(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】テトラサイクリンとCumateに基づく共制御配列
(51)【国際特許分類】
C12N 15/63 20060101AFI20241025BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241025BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241025BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241025BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
C12N15/63 100Z
C12N1/15 ZNA
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2022571240
(86)(22)【出願日】2020-09-16
(86)【国際出願番号】 CN2020115520
(87)【国際公開番号】W WO2021232632
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-01-20
(31)【優先権主張番号】202010442506.3
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522414475
【氏名又は名称】シンセン・エウレカ・バイオテクノロジー・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN EUREKA BIOTECHNOLOGY CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】シュエ,ボォーフゥ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,インフゥイ
(72)【発明者】
【氏名】リウ,クゥー
(72)【発明者】
【氏名】マー,モー
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第02/088346(WO,A2)
【文献】Molecular Therapy,2008年,Vol.16, No.3,PP.500-507
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/63
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラサイクリンによって制御されたトランスアクチベーターrtTAに結合できる少なくとも2コピーのTetO-オペレーター配列と、TATAボックス配列を含む1コピーの最小プロモーター配列と、cumateによって制御された転写抑制因子CymRに結合できる少なくとも1コピーのCuO-オペレーター配列とを、この順番で含む核酸分子であって、前記CuO-オペレーター配列は、前記TATAボックス配列の3’端の下流にあり、前記TATAボックスとの距離間隔は、30bp~50bpである核酸分子。
【請求項2】
前記CuO-オペレーター配列と前記TATAボックスとの距離間隔は、50bpである、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
前記TetO-オペレーター配列は、SEQ ID NO:24に示され、及び/又は前記最小プロモーター配列は、SEQ ID NO:25又はSEQ ID NO:26に示され、及び/又は前記CuO-オペレーター配列は、SEQ ID NO:27に示される、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項4】
前記核酸分子の配列は、SEQ ID NO:23、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:29又はSEQ ID NO:30に示される、請求項3に記載の核酸分子。
【請求項5】
3’端にスプライシング可能なイントロン配列をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項7】
前記ベクターは、発現ベクターであり、前記発現ベクターは、請求項1~5のいずれか一項に記載の核酸分子の3’端の下流にある目的核酸断片を含み、前記目的核酸断片の転写は、請求項1~5のいずれか一項に記載の核酸分子によって制御される、請求項6に記載のベクター。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の核酸分子又は請求項6又は7に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項9】
請求項7に記載のベクター、rtTAのコード配列及びCymRのコード配列を宿主細胞に導入するステップ(1)と、
(1)を経た前記宿主細胞においてrtTAとCymRを発現するステップ(2)と、
(2)を経た前記宿主細胞にテトラサイクリン又はその誘導体及びcumate又はその機能的類似体を提供するステップ(3)と、
を
含み、
ここで、前記誘導体は、ドキシサイクリン、アンヒドロテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン及びデオキシテトラサイクリンからなる群から選択され、そして
前記機能的類似体は、p-エチル安息香酸、p-プロピル安息香酸、p-イソプロピル安息香酸、p-イソブチル安息香酸、p-tert-ブチル安息香酸、p-n-ジメチルアミノ安息香酸及びp-n-エチルアミノ安息香酸からなる群から選択される、
前記宿主細胞において目的核酸断片の発現を誘導する方法。
【請求項10】
前記rtTAは、rtTA
adv又はrtTA
3Gである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記rtTAのコード配列は、SEQ ID NO.18に示される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記CymRのコード配列は、SEQ ID NO.15に示される、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、目的核酸断片の転写を制御するための、テトラサイクリンとCumate依存性の核酸配列に関する。具体的には、本開示は、目的核酸断片の転写を制御するための核酸配列に関し、前記核酸配列は、リバーステトラサイクリン依存性のトランスアクチベーター(reverse tetracycline controlled transactivator、rtTA)に結合する少なくとも2コピーのTetO-オペレーター配列(Tet operator、TetO)と、TATAボックス配列を含む1コピーの最小プロモーター配列と、CymR転写抑制因子(transcription repressor)に結合する少なくとも1コピーのCuO-オペレーター配列(Cumate operator、CuO)と、を含む。さらに、上記核酸配列の3’端の下流と、制御された目的核酸断片の5’端の上流との間にスプライシング可能なイントロン配列がさらに存在し、それは、誘導なしのリークがないまま、誘導後の転写活性をさらに向上させることに用いることができる。さらに、本開示は、以上の制御配列を含むベクター、ウィルス、細胞、トランスジェニック植物又は動物にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子発現は、転写、RNAスプライシング、翻訳と翻訳後修飾を含むいくつかのステップを制御することによって、遺伝子発現への制御を実現することができ、転写ステップで特定の遺伝子又は目的核酸断片を制御することは最も広く、最も有効な発現制御方式である。細胞、植物又は動物体内の特定の遺伝子及び核酸断片の転写及び発現のオン又はオフを外因性要素によって制御する誘導発現系は、生物基礎科学研究、生物製薬、遺伝子治療、細胞治療、トランスジェニック植物又は動物の改良などの分野で重要な役割を果たしている。通常、上記誘導発現系は、設計上に、1)一般的に転写活性化因子又は抑制因子に結合して目的核酸断片の転写を制御することができる、オペレータ(operator)を含む核酸配列のような、制御された目的核酸断片の5’端の上流にある1部の特定核酸配列(この核酸配列は、以下で応答エレメントと呼ばれる)、2)外部要素の制御下で上記特定の核酸配列に結合又は分離することができ、一般的に転写活性化又は抑制機能を有し、通常は発現タンパク質である単一又は複数の制御因子2つの部分からなる。外部要素は、温度、光などの環境要素であってもよく、又は、生命活動に関与する代謝物、ホルモン、金属イオン、人工化合物などの成分物質であってもよい。
【0003】
「テトラサイクリン誘導発現系(Tetracycline inducible system又はTet System)」は、現在では科学研究と商業上で最も広く使用されている誘導発現系のうちの1つである(例えば、Gossen,M.and H.Bujard(1992).「Tight control of gene expression in mammalian cells by tetracycline-responsive promoters.」Proc Natl Acad Sci U S A 89(12):5547-5551.,米国特許番号5,888,981, 5,814,618, 6,004,941, 5,814,618, 7,541,446,WO96/01313とWO00/75347を参照する(上記文献は、参照としてここに取り込まれる))。それは、テトラサイクリン依存性の制御因子と、TetOオペレーターを含む応答エレメントとで構成され、TetOオペレーターを含む応答エレメントに連結された目的核酸断片の転写をテトラサイクリン誘導の方式で調節する。TetOオペレーターを含む応答エレメントは、テトラサイクリンのない条件下で転写活性化因子に結合し、結合後に下流の制御された目的核酸断片の転写を開始することができ、組成型アクティブプロモーター(constitutively active promoter)の下流、制御された目的核酸断片の上流に、テトラサイクリンのない条件下でテトラサイクリン依存性の抑制因子に結合し、下流の制御された目的核酸断片の転写を抑制することもできる。従来には、テトラサイクリン依存性の制御因子は、テトラサイクリンがない条件下ではTetOオペレーターに結合し、テトラサイクリンがある条件下ではTetOオペレーターから分離する。例えばこの原理に基づいて設計された活性化因子は、環境におけるテトラサイクリンを除去することによって、制御された目的核酸断片の転写を開始することができる(米国特許番号5,464,758,6,914,124,5,789,156,6,271,348,WO96/01313とWO00/75347)。その後に、リバーステトラサイクリン依存性の制御因子が開発され、それは、テトラサイクリンがある条件下でのみTetOオペレーターに結合する。リバーステトラサイクリン依存性の活性化因子は、環境においてテトラサイクリンを添加することにより、制御された目的核酸断片の転写を活性化することができ(米国特許番号5,654,168, 6,136,954, 5,789,156, 6,271,348, 6,087,166, 6,271,341, 7,541,446,WO96/01313とWO00/75347)、例えば、培地においてテトラサイクリンを添加することにより、制御された目的核酸断片の転写を活性化するか、又はトランスジェニック動物にテトラサイクリンを投与して遺伝子工学によって体内に導入された制御された目的遺伝子の転写と発現を活性化する。
【0004】
誘導条件下での制御された核酸断片の転写活性と非誘導条件でのリーク転写活性は、誘導発現系の優劣を評価する2つの重要な指標であり、良い誘導発現系は、より高い誘導転写活性とより低いリーク転写活性を有する必要がある。テトラサイクリン誘導系は、1回目の報告以来、多くの実験室で最適化され、その性能は、向上し続けている。主な最適化は、テトラサイクリン依存性の制御因子と、TetOオペレーターを含む応答エレメントとを含む。テトラサイクリン依存性の制御因子の最適化は、主に以下に集中されている:(1)誘導後の転写活性をできるだけ維持する状況下で、無誘導条件下でのリーク転写活性を低下させ、誘導/リーク転写活性の比を高める。(2)制御因子とテトラサイクリン及びその誘導体を誘導剤として結合する特異性と親和性を最適化し、より低いテトラサイクリン及びその誘導体の濃度で最大の誘導転写活性に達するとともに、誘導剤のない条件での制御因子と応答エレメントの親和性を低下させる。(Zhou,X.,et al.(2006).「Optimization of the Tet-On system for regulated gene expression through viral evolution.」Gene Ther 13(19):1382-1390.,米国特許番号8,383,364, 7,541,446を参照する)。TetOオペレーターを含む応答エレメントを最適化することは、主に以下に集中されている:(1)TetOオペレーターのコピー数と連結配列を最適化する。応答エレメントの性能を向上させるとともに、マルチコピー連続TetOオペレーター配列の安定性特にウイルスベクター上での安定性を向上させる。(2)誘導後の転写活性に顕著な影響を与えない条件下で、最小プロモーター(mini promoter)の無誘導基礎リーク転写活性を低下させ、誘導/リーク転写活性の比を高める(Loew,R.,et al.(2010).「Improved Tet-responsive promoters with minimized background expression.」BMC Biotechnol 10:81.,米国特許番号9,181,556を参照する)。現在では広く使用されている商業テトラサイクリン誘導系は、主にClontech Laboratories,Inc.社のTet-On(R) Advanced Inducible Gene Expression Systems(ファイル番号:PT3898-1(102312)であり、そのうちのテトラサイクリン依存性のトランスアクチベーターrtTAと、TetOオペレーターを含む応答エレメントTRE(マルチコピーの連続TetOオペレーター配列と最小プロモーター配列を含む核酸配列、 Tet Response Element、以下ではTREと呼ばれる)は、以下でそれぞれrtTAadvとTREadvと呼ばれる)、Tet-Off(R) Advanced Inducible Gene Expression Systems(ファイル番号:PT3945-1(101612))とTet-On(R) 3G Inducible Expression Systems(ファイル番号:PT5148-1(010814)、そのうちのテトラサイクリン依存性の制御因子rtTAと、TetOオペレーターを含む応答エレメントTREは、以下でそれぞれrtTA3GとTRE3Gと呼ばれる)である。
【0005】
Cumate誘導系(Cumate Inducible System)は、Pseudomonas putidaのp-cymオペロンから開発され、組成型活性プロモーターTATAボックスの下流にあるCuOオペレーターとCumate及びその誘導体依存性の、CuOオペレーターに結合できる抑制因子CymRタンパク質からなる。Cumateがない条件下で、CymRタンパク質は、CuOオペレーターに結合し、下流で制御された目的核酸断片の転写を抑制し、CymRタンパクがCumateに結合すると、それとCuOオペレーターとの親和性が低下して分離され、下流で制御された目的核酸断片の転写が抑制されなくなった。例えばCuOオペレーターを制御された目的核酸断片と組成型活性プロモーター配列との間に連結するとともに、細胞内にCymR抑制因子を組成的に活発に発現させる。培地においてCumate及びその誘導体誘導剤がない場合、発現したCymRタンパク質は、CuOオペレーターに結合して制御された目的核酸断片の転写を阻害し、培地に誘導剤が添加された場合、Cumate及びその誘導体に結合したCymRタンパク質とCuOオペレーターとが分離し、制御された目的核酸断片の転写が阻害されなくなった(WO02088346A2、WO2006037215A1を参照する(上記文献は、参照としてここに取り込まれる)。
【0006】
Cumate誘導系の最適化は、以下に集中されている:(1)最短の有効CuOオペレーター配列を最適化する。(2)水に溶けることができる、p-cumateと機能的に類似したCumate及び誘導体誘導剤をスクリーニングする。(3)CymR活性化因子(例えば、CymRとHSV VP-16転写活性化ドメインを構築する融合タンパク質)と、マルチコピーの連続CuOオペレーターを含む応答エレメント(配列は、複数の反復CuO配列と下流の最小プロモーターとを含む)からなるTet-Offに類似した誘導系を構築する。Cumate誘導剤がない条件下で、CymR活性化因子は、CuOオペレーターに結合して制御された目的核酸断片の転写を活性化し、Cumate誘導剤がある条件下で、CymR活性化因子は、CuOオペレーターから分離し、制御された目的核酸断片の転写が停止される。(4)リバースCymR活性化因子(突然変異とスクリーニングによって、リバースCymRは、Cumate誘導剤がある時にCuOオペレーターに結合し、Cumate誘導剤がない時にCuOオペレーターから分離し、リバースCymRとHSV VP-16転写活性化ドメインの融和タンパク質を構築してリバースCymR活性化因子とする)と、マルチコピーの連続CuOオペレーターを含む応答エレメントからなるTet-Onに類似した誘導系を構築する。Cumate誘導剤がある条件下で、リバースCymR活性化因子は、応答エレメントに結合し、制御された目的核酸断片の転写を活性化し、Cumate誘導剤がない条件下で、リバースCymR活性化因子は、応答エレメントから分離し、制御された目的核酸断片の転写を停止した(Mullick,A.,et al.(2006).「The cumate gene-switch:a system for regulated expression in mammalian cells.」BMC Biotechnol 6:43.; WO02088346A2、WO2006037215A1を参照する)。現在では広く使用されているCumate誘導系は、主にSBI System Biosciences社のSparQ Cumate Switchシステム(ファイル番号:1-090810)である。
【0007】
現在の様々な誘導発現系の開発と改良において、主な最適化は、いずれも無誘導条件下での制御された目的核酸断片の基礎リーク転写活性の制御に集中されており、誘導条件下での転写活性は、最適化の重点ではないため、誘導発現系によって制御された目的核酸断片の誘導後転写活性は、一般的な組成型活性プロモーター(constitutively active promoter)の制御下での転写活性よりも低い。バイオテクノロジーの開発において、目的核酸断片の誘導後の絶対転写活性を向上させることは、無誘導条件下でのリーク転写活性を制御することと同様に重要である。例えば、生物製薬分野において、細胞毒性を有する組換えタンパク質又はウイルスベクターを生産するには、目的核酸断片コードのタンパク質の誘導後の発現量を高める必要があるだけでなく、生産細胞株の培養状態と安定性を保証するために、目的核酸断片の無誘導条件下でのリーク発現量を制御する必要もある。そのため、誘導条件下での目的核酸断片の転写活性を向上させることができるとともに、無誘導条件下での該目的核酸断片のリーク転写活性を制御できる誘導発現系は、バイオテクノロジーの多くの分野での研究、開発と産業化を広範に促進することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、テトラサイクリンとCumate依存性の、目的核酸断片転写を制御できる核酸配列に関し、具体的には、前記核酸配列は、リバーステトラサイクリン又はその誘導体依存性のトランスアクチベーター(reverse tetracycline controlled transactivator、rtTA)に結合する少なくとも2コピーのTetOオペレーター配列(Tet operator、TetO)と、TATAボックス配列を含む1コピーの最小プロモーター配列と、CymR転写抑制因子(transcription repressor)に結合する少なくとも1コピーのCuO-オペレーター配列(Cumate operator、CuO)と、を含む。さらに、上記核酸配列の3’端の下流と、制御された目的核酸断片の5’端の上流との間に存在するスプライシング可能なイントロン配列は、誘導なしのリークがないまま、誘導後の転写活性をさらに向上させることができる。さらに、本開示は、以上の制御配列を含み且つ遺伝子発現を制御することを目的とするベクター、ウィルス、細胞、トランスジェニック植物又は動物にさらに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
「目的核酸断片」という用語は、一般的にデオキシリボ核酸断片(DNA断片)を指し、応用目的に基づいて、遺伝子、例えばタンパク質をコードする核酸配列を指してもよく、一部のリボ核酸(RNA)、例えばRNAウィルスの全部又は一部のゲノムRNA断片、マイクロRNA(microRNA、miRNAと略称される)、小干渉リボ核酸(small interfering RNA、siRNAと略称される)、長鎖非コードリボ核酸(long non-doding RNAs、LncRNAと略称される)、CRISPR遺伝子編集システムのガイドRNA(guide RNA、gRNA)、転移リボ核酸(transfer RNA、tRNAと略称される)、リボソームリボ核酸(Ribosomal RNA、rRNAと略称される)、アプタマー(Aptamers)、他の核酸に結合できるリボ核酸断片、特定のタンパク質に結合できるリボ核酸断片、又は任意の一部のリボ核酸であってもよく、以上の一部又は複数の核酸配列の組み合わせであってもよい。
【0010】
「ベクター」という用語は、外来遺伝物質、例えば上記目的核酸断片を他の細胞に人為的に運搬し、その中で複製及び/又は発現させるための媒体として一般的に使用される内包核酸分子である。機能的には、すべてのベクターは、一般的に外来目的核酸断片のクローニングと運搬に用いることができ、同時に核酸断片の転写とタンパク質の発現のために特別に設計された発現ベクターもある。プラスミド、ウィルスベクター、コスミド(cosmids)と人工染色体は、ベクターの4つの主なタイプである。ここで、最も一般的に使用されるベクターは、プラスミドである。全てのエンジニアリングプラスミドベクターは、いずれも細菌内で複製された複製開始点と、目的核酸断片を挿入するためのマルチクローニングサイトと、陽性菌株を選択するためのマーカー遺伝子とを含む。ウィルスベクターは、別の一般的なベクターであり、通常は、遺伝物質、例えば目的核酸断片を細胞に搬送するために用いられる。このプロセスは、生体内(インビボ)又は細胞培養物内(インビトロ)で行うことができる。ウイルス自体が進化した様々な分子メカニズム、例えば、遺伝物質への保護、受容体に基づく宿主細胞への選択、宿主細胞内への遺伝物質の送達、宿主細胞内での複製及び/又は発現、宿主細胞の成長、代謝、増殖複製及び防御メカニズムへの調整、高等動物体内における免疫系への阻害及び/又は逃避に基づき、目的核酸断片を感染した標的細胞内に効果的に移転することができる。ウイルスベクターは、分子生物学的研究に用いられるほか、遺伝子治療、細胞治療、免疫治療、ワクチン開発にもよく用いられる。
【0011】
通常、誘導発現系は、制御された目的核酸断片の誘導後転写活性を増強するとともに、無誘導条件下でのリーク転写活性を増加させ、無誘導条件下でのリーク転写活性を制御する一般的なポリシー、例えば点突然変異によるトランスアクチベーターの誘導剤なし条件下でのオペレーターとの親和性の低下又はオペレーターの下流の最小プロモーターの基礎活性の低下は、いずれも誘導後の最大転写活性に影響を与える。これにより、ほとんどの単一誘導発現系は、いずれも無誘導条件下でのリーク転写活性を平衡化するために、誘導条件下で制御された目的核酸断片の転写活性化活性を低下させた。複数の制御コンポーネントを含む複合誘導発現系を設計することは、上記問題を解決する有効な方向である。本開示により実現された複合誘導発現系において、一方で、第1の誘導発現系における活性化因子と相応な応答エレメントとの組み合わせの誘導後の最大転写活性を最適化して向上させ、他方で、第2の誘導発現系における抑制因子と相応な応答エレメントとの組み合わせにより、複合誘導発現系の向上させたリーク転写活性を制御し、前記複合誘導発現系は、例えば第1の誘導発現系としてTet-On誘導発現系を用い、第2の誘導発現系としてCumate誘導発現系を用いる。上記複合誘導発現系の複合応答エレメント配列は、リバーステトラサイクリン又はその誘導体によって制御されたトランスアクチベーター(reverse tetracycline controlled transactivator、rtTA)に結合する少なくとも2コピーのTetOオペレーター配列(tet operator)と、TATAボックス配列を含む1コピーの最小プロモーター配列と、CymR転写抑制因子(transcription repressor)に結合する少なくとも1コピーのCuOオペレーター配列(CuO operator)と、を含む。
【0012】
本発明者らは、Tet-OnとCumate複合誘導発現系の誘導転写活性と誘導なしのリーク転写活性が、(1)マルチコピーTetOオペレーター及びその連結核酸配列、(2)TRE応答エレメントにける最小プロモーター配列、(3)CuOオペレーターと最小プロモーターにおけるTATAボックスの相対位置の3つの条件の影響を受けることと、第3世代のTet-OnシステムにおけるTRE3G応答エレメントが第2世代のTet-OnシステムにおけるTREadv応答エレメントより厳密に制御され、より低い非誘導リーク転写活性があることと、CuOオペレーターとTATAボックスとが近いほどリーク転写活性に対する制御が厳しくなるが、誘導転写活性に対する影響が大きくなり、遠いほどリーク転写活性に対する制御が弱くなるが誘導転写活性に対する影響が小さくなることとを発見した。以上の発見に基づき、目的核酸断片の転写を制御するための本開示の核酸配列は、好ましくはSEQ ID NO:24に示される、テトラサイクリン又はその誘導体によって制御されたトランスアクチベーターrtTAに結合できる少なくとも2コピー(例えば2、3、4、5、6、7又はより多く、好ましくは7つ)のTetO-オペレーター配列と、好ましくはSEQ ID NO:25又はSEQ ID NO:26に示され、より好ましくはSEQ ID NO:25に示される、TATAボックス配列を含む1部の最小プロモーター配列と、好ましくはSEQ ID NO:27に示される、cumateによって制御された転写抑制因子CymRに結合できるCuO-オペレーター配列と、を含む。好ましくは、少なくとも1つのCuOオペレーター配列は、上記プロモーターTATAボックスの下流にあり、好ましくはTATAボックスの下流の10bpから100bpの間、例えば14bp、30bp、50bp、100bpにあり、さらに好ましくは、CuO配列は、TATAボックスの下流の30bpから50bpの間に1つのみあり、さらに、CuO配列は、TATAボックスの下流の30bp又は50bpの位置に1つのみある。好ましくは、目的核酸断片の転写を制御するための本開示の核酸配列は、SEQ ID NO:23、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:29又はSEQ ID NO:30に示され、より好ましくは、SEQ ID NO:23又はSEQ ID NO:28に示される。
【0013】
発現プラスミドにおけるプロモーターの下流にあるイントロンは、一般的にメッセンジャーRNA(mRNA)転写の安定性を向上させることができるとともに、mRNAの細胞核外への転移効率を向上させることができる(Akef,A.,et al.(2015).「Splicing promotes the nuclear export of beta-globin mRNA by overcoming nuclear retention elements.」RNA 21(11):1908-1920を参照する)、そして目的核酸断片の発現量を向上させることができる。本発明者らは、単一誘導発現系における応答エレメントの3’端の下流にスプライシング可能なイントロンを連結することも同様に誘導後の制御された目的核酸断片の発現量を向上させることができるが、制御された目的核酸断片の誘導なしのリーク発現量を著しく増加させることができることを発見した。本開示に記載のテトラサイクリンとCumate依存性の複合応答エレメント配列の3’端の下流と、制御された目的核酸断片の5’端の上流との間にスプライシング可能なイントロン配列を連結することは、誘導なしのリーク発現量を著しく増加させることなく、誘導発現量を著しく向上させることができる。これに基づき、本開示において、好ましくは、前記テトラサイクリンとCumate依存性の複合応答エレメント配列の3’端の下流と、目的核酸断片の5’端の上流との間にスプライシング可能なイントロン断片を連結する。上記イントロンの選択には、特定の制限がなく、当業者が理解できるように、哺乳動物細胞においてRNAスプライシング(Splicing)を行うことができる配列は、いずれも上記機能を実現することができる。選択可能なイントロン配列は、一般的なクローンベクター上のイントロン、例えばウサギβ-グロブリンイントロン、ヒトβ-グロブリンと免疫グロブリン重鎖イントロン由来のハイブリッドイントロン、EF-1αイントロンA、SV40イントロン、アデノウイルスと免疫グロブリン重鎖イントロン由来のハイブリッドイントロン、修飾されたヒトサイトメガロウイルスイントロン、ニワトリβ-アクチン(CBA)とマウスマイクロウィルス(MMV)イントロン由来のハイブリッドイントロン、ニワトリβ-アクチンとウサギβ-グロブリンイントロン由来のキメラとmP1イントロンを含むが、それらに限らず、任意の真核生物の任意の遺伝子の任意のイントロン、又は、イントロンスプライシング規則に基づいて設計された人工イントロン配列であってもよい。本開示の実施例で使用されるイントロン配列は、SEQ ID NO:31に示されるものであってもよい。
【0014】
上記Tet-OnとCumate複合誘導発現系は、テトラサイクリン又はその誘導体とCumate誘導剤(Cumate又はその機能的類似体)なしの環境で、rtTAトランスアクチベーターは、複合応答エレメントに結合できず、同時にCymR抑制因子は、複合応答エレメントにおけるCuOオペレーターに結合して、制御された目的核酸断片のrtTAトランスアクチベーターの非特異的結合又は最小プロモーターの基礎活性によるリーク転写活性をさらに阻害し、Cumate誘導剤のみの環境で、rtTAトランスアクチベーターと、Cumate誘導剤に結合したCymR抑制因子は、いずれも複合応答エレメントに結合せず、制御された目的核酸断片は、rtTAトランスアクチベーターの非特異的結合又は最小プロモーターの基礎活性により、極低量の転写を引き起こし、テトラサイクリン又はその誘導体のみの環境で、rtTAトランスアクチベーターは、複合応答エレメントにおけるTetOオペレーターに結合して制御された目的核酸断片転写を活性化するが、CymR抑制因子は、同時に複合応答エレメントにおけるCuOオペレーターに結合して制御された目的核酸断片を限定的に転写することができ、テトラサイクリン又はその誘導体とCumate誘導剤とが共存する環境で、rtTAトランスアクチベーターは、複合応答エレメントにおけるTetOオペレーターに結合し、同時にCumate誘導剤に結合したCymR抑制因子は、複合応答エレメントにおけるCuOオペレーターから分離して、制御された目的核酸断片の最大の活性転写を可能にする。上記rtTAトランスアクチベーター核酸コード配列は、好ましくはヒトコドンによって最適化されたSEQ ID NO:18であり、CymRは、好ましくはヒトコドンによって最適化されたSEQ ID NO:15である。
【0015】
上記Tet-OnとCumate複合誘導発現系は、生物学的基礎科学研究、生物学的製薬、遺伝子治療、細胞治療、トランスジェニック植物又は動物改良においていずれも応用することができ、細胞、動物又は植物において、タンパク質をコードする核酸配列の転写のオン又はオフを制御し、非タンパク質コード核酸配列の転写のオンとを制御することを含むが、それらに限らない。例えばRNAウィルスの全部又は一部のゲノムRNA断片、マイクロRNA(microRNA、miRNAと略称される)、小干渉リボ核酸(small interfering RNA、siRNAと略称される)、長鎖非コードリボ核酸(long non-doding RNAs、LncRNAと略称される)、CRISPR遺伝子編集システムのガイドRNA(guide RNA、gRNA)、転移リボ核酸(transfer RNA、tRNAと略称される)、リボソームリボ核酸(Ribosomal RNA、rRNAと略称される)、アプタマー(Aptamers)、他の核酸に結合できるリボ核酸断片、特定のタンパク質に結合できるリボ核酸断片、又は任意の一部のリボ核酸であってもよく、以上の一部又は複数の核酸配列の組み合わせであってもよい。一方で、上記Tet-OnとCumate複合誘導発現系は、遺伝子治療、細胞治療又は免疫治療分野におけるウィルスベクターの発現と生産に用いることができ、細胞傷害活性、又は不安定的なタンパク質の発現と生産に用いることができ、ワクチン分野における弱毒性ワクチン又はウィルス様粒子(viral like particaL、VLPと略称される)ワクチンの発現生産に用いることができ、トランスジェニック動物又は植物における目的核酸断片の転写発現のオン又はオフの制御に用いることができる。
【0016】
本開示において、Tet-On誘導発現系に用いることができるテトラサイクリン及びその誘導体は、テトラサイクリンに構造的に類似する化合物を含み、それは、本開示の前記テトラサイクリン依存性のトランスアクチベーターrtTAに結合することができ、その結合定数Kaは、少なくとも10-6Mに達し、好ましくは、その結合定数Kaは、10-9M以上である。テトラサイクリン誘導体は、例えば、ドキシサイクリン(Dox)、アンヒドロテトラサイクリン(Atc)、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン及びデオキシテトラサイクリンから選択されてもよい。
【0017】
本開示において、Cumate誘導発現系に用いることができる、抑制因子CymRに結合するCumate機能的類似体は、例えばp-エチル安息香酸、p-プロピル安息香酸、p-イソプロピル安息香酸、p-イソブチル安息香酸、p-tert-ブチル安息香酸、p-n-ジメチルアミノ安息香酸、p-n-エチルアミノ安息香酸、及び例えば米国特許番号7,745,592に記述されている他のCumate機能的類似体から選択されてもよい。
【0018】
本開示のテトラサイクリンとCumateの共制御配列を含むベクターに導入できる宿主細胞は、原理的に、任意の細胞、例えば、細菌、真菌、動物細胞又は植物細胞であってもよい。他方で、本開示に記載のテトラサイクリンとCumateの共制御配列は、ウィルスベクターによって用いることができ、例えば製造されたウィルスベクターに含まれる核酸断片には、本開示のテトラサイクリンとCumateの共制御配列が含まれ、DNAウィルスベクター(例えばアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス)内にデオキシリボ核酸として存在し、RNAウィルスベクター(例えばレトロウイルス)内にリボ核酸として存在する。
【0019】
当業者が理解できるように、転写が本開示の制御核酸配列によって制御された目的核酸断片については、その転写が本開示の制御核酸配列によって制御され得る限り、特に制限はない。
【0020】
一態様では、本開示は、以下を提供する:
【0021】
第1項.テトラサイクリン又はその誘導体によって制御されたトランスアクチベーターrtTAに結合できる少なくとも2コピーのTetO-オペレーター配列と、TATAボックス配列を含む1コピーの最小プロモーター配列と、cumateによって制御された転写抑制因子CymRに結合できる少なくとも1コピーのCuO-オペレーター配列と、を含む核酸配列であって、前記CuO-オペレーター配列は、前記TATAボックス配列の3’端の下流にあり、前記TATAボックスとの距離間隔は、10bp~100bpである核酸配列。
【0022】
第2項.前記CuO-オペレーター配列と前記TATAボックスとの距離間隔は、30bp~50bpである、第1項に記載の核酸配列。
【0023】
第3項.前記CuO-オペレーター配列と前記TATAボックスとの距離間隔は、50bpである、第1項に記載の核酸配列。
【0024】
第4項.前記TetO-オペレーター配列は、SEQ ID NO:24に示され、及び/又は前記最小プロモーター配列は、SEQ ID NO:25又はSEQ ID NO:26に示され、及び/又は前記CuO-オペレーター配列は、SEQ ID NO:27に示される、第1項に記載の核酸配列。
【0025】
第5項.前記核酸配列は、SEQ ID NO:23、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:29又はSEQ ID NO:30に示される、第4項に記載の核酸配列。
【0026】
第6項.前記核酸配列は、3’端にスプライシング可能なイントロン配列をさらに含む、第1~5項のいずれか一項に記載の核酸配列。
【0027】
第7項.第1~6項のいずれか一項に記載の核酸配列を含むベクター。
【0028】
第8項.前記ベクターは、発現ベクターであり、前記発現ベクターは、第1~6項のいずれか一項に記載の核酸配列の3’端の下流にある目的核酸断片を含み、前記目的核酸断片の転写は、第1~6項のいずれか一項に記載の核酸配列によって制御される、第7項に記載のベクター。
【0029】
第9項.第1~6項のいずれか一項に記載の核酸配列又は第7項又は8項に記載のベクターを含む宿主細胞。
【0030】
第10項.
第8項に記載のベクター、rtTAのコード配列及びCymRのコード配列を宿主細胞に導入するステップ(1)と、
(1)を経た前記宿主細胞においてrtTAとCymRを発現するステップ(2)と、
(2)を経た前記宿主細胞にテトラサイクリン又はその誘導体及びcumate又はその機能的類似体を提供するステップ(3)と、を含む、前記宿主細胞において目的核酸断片の発現を誘導する方法。
【0031】
第11項.前記rtTAは、rtTAadv又はrtTA3Gである、第10項に記載の方法。
【0032】
第12項.前記rtTAのコード配列は、SEQ ID NO.18に示される、第10項に記載の方法。
【0033】
第13項.前記CymRのコード配列は、SEQ ID NO.15に示される、第10項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】目的核酸断片の誘導発現量と誘導なしのリーク発現量に対する、実施例2におけるCuOオペレーターの複合応答エレメントにおける位置及び数の影響を示す。
図1A:DOX誘導剤のみの添加、DOXとCuamte誘導剤との同時添加に対応するLuciferase検出実験のRLU値を示す。
図1B:Cumate誘導剤を添加した場合とCuamte誘導剤を添加しなかった場合のRLUの比を示す。
【
図2】目的核酸断片の誘導発現量と誘導なしのリーク発現量に対する、実施例3における単一制御応答エレメント、複合制御応答エレメント及び応答エレメントの下流に連結されたイントロンの影響を示す。
図2A:DOXとCumate誘導剤の有無に対応するLuciferase検出実験のRLU値を示す。
図2B:DOXとCumate誘導剤の有無のRLU値の比を示す。
【
図3】TRE
3GCuO複合応答エレメント誘導発現と誘導なしのリーク発現に対する実施例4における異なるイントロンの影響を示す。
図3A:DOXとCumate誘導剤の有無に対応するLuciferase検出実験のRLU値を示す。
図3B:DOXとCumate誘導剤の有無のRLU値の比を示す。
【
図4】実施例5におけるTRE
3GCuOとTRE
3GCuO-BGIによって制御された目的核酸断片の異なる誘導組み合わせでの誘導転写活性を示す。縦座標は、異なる誘導剤条件下でのLuciferase検出実験のRLU値を示し、4色の棒グラフは、誘導剤を添加した4つの組み合わせを示し、途中の横線上の数字は、対応する誘導条件下と無誘導条件下(白色)でのRLU比を表す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の技術案を説明するために以下の実施例が提供されるが、以下の実施例は、本発明の範囲と精神を制限するものとみなされるべきではない。
【0036】
実施例1:プラスミド構築方法
【0037】
以下の実施例で使用される分子クローニング技術、例えば、DNA断片のPCR増幅、DNA断片の制限酵素による切断、DNA断片のゲル回収、二部以上のDNA断片のT4 DNAリガーゼ連結、連結生成物コンピテント細胞の形質転換、プラスミドの少量調製及び同定等の方法は、いずれも本分野の周知技術である。以下の実施例では、PCR酵素(Thermo、F-530S)、制限酵素(NEB)、T4 DNAリガーゼ(Invitrogen、15224041)、DNA断片ゲル回収キット(Omega、D2500-02)、プラスミド抽出ミニキット(TIANGEN、DP105-03)、コンピテント細胞(XL-10 Gold、湖南豊暉生物科学技術有限会社、JZ011)という試薬に関し、SEQ ID NO:1からSEQ ID NO:22に示される核酸配列は、本開示の前記プラスミド構築のためにジェンスクリプト社によって合成され、プラス配列決定同定は、Invitrogen社によって完了される。表1は、構築プラスミドのプライマ情報であり、表2は、付録配列SEQ ID NO:1からSEQ ID NO:31のエレメントの構成説明であり、表3は、プラスミドにおける各機能エレメントの説明であり、表4は、本開示で構築されたプラスミド番号及び対応する名称である。以下の実施例に係るプラスミドの各々で採用されるエレメント配列情報は、本開示を実施する一例であり、当業者は、以下の実施例で使用されるプラスミド上の各々のエレメント配列を、生物学的機能が類似した他のエレメント配列に置換することも、本開示に記載の効果を達成することができると期待することができ、プラスミドの骨格配列(例えば複製の原点(replication origin)、抵抗性遺伝子など)、酵素切断サイト配列、トランスポゾン反復配列、誘導系応答エレメント配列、インスレーター(Insulator)配列、プロモーター配列、イントロン配列、ポリアデニル酸シグナル(PolyA)配列、異なるコドンで最適化された遺伝子配列、上記各機能エレメント配列と遺伝子配列の変異体、及び各機能エレメント配列と遺伝子配列のクローニング位置、クローニング順序とクローニング方向を含むが、それらに限らない。具体的なプラスミド構築方法は、以下の通りである:
【0038】
1.プラスミド18BF007の構築:合成配列SEQ ID NO:2(2900bp)をNotIとAsiSIで切断してプラスミド18BF003(SEQ ID NO:1)のNotIとAsiSIの切断サイトに連結することにより、プラスミド18BF007を構築する。
【0039】
2.プラスミド18BF011の構築:18BF007プラスミドをMluIとSphIで切断し、1730bp断片をゲルで回収してそれを18BF003プラスミドのMluIとSphIの切断サイトに連結することにより、プラスミド18BF011を構築する。
【0040】
3.プラスミド18BF210の構築:合成配列SEQ ID NO:3(1208bp)をSpeIとAgeIで切断してプラスミド18BF011のAvrIIとAgeIの切断サイトに連結することにより、プラスミド18BF210を構築する。
【0041】
4.プラスミド18BF211、18BF212、18BF213、18BF214、18BF215、18BF216、18BF217と18BF218の構築:合成配列SEQ ID NO:4(908bp)、配列SEQ ID NO:5(880bp)、配列SEQ ID NO:6(890bp)と配列SEQ ID NO:7(845bp)をそれぞれMluIとClaIで切断してプラスミド18BF210のMluIとClaIの切断サイトに連結することにより、プラスミド18BF212、18BF211、18BF214と18BF213をそれぞれ構築する。プラスミド18BF211、18BF212、18BF213と18BF214をそれぞれBstBIで切断し、DNA断片3932bp(18BF211)、3960bp(18BF212)、3897bp(18BF213)と3942bp(18BF214)をそれぞれゲルで回収し、T4リガーゼで連結してプラスミド18BF215、18BF216、18BF217と18BF218をそれぞれ構築する。
【0042】
5.プラスミド18BF229、18BF232、18BF233、18BF234、18BF235、18BF236、18BF237、18BF240と18BF241の構築:pGL3~Basic(Promega、E1751)をテンプレートとして、Luc-F(SEQ ID NO:32)とLuc-R(SEQ ID NO:33)をプライマとして、PCRによってluciferase遺伝子断片(1728bp)を増幅し、BamHIとXhoIで切断処理し、プラスミド18BF210、18BF217、18BF218、18BF215、18BF216、18BF211、18BF212、18BF213と18BF214のBamHIとXhoIの切断サイトにそれぞれ連結することにより、プラスミド18BF229、18BF232、18BF233、18BF234、18BF235、18BF236、18BF237、18BF240と18BF241を構築する。
【0043】
6.プラスミド18BF251、18BF252、18BF253、18BF254、18BF255、18BF256と18BF257の構築:合成配列SEQ ID NO:8(414bp)、配列SEQ ID NO:9(414bp)、配列SEQ ID NO:10(415bp)、配列SEQ ID NO:11(472bp)、配列SEQ ID NO:12(588bp)、配列SEQ ID NO:13(704bp)と配列SEQ ID NO:22(376bp)をそれぞれMluIとClaIで切断してプラスミド18BF235のMluIとClaIの切断サイトにそれぞれ連結することにより、プラスミド18BF251、18BF252、18BF253、18BF254、18BF255、18BF256と18BF257をそれぞれ構築する。
【0044】
7.プラスミド18BF261、18BF262、18BF263と18BF264の構築:配列17をテンプレートとして、BGI(C&R)-F(SEQ ID NO:34)とBGI(C&R)-R(SEQ ID NO:35)をプライマとして、PCRによってBGI(C&R)イントロン配列(1036bp)を増幅し、pEF1alpha-IRES-AcGFP1(Clontech)をテンプレートとして、Intron(EF-1a)-F(SEQ ID NO:36)とIntron(EF-1a)-R(SEQ ID NO:37)をプライマとして、PCRによってIntron(EF-1a)イントロン配列(962bp)を増幅し、pSI(Promega#E1721)プラスミドをテンプレートとして、Intron(pSI)-F(SEQ ID NO:38)とIntron(pSI)-R(SEQ ID NO:39)をプライマとして、PCRによってIntron(pSI)イントロン配列(152bp)を増幅し、以上の3つのPCR生成物をそれぞれClaIとBamHIで切断処理し、プラスミド18BF235のClaIとBamHIの切断サイトに連結することにより、プラスミド18BF261、18BF263と18BF264を構築する。合成された配列14(210bp)をClaIとBamHIで切断し、プラスミド18BF235のClaIとBamHI切断サイト連結することにより、プラスミド18BF262を構築する。
【0045】
8.プラスミド19BF075と19BF074の構築:合成された配列SEQ ID NO:15(633bp)と配列SEQ ID NO:16(1496bp)をそれぞれClaIとXhoI及びSpeIとAgeIで切断処理して18BF007プラスミドのClaIとXhoIの切断サイト及びAvrIIとAgeIの切断サイトに順次連結することにより、19BF073プラスミドを構築する。合成された配列SEQ ID NO:17(1979bp)をMluIとAgeIで切断して18BF007プラスミドのMluIとAgeIの切断サイトに連結し、CMV-BGI-MCS-pA配列を置換することにより、18BF008プラスミドを構築する。合成された配列SEQ ID NO:18(768bp)と配列SEQ ID NO:19(765bp)をそれぞれClaIとXhoIで切断して18BF008プラスミドのClaIとXhoIの切断サイトにそれぞれ連結することにより、18BF085と18BF084プラスミドをそれぞれ構築する。プラスミド19BF073をSpeIとAgeIで切断し、3821bp断片をゲルで回収してそれを18BF085と18BF084プラスミドのAvrIIとAgeIの切断サイトにそれぞれ連結することにより、19BF075と19BF074プラスミドをそれぞれ構築する。
【0046】
9.プラスミド18BF019の構築:合成された配列SEQ ID NO:21(1044bp)と配列SEQ ID NO:20(1320bp)をそれぞれBamHIとXhoI及びXhoIとBglIIで切断して18BF011プラスミドのBamHIとBglIIの切断サイトに連結することにより、18BF019プラスミドを構築する。
【0047】
10.プラスミド19BF229、19BF235と19BF237の構築:プラスミド18BF229、18BF235と18BF237をそれぞれMluIとAgeIで切断し、4605bp(18BF229)、3847bp(18BF235)と4341bp(18BF237)断片をそれぞれゲルで回収してそれを18BF007プラスミドのMluIとAgeIの切断サイトにそれぞれ連結することにより、19BF229、19BF235と19BF237プラスミドをそれぞれ構築する。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
実施例2:誘導発現量と誘導なしのリーク発現量に対するCuOオペレーター位置及び数の影響
【0053】
本実施例に記載の実験は、CuOオペレーターのTet-OnとCumate複合応答エレメントにおける位置とコピー数が、複合応答エレメント誘導発現量と誘導なしのリーク発現量に対する影響を研究と検証し、最適なCuOオペレーター位置とコピー数を最適化して確認することである。本実施例は、TRE3G応答エレメントにおける7xTetO配列と最小プロモーター配列#1(SEQ ID NO:25)に基づき、TATAボックスの下流の10bpから100bp間隔の範囲内に、それぞれ14bp、30bp、50bpと100bp間隔の位置にCuOオペレーター配列を連結してTRE3GCuO14(SEQ ID NO:8における10-317bp)、TRE3GCuO30(SEQ ID NO:28)、TRE3GCuO50(SEQ ID NO:23)と TRE3GCuO100(SEQ ID NO:10における10-403bp)応答エレメントを設計し、以上の応答エレメントの3’端の下流にLuciferaseレポーター遺伝子配列を連結し、プラスミド18BF251、18BF252、18BF235と18BF253を構築した。さらに、マルチコピーCuOオペレーターの影響を研究するために、TATAボックスの下流の50bp間隔の位置に、2、4と6コピーCuOオペレーター配列をそれぞれ挿入してTRE3GCuO2x(SEQ ID NO:11における10-411bp)、TRE3GCuO4x(SEQ ID NO:12における10-527bp)とTRE3GCuO6x(SEQ ID NO:13における10-643bp)応答エレメントを設計し、以上の応答エレメントの下流の3’端にLuciferaseレポーター遺伝子配列を連結し、プラスミド18BF254、18BF255と18BF256を構築した。rtTA3GとCymR遺伝子を安定的に発現させる293T-rtTA3G-CymR細胞内に、上記プラスミドを瞬時にトランスフェクションし、DOXとCumate誘導剤とを同時に添加したサンプルと、DOX誘導剤のみを添加した対照のluciferase蛍光値を測定することによって、最適化されたCuOオペレーターの最適位置と数を検証した。具体的な実験方法は、以下の通りである:
【0054】
1.SBトランスポゾンシステムで293T-rtTAadv-CymRと293T-rtTA3G-CymR細胞を構築する。
【0055】
293T細胞を60mmシャーレあたり1.5E+06個の細胞に接種し、37℃、5% CO2の環境で、10%のFBS(ExCell,11H116)が添加されたDMEM(Sigam、D6429)完全培地で培養した。24時間培養した後、PEI方法でトランスフェクションを行い、トランスフェクションの時に60mmシャーレあたり500μLのトランスフェクション試薬を加え、ここで、プラスミドの総量が5.5ugであり、プラスミドの総量とPEI MAX(Polysciences、24765-1)との質量比は、1:4である。ここで、プラスミド19BF074:18BF019のモル比10:1でトランスフェクションを行って293T-rtTAadv-CymR細胞を取得し、プラスミド19BF075:18BF019のモル比10:1でトランスフェクションを行って293T-rtTA3G-CymR細胞を取得した。プラスミドとPEI MAXとを均一に混合し、15分間静置した後にシャーレに添加し、3時間トランスフェクションした後、培地をDMEM完全培地に交換し、トランスフェクション操作を完了した。24時間トランスフェクションした後、パンクレアチンで細胞を消化してすべて100mmのシャーレ(Corning、430167)に接種し、200μg/mlのハイグロマイシン(Hygromycin、生工A600230-0001)薬物で少なくとも三世代スクリーニングした後、細胞は、薬物の圧力で成長して元の293T細胞と一致した後、以下の実験を行った。
【0056】
2.Luciferase蛍光強度に基づいてDOXとCumate誘導又はDOXのみ誘導条件下での各応答エレメント効能を検出する
【0057】
293T-rtTA3G-CymR細胞をウェルあたり2.5E+04個の細胞に96ウェルプレート(Corning 3916)に接種し、培地は、100マイクロリットルDMEM完全培地である。24時間培養した後、PEI方法で18BF234(TRE3G)、18BF251(TRE3GCuO14)、18BF252(TRE3GCuO30)、18BF235(TRE3GCuO50)、18BF253(TRE3GCuO100)、18BF254(TRE3GCuO2x)、18BF255(TRE3GCuO4x)と18BF256(TRE3GCuO6x)というプラスミドをトランスフェクションし、トランスフェクションの時にウェルあたり10μLのトランスフェクション試薬を加え、ここで、プラスミドの総量が0.3ugであり、0.01ugの上記8つの測定すべきプラスミドと0.29マイクログラムの18BF003空プラスミドとを含む。プラスミドの総量とPEI MAX(Polysciences、24765-1)との質量比は、1:4であり、各種のプラスミドを6ウェルにトランスフェクションした。3時間トランスフェクションした後にDMEM完全培地を交換し、そのうちの3ウェル内に誘導剤1ug/mlのDOX(塩酸ドキシサイクリン(DOX)を加え、生工生物工学(上海)株式会社、A600889)と200ug/mlのCumate(Aladdin、I107765)、他の3ウェル内に1ug/mlのDOXのみを添加した。24時間トランスフェクションした後、Steady-Glo(R) Luciferase Assay System(Promega、E2610)キットを用い、その操作説明(Promega、FB037)に従って各ウェルの相対蛍光単位RLU(relative light unit)を検出し、検出器は、蛍光マイクロプレートリーダ(Perkin Elmer VictorV)である。
【0058】
結果は、
図1に示され、CuOオペレーター配列は、Tet-On誘導発現系応答エレメントの誘導発現量に影響を与え、CuOオペレーターは、TRE応答エレメントTATAボックスに近いほど、誘導後の発現量が低い。しかしCuOオペレーターとTATAボックスとの距離が大きくなるにつれて、Cumate誘導なしのリーク発現量が高くなった。誘導後発現量、Cumate誘導なしのリーク発現量とCumate誘導/リーク発現量の比等の結果を統合し、CuOとTATAボックスとの間隔が30bpから50bpの間に結果が最適であり、誘導発現量がそれぞれ3.06E+06 RLUと4.53E+06 RLUであり、それぞれTRE
3G応答エレメント誘導発現量の44.5%と66.0%であり、Cumate誘導発現系に基づく誘導/リーク発現量の比がそれぞれTRE
3G応答エレメントの4.21倍と2.81倍であると決定した。CuOオペレーターのコピーを2、4又は6に増加させると、誘導後の発現量をさらに低減させ、Cumate誘導/リーク発現量の比を増加させない。以上の結果に基づき、TRE応答エレメントTATAボックスから30bp~50bpを離れた距離にCuOオペレーターを挿入し、1コピーのみを挿入することが最適条件である。
【0059】
TREadv応答エレメントにおける7xTetO配列と最小プロモーター配列#2(SEQ ID NO:26)に基づき、TATAボックスの下流に32bpと52bpを離れた位置にCuOオペレーター配列を連結し、上記方法でTREadvCuO32(SEQ ID NO:29)とTREadvCuO52(SEQ ID NO:30)応答エレメントを設計し、以上の応答エレメントの3’端の下流にLuciferaseレポーター遺伝子配列を連結し、プラスミド18BF257と18BF233を構築した。上記と同様の実験方法で、誘導発現量がそれぞれ3.26+06 RLUと4.88E+06 RLUであり、それぞれTREadv応答エレメント誘導発現量の37.8%と53.4%であり、Cuamte誘導発現系に基づく誘導/リーク発現量の比がそれぞれTREadv応答エレメントの4.97倍と3.23倍であると検出した。その後の実施例は、TREadvCuO52とTRE3GCuO50応答エレメントで実験を行い、TREadvCuOとTRE3GCuO応答エレメントとそれぞれ表記した。
【0060】
実施例3:誘導発現量と誘導なしのリーク発現量に対する単一制御/複合制御及びイントロンの影響
【0061】
Tet-On誘導発現系において、TRE応答エレメントのTetOオペレーター連結配列と最小プロモーター配列及びトランスアクチベーターrtTAの異なる突然変異体は、誘導転写活性とリーク転写活性に統合的に影響を与える。なお、応答エレメントの3’端の下流、制御された目的核酸断片の5’端の上流にスプライシング可能なイントロン配列を連結することにより、メッセンジャーリボ核酸の輸送と安定性を補強する可能性があるが、同様に誘導発現系応答エレメントの誘導転写活性とリーク転写活性に影響を与える可能性もある。これに基づき、本実施例は、(1)TREadvとTRE3G応答エレメント配列に基づいて設計されたTet-OnとCumate複合応答エレメントTREadvCuOとTRE3GCuO、(2)イントロン連結の有無、(3)トランスアクチベーターrtTAadv又はrtTA3Gによる制御、という3つの条件の組み合わせでのLuciferase遺伝子誘導発現量と誘導/リーク発現量の比を比較して最適な複合応答エレメント設計案を確認した。本実施例では、合計で8つの設計案を比較し、それぞれは、TREadv(18BF232)、TREadvCuO(18BF233)、TRE3G(18BF234)、TRE3GCuO(18BF235)、TREadv-BGI(18BF240、応答エレメントがTREadvであり、応答エレメントの3’端とLuciferase遺伝子の5’端との間にヒトβ-グロブリンイントロンが連結される)、TREadvCuO-BGI(18BF241、応答エレメントがTREadvCuOであり、応答エレメントの3’端とLuciferase遺伝子の5’端との間にヒトβ-グロブリンイントロンが連結される)、TRE3G-BGI(18BF236、応答エレメントがTRE3Gであり、応答エレメントの3’端とLuciferase遺伝子の5’端との間にヒトβ-グロブリンイントロンが連結される)とTRE3GCuO-BGI(18BF237、応答エレメントがTRE3GCuOであり、応答エレメントの3’端とLuciferase遺伝子の5’端との間にヒトβ-グロブリンイントロンが連結される)である。プロモーターCMV-BGI(18BF229、プロモーターがCMVであり、CMVプロモーターの3’端とLuciferase遺伝子の5’端との間にヒトβ-グロブリンイントロンを連結する)を陽性対照とした。rtTAadvとCymR遺伝子を安定的に発現させる293T-rtTAadv-CymR細胞内と、rtTA3GとCymR遺伝子を安定的に発現させる293T-rtTA3G-CymR細胞内に、上記プラスミドをそれぞれ瞬時にトランスフェクションし、DOXとCumate誘導剤を添加したサンプルと、誘導なし対照のluciferase蛍光値を測定することによって、最適な複合応答エレメント組み合わせを検証した。具体的な実験方法は、以下の通りである:
【0062】
実施例2の中で構築された293T-rtTAadv-CymRと293T-rtTA3G-CymR細胞をウェルあたり2.5E+04個の細胞に96ウェルプレート(Corning 3916)に接種し、培地は、100マイクロリットルDMEM完全培地である。24時間培養した後、PEI方法で上記9つのプラスミドをトランスフェクションし、トランスフェクションの時にウェルあたり10μLのトランスフェクション試薬を加え、ここで、プラスミドの総量が0.3ugであり、0.01ugの上記9つの測定すべきプラスミドと0.29マイクログラムの18BF003空プラスミドとを含む。プラスミドの総量とPEI MAX(Polysciences、24765-1)との質量比は、1:4であり、各種のプラスミドをそれぞれ293T-rtTAadv-CymRと293T-rtTA3G-CymR細胞に6ウェルにトランスフェクションした。3時間トランスフェクションした後にDMEM完全培地を交換し、各種の細胞のうちの3ウェル内に誘導剤1ug/mlのDOXと200ug/mlのCumateを加え、他の3ウェル内に等量培地を加えて対照する。24時間トランスフェクションした後、Steady-Glo(R) Luciferase Assay System(Promega、E2610)キットを用い、その操作説明(Promega、FB037)に従って各ウェルの相対蛍光単位RLU(relative light unit)を検出し、検出器は、蛍光マイクロプレートリーダ(Perkin Elmer VictorV)である。
【0063】
実験結果は、
図2に示され、(1)TRECuO複合応答エレメントは、TRE単一制御応答エレメントより、誘導/リーク発現量の比が1から2桁著しく向上した。TRE
3GCuO複合応答エレメントは、TRE
advCuO複合応答エレメントより、リーク発現をよりよく制御することができる。293T-rtTA
adv-CymR細胞において、TRE
3GCuOとTRE
advCuOの誘導/リーク発現量の比は、それぞれ1565と1345倍であり、16.4%向上し、293T-rtTA
3G-CymR細胞において、TRE
3GCuOとTRE
advCuOの誘導/リーク発現量の比は、それぞれ2635と1915倍であり、37.6%向上した。しかしTRECuO複合応答エレメントは、TRE単一制御応答エレメントより、誘導発現量が著しく低下した。293T-rtTA
adv-CymR細胞において、TRE
3GCuOとTRE
advCuOの誘導発現量は、それぞれ対応するTRE
3GとTRE
adv単一制御応答エレメントの50.4%と36.3%であり、293T-rtTA
3G-CymR細胞において、TRE
3GCuOとTRE
advCuOの誘導発現量は、それぞれ単一制御応答エレメントの61.8%と40.3%である。(2)誘導発現量面において、TRE
3GCuO複合応答エレメントは、TRE
advCuO複合応答エレメントより、下流のイントロンに対してより敏感で、イントロンBGIのある設計において、誘導発現量が著しく向上した。TRE
3GCuOとTRE
3GCuO-BGIの誘導発現量は、293T-rtTA
adv-CymR細胞において、それぞれ3.4E+06 RLUと10.6E+06 RLUであり、それぞれは、TRE
3Gの誘導発現量の50.4%と157.9%であり、イントロンを連結することにより、TRE
3GCuO複合応答エレメントの誘導後発現量は、2.13倍向上することができ、293T-rtTA
3G-CymR細胞において、それぞれ4.24E+06と11.3E+06であり、それぞれは、TRE
3Gの誘導発現量の61.8%と165.0%であり、イントロンを連結することにより、TRE
3GCuO複合応答エレメント誘導後発現量は、1.67倍向上することができる。(3)誘導後発現量を比較し、トランスアクチベーターrtTA
3Gは、8つの設計案において、rtTA
advと有意差がなかったが、誘導/リーク発現量の比でrtTA
3Gには著しい優位性があり、その8つの設計案の誘導/リーク発現量の比の平均値は、1110倍でrtTA
advの1.68倍(rtTA
adv誘導/リーク発現量の比の平均値が661倍)である。
【0064】
以上の結果に基づき、TRE3GCuO複合応答エレメントは、TREadvとTRE3G及びTREadvCuO複合応答エレメントより、リーク発現をより良く制御する能力を持ち、下流にイントロンBGIを連結した後にTRE3GCuO複合応答エレメントによるリーク発現の制御を維持するとともに、その誘導発現量を大幅に向上させることができる。rtTA3Gによる制御の条件下で、TRE3GCuO-BGIの誘導発現量は、それぞれTREadvの80.6%であり、TREadv-BGIの80.5%であり、TREadvCuOの199.9%であり、TREadvCuO-BGIの147.0%であり、TRE3Gの165.0%であり、TRE3G-BGIの81.5%とTRE3GCuOの267.2%であり、組成型活性プロモーターCMV-BGIの84.7%に達し、TRE3GCuO-BGIの誘導/誘導なし発現量の比は、それぞれTREadvの24.5倍、TREadv-BGIの43.4倍、TREadvCuOの1.2倍、TREadvCuO-BGIの1.6倍、TRE3Gの5.9倍、TRE3G-BGIの8.9倍とTRE3GCuOの0.8倍である。
【0065】
実施例4:TRE3GCuO複合応答エレメント誘導発現と誘導なしのリーク発現に対する異なるイントロンの影響
【0066】
上記実施例3において、イントロンBGIを連結することにより、TRE3GCuO複合誘導応答エレメントの誘導転写活性及びLuciferase目的遺伝子の発現量を著しく向上させた。本実施例は、他のイントロンが同様の効果を有するか否かを検証した。本実施例は、4つの一般的なプラスミドベクター上のイントロンをTRE3GCuO複合応答エレメントの3’端の下流とluciferaseレポーター遺伝子の5’端の上流との間にクローニングし、BGI(C&R)、Intron(mP1)、Intron(EF-1a)とIntron(pSI)イントロンを含むプラスミド18BF261、18BF262、18BF263と18BF264をそれぞれ構築し、プラスミド構築の具体的な方法は、実施例1に記述されている。rtTA3GとCymR遺伝子を安定的に発現させる293T-rtTA3G-CymR細胞内に、上記プラスミド及びTRE3GCuO(18BF235)、TRE3GCuO-BGI(18BF237)とCMV-BGI(18BF229)プラスミドをそれぞれ瞬時にトランスフェクションし、DOXとCumate誘導剤を添加したサンプルと、誘導なし対照のluciferase蛍光値を測定することによって、TRE3GCuO複合応答エレメントの誘導発現と誘導なしのリーク発現に対する各イントロンの影響を検証した。具体的な実験方法は、以下の通りである:
【0067】
293T-rtTA3G-CymR細胞をウェルあたり2.5E+04個の細胞に96ウェルプレート(Corning 3916)に接種し、培地は、100マイクロリットルDMEM完全培地である。24時間培養した後、PEI方法で上記7つのプラスミドをそれぞれトランスフェクションし、トランスフェクションの時にウェルあたり10μLのトランスフェクション試薬を加え、ここで、プラスミドの総量が0.3ugであり、0.01ugの上記7つの測定すべきプラスミドと0.29マイクログラムの18BF003空プラスミドとを含む。プラスミドの総量とPEI MAX(Polysciences、24765-1)との質量比は、1:4であり、各種のプラスミドを6ウェルにトランスフェクションした。3時間トランスフェクションした後にDMEM完全培地を交換し、そのうちの3ウェル内に誘導剤1ug/mlのDOXと200ug/mlのCumateを加え、他の3つのウェル内に等量培地を添加した。24時間トランスフェクションした後、Steady-Glo(R) Luciferase Assay System(Promega、E2610)キットを用い、その操作説明(Promega、FB037)に従って各ウェルの相対蛍光単位RLU(relative light unit)を検出し、検出器は、蛍光マイクロプレートリーダ(Perkin Elmer VictorV)である。
【0068】
実験結果は、
図3に示され、4つの他のイントロンを含むプラスミド18BF261、18BF262、18BF263と18BF264は、誘導発現量と誘導/リーク発現量の比でTRE
3GCuO-BGI(18BF237)と有意差がなく、いずれも実施例3に記載のTRE
3GCuO-BGIの設計効果に達することができる。イントロンにおいて、スプライシングを行うために、5’ スプライシングサイト(5’ splice site)、3’ スプライシングサイト(3’ splice site)及びスプライシング分岐サイト(branch point)を必要とする。本実施例は、上記条件に合致する、スプライシング可能なイントロンがいずれも本開示に記載の実験効果に達することができると証明した。そのため、本開示に記載の効果は、特定のイントロン配列によって拘束されるべきではなく、哺乳動物細胞においてRNAスプライシング(Splicing)を行うことができる配列は、いずれも上記機能を実現することができる。選択可能なイントロン配列は、一般的なクローンベクター上のイントロン、例えばウサギβ-グロブリンイントロン、ヒトβ-グロブリンと免疫グロブリン重鎖イントロン由来のハイブリッドイントロン、EF-1αイントロンA、SV40イントロン、アデノウイルスと免疫グロブリン重鎖イントロン由来のハイブリッドイントロン、修飾されたヒトサイトメガロウイルスイントロン、ニワトリβ-アクチン(CBA)とマウスマイクロウィルス(MMV)イントロン由来のハイブリッドイントロン、ニワトリβ-アクチンとウサギβ-グロブリンイントロン由来のキメラとmP1イントロンを含むが、それらに限らず、任意の真核生物の任意の遺伝子の任意のイントロン、又は、イントロンスプライシング規則に基づいて設計された人工イントロン配列であってもよい。
【0069】
実施例5:TRE3GCuO複合応答エレメントの異なる誘導組み合わせでの誘導転写活性を研究する。
【0070】
本実施例は、Tet-ONとCumate複合によって制御された、TRE3GCuO又はTRE3GCuO-イントロンに基づいて設計された、Luciferaseをレポーター遺伝子とする安定細胞系を構築し、これらの細胞系に基づき、誘導剤なし、Cumateのみ添加、DOXのみ添加又はDOXとCumate誘導剤同時添加の4つの誘導条件の組み合わせで、レポーター遺伝子の異なる誘導転写活性を検出した。本実施例は、Luciferaseレポーター遺伝子のみを例として、原則として、本開示に記載の方法は、目的核酸断片の影響を受けない。具体的な実験方法は、以下の通りである:
【0071】
1.SBトランスポゾンシステムによりDOXとCumate複合制御Luciferase安定化細胞系を構築する:
【0072】
293T細胞を60mmシャーレあたり1.5E+06個の細胞に接種し、37℃、5% CO2の環境で、10%のFBS(ExCell,11H116)が添加されたDMEM(Sigam、D6429)完全培地で培養した。24時間培養した後、PEI方法でトランスフェクションし、トランスフェクションの時に60mmシャーレあたり500μLのトランスフェクション試薬を加え、プラスミドの総量が5.5ugであり、プラスミドの総量とPEI MAX(Polysciences、24765-1)との質量比は、1:4であり、合計3つのLuciferase安定化細胞系を構築した。ここでプラスミドのトランスフェクションは、19BF075:19BF229:18BF019のモル比5:5:1でトランスフェクションを行って293T(T&C)-CMV-BGI-Luc細胞を取得し、ここでプラスミドのトランスフェクションは、19BF075:19BF235:18BF019のモル比5:5:1でトランスフェクションを行って293T(T&C)-TRE3GCuO-Luc細胞を取得し、ここでプラスミドのトランスフェクションは、19BF075:19BF237:18BF019のモル比5:5:1でトランスフェクションを行って293T(T&C)-TRE3GCuO-BGI-Luc細胞を取得した。プラスミドとPEI MAXとを均一に混合し、15分間静置した後にシャーレに添加し、3時間トランスフェクションした後、培地をDMEM完全培地に交換し、トランスフェクション操作を完了した。24時間トランスフェクションした後、パンクレアチンで細胞を消化してすべて100mmのシャーレ(Corning、430167)に接種し、200μg/mlのハイグロマイシン(Hygromycin、生工A600230-0001)薬物で少なくとも三世代スクリーニングした。細胞は、薬物の圧力で成長して元の293T細胞と一致した後、更に極限希釈法で上記3つの細胞をそれぞれウェルあたり1個の細胞に希釈して96ウェルプレートに接種し、細胞がウェルの底面積の約50%まで成長した時、蛍光顕微鏡下でEGFPの緑色蛍光強度が強く、発光が均一なウェルを選択し、各種の細胞は、3つの独立したクローンを選択して以下の実験を行った。
【0073】
2.異なるDOXとCumateとの組み合わせによりLuciferase発現を誘導する:
【0074】
上記3つの細胞のそれぞれの3つの独立したクローンを、ウェルあたり2.5E+04個の細胞に96ウェルプレート(Corning 3916)に接種し、各クローンは、8ウェルを接種し、培地は、100マイクロリットルのDMEM完全培地である。24時間培養した後、培地を交換して各細胞クローンの8つの培養ウェル内に重複ウェルを取り、(1)等量培地、(2)最終濃度200ug/mlのCumate、(3)最終濃度1ug/mlのDOX又は(4)最終濃度1ug/mlのDOXと200ug/mlのCumateをそれぞれ添加した。さらに24時間培養後、Steady-Glo(R) Luciferase Assay System(Promega、E2610)キットを用い、その操作説明(Promega、FB037)に従って各ウェルの相対蛍光単位RLU(relative light unit)を検出し、検出器は、蛍光マイクロプレートリーダ(Perkin Elmer VictorV)である。
【0075】
実験結果は、
図4に示され、Cumateのみを添加した条件下で、TRE
3GCuOとTRE
3GCuO-BGIの誘導転写活性は、1.36E+04 RLUと4.16E+04 RLUであり、無誘導条件よりそれぞれ4.31倍と3.27倍向上した。DOXのみを添加した条件下で、TRE
3GCuOとTRE
3GCuO-BGIの誘導転写活性は、2.14E+05 RLUと5.34E+05 RLUであり、無誘導条件よりそれぞれ67.66倍と42.07倍向上し、Cumateのみを添加した誘導条件より15.71倍と12.86倍向上した。DOXとCumateを同時に添加した条件下で、TRE
3GCuOとTRE
3GCuO-BGIの誘導転写活性は、7.54E+06 RLUと1.29E+07 RLUであり、無誘導条件よりそれぞれ2381.05倍と1011.81倍向上し、Cumateのみを添加した誘導条件より552.99倍と309.27倍向上し、DOXのみを添加した誘導条件より35.19倍と24.05倍向上した。以上の結果に基づき、TRE
3GCuOとTRE
3GCuO-BGI複合応答エレメントは、異なる誘導剤制御組み合わせに従って、異なる転写活性レベルで目的核酸断片の誘導転写活性を制御することができ、その制御範囲は、それぞれ4.31倍から2381.05倍と3.27倍から1011.81倍であり、DOXとCumate誘導剤を同時に添加する時、最大誘導転写活性は、それぞれCMVプロモーターの47.84%と81.54%に達することができる。さらにDOX及び/又はCumate誘導剤の濃度を最適化する条件下で、さらに異なる転写活性レベルで目的核酸断片の転写活性を精密に制御することができる。
【配列表】