(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】ソナー
(51)【国際特許分類】
G01S 7/521 20060101AFI20241025BHJP
【FI】
G01S7/521 A
(21)【出願番号】P 2020549826
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(86)【国際出願番号】 JP2020016830
(87)【国際公開番号】W WO2021210151
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-03-01
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000243364
【氏名又は名称】本多電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】流田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】樋口 和樹
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-238568(JP,A)
【文献】特開昭55-11696(JP,A)
【文献】特開2002-311128(JP,A)
【文献】特開昭58-161492(JP,A)
【文献】特開平1-295190(JP,A)
【文献】特公昭31-6973(JP,B1)
【文献】実開昭58-22111(JP,U)
【文献】実開平2-8410(JP,U)
【文献】特開平6-292669(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第0509297(EP,A1)
【文献】米国特許第5550792(US,A)
【文献】実開昭56-37597(JP,U)
【文献】特開昭54-61590(JP,A)
【文献】特許第6828944(JP,B1)
【文献】特許第7320849(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72-1/82
G01S 3/80-3/86
G01S 5/18-5/30
G01S 7/52-7/64
G01S 15/00-15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受信する超音波振動子と、鉛直方向を向いた回転軸を中心とした旋回運動及び前記回転軸に直交する傾動軸を中心とした傾動運動を前記超音波振動子に行わせる駆動機構とを備えたソナーであって、
前記超音波振動子は、前面及びその反対側にある背面を有する略円板状の圧電素子を備え、
前記圧電素子には、互いに交差しないように面方向に延びる溝部が複数形成されるとともに、前記溝部を介して複数の帯状の振動部が配設され、
前記圧電素子の中心からの距離が遠くなる程、前記振動部の長さが短くなっており、
前記溝部が前記傾動軸に対して60°以上120°以下の角度をなすように、前記超音波振動子が配設されており、
前記超音波振動子は、音響整合層を兼ねる略円板状の基材を備え、前記基材に、前記圧電素子の前記前面が接合され、複数の前記振動部が、前記圧電素子の前記前面側の端部において互いに繋がっており、
複数の前記振動部が、前記圧電素子の中心からの距離が最も遠い一対の外側振動部と、前記一対の外側振動部間に配置される複数の内側振動部とにより構成され、前記外側振動部の幅が前記内側振動部の幅よりも大きくなっており、
前記超音波振動子は、超音波を伝搬させる超音波伝搬液体が充填された収容するソナードーム内に収容されるとともに、前記超音波伝搬液体の一部が、空隙状である前記溝部に流入することで前記溝部を満たしている
ことを特徴とするソナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を利用して魚群などの被探知物を探知するソナーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波の送受信によって魚群などの被探知物を検知するソナーが知られている。ソナーは、超音波を送受信する超音波振動子と、鉛直方向を向いた回転軸を中心とした旋回運動や回転軸に直交する傾動軸を中心とした傾動運動を超音波振動子に行わせる駆動機構とを備えている。そして、超音波振動子を運動させながら超音波の送受信を行うことにより、水中が探知できるようになっている(例えば、特許文献1~4参照)。そして、水中を探知した探知結果は、探知画像として画面に表示される。なお、超音波振動子は、一般的に、音響整合層と、同音響整合層に接合された圧電素子とを備えている。
【0003】
ところで、ソナーにおいて、より遠い距離の被探知物を探知したいという需要がある。このためには、超音波振動子を高感度にすることが必要である。なお、超音波振動子を高感度にする手法としては、
図38,
図39に示されるように、超音波振動子101を構成する圧電素子102を、厚さ方向から見て縦横に配列された複数(例えば100以上)の振動部103により構成し、かつ隣接する振動部103間に充填材104を充填した構造にすることが提案されている(例えば、特許文献5,6参照)。このようにすれば、各振動部103のそれぞれが同振動部103の高さ方向に変形しやすくなるため、圧電素子102が各部位において変形しやすくなる。つまり、圧電素子102が振動しやすくなるため、超音波振動子101の感度が高くなる。また、充填材104が各振動部103間の空隙に入り込むことにより、各振動部103が相互に補強される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5979537号公報(請求項1、
図4等)
【文献】特開2013-221791号公報(段落[0036]、
図1~
図6等)
【文献】特公平01-025435号公報(図等)
【文献】特公昭63-042755号公報(第1図等)
【文献】特開2016-213666号公報(
図4B等)
【文献】特開2012-182758号公報(
図6等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、隣接する振動部103間に充填材104を充填すると、各振動部103が高さ方向に変形(振動)しにくくなるため、超音波振動子101の感度が低下してしまうという問題がある。そこで、充填材104を取り除いて感度を確保することも考えられるが、各振動部103は、細い棒状をなし、強度が低い。このため、充填材104がない状態で超音波振動子101を長期間に亘って駆動させると、疲労破壊によりクラックが発生しやすくなる。つまり、充填材104を充填しない場合には、超音波振動子101の信頼性が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、感度を維持しつつ、振動部の強度低下を防止することにより、信頼性が高い超音波振動子を得ることができるソナーを提供することにある。また、別の目的は、作りやすく、製造コストが低い超音波振動子を得ることができるソナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、超音波を送受信する超音波振動子と、鉛直方向を向いた回転軸を中心とした旋回運動及び前記回転軸に直交する傾動軸を中心とした傾動運動を前記超音波振動子に行わせる駆動機構とを備えたソナーであって、前記超音波振動子は、前面及びその反対側にある背面を有する略円板状の圧電素子を備え、前記圧電素子には、互いに交差しないように面方向に延びる溝部が複数形成されるとともに、前記溝部を介して複数の帯状の振動部が配設され、前記圧電素子の中心からの距離が遠くなる程、前記振動部の長さが短くなっており、前記溝部が前記傾動軸に対して60°以上120°以下の角度をなすように、前記超音波振動子が配設されており、前記超音波振動子は、音響整合層を兼ねる略円板状の基材を備え、前記基材に、前記圧電素子の前記前面が接合され、複数の前記振動部が、前記圧電素子の前記前面側の端部において互いに繋がっており、複数の前記振動部が、前記圧電素子の中心からの距離が最も遠い一対の外側振動部と、前記一対の外側振動部間に配置される複数の内側振動部とにより構成され、前記外側振動部の幅が前記内側振動部の幅よりも大きくなっており、前記超音波振動子は、超音波を伝搬させる超音波伝搬液体が充填された収容するソナードーム内に収容されるとともに、前記超音波伝搬液体の一部が、空隙状である前記溝部に流入することで前記溝部を満たしていることを特徴とするソナーをその要旨とする。
また、上記課題を解決するための別の発明(参考発明)は、超音波を送受信する超音波振動子と、鉛直方向を向いた回転軸を中心とした旋回運動及び前記回転軸に直交する傾動軸を中心とした傾動運動を前記超音波振動子に行わせる駆動機構とを備えたソナーであって、前記超音波振動子は、前面及びその反対側にある背面を有する略円板状の圧電素子を備え、前記圧電素子には、互いに交差しないように面方向に延びる溝部が複数形成されるとともに、前記溝部を介して複数の帯状の振動部が配設され、前記圧電素子の中心からの距離が遠くなる程、前記振動部の長さが短くなっており、前記溝部が前記傾動軸に対して60°以上120°以下の角度をなすように、前記超音波振動子が配設されており、前記回転軸に対して前記超音波振動子を傾けた状態で前記旋回運動を行う際の前記超音波振動子の駆動態様を、全ての前記振動部を駆動して、振動部配設方向の指向角を狭くする全駆動モードと、前記圧電素子の中心領域に位置する一部の前記振動部を駆動して、前記振動部配設方向の指向角を前記全駆動モードのときの3倍~5倍に広くする部分駆動モードとのうちのいずれかに切替可能であることを特徴とするソナーをその要旨とする。
【0008】
従って、請求項1に記載の発明によれば、圧電素子に帯状の振動部が形成されている。よって、柱状の振動部に比べて振動部が平面方向に長くなることで、振動部が倒れにくい安定した形状となるため、振動部の強度低下が防止される。その結果、溝部内に充填材を充填しなくても、振動部でのクラックの発生を防止できるため、超音波振動子の信頼性を向上させることができる。しかも、請求項1では、互いに交差しないように面方向に延びる溝部を形成することにより帯状の振動部を得ているため、縦横に延びる溝部を形成して上記した柱状の振動部を得る場合に比べて、振動部の形成に必要な溝部の形成回数が減少する。よって、溝部の形成が容易になるため、超音波振動子の製造コストを低減することができる。また、溝部の形成回数が減少するのに伴って電極の分割数も少なくなるため、分割された電極の各々を導電性部材で接続する際の手間も低減される。なお、縦横に延びる溝部を形成して柱状の振動部を得る場合に比べて、振動部の振動振幅は、振動部が帯状に連なっている影響により低減されてしまう。しかし、振動振幅の低減は、溝部に充填材を充填しないことによる振動振幅の増大と、上記した電極の面積増大とで補われるため、超音波振動子の送受感度は、結果的に柱状の振動部を得る場合と同等に維持される。
【0009】
さらに、請求項1では、圧電素子の中心からの距離が遠くなる程、振動部の長さが短くなっている。この場合、振動部全体の外形が円形に近付くため、圧電素子の垂線方向に照射される超音波の指向特性が軸対称に近付く。これにより、超音波のビームがスポットライト状になるため、超音波スキャンしているエリアを認識しやすくなる。また、圧電素子が略円板状をなすことから、超音波振動子の外形を円形にすることができる。なお、超音波振動子を半球状のソナードーム内に格納する場合には、超音波振動子の外形が円形であるほうが広い振動部面積を確保できるため、小型で高感度の超音波振動子を好適に得ることができる。また、請求項1では、溝部が傾動軸に対して60°以上120°以下の角度をなすように、超音波振動子を配設している。これに伴い、溝部を介して配設される複数の振動部は、傾動軸とほぼ直交する方向に延びる帯状となる。特に、溝部が傾動軸に対して90°の角度をなすように、超音波振動子を配設すれば、各振動部は、傾動軸と直交する方向に延びる帯状となる。
【0010】
なお、「略円板状の圧電素子」とは、円板状の圧電素子だけでなく、楕円板状の圧電素子や、長円板状の圧電素子なども含むものとする。即ち、外周の一部または全部が円弧状をなす圧電素子を用いることが好ましい。
【0012】
上記参考発明によると、全ての振動部を駆動する全駆動モードで超音波振動子を駆動する場合には、振動部全体の外形が略円形であることから、圧電素子の垂線方向に照射される超音波の指向特性が軸対称に近付く。一方、一部の振動部を駆動する部分駆動モードで超音波振動子を駆動する場合には、超音波振動子の帯状の振動部単体から照射される超音波が、振動部の長手方向に相対的に狭い指向角を持つものの、振動部の幅方向(各振動部の配設方向)には相対的に広い指向角を持つ指向性となる。よって、例えば全周スキャン時に、超音波振動子の駆動態様を部分駆動モードに切り替えれば、スキャン方向の超音波の指向角をより広くすることができる。その結果、スキャン動作の際のステップ角度を粗くすることができるため、全駆動モードに比べて探知時間を短縮することが可能となる。
【0015】
上記発明において、前記振動部の幅は、前記圧電素子の厚さよりも小さいことが好ましい。
【0016】
従って、上記構成によると、振動部の幅が圧電素子の厚さよりも小さいため、振動部を、高さよりも幅が小さい細長形状とすることができる。その結果、振動部が高さ方向に収縮する際には、振動部が収縮した体積分だけ太くなるように変形しやすくなり、振動部が高さ方向に伸長する際には、振動部が幅方向に沿って振動部の中央部側に変形しやすくなる。つまり、振動部が高さ方向に振動しやすい形状となり、電気機械結合係数が高くなるため、超音波振動子の感度を高くすることができる。
【0017】
上記発明において、前記振動部の幅は、前記圧電素子の厚さの4分の1以上2分の1以下であることが好ましい。
【0018】
従って、上記構成によると、振動部の幅が圧電素子の厚さの4分の1以上であるため、振動部の強度低下を防止することができる。また、振動部の幅が圧電素子の厚さの2分の1以下であるため、振動部を、高さ方向に振動しやすい細長形状となり、電気機械結合係数が確実に高くなるため、超音波振動子の感度を確実に高くすることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上詳述したように、請求項1に記載の発明によると、感度を維持しつつ、振動部の強度低下を防止することにより、信頼性が高い超音波振動子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1実施形態のソナーが搭載された船舶を示す説明図。
【
図2】ソナー、昇降装置及びモニターを示す概略構成図。
【
図5】ケースに収容した状態の超音波振動子を示す側面図。
【
図6】ケースに収容した状態の超音波振動子を示す概略断面図。
【
図11】(a)は外側振動部を示す斜視図、(b)は内側振動部を示す斜視図。
【
図13】(a)は伸長時の振動部を示す断面図、(b)は収縮時の振動部を示す断面図。
【
図14】第2実施形態の超音波振動子を示す平面図。
【
図15】第2実施形態において、全駆動モードで駆動する超音波振動子を概念的に示す斜視図。
【
図16】全駆動モードにおける超音波の伝搬状態を概念的に示す斜視図。
【
図17】全駆動モードにおける圧電調和解析シミュレーションの結果を示すインピーダンス特性図。
【
図18】全駆動モードにおいて、圧電素子のX-Z面における超音波の伝搬状態をシミュレーションした図。
【
図19】全駆動モードにおいて、圧電素子のY-Z面における超音波の伝搬状態をシミュレーションした図。
【
図20】全駆動モードにおける超音波の指向性のシミュレーション結果を示すグラフ。
【
図21】第2実施形態において、部分駆動モードで駆動する超音波振動子を概念的に示す斜視図。
【
図22】部分駆動モードにおける超音波の伝搬状態を概念的に示す斜視図。
【
図23】部分駆動モードにおける圧電調和解析シミュレーションの結果を示すインピーダンス特性図。
【
図24】部分駆動モードにおいて、圧電素子のX-Z面における超音波の伝搬状態をシミュレーションした図。
【
図25】部分駆動モードにおいて、圧電素子のY-Z面における超音波の伝搬状態をシミュレーションした図。
【
図26】部分駆動モードにおける超音波の指向性のシミュレーション結果を示すグラフ。
【
図27】比較例において、駆動する超音波振動子を概念的に示す斜視図。
【
図28】比較例における圧電調和解析シミュレーションの結果を示すインピーダンス特性図。
【
図29】比較例において、圧電素子のY-Z面における超音波の伝搬状態をシミュレーションした図。
【
図30】比較例における超音波の指向性のシミュレーション結果を示すグラフ。
【
図31】全駆動モードにおけるスキャン回数を示す説明図。
【
図32】部分駆動モードにおけるスキャン回数を示す説明図。
【
図33】(a)~(c)は、他の実施形態における超音波振動子を示す概略平面図。
【
図34】(a)~(d)は、他の実施形態における超音波振動子を示す概略平面図。
【
図35】他の実施形態における超音波振動子を示す平面図。
【
図36】他の実施形態における超音波振動子を示す平面図。
【
図37】他の実施形態における超音波振動子を示す平面図。
【
図38】従来技術における圧電素子を示す要部平面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
[第1実施形態]
以下、本発明を具体化した第1実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0022】
図1に示されるように、本実施形態のソナー11は、船舶10の船底部に搭載されて使用される。ソナー11は、水中に超音波U1を照射することにより、水中に存在する魚群などの被探知物S0を探知する装置である。また、
図2に示されるように、ソナー11は昇降装置12に取り付けられている。昇降装置12は、ソナー11を昇降させることにより、船底から水中に対してソナー11を出没させる装置である。さらに、ソナー11及び昇降装置12には、液晶モニター13が電気的に接続されている。液晶モニター13は、船舶10の操舵室内に設置されており、操作部14及び表示部15を有している。
【0023】
図3,
図4に示されるように、ソナー11はソナードーム20を備えている。ソナードーム20は、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)などの樹脂材料を用いて形成されており、上ケース21、下ケース22及び蓋体23によって構成されている。上ケース21は、下端にて開口する有底円筒状のケースであり、下ケース22は、上端にて開口する有底円筒状のケースである。なお、下ケース22の下端部はドーム状(半球状)をなしている。また、蓋体23は、円板状をなし、上ケース21の下端側開口及び下ケース22の上端側開口を閉塞するためのものである。なお、蓋体23と上ケース21とによって上側収容空間24が形成されるとともに、蓋体23と下ケース22とによって下側収容空間25が形成される。
【0024】
また、ソナードーム20には、超音波U1を送受信する超音波振動子41と、超音波振動子41を収納するケース40と、超音波振動子41を移動させる駆動機構30とが収容されている。駆動機構30は、スキャンモータ31及びチルトモータ32等を備えている。スキャンモータ31は、上側収容空間24内において蓋体23の中央部に設置されている。本実施形態のスキャンモータ31としては、ステッピングモータが用いられている。そして、スキャンモータ31の回転軸31aは、鉛直方向に沿って延びており、蓋体23の中央部に設けられた貫通孔33を挿通して下側収容空間25内に突出している。さらに、回転軸31aの先端は、円板状をなす支持板34の中央部に接続され、支持板34の下面には支持フレーム35が取り付けられている。支持フレーム35は、一対の腕部35aを有するコ字状をなしている。
【0025】
図3,
図4に示されるように、ケース40は、ABS樹脂などの樹脂材料を用いて一端が開口する有底円筒状に形成されている。また、ケース40には、回転軸31aに直交する傾動軸36が設けられている。傾動軸36は、2つの傾動軸部36aに分断されており、両傾動軸部36aは、ケース40の両側部(
図4,
図7では左側部及び右側部)から互いに反対方向に突出している。そして、両傾動軸部36aは、ベアリング(図示略)を介して支持フレーム35の両腕部35aに設けられた貫通孔にそれぞれ嵌め込まれている。よって、スキャンモータ31の回転軸31aが回転すると、支持板34、支持フレーム35、ケース40及び超音波振動子41は、回転軸31aを中心とした旋回運動を行う。これに伴い、超音波振動子41から出力される超音波U1の照射方向は、回転軸31aの周方向に沿って変化する。
【0026】
また、
図5,
図7に示されるように、ケース40の外周部には4つのボス46が設けられ、各ボス46にはそれぞれネジ穴部47が設けられている。各ネジ穴部47は、ケース40の中心C1を基準として等角度間隔で配置されている。
【0027】
図3,
図4に示されるように、チルトモータ32は、支持フレーム35の上端部に取り付けられている。本実施形態のチルトモータ32としては、ステッピングモータが用いられている。チルトモータ32の出力軸32aは、一対の傾動軸部36aと平行に配置されており、その先端部にはピニオンギヤ32bが取り付けられている。ピニオンギヤ32bは、ケース40に取り付けられた略半円状のチルト歯車37に噛合している。よって、チルトモータ32の出力軸32aが回転すると、ピニオンギヤ32b及びチルト歯車37が回動するのに伴い、ケース40及び超音波振動子41は、傾動軸36(傾動軸部36a)を中心とした傾動運動を行う。これに伴い、超音波振動子41から出力される超音波U1の照射角度も、超音波振動子41の傾動に伴って変化する。
【0028】
図5,
図6,
図8,
図9に示されるように、超音波振動子41は、基材42及び圧電素子43を備えている。基材42は、音響整合層を兼ねる円板状の樹脂製板状物である。そして、基材42の外周部には4つの張出部44が設けられ、各張出部44にはそれぞれネジ孔45が設けられている。各ネジ孔45は、圧電素子43(超音波振動子41)の中心O1を基準として等角度間隔で配置されている。また、各ネジ孔45には、基材42の裏面42b側の開口部に座繰り加工が施されている。よって、ネジ孔45にネジ(図示略)を挿通したとしても、ネジの頭部は基材42の裏面42bから突出しないため、ネジと超音波振動子41を収容するソナードーム20との干渉を避けることができる。
【0029】
そして、各ネジ孔45にネジを挿通し、挿通したネジの先端部をケース40のボス46に設けられたネジ穴部47に螺着させる。その結果、
図5,
図6に示されるように、超音波振動子41がケース40に固定される。なお、ボス46は、ケース40の下端面40aから0.5mm以上1mm以下だけ下方に突出している。このため、超音波振動子41をケース40に固定した際には、ケース40と基材42との間に隙間が生じるようになる。そして、この隙間が、ケース40内外を連通する連通口48となる。
【0030】
また、圧電素子43は、例えば、圧電セラミックスであるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いて形成された略円板状のセラミックス製板状物である。
図6,
図8,
図9に示されるように、圧電素子43の外径は基材42の外径よりも小さいため、圧電素子43の面積が基材42の面積よりも小さくなる。また、圧電素子43は、基材42に対して接合された前面51と、前面51の反対側にある背面52と、前面51及び背面52に直交する外周面53とを有している。さらに、
図6,
図10に示されるように、圧電素子43の前面51には前面側電極54が形成され、圧電素子43の背面52には背面側電極55が形成されている。なお、本実施形態では、圧電素子43の前面51の全体が、前面側電極54及び接着層56(
図10参照)を介して基材42に接合されている。また、圧電素子43は、前面側電極54及び背面側電極55の間に電圧を印加することにより、厚さ方向に分極されている。
【0031】
図6,
図8~
図11に示されるように、圧電素子43は、同圧電素子43の厚さ方向に沿って延びるように分割された複数の振動部90により構成されている。各振動部90は、圧電素子43の背面52に対して溝部K1を複数形成することにより構成される。各溝部K1は、互いに交差しないように、面方向に沿って一方向(
図8ではY方向)に延びている。よって、各振動部90は、溝部K1を介して、同溝部K1が延びる方向とは直交する方向(
図8ではX方向)に配設される。また、各溝部K1は、互いに平行に配置され、かつ傾動軸36の中心軸線A1(
図8参照)に対して60°以上120°以下(本実施形態では90°)の角度をなすように配置されている。即ち、各溝部K1は、傾動軸36の中心軸線A1に対して垂直となっている。さらに、本実施形態では、各溝部K1のうち、中央部に位置する溝部K1上に、圧電素子43(超音波振動子41)の中心O1が位置している。なお、各溝部K1の幅は、振動部90の幅よりも小さく、本実施形態では、振動部90の幅の10分の1以上3分の1以下となっている。また、各溝部K1の幅は、互いに等しくなっている。また、各溝部K1内には、樹脂材料(エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂等)や接着剤(エポキシ系接着剤等)などからなる充填材が何ら充填されていないため、各溝部K1は全体的に空隙K0となっている。
【0032】
図8~
図11に示されるように、各振動部90は、両端(
図8では左端及び右端)に位置する一対の外側振動部91と、両外側振動部91間に配置される複数の内側振動部92とにより構成されている。各振動部90は、背面視で帯状をなしている。具体的に言うと、
図11(a)に示されるように、外側振動部91の表面93a(背面52)は、2つの辺94a,94bによって構成されており、辺94aが背面視で円弧状をなし、辺94bが背面視で直線状をなしている。また、
図11(b)に示されるように、内側振動部92の表面93b(背面52)は、4つの辺95a,95b,95c,95dによって構成されており、辺95a,95cが背面視で円弧状をなし、辺95b,95dが背面視で直線状をなしている。なお、両外側振動部91の外側面96、及び、各内側振動部92の両端面97は、圧電素子43の外周面53を構成している。
【0033】
また、本実施形態では、各振動部90のうち、中央部に位置する振動部90(内側振動部92)の長さが最も長く、圧電素子43の外径と略等しくなっている。そして、圧電素子43の中心O1からの距離が遠くなる程、振動部90の長さが短くなる。また、外側振動部91の幅W1は、内側振動部92の幅W2よりも大きくなっている。
【0034】
図8~
図11に示されるように、両外側振動部91及び各内側振動部92は、圧電素子43の前面51側の端部において互いに繋がっている。そして、外側振動部91の長さは、内側振動部92の長さよりも小さくなっている。さらに、外側振動部91の長さは外側振動部91の高さH1よりも大きくなっており、外側振動部91の高さH1は外側振動部91の幅W1よりも大きくなっている。即ち、振動部90の長さの最小値は、振動部90の高さH1よりも大きくなっている。同様に、内側振動部92の長さは内側振動部92の高さH1よりも大きくなっており、内側振動部92の高さH1は内側振動部92の幅W2よりも大きくなっている。なお、振動部91,92の高さH1は、溝部K1の深さと等しくなっている。さらに、上述した基材42の厚さは、振動部91,92の高さH1よりも小さくなっている。また、圧電素子43において振動部91,92同士が繋がる部分の厚さH2は、基材42の厚さよりも小さくなっている。なお、圧電素子43の厚さH3(振動部91,92の高さH1)は任意に決定されるが、例えば、振動部91,92の「縦方向振動」が、目的とする共振周波数となるように決定される。
【0035】
さらに、本実施形態の圧電素子43では、振動部90の幅W(具体的には、外側振動部91の幅W1、または、内側振動部92の幅W2)が、圧電素子43の厚さH3よりも小さく、具体的には、厚さH3の4分の1以上2分の1以下となっている。また、本実施形態の圧電素子43では、振動部90の幅Wと、圧電素子43の外径の最小値L(本実施形態では、圧電素子43の直径)とが、0.05≦W/L≦0.1の関係、特には、0.07≦W/L≦0.1の関係を満たしている。このことは、圧電素子43に、10本以上の振動部90が存在することを示している。このようにすれば、複合振動が減少し、特定部分の感度が高くなるため、これに伴って特定部分付近の感度も高くなり、超音波U1の比帯域が広くなる。
【0036】
図8,
図10に示されるように、両外側振動部91の表面93a上及び各内側振動部92の表面93b上には、それぞれ背面側電極55が形成されている。そして、複数の背面側電極55の各々を架け渡すようにして、銅、銀、錫などの電気抵抗が小さい導電性金属(本実施形態では銅)からなる線材60(導電性部材)が接合されている。また、線材60は、圧電素子43(超音波振動子41)の中心O1からずれた位置に配設されている。なお、本実施形態の線材60は、起伏した形状(波状)となっている。また、線材60は、はんだ61を介して各背面側電極55に接続されている。なお、線材60の接続により、線材60は、両外側振動部91の表面93a及び各内側振動部92の表面93bの共通電極となる。
【0037】
そして、
図6に示されるように、前面側電極54には第1のリード線62が接続され、背面側電極55には第2のリード線63が接続されている。第1のリード線62は、前面側電極54から外側に延出された側面端子(図示略)に対してはんだ付けなどにより接続されている。第2のリード線63は、複数の背面側電極55のいずれか1つに対してはんだ付けなどにより接続されている。そして、第1のリード線62及び第2のリード線63は、配線チューブ64によって結束され、ケース40の上部に設けられた配線挿通孔49を通ってケース40外に引き出される。なお、第1のリード線62は側面端子に接続されているが、前面側電極54上または基材42の表面42aに銅箔等の金属箔(図示略)を貼付し、金属箔に対して第1のリード線62をはんだ付けなどにより接続してもよい。また、
図4に示されるように、配線挿通孔49は、ケース40の中心C1を介してチルト歯車37の反対側に配置されている。このため、配線挿通孔49内を通る配線チューブ64とチルト歯車37との干渉を防止することができる。また、配線挿通孔49は、傾動軸部36aの近傍に配置されている。このため、超音波振動子41が傾動運動を行う際において、配線チューブ64(第1のリード線62及び第2のリード線63)のバタツキを防止することができる。
【0038】
図6に示されるように、圧電素子43の背面52側には、シート状の防音材65(バッキング材)が貼付されている。防音材65は、残響を抑えるためのものであり、ケース40の内周面にも貼付されている。なお、防音材65としては、樹脂材料やゴムに対して、金属やセラミックスからなる粒子または繊維を含有させたものや、樹脂材料に対して空孔を分散的に設けたもの(スポンジなど)を用いることができる。
【0039】
そして、
図3,
図4に示されるソナードーム20内には、超音波U1を伝搬させる超音波伝搬液体(図示略)が充填されている。また、超音波伝搬液体の一部は、ケース40に設けられた連通口48を介してケース40内に流入し、圧電素子43において隣接する振動部90間の空隙K0(溝部K1)に流入し、空隙K0を満たしている。なお、本実施形態の超音波伝搬液体は流動パラフィンである。また、上述した基材42の固有音響インピーダンスは、圧電素子43の固有音響インピーダンスよりも小さく、かつ超音波伝搬液体の固有音響インピーダンスや水の固有音響インピーダンスよりも大きくなっている。
【0040】
次に、ソナー11の電気的構成について説明する。
【0041】
図12に示されるように、ソナー11の液晶モニター13は、装置全体を統括的に制御する制御装置70を備えている。制御装置70は、CPU71、ROM72、RAM73等からなる周知のコンピュータにより構成されている。
【0042】
CPU71は、モータドライバ81を介してスキャンモータ31及びチルトモータ32に電気的に接続されており、各種の駆動信号によってそれらを制御する。また、CPU71は、送受信回路82を介して超音波振動子41に電気的に接続されている。送受信回路82は、超音波振動子41に対して発振信号を出力して、超音波振動子41を駆動させるようになっている。その結果、超音波振動子41は、超音波U1を水中に向けて照射(送信)する。また、送受信回路82には、超音波振動子41で受信した超音波U1(反射波U2)を示す電気信号が入力されるようになっている。さらに、CPU71は、昇降装置12、操作部14、表示部15及びGPS(Global Positioning System )受信部83に対してそれぞれ電気的に接続されている。
【0043】
そして、
図12に示されるCPU71は、送受信回路82に対して超音波振動子41から超音波U1を照射させる制御を行うとともに、昇降装置12を駆動させる制御を行う。CPU71は、モータドライバ81に対してスキャンモータ31及びチルトモータ32をそれぞれ駆動させる制御を行う。CPU71には、GPS受信部83によって受信された船舶10の位置情報が入力される。
【0044】
また、CPU71は、超音波振動子41が反射波U2を受信したことを契機として生成される受信信号を、送受信回路82を介して受信する。そして、CPU71は、受信した受信信号に基づいて探知画像データを生成し、生成した探知画像データをRAM73に記憶させる。CPU71は、RAM73に記憶された探知画像データに基づいて、探知画像を表示部15に表示させる制御を行う。
【0045】
次に、ソナー11を用いて被探知物S0を探知する方法を説明する。
【0046】
まず、ソナー11、昇降装置12及び液晶モニター13の電源(図示略)をオンする。このとき、制御装置70のCPU71には、GPS受信部83から船舶10の位置を示す位置情報が入力される。次に、CPU71は、送受信回路82から超音波振動子41に対して発振信号を出力させる制御を行い、超音波振動子41を駆動させる。このとき、圧電素子43の各振動部90は、収縮(
図13(b)参照)と伸長(
図13(a)参照)とを繰り返す。なお、振動部90が高さ方向に収縮した際には、振動部90が幅方向、具体的には、振動部90の外周側(
図13(b)の矢印F1参照)に、収縮した体積分だけ太くなるように変形する。そして、振動部90が高さ方向に伸長すると、振動部90が幅方向、具体的には、振動部90の中央部側(
図13(a)の矢印F2参照)に変形する。その結果、圧電素子43が振動し、超音波振動子41から水中に対して超音波U1が照射(送信)される。そして、超音波U1が被探知物S0(
図1参照)に到達すると、超音波U1は、被探知物S0で反射して反射波U2となり、ソナー11に向かって伝搬して超音波振動子41に入力(受信)される。その後、超音波振動子41が受信した超音波U1(反射波U2)は、受信信号に変換され、送受信回路82を介してCPU71に入力される。この時点で、被探知物S0が探知される。
【0047】
さらに、CPU71は、モータドライバ81を介してスキャンモータ31を駆動させる制御を行い、回転軸31aを中心とした旋回運動を超音波振動子41に行わせる。また、CPU71は、モータドライバ81を介してチルトモータ32を駆動させる制御を行い、傾動軸36を中心とした傾動運動を超音波振動子41に行わせる。その結果、超音波U1の照射方向が徐々に変化し、これに伴って探知範囲も徐々に変化する。その後、作業者が電源をオフすると、制御装置70により送受信回路82が停止し、超音波U1の照射及び反射波U2の受信が終了する。
【0048】
次に、超音波振動子41の製造方法を説明する。
【0049】
まず、基材42を準備する。具体的には、ガラスエポキシ(FR-4)等からなる樹脂製板状物を円形状に切削加工する。また、圧電素子43となるべきセラミックス製板状物を準備する。具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる円板状のセラミックス製焼結体を作製した後、表面研磨を行うことにより、セラミックス製板状物を得る。次に、電極形成工程を行い、セラミックス製板状物の前面51に前面側電極54を形成するとともに、セラミックス製板状物の背面52に背面側電極55を形成する。具体的には、セラミックス製板状物の前面51及び背面52にそれぞれ銀ペーストを塗布し、塗布した銀ペーストを焼成することにより、電極54,55を形成する。そして、前面側電極54及び背面側電極55の間に電圧を印加することにより、セラミックス製板状物を厚さ方向に分極させる分極処理を行う。
【0050】
続く接合工程では、基材42の片面に対して、セラミックス製板状物を前面側電極54を介して接合する。具体的には、前面側電極54の表面及び基材42の表面42aのいずれか一方に対して、接着層56となる接着剤(エポキシ系接着剤など)を塗布し、基材42に対してセラミックス製板状物を接着固定する。なお、接着剤を塗布する代わりに、はんだ等を用いてロウ付けを行ってもよい。
【0051】
接合工程後の振動部形成工程では、切削加工等を行うことにより、セラミックス製板状物における背面52側に複数の溝部K1を形成する。その結果、セラミックス製板状物が複数の振動部90に分割されるとともに、セラミックス製板状物の背面52に形成された背面側電極55も複数(振動部90と同数)に分割される。この時点で、圧電素子43が完成する。なお、各振動部90は、圧電素子43の前面51側の端部において互いに繋がった状態で分割されるため、前面51に形成された前面側電極54までが分割されることはない。その後、複数の背面側電極55の各々を架け渡すようにして線材60を接合し、各背面側電極55を、各振動部90の表面93a,93bの共通電極とする。なお、本実施形態の線材60は、はんだ付けによって各背面側電極55に接合されるが、他の接合方法(ロウ付け、接着剤による接着など)により各背面側電極55に接合されるものであってもよい。そして、この時点で、超音波振動子41が完成する。
【0052】
なお、超音波振動子41が完成した後、前面側電極54に対して側面端子(図示略)を介して第1のリード線62をはんだ付けなどにより接続するとともに、背面側電極55に対して第2のリード線63をはんだ付けなどにより接続する。次に、圧電素子43の背面52側に、残響を抑えるための防音材65を貼付する。また、ケース40の内側面にも防音材65を貼付する。その後、超音波振動子41の圧電素子43をケース40に収容する。そして、この状態で、基材42に設けられた複数のネジ孔45にネジ(図示略)を挿通させ、挿通したネジの先端部をケース40に設けられたネジ穴部47に螺着させる。その結果、超音波振動子41がケース40に固定される(
図5,
図6参照)。さらに、超音波振動子41が固定されたケース40をソナードーム20内に収容し、ケース40が有する一対の傾動軸部36aを、支持フレーム35の両腕部35aに設けられた貫通孔にそれぞれ嵌合させる。そして、ソナードーム20内に超音波伝搬液体(図示略)を充填する。このとき、超音波伝搬液体の一部は、ケース40に設けられた連通口48を介してケース40内に流入し、圧電素子43において隣接する振動部90間の空隙K0に流入する。この時点で、超音波振動子41がソナードーム20に組み込まれ、ソナー11が完成する。
【0053】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0054】
(1)例えば、特許文献1に記載の従来技術には、超音波振動子を鉛直下向きから傾動させた状態で、鉛直方向を向いた回転軸を中心として超音波振動子を機械的に旋回させることにより、船舶の周囲をスキャンして魚群などの被探知物を探知するソナーが開示されている。また、従来、超音波振動子を360°旋回させながらスキャン(全周スキャン)を行う場合において、探知速度を速くすることにより、全周スキャンにかかる時間を短縮することが求められている。しかし、超音波の指向角を超える旋回速度(角度ステップ)で超音波振動子を旋回させると、探知漏れが生じてしまう。
【0055】
そこで、本実施形態のソナー11では、圧電素子43に形成した溝部K1が傾動軸36に対して90°の角度をなすように、超音波振動子41を配設している。これにより、溝部K1を介して配設される複数の振動部90は、傾動軸36と直交する方向に延びる帯状となる。なお、超音波振動子41の帯状の振動部90単体から照射される超音波U1は、振動部90の幅方向(各振動部90の配設方向)に広い指向角を持つ指向性を有する。詳述すると、後述する
図18,
図20に示されるように、配設方向の中央にある振動部90から照射される超音波U1のうち、直進方向の超音波U1はあまり打ち消し合わないが、直進方向から横に広がる超音波U1は、隣接する振動部90から照射される超音波U1と打ち消し合う。このため、超音波U1は、圧電素子43の側方にではなく、下方に向けて確実に照射される。一方、配設方向の両端にある振動部90においては、隣接する振動部90が存在しないため、振動部90が存在しない側に向かって強めのサイドローブが照射される。これにより、超音波U1の指向角が各振動部90の配設方向に広がるため、各振動部90が傾動軸36と直交する方向に延びる本実施形態においては、超音波U1の指向角が、傾動軸36に直交する回転軸31aの旋回方向に広くなる。その結果、1回のスキャンにおける探知範囲が広くなるため、全周スキャンを行う場合に、必要なスキャン回数を減少させることができる。ゆえに、探知漏れを生じさせずに探知速度を速くすることができるため、探知時間を短縮することが可能となる。
【0056】
(2)例えば、超音波振動子の圧電素子に柱状の振動部が形成されている場合、超音波振動子を長期間に亘って駆動させると、疲労破壊により振動部の下端部にクラックが発生する可能性が高い。そして、クラックが発生した状態で超音波振動子を高電圧で駆動し続ける場合には、クラックの発生部位から断続的に放電を生じてしまい、その影響で、圧電素子の他の振動部においても圧電特性の低下を引き起こし、送受感度が低下してしまう、といった問題がある。一方、本実施形態では、超音波振動子41の圧電素子43に帯状の振動部90を形成している。この場合、柱状の振動部に比べて振動部90が平面方向に長くなることで、圧電素子43の前面51側の端部(振動部90同士が繋がる部分)と振動部90との接合面積が大きくなり、振動部90が倒れにくい安定した形状となるため、振動部90の強度低下を防止することができる。よって、たとえ超音波振動子41を長期間に亘って駆動させたとしても、振動部90にクラックが発生しにくくなるため、クラックの発生に起因する上記の問題が生じにくくなる。つまり、クラックの発生を抑制することによって、超音波振動子41の信頼性を向上させることができる。
【0057】
しかも、本実施形態では、一方向に延びる溝部K1を形成することにより帯状の振動部90を得ている。このため、縦横に延びる溝部を形成して上記した柱状の振動部を得る場合に比べて、振動部90の形成に必要な溝部K1の形成回数が半分になり、溝部K1の形成が容易になる。さらに、溝部K1の形成回数の減少に伴って、背面側電極55の分割数も減少するため、背面側電極55への線材60の接続作業の負荷が軽減される。よって、超音波振動子41の製造コストを低減することができる。
【0058】
(3)例えば、圧電素子43に形成される各溝部K1の幅を大きくした場合、各振動部90の幅が小さくなるのに伴って各振動部90の面積も小さくなるため、超音波振動子41の出力が低下してしまう。一方、本実施形態では、各溝部K1の幅が、振動部90の幅の10分の1以上3分の1以下であり、振動部90の幅よりもかなり小さくなっている。その結果、各振動部90の面積が確保されるため、溝部K1を形成したとしても、超音波振動子41の出力を確保することができる。
【0059】
(4)本実施形態では、外側振動部91の幅W1が内側振動部92の幅W2よりも大きくなるため、外側振動部91が内側振動部92よりも幅方向に大きくなる。よって、外側面96全体が圧電素子43の外部に露出する外側振動部91の強度が高くなり、外側振動部91でのクラックの発生が確実に防止される。このため、外部に露出するために外力が作用しやすい外周部において圧電素子43を補強することができ、超音波振動子41の信頼性がよりいっそう高くなる。
【0060】
(5)さらに、本実施形態では、振動部90が平面方向に長くなることで振動部90が倒れにくい安定した形状となるため、各振動部90間の空隙K0(溝部K1)を充填材で埋めなくても済む。この場合、振動部90の高さ方向への変形が充填材に妨げられることはないため、充填材の充填に起因する超音波振動子41の感度低下を防止することができる。
【0061】
(6)本実施形態のソナー11は、円板状をなす圧電素子43を備えた超音波振動子41が、ソナードーム20において半球状をなす部分(下ケース22の下端部)の内部で回転する構造である。即ち、下ケース22の下端部及び超音波振動子41は、ともに円弧状の部分を有するものであるため、下ケース22の下端部内面と超音波振動子41とを近付けて配置することができる。このため、ソナードーム20内のデッドスペースが小さくなり、ソナー11の小型化を図ることができる。
【0062】
(7)例えば、圧電素子43の背面52側に形成した溝部K1を圧電素子43の前面51まで到達させることにより、圧電素子43を複数の振動部90で完全に分割すると、圧電素子43の前面51に形成された前面側電極54も分割されてしまう。このため、前面側電極54(側面端子)に対して第1のリード線62を接続したとしても、前面側電極54の全体と導通を図ることができないという問題がある。一方、本実施形態では、各振動部90が、圧電素子43の前面51側の端部において互いに繋がっているため、前面51に形成された前面側電極54が分割されることはない。この場合、前面側電極54に第1のリード線62を接続すれば、前面側電極54全体との導通を確実に図ることができるため、ソナー11を容易に作製することができる。また、各振動部90が圧電素子43の前面51側の端部において互いに繋がることにより、圧電素子43の前面51全体が基材42の表面42aに接触するため、両者の接触面積が確保され、圧電素子43と基材42との接合強度が向上する。その結果、超音波振動子41の信頼性がよりいっそう高くなる。
【0063】
[第2実施形態]
以下、本発明を具体化した第2実施形態を図面に基づいて説明する。ここでは、前記第1実施形態と相違する部分を中心に説明する。即ち、第1実施形態の超音波振動子が、複数の振動部に対する通電系統が1つのみであったのに対し、本実施形態の超音波振動子は、複数の振動部に対する通電系統が複数である点で異なっている。
【0064】
詳述すると、
図14,
図15,
図21に示されるように、本実施形態の超音波振動子111では、圧電素子112を構成する各振動部113の表面(背面)上に形成された背面側電極55が、各振動部113の共通電極ではなく、2つ以上のグループに分けられた電極となっている。具体的に言うと、
図14に示されるように、各振動部113は、同振動部113の配設方向における中央部に位置する振動部113aと、配設方向における両端部にそれぞれ位置する振動部113b,113cとに分けられる。そして、各振動部113aの背面側電極55の各々を架け渡すように線材60aが接合され、各振動部113bの背面側電極55の各々を架け渡すように線材60bが接合され、各振動部113cの背面側電極55の各々を架け渡すように線材60cが接合される。さらに、各振動部113aの背面側電極55のいずれか1つには、第2のリード線63(
図6参照)がはんだ付けなどにより接続されている。同様に、各振動部113bの背面側電極55のいずれか1つ、及び、各振動部113cの背面側電極55のいずれか1つにも、それぞれ別の第2のリード線63がはんだ付けなどにより接続されている。また、
図6に示される第2のリード線63は1本であるが、本実施形態では、分割したグループ数に応じて第2のリード線63の本数が増加する。なお、線材60bと線材60cとを接続し、各振動部113b,113cの背面側電極55のいずれか1つに対して、1本の第2のリード線63を接続するようにしてもよい。また、本実施形態の圧電素子112では、各振動部113の両端に位置する外側振動部114の幅W3と、一対の外側振動部114間に配置される内側振動部115の幅W4とが等しくなっている。
【0065】
そして、本実施形態のCPU71(
図12参照)は、超音波振動子111の駆動態様を、第1の態様である全駆動モード(
図15,
図16参照)と第2の態様である部分駆動モード(
図21,
図22参照)とに切替可能となっている。全駆動モードは、圧電素子112を構成する全ての振動部113を駆動するモードである。一方、部分駆動モードは、圧電素子112の中心領域に位置する一部の振動部113、具体的には、配設方向における中央部に位置する4つの振動部113aを駆動するモードである。また、本実施形態では、中央部に位置する振動部113aに接続される第1電気経路と、それ以外の振動部113b,113cに接続される第2電気経路とが、互いに別系統となっている。従って、第1電気経路及び第2電気経路のいずれか一方のみを通電して一部の振動部113を駆動させることが可能であるほか、両方を同時に駆動して全ての駆動部113を駆動させることが可能となっている。
【0066】
なお、超音波振動子111の駆動態様が全駆動モードに切り替えられた場合、CPU71は、第1電気経路を構成する1本の第2のリード線63と第2電気経路を構成する2本の第2のリード線63とを介して、送受信回路82から各振動部113に発振信号を出力させる制御を行う。その結果、全ての振動部113が振動し、超音波振動子111から水中に対して超音波U1が照射(送信)される。一方、超音波振動子111の駆動態様が部分駆動モードに切り替えられた場合、CPU71は、第1電気経路を構成する1本の第2のリード線63を介して、送受信回路82から中央部に位置する振動部113aに発振信号を出力させる制御を行う。その結果、中央部に位置する4つの振動部113aのみが振動し、超音波振動子111から水中に対して超音波U1が照射される。なお、部分駆動モードに切り替えられた際に超音波U1を照射する振動部113aは、各振動部113のうち、圧電素子112の中心O1からの距離が振動部113b,113cよりも短い距離にある振動部である。また、部分駆動モードで駆動する振動部113aの総面積は、全駆動モードで駆動する全ての振動部113の総面積の10分の1以上2分の1以下となる。
【0067】
次に、超音波振動子の評価方法及びその結果を説明する。
【0068】
まず、測定用サンプルを次のように準備した。圧電素子122の背面に対して一方向に延びる溝部K1を複数形成することにより、複数の帯状の振動部123が形成された超音波振動子121を準備し、これを実施例(
図15,
図16,
図21,
図22参照)とした。さらに、圧電素子126に溝部K1(及び振動部123)が形成されていない超音波振動子125を準備し、これを比較例(
図27参照)とした。
【0069】
次に、各測定用サンプル(実施例及び比較例)に対して、超音波振動子121,125の指向性を検証した。具体的には、実施例の超音波振動子121の駆動態様を全駆動モードに切り替えた状態で、超音波振動子121から共振周波数である281kHzの超音波U1(
図17参照)を照射し、照射時(送信時)の指向性をシミュレーションした。
図18は、全駆動モードにおいて、圧電素子122のX-Z面における超音波U1の伝搬状態をシミュレーションした図であり、
図19は、全駆動モードにおいて、圧電素子122のY-Z面における超音波U1の伝搬状態をシミュレーションした図であり、
図20は、全駆動モードにおける超音波U1の指向性のシミュレーション結果を示すグラフである。なお、Z軸は、法線方向に延びる軸である。
【0070】
また、実施例の超音波振動子121の駆動態様を部分駆動モードに切り替えた状態で、超音波振動子121から共振周波数である281kHzの超音波U1(
図23参照)を照射し、照射時の指向性をシミュレーションした。
図24は、部分駆動モードにおいて、圧電素子122のX-Z面における超音波U1の伝搬状態をシミュレーションした図であり、
図25は、部分駆動モードにおいて、圧電素子122のY-Z面における超音波U1の伝搬状態をシミュレーションした図であり、
図26は、部分駆動モードにおける超音波U1の指向性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【0071】
また、比較例の超音波振動子125から共振周波数である278kHzの超音波U1(
図28参照)を照射し、照射時の指向性をシミュレーションした。
図29は、比較例において、圧電素子126のY-Z面における超音波U1の伝搬状態をシミュレーションした図であり、
図30は、比較例における超音波U1の指向性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【0072】
その結果、圧電素子126に振動部123が形成されていない比較例では、超音波振動子125から超音波U1を照射すると、例えばY-Z面において狭い指向角を持つ指向性となることが確認された(
図29,
図30参照)。また、圧電素子122に振動部123が形成された実施例においても、各振動部123から超音波U1を同位相で照射した場合(全駆動モード)には、X-Z面においてもY-Z面においても狭い指向角を持つ指向性となることが確認された(
図18~
図20参照)。即ち、全駆動モードにおいては、超音波振動子121から等方的な指向性の超音波U1が照射されることが確認された(
図16参照)。
【0073】
一方、実施例において、中央部にある1つの振動部123のみから超音波U1を照射した場合(部分駆動モード)には、Y-Z面においては狭い指向角を持つ指向性となるものの(
図25,
図26参照)、X-Z面においては広い指向角を持つ指向性となることが確認された(
図24,
図26参照)。即ち、部分駆動モードにおいては、超音波U1がX-Z面に相対的に広がるものの、Y-Z面には相対的に広がらないため、超音波振動子121から異方的な指向性の超音波U1が照射されることが確認された(
図22参照)。しかも、部分駆動モードにおいては、中央にある振動部123から超音波U1が同心円状に広がることが確認された(
図24,
図26参照)。
【0074】
また、実施例では、圧電素子122の径方向振動の共振が40kHz付近にあり、この高調波が周期的に表れている。しかしながら、圧電素子122には溝部K1が形成されているため、個々の振動部123が円板状をなさなくなる。その結果、径方向振動が生じにくくなるため、
図17,
図23に示されるようなインピーダンス特性になることが確認された。一方、比較例では、圧電素子126に溝部K1が形成されていないため、径方向振動が生じる。その結果、径方向振動の共振の高調波が周期的に表れ、
図28に示されるようなインピーダンス特性になることが確認された。
【0075】
従って、圧電素子122のX軸を傾動軸36と平行に配置、換言すると、圧電素子122の溝部K1を傾動軸36に対して垂直に配置すれば、超音波振動子121を部分駆動モードで駆動する場合に、超音波振動子121の探知範囲(超音波U1の指向角)が水平方向に広くなることが確認された(
図22参照)。よって、鉛直方向を向いた回転軸31aを中心として超音波振動子121を360°旋回させながらスキャン(全周スキャン)を行う際に、スキャン回数を減らしてセクタースキャン時のステップ間隔を大きくしたとしても、探知漏れが起きにくくなることが確認された。詳述すると、超音波振動子121を全駆動モードで駆動する場合、超音波U1の指向角は例えば40°となり、全周スキャンにおけるスキャン回数は例えば9回となる(
図31のZ1~Z9参照)。一方、超音波振動子121を部分駆動モードで駆動すれば、超音波U1の指向角は全駆動モードの例えば3倍(120°)となるため、全周スキャンにおけるスキャン回数は全駆動モードの例えば3分の1(3回)とすることができる(
図32のZ1~Z3参照)。その結果、スキャン回数が減るため、探知時間を短縮できることが確認された。
【0076】
しかし、超音波U1の指向角が広いままであると、CPU71による受信信号(反射波U2)の分解能が低下するという弊害がある。この場合、超音波振動子121を全駆動モードで駆動すれば、指向角が狭くなり、分解能の低下を抑えられることが確認された。
【0077】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0078】
(8)本実施形態では、全ての振動部113を駆動する全駆動モードで超音波振動子111を駆動すると、振動部113全体の外形が略円形であることから、圧電素子112の垂線方向に照射される超音波U1の指向特性が軸対称に近付く(
図16参照)。一方、一部の振動部113を駆動する部分駆動モードで超音波振動子111を駆動すると、帯状の振動部113単体から照射される超音波U1が、振動部113の長手方向に相対的に狭い指向角を持つものの、振動部113の配設方向には相対的に広い指向角を持つ指向性となる(
図22参照)。よって、例えば全周スキャン時に、超音波振動子111の駆動態様を部分駆動モードに切り替えれば、超音波U1の指向角を超音波振動子111の旋回方向により広くすることができる。その結果、1回のスキャンにおける探知範囲が広くなるため、必要なスキャン回数をいっそう減少させることができる。ゆえに、探知漏れを生じさせずに探知速度を速くすることができるため、全駆動モードに比べて探知時間を短縮することが可能となる。
【0079】
(9)特開平1-295190号公報に記載の従来技術には、1つの円形状振動部(送受波部)と2つの円環状振動部(送受波部)とを同心状に配設してなる圧電素子を備え、振動部の駆動態様を切り替えることにより、指向性を制御する超音波振動子が開示されている。しかしながら、円形状振動部のみを駆動する駆動態様に切り替えて超音波の指向角を広くしようとすると、以下の問題が生じてしまう。即ち、指向角は、超音波振動子(圧電素子)の旋回方向だけでなく、超音波振動子の傾動方向(俯角方向)にも広がってしまう。その結果、超音波振動子が反射波を受信した際に生成される受信信号における俯角方向への情報の中に、不必要な情報が含まれ、精度が低下しやすくなる。このため、CPUによる受信信号の分解能が低下するという問題がある。また、円形状振動部の面積は振動部の総面積の3分の1程度であり、円形状振動部の外径は最外周に位置する円環状振動部の外径の57%程度となる。この場合、全ての振動部を駆動する場合に比べて、指向角の広がりは2倍未満であるため、全周スキャンにおけるスキャン回数を半分に減らすこともできない。しかも、円形状振動部及び円環状振動部の振動が複合振動となるため(
図28参照)、電気機械結合係数が低くなり、感度が低下してしまうという問題がある。また、残響が長くなるという問題もある。
【0080】
一方、本実施形態では、中央部の振動部113のみを駆動する部分駆動モードに切り替えて超音波U1の指向角を広くする場合に、指向角を、超音波振動子111(圧電素子112)の旋回方向のみに広げることができる。その結果、超音波振動子111が反射波を受信した際に生成される受信信号における俯角方向への情報の中に、不必要な情報が含まれにくくなる。このため、CPU71による受信信号の分解能を確保することができる。また、部分駆動モードでの駆動部分である中央部の振動部113の幅は、圧電素子112の外径の9分の1程度となる。この場合、全ての振動部113を駆動する場合に比べて、指向角の広がりが例えば3倍~5倍程度となるため、全周スキャンにおけるスキャン回数を例えば5分の1~3分の1程度に減らすことができる(
図31,
図32参照)。しかも、本実施形態の振動部113の幅は、前記第1実施形態と同様に、圧電素子112の厚さの2分の1以下であるため、振動部113が高さ方向に振動しやすい形状となり、電気機械結合係数が高くなるため、超音波振動子111の感度が高くなる。また、超音波U1が広帯域となり、残響が短くなる。
【0081】
なお、本実施形態において複合振動の影響が小さくなるのは、各振動部113の長さが異なっており、それぞれの振動部113においても、圧電素子112の中心O1からの距離が近い側と遠い側とで、長さが異なっているからであると考えられる。この場合、各振動部113の長さ方向振動が生じるものの、個々の共振周波数が異なるため、特定の周波数による長さ方向の共振現象は抑制される。これに対し、高さ方向については、厚さが揃っており、厚さ方向の共振周波数は各振動部113で一致する。また、溝加工により各振動部113が厚さ方向に変形しやすくなるため、超音波振動子111の感度が高くなる。
【0082】
なお、上記各実施形態を以下のように変更してもよい。
【0083】
・上記各実施形態の超音波振動子41,111では、圧電素子43,112に形成された各溝部K1が、面方向に沿って互いに平行に(即ち、交差せずに)配置され、かつ傾動軸36(の中心軸線A1)に対して垂直(90°の角度をなすよう)に配置されていた。しかし、各溝部K1が傾動軸36に対して60°以上120°以下の角度をなしているならば、各溝部K1の配置態様を適宜変更してもよい。例えば、
図33(a)の超音波振動子131に示されるように、各溝部K2は互いに異なる方向に延びていてもよい。また、
図33(b)の超音波振動子132のように、各溝部K3が屈曲していてもよいし、
図33(c)の超音波振動子133のように、各溝部K4が湾曲していてもよい。なお、各溝部は、互いに平行であることが好ましく、互いに同じ幅であることが好ましい。また、各溝部は、たとえ途中で折れていたとしても、直線上に構成されることが好ましい。
【0084】
・上記各実施形態の超音波振動子41,111は、円板状の圧電素子43,112を備えていたが、圧電素子は、楕円板状の圧電素子134,135(
図34(a),(b)参照)であってもよいし、長円板状の圧電素子136,137(
図34(c),(d)参照)であってもよい。
【0085】
・上記各実施形態の超音波振動子41,111では、溝部K1が全体的に空隙K0となっていた。しかし、圧電素子43,112の外周面53において溝部K1の両端が封止されていてもよい。例えば、
図35に示されるように、圧電素子140の外周面53にテープ141を巻き付けることにより、各溝部K1の両端を封止するようにしてもよい。また、
図36に示されるように、各溝部K1の両端を充填材142で埋めることにより、各溝部K1の両端を封止するようにしてもよい。さらに、充填材の密度が比較的低いものであれば、各溝部K1の全体を充填材で埋めてもよい。
【0086】
・上記第1実施形態では、外側振動部91の幅W1と内側振動部92の幅W2とが互いに異なっていたが、幅W1,W2は互いに等しくてもよい。また、上記各実施形態では、圧電素子43,112に形成された溝部K1の幅が互いに等しくなっていたが、溝部K1の幅は互いに異なっていてもよい。
【0087】
・上記第1実施形態の圧電素子43は、分割された複数の振動部90が前面51側の端部において互いに繋がった構造を有していた。しかし、圧電素子は、複数の振動部が完全に分割された構造を有していてもよい。この場合、各振動部を基材42に対してそれぞれ貼付することにより、超音波振動子が構成される。
【0088】
・上記第1実施形態では、複数の振動部90の表面93a,93b上に背面側電極55が形成され、複数の背面側電極55の各々を架け渡すようにして線材60が接合されていた。しかし、線材60を接合する代わりに、帯状の導電性部材である金属箔143(例えば、銅箔、黄銅箔、アルミニウム箔など)を、はんだ等の導電金属や、従来周知の導電性フィラーを含む接着剤などにより、複数の背面側電極55の各々を架け渡すように貼付してもよい(
図37参照)。さらに、金属箔143を貼付する代わりに、接着層を有する帯状の導電性部材である導電テープ(図示略)を、複数の背面側電極55の各々を架け渡すように貼付してもよい。また、複数の背面側電極55の各々を架け渡すようにして、線材60及び金属箔143の両方を接合してもよい。
【0089】
・上記第2実施形態では、超音波振動子111の駆動態様が部分駆動モードに切り替えられた場合に、圧電素子112の中心領域に位置する4つの振動部113aを駆動していた。しかし、駆動態様が部分駆動モードに切り替えられた際に、圧電素子112の中心領域に位置する1つ以上3つ以下の振動部113aを駆動してもよいし、圧電素子112の中心領域に位置する5つ以上の振動部113を駆動してもよい。
【0090】
・上記第2実施形態の部分駆動モードは、圧電素子112の中心領域に位置する振動部113aに交流電圧を印加して駆動し、圧電素子112の両端部に位置する振動部113b,113cに電圧を印加しない態様となっていた。しかし、部分駆動モードは、両側部の振動部113b,113cに対して中央領域の振動部113aよりも低い電圧を印加する態様であってもよいし、中央領域の振動部113aとは異なる位相で両側部の振動部113b,113cに電圧を印加する態様であってもよい。
【0091】
・上記各実施形態の超音波振動子41,111では、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電素子43,112を用いたが、圧電素子43,112の形成材料は特に限定されるものではない。例えば、ニオブ酸カリウムナトリウム系(ニオブ酸アルカリ系)、チタン酸バリウム系、PMN-PT(Pb(Mg
1/3Nb2/3)O3-PbTiO3)単結晶、PZNT(Pb(Zn1/3Nb2/3)O3-PbTiO3)単結晶、LiNbO3単結晶の圧電セラミックスからなる圧電素子を用いてもよい。
【0092】
・上記第1実施形態では、圧電素子43をケース40に収容した状態で、基材42側のネジ孔45を挿通したネジの先端部をケース40に設けられたネジ穴部47に螺着させることにより、超音波振動子41がケース40に固定されていたが、他の方法によって固定するようにしてもよい。例えば、接着剤を用いて超音波振動子41をケース40に固定してもよい。
【0093】
・上記第1実施形態では、音響整合層を兼ねる基材42と、基材42に対して接合された圧電素子43とからなる超音波振動子41が用いられていたが、圧電素子43のみからなる超音波振動子を用いてもよい。
【0094】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0095】
(1)請求項1乃至6のいずれか1項において、前記振動部の長さの最大値は、前記圧電素子の外径と等しいことを特徴とするソナー。
【0096】
(2)請求項1乃至6のいずれか1項において、前記振動部の長さの最小値は、前記振動部の高さよりも大きいことを特徴とするソナー。
【0097】
(3)請求項1乃至6のいずれか1項において、前記振動部の高さは、前記振動部の幅よりも大きいことを特徴とするソナー。
【0098】
(4)請求項1乃至6のいずれか1項において、前記溝部の幅は、前記振動部の幅よりも小さいことを特徴とするソナー。
【0099】
(5)請求項1乃至6のいずれか1項において、前記振動部の幅をWとし、前記圧電素子の外径の最小値をLとしたとき、W/L≦0.1の関係を満たすことを特徴とするソナー。
【0100】
(6)請求項1乃至6のいずれか1項において、前記超音波振動子は、音響整合層を兼ねる略円板状の基材を備え、前記基材に、前記圧電素子の前記前面が接合され、複数の前記振動部が、前記圧電素子の前記前面側の端部において互いに繋がっていることを特徴とするソナー。
【0101】
(7)請求項1乃至6のいずれか1項において、複数の前記振動部が、一対の外側振動部と、前記一対の外側振動部間に配置される複数の内側振動部とにより構成され、前記外側振動部の幅が前記内側振動部の幅よりも大きくなっていることを特徴とするソナー。
【0102】
(8)請求項3または4において、前記圧電素子の中心領域に位置する前記振動部に接続される電気経路と、それ以外の前記振動部に接続される電気経路とが、互いに別系統となっていることを特徴とするソナー。
【符号の説明】
【0103】
11…ソナー
30…駆動機構
31a…回転軸
36…傾動軸
41,111,131,132,133…超音波振動子
43,112,134,135,136,137,140…圧電素子
51…圧電素子の前面
52…圧電素子の背面
90,113,113a,113b,113c…振動部
91,114…振動部としての外側振動部
92,115…振動部としての内側振動部
H3…圧電素子の厚さ
K1,K2,K3,K4…溝部
O1…圧電素子の中心
U1…超音波
W…振動部の幅