裕時間推定部122は、算出した余裕時間Mtを実行可能作業判断部123に出力する(S33)。
【0161】
このように、余裕時間推定部122は、異常停止した設備の有無に応じて、余裕時間Mtの推定方法を切り替えることができる。
【0162】
あるいは、余裕時間推定部122は、図18に示されるように、第3例に基づいて余裕時間を推定してもよい。図18は、本実施の形態に係る保守作業通知システム100による余裕時間の推定処理の別の一例を示すフローチャートである。
【0163】
図18に示されるように、余裕時間推定部122は、機械学習を行うことにより、設備及び停止時間の組み合わせ毎の稼働時間の期待値を算出する(S41)。そして、余裕時間推定部122は、図13に示されるようなマトリクス表を生成する(S42)。余裕時間推定部122は、マトリクス表から、稼働時間の期待値が最も高くなる組み合わせを抽出する(S43)。次に、余裕時間推定部122は、抽出した組み合わせの設備及び時間をそれぞれ、対象設備及び対象時間として出力する(S44)。
【0164】
なお、第1例~第3例の全てを組み合わせてもよい。例えば、図17に示されるステップS31又はS32で算出される余裕時間を、図18のステップS41の算出に利用される組み合わせの停止時間として用いてもよい。
【0165】
[6.通知画面]
続いて、入出力装置130がディスプレイに表示する通知画面の具体例について説明する。
【0166】
図19は、本実施の形態に係る保守作業通知システム100による通知画面の一例を示す図である。通知画面200は、入出力装置130のディスプレイに表示される。
【0167】
図19に示されるように、通知画面200は、作業員に通知される複数の保守作業の一覧を示している。保守作業の対象設備名と、保守作業の優先順位とが対応付けられている。対象設備名は、作業員が選択可能な選択ボタン201、202、…、2XXとして機能する。例えば、作業員が選択ボタン201を選択した場合、入出力装置130には、図20に示される詳細通知画面300が表示される。
【0168】
図20は、本実施の形態に係る保守作業通知システム100による詳細通知画面の一例を示す図である。詳細通知画面300では、作業の開始時刻と、対象設備と、作業内容とを含んでいる。作業員は、詳細通知画面300を見ることにより、いつ、どの設備で、何の作業を行えばよいのかを簡単に把握することができる。なお、詳細通知画面300に含まれる内容は、これらに限定されない。詳細通知画面300には、対象設備の場所を表す地図、及び、作業手順などが含まれてもよい。
【0169】
また、詳細通知画面300は、作業員が選択可能な完了ボタン301を含んでいる。完了ボタン301を作業員が選択した場合、入出力装置130は、対象設備についての対象作業が完了したことを示す完了通知を処理装置120に出力する。これにより、保守作業の完了を処理装置120に簡単に通知することができ、作業リストの更新を行うことができる。
【0170】
なお、ディスプレイに表示される通知画面は、図19及び図20に示される例に限定されない。決定される対象作業及び対象設備が1つのみである場合は、図19に示される通知画面200は表示されなくてもよい。また、対象作業及び対象設備が複数である場合であっても、通知画面200には、選択ボタン201、202、…、2XXの代わりに作業内容及び作業時間、並びに、完了ボタン301が表示されてもよい。
【0171】
(他の実施の形態)
以上、1つ又は複数の態様に係る保守作業通知システム及び保守作業通知方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したもの、及び、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本開示の範囲内に含まれる。
【0172】
また、上記実施の形態で説明した装置間の通信方法については特に限定されるものではない。装置間で無線通信が行われる場合、無線通信の方式(通信規格)は、例えば、ZigBee(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、又は、無線LAN(Local Area Network)などの近距離無線通信である。あるいは、無線通信の方式(通信規格)は、インターネットなどの広域通信ネットワークを介した通信でもよい。また、装置間においては、無線通信に代えて、有線通信が行われてもよい。有線通信は、具体的には、電力線搬送通信(PLC:Power Line Communication)又は有線LANを用いた通信などである。
【0173】
また、上記実施の形態において、特定の処理部が実行する処理を別の処理部が実行してもよい。また、複数の処理の順序が変更されてもよく、あるいは、複数の処理が並行して実行されてもよい。また、保守作業通知システムが備える構成要素の複数の装置への振り分けは、一例である。例えば、一の装置が備える構成要素を他の装置が備えてもよい。また、保守作業通知システムは、単一の装置として実現されてもよい。
【0174】
例えば、上記実施の形態において説明した処理は、単一の装置(システム)を用いて集中処理することによって実現してもよく、又は、複数の装置を用いて分散処理することによって実現してもよい。また、上記プログラムを実行するプロセッサは、単数であってもよく、複数であってもよい。すなわち、集中処理を行ってもよく、又は分散処理を行ってもよい。
【0175】
また、上記実施の形態において、制御部などの構成要素の全部又は一部は、専用のハードウェアで構成されてもよく、あるいは、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。各構成要素は、CPU(Central Processing Unit)又はプロセッサなどのプログラム実行部が、HDD(Hard Disk Drive)又は半導体メモリなどの記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。
【0176】
また、制御部などの構成要素は、1つ又は複数の電子回路で構成されてもよい。1つ又は複数の電子回路は、それぞれ、汎用的な回路でもよいし、専用の回路でもよい。
【0177】
1つ又は複数の電子回路には、例えば、半導体装置、IC(Integrated Circuit)又はLSI(Large Scale Integration)などが含まれてもよい。IC又はLSIは、1つのチップに集積されてもよく、複数のチップに集積されてもよい。ここでは、IC又はLSIと呼んでいるが、集積の度合いによって呼び方が変わり、システムLSI、VLSI(Very Large Scale Integration)、又は、ULSI(Ultra Large Scale Integration)と呼ばれるかもしれない。また、LSIの製造後にプログラムされるFPGA(Field Programmable Gate Array)も同じ目的で使うことができる。
【0178】
また、本開示の全般的又は具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路又はコンピュータプログラムで実現されてもよい。あるいは、当該コンピュータプログラムが記憶された光学ディスク、HDD若しくは半導体メモリなどのコンピュータ読み取り可能な非一時的記録媒体で実現されてもよい。また、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0179】
また、上記の各実施の形態は、請求の範囲又はその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本開示は、稼働率を高めることができる保守作業通知システムなどとして利用でき、例えば、製造装置の管理システム、作業員の人員管理システム及び製造システムなどに利用することができる。
【符号の説明】
【0181】
1 設備群
10a、10b、10c、10x 設備
20a、20b、20c 仕掛品置き場
30a、30b、30c 仕掛品
100 保守作業通知システム
110 記憶装置
111 製品データベース
112 設備固有値データベース
113 設備状態データベース
114 保守作業履歴データベース
115 保守予定データベース
120 処理装置
121 タクトタイム推定部
122 余裕時間推定部
123 実行可能作業判断部
124 保守予定更新部
130 入出力装置
200 通知画面
201、202 選択ボタン
300 詳細通知画面
301 完了ボタン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図19
図20