(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】シート
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20241025BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20241025BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
C08J5/04
B32B5/28 Z
C08J5/18
(21)【出願番号】P 2022203397
(22)【出願日】2022-12-20
【審査請求日】2024-06-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀越 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌広
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-123869(JP,A)
【文献】特開2017-210712(JP,A)
【文献】特開2022-155497(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04
B32B 5/28
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維織物と、前記ガラス繊維織物に含浸された状態で含まれる硬化樹脂層を含む、シートであって、
前記硬化樹脂層が(A)臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂、及び(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレート、を含む樹脂組成物の硬化物により形成されて
おり、
前記硬化樹脂層上に熱可塑性樹脂層が積層されている、シート。
【請求項2】
前記アルキレンオキサイド基の付加モル数が2~10である、請求項1に記載のシート。
【請求項3】
前記シートの全光線透過率が80%以上であり、ヘーズが20%以下である、請求項1又は2に記載のシート。
【請求項4】
50kW/m
2の輻射熱を照射する発熱性試験に供した際に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m
2以下になる、請求項1又は2に記載のシート。
【請求項5】
50kW/m
2の輻射熱を照射する発熱性試験に供した際に、加熱開始後20分間、発熱速度が10秒以上継続して200kW/m
2を超えない、請求項1又は2に記載のシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに関する。
【背景技術】
【0002】
建築基準法及び建築基準法施行令は、建築物の火災時に発生する煙、有毒ガスなどの流動を妨げて、避難及び消火活動が円滑に行えるように、排煙設備を設けることを規定している。従って、オフィスビル、商業施設などの建築物には、排煙設備及び遮煙設備として、防煙垂壁などが設置されることが多い。
【0003】
防煙垂壁は、火災発生時の煙、有毒ガスなどが廊下や上層階へ流動することを一時的に遮断し、避難に必要な時間を確保することなどを目的として、通常、建築物の天井に取り付けられている。このため、防煙垂壁によって視野が妨げられたり、美観が損なわれないよう、防煙垂壁としては、透明板ガラス、ガラス繊維と樹脂との透明樹脂複合体などが用いられている。ガラス繊維と樹脂との透明樹脂複合体は、透明板ガラスに比して割れにくいという利点を有する。
【0004】
上記透明樹脂複合体として、少なくとも1枚のガラス繊維織物と、前記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と、を含むシートであって、前記ガラス繊維織物が20~70重量%であり、前記一対の硬化樹脂層が80~30重量%であり、前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下であり、前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下であるシートが知られている(例えば特許文献1参照。)。
【0005】
また、少なくとも1枚のガラス繊維織物と、当該ガラス繊維織物に含浸される光硬化樹脂と、を有する不燃性シートであって、前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と、前記光硬化樹脂との屈折率との差が0.02以下であり、前記不燃性シートに対する前記ガラス繊維織物の割合が20~70重量%、前記不燃性シートに対する前記光硬化樹脂の割合が80~30重量%であり、前記光硬化樹脂は、少なくとも臭素化ビスフェノールA型ビニルエステルを含有する組成物を硬化させたものである不燃性シートが知られている(例えば特許文献2参照。)。
【0006】
また、臭素を5質量%~20質量%含有し、厚さが100μm~150μmである第1ポリカーボネートシート層と、前記第1ポリカーボネートシート層に積層され、目付が30g/m2~80g/m2のガラス繊維織物に含浸された、臭素を10質量%~30質量%含有する硬化樹脂組成物を含む硬化樹脂組成物層と、前記硬化樹脂組成物層に積層され、臭素を5質量%~20質量%含有し、厚さが100μm~150μmである第2ポリカーボネートシート層と、を備える積層体からなり、厚さが300μm~400μmである、透明不燃シートが知られている(例えば特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-319746号
【文献】特開2014-213489号
【文献】特開2020-1172号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、特許文献1に開示されているシートは、硬化樹脂層を硬化した後、硬化樹脂層の表面にベタツキが生じる場合があることを知得した。ベタツキが生じた場合、例えば、これをロール製品にした場合にシートの引き出しが困難になりやすくなる場合があることを知得した。また、シートの引裂強さを向上させる等の目的で硬化樹脂層上にフィルム層等熱可塑性樹脂層を積層した場合に当該熱可塑性樹脂層の接着性が劣るものとなりやすくなるという問題があることを知得した。
【0009】
また、本発明者は、特許文献2に開示されている不燃性シート及び特許文献3に開示されている透明不燃シートは、ガラス繊維織物に含浸された状態で含まれる硬化樹脂層が耐折性に劣る場合があるという問題があることを知得した。具体的に、上記シートを繰り返し湾曲させた場合、破断が生じやすく、耐折性に劣るという問題があることを知得した。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題を解決し、ガラス繊維織物に含浸された状態で含まれる硬化樹脂層について、ベタツキを抑制し耐折性に優れたものとすることを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者が上記問題について検討したところ、特許文献1では硬化樹脂層を形成する硬化樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を原料とする、所謂ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂のみを用いている。そして、硬化樹脂層を形成する硬化樹脂としてビスフェノールA型ビニルエステル樹脂を単独で用いた場合、硬化反応が比較的進みにくく、硬化樹脂層の表面にベタツキが生じる場合があることを知得した。
【0012】
一方、本発明者は、ビニルエステル樹脂の中でも、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂を原料とする、所謂臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂を硬化樹脂層に含有させた場合、硬化反応が比較的進みやすくなり、硬化樹脂層の表面に生じるベタツキを抑制できることを見出した。しかし、臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂の屈折率は、ガラス繊維織物の屈折率より相当高い。従って、単に臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂をガラス繊維織物に含浸するのみではガラス繊維織物と硬化樹脂層の屈折率が近似せず、得られるシートは透明性に劣るものとなる。そこで、臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂を含有させる場合は、硬化樹脂層の屈折率をガラス繊維織物に近似したものとすべく、硬化樹脂組成物中に、屈折率が比較的低い材料も含有させることが必要となる。
【0013】
この点、特許文献2では、臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂の屈折率調整剤として、2官能メタクリレートであるネオペンチルグリコールジメタクリレートを用いることが開示されている。また、特許文献3では、フェノキシエチルアクリレート及び2-エチルへキシルアクリレートを用いることが開示されている。しかし、本発明者は、臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂の屈折率調整剤として、これら屈折率調整剤を含有させた場合、硬化樹脂層が耐折性に劣りやすくなることを知得した。
【0014】
そこで、本発明者が鋭意検討を重ねた結果、硬化樹脂層が(A)臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂及び(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレート、を含む樹脂組成物の硬化物により形成されているものとすることにより、上記問題を解決できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づき、さらに鋭意検討を重ねることにより完成された発明である。
【0015】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1.ガラス繊維織物と、前記ガラス繊維織物に含浸された状態で含まれる硬化樹脂層を含む、シートであって、前記硬化樹脂層が(A)臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂、及び(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレート、を含む樹脂組成物の硬化物により形成されている、シート。
項2.前記アルキレンオキサイド基の付加モル数が2~10である、項1に記載のシート。
項3.前記硬化樹脂層上に熱可塑性樹脂層が積層されている、項1又は2に記載のシート。
項4.前記シートの全光線透過率が80%以上であり、ヘーズが20%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のシート。
項5.50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験に供した際に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下になる、請求項1~4のいずれか1項に記載のシート。
項6.50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験に供した際に、加熱開始後20分間、発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えない、項1~5のいずれか1項に記載のシート。
【発明の効果】
【0016】
本発明のシートによれば、ガラス繊維織物と、前記ガラス繊維織物に含浸された状態で含まれる硬化樹脂層を含む、シートであって、前記硬化樹脂層が(A)臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂及び(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレート、を含む樹脂組成物の硬化物により形成されていることから、ベタツキを抑制し耐折性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のシートの一態様を説明する横断面模式図である。
【
図2】本発明のシートの一態様を説明する横断面模式図である。
【
図3】一般財団法人建材試験センターの「防耐火性能試験・評価業務方法書」(2021年7月1日変更版)における「4.9.2 発熱性試験」を行う際に使用する試験装置の概略を示す図である。
【
図4】一般財団法人建材試験センターの「防耐火性能試験・評価業務方法書」(2021年7月1日変更版)における「4.9.2 発熱性試験」を行う際に使用する試験装置に含まれる試験ホルダー及び押さえ枠の概略図である。
図4中に示す数値(寸法)の単位はmmである。
【
図5】引裂強さの測定方法を説明する略図的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のシートは、ガラス繊維織物と、前記ガラス繊維織物に含浸された状態で含まれる硬化樹脂層を含む、シートであって、前記硬化樹脂層が(A)臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂及び(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレート、を含む樹脂組成物の硬化物により形成されていることを特徴とする。
【0019】
例えば、
図1及び2に示すように、本発明のシート1は、ガラス繊維織物2と、ガラス繊維織物2に含浸された状態で含まれる硬化樹脂層3を含み、硬化樹脂層3が(A)臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂及び(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレート、を含む樹脂組成物の硬化物により形成されている。
【0020】
本発明のシート1において、ガラス繊維織物2は、少なくとも1枚含まれていればよく、複数枚含まれていてもよい。また、
図1及び2に示されるように、本発明のシート1において、硬化樹脂層3は、ガラス繊維織物2を構成しているガラス繊維の隙間を埋めており、硬化樹脂層3の一方の表面側部分と、他方の表面側部分とは、当該隙間を介して通じている。また、本発明のシート1は、硬化樹脂層3を複数層含むようにすることができる。また、1層の硬化樹脂層3に複数枚のガラス繊維織物2が含まれるようにすることもできる。
【0021】
本発明のシート1において、硬化樹脂層3以外の他の層を設けてもよい。例えば、
図2に示すように、本発明のシート1は、熱可塑性樹脂層4を含んでいてもよい。熱可塑性樹脂層4は、硬化樹脂層3よりも外側に1層ずつ含まれていることが好ましい。また、熱可塑性樹脂層4を設ける場合、硬化樹脂層3と熱可塑性樹脂層4との間には他の層を設けてもよく、当該他の層として、例えば接着剤層を設けることができる。以下、本発明のシート1を構成する各層について詳述する。
【0022】
[ガラス繊維織物2]
本発明のシート1において、ガラス繊維織物2は、後述する硬化樹脂層3が含浸された状態で含まれる。本発明のシート1において、ガラス繊維織物2は、該シートの不燃性の向上に寄与する。そして、ガラス繊維織物2の屈折率は、後述する硬化樹脂層3の屈折率と近似するように設定することができ、これにより、後述する本発明のシート1の透明性の好ましい指標である全光線透過率80%以上、ヘーズ20%以下という構成にすることができる。換言すれば、上記本発明のシート1が備える好ましい透明性の指標である、全光線透過率が80%以上、ヘーズが20%以下という構成は、少なくとも、ガラス繊維織物2の屈折率と後述する硬化樹脂層3の屈折率とが十分に近似(例えば、ガラス繊維織物2の屈折率と硬化樹脂層3の屈折率との差が0.02以下となっていることが挙げられる。)していることを示す。
【0023】
本発明のシート1において、ガラス繊維織物2の織組織としては、特に制限されず、例えば、平織、朱子織、綾織、斜子織、畦織などが挙げられ、平織が好ましい。
【0024】
ガラス繊維織物2を構成するガラス繊維のガラス材料としては、特に制限されず、例えば公知のガラス材料を用いることができる。ガラス材料としては、例えば、無アルカリガラス(Eガラス)、耐酸性の含アルカリガラス(Cガラス)、高強度・高弾性率ガラス(Sガラス、Tガラス等)、耐アルカリ性ガラス(ARガラス)等が挙げられ、好ましくは汎用性の高い無アルカリガラス(Eガラス)が挙げられる。ガラス繊維織物2を構成するガラス繊維は、1種類のガラス材料からなるものであってもよいし、異なるガラス材料からなるガラス繊維を2種類以上組み合わせたものであってもよい。また、透明性を向上させる観点から、後述する、硬化樹脂層3の屈折率と近似するガラス材料を選択することが好ましい。
【0025】
ガラス繊維織物2を構成するガラス繊維の番手は、ガラス繊維織物2を形成できれば、特定のものに制限されない。ガラス繊維の番手としては、透明性をより一層向上するという観点から、好ましくは20tex以下が挙げられ、3~6texが好ましく、3~5texがより好ましい。ガラス繊維の番手は、1種類単独であってもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。なお、ガラス繊維のtex番手は、1000m当たりのグラム数に相当している。
【0026】
ガラス繊維織物2を構成するガラス繊維としては、ガラス長繊維である単繊維が複数本撚りまとめられたガラスヤーンが好ましい。ガラスヤーンにおける単繊維の本数は、30~400本程度が好ましく、40~120本程度がより好ましい。また、ガラスヤーンにおける単繊維の直径は、シート1の透明性をより一層向上させる観点から3.0~6.0μm程度が好ましく、3.0~5.0μm程度がより好ましい。ガラスヤーンの番手は、シート1の不燃性を向上させつつシート1の透明性をより一層向上させる観点から2~30texが好ましく、2~12texがより好ましく、2~6texがさらに好ましい。
【0027】
シート1において、ガラス繊維織物2の総質量(g/m2)と後述の硬化樹脂層3の総質量(g/m2、ガラス繊維織物2は除く。)との合計量(g/m2)に対する、シート1中のガラス繊維織物2の総質量の割合(質量%)は、シート中の樹脂重量を大きくした場合に、透明性を向上させることと、不燃性を向上させることとの両立をより一層図る観点から、20~60質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましい。また、シート1の全質量(g/m2)に対するシート1中のガラス繊維織物2の総質量(g/m2)の割合(質量%)としては、透明性を向上させることと、不燃性を向上させることとの両立をより一層図る観点から、5~60質量%が好ましい。
【0028】
ガラス繊維織物2と後述の硬化樹脂層3の屈折率の差としては、好ましくは0.02以下、より好ましくは0.01以下が挙げられる。ガラス繊維織物2の屈折率としては、好ましくは1.50~1.58程度、より好ましくは1.53~1.57程度が挙げられる。
【0029】
なお、上記ガラス繊維織物2の屈折率の測定は、日本工業規格JIS K 7142:2008のB法に準じて行う。具体的には、まず、ガラス繊維織物を構成するガラス繊維を、光学顕微鏡を用いて倍率400倍で観察したときにベッケ線が観察できる程度に粉砕する。そして、光源としてハロゲンランプにD線用の干渉フィルターを設けたものを用い、光学顕微鏡を用いて、倍率400倍、温度23℃の条件で観察、測定し、試験数3回の平均値を屈折率の値とする。また、硬化樹脂層3の屈折率の測定は、日本工業規格JIS K 7142:2008のB法に準じて行う。具体的には、硬化樹脂層3を、光学顕微鏡を用いて倍率400倍で観察したときにベッケ線が観察できる程度に粉砕する。そして、光源としてハロゲンランプにD線用の干渉フィルターを設けたものを用い、光学顕微鏡を用いて、倍率400倍、温度23℃の条件で観察、測定し、試験数3回の平均値を屈折率の値とする。
【0030】
ガラス繊維織物2と硬化樹脂層3とのアッベ数の差としては、30以下が好ましく、20以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。ガラス繊維織物2のアッベ数としては、30~80が好ましく、40~70がより好ましく、50~65がさらに好ましい。なお、硬化樹脂層3及びガラス繊維織物2のアッベ数は、それぞれ、次のように測定する。
【0031】
(硬化樹脂層3のアッベ数)
硬化樹脂層3を構成する樹脂を用いて、ガラス繊維織物2が含まれていないシートを、幅8mm、長さ20mm、厚さ1mmとして作製し、日本工業規格JIS K 7142A法に準じ、アッベ屈折計として(株)アタゴ製のDR-M2、接触液としてジヨードメタンを使用し、干渉フィルターとしてD線(589nm)、F線(486nm)、C線(656nm)を用い、測定温度を23℃とした。D線、F線、C線それぞれの屈折率を測定し、下記式(I)に従い、アッベ数を算出する。
アッベ数=(nD-1)/(nF-nC) (I)
nD:D線での屈折率
nF:F線での屈折率
nC:C線での屈折率
【0032】
(ガラス繊維織物2のアッベ数)
ガラス繊維を構成するガラス材料を用いて、幅8mm、長さ20mm、厚さ1mmとして作製し、日本工業規格JIS K 7142A法に準じ、アッベ屈折計として(株)アタゴ製のDR-M2、接触液としてジヨードメタンを使用し、干渉フィルターとしてD線(589nm)、F線(486nm)、C線(656nm)を用い、測定温度を23℃とした。D線、F線、C線それぞれの屈折率を測定し、下記式(I)に従い、アッベ数を算出する。
アッベ数=(nD-1)/(nF-nC) (I)
nD:D線での屈折率
nF:F線での屈折率
nC:C線での屈折率
【0033】
ガラス繊維織物2の1枚あたりの厚さとしては、シート1の不燃性を向上させつつシート1の透明性をより一層向上させる観点から、例えば10~100μm程度が挙げられ、10~55μmが好ましく挙げられ、10~35μm程度がより好ましく挙げられる。ガラス繊維織物2の1枚の厚さは、日本工業規格JIS R3420:2013「ガラス繊維一般試験方法」の「7.10.1 クロスの厚さ」に規定されているA法に準じて測定される値である。また、ガラス繊維織物2の1枚あたりの質量としては、例えば、10~60g/m2、好ましくは25~50g/m2、より好ましくは25~35g/m2が挙げられる。ガラス繊維織物2の厚みを10~35μmとする場合、ガラス繊維織物2は、下記式(II)にて算出されるガラス体積率が38%以上であることが特に好ましい。10~35μmの厚さであって、ガラス体積率が38%以上であるガラス繊維織物2は、例えば、ガラス繊維織物に開繊処理を施すことにより得られる。
【0034】
ガラス体積率(%)=(A/(B×C))×100 (II)
A:ガラス繊維織物の質量(g/m2)
B:ガラス繊維織物を構成するガラス材料の比重(g/m3)
C:ガラス繊維織物の厚さ(m)
【0035】
[硬化樹脂層3]
本発明のシートは、ガラス繊維織物に含浸された状態で含まれる硬化樹脂層を含み、当該硬化樹脂層が、(A)臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂、及び(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレート、を含む樹脂組成物の硬化物により形成されている。
【0036】
前述のように、本発明者は、(A)臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂を硬化樹脂層に含有させた場合、硬化反応が比較的進みやすくなり、硬化樹脂層の表面に生じるベタツキを抑制できることを見出した。ここで、(A)臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂を含有させる場合は、硬化樹脂層の屈折率をガラス繊維織物に近似したものとすべく、硬化樹脂組成物中に、屈折率が比較的低い材料も含有させることが必要となる。ここで、本発明者は、(A)臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂を含有させる場合の屈折率調整剤として、特許文献2及び3に開示されたものを使用した場合、得られる硬化樹脂層が耐折性に劣るものになることを知得した。そして、本発明者が鋭意検討を重ねた結果、(A)臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂を含有させる際の屈折率調整剤として、(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレートを含有させることにより、得られる硬化樹脂層が耐折性にも優れたものとなることを見出したのである。
【0037】
アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレートとしては、特に制限されない。例えば、下記一般式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0038】
R1-O-(R2O)n-R3・・・(I)
(但し、R1はアクリロイル基又はメタクリロイル基であり、R2は炭素数1~40の2価の鎖式炭化水素基であり、R3は炭素数1~40の1価の鎖式炭化水素基であり、nは2~50の整数である。)
【0039】
前記した一般式(I)で表される化合物において、R2としては、炭素数が1~5の2価の鎖式炭化水素基であることが好ましい。また、R3としては、炭素数1~5の1価の鎖式炭化水素基であることが好ましい。また、nは2~10であることが好ましい。前記した一般式(I)で表される化合物としては、シートの耐折性を一層優れたものとする観点から、一般式(I)中のR2が炭素数1~5の2価の鎖式炭化水素基であり、R3は炭素数1~5の1価の鎖式炭化水素基であり、nが2~10であるものが好ましく、一般式(I)中のR2が炭素数1~5の2価の鎖式炭化水素基であり、R3は炭素数1~5の1価の鎖式炭化水素基であり、nが2~4(すなわち、アルキレンオキサイド基の付加モル数が2~4)であるものがより好ましい。また、シートを高温環境下に放置した後にも透明性をより維持しやすくするという観点からは、上記nは3~10が好ましく、2~9がより好ましい。また、シートの耐折性を一層優れたものとすることと、シートを高温環境下に放置した後にも透明性をより維持しやすくすることとを、より一層両立させやすくする観点からは、上記nは3~4が好ましい。
【0040】
アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート、メトキシ-トリエチレングリコールアクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコールアクリレート又はメトキシ-ポリエチレングリコールアクリレートが挙げられる。
【0041】
硬化樹脂層3は、(A)臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂、及び(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレートに加え、これら以外の他の成分を含む樹脂組成物の硬化物により形成されたものとすることができる。当該他の成分として、例えば、臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂以外の硬化樹脂が挙げられる。臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂以外の硬化樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂、ノボラック型ビニルエステル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フルオレンアクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、硬化性アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられ、シートの透明性をより向上しやすくする観点からビスフェノールA型ビニルエステル樹脂が好ましい。これらの硬化樹脂は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
また、上記他の成分として、硬化樹脂を硬化させるための重合開始剤が挙げられる。重合開始剤の種類については、使用する硬化樹脂の種類に応じて適宜選定すればよい。光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン、2,4,6,-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。これらの光重合開始剤の中でも、シートの透明性向上の観点から、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトンが好ましい。これらの光重合開始剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。硬化樹脂層3における重合開始剤の含有量の割合としては、硬化樹脂層3の総量100質量部当たり、重合開始剤が1~5質量部が挙げられる。
【0043】
硬化樹脂層3において、(A)臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂、及び(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレート、を含む樹脂組成物の質量(ガラス繊維織物2を除く質量)に対して、(A)臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂の質量が占める割合としては、例えば、20~60質量%が挙げられ、35~55質量%が好ましく挙げられる。また、硬化樹脂層3において、(A)臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂、及び(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレート、を含む樹脂組成物の質量(ガラス繊維織物2を除く質量)に対して、(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレートの質量が占める割合としては、例えば、5~45質量%が挙げられ、10~40質量%が好ましく挙げられる。また、硬化樹脂層3において、(A)臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂、及び(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレート、を含む樹脂組成物における、(A)臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂と(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレートの比率((A)/(B))としては、1~4が挙げられ、1.5~2.0が好ましく挙げられる。また、硬化樹脂層3において、(A)臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂、及び(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレート、を含む樹脂組成物として、さらに臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂以外の硬化樹脂を含む場合、樹脂組成物の質量(ガラス繊維織物2を除く質量)に対して当該臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル以外の硬化樹脂の質量が占める割合としては、15~45質量%が挙げられ、20~40質量%が好ましく挙げられる。
【0044】
本発明において、シートの透明性を高めるために、前述のガラス繊維織物2と硬化樹脂層3の屈折率とは、近似するように設定することが望ましい。このような観点から、硬化樹脂層3の屈折率としては、好ましくは1.45~1.65程度、より好ましくは1.50~1.60程度が挙げられる。
【0045】
本発明のシートにおいて、硬化樹脂層3の1層あたりの質量(ガラス繊維織物2を除く質量)としては、例えば、10~100g/m2が挙げられる。本発明のシートにおいて、透明性の向上と不燃性の向上との両立をより一層好適に図る観点から、硬化樹脂層3の1層あたりの質量(ガラス繊維織物2を除く質量)として、好ましくは20~60g/m2、より好ましくは20~50g/m2が挙げられる。また、硬化樹脂層3の1層あたりの厚さとしては、10~120μmが挙げられ、透明性の向上と不燃性の向上との両立をより一層好適に図る観点から、20~100μmが好ましく挙げられ、20~80μmがより好ましく挙げられる。
【0046】
[熱可塑性樹脂層4]
本発明のシート1において、熱可塑性樹脂層4は、シート1の耐候性、引裂強さ、耐折性等を向上させるべく、必要に応じて硬化樹脂層3上に積層される。熱可塑性樹脂層4は、硬化樹脂層3よりも外側に1層ずつ含まれていることが好ましい。
【0047】
熱可塑性樹脂層4を構成する素材としては、特に制限されない。例えば、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレートを含む)、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂が挙げられる。シートの不燃性と引裂強さとの両立をより図る観点からはポリ塩化ビニル樹脂が好ましい。また、熱可塑性樹脂層4は、上記樹脂からなるフィルム層とすることが好ましい。また、熱可塑性樹脂層4には、無機フィラーを添加することができる。無機フィラーとしては、ガラスビーズが挙げられる。
【0048】
熱可塑性樹脂層4の1層あたりの厚さとしては、50~200μmが挙げられ、不燃性と耐折性とをより両立させる観点から60~150μmが好ましく、80~140μmがより好ましく挙げられる。熱可塑性樹脂層4の1層あたりの質量としては、60~280g/m2が挙げられ、不燃性と耐折性とをより両立させる観点から70~200g/m2が好ましく、95~190g/m2がより好ましく挙げられる。
【0049】
熱可塑性樹脂層4を積層させる場合、硬化樹脂層3と熱可塑性樹脂層4との間には他の層を設けてもよく、例えば、接着剤層を設けることができる。接着剤層を設ける場合、接着剤層の1層あたりの質量としては、3~20g/m2が挙げられ、5~15g/m2が好ましく挙げられる。
【0050】
[シートの特性]
本発明のシート1は、例えば防煙垂壁、間仕切り又は採光テント膜として使用した際に、視野の妨げとなったり、美観を損ねたりすることを抑制するために、シート1が高い透明性を有することが好ましい。高い透明性を担保する観点から、本発明のシート1の全光線透過率として、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上が挙げられる。また、本発明のシート1のヘーズとしては、例えば、20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下が挙げられる。本明細書において、シート1の全光線透過率は、日本工業規格JIS K 7361-1:1997「プラスチック-透明材料の全光線透過率の試験方法-第1部:シングルビーム法」に従って測定される値である。シート1のヘーズは、日本工業規格JIS K7136 2000「プラスチック-透明材料のヘーズの求め方」に従って測定される値である。
【0051】
また、本発明のシートは、温度40℃、相対湿度65%の高温環境下に3日間放置する前後の全光線透過率が80%以上、好ましくは85%以上が挙げられる。また、本発明のシートは、温度40℃、相対湿度65%の高温環境下に3日間放置する前後のヘーズが、20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下が挙げられる。当該全光線透過率及びヘーズは、前述した方法と同様の測定方法により測定できる。
【0052】
本発明のシート1は、硬化樹脂層3が臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂を含むことから、火災時に燃えにくい(発熱しにくい)特性を有している。本発明のシート1が有する当該特性の指標として、50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験において、加熱開始後20分間の総発熱量が、例えば、8MJ/m2以下、好ましくは6MJ/m2以下、より好ましくは5MJ/m2以下が挙げられる。また、本発明のシート1が有する当該特性の他の指標として、50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験において、加熱開始後20分間、発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えないこと;好ましくは、加熱開始後20分間、発熱速度が3秒以上継続して200kW/m2を超えないこと;より好ましくは、加熱開始後20分間、発熱速度が1秒以上継続して200kW/m2を超えないことが挙げられる。50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験における総発熱量、及び単位面積当たりの発熱速度は、一般財団法人建材試験センター(日本国)の「防耐火性能試験・評価業務方法書」(2021年7月1日変更版)における「4.9.2 発熱性試験」に従って求められる値である。本発明のシートにおいて上記特性をより備えさせやすくするには、硬化樹脂層3の質量、熱可塑性樹脂層4の質量等を調整したりすることが挙げられる。
【0053】
本発明のシート1は、ガラス繊維織物に含浸された状態で含まれる硬化樹脂層の耐折性が30000回以上であることが好ましく、35000回以上であることが好ましい。当該耐折性は次のように測定される。すなわち、MIT耐折試験機を用いて、荷重1kg、折り曲げ装置の折り曲げ角度135°、折り曲げ速度175±10回/分に設定して、試験片が切れるまでの往復折り曲げ回数を計測する。シートの大きさは、1片15mm×110mmとする。当該往復折り曲げ回数の計測は、日本工業規格JIS R 3420:2013「ガラス繊維一般試験方法」の7.14「クロスの耐折強さ」に規定されている方法に準拠して行うことができる。ガラス繊維織物の経糸方向及び緯糸方向についておこない、当該経糸方向の往復折り曲げ回数と緯糸方向の往復折り曲げ回数との平均値(=(経糸方向の往復折り曲げ回数+緯糸方向の往復折り曲げ回数)/2)により評価する。
【0054】
本発明のシート1は、ガラス繊維織物に含浸された状態で含まれる硬化樹脂層の引裂強さが1N以上であることが好ましく、1~3Nであることがより好ましい。当該引裂強さは、日本工業規格JIS R 3420:2013の7.16のC法(トラペゾイド法)に準じ、定速荷重型引張試験機を用いて、つかみ間隔25mm、引張速度200mm/分の条件で引張試験を行うことにより測定される。具体的には、シート1から75mm×150mmの試験片をガラス繊維織物の経糸方向及びガラス繊維織物の緯糸方向にそれぞれ採取し、試験片上に、図に示すように短辺25mm、長辺100mm、高さ75mmの等脚台形の印をつけ、等脚台形以外の領域(即ち、直角を含む2つの台形部;
図2に例示する台形A部に相当)の裏表両面に滑り止めのためのテープ(商品名「600S」、積水化学株式会社製)を貼付する。また、等脚台形の印の短辺の中央に辺と直角に10mmの切れ目を入れる。定速荷重型引張試験機(商品名「RTC-1310A」、株式会社オリエンテック製)を用い、試験片のつかみ間隔を25mmとして、試験片の等脚台形の短辺側を張り、等脚台形の長辺側は緩めてクランプに挟み、200mm/分の引張速度で引張試験を行い、引き裂くときに示す最大荷重を測定する。ガラス繊維織物の経糸方向の最大荷重とガラス繊維織物の緯糸方向の最大荷重とをそれぞれ測定し、ガラス繊維織物の経糸方向の最大荷重及びガラス繊維織物の緯糸方向の最大荷重の平均値(=(ガラス繊維織物の経糸方向の最大荷重(N)+緯糸方向の最大荷重(N))/2)を引裂強さ(N)として求める。
【0055】
本発明のシート1の質量は特に制限されないが、火災時に燃えにくい(発熱しにくい)特性と優れた耐折性とをより好適に具備させるという観点から、本発明のシート1の質量として、好ましくは30~450g/m2、より好ましくは40~430g/m2が挙げられる。中でも、本発明のシート1が熱可塑性樹脂層4を備える場合の質量としては、好ましくは200~450g/m2、より好ましくは250~430g/m2が挙げられる。
【0056】
本発明のシート1の厚さは特に制限されないが、火災時に燃えにくい(発熱しにくい)特性と優れた耐折性とをより好適に具備させるという観点から、本発明のシート1の厚さとして、好ましくは30~400μm、より好ましくは40~350μmが挙げられる。中でも、本発明のシート1が熱可塑性樹脂層4を備える場合の厚さとしては、好ましくは150~400μm、より好ましくは200~350μmが挙げられる。
【0057】
本発明のシート1において、本発明のシート1が熱可塑性樹脂層4を備える場合、シート1の厚さに対する硬化樹脂層3の1層あたりの厚さの比(硬化樹脂層3の厚さ/シート1の厚さ)としては、火災時に燃えにくい(発熱しにくい)特性と優れた耐折性とをより好適に具備させるという観点から、例えば、0.01~0.8、好ましくは0.03~0.3が挙げられ、より好ましくは0.05~0.25が挙げられる。
【0058】
(本発明のシート1の製造方法)
本発明のシート1の製造方法としては、特に制限されない。例えば、まず、上記のガラス繊維織物2と硬化樹脂層3を構成する樹脂組成物を準備する。次に、ガラス繊維織物2に上記の樹脂組成物を塗布して含浸させた後、絞りローラ等を用いて樹脂組成物の厚さと含有率とを調整する。次に、樹脂組成物を加熱や光エネルギーの付与等により硬化させて、ガラス繊維織物2に硬化樹脂層3が含浸されたシート1が得られる。また、上記の樹脂組成物を塗布したポリエチレンテレフタレート等の工程フィルムを準備し、ガラス繊維織物2の両面から当該フィルムを圧着してガラス繊維織物2の両面側から樹脂組成物を含浸させ、樹脂組成物を硬化させたのち、工程フィルムを剥離することにより、ガラス繊維織物2に硬化樹脂層3が含浸されたシート1が得られる。
【0059】
熱エネルギーの付与によって樹脂組成物を硬化させる場合、加熱温度は、特に制限されず、例えば50~200℃程度とすることができる。また、光エネルギーの付与によって樹脂組成物を硬化させる場合には、樹脂組成物に光を照射して硬化させる。光照射の条件としては、例えば積算光量100~500mJ/cm2とすることができる。
【0060】
本発明のシート1が熱可塑性樹脂層4を有する場合、上記で得られた硬化樹脂層3の上に、熱可塑性樹脂層4を積層することができる。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0062】
1.測定及び評価方法
1-1.ガラスヤーンの単繊維平均直径(μm)及び単繊維本数(本)
ガラス繊維織物を30cm角にカットしたものを2枚用意し、一方を経糸観察用、他方を緯糸観察用として、それぞれをエポキシ樹脂(商品名「3091」、丸本ストルアス株式会社製)に包埋して硬化させた。次いで、エポキシ樹脂に包埋させたガラスクロスを、経糸又は緯糸を構成する単繊維の断面が観察可能な程度に研磨し、走査電子顕微鏡(SEM)(商品名「JSM-6390A」、日本電子株式会社製)を用い、倍率500倍で観察することによりガラスヤーンの単繊維平均直径(μm)及び単繊維本数(本)を測定した。
(1)ガラス長繊維の単繊維平均直径(μm)
経糸及び緯糸それぞれについて無作為に20本選び、当該20本のガラスヤーンのそれぞれに含まれる全単繊維の断面を観察して直径を測定して平均値を算出し、経糸及び緯糸の単繊維平均直径とした。
(2)単繊維本数(本)
経糸及び緯糸それぞれについて無作為に20本選び、20本のガラスヤーンのそれぞれに含まれる全単繊維数を測定して平均値を算出し、経糸及び緯糸の単繊維本数とした。
【0063】
1-2.ガラスヤーンの番手
ガラスヤーンの番手は、日本工業規格JIS R 3420 2013「ガラス繊維一般試験方法」の「7.1 番手」に規定されている方法に準じて測定した。具体的には、先ず、糸巻き装置から500mのガラスヤーンを採取し、これを試験片とした。試験片を平らに置いてマッフル炉に入れて、625℃で25分間焼成した後に、デシケーター中で放冷して、試験片の質量を測定した。以下の式に従って番手を算出した。
t=(m/500)×1000
t:番手
m:試験片の質量(g)
【0064】
1-3.ガラス繊維織物2の織密度(本/25mm)
ガラス繊維織物2の織密度は、日本工業規格JIS R 3420:2013「ガラス繊維一般試験方法」の「7.9 密度(織り密度)」に規定されている方法に準じて、経糸及び緯糸の織密度を測定した。具体的には、ガラス繊維織物2の端及び耳から50mm以上離れた位置を測定対象とし、測定間隔を10mm以上200mm以下に設定し、設定した測定間隔内にある全部の糸本数を測定した。これを1回の測定とし、前に測定した糸が含まれない他の位置に移して、同様の方法で測定間隔内にある全部の糸本数を更に2回測定した。3回の各測定毎に、以下の式に従って25mm当たりの糸本数を求め、3回の測定値の平均値を算出した。
Mi=(ni/ai)×25
Mi:25mm当たりの糸本数
ni:測定した糸本数
ai:測定が行われた正確な距離(mm)
【0065】
1-4.ガラス繊維織物2の厚さ(μm)
ガラス繊維織物2の厚さは、日本工業規格JIS R3420:2013「ガラス繊維一般試験方法」の「7.10.1 クロスの厚さ」に規定されているA法に準じて測定した。具体的には、マイクロメータを用いて,スピンドルを静かに回転させて測定面に平行に軽く接触させ、ラチェットが3回音をたてた後の目盛を読み取ることによりガラス繊維織物2の厚さを測定した。なお、ガラス繊維織物2の厚さは、経糸及び横糸の交点部分を測定した。
【0066】
1-5.ガラス繊維織物2及び硬化樹脂層3の屈折率
ガラス繊維織物2及び硬化樹脂層3の屈折率は、日本工業規格JIS K 7142:2008「プラスチック-屈折率の求め方」に規定されている「B法」に準じて測定した。具体的には、先ず、ガラス繊維織物2を構成するガラス繊維及び硬化樹脂層3を、光学顕微鏡を用いて倍率400倍で観察したときにベッケ線が観察できる程度に粉砕し、測定サンプルとした。別途、屈折率が0.002ずつ異なる複数の浸液を準備した。少量の浸液をスライドガラス上に置き、更にスライドガラス上の浸液に測定サンプル数粒を置いて、カバーガラスを載せた。そして、光源として、ハロゲンランプにD線用の干渉フィルターを設けたものを用い、光学顕微鏡を用いて倍率400倍で測定サンプルに焦点を合わせた後に、顕微鏡のステージと対物レンズとの間を離して焦点を少し外した。この操作によって、測定サンプルの屈折率と浸液の屈折率が一致しない場合にはベッケ線(即ち、粉体の周囲又は内側に見える明るい光輪)は屈折率が大きい方に移動し、測定サンプルの屈折率と浸液の屈折率が一致する場合にはベッケ線は現れない。測定サンプルの屈折率が浸液の屈折率と一致するか、又は測定サンプルの屈折率が、一連の浸液の中で近接する2つの屈折率の間に収まるまで測定を繰り返すことにより、屈折率を測定した。屈折率の測定は温度23℃の条件で3回行い、3回の測定値の平均値を屈折率の値とした。
【0067】
1-6.ガラス繊維織物2の質量(g/m
2
)
ガラス繊維織物2の質量は、日本工業規格JIS R 3420:2013「ガラス繊維一般試験方法」の「7.2 クロス及びマットの質量(質量)」に規定されている方法に準じて測定した。具体的には、ガラス繊維織物2の耳端から50mm以上離れたところから、面積100cm2の正方形の試験片を採取し、試験片を105℃で1時間乾燥させた後に、試験片の質量を測定し、以下の式に従って1m2当たりの質量を算出した。
ρA=(ms/100)×104
ρA:1m2当たりの質量(g/m2)
ms:試験片の質量(g)
【0068】
1-7.製造直後の全光線透過率(%)及びヘーズ(%)、並びに製造後高温環境下放置後の全光線透過率(%)及びヘーズ(%)
シート1の全光線透過率は、日本工業規格JIS K 7361-1:1997「プラスチック-透明材料の全光線透過率の試験方法-第1部:シングルビーム法」に従って測定した。シート1のヘーズは、日本工業規格JIS K 7136:2000「プラスチック-透明材料のヘーズの求め方」に従い、シート1の全光線透過率及びヘーズを測定した。まず製造直後に測定し、当該測定後、温度40℃、相対湿度65%の高温環境下に3日間放置した後、再度測定をおこなった。
【0069】
1-8.発熱性試験における総発熱量(MJ/m
2
)、及び単位面積当たりの発熱速度200kW/m
2
超過継続時間(秒)
シート1の50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験における総発熱量、及び単位面積当たりの発熱速度200kW/m2超過継続時間を、一般財団法人建材試験センターの「防耐火性能試験・評価業務方法書」(2021年7月1日変更版)における「4.9.2 発熱性試験」に従って測定した。具体的な方法は、以下の通りである。発熱性試験における総発熱量については8MJ/m2以下を合格(〇)、単位面積当たりの発熱速度200kW/m2超過継続時間については加熱開始後20分間、発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えないものを合格(〇)とした。
【0070】
[試験体]
(1)試験体(シート1)の個数は3個とする。
(2)試験体の形状及び寸法は、1辺の大きさが99mm±1mmの正方形とする。
(3)試験前に、試験体を温度23℃±2℃、相対湿度50%±5%で一定質量になるように養生する。
[試験装置]
(1)使用する試験装置の概略図を
図3に示す。試験装置は、円錐状に形作られた輻射電気ヒーター、スパークプラグ、輻射熱遮蔽板、試験体ホルダー、ガスサンプリング装置及びガス流量の測定ができる排気システム、熱流計等で構成される。
(2)輻射電気ヒーターは、50kW/m
2の輻射熱を試験体表面に均一な照射が安定してできるものとする。
(3)輻射熱遮蔽板は、試験開始前の輻射熱から試験体を保護できるものとする。
(4)試験装置に含まれる試験ホルダー及び押さえ枠の概略図を
図4に示す。試験体ホルダーは、外寸で1辺106mm±1mmの正方形で、外寸で深さが25mm±1mmの大きさで、厚さが2.4mm±0.15mmのステンレス鋼製とする。押さえ枠は、内寸で1辺111mm±1mmの正方形で、外寸で高さ54mm±1mmで、厚さが1.9mm±0.1mmで、上部に1辺94.0mm±0.5mmの正方形の開口部を設けたステンレス鋼製とする。
(5)排気システムは、試験温度で有効に機能する遠心式排気ファン、フード、ファンの吸気及び排気ダクト、オリフィスプレート流量計等を備えているものとする。フード下端部と試験体表面との距離は、210mm±50mmとし、その状態での排気システムの排気装置は、標準温度と標準圧力に換算した流量が0.024m
3/s以上であることとする。排気ガス流量の測定のために、内径57mm±3mmで、厚さ1.6mm±0.3mmのオリフィスプレートを排気煙道内でファンから下流に350mm±15mm以上離れた位置に設ける。排気ガス採取を目的として、12個の直径2.2mm±0.1mmの穴のあるリングサンプラーをフードから685mm±15mmの位置に、穴が流れと反対の方向に向くように取り付ける。また、排気ガスの温度を、オリフィスプレートから上流100mm±5mmの位置の排気ダクトの中心部で測定する。
(6)ガスサンプリング装置は、排気ガス中の酸素、一酸化炭素、二酸化炭素の濃度を連続的に正確に測定できるものとする。
(7)スパークプラグは、10kVの変圧器あるいは誘導式コイルシステム等から電力を供給できるものとする。スパークプラグの電極間距離は、3mm±0.5mmとし、電極の位置を原則として試験体の中心軸上13mm±2mmとする。
(8)熱流計は、100kW/m
2±10kW/m
2まで測定可能なシュミット・ベルター(Schmidt Boelter)型を用いる。熱流計の熱感知部は、直径12.5mmの円形で、表面の輻射率は0.95±0.05であるものとする。
【0071】
[試験条件]
(1) 試験時間は、試験体表面に輻射熱が照射され、同時に電気スパークが作動してから、20分とする。
(2) 試験体は、側面と裏面を厚さ0.025mm以上、0.04mm以下のアルミニウム箔で包んで押さえ枠に入れ、さらに裏面側に無機繊維(公称密度64~128kg/m3)を充填してから、試験体ホルダーに押し込むものとする。
(3) 試験中は、輻射電気ヒーターから試験体の表面に50kW/m2の輻射熱を照射する。
(4) 排気ガス流量を0.024m3/sに調節する。
(5) 試験開始までは、輻射熱遮蔽板によって、試験体が輻射熱を受けないようにする。
(6) 輻射熱遮蔽板を移動する前に、スパークプラグを所定の位置に設定する。
【0072】
[測定]
(1) 酸素の濃度を5秒以内の間隔で測定する。
(2) 以下に示す手法で、単位面積当たりの発熱速度(kW/m
2)を算出し、単位面積当たりの発熱速度が200kW/m
2超の状態の継続時間を「単位面積当たりの発熱速度200kW/m
2超過継続時間」として求めた。更に単位面積当たりの発熱速度を時間で台形積分することによって、単位面積当たりの総発熱量(MJ/m
2)を算出する。ここで、台形積分は、試験時間を積分区間とし、積分区間を測定間隔で等分して行い、負の発熱速度は0とし、正の発熱速度のみを積算する。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【0073】
1-9.火災時における変形のしにくさ
シート1に対して、前記「1-8.発熱性試験における総発熱量(MJ/m2)、及び単位面積当たりの発熱速度200kW/m2超過継続時間(秒)」の欄に示す発熱性試験を行い、20分間の輻射熱の照射後に試験体の状態を観察し、以下の基準に従って「火災時における変形のしにくさ」を評価した。
<火災時における変形のしにくさの評価基準>
A:20分間の輻射熱の照射後に、試験体の変形が抑制されており、試験体が押さえ枠内に納まっている。
B:20分間の輻射熱の照射後に、試験体が変形しており、試験体が押さえ枠の内に収まっていない。
【0074】
1-10.耐折性
MIT耐折試験機を用いて、荷重1kg、折り曲げ装置の折り曲げ角度135°、折り曲げ速度175±10回/分に設定して、試験片が切れるまでの往復折り曲げ回数を計測した。シートの大きさは、1片15mm×110mmとした。当該往復折り曲げ回数の計測は、日本工業規格JIS R 3420:2013「ガラス繊維一般試験方法」の7.14「クロスの耐折強さ」に規定されている方法に準拠して行った。ガラス繊維織物の経糸方向及び緯糸方向についておこない、当該経糸方向の往復折り曲げ回数と緯糸方向の往復折り曲げ回数との平均値(=(経糸方向の往復折り曲げ回数+緯糸方向の往復折り曲げ回数)/2)により評価した。
【0075】
1-11.ベタツキの評価
得られたシートを紙管に固定された張力で5周分巻き付け、温度20℃、相対湿度65%の環境下で20時間静置した後、巻き返しをおこなった。巻き返しの際、巻きつけたシート同士の接着に起因して巻き返しに引っかかりが感じられるものは不合格(×)、巻き返しに引っかかりを感じずスムーズに巻き返しができるものを合格(○)として評価した。
【0076】
1-12.引裂強さ(N)
シート1の引裂強さは、日本工業規格JIS R 3420:2013の7.16のC法(トラペゾイド法)に準じ、定速荷重型引張試験機を用いて、つかみ間隔25mm、引張速度200mm/分の条件で引張試験を行うことにより測定した。具体的には、シート1から75mm×150mmの試験片をガラス繊維織物の経糸方向及びガラス繊維織物の緯糸方向にそれぞれ採取し、試験片上に、図に示すように短辺25mm、長辺100mm、高さ75mmの等脚台形の印をつけ、等脚台形以外の領域(即ち、直角を含む2つの台形部;
図2に例示する台形A部に相当)の裏表両面に滑り止めのためのテープ(商品名「600S」、積水化学株式会社製)を貼付した。また、等脚台形の印の短辺の中央に辺と直角に10mmの切れ目を入れた。定速荷重型引張試験機(商品名「RTC-1310A」、株式会社オリエンテック製)を用い、試験片のつかみ間隔を25mmとして、試験片の等脚台形の短辺側を張り、等脚台形の長辺側は緩めてクランプに挟み、200mm/分の引張速度で引張試験を行い、引き裂くときに示す最大荷重を測定した。ガラス繊維織物の経糸方向の最大荷重とガラス繊維織物の緯糸方向の最大荷重とをそれぞれ測定し、ガラス繊維織物の経糸方向の最大荷重及びガラス繊維織物の緯糸方向の最大荷重の平均値(=(ガラス繊維織物の経糸方向の最大荷重(N)+緯糸方向の最大荷重(N))/2)を引裂強さ(N)として求めた。
【0077】
<実施例1>
(ガラス繊維織物2の準備)
経糸及び緯糸としてガラスヤーン(商品名「ECC1200 1/0 1.0Z」、ユニチカグラスファイバー株式会社製;単繊維平均直径4.5μm、単繊維本数100本、撚り数1.0Z、番手4.2tex)を用い、エアージェット織機で製織し、経糸密度が90本/25mm、緯糸密度が90本/25mmの平織のガラス繊維織物を得た。ついで、得られたガラス繊維織物に付着している紡糸集束剤と製織集束剤を400℃で30時間加熱して除去した。その後、ガラス繊維織物をシランカップリング剤(S-350:N-ビニルベンジル-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(塩酸塩)チッソ株式会社)を15g/Lの濃度に調整した表面処理剤で処理してパダーロールで絞った後、120℃で1分乾燥させてキュアリングした。そして、圧力1.5MPaの水流加工でガラス繊維織物の経方向の張力を100N/mとしながら拡幅処理を1回施し、ガラス繊維織物2(ガラス繊維織物)を得た。得られたガラス繊維織物2は、経糸密度90本/25mm、緯糸密度90本/25mm、厚さ30μm、質量30g/m2、屈折率1.561であった。なお、ガラスヤーンの単繊維平均直径及び単繊維本数は、当該ガラス繊維織物2を用いて測定した。
【0078】
(硬化樹脂層3の形成に使用する樹脂組成物溶液の準備)
硬化樹脂層3の形成に使用する樹脂組成物溶液として、臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル(商品名「ネオポール8197」、日本ユピカ株式会社製)、ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂(商品名「ネオポール8126」、日本ユピカ株式会社製)、メトキシトリエチレングリコールアクリレート(商品名「ライトアクリレートMTG-A」、共栄社化学株式会社製)、光重合開始剤(商品名「Omnirad 184」、IGM社製)を準備し、表1に記載の質量比となるように混合し、樹脂組成物溶液を調製した。
【0079】
(工程フィルムの準備)
工程フィルムとして、PETフィルム(厚さ75μm、全光線透過率(JIS K7361-1 1997)93%、ヘーズ(JIS K7136 2000)4%を準備した。当該工程フィルムは2枚準備した。
【0080】
準備したガラス繊維織物2、樹脂組成物溶液及び工程フィルムを使用してシートを製造した。具体的には、先ず、上記樹脂組成物溶液を、1枚の工程フィルムの一方の面側、及びもう1枚の工程フィルムの一方の面側に塗布した。そして、当該樹脂組成物溶液を塗布した工程フィルム2枚で、上記ガラス繊維織物2を、樹脂組成物溶液を塗布した面がガラス繊維織物2側となるように挟み、ローラで硬化樹脂層3の質量が表1に記載の値を満たすように加圧し、ガラス繊維織物2の両面側から樹脂組成物溶液を含浸させた。その後、工程フィルムを積層したまま、樹脂組成物溶液にブラックライト蛍光ランプ(商品名「FL15BLB」、株式会社東芝製)を用いて光照射(光照射条件:積算光量200mJ/cm
2)して該樹脂組成物溶液を硬化させ、硬化樹脂層3を形成し、工程フィルムを剥離して、
図1に例示する積層構造である、ガラス繊維織物と、前記ガラス繊維織物に含浸された状態で含まれる硬化樹脂層を含む、シートを得た。
【0081】
<実施例2>
(ガラス繊維織物2の準備)
実施例1の場合と同じガラス繊維織物2を準備した。
【0082】
(硬化樹脂層3の形成に使用する樹脂組成物溶液の準備)
硬化樹脂層3の形成に使用する樹脂組成物溶液として、臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル(商品名「ネオポール8197」、日本ユピカ株式会社製)、ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂(商品名「ネオポール8126」、日本ユピカ株式会社製)、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート(商品名「ライトアクリレートEC-A」、共栄社化学株式会社製)、光重合開始剤(商品名「Omnirad 184」、IGM社製)を準備し、表1に記載の質量比となるように混合し、樹脂組成物溶液を調製した。
【0083】
(工程フィルムの準備)
工程フィルムとして、PETフィルム(厚さ75μm、全光線透過率(JIS K7361-1 1997)93%、ヘーズ(JIS K7136 2000)4%を準備した。当該工程フィルムは2枚準備した。
【0084】
準備したガラス繊維織物2、樹脂組成物溶液及び工程フィルムを使用してシートを製造した。具体的には、先ず、上記樹脂組成物溶液を、1枚の工程フィルムの一方の面側、及びもう1枚の工程フィルムの一方の面側に塗布した。そして、当該樹脂組成物溶液を塗布した工程フィルム2枚で、上記ガラス繊維織物2を、樹脂組成物溶液を塗布した面がガラス繊維織物2側となるように挟み、ローラで硬化樹脂層3の質量が表1に記載の値を満たすように加圧し、ガラス繊維織物2の両面側から樹脂組成物溶液を含浸させた。その後、工程フィルムを積層したまま、樹脂組成物溶液にブラックライト蛍光ランプ(商品名「FL15BLB」、株式会社東芝製)を用いて光照射(光照射条件:積算光量200mJ/cm
2)して該樹脂組成物溶液を硬化させ、硬化樹脂層3を形成し、工程フィルムを剥離して、
図1に例示する積層構造である、ガラス繊維織物と、前記ガラス繊維織物に含浸された状態で含まれる硬化樹脂層を含む、シートを得た。
【0085】
<実施例3>
(ガラス繊維織物2の準備)
実施例1の場合と同じガラス繊維織物2を準備した。
【0086】
(硬化樹脂層3の形成に使用する樹脂組成物溶液の準備)
硬化樹脂層3の形成に使用する樹脂組成物溶液として、臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル(商品名「ネオポール8197」、日本ユピカ株式会社製)、ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂(商品名「ネオポール8126」、日本ユピカ株式会社製)、メトキシ-ポリエチレングリコールアクリレート(n=9)(商品名「ライトアクリレート130A」、共栄社化学株式会社製)、光重合開始剤(商品名「Omnirad 184」、IGM社製)を準備し、表1に記載の質量比となるように混合し、樹脂組成物溶液を調製した。
【0087】
(工程フィルムの準備)
工程フィルムとして、PETフィルム(厚さ75μm、全光線透過率(JIS K7361-1 1997)93%、ヘーズ(JIS K7136 2000)4%を準備した。当該工程フィルムは2枚準備した。
【0088】
準備したガラス繊維織物2、樹脂組成物溶液及び工程フィルムを使用してシートを製造した。具体的には、先ず、上記樹脂組成物溶液を、1枚の工程フィルムの一方の面側、及びもう1枚の工程フィルムの一方の面側に塗布した。そして、当該樹脂組成物溶液を塗布した工程フィルム2枚で、上記ガラス繊維織物2を、樹脂組成物溶液を塗布した面がガラス繊維織物2側となるように挟み、ローラで硬化樹脂層3の質量が表1に記載の値を満たすように加圧し、ガラス繊維織物2の両面側から樹脂組成物溶液を含浸させた。その後、工程フィルムを積層したまま、樹脂組成物溶液にブラックライト蛍光ランプ(商品名「FL15BLB」、株式会社東芝製)を用いて光照射(光照射条件:積算光量200mJ/cm
2)して該樹脂組成物溶液を硬化させ、硬化樹脂層3を形成し、工程フィルムを剥離して、
図1に例示する積層構造である、ガラス繊維織物と、前記ガラス繊維織物に含浸された状態で含まれる硬化樹脂層を含む、シートを得た。
【0089】
<比較例1>
(ガラス繊維織物2の準備)
実施例1の場合と同じガラス繊維織物2を準備した。
【0090】
(硬化樹脂層3の形成に使用する樹脂組成物溶液の準備)
硬化樹脂層3の形成に使用する樹脂組成物溶液として、臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル(商品名「ネオポール8197」、日本ユピカ株式会社製)、ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂(商品名「ネオポール8126」、日本ユピカ株式会社製)、2-ヒドロキシエチルアクリレート(商品名「ライトエステルHOA(N)」、共栄社化学株式会社製)、光重合開始剤(商品名「Omnirad 184」、IGM社製)を準備し、表1に記載の質量比となるように混合し、樹脂組成物溶液を調製した。
【0091】
(工程フィルムの準備)
工程フィルムとして、PETフィルム(厚さ75μm、全光線透過率(JIS K7361-1 1997)93%、ヘーズ(JIS K7136 2000)4%を準備した。当該工程フィルムは2枚準備した。
【0092】
準備したガラス繊維織物2、樹脂組成物溶液及び工程フィルムを使用してシートを製造した。具体的には、先ず、上記樹脂組成物溶液を、1枚の工程フィルムの一方の面側、及びもう1枚の工程フィルムの一方の面側に塗布した。そして、当該樹脂組成物溶液を塗布した工程フィルム2枚で、上記ガラス繊維織物2を、樹脂組成物溶液を塗布した面がガラス繊維織物2側となるように挟み、ローラで硬化樹脂層3の質量が表1に記載の値を満たすように加圧し、ガラス繊維織物2の両面側から樹脂組成物溶液を含浸させた。その後、工程フィルムを積層したまま、樹脂組成物溶液にブラックライト蛍光ランプ(商品名「FL15BLB」、株式会社東芝製)を用いて光照射(光照射条件:積算光量200mJ/cm
2)して該樹脂組成物溶液を硬化させ、硬化樹脂層3を形成し、工程フィルムを剥離して、
図1に例示する積層構造である、ガラス繊維織物と、前記ガラス繊維織物に含浸された状態で含まれる硬化樹脂層を含む、シートを得た。
【0093】
<比較例2>
(ガラス繊維織物2の準備)
実施例1の場合と同じガラス繊維織物2を準備した。
【0094】
(硬化樹脂層3の形成に使用する樹脂組成物溶液の準備)
硬化樹脂層3の形成に使用する樹脂組成物溶液として、ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂(商品名「ネオポール8126」、日本ユピカ株式会社製)を準備し、表1に記載の質量比となるように混合し、樹脂組成物溶液を調製した。
【0095】
(工程フィルムの準備)
工程フィルムとして、PETフィルム(厚さ75μm、全光線透過率(JIS K7361-1 1997)93%、ヘーズ(JIS K7136 2000)4%を準備した。当該工程フィルムは2枚準備した。
【0096】
準備したガラス繊維織物2、樹脂組成物溶液及び工程フィルムを使用してシートを製造した。具体的には、先ず、上記樹脂組成物溶液を、1枚の工程フィルムの一方の面側、及びもう1枚の工程フィルムの一方の面側に塗布した。そして、当該樹脂組成物溶液を塗布した工程フィルム2枚で、上記ガラス繊維織物2を、樹脂組成物溶液を塗布した面がガラス繊維織物2側となるように挟み、ローラで硬化樹脂層3の質量が表1に記載の値を満たすように加圧し、ガラス繊維織物2の両面側から樹脂組成物溶液を含浸させた。その後、工程フィルムを積層したまま、樹脂組成物溶液にブラックライト蛍光ランプ(商品名「FL15BLB」、株式会社東芝製)を用いて光照射(光照射条件:積算光量200mJ/cm
2)して該樹脂組成物溶液を硬化させ、硬化樹脂層3を形成し、工程フィルムを剥離して、
図1に例示する積層構造である、ガラス繊維織物と、前記ガラス繊維織物に含浸された状態で含まれる硬化樹脂層を含む、シートを得た。
【0097】
<比較例3>
(ガラス繊維織物2の準備)
実施例1の場合と同じガラス繊維織物2を準備した。
【0098】
(硬化樹脂層3の形成に使用する樹脂組成物溶液の準備)
硬化樹脂層3の形成に使用する樹脂組成物溶液として、臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル(商品名「ネオポール8197」、日本ユピカ株式会社製)、ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂(商品名「ネオポール8126」、日本ユピカ株式会社製)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(商品名「NKエステル A-NPG」、新中村化学工業株式会社製)、光重合開始剤(商品名「Omnirad 184」、IGM社製)を準備し、表1に記載の質量比となるように混合し、樹脂組成物溶液を調製した。
【0099】
(工程フィルムの準備)
工程フィルムとして、PETフィルム(厚さ75μm、全光線透過率(JIS K7361-1 1997)93%、ヘーズ(JIS K7136 2000)4%を準備した。当該工程フィルムは2枚準備した。
【0100】
準備したガラス繊維織物2、樹脂組成物溶液及び工程フィルムを使用してシートを製造した。具体的には、先ず、上記樹脂組成物溶液を、1枚の工程フィルムの一方の面側、及びもう1枚の工程フィルムの一方の面側に塗布した。そして、当該樹脂組成物溶液を塗布した工程フィルム2枚で、上記ガラス繊維織物2を、樹脂組成物溶液を塗布した面がガラス繊維織物2側となるように挟み、ローラで硬化樹脂層3の質量が表1に記載の値を満たすように加圧し、ガラス繊維織物2の両面側から樹脂組成物溶液を含浸させた。その後、工程フィルムを積層したまま、樹脂組成物溶液にブラックライト蛍光ランプ(商品名「FL15BLB」、株式会社東芝製)を用いて光照射(光照射条件:積算光量200mJ/cm
2)して該樹脂組成物溶液を硬化させ、硬化樹脂層3を形成し、工程フィルムを剥離して、
図1に例示する積層構造である、ガラス繊維織物と、前記ガラス繊維織物に含浸された状態で含まれる硬化樹脂層を含む、シートを得た。
【0101】
<比較例4>
(ガラス繊維織物2の準備)
実施例1の場合と同じガラス繊維織物2を準備した。
【0102】
(硬化樹脂層3の形成に使用する樹脂組成物溶液の準備)
硬化樹脂層3の形成に使用する樹脂組成物溶液として、臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル(商品名「ネオポール8197」、日本ユピカ株式会社製)、ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂(商品名「ネオポール8126」、日本ユピカ株式会社製)、3-フェノキシベンジルアクリレート(商品名「ライトアクリレートPOB-A」、新中村化学工業株式会社製)、光重合開始剤(商品名「Omnirad 184」、IGM社製)を準備し、表1に記載の質量比となるように混合し、樹脂組成物溶液を調製した。
【0103】
(工程フィルムの準備)
工程フィルムとして、PETフィルム(厚さ75μm、全光線透過率(JIS K7361-1 1997)93%、ヘーズ(JIS K7136 2000)4%を準備した。当該工程フィルムは2枚準備した。
【0104】
準備したガラス繊維織物2、樹脂組成物溶液及び工程フィルムを使用して不燃性シートを製造した。具体的には、先ず、上記樹脂組成物溶液を、1枚の工程フィルムの一方の面側、及びもう1枚の工程フィルムの一方の面側に塗布した。そして、当該樹脂組成物溶液を塗布した工程フィルム2枚で、上記ガラス繊維織物2を、樹脂組成物溶液を塗布した面がガラス繊維織物2側となるように挟み、ローラで硬化樹脂層3の質量が表1に記載の値を満たすように加圧し、ガラス繊維織物2の両面側から樹脂組成物溶液を含浸させた。その後、工程フィルムを積層したまま、樹脂組成物溶液にブラックライト蛍光ランプ(商品名「FL15BLB」、株式会社東芝製)を用いて光照射(光照射条件:積算光量200mJ/cm
2)して該樹脂組成物溶液を硬化させ、硬化樹脂層3を形成し、工程フィルムを剥離して、
図1に例示する積層構造である、ガラス繊維織物と、前記ガラス繊維織物に含浸された状態で含まれる硬化樹脂層を含む、不燃性シートを得た。
【0105】
結果を表1に示す。
【0106】
【0107】
実施例1~3のシートは、ガラス繊維織物と、前記ガラス繊維織物に含浸された状態で含まれる硬化樹脂層を含む、シートであって、前記硬化樹脂層が(A)臭素化ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂及び(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレート、を含む樹脂組成物の硬化物により形成されていることから、ベタツキを抑制し耐折性に優れたものであった。
【0108】
中でも、実施例1及び2のシートは、(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレートのアルキレンオキサイド基の付加モル数が2~4であったことから、シートの耐折性が一層優れたものであった。また、実施例1及び3のシートは、(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレートのアルキレンオキサイド基の付加モル数が3~10であったことから、高温環境下に放置した後にも透明性をより維持しやすいものであった。とりわけ、実施例1のシートは、(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレートのアルキレンオキサイド基の付加モル数が3~4であったことから、シートの耐折性を一層優れたものとすることと、シートを高温環境下に放置した後にも透明性をより維持しやすくすることとを、より一層両立させるものであった。
【0109】
一方、比較例1のシートは、2-ヒドロキシエチルアクリレートがアルキレンオキサイド基を有さないものであり、(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレートを含まないものであったことから、耐折性に劣るものであった。
【0110】
また、比較例2のシートは、臭素化ビスフェノールA型ビニルエステルを含まないものであったことから、ベタツキを抑制することができないものであった。
【0111】
また、比較例3のシートは、ネオペンチルグリコールジアクリレートが多官能性であり、(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレートを含まないものであったことから、耐折性に劣るものであった。
【0112】
また、比較例4のシートは、3-フェノキシベンジルアクリレートが芳香環を有するものであり、(B)アルキレンオキサイド基を有し、かつ芳香環を有さない単官能(メタ)アクリレートを含まないものであったことから、耐折性に劣るものであった。