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特許7576862Nd-Fe-B積層焼結磁石およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】Nd-Fe-B積層焼結磁石およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20241025BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20241025BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20241025BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20241025BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20241025BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20241025BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
H01F7/02 E
B22F3/00 F
C22C33/02 H
C22C38/00 303D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022578247
(86)(22)【出願日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2022001412
(87)【国際公開番号】W WO2022163407
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2021010537
(32)【優先日】2021-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514193960
【氏名又は名称】NDFEB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐川 眞人
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-019030(JP,A)
【文献】特許第4391897(JP,B2)
【文献】特許第6280137(JP,B2)
【文献】国際公開第2001/095460(WO,A1)
【文献】特開2006-303197(JP,A)
【文献】特開2019-075493(JP,A)
【文献】特開2007-134353(JP,A)
【文献】国際公開第2015/012412(WO,A1)
【文献】特開2011-078268(JP,A)
【文献】特開2013-191615(JP,A)
【文献】特開平04-079741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057、7/02、41/02
B22F 3/00
C22C 33/02、38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nd-Fe-B薄板状焼結磁石が高電気抵抗層を介して積層されてなるNd-Fe-B積層焼結磁石を製造する方法であって、
一定間隔を開けて配列された複数の仕切り板により仕切られた構造を有するモールド内に合金粉末を給粉・充填し、ふたをした後、前記仕切り板により区切られた空洞の主面と平行な方向に磁界を印加して前記合金粉末を配向させ、その後、900~1100℃で焼結を行うことにより、切断工程を行うことなく、NdFe14B正方晶化合物のc軸方向が、前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石の主面内に配向され、配向度が90%以上の高配向度をもち、かつ厚さが3mm以下であるNd-Fe-B薄板状焼結磁石を製造する工程、および
前記工程で得られたNd-Fe-B薄板状焼結磁石を複数枚積層する工程を含み、
前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石の表面に、前記焼結中に生成されたNdを多く含む表面層を少なくとも一部残したまま、前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を積層することを特徴とする、Nd-Fe-B積層焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を互いに接着して積層することを特徴とする、請求項に記載のNd-Fe-B積層焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石をホットプレスによって圧着することを特徴とする、請求項に記載のNd-Fe-B積層焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石のそれぞれにDyおよび/またはTbを含む化合物粉末または合金粉末を塗布して粒界拡散処理を施したあと、前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を互いに接着することを特徴とする、請求項1に記載のNd-Fe-B積層焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石の間に、Dyおよび/またはTbを含む化合物粉末または合金粉末を介在させた状態で、前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を互いに接着または圧着して、その後、粒界拡散処理を施すことを特徴とする、請求項に記載のNd-Fe-B積層焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を、接着剤を用いて互いに接着することを特徴とする請求項に記載のNd-Fe-B積層焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
複数の前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を射出成型金型内に積層した状態にて固定し、その後、当該金型内に樹脂を注入して接着し成形することを特徴とする請求項に記載のNd-Fe-B積層焼結磁石の製造方法。
【請求項8】
前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を10層以上積層することを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のNd-Fe-B積層焼結磁石の製造方法。
【請求項9】
前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を、
a)一定間隔を開けて配列された複数の仕切り板により仕切られたモールド内に合金粉末を給粉・充填し、ふたをした後、前記仕切り板により区切られた空洞の主面と平行な方向に磁界中配向を施し、その後、モールドのまま焼結炉に搬送して900~1100℃で焼結を行う方法、または、
b)2分割以上に分割された側壁を有し、一定間隔を開けて配列された複数の仕切り板により仕切られた構造を有するモールド内に合金粉末を給粉・充填し、ふたをして充填成形体を作製した後、前記充填成形体の主面内の方向に磁界を印加し、該充填成形体内の合金粉末を配向させ配向充填成形体を作製し、その後、前記モールドの側壁を前記配向充填成形体から引き離して前記配向充填成形体を前記モールドから取り出し、取り出した前記配向充填成形体を900~1100℃で焼結する方法のいずれかの方法を用いて製造することを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のNd-Fe-B積層焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Nd-Fe-B積層焼結磁石、特に電気自動車の主機モータなど大型モータや発電機に使用されるNd-Fe-B積層焼結磁石およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Nd-Fe-B焼結磁石は、1982年に本願発明者らによって発明され(特公昭61-3424)、それまでの永久磁石材料の磁気特性をはるかに凌駕するばかりでなく、ネオジム(Nd:希土類元素の一種)、鉄およびボロンなど資源的に豊富な原料を主成分とするため廉価であり、理想的な永久磁石材料として着実に市場を拡大してきた。その用途は、コンピュータHDD(ハード・ディスク・ドライブ)、磁気ヘッド駆動用モータ(VCM:ボイスコイルモーター)、高級スピーカ、ヘッドホン、電動補助型自転車、ゴルフカート、永久磁石式磁気共鳴診断装置(MRI)など多岐にわたる。さらに近年では、ハイブリッド・カーや電気自動車の駆動用モータ、省エネルギー・低騒音型大型家電製品(クーラーや冷蔵庫)・エレベーターやその他の産業用モータにおいても急速に実用化が進められてきた。
【0003】
しかしながら、Nd-Fe-B焼結磁石は高い磁気特性を有するが、温度特性が良くないという欠点を有し、特に保磁力の温度特性は重要である。家電や産業用モータに使用される場合、コイル電流に起因する温度上昇を避けることはできない。また、モータ電機子から逆磁界が作用するため、温度が上昇して保磁力が小さくなると永久磁石に不可逆減磁が生じる。よって、不可逆減磁を防ぐためには予め保磁力を高くしておくしかない。
【0004】
Nd-Fe-B焼結磁石が見出された後、保磁力など特性改善のため、添加元素(特許第1606420号等)・熱処理(特許第1818977号等)・結晶粒径コントロール(特許第1662257号等)などの効果が明らかにされてきたが、保磁力の向上に最も効果的なのは、重希土類元素(Dy, Tb)の添加であった(特許第1802487号)。しかし、重希土類元素を多量に用いれば保磁力は確実に増加するが、飽和磁化が低下して最大エネルギー積が低下する。また、Dy, Tbは資源が希少であり、高価であるため、大きな需要が見込まれている電気自動車や産業用・家庭用モータをまかなうことは難しい。
【0005】
その後、合金組成の中にDy/Tb等を添加するのではなく、焼結体を作製して外部からDy/Tb等の金属や化合物を熱処理によって焼結体内部の結晶粒界に拡散させる、粒界拡散(grain boundary diffusion, GBD)法により、飽和磁化や最大エネルギー積の低下をほとんど招来することなく保磁力だけを高める方法が見出された(特許第4450239号等)。
【0006】
一方、電気自動車用磁石として、運転中の渦電流発生による損失を低減して、磁石中の発熱を抑えて磁石の温度上昇を低減するため、磁石を分割して積層したNd-Fe-B焼結磁石が提案されている。この提案の一例では、厚さ5mmのNd-Fe-B焼結磁石にDyのフッ化物粉末を塗布して、Ar中、900℃で1時間加熱して粒界拡散処理を施し、その後、この分割磁石を18個重ねてモータ回転子の磁石挿入孔に挿入してエポキシ樹脂で固める。このようにして作製した回転子を装着したIPMモータは、特開2011-78268に提案されている。
【0007】
もう一つ背景技術として重要な、Nd-Fe-B焼結磁石を製造するための磁石粉末成型配向技術について述べる。世界中の磁石メーカはNd-Fe-B焼結磁石を磁界中金型プレス法によって製造している。すなわち、磁石合金粉末を磁界が印加された金型中で配向し、加圧成形し、その配向した圧粉体を焼結して焼結磁石を製造しており、この方法では、需要の多い薄板状磁石は、大きい塊のブロック状磁石を作った後、機械的に切断して作られる。
【0008】
これに対して、本発明者らは、「プレスレスプロセス:PressLess Process(PLP)」を開発し、提案した(下記の特許文献1等参照)。この方法では、磁界中金型プレス法を用いて作った粉末圧縮成形体を焼結炉に運ぶのではなく、充填容器(以下「モールド」と呼ぶ)内で高密度充填された磁石合金微粉末に磁界中配向を施して、モールドのまま焼結炉に搬送する。薄板磁石は、底の浅い大面積の皿状の空洞をもつモールドに磁石合金粉末を充填して、配向した後、焼結して生産され、薄板磁石の配向方向は、薄板の主面に垂直な方向である。
従来のプレス法では、次工程である焼結工程への搬送のために充分な強度を有する粉末圧縮成形体を作製する必要があるために、プレス法により、高配向された薄板状圧粉体を製造することは困難であった。これに対し、PLP法ではモールドごと粉末配向成形体を搬送することで、薄板状磁石が直接工業的に製造できるようになった。
【0009】
また、上記の「PLP法」をさらに改良した「New-PLP法=NPLP法」は、同じく本願発明者らによって提案された(下記の特許文献2等参照)。このNPLP法では、モールド内に適度な密度で充填されて磁界中配向された磁石合金微粉末の配向充填成形体を作り、次いでモールドの外壁部材を取り外して、焼結用台板に移動させて焼結炉に搬入する。薄板磁石を製造する際には、モールド内の空洞を複数の仕切り板によって狭い空洞に分割しておき、この仕切り板によって区切られた狭い空洞に磁石合金粉末を充填する。
その後、モールドにふたをして、磁界を印加して、磁石合金粉末を配向する。磁界印加方向は、狭い空洞の主面に垂直な方向である。その後、モールドと粉末成型配向体を焼結用台板に移し替える時にモールドの外壁を取り除き、モールド内部に形成された多層の粉末・仕切り板からなる粉末・仕切り板積層体だけを焼結台板上に残す。そして、この焼結台板上に残された粉末・仕切り板積層体を焼結炉の中で加熱することにより、複数の薄板状焼結体が製造される。
焼結磁石の製造に使用されるモールドは、ある程度の精度が要求される材質で作製されるが、1000℃以上の高温の焼結温度に何度も曝されると、モールドが消耗するため、PLP法ではモールドのコストがかかるという問題があったが、NPLP法の場合には、モールドを燒結炉内に入れないので、モールドコストの問題が解消される。
【0010】
このように、上記のPLP法およびNPLP法によって、薄板状Nd-Fe-B焼結磁石を機械加工なしに直接製造する技術が確立された。これらの薄板磁石において、磁石の配向方向、即ち磁化方向は、薄板の主面に対して垂直な方向である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第4391897号公報
【文献】特許第6280137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
今後、自動車の電動化がますます進んでいく中で、主機モータに使うNd-Fe-B焼結磁石は、最高の磁気特性を維持したまま、コストを極限まで下げること、磁石に含まれるDyとTbを資源的に許される極限までその使用量を低減することが望まれている。しかし現状では、EV(Electric Vehicle)およびHEV(Hybrid Electric Vehicle)で使われているNd-Fe-B磁石にはDyやTbが一定量含まれており、製造コストの低減も十分ではない。
【0013】
上述したEVおよびHEV用Nd-Fe-B焼結磁石の省Dyおよび省Tbが十分でなく、製造コスト低減ができない理由は、Nd-Fe-B薄板状磁石を積層した積層磁石が安価にできないからである。Nd-Fe-B焼結磁石の薄板状磁石を作るためには、ブロック磁石から切断砥石やワイヤーソーなどの機械加工により、薄い磁石を切り出す手段しかない。このとき、薄板状磁石の磁化容易方向は薄板の主面内になるように切り出される。このような薄板磁石をブロック磁石から切り出すには高価な加工コストがかかる上に、多量の切りくずを生成して材料の大きな損失を伴う。
【0014】
モータ中に使われる鉄心材料であるケイ素鋼板は、モータ運転中に発生する過電流損低減のため、厚さ0.5mm以下で所定形状に打ち抜き、積層して使われる。同じモータの中で使われるNd-Fe-B焼結磁石も、薄く打ち抜いて使えれば渦電流損が極限まで低減できて望ましいが、それは不可能である。そこで、電気自動車の主機モータに使われるNd-Fe-B焼結磁石は上述の公知例(特開2011-78268)のように、厚さ5mm程度の分割磁石として使用に供される。厚さ5mmの磁石は、大きな塊の磁石(ブロック磁石という)から機械加工により切り出すので加工コストと材料歩留まり低下によるコストがかかってくる。その上、厚さ5mm程度の積層体では渦電流損低減効果は不十分である。積層磁石を形成する1枚ずつの薄板状磁石を「ユニット磁石」と呼ぶことにする。
【0015】
ユニット磁石の厚さ5mmの積層磁石にすると、積層しない塊の磁石よりも渦電流損が低減するが、まだ十分に低減されない。ユニット磁石の厚さを5mmよりも薄く、例えば3mm以下に薄く加工して積層化した磁石を使えば、モータに発生する渦電流損は大きく低減されることが期待されるが、このように薄いユニット磁石を作るのは多大な加工コストと、切りくずとしての材料の損失、即ち材料歩留まりの低下により、コストがかかりすぎて、実用化されない。
【0016】
もう一つ、Nd-Fe-B磁石を薄くできないことによる不利益は、厚い磁石に粒界拡散処理を施すと、磁石全体にTbやDyが行きわたらないので、磁石内で保磁力の不均一ができることである。上述の公知例のように、厚さ5mmの磁石に分割して、この分割したユニット磁石に粒界拡散処理を施しても、磁石内部まで均一な粒界拡散効果は困難である。これを積層してモータに取り付けると、磁石内に保磁力の不均一性が内在することになる。これはモータの弱点として電気自動車内に残ることになる。
【0017】
EVおよびHEV主機モータ用磁石として、十分に薄いユニット磁石からなる積層磁石が使えないので、自動車運転中のモータの温度上昇が大きい。その上、ユニット磁石の厚さが大きいので、粒界拡散法による保磁力向上の効果が不十分で、不均一である。
これらの理由により、現状のEV用主機モータに使われるNd-Fe-B焼結磁石には、基材中にTbやDyを2~3%以上入れた材質のNd-Fe-B焼結磁石が使われるが、TbやDyは希土類鉱石中に少ししか含まれない。
EV、HEVに使われるNd-Fe-B磁石において、TbやDyの使用量は、豊富な希土類鉱石として知られるモナザイトやバステナサイト中に含まれる成分限界内に抑えることが強く望まれており、その限界はNd-Fe-B磁石重量の0.5%である。
【0018】
それゆえ、本発明は、磁気的に均一で、高い磁気特性を持つNd-Fe-B積層焼結磁石を提供することを課題とする。又、本発明の課題は、Nd-Fe-B焼結磁石を焼結後、切断工程なしで、極薄(例えば厚さ3mm以下、好ましくは2.5mm以下)のユニット磁石からなる積層磁石を製造することが可能な方法を提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、以下の1)~7):
1)磁石内に発生する渦電流損失を極限まで下げるために、積層磁石のユニット磁石の厚さを3mm以下(好ましくは2.5mm以下)にし、積層数を4層以上、好ましくは10層以上の積層体とする、
2)機械加工コストを極限まで下げるために、PLP法またはNPLP法を転用して、Nd-Fe-B薄板状焼結磁石の主面内に、Nd2Fe14B正方晶化合物のc軸方向(磁化容易方向)が配向されたNd-Fe-B薄板焼結磁石を、機械加工なしに直接作る、
3)PLP法またはNPLP法を転用して作製された厚さ3mm以下のユニット磁石を接着剤により接着し、またはホットプレス法により圧着して、積層磁石を製作する、
4)ユニット磁石には必要に応じて、高保磁力化のために、粒界拡散処理を施す。粒界拡散処理は、ユニット磁石を積層する前、または積層化した後のどちらかで行う、
5)積層磁石の低コスト化のためと、積層磁石としての性能向上のために、ユニット磁石作製中に生成されたNdを多く含む表面層は全部はぎとらずに、少なくとも一部残した状態で、積層化または粒界拡散処理をする、
6)粒界拡散効果を磁石全体に均一に強く効かせるために、ユニット磁石の厚さを3mm以下にする、
7)製造する磁石の保磁力を高めるために、PLP法またはNPLP法において、平均粒径3μmまたはその前後の粒径の微細粉末を使用する、
ことによって、上記の課題が解決できることを見出して、本発明を完成した。
【0020】
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
〔1〕Nd-Fe-B薄板状焼結磁石が高電気抵抗層を介して積層されてなるNd-Fe-B積層焼結磁石を製造する方法であって、
一定間隔を開けて配列された複数の仕切り板により仕切られた構造を有するモールド内に合金粉末を給粉・充填した後、前記仕切り板により区切られた空洞の主面と平行な方向に磁界を印加して前記合金粉末を配向させ、その後、焼結を行うことにより、切断工程を行うことなく、Nd2Fe14B正方晶化合物のc軸方向が、前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石の主面内に配向され、配向度が90%以上の高配向度をもち、かつ厚さが3mm以下であるNd-Fe-B薄板状焼結磁石を製造する工程、および
前記工程で得られたNd-Fe-B薄板状焼結磁石を複数枚積層する工程
を含むことを特徴とする、Nd-Fe-B積層焼結磁石の製造方法。
〔2〕前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石の表面に、前記焼結中に生成されたNdを多く含む表面層を少なくとも一部残したまま、前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を積層することを特徴とする、〔1〕に記載のNd-Fe-B積層焼結磁石の製造方法。
〔3〕前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を互いに接着して積層することを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載のNd-Fe-B積層焼結磁石の製造方法。
〔4〕前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石をホットプレスによって圧着することを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載のNd-Fe-B積層焼結磁石の製造方法。
〔5〕前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石のそれぞれにDyおよび/またはTbを含む化合物粉末または合金粉末を塗布して粒界拡散処理を施したあと、前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を互いに接着することを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載のNd-Fe-B積層焼結磁石の製造方法。
〔6〕前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石の間に、Dyおよび/またはTbを含む化合物粉末または合金粉末を介在させた状態で、前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を互いに接着または圧着して、その後、粒界拡散処理を施すことを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載のNd-Fe-B積層焼結磁石の製造方法。
〔7〕前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を、接着剤を用いて互いに接着することを特徴とする〔3〕に記載のNd-Fe-B積層焼結磁石の製造方法。
〔8〕複数の前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を射出成型金型内に積層した状態にて固定し、その後、当該金型内に樹脂を注入して接着し成形することを特徴とする〔3〕に記載のNd-Fe-B積層焼結磁石の製造方法。
〔9〕前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を10層以上積層することを特徴とする〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載のNd-Fe-B積層焼結磁石の製造方法。
〔10〕前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を、
一定間隔を開けて配列された複数の仕切り板により仕切られたモールド内に合金粉末を給粉・充填した後、前記仕切り板により区切られた空洞の主面と平行な方向に磁界中配向を施し、その後、モールドのまま焼結炉に搬送して焼結を行う方法、または、
2分割以上に分割された側壁を有し、一定間隔を開けて配列された複数の仕切り板により仕切られた構造を有するモールド内に合金粉末を給粉・充填して充填成形体を作製した後、前記充填成形体の主面内の方向に磁界を印加し、該充填成形体内の合金粉末を配向させ配向充填成形体を作製し、その後、前記モールドの側壁を前記配向充填成形体から引き離して前記配向充填成形体を前記モールドから取り出し、取り出した前記配向充填成形体を焼結する方法
のいずれかの方法を用いて製造することを特徴とする〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載のNd-Fe-B積層焼結磁石の製造方法。
〔11〕Nd2Fe14B正方晶化合物のc軸方向が、前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石の主面内に配向されており、配向度が90%以上の高配向度をもち、かつ厚さが3mm以下であるNd-Fe-B薄板状焼結磁石が4層以上、接着またはホットプレス圧着により積層された積層体であることを特徴とするNd-Fe-B積層焼結磁石。
〔12〕前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石に粒界拡散処理が施されており、該Nd-Fe-B薄板状焼結磁石が接着剤により接着され、またはホットプレスにより圧着されて積層されていることを特徴とする、〔11〕に記載のNd-Fe-B積層焼結磁石。
【発明の効果】
【0021】
本発明の効果は次の通りである。
(1)Nd-Fe-B焼結磁石を焼結後、切断工程なしで、極薄のユニット磁石からなる積層磁石を製造することができる。そのため、切断工程による多量の切りくずを生成しないで、かつ高価な切断工程なしで、極めて薄いユニット磁石からなる積層磁石を工業的に生産できる。
(2)磁気的に均一で高い磁気特性を持つNd-Fe-B積層焼結磁石が工業的に生産できる。
【0022】
上記の効果により、EVやHEVの主機モータ内の金属性磁性材料のすべてに渦電流損低減に必要な積層化が実現される。即ち、鉄心材料としてのケイ素鋼板にはこれまでに渦電流損低減のための積層化が達成されていたが、本発明の技術により初めて、最高性能磁石としてのNd-Fe-B焼結磁石にも渦電流損低減に必要な積層化が低コストで工業的に実現できる。そして、モータの設計者からの要求に応じて、薄板状ユニット磁石の厚さを減少させて、渦電流損を低減させることに応じることができる。さらに、均一な粒界拡散効果により、積層磁石全体として、その磁石全体の大きさに関わらず、保磁力が均一な、高保磁力積層磁石を工業的に生産可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の製造方法において使用するNPLP法(New-PressLess Process法)の各工程を示す模式図である。
図2】本発明の製造方法において使用されるモールド(実施例1にて使用)の好ましい一例を示す図であり、モールド内に合金粉末を充填した時の状態が示されており、上側の図が平面図で、下側の図面には、上側の図におけるA-A断面における構造と共に、配向工程時の磁界方向が矢印で示されている。
図3】本発明の実施例1で製造されたユニット磁石と、それらを積層してホットプレスにより作製された積層体の外観を示す写真である。
図4】実施例2において、各ユニット磁石(加工レス焼結基材)間にGBD(粒界拡散)ペーストを塗布して積層し加圧する際の方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、Nd-Fe-B薄板状焼結磁石が高電気抵抗層を介して積層されてなるNd-Fe-B積層焼結磁石を製造する方法であり、図1には、本発明の製造方法にて使用するNPLP法の模式図が示されている。
本発明の製造方法における最初の工程では、一定間隔を開けて配列された複数の仕切り板により仕切られた構造を有するモールドを型組し、当該モールド内に合金粉末(磁石合金粉末)を給粉・充填した後、磁界を印加して前記合金粉末を配向させ、その後、焼結を行うことにより、切断工程を行うことなく、Nd2Fe14B正方晶化合物のc軸方向が、前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石の主面内に配向され、配向度が90%以上の高配向度をもち、かつ厚さが3mm以下であるNd-Fe-B薄板状焼結磁石を製造する。
この工程においては、図1の1.に示されるような、モールド内の空洞が、一定間隔(好ましくは1mm~5mm、より好ましくは1mm~3.5mm)を開けて配置された複数の仕切り板によって狭い空洞に分割された構造を有するモールドを準備し、この仕切り板によって区切られた複数の狭い空洞(キャビティ)内に合金粉末を充填する(型組・粉末充填)。この際、合金粉末の充填密度は3.4~3.8g/ccであることが好ましい。
【0025】
図2には、本発明の製造方法にて使用される、2分割以上に分割された側壁(外壁部材)を有し、合金粉末を充填した後にモールドの側壁を取り外すことが可能な構造を有したモールドの一例が示されているが、本発明にて使用されるモールドの構造はこれに限定されるものではなく、側壁を取り外すことができない構造のモールドを用いてもよい。
図2に例示したモールドは、4枚の側板1と底板2から形成されたモールドの内部に複数の仕切り板3が一定間隔をあけて配置されることにより複数のキャビティ5が形成されており、モールドの上面側と底面側にはそれぞれ、仕切り板3と垂直に、磁極4が配置されている。この磁極4は、強磁性体またはフェリ磁性体物質からなり、合金粉末にかかる磁界を均一化して、その配向方向を揃える効果を有しており、鉄やケイ素鋼などの焼結により変形しない素材で作っておけば、焼結の際、取り外す必要がない。又、この磁極4は、焼結体中の磁性粒子の配向方向を揃えて、焼結体の品質向上に有用で望ましいが、磁極がなくても配向の乱れが無視できる場合には必要ではない。
【0026】
その後、図1の2.に示されるようにしてモールドに蓋をし、矢印の方向(上から下に向かう方向)に磁界Hを印加して、モールドのキャビティ内に充填された合金粉末を配向させ、配向充填成形体を得る。この際、磁界印加方向は、配向充填成形体の主面内の方向(即ち、鉛直方向)であり、電磁石による静磁界よりも、空心コイルを用いるパルス磁界の方が強い磁界をかけることができる。そして、強い磁界を印加する方が、粉末を構成する粒子の結晶軸を一方向に揃えることができ、これにより焼結後の磁気特性が向上する。
本発明の製造方法では、Nd2Fe14B正方晶化合物のc軸方向が、Nd-Fe-B薄板状焼結磁石の主面内に配向されており、配向度が90%以上の高配向度をもち、かつ厚さが3mm以下であるNd-Fe-B薄板状焼結磁石が製造されるが、このような薄板状焼結磁石を製造するための印加磁界の強さの望ましい範囲は3テスラ以上であり、飽和磁化に対する残留磁化の比率が93%以上の高配向を得るためには3.5テスラ以上、さらに95%以上の高配向を得るためには4テスラ以上が必要である。
本発明では、通常、コンデンサーバンクに貯めた電荷を短時間に放電して、常電導空芯コイルに大電流を流して高磁界を発生し、1回のパルス磁界の幅は通常1msから1秒までの間である。パルス電流の波形としては直流(一方向)のパルス波形でも、交流減衰波形でもよい。本発明では、直流パルスと交流パルスの両者の波形のパルス磁界を組み合わせてもよく、高温超電導空芯コイルに大電流を流して高磁界を発生してもよい。この際、超電導では、あまり短時間の電流変化は難しいので、1秒以上の磁界印加でもよい。しかし、工程の能率を考慮して、磁界を印加する時間は10秒以下であることが望ましい。
【0027】
その後、図1の3.に示されるようにして、モールドと配向充填成形体を焼結用台板に移し替える時、モールドの外壁を取り除いて、モールド内部に形成された粉末・仕切り板積層体だけを焼結台板上に残し(型ばらし)、焼結炉内に搬送する。本発明では、側壁が取り外しできない構造のモールドを用いた場合、モールドのまま焼結炉内に搬送する。
その後、図1の4.に示すようにして、焼結台板上の粉末・仕切り板積層体を焼結炉に入れて焼結を行うことにより、Nd-Fe-B薄板状焼結磁石の主面内に、Nd2Fe14B正方晶化合物のc軸方向が配向された複数のNd-Fe-B薄板状焼結磁石を直接、機械加工を行うことなく製造できる。
本発明では、焼結工程を行う際の焼結温度と焼結時間は、合金粉末の組成や粒径を元に適宜定められるが、Nd-Fe-B系焼結磁石の場合の典型的な焼結温度は900~1100℃程度であり、典型的な焼結時間は、昇温時間を含めて10~40時間程度である。
【0028】
更に、本発明の製造方法は、上記にて得られたNd-Fe-B薄板状焼結磁石を複数枚(好ましくは4層以上)積層する工程を含み、この際、上記の前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を互いに接着剤を用いて接着して積層してもよく、あるいは、ホットプレスによって圧着して積層してもよい。
この際、ホットプレスによる圧着を行う場合の態様としては、次の2種類の態様が挙げられる。
(1)少なくとも4層以上(例えば10層以上)段積みした薄層ユニット磁石をホットプレスにより、700℃以上の高温で、単に圧着して積層磁石を作る。
(2)ホットプレス装置内に、少なくとも4層以上(例えば10層以上)段積みした薄層ユニット磁石を金型内に配置し、700℃以上の高温で、段積みした薄板状磁石を上下パンチにより圧縮して、薄層ユニット磁石を圧縮方向と垂直な方向に変形させて金型内面に押し付け、積層体の形状および寸法を整える。
【0029】
本発明の製造方法における上記の積層工程にて、複数枚(少なくとも4層以上)のNd-Fe-B薄板焼結磁石を積層してNd-Fe-B積層磁石を製造する際、単にNd-Fe-B薄板焼結磁石にエポキシ樹脂などの接着剤を塗布してユニット磁石を接着して積層化する方法を用いてもよく、あるいは、複数枚の前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を金型内に積層状態にて固定し、その後、当該金型内に樹脂を注入して接着を行う、射出成型による方法を用いてもよい。
【0030】
Nd-Fe-B薄板焼結磁石を接着により積層化する方式では、接着剤が層間の電気抵抗増大に働く。また、前記のNd-Fe-B薄板焼結磁石をホットプレスで積層化する方式では、薄板磁石表面の酸化膜に加えて、ホットプレス前に、薄板磁石にネオジムの酸化物を塗布することが有効である。さらに、薄板磁石表面にTbやDyの酸化物や、フッ化物の粉末を塗布してホットプレスすると、これらの粉末が磁石の粒界拡散効果に働くだけでなく、薄板磁石間の高電気抵抗化に働くことが確認された。また、薄板磁石にシリコンオイルやシリコングリスを塗布しておくと、これらの樹脂に含まれる酸素、炭素、シリコンが磁石成分と反応して、高電気抵抗層を作ることも確認された。
本明細書における「高電気抵抗層」とは、薄板磁石の表面に形成されている酸化物膜や、塗布される接着剤や上記の化合物からなり、さらにホットプレス法で接着される場合には、薄板表面に形成された酸化物、TbやDyのフッ化物や酸化物、あるいはホットプレス前に塗布された樹脂やシリコングリスの混合物や反応生成物からなる。これらの塗布された物質やホットプレス中に形成される反応生成物が高電気抵抗層として働く。このような高電気抵抗層はできるだけ薄くて高電気抵抗率をもつことが望ましい。高電気抵抗層の厚さは、0.1mm以下が望ましく、0.05mm以下がさらに好ましい。そしてこれらの高電気抵抗層によって、積層磁石両端面に電極を付けて測定した電気抵抗値が、同じ大きさの積層していないひと固まりの磁石について両端面に電極を付けて測定した電気抵抗値の5倍以上が好ましく、10倍以上がさらに好ましく、100倍以上が最も好ましい。
【0031】
本発明では、前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を互いに接着する際、Nd-Fe-B薄板状焼結磁石のそれぞれにDyおよび/またはTbを含む化合物粉末または合金粉末を塗布して粒界拡散処理を施した後、Nd-Fe-B薄板状焼結磁石どうしを互いに接着することが好ましい。
又、本発明では、前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石の間に、Dyおよび/またはTbを含む化合物粉末または合金粉末を介在させた状態で、Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を互いに接着または圧着し、その後、粒界拡散処理を施すことが好ましい。
この際、DyやTbを含む化合物粉末または合金粉末は、エチルアルコールなどの有機溶媒に懸濁させてユニット磁石に塗布する。塗布量は、塗布される粉末中に含まれる重希土類金属成分が、ユニット磁石の重量の0.5%以下とすることが資源的な観点から好ましい。又、上記の粒界拡散処理は、これらのDyやTbを含む化合物粉末を塗布したユニット磁石を重ねて真空中または不活性ガス中、800~900℃で、5~20時間加熱することにより行われ、その後、これらのユニット磁石を接着またはホットプレスによる圧着により、積層磁石を製作する。
DyやTbを含む化合物粉末を塗布したユニット磁石をホットプレスにより圧着して積層磁石を製作する場合には、粒界拡散効果を高めるため、ホットプレス後に、800~900℃で5~20時間の長時間加熱を行うことが好ましい。
本発明にて好ましい上記のDyおよび/またはTbを含む化合物粉末または合金粉末としては、DyやTbをRと表してR2O3、R4O7、RF3、あるいはRF3とLiF(フッ化リチウム)の混合物等が挙げられる。またDyおよび/またはTb とFe、Ni、Alなどの金属元素との合金が水素化されて粉砕された水素化物粉末、またはRHδで表される希土類水素化物の粉末も好ましい例である。これらの金属水素化物は、800℃以上の高温に加熱されると、脱水素された金属や合金粉末になる。積層磁石としては、接合層の電気抵抗が高いことが望ましいので、金属粉末または金属水素化物粉末は上述の、希土類酸化物や希土類フッ化物の粉末との混合粉末として、接合層形成に用いられる。
【0032】
本発明者は、上記のNd-Fe-B薄板状焼結磁石の製造方法を用いることによって、厚さが3mm以下、好ましくは2.5mm以下、より薄くは厚さ0.8mmまでの極薄焼結磁石が作製できることを確認した。そして、このようにして作られた薄板焼結磁石を積層することにより、機械加工を行うことなく、積層磁石が製作できることを確認した。
これまでの技術では、Nd-Fe-B磁石は、切断加工や、砥石を使った研削加工による機械加工により薄板状磁石が作られる。切断加工や、研削加工には多大なコストがかかる上に、多量の切りくずが発生して、材料歩留まりが低下することが問題であった。本発明の製造方法では、切断や研削加工を加えることなくユニット磁石を作ることができ、このようにして作ったユニット磁石を積層して、積層磁石を作ることができる。
【0033】
上述の製造方法を用いて製造されたNd-Fe-B薄板焼結磁石を4層以上積層して得られた積層焼結磁石は、例えば、電気自動車主機モータ等に使用することができる。
本発明の積層焼結磁石は、同質のNd-Fe-B薄板焼結磁石が複数積層された構造を有するものであり、本発明が目的とする渦電流低減の効果を得るには、複数枚のNd-Fe-B薄板焼結磁石が積層される必要があるが、モータに磁石を装填するときの利便性から、積層枚数は4層以上が好ましく、電気自動車の主機モータ用としては、積層枚数は10層以上が実用的である。
この時、モータ運転中の渦電流損を減らすために、薄板焼結磁石どうしを、高電気抵抗層を介して積層する必要がある。高電気抵抗層の電気抵抗値は、電気絶縁に近い高抵抗である必要がないことが知られている。
【0034】
本発明の製造方法においては、前記のNd-Fe-B薄板焼結磁石を製造する際、
a)一定間隔を開けて配列された複数の仕切り板により仕切られた構造を有するモールド内に合金粉末を給粉・充填した後、前記仕切り板により区切られた空洞の主面と平行な方向に磁界中配向を施し、その後、モールドのまま焼結炉に搬送して焼結を行うプレスレスプロセス法(PLP法)、または、
b)2分割以上に分割された側壁を有し、一定間隔を開けて配列された複数の仕切り板により仕切られた構造を有するモールド内に合金粉末を給粉・充填して充填成形体を作製した後、前記充填成形体の主面内の方向に磁界を印加し、該充填成形体内の合金粉末を配向させ配向充填成形体を作製し、その後、前記モールドの側壁を前記配向充填成形体から引き離して前記配向充填成形体を前記モールドから取り出し、取り出した前記配向充填成形体を焼結するニュープレスレスプロセス法(NPLP法)
のいずれかの方法を用いることができる。
【0035】
本発明では、Nd-Fe-B薄板焼結磁石がPLP法またはNPLP法を用いて製造されるので、ブロック状の焼結磁石を製造した後、一定の厚みに切断する従来法とは異なり、切断工程を経ることなく直接に薄板状磁石を得ることができる。よって、本発明の製造方法を用いて製造されたNd-Fe-B薄板焼結磁石の場合、従来からよく知られているような機械加工による磁気特性の劣化が無い。
【0036】
本発明に記載されるPLP法は特許第4391897号等に、NPLP法は特許第6280137号に示された通りであるが、その工程において磁化方向は磁石の主面(板面)に垂直である、磁石の厚さ方向である。本発明において、積層磁石を構成するユニット磁石としての薄板磁石の製造工程は、上述のPLP法およびNPLP法の工程のほとんどは同一であるが、本発明における積層磁石に用いるための薄板状磁石の製造方法では、その工程における磁化方向は磁石の主面内の方向(主面と平行な方向)である。
【0037】
尚、本発明では、PLP法またはNPLP法によって作られた薄板磁石の表面に酸化膜が形成されており、この自然にできた酸化膜は、薄板磁石間の高電気抵抗化に有効であることが確認された。さらに、本発明者は、このNdを多く含む表面層が、薄板磁石の磁気特性低下を抑制する効果をもっていることを見出し、この表面層をはぎ取ってしまうと、磁石の保磁力が低下することを確認した。
そのため、本発明では、焼結工程中に生成されたNdを多く含む表面層を全部はぎ取ってしまわずに有効に活用し、Nd-Fe-B薄板状焼結磁石の表面に、その焼結工程中に生成された、Ndを多く含む表面層を少なくとも一部残したまま、Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を積層することが好ましい。
【0038】
ここで「焼結工程中」とは、焼結炉内で昇温・焼結温度維持・冷却過程を含む。ユニット磁石の表面に形成されるNdを多く含む表面層は、この焼結工程中に生成されると推定される。従来の方法では薄板を製造するには比較的大きなブロック焼結磁石体を製造して、その後、主に切断によって薄板状磁石を得ていたが、本発明の製造方法では切断工程を行う必要がない。本明細書において「切断工程なし」と表現するのは、ブロック焼結体を切断することではなく、直接に薄板状焼結磁石を得ることを意味する。
【0039】
本発明におけるNd-Fe-B焼結磁石は一般によく知られた「Nd-Fe-B」の表記を採用しているが、Nd, Fe, B元素だけを構成元素とするものではない。NdはYおよびScを含む希土類元素を示し、具体的にはY、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、YbおよびLuが挙げられ、それらの一種または二種以上を示す。好ましくはNd、Pr、Dy、Tbを主体とする。これらYおよびScを含む希土類元素は合金全体の10~15原子%、特に12~15原子%であることが好ましい。Bは3~15原子%、特に4~8原子%含有することが好ましい。その他、Al、Cu、Zn、In、Si、P、S、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、Cd、Sn、Sb、Hf、Ta、Wの中から選ばれる1種または2種以上を0~11原子%、特に0.1~5原子%含有してもよい。残部はFeおよびC、N、O等の不可避的な不純物であるが、Feは50原子%以上、特に65原子%以上含有することが好ましい。また、Feの一部、例えばFeの0~40原子%、特に0~15原子%をCoで置換しても差支えない。
【0040】
前記PLP法またはNPLP法により製作されたNd-Fe-B薄板状焼結磁石どうしが接着またはホットプレスによる圧着(溶着)によって積層された本発明のNd-Fe-B積層焼結磁石は、Nd2Fe14B正方晶化合物のc軸方向が、前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石の主面内に配向されており、配向度(残留磁束密度Brを飽和磁化Jsで除した値で評価される)が90%以上の高配向度をもち、かつ厚さが3mm以下であるNd-Fe-B薄板状焼結磁石が複数枚、好ましくは4枚以上、特に好ましくは10枚以上積層された積層体であることを特徴とする。
【0041】
本発明では、前記Nd-Fe-B薄板状焼結磁石に粒界拡散処理が施されており、該Nd-Fe-B薄板状焼結磁石が接着剤により接着されて積層されていることが好ましい。
また、本発明では、Nd-Fe-B薄板状焼結磁石の間に、Dyおよび/またはTbを含む化合物(例えば酸化物)粉末または合金粉末をホットプレス圧着して形成された接着層が存在し、この接着層によって、Nd-Fe-B薄板状焼結磁石が互いに接着されて積層されていることが好ましく、このような接着層は高電気抵抗層として機能する。
【0042】
ここで、Nd-Fe-B薄板状焼結磁石(ユニット磁石)中には資源的な観点から、DyやTb含有量を最小限にすることが好ましい。上記の高電気抵抗層としては、薄板状磁石間の空隙や接着剤の層、ユニット磁石製造中にできた酸化膜または酸素が多い膜、粒界拡散処理のために塗布されたDyやTbの酸化物やフッ化物あるいはそれらの変質物質からなる層がその働きをする。
【0043】
本発明の製造方法を用いることにより、切断工程を行うことなく、極薄のユニット磁石からなるNd-Fe-B積層焼結磁石が製造でき、この積層焼結磁石は、磁気的に均一で高い磁気特性を有しており、電気自動車用の磁石としてだけでなく、各種産業用・家庭用モータの磁石として有用である。
【実施例
【0044】
〔実施例1〕
図2に示されるモールドを作製した。このモールドの材質はステンレス(SUS304)であり、図2中の符号1は側板であり、2は底板、3は仕切り板、4は磁極、5はキャビティ、6は蓋である。
そして、Nd-Fe-B焼結磁石を作製するための出発合金(ストリップキャスト合金=SC合金)として、以下の表1に記載される組成を有した合金粉末を準備した。
【0045】
【表1】
【0046】
上記の組成を有したSC合金を水素解砕し、窒素によるジェットミルにより平均粒径D50を3μmに粉砕した。その後、このジェットミル粉末を、図2に示されるモールドに、充填密度3.5g/cmにて充填した。次に、モールドごと配向コイルに挿入して、4テスラのパルス磁界を、図2中の矢印方向に印加して合金粉末を配向した。
なお、今回使用したモールドは28個のキャビティを有し、各キャビティのサイズは幅(aと呼ぶ)18,2mm、高さ(bと呼ぶ)10.8mm、ギャップ幅(cと呼ぶ)2.35mmである。尚、各キャビティは仕切り板にて隔てられており、仕切り板はステンレス製で、厚さはいずれも0.5mmである。
上記の合金粉末を給粉する際、各キャビティに給粉される合金粉末の重量が均一になるように、個々のキャビティごとに秤量して、各キャビティに給粉した。
【0047】
具体的には合金粉末総量は45.27gとし、各キャビティに1.616gずつ精密に秤量して給粉した。その後、モールドのうち、磁極、蓋、側板を順に取り外し、さらに仕切り板を含んだ合金粉末成形体をカーボンプレートに移載したのち真空焼結炉に装填した。
このようにして面内配向した薄板磁石を作製した。この薄板磁石は積層磁石を構成するユニットとなるものである。
【0048】
焼結条件は以下の通りである。1×10-3Pa以下になるまで真空排気してから、真空中にて昇温速度1℃/分にて400℃まで昇温後、400℃にて9時間保持した。さらに昇温速度2℃/分にて1000℃まで昇温後、1000℃にて3時間保持した後、炉冷し、Nd-Fe-B薄板状焼結磁石を得た。焼結後の焼結磁石の寸法は概略a=15.5mm、b=7mm、c(厚み)=2mmであった。この焼結磁石を、以下「ユニット磁石」という。
上記の焼結によって得られたユニット磁石の配向度(Br/Js)は95%以上であり、高配向度を有していることが確認された。
【0049】
この焼結直後のユニット磁石の上下面に平均粒径5μmのTb2O3粉末を塗布した。塗布量は、ユニット磁石の重さの0.5%とし、粉末を流動パラフィンに懸濁して、その懸濁液をユニット磁石に塗布した。このようにしてTb2O3粉末が塗布されたユニット磁石を15枚重ねてホットプレスにより積層磁石を作製した。
このユニット磁石15枚を積層してグラファイト製の割型に装填し、ホットプレスを行い、本発明のNd-Fe-B積層焼結磁石を製造した。尚、割型の内寸は製品寸法を想定してa=16.0mm、b=7.2mmとした。ホットプレス条件は、真空中で、750℃、40MPaの加圧下で、10分間保持とした。
【0050】
このようにして作製したNd-Fe-B積層焼結磁石の強度を評価したところ、焼結磁石並みの強度を有することを確認できた。
次に、この積層磁石の寸法を評価したところa=16.0mm、b=7.2mm、c'(積層厚み)=28.1mmであり、aおよびbの寸法は割型の内寸と同一であることから積層されたユニット磁石は、ホットプレス中に接合と同時に型内壁に向って変形し、内壁に到達した後に変形が停止したと考えられ、加工を一切加えることなく、設計通りの寸法を持つ積層一体化磁石を実現できることが判明した。
この実施例1で作製された、ユニット磁石と、これらを積層してホットプレスにより作製された積層体の外観を示す写真が、図3に示されている。
このようにして作製したホットプレス積層体を800℃で1時間、500℃で1時間熱処理したのち、7mm角の立方体を切り出して磁気測定を行った。その結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
上記のホットプレス積層体の断面をSEM観察した結果、積層体断面には、Tbの酸化物、Ndの酸化物、およびNd-Fe-B合金が混ざり合った物質からなる高電気抵抗層が形成されていることを確認した。
【0053】
〔実施例2〕
前記実施例1の方法で作製したユニット磁石を5枚準備し、図4に示されるようにして、ユニット磁石(加工レス焼結基材)間にTbF3粉末(GBDペースト)をユニット磁石5枚の全体重量に対してTb重量が0.3%になるようにユニット磁石上下面に塗布した。この5枚の積層体の上に、重さ5kgのステンレス製ブロックを載せて真空炉内に配置し、この積層体を真空中900℃で10時間熱処理した。その後、500℃で1時間の熱処理を行った。
上記の熱処理を行ったユニット磁石の1枚から7mm角の薄板を切り出し、磁気特性の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
上記表3の結果により、ユニット磁石間にTbF3粉末を配置し、これに錘を載せただけの単純な積層状態のままで粒界拡散処理を行った場合にも、高い保磁力が得られることがわかった。又、この粒界拡散処理したユニット磁石を接着剤で5枚接着して積層することによっても、表3に示される磁気特性を有し、層間の絶縁性が高い、高性能Nd-Fe-B積層磁石が得られることを確認した。
【0056】
〔実施例3〕
前記実施例1にて作製したユニット磁石を5枚用意し、バリ除去のための面取り加工を行ったのち、各ユニット磁石の両面に長時間硬化タイプの2液性エポキシ樹脂を均等にスパチュラにて塗布した上で5枚を重ね合わせて500g程度の重りを載せて硬化させた。この際、硬化時間を短縮するため90℃のオーブンに入れて1時間保持したのち取り出し、本発明のNd-Fe-B積層焼結磁石を製造した。
【0057】
以上のようにして作製した積層磁石の両端における抵抗率を測定した結果、6.5MΩ・cmより大きいことが分かった。
又、上記で作製した積層磁石の渦電流損失を測定した。比較のために、上記積層磁石と同一サイズの一体型磁石(ブロック状磁石)を併せて作製して同様に測定に供した。
更に、空芯コイル中央に供試磁石を置き、周波数100から50kHzの範囲で20mAの交流磁界を印加した場合のコイルの交流抵抗Rsを測定した。又、同一サイズの一体型磁石も同一条件にてコイルの交流抵抗Rsを測定し、両者を比較した。
その結果、作製した積層磁石は一体型磁石に対して、コイルの交流抵抗Rsが24.7%であることが判明し、大きな渦電流低減効果を示すことが確認された。
【0058】
〔実施例4〕
前記実施例1と同じ合金、同じ粉末を使って同じ方法でユニット磁石を作製した。このユニット磁石の一部はサンドペーパにより全面0.1mm研磨した。そして、全部の磁石について、800℃で1時間保持してから急冷し、さらに500℃で1時間保持してから急冷する熱処理を加えた。これら2種類のユニット磁石(研磨あり、研磨なし)を用いて、それぞれ5枚ずつ積層した積層磁石をエポキシ樹脂による接着によって作製した。
【0059】
このようにして作製した2種類の積層磁石について、それぞれ、7mm角の立方体試料を3個ずつ切り出して、B-Hトレーサーによる磁気特性を行った。
その結果、磁気特性の平均値は、全面研磨を行ったユニット磁石を積層して得られた積層磁石(比較品)については、残留磁束密度Br=14.1kGであり、保磁力Hcj=14.8kOeであった。一方、機械加工を行っていないユニット磁石を積層して得られた積層磁石(本発明品)については、Br=14.4kGで、Hcj=16.1kOeであった。両積層磁石のBrの差はあまりないが、保磁力Hcjについては、全面研磨したユニット磁石で作製した積層磁石(比較品)に比べて、機械加工を一切加えないユニット磁石で作製した積層磁石(本発明品)の方が1kOe以上大きいことが判明した。
【0060】
このような実験結果から、NPLP法で作製したNd-Fe-B薄板磁石にはNdに富んだ表面層が存在して、この表面層によって、磁石表面付近の結晶粒の磁気的劣化を抑制されていることが推定される。すなわち、通常のプレス法によるNd-Fe-B焼結磁石の製法では、大きなブロック磁石から切り出して薄板磁石を作製するので、この薄板磁石の表面には、Ndに富んだ表面層は全く存在せず、そのため、ブロック磁石を切断して得られた薄板磁石から作製した積層磁石の方が、保磁力が1kOe程度低くなると考えられる。
この実施例4により、本発明の製造方法により作製されたNd-Fe-B積層磁石は、従来法により作製される積層磁石より磁気特性の面でも有利であることが立証された。
【0061】
〔実施例5〕
実施例1と同じNd-Fe-B合金粉末を使用し、図2のモールドで幅aと高さbは実施例1と同じで、ギャップ幅cだけを変えて、焼結後の焼結体厚みが2mm、3mm、5mmの3種類の厚みのユニット磁石を作製した。これらのユニット磁石を使用して、実施例1と同じ条件で、ユニット磁石5枚を重ねたホットプレス積層体を作製した。さらに、同じユニット磁石に実施例2と同じ条件で、TbF3による粒界拡散処理を施したユニット磁石を作製して、これを5枚、樹脂により接着して、積層磁石を作製した。
これらのホットプレス積層磁石、および樹脂接着積層磁石の交流抵抗値を測定した結果を表4に示す。交流抵抗値は各磁石の周囲にコイルを50ターン巻き、HIOKI製IM3536LCRメータで交番磁界の周波数を変化させながら測定した。測定電流1mA、周波数30kHzにおける結果を表4に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
表4から、ユニット磁石の厚さが3mm以下で交流抵抗の低減が顕著になり、かつ磁石の角形性が90%以上で、EV用磁石として望ましいことが分かる。
【0064】
〔実施例6〕
表5に示す組成のSC合金から実施例1の方法で、ユニット磁石を作製した。このユニット磁石の表面には、焼結により酸化膜(高電気抵抗層)が形成されており、このユニット磁石を使用して実施例1の方法で24層のユニット磁石を重ねた積層磁石を作製した。ただし、ここではユニット磁石間には何も挟まない積層体24層をホットプレスすることにより積層磁石を作製した。ホットプレス条件は最高温度850℃、最大加圧力65MPa、保持時間20分であった。得られた積層磁石を真空中で800℃×30min.、引き続いて520℃×1時間時効処理を施した。
【0065】
【表5】
【0066】
得られた積層磁石の磁気特性は、Br=13890G、Hcj=20210Oe、(BH)max=47.0MGOeであり、機械的強度靭性試験は問題なくクリアできた。よって、耐熱温度がより低い用途に対してはこのような層間に何も挟まずに作製した積層磁石を利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 側板
2 底板
3 仕切り板
4 磁極
5 キャビティ
6 蓋
図1
図2
図3
図4