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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】酸化ガリウム結晶製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 15/14 20060101AFI20241025BHJP
【FI】
C30B15/14
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024540862
(86)(22)【出願日】2023-10-24
(86)【国際出願番号】 JP2023038408
(87)【国際公開番号】W WO2024090451
(87)【国際公開日】2024-05-02
【審査請求日】2024-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2022169953
(32)【優先日】2022-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514115065
【氏名又は名称】株式会社C&A
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】富田 健稔
(72)【発明者】
【氏名】吉川 彰
(72)【発明者】
【氏名】カチューリヒン ウラジミール
(72)【発明者】
【氏名】グシチナ リウドミラ
(72)【発明者】
【氏名】庄子 育宏
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勲
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 圭
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-069427(JP,A)
【文献】富田健稔ほか,スカルメルト法によるルツボフリーなβ-Ga2O3単結晶の新規育成手法,第69回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集,2022年03月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 15/00
C30B 17/00
H05B 6/00
Science Direct
Wiley Online Library
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料を加熱する加熱コイルを内包する回路を備えた高周波加熱装置を用いた酸化ガリウム結晶製造方法であって、
酸化ガリウムの結晶を成長させる酸化ガリウム原料の溶融工程及び酸化ガリウム結晶成長工程を含み、
前記溶融工程及び前記酸化ガリウム結晶成長工程の少なくとも一方の工程において、誘導加熱の駆動周波数を制御して加熱を行い、
前記溶融工程は、前記高周波加熱装置により生成した高周波電圧および高周波電流を前記回路に内包される前記加熱コイルに印加して発生する高周波磁場によって、前記加熱コイルの内側に配された原料を加熱及び溶解する工程であり、
前記酸化ガリウム結晶成長工程は、前記原料が溶解した原料融液に種結晶を接触させて結晶成長させる工程であり、
前記溶融工程及び前記酸化ガリウム結晶成長工程の少なくともいずれかは、前記高周波電圧と前記高周波電流の位相差、または、前記高周波加熱装置の周波数を決定するトランジスタのゲート電圧と前記高周波電流の位相差に基づいて、前記回路に印加する前記高周波電圧の駆動周波数を制御して、前記原料融液の温度分布を制御し、
前記駆動周波数が、前記回路の共振周波数より高周波数側又は低周波数側にずれた周波数であることを特徴とする、酸化ガリウム結晶製造方法。
【請求項2】
前記溶融工程では、前記高周波磁場によって前記原料を発熱させて、前記原料を溶解する、請求項1に記載の酸化ガリウム結晶製造方法。
【請求項3】
前記溶融工程で用いる前記駆動周波数よりも、前記酸化ガリウム結晶成長工程で用いる前記駆動周波数の方が、前記回路の共振周波数から離れている、請求項1又は2記載の酸化ガリウム結晶製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ガリウム結晶製造方法に関するものである。本願は、2022年10月24日に、日本に出願された特願2022-169953号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
次世代デジタルインフラの構築に向けて、家電製品、電気自動車、産業用機械、及び再生可能エネルギー等に挙げられる電力変換を行うパワーデバイスの省エネルギー化が求められている。従来、シリコンを用いたパワーデバイスが主流となっているが、シリコンと比べてエネルギー変換ロスが小さいパワー半導体材料が求められている。このような材料として、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム等の研究開発が行われている。中でも、酸化ガリウムはバリガ性能指数が高いため抵抗ロスが少なく、エネルギーバンドギャップが大きいため耐圧性も高いことから次世代パワー半導体材料として注目されている。さらに、酸化ガリウム、特にβ-Gaは、炭化ケイ素や窒化ガリウムと比較して低温で溶融するため、融液からの単結晶成長も可能であることから、低コスト化が期待される。このようなことから、酸化ガリウムは、高融点化合物の単結晶成長技術の観点からも基盤技術として期待されている。
【0003】
現在、酸化ガリウムの単結晶成長技術として、Edge-Defined Film-fed Growth(EFG)法が知られており、特許文献1及び非特許文献1に開示されている。EFG法を用いることで安定した結晶が得られている。
【0004】
上記問題点に対して、古くから誘導コイルにより結晶成長させる母材に電磁界を直接かけることによって単結晶成長を行うスカル(skull)メルト法の研究、開発が行われてきた。特許文献2、3にはスカルメルト法に適した冷ルツボ及びそれを用いた単結晶製造例が開示されている。特許文献4には酸化ガリウムの冷ルツボとそれを用いたスカルメルト法による酸化ガリウムの単結晶の製造方法が開示されている。特許文献5にはスカルメルト法で単結晶を製造する装置の構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2006-312571号公報
【文献】米国特許出願公開第4049384号明細書
【文献】日本国特開昭60-2876号公報
【文献】日本国特開2017-61396号公報
【文献】日本国特開2018-191426号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Hideo Aida et al., Growth of β-Ga2O3 single crystals by the Edge-Defined, Film Fed Growth Method, Jpn. Journal of Applied Physics, Vol.47, No.11, 2008, pp.8506-8509
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び非特許文献1に記載の技術は、結晶の大きさを大きくするためにはルツボを大きくする必要があり、酸化ガリウムの融点で使えるルツボ材料はイリジウム等の高価な材料になるため低コスト化が困難になるという問題点は残されたままである。
【0008】
また、特許文献2~5に記載には、単結晶の具体的な製造条件についての開示はない。
【0009】
更に、スカルメルト法による結晶成長の研究、開発は行われているが、工業的な量産、製品化はまだ実現していない。
【0010】
そこで本発明者らは、冷ルツボを用いたスカルメルト法による酸化ガリウム結晶の製造方法と製造装置について検討を進め、製造課題を抽出した。
酸化ガリウムの融点は約1800℃であり、誘導コイルを用いて加熱するためにどのような条件が必要とされるかを特定するために種々の実験を重ね、理論的な考察を行った結果、誘導加熱で原料を直接加熱するためには、磁界の周波数f(Hz)と、被加熱体である原料の比抵抗ρ(Ω・m)と、原料の体積D(m)とが下記(1)式で表される関係を満足する必要があることを確認した。
【0011】
f≧3×10(ρ/D) …(1)式
【0012】
そして酸化物は比抵抗ρの値が大きいため、酸化物原料の加熱には、高周波fの磁界を印加する必要がある。例えば、Al融液は、その比抵抗ρが1.0×10-3程度と大きく、Dを0.1mとした場合、数百kHzオーダー以上の周波数fが求められる。
【0013】
そこで、本発明者らは約400kHzの高周波磁界を印加することで酸化ガリウムを溶融させることに成功したが、酸化ガリウム溶融後の高周波電圧及び高周波電流等の変動が大きく、安定した加熱状態を維持するのが難しいという課題に直面した。
【0014】
高周波電圧及び高周波電流の変動は、原料が加熱されて溶融することで原料のインピーダンスが変化することに起因する。原料のインピーダンスの変化については、酸化ガリウムの固体と融液での比抵抗差、比抵抗の温度依存性、融液及び融液の体積変化が影響していると考えられる。
誘導加熱コイルはLCR共振回路で駆動しており、融液融液のインピーダンスはLCR回路の外部負荷として接続しているため、融液のインピーダンスの急激な変化は外部負荷のインピーダンスの急激な変動となり、LCR回路に流れる駆動電流、駆動電圧、駆動周波数も連動して変動する。この時、共振点から遠ざかる変動であれば、溶融した酸化ガリウムは凝固し、溶融状態を維持できない。一方、共振点に近づく変動であれば、高周波ノイズの発生や、駆動回路に過電流が流れ、トランジスタが破損する場合もあり、安定した加熱制御が実現できないという状況にも遭遇した。
その他の現象としては、電磁ノイズが増大する。電磁ノイズについては、様々な原因が考えられるが、400kHzの高周波を使っているため、トランジスタのスイッチングの際に発生するノイズに起因すると思われる。従ってこの現象は高い周波数を用いる高融点酸化物の溶融工程に共通するものと推察される。
【0015】
上記のようなことから、結晶成長させる原料を溶融工程の加熱制御及び結晶成長工程の加熱制御では、通常の電流制御及び電圧制御だけでは電流や電圧の変動が大きいため不安定で、安定した加熱制御ができないという課題があった。
【0016】
本発明は、上記課題である誘導加熱を用いた高融点原料の溶融、結晶成長における不安定な加熱制御を安定化させることを目的とする。
そこで、本発明者らは出力制御(電流制御又は電圧制御)だけでなく、より微細な制御を実現するために検討を重ね、電圧と電流の位相差(電流の位相が電圧の位相に対して遅れる)を検出してその閾値で高周波磁界の周波数にフィードバックして制御することで、安定した加熱工程が実現することを見出した。
また、高周波電圧と高周波電流の位相差を検出する位相差検出部、検出した位相差と閾値を比較して加熱周波数にフィードバックする周波数制御部、当該周波数制御された高周波電圧を生成するインバータ部及び誘導加熱を行うLCR回路で高周波加熱装置を構成することで、高周波電圧と高周波電流の位相差を検出して周波数を制御することができることを見出した。
また、上記高周波加熱装置において、インバータ部のトランジスタのゲート電圧を、コンピュータを含む周波数制御部を用いてソフトウエアにより制御して高周波を生成することで安定したフィードバック制御を低コストで実現できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]本発明の一態様に係る結晶製造方法は、原料を加熱する加熱コイルを内包するLCR回路を備えた高周波加熱装置を用いた結晶製造方法であって、結晶成長させる原料の溶融工程及び結晶成長工程を含み、上記溶融工程及び上記結晶成長工程の少なくとも一方の工程において、誘導加熱の駆動周波数を制御して加熱を行うことを特徴とするものである。
[2] 上記[1]に記載の結晶製造方法において上記溶融工程は、上記高周波加熱装置により生成した高周波電圧および高周波電流を上記LCR回路に内包される上記加熱コイルに印加して発生する高周波磁場によって、上記加熱コイルの内側に配された原料を加熱及び溶解する工程であり、上記結晶成長工程は、上記原料が溶解した原料融液に種結晶を接触させて結晶成長させる工程であり、上記溶融工程及び上記結晶成長工程の少なくともいずれかは、上記高周波電圧と上記高周波電流の位相差、または、高周波加熱装置の周波数を決定するトランジスタのゲート電圧と上記高周波電流の位相差に基づいて、上記LCR回路に印加する上記高周波電圧の駆動周波数を制御して、上記原料融液の温度分布を制御してもよい。
[3]上記[1]又は[2]に記載の結晶製造方法において、上記溶融工程では、上記高周波磁場によって前記原料を発熱させて、上記原料を溶解してもよい。
[4]上記[1]~[3]のいずれかに記載の結晶製造方法において、上記駆動周波数が、上記LCR回路の共振周波数より高周波数側又は低周波数側にずれた周波数であってもよい。
[5]上記[1]~[3]のいずれかに記載の結晶製造方法において、上記溶融工程で用いる上記駆動周波数よりも、上記結晶成長工程で用いる上記駆動周波数の方が、上記LCR回路の共振周波数から離れていてもよい。
【0018】
[6]本発明の別の態様に係る高周波加熱装置は、位相差検出部と、周波数制御部と、インバータ部と、LCR回路と、を少なくとも備え、上記位相差検出部は、上記周波数制御部で生成した高周波電圧と上記LCR回路を流れる高周波電流との位相差、および、上記LCR回路に印加される高周波電圧と上記LCR回路を流れる高周波電流との位相差を検出し、上記インバータ部は、上記位相差に基づいて高周波電圧の駆動周波数を更新して上記LCR回路の電流を制御することを特徴とするものである。
[7]上記[6]に記載の高周波加熱装置において、上記位相差検出部は、上記位相差を検出する位相周波数検出器、アナログ位相検出器、又はデジタル位相検出器を含んでもよい。
[8]上記[6]又は[7]に記載の高周波加熱装置において、上記インバータ部は、スイッチング素子として動作するトランジスタを並列に複数備え、上記周波数制御部は、上記位相差検出部で検出された上記位相差に基づいて、上記周波数制御部で更新する参照波形を生成し、上記更新する参照波形の電圧で上記トランジスタを制御して、上記LCR回路に印加する駆動周波数が更新された高周波電圧および高周波電流を生成してもよい。
[9]上記[6]~[8]のいずれかに記載の高周波加熱装置が生成する上記高周波電圧の周波数は、20MHz以下であってもよい。
[10]上記[6]~[9]のいずれかに記載の高周波加熱装置は、ロゴスキー方式又は巻き線方式のカレントセンサを備え、上記カレントセンサは、上記交流電流を検出してもよい。
【0019】
[11]本発明の更に別の態様に係る結晶製造装置は、原料の融液を用いて結晶成長を行う結晶製造装置であって、上記原料を加熱する加熱コイルを内包するLCR回路を有する高周波加熱装置と、原料を保持する冷却可能なバスケットと、を備え、上記バスケットの外側に配設された上記加熱コイルに印加する高周波電圧の周波数を制御して、上記融液の温度を調整することを特徴とするものである。
[12]上記[11]に記載の結晶製造装置は、上方から上記バスケットの内側に一端が挿入可能なロッドを備え、上記一端には種結晶が保持されており、上記ロッドは、上記ロッドの上記一端側から他端側に向かって、上記バスケットに対して相対移動が可能に構成されていてもよい。
[13] 上記[12]に記載の結晶製造装置は、上記ロッドの延在方向中心軸を回転軸として、上記ロッド又は上記原料の少なくともいずれかを回転する回転機構をさらに備えていてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、加熱工程を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る高周波加熱装置の構成図である。
図2】(A)は、インバータ部の模式的な回路図であり、(B)は、トランジスタにより生成される高周波の概要図である。
図3】同実施形態における、インバータ部の回路の一部、加熱コイルを内包するLCR回路を含む回路の概略を示した図である。
図4】(A)は、出力電流波形と参照波形の位相差を説明するための概念図であり、(B)は、出力電流波形と出力電圧波形の一例を示す波形図である。
図5】本発明の一実施形態に係る結晶製造方法における結晶成長工程での位相差による周波数制御を行った時の駆動周波数、位相差、電流、電圧の時間変化を表すグラフである。
図6】本発明の一実施形態に係る結晶製造方法における溶融工程での位相差による周波数制御を行った時の位相差、駆動周波数、電流、電圧のグラフである。
図7】本発明の一実施形態に係る結晶製造方法における結晶成長工程での位相差による周波数制御を行った時の位相差、駆動周波数、電流、電圧のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態に係る結晶製造方法、高周波加熱装置、及び結晶製造装置について添付した図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0023】
<高周波加熱装置1>
図1を参照して、本発明の実施形態に係る高周波加熱装置1について説明する。図1は、本実施形態に係る高周波加熱装置の構成図である。本実施形態に係る高周波加熱装置1は、位相差検出部2と、周波数制御部3と、インバータ部4と、LCR回路5と、を少なくとも備える。
【0024】
(位相差検出部2)
位相差検出部2は、周波数制御部3で生成した高周波電圧とLCR回路5を流れる高周波電流との位相差を検出する。ここでいう位相差とは、図1のようにトランジスタ109のゲートに印加される参照波形の電圧の位相と動作電流の位相の差である。また、この位相差は、トランジスタ109のゲートに入力する参照波形でスイッチングされたトランジスタ109の出力である動作電圧の位相と動作電流の位相の差とも一致する。したがって、位相差検出部2は、トランジスタ109のゲートに印加される参照波形の電圧の位相と動作電流の位相の差、又は、トランジスタ109の動作電圧の位相と動作電流の位相の差を検出する。位相差検出部2は、図1に示すように、少なくとも位相比較器102と、ローパスフィルタ103と、A/Dコンバータ104とを備え、コンピュータ105の一部を含む。
【0025】
[位相比較器102]
位相比較器102は、2つの入力信号の位相差を検出する。詳細には、位相比較器102は、LCR回路5の出力電流波形と、任意波形発生器106で生成された参照波形と、の位相差を電圧に変換して誤差信号として出力する。位相比較器102には、位相周波数検出器やアナログ位相検出器、デジタル位相検出器を用いることができる。
【0026】
[ローパスフィルタ103]
ローパスフィルタ103は、位相比較器102が出力した位相差に応じた誤差信号(パルス)を平滑にし、直流電圧として出力する。ローパスフィルタ103により、例えば、0~5Vの直流電圧が出力される。なお、このローパスフィルタ103はループフィルタと呼ばれることがある。
【0027】
[A/Dコンバータ104]
A/Dコンバータ104は、ローパスフィルタ103が出力した直流電圧をデジタル信号に変換する。
【0028】
[コンピュータ105]
コンピュータ105は、後述するトランジスタ109のゲートに印加される参照波形の電圧の位相と動作電流の位相の差、又は、トランジスタ109の動作電圧の位相と動作電流の位相の差(位相差)を検出し、設定された閾値と比較して、閾値を横切る(閾値超の値から閾値未満の値に変化する、又は、閾値未満の値から閾値以上の値に変化する)時に駆動周波数を予め設定された変化幅で増減して、駆動周波数を更新し、更新された駆動周波数を生成するための制御信号を任意波形発生器106に入力する。また、コンピュータ105は、検出した位相差と設定された閾値を比較して、位相差が閾値を横切ると駆動周波数をある一定の周波数変動量分で更新し、更新された駆動周波数を生成するための信号を任意波形発生器106に入力する。一定の周波数変動量分は、実際の製造条件から予め求められた幅であってよい。ここでいう位相差の閾値は、ある一定の周波数変動量分だけ、駆動周波数を共振周波数に近づけるときの閾値であり、この閾値には上限閾値と下限閾値の二つの閾値がある。フィードバック制御において、設定した位相差の値よりも位相差が大きくなった場合、この設定された位相差の値を位相差の上限閾値とする。また、設定した位相の値よりも位相差が小さくなった場合、ある一定の周波数変動量分だけ、駆動周波数を共振周波数から遠ざける。このときの設定した位相差の値を位相差の下限閾値とする。上限閾値、下限閾値を合わせて位相差の閾値というものとする。また、周波数変動量とは、設定した位相差の閾値から外れた時に、駆動周波数を変化させる量をいう。
【0029】
上記では、位相差検出部2として位相周波数検出器を挙げているが、位相差検出部2は、アナログ位相検出器又はデジタル位相検出器であってもよい。
【0030】
(周波数制御部3)
周波数制御部3は、図1に示すように、少なくとも任意波形発生器106を備え、コンピュータ105の一部を含む。周波数制御部3は、コンピュータ105及び任意波形発生器106により、任意に設定された波形(周波数パルス)を生成する。
【0031】
[任意波形発生器106]
任意波形発生器106は、参照波形を生成する。また、任意波形発生器106は、コンピュータ105から入力された制御信号により更新された駆動周波数の波形を生成して、トランジスタ109のゲートに出力する。また、同時に位相比較器102に参照信号として出力する。任意波形発生器106は、位相差検出部2で検出された位相差に基づいて、周波数パルスを生成する。コンピュータ105は、更新する周波数パルスでトランジスタ109を制御して、LCR回路5に印加する駆動周波数が更新された高周波電圧を生成する。
【0032】
(インバータ部4)
インバータ部4は、高周波電圧を発生する。インバータ部4が発生する高周波電圧は、LCR回路5を駆動する。これによりLCR回路5から加熱コイル51に高周波電流が流れて原料が加熱される。インバータ部4は、図1に示すように、少なくともサイリスタレギュレータ107と、昇圧トランス108と、複数のトランジスタ109とを備える。
【0033】
[サイリスタレギュレータ107]
サイリスタレギュレータ107は、電源から出力された交流電流を制御する。
【0034】
[昇圧トランス108]
昇圧トランス108は、電源から出力された電圧を上昇させる。
【0035】
[トランジスタ109]
トランジスタ109は、スイッチング素子として動作する。トランジスタ109は、駆動周波数の高周波電圧をLCR回路5に印加する。トランジスタ109は、SiCで構成されていることが好ましい。トランジスタは、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor;MOSFET)、または、金属半導体電界効果トランジスタ(Metal-Semiconductor Field-Effect-Transistor;MESFET)、または、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor;IGBT)の構造を持つことが好ましい。
【0036】
図2(A)に、インバータ部の模式的な回路図を示し、(B)に、トランジスタにより生成される高周波の概要図を示す。インバータ部4には、図2(A)に示すように、トランジスタ109が並列に複数備えられる。インバータ部4は、サイリスタレギュレータ107より出力された3相の電流をブリッジダイオードで整流し、コンデンサに電荷を蓄え、当該コンデンサから直流電流として複数のトランジスタ109に電流を流す(AC/DC変換)。これにより、各トランジスタ109に蓄えられる電荷に応じた電圧(ゲート電圧)が印加されることにより、トランジスタ109はスイッチング素子として機能する。周波数制御は、コンピュータ105から出力された周波数制御信号を受けて任意波形発生器106が発生した高周波波形をトランジスタ109のゲートに印加してゲート電圧を制御することにより行う。ゲート電圧がトランジスタ109の閾値電圧Vthを超えることで、当該トランジスタ109がオン(ターンオン)となる。図2(A)に示すインバータ回路では、トランジスタ109Aとトランジスタ109Dとを組合せ、トランジスタ109Bとトランジスタ109Cとを組み合わせて、ターンオン及びターンオフする矩形波が形成される。図2(B)に示すように、各トランジスタ109のゲート電圧を制御することで、出力電圧Voutの周波数は制御される。上記の周波数制御によりトランジスタ109は数百kHz~10MHzオーダーの範囲で矩形波の周波数(駆動周波数)を出力する。トランジスタ109が出力する駆動周波数は、20MHz以下であることが好ましい。これにより、より高融点の原料を融解することができる。トランジスタ109が出力する駆動周波数は、より好ましくは10MHz以下、更に好ましくは6MHz以下である。また、トランジスタ109が出力する駆動周波数は、好ましくは100kHz以上、より好ましくは、300kHz以上である。矩形波のデューティを調整することができるが、ここではデューティ40%のものを生成する。
【0037】
トランジスタ109は、SiCが用いられたものであることが好ましい。SiCであれば、高耐圧化が可能であり、スイッチング損失、直列抵抗損失を低減可能であるため、より高出力かつ精密に周波数を制御することができ、融点の高い原料においても温度分布を精密に制御することができる。また、上記の通り、高範囲の周波数を実現可能であるため、融液のサイズ、比抵抗の温度依存性、固体/液体間の抵抗率差に応じて周波数を調整することも可能である。
【0038】
(LCR回路5)
LCR回路5は、コイル、コンデンサ、及び抵抗が直列に接続した回路(LCR直列回路)である。LCR回路5は加熱コイル51を内包する。加熱コイル51はLCR回路におけるコイルに対応する。LCR回路5で矩形波の高調波成分が除去され基本波の正弦波電流が形成される。
【0039】
加熱コイル51には、高周波加熱装置1が発生する高周波電流によりLCR回路5に生じた誘導電流が流れ、加熱コイル51の周囲に磁界が発生する。加熱コイル51の内側において、バスケット(図示せず)の内部に配された原料には、導電性の材料含まれており、当該導電性の材料から誘導加熱が開始する。原料に高周波電流の変化に応じて変化する磁界の変化を妨げる方向に渦電流が流れ、原料の電気抵抗によりジュール熱が発生して原料が加熱され、温度制御される。
【0040】
LCR直列回路の合成インピーダンスは、下記の(2)式で表される。
【0041】
【数1】
【0042】
(2)式中、ωLは誘導性リアクタンスXとも呼ばれ、1/ωCは容量性リアクタンスXとも呼ばれる。ここで、周波数f=ω/2πであることから、周波数fが変化することで、誘導性リアクタンスX及び容量性リアクタンスXが変化する。これにより、交流電圧と交流電流の位相差(位相角)θが変化する。例えば、誘導性リアクタンスXが容量性リアクタンスXより大きい又は小さいとき、位相角θは下記の(3)式で表される。また、誘導性リアクタンスXと容量性リアクタンスXとが互いに等しいとき、位相角θは0となる。
【0043】
【数2】
【0044】
上記の通り、トランジスタの出力電圧の周波数を更新すると高周波電圧と高周波電流の位相差θが変化し、加熱コイル51に印加される高周波電圧及び高周波電流が変化する。このため、原料の加熱効率が変化し、原料の温度分布が変化する。
【0045】
スカルメルト法で誘導加熱により原料を直接加熱して結晶成長させる場合には、原料の融液の対流状態、言い換えると、融液の温度分布が極めて重要である。
ここで、導電性を有する融液に磁界を印加した場合には、融液に渦電流が生じて印加磁界を打ち消す磁界が誘起されるため、印加磁界の浸透深さδは、融液の比抵抗ρと、融液の比透磁率μと、周波数fを用いた(4)式に従う。
【0046】
δ=5.03×(ρ/(μ×F))1/2 …(4)式
【0047】
(4)式に示されるように、磁界の浸透深さδは周波数fに依存するため、磁界の浸透深さδを変更して融液の温度分布を最適制御するには、使用するバスケットや加熱コイルの大きさ等も考慮して全体の系の設計、及び当該系の共振周波数、駆動周波数帯を設計することが重要となる。
例えば、周波数が低く、磁界が融液に深く浸透する場合、種結晶が配置されている融液中央付近における原料融液の温度が融点以上となり、結晶成長が進行しない。一方、周波数を高くして磁界の浸透深さを小さくすることで、種結晶付近における原料融液温度が融点未満となり、結晶成長を進行させることができる。
【0048】
[カレントセンサ7]
本実施形態に係る高周波加熱装置1は、カレントセンサ7を備えていてもよい。カレントセンサ7は、トランジスタ109が出力した交流電流の振幅及び周波数を測定する。本実施形態においては、カレントセンサ7は、ロゴスキー方式のカレントセンサであることが好ましい。巻き線方式のカレントセンサにより測定された出力電流波形と比較して、ロゴスキー方式のカレントセンサにより測定された出力電流波形はノイズが小さい。そのため、ロゴスキー方式のカレントセンサ7を用いることで、位相差を精度よく測定し、制御することができる。
【0049】
カレントセンサ7の出力電流波形は、LCR回路5に流れる電流の波形であり、これがフィードバック後の電流波形である。トランジスタ109から出力された矩形波の出力電圧Vout、および、加熱コイルに流れる正弦波の出力電流が出力される。
【0050】
フィードバック後の出力電流波形は、位相比較器102に入力され、当該出力電流波形と、上述した参照波形と、が比較され、これらの位相差が位相比較器102から出力される。
【0051】
本実施形態に係る高周波加熱装置1は、LCR回路5の駆動周波数を制御することができるため、出力変動を小さくすることができる。高周波加熱装置1による出力変動の抑制は、精密な温度分布制御が求められる高融点化合物の結晶成長に極めて有効である。
【0052】
(バスケット)
本実施形態に係る高周波加熱装置1は、バスケット(図示せず)を備える。バスケットは、内側に円筒形状の空間を有する冷却可能な容器であり、内側に原料を配置することができる。例えば、バスケットの内部に冷却水が流通する冷却路(図示せず)が配されており、当該冷却路を流通する冷却水によりバスケットが冷却される。バスケットは、高熱伝導性の材料で構成される。バスケットの材料としては、例えば、銅、銀、アルミニウム、鉄等が挙げられる。バスケットは、高熱伝導性の材料で構成されているため、バスケットによって、その内側に配された原料が冷却される。
【0053】
加熱コイル51により原料が加熱されて、原料は溶融するが、水冷されたバスケット近傍では、温度が低いため原料が溶融した融液が固化、焼結する。この焼結体(スカル)が、融液を保持する。バスケットの外側に配設された加熱コイル51に印加される高周波電圧の周波数を制御して、原料の融液の温度が調整される。
【0054】
(ロッド)
本実施形態に係る高周波加熱装置1は、ロッド(図示せず)を備えることが好ましい。ロッドは、融液に対して逆方向に移動させて結晶成長させる。ロッドは、バスケットの内側に一端が上方から挿入可能に設けられている。ロッドの当該一端には種結晶が設けられており、種結晶は、水平面における加熱コイル51の中心に配される。ロッドは、ロッドの一端側から他端側に、バスケットに対して相対移動が可能である。
【0055】
高周波加熱装置1により、バスケットの中心では融液の温度が融点近傍に制御されているため、種結晶がロッドにより上方に引き上げられることで、融液が冷却され結晶成長が進行して結晶が製造される。ロッドの引き上げ速度(移動速度)は、例えば、0.1~100(mm/時)である。好ましくは1~50(mm/時)である。より好ましくは3~20(mm/時)である。
【0056】
(原料)
原料は、高融点化合物であり、例えば、高融点酸化物であり、酸化ガリウム(β―Ga)、ガドリニウムアルミニウムガリウムガーネット(Gd(Al、Ga)12)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、酸化イットリウム(Y)等である。高融点酸化物には、上記以外にも、種々の元素を含有した高融点酸化物が含まれてよい。
【0057】
上述したとおり、酸化物は比抵抗ρの値が大きいため、原料が酸化物である場合の加熱には高い周波数fを印加する必要があるが、高周波加熱装置1は数百kHz~10MHzオーダーの周波数fを出力可能であるため、酸化物原料の加熱が可能である。また、高い周波数fを出力できるため、原料体内部の融液の直径を大きくすることができ、結晶の直径を大径化することができる。
【0058】
さらに、高周波加熱装置1は、周波数の調整が可能であるため、種結晶付近における融液の温度をその融点近傍の温度とすることができ結晶成長を進行させることができる。
【0059】
(制御装置)
高周波加熱装置1は、制御装置(図示せず)を備えてもよい。制御装置は、高周波加熱装置1の種々の動作を制御する。制御装置は、例えば、ロッドの引き上げ速度やバスケットの冷却能などを制御する。
【0060】
(回転機構)
また、高周波加熱装置1は、ロッドの延在方向中心軸を回転軸として、ロッド又は原料の少なくともいずれかを回転する回転機構(図示せず。)をさらに備えることが好ましい。回転機構によれば、ロッドを原料に対して相対的に回転させることで、装置内の温度分布および融液中の温度分布の不均一性を緩和するという効果が得られる。
【0061】
(動作)
ここで、図1、3、4を参照して高周波加熱装置1の周波数制御の動作について説明する。図3は、インバータ部4の回路の一部、LCR回路5、及び加熱コイル51を含む回路の概略を示した図である。図4の(A)は、出力電流波形と参照波形の位相差を説明するための概念図であり、(B)は、出力電流波形と出力電圧波形の一例を示す波形図である。
【0062】
図3に示すように、LCR回路5には、インバータ部4のトランジスタ109から出力される駆動周波数の高周波電圧Vout1(高周波矩形波)が印加される。高周波矩形波がLCR回路5に印加されると、LCR回路5に生じる誘導電圧Vout2により、加熱コイル51には正弦波の高周波電流Iout2が流れる。これは、高周波電圧の矩形波の高調波がLCR回路5でフィルターされ、基本波である矩形波の周波数の正弦波のみ残ることによるものである。正弦波の高周波電流Iout2はカレントセンサ7に入力され、カレントセンサ7から出力電流波形が出力される。
【0063】
図4(A)に示すように、この出力電流波形Iout1と、任意波形発生器106が生成した高周波電圧波形(参照波形)と、を位相比較器102に入力すると、出力電流波形と参照波形との位相差θに応じた電圧(出力電圧波形)が位相比較器102から出力される。この位相差に応じた電圧をローパスフィルタ103にかけて、A/Dコンバータ104でデジタル信号に変換して、コンピュータ105に入力すると、コンピュータ105で高周波電流(出力電流波形)と出力電圧波形との位相差が検出される。出力電流波形および出力電圧波形は、例えば、図4(B)のように示される。
【0064】
更に、コンピュータ105は、検出した位相差と設定された閾値を比較して、位相差が当該閾値を横切ると、駆動周波数をある一定の周波数変動量分で更新し、更新された駆動周波数を生成するための信号を任意波形発生器106に入力する。任意波形発生器106は更新した周波数の矩形波を生成し、インバータ部4のトランジスタ109のゲート電圧を制御する。トランジスタ109は更新された駆動周波数の高周波電圧を出力してLCR回路5に印加する。
上記のようにして、フィードバック制御がなされる。すなわち、溶融工程及び結晶成長工程の少なくともいずれかは、高周波電圧と高周波電流の位相差、又は、波加熱装置の周波数を決定するトランジスタのゲート電圧と高周波電流の位相差に基づいて、LCR回路5に印加する高周波電圧の駆動周波数を制御する。このようにして、原料融液の温度分布が制御される。
【0065】
このように、出力電流波形と出力電圧波形との位相差について、予め定められた範囲となるように高周波磁界の周波数をフィードバックして制御することで、安定した加熱制御が可能となる。
また、高周波電圧と高周波電流の位相差を検出する位相差検出部、検出した位相差と閾値を比較して加熱周波数にフィードバックする周波数制御部、当該周波数制御された高周波電圧を生成するインバータ部及び誘導加熱を行うLCR回路で高周波加熱装置を構成することで、高周波電圧と高周波電流の位相差を検出して周波数を制御することができる。
また、上記高周波加熱装置において、インバータ部のトランジスタのゲート電圧を、コンピュータを含む種周波数制御部を用いてソフトウエアにより制御して高周波を生成することで安定したフィードバック制御を低コストで実現できる。
【0066】
<結晶製造装置>
本発明の一実施形態に係る結晶製造装置は、原料の融液を用いて結晶成長を行う結晶製造装置であって、LCR回路を有する高周波加熱装置と、原料を保持する冷却可能なバスケットと、を備え、上記バスケットの外側に配設された加熱コイルを内包する上記LCR回路に印加する高周波電圧の周波数を制御して、上記融液の温度を調整する。LCR回路を有する高周波加熱装置には、例えば、上述した高周波加熱装置1が用いられてよい。
【0067】
<結晶製造方法>
本発明の一実施形態に係る結晶製造方法は、原料を加熱する加熱コイルを有するLCR回路を備えた高周波加熱装置を用いた結晶製造方法であって、結晶成長させる原料の溶融工程及び結晶成長工程を含み、溶融工程及び結晶成長工程の少なくとも一方の工程において、誘導加熱の駆動周波数を制御して加熱を行うことを特徴とする。溶融工程及び結晶成長工程は、例えば、上述したような高周波加熱装置1の動作によって実施されてよい。したがって、溶融工程は、高周波加熱装置により生成した高周波電圧を前記LCR回路に印加して発生する高周波電流によって、前記加熱コイルの内側に配された原料を溶解する工程であり、結晶成長工程は、前記原料が溶解した原料融液に種結晶を接触させて結晶成長させる工程である。そして、溶融工程及び結晶成長工程の少なくともいずれかは、高周波電圧と高周波電流の位相差に基づいて、LCR回路に印加する高周波電圧の駆動周波数を制御して、原料融液の温度分布を制御することが好ましい。
【0068】
また、本実施形態に係る結晶製造方法においては、駆動周波数が、LCR回路の共振周波数より高周波数側又は低周波数側にずれた周波数であることが好ましい。より好ましくは高周波側にずれた方がよい。これにより、より安定した加熱制御が実現される。
【0069】
更に、溶融工程で用いる駆動周波数よりも、結晶成長工程で用いる駆動周波数の方が、LCR回路の共振周波数から離れていることが好ましい。溶融工程では原料を固体から溶融するために大きな熱容量が必要であるが、結晶成長工程では加熱をより精緻に制御する必要があるためである。共振周波数に近いと熱効率が高く大きな熱容量に対応でき、共振点から離れるとより微細な制御を行いやすいからである。これにより、より一層安定した加熱が可能となり、溶液の温度分布を所望の温度分布にすることができる。その結果、より安定した結晶成長が実現される。
【0070】
更に、溶融工程で用いる位相差よりも、結晶成長工程で用いる位相差の方が、大きい方が好ましい。これにより、溶融工程では、原料を融解させるに足る十分な出力を得ることができ、結晶成長工程では安定した温度分布を実現し、より安定した結晶成長が実現される。
【0071】
更に、フィードバック制御において、位相差の閾値を外れた場合変化させる周波数変動量は、溶融工程で用いる周波数変動量よりも、結晶成長工程で用いる周波数変動量の方が、小さい方が好ましい。これにより結晶成長工程でより安定した結晶成長が実現される。
【0072】
以上、本発明の実施形態に基づき、本発明を説明したが、本発明はこれに限定されない。上記はあくまでも例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例
【0073】
次に本発明の実施例を示すが、実施例での条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0074】
<実施例1>
実施例1として、酸化ガリウムを原料とした結晶製造方法の結晶成長工程において、LCR回路に印加した高周波電圧とLCR回路に流れる高周波電流との位相差に基づいて駆動周波数を制御した例を示す。
【0075】
図5は、上記の位相差に基づいて駆動周波数を制御した結晶成長工程の温度、駆動周波数、高周波電圧と高周波電流の位相差、LCR回路に印加する高周波電圧及びLCR回路に流れる高周波の電流の時間変化を表している。
駆動周波数を制御することで、LCR回路に印加する電圧、流れる電流を制御されており、安定した結晶成長工程が実現できている。
【0076】
<実施例2>
実施例2として、酸化ガリウムを原料とした結晶製造方法の原料の溶融工程において、LCR回路に印加した高周波電圧とLCR回路に流れる高周波電流の位相差に基づいて駆動周波数を制御したプロセスを示す。
【0077】
図6は、位相差の下限閾値を9.17度とした時に駆動周波数を制御した例である。この工程においてトランジスタに過電流が流れ破損しないように適宜抑制するため下限閾値を設定している。この時の、位相差は9.15~9.33度の範囲で変動しており、位相差が下限閾値である9.17を下回った時に周波数変動量30Hz分高周波側に駆動周波数を変化させている。
LCR回路に流れる高周波電流はノイズを含んでいるが15.3Aから14.1Aに減少しており、LCR回路に印加する高周波電圧はノイズを含んでいるが349Vから350.5Vに増加している。これらの電流、電圧の変動量は位相差の変化よりも小さいため、電流・電圧制御よりも位相差をモニタし周波数を制御する手法の方がより詳細に温度分布を制御できる。
【0078】
<実施例3>
実施例3として、酸化ガリウムを原料とした結晶製造方法の結晶成長工程において、LCR回路に印加した高周波電圧とLCR回路に流れる高周波電流の位相差に基づいて駆動周波数を制御したプロセスを示す。
【0079】
図7は、下限の閾値を11.5度、上限の閾値を11.75度として、位相差が下限閾値より下がると駆動周波数を上げて、上限閾値より上がると駆動周波数を下げて、温度が最適になるように制御している。この時の周波数変動量は10Hzである。
電流や電圧が多くのノイズを含んでいるのに対して、位相差は比較的安定した変化をしている。
【0080】
実施例2と実施例3を比較すると原料の溶融工程の位相差よりも結晶成長工程の位相差の方が大きくなっている。また、周波数変動量は溶融工程よりも結晶成長工程の方が小さい。これは、原料溶解工程では、潜熱や融液の体積増加が多いため、出力を上げる必要があり、位相差を小さくし、駆動周波数を共振周波数に近づけている。また、原料を溶融する工程は、固体と液体の比抵抗差や融液体積変化が大きく、インダクタンスの変化が大きく、共振周波数の変化量が大きいため、周波数変動量を増やしている。結晶成長工程では、安定した高精度の温度制御が必要である。したがって、位相差を大きくし、駆動周波数を共振周波数から離すことで、安定した出力を得ることが出来る。また、周波数変動量が小さいことから、より細かな制御が可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 高周波加熱装置
2 位相差検出部
3 周波数制御部
4 インバータ部
5 LCR回路
7 カレントセンサ
51 加熱コイル
102 位相比較器
103 ローパスフィルタ
104 A/Dコンバータ
105 コンピュータ
106 任意波形発生器
107 サイリスタレギュレータ
108 昇圧トランス
109 トランジスタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7