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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】免疫応答抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20241025BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20241025BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20241025BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20241025BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20241025BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241025BHJP
   A61P 37/00 20060101ALI20241025BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20241025BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K31/711
A61K31/7088
A61P37/06
A61P37/08
A61P25/00
A61P37/00
A61P17/02
A61P25/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021553518
(86)(22)【出願日】2020-10-22
(86)【国際出願番号】 JP2020039693
(87)【国際公開番号】W WO2021085295
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2019197223
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 和子
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 彰
(72)【発明者】
【氏名】林 杏子
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-530268(JP,A)
【文献】Anja Fuchs et al.,Cutting Edge: CD96 (Tactile) Promotes NK Cell-Target Cell Adhesion by Interacting with the Polioviru,The Journal of Immunology,2004年,Vol.172, No.7,Pages 3994-3998
【文献】平野 隆 他 ,慢性中耳炎症病態におけるTh17細胞およびIL-17産生γδT細胞の動態,Otology Japan,2013年,Vol.23, No.1,Pages 6-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61K 31/7088
A61P 37/06
A61P 17/00
A61P 37/00
A61P 25/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD96とCD155およびCD111から選択される少なくとも一種のタンパク質との結合を阻害する物質を含む、IL-17産生細胞の免疫応答抑制剤であって、
前記CD96とCD155およびCD111から選択される少なくとも一種のタンパク質との結合を阻害する物質が、CD96に対する特異的結合物質またはCD96発現阻害剤であり、
前記CD96に対する特異的結合物質が抗CD96抗体、または抗CD96抗体の抗体結合部位を含む抗体断片であり、
前記CD96発現阻害剤がCD96の発現を低減させ、CD96のmRNAに特異的に結合する、siRNA、shRNA、miRNA、リボザイム、またはアンチセンス核酸であり、
前記IL-17産生細胞がγδT細胞及びIL-17を産生するCD4 + T細胞から選択される少なくとも一種である、免疫応答抑制剤
【請求項2】
前記CD96とCD155およびCD111から選択される少なくとも一種のタンパク質との結合を阻害する物質が、抗CD96抗体である、請求項1に記載のIL-17産生細胞の免疫応答抑制剤。
【請求項3】
前記IL-17産生細胞がγδT細胞である、請求項1または2に記載のIL-17産生細胞の免疫応答抑制剤。
【請求項4】
前記IL-17産生細胞の免疫応答抑制剤が、IL-17産生抑制剤またはIL-22産生抑制剤である、請求項1~3のいずれか1項に記載のIL-17産生細胞の免疫応答抑制剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のIL-17産生細胞の免疫応答抑制剤を含む、γδT細胞及び/又はIL-17を産生するCD4 + T細胞から選択される少なくとも一種の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するための医薬品。
【請求項6】
前記γδT細胞及び/又はIL-17を産生するCD4 + T細胞から選択される少なくとも一種の免疫応答が関与する疾病または病態が乾癬、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、脳梗塞、腎炎、肺傷害、または肺線維症である、請求項5に記載の医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫応答抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫には、体内に侵入した異物を認識してただちに排除する自然免疫と、侵入した異物の情報をリンパ球が認識し、その情報に基づいて特定の異物を排除する獲得免疫が存在し、主役となる免疫細胞の種類はそれぞれの免疫で異なる。例えば、自然免疫の担当細胞は、マクロファージ、好中球、肥満細胞、樹状細胞などであり、病原体に共通した分子構造を認識するか、サイトカインによって活性化され、感染に対する応答が早いことが特徴である。一方、獲得免疫の担当細胞は、T細胞およびB細胞であり、T細胞受容体、B細胞受容体が特異的な病原体を認識すると活性化され、感染に対する応答は遅いが、その反応は強いことが特徴である。
【0003】
ヒトの末梢血中に含まれるT細胞のほとんどは、α鎖、β鎖と呼ばれる2つの糖タンパク質から構成されるT細胞受容体(TCR)を発現しているαβT細胞であるが、γ鎖とδ鎖からなるTCRを発現するγδT細胞が数%存在している。γδT細胞は、T細胞の1種ではあるものの、サイトカインによって即時に活性化されて炎症性サイトカインを産生することなどから、自然免疫と獲得免疫の境界に位置する細胞であるとされている。γδT細胞は、腸管、肺、生殖器上皮内、皮膚など外来抗原に暴露される組織に高頻度に局在している。γδT細胞が産生する炎症性サイトカインとしては、IL(インターロイキン)-17やIFN(インターフェロン)-γが知られている。
【0004】
ヒトの末梢血中に含まれる成熟したT細胞のほとんどは、細胞表面のマーカー分子としてCD4かCD8のどちらかを発現している。CD4を発現したT細胞は、ヘルパーT細胞として機能し、CD8を発現したT細胞は、キラーT細胞として機能する。ヘルパーT細胞としては、1型ヘルパーT細胞(Th1細胞)と、2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)と呼ばれる2つのサブセットが古くから知られていた。Th1細胞はIFN-γを産生し、マクロファージ活性化を誘導して、主に細胞性免疫や細胞内寄生体の排除に関与する。Th2細胞は、IL-5やIL-13産生を介して好酸球の分化を誘導するなどして、液性免疫や細胞外寄生体に関する感染防御に関与する。その後、IL-17産生性のT細胞が発見され、Th17細胞と名づけられ、Th1細胞やTh2細胞とは異なるサブセットとして認識されるようになった。Th17細胞はIL-17,GM-CSF(顆粒球単球コロニー刺激因子)やIL-22を産生し、自己免疫やアレルギー応答、細胞外増殖性細菌感染防御などで中心的な役割を果たしていることが明らかになっている。
【0005】
ILC(innate lymphoid cell、ILC、自然リンパ球)細胞は、T細胞、B細胞とは異なる、近年同定されたリンパ球群であり、各組織に広く存在する。産生されるサイトカインにより、グループ1~3に分類され、グループ1ILC(ILC1)はTh1細胞と類似したサイトカイン、すなわちIFN-γ産生が特徴である。グループ2ILC(ILC2)は、Th2細胞とサイトカイン産生が類似し、IL-5およびIL-13を産生する。グループ3ILC(ILC3)はTh17細胞とサイトカイン産生が類似し、IL-17およびIL-22の産生が認められる。
【0006】
γδT細胞、Th17細胞、ILC3細胞等の細胞の免疫応答において産生されるIL-17は、炎症性のサイトカインの1種である。真菌感染を防ぐ上で重要な役割を果たしている一方で、繊維芽細胞や上皮細胞、血管内皮細胞、マクロファージなど種々の細胞に作用して、炎症性サイトカインやケモカイン、細胞接着因子など、種々の因子を誘導して炎症を誘導することが知られている。したがって、IL-17の産生が適切に制御されなければ自己免疫疾患や慢性の炎症性疾患が引き起こされ得る。乾癬、関節リウマチ、多発性硬化症、強皮症、狼瘡などの自己免疫疾患では、IL-17が過剰に産生されていることが知られている。また、関節リウマチのモデルとして用いられるコラーゲン誘導関節炎モデル、多発性硬化症や急性散在性脳脊髄炎などのモデルとして用いられるEAEモデル(Experimental autoimmune encephalomyelitis;実験的自己免疫性脳脊髄炎)、アトピー性皮膚炎モデル、DMBA/TPA誘導性皮膚腫瘍モデル等では、IL-17を産生する細胞が病態の悪化に関与することが報告されている(非特許文献1)。さらに、脳梗塞モデルや腎炎モデルにおいてもIL-17を産生するγδT細胞が病態の悪化に関与することが報告されている(非特許文献2、3)。また、肺傷害や肺線維症の患者においても、IL-17の発現量が増加しており、γδT細胞、Th17細胞、ILC3細胞等によるIL-17産生が病態に関与することが報告されている(非特許文献4)。
【0007】
したがって、IL-17は、これらの疾患を治療または予防するためのターゲットとされている。実際に、抗IL-17A抗体製剤であるセクキヌマブ、イキセキズマブ、抗IL-17A受容体抗体製剤であるブロダルマブを含むIL-17阻害薬が開発され、乾癬治療に用いられている(非特許文献5)。
【0008】
ところで、CD96は、イムノグリンスーパーファミリーに属するI型膜貫通糖タンパク質であり、造血系を起源とする細胞、特にNK細胞(ナチュラルキラー細胞)、αβT細胞、およびγδT細胞等に発現していることが報告されている(非特許文献6)。CD96は、ターゲット細胞上に発現しているCD155またはCD111をリガンドとしており、これらにより活性化される。CD96は、NK細胞に発現するCD96が抑制性シグナルを伝える免疫チェックポイント受容体として腫瘍免疫に関与することも知られている(非特許文献7)。しかし、CD96が免疫制御系において果たす役割は、未だ不明なことが多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Monin et. al., IL-17 family cytokines: signaling mechanisms, biological activities, and therapeutic implications, Cold Spring Hab Pespect Biol., 2018, 10 (4)
【文献】Shichita et. al., Pivotal role of cerebral interleukin-17-producing gamma-delta-T-cells in the delayed phase of ischemic brain injury. Nature Medicine, 2009, vol.15, number 8, 946-951
【文献】Turner et. al.,IL-17A Production by Renal Gamma-delta-T-cells Promotes Kidney injury in Crescentic GN. J Am Soc Nephrol, 2012, 23. 1486-1495
【文献】Gurczynski et al., IL-17 in the lung: the good, the bad, and the ugly, Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol, 2018, 314. L6-L16
【文献】日本皮膚科学会乾癬生物学的製剤検討委員会、日本皮膚科学会マニュアル「乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2019年版)」
【文献】Georgiev et. al., Coming of Age: CD96 Emerges as Modulator of Immune Responses, frontiers in Immunology, 2018, Vol.9, Article 1072
【文献】Chan et. al., The receptors CD96 and CD226 oppose each other in the regulation of natural killer cell functions, Nature Immunology, 2014, volume 15,431-438
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、IL-17産生細胞の免疫応答機構を解明し、その機構の一部を阻害することによりIL-17の産生を抑制できれば、IL-17を産生する細胞が関与する病態の治療に有効であると考えた。そこで、本発明は、乾癬などの病態を引き起こす、IL-17産生細胞の免疫応答機構を解明し、本発明の第一および第二の態様としてIL-17産生細胞の免疫応答を抑制するための免疫応答抑制剤、さらにIL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するための医薬品を提供することを課題とする。また、本発明の第三の態様としてγδT細胞等における免疫応答を誘導するための方法を提供することを課題とする。さらに本発明の第四の態様としてIL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するための医薬品(候補物質)の評価方法を提供することを課題とする。本発明の第五の態様として、γδT細胞等における免疫応答を誘導しIL-17を産生する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、以下の構成を有することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、例えば以下の〔1〕~〔11〕に関する。
〔1〕CD96とCD155およびCD111から選択される少なくとも一種のタンパク質との結合を阻害する物質を含む、IL-17産生細胞の免疫応答抑制剤。
〔2〕前記CD96とCD155およびCD111から選択される少なくとも一種のタンパク質との結合を阻害する物質が、抗CD96抗体である、〔1〕に記載のIL-17産生細胞の免疫応答抑制剤。
〔3〕前記IL-17産生細胞がγδT細胞である、〔1〕または〔2〕に記載のIL-17産生細胞の免疫応答抑制剤。
〔4〕前記IL-17産生細胞の免疫応答抑制剤が、IL-17産生抑制剤またはIL-22産生抑制剤である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のIL-17産生細胞の免疫応答抑制剤。
〔5〕〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のIL-17産生細胞の免疫応答抑制剤を含む、IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するための医薬品。
〔6〕前記IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態が乾癬、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、脳梗塞、腎炎、肺傷害、肺線維症または皮膚腫瘍である、〔5〕に記載の医薬品。
〔7〕γδT細胞およびCD4陽性T細胞の少なくとも1つをIL-23、TCR/CD3複合体を刺激可能な抗CD3抗体およびCD96を刺激可能な抗CD96抗体と共に培養する工程(A)を有する方法。
〔8〕前記工程(A)を行った後に、IL-17を評価する工程(B)を有する、〔7〕に記載の方法。
〔9〕〔8〕に記載の方法を含む、IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するための医薬品の評価方法。
〔10〕前記IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態が乾癬、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、脳梗塞、腎炎、肺傷害、肺線維症または皮膚腫瘍である、〔9〕に記載の医薬品の評価方法。
〔11〕γδT細胞およびCD4陽性T細胞の少なくとも1つをIL-23、TCR/CD3複合体を刺激可能な抗CD3抗体およびCD96を刺激可能な抗CD96抗体と共に培養する工程(A)を有するIL-17産生方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、乾癬などの病態を引き起こす、IL-17産生細胞の免疫応答を抑制するための免疫応答抑制剤、さらにIL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するための医薬品を提供できる。また、γδT細胞における免疫応答を誘導するための方法を提供することができる。さらにIL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するための医薬品の評価方法を提供することができる。γδT細胞における免疫応答を誘導しIL-17を産生する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、イミキモド誘発乾癬モデルにおける、野生型マウスおよびCD96欠損マウスのイミキモド塗布開始3日目の背部の写真である。
図2図2は、イミキモド誘発乾癬モデルにおける、イミキモド塗布開始3日目の背部皮膚の紅斑、鱗屑、および皮膚の厚さのグラフである。縦軸は、それぞれ紅斑スコア、鱗屑スコア、皮膚の厚さ(μm)を示す。
図3図3は、イミキモド誘発乾癬モデルにおける、イミキモド塗布開始3日目のマウス背部皮膚の組織標本をHE染色した写真である。
図4図4は、イミキモド誘発乾癬モデルにおける、イミキモド塗布開始3日目のマウス背部皮膚の表皮の厚さを示すグラフである。
図5図5は、イミキモド誘発乾癬モデルにおける、イミキモド塗布開始3日目のマウス背部皮膚中の好中球数を示すグラフである。縦軸は、1cm2あたりの好中球数を示す。
図6図6は、イミキモド誘発乾癬モデルにおける、マウス背部皮膚のミエロイド系細胞でのIL-23の相対的発現量を示すグラフである。
図7図7は、イミキモド誘発乾癬モデルにおける、マウス背部皮膚のγδT細胞でのIL-23RおよびIL-12β1の相対的発現量を示すグラフである。
図8図8は、イミキモド誘発乾癬モデルにおける、マウス背部皮膚のγδT細胞でのIL-17およびIL-22の相対的発現量を示すグラフである。
図9図9は、イミキモド誘発乾癬モデルにおける、マウス背部皮膚のγδT細胞におけるIL-17産生細胞の割合、およびIL-17産生細胞の数を示すグラフである。
図10図10は、野生型マウス脾臓由来γδT細胞のIL-23により増加するIL-17相対的発現量の、固相化されたCD96抗体による刺激の有無による差を示すグラフである。
図11図11は、野生型マウス脾臓由来γδT細胞のCD3シグナルおよびIL-23により増加するIL-17相対的発現量の、固相化された抗CD96抗体による刺激の有無による差を示すグラフである。
図12図12は、野生型マウス脾臓由来γδT細胞のCD3シグナルおよびIL-23による活性化の、固相化された抗CD96抗体による刺激の有無による差を示すグラフである。縦軸は蛍光の平均値を示す。
図13図13は、ヒトPBMC由来γδT細胞とヒトPBMC由来CD4+T細胞において、CD96の発現を確認するフローサイトメトリー解析結果である。横軸はCD96の発現強度を示し、縦軸は細胞数を示す。
図14図14は、健常人7人から得たヒトPBMC由来γδT細胞における、CD3シグナルおよびIL-23により増加するIL-17産生量の、固相化された抗CD96抗体による刺激の有無による差を示すグラフである。
図15図15は、健常人6人から得たヒトPBMC由来γδT細胞における、CD3シグナルによる活性化の、固相化された抗CD96抗体による刺激の有無による差を示すグラフである。縦軸は蛍光の平均値を示す。
図16図16は、健常人8人から得たヒトPBMC由来CD4+T細胞における、CD3シグナルおよびIL-23により増加するIL-17産生量の、固相化された抗CD96抗体による刺激の有無による差を示すグラフである。
図17図17は、健常人6人から得たヒトPBMC由来CD4+T細胞における、CD3シグナルによる活性化の、固相化された抗CD96抗体による刺激の有無による差を示すグラフである。縦軸は蛍光の平均値を示す。
図18図18は、健常人から得たヒトPBMC由来CD4+T細胞における、CD3シグナル、IL-23及びCD155刺激により上昇するIL-17産生の抗CD96中和抗体の有無による差を示すグラフである。
図19図19は、抗マウスCD96中和抗体(TX111.2)のCD96への結合特異性を確認するフローサイトメトリー解析結果である。横軸はCD96の発現強度を示し、縦軸は細胞数を示す。
図20図20は、抗マウスCD96中和抗体(TX111.2)がCD96とCD155との結合を濃度依存的に阻害することを示すグラフである。縦軸は蛍光の平均値を示す。
図21図21は、抗マウスCD96中和抗体(TX111.2)の重鎖および軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を示す図である。
図22図22は、イミキモド誘発乾癬モデルマウスへの抗マウスCD96中和抗体(TX111.2)予防的投与実験のプロトコルを示す概念図である。
図23図23は、イミキモド誘発乾癬モデルマウスへの抗マウスCD96中和抗体(TX111.2)予防的投与実験における、コントロール抗体(cIg)投与群およびTX111.2投与群のイミキモド塗布開始3日目の背部の写真である。
図24図24は、イミキモド誘発乾癬モデルマウスへの抗マウスCD96中和抗体(TX111.2)予防的投与実験における、イミキモド塗布開始4日目の背部皮膚の紅斑、鱗屑、および皮膚の厚さのグラフである。縦軸は、それぞれ紅斑スコア、鱗屑スコア、皮膚の厚さ(μm)を示す。
図25図25は、イミキモド誘発乾癬モデルマウスへの抗マウスCD96中和抗体(TX111.2)予防的投与実験における、イミキモド塗布開始4日目の背部の皮膚組織HE染色像(左)および表皮の厚さのグラフ(右)である。
図26図26は、イミキモド誘発乾癬モデルマウスへの抗マウスCD96中和抗体(TX111.2)治療的投与実験のプロトコルを示す概念図である。
図27図27は、イミキモド誘発乾癬モデルマウスへの抗マウスCD96中和抗体(TX111.2)治療的投与実験における、コントロール抗体(cIg)投与群およびTX111.2投与群のイミキモド塗布開始6日目の背部の写真である。
図28図28は、イミキモド誘発乾癬モデルマウスへの抗マウスCD96中和抗体(TX111.2)治療的投与実験における、イミキモド塗布開始1日目(D1)および6日目(D6)の背部皮膚の紅斑、鱗屑、および皮膚の厚さのグラフである。縦軸は、それぞれ紅斑スコア、鱗屑スコア、皮膚の厚さ(μm)を示す。
図29図29は、イミキモド誘発乾癬モデルマウスへの抗マウスCD96中和抗体(TX111.2)治療的投与実験における、イミキモド塗布開始6日目の背部の皮膚組織HE染色像(左)および表皮の厚さのグラフ(右)である。
図30図30は、EAEモデルマウスへの抗マウスCD96中和抗体(TX111.2)投与実験のプロトコルを示す概念図である。
図31図31は、EAEモデルマウスへの抗マウスCD96中和抗体(TX111.2)投与実験における、EAE病態スコアの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、大きく分けて五つの態様がある。
第一の態様は、CD96とCD155およびCD111から選択される少なくとも一種のタンパク質との結合を阻害する物質を含む、IL-17産生細胞の免疫応答抑制剤である。
【0015】
第二の態様は、第一の態様のIL-17産生細胞の免疫応答抑制剤を含む、IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するための医薬品である。
【0016】
第三の態様は、γδT細胞およびCD4陽性T細胞の少なくとも1つをIL-23、TCR/CD3複合体を刺激可能な抗CD3抗体およびCD96を刺激可能な抗CD96抗体と共に培養する工程(A)を有する方法である。
【0017】
第四の態様は、第三の態様の方法を含む、IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するための医薬品(候補物質)の評価方法である。
第五の態様は、γδT細胞およびCD4陽性T細胞の少なくとも1つをIL-23、TCR/CD3複合体を刺激可能な抗CD3抗体およびCD96を刺激可能な抗CD96抗体と共に培養する工程(A)を有するIL-17産生方法である。
【0018】
次に本発明について具体的に説明する。
〈CD96とCD155およびCD111から選択される少なくとも一種のタンパク質との結合を阻害する物質〉
実施例において後述するように、本発明者らは、γδT細胞のIL-17産生は、CD96がγδT細胞を活性化させることにより増加することを明らかにした。したがって、CD96シグナルを阻害すれば、γδT細胞の活性化が抑制され、γδT細胞のIL-17産生が抑制されると推測される。すなわち、CD96とCD155およびCD111から選択される少なくとも一種のタンパク質との結合を阻害する物質は、IL-17産生細胞の免疫応答抑制剤として使用することができる。
【0019】
CD96とCD155およびCD111から選択される少なくとも一種のタンパク質との結合を阻害する物質は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本発明におけるCD96、CD155およびCD111は、それぞれマウス、ラット、ハムスター、モルモット、イヌ、ブタ、ならびにサルおよびヒトを含む霊長類などの哺乳動物を由来とするものを含む。本発明におけるCD96、CD155およびCD111は、好ましくは、ヒトのCD96、CD155およびCD111である。
【0021】
CD96とCD155およびCD111から選択される少なくとも一種のタンパク質との結合を阻害する物質としては、例えば、CD96に対する特異的結合物質、CD96発現阻害剤、CD155に対する特異的結合物質、CD155発現阻害剤、CD111に対する特異的結合物質、CD111発現阻害剤等が挙げられる。IL-17産生細胞の免疫応答を効率的に抑制できることから、CD96に対する特異的結合物質、CD155に対する特異的結合物質、またはCD111に対する特異的結合物質が好ましく、CD96に対する特異的結合物質がより好ましい。
【0022】
CD96に対する特異的結合物質、CD155に対する特異的結合物質、またはCD111に対する特異的結合物質としては、CD96とCD155およびCD111から選択される少なくとも一種のタンパク質との結合を阻害できる物質であれば特に限定されず、例えば、抗CD96である抗体、抗体断片、アプタマー(抗CD96抗体、抗CD96抗体の断片、CD96に対するアプタマー)等、抗CD155である抗体、抗体断片、アプタマー(抗CD155抗体、抗CD155抗体の断片、CD155に対するアプタマー)等、または抗CD111である抗体、抗体断片、アプタマー(抗CD111抗体、抗CD111抗体の断片、CD111に対するアプタマー)等が挙げられる。抗体は、マウス等の動物を免疫することによって作製したものであってもよく、ファージライブラリ等の抗体ライブラリのスクリーニングにより作製したものであってもよい。また、抗体断片は、抗体の抗体結合部位を含む抗体断片であればよく、F(ab’)2、Fab’、Fab、Fv、scFv等が挙げられる。また、アプタマーとしては、例えば、核酸アプタマー、ペプチドアプタマー等が挙げられる。CD96に対する特異的結合物質、CD155に対する特異的結合物質、またはCD111に対する特異的結合物質としては、IL-17産生細胞の免疫応答を効率的に抑制できることから、抗CD96抗体、抗CD155抗体および抗CD111抗体並びにそれらの断片が好ましく、抗CD96抗体およびその断片がより好ましい。
【0023】
また、CD96に対する特異的結合物質は、可溶化したCD155、または可溶化したCD111であってもよい。可溶化したCD155としては、例えば、CD155と抗体定常領域との融合タンパク質等が挙げられる。可溶化したCD111としては、例えば、CD111と抗体定常領域との融合タンパク質等が挙げられる。また、CD155に対する特異的結合物質、またはCD111に対する特異的結合物質は、可溶化したCD96であってもよい。可溶化したCD96としては、例えば、CD96と抗体定常領域との融合タンパク質等が挙げられる。
【0024】
CD96発現阻害剤、CD155発現阻害剤、CD111発現阻害剤としては、CD96、CD155、またはCD111の発現を低減させ、結果としてCD96とCD155またはCD111との結合を阻害できる物質であれば特に限定されず、例えば、siRNA、shRNA、miRNA、リボザイム、アンチセンス核酸、低分子化合物等が挙げられる。siRNA、shRNA、miRNA、リボザイムおよびアンチセンス核酸は、安定性や活性を向上させるために、種々の化学修飾を含んでいてもよい。例えば、ヌクレアーゼ等の加水分解酵素による分解を防ぐために、リン酸残基を、例えば、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換してもよい。また、少なくとも一部をペプチド核酸(PNA)等の核酸類似体により構成してもよい。
【0025】
〈抗CD96関連分子抗体〉
抗CD96抗体、抗CD155抗体および抗CD111抗体(以下、抗CD96関連分子抗体ともいう)は、CD96、CD155、およびCD111(以下、CD96関連分子ともいう)の全長タンパク質または部分タンパク質を抗原として、公知の抗体または抗血清の製造法に従って作製することができる。抗CD96関連分子抗体は、細胞表面上に発現する部分に結合することが望ましいため、部分タンパク質は、CD96関連分子の細胞外領域が望ましい。これらの抗原は、公知のタンパク質発現ならびに精製法によって調製することができる。
【0026】
抗CD96関連分子抗体はポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体のいずれであってもよい。力価を一定に保つことが容易であることから、モノクローナル抗体が好ましい。抗CD96関連分子抗体は、マウス抗体、ラット抗体、モルモット抗体、ハムスター抗体、ウサギ抗体、サル抗体、イヌ抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体のいずれであってもよい。また、抗CD96関連分子抗体は血中滞留性等の物性を改善するために化学修飾を施したものであってもよい。
【0027】
抗CD96関連分子抗体は、定常領域(Fc領域)を改変したものを用いてもよい。定常領域(Fc領域)は、一般に、Fc受容体あるいは補体成分との相互作用によって、ADCC(抗体依存性細胞障害)や補体依存性細胞傷害活性(CDC活性)等のエフェクター機能を発揮する。エフェクター機能は、抗体のFc領域に存在する複合型糖鎖の構造やFc受容体の遺伝子多型などによって大きな影響を受けることが知られている。抗CD96関連分子抗体はFc領域に変異を入れることにより、エフェクター機能を発揮しないように改変したものが好ましい。Fc領域の改変は、公知の方法に従って行うことができる。
【0028】
抗CD96関連分子抗体のアイソタイプは特に制限されず、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE等のいずれであってもよい。
【0029】
抗CD96関連分子抗体は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
抗CD96関連分子抗体の作製に適した抗原としては、例えば発現ベクターなどによりCD96関連分子を強制発現させた細胞、CD96関連分子発現プラスミドベクター、CD96関連分子発現ウイルスベクター等(アデノウイルスベクターなど)等を用いて作製したCD96関連分子リコンビナントタンパク質等があげられる。CD96関連分子リコンビナントタンパク質は、他のタンパク質と融合させてもよいし、タグ等をつけてもよい。タンパク質の安定性の観点から、CD96関連分子リコンビナントタンパク質は、IgGFc等と融合させてキメラタンパク質とすることが好ましい。抗CD96関連分子抗体の作製に用いる抗原は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、抗CD96抗体を作製する場合、特異性の高い抗体が効率良く作製できることから、CD96を強制発現させた細胞と、CD96リコンビナントタンパク質を組み合わせて用いることが好ましい。
【0031】
ポリクローナル抗体は、公知の方法によって作製することができる。例えば、抗原タンパク質あるいは抗原タンパク質とキャリアー蛋白質との混合物で、適当な動物に免疫を行ない、その免疫動物から抗原タンパク質に対する抗体含有物を採取して、必要に応じて抗体の分離精製を行なうことにより作製することができる。用いられる動物としては、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、モルモットが一般的に挙げられる。抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを抗原タンパク質と共に投与することができる。投与は、通常約2週毎に1回ずつ、計約3~10回程度行なうのが一般的である。ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された動物の血液、腹水などから採取することができる。抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、ELISA法によって測定することができる。ポリクローナル抗体の分離精製は、例えば、抗原結合固相あるいはプロテインA あるいはプロテインGなどの活性吸着剤を用いた精製法、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法などの免疫グロブリンの分離精製法に従って行なうことができる。
【0032】
モノクローナル抗体は、公知の方法によって作製することができる。具体的には、抗原を必要に応じてフロイントアジュバントとともに、哺乳動物、好ましくは、マウス、ラット、ハムスター、モルモットまたはウサギの皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパッド内あるいは腹腔内に1~数回注射することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1ヶ月毎に2~5回免疫を行って、最終免疫より約3、4日後に免疫感作された哺乳動物から抗体産生細胞を取得することができる。免疫を施す回数および時間的インターバルは、使用する免疫原の性質などにより、適宜変更すればよい。
【0033】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマの調製は、ケーラーおよびミルシュタインらの方法(Nature、1975、vol.256、p495~497)およびそれに準じた方法に従って行うことができる。即ち、前述したように免疫感作された哺乳動物から取得される脾臓、リンパ節、骨髄あるいは扁桃等、好ましくは脾臓に含まれる抗体産生細胞と、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギまたはヒト等の哺乳動物、より好ましくはマウス、ラットまたはヒト由来の自己抗体産生能のないミエローマ細胞を細胞融合させることによってハイブリドーマを調製することができる。
【0034】
細胞融合に用いられるミエローマ細胞としては、マウスから得られた株化細胞、例えばP3-U1、NS-1、SP2、653、X63、AP-1などを使用することができる。
【0035】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンのスクリーニングは、ハイブリドーマを、例えばマイクロタイタープレート中で培養し、増殖の見られたウェルの培養上清の、前述のマウス免疫感作で用いた抗原に対する反応性を、RIA、ELISA、FACS等の測定法によって測定し、当該抗原あるいはハプテンに対して特異的結合を示すモノクローナル抗体を産生するクローンを選択することによって行う。そして、通常は抗原を固相化しそこに結合する培養上清中の抗体を、放射性物質、蛍光物質、酵素などで標識した二次抗体で検出する方法が用いられる。また、抗原の発現細胞を用いる場合には、該細胞にハイブリドーマ培養上清を添加し、次に蛍光で標識した二次抗体を反応させた後、フローサイトメーター等の蛍光検出装置で該細胞の蛍光強度を測定することにより、該細胞膜上の本発明の抗原に結合できるモノクローナル抗体を検出することができる。
【0036】
選択したハイブリドーマクローンからのモノクローナル抗体の製造は、ハイブリドーマをin vitroで培養するか、またはマウス、ラット、モルモット、ハムスターまたはウサギ等、好ましくはマウスまたはラット、より好ましくはマウスの腹水中等で培養し、得られた培養上清、または哺乳動物の腹水から単離することにより行うことができる。in vitroで培養する場合には、培養する細胞種の特性、試験研究の目的および培養方法等の種々条件に合わせて、ハイブリドーマを増殖、維持および保存させ、培養上清中にモノクローナル抗体を産生させるために用いられるような公知の栄養培地あるいは公知の基本培地から誘導調製されるあらゆる栄養培地を用いて実施することができる。
【0037】
モノクローナル抗体の単離、精製は、上述の培養上清あるいは腹水を、飽和硫酸アンモニウム、イオン交換クロマトグラフィー(DEAEまたはDE52等)、抗イムノグロブリンカラムあるいはプロテインAカラム等のアフィニティクロマトグラフィーに供すること等により行うことができる。
【0038】
抗CD96関連分子抗体としては、抗体遺伝子を抗体産生細胞、例えばハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体を用いてもよい。
【0039】
具体的には、目的とする抗体を産生するハイブリドーマや抗体を産生する免疫細胞、例えば感作リンパ球等を癌遺伝子等により不死化させた細胞から、抗体の可変領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えばグアニジン超遠心法等により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit(ファルマシア社製)等を使用してmRNAを調製する。得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体可変領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit等を用いて行うことができる。また、cDNAの合成および増幅を行うには5’-Ampli FINDER RACE Kit(クローンテック社製)およびPCRを用いた5’-RACE法を使用することができる。得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作製し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、デオキシ法により確認する。
【0040】
目的とする抗体の可変領域をコードするDNAが得られれば、これを所望の抗体定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込むことができる。または、抗体の可変領域をコードするDNAを、抗体定常領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。目的とする抗体を製造するには、抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー/プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。
【0041】
抗体遺伝子の発現は、抗体の重鎖または軽鎖を別々に発現ベクターに組み込んで宿主を同時形質転換させてもよいし、あるいは重鎖および軽鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主を形質転換させてもよい。
【0042】
抗体の作製方法としては、いわゆるファージディスプレイ法(Nature Biotechnology 23、1105(2005))を用いてもよい。具体的には、例えばヒトや動物(例えば、ウサギ、マウス、ラット、ハムスターなど)のBリンパ球を材料として公知の方法により作製された抗体遺伝子ライブラリー、もしくはヒトや動物のGerm Line配列から選別、および改変して完全合成した抗体遺伝子ライブラリーを、バクテリオファージ、大腸菌、酵母、動物細胞等の細胞表面やリボソーム上等に提示させる。このとき、細胞表面に提示させる抗体の形態としてはIgG分子、IgM分子、Fabフラグメント、一本鎖Fv(scFv)フラグメント等が挙げられる。
【0043】
こうして得た抗体フラグメント遺伝子は公知の方法によりIgG抗体遺伝子の対応領域と組替えることにより、抗体遺伝子を得ることができる。そして、このようにして得られた遺伝子を適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて抗体を産生することができる。
【0044】
〈CD96に対する特異的結合物質〉
CD96は、ヒトでは2つのアイソフォームが存在する膜貫通型タンパク質である。アイソフォーム1は、急性骨髄性白血病で検出されており、アイソフォーム2と比較して追加のアミノ酸を含む。ヒトでは、アイソフォーム2がより一般的な形態であり、アイソフォーム2の予想ドメイン構造は、3つの外部免疫グロブリン様ドメイン(ドメイン1、2、および3)を有する。マウスCD96は、単一のアイソフォームとして存在し、3つの外部免疫グロブリン様ドメイン(ドメイン1、2、および3)を有する。
【0045】
CD96に対する特異的結合物質は、CD96アイソフォームのうち、少なくとも1つと結合することが好ましい。ヒトCD96に対する特異的結合物質は、CD96アイソフォーム2と結合することが好ましい。
【0046】
CD96に対する特異的結合物質は、CD96の少なくとも1つの外部免疫グロブリン様ドメインのアミノ酸配列と結合することが好ましい。CD96に対する特異的結合物質は、ドメイン1;ドメイン2;ドメイン3;ドメイン1およびドメイン2;ドメイン1およびドメイン3;ドメイン2およびドメイン3;またはドメイン1、ドメイン2、およびドメイン3のアミノ酸配列と結合してもよいが、ドメイン1と結合することが好ましい。CD96に対する特異的結合物質は、少なくとも1つの細胞外免疫グロブリン様ドメインに加えて、他のCD96ドメイン又はアミノ酸配列と結合してもよい。
【0047】
CD96に対する特異的結合物質は、CD96とCD155との結合を阻害、阻止、又はそれと拮抗する。CD96に対する特異的結合物質は、CD155と相互作用することが可能なCD96の細胞外ドメイン又はその一部分に結合することにより、CD155に対するCD96の結合を少なくとも部分的に阻害又は阻止することが好ましい。
【0048】
CD96に対する特異的結合物質は、CD96シグナル伝達を阻害又は低減することが好ましい。CD96シグナル伝達の阻害又は低減は、CD155との結合を阻害、阻止、又は拮抗することによるものであってもよく、又はCD155結合に応答して通常生じるであろうCD96誘発シグナル伝達を阻止することによるものであってもよい。例として、CD96は、免疫受容体チロシン抑制性モチーフ(ITIM)を含む。CD96に対する特異的結合物質は、CD96のITIMにより媒介されるCD96シグナル伝達を阻害又は低減する能力を有してもよい。
【0049】
〈抗CD96抗体〉
抗CD96抗体は、CD96に対して特異性を有する抗体であれば特に制限されない。市販または公知の抗CD96抗体を用いてもよいし、本明細書で開示したTX111.2を用いてもよいし、種々の公知の方法により新たに作製してもよいが、TX111.2が好ましい。
【0050】
市販の抗CD96抗体としては、Biolegend社製のマウス抗ヒトCD96モノクローナル抗体(clone:NK92.39、NO.338402)、Santa Cruz社製のマウス抗ヒトCD96モノクローナル抗体(clone:NK92.50.1、NO.sc-53574およびclone:NK92.39.1、NO.sc-53575)、RSD社製のヒツジ抗ヒトCD96ポリクローナル抗体(NO.AF6199)等を用いることができる。さらに、市販の抗CD96抗体としては、特許第6618908号公報に記載された4つの市販の抗ヒトCD96抗体(1C8、NK92.39、3H8、MAA6359)を用いることができる。
【0051】
その他の公知の抗CD96抗体は、例えば、特許第6618908号公報に記載された
以下のような方法で得ることができる。4匹のCD96ノックアウトマウスを、マウスCD96外部ドメインタンパク質で免疫し、同様に、4匹のCD96ノックアウトマウスを、精製したヒトCD96外部ドメインタンパク質で免疫する。免疫処置は、4週間間隔でおよそ3回行われる。マウスは、3回目の免疫の10~12日後に出血させ、血清を、ELISAにより抗原スクリーニングで滴定する。最も高い抗体価を有するマウスを融合に使用する。あるいは、マウスが十分に応答しない場合、更なる免疫処置を試みる。選択したハイブリドーマをクローニングし、各クローンからmAb(モノクローナル抗体)を精製した後、個々のヒト又はマウスmAbを、それぞれ、抗CD96抗体を特定するためのスクリーニングアッセイ(CD155に対するCD96の結合アッセイ、ADCCアッセイ、およびヒトCD96抗体によるヒト白血球エフェクター機能調節のアッセイ)、または抗CD96抗体によるマウスNK細胞機能調節のアッセイを使用してスクリーニングする。任意選択で、IgG2及びIgG4抗体等の、ADCCを誘導する可能性が低いか又は誘導することができない抗体を特定するために、クローンのアイソタイプ決定を行う。
【0052】
その他の公知の抗CD96抗体のさらなる例は、国際公開2019/091449号公報に記載された抗ヒトCD96マウスモノクローナル抗体m1718、m1719、m1720、m1721、およびm1722、ならびにこれらから得られるキメラ抗体およびヒト化抗体である。
【0053】
抗CD96抗体としては、市販または公知の抗CD96抗体の変異体、キメラ抗体、ヒト化抗体等を用いてもよい。
【0054】
抗CD96抗体は、CD96に対して特異性を有する抗体のうち、CD96シグナル伝達を阻害又は低減する抗体、すなわち、抗CD96中和抗体が好ましい。
【0055】
抗CD96中和抗体は、特に制限されないが、好ましい例として、Biolegend社製のマウス抗ヒトCD96モノクローナル抗体(clone:NK92.39、NO.338402)、本明細書で開示したTX111.2をあげることができる。
【0056】
抗CD96中和抗体は、下記アミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
CDR1として配列番号14のアミノ酸配列、CDR2として配列番号15のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号16のアミノ酸配列、ならびに
下記アミノ酸配列を含む重鎖可変領域;
CDR1として配列番号17のアミノ酸配列、CDR2として配列番号18のアミノ酸配列、およびCDR3として配列番号19のアミノ酸配列
を有する抗体であることが好ましい。
【0057】
抗CD96中和抗体は、配列番号12のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域および配列番号13のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を有する抗体であることが好ましい。
【0058】
抗CD96中和抗体は、配列番号12と少なくとも90%以上同一のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域および配列番号13と少なくとも90%以上同一のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を有する抗体であることが好ましい。
【0059】
抗CD96中和抗体は、配列番号12のアミノ酸配列のうち、CDR1~CDR3以外の領域において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、付加、もしくは欠失したアミノ酸配列であって、配列番号12と少なくとも90%以上同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、および配列番号13のアミノ酸配列のうち、CDR1~CDR3以外の領域において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、付加、もしくは欠失したアミノ酸配列であって、配列番号13と少なくとも90%以上同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域重鎖可変領域を有する抗体であることが好ましい。
【0060】
〈IL-17〉
IL-17(インターロイキン-17)は、IL-17ファミリーの意味であり、IL-17A、IL-17B、IL-17C、IL-17D、IL-17E、およびIL-17Fを包含する。IL-17を評価する場合、IL-17ファミリーを構成するものの少なくとも一つを評価すればよい。産生量が多く、また測定が容易であることから、IL-17は、好ましくはIL-17Aである。
【0061】
〈IL-17産生細胞〉
IL-17産生細胞とは、IL-17を産生する細胞であれば特に制限されないが、例えばγδT細胞、Th17細胞、ILC3細胞などである。
【0062】
γδT細胞とは、細胞表面にγ鎖とδ鎖からなるT細胞受容体を持つ細胞であり、IL-17を産生する。
Th17細胞(17型ヘルパーT細胞)とはヘルパーT細胞(Th細胞)のサブセットの一つであり、IL-17を産生する細胞である。すなわち、Th17細胞は、IL-17を産生するCD4+T細胞(CD4陽性T細胞)ということができる。
【0063】
ILC3細胞は、転写因子RORγtを必要とし、IL-17を産生する、グループ3自然リンパ球(Innate lymphoid cell; ILC)である。ILC3細胞は、lymphoid tissue inducer(LTi)およびIL-22を産生するILC22細胞を含む。
【0064】
IL-17産生細胞、特にγδT細胞、Th17細胞、およびILC3細胞は、IL-22も産生し得る。
IL-17産生細胞は、疾患または病態への関与が大きいことから、好ましくはγδT細胞である。
【0065】
<IL-17産生細胞の免疫応答抑制剤〉
IL-17産生細胞の免疫応答とは、外来性または内因性の異物を排除するために特異的に応答して行われる反応のうち、IL-17産生細胞において起こる反応の意味であり、自然免疫によるものであっても獲得免疫によるものであってもよい。IL-17産生細胞の免疫応答は、例えばサイトカイン産生であり、IL-17、IL-22、TNF、IFN-γ等の産生があげられる。
【0066】
IL-17産生細胞の免疫応答は、外来性または内因性の異物を排除するために特異的に応答して行われる反応を模した反応により、誘導された免疫反応であってもよい。例えば、異物を認識した細胞によってサイトカインが産生されることが知られている場合に、in vitroの試験系において該サイトカイン添加により誘導されるIL-17産生細胞の免疫応答も、IL-17産生細胞の免疫応答に含む。IL-17産生細胞の免疫応答を誘導する方法は特に制限されないが、サイトカインによる誘導が好ましく、IL-23による誘導がさらに好ましい。
【0067】
IL-17産生細胞の免疫応答抑制剤は、サイトカイン産生を抑制してもよいが、産生されたサイトカインによって惹起される、IL-17産生細胞における様々な免疫応答のうち、いずれかを抑制する作用を有すればよい。
【0068】
IL-17産生細胞の免疫応答抑制剤は、好ましくはサイトカイン産生抑制剤であり、さらに好ましくはIL-17産生抑制剤またはIL-22産生抑制剤である。
IL-17産生細胞の免疫応答抑制剤の用途は特に制限されないが、IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するために用いることが好ましい。IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態としては、IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態であれば特に制限されないが、好ましくは乾癬、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、脳梗塞、腎炎、肺傷害、肺線維症または皮膚腫瘍であり、より好ましくは乾癬または多発性硬化症であり、さらに好ましくは乾癬である。
【0069】
疾病または病態を治療または予防するとは、例えば、疾病または病態の発症を抑制する、疾病または病態の進行を抑制する、および疾病または病態の症状を低減または緩和することを含む。
【0070】
乾癬は、尋常性乾癬(Psoriasis vulgaris)、関節症性乾癬(Psoriasis arthropica)、膿疱性乾癬(Psoriasis pustulosa)、滴状乾癬、および乾癬性紅皮症等を含む。乾癬は、通常、厚い銀白色の鱗屑を伴った角化性紅斑が認められ、病理学的にも乾癬様の表皮突起が延長した表皮肥厚と顆粒層を欠失した錯角化、角層下好中球性微小膿瘍が認められることにより診断することができる。
【0071】
多発性硬化症は、再発寛解型、一次進行型MS(PPMS)、二次進行型MS(SPMS)、および進行再発型MS(PRMS)を含む。多発性硬化症は、患者がCIS(Clinically isolated syndrome)と称される単一の脱髄性症状を発症し、脱髄性症状が時間的または空間的多発性を呈した場合に診断することができる。本発明のIL-17産生細胞の免疫応答抑制剤は、CISから多発性硬化症への進展の予防または抑制に使用するためにも有効であり得る。
【0072】
IL-17産生細胞の免疫応答抑制剤の投与量(有効量)は特に制限されず、IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態の種類や症状の程度、投与対象(年齢、性別、体重等)、投与経路などによって適宜選択すればよい。例えば、CD96とCD155およびCD111から選択される少なくとも一種のタンパク質との結合を阻害する物質が、抗CD96抗体である場合、1回の投与において1kg体重あたり抗CD96抗体0.5~50mg、好ましくは0.7mg~10mg、より好ましくは1mg~5mgを含むIL-17産生細胞の免疫応答抑制剤を1日1回~数回投与すればよい。合計投与回数および投与頻度も特に制限されず、IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態の種類や症状の程度、投与対象(年齢、性別、体重等)、投与経路などによって適宜選択すればよいが、1回のみでもよく、毎日連続投与してもよいし、数日の間隔をあけて1~数週間にわたり投与してもよい。
【0073】
IL-17産生細胞の免疫応答抑制剤は、そのまま生体に投与してもよいが、前記IL-17産生細胞の免疫応答抑制剤の有効量を薬学的に許容する担体と共に配合した医薬品として投与することが好ましい。投与方法は特に制限されず、経口、または非経口とすることができる。投与方法は、好ましくは非経口であり、より好ましくは腹腔内注射、または静脈内注射である。
【0074】
〈IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するための医薬品〉
本発明のIL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するための医薬品は、前記IL-17産生細胞の免疫応答抑制剤を含むものであれば特に制限されず、前記IL-17産生細胞の免疫応答抑制剤の他に薬学的に許容する担体を含んでもよい。
【0075】
IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態としては、IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態であれば特に制限されないが、好ましくは乾癬、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、脳梗塞、腎炎、肺傷害、肺線維症または皮膚腫瘍であり、より好ましくは乾癬または多発性硬化症であり、さらに好ましくは乾癬である。
【0076】
前記医薬品の形態は特に制限されず、例えば、注射剤、注入剤、経口剤(錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセルも含む)、溶液剤、懸濁液剤)、外用剤(例えば、ローション、乳液剤、貼付剤、軟膏剤)である。前記医薬品は、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で、調製されてもよい。
【0077】
前記医薬品の投与量は特に制限されず、IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態の種類や症状の程度によって適宜選択すればよい。
前記薬学的に許容される担体は、特に制限されないが、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンを含む、抗酸化剤;オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、アルキルパラベン、カテコール、レソルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール、m-クレゾールなどの保存料;低分子ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、スクロース、マンニトール、トレハロース、ソルビトール、デキストリンなどの糖類;EDTAなどのキレート剤;ナトリウムなどの塩形成対イオン類;金属錯体;ポリエチレングリコール(PEG)などの多価アルコール、ポリソルベート20、ポリソルベート80などの非イオン系表面活性剤等があげられる。
【0078】
前記医薬品の投与対象は特に制限されないが、哺乳動物が好ましく、ヒトがより好ましい。
【0079】
本発明の一実施形態は、CD96とCD155およびCD111から選択される少なくとも一種のタンパク質との結合を阻害する物質の有効量を、対象に投与することを含むIL-17産生細胞の免疫応答抑制方法である。
また、本発明の一実施形態は、CD96とCD155およびCD111から選択される少なくとも一種のタンパク質との結合を阻害する物質の有効量を、対象に投与することを含む、IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態の治療または予防方法である。
さらに、本発明の一実施形態は、CD96とCD155およびCD111から選択される少なくとも一種のタンパク質との結合を阻害する物質の有効量を、対象に投与することを含む、乾癬、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、脳梗塞、腎炎、肺傷害、肺線維症または皮膚腫瘍の治療または予防方法である。
【0080】
本発明の一実施形態は、IL-17産生細胞の免疫応答抑制における使用のための、CD96とCD155およびCD111から選択される少なくとも一種のタンパク質との結合を阻害する物質である。
また、本発明の一実施形態は、IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するための、CD96とCD155およびCD111から選択される少なくとも一種のタンパク質との結合を阻害する物質である。
さらに、本発明の一実施形態は、乾癬、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、脳梗塞、腎炎、肺傷害、肺線維症または皮膚腫瘍を治療または予防するための、CD96とCD155およびCD111から選択される少なくとも一種のタンパク質との結合を阻害する物質である。
【0081】
〈工程(A)を有する方法〉
本発明の第三の態様は工程(A)を有する方法である。本発明において工程(A)は、γδT細胞およびCD4陽性T細胞の少なくとも1つをIL-23、TCR/CD3複合体を刺激可能な抗CD3抗体およびCD96を刺激可能な抗CD96抗体と共に培養する工程である。
【0082】
本発明の工程(A)を有する方法は、言い換えると、γδT細胞およびCD4陽性T細胞の少なくとも1つの処理方法ともいえる。工程(A)を有する方法を行う、目的、用途は特に限定されないが、該方法では、γδT細胞およびCD4陽性T細胞の少なくとも1つをIL-23、TCR/CD3複合体を刺激可能な抗CD3抗体およびCD96を刺激可能な抗CD96抗体により刺激することで、γδT細胞またはCD4陽性T細胞における免疫応答が誘導されるため、例えば、γδT細胞またはCD4陽性T細胞における免疫応答機構の解明、γδT細胞またはCD4陽性T細胞における免疫応答を阻害、抑制、促進、または増強する効果を有する医薬品のスクリーニング、および評価等に用いることができる。
【0083】
本発明の一実施形態は、γδT細胞およびCD4陽性T細胞の少なくとも1つをIL-23、TCR/CD3複合体を刺激可能な抗CD3抗体およびCD96を刺激可能な抗CD96抗体と共に培養する工程(A)を有する細胞の培養方法である。
また、工程(A)により、γδT細胞またはCD4陽性T細胞の免疫応答を誘導すること、γδT細胞またはCD4陽性T細胞を活性化すること、およびγδT細胞またはCD4陽性T細胞のIL-17産生を誘導することが可能になる。
したがって、工程(A)は、γδT細胞またはCD4陽性T細胞の免疫応答誘導方法、γδT細胞またはCD4陽性T細胞の活性化方法、γδT細胞またはCD4陽性T細胞のIL-17産生誘導方法として用いることもできる。
前記γδT細胞またはCD4陽性T細胞の免疫応答誘導方法は、例えば、後述するように、IL-17、IL-22、TNF、IFN-γ等のサイトカイン産生を指標として免疫応答の誘導の有無を評価することができる。
前記γδT細胞またはCD4陽性T細胞の活性化方法は、例えば、後述するように、CD69、CD25等の活性化マーカーを指標として活性化の有無を評価することができる。
前記γδT細胞またはCD4陽性T細胞のIL-17産生誘導方法は、例えば、後述するように、IL-17産生量、IL-17の活性等を指標としてIL-17産生誘導の有無を評価することができる。
【0084】
IL-23は、抗原提示細胞によって産生され、γδT細胞の免疫応答を誘導することが知られているサイトカインである。また、IL-23の受容体としては、IL-23RおよびIL-12Rβ1が知られている。工程(A)を有する方法において、IL-23は、γδT細胞またはCD4陽性T細胞の免疫応答を誘導するために添加するものである。IL-23としては、IL-23タンパク質であれば由来は問わず、生体から精製したタンパク質を用いてもよく、大腸菌、酵母、植物細胞、哺乳動物細胞や昆虫細胞由来のリコンビナントタンパク質を用いてもよい。γδT細胞またはCD4陽性T細胞の免疫応答を誘導することができれば、IL-23の全長でも一部でもよく、翻訳後修飾や糖鎖付加の有無、キャリアの有無等も制限されない。γδT細胞またはCD4陽性T細胞の免疫応答を効率的に誘導できることから、IL-23は好ましくはリコンビナントタンパク質であり、さらに好ましくは哺乳動物細胞由来または昆虫細胞由来リコンビナントタンパク質である。
【0085】
IL-23の培養系中の終濃度は、好ましくは0.001~20ng/mlであり、さらに好ましくは0.01~1ng/mlである。
【0086】
TCR/CD3複合体を刺激可能な抗CD3抗体は、T細胞表面のTCR/CD3複合体を刺激するために用いる。TCR/CD3複合体を刺激可能な抗CD3抗体は、T細胞表面のTCR/CD3複合体を刺激することができれば特に制限されず、例えば固相化された抗CD3抗体、アゴニスティック(刺激性)抗CD3抗体等である。入手が容易であることから、固相化された抗CD3抗体が好ましい。固相化された抗CD3抗体を細胞に添加すると、CD3は、抗体により架橋されるため、CD3からのシグナルが入り、結果としてTCRによる抗原認識のシグナルと同様のシグナルがT細胞内に伝達される。
【0087】
抗CD3抗体は、固相化することにより、TCR/CD3複合体を刺激可能な抗CD3抗体になる。したがって、固相化に用いる、抗CD3抗体は、T細胞表面のTCR/CD3複合体と特異的に結合することができれば特に制限されず、TONBO社製NO.40-0031等の種々の抗CD3抗体を用いることができる。γδT細胞が由来する動物種に応じて、その動物種のTCR/CD3複合体と結合する抗CD3抗体を選択すればよい。
【0088】
固相化に用いる、抗CD3抗体の濃度は、好ましくは1ng/ml~10μg/mlであり、さらに好ましくは10ng/ml~1μg/mlである。
【0089】
CD96を刺激可能な抗CD96抗体は、T細胞表面のCD96を刺激するために用いる。CD96を刺激可能な抗CD96抗体は、T細胞表面のCD96を刺激することができれば特に制限されず、例えば固相化された抗CD96抗体、アゴニスティック(刺激性)抗CD96抗体等である。入手が容易であることから、固相化された抗CD96抗体が好ましい。固相化された抗CD96抗体を細胞に添加すると、CD96は、抗体により架橋されるため、CD96からのシグナルが入り、結果としてナチュラルリガンドである細胞表面のCD155がCD96に結合したときと同様のシグナルがT細胞内に伝達される。
【0090】
抗CD96抗体は、固相化することにより、CD96を刺激可能な抗CD96抗体になる。したがって、固相化に用いる抗CD96抗体は、細胞表面のCD96と特異的に結合することができれば特に制限されず、種々の抗CD96抗体を用いることができる。例えば、eBioscienceTMラット抗マウスCD96抗体(Invitrogen社製、NO.16-0960-82)、抗ヒトCD96抗体(clone:NK92.39、Biolegend社製、NO.338402)、TX111.2等があげられる。γδT細胞が由来する動物種に応じて、その動物種のCD96と結合する抗CD96抗体を選択すればよい。
【0091】
固相化に用いる抗CD96抗体の濃度は、好ましくは100ng/ml~1mg/mlであり、さらに好ましくは1μg/ml~200μg/mlである。
【0092】
抗CD3抗体または抗CD96抗体を固相化する固相は、特に制限されず、例えばプレート、ディッシュ、バッグ、メンブレン、ビーズ等である。固相化が容易であることから、好ましくはプレートであり、さらに好ましくは複数のウェルを備えたプレートである。固相の材質は特に制限されず、ガラス、ポリスチレン等を好適に用いることができる。固相化が効率的に行え、入手が容易であることから、抗CD3抗体または抗CD96抗体を固相化する固相は好ましくはポリスチレン製プレートである。
【0093】
固相表面は、何も処理しなくてもよいし、疎水または親水性になるような処理を施してもよい。また、CHOH基、>C=O基、-COOH基、-NH2基、>NH基等の官能基を導入してもよい。
【0094】
抗CD3抗体または抗CD96抗体を固相化する方法は、特に制限されず、公知の種々の方法を用いることができる。例えば静電相互作用、疎水的な相互作用(物理吸着)、水素結合、電荷移動、または共有結合等を用いて、抗体を固相へ固相化させればよいが、操作が簡便であることから、好ましくは疎水的な相互作用である。疎水的な相互作用を利用した固相化は、例えば、抗体溶液をプレートに添加し、一定時間インキュベーションした後、抗体溶液を捨て、洗浄することにより行うことができる。
抗体溶液は、固相表面を覆うのに充分な量を用いればよく、例えば固相が96ウェルプレートである場合は、50~200μl/ウェルで添加することが好ましい。
【0095】
工程(A)を有する方法は、前記工程(A)を行った後に、γδT細胞またはCD4陽性T細胞における免疫応答を評価する工程(D)を任意で有してもよい。γδT細胞またはCD4陽性T細胞における免疫応答とは、外来性または内因性の異物を排除するために特異的に応答して行われる反応のうち、γδT細胞またはCD4陽性T細胞において起こる反応の意味であり、自然免疫によるものであっても獲得免疫によるものであってもよい。γδT細胞またはCD4陽性T細胞における免疫応答は、例えばサイトカイン産生であり、IL-17、IL-22、TNF、IFN-γ等の産生があげられるが、IL-17産生が好ましい。すなわち、工程(A)を有する方法は、工程(A)を行った後に、IL-17を評価する工程(B)を有することが好ましい。
【0096】
工程(A)を有する方法は、in vivoで行ってもよく、in vitroで行ってもよいが、in vitroで行うことが好ましい。
【0097】
〈工程(B)〉
工程(B)は、工程(A)の後に行ってもよい任意の工程であり、IL-17を評価する工程である。IL-17を評価することにより、γδT細胞またはCD4陽性T細胞の状態、特に免疫応答を評価することができる。
【0098】
従って、本発明の実施形態の1つの例は、
工程(A):γδT細胞およびCD4陽性T細胞の少なくとも1つをIL-23、TCR/CD3複合体を刺激可能な抗CD3抗体およびCD96を刺激可能な抗CD96抗体と共に培養する工程、および
工程(B):工程(A)を行った、γδT細胞およびCD4陽性T細胞の少なくとも1つに由来するIL-17を評価する工程
を有する方法である。
前記方法により、γδT細胞またはCD4陽性T細胞の免疫応答を評価すること、および、γδT細胞またはCD4陽性T細胞の活性化を評価することができる。
したがって、前記方法は、γδT細胞またはCD4陽性T細胞の免疫応答を評価する方法、およびγδT細胞またはCD4陽性T細胞の活性化を評価する方法として用いることができる。
【0099】
IL-17を評価する方法は、IL-17を評価できれば方法は特に制限されず、例えば、IL-17産生量を測定する方法、IL-17の活性を測定する方法等が挙げられる。前記IL-17の評価は、工程(A)を行った細胞に由来するIL-17を評価すればよく、細胞内のIL-17を評価してもよいし、例えば細胞培養上清中に存在する、細胞外に放出されたIL-17を評価してもよい。前記IL-17を評価する方法は、疾患との関連が多く報告されていることから、好ましくはIL-17産生量を測定する方法である。IL-17産生量の測定は、例えば定量的PCRによるIL-17mRNA量測定、ウエスタンブロッティングやELISAによるIL-17タンパク量測定、フローサイトメーターによる細胞内IL-17タンパク量測定などが挙げられ、IL-17産生のより上流での変化をとらえられることから、好ましくは定量的PCRによるIL-17mRNA量測定である。定量的PCRによるIL-17mRNA量測定のプライマーとしては、Forward:5’-TTTAACTCCCTTGGCGCAAAA-3’(配列番号1)、Reverse:5’-CTTTCCCTCCGCATTGACAC-3’(配列番号2)を用いることが好ましい。
【0100】
<医薬品の評価方法>
本発明の第四の態様である医薬品(候補物質)の評価方法は、工程(A)の後に工程(B)を有する方法を含む、IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するための医薬品(候補物質)の評価方法である。本発明の医薬品(候補物質)の評価方法により、医薬品(候補物質)が有する、IL-17産生細胞の免疫応答を阻害、抑制、促進、または増強する効果を評価することができる。本発明の医薬品(候補物質)の評価方法は、γδT細胞またはCD4陽性T細胞に医薬品(候補物質)を添加する工程(C)を有する。工程(C)の順序は、通常、工程(A)の前、工程(A)と同時、または工程(A)の後であり、工程(B)の前である。
【0101】
したがって、本発明の実施形態の1つの例は、
工程(A):γδT細胞およびCD4陽性T細胞の少なくとも1つをIL-23、TCR/CD3複合体を刺激可能な抗CD3抗体およびCD96を刺激可能な抗CD96抗体と共に培養する工程、
工程(B):工程(A)を行った、γδT細胞およびCD4陽性T細胞の少なくとも1つに由来するIL-17を評価する工程、および
工程(C):工程(A)の前、工程(A)と同時、または工程(A)の後であり、工程(B)の前に、前記γδT細胞または前記CD4陽性T細胞に医薬品候補物質を添加する工程
を有する、IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するための医薬品候補物質の評価方法である。
【0102】
本発明の医薬品の評価方法は、候補物質の存在下および非存在下において工程(A)および工程(B)を行うことにより、候補物質の存在下におけるIL-17産生量が候補物質の非存在下におけるIL-17産生量よりも少ない場合に、該候補物質をIL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するために有効であると判断することができる。
【0103】
本発明の医薬品(候補物質)の評価方法は、医薬品(候補物質)のスクリーニング方法であってもよい。
【0104】
したがって、本発明の実施形態の1つの例は、
工程(A):γδT細胞およびCD4陽性T細胞の少なくとも1つをIL-23、TCR/CD3複合体を刺激可能な抗CD3抗体およびCD96を刺激可能な抗CD96抗体と共に培養する工程、
工程(B):工程(A)を行った、γδT細胞およびCD4陽性T細胞の少なくとも1つに由来するIL-17を評価する工程、および
工程(C):工程(A)の前、工程(A)と同時、または工程(A)の後であり、工程(B)の前に、前記γδT細胞または前記CD4陽性T細胞に医薬品候補物質を添加する工程
を有する、IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するための医薬品候補物質のスクリーニング方法である。
【0105】
本発明の医薬品(候補物質)のスクリーニング方法は、医薬品(候補物質)の存在下および非存在下において工程(A)および工程(B)を行うことにより、医薬品(候補物質)の存在下におけるIL-17産生量が、医薬品(候補物質)の非存在下におけるIL-17産生量よりも少ない場合に、該医薬品(候補物質)をIL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するための医薬品の候補として選択することができる。例えば、医薬品(候補物質)の存在下におけるIL-17産生量が、医薬品(候補物質)の非存在下におけるIL-17産生量の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、または80%以下である場合に、該医薬品(候補物質)をIL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するための医薬品の候補として選択することができる。医薬品(候補物質)の存在下におけるIL-17産生量が、医薬品(候補物質)の非存在下におけるIL-17産生量の10%、20%、30%、40%、または50%以下である場合に、該医薬品(候補物質)をIL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するための医薬品の候補として選択することが好ましい。
【0106】
医薬品(候補物質)としては、低分子化合物、タンパク質、ポリペプチド、多糖類、核酸等があげられるが、特に制限されない。医薬品(候補物質)は、新規な物質でも公知の物質でもよい。
【0107】
前記IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態は、好ましくは乾癬、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、脳梗塞、腎炎、肺傷害、肺線維症または皮膚腫瘍であり、より好ましくは乾癬である。
【0108】
<IL-17産生方法>
本発明の第五の態様であるIL-17産生方法は、γδT細胞およびCD4陽性T細胞の少なくとも1つをIL-23、TCR/CD3複合体を刺激可能な抗CD3抗体およびCD96を刺激可能な抗CD96抗体と共に培養する工程(A)を有する。γδT細胞またはCD4陽性T細胞をIL-23、TCR/CD3複合体を刺激可能な抗CD3抗体およびCD96を刺激可能な抗CD96抗体により刺激することで、γδT細胞またはCD4陽性T細胞におけるIL-17産生が誘導される。
本発明の第五の態様であるIL-17産生方法は、γδT細胞およびCD4陽性T細胞の少なくとも1つをIL-23、TCR/CD3複合体を刺激可能な抗CD3抗体およびCD96を刺激可能な抗CD96抗体と共に培養する工程(A)を有する、IL-17の製造方法ということもできる。
【0109】
前記IL-17産生方法で得られたIL-17の用途は特に制限されず、アフィニティークロマトグラフィーや免疫沈降等により単離した後に用いてもよい。また、IL-17が産生されたγδT細胞またはCD4陽性T細胞として、IL-17産生を阻害、抑制、促進、または増強する効果を有する医薬品のスクリーニング、および評価等に用いてもよい。
【0110】
前記IL-17産生方法は、in vivoで行ってもよく、in vitroで行ってもよいが、in vitroで行うことが好ましい。
【実施例
【0111】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
〔実施例1〕
≪方法≫
〈イミキモド誘発乾癬モデル〉
このモデルは、剃毛したマウス背中の皮膚にイミキモド(IMQ)を3-6日間連続塗布することにより炎症を誘発させるものであり、乾癬の病態モデルとして汎用されている。表皮の肥厚、不全角化、真皮への好中球と単核球の浸潤等、乾癬に特徴的な病態が観察され、そのメカニズムは、以下の通りだと報告されている。IMQがTLR7を介して樹状細胞を活性化し、IL-23が産生される。IL-23は、γδT細胞上のIL-23R/IL-12Rβ1を介してγδT細胞を活性化し、IL-17およびIL-22が産生される。IL-17およびIL-22は、好中球の患部への遊走を促進し、紅斑、鱗屑、および皮膚の肥厚を誘導する。
【0112】
マウスは、C57BL/6J(野生型マウス)およびCD96欠損マウスの6~8週齢のオスを用い、イミキモド群(IMQ)、naive群用に4匹ずつ分けた。CD96欠損マウスは、ゲノム編集技術(CRISPR/Cas9)によって作製した。AATAGAGACAAATCGGACTCTGG(配列番号3)をターゲット配列とした。マウスの背部を剃毛し、イミキモド群には、5%イミキモドクリーム(ベセルナクリーム、持田製薬株式会社製)を31.25mg/回/匹で一日一回塗布した。naive群には、5%イミキモドクリームの代わりにワセリンを塗布した。イミキモドクリームまたはワセリン塗布開始日を0日とし、0日目、1日目、2日目に塗布し、3日目に解析を行った。
【0113】
(紅斑、鱗屑の評価)
ヒトの乾癬の診断に利用されているPASI (Psoriasis Area and Severity Index)に基づき、背部の紅斑および鱗屑をスコア化した。スコアは、それぞれ、0:なし,1:軽度,2:中等度,3:高度,4:きわめて高度の5段階で評価した。
【0114】
(皮膚の厚さの評価)
マウス背部の皮膚を持ち上げ、ダイヤルシクネスゲージG型(株式会社尾崎製作所製)を用いて厚さを測定し、測定値を2で除した値を皮膚の厚さ(μm)とした。マウス一匹あたり3箇所測定し、平均値を算出した。マウス毎の値を用いて誤差を算出し、その後、各群で有意差検定を行なった。
【0115】
(組織標本の作製、観察)
塗布開始3日目にマウス背部の皮膚を採取し、ホルマリン固定後、パラフィン包埋した。10μm厚の組織切片を作製し、HE(ヘマトキシリン、エオジン)染色を行ない、組織標本を作製した。組織標本は顕微鏡(BZ-X710、株式会社キーエンス製)を用いて観察、および写真撮影を行った。画像上の表皮厚を測定し、表皮の厚さ(μm)とした。マウス1匹あたり3標本作製し、1標本あたり5点の厚さを測定し、平均値を算出した。マウス毎の値を用いて誤差を算出し、その後、各群で有意差検定を行なった。
【0116】
(皮膚の好中球数)
塗布開始3日目にマウス背部の皮膚を2cm2採取し、1mg/ml collagenase IV(Sigma-Aldrich社製)を用いて皮膚細胞を分離した。ViaCountアッセイ(GE Healthcare社製)を用いて生細胞のカウントを行なった。Brilliant Violet421-ラット抗マウスCD45.2抗体(Biolegend社製)、APC/Cy7-ラット抗マウス/ヒトCD11b抗体(Biolegend社製)、およびAlexa Fluor 700-ラット抗マウスLy6G抗体(BD Biosciences社製)を用いて皮膚細胞を染色し、3種類全ての抗体で染まった細胞を好中球としてカウントした。解析には、フローサイトメーター(LSRFortessaTM、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製)を用いた。好中球の数を採取した皮膚面積で除して皮膚の好中球数とした。
【0117】
(皮膚由来ミエロイド系細胞からのIL-23の産生量)
塗布開始3日目にマウス背部の皮膚を2cm2採取し、1mg/ml collagenase IV(Sigma-Aldrich社製)を用いて皮膚細胞を分離した。ViaCountアッセイ(GE Healthcare社製)を用いて生細胞のカウントを行なった。皮膚細胞をBrilliant Violet421-ラット抗マウスCD45.2抗体(Biolegend社製)、およびAPC/Cy7-ラット抗マウス/ヒトCD11b抗体(Biolegend社製)を用いて染色し、両方の抗体で染まった細胞をミエロイド系の細胞として、セルソーター(FACSAriaTM、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製)でソートした。
【0118】
これらの細胞を回収し、ISOGEN(株式会社ニッポンジーン製)を用いて、製品プロトコルに従いmRNAを抽出した。High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems社製)を用いてプロトコルに従いmRNAからcDNAを合成した。定量的PCRは、SYBR Green PCR Master Mix (Invitrogen社製)を用いて行い、ABI 7500 fast(Applied Biosystems社製)にて解析を行って、IL-23の発現量を測定した。用いたIL-23のプライマーは、Forward:5’-CAGCTCTCTCGGAATCTCTGC-3’(配列番号4)、Reverse:5’-GACCTTGGCGGATCCTTTGC-3’(配列番号5)である。
【0119】
(皮膚由来γδT細胞上のIL-23受容体の発現量)
塗布開始3日目にマウス背部の皮膚を2cm2採取し、1mg/ml collagenase IV(Sigma-Aldrich社製)を用いて皮膚細胞を分離した。ViaCountアッセイ(GE Healthcare社製)を用いて生細胞のカウントを行なった。皮膚細胞をBrilliant Violet421-ラット抗マウスCD45.2抗体(Biolegend社製)、およびeBioscienceTM FITC-ハムスター抗マウスTCR GAMMA DELTA抗体(CatalogNO.118106、Biolegend社製)を用いて染色し、両方の抗体で染まった細胞をγδT細胞として、セルソーター(FACSAria、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製)でソートした。
【0120】
mRNA抽出、cDNA合成、および定量的PCRは上記と同様にして行い、IL-23RおよびIL-12Rβ1の産生量を測定した。用いたIL-23Rのプライマーは、Forward:5’-GCAACATGACATGCACCTGG-3’(配列番号6)、Reverse:5’-GACAGCTTGGACCCATACCA-3’(配列番号7)である。IL-12Rβ1のプライマーは、Forward:5’-ATGGCTGCTGCGTTGAGAA-3’(配列番号8)、Reverse:5’-AGCACTCATAGTCTGTCTTGGA-3’(配列番号9)を用いた。
【0121】
(マウス皮膚由来γδT細胞のIL-17、IL-22産生量)
γδT細胞の調整、mRNA抽出、cDNA合成、および定量的PCRは上記と同様にして行い、IL-17およびIL-22の産生量を測定した。用いたIL-17のプライマーは、上記と同様である。IL-22のプライマーは、Forward:5’-TTTCCTGACCAAACTCAGCA-3’(配列番号10)、Reverse:5’-CTGGATGTTCTGGTCGTCAC-3’(配列番号11)を用いた。
【0122】
(マウス皮膚由来γδT細胞におけるIL-17陽性細胞の割合)
塗布開始3日目にマウス背部の皮膚を2cm2採取し、1mg/ml collagenase IV(Sigma-Aldrich社製)を用いて皮膚細胞を分離した。ViaCountアッセイ(GE Healthcare社製)を用いて生細胞のカウントを行なった。
【0123】
採取した細胞は、GolgiStopTM(BD Biosciences社製)を2000分の1含有し、5%FBSを添加したRPMI-1640メディウム(R-8758,Sigma-Aldrich社製)で37℃、5%CO2環境下にて2時間培養した。Brilliant Violet421-ラット抗マウスCD45.2抗体(Biolegend社製)、eBioscienceTM FITC-ハムスター抗マウスTCR GAMMA DELTA抗体(CatalogNO.118106、Biolegend社製)で染色した後、eBioscienceTM Foxp3/Transcription Factor Fixation/Permeabilization Concentrate and Diluent(Invitrogen社製)で固定してから、PE-ラット抗マウスIL17A抗体(BD Biosciences)で染色する事でγδT細胞が産生するIL-17を染色した。解析は、フローサイトメーター(LSRFortessaTM、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製)を用いて行った。PE-ラット抗マウスIL17A抗体で染色された細胞をIL-17陽性とし、γδT細胞数で除して、IL-17陽性細胞の割合を算出した。
【0124】
〈IL-23とCD96刺激による、マウス脾臓由来γδT細胞におけるIL-17産生〉
野生型マウス(C57BL/6、6~8週齢オス、入手先:日本クレア)の脾臓を採取し、スライドグラスを用いてすりつぶし、細胞を分離した。ViaCountアッセイ(GE Healthcare社製)を用いて生細胞のカウントを行なった。脾臓細胞をBrilliant Violet421-ラット抗マウスCD45.2抗体(Biolegend社製)、およびeBioscienceTM FITC-ハムスター抗マウスTCR GAMMA DELTA抗体(Invitrogen社製、CatalogNO.11-5811-82)を用いて染色し、両方の抗体で染まった細胞をγδT細胞として、セルソーター(FACSAria、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製)でソートした。
【0125】
まず、抗体をプレートに固相化した。具体的には96ウェルプレート(Corning社製、NO.3596)に、eBioscienceTMラット抗マウスCD96抗体(Invitrogen社製、NO.16-0960-82、20μg/ml)、あるいはコントロールとしてラットIgG2a(BD Bioscience社製、NO.554687、20μg/ml、rG2aともいう)を100μL/ウェルで添加してから、37℃で2時間インキュベートした後、抗体溶液を捨て、PBSで1回プレートを洗浄した。
【0126】
このプレートにγδT細胞を15000cells/ウェルで播種し、10%FBS、リコンビナントマウスIL-2(BD Bioscience社製、NO.55069、終濃度2ng/ml)を添加したRPMI-1640メディウム(Sigma-Aldrich社製、R-8758)にリコンビナントマウスIL-23(R&D systems社製、NO.1887-ML-010、終濃度0.1ng/ml)を添加し、37℃、5%CO2環境下にて18時間培養した。
mRNA抽出、cDNA合成、および定量的PCRは上記と同様にして行い、IL-17の産生量を測定した。用いたIL-17のプライマーは、上記と同様である。
【0127】
〈IL-23、CD96、およびCD3刺激による、マウス脾臓由来γδT細胞におけるIL-17産生〉
前述の「IL-23とCD96刺激による、マウス脾臓由来γδT細胞におけるIL-17産生」と同様の方法で行い、CD3シグナルを添加する群においては、抗CD3抗体(TONBO社製、NO.40-0031、終濃度0.1μg/ml)をプレートに固相化した。固相化は抗CD96抗体と同様にして行った。
【0128】
(マウス脾臓由来γδT細胞の活性化)
前述の「IL-23、CD96、およびCD3刺激による、脾臓由来γδT細胞におけるIL-17産生γδT細胞の活性化」と同様の方法で行った。γδT細胞の活性化は、CD69およびCD25を活性化マーカーとして用いて評価した。γδT細胞は、APC-ハムスター抗マウスCD69抗体(Biolegend社製)、PE-ラット抗マウスCD25抗体(Biolegend社製)で染色し、解析には、フローサイトメーター(LSRFortessaTM、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製)を用いた。
【0129】
(ヒトPBMC由来γδT細胞)
ヘルシンキ宣言に従い、被験者から試験前に書面によるインフォームドコンセントを得た。また、本試験は筑波大学医の倫理委員会の承認を得て行った。被験者は、ボランティアの健常人とした。被験者から60ml採血し、Lymphoprep(Stemcell technologies社製、NO.07801)を用いて、末梢血単核細胞(PBMC)を分離した。ViaCountアッセイ(GE Healthcare社製)を用いて生細胞のカウントを行なった。PBMC中のVδ2 γδT細胞を、PE-anti-hTCRγδ(eBiosciences社製、NO.12-9959-42)及び、BV605-anti-hVδ2(BD Biosciences社製、NO.743751)で染色し、セルソーター(FACSAria、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製)を用いてソートし、ヒトPBMC由来γδT細胞として実験に供した。
【0130】
(ヒトPBMC由来CD4+T細胞)
ボランティアの健常人から10ml採血し、Lymphoprep(Stemcell technologies社製、NO.07801)を用いて、末梢血単核細胞(PBMC)を分離した。ViaCountアッセイ(GE Healthcare社製)を用いて生細胞のカウントを行なった。Human CD4 microbeads(Miltenyl Biotec社製、NO.130-045-101)を用いて単離した細胞をヒトPBMC由来CD4+T細胞として実験に供した。
【0131】
〈ヒトPBMC由来γδT細胞およびCD4+T細胞におけるCD96の発現〉
ヒトPBMC由来γδT細胞に、PE-anti-hCD96(Biolegend社製、NO.338406)または、PE-mouse IgG1 isotype control(BD Biosciences社製、NO.555749)を添加してインキュベーションした後、フローサイトメーターで解析した。ヒトPBMC由来CD4+T細胞でも同様にして実験した。
【0132】
〈ヒトPBMC由来γδT細胞におけるIL-17産生〉
抗CD3抗体とCD96抗体を固相化したプレートにヒトPBMC由来γδT細胞を播種して、48時間刺激した後、γδT細胞によるIL-17産生を評価した。抗体の固相化は、前述の「IL-23とCD96刺激による、脾臓由来γδT細胞におけるIL-17産生」に準じて行った。固相化に用いた抗体は、100ng/ml Anti-hCD3(BD Biosciences社製、NO.555336)および20μg/ml Anti-hCD96(Biolegend社製、NO.338404)である。
γδT細胞は250000cells/ウェルで播種し、10%FBS、RPMI-1640メディウム(Sigma-Aldrich社製、R-8758)に、Recombinant Human TGF-beta 1(R&D systems社製、NO.240-B、終濃度50ng/ml)、Recombinant Human IL-1β(R&D systems社製、NO.201-LB、終濃度10ng/ml)、Recombinant Human IL-23 (R&D systems社製、NO.1290-IL、終濃度20ng/ml)、Recombinant Human IL-6(R&D systems社製、NO.7270-IL、終濃度50 ng/ml)、Recombinant Human IL-12(BD PharmingenTM、NO.554613、終濃度10 ng/ml)を添加し、37℃、5%CO2環境下にて48時間培養した。
細胞培養上清中のIL-17Aタンパク質を、Human IL-17A Flex set(BD Biosciences社製、NO.560383)を用いて測定した。
【0133】
〈ヒトPBMC由来γδT細胞およびヒトPBMC由来CD4+T細胞の活性化〉
抗CD3抗体とCD96抗体を固相化したプレートに、γδT細胞およびCD4+T細胞を含むT細胞濃縮画分を播種して、18時間刺激した後、CD69およびCD25を活性化マーカーとして用いてγδT細胞およびCD4+T細胞の活性化を評価した。抗体の固相化は、前述の「IL-23とCD96刺激による、脾臓由来γδT細胞におけるIL-17産生」に準じて行った。固相化に用いた抗体は、100ng/ml Anti-hCD3(BD Biosciences社製、NO.555336)および20μg/ml Anti-hCD96(Biolegend社製、NO.338404)である。
具体的には、PBMCにbiotin-anti-hCD14(Biolegend社製、NO.301826)およびbiotin-anti-hCD19(BD Biosciences社製、NO.555411)を結合させ、streptavidin Microbeads(Miltenyl Biotec社製、NO.130-048-102)を用いて、CD14とCD19のいずれも発現していない細胞を選択するネガティブセレクションを行い、T細胞を濃縮した。このT細胞濃縮画分を、500000cells/ウェルで抗CD3抗体とCD96抗体を固相化したプレートに播種し、10%FBS、RPMI-1640メディウム(Sigma-Aldrich社製、NO.R-8758)で37℃、5%CO2環境下にて18時間培養した。
培養後の細胞は、フローサイトメーターで解析した。PE-anti-hTCRγδ(BD Biosciences社製、NO.555717)でγδT細胞を、V500-anti-hCD4(BD Biosciences社製、NO.560768)でCD4+T細胞を染色し、それぞれの細胞で活性化マーカーを検出した。活性化マーカーとしては、FITC-anti-hCD69(BD Biosciences社製、NO.555530)およびPE-Cy7-anti-hCD25(TONBO社製、60-0259-T025)を用いた。
【0134】
〈ヒトPBMC由来CD4+T細胞におけるIL-17産生〉
ヒトPBMC由来γδT細胞の代わりにヒトPBMC由来CD4+T細胞を用いて、前述の「ヒトPBMC由来γδT細胞におけるIL-17産生」に準じて行った。なお、抗CD3抗体とCD96抗体を固相化したプレートにヒトPBMC由来CD4+T細胞を播種した後の刺激時間は96時間とした。
【0135】
〈ヒトPBMC由来CD4+T細胞のIL-17産生に対する抗CD96中和抗体の作用〉
抗CD3抗体とhCD155-Fc(CD96のナチュラルリガンドであるCD155とFcとのキメラタンパク質)を固相化したプレートに、抗CD96中和抗体をあらかじめ混合しておいたヒトPBMC由来CD4+T細胞を播種して、6時間刺激した後、CD4+T細胞によるIL-17産生を評価した。
ヒトCD155遺伝子全長をhuman IgGFc遺伝子のN末側に組み込んだpMXプラスミドを293gp細胞にトランスフェクションし、ヒトCD155全長をhuman IgGFcと融合させたキメラタンパク質(hCD155-Fc)を得た。hCD155-Fcはprotein-A agaroseを用いて精製してから以降の実験に供した。
96ウェルプレート(Corning社製、NO.3596)に、DOTAP(1,2-dioleoyl-3-trimethylammoniumpropane,monochloride、Cayman社製、NO.15110)を終濃度1mg/mlで添加し、15分間静置した後、溶液を捨て、PBSでプレートを2回洗浄した。このプレートに、100ng/ml Anti-hCD3(BD Biosciences社製、NO.555336)および10μg/ml hCD155-Fcを100μL/ウェルで添加してから、4℃で一晩インキュベートした後、溶液を捨て、PBSで1回プレートを洗浄して、抗CD3抗体およびhCD155-Fcの固相化を行った。DOTAPはカチオン脂質であり、抗体やFcタンパク質をしっかりとプレートに立て、効率よく刺激を入れるために用いた。CD155は、効率よくプレートに固相化するためにFcとのキメラタンパク質CD155-Fcを用いた。固相化されたhCD155-Fcはin vitroでCD96を刺激することができる。
健常人由来のヒトPBMC由来CD4+T細胞に、抗ヒトCD96中和抗体(clone:NK92.39、Biolegend社製、NO.338402)を10μg/2×105cellsとなるように加えて、CD4+T細胞のCD96に抗ヒトCD96抗体を結合させた。抗ヒトCD96中和抗体の代わりにPBSを添加したCD4+T細胞をコントロールとした。
抗CD3抗体とhCD155-Fcとが固相化されたプレートに、抗ヒトCD96中和抗体と予め混合したCD4+T細胞を播種し、前述の「ヒトPBMC由来γδT細胞におけるIL-17産生」に準じて細胞を6時間培養した。
細胞培養上清中のIL-17Aタンパク質を、Human IL-17A Flex set(BD Biosciences社製、NO.560383)を用いて測定した。
【0136】
〈抗CD96中和抗体TX111.2の樹立〉
マウスCD96遺伝子のcDNAを組み込んだpMXプラスミドをレトロウイルスのエンベロープベクター(VSV-G)と293gp細胞にコトランスフェクションし、組み換えレトロウイルスを得た。このウイルスをマウスリンパ種細胞株BW5147.3(以下、BW細胞という)に、トランスダクションして、マウスCD96全長を強発現する、マウスCD96安定発現細胞株(以下、CD96-BW細胞という)を得た。
マウスCD96遺伝子をhuman IgGFc遺伝子のN末側に組み込んだpMXプラスミドを293gp細胞にトランスフェクションし、マウスCD96タンパク質全長をhuman IgGFcと融合させたキメラタンパク質(mCD96-huIgGFc)を得た。mCD96-huIgGFcはprotein-A agaroseを用いて精製してから免疫に用いた。
CD96欠損マウスに、免疫開始時にCD96-BW細胞懸濁液(5×107cells/mL in PBS、1×107cells/匹)を1回腹腔内注射した。その1ヶ月後にmCD96-humanIgGFc(10μg in PBS)を腹腔内注射した。mCD96-humanIgGFcの投与は、1ヶ月間隔で合計5回行った。最終免疫から3日後に、免疫したマウスから脾細胞を採取した。脾細胞をポリエチレングリコールを用いてマウス骨髄腫細胞株SP2/0-Ag14と細胞融合させ、ハイブリドーマを作製した。
mCD96を特異的に認識する抗体を産生するハイブリドーマをCD96-BW細胞を用いてFACSでスクリーニングした。得られたクローンが産生する抗体をTX111とした。
TX111の軽鎖(light chain)および重鎖(heavy chain)の可変領域のDNA配列をPCR法により決定した。方法の詳細は、Thomas Tiller et.al.、Jornal of immunological methods、350、2009、183-193に記載の通りである。
TX111の軽鎖(light chain)および重鎖(heavy chain)の可変領域のCDR(complementarity determining region)1~3は、IgBLASTを用いて決定した。
TX111を産生するハイブリドーマから、抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするmRNAを抽出した。得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の重鎖および軽鎖の可変領域のcDNAを合成した。
2つのcDNAを、Fc部がFc受容体に結合しないように変異の入ったFcがインサートされたpCDNATM3.4-TOPOベクター(Invitrogen社製)にそれぞれクローニングした。上記2つのベクターを293F細胞にExpiFectamineTM 293 Transfection Kit(thermos fisher社製、NO.A14525)を用いてトランスフェクションした。培養上清からHiTrap ProteinG(Merck社製、NO.GE17-0404-01)を用いて精製した抗体をTX111.2とした。
【0137】
〈抗マウスCD96中和抗体TX111.2の結合特異性〉
CD96-BW細胞1×105cellsに、10ngのTX111.2または10ngのMouse IgG2b isotypic control(TONBO社製、NO.70-4732-U100)を添加して、on iceで30分間インキュベートした。PBSで洗浄した後、APC-anti-mIgG(Biolegend社製、NO.405308)を添加し、on iceで20分間インキュベートして染色し、フローサイトメーターで解析した。
〈抗マウスCD96中和抗体TX111.2とCD155との競合阻害〉
マウスCD155遺伝子全長をhuman IgGFc遺伝子のN末側に組み込んだpMXプラスミドを293gp細胞にトランスフェクションし、マウスCD155全長をhuman IgGFcと融合させたキメラタンパク質(mCD155-huIgGFc)を得た。mCD155-huIgGFcはprotein-A agaroseを用いて精製してから以降の実験に供した。
CD96-BW細胞(T.F.)1×105cellsに、1μgのmCD155-huIgGFcを添加し、on iceで30分間インキュベートした。PBSで洗浄した後、1000ng、100ng、10ng、1ng、または0.1ngのTX111.2を添加した。室温で30分間インキュベートした後、PE-anti-huIgG(Biolegend社製、NO.410708)を添加して、on iceで20分間インキュベートして染色し、フローサイトメーターで解析した。なお、CD155-huIgGFcは、マウスCD155と、ヒトIgGのFcが融合したキメラタンパク質である。
【0138】
〈イミキモド誘発乾癬モデルマウスへの抗マウスCD96中和抗体予防的投与実験〉
C57BL/6Jマウス(野生型、8週齢、オス)の背部を剃毛し、5%イミキモドクリーム(ベセルナクリーム、持田製薬株式会社製)を62.5mg/回/匹で一日一回塗布した。naive群には、5%イミキモドクリームの代わりにワセリンを塗布した。イミキモドクリーム塗布開始日を0日とし、0日目、1日目、2日目、3日目に塗布し、3日目と4日目に解析を行った。TX111.2投与群(N=5)には、イミキモドクリーム塗布開始日の前日(-1日目)に、100μgの抗マウスCD96中和抗体TX111.2を静脈内に注射した。TX111.2の代わりに100μgのマウスIgG(cIg)を投与した群をコントロール抗体投与群(N=5)とした。マウスIgGは、293F細胞に産生させ、培養上清からHiTrap ProteinG(Merck社製、NO.GE17-0404-01)を用いて精製した。
イミキモド塗布3日目にマウス背部の皮膚の写真撮影を行った。また、イミキモド塗布4日目に紅斑、鱗屑および皮膚の厚さの評価を行い、皮膚組織標本を作製した。皮膚組織標本を観察し、表皮の厚さを測定した。
【0139】
〈イミキモド誘発乾癬モデルマウスへの抗マウスCD96中和抗体治療的投与実験〉
C57BL/6Jマウス(野生型、8週齢、オス)の背部を剃毛し、5%イミキモドクリーム(ベセルナクリーム、持田製薬株式会社製)を62.5mg/回/匹で一日一回塗布した。naive群には、5%イミキモドクリームの代わりにワセリンを塗布した。イミキモドクリーム塗布開始日を0日とし、0日目、1日目、2日目、3日目、4日目、5日目に塗布し、1日目と6日目に解析を行った。TX111.2投与群(N=6)には、イミキモドクリーム塗布開始1日目に、100μgの抗マウスCD96中和抗体TX111.2を腹腔内に注射した。TX111.2の代わりに100μgのマウスIgG(cIg)を投与した群をコントロール抗体投与群(N=6)とした。
イミキモド塗布6日目にマウス背部の皮膚の写真撮影を行った。また、イミキモド塗布1日目および6日目に紅斑、鱗屑および皮膚の厚さの評価を行った。イミキモド塗布6日目に皮膚組織標本を作製した。皮膚組織標本を観察し、表皮の厚さを測定した。
【0140】
〈EAEモデル〉
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)は、中枢神経系の炎症性脱髄疾患である。EAEは、実験動物に他の動物の中枢神経組織由来のタンパク質またはペプチド等の脳炎惹起性タンパク質(ペプチド)を接種することで、ミエリン蛋白に特異的なT細胞を誘導し、自己免疫性の脳脊髄炎を発症させるという自己免疫モデルである。脱髄はフロイントの完全アジュバント等のアジュバントで乳化した脳炎惹起性タンパク質(ペプチド)を接種することで起きる。アジュバントの存在により、これらの脳炎惹起性タンパク質(ペプチド)に対する炎症反応が起きる。多くの実験方法では血液脳関門を破綻させ、免疫細胞を中枢神経系に侵入させるため、脳炎惹起性タンパク質(ペプチド)と同時に百日咳毒素(Pertussis Toxin;PTX)の接種を行う。この接種により多発性、散在性の小脱髄領域が脳や脊髄に発生し、一連の症状を呈するようになる。
EAEは、多発性硬化症(Multiple Sclerosis:MS)、急性散在性脳脊髄炎などと多くの病態を共有することから、これらの病態研究や治療法研究において汎用されている。また、一般的にEAEはT細胞性自己免疫疾患のモデルでもある。
【0141】
〈EAEモデルマウスへの抗マウスCD96中和抗体投与実験〉
EAEモデルは、C57BL/6Jマウス(野生型、11週齢、メス)に対して、Hookie kit MOG35-55/CFA Emulsion PTX(Hooke laboratories、EK-2110)を用い、製品付属のプロトコルに従って、EAEを誘導して作製した。脳炎惹起性ペプチドとしては、ミエリンオリゴデンドロサイトタンパク質(Myelin Oligodendrocyte Glycolipid;MOG)を用いた。MOG/CFA(Complete Freund's Adjuvant)を0.1mLずつ2か所(合計0.2ml/匹)に皮下投与した。その後、PTXを0.1mL/匹で腹腔内投与した(0日目)。その翌日(1日目)、PTXを0.1mL/匹で再度腹腔内投与した。TX111.2投与群(N=5)には、MOG/CFA、PTX投与開始の前日(-1日目)に100μgの抗マウスCD96中和抗体TX111.2を腹腔内に注射した。MOG/CFA、PTX投与開始後は、1週間に2回の頻度で合計10回、100μgのTX111.2を腹腔内投与した。TX111.2の代わりに100μgのマウスIgG(cIg)を投与した群をコントロール抗体投与群(N=5)とした。
【0142】
EAE病態スコアは、EAE誘導した後毎日、製品付属のプロトコルに従い、以下のような0.5単位の0~5のスケールで評価した。0は異常なしであり、数字が大きいほど症状が重篤である。
【0143】
0:免疫されていないマウスと比較して、運動機能に明らかな変化はなし。尾の付け根で持ち上げると、尾に張りがあり、直立する。後肢は通常離れて広がっている。マウスが歩いているときに、歩行や頭の傾きはない。
【0144】
0.5:尾の先端が下垂している。尾の付け根を持ち上げると、尾の先端以外には張りが感じられる。尾が動き続けている間、筋肉の緊張が感じられる。
【0145】
1.0:尾が下垂している。尾の付け根を持ち上げると、直立せず、指の上に尾全体が垂れ下がる。後肢は通常離れて広がっている。尾の動きの兆候が観察されない。
【0146】
1.5:尾と後肢の動きが阻害されている。尾の付け根を持ち上げると、指の上に尾全体が垂れ下がる。マウスをワイヤーラックに落とすと、少なくとも1本の後肢がワイヤーを常に通り抜ける。歩行はごくわずかにぐらつく。
【0147】
2.0:AまたはB。
A:尾の下垂と、後肢の脱力感。尾の付け根で持ち上げると、足は広げられず、互いに近づく。マウスが歩いているのを観察すると、明らかにぐらついた歩行が見られる。片方の足ではつま先が引きずられる場合があるが、もう一方の足には明らかな動きの阻害はない。
B:マウスのスコアは0.0のように見えるが、歩行を観察すると、頭が傾いている明らかな兆候が見られる。バランスが悪い。
【0148】
2.5:A、BまたはC。
A:尾の下垂と後肢の引きずり。両方の後肢にはある程度の動きがあるが、両方とも足を引きずっている(後肢でつまずく)。
B:片方の足に動きがない、または片方の足を完全に引きずるが、もう一方の足には動きがある。
C:マウスをつかんだときには、EAEの重症度は軽度に見えるが(スコア0.0-1.5)、強い頭の傾きがあり、マウスがときどき転倒する。
【0149】
3.0:A、B、CまたはD。
A:尾の下垂と後肢の完全な麻痺(最も一般的)。
B:尾が下垂し、後肢がほぼ完全に麻痺している。片方または両方の後肢はバタバタ動かすことができるが、どちらの後肢も股関節より前方に移動することはできない。
C:尾が下垂し、前1本と後脚1本が麻痺している。
D:以下のa~d全てを満たす。
a:激しい頭の傾き、b:ケージの端に沿ってのみ歩く、c:ケージの壁を押す、d:尾の付け根で持ち上げると回転する。
【0150】
3.5:AまたはB。
A:尾が下垂し、後肢が完全に麻痺している。さらにマウスはケージの中を動き回るが、体の横向きに置くと、元に戻ることができない。後肢は体の片側にある。
B:マウスはケージの中を動き回るが、体の後四分の一はパンケーキのように平らで、マウスの体の前四分の一はこぶのように見える。
【0151】
4.0:尾が下垂し、後肢の完全麻痺および前肢の部分的な麻痺。マウスは、ケージの中を最小限に動き回るが、覚醒しているように見え、餌も摂取する、多くの場合、2日間4.0のスコアとなった場合、安楽死が推奨される。ただし、液体を毎日皮下注射すると、ほとんどのC57BL/6マウスは3.5または3.0に回復する可能性がある。重度の麻痺のためにマウスが安楽死させた場合、残りの実験ではそのマウスのスコアは5.0とする。
【0152】
4.5:後肢の完全麻痺および前肢の部分的な麻痺。ケージの中で動かない。マウスは覚醒していない。マウスの前肢の動きは最小限である。マウスはほとんど接触に反応しない。安楽死を推奨する。重度の麻痺のためにマウスが安楽死させられた場合、残りの実験ではそのマウスのスコアは5.0とする。
【0153】
5.0:A、BまたはC。
A:マウスはケージ内で自発的に転がってしまう。(安楽死を推奨する)。
B:マウスは麻痺のために死んでいる状態で発見される。
C:重度の麻痺のため、安楽死させる。
【0154】
≪結果≫
〈イミキモド誘発乾癬モデル〉
イミキモド誘発乾癬モデルにおける、野生型マウスおよびCD96欠損マウスの塗布開始3日目の背部の写真を図1に示す。それぞれの写真において、左のマウスがnaive(naive)群、右のマウスがイミキモド(IMQ)群である。野生型マウスでは、イミキモド群は、naive群に比べ、皮膚が発赤し、鱗屑が確認された。CD96欠損マウスでは、イミキモド群は、naive群に比べ、皮膚が発赤し、鱗屑が確認されたものの、その程度は野生型マウスに比べて減弱していた。
【0155】
塗布開始3日目の紅斑、鱗屑、および皮膚の厚さを野生型マウスとCD96欠損マウスで比較したグラフを図2に示す。紅斑と鱗屑のグラフの縦軸は、それぞれ紅斑スコア、鱗屑スコアであり、皮膚の厚さのグラフの縦軸は、皮膚の厚さ(μm)である。naive群では、野生型マウス、CD96欠損マウス共に紅斑も鱗屑も見られなかった。
【0156】
イミキモド群では、野生型マウス、CD96欠損マウス共に、naive群よりも紅斑のスコアが高いが、CD96欠損マウスでは、野生型マウスに比べ、紅斑スコアが有意に低かった。
【0157】
イミキモド群では、野生型マウス、CD96欠損マウス共に、naive群よりも鱗屑のスコアが高いが、CD96欠損マウスでは、野生型マウスに比べ、鱗屑スコアが有意に低かった。
【0158】
イミキモド群では、野生型マウス、CD96欠損マウス共に、naive群よりも皮膚が厚いが、CD96欠損マウスでは、野生型マウスに比べ、有意に皮膚が薄かった。
これらの結果から、CD96欠損により、イミキモドにより誘発される紅斑、鱗屑、皮膚肥厚の病態が減弱したことが示された。
【0159】
イミキモド塗布開始3日目のマウス背部皮膚の組織標本をHE染色した写真を図3に示す。野生型マウスでは表皮の肥厚、不全角化、真皮への好中球と単核球の浸潤等、乾癬に特徴的な病態が観察されるが、CD96欠損マウスではこれらの病態は減弱していた。表皮の厚さをグラフ化したものが図4であり、野生型マウスではイミキモド群はnaive群に比べ表皮の厚さが約4倍になるが、CD96欠損マウスでは約2倍であり、イミキモドによる表皮肥厚が減弱していた。
【0160】
皮膚中の好中球数を図5に示す。野生型マウスではイミキモド群はnaive群に比べ好中球数が劇的に増えるが、CD96欠損マウスではイミキモドによる皮膚中の好中球数増加効果が減弱していた。
【0161】
次に、ミエロイド系細胞でのIL-23産生量を調べた(図6)。野生型マウス、CD96欠損マウスどちらも、イミキモド群はnaive群に比べIL-23産生量が劇的に増えるが、野生型マウスとCD96欠損マウスの間に有意な差は見られなかった。すなわち、CD96は、イミキモドによるIL-23産生促進には関与していないと考えられる。
【0162】
さらにIL-23の受容体であるIL-23RとIL-12β1のγδT細胞における発現量を調べた(図7)。IL-23R発現量およびIL-12β1発現量について、野生型マウスとCD96欠損マウスの間に有意な差は見られなかった。すなわち、CD96は、γδT細胞におけるIL-23受容体の発現量調整には関与していないと考えられる。
【0163】
次に、γδT細胞におけるIL-17およびIL-22の産生量を調べた。野生型マウスではイミキモド群はnaive群に比べIL-17産生量が劇的に増えるが、CD96欠損マウスではイミキモド群とnaive群の間にIL-17産生量の差はなかった(図8左)。すなわち、CD96はイミキモドによるγδT細胞におけるIL-17促進に関与すると考えられる。IL-22の産生量は、野生型マウス、CD96欠損マウス共に、イミキモド群ではnaive群に比べ増えるが、CD96欠損マウスでは野生型マウスに比較して増加が減弱していた(図8右)。すなわち、CD96はイミキモドによるγδT細胞におけるIL-22産生促進に関与すると考えられる。
【0164】
γδT細胞におけるIL-17産生細胞の割合、およびIL-17産生細胞の数を図9に示す。野生型マウスでは、イミキモド群はnaive群に比べIL-17産生細胞の割合が増加するが、CD96欠損マウスではイミキモドによるIL-17産生細胞の割合の増加が減弱された。また、IL-17産生細胞数も、野生型マウスでは、イミキモド群はnaive群に比べ増加するが、CD96欠損マウスではイミキモドによるIL-17産生細胞数の増加が減弱された。すなわち、CD96は、イミキモドによるγδT細胞におけるIL-17産生細胞の増加に関与すると考えられる。
【0165】
以上の結果から、イミキモド誘発乾癬モデルにおいて、CD96は、乾癬の病態に大きく関与することが示された。また、そのメカニズムとしては、CD96は、樹状細胞等のミエロイド系の細胞におけるIL-23の産生のステップおよびγδT細胞におけるIL-23受容体の産生のステップには関与せず、IL-23により活性化されたγδT細胞がIL-17を産生するステップにおいて重要な役割を果たし、CD96はIL-17産生を増加させることが考えられた。したがって、CD96のシグナルを阻害すれば、IL-17産生を抑制することができ、乾癬を治療または予防することができると推測される。さらに、CD96からのシグナルを阻害すれば、乾癬以外の、IL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態をも治療または予防することができると推測される。
〈マウス脾臓由来γδT細胞におけるIL-17産生〉
【0166】
次に、CD96は、どのようなメカニズムでγδT細胞のIL-17産生を増加させるかを野生型マウス脾臓由来γδT細胞を用いて解析した。IL-23の添加の有無によるIL-17産生量を比較したグラフを図10に示す。IL-23により、γδT細胞におけるIL-17産生量が増加することがわかる。プレートに固相化された抗CD96抗体(a-CD96)によりCD96を刺激したが、コントロール抗体であるラットIgG2a(rG2a)の場合と比べてIL-17産生量に有意差は見られなかった。すなわち、CD96は、IL-17産生を増加させるIL-23シグナルは増強しないことが示された。なお、in vivoでは、CD96がターゲット細胞上のCD155を認識する事で活性化するが、in vitroでは、固相化された抗CD96抗体でCD96を刺激する事ができる。
【0167】
〈γδT細胞におけるIL-17産生メカニズム〉
イミキモド誘発乾癬モデルにおいては、T細胞受容体(TCR)シグナル抑制剤であるAX-024を投与すると乾癬病態が減弱することから、乾癬病態の誘導にはTCRシグナルが必要であると報告されている(Science translational medicine、2016年)。すなわち、乾癬病態の誘導にはサイトカインだけでなく、TCRを介したT細胞活性化が必須であると考えられている。
【0168】
そこで、T細胞受容体と複合体を形成しているCD3を、固相化された抗CD3抗体で刺激してγδT細胞を活性化させ、それに対するCD96の影響を調べた。なお、in vivoでは、T細胞受容体が自然免疫系の細胞(特に樹状細胞)から提示される抗原を認識する事でT細胞は活性化するが、in vitroでは、T細胞受容体と複合体を形成するCD3を、固相化された抗CD3抗体で刺激する事でT細胞を活性化する事ができる。
【0169】
図11に示すように、CD3シグナルだけではIL-17産生量は変化せず、固相化された抗CD3抗体(a-CD3)に加え、IL-23を添加すると、IL-17産生は大きく上昇した。また、固相化された抗CD96抗体(a-CD96)によりCD96を刺激すると、IL-17産生はさらに大きく上昇した。このとき、γδT細胞が活性化しているかどうかを調べた結果を図12に示す。固相化された抗CD96抗体(a-CD96)を用いたCD96刺激により、T細胞活性化マーカーであるCD69およびCD25の発現量は増加した。すなわち、γδT細胞のIL-17産生は、CD96がγδT細胞のT細胞受容体シグナルを増強させることにより、γδT細胞を活性化させたことにより増加すると考えられる。したがって、CD96シグナルを阻害すれば、γδT細胞のT細胞受容体シグナルは増強されず、γδT細胞の活性化が抑制され、γδT細胞のIL-17産生が抑制されると推測される。
【0170】
〈ヒトPBMC由来γδT細胞およびCD4+T細胞におけるCD96の発現〉
図13左より、ヒトPBMC由来γδT細胞にはCD96が発現していることが示された。図13右より、ヒトPBMC由来CD4+T細胞にもCD96が発現していることが示された。
【0171】
〈ヒトPBMC由来γδT細胞におけるIL-17産生〉
図14に示すように、7人の全ての被験者(Human Volunteer;HV1~7)由来のγδT細胞において、固相化された抗CD96抗体(a/CD96)によりCD96を刺激すると、コントロール(mIgG1)に比べ、IL-17産生は大きく上昇した。この結果から、マウス脾臓由来γδT細胞と同様に、CD96がヒトPBMC由来γδT細胞のT細胞受容体シグナルを増強させることにより、IL-17産生が増加すると考えられる。
【0172】
〈ヒトPBMC由来γδT細胞の活性化〉
図15に示すように、6人の全ての被験者(HV1~6)由来のγδT細胞において、固相化された抗CD96抗体(a/CD96)によりCD96を刺激すると、コントロール(mIgG1)に比べ、T細胞活性化マーカーであるCD69およびCD25の発現量は増加した。すなわち、γδT細胞のIL-17産生は、CD96がγδT細胞のT細胞受容体シグナルを増強させることにより、γδT細胞を活性化させたことにより増加すると考えられる。
【0173】
〈ヒトPBMC由来CD4+T細胞におけるIL-17産生〉
図16に示すように、8人の全ての被験者(HV1~8)由来のCD4+T細胞において、固相化された抗CD96抗体(a/CD96)によりCD96を刺激すると、コントロール(mIgG1)に比べ、IL-17産生は大きく上昇した。この結果から、ヒトPBMC由来CD4+T細胞においても、CD96がT細胞受容体シグナルを増強させることにより、IL-17産生が増加すると考えられる。
【0174】
〈ヒトPBMC由来CD4+T細胞の活性化〉
図17に示すように、6人の全ての被験者(HV1~6)由来のCD4+T細胞において、固相化された抗CD96抗体(a/CD96)によりCD96を刺激すると、コントロール(mIgG1)に比べ、T細胞活性化マーカーであるCD69およびCD25の発現量は増加した。すなわち、ヒトPBMC由来CD4+T細胞のIL-17産生は、CD96がT細胞受容体シグナルを増強させることにより、CD4+T細胞を活性化させたことにより増加すると考えられる。
【0175】
〈ヒトPBMC由来CD4+T細胞のIL-17産生に対する抗CD96中和抗体の作用〉
図18中、Stimulationの行は、CD4+T細胞を刺激するために固相化に用いたものを示す。また、blockingの行は、他の分子のCD96への結合をブロックするために、CD4+T細胞とあらかじめ混合しておいたものを示す。抗CD3抗体(a/CD3)に加え、hCD155-Fcをプレートに固相化してCD96を刺激すると、固相化された抗CD3抗体のみで刺激したときよりも、CD4+T細胞におけるIL-17産生は有意に増加した。また、抗CD96中和抗体(neutral a/CD96)をCD4+T細胞とあらかじめ混合しておくと、hCD155-FcのCD96への結合はブロックされ、PBSを混合しておいた場合に比べて、CD4+T細胞におけるIL-17産生は有意に抑制された。すなわち、抗CD96中和抗体は、ヒトPBMC由来CD4+T細胞の免疫応答の一つであるIL-17産生を抑制した。この結果から、抗CD96中和抗体は、IL-17産生細胞の免疫応答抑制剤として用いることができ、さらには、IL-17により炎症が惹起される疾患の予防および治療に有効である可能性が示唆された。
【0176】
〈CD96の機能〉
以上の結果から、CD96は、γδT細胞やCD4+T細胞等のIL-17産生細胞において、免疫応答の活性化受容体として機能することが示された。さらに、IL-17産生細胞におけるCD96のこの機能は、マウスとヒトにおいて共通していることが示された。
【0177】
したがって、マウスにおいてもヒトにおいても、CD96シグナルを阻害すれば、γδT細胞やCD4+T細胞のT細胞受容体シグナルは増強されず、γδT細胞やCD4+T細胞の活性化が抑制され、IL-17産生が抑制されると推測される。
【0178】
CD96が免疫制御系において果たす役割は、未だ不明なことが多い。例えば、マウスNK細胞においては、CD96は免疫抑制性の受容体として機能することが知られている。そのため、抗CD96抗体は、免疫抑制を低減、すなわち免疫応答を活性化する薬剤として使用できる可能性が報告されている。ヒトNK細胞においては、CD96は、はじめは、免疫を活性化する受容体として報告された(Anja Fuchs et.al.、J Immunol、2004、172、3994-3998、Cutting Edge: CD96(Tactile)Promotes NK Cell-TargetCell Adhesion by Interacting with the Poliovirus Receptor(CD155))。しかし、現在では、ヒトNK細胞においてCD96が活性化受容体、抑制性受容体どちらとして機能するか議論されているところである。このため、K細胞をターゲットとした場合、ヒトでは抗CD96抗体は、免疫応答を活性化しない可能性がある。一方で、本発明者らは、IL-17産生細胞におけるCD96は、マウスでもヒトでも、免疫応答の活性化受容体として機能することを見出した。すなわち、IL-17産生細胞におけるCD96の機能は種間を超えて共通であると考えられるから、本発明のIL-17産生細胞の免疫応答抑制剤は、マウスでもヒトでも同様に、免疫応答を抑制すると予測される。
【0179】
〈抗CD96中和抗体TX111.2〉
図19より、抗CD96抗体TX111.2は、CD96に対して特異性を有することが示された。図20より、抗CD96抗体TX111.2の濃度依存的に蛍光値が減少しており、抗CD96抗体TX111.2は、CD96のナチュラルリガンドであるCD155と、CD96への結合を競合することが示された。すなわち、抗CD96抗体TX111.2は、CD96とCD155の結合を阻害する、抗CD96中和抗体であることが示された。
【0180】
TX111.2の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列を図21に示す。図21中、重鎖可変領域および軽鎖可変領域におけるCDR(complementarity determining region)1~3には、下線を付して示した。
【0181】
〈イミキモド誘発乾癬モデルマウスへの抗マウスCD96中和抗体予防的投与実験〉
イミキモド誘発乾癬モデルにおける、TX111.2投与群およびcIg投与群の塗布開始3日目の背部の写真を図23に示す。cIg投与群では、皮膚が発赤し、鱗屑が確認された。TX111.2投与群では、皮膚が発赤し、鱗屑が確認されたものの、その程度はcIg投与群に比べて減弱していた。
【0182】
塗布開始4日目の紅斑、鱗屑、および皮膚の厚さをTX111.2投与群とcIg投与群とで比較したグラフを図24に示す。紅斑と鱗屑のグラフの縦軸は、それぞれ紅斑スコア、鱗屑スコアであり、皮膚の厚さのグラフの縦軸は、皮膚の厚さ(μm)である。naive群では、TX111.2投与群およびcIg投与群共に紅斑も鱗屑も見られなかった。
【0183】
イミキモド群(IMQ)では、TX111.2投与群およびcIg投与群共に、naive群よりも紅斑のスコアが高いが、TX111.2投与群ではcIg投与群に比べ、紅斑スコアが有意に低かった。
【0184】
イミキモド群では、TX111.2投与群およびcIg投与群共に、naive群よりも鱗屑のスコアが高いが、TX111.2投与群ではcIg投与群に比べ、鱗屑スコアが有意に低かった。
【0185】
イミキモド群では、TX111.2投与群およびcIg投与群共に、naive群よりも皮膚が厚いが、TX111.2投与群ではcIg投与群に比べ、有意に皮膚が薄かった。
これらの結果から、TX111.2投与により、イミキモドにより誘発される紅斑、鱗屑、皮膚肥厚の病態が減弱したことが示された。
【0186】
イミキモド塗布開始4日目のマウス背部皮膚の組織標本をHE染色した写真を図25左に示す。cIg投与群では表皮の肥厚、不全角化、真皮への好中球と単核球の浸潤等、乾癬に特徴的な病態が観察されたが、TX111.2投与群ではこれらの病態は減弱していた。表皮の厚さをグラフ化したものが図25右であり、cIg投与群ではイミキモド群はnaive群に比べ表皮の厚さが約4倍になったが、TX111.2投与群では約2倍であり、イミキモドによる表皮肥厚が減弱していた。
【0187】
これらの結果から、抗マウスCD96中和抗体TX111.2は、乾癬の予防効果を有することが示された。
【0188】
〈イミキモド誘発乾癬モデルマウスへの抗マウスCD96中和抗体治療的投与実験〉
イミキモド誘発乾癬モデルにおける、TX111.2投与群およびcIg投与群の塗布開始6日目の背部の写真を図27に示す。cIg投与群では、皮膚が発赤し、鱗屑が確認された。TX111.2投与群では、皮膚が発赤し、鱗屑が確認されたものの、その程度はcIg投与群に比べて減弱していた。
【0189】
塗布開始1日目(D1)および6日目(D6)の紅斑、鱗屑、および皮膚の厚さをTX111.2投与群とcIg投与群とで比較したグラフを図28に示す。紅斑と鱗屑のグラフの縦軸は、それぞれ紅斑スコア、鱗屑スコアであり、皮膚の厚さのグラフの縦軸は、皮膚の厚さ(μm)である。
【0190】
塗布開始6日目(D6)には、TX111.2投与群およびcIg投与群共に、塗布開始1日目(D1)よりも紅斑のスコアが高いが、TX111.2投与群ではcIg投与群に比べ、紅斑スコアが低かった。
【0191】
塗布開始6日目(D6)には、TX111.2投与群およびcIg投与群共に、塗布開始1日目(D1)ではゼロであった鱗屑のスコアが高くなるが、TX111.2投与群ではcIg投与群に比べ、鱗屑スコアが有意に低かった。
【0192】
塗布開始6日目(D6)には、TX111.2投与群およびcIg投与群共に、塗布開始1日目(D1)よりも皮膚が厚いが、TX111.2投与群ではcIg投与群に比べ、有意に皮膚が薄かった。
これらの結果から、TX111.2投与により、イミキモドにより誘発される紅斑、鱗屑、皮膚肥厚の病態が減弱したことが示された。
【0193】
イミキモド塗布開始6日目のマウス背部皮膚の組織標本をHE染色した写真を図29左に示す。cIg投与群では表皮の肥厚、不全角化、真皮への好中球と単核球の浸潤等、乾癬に特徴的な病態が観察されたが、TX111.2投与群ではこれらの病態は減弱していた。表皮の厚さをグラフ化したものが図29右であり、cIg投与群に比べ、TX111.2投与群では表皮肥厚が有意に減弱していた。
【0194】
これらの結果から、抗マウスCD96中和抗体TX111.2は、乾癬の治療効果を有することが示された。
【0195】
〈EAEモデルマウスへの抗マウスCD96中和抗体投与実験〉
EAEモデルマウスにおける、TX111.2投与群およびcIg投与群のEAE病態スコアの変化を図31に示す。cIg投与群では、EAE誘導後9日目からEAE病態スコアが上昇した。TX111.2投与群では、EAE病態スコアが上昇したのは、EAE誘導後12日目であった。TX111.2投与群のEAE病態スコアはcIg投与群に比べて、試験期間中、常に低かった。
【0196】
この結果から、抗マウスCD96中和抗体TX111.2は、多発性硬化症の予防および治療効果を有することが示された。
【0197】
本発明者らは、IL-17を産生するγδT細胞においてCD96が発現していることを新たに見出した。また、γδT細胞とCD4+T細胞において、CD96が活性化受容体として機能していること、さらにCD96シグナルがIL-17産生を促進することを見出した。そして、抗CD96中和抗体が、IL-17により炎症が惹起される疾患である乾癬および多発性硬化症の予防および治療に有効であることをモデルマウスを用いて示した。
【0198】
既存の抗IL-17A抗体、抗IL-17A受容体抗体等のIL-17阻害薬は、IL-17による全身での免疫活性を抑制してしまうので、感染症や好中球減少等の副作用が懸念される。本発明者らは、炎症部位の特定の細胞においてIL-17が産生される機構を明らかにし、その機構の一部を阻害することによりIL-17の産生を抑制する免疫抑制剤を見出した。本発明の免疫抑制剤は、炎症の部位特異的に作用するから、副作用の懸念が少ないと期待される。
【産業上の利用の可能性】
【0199】
本発明によれば、乾癬などの病態を引き起こす、IL-17産生細胞の免疫応答を抑制するための免疫応答抑制剤、さらにIL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するための医薬品を提供できる。また、γδT細胞における免疫応答を誘導するための方法を提供することができる。さらにIL-17産生細胞の免疫応答が関与する疾病または病態を治療または予防するための医薬品の評価方法を提供することができる。γδT細胞における免疫応答を誘導しIL-17を産生する方法を提供することができる。
図1
図2
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【配列表】
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