(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】直流アーク溶接制御方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/073 20060101AFI20241025BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20241025BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20241025BHJP
B23K 9/173 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
B23K9/073 545
B23K9/073 525
B23K9/095 501Z
B23K9/12 304Z
B23K9/173 A
(21)【出願番号】P 2022524361
(86)(22)【出願日】2021-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2021017055
(87)【国際公開番号】W WO2021235210
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2024-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2020087627
(32)【優先日】2020-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 昂裕
(72)【発明者】
【氏名】中川 晶
(72)【発明者】
【氏名】藤原 潤司
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-016482(JP,A)
【文献】特開2009-233728(JP,A)
【文献】国際公開第2019/203162(WO,A1)
【文献】特開2014-226709(JP,A)
【文献】特開2007-237270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返して溶接を行う直流アーク溶接制御方法であって、
前記アーク期間は、第1期間と第2期間と第3期間と第4期間とを少なくとも含み、
前記第1期間に、溶接ワイヤに流れる溶接電流を第1電流値になるまで増加させるステップと、
前記第2期間に、所定の時間傾度で前記溶接電流を前記第1電流値から第2電流値になるまで低下させるステップと、
前記第3期間に、前記溶接電流を前記第2電流値に維持するステップと、
前記第4期間に、前記溶接電流を前記第2電流値から前記第1電流値よりも低く前記第2電流値よりも高い第3電流値まで上昇させた後、前記第4期間が終了するまで、前記溶接電流を前記第3電流値に維持するステップと、を少なくとも備え、
前記短絡期間と前記アーク期間とにわたって、前記溶接ワイヤの送給速度は一定であり、
前記第2期間では、溶接出力を定電圧制御し、
少なくとも前記第3期間と前記第4期間とでは、溶接出力をそれぞれ定電流制御
し、
前記短絡期間では、前記溶接ワイヤと母材とを短絡させて前記溶接ワイヤの先端に形成された溶滴を前記母材に短絡移行させ、
前記第1期間では、前記溶接ワイヤと前記母材の間にアークを発生させ、
前記第2期間では、アーク長が所定の値となるようにするとともに、前記溶接ワイヤの先端に溶滴を形成させ、
前記第3期間では、前記溶接ワイヤを前記母材に形成された溶融池に接触させるとともに、前記溶滴を前記溶融池に一部吸収させ、
前記第4期間では、前記溶接ワイヤと前記母材の間に発生したアークを維持するとともに、前記溶接ワイヤの先端に溶滴を成長させることを特徴とする直流アーク溶接制御方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の直流アーク溶接制御方法において、
前記第1電流値は、400A以上、500A以下であることを特徴とする直流アーク溶接制御方法。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の直流アーク溶接制御方法において、
前記時間傾度は、300A/msec以上、700A/msec以下であることを特徴とする直流アーク溶接制御方法。
【請求項4】
請求項1ないし
3のいずれか1項に記載の直流アーク溶接制御方法において、
前記第2電流値は、100A以上、200A以下であることを特徴とする直流アーク溶接制御方法。
【請求項5】
請求項1ないし
4のいずれか1項に記載の直流アーク溶接制御方法において、
前記第3電流値は、100A以上、200A以下であることを特徴とする直流アーク溶接制御方法。
【請求項6】
請求項1ないし
5のいずれか1項に記載の直流アーク溶接制御方法において、
前記第3期間は、0.1msec以上、3msec以下であることを特徴とする直流アーク溶接制御方法。
【請求項7】
請求項1ないし
6のいずれか1項に記載の直流アーク溶接制御方法において、
前記第3期間は、前記短絡期間の1/3以下であることを特徴とする直流アーク溶接制御方法。
【請求項8】
請求項
7に記載の直流アーク溶接制御方法において、
前記第3期間は、1msec以上、2msec以下であり、
前記短絡期間は、2msec以上、6msec以下であることを特徴とする直流アーク溶接制御方法。
【請求項9】
請求項1ないし
8のいずれか1項に記載の直流アーク溶接制御方法において、
溶接中に母材に吹き付けられるシールドガスは、不活性ガスと炭酸ガスとの混合ガスであることを特徴とする直流アーク溶接制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は直流アーク溶接制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の送給速度で溶接ワイヤを送給させ、短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返して母材の溶接を行うアーク溶接が知られている。この場合、溶接箇所に対してシールドガスを吹き付けながらアーク溶接が行われる。
【0003】
このようなアーク溶接において、アーク期間の初期に高い電流値のピーク電流を溶接ワイヤに流すことで、溶接ワイヤと母材との短絡発生を抑制し、スパッタを低減する方法が広く知られている(例えば特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-109163号公報
【文献】特開2006-021227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シールドガスとして、Ar(アルゴン)ガス等の不活性ガスを主成分とし炭酸ガスを混合した混合ガスを用いる場合、溶接ワイヤの先端に形成された溶滴の離脱性が良化する。
【0006】
しかし、特許文献1,2に開示される従来の方法において、前述の混合ガスを用いてアーク溶接を行うと、ピーク電流の印加時に、溶滴が不規則なタイミングで溶接ワイヤから離脱し、離脱タイミングの周期性が乱れる。このため、アークが不安定となり、溶接ワイヤと母材との微小短絡が起こりやすくなる。その結果、スパッタが発生して、母材に形成される溶接ビードの美観を損ねたり、溶接不良が発生したりするおそれがあった。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたもので、その目的は、溶滴の離脱タイミングを安定させ、スパッタの発生を抑制可能な直流アーク溶接制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る直流アーク溶接制御方法は、短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返して溶接を行う直流アーク溶接制御方法であって、前記アーク期間は、第1期間と第2期間と第3期間と第4期間とを少なくとも含み、前記第1期間に、溶接ワイヤに流れる溶接電流を第1電流値になるまで増加させるステップと、前記第2期間に、所定の時間傾度で前記溶接電流を前記第1電流値から第2電流値になるまで低下させるステップと、前記第3期間に、前記溶接電流を前記第2電流値に維持するステップと、前記第4期間に、前記溶接電流を前記第2電流値から前記第1電流値よりも低く前記第2電流値よりも高い第3電流値まで上昇させた後、前記第4期間が終了するまで、前記溶接電流を前記第3電流値に維持するステップと、を少なくとも備え、前記短絡期間と前記アーク期間とにわたって、前記溶接ワイヤの送給速度は一定であり、前記第2期間では、溶接出力を定電圧制御し、少なくとも前記第3期間と前記第4期間とでは、溶接出力をそれぞれ定電流制御し、前記短絡期間では、前記溶接ワイヤと母材とを短絡させて前記溶接ワイヤの先端に形成された溶滴を前記母材に短絡移行させ、前記第1期間では、前記溶接ワイヤと前記母材の間にアークを発生させ、前記第2期間では、アーク長が所定の値となるようにするとともに、前記溶接ワイヤの先端に溶滴を形成させ、前記第3期間では、前記溶接ワイヤを前記母材に形成された溶融池に接触させるとともに、前記溶滴を前記溶融池に一部吸収させ、前記第4期間では、前記溶接ワイヤと前記母材の間に発生したアークを維持するとともに、前記溶接ワイヤの先端に溶滴を成長させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶滴の離脱タイミングを安定させ、スパッタの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るアーク溶接装置の概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、溶接時の溶接電流及び溶接電圧の出力波形とワイヤ送給速度と溶滴移行状態とを示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0012】
[アーク溶接装置の構成]
図1は、本実施形態におけるアーク溶接装置の概略構成図である。アーク溶接装置100は、入力電源1から入力した交流電力を整流する1次整流部2と、溶接出力を制御するスイッチング部3と、スイッチング部3の出力を入力して溶接に適した電力に変換するトランス4とを備える。また、本実施形態のアーク溶接装置100は、トーチ14を作業者が手にもって溶接を行う半自動溶接装置である。
【0013】
アーク溶接装置100は、トランス4の2次側出力を整流する2次整流部5と、2次整流部5の出力を平滑するリアクトル6と、スイッチング部3を駆動する駆動部7と、溶接電流を検出する溶接電流検出部8と、溶接電圧を検出する溶接電圧検出部9と、溶接電流検出部8と溶接電圧検出部9の出力に基づいて溶接ワイヤ18の先端部分に形成された溶滴21(
図2参照)にくびれが発生されたことを検出するくびれ検出部10と、をさらに備える。
【0014】
アーク溶接装置100は溶接条件設定部13と記憶部12とをさらに備える。溶接条件設定部13は、設定電流や設定電圧やワイヤ送給量やシールドガス種類やワイヤ種類やワイヤ径等の溶接条件を設定する。
【0015】
記憶部12は、溶接条件設定部13により設定された情報や溶接ワイヤ18のワイヤ送給速度WF(
図2参照)やワイヤ送給量や異なるワイヤ送給速度WF毎の電子リアクトル制御のリアクトルのインダクタンス値等の種々のパラメータを格納する。なお、溶接ワイヤ18の送給量は、作業者が設定する設定電流に比例して決定される。
【0016】
アーク溶接装置100はアーク制御部11をさらに備える。アーク制御部11は、溶接電流検出部8や溶接電圧検出部9やくびれ検出部10や記憶部12からの出力に基づいてアーク発生時の電流や電圧を制御する信号を出力する。駆動部7は、アーク制御部11の出力に基づいてスイッチング部3を制御する。なお、図示しないが、アーク制御部11は、溶接電圧検出部9の出力に基づいて、溶接ワイヤ18の先端部分に形成された溶滴21と母材17との短絡を検出、判定する短絡検出部を有している。短絡検出部は、アーク制御部11の外部に設けられていてもよい。
【0017】
溶接ワイヤ18は、ワイヤ送給部19により制御される送給モータによって送給される。溶接ワイヤ18には、トーチ14に備え付けられたチップ15を介して溶接用の電力が供給され、溶接ワイヤ18と母材17との間でアーク20を発生させて溶接が行われる。
【0018】
なお、
図1で示したアーク溶接装置100を構成する各構成部は、各々単独に構成してもよいし、複数の構成部を複合して構成してもよい。
【0019】
[アーク溶接時の溶接出力制御]
図2は、本実施形態に係る溶接時の溶接電流及び溶接電圧の出力波形とワイヤ送給速度と溶滴移行状態とを示す。
【0020】
なお、本実施形態に示すアーク溶接では、溶接作業前に予め設定された設定電圧及び設定電流に基づいて、溶接出力である溶接電圧Vwと溶接電流Awとが制御される。
【0021】
また、本実施形態において、溶接ワイヤ18のワイヤ径は、例えば1.2mmである。また、母材17は鉄からなる板材であり、その板厚は、例えば4.5mmであり、いわゆる、中板厚である。また、母材17に吹き付けられるシールドガスは、炭酸ガスを含むガスである。ここで、「炭酸ガスを含むガス」とは、炭酸ガスを10%以上、30%以下含むガスのことをいい、好ましくは、炭酸ガスを20%含んでいる。なお、炭酸ガス以外の成分として、不活性ガス、代表的には、アルゴンガスを含んでいる。
【0022】
本実施形態に示すアーク溶接は、短絡期間Tsとそれに続くアーク期間Taとの和である溶接期間Tを1周期として行われる。また、溶接期間Tを連続的に繰り返すことで、言いかえると、短絡期間Tsとアーク期間Taとを交互に繰り返すことで、母材17に対する直流アーク溶接が行われる。また、溶接ワイヤ18は、溶接期間Tにわたって、言いかえると、短絡期間Tsとアーク期間Taにわたって、設定電流に基づく一定の送給速度Wfで母材17に対して正送される。なお、本実施形態において、速度Wfは、7m/min~8m/min程度である。なお、直流アーク溶接には、マイナス側を母材17に、プラス側を、チップ15を介して電極である溶接ワイヤ18に接続する逆極性の溶接と、マイナス側を、チップ15を介して電極である溶接ワイヤ18に、プラス側を母材17に接続する正極性の溶接がある。本願明細書では逆極性での溶接について記載している。
【0023】
溶接電圧検出部9で検出された溶接電圧Vwがしきい値電圧Vth以下になると、溶接ワイヤ18と母材17とが短絡したと判定される。つまり、短絡が検出される。この時点t0から短絡期間Tsが開始し(
図2の(a)図)、溶接ワイヤ18の先端に形成された溶滴21と母材17とが接触して短絡状態が継続される。なお、短絡期間Tsにおいて、溶接出力は電流制御される。また、短絡期間Tsは予め実験的に定めた溶接電流Awの波形パターンに基づいて出力している。具体的には、短絡期間Tsの溶接電流Awの波形パターンは、短絡検出後に出力する一定に保持される溶接電流Awの値と、その所定の保持時間、所定の保持時間(所定の期間)の後の第1の傾斜の上昇傾き、屈曲点の溶接電流の値、第2の傾斜の上昇傾きとからなるものである。この波形パターンの溶接電流Awを溶接ワイヤ18の送給速度WFに応じて出力するものである。
【0024】
なお、しきい値電圧Vthは、数Vから十数V程度の低い電圧に設定されるのが好ましく、本実施形態では、10Vに設定されている。ただし、特にこれに限定されず、適宜他の値、例えば、7V以上、12V以下の範囲を取りうる。
【0025】
時点t0から所定の期間経過後に、溶接電流Awを第1、第2の傾斜の上昇傾きで上昇させて、溶接ワイヤ18を燃え上がらせることで、母材17と溶接ワイヤ18との短絡開放を促進する。さらに、溶接電流Awを上昇させると、電磁的ピンチ力によって溶接ワイヤ18の先端に形成された溶滴21にくびれが生じ始め、これに伴い、溶接電圧検出部9が検出する溶接電圧の時間変化量が変化し始める。溶接電圧検出部9の出力に基づいて、くびれ検出部10がこの変化(くびれ)を検出した時点(
図2の(b)図)で、アーク制御部11は、溶接電流Awを低下させる。
【0026】
時点t1は、溶滴21がくびれて溶接ワイヤ18の先端から母材17に完全に移行することで、短絡が開放したと検出される時点である。この時点で短絡状態が終了して、時点t1からアーク状態が発生し、アーク期間Taに移行する。なお、短絡開始と同様に、溶接電圧Vwがしきい値電圧Vthを超えた時点で短絡が開放されたと判断される。
【0027】
なお、溶接ワイヤ18と母材17とが短絡したと判定されるしきい値電圧と、時点t1の短絡開放のしきい値電圧は、説明の簡略化のため同じ値のしきい値電圧Vthとしている。
【0028】
しかし、時点t1の短絡開放のしきい値電圧は、より安定検出のため、溶接ワイヤ18と母材17とが短絡したと判定されるしきい値電圧より大きな値のしきい値電圧Vth‘として良い。
【0029】
時点t1から時点t2にかけて、溶接電流Awを増加させることで、溶接ワイヤ18と母材17との間にアーク20が発生し(
図2の(c)図)、そのアーク長が長くなる。なお、時点t1から時点t2の間を第1期間T1と呼ぶ。第1期間T1において、溶接出力は定電流制御される。
【0030】
時点t2で、溶接電流Awが第1電流値Ipになると、アーク制御部11は、溶接出力が定電圧制御となるように制御モードを切り替える。具体的には、溶接電圧Vwの移動平均値が設定電圧となるように溶接出力が制御される。
【0031】
溶接電流Awが第1電流値Ipに達して、所定のアーク長が確保される(
図2の(d)図)。次に、溶接電圧Vwが低下し始めたのを溶接電圧検出部9が検出すると、アーク制御部11は、時間傾度Islpで溶接電流Awを第1電流値Ipから第2電流値Ibまで低下させる。ここで、時間傾度Islpは、時間に対する溶接電流Awの変化の度合いであり、
図2から明らかなように、時間傾度Islpは、マイナスの値である。ただし、本願明細書では、時間傾度Islpを絶対値で説明することとする。
【0032】
なお、時点t2から溶接電流Awが第2電流値Ibまで低下した時点t3の間を第2期間T2と呼ぶ。前述したように、第2期間T2において、溶接出力は定電圧制御される。リアクトル6のインダクタンス値と電子リアクトル制御による電子リアクトルのインダクタンス値との加算値を変更することで、具体的には、記憶部12に格納された電子リアクトルのインダクタンス値の中から適切な値を選択することで、アーク制御部11は、溶接出力を定電圧制御している。
【0033】
本実施形態において、第1電流値Ipは470Aであるが、特にこれに限定されず、適宜他の値、例えば、400A以上、500A以下の範囲を取りうる。第2電流値Ibは150Aであるが、特にこれに限定されず、適宜他の値、例えば、100A以上、200A以下の範囲を取りうる。時間傾度Islpは、600A/msecであるが、特にこれに限定されず、適宜他の値、例えば、300A/msec以上、700A/msec以下の範囲を取りうる。
【0034】
溶接電流Awが第2電流値Ibとなったのを溶接電流検出部8が検出すると、その時点t3から、アーク制御部11は、溶接出力が定電流制御となるように制御モードを再度切り替える。また、時点t4に至るまで溶接電流Awが第2電流値Ibを維持するように溶接出力を定電流制御する。なお、時点t3から時点t4までの間を第3期間T3と呼ぶ。溶滴21が大きくなりすぎて、意図しない不規則なタイミングで離脱するのを抑制できるように、第3期間T3のいずれかの時点で、溶接ワイヤ18の先端に形成された溶滴21の一部を、母材17に形成された溶融池22に接触させる。これにより溶滴21が大きくなりすぎないように、溶滴21の一部が溶融池22に吸収される(
図2の(e)図)。つまり、第3期間T3も溶接ワイヤ18と母材17とが短絡する短絡期間である。
【0035】
なお、本実施形態において、第3期間T3は、1msecに設定されるが、特にこれに限定されず、適宜他の値、例えば、0.3msec以上、3msec以下の範囲を取りうる。
【0036】
また、第3期間T3は、短絡期間Tsの1/3以下に設定される。この場合に、第3期間T3が、1msec以上、2msec以下であり、短絡期間Tsが、2msec以上、6msec以下であることが好ましい。
【0037】
時点t4から、溶接電流Awを第2電流値Ibから第3電流値Ib2になるまで上昇させ、次の溶接期間Tの時点t0になるまで、溶接電流Awが第3電流値Ib2で維持されるように、アーク制御部11は溶接出力を制御する。なお、時点t4から次の溶接期間Tの時点t0までの間を第4期間T4と呼ぶ。第4期間T4において、溶接出力は定電流制御される。また、第4期間T4において、短絡期間Tsでの溶接ワイヤ18と母材17との短絡のタイミング前までに、溶滴21が大きくなりすぎて、意図しない不規則なタイミングで離脱するのを抑制するように、言い換えると、意図しない不規則なタイミングで溶滴21が離脱するのを抑制する程度に、溶接ワイヤ18の先端で溶滴21を再度成長させる。この溶滴21は、次の溶接期間Tの短絡期間Tsで母材17に短絡移行される。
【0038】
本実施形態において、第3電流値Ib2は、180Aであるが、特にこれに限定されず、適宜他の値、例えば、100A以上、200A以下の範囲を取りうる。ただし、第3電流値Ib2は、第2電流値Ibよりも高くなるように設定される。
【0039】
[効果等]
以上説明したように、本実施形態に係る直流アーク溶接制御方法は、短絡期間Tsとアーク期間Taとを交互に繰り返して溶接を行う直流アーク溶接制御方法であって、アーク期間Taは、第1期間T1と第2期間T2と第3期間T3と第4期間T4とを少なくとも含んでいる。
【0040】
アーク溶接制御方法は、第1期間T1に、溶接ワイヤ18に流れる溶接電流Awを第1電流値Ipになるまで増加させるステップと、第2期間T2に、時間傾度Islpで溶接電流Awを第1電流値Ipから第2電流値Ibになるまで低下させるステップと、を備えている。また、第3期間T3に、溶接電流Awを第2電流値Ibに維持するステップと、第4期間T4に、溶接電流Awを第2電流値Ibから第1電流値Ipよりも低く第2電流値Ibよりも高い第3電流値Ib2まで上昇させた後、第4期間T4が終了するまで、溶接電流Awを第3電流値Ib2に維持するステップと、を少なくとも備えている。
【0041】
短絡期間Tsとアーク期間Taとにわたって、溶接ワイヤ18のワイヤ送給速度WFは一定(=Wf)である。
【0042】
第2期間T2では、溶接出力を定電圧制御し、溶接期間Tにおけるそれ以外の期間のうち、少なくとも第3期間T3と第4期間T4では、溶接出力をそれぞれ定電流制御する。
【0043】
また、短絡期間Tsでは、溶接ワイヤ18と母材17とを短絡させて溶接ワイヤ18の先端に形成された溶滴21を母材17に短絡移行させる。第1期間T1では、溶接ワイヤ18と母材17の間にアーク20を発生させる。第2期間T2では、アーク長が所定の値となるようにするとともに、溶接ワイヤ18の先端に溶滴21を形成させる。第3期間T3では、溶接ワイヤ18の一部を母材17に形成された溶融池22に接触させるとともに、溶滴21の一部を溶融池22に吸収させる。第4期間T4では、溶接ワイヤ18と母材17の間に発生したアーク20を維持するとともに、溶接ワイヤ18の先端に溶滴21を成長させる。
【0044】
本実施形態によれば、急峻な時間傾度Islpで溶接電流Awを第1電流値Ipから第2電流値Ibになるまで低下させ、さらに、第3期間T3に、溶接電流Awを第2電流値Ibに維持して、溶滴21の一部を溶融池22に接触させ、かつ当該一部を溶融池22に吸収させている。また、第4期間T4において、溶接電流Awを第1電流値Ipよりも低く第2電流値Ibよりも高い第3電流値Ib2に維持している。このことにより、短絡期間Tsでの溶接ワイヤ18と母材17との短絡のタイミング前までに、溶滴21が大きくなりすぎて、意図しない不規則なタイミングで離脱するのを抑制できる。また、大きくなりすぎた溶滴21が離脱して、大粒スパッタが飛散するのを抑制できる。
【0045】
また、溶接電流Awを第1電流値Ipまで上昇させた後、第2期間T2で、溶接電流Awを第1電流値Ipから第2電流値Ibまで急峻に低下させることにより、溶接ワイヤ18や母材17への入熱差を大きく付けることができる。このことにより、第2期間T2での溶滴21の離脱を抑制できるとともに、第3期間T3を確実にスタートさせることができ、短絡周期、ひいてはアーク期間Taや溶接期間Tの周期性を安定化することができる。また、溶接期間Tの周期性が安定するため、母材17を安定して高速に溶接することができる。
【0046】
また、第4期間T4において、意図しない不規則なタイミングで溶滴21が離脱するのを抑制するように、溶接電流Awを第3電流値Ib2に維持することで、溶滴21を再度成長させ、次のタイミングの短絡期間Tsで母材17に確実に移行させることができ、溶滴21の離脱の周期性を保つことができる。さらに、溶融池22の振動が抑えられ、第4期間T4において、微小短絡が発生してスパッタが飛散するのを抑制できる。
【0047】
また、アーク期間Taの第2期間T2に溶接出力を定電圧制御することで、手振れ等の外乱に対するアーク20の安定性を確保でき、アーク切れ等が発生するのを抑制できる。
【0048】
一方、アーク期間Taにおけるそれ以外の期間、特に第3期間T3と第4期間T4において、溶接出力を定電流制御することで、それぞれの期間において、溶接電流Awを第2電流値Ibと第3電流値Ib2とに安定して維持することができる。
【0049】
例えば、第3期間T3において、溶接出力を定電圧制御すると、第2電流値Ibが安定せず、大きくばらつくことがある。第2電流値Ibが設定値よりも高くなりすぎると、溶滴21がすべて母材17に移行してしまい、溶滴21の離脱の周期性が保てず、溶接箇所の美観を損ねたり、溶接不良が発生したりすることがある。第2電流値Ibが設定値よりも低くなりすぎると、溶接ワイヤ18が母材17に突っ込んでしまい、溶接不良が発生することがある。
【0050】
同様に、第4期間T4において、溶接出力を定電圧制御すると、第3電流値Ib2が安定せず、大きくばらつくことがある。第3電流値Ib2が設定値よりも高くなりすぎると、溶滴21が成長し過ぎてしまい、溶滴21の離脱の周期性が保てず、溶接箇所の美観を損ねたり、溶接不良が発生したりすることがある。第3電流値Ib2設定値よりも低くなりすぎると、アーク20が維持できず、アーク切れを起こして、溶接不良が発生することがある。
【0051】
本実施形態によれば、アーク期間Taにおける溶接出力の制御を適切に切り替えることにより、前述した不具合が発生するのを防止し、安定したアーク溶接を行うことができる。
【0052】
また、本実施形態によれば、短絡期間Tsとアーク期間Taにわたって、溶接ワイヤ18のワイヤ送給速度WFは一定である。
【0053】
このようにすることで、ワイヤ送給部19に、ワイヤ送給速度WFを可変に制御するための機能を付与する必要がなくなる。また、溶接ワイヤ18の送給方向は一方向のみ、この場合は正送のみであるため、ワイヤ送給部19により制御される送給モータの構造を簡素化できる。これらのことにより、アーク溶接装置100を簡素化でき、装置コストを低減できる。
【0054】
第1電流値Ipは、400A以上、500A以下であることが好ましい。より好ましくは、第1電流値Ipは、470Aである。
【0055】
第1電流値Ipが400Aより低いと、アーク長が安定せず微小短絡が発生しスパッタが飛散するおそれがある。一方、第1電流値Ipが500Aより高いと、第2期間T2で溶滴21の成長が促進されるため、意図しない早期のタイミングで溶滴21が離脱し、大粒スパッタとして飛散するとともに短絡周期が不安定となるおそれがある。
【0056】
時間傾度Islpは、300A/msec以上、700A/msec以下であることが好ましい。より好ましくは、時間傾度Islpは、600A/msecである。
【0057】
時間傾度Islpが300A/msecより小さいと、入熱過多となり、第3期間T3で短絡する前に溶滴21が離脱するおそれがある。一方、時間傾度Islpが700A/msecより大きいと、溶接電流Awの低下時に高い電流値で母材17と短絡してしまい、スパッタとして飛散するおそれがある。
【0058】
第2電流値Ibは、100A以上、200A以下であることが好ましい。より好ましくは、第2電流値Ibは、150Aである。
【0059】
第2電流値Ibが100Aより低いと、入熱不足でアーク20が不安定となるおそれがある。一方、第2電流値Ibが200Aより高いと、第3期間T3で溶滴21が過度に母材17に吸収されてしまい、スパッタとして飛散するおそれがある。
【0060】
第3電流値Ib2は、100A以上、200A以下であることが好ましい。より好ましくは、第3電流値Ib2は、150Aである。
【0061】
第3電流値Ib2が100Aより低いと、溶接ワイヤ18の先端で溶融が不十分となり、アーク20が不安定となるおそれがある。一方、第3電流値Ib2が200Aより高いと、第4期間T4で溶融池22を大きく振動させるため、微小短絡が発生しスパッタとして飛散するおそれがある。
【0062】
第3期間T3は、0.1msec以上、3msec以下であることが好ましい。より好ましくは、第3期間T3は、0.3msecである。
【0063】
第3期間T3が0.1msecより短いと、溶接ワイヤ18を溶融池22に接触させる際の電流値がばらつくため、第3期間T3の周期性が不安定となる。一方、第3期間T3が3msecより長いと、入熱不足により、この場合も第3期間T3の周期性が不安定になる。
【0064】
第3期間T3は、短絡期間Tsの1/3以下であることが好ましい。
【0065】
このようにすることで、アーク期間Taの周期性を安定させることができる。このことにより、母材17に形成された溶接ビード(図示せず)のビード際の揃いが安定するとともに、溶接中のスパッタの発生を低減できる。
【0066】
第3期間T3は、1msec以上、2msec以下であり、短絡期間Tsは、2msec以上、6msec以下であることが好ましい。
【0067】
溶接ワイヤ18と母材17との短絡は、溶接電圧Vwがしきい値電圧Vth以下になったか否かに基づいて判定されることが好ましい。
【0068】
このようにすることで、溶接ワイヤ18と母材17との短絡を確実に判定できる。
【0069】
また、しきい値電圧Vthは、7V以上、12V以下であることが好ましい。より好ましくは、しきい値電圧Vthは、10Vである。
【0070】
溶接中に母材17に吹き付けられるシールドガスは、不活性ガスと炭酸ガスとの混合ガスであることが好ましい。
【0071】
前述したように、このような混合ガスをシールドガスとして用いると、溶接ワイヤ18の先端に形成された溶滴21の離脱性が良化するため、言い換えると、離脱性が良くなりすぎることで、例えば、中板厚などの母材の溶接時には、溶接ワイヤ18の先端に形成される溶滴21のサイズが大きくなり、溶滴21が大きくなるにつれて、溶滴21が不規則なタイミングで溶接ワイヤ18から離脱し、離脱タイミングの周期性が乱れる。このため、アークが不安定となり、溶接ワイヤと母材との微小短絡が起こりやすくなるおそれがあった。
【0072】
一方、本実施形態によれば、溶接出力である溶接電流Awや溶接電圧Vwを前述のように制御することで、溶滴21の離脱タイミングを安定させて、アーク期間Taの周期性を確保し、スパッタの発生を抑制することができる。
【0073】
(その他の実施形態)
本実施形態では、半自動溶接装置であるアーク溶接装置100を例にとって説明したが、本発明の直流アーク溶接制御方法が、ロボットを用いた高速溶接にも有用な手法であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の直流アーク溶接制御方法は、溶滴の離脱タイミングを安定させ、スパッタの発生を抑制することができるため、有用である。
【符号の説明】
【0075】
1 入力電源
2 1次整流部
3 スイッチング部
4 トランス
5 2次整流部
6 リアクトル
7 駆動部
8 溶接電流検出部
9 溶接電圧検出部
10 くびれ検出部
11 アーク制御部
12 記憶部
13 溶接条件設定部
14 トーチ
15 チップ
17 母材
18 溶接ワイヤ
19 ワイヤ送給部
20 アーク
21 溶滴
22 溶融池
100 アーク溶接装置