(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】再生ヒト皮膚組織の製造法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/60 20060101AFI20241025BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20241025BHJP
A61K 35/36 20150101ALI20241025BHJP
A61K 35/33 20150101ALI20241025BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20241025BHJP
【FI】
A61L27/60 ZNA
A61L27/38 300
A61K35/36
A61K35/33
C12N5/071
(21)【出願番号】P 2020122407
(22)【出願日】2020-07-16
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 志斈
(72)【発明者】
【氏名】池田 有里
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-016267(JP,A)
【文献】特開2009-219491(JP,A)
【文献】日本美容皮膚科学会雑誌,2015年,25, [2],p.264(P-56)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/60
A61L 27/38
A61K 35/00-35/768
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Trans well上にヒト線維芽細胞をコラーゲンゲルに包埋し播種し培養した後、その上にヒトメラノサイトに誘導したヒト脂肪組織由来幹細胞を播種し、さらにその上にヒトケラチノサイトを播種し培養し、その際にTrans well upperにメラノサイト特異的培地を含有することを特徴とする、ヒト成熟メラノサイト、ヒトケラチノサイト及びヒト線維芽細胞を含有する再生ヒト皮膚組織の製造法。
【請求項2】
前記ヒトメラノサイトに誘導したヒト脂肪組織由来幹細胞が
、ヒトメラノサイト前駆細胞を含有するヒト脂肪組織前駆細胞をメラノサイト特異的培地で培養した細胞である請求項1記載の再生ヒト皮膚組織の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生ヒト皮膚組織の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
重症熱傷、皮膚潰瘍、分節型尋常性白斑等の皮膚疾患に対する治療手段として、自家及び他家(同種)培養皮膚、色素細胞の移植が行なわれている。また、ES細胞、iPS細胞(非特許文献1)、間葉系幹細胞(非特許文献2、3)、Muse細胞(非特許文献4、5)等を皮膚の再生医療に用いる試みもなされつつある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】PLoS One, 2012:7(12):e52787
【文献】Am. J. Pathol. 173:803-814,2008
【文献】Immunotherapy 4:1859-1867, 2012
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 107:8639-8643, 2010
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 108:9875-9880, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ES細胞やiPS細胞の表皮角化細胞への分化は誘導率が低く、また、腫瘍形成の可能性の問題がある。骨髄間葉系細胞は採取が容易でない等の問題がある。
従って、容易に入手可能な細胞を用いた再生皮膚組織の製造法の開発が望まれており、本発明はケラチノサイト、メラノサイト及び線維芽細胞を含む再生皮膚組織の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者は、容易に採取が可能な皮下脂肪組織に着目して検討してきたところ、全く意外にも、脂肪組織幹細胞中にメラノサイト前駆細胞が分化誘導をかける前に既に存在していることを見出した。そして、そのメラノサイト前駆細胞はメラノサイト特異的培地で培養すれば、メラノサイト特異的マーカー蛋白を明確に発現するようになることも見出した。さらに、これらのメラノサイト前駆細胞を、ヒト線維芽細胞及びヒトケラチノサイトと共に培養すれば、ヒト成熟メラノサイト、ヒトケラチノサイト及びヒト線維芽細胞を含有する再生ヒト皮膚組織が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の[1]~[3]を提供するものである。
[1]ヒトメラノサイト前駆細胞を含有するヒト脂肪組織幹細胞を、ヒト線維芽細胞及びヒトケラチノサイトと共に培養することを特徴とする、ヒト成熟メラノサイト、ヒトケラチノサイト及びヒト線維芽細胞を含有する再生ヒト皮膚組織の製造法。
[2]ヒトメラノサイト前駆細胞を含有するヒト脂肪組織幹細胞が、ヒトメラノサイト前駆細胞を含有するヒト脂肪組織幹細胞、又はヒトメラノサイト前駆細胞を含有するヒト脂肪組織幹細胞をメラノサイト特異的培地で培養した細胞である[1]記載の再生ヒト皮膚組織の製造法。
[3]前記ヒト線維芽細胞及びヒトケラチノサイトと共に行う培養系が、コラーゲンゲル中で、ヒト線維芽細胞、ヒトケラチノサイト及び前記ヒト脂肪組織幹細胞を培養する系である[1]又は[2]記載の再生ヒト皮膚組織の製造法。
【発明の効果】
【0007】
本発明で用いる脂肪組織由来幹細胞は、脂肪組織1gから約5×103個と骨髄組織由来幹細胞に比べて500倍多く採取可能であり、入手が容易である。また、脂肪組織由来幹細胞は抗原性が低く、免疫抑制作用を有することから、これらから分化誘導されるヒト成熟メラノサイトも抗原性が低く、皮膚に移植が可能である。また、本発明で得られる再生皮膚組織は、ヒトケラチノサイト、ヒト成熟メラノサイトだけでなく線維芽細胞も有し、皮膚の表皮から基底層及び真皮までの機能を有するため、種々の皮膚疾患や老化皮膚への対処が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3-1】脂肪組織幹細胞のRT-PCR結果を示す。
【
図3-2】脂肪組織幹細胞のRT-PCR結果を示す。
【
図4】siRNA法で脂肪組織幹細胞のHMB45をノックダウンした結果を示す。
【
図5】脂肪組織幹細胞のウェスタンブロッティングの結果を示す。
【
図6】脂肪組織幹細胞のウェスタンブロッティングの結果を示す。
【
図8】3次元培養後の組織のHMB45とチロシナーゼ(TYR)の発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ヒトメラノサイト前駆細胞を含有するヒト脂肪組織幹細胞を、ヒト線維芽細胞及びヒトケラチノサイトと共に培養することを特徴とする、ヒト成熟メラノサイト、ヒトケラチノサイト及びヒト線維芽細胞を含有する再生ヒト皮膚組織の製造法である。
【0010】
本発明の製造法の原料は、ヒトメラノサイト前駆細胞を含有するヒト脂肪組織幹細胞である。
原料である脂肪組織幹細胞は、脂肪組織、例えば皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後、遠心分離により間質血管細胞群を分離することにより採取することができる。
得られた脂肪組織幹細胞であることは、(1)この細胞が、CD34、CD44、CD90及びCD105陽性であること、(2)この細胞を、3-イソブチル-1-メチルキサンチン、ビオチン、パントテン酸塩、ロシグリタゾン、デキサメサゾン、インスリン等の存在下に培養して脂肪細胞へ分化すること、を確認すればよい。
脂肪組織幹細胞は、患者に対して拒絶反応を生じないヒトを含む動物由来であればよいが、自家細胞が望ましい。
【0011】
本発明者は、採取が容易な皮下脂肪組織から分離したヒト脂肪組織幹細胞中に、ヒトメラノサイト前駆細胞が存在することを初めて見出した。すなわち、後記実施例に示すように、a)免疫染色により、メラノサイトのマーカータンパクである、MelanA、MATP、HMB45(前駆メラノソームタンパク)、LAMP1、MITF、TYR、MelEM、Mel2が分化誘導前のヒト脂肪組織幹細胞で発現しており、b)RT-PCRで、分化誘導前のヒト脂肪組織幹細胞でMITF、KIT、PAX3のメラノサイトの転写因子が発現しており、c)siRNA法でヒト脂肪組織幹細胞のHMB45をノックダウンすると、この細胞おけるHMB45の発現が消褪し、d)ウェスタンブロッティングにおいて、分化誘導前のヒト脂肪組織幹細胞でHMB45とMITFが発現しており、e)免疫電顕でも、分化誘導前の脂肪細胞幹細胞でHMB45が発現していることを確認した。
本発明では、このようにヒトメラノサイト前駆細胞を含有するヒト脂肪組織幹細胞を使用することができる。
【0012】
また、ヒトメラノサイト前駆細胞を含有するヒト脂肪組織幹細胞は、メラノサイト特異的培地で培養すると、メラノサイトマーカータンパクの発現がさらに増強するので、本発明においては、このヒトメラノサイト前駆細胞を含有するヒト脂肪組織幹細胞をメラノサイト特異的培地で培養したヒト脂肪組織幹細胞を用いるのがより好ましい。ここで、メラノサイトマーカータンパクの発現増強は、前記免疫染色、RT-PCR、siRNA法によるHMB45ノックダウン、ウェスタンブロッティング、免疫電顕により確認することができる。
メラノサイト特異的培地としては、例えば、基礎培地としてKURABO社のDermaLife(登録商標)BM(KURABO)にDermaLife(登録商標)M LifeFactors(L-グルタミン15mL、エピネフリン0.5mL、インスリン0.5mL、StiMel8(登録商標)LifeFactor5mL、アスコルビン酸0.5mL、塩化カルシウム1.0mL、ゲンタマイシン/アンフォテリシン0.5mL)を添加したものを使用できる。
その他に上記培地にさらにWnt3a(R&Dsystems(登録商標))50ng/ml、Endothelin3(SIGMA-ALDRICH)100nM、SCF(R&Dsystems(登録商標)10ng/mL、cholera toxin(FUJIFILM)1.66mg/L、Linoleic acid(Nacalai)25μM in ethanolを添加した培地も使用できる。
【0013】
ヒト脂肪組織幹細胞をメラノサイト特異的培地で培養するには、例えば、コラーゲンIV(5μg/mL 新田ゼラチン)コートしたシャーレにヒト脂肪組織幹細胞を播種しヒト脂肪組織幹細胞専用培地(ADSC-BM, LONZA)を用いて3~7日程度培養を行うのが好ましい。その後メラノサイト特異的培地に培地交換を行い、7~14日程度培養を行うのが好ましい。
【0014】
ヒトメラノサイト前駆細胞を含有するヒト脂肪組織幹細胞を、ヒト線維芽細胞及びヒトケラチノサイトと共に培養する。
ヒト線維芽細胞としては、ヒト真皮線維芽細胞が好ましい。
線維芽細胞は、結合組織から採取することができ、例えば、皮膚を径5mm大で切り取り、その真皮成分より採取することができる。
ヒトケラチノサイトとしては、例えば、KURABO社の凍結NHEKを使用することができる。
【0015】
これらの細胞の共培養手段としては、3次元培養法が好ましく、皮膚組織を再生する点から、コラーゲンゲル中で、ヒト線維芽細胞、ヒトケラチノサイト及び前記ヒト脂肪組織幹細胞を培養する系であるのがより好ましい。さらには、皮膚組織においては、線維芽細胞を含有する真皮の上層に基底層を介してメラノサイト及びケラチノサイトを含有する表皮が存在することから、コラーゲンゲル中に線維芽細胞を包埋培養したヒトケラチノサイトと前記ヒト脂肪組織幹細胞を重ねて培養する3次元培養系が好ましい。ここで、コラーゲンゲルは、I型及びIV型コラーゲンゲルであるのが好ましい。
3次元培養法の培養条件は、まず6wellプレート(IWAKI)とTrans wellのコラーゲンIVコート(5μg/mL)を行う。Trans well上に線維芽細胞を5.0x104~1.0x105cells/wellでコラーゲンIゲルに包埋し播種し2日程度培養する。2日経過後、その上にメラノサイトに誘導したヒト脂肪組織由来幹細胞を2.5x104~5.0x104cells/wellで播種する。さらにその上にNHEKを5.0x104~1.0x105cells/wellで播種し、その後14~15日程度培養する。培地は6wellのlowerはNHDF Mediumとして10%FBS入りDMEM High Glucose(nacalai tesque)を使用(2ml/well)。Trans well upperには、上記のメラノサイト特異的培地を500μLとNHEK MediumとしてHuMedia-KG2(インスリン、hEGF、ハイドロコーチゾン、BPEを添加;kurabo)500μLを添加する。2日に一回程度培地交換を施行するのが好ましい。
【0016】
このような3次元培養により、表皮基底層にヒト成熟メラノサイトが誘導され、得られた3次元培養皮膚は、ヒト成熟メラノサイト、ヒトケラチノサイト及びヒト線維芽細胞を含有する再生ヒト皮膚組織である。ここで、ヒトメラノサイト前駆細胞がヒト成熟メラノサイトに分化したことは、チロシナーゼ、すなわちメラニン合成に必須の酵素が発現していることで確認できる。
【0017】
本発明方法によれば、入手が容易なヒト脂肪組織幹細胞を原料として用い、簡便な操作により、ヒト成熟メラノサイト、ヒトケラチノサイト及びヒト線維芽細胞を含有する再生ヒト皮膚組織が得られる。従って、本発明によれば、表皮や毛髪などの再生が可能となる。また、本発明の製造法の過程を検討することにより、皮膚疾患の治療手段や老化皮膚への対処手段の研究が可能となる。
【実施例】
【0018】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0019】
[材料及び方法]
(1)ヒト脂肪組織幹細胞の採取
1)皮下脂肪組織を採取し、リン酸緩衝生理食塩水にて洗浄した。コラゲナーゼに浸した後10%仔ウシ血清含有ダルベッコ変法イーグル培地にてコラゲナーゼを中和した。
2)40μmのナイロンメッシュを通して残渣を除去した。1200rpmで10分間遠心し、沈殿物を回収した。再び10%仔ウシ血清含有ダルベッコ変法イーグル培地5mlに溶解し、培養プレートに播種して数日間培養し、培養プレート底面に接着したものが脂肪組織幹細胞である。
3)フローサイトメトリーにてCD34、CD44、CD90、CD105が陽性であることを確認した。
4)得られた細胞を播種して10%仔ウシ血清含有D-MEM/Ham’s F-12培地にて培養後、3%仔ウシ血清及び3-isobutyl-1-methylxanthine、ビオチン、panthothenate、rosiglitazone、デキサメサゾン、ヒトインスリン含有D-MEM/Ham’s F-12培地に変えて3日間培養した。次に前記培地より3-isobutyl-1-methylxanthineを除いたものに変更後、3日ごとに培地を交換し、約12日間培養する。本細胞をOil red O染色にて脂肪細胞に分化していることを確認した。以上の手順3)、4)によって本細胞が脂肪組織幹細胞であることを確認した。
【0020】
(2)ヒト線維芽細胞
皮膚を径5mm大で切り取り、その真皮成分より採取することができる。具体的には、線維芽細胞は、同意を得た患者皮膚より採取し培養を行った。
【0021】
(3)ヒトケラチノサイト
KURABO社の凍結NHEKを使用した。
【0022】
(4)免疫染色
HMB45を多重染色、MelanA、MATP、MelEM、MITF、Tyrosinase、Mel2を免疫染色する。
Nunc4wellプレートにカバーガラスをのせ、コラーゲンIVコーティングを施行。その上に誘導したヒト脂肪組織由来幹細胞、ヒト脂肪組織由来幹細胞、メラノーマ細胞を60~70%程度になるまで培養した。
4%パラホルムアルデヒドを用いて常温で15分固定を行う。10%Normal Goat Serumと0.1%サポニン又は0.1%Triton/PBSを用いてブロッキング施行。2%BSA/PBSに0.1%サポニンを加えたもの、または2%BSA/PBS単独に一次抗体としてAnti-HMB45antibody(Abcam ab733 Mouse monoclonak IgG)1/50希釈とAnti-LAMP1antibody-Lysosome Marker(Abcam ab24170 Rabbit polyclonal IgG)1/500希釈を添加する、またはMelEM_DSHB(希釈せずに添加、 Developmental studies hybridoma bank、 host mouse) Anti-MITF antibody (ab20663 Abcam Biotechnology、 host rabbit)1/250, Anti-Melan A antibody (ab210546 Abcam Biotechnology、 host rabbit)1/1000、Mel2 (Anti-Melanocyte cell surface antigen antibody、ab128759、Abcam Biotechnology、 host mouse)1/500、MATP (sc-377397, Abcam Biotechnology, host mouse)1/50, Anti-Tyrosinase antibody(ab738、 Abcam Biotechnology, host mouse)1/250を添加し4℃ overnightで一次抗体反応を行う。
2%BSA/PBSに0.1%サポニンを加えたもの、または2%BSA/PBS単独に二次抗体としてAlexa Fluor 594 donkey anti-mouse IgG(Jackson Immuno Research) 1/300希釈とAlexa Fluor 488 donkey anti-rabbit IgG(Jackson Immuno Research) 1/500希釈を使用、またはAlexa Fluor 488 Goat anti-mouse IgG(Life technologies) 1/400希釈とAlexa Fluor 488 Goat anti-rabbit IgG(Life technologies)) 1/400希釈を使用し室温で1時間二次抗体反応を行う。洗浄後、Mounting Medium with DAPI(Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)を滴下し固定する。
その後キーエンス蛍光顕微鏡(Keyence BZ-X700 fluorescence microscope Osaka)で解析、撮影を行った。
【0023】
(5)RT-PCR
6wellプレート(IWAKI)にコラーゲンIVコートを施行し、誘導したヒト脂肪組織由来幹細胞、ヒト脂肪組織由来幹細胞、陽性コントロールとしてメラノーマ細胞を培養した。
ReverTra Ace qPCR RT kit (Toyobo, Osaka, Japan)を用いて2 μgの RNAを cDNAにする。TaqMan Master Mix (Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を用い1μg cDNAをStep One Plus system (Applied Biosystems)を用いて50サイクルまわす。
内在性コントロールとしてβ-actinを基準とし、HMB45 (Gene Alias: PMEL, Hs00173854_M1), KIT (Hs00174029_M1), MITF (Hs01117294_M1) and PAX3 (Hs00240950_M1) の発現上昇を確認した。
相対的mRNAレベルを算出するのに2-ΔΔCtを使った比較のサイクル閾値(ct)方法を用いた。
【0024】
(6)siRNA法によるHMB45のノックダウン
誘導したヒト脂肪組織由来幹細胞、ヒト脂肪組織由来幹細胞を6wellプレート(IWAKI)に播種し二日間培養した。
siRNA-1 (siRNA ID♯:S12861,sense: 5‘-GGUUAUCUGGGUCAACAAUtt-3’(配列番号1) and antisense: 3‘-AUUGUUGACCCAGAUAACCtg-5’(配列番号2)), siRNA-2 (siRNA ID♯:S12859, sense: 5‘-AGAAGUUGUGGGUACUACAtt-3’(配列番号3) and antisense: 3‘-UGUAGUACCCACAACUUCUgt-5’(配列番号4)), siRNA-3 (siRNA ID♯:S12860, sense: 5‘-UAUCAUGCCUGGUCAAGAAtt-3’(配列番号5) and antisense: 3‘-UUCUUGACCAGGCAUGAUAag-5’(配列番号6))の3つのHMB45を対象としたsiRNAをSilencer select siRNA (Thermo Fisher Scientific, USA)によりデザインした。
OptiMem と Lipofectamine RNAi MAX Reagent (Themo Fisher Scientific, USA)を用いて30pmol SiRNA1.2.3をsiRNA-Negative control (Silencer Select ♯4390843), siRNA-Positive control GAPDH (Silencer Select ♯4390849)とともに遺伝子導入した。
48時間後にリアルタイムPCRでHMB45の発現が抑制されていることを確認した。
【0025】
(7)ウェスタンブロッティング
6wellプレート(IWAKI)にコラーゲンIVコートを施行し、誘導したヒト脂肪組織由来幹細胞、ヒト脂肪組織由来幹細胞、陽性コントロールとしてメラノサイトを培養した。
M-PER Mammalian Protein Extraction Reagent と1/100希釈したProtease inhibitor cocktail (P8340,Sigma-Aldrich)を用いて細胞の蛋白回収を行う。
10% Tris-glycine SDS-PAGE (Bio-Rad, Hercules, CA, USA)を用いて電気泳動を行い、ニトロセルロースメンブレンに転写する。
Tris-buffered salineに5%スキムミルクを溶かし、ブロッキングを施行。抗HMB45抗体(1:100; from Santa Cruz Biotechnology)と抗MITF抗体(1μg/mL; from Abcam Biotechnology) β-actin monoclonal antibody (1:2000; BioLegend, San Diego, CA, USA)に浸し、4℃ overnightで一次抗体反応を行う。洗浄後、anti-mouse peroxidase-conjugated secondary antibody (1:2000, Cell Signaling Technology, USA)とanti-rabbit antibody (1:2000, Cell Signaling Technology, USA)を用いて二次抗体反応を一時間室温で行う。SuperSignal West Dura Extended Duration Substrate (Thermo-Scientific,USA)で標識しImageQuant LAS 4000 system (Cytiva, Tokyo, Japan)で解析を行った。
【0026】
(8)免疫電顕
Nunc4wellプレートにカバーガラスをのせ、コラーゲンIVコーティングを施行。その上に誘導したヒト脂肪組織由来幹細胞、ヒト脂肪組織由来幹細胞、メラノーマ細胞を60~70%程度になるまで培養した。
0.1 M phosphate buffer (pH7.2) で緩衝された4%パラホルムアルデヒドで固定し、4℃で一晩置く。PBSで3回洗浄し0.15% glycine in PBSにつけ、0.1MPBに入りの12%ゼラチンに包埋した。ペレットを氷上で1mm3以内に切り、2.3Mスクロース入りの0.1MPBに4℃で一晩浸し、specimen holder (Leica Microsystems, Vienna, Austria)に配置し、使用するまで液体窒素で保存する。
Leica UC7/FC7で-80℃で400nmの厚さに切り、2% methylcelluloseと2.3M sucroseを1:1で配合したものにつけ、amino propyltriethoxy silane (Matsunami Glass, Kishiwada, Japan)でコーティングされたガラスに置く。
その後、切片にmouse anti-HMB45antibody (1:50, Abcam ab733, Cambridge, UK) を用いて一晩4℃で一次抗体反応を行う。Alexa 488 conjugated donkey anti-mouse IgG (1:200, Invitrogen Life Technologies, Carlsbad, CA)を用いて一時間常温で二次抗体反応を行う。DAPIによる核染色後に蒸留水で希釈した50%グリセロールで封入し、BZ-X700 microscope (Keyence, Osaka, Japan)で観察した。
免疫電子顕微鏡についてはLeica UC7/FC7により-120℃で70nmまでの厚さの超薄型凍結切片を作成。2%メチルセルロースと2.3Mスクロースを1:1に配合した液に入れnickel gridに移動した。切片は0.15%のグリシンを含むPBSですすぎ、1%BSA入りのPBSで洗浄後、mouse anti-HMB45antibody (1:5, Abcam ab733, Cambridge, UK)を用いて一晩4℃で一次抗体反応を行う。
donkey anti-mouse IgG conjugated with 12 nm colloidal gold particles (1:40, The Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME)を用いて二次抗体反応を行った。切片は1%GA入りのPBSで洗浄し、0.4%uranyl acetate (pH 4.0)を用いて1.8%methylcelluloseの薄い層に封入し、乾燥後にHitachi HT7700 electron microscope (Hitachi, Tokyo, Japan)で観察した。
【0027】
(9)3次元培養
コラーゲンゲル液としては、type1 collagen (3mg/mL)と 5-fold concentration of DMEとbuffer solutionを 7:2:1(purchased from Nitta Gelatin Corp, Osaka, Japan)の比率で混ぜたものを使用した。
NHDF(5.0x104~1.0x105cells/well)をコラーゲンゲル包埋したものをコラーゲンIVコートしたIWAKIの12well cell plate trans wellに750μL/wellずつ播種し、37℃で30分培養し上下に培地を入れる。2日後にNHEMまたは誘導したヒト脂肪組織由来幹細胞を2.5~5.0x104cells/wellでNHDFコラーゲンゲルの上に重ね、さらにその上にNHEMを5.0x104~1.0x105cells/wellで播種する。
15日培養後、4%PFAで固定し、パラフィン包埋を行う。脱パラフィンと賦活化後にnormal goat serum (1:200; from Vector Laboratories)でブロッキングを施行。
primary antibodies against HMB45 (1:25; from AbcamBiotechnology)とTYR (1:100; from Abcam, Biotechnology)を用いて一晩4℃で一次抗体反応を行う。
PBSで洗浄後、0.3%H2O2/メタノールで内因性ペルオキシダーゼブロッキングを30分間施行。洗浄後、goat anti-mouse biotin IgG secondary antibody (1:300; from Molecular Probe)を用いて常温1時間二次抗体反応を行う。標識試薬としてAvidin (1:300;from DAKO)を用いて60分反応を行う。
その後DAB(PBS50mL+DAB500μL+H2O2 10μL)で5分間発色を行い、1分間ヘマトキシリンで核染色を行う。洗浄し、脱水、透徹、封入を行い顕微鏡で観察する。
【0028】
[結果]
(1)(脂肪組織幹細胞中にメラノサイト前駆細胞が存在すること)
a)免疫染色の結果、メラノサイトのマーカータンパクである、Melan A、MATP、HMB45、LAMP1、MITF、TYR、MelEM、Mel2が分化誘導前の脂肪組織幹細胞(ADSc)で発現されており、またメラノサイト系培養液で培養した本細胞(induced Me)でその発現は増強する(
図1)。そしてそれは、特にメラノサイトのマスター遺伝子といわれるMITFにおいて顕著である(
図2)。
【0029】
b)RT-PCRの結果、分化誘導前の脂肪組織幹細胞(22851)でMITF、KIT、PAX3のメラノサイトの転写因子が発現されており、メラノサイト系培養液で培養した本細胞(induced Me)でその発現は増強する(
図3-1及び
図3-2)。
【0030】
c) siRNA法で脂肪組織幹細胞(22851 cell)のHMB45(前駆メラノソームタンパク)をノックダウンすると、本細胞におけるHMB45の発現が消退する(
図4)。
【0031】
d)westernblottingにおいても、分化誘導前の脂肪組織幹細胞(22851)でHMB45とMITFが発現されており(
図5)、メラノサイト系培養液で培養した本細胞(induced cells)でその発現は増強する(
図6)。
【0032】
e)免疫電顕でも、分化誘導前の脂肪組織幹細胞(ASC)でHMB45が発現されており、メラノサイト系培養液で培養した本細胞(stimulated ASC)でその発現は増強することが観察される(
図7)。
【0033】
(2)3次元培養において、脂肪細胞幹細胞中のメラノサイト前駆細胞が成熟メラノサイトの分化誘導されたこと
正常ヒトケラチノサイト(NHEK)と正常表皮メラノサイト(NHEM)、あるいはNHEKとメラノサイト系培養液で培養した脂肪組織幹細胞(induced cells)を、線維芽細胞を包埋したコラーゲンゲル上で3次元培養し表皮モデルを作成すると、その表皮基底層で、両培養系においてチロシナーゼ(TYR)とHMB45を発現する細胞がみられ、正常表皮構造に類似した色素細胞分布が再現された(
図8)。
【配列表】