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特許7576916フロクマリン類を低減する方法およびフロクマリン類低減食品
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  • 特許-フロクマリン類を低減する方法およびフロクマリン類低減食品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】フロクマリン類を低減する方法およびフロクマリン類低減食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/20 20160101AFI20241025BHJP
   A23F 3/34 20060101ALI20241025BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20241025BHJP
   A61K 36/60 20060101ALN20241025BHJP
   A61P 3/10 20060101ALN20241025BHJP
   A61P 9/12 20060101ALN20241025BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20241025BHJP
   A61P 37/02 20060101ALN20241025BHJP
【FI】
A23L5/20
A23F3/34
A23L2/38 C
A61K36/60
A61P3/10
A61P9/12
A61P35/00
A61P37/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020035745
(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公開番号】P2021136887
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-01-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載年月日 平成31年3月5日 掲載資料名 日本農芸化学会2019年度大会講演要旨集(オンライン) 掲載アドレス <App Storeのアプリを使用してダウンロード> https://apps.apple.com/jp/app/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%BE%B2%E8%8A%B8%E5%8C%96%E5%AD%A6%E4%BC%9A2019%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E5%A4%A7%E4%BC%9A/id1453359360?l=ja&ls=1 <GooglePlayのアプリを使用してダウンロード> https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.dynacom.JsbbaApp2019
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載年月日 平成31年3月11日 掲載資料名 自法人のウェブサイトのお知らせ欄に掲載 掲載アドレス https://www.shokuken.or.jp/info/presentation/002452.html
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名 日本農芸化学会2019年度大会 開催場所 東京農業大学 世田谷キャンパス (東京都世田谷区桜丘1-1-1) 開催日 平成31年3月24日~平成31年3月27日 (発表日 平成31年3月26日)
(73)【特許権者】
【識別番号】507152970
【氏名又は名称】公益財団法人東洋食品研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】小山 ゆかり
(72)【発明者】
【氏名】阿部 竜也
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-144396(JP,A)
【文献】特開昭63-089594(JP,A)
【文献】東洋食品研究所 研究報告書,2016年,Vol.31,pp.11-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
B01J
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロクマリン類を含有するフロクマリン類含有食品を、シラノール基を有するシラノール基含有物質と接触させる接触工程を有するフロクマリン類の低減方法であって、
前記シラノール基含有物質における単位表面積当たりのシラノール基の数が1.7個/nm未満であるフロクマリン類の低減方法。
【請求項2】
フロクマリン類を含有するフロクマリン類含有食品を、シラノール基を有するシラノール基含有物質と接触させる接触工程を有するフロクマリン類の低減方法であって、
前記フロクマリン類含有食品がイチジク茶葉であるフロクマリン類の低減方法。
【請求項3】
前記シラノール基含有物質が、シリカ微粒子である請求項1または2に記載のフロクマリン類の低減方法。
【請求項4】
前記接触工程を行った後、前記フロクマリン類含有食品および前記シラノール基含有物質を撹拌して混和する撹拌工程を有する請求項1~3の何れか一項に記載のフロクマリン類の低減方法。
【請求項5】
前記撹拌工程を行った後、前記フロクマリン類含有食品および前記シラノール基含有物質を分離する分離工程を有する請求項4に記載のフロクマリン類の低減方法。
【請求項6】
前記接触工程の接触温度は0.1~35℃である請求項1~5の何れか一項に記載のフロクマリン類の低減方法。
【請求項7】
前記フロクマリン類がプソラレンおよびベルガプテンの少なくとも何れかを含む請求項1~6の何れか一項に記載のフロクマリン類の低減方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロクマリン類を含有するフロクマリン類含有食品からフロクマリン類を低減させる方法、および、フロクマリン類低減食品に関する。
【背景技術】
【0002】
イチジク(Ficus carica L.)は、アラビア南部を原産地とするクワ科の植物であり、単に飲食用だけでなく、古くから薬用植物としても利用されている(非特許文献1参照)。また近年の研究では、イチジクは、血糖値の降下作用、降血圧作用、抗がん作用、及び免疫力を高める作用等を有することも明らかとなっている(非特許文献2参照)。
【0003】
飲食用や薬用としても有用なイチジクではあるが、成分としてフロクマリン類を含んでいる。フロクマリン類は、抗菌作用や、植物を食べる昆虫の消化を妨げる作用を有しており、植物の防御機構を担う物質の一つと考えられている。
【0004】
このフロクマリン類はそれを摂取あるいは皮膚に付着することによって、紅斑、色素沈着、びらんの症状を呈する光毒性接触皮膚炎を発症したり、あるいは医薬品との相互作用(薬物代謝酵素シトクロムP450の阻害:非特許文献3参照)を引き起こす場合がある。これは、フロクマリン類が、光増感剤として作用する、あるいはある種の薬物代謝酵素の働きを阻害することが原因であると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】レイ・タナヒル(Reay Tannahill)著、栗山節子訳、「美食のギャラリー(The Fine Art of Food)」、東京、八坂書房、2008年11月25日、p12-18
【文献】梁晨千鶴著、「東方栄養新書」、京都、メディカルユーコン、2005年、p70-71
【文献】石原優等、「果実果皮加工食品のフラノクマリン含有量とCytochrome P450 3A (CYP3A) 阻害活性:果皮の加工過程における6’,7’-dihydroxybergamottinの流出」、薬学雑誌、131(5)、679-684(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えばイチジク茶を利用者に供するに際し、予めフロクマリン類を低減した状態で利用者に供するのが望ましい場合がある。
【0007】
従って、本発明の目的は、フロクマリン類を含有するフロクマリン類含有食品からフロクマリン類を簡便に低減する方法、および、フロクマリン類を低減したフロクマリン類低減食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、上記目的を達成するため、以下の[1]~[]に示す発明を提供する。
[1]フロクマリン類を含有するフロクマリン類含有食品を、シラノール基を有するシラノール基含有物質と接触させる接触工程を有するフロクマリン類の低減方法であって、
前記シラノール基含有物質における単位表面積当たりのシラノール基の数が1.7個/nm未満であるフロクマリン類の低減方法。
[2]フロクマリン類を含有するフロクマリン類含有食品を、シラノール基を有するシラノール基含有物質と接触させる接触工程を有するフロクマリン類の低減方法であって、
前記フロクマリン類含有食品がイチジク茶葉であるフロクマリン類の低減方法。
[3]前記シラノール基含有物質が、シリカ微粒子である[1]または[2]に記載のフロクマリン類の低減方法。
[4]前記接触工程を行った後、前記フロクマリン類含有食品および前記シラノール基含有物質を撹拌して混和する撹拌工程を有する[1]~[3]の何れか一項に記載のフロクマリン類の低減方法。
[5]前記撹拌工程を行った後、前記フロクマリン類含有食品および前記シラノール基含有物質を分離する分離工程を有する[4]に記載のフロクマリン類の低減方法。
[6]前記接触工程の接触温度は0.1~35℃である[1]~[5]の何れか一項に記載のフロクマリン類の低減方法。
[7]前記フロクマリン類がプソラレンおよびベルガプテンの少なくとも何れかを含む[1]~[6]の何れか一項に記載のフロクマリン類の低減方法
【0009】
上記[1]~[]によれば、フロクマリン類含有食品をシラノール基含有物質と接触させる接触工程を行った後の処理済溶液に含まれるフロクマリン類の含有量は、接触工程の前にフロクマリン類含有食品に含まれるフロクマリン類の含有量より減少させることができる。特に本方法では、フロクマリン類含有食品をシラノール基含有物質と接触させる接触工程を行うことで、簡便に、有効成分を残存させ易く、かつフロクマリン類の含有量を低減することができる手法となる。
【0010】
シラノール基含有物質における単位表面積当たりのシラノール基の数は1.7個/nm未満とするのがよい。また、シラノール基含有物質をシリカ微粒子とするのがよい。
【0011】
接触工程を行った後、フロクマリン類含有食品およびシラノール基含有物質を撹拌して混和する撹拌工程を行えば、フロクマリン類含有食品およびシラノール基含有物質を確実に混和することができるため、フロクマリン類の含有量をより減少させることができる。また、撹拌工程を行った後、フロクマリン類含有食品およびシラノール基含有物質を分離する分離工程を行えば、フロクマリン類含有食品およびシラノール基含有物質を確実に分離することができる。
【0012】
後述の実施例において、フロクマリン類含有食品としてイチジク茶葉を使用した場合、接触工程の接触温度が0.1~35℃の範囲内であれば、有効成分を残存させ易く、かつフロクマリン(プソラレンおよびベルガプテン)含有量を低減することができると認められている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態のフロクマリン類の低減方法の工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明は、フロクマリン類を含有するフロクマリン類含有食品を、シラノール基を有するシラノール基含有物質と接触させる接触工程を有するフロクマリン類の低減方法、および、フロクマリン類を低減したフロクマリン類低減食品である。
【0016】
フロクマリン(furocoumarin)類とは、フラン環が縮合したクマリン誘導体の総称である。フロクマリン類は、セリ科、ミカン科、マメ科、クワ科等の植物に多く含まれる。フロクマリン類に属する化合物としては、例えば、プソラレン(psoralen)、ベルガプテン(bergapten)、キサントトキシン(xanthotoxin)、イソピンピネリン(isopimpinellin)、ベルガモチン(bergamottin)、ジヒドロキシベルガモチン(dihydroxybergamottin)等が挙げられる。
【0017】
本発明では、フロクマリン類を含有するフロクマリン類含有食品を使用する。当該フロクマリン類含有食品は、上記のフロクマリンの内の少なくとも何れか、好ましくはプソラレンおよびベルガプテンの少なくとも何れかを含むものであればよい。
【0018】
このようなフロクマリン類含有食品は、例えば、イチジク、当帰、セイヨウトウキ、グレープフルーツなどの柑橘類、セロリ、ニンジン葉等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。フロクマリン類含有食品は、生、乾燥物、粉末化したもの、および、粉末化していないもの等、何れの態様であってもよく、例えば茶葉などの粉末化された乾燥物とするのがよい。これらのうち、例えばイチジク葉はイチジク茶葉として、当帰葉は当帰茶葉として利用者に供される。イチジク茶葉の主要フロクマリンはプソラレンおよびベルガプテンである。当帰茶葉の主要フロクマリンはベルガプテンおよびキサントトキシンである。
【0019】
本発明に適用可能なイチジクの品種としては、例えば、「桝井ドーフィン」、「蓬莱柿」、「ヌアール・ド・カロン」、「ホワイト・イスキア」、「ネグローネ」、「ブランスウィック」、「ブルジャソット・グリス」、「テマリイチジク」、「ポルトガロ」、「ビオレ・ソリエス」、「ブラウン・ターキー」、「シュガー」、「アーテナ」、「セレスト」、「ホワイト・ゼノア」、「ポー・デュール」、「カリフォルニア・ブラック」、「フィグ・ド・マルセイユ」、「カドタ」、「ネグロ・ラーゴ」、「プレコス・ロンデ・ド・ボルドー」、「グリース・セント・ジャン」、「グリーズ・ビール」、「アイーダ」、「ミッション」、「グリスト・ジーン」、「グット・ドール」、「ベローネ」、「早生ドーフィン」、「ロンデ・ド・ボルドー」、「ダルマティー」、「アーチペル」、「リサ」、「ショート・ブリッジ」、「デザート・クイーン」、「サンピエトロ」、「サルタン」、「パスティエ」等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明のフロクマリン類の低減方法は、上述したフロクマリン類含有食品を、シラノール基を有するシラノール基含有物質と接触させる接触工程Aを有する(図1)。
【0021】
シラノール基含有物質は、シラノール基を有する物質であって、表面にシラノール基が存在する物質であればよい。シラノール基含有物質は、例えば固形状の無機物質の表面構造の一部にシラノール基が結合している態様であれば、特に限定されるものではない。具体的なシラノール基含有物質の組成としては、二酸化珪素(シリカ)、二酸化チタン、珪素(シリコン)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。より具体的な無機物質としては、シリカ(二酸化珪素)微粒子、ガラス繊維、ガラス板、シリカ(二酸化珪素)被覆チタニア(二酸化チタン)微粒子、シリコンウエハ(珪素)が挙げられるが、これらに限定されない。シリカ微粒子は、平均粒子径が4~20μm程度の微粉の態様であればよいが、このような態様に限定されるものではない。
【0022】
シラノール基含有物質における単位表面積当たりのシラノール基の数は1.7個/nm未満とするのがよい。このとき前記シラノール基の数は0.91個/nm以上とするのがよく、好ましくは、0.91~1.3個/nmとするのがよい。
【0023】
前記接触工程Aでは、例えばフロクマリン類含有食品およびシラノール基含有物質を収容容器に収容し、当該収容容器の内部でフロクマリン類含有食品およびシラノール基含有物質を接触させる接触工程Aを行うとよいが、このような態様に限定されるものではない。他の態様としては、例えばシラノール基含有物質を固相カートリッジやカラム等の収容容器に収容し、当該収容容器の一方の開口からフロクマリン類含有食品を含有する溶液を通液させ、収容容器の内部でフロクマリン類含有食品およびシラノール基含有物質を接触させる接触工程Aを行い、その後、収容容器の他方の開口から接触工程A済みの処理済溶液のみを回収するようにしてもよい。シラノール基含有物質は、フロクマリン類含有食品の容量に対して1~5%程度、好ましくは2%程度を接触させるのがよい。
【0024】
接触工程Aの後に回収した処理済溶液に含まれるフロクマリン類の含有量は、接触工程Aの前にフロクマリン類含有食品に含まれるフロクマリン類の含有量より減少している。
【0025】
前記接触工程Aを行った後、前記フロクマリン類含有食品および前記シラノール基含有物質を撹拌して混和する撹拌工程Bを行うとよい。このような撹拌は、公知の撹拌手段を使用して行えばよい。
【0026】
また、前記撹拌工程Bを行った後、前記フロクマリン類含有食品および前記シラノール基含有物質を分離する分離工程Cを行うとよい。このような分離は、例えばシラノール基含有物質としてシリカ微粒子を使用した場合は、遠心分離あるいはシラノール基含有物質を分離できるメンブレンフィルターなどを使用して行えばよいが、このような態様に限定されるものではない。当該分離工程Cにより、フロクマリン類含有食品およびシラノール基含有物質を確実に分離することができる。
【0027】
シラノール基含有物質がフロクマリン類を除去する理由は以下のように推測される。即ち、フロクマリン類は分子内に疎水性部分を含んでおり、シラノール基含有物質の表面シラノール基をある程度まで減少させると、シラノール基とフロクマリン類の疎水性部分の反発が減少し結果として結合しやすくなると考えられる。単位表面積当たりのシラノール基の数が1.7個/nm未満であると、フロクマリン類の疎水性部分がシラノール基含有物質の表面に近づくことができ、シラノール基含有物質の表面に吸着される。その結果、シラノール基含有物質は、フロクマリン類を吸着して除去できると考えられる。
【0028】
接触工程Aの温度は、0.1~35℃とするのがよい。また、撹拌工程Bの温度も同様に0.1~35℃とするのがよい。当該温度がこの範囲であれば、フロクマリン類の含有量を効果的に低減することができる。また、好ましくは前記温度を0.1~25℃とすれば、より効率よくフロクマリン類の含有量を低減させることができる。
【0029】
撹拌工程Bの撹拌時間は、10~60分、好ましくは15~30分、特に好ましくは20分とするのがよい。当該撹拌時間がこの範囲であれば、フロクマリン類含有食品の他の成分を減少させることなく、フロクマリン類の含有量を低減することができる。
【0030】
このように、本発明のフロクマリン類の低減方法であれば、フロクマリン類含有食品をシラノール基含有物質と接触させる接触工程Aを行った後の処理済溶液に含まれるフロクマリン類の含有量は、接触工程Aの前にフロクマリン類含有食品に含まれるフロクマリン類の含有量より減少させることができる。特に本方法では、シラノール基を有するシラノール基含有物質と接触させる接触工程Aを行うことで、簡便に、有効成分を残存させ易く、かつフロクマリン類の含有量を低減することができる手法となる。また、撹拌工程Bを行うことにより、フロクマリン類含有食品およびシラノール基含有物質を確実に混和することができるため、フロクマリン類の含有量をより減少させることができる。
【0031】
また、本発明のフロクマリン類の低減方法によってフロクマリン類含有食品を処理することで、フロクマリン類を低減したフロクマリン類低減食品を得ることができる。
【実施例
【0032】
〔実施例1〕
本実施例では、フロクマリン類含有食品としてイチジク茶葉を使用し、本発明のフロクマリン類の低減方法を適用することでフロクマリン類の含有量がどのように変化するかを確認した。
【0033】
常法により製茶したイチジク茶葉(品種:桝井ドーフィン)1.0gを80mLの超純水(80℃に保温)で3分間浸出し、ナイロンネットでイチジク茶葉を取り除いた後、超純水を加えて全量100mLとした。その後、25℃まで冷却した。
【0034】
シラノール基含有物質としてシリカ微粒子(サイロピュートRG22(平均粒子径20μm):富士シリシア化学株式会社製)を使用した(実施例1)。このシリカ微粒子は、単位表面積当たりのシラノール基の数が0.91個/nmであった。
【0035】
シラノール基の数(密度)は、特開2017-198458号明細書に記載された手法に準じて以下のようにして分析した。
シリカ微粒子をガラス容器に入れ、ここへ有機溶媒、塩基触媒、シラン処理剤(3,3,3,-Trifluoro-propyl)chlorodimethylsilaneを加えた後、密栓し加熱した。加熱後の試料を有機溶媒で洗浄後、乾燥させた。この試料を燃焼管分解・イオンクロマトグラフィーによる全フッ素分析に供した。シラン処理後の乾固物中のフッ素含有量を調べるために燃焼管分解・イオンクロマトグラフィーによる全フッ素分析を行った。得られた全フッ素含有量を反応性シラノール基数および密度に換算した。なお、シラン処理によって増加した試料量も考慮して計算を行った。後述の実施例2および比較例1~4のシリカ微粒子におけるシラノール基の数(密度)も同様の手法で分析した。
【0036】
このシリカ微粒子を、上記のイチジク茶に2%添加してビーカー内で接触工程Aを行った。当該接触工程Aの後に、スターラーを使用して20分の撹拌を行い(撹拌工程B)、遠心分離によってイチジク茶およびシリカ微粒子を分離した(分離工程C)。
【0037】
分離工程Cの後に回収した処理済溶液に含まれるフロクマリン類の含有量を測定した。この測定は、液体クロマトグラフ-飛行時間型質量分析計(LC-Q-ToF/MS:ブルカー・ダルトニクス株式会社製)を用いて行った。
【0038】
この結果、イチジク茶葉に対して本発明のフロクマリン類の低減方法を適用することで、有効成分であるDFAおよびルチンの残存率は90%以上であり、かつ、フロクマリン類(プソラレンおよびベルガプテン)の残存率は3%以下となることが判明した。従って、本発明のフロクマリン類の低減方法では、有効成分を残存させ易く、かつフロクマリン類の含有量を低減することができると認められた。
【0039】
また、イチジク茶葉に加える超純水の温度を0.1℃(氷中)、35℃、60℃および80℃として本発明のフロクマリン類の低減方法を適用することでフロクマリン類の含有量がどのように変化するかを確認した。接触温度および撹拌温度を変更したこと以外は上記と同様の条件で接触工程A~分離工程Cを行った。結果を表1に示した(未処理区との相対値を示す)。
【0040】
【表1】
【0041】
この結果、接触工程Aの接触温度を0.1℃、25℃および35℃とした場合は、有効成分であるDFAおよびルチンの残存率は90%以上であり、かつ、フロクマリン類(プソラレンおよびベルガプテン)の残存率は5%以下となることが判明した。一方、接触工程Aの接触温度を60℃および80℃とした場合は、有効成分の残存率は91%以上であるが、フロクマリン類であるプソラレンの残存率はそれぞれ18%および40%であった。
【0042】
これらの結果より、本発明のフロクマリン類の低減方法において、接触温度を0.1~35℃とすれば、有効成分を90%以上残存させた状態でフロクマリン類を95%以上除去することができると認められた。特に接触温度を0.1~25℃とすれば、フロクマリン類を97%以上除去することができると認められた。
【0043】
〔実施例2〕
シリカ微粒子として、単位表面積当たりのシラノール基の数が1.3個/nmであるシリカ微粒子(サイロページ762(平均粒子径4μm):富士シリシア化学株式会社製)を使用し、接触温度および撹拌温度を25℃としたこと以外は実施例1と同様の条件で接触工程A~分離工程Cを行った(実施例2)。
【0044】
一方、比較例として、単位表面積当たりのシラノール基の数が1.7個/nm個以上であるシリカ微粒子を4種類使用し、実施例1と同様の条件で接触工程A~分離工程Cを行った(比較例1~4)。これら4種類のシリカ微粒子の平均粒子径は16~20μmであった。
【0045】
実施例2および比較例1~4において、接触工程Aの後に回収した処理済溶液に含まれるフロクマリン類の含有量を測定した。この測定は、液体クロマトグラフ-飛行時間型質量分析計(LC-Q-ToF/MS:ブルカー・ダルトニクス株式会社製)を用いて行った。結果を表2に示した(未処理区との相対値を示す)。
【0046】
【表2】
【0047】
この結果、実施例2では、有効成分であるDFAおよびルチンの残存率は91%以上であり、かつ、フロクマリン類(プソラレンおよびベルガプテン)の残存率は6%以下であった。一方、比較例1~4の場合は、有効成分の残存率は89%以上であるが、フロクマリン類であるプソラレンの残存率は37%以上であった。
【0048】
これらの結果および実施例1の結果より、単位表面積当たりのシラノール基の数を1.7個/nm未満とするシリカ微粒子を使用すれば、有効成分を90%以上残存させ、かつフロクマリン類の含有量を94%以上低減することができると認められた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、フロクマリン類を含有するフロクマリン類含有食品からフロクマリン類を低減させる方法、および、フロクマリン類低減食品に利用できる。
【符号の説明】
【0050】
A 接触工程
B 撹拌工程
C 分離工程
図1