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特許7576894被服又は寝具の製造方法及び被服又は寝具
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  • 特許-被服又は寝具の製造方法及び被服又は寝具 図1
  • 特許-被服又は寝具の製造方法及び被服又は寝具 図2
  • 特許-被服又は寝具の製造方法及び被服又は寝具 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】被服又は寝具の製造方法及び被服又は寝具
(51)【国際特許分類】
   A41D 27/00 20060101AFI20241025BHJP
   D02G 3/44 20060101ALI20241025BHJP
   A41H 43/00 20060101ALI20241025BHJP
   A47G 9/00 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
A41D27/00 Z
D02G3/44
A41H43/00 Z
A47G9/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024107548
(22)【出願日】2024-07-03
【審査請求日】2024-07-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507119847
【氏名又は名称】東和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恵一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀明
(72)【発明者】
【氏名】菅野 陽一
(72)【発明者】
【氏名】木村 駿太郎
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-081811(JP,A)
【文献】特開2011-237500(JP,A)
【文献】特開平07-216615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D1/00-31/32
A41B1/00-17/00
A41H43/00-43/04
A47G9/00-9/10
D02G3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上糸と下糸を用いる縫製機械で縫製材料を縫合し、被服又は寝具を製造するに際し、該上糸として、綿、絹、化学繊維又は混紡で構成される非水溶性の縫製糸を用い、該下糸として、ポリビニルアルコールを原料とする水溶性の縫製糸を用い、該下糸は、溶剤湿式冷却ゲル紡糸法による水溶性ポリビニルアルコール繊維で構成され、かつ下撚りに対する上撚りの回数の割合が94~108[%]の範囲内にある撚糸条件で撚糸加工したものであることを特徴とする被服又は寝具の製造方法。
【請求項2】
前記下糸は、該下糸が溶解する温度よりも低い低温環境で染色されることを特徴とする請求項1に記載の被服又は寝具の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2の被服又は寝具の製造方法により製造されることを特徴とする被服又は寝具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上糸と下糸を用いる縫製機械による被服又は寝具の製造方法及び該方法で製造される被服又は寝具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衣服を中心とした縫製品のリサイクルが注目され始めている。縫製品を分解するには、縫合糸を溶かすことが最も効率が良い。これ応じ、非可溶性繊維で構成される各部分を可溶性繊維糸で結合して構成した衣類に関する出願もなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の衣類によれば、衣類を中高温の水分中に投入して可溶性繊維糸を溶解させることにより、非溶性繊維で構成された衣類の各部分のみを残存させ、回収することができる。この衣類は、具体的には、温水、アルカリ溶液等に非溶性の繊維で構成される身頃、袖等の各衣類部分が、温水、アルカリ溶液等による可溶性を有するミシン糸で縫合され、完成品とされる。
【0004】
可溶性のミシン糸としては、温水、アルカリ溶液等に浸漬することにより容易に溶解するポリビニルアルコール系繊維で構成される繊維糸が用いられる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-81811号公報
【文献】特公昭43-8992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のように、縫製に使用するミシン糸として水溶性ポリビニルアルコール系の可溶性繊維糸を用いて縫製する場合、得られる縫製品を高温多湿の環境下で使用する場合には、縫製品の各縫製材(布片)を結合している縫製糸が溶融され、縫製品が脆弱となる恐れがある。
【0007】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点に鑑み、高温多湿の環境下での使用における強靭さと各部分への分解の容易さとを兼ね備える被服又は寝具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の被服又は寝具の製造方法は、上糸と下糸を用いる縫製機械で縫製材料を縫合し、被服又は寝具を製造するに際し、該上糸として、綿、絹、化学繊維又は混紡で構成される非水溶性の縫製糸を用い、該下糸として、ポリビニルアルコールを原料とする水溶性の縫製糸を用い、該下糸は、溶剤湿式冷却ゲル紡糸法による水溶性ポリビニルアルコール繊維で構成され、かつ下撚りに対する上撚りの回数の割合が94~108[%]の範囲内にある撚糸条件で撚糸加工したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被服又は寝具を高温多湿の環境下で使用する場合においても、被服又は寝具の表側に露出した上糸は溶解せずに縫製材料同志の確実な結合が担保されるので、被服又は寝具の強靭性を維持することができる。一方、被服又は寝具を各縫製材料に分離する際には、被服又は寝具の裏側に露出した下糸を水分に暴露させることによって、下糸を溶解させ、各縫製材料に容易に分離することができる。
また、下糸は、溶剤湿式冷却ゲル紡糸法による水溶性ポリビニルアルコール繊維で構成され、下撚りに対する上撚りの回数の割合が94~108[%]の範囲内にある撚糸条件で撚糸加工を施したものであるため、適正なミシン糸として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の被服又は寝具製造方法で製造される被服又は寝具のミシン糸に沿った断面を拡大して示す断面図である。
図2】ポリビニルアルコールを原料とする水溶性の縫製糸に撚糸加工を施してミシン糸を得る実験を行った結果を示す表である。
図3図3A図3Cは、図2の実験により得られた適正なミシン糸、若干難があるミシン糸、及び不適正なミシン糸のそれぞれについて、生じ得る撚りの程度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る被服又は寝具の製造方法により製造される被服又は寝具のミシン糸に沿った断面を拡大して示す。同図に示すように、この縫製品1は、上糸2と下糸3を用いる縫製機械によって、被服又は寝具1を構成する各縫製材料4を結合することにより製造される。上糸2としては、綿、絹、化学繊維又は混紡糸で構成される非水溶性の縫製糸が用いられる。
【0012】
下糸3としては、ポリビニルアルコールを原料とする水溶性の縫製糸が用いられる。具体的には、溶剤湿式冷却ゲル紡糸法により得られる水溶性ポリビニルアルコール繊維で構成される糸(特公昭43-8992号公報参照)に撚糸加工(下撚りと上撚り)を施したものが下糸3として用いられる。
【0013】
また、下糸3としては、例えば40~100℃程度の温水で溶解するものを用いることができるが、多湿環境下での使用時における下糸3の強度を担保するためには、けん化度が低く、70℃以上の温水で溶解するものを用いるのが好ましい。なお、上糸2と下糸3で縫合される各縫製材料4は、非水溶性の繊維で構成される。また、上糸2と下糸3を用いる縫製機械としては、例えばミシンを用いることができる。
【0014】
ところで、縫製機械で使用されるミシン糸としては、綿や絹などの一般的なミシン糸の場合、下撚りに対する上撚りの回数の割合をほぼ70[%]としたものが使用される。しかしながら、上記の溶剤湿式冷却ゲル紡糸法による水溶性ポリビニルアルコール繊維を原料とする70℃以上で溶解するミシン糸の場合には、本発明者による次の実験により、この撚糸条件が適用し得ないことが判明している。
【0015】
図2は、上記の溶剤湿式冷却ゲル紡糸法による水溶性ポリビニルアルコール繊維の糸に撚糸加工を施してミシン糸を得る際の撚糸条件と、得られるミシン糸の適否との関係を調べた実験結果を示す。各撚糸条件により得られたミシン糸が適正(○)、若干難あり(△)、又は不適正(×)なものであったかの結果が示されている。また、60番と30番の2種類の糸で実施した結果が示されている。
【0016】
図3A図3Cは、適正(○)、若干難あり(△)、又は不適正(×)とされるミシン糸に生じる撚りをそれぞれ示す。ミシン糸が適正(○)である場合には、図3Aのように、ミシン糸に撚りは無い。若干難あり(△)の場合には、図3Bのように、撚りが生じる。不適正(×)の場合には、図3Bのように、かなり糸よりが生じ、ミシン糸に適さない。
【0017】
図2の実験において、撚糸条件としては、650[T/m]の下撚り対して、回数が異なる複数種の上撚りを施す条件のものを採用している。なお、図2において、650[T/m]の下撚りの回数を100[%]とした場合の各上撚りの回数の割合[%]が併せて示されている。
【0018】
図2中の455[T/m]の上撚り(上撚り回数の割合が70[%])は、一般のミシン糸に適用される撚糸条件に該当する。この条件で得られるミシン糸については、60番と30番の糸のいずれの場合も、ミシン糸としては不適正(×)との結果が得られている。また、768[T/m](118[%])の上撚りについても不適正(×)との結果が得られている。
【0019】
一方、上撚りが610[T/m]、704[T/m]の場合は若干の難(△)があり、620[T/m]、640[T/m]、650[T/m]、660[T/m]、672[T/m]、682[T/m]の場合は適正(○)との結果が得られている。
【0020】
図2に示されるように、溶剤湿式冷却ゲル紡糸法による水溶性ポリビニルアルコール繊維を原料とする70℃以上で溶解する糸に撚糸加工を施してミシン糸を得る際の適正な撚糸条件は、650[T/m]の下撚りの下撚り回数に対する上撚り回数の割合が95~105[%]の範囲内に存在する。
【0021】
また、若干難がある場合も含めた撚糸条件は、同割合が94~108[%]の範囲内に存在する。一方、同割合が70[%]以下、又は118[%]以上の範囲では、適正な撚糸条件が存在しないと判断される。すなわち、この範囲の撚糸条件によれば、縫製は可能であるが、図3Cに示すように、糸よりが発生し、縫製に支障が生じるので好ましくない。
【0022】
被服又は寝具1を製造する際には、まず、上糸2として、適切な撚糸加工を施した綿、絹、化学繊維又は混紡による縫製糸が用意される。また、下糸3として、図2A図2Bで示した適正な撚糸条件による撚糸加工を施すとともに、溶解する温度よりも低い低温の環境で染色を施した下糸3が用意される。なお、下糸3は上糸よりも目立たない状況が多いので、染色を省略し、工程を簡略化して製造費を低減させてもよい。
【0023】
次に、上糸2と下糸3が、これらを使用して縫製を行う縫製機械、例えばミシンにセットされる。そして、上糸2と下糸3により結合される2枚の縫製材料(布片)4の結合部位を重ねてミシンの所定位置に配置し、ミシンを駆動して2枚の縫製材料4を上糸2と下糸3で結合させる。
【0024】
これにより、2枚の縫製材料(布片)4が図1のように結合される。このような、縫製材料4の結合を繰り返すことにより、上糸2が被服又は寝具1の表面側に露出し、下糸3が裏面側に露出した状態の被服又は寝具1が製造される。
【0025】
一方、被服又は寝具1を縫製材料(布片)4毎に分離する際には、下糸3を水分に暴露させて溶解することにより、容易に分離される。下糸3の水分への暴露は、例えば、被服又は寝具1を収納袋に収納し、溶解槽に満たされた例えば95°Cの温水に、例えば30分程度浸漬することにより行われる。このとき、下糸3の溶解を促進するために、この温水に、例えば、非イオン系界面活性剤を0.01~20[g/リットル]程度添加してもよい。
【0026】
これにより、被服又は寝具1の形状が収納袋により維持されつつ、下糸3が溶解し、被服又は寝具1が縫製材料(布片)4毎に分離された状態となる。分離された縫製材料(布片)4は、再利用される。
【0027】
なお、下糸3の水分への暴露に際しては、100℃以上の水蒸気や、ホースや漏斗から供給される温水などを利用しても良い。また、アイロン等で下糸3部分に付与した水分を下糸3が溶解する温度まで加熱してもよい。また、下糸3の水分への暴露を行い易いように、被服又は寝具1を保持する治具を用いてもよい。
【0028】
本実施形態によれば、被服又は寝具1を多湿の環境下で使用する場合においても、被服又は寝具1の表側に露出した上糸2は非水溶性であり、縫製材料4同志の結合を担保するので、被服又は寝具1の強靭性を維持することができる。一方、被服又は寝具1の裏側に露出した下糸3はポリビニルアルコールを原料とする水溶性の縫製糸であるため、下糸3を水分に暴露させることによって、被服又は寝具1を各縫製材料4に容易に分離し、再利用することができる。
【0029】
また、下糸3は、溶剤湿式冷却ゲル紡糸法による70℃以上の温水で溶解可能なポリビニルアルコール繊維で構成され、下撚りに対する上撚りの回数の割合が95~105[%]の範囲内にある撚糸条件で撚糸加工を施したものであるため、適正なミシン糸として用いることができる。
【0030】
また、下糸3は、それが溶解する温度よりも低温の環境で染色されるので、その染色の明度や再度、色相に応じて、被服又は寝具1の上糸2側から見た場合の明度や再度、色相を任意に調整することができる。なお、下糸3の色は、上糸2側からの見た目にさほど影響を与えないので、下糸3の染色を省略し、生産性を向上させてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1…被服又は寝具、2…上糸、3…下糸、4…布片。
【要約】
【課題】高温多湿の環境下での使用においける強靭さと各部分への分解の容易さとを兼ね備える被服又は寝具の製造方法及び被服又は寝具を提供する。
【解決手段】本発明の被服又は寝具の製造方法は、上糸2と下糸3を用いる縫製機械により被服又は寝具1を製造するに際し、上糸2として、綿、絹、若しくは化学繊維又は混紡で構成される非水溶性の縫製糸を用い、下糸3として、ポリビニルアルコールを原料とする水溶性の縫製糸を用いる。
【選択図】図1
図1
図2
図3