(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】目地カバー装置
(51)【国際特許分類】
E04B 1/68 20060101AFI20241025BHJP
【FI】
E04B1/68 100A
(21)【出願番号】P 2021009785
(22)【出願日】2021-01-25
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】592094243
【氏名又は名称】カネソウ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】近藤 健治
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-097489(JP,A)
【文献】特開2012-072602(JP,A)
【文献】特開2013-096212(JP,A)
【文献】特開2020-193467(JP,A)
【文献】特開2001-113021(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0154677(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/68
E04B 1/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目地を介して隣接する左右の建造物の、その一方の建造物の側縁に一端が回動可能に枢結され、他端が他方の建造物の前壁面に差し渡されるホルダーを、付勢手段により目地の内方へ付勢して、該ホルダーの他端を該前壁面に弾接させると共に、該ホルダーを外方にのみ回動可能に設け、該ホルダーに目地を覆うカバー板を被着してなる目地カバー装置において、
前記ホルダーの背面側で、両建造物間に差し渡され、両端が、少なくとも目地の内外方向と長手方向とに回動可能なジョイント部材を介して、前記左右の建造物に夫々連結された伸縮可能なガイド杆を備え、
前記ジョイント部材の少なくとも一方は、
回動軸により相対的に回動可能に連結された第一連結片部と第二連結片部とを有する蝶番状を成し、前記第一連結片部が、前記建造物に、前記回動軸と直交する第一支軸により回動可能に枢結される一方、前記第二連結片部が、前記ガイド杆の一端に、前記回動軸と直交する第二支軸により回動可能に枢結される三軸ジョイント部材であることを特徴とする目地カバー装置。
【請求項2】
三軸ジョイント部材は、目地の幅方向に沿って配設された第一支軸により、第一連結片部が建造物に枢結されるものであることを特徴とする請求項1に記載の目地カバー装置。
【請求項3】
ガイド杆は、その両端が目地長手方向の互いに異なる位置で左右の建造物に夫々連結されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の目地カバー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣接する左右の建造物間の目地を覆う目地カバー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地震による被害を最小限に留めるために、緩衝機能を備えた免震装置によって下部を支持した建造物が多く建設されている。こうした免震構造の建造物間には、地震による変位を吸収し得る目地が形成されており、かかる目地を覆う目地カバー装置が配設されている。
【0003】
こうした目地カバー装置として、例えば特許文献1に記載の構成が提案されている。かかる従来の目地カバー装置101は、
図9に示すように、目地83を介して隣接する一方の建造物81の側壁面87に矩形枠状のホルダー102の一端をヒンジ104を介して回動可能に枢結し、該ホルダー102の他端を他方の建造物82の前壁面86に差し渡すと共に、引張バネ105からなる付勢手段により前記ホルダー102を目地83の内方へ付勢することによって、該ホルダー102の他端を建造物82の前壁面86に弾接させ、該ホルダー102に被着したカバー板103によって、目地83を覆うようにしたものである。さらに、前記ホルダー102の背面側に、蛇腹状に折曲された薄肉バネ鋼板からなる伸縮性規制部材108が、両建造物81,82間に亘って伸縮可能に配設されている。
【0004】
前述した従来の目地カバー装置101は、地震の際に建造物81,82の相対変位によって建造物82の前壁面86がホルダー102の他端より外方へ変位して、
図10に示すような位置関係になった場合に、該ホルダー102の他端が伸縮性規制部材108によって内方から押し出されて外方へ回動される。これにより、
図11の位置関係になった後に、建造物82の定常位置(
図9)へ復帰する際に、該建造物82とホルダー102の他端との衝当を回避できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した特許文献1の従来構成にあっては、地震時に左右の建造物81,82が前後左右方向へ相対変位した場合に、蛇腹状の薄肉バネ鋼板からなる伸縮性規制部材108が、その伸縮性によって該相対変位に追従できる。これにより、前述したように、建造物82の前壁面86がホルダー102の他端より外方に出る位置に相対変位した場合(
図10参照)に、伸縮性規制部材108が該ホルダー102の他端を内方から押し出して外方に回動させる状態が安定して得られ、該建造物82とホルダー102の他端との衝当による破損を防止できる。
ところが、従来構成の伸縮性規制部材108は、例えば、薄肉のステンレスバネ鋼板をプレス加工により蛇腹状に折曲加工して得られるものであることから、その製造に要するコストが比較的高くなる。さらに、伸縮性規制部材108は、目地83を遮蔽するように配設されることから、該目地83の幅と長さとに応じたサイズに成形されて、比較的重くなる。そのため、施工場所への運搬と施工作業とに要する手間とコストとが増大する。こうしたことから、前述した建造物とホルダーとの衝当を防ぐことができ、かつ製造コストと施工にかかる手間およびコストとを抑制できる構成が求められている。
【0007】
本発明は、前述したように、ホルダーと建造物との衝当を防ぎつつ、製造と施工とに要するコストと手間とを抑制し得る目地カバー装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、目地を介して隣接する左右の建造物の、その一方の建造物の側縁に一端が回動可能に枢結され、他端が他方の建造物の前壁面に差し渡されるホルダーを、付勢手段により目地の内方へ付勢して、該ホルダーの他端を該前壁面に弾接させると共に、該ホルダーを外方にのみ回動可能に設け、該ホルダーに目地を覆うカバー板を被着してなる目地カバー装置において、前記ホルダーの背面側で、両建造物間に差し渡され、両端が、少なくとも目地の内外方向と長手方向とに回動可能なジョイント部材を介して、前記左右の建造物に夫々連結された伸縮可能なガイド杆を備え、前記ジョイント部材の少なくとも一方は、回動軸により相対的に回動可能に連結された第一連結片部と第二連結片部とを有する蝶番状を成し、前記第一連結片部が、前記建造物に、前記回動軸と直交する第一支軸により回動可能に枢結される一方、前記第二連結片部が、前記ガイド杆の一端に、前記回動軸と直交する第二支軸により回動可能に枢結される三軸ジョイント部材であることを特徴とする目地カバー装置である。
【0009】
かかる構成にあっては、地震時に他方の建造物が一方の建造物に比して相対的に目地外方へ変位することによって、該他方の建造物の前壁面がホルダーの他端よりも外方へ相対変位した場合に、ガイド杆が該ホルダーの他端を目地内方から押圧して目地外方へ回動させる。その後、他方の建造物が定常位置に復帰する際には、ガイド杆の案内作用によって、ホルダーの他端が該他方の建造物の前壁面に弾接する状態に戻ることから、該ホルダーと該他方の建造物との衝当を回避でき、該衝当による目地カバー装置の破損を防止することができ得る。
【0010】
本構成にあって、ガイド杆は、少なくとも一端が三軸ジョイント部材を介して建造物に連結され、他端が目地の内外方向と長手方向とに回動可能に連結されていることから、地震時に左右の建造物が相対変位する際に、該相対変位に追従してスムーズに動くことができる。
詳述すると、ガイド杆は、三軸ジョイント部材の第一連結片部が建造物に枢結される第一支軸と直交する第一の仮想平面と、この第一の仮想平面上を回転する回動軸と直交する第二の仮想平面と、この第二の仮想平面上を回転する第二支軸と直交する第三の仮想平面との夫々に沿って回動できる。そして、第二の仮想平面は、第一の仮想平面上を回転する回動軸の位置に応じて変化すると共に、第三の仮想平面は、第二の仮想平面上を回転する第二支軸の位置に応じて変化する。このように第一支軸、回動軸、および第二支軸の各回動に応じて、第二,第三の仮想平面が様々に変化できることから、三軸ジョイント部材に連結されたガイド杆は、その長手方向が様々に変化できる。これにより、ガイド杆が、地震時における前記相対変位にスムーズ且つ安定して追従でき、該ガイド杆によって前記したホルダーと建造物との衝当を回避して破損を防止するという前述の作用効果が安定して発揮でき得る。
【0011】
このように本発明の構成は、左右の建造物の相対変位に追従するガイド杆を、ジョイント部材を介して両建造物に夫々連結するものであり、該ガイド杆に要するコストを、前述した蛇腹状に折曲された薄肉バネ鋼板からなる伸縮性規制部材に比して低減できる。
すなわち、ガイド杆は杆状形態であることから、薄肉バネ鋼板を蛇腹状に折曲加工して成形される従来の伸縮性規制部材に比して、製造に要するコストを低減できると共に、ガイド杆は、伸縮性規制部材に比して重量が軽くできるため、運搬や施工作業に要する手間とコストとを低減できる。したがって、本発明の構成によれば、該伸縮性規制部材を有する従来構成に比して、製造から施工までに要する手間とコストを低減できる。
【0012】
前述した本発明の目地カバー装置にあって、三軸ジョイント部材は、目地の幅方向に沿って配設された第一支軸により、第一連結片部が建造物に枢結されるものである構成が提案される。
【0013】
かかる構成によれば、地震の無い常態で、建造物間に差し渡されるガイド杆の一端を枢結する第二支軸の方向を、第一支軸の方向と異ならせることができる。すなわち、第一支軸、第二支軸、および回動軸を互いに異なる方向に沿って配設できる。これにより、地震の際における建造物の相対変位に、ガイド杆を一層スムーズに追従させ易くできる。
【0014】
前述した本発明の目地カバー装置にあって、ガイド杆は、その両端が目地長手方向の互いに異なる位置で左右の建造物に夫々連結されている構成が提案される。
【0015】
かかる構成にあっては、ガイド杆が左右の建造物間に筋交い状に配設されることから、他方の建造物の前壁面がホルダーの他端よりも外方へ相対変位した場合に、該ガイド杆により該ホルダーの他端を安定して目地外方へ押圧できる。そのため、定常位置に復帰する際にホルダーと建造物との衝当を回避する作用効果が、一層安定して生じ得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明の目地カバー装置は、前述したように、地震時に左右の建造物が相対変位する際に、ガイド杆が該相対変位にスムーズ且つ安定して追従できる。これにより、ホルダーの他端が他方の建造物の前壁面によりも外方へ相対変位した後に定常位置に復帰する際に、ガイド杆によって、ホルダーの他端と建造物との衝当を安定して回避できる。そして、本発明の構成は、前述の従来構成(伸縮性規制部材を有する構成)に比して低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】壁用目地カバー装置1の施工状態を示す横断面図である。
【
図2】壁用目地カバー装置1の施工状態を示す正面図である。
【
図3】壁用目地カバー装置1の施工状態を示す背面図である。
【
図4】ガイド杆31の、(A)平面図と、(B)側面図である。
【
図5】二軸ジョイント部材61の可動態様を示す説明図である。
【
図6】三軸ジョイント部材51の可動態様を示す説明
図1である。
【
図7】三軸ジョイント部材51の可動態様を示す説明
図2である。
【
図8】第二建造物82の前壁面86がホルダー2の左端よりも前方へ相対変位した状態における、ガイド杆31の作用説明図である。
【
図9】従来構成の壁用目地カバー装置の施工状態を示す横断面図である。
【
図10】従来構成における、第二建造物82の前壁面86がホルダーの他端よりも外方へ相対変位した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明にかかる実施例を添付図面を用いて説明する。
本実施例の壁用目地カバー装置1は、
図1~3に示すように、目地83を介して隣接する左右の建造物81,82間に配設される。ここで、建造物81,82の一方または両方は、図示しない免震装置によって下部が支持されており、免震構造となっている。こうした免震構造の建造物81,82は、該免震構造の免震作用によって地震時に主に水平方向に比較的大きく揺れるものの、該免震作用は建造物の構造や重量によって異なることから、各建造物81,82の水平方向の揺れ幅に差が生ずる。また、地震時の上下方向の揺れに対しても、前記免震構造による効果を期待できるものの、建造物の構造や重量への依存性が大きいことから、各建造物81,82で上下方向の揺れ幅に差が生じ得る。
【0019】
尚、本実施例では、目地83の幅方向が左右方向であり、目地83の長手方向が上下方向である。そして、目地83の奥行きに相当する内外方向が前後方向である。ここで、目地83を正面視した状態(
図2)で左右を規定している。そして、目地83の内方を後方と規定し、目地83の外方を前方と規定している。
【0020】
一方の建造物81(以下、第一建造物81という)は、目地83の上下方向に沿う側壁面87と、該側壁面87の前端から右方へ向かう前壁面85とを備え、他方の建造物82(以下、第二建造物82という)は、前記第一建造物81の側壁面87と対向状に設けられて、目地83の上下方向に沿う側壁面88と、該側壁面88の前端から左方へ向かう前壁面86とを備える。
【0021】
壁用目地カバー装置1は、左右両側部に配設された縦杆3,3間に複数の横杆4を上下方向に所定間隔で横架した縦長矩形状に形成されたホルダー2を備え、該ホルダー2が、第一建造物81の側壁面87の前縁部に枢結されて、第二建造物82の前壁面86に差し渡されている。
【0022】
第一建造物81の側壁面87には、目地83の長手方向(上下方向)に延在された長尺状の取付フレーム11が固定されており、該取付フレーム11に、前記ホルダー2の一端(右端)が複数のヒンジ12を介して枢結されている。このようにホルダー2が、第一建造物81に、前後方向に回動可能に配設されている。さらに、取付フレーム11には、ホルダー2の右端の裏面に当接するストッパー13が設けられており、該ホルダー2は、該ストッパー13によって目地83の内方への回動が規制されて、目地83の外方にのみ回動し得るようになっている。
【0023】
また、前記ホルダー2を構成する各横杆4には、夫々の中間部にバネ受片6が後方に突設されており、各バネ受片6に、一端を前記取付フレーム11に係止した複数の引張バネ10の他端が、夫々係止されている。ここで、取付フレーム11には、各引張バネ10の他端を夫々係止する複数のバネ係止部16が、前記ホルダー2を枢結するヒンジ12よりも後方に設けられている。こうして配設された引張バネ10の引張力により、ホルダー2が目地83の内方(後方)へ付勢されて、該ホルダーの他端(左端)を第二建造物82の前壁面86に弾接し得るようになっている。
【0024】
前記ホルダー2の前面側には、目地83を覆うカバー板21が被着されている。このカバー板21は、ホルダー2と上下左右寸法を略同一とする縦長矩形状に形成されており、第二建造物82側の一端に、右後方へ折り曲げられた傾斜縁22が設けられている。一方、第二建造物82の前壁面86の側縁には、前記ホルダー2の傾斜縁22と同方向(左前方)に傾斜する案内傾斜面26を備えた案内受枠25が配設されている。そして、この案内受枠25には、案内傾斜面26の目地83側(右側)に、前記ホルダー2の左端が弾接される当接面27が設けられている。前記ホルダー2は、その左端が、地震の無い常態で前記案内受枠25の当接面27に弾接され、地震により両建造物81,82が近接方向へ相対変位した際に、傾斜縁22が前記案内傾斜面26に当接すると、該案内傾斜面26の案内作用を介して前方へ押し出し得るようになっている。ここで、地震の無い常態における第一建造物81と第二建造物82との位置(
図1~3)を、定常位置という。
【0025】
次に、本発明の要部について説明する。
本実施例にあって、前記ホルダー2の後側(背面側)には、
図2,3に示すように、二個のガイド杆31,31が左右の建造物81,82間に差し渡されて配設されている。ガイド杆31は、
図4に示すように、内径と外径とが相互に異なる二個の長尺な鋼製パイプ32,33により構成され、一方の鋼製パイプ32に他方の鋼製パイプ33が長手方向へ摺動可能に嵌入されてなるものであり、両パイプ32,33を相対的に摺動させることによって、当該ガイド杆31が長手方向に伸縮し得るようになっている。
【0026】
前記第一建造物81に固定された取付フレーム11には、
図3に示すように、上下方向の中央部分に、前記ガイド杆31の一端33aが連結される取付部18,18が上下に並んで設けられている。この取付部18は、前記した引張バネ10の他端を係止するバネ係止部16よりも後方に設けられている(
図1参照)。また、前記第二建造物82に固定された案内受枠25には、その上端部と下端部とに、前記ガイド杆31の他端32aが連結される取付部28(
図1参照)が夫々設けられている。この取付部28は、常態で前記取付フレーム11の取付部18よりも前方となる位置に設けられている(
図1参照)。
【0027】
前記取付フレーム11の上側の取付部18と、前記案内受枠25の上端部の取付部28とに、一のガイド杆31が連結され、該取付フレーム11の下側の取付部18と、該案内受枠25の下端部の取付部28とに、他のガイド杆31が連結される。このように二個のガイド杆31が交差しないように配設されている。
【0028】
各ガイド杆31は、一端(右端)が、前記取付フレーム11の取付部18に三軸ジョイント部材51を介して夫々連結され、他端(左端)が、前記案内受枠25の取付部28に二軸ジョイント部材61を介して夫々連結されている。
【0029】
二軸ジョイント部材61は、
図4,5に示すように、前記案内受枠25の取付部28に固結される第一連結片部62と、前記ガイド杆31の他端32aに連結される第二連結片部63とが、回動軸64により相対的に回動可能に連結された蝶番状を成すものである。そして、二軸ジョイント部材61の第二連結片部63には、回動軸64と直交するように配設された支軸65を介して、前記ガイド杆31の他端32aが回動可能に連結される。本実施例にあって、二軸ジョイント部材61は、その回動軸64が上下方向に沿うようにして、第一連結片部62が図示しない螺子により前記案内受枠25の取付部28に固結される(
図5(A)参照)。これにより、支軸65は、前記回動軸64と直交する前後左右方向(水平方向)の仮想平面上を、当該回動軸64との直交を保ったまま、当該回動軸64を中心として回転可能となる。こうして配設される二軸ジョイント部材61によって、その第二連結片部63に連結されたガイド杆31は、回動軸64と直交する仮想平面に沿って、当該回動軸64を中心として回動できる(
図5(B)参照)と共に、当該回動軸64を中心として回転する上下方向の仮想平面に沿って、前記支軸65を中心として回動できる(
図5(A)参照)。すなわち、ガイド杆31は、第二建造物82に対して、前記回動軸64を中心として回動可能でありかつ前記支軸65を中心として回動可能であることから、該ガイド杆31の長手方向(向き)を前後方向、左右方向、および上下方向のいずれにも変化できる。尚ここで、二軸ジョイント部材61に連結されたガイド杆31の回動可能な範囲は、該ガイド杆31が第二建造物82の側壁面88に当接しない範囲と、該ガイド杆31の一端が連結された三軸ジョイント部材51との関係性とにより制限される。
【0030】
一方、三軸ジョイント部材51は、
図4,6,7に示すように、前記取付フレーム11の取付部18に連結される第一連結片部52と、前記ガイド杆31の一端33aに連結される第二連結片部53とを、回動軸54により相対的に回動可能に連結された蝶番状を成すものである。そして、三軸ジョイント部材51の第一連結片部52は、回動軸54と直交するように配設された第一支軸55によって、前記取付フレーム11の取付部18に回動可能に連結されると共に、第二連結片部53には、回動軸54と直交するように配設された第二支軸56を介して、前記ガイド杆31の一端33aが回動可能に連結される。本実施例にあって、三軸ジョイント部材51は、前記第一支軸55が左右方向に沿うようにして、第一連結片部52が前記取付フレーム11の取付部18に枢結される(
図6(A)参照)。これにより、回動軸54は、前記第一支軸55と直交する上下前後方向の仮想平面上を、当該第一支軸55との直交を保ったまま、当該第一支軸55を中心として回転できる(
図7参照)。そして、前記第二支軸56が、前記回動軸54との直交を保ったまま、当該回動軸54を中心として回転できる(
図6(B)参照)ことから、当該第二支軸56が回転可能な仮想平面は、前後左右上下の様々な方向に変化できる。さらに、ガイド杆31が、該回動軸54との直交を保ったまま、該第二支軸56を中心として回転できる(
図6(A)参照)。こうして配設される三軸ジョイント部材51によって、その第二連結片部53に連結されたガイド杆31は、前後左右上下の様々な方向に変動可能である。ここで、三軸ジョイント部材51は、前記した二軸ジョイント部材61に比して、回動中心となる軸が多いことから、ガイド杆31の向き(長手方向)を、該二軸ジョイント部材61に比してスムーズに、前後左右上下の様々な方向に変えることができる。そのため、地震時における建造物81,82の複雑かつ急激な相対変位にも、スムーズに追従できる。尚ここで、三軸ジョイント部材51に連結されたガイド杆31の回動可能な範囲は、該ガイド杆31が第一建造物81の側壁面87に当接しない範囲と、該ガイド杆31の他端が連結された二軸ジョイント部材61との関係性とにより制限される。
【0031】
次に、本実施例の壁用目地カバー装置1の作動態様について説明する。
地震時に、第二建造物82が第一建造物81に対して相対的に前方へ変位して、
図8に示すように、該第二建造物82の前壁面86がホルダー2の左端よりも前方へ変位すると、該ホルダー2の左端と前壁面86との弾接が解除されて、該ホルダー2の左端が、上下のガイド杆31,31の左端部に弾接する。これにより、ホルダー2の左端が、ガイド杆31の左端部により前方へ押し出されて、前方へ回動する。こうした相対的な変位が生ずると、これに伴って、ガイド杆31の向きが変化すると共に、該ガイド杆31が伸長する。この際に、前記二軸ジョイント部材61の各連結片部52,53と前記三軸ジョイント部材51の各連結片部62,63とが夫々回動することによって、該ガイド杆31が前記相対的な変位に追従できる。
【0032】
ここで、本実施例の構成は、ガイド杆31の右端が前記三軸ジョイント部材51によって連結されていることから、前記した地震時の相対変位に応じて、該ガイド杆31の向きをスムーズに変化でき、複雑かつ急激な該相対変位にも安定して追従できる。そして、三軸ジョイント部材51に比して追従性の低い前記二軸ジョイント部材61によりガイド杆31の左端が連結された本実施例の構成にあっても、該二軸ジョイント部材61の追従性を該三軸ジョイント部材51がカバーできる。こうしたことから、第二建造物82と第一建造物81とが急激に相対変位する際に、ガイド杆31や該ガイド杆31と各建造物81,82との連結部位などに負荷が掛かることを抑制できる。このように本実施例の構成は、第二建造物82と第一建造物81との複雑かつ急激な相対変位に、ガイド杆31が安定かつスムーズに追従できるものであり、該ガイド杆31の追従性が極めて高い。
【0033】
前述したように第二建造物82の前壁面86がホルダー2の左端よりも前方へ変位した後に、定常位置に復帰する際には、ガイド杆31の伸長が解消されると共に、該ガイド杆31の向きが変化して、この定常位置へ復帰する動きに該ガイド杆31がスムーズに追従できる。これに伴って、ガイド杆31の左端部に弾接するホルダー2が、前記引張バネ10の引張力により弾接する該ガイド杆31の案内作用に従って、後側へ回動する。そして、前記相対変位が解消されて定常位置となると、ホルダー2の左端が、ガイド杆31から離間して、該前壁面86に弾接した常態に戻る(
図1参照)。
【0034】
また、地震時には、前記前方への相対変位以外にも、第二建造物82が第一建造物81に対して後方、近接方向、離間方向、および上下方向に相対変位し得る。こうしたいずれの方向に相対変位した場合にあっても、ガイド杆31は、該相対変位に応じて伸縮すると共にその向きをスムーズに変化でき、該相対変位に追従できる。
【0035】
本実施例の壁用目地カバー装置1は、前述したように、ホルダー2の後方(背面側)に、一端(右端)が三軸ジョイント部材51を介して第一建造物81に連結され且つ他端(左端)が二軸ジョイント部材61を介して第二建造物82に連結されたガイド杆31,31を配設したものである。かかる構成によれば、地震の際に第一建造物81と第二建造物82とが相対変位した際に、ガイド杆31が、該相対変位に応じて伸縮すると共に、その向きをスムーズに変化できることから、該相対変位に安定かつ滑らかに追従できる。そして、地震の際に第二建造物82の前壁面86がホルダー2の左端より前方へ変位した場合に、該ホルダー2の左端が前記ガイド杆31により前方へ押し出され、この変位後に定常位置へ復帰する際には、該ガイド杆31の案内作用によって、ホルダー2の左端が第二建造物82の前壁面86(案内受枠25の当接面27)に弾接される状態に戻る。これにより、ホルダー2と第二建造物82との衝当を回避でき、該衝当による壁用目地カバー装置1の破損を防止することができ得る。
【0036】
ここで、ガイド杆31の右端と第一建造物81とを連結する三軸ジョイント部材51は、二軸ジョイント部材61に比して、ガイド杆31の向きをスムーズに行うことができる。これにより、地震時に、建造物81,82の複雑かつ急激な変位が発生した場合にも、該変位に追従してガイド杆31の方向変換をスムーズに行うことができる。もし仮に、ガイド杆31の両端が夫々二軸ジョイント部材61により連結された構成とすると、当該構成では、三軸ジョイント部材51を用いた本実施例の構成に比して、地震時における前記複雑かつ急激な変位に、ガイド杆31の方向変換を追従し切れない虞がある。そして、急激な相対変位が生じた際に、ガイド杆31や該ガイド杆31と各建造物81,82との連結部位などに負荷が掛かることもあり得る。こうしたことから、ガイド杆31の両端を二軸ジョイント部材61により連結された構成では、本実施例の構成に比して、前記したガイド杆31の案内作用を安定して発揮できない。
このように本実施例の構成は、ガイド杆31を三軸ジョイント部材51で連結することにより成し得たものであり、地震の際における両建造物81,82の相対変位に、ガイド杆31を安定かつ滑らかに追従させることができ、前記したガイド杆31の案内作用を安定して発揮できる。
【0037】
また、本実施例にあって、ガイド杆31は、二個の鋼製パイプ32,33により構成されたものであることから、前述した従来構成の伸縮性規制部材に比して、製造に要する手間とコストとを低減できる。さらに、従来構成の伸縮性規制部材は、目地83の幅と長さとに応じたサイズに成形されることから、比較的重くなることに比べ、本実施例のガイド杆31は、前記鋼製パイプ32,33により構成されるものであるから、前記伸縮性規制部材に比して軽量である。そのため、施工場所への運搬と施工作業とに要する手間とコストとを低減できる。
【0038】
このように本実施例の壁用目地カバー装置1は、前述したホルダー2と第二建造物82との衝当を回避できるという、伸縮性規制部材を備えた前述の従来構成と同様の作用効果を発揮できると共に、該従来構成に比して、製造コストと施工に要する手間およびコストとを抑制できる。
【0039】
前述した本実施例の壁用目地カバー装置1が、本発明にかかる目地カバー装置に相当する。また、本実施例の引張バネ10が、本発明の不正手段に相当する。また、二軸ジョイント部材61と三軸ジョイント部材51とが、本発明のジョイント部材に相当する。
【0040】
本発明は、前述した実施例に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜変更することが可能である。
例えば、実施例では、ガイド杆31の右端が三軸ジョイント部材51を介して第一建造物81に連結され且つ左端が二軸ジョイント部材61を介して第二建造物82に連結された構成であるが、これに限らず、ガイド杆31の左端が三軸ジョイント部材51を介して第二建造物82に連結され且つ右端が二軸ジョイント部材61を介して第一建造物81に連結された構成とすることもできる。又は、ガイド杆31の両端が三軸ジョイント部材51,51を介して各建造物81,82に夫々連結された構成としても良い。
また、ガイド杆31の配設数は、目地83やホルダー2のサイズに応じて、適宜変更することが可能である。
また、実施例は、本発明を壁用目地カバー装置1に適用したものであるが、これに限らず、例えば、天井用目地カバー装置に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 壁用目地カバー装置(目地カバー装置)
2 ホルダー
3 縦杆
4 横杆
6 バネ受片
10 引張バネ(付勢手段)
11 取付フレーム
12 ヒンジ
13 ストッパー
16 バネ係止部
18 取付部
21 カバー板
22 傾斜縁
25 案内受枠
26 案内傾斜面
27 当接面
28 取付部
31 ガイド杆
32,33 鋼製パイプ
32a (ガイド杆31の)他端
33a (ガイド杆31の)一端
51 三軸ジョイント部材
52 第一連結片部
53 第二連結片部
54 回動軸
55 第一支軸
56 第二支軸
61 二軸ジョイント部材
62 第一連結片部
63 第二連結片部
64 回動軸
65 支軸
81 第一建造物
82 第二建造物
83 目地
85,86 前壁面
87,88 側壁面