(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】水系二次電池用負極活物質、水系二次電池用負極及び水系二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20241025BHJP
H01M 10/36 20100101ALI20241025BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20241025BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20241025BHJP
C01B 32/00 20170101ALI20241025BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M10/36 A
H01M10/0568
H01M10/0567
C01B32/00
(21)【出願番号】P 2021574490
(86)(22)【出願日】2020-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2020044693
(87)【国際公開番号】W WO2021152998
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2020015216
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 健二
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正信
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-59527(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102903921(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103043641(CN,A)
【文献】国際公開第2020/195092(WO,A1)
【文献】吉田 周平 他,溶液法による表面修飾黒鉛へのリチウム挿入,電気化学会講演要旨集 第69回大会,社団法人電気化学会,2002年,1F20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/36-10/39
H01M 10/05-10/0587
C01B 32/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水及びリチウム塩を含む水系電解液を用いた水系二次電池に適用される負極活物質であって、
前記負極活物質は、難黒鉛化性炭素を含み、
前記難黒鉛化性炭素は、その表面に、C-F結合基を有し、
前記難黒鉛化性炭素は、X線光電子分光測定により得られるXPSスペクトルにおいて、C-F結合に由来する688eV近傍のピーク強度をI
688eVとし、C-C結合に由来する284eV近傍のピーク強度をI
284eVとして、前記ピーク強度I
284eVに対する前記ピーク強度I
688eVの比(I
688eV/I
284eV値)をXとし、BET比表面積(m
2/g)をYとした時に、前記Xと前記Yが、Y<-0.3X+3.75、0.1≦X≦5、Y≧2を満たす、水系二次電池用負極活物質。
【請求項2】
前記難黒鉛化性炭素は、難黒鉛化性炭素表面に存在するフッ素百分率をA原子%とし、難黒鉛化性炭素全体に存在するフッ素百分率をB原子%とした時に、前記A原子%/前記B原子%が3以上30以下である、請求項1に記載の水系二次電池用負極活物質。
【請求項3】
前記難黒鉛化性炭素の平均粒径(D50)は、3μm以上20μm以下である、請求項1又は2に記載の水系二次電池用負極活物質。
【請求項4】
水及びリチウム塩を含む水系電解液を用いた水系二次電池に適用される負極であって、
前記負極は、請求項1~3のいずれか1項に記載の水系二次電池用負極活物質を含む、
水系二次電池用負極。
【請求項5】
負極と、正極と、水及びリチウム塩を含む水系電解液とを有する水系二次電池であって、前記負極は、請求項4に記載の水系二次電池用負極である、水系二次電池。
【請求項6】
前記リチウム塩は、リチウムイオンとイミドアニオンとを有する塩を含む、請求項5に記載の水系二次電池。
【請求項7】
前記リチウム塩は、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含む、請求項6に記載の水系二次電池。
【請求項8】
前記水系電解液に含まれる前記リチウム塩に対する前記水の含有量は、前記リチウム塩:前記水のモル比で1:4以下である、請求項5~7のいずれか1項に記載の水系二次電池。
【請求項9】
前記水系電解液は、有機カーボネートを含む、請求項5~8のいずれか1項に記載の水系二次電池。
【請求項10】
前記水系電解液に含まれる前記リチウム塩に対する前記有機カーボネートの含有量は、前記リチウム塩:前記有機カーボネートのモル比で1:0.01~1:2.5の範囲であり、前記水系電解液に含まれる前記リチウム塩に対する前記水の含有量は、前記リチウム塩:前記水のモル比で1:0.5~1:4の範囲である、請求項9に記載の水系二次電池。
【請求項11】
前記有機カーボネートは、環状有機カーボネートを含む、請求項9又は10に記載の水系二次電池。
【請求項12】
前記環状有機カーボネートは、フッ素を構成元素として含む、請求項11に記載の水系二次電池。
【請求項13】
前記環状有機カーボネートは、フルオロエチレンカーボネートを含む、請求項12に記載の水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水系二次電池用負極活物質、水系二次電池用負極及び水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高出力、高エネルギー密度の二次電池として、正極、負極、及び電解液を備え、正極と負極との間でリチウムイオンを移動させて充放電を行うリチウムイオン二次電池が広く利用されている。従来の二次電池では、高エネルギー密度を達成するために、有機溶媒系の電解液が使用されている。
【0003】
しかし、有機溶媒は一般に可燃性であり、安全性の確保が重要な課題となっている。また、有機溶媒のイオン伝導度は水溶液と比べて低く、急速な充放電特性が十分でない点も問題となっている。
【0004】
このような問題に鑑みて、水を含有する電解液(以下、水系電解液と称する場合がある)を用いた二次電池の研究が行われている。例えば、特許文献1及び2には、二次電池の水系電解液として、高濃度のアルカリ塩を含む水溶液を用いることが提案され、また、特許文献3には、高濃度のアルカリ塩を含む水溶液に有機カーボネートを添加した水系電解液を用いることが提案されている。また、特許文献4には、負極と、正極と、水系電解液とを有し、負極は負極活物質とポリテトラフルオロエチレンとの複合体を有する二次電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6423453号公報
【文献】国際公開第2017/122597号
【文献】特開2018-73819号公報
【文献】特開2019-57359号公報
【発明の概要】
【0006】
従来の水系二次電池では、低い充放電効率しか得られないといった課題がある。
【0007】
本開示の一態様は、水及びリチウム塩を含む水系電解液を用いた水系二次電池に適用される負極活物質であって、前記負極活物質は、難黒鉛化性炭素を含み、前記難黒鉛化性炭素は、その表面に、C-F結合基を有し、前記難黒鉛化性炭素は、X線光電子分光測定により得られるXPSスペクトルにおいて、C-F結合に由来する688eV近傍のピーク強度をI688eVとし、C-C結合に由来する284eV近傍のピーク強度をI284eVとして、前記ピーク強度I284eVに対する前記ピーク強度I688eVの比(I688eV/I284eV値)をXとし、BET比表面積(m2/g)をYとした時に、前記Xと前記Yが、Y<-0.3X+3.75、0.1≦X≦5、Y≧2を満たす水系二次電池用負極活物質である。
【0008】
また、本開示の一態様は、上記水系二次電池用負極活物質を含む水系二次電池用負極である。
【0009】
また、本開示の一態様は、上記水系二次電池用負極と、正極と、水及びリチウム塩を含む水系電解液とを有する水系二次電池である。
【0010】
本開示によれば、水系二次電池の充放電効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の難黒鉛化性炭素におけるI
688eV/I
284eV値(X)とBET比表面積(Y)との関係を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の水系二次電池の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一般的に、水及びリチウム塩を含む水系電解液を用いた水系二次電池において、負極活物質として炭素材料を使用すると、炭素材料上で、水系電解液の還元分解が盛んに行われるため、負極活物質の充電反応の進行が阻害される。しかし、本発明者らは鋭意検討した結果、負極活物質として、表面にC-F結合基を形成した難黒鉛化性炭素を使用すること、また、当該難黒鉛化性炭素表面のC-F結合基の絶対量及び当該難黒鉛化性炭素のBET比表面積を適正化することによって、水系電解液の還元分解を抑制して負極活物質の充放電反応を進行させることができ、それによって、水系二次電池の充放電効率を向上させることができることを見出した。以下、本開示の一態様について説明する。
【0013】
本開示の一態様である水系二次電池用負極活物質は、難黒鉛化性炭素を含み、前記難黒鉛化性炭素は、その表面に、C-F結合基を有し、前記難黒鉛化性炭素は、X線光電子分光測定により得られるXPSスペクトルにおいて、C-F結合に由来する688eV近傍のピーク強度をI688eVとし、C-C結合に由来する284eV近傍のピーク強度をI284eVとして、前記ピーク強度I284eVに対する前記ピーク強度I688eVの比(I688eV/I284eV値)をXとし、BET比表面積(m2/g)をYとした時に、前記Xと前記Yが、Y<-0.3X+3.75、0.1≦X≦5、Y≧2を満たす水系二次電池用負極活物質である。本開示の一態様である水系二次電池用負極活物質を用いることにより、二次電池の充放電効率を向上させることができる。当該効果を奏するメカニズムは十分に明らかでないが、以下のことが推察される。
【0014】
難黒鉛化性炭素表面のC-F結合基は、フッ素が難黒鉛化性炭素や難黒鉛化性炭素表面に存在する官能基と結合した表面修飾基であり、後述するフッ素処理を難黒鉛化性炭素に施すことにより形成される。そして、難黒鉛化性炭素表面にC-F結合基を形成することにより、難黒鉛化性炭素表面の欠陥部位(電気化学活性部位)における電気化学触媒活性を抑制することができる。その結果、水系電解液の還元分解により難黒鉛化性炭素表面に形成される皮膜の成長速度を抑制でき、皮膜の緻密性を向上させることができる。また、C-F結合基が有する撥水性によって水系電解液中の水分子を難黒鉛化性炭素表面から遠ざける効果も期待できる。但し、難黒鉛化性炭素表面のC-F結合基は、リチウムイオンをトラップする不可逆サイトにもなり得るため、C-F結合基の絶対量が多すぎると、放電の際に負極活物質から放出されるリチウム量が減少する。したがって、難黒鉛化性炭素表面のC-F結合基の絶対量を適正量にすることで、緻密な皮膜を形成できると共に不可逆サイトの増加によるリチウム放出量の減少を抑制できるため、負極活物質の充放電反応を進行させ、二次電池の充放電効率の向上を図ることができる。具体的には、上記のように、ピーク強度I284eVに対するピーク強度I688eVの比(I688eV/I284eV値)をXとし、BET比表面積をYとした時に、前記Xと前記Yが、Y<-0.3X+3.75、0.1≦X≦5、Y≧2を満たすことで、難黒鉛化性炭素表面に存在するC-F結合基は上記効果を奏する観点において適正量となる。
【0015】
図1は、本開示の難黒鉛化性炭素におけるI
688eV/I
284eV値(X)とBET比表面積(Y)との関係を示す図である。
図1に示すように、グレーで塗りつぶされた領域Gが、I
688eV/I
284eV値(X)、BET比表面積(Y)が、Y<-0.3X+3.75、0.1≦X≦5、Y≧2を満たす領域である。本開示の難黒鉛化性炭素におけるI
688eV/I
284eV値(X)とBET比表面積(Y)は、領域Gに含まれる。なお、I
688eV/I
284eV値(X)が0.1≦X≦5を満たしていても、BET比表面積(Y)がY<2の場合には、難黒鉛化性炭素表面のC-F結合基の絶対量が少ないため、緻密な皮膜が形成されないし、BET比表面積(Y)がY≧-0.3X+3.75の場合には、難黒鉛化性炭素表面のC-F結合基の絶対量が多いため、不可逆サイトの増加によるリチウム放出量が減少する。また、BET比表面積(Y)がY<-0.3X+3.75、Y≧2を満たしていても、I
688eV/I
284eV値(X)が0.1>Xの場合には、難黒鉛化性炭素表面のC-F結合基の絶対量が少ないため、緻密な皮膜が形成されないし、I
688eV/I
284eV値(X)がX>5の場合には、難黒鉛化性炭素表面のC-F結合基の絶対量が多いため、不可逆サイトの増加によりリチウム放出量が減少する。
【0016】
以下、本開示に係る水系二次電池の実施形態について詳説する。
【0017】
本実施形態の水系二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。
図2は、本実施形態の水系二次電池の一例を示す模式断面図である。
図2に示す水系二次電池20は、カップ形状の電池ケース21と、電池ケース21の上部に設けられた正極22と、正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。
図2に示す水系二次電池20は、正極22と負極23との空間に電解液27が満たされている。以下、電解液27、正極22、負極23、セパレータ24について詳述する。
【0018】
電解液27は、水を含む溶媒と、リチウム塩とを含む水系電解液である。水系電解液は可燃性を有さない水を含むため、水系二次電池20の安全性を高めることができる。溶媒は水のみでもよいが、電解液27に含まれる溶媒の総量に対する水の含有量が体積比で50%以上であることが好ましい。水の含有量を体積比で50%以上とすることで、水系二次電池20の安全性を高めることができる場合がある。
【0019】
また、電解液27に含まれるリチウム塩に対する水の量は、リチウム塩:水のモル比で、1:4以下であることが好ましく、1:0.5~1:4の範囲であることがより好ましく、1:0.5~1:3モルの範囲であることがより好ましい。電解液27に含まれるリチウム塩に対する水の量が上記範囲内にあると、上記範囲外の場合と比較して、例えば、電解液27の電位窓が拡大し、水系二次電池20への印加電圧をより高めることができる場合がある。
【0020】
電解液27は、水以外の溶媒を含んでいてもよい。水以外の溶媒としては、例えば、エステル類、エーテル類、ニトリル類、アルコール類、ケトン類、アミン類、アミド類、硫黄化合物類及び炭化水素類等の有機溶媒が挙げられる。また、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体等でもよい。具体的には、水系二次電池の電池特性向上等の点で、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニリデンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状有機カーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状有機カーボネート、フルオロエチレンカーボネート、フルオロジメチルカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル等のフッ素を構成元素として含むフッ素化有機カーボネート等の有機カーボネートが好ましい。特に上記例示した中では、例えば、電池の自己放電を抑制する等の点で、環状有機カーボネートやフッ素を構成元素として含むフッ素化有機カーボネートが好ましい。また、上記例示したフッ素化有機カーボネートの中では、フルオロエチレンカーボネートが好ましい。これらの有機溶媒は1種単独でも2種以上を併用してもよい。
【0021】
電解液27に含まれるリチウム塩に対する有機カーボネートの量は、リチウム塩:有機カーボネートのモル比で、1:0.01~1:2.5の範囲であることが好ましく、1:0.05~1:2の範囲であることがより好ましい。電解液27に含まれるリチウム塩に対する有機カーボネートの量が上記範囲内にあると、上記範囲外の場合と比較して、水系二次電池の電池特性の向上を図ることができる場合がある。
【0022】
リチウム塩は、水を含有する溶媒に溶解して解離し、リチウムイオンを電解液27中に存在させることができる化合物であれば、いずれも使用できる。リチウム塩は、正極及び負極を構成する材料との反応により電池特性の劣化を引き起こさないことが好ましい。このようなリチウム塩としては、例えば、過塩素酸、硫酸、硝酸等の無機酸との塩、塩化物イオン及び臭化物イオン等のハロゲン化物イオンとの塩、炭素原子を構造内に含む有機アニオンとの塩等が挙げられる。
【0023】
リチウム塩を構成する有機アニオンとしては、例えば、下記一般式(i)~(vi)で表されるアニオンが挙げられる。
(R1SO2)(R2SO2)N- (i)
(R1、R2は、それぞれ独立に、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。R1及びR2は互いに結合して環を形成してもよい。)
R3SO3
- (ii)
(R3は、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
R4CO2
- (iii)
(R4は、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
(R5SO2)3C- (iv)
(R5は、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
[(R6SO2)N(SO2)N(R7SO2)]2-(v)
(R6、R7は、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
[(R8SO2)N(CO)N(R9SO2)]2-(vi)
(R8、R9は、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
上記一般式(i)~(vi)において、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2がさらに好ましい。ハロゲン置換アルキル基のハロゲンとしてはフッ素が好ましい。ハロゲン置換アルキル基におけるハロゲン置換数は、もとのアルキル基の水素の数以下である。
【0024】
R1~R9のそれぞれは、例えば、以下の一般式(vii)で表される基である。
【0025】
CnHaFbClcBrdIe (vii)
(nは1以上の整数であり、a、b、c、d、eは0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満足する。)
上記一般式(i)で表される有機アニオンの具体例としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI;[N(CF3SO2)2]-)、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド(BETI;[N(C2F5SO2)2]-)、(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([N(C2F5SO2)(CF3SO2)]-)等が挙げられる。上記一般式(ii)で表される有機アニオンの具体例としては、例えばCF3SO3
-、C2F5SO3
-等が挙げられる。上記一般式(iii)で表される有機アニオンの具体例としては、例えばCF3CO2
-、C2F5CO2
-等が挙げられる。上記一般式(iv)で表される有機アニオンの具体例としては、例えば、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)炭素酸([(CF3SO2)3C]-)、トリス(パーフルオロエタンスルホニル)炭素酸([(C2F5SO2)3C]-)等が挙げられる。上記一般式(V)で表される有機アニオンの具体例としては、例えば、スルホニルビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([(CF3SO2)N(SO2)N(CF3SO2)]2-)、スルホニルビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド([(C2F5SO2)N(SO2)N(C2F5SO2)]2-)、スルホニル(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([(C2F5SO2)N(SO2)N(CF3SO2)]2-)等があげられる。上記一般式(vi)で表される有機アニオンの具体例としては、例えば、カルボニルビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([(CF3SO2)N(CO)N(CF3SO2)]2-)、カルボニルビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド([(C2F5SO2)N(CO)N(C2F5SO2)]2-)、カルボニル(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([(C2F5SO2)N(CO)N(CF3SO2)]2-)等があげられる。
【0026】
上記一般式(i)から(vi)以外の有機アニオンとしては、例えば、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ホウ酸等のアニオンが挙げられる。
【0027】
リチウム塩を構成するアニオンとしては、イミドアニオンが好ましい。イミドアニオンの好適な具体例としては、例えば、上記一般式(i)で表される有機アニオンとして例示したイミドアニオンのほか、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI;[N(FSO2)2]-)、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(FTI;[N(FSO2)(CF3SO2)]-)等が挙げられる。
【0028】
リチウムイオンとイミドアニオンとを有するリチウム塩は、電池の自己放電を効果的に抑制できる等の点で、例えば、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウム(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiFTI)が好ましく、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)がより好ましい。なお、これらは単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
他のリチウム塩の具体例としては、CF3SO3Li、C2F5SO3Li、CF3CO2Li、C2F5CO2Li、(CF3SO2)3CLi、(C2F5SO2)3CLi、(C2F5SO2)2(CF3SO2)CLi、(C2F5SO2)(CF3SO2)2CLi、[(CF3SO2)N(SO2)N(CF3SO2)]Li2、[(C2F5SO2)N(SO2)N(C2F5SO2)]Li2、[(C2F5SO2)N(SO2)N(CF3SO2)]Li2、[(CF3SO2)N(CO)N(CF3SO2)]Li2、[(C2F5SO2)N(CO)N(C2F5SO2)]Li2、[(C2F5SO2)N(CO)N(CF3SO2)]Li2、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム(LiClO4)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、水酸化リチウム(LiOH)、硝酸リチウム(LiNO3)、硫酸リチウム(Li2SO4)、硫化リチウム(Li2S)、水酸化リチウム(LiOH)等が挙げられる。これらは単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
電解液27は、添加剤を含むことが好ましい。添加剤は、例えば電池性能を向上させるために添加されるものであり、従来公知のあらゆる添加剤を使用できる。特に、電解液27の還元反応によって、負極上に、電気化学的に安定な皮膜を形成し、電解液27の還元分解反応を効果的に抑制することができる等の点で、ジカルボニル基含有化合物が好ましい。
【0031】
ジカルボニル基含有化合物は、例えば、コハク酸、グルタル酸、フタル酸、マレイン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イタコン酸、ジグリコール酸等が挙げられる。ジカルボニル基含有化合物は、無水物でもよく、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸等が挙げられる。上記のうち、負極上に、電気化学的に安定な皮膜を形成し、電解液27の還元分解反応をより効果的に抑制することができる点で、コハク酸、無水コハク酸、マレイン酸、無水マレイン酸、ジグリコール酸、グルタル酸等が好ましい。中でも、コハク酸、無水マレイン酸が好ましい。これらは1種単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0032】
添加剤の含有量は、例えば、電解液27の総量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましい。上記範囲とすることで、上記範囲外の場合と比較して、電解液27の還元分解反応を効果的に抑制することができる場合がある。
【0033】
正極22は、例えば、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極合材層とを備える。正極集電体としては、正極の電位範囲で電気化学的、化学的に安定な金属の箔、及び、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極集電体の形態は特に限定されるものではなく、例えば、当該金属のメッシュ体、パンチングシート、エキスパンドメタル等の多孔体を使用してもよい。正極集電体の材料としては、水系電解液を用いた二次電池に使用可能な公知の金属等を使用することができる。そのような金属としては、例えば、ステンレス鋼、Al、アルミニウム合金、Ti等が挙げられる。正極集電体の厚さは、集電性、機械的強度等の観点から、例えば3μm以上50μm以下が好ましい。
【0034】
正極合材層は、正極活物質を含む。また、正極合材層は、結着材、導電材等を含んでいてもよい。正極22は、例えば正極活物質、結着材、導電材等を含む正極合材スラリーを正極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥、圧延して、正極合材層を正極集電体上に形成することにより製造できる。
【0035】
正極活物質としては、例えば、リチウム(Li)、並びに、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びニッケル(Ni)等の遷移金属元素を含有するリチウム含有遷移金属酸化物が挙げられる。正極活物質としては、そのほか、遷移金属硫化物、金属酸化物、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)やピロリン酸鉄リチウム(Li2FeP2O7)などの1種類以上の遷移金属を含むリチウム含有ポリアニオン系化合物、硫黄系化合物(Li2S)、酸素や酸化リチウムなどの酸素含有金属塩等が挙げられる。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物が好ましく、遷移金属元素としてCo、Mn及びNiの少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0036】
リチウム含有遷移金属酸化物は、Co、Mn及びNi以外の他の添加元素を含んでいてもよく、例えば、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、鉛(Pb)、錫(Sn)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)及びケイ素(Si)等を含んでいてもよい。
【0037】
リチウム含有遷移金属酸化物の具体例としては、例えばLixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoyNi1-yO2、LixCoyM1-yOz、LixNi1-yMyOz、LixMn2O4、LixMn2-yMyO4、LiMPO4、Li2MPO4F(各化学式において、Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb及びBのうち少なくとも1種であり、0<x≦1.2、0<y≦0.9、2.0≦z≦2.3である)が挙げられる。リチウム含有遷移金属酸化物は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。高容量化の観点からは、リチウム含有遷移金属酸化物がリチウム以外の遷移金属の総量に対して80モル%以上のNiを含有することが好ましい。また、結晶構造の安定性の観点からは、リチウム含有遷移金属酸化物が、LiaNibCocAldO2(0<a≦1.2、0.8≦b<1、0<c<0.2、0<d≦0.1、b+c+d=1)であることがより好ましい。
【0038】
導電材としては、正極合材層の電気伝導性を高める公知の導電材が使用でき、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン等の炭素材料が挙げられる。結着材としては、正極活物質や導電材の良好な接触状態を維持し、また、正極集電体表面に対する正極活物質等の結着性を高める公知の結着材が使用でき、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)等が挙げられる。
【0039】
負極23は、例えば、負極集電体と、負極集電体上に形成された負極合材層とを備える。負極集電体としては、負極の電位範囲で電気化学的、化学的に安定な金属の箔、及び、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極集電体の形態は特に限定されるものではなく、例えば、当該金属のメッシュ体、パンチングシート、エキスパンドメタル等の多孔体を使用してもよい。負極集電体の材料としては、水系二次電池に使用可能な公知の金属等を使用することができる。そのような金属としては、例えば、Al、Ti、Mg、Zn、Pb、Sn、Zr、In等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上の合金等でもよく、少なくとも1つを主成分とする材料から構成されていればよい。また、2つ以上の元素を含む場合において、必ずしも合金化されている必要性はない。負極集電体の厚さは、集電性、機械的強度等の観点から、例えば3μm以上50μm以下が好ましい。
【0040】
負極合材層は、負極活物質を含む。また、負極合材層は、結着材、導電材等を含んでいてもよい。導電材や結着材は、正極側と同様のものを使用できる。負極23は、例えば負極活物質、結着材、導電材等を含む負極合材スラリーを負極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥、圧延して、負極合材層を負極集電体上に形成することにより製造できる。
【0041】
負極活物質は、表面にC-F結合基を有する難黒鉛化性炭素を含む。以下では、当該難黒鉛化性炭素を表面修飾難黒鉛化性炭素と称する場合がある。表面修飾難黒鉛化性炭素は、水系二次電池の充放電効率を向上させる点で、X線光電子分光測定により得られるXPSスペクトルにおいて、C-F結合に由来する688eV近傍のピーク強度をI688eVとし、C-C結合に由来する284eV近傍のピーク強度をI284eVとして、前記ピーク強度I284eVに対する前記ピーク強度I688eVの比(I688eV/I284eV値)をXとし、BET比表面積(m2/g)をYとした時に、前記Xと前記Yが、Y<-0.3X+3.75、0.1≦X≦5、Y≧2を満たしていればよいが、好ましくは、Y<-0.3X+3.75、0.1≦X≦2、Y≧3である。
【0042】
X線光電子分光法で測定されるXPSスペクトルによるピーク強度I688eV及びピーク強度I284eVは、以下の条件により得られる。
【0043】
測定装置:アルバック・ファイ社製、PHI Quantera SXM
使用X線源:Al-mono(1486.6eV)、20kV/100W
分析面積:100μmφ
光電子取り出し角:45°
中和条件:電子+フローティングイオン中和
測定範囲(eV):1300~0
ステップ(eV):1.0
パスE(eV):280.0
測定時間(msec/step):60
BET比表面積は、以下の測定条件により得られる。
【0044】
測定装置:カンタクローム製、Autosorb iQ-MP
予備乾燥(脱気条件):真空中、100℃、1時間
吸着ガス:N2
表面修飾難黒鉛化性炭素は、難黒鉛化性炭素にフッ素処理を行うことにより得られる。難黒鉛化性炭素のフッ素処理は、例えば、乾式法又は湿式法によって行なうことができる。乾式法では、気体のフッ素化剤を用いて気相で難黒鉛化性炭素にフッ素処理を施す。湿式法では、液体のフッ素化剤を用いて液相で難黒鉛化性炭素にフッ素処理を施す。これらの方法のなかでは、操作が簡便であること、難黒鉛化性炭素表面にC-F結合基を形成し易く、難黒鉛化性炭素内部にFがドープされ難い等の観点から、乾式法が好ましい。
【0045】
フッ素化剤としては、例えば、フッ素(F2)、三フッ化窒素、三フッ化塩素等などが挙げられるが、フッ素化剤のなかでは、取り扱いやすさの観点から、フッ素(F2)が好ましい。また、乾式法によってフッ素処理を施す場合には、フッ素化剤を窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、キセノンガスなどの不活性ガス等の希釈ガスで希釈してもよい。
【0046】
以下においては、乾式法によって、難黒鉛化性炭素にフッ素処理を施す場合について説明する。
【0047】
乾式法によって難黒鉛化性炭素にフッ素処理を施す場合、難黒鉛化性炭素をフッ素化剤のガスと接触させることにより、難黒鉛化性炭素にフッ素処理を施すことができる。難黒鉛化性炭素をフッ素化剤のガスと接触させる方法としては、例えば、フッ素化剤のガスの閉鎖雰囲気中に難黒鉛化性炭素を存在させ、難黒鉛化性炭素をフッ素化剤のガスと接触させる方法(バッチ法という)、難黒鉛化性炭素にフッ素化剤のガスを供給することにより、難黒鉛化性炭素をフッ素化剤のガスと接触させる方法(フロー法)などが挙げられる。
【0048】
難黒鉛化性炭素をフッ素化剤のガスと接触させる際には、フッ素処理の効率を高める等の点で、難黒鉛化性炭素を加熱することが好ましい。加熱温度は、例えば、200℃以上500℃以下が好ましく、300℃以上400℃以下がより好ましい。
【0049】
難黒鉛化性炭素をフッ素化剤のガスと接触させる時間が長くなればなるほど、C-F結合に由来するピーク強度I688eVが高くなる。また、難黒鉛化性炭素をフッ素化剤のガスと接触させる時間が長くなると、フッ素化処理した表面修飾難黒鉛化性炭素のBET比表面積は小さくなる。したがって、難黒鉛化性炭素をフッ素化剤のガスと接触させる時間は、I688eV/I284eV値XとBET比表面積(m2/g)Yが、Y<-0.3X+3.75、0.1≦X≦5、Y≧2を満たす時間にする必要がある。なお、難黒鉛化性炭素のフッ素化処理により、表面修飾難黒鉛化性炭素のBET比表面積は小さくなるので、フッ素化処理前の難黒鉛化性炭素のBET比表面積(m2/g)Yは上記を満たしていなくてもよい。
【0050】
表面修飾難黒鉛化性炭素は、X線光電子分光測定により得られるXPSスペクトルにおいて、Me-F結合(Me:アルカリ金属、アルカリ土類金属)に由来する685eV近傍(例えば、683.5eV~686.5eVの範囲)にピークが確認されないことが好ましい。但し、X線光電子分光法で測定されるXPSスペクトルによるMe-F結合に由来するピークの確認は、二次電池の充放電前の表面修飾難黒鉛化性炭素に対して行われる。これは、二次電池の充放電後では、表面修飾難黒鉛化性炭素の表面にLiF等のMe-F結合を有する皮膜が形成される場合があるためである。表面にMe-F結合基を有しない表面修飾難黒鉛化性炭素を用いることにより、例えば、初充電時に表面修飾黒鉛表面にLiF等の絶縁物が存在しないため、充電時、局所的な電流密度の不均一化を抑制でき、より薄くて緻密な皮膜を形成することができるようになる。そのため、表面修飾難黒鉛化性炭素間の接触抵抗を抑制でき、出力特性等の電池特性を向上することができる場合がある。
【0051】
X線光電子分光法で測定されるXPSスペクトルによるMe-F結合に由来するピークの測定条件は、以下の通りである。
【0052】
測定装置:アルバック・ファイ社製、PHI Quantera SXM
使用X線源:Al-mono(1486.6eV)、20kV/100W
分析面積:100μmφ
光電子取り出し角:45°
中和条件:電子+フローティングイオン中和
測定元素:F1s
測定範囲(eV):695~675
ステップ(eV):0.05
パスE(eV):55
測定時間(msec/step):60
表面修飾難黒鉛化性炭素は、その表面に存在するフッ素百分率(原子%)をA原子%とし、表面修飾難黒鉛化性炭素全体に存在するフッ素百分率(原子%)をB原子%とした時、A原子%/B原子%が3以上30以下であることが好ましい。A原子%/B原子%が3未満の場合、表面修飾難黒鉛化性炭素表面のC-F結合基が少なく、表面に形成される皮膜の緻密性が低下したり、表面修飾難黒鉛化性炭素内部にF原子が多く、内部にリチウムイオンをトラップする不可逆サイトが増加したりする場合があるため、A原子%/B原子%が上記範囲を満たす場合と比較して、二次電池の充放電効率が低下する場合がある。また、A原子%/B原子%が30を超える場合には、表面修飾難黒鉛化性炭素表面のC-F結合基が多く、表面にリチウムイオンをトラップする不可逆サイトが増加する場合があるため、A原子%/B原子%が上記範囲を満たす場合と比較して、二次電池の充放電効率が低下する場合がある。表面修飾難黒鉛化性炭素の表面に存在するフッ素量を多くするには、前述の乾式法によるフッ素処理を実施することが好ましい。
【0053】
表面修飾難黒鉛化性炭素表面のフッ素百分率(A原子%)は、X線光電子分光測定により算出される値である。具体的には、X線光電子分光測定により、フッ素量(原子%)、炭素量(原子%)、酸素量(原子%)を求め、これらの合計量を100として、フッ素百分率算出し、この値を表面修飾難黒鉛化性炭素表面のフッ素百分率(A原子%)とする。また、表面修飾難黒鉛化性炭素全体のフッ素百分率(B原子%)は、以下の元素分析装置を用いて算出される値である。有機元素分析システム(三菱ケミカルアナリティック社製、XS-2100H)により、表面修飾難黒鉛化性炭素全体のフッ素百分率(重量%)を求め、次に、元素分析装置(ジェイ・サイエンス・ラボ社製、JM11)により、表面修飾難黒鉛化性炭素全体の炭素百分率(重量%)を求める。表面修飾難黒鉛化性炭素全体のフッ素量(重量%)、炭素量(重量%)、酸素量(重量%)の合計を100として、前述のフッ素百分率(重量%)及び炭素百分率(重量%)を差し引くことにより、表面修飾難黒鉛化性炭素全体の酸素百分率(重量%)を求める。そしてフッ素百分率(重量%)をフッ素百分率(原子%)に換算し、この値を表面修飾難黒鉛化性炭素全体のフッ素百分率(B原子%)とする。
【0054】
表面修飾難黒鉛化性炭素の平均粒径(D50)は、例えば、3μm以上20μm以下であることが好ましい。表面修飾難黒鉛化性炭素の平均粒径(D50)が上記範囲を満たす場合、上記範囲を満たさない場合と比較して、負極の充填密度が向上し、良好な電池特性が得られる場合がある。平均粒径(D50)は、レーザー回折散乱法によって得られる粒度分布において、体積積算値が50%となる体積平均粒径を意味する。
【0055】
フッ素処理に供される難黒鉛化性炭素は、微小な黒鉛の結晶がランダム方向に配置され、それ以上の黒鉛化がほとんど進行しない炭素材料であり、例えば、X線回折測定により得られる(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.37nm以上、回折角2θ=22.5°近傍(例えば、21.0°~24.0°)のピークの半値幅が5°以上である。回折角2θ=22.5°近傍のピークは、難黒鉛化性炭素の(002)面に由来するピークである。
【0056】
X線回折測定の測定条件は以下の通りである。
【0057】
測定装置:PANalytical社製、X’PertPRO
ターゲット/モノクロ:Cu/C
サンプル状態:粉末
管電圧/管電流:45kV/40mA
走査モード:Continuous
ステップ幅:0.01°
走査速度:5s/step
スリット幅(DS/SS/RS):0.5°/None/0.1mm
測定範囲:10°~120°
測定温度:室温
解析ソフト:PANalytical社製、HighScore Plus
格子定数算出方法:局所プロファイルフィッティング解析により算出したピーク位置及び面指数から回帰分析を用いて計算
負極活物質は、表面修飾難黒鉛化性炭素以外に、本開示の効果を損なわない範囲において、従来のリチウムイオン二次電池の負極活物質に使用可能な材料を含んでいてもよく、例えば、リチウム元素を含む合金や金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物のような金属化合物、シリコン等が挙げられる。リチウム元素を有する合金としては、例えばリチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等を挙げることができる。また、リチウム元素を有する金属酸化物としては、例えばチタン酸リチウム(Li4Ti5O12等)等を挙げることができる。また、リチウム元素を含有する金属窒化物としては、例えばリチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物等を挙げることができる。さらに、硫黄系化合物を例示することもできる。
【0058】
セパレータ24は、リチウムイオンを透過し、且つ、正極と負極とを電気的に分離する機能を有するものであれば特に限定されず、例えば、樹脂や無機材料等で構成される多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ24の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド、ポリアミドイミド、セルロース等が挙げられる。セパレータ24を構成する無機材料としては、ホウ珪酸ガラス、シリカ、アルミナ、チタニア等のガラス及びセラミックスが挙げられる。セパレータ24は、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層及びポリプロピレン層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータの表面にアラミド系樹脂、セラミック等の材料が塗布されたものを用いてもよい。
【0059】
<実施例>
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
<実施例1>
[負極]
難黒鉛化性炭素にフッ素処理を施した表面修飾難黒鉛化性炭素を作製した。具体的には、まず、難黒鉛化性炭素を投入したNiるつぼを加熱炉に投入し、加熱炉内にN2ガス(流量:2.7L/min)を1.5時間供給した。その後、N2ガスの供給を続けながら、加熱炉内を300℃まで3.5時間かけて昇温した。次に、加熱炉内の温度を300℃で維持し、N2ガス(流量:2.0L/min)にF2ガス(1.9mol/h)を混合した混合ガスを加熱炉内に2分間供給した。その後、加熱炉内の加熱を停止すると共に、加熱炉内にN2ガス(流量:2.7L/min)供給し、放冷して、表面修飾難黒鉛化性炭素を得た。得られた表面修飾難黒鉛化性炭素の物性値を測定し、その結果を表1にまとめた。
【0061】
表面修飾難黒鉛化性炭素(負極活物質)と、結着材としてのPVDFとを、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中で96:4の固形分質量比で混合して、負極合材スラリーを調製した。次に、当該負極合材スラリーを銅箔からなる負極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延した。そして、所定の電極サイズに切断して、負極を得た。負極合材スラリーの塗布量、及び負極活物質層の充填密度は、それぞれ32.3g/m2、1.0gcm-3であった。
【0062】
[正極]
正極活物質としてのLiCoO2と、導電材としてのカーボンブラックと、結着剤としてのPVdFとを、NMP中で94:3:3の質量比で混合して、正極合材スラリーを調製した。次に、当該正極合材スラリーを、Ti箔からなる正極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延した。そして、所定の電極サイズに切断して、正極を得た。正極合材スラリーの塗布量、及び正極活物質層の充填密度は、それぞれ65.0g/cm2、2.8gcm-3であった。
【0063】
[水系電解液]
LITFSIと、LIBETIと、水と、ジメチルカーボネート(DMC)と、フルオロエチレンカーボネート(FEC)とを、モル比で0.7:0.3:2.0:0.13:0.11となるように混合して、溶媒中の水体積比率が68%である水系電解液を調製した。
【0064】
[試験セル]
上記負極を作用極、上記正極を対極、Ag/AgCl(3M NaCl)を参照極として、上記電解液を入れた三電極式セル(試験セル)を構築した。
【0065】
<実施例2>
表面修飾難黒鉛化性炭素の作製において、N2ガスとF2ガスの混合ガスを加熱炉内に10分間供給したこと以外は、実施例1と同様にして、表面修飾難黒鉛化性炭素を作製した。得られた表面修飾難黒鉛化性炭素の物性値を測定し、その結果を表1にまとめた。そして、この表面修飾難黒鉛化性炭素を負極活物質として用いたこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを構築した。
【0066】
<比較例1>
フッ素化処理を施していない難黒鉛化性炭素を負極活物質として用いた。難黒鉛化性炭素の物性値を測定し、その結果を表1にまとめた。この難黒鉛化性炭素を負極活物質として用いて、実施例1と同様にして、試験セルを構築した。
【0067】
<比較例2>
表面修飾難黒鉛化性炭素の作製において、加熱炉内を400℃まで4.5時間かけて昇温したこと、加熱炉内の温度を400℃で維持し、N2ガスとF2ガスの混合ガスを加熱炉内に2分間供給したこと以外は、実施例1と同様にして、表面修飾難黒鉛化性炭素を作製した。得られた表面修飾難黒鉛化性炭素の物性値を測定し、その結果を表1にまとめた。そして、この表面修飾難黒鉛化性炭素を負極活物質として用いたこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを構築した。
【0068】
<比較例3>
表面修飾難黒鉛化性炭素の作製において、N2ガスとF2ガスの混合ガスを加熱炉内に10分間供給したこと以外は、比較例2と同様にして、表面修飾難黒鉛化性炭素を作製した。得られた表面修飾難黒鉛化性炭素の物性値を測定し、その結果を表1にまとめた。そして、この表面修飾難黒鉛化性炭素を負極活物質として用いたこと以外、実施例1と同様にして、試験セルを構築した。
【0069】
実施例1~2及び比較例1~3の試験セルを用いてサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行い、1サイクル目の酸化電気量及び還元電気量を測定した。具体的には、電気化学測定装置に付属する解析ソフトを用いて、上記のCV測定で得られたX(電位)-Y(電流)曲線をX(時間)-Y(電流)曲線に変換し、還元反応が開始した時間から、酸化反応が開始した時間まで全体を積分することにより還元電気量(C)を算出し、酸化反応が開始した時間から還元反応が開始した時間まで全体を積分することにより酸化電気量(C)を算出した。還元電気量算出の際、酸化反応が開始しない場合は、1サイクル目終了時点まで全体を積分することにより還元電気量(C)を算出し、酸化電気量(C)を0とした。また、酸化電気量算出の際、還元反応が開始しない場合は、1サイクル目終了時間まで全体を積分することにより酸化電気量(C)を算出した。そして、下記式を用い、初回効率(%)を求めた。
初回効率(%)=(酸化電気量(C))/(還元電気量(C))×100
サイクリックボルタンメトリーの測定条件を、以下に示した。
【0070】
開始電位:OCV
第一折り返し電位:-2.950V vs.Ag/AgCl(3M NaCl)
(Li基準で0.288V)
第二折り返し電位:-0.238V vs.Ag/AgCl(3M NaCl)
(Li基準で3V)
サイクル数:2サイクル
掃引速度:0.5mV/sec
測定温度:25℃
表1に示す初回効率は、比較例1の1サイクル目の充放電効率を100として、他の実施例及び比較例の1サイクル目の充放電効率を相対的に示した値である。
【0071】
【0072】
I
688eV/I
284eV値(X)、BET比表面積(Y)が、Y<-0.3X+3.75、0.1≦X≦5、Y≧2を満たす領域(
図1に示す領域G)に含まれる表面修飾難黒鉛化性炭素を使用した実施例1及び2は、
図1に示す領域Gに含まれない負極活物質を使用した比較例1~3と比べて、充放電効率が増加した。
【符号の説明】
【0073】
20 水系二次電池
21 電池ケース
22 正極
23 負極
24 セパレータ
25 ガスケット
26 封口板
27 電解液。