(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】葦微細繊維と、その紡績糸、および不織布
(51)【国際特許分類】
D01B 1/10 20060101AFI20241025BHJP
D02G 3/02 20060101ALI20241025BHJP
D04H 1/425 20120101ALI20241025BHJP
D06M 13/144 20060101ALI20241025BHJP
D06M 13/127 20060101ALI20241025BHJP
D01B 1/50 20060101ALI20241025BHJP
D01C 1/02 20060101ALI20241025BHJP
D01B 1/22 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
D01B1/10
D02G3/02
D04H1/425
D06M13/144
D06M13/127
D01B1/50
D01C1/02 A
D01C1/02 Z
D01B1/22
(21)【出願番号】P 2020220079
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-12-12
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514280938
【氏名又は名称】株式会社アトリエMay
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】弁理士法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】佐川 永徳
(72)【発明者】
【氏名】藤井 透
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-154366(JP,A)
【文献】特開2007-136715(JP,A)
【文献】特開2014-024795(JP,A)
【文献】特開2005-112791(JP,A)
【文献】特表2011-506785(JP,A)
【文献】特表2013-531743(JP,A)
【文献】登録実用新案第3080297(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01B 1/00- 9/00
D01C 1/00- 5/00
D02G 1/00- 3/48
D02J 1/00-13/00
D04H 1/00-18/04
D06M13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生育後3カ月以上
6カ月未満の葦茎の維管束鞘から機械的に取り出された、断面の幅と厚さの最大が100μm以下、長さ10mm以上の葦維管束鞘微細繊維であって、前記葦維管束鞘微細繊維のアスペクト比(繊維断面の差し渡し最大長さと繊維長さの比)は100以上である葦微細繊維
の製造方法であって、
前記葦茎を、前処理としてのレッチング工程を経て柔軟化することなく、ローラーで圧壊した後、前記葦微細繊維を機械的に取り出す葦微細繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、葦の維管束鞘から取り出した葦微細繊維と、葦微細繊維のみを用いた紡績糸、および葦微細繊維とその他の天然繊維との混紡糸、並びに葦微細繊維を用いた不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紡績できる細くて長い天然繊維は、種々の植物から得られる。コットンは、種子毛繊維で、1本1本分かれている。その最大長さは、約60mmであるが、平均直径は、20μm以下と極めて細いため、紡績糸に適している。コットンでは、40綿番手以下の極めて細い紡績糸も得られる。
【0003】
一方、ジュートなどの麻は靭皮繊維である。靭皮繊維は、直径30μmから50μmと太い単繊維(素繊維とも呼ばれる。紙産業ではパルプと呼称されることが多い)が、ペクチンやリグニンなどの接着物質により、数本から数十本が束になり、長手方向にも重なり合いながら長くなっている。そのため、これらの紡績糸は太く、剛直である。したがって、衣類用途に用いられる麻の種類は、亜麻や苧麻に限られる。葉脈繊維であるマニラ麻などの紡績糸も、太くて剛であり、そのままでは衣類用の糸は得られない。
【0004】
図1右は竹の断面のSEM写真で、そのミクロ構造を示す。単繊維となる硬壁細胞が集まった維管束鞘が道管、師管を取り囲んでいる。単繊維と道管および師管の集合体は維管束と呼ばれる。維管束の周りに柔細胞がある。細胞同士はペクチンやリグニンなどの接着物質により接合されている。維管束は竹を縦に貫いているため(非特許文献1)、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液に浸漬するケミカルレッチング処理や爆砕により、竹の幹より長い維管束鞘繊維が得られる(非特許文献2)、(特許文献1)。
図1に示されるように、維管束鞘繊維の断面は丸くないため、断面の大きさは、その最大幅と最大厚さで表すのが適切である。
【0005】
図1から明らかなように、竹の維管束鞘の断面は大きい。収率は1%以下と極めて低くなるが、機械式分繊により竹維管束鞘繊維の断面の幅と厚さの最大が約50μmまで細くできる。しかし、長さは20mm以下と短くなり、竹繊維のみでは紡績できない。
【0006】
紡績糸を得るためには、コットンなどの微細繊維と混紡しなければならない(特許文献2)。特許文献2では、『解繊することで平均繊維長が15mm~70mm、断面の幅と厚さの最大が30μm~70μmの竹繊維が使用され、』とあるが、竹単繊維の直径は、孟宗竹や真竹では15μm以上あり、竹維管束鞘繊維の断面の幅と厚さの最大が30μmの場合、紡績可能な30mm以上の長さを有する細い繊維を竹から実用的に得ることは極めて難しい。
【0007】
湖沼岸や河川岸に生育する葦は、竹と同じイネ科である。多年草であるが、半年で成長する地表の茎は、冬には枯れる。地表の茎は竹の幹に相当する。地下茎は枯れずに、翌年茎が成長する。維管束の大きさは竹の1/3以下であり、竹に比べて厚壁細胞(
図1中のbを構成する細胞、pは柔細胞)の数も少ない。
【0008】
厚壁細胞の大きさも真竹や孟宗竹のそれと比べて小さい。維管束内道管および師管繊維周りの維管束鞘(
図1中のb)の大きさも小さい。そのため、亜麻や苧麻と同じか、それらより細くて、紡績できる長い葦微細繊維が葦維管束鞘から得られる。
【0009】
葦は半年で成長を終えることから、葦の単繊維には、成長した竹単繊維には見られないルーメン(空孔)が残っている。そのため、中実の竹繊維やコットンに比べて断熱性が高く、葦微細繊維の表面積も大きいため、それらより吸湿性、吸臭性も高い。
【0010】
生分解性樹脂であるポリ乳酸の射出成型品の強化材として機械的に取り出された「葦繊維」が用いられたことはある(非特許文献3)。しかし、この葦繊維は、乾燥した葦を機械的に粉砕した棘状葦であり、葦の維管束鞘から繊維を分離・分繊、微細繊維化されたものではない。衣類用の細い紡績糸にも利用できる葦微細繊維はこれまで存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】JP2008229933A-竹繊維の取出し方法
【文献】2017-057519号 竹繊維を用いた混紡糸及びその製造方法
【非特許文献】
【0012】
【文献】「竹から学ぶ複合材料」、藤井 透,蒋 建業:日本繊維機械学会誌、52巻、8号、pp.334-340、1999年8月
【文献】「爆砕法により取り出した竹繊維の引張強度特性」高木均,田倉隆輝,一原洋平,越智真治,三澤弘明,仁木 祐:材料(日本材料学会)52巻4号、pp.353-356、2003年4月
【文献】「葦繊維/生分解性ポリエステル複合材料の溶融粘弾性に関する研究」郡悌之、北川和男、浜田泰以;成形加工(第16回成形加工学会年次大会前刷り集)、pp.197-198、2005年05月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
発展途上国における経済成長と人口増加に伴い、衣類の需要が増している。又、地球温暖化効果ガスの一つである二酸化炭酸排出の低減要求から、工業用繊維製品においても持続的再生産可能天然資源の利用が求められている。
【0014】
そのため、コットン、麻をはじめとする既存の天然繊維の供給がひっ迫する恐れが増している。これらを背景として、新たな天然繊維資源が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
葦は世界的に豊富な再生産可能天然資源である。しかし、これまで刈り取った茎をそのまま屋根材や葦簀、あるいはパルプの原料として利用される以外、他の有効な利用法は殆ど見られない。
【0016】
葦茎の維管束鞘は細くて長いことから、工業用繊維製品のみならず衣類の糸原料ともなり得る。しかし、葦を機械的に破砕したのでは、紡績できる微細な葦繊維は得られない。
【0017】
又、葦の茎は竹の幹と同じミクロ構造を持つ。しかし、同じイネ科でありながら、葦に抗菌性のあることは認められていない。
【0018】
そこで、本発明は、葦の茎から取り出された、断面の幅と厚さの最大が100μm以下、長さ10mm以上の葦維管束鞘微細繊維(以下、「葦微細繊維」と称する)(葦微細繊維A)を提供する。繊維のアスペクト比(繊維断面の差し渡し最大長さと繊維長さの比)は100以上である。
【0019】
上記で得られた葦微細繊維を、竹表皮から抽出された抗菌エキス液、又は木質系抗菌剤:ヒノキチオール水溶液に浸漬し、抗菌性能を有する葦微細繊維(葦微細繊維B)、および柔軟剤に浸漬し、柔軟性を有する葦微細繊維(葦微細繊維C)を提供する。
【0020】
又、葦微細繊維A、又は葦微細繊維B、あるいは葦微細繊維Cのみが撚り合わされた紡績糸、及びコットンなど、葦微細繊維以外の天然繊維と混ぜ合わされた混紡糸を提供する。
【0021】
加えて、葦微細繊維A、又は葦微細繊維B、あるいは葦微細繊維Cのみ、あるいはポリプロピレン、又はポリエチレン繊維と複合された不織布を提供する。
【0022】
以下、はじめに、葦微細繊維の製造方法について説明する。
【0023】
生育後3ヶ月以上の葦を伐採し、維管束鞘を分離しやすくするため、以下の方法で前処理を行う。
【0024】
40℃以下の流水、又は静水に1日~1ヶ月浸漬し、バイオレッチングする。水の場合、バクテリア増殖による臭気が葦微細繊維に付着するのを防ぐため、毎日水を交換する。静水の代わりに、40℃以上の湯に浸漬しても良い。
【0025】
水、湯に灰汁や、炭酸カリウム、又は炭酸ナトリウム、あるいは水酸化ナトリウム水溶液によりケミカルレッチングしてもよい。
【0026】
200℃以下の過熱水蒸気で蒸煮、又は爆砕によって前処理してもよい。
【0027】
いずれの前処理であっても、処理された葦茎は水洗浄する。
【0028】
前処理する前、予めハンマーやローラ等により葦を圧壊しておく方が良い。これにより、前処理時間を短くすることができる。
【0029】
生育後、6ヶ月未満の葦茎で、茎が柔らかい場合、前処理しなくともよい。
【0030】
前処理した葦茎を、互いに反対方向に回転する2個ローラにより圧壊し、柔細胞および維管束内の道管と師管から葦維管束鞘を分断する。2個ローラに1回通しただけでは、柔細胞および維管束内の道管と師管から葦維管束鞘を十分に分断できなければ、葦茎を複数回ローラに通す。ローラを通す回数を増せば、維管束鞘も細かく縦割れし、後工程で細くて長い葦微細繊維を取り出すことができる。2個ローラに葦茎を通す工程を
図2に示す。
【0031】
2個ローラ工程で葦茎が押し潰され、その内部で維管束鞘が細かく縦割れしても、維管束鞘は柔細胞および維管束内の道管と師管から完全に分離されていない。又、断面の幅と厚さの最大が100μm以上の葦維管束鞘繊維も含まれる。
【0032】
そこで、2個ローラ工程で分断されながらも、互いに接合している葦維管束鞘繊維を30~100mmに切断し、反毛機、又はカード機、あるいは同様な機構を有する解繊機により、分繊させる。この工程を
図3に示す。これにより、断面の幅と厚さの最大が100μm以下で、長さ10mm以上の葦微細繊維が得られる。
【0033】
解繊機の代わりに、
図4に示すディスクリファイナを用いてもよい。
【0034】
葦微細繊維の分繊には、
図5に示す亜麻のハックリングに使われるリネン用梳綿機を用いても良い。この場合、2個ローラ工程を経た葦茎を短く切断せずに梳綿機に通す。
【0035】
葦の場合、竹と同じイネ科に属し、その断面構造もよく似ているが、茎のみならず維管束鞘も抗菌性を有するとは認められていない。そこで、竹の表皮から湯煎、水蒸気、又はエタノールにより抽出した竹抗菌エキス液に葦微細繊維を浸漬し、葦微細繊維に抗菌性能を持たすことができる。
【0036】
竹抗菌エキス液の代わりに、木質系抗菌剤であるヒノキチオール水溶液に浸漬しても良い。
【0037】
竹抗菌エキス液、又はヒノキチオール水溶液に浸漬して得られた抗菌性能は10回の水洗後も80%その性能は維持される。
【0038】
葦微細繊維はコットンより断面が大きいため、コットンに比べて剛直である。そこで、紡績前、予め葦微細繊維を柔軟剤に浸漬すれば、柔軟化される。
【0039】
葦微細繊維の断面の幅と厚さの最大が50μm以下で、30mm以上と長い場合、撚り合わせることにより、葦紡績糸が得られる。
【0040】
又、葦微細繊維の断面の幅と厚さの最大および長さに関わらず、葦微細繊維をコットンや絹、羊毛、麻などの天然繊維と混ぜ合せることによって、混紡糸が得られる。
【0041】
葦微細繊維をポリプロピレンや低融点ポリエチレン繊維などの熱可塑性繊維(以下、「TPF」と称する)と組み合わせ、
図6に示す不織布工程を経て、葦微細繊維/TPF不織布が得られる。
図6は、スーパーブレンダー、計量ホッパー、カード機、クロスレイヤ、ドラフターを用いた葦微細繊維/TPF不織布の製造工程の一例を示す。ニードルパンチによってマット状の不織布が仕上がる。
【0042】
上記不織布を、ダブルベルトプレス機によりプレボードとすることもできる。この場合、ニードルパンチ工程を省いてもよい。
【0043】
カード機およびクロスレイヤの代わりに、エアーレイド方式により不織布を製造しても良い。
【発明の効果】
【0044】
本発明により、豊富で、持続的再生産可能な葦から衣類の織布に使用できる紡績糸が得られる。これにより、衣類用天然繊維の供給ひっ迫が緩和される。
【0045】
又、TPFと組み合わされ、自動車用内装材、例えば天井やリアパーティションに使われる不織布にも葦微細繊維は利用できる。これにより、工業用不織布用天然繊維、例えば、ケナフなどの天然繊維の供給ひっ迫が緩和される。
【0046】
抗菌性が付与された葦微細繊維の不織布は、靴のインナーソールなどにも用いられる。
【0047】
前処理工程の一つ、水酸化ナトリウム水溶液によるケミカルレッチングでは、静水に浸漬するだけの場合に比べて、浸漬時間は1/10以下に短縮される。水酸化ナトリウムを使う場合、その濃度は10%以下、できれば2%以下、水溶液温度は60℃以下が望ましい。浸漬時間は葦の生育期間に影響される。生育期間が9ヶ月の場合、水酸化ナトリウムの濃度2%、水溶液温度60℃では、浸漬時間は15時間である。
【0048】
葦をローラにて圧壊処理することにより、バイオレッチングやアルカリ液への浸漬などの前処理工程に要する時間が1/3に短縮される。
【0049】
前処理工程前に、予め葦茎をローラで圧壊することにより、浸漬容器への葦の量を3倍まで増やせるとともに、浸漬時間を半分にできる。
【0050】
前処理工程により、その後の2個ローラの圧壊による分離工程での維管束鞘の取り出しを容易に行うことができる。前処理工程が無ければ、分断された維管束鞘には、柔細胞も多数付着する。又、維管束鞘内で、断面を横切る亀裂を生じさせることができない。
【0051】
このき裂により、2個ローラによる維管束鞘分断工程後の反毛機による分繊工程が容易となり、断面の幅と厚さの最大が50μm以下であっても、30mmを超える長くて細い微細繊維が得られる。
【0052】
この葦微細繊維を用いることによって、コットンなどの紡績糸と同様の工程で、10綿番手(28麻番手)以上の細い葦紡績糸が得られる。
【0053】
反毛機による分繊工程を経て、断面の幅と厚さの最大が50μm以下と細くなっても、長さが30mm未満の短い葦微細繊維も多数得られる。この場合、葦微細繊維のみで紡ぐことはできない。又、断面の幅と厚さの最大が50μm以上の太い葦微細繊維も得られる。
【0054】
そこで、コットンや絹、毛、さらには麻などと混紡することにより、葦繊維を重量で20%混ぜられた、Tシャツなどの衣類にも利用可能な18綿番手(50麻番手)以上の細い葦紡績糸が得られる。
【0055】
葦の維管束鞘微細繊維には、それらを構成する単繊維の中央に大きな空孔(ルーメン)が存在する。そのため、葦微細繊維紡績糸(以下、葦紡績糸と称する)は糸の横方向の断熱効果が高い。単位長さ辺り同じ重量のコットン紡績糸と葦紡績糸を熱伝導率で比較すると、葦紡績糸はコットン紡績糸の70%以下である。そのため、葦紡績糸で織られた布では、高い断熱性が得られる。葦/その他の天然繊維混紡糸の場合も、葦微細繊維の混紡率に応じ、断熱性が高まる。
【0056】
葦微細繊維は、ルーメンを有し、重量当たりの表面積が大きいことから、竹繊維などに比べ、高い断熱性に加え、高い吸湿性を有する。重量が同じ場合、葦微細繊維の吸湿率は竹繊維のそれの30%大きい。
【0057】
コットンの場合、単繊維の直径は概ね12~20μmであり、葦微細繊維の1/2~1/3と極めて細い。そのため、コットンと混紡された場合、葦微細繊維はコットンに取り囲まれるように紡績糸の中に巻き込まれる。そのため、紡績糸の中に空洞ができ、保温性が高まる。
【0058】
ケナフなどの天然繊維は、TPFと組み合わせ、不織布とした後、これをホットプレスしてプレボードを成形し、自動車の天井材やリアパーティションに用いられる。竹では、その維管束鞘繊維が太いため、同じ重量のケナフ繊維/PTF不織布ボードに比べて曲げ剛性が小さくなる。一方、自動車用プレボードに葦微細繊維を使った場合、ケナフ繊維を用いたプレボードと同等の性能を得るのに、プレボードの重量を5%減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1】孟宗竹(右)および葦幹(茎)(左)の断面SEM写真。両方の倍率は同じである。両者の構造は極めてよく似ている。いずれの断面にも、菱形の維管束(道管、師管および維管束鞘から構成される)が見える。黒く見える箇所は、後壁細胞が密集している所であり、維管束鞘とよばれる。
【
図2】前処理された葦茎(幹)を互いに反対方向に回転する2個の大径鋼製ローラに押し込み、維管束鞘を柔細胞から分離する工程を示す図。2つの大径ローラは電動機により同期駆動されている。葦茎の押し潰し力は上側ローラの押し付けバネにより制御される。
【
図3】2個ローラにより柔細胞から維管束鞘が概ね分離された葦茎から反毛機により分繊する工程を示す図。反毛機はフラットトップタイプ、ローラトップタイプどちらでも使用できる。ワイヤーは最も細いものを使用する。
【
図6】スーパーブレンダー、計量ホッパー、カード機、クロスレイヤ、ドラフターを用いた葦微細繊維/TPF不織布の製造工程を示す図
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、本発明の第1の実施形態について説明する。
【実施例1】
【0061】
生育後、琵琶湖西湖岸で自生し、10ヶ月後に伐採した葦を用いて葦微細繊維を取り出した。はじめに、同葦茎を2個ローラ分離機に通し、圧壊する。この時、バネ力は片側50kgとした。その後、2%水酸化ナトリウム水溶液(温度20℃)に10時間浸漬し、水洗、軽く水を切ったのち、2個ローラ分離機に3回通した。水分率40%になるまで乾燥した後、ローラトップタイプのサンプルカード機を反毛機として使い、維管束鞘から分繊した葦微細繊維を取り出した。一回の分繊工程で、繊維断面の幅と厚さの最大が50μm以下の微細繊維は重量比で30%得た。長さは5~50mmと広く分布し、その平均長さは32mmであった。この葦微細繊維を用い、コットンとの混紡糸(20綿番手)を得た。葦微細繊維の重量含有率は30%である。混紡糸の引張り強度は550gであった。
【0062】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【実施例2】
【0063】
平均繊維差し渡し寸法80μm、平均繊維長42mmの葦微細繊維とポリプロピレン繊維(PPF)とをサンプルカード機に3回通し、混合して20cm幅のウェブを作り、これを20cm毎に切断、交互に直角に重ね合わせた後、ホットプレス(200℃)にてプレボードを製作した。これと比較するため、ケナフ繊維/PPFボードも製作し、両者の曲げ剛性が同じ場合の重量を比較した。その結果、葦微細繊維/PPFプレボードの方が5%軽いことが分かった。